特許第6041867号(P6041867)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041867二次電池用負極活物質の製造方法および二次電池用負極活物質、二次電池用負極の製造方法および二次電池用負極、ならびに二次電池
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  • 特許6041867-二次電池用負極活物質の製造方法および二次電池用負極活物質、二次電池用負極の製造方法および二次電池用負極、ならびに二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041867
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】二次電池用負極活物質の製造方法および二次電池用負極活物質、二次電池用負極の製造方法および二次電池用負極、ならびに二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20161206BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20161206BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20161206BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20161206BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/36 C
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M4/66 A
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-512548(P2014-512548)
(86)(22)【出願日】2013年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2013061744
(87)【国際公開番号】WO2013161748
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-102724(P2012-102724)
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】横内 仁
(72)【発明者】
【氏名】大森 将弘
(72)【発明者】
【氏名】外輪 千明
(72)【発明者】
【氏名】三林 正幸
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−300204(JP,A)
【文献】 特開2011−173761(JP,A)
【文献】 特開2012−38680(JP,A)
【文献】 特許第4233324(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/36
H01M 4/66
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンの表面に、アルカリ土類金属元素を含む縮合リン酸塩が被覆されてなり、リン元素および前記アルカリ土類金属元素を、それぞれ、前記二酸化チタンに対して0.1〜10質量%含む二次電池用負極活物質の製造方法であって、
リン酸を添加した酸性水溶液に、チタン含有化合物を添加して加水分解することで二酸化チタンを生成させ、さらに、前記酸性水溶液に縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属を含む化合物を添加することにより、前記二酸化チタンの表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆する工程を備える、二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記加水分解の際の前記酸性水溶液のpHが0.1〜4の範囲である請求項1に記載の二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属を含む化合物として、塩化物を用いる請求項1に記載の二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記酸性水溶液中に前記縮合リン酸塩および前記アルカリ土類金属を含む化合物を添加し、前記二酸化チタンの粒子表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆する際の液温を30〜70℃の範囲とする請求項1に記載の二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
二酸化チタンの表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩が存在し、リン元素および前記アルカリ土類金属をそれぞれ、前記二酸化チタンに対して0.1〜10質量%含む二次電池用負極活物質。
【請求項6】
前記縮合リン酸塩に含まれるアルカリ土類金属が、カルシウムまたはマグネシウムである請求項5に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項7】
前記二酸化チタンの一次粒子の数平均粒径が0.001〜0.1μmの範囲である請求項5に記載の二次電池用負極活物質。
【請求項8】
金属箔上に負極活物質からなる層が積層されてなる二次電池用負極であって、前記負極活物質が、請求項5に記載の二次電池用負極活物質である二次電池用負極。
【請求項9】
前記金属箔がアルミニウム箔であり、前記負極活物質からなる層が、前記アルミニウム箔の片面または両面に形成されてなる請求項8に記載の二次電池用負極。
【請求項10】
請求項8に記載の二次電池用負極を有する二次電池。
【請求項11】
請求項1に記載の製造方法で二次電池用負極活物質を製造する工程と、
前記二次電池用負極活物質を分散溶媒中に分散させて塗工液を調整し、この塗工液を金属箔の片面または両面に塗布して乾燥させる工程と、
をこの順で備える二次電池用負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極活物質の製造方法および二次電池用負極活物質、二次電池用負極の製造方法および二次電池用負極、ならびに二次電池に関する。
本出願は、2012年4月27日に日本に出願された特願2012−102724号に基づき、優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を抑制するため、各方面で発生する二酸化炭素の低減が求められている。例えば、自動車業界では、従来のガソリン車から、二酸化炭素の排出量が少ない二次電池を搭載した電気自動車やハイブリッド車へのシフトが拡大しており、中でも、走行距離、安全性、信頼性に影響するリチウムイオン二次電池の開発が注目されるようになっている。このようなリチウムイオン二次電池は、一般に、正極集電体上に形成された正極活物質層を含む正極と、負極集電体上に形成された負極活物質層を含む負極とに加え、非水電解液、セパレータ、外装材等から構成される。
【0003】
従来、一般的に普及しているリチウムイオン二次電池は、正極活物質としてリチウムを含む遷移金属の酸化物が用いられ、また、この正極活物質は正極集電体としてのアルミニウム箔上に形成されている。また、負極活物質としては黒鉛などの炭素材料が用いられ、この負極活物質は、負極集電体としての銅箔上に形成されている。そして、これら正極と負極とが、リチウム塩電解質を溶解した非水性の有機溶媒を含む電解液中に、セパレータを介して配置されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の充放電においては、充電時には、正極活物質に保持されたリチウムイオンが脱インターカレートして電解液中に放出され、負極活物質では炭素材料の結晶層間に電解液中からリチウムイオンが吸蔵されることで反応が進行する。また、放電時には、充電時とは逆の反応が進み、リチウムイオンが負極活物質から放出されて正極活物質に吸蔵されることで反応が進行する。
【0005】
しかしながら、負極に黒鉛等の炭素材料を用いた系においては、100%放電に近くなると負極電位が0V付近になることでデンドライトが析出する。その結果、本来、電子輸送に使用されるリチウムイオンを消費し、さらには負極集電体を腐食劣化させてしまう。このような腐食劣化が進行すると、リチウムイオン二次電池としての特性劣化や、故障の原因となる可能性がある。このため、負極に黒鉛等の炭素材料を用いた系においては、充放電電圧の精密な制御が必要である。このような系においては、正極活物質と負極活物質との間の電位差が理論上大きくても、その一部しかリチウムイオンを使用することができず、充放電効率上の問題があった。
【0006】
そこで、近年、特に高い電位が得られる負極活物質の研究開発が盛んに行われるようになっている。例えば、二酸化チタンは、電位が1.5V程度と従来の炭素材料の電位よりも高めであることから、デンドライトの析出が生じず、非常に安全であり、かつ、高特性が得られる材料として注目されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、含水酸化チタンを含むスラリーを噴霧乾燥させ、有機バインダーを加熱除去することで得られた、二次粒子の空隙量が0.005〜1.0cm/gのチタン酸化物を電極活物質として用いた二次電池が記載されている。
【0008】
また、近年、ブロンズ型の結晶構造を持つ二酸化チタンも、負極活物資として有望であることが報告されている。例えば、特許文献2には、ミクロンサイズの等方的な形状を有するブロンズ型の二酸化チタンを電極活物質に用いた二次電池が記載されている。
【0009】
一般に、二酸化チタンは、白色顔料、誘電体材料、光触媒材料などの幅広い分野で利用されており、非常に安価な材料として普及している。しかしながら、二酸化チタンを、そのままリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用した場合、二次電池の安全性を向上させることは出来るものの、電気容量が160mAh/g程度と小さいという問題がある。
【0010】
例えば、特許文献1に記載されている二次電池は、サイクル特性こそ良好であるものの、電気容量が160mAh/gと小さいため、所定の電池容量を得るためには負極活物質を多く使用する必要がある。このため、特許文献1に記載の二次電池では、電池全体の重量や体積が大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
また、特許文献2に記載されているようなブロンズ型二酸化チタンを電極活物質に用いた二次電池は、電気容量が170mAh/gと小さく、また、そのプロセスが複雑かつ長時間を要することから、実用化には課題が山積している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2008/114667号
【特許文献2】特開2008−117625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、電気容量が大きく、サイクル特性に優れた二次電池用負極活物質の製造方法および二次電池用負極活物質を提供とすることを目的とする。また、本発明は、上記の二次電池用負極活物質を用いた二次電池用負極の製造方法および二次電池用負極を提供とすることを目的とする。さらに、本発明は、上記の二次電池用負極を用いた、充放電のサイクル特性等に優れた二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下に示す構成を備えるものである。
【0015】
[1] 二酸化チタンの表面に、アルカリ土類金属元素を含む縮合リン酸塩が被覆されてなり、リン元素および前記アルカリ土類金属元素をそれぞれ、前記二酸化チタンに対して0.1〜10質量%含む二次電池用負極活物質の製造方法であって、リン酸を添加した酸性水溶液に、チタン含有化合物を添加して加水分解することで二酸化チタンを生成させ、さらに、前記酸性水溶液に縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属を含む化合物を添加することにより、前記二酸化チタンの表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆する工程を備える、二次電池用負極活物質の製造方法。
[2] 前記加水分解の際の前記酸性水溶液のpHが0.1〜4の範囲である上記[1]に記載の二次電池用負極活物質の製造方法。
[3] 前記アルカリ土類金属を含む化合物として、塩化物を用いる上記[1]又は[2]に記載の二次電池用負極活物質の製造方法。
[4] 前記酸性水溶液中に前記縮合リン酸塩および前記アルカリ土類金属を含む化合物を添加し、前記二酸化チタンの粒子表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆する際の液温を30〜70℃の範囲とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の二次電池用負極活物質の製造方法。
[5] 二酸化チタンの表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩が存在し、リン元素および前記アルカリ土類金属をそれぞれ、前記二酸化チタンに対して0.1〜10質量%含む二次電池用負極活物質。
[6] 前記縮合リン酸塩に含まれるアルカリ土類金属が、カルシウムまたはマグネシウムである上記[5]に記載の二次電池用負極活物質。
[7] 前記二酸化チタンの一次粒子の数平均粒径が0.001〜0.1μmの範囲である上記[5]又は[6]に記載の二次電池用負極活物質。
[8] 金属箔上に負極活物質からなる層が積層されてなる二次電池用負極であって、前記負極活物質が、上記[5]〜[7]のいずれか1項に記載の二次電池用負極活物質である二次電池用負極。
[9] 前記金属箔がアルミニウム箔であり、前記負極活物質が、前記アルミニウム箔の片面または両面に形成されてなる上記[8]に記載の二次電池用負極。
[10] さらに、結着剤を含む上記[8]又は[9]に記載の二次電池用負極。
[11] 上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法で二次電池用負極活物質を製造する工程と、前記二次電池用負極活物質を分散溶媒中に分散させて塗工液を調整し、この塗工液を金属箔の片面または両面に塗布して乾燥させる工程と、をこの順で備える二次電池用負極の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の二次電池用負極活物質の製造方法によれば、二酸化チタンを分散させた酸性水溶液に、縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属を含む化合物を添加することにより、二酸化チタンの表面における、リン元素およびアルカリ土類金属元素がそれぞれ、二酸化チタンの質量に対して0.1〜10質量%の範囲となるように、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を前記表面に被覆する工程を備える方法を採用している。これにより、大きな電気容量と、優れたサイクル特性を備える二次電池用負極活物質を製造することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る二次電池用負極活物質によれば、前記二次電池用負極活物質が二酸化チタンを含有し、二酸化チタンの表面に、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩が存在し、リン元素の量およびアルカリ土類金属の量がそれぞれ、二酸化チタンの質量に対して0.1〜10質量%の範囲である構成を採用している。このように、二酸化チタンの粒子表面を、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩で最適に被覆することにより、電荷移動のためのリチウムイオンの吸蔵性が向上し、かつ、リチウムイオンの吸脱着がスムーズに行われる。従って、大きな電気容量と優れたサイクル特性を備える二次電池用負極活物質が実現できる。
【0018】
また、本発明の二次電池用負極および二次電池によれば、上記した二次電池用負極活物質が用いられたものなので、電気容量が大きく、また、サイクル特性が良好なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態である二次電池用負極を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の二次電池用負極活物質の製造方法および二次電池用負極活物質、この二次電池用負極活物質を用いた二次電池用負極の製造方法および二次電池用負極、この二次電池用負極を用いた二次電池の実施の形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
【0021】
[二次電池用負極活物質]
本発明における二次電池用負極活物質12は、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩が粒子表面に被覆された構成の二酸化チタンが含有され、二酸化チタンの質量に対して、リン元素の量およびアルカリ土類金属の量がそれぞれ、0.1〜10質量%の範囲であるものである。
【0022】
二酸化チタンの一次粒子の形状としては、球状、平板状、多面体状、針状、棒状、環状、不定形状等があるが、特に制限はない。また、二酸化チタンの一次粒子の数平均粒径は、好ましくは0.001〜0.1μm、より好ましくは0.005〜0.05μmである。二酸化チタンの一次粒子の平均粒径が上記範囲であると、粒子表面の活性が高められ、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩との反応性が向上し、強固な結合を得ることが出来る点から好ましい。また、二酸化チタンの一次粒子の平均粒径を上記範囲とすることで、分散性が高められ、生産性も良好となる。
【0023】
なお、本発明で説明する二酸化チタンの一次粒子の数平均粒径は、電子顕微鏡を用いて100〜1000個の二酸化チタン粒子の一次粒径を計測し、これを算術平均することによって得られる。この際、一次粒子が球状の場合は球換算径を粒径とし、平板状、多面体状、針状、棒状、環状、不定形状等の場合は、最大長径を粒径とする。
【0024】
また、二酸化チタンの結晶相としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型、ブロンズ型、ホランダイト型、ラムズデライト型等が知られているが、本発明では、特に制限なく選択することが可能である。これらの中でも、ブルッカイト型やブロンズ型は、結晶密度が比較的小さく、結晶格子間にリチウムイオンを吸蔵しやすいために電気容量が高くなる点から好ましい。また、本発明においては、二酸化チタンの結晶相として、非晶質のアモルファス相を含んでいても良い。
【0025】
上述のような結晶相の比率の解析は、X線回折装置を用いて行うことができる。この際、まず、二酸化チタン粉末を、メノウ乳鉢を用いて十分に解砕し、凝集塊がない状態にする。次いで、非晶質相を同定するために、得られた二酸化チタンの粉末に、内部標準として酸化ニッケル粉末(99.9%試薬、例えば和光純薬工業製)を10質量%となるように、メノウ乳鉢を用いて十分に混合する。そして、この混合粉末を、X線回折装置(例えば、スペクトリス社製、PANalytical X‘Pert MRD装置(登録商標))を用いて測定する。この際の測定条件は、例えば、管電圧:40kV、管電流:20mA、走査範囲2θ:10〜80度として行う。そして、得られたデータをリートベルト解析し、結晶相の同定を行う。このリートベルト解析は、市販のソフトウェア(例えば、スペクトリス社製、PANalytical X’Pert High Score Plus(登録商標))を用いて行うことが可能である。
【0026】
本発明における二次電池用負極に用いられる縮合リン酸塩は、例えば、オルソリン酸(HPO)の脱水縮合によって得られる酸の塩であり、トリメタリン酸塩やテトラメタリン酸塩などのメタリン酸塩、ピロリン酸塩やトリポリリン酸塩などのポリリン酸塩、ウルトラリン酸塩などが好ましく、メタリン酸塩またはピロリン酸塩であることがより好ましい。また、これらの縮合リン酸塩は、二酸化チタンの質量に対するリン元素の量が、好ましくは0.1〜10質量%の範囲、より好ましくは1〜5質量%の範囲、さらに好ましくは1〜2質量%となるように、被覆される。二酸化チタンの表面に存在するリン元素の量を0.1質量%以上とすれば、二酸化チタンを被覆することで得られる効果が充分に発揮されやすく、また、10質量%以下とすると、経済的に有利である。
なお、二酸化チタンの表面に縮合リン酸塩が被覆されていることは、粉体の状態の負極活物質について、赤外線吸収スペクトルを測定して判断する。
【0027】
本発明の二次電池用負極は、二酸化チタンの粒子表面に存在する縮合リン酸塩が、少なくともアルカリ土類金属を含むことが特徴である。このようなアルカリ土類金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムなどが挙げられる。これらの内、本発明で使用するアルカリ土類金属としては、特に限定されないが、マグネシウムやカルシウムを用いることが、二酸化チタンの粒子表面を被覆することで得られる効果がより顕著となる点から好ましい。また、これらのアルカリ土類金属は、縮合リン酸イオンと酸化チタン表面とを結合させるバインダー的な効果があると考えられる。このため、これらアルカリ土類金属の含有量は、二酸化チタン質量に対して、金属元素換算で0.1〜10質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.3〜5質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。二酸化チタンの表面に存在するアルカリ土類金属を0.1質量%以上とすれば、バインダー効果によって縮合リン酸塩が遊離し難くなり、また、10質量%以下だと、二酸化チタンへのリチウムイオンの吸脱着が容易になる。
【0028】
なお、二次電池用負極活物質12には、アルカリ土類金属を含んだ縮合リン酸塩が表面に被覆された二酸化チタンが、二次電池用負極活物質12の総質量に対して70〜95質量%の範囲で含まれていることが好ましく、80〜90質量%の範囲で含まれていることがより好ましい。
【0029】
[二次電池用負極活物質の製造方法]
次に、本発明に係る二次電池用負極活物質12の製造方法について説明する。
本実施形態の好ましい態様である二次電池用負極活物質12の製造方法は、リン酸を添加した酸性水溶液に、チタン含有化合物を添加して加水分解することで二酸化チタンを生成させ、さらに、この酸性水溶液に、縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属を含む化合物を添加することにより、二酸化チタンの表面に、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆する工程を備える方法である。
【0030】
まず、本実施形態では、リン酸を添加した酸性水溶液に、チタン含有化合物を添加して加水分解することで二酸化チタンを生成させる。この際のリン酸の添加量は、特に制限は無く、スラリー中の水1kgに対して、通常0.02〜2g、より好ましくは0.05〜5gとすればよい。そして、この酸性水溶液中に、さらに縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属を含む化合物を添加することにより、二酸化チタンの表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆して二次電池用負極活物質12を合成する。
【0031】
二酸化チタンを生成させる方法としては、特に限定されないが、例えば、チタン含有化合物としてチタン塩化物を用い、この塩化物から精製する塩素法や、チタン硫酸塩から精製する硫酸法など、出発原料の異なる製法、また、気相法、液相法、固相法など反応条件の異なる製法の内のいずれからも選ぶことが可能である。これらの中でも、酸性液中でチタン含有化合物を加水分解させ、二酸化チタンを得る方法が好ましい。これは、酸性液中で二酸化チタンを生成させると、一次粒子が非常に小さく比表面積が大きな粒子が得られ、かつ粒子表面の活性が高いため、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩との反応が良好で、強固に結合させることが可能であるためである。
【0032】
二酸化チタンの生成に用いる酸性水溶液のpHとしては、0.1〜4の範囲が好ましく、0.5〜3の範囲がより好ましい。酸性水溶液のpHが0.1以上であれば、加水分解反応の速度も速くなって一次粒子が大きくなりすぎることがないので、粒子表面の活性が高く、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩との反応性が良好な二酸化チタンが得られ、さらには生産性も良好となる。また、酸性水溶液のpHが4以下であれば、生成する二酸化チタンの一次粒子の凝集を抑制できることから解砕工程等を設ける必要がなく、高い生産性を確保しながら、製造コストを抑制することが可能となる。
【0033】
なお、酸性水溶液のpHや液温の調整方法は特に制限されない。例えば、予め、酸性チタン含有化合物を溶解させた水溶液を常温で混合し、その際に酸性チタン含有化合物の濃度でpHを調整し、その後、徐々に液温を上げ、上記温度域で加水分解反応を行う方法が挙げられる。また、予め用意した水の中に、酸性チタン含有化合物の水溶液を上記温度域で滴下することで加水分解反応させる方法も挙げられる。
【0034】
加水分解の際の液温としては、75℃〜前記酸性水溶液の沸点の範囲が好ましく、より好ましくは85℃〜前記酸性水溶液の沸点の範囲である。加水分解時の液温が75℃以上であれば、加水分解の速度が著しく遅くなることがなく、高い生産性を維持できる。また、加水分解の際の酸性水溶液の液温が、その沸点以下であれば、加圧容器などの大掛かりな設備を必要とすることがなく、製造コストの観点からも実用的である。
【0035】
その他、酸化チタンを生成させる方法としては、チタン含有化合物の溶液を噴霧して1000℃を超える温度帯を通過させ、酸化反応で二酸化チタン粒子を得る気相法も採用することが可能である。このような、高温域での気相法で生成する二酸化チタンの一次粒子は、粒径が非常に小さく、表面の活性も高い。また、製造工程が少なく効率良く生産できるので、コスト的な優位性がある。さらに、上述の液相法と同様、表面の活性が高い二酸化チタン粒子が得られることから、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩との反応性が良好となる。
【0036】
本実施形態において、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を二酸化チタンの表面に存在させる方法としては、例えば、予めリン酸を添加した、二酸化チタンを含む酸性の水系スラリーに、所定量の縮合リン酸塩を添加して十分に分散させた後、アルカリ土類金属の化合物の溶液を添加して熟成させる方法が挙げられる。上記の水系スラリーとしては、例えば、上述のリン酸を添加した酸性水溶液に、チタン含有化合物を添加して加水分解することで、二酸化チタンを生成させた反応液をそのまま利用してもよい。上述の気相法で得られた二酸化チタンを、予めリン酸を添加した、酸性の水溶液に分散させたものを用いてもよい。この際の縮合リン酸塩の添加量は、通常、スラリー中の二酸化チタン1kgに対し、0.05〜20kg、より好ましくは0.3〜5kgである。このような方法を採用した場合、反応を促進および制御するために、反応液を一定温度で加熱した状態を維持することが好ましい。この際の反応液の加熱温度としては30℃〜70℃の範囲が好ましく、より好ましくは40〜60℃の範囲である。加熱温度がこの範囲であると、縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属化合物の溶解と、二酸化チタン粒子表面への反応のバランスが良好となり、粒子表面において偏在しない状態で均一に被覆できる。即ち、反応液の加熱温度が30℃以上であれば、縮合リン酸塩やアルカリ土類金属化合物の溶解度が低下することがないので、高い反応速度を維持することができ、生産性が向上する。また、反応液の加熱温度が70℃以下であれば、反応が二酸化チタン粒子表面以外で起こるのを抑制できるので、二酸化チタン粒子表面への被覆効率を高めることが可能となる。
【0037】
また、本実施形態においては、二酸化チタンの粒子表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆する際、一定の加熱温度で熟成させることが好ましい。このような熟成の期間中は、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩の一部が、二酸化チタンの粒子表面に吸着や脱離を繰り返し、表面エネルギーの安定した状態で被覆するような反応が起こっていると推定される。この際の熟成の時間としては、30分〜10時間の範囲が好ましく、さらに好ましくは1〜5時間である。即ち、熟成の時間が30分以上であれば被覆状態が安定し、濾過洗浄の際に脱離するようなことが防止できる。また、熟成の時間が10時間以下であれば、被覆状態がより安定するとともに、生産効率を維持することができる。
【0038】
本発明では、表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆させた二酸化チタンを生成させるにあたり、特に、最初に純水にリン酸を添加しておくことで、調整されるスラリーの分散性が向上する。これにより、後工程において、さらに、縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属を含む化合物を添加して熟成させる際、リン酸の縮合反応効率が高められ、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩の収率が向上する。またさらに、縮合によって生成されたアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩が、二酸化チタン粒子の表面に吸着しやすくなり、被覆率が向上するという効果が得られる。
【0039】
なお、本実施形態で用いるアルカリ土類金属を含む化合物としては、本発明に用いられる溶液に可溶であり、イオン化するものであれば特に制限はない。このような化合物としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられ、中でも塩化物、例えば、塩化カルシウムや塩化マグネシウムなどは汎用的であり、溶解度も高いので好適に用いられる。
【0040】
本実施形態においては、上記条件で二次電池用負極活物質12を合成することにより、二酸化チタンの表面に、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆し、リン元素およびアルカリ土類金属元素を、それぞれ、二酸化チタンの質量に対して0.1〜10質量%含むようにすることが可能となる。
【0041】
そして、本実施形態では、上記手順で得られた、二次電池用負極活物質12が分散されたスラリーを従来公知の方法で濾過洗浄した後、加熱、乾燥させることにより、粉体状の二次電池用負極活物質12を得ることができる。
また、本実施形態では、乾燥後の二次電池用負極活物質12に対し、さらに、所定の雰囲気、温度および時間でのアニールを施すことも可能である。
【0042】
[二次電池用負極]
本実施形態で説明する二次電池用負極1は、図1中に例示するように、金属箔11の表面に上述の二次電池用負極活物質12を含む層が積層されてなる構成を採用している。また、本実施形態の二次電池用負極1は、図1に示す例のように、集電体21上に正極活物質22が積層されてなる正極2との間にセパレータ3を介在させ、外装材4A、4Bによって封入されてなる二次電池Aを構成することができる。さらに、二次電池Aにおいては、外装材4A、4Bによって確保された空間には、非水電解液などからなる図示略の電解質が封入されている。
【0043】
「金属箔」
本発明に係る二次電池用負極1で用いられる金属箔21の材質としては、特に制限はなく、通常、リチウムイオン二次電池の集電体に用いられるものを採用することができる。また、金属箔21としては、安価な材料であることや、表面の酸化膜が安定しており、品質のバラつきが出にくいことなどが求められることから、アルミニウムまたはその合金の箔を用いることが好ましい(以下の説明において、これらをまとめてアルミニウム箔と称することがある)。
【0044】
アルミニウム箔(金属箔21)の材質は、特に限定されず、二次電池の集電体として公知のものを用いることができ、より好ましくは、純アルミニウム箔またはアルミニウムを95質量%以上含むアルミニウム合金箔を用いる。ここで、純アルミニウム箔の例としてはA1085材が挙げられ、また、アルミニウム合金箔の例としてはA3003材(Mn添加系)が挙げられる。
【0045】
アルミニウム箔の厚さとしては、特に制限されないが、二次電池の小型化の観点や、アルミニウム箔、および、それを用いて得られる集電体、電極等のハンドリング性などの観点から、通常、5μm〜200μm厚が好ましく、また、ロールトゥロール製法を行う場合には、5μm厚〜100μm厚のものを用いることが好ましい。
また、アルミニウム箔の形状としては、孔の開いていない箔でもよいし、二次元状のメッシュ箔、三次元状の網状の箔やパンチングメタル箔など、孔の開いている箔でもよい。
【0046】
「炭素質材料」
金属箔11上に二次電池用負極活物質12を含む層を積層するにあたり、さらに、導電助材として炭素質材料を添加してから層形成すると、二次電池用負極活物質層12を含む層の導電性が向上するため、より好ましい。炭素質材料は、二次電池用負極活物質表面、二次電池用負極活物質間、二次電池用負極活物質と金属箔との接触面のいずれか1ヶ所以上に前記炭素質材料が存在することにより、電子のやりとりを円滑にする役目があるため、導電性が高い炭素質材料であることが好ましい。このような炭素質材料としては、導電性カーボンブラック、黒鉛、ナノカーボンおよび炭素質繊維などが好適である。導電性カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックおよびチャネルブラックがあげられ、黒鉛としては、例えば、天然黒鉛および人造黒鉛があげられ、ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーがあげられる。これらの炭素質材料は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
炭素質材料は、球状、不定形状などの粒子であってもよいし、針状や棒状などの異方形状のものであってもよい。
【0048】
粒子状の炭素質材料は、その粒子サイズは特に制限されないが、数平均一次粒径が10nm〜5μmのものが好ましく、10nm〜1μmのものがより好ましい。このような数平均一次粒径は、電子顕微鏡を用いて100〜1000個の炭素質材料粒子の一次粒径を計測し、これを平均することによって得られる。この際、一次粒子が球状の場合は球換算径、不定形状の場合は最大長径を粒子径とする。
【0049】
上記のカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーは、平均繊維径が通常0.001〜0.5μm、好ましくは0.003〜0.2μmであり、平均繊維長が通常1〜100μm、好ましくは1〜30μmであるものが、導電性を向上させる観点から好適である。このような炭素質材料の平均繊維径および平均繊維長は、電子顕微鏡を用いて100〜1000本の導電材繊維の繊維径および繊維長を観察し、個数基準の平均値を求めることによって得られる。
【0050】
炭素質材料を二次電池用負極活物質表面に選択的に存在させる方法としては、特に制限はない。例えば、特開2011−14368公報に記載されているような、炭素質材料源として炭化水素系のガスを用いた気相での被覆方法や、特許4393610号に記載されているような化学蒸着処理法など、気相で処理する方法が挙げられる。また、予め、二次電池用負極活物質、結着材および炭素質材料を適当な溶媒に分散させて、例えば、ボールミルなどで混合、乾燥することで二次電池用負極活物質表面に付着させる方法や、その他、結着材を用いずに二次電池用負極活物質と炭素質材料を粉体の状態で混合し、遊星ボールミルで乾式メカノケミカルミリング処理を行うことで、直接被覆させる方法などの固相法を選択することができる。この場合、二次電池用負極活物質の表面に炭素質材料で被覆されていない部分があると、二次電池用負極活物質に容易にリチウムイオンが吸脱着されるため、好ましい。
【0051】
二次電池用負極活物質12に対する炭素質材料の質量としては、1〜15質量%が好ましく、さらに好ましくは5〜10質量%である。炭素質材料がこの範囲であると、炭素質材料が十分に分散し、二次電池用負極活物質表面において偏在することなく炭素質材料を被覆することが出来る。即ち、二次電池用負極活物質12全体に対する炭素質材料の質量が1質量%以上だと導電性が向上し、また、15質量%以下とすることで、二次電池用負極活物質表面を炭素質材料で被覆し過ぎるのを防止できる。
【0052】
また、炭素質材料を二次電池用負極活物質間に存在させる方法としては、特に制限はなく、従来から一般的に行われている、リチウムイオン二次電池の活物質層に炭素質材料を添加する方法を採用できる。例えば、二次電池用負極活物質、結着材と炭素質材料を適当な溶媒に分散させ、金属箔に代表される集電体表面に塗布後、乾燥する方法が選択できる。この場合、金属箔を除く二次電池用負極1の全体における炭素質材料の量としては、1〜15質量%が好ましく、より好ましくは5〜10質量%である。即ち、炭素質材料の量を1質量%以上とすることで導電性が向上する。また、15質量%以下とすることで二次電池用負極活物質の質量割合が十分に確保できることから、単位質量あたりの電気容量も十分に得られる。
【0053】
また、炭素質材料を二次電池用負極活物質と金属箔の接触面に存在させる方法としては、特に制限はない。例えば、特開平9−204937号公報、特開2002−134103号公報、特開2007−226969号公報、特開2008−060060号公報、特開2009−170132号公報、特開2009−176540号公報、特開2009−277660号公報、特開2010−212167号公報、国際公開WO2009/147989号パンフレット、国際公開WO2011/024797号パンフレット、国際公開WO2011/024798号パンフレット、国際公開WO2011/024799号パンフレット、WO2012/029328号パンフレットなどに記載されているように、予め炭素質材料と結着材を適当な溶媒に分散させ、金属箔の上に塗布後、乾燥する方法を選択でき、その他、スパッタ法、蒸着法、化学気相成長法などの気相法も挙げられる。この場合、二次電池用負極活物質と炭素質材料との接点を多くすることで導電性が向上するので、金属箔上の炭素質材料の被覆率が50〜100%の範囲であることが好ましく、また、その厚みは0.1〜5μmの範囲が好ましい。金属箔上の炭素質材料の厚みを0.1μm以上とすることで、炭素質材料を均一に薄く被覆させることができ、また、5μm以下とすることで、膜厚に依存する抵抗値を抑制することが可能となる。即ち、上記範囲の膜厚として炭素質材料で金属箔を被覆すると、二次電池用負極活物質との密着性が向上して接触抵抗を低減することが可能であり、結果的に、二次電池用負極が用いられる二次電池の内部抵抗やインピーダンスを下げることが可能となる。
【0054】
「結着材」
上述の炭素質材料を二次電池用負極活物質12からなる層に添加する場合、または、二次電池用負極活物質12同士や、二次電池用負極活物質12を金属箔11に接着させて二次電池用負極1を形成する場合には、結着材を含む構成を採用しても良い。この場合の結着材としては特に制限はなく、リチウムイオン二次電池の電極に用いられる公知の結着材を用いることができる。また、このような結着材としては、一般的にポリマーが使用され、このポリマーの例としては、アクリル系重合体、ビニル系重合体、フッ素系ポリマー、多糖類、スチレンブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0055】
アクリル系重合体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレートなどのアクリル系単量体を重合して得られるものが挙げられる。
【0056】
ビニル系重合体の例としては、ポリビニルアセタール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(N−ビニルホルムアミド)、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)などのビニル系単量体を重合して得られるものが挙げられる。
フッ素系ポリマーの例としては、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などが挙げられる。
【0057】
多糖類の例としては、キチン、キトサン、セルロース、でんぷん、および、それらの誘導体などの単糖類を重縮合して得られるものが挙げられる。多糖類を用いる場合、有機酸を添加してもよく、有機酸を添加すると架橋性が向上し、接着性や耐溶剤性が良くなるので好ましい。
【0058】
上記のような結着材を用いる場合、二次電池用負極活物質12中に、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは5〜10質量%の範囲で結着材を含むようにすると、剥離や亀裂が起こらず、導電性が確保された二次電池用負極1が得られる。
【0059】
「添加剤」
二次電池用負極活物質12からなる層は、上述した二次電池用負極活物質、炭素質材料、結着材の他、増粘剤など、リチウムイオン二次電池の負極活物質層に用いられる公知の添加剤を含んでも良く、例えば、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0060】
二次電池用負極1は、例えば、上述の二次電池用負極活物質12を分散溶液中に分散させて塗工液を調整し、この塗工液を金属箔11の片面または両面に塗布して乾燥させることによって得られる。二次電池用負極活物質12を含む層の金属箔11上への形成方法としては、特に制限はないが、二次電池の製造に用いられている公知の方法を採用することができ、例えば、以下に詳述するような塗布法が挙げられる。
【0061】
塗布法としては、例えば、バーコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、マイヤーバーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアーナイフコート、コンマコート、スロットダイヤコート、ダイコート、ディップコートなどの中から選択することができる。特に、二次電池用負極活物質を含む層を厚く形成する際には、塗布膜の厚さを制御しやすい点から、ダイコートを選択することが好ましい。
【0062】
塗布法によって二次電池用負極活物質を含む層を形成する場合、二次電池用負極活物質と、必要に応じて炭素質材料や結着材とを溶媒に分散させた塗工液を用いる。ここで用いる溶媒としては、特に制限は無く、例えば、N−メチル−2−ピロリドンやγ−ブチロラクトンなどの非プロトン性極性溶媒を用いることができる。また、二次電池用負極活物質12の金属箔11との濡れ性を良好にするため、例えば、イソプロピルアルコールや酢酸n−プロピルなどのプロトン性極性溶媒を添加しても良い。
【0063】
なお、上述の塗工液の配合組成としては、特に制限はなく、スラリー状またはペースト状であれば塗工は可能であり、塗工法や塗工機の特性に合わせて、塗工液の組成や粘度を調整することが可能である。また、塗工液を作製する場合、材料を均一に分散させるため、十分に撹拌および混合を行う必要性がある。この際の撹拌および混合するための方法としても、特に制限されず、例えば、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを用いた方法が挙げられる。また、特許第3256801号に記載されたような高速撹拌機を使用すると、均一な塗工液が作製できる点で好ましい。
【0064】
そして、二次電池用負極活物質の成分を含む上記の塗工液を金属箔11上に塗布後、乾燥することで二次電池用負極活物質12からなる層を形成する。なお、二次電池用負極活物質12を含む層を金属箔11の両面に形成する場合には、片面ずつ塗布操作を行ってもよいし、両面に同時に塗布操作を行ってもよい。また、塗布後にプレス処理を行い、電極密度を上げることも可能である。
【0065】
[二次電池]
本発明に係る二次電池Aは、図1に例示するように、上述した二次電池用負極1を有するものである。通常、二次電池は、負極の他、正極、セパレータ3および電解質を有し、図示例のように、集電体21上に正極活物質22が積層されてなる正極2との間にセパレータ3および図示略の非水電解液を介在させ、外装材4A、4Bによって封入されてなる。
【0066】
「正極」
正極2は、一般に二次電池に使用されるものであれば、特に制限はない。多くの場合、正極2は、正極活物質22と、集電体21と、図示略の結着材とを含む。
正極活物質22としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、Co、Mn、Niの3元系リチウム化合物(Li(CoxMnyNiz)O)、イオウ系(TiS)、オリビン系(LiFePO、LiMnPO)などを用いることができる。
また、正極活物質22に含まれる導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラックや、人造や天然の黒鉛、炭素繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。
また、結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0067】
また、正極活物質22を含む層が表面に形成される集電体21としては、上記の二次電池用負極活物質12を含む層が形成される金属箔11と同様、通常、リチウムイオン二次電池の集電体に用いられるものを用いることができる。即ち、集電体21としては、安価な材料であることや、表面の酸化膜が安定していて品質のバラつきが出にくいことなどが求められ、例えば、ステンレスメッシュやアルミニウム箔を用いることが好ましい。
【0068】
「セパレータ」
セパレータとしては、二次電池に用いられる公知のものが使用できる。例として、ポリエチレンやポリプロピレン性の多孔性のマイクロポーラスフィルムが挙げられる。セパレータの表面には、無機粒子を含む耐熱層が形成されていてもよい。なお、電解質として後述の固体電解質およびポリマー電解質を用いる場合には、セパレータが省かれることもある。
【0069】
「電解質」
電解質は、二次電池中に非水電解液として存在する場合と、固体電解質で存在する場合に加え、ポリマー電解質として存在する場合がある。いずれもリチウムイオン二次電池に使用されている公知の材料を用いることが可能である。
【0070】
非水電解液は、非水溶媒中に電解質を含む。非水溶媒の例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状炭酸エステル類や、その他の脂肪酸エステル類が挙げられ、これらを単独で、または2種以上を任意の割合で混合して用いる。また、電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などの含フッ素リチウム塩が挙げられる。
【0071】
固体電解質(無機固体電解質)としては、硫化物系ガラスを主成分としたものが挙げられる。具体的には、例えば、硫化リチウムに加え、硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化リン、硫化ホウ素からなる群より1種以上を組み合わせた成分としたガラスセラミックスが挙げられる。これらの中でも、硫化リチウムと硫化リンの組み合わせは、伝導率が高い点から好ましい。また、これらの組成比は特に限定されない。
また、これらを加熱処理して結晶化度を上げたものは、導電率が高い点から特に好ましい。
さらに、固体電解質を用いる場合、他の成分として、ケイ酸リチウム、ゲルマニウム酸リチウム、リン酸リチウム、ホウ酸リチウムなどのリチウム塩、リン単体や硫黄単体、ハロゲンやハロゲン化合物などを含んでも良い。
【0072】
また、上記の非水電解質や固体電解質に代えてポリマー電解質を用いる場合には、ポリエチレンオキサイド誘導体およびこの誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体およびこの誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体およびこの誘導体を含む重合体等に、上記の電解質塩を含有させたものなどが挙げられる。
【0073】
「外装材」
外装材4A、4Bとしては、二次電池に使用されている公知の外装材を選ぶことができ、例えば、ラミネート包材や金属缶が挙げられるが、この中で、二次電池の大型化や軽量化の観点からは、単位重量が軽いラミネート包材が好適である。このようなラミネート包材の構成は、特に限定されないが、金属箔の両側にポリマー層(樹脂)を有するものが挙げられる。
【0074】
ポリマー層のうち、二次電池の外側になる外側層は、通常、耐熱性、突き刺し強度、滑性、印刷性などの観点から考慮して選定され、具体的には、例えば、ポリアミドや、ポリアミドにポリエステルを積層したものなどが用いられる。ここで用いられるポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。また、電池製造工程において、外側層のポリアミドに電解液が付着するおそれを考慮し、ポリアミド層の表面に、耐電解液性を向上するためのコーティング層が施される場合もある。このようなコーティング層には、含フッ素ポリマー、アクリルポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリシリコーンから選ばれた少なくとも1種のポリマーが用いられる。
【0075】
ポリマー層のうち、二次電池の内側になる内側層は、加熱により溶融して、二次電池を袋状に封止することができる材料であれば、特に限定されず、好ましくはポリオレフィンを主成分とする層であり、より好ましくはポリプロピレンを主成分とする層である。また、内側層は、複数の層を積層したものでもよく、例えば、金属箔側に酸変性ポリプロピレン層を有し、その上にポリプロピレンシートを有するものなどが挙げられる。また、内側層として、ランダムポリプロピレンとブロックポリプロピレンが積層されたものを使用することも出来る。また、内側層は、20〜150μmの厚みであると、加熱による封止性が良好である点で好ましい。
【0076】
外装材4A、4Bに用いる金属箔としては、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケル箔、などが挙げられるが、特に、アルミニウム箔は、軽量で安価であるので好ましい。アルミニウム箔の材質としては、特に限定されないが、加工性を考慮すると軟質箔が好ましく、さらに強度を考慮した場合、一般的に、A8021、A8079などのアルミニウム―鉄系合金箔が選ばれる。また、外装材4A、4Bの厚さとしては、水分バリア性、強度および加工性を考慮すると、20〜100μmの範囲が好ましい。
なお、外装材4A、4Bに用いるラミネート包材は、上記の他、外側層と金属箔との間、および、内側層と金属箔との間に、接着剤層などの他の層を有していても良い。
【0077】
「二次電池の用途」
本発明に係る二次電池は、電源システムに適用することができる。そして、この電源システムは、例えば、自動車;鉄道、船舶、航空機などの輸送機器;携帯電話、携帯情報端末、携帯電子計算機などの携帯機器;事務機器;太陽光発電システム、風力発電システム、燃料電池システムなどの発電システム;などに適用することが可能である。
【0078】
以上説明したように、本実施形態の好ましい態様である二次電池用負極活物質12の製造方法によれば、まず、二酸化チタンを分散させた酸性水溶液に、縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属を含む化合物を添加することにより、二酸化チタンの表面に、リン元素およびアルカリ土類金属元素をそれぞれ、二酸化チタンの質量に対して0.1〜10質量%の範囲で含むように、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を前記表面に被覆する工程を備える方法を採用している。これにより、大きな電気容量と、優れたサイクル特性を備える二次電池用負極活物質12を製造することが可能となる。
【0079】
また、上記方法において、酸性水溶液中に前記アルカリ土類金属を含む化合物およびリン酸を添加し、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を二酸化チタンの粒子表面に被覆する際の液温を30〜70℃の範囲とした場合には、縮合リン酸塩およびアルカリ土類金属化合物の溶解と、二酸化チタン粒子表面への反応のバランスが良好となるので、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を、二酸化チタンの粒子表面において偏在しない状態で均一に被覆できる。これにより、上述したような、大きな電気容量と優れたサイクル特性が得られる効果がより顕著となる。
【0080】
また、本発明の二次電池用負極活物質12によれば、前記二次電池用負極活物質12が二酸化チタンを含有し、二酸化チタンの表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩が存在し、二酸化チタンの質量に対するリン元素の量およびアルカリ土類金属の量が、それぞれ、0.1〜10質量%の範囲である構成を採用している。このように、二酸化チタンの粒子表面を、アルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩で最適に被覆することにより、電荷移動のためのリチウムイオンの吸蔵性が向上し、かつ、リチウムイオンの吸脱着がスムーズに行われる。従って、大きな電気容量と優れたサイクル特性を備える二次電池用負極1が実現できる。
【0081】
また、本発明の二次電池Aによれば、上記した二次電池用負極1が用いられたものなので、電気容量が大きく、また、サイクル特性が良好なものとなる。
【実施例】
【0082】
次に、実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は、本実施例によってその範囲が制限されるものではなく、本発明に係る二次電池用負極の製造方法および二次電池用負極、ならびに二次電池は、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0083】
[実施例1]
「二次電池用負極活物質の合成」
実施例1では、以下の手順で二次電池用負極活物質を合成した。
まず、予め計量した純水47リットルにリン酸10g(特級試薬)を撹拌しながら添加し、さらに、このスラリー(酸性水溶液)を撹拌しながら加熱して温度を98℃に保持した。次いで、このスラリーに、チタン濃度15質量%の四塩化チタン水溶液((株)大阪チタニウム社製)7kgを120分かけて滴下し、さらに、100℃に昇温して90分間保持した。この際、四塩化チタン水溶液の滴下直後から白濁が観察された。また、ここで得られたスラリーのpHは0.5であった。さらに、得られた白色懸濁液であるスラリーを電気透析機にかけて塩素を除去し、pHを5とした。そして、スラリーの一部を採取して、乾燥恒量法によって固形分濃度を測定したところ、2質量%であった。
【0084】
次に、乾燥させた粉体状の二次電池用負極活物質を、X線回折装置(スペクトリス社製 PANalytical X‘Pert MRD測定装置(登録商標))を用いて解析した結果、アナターゼ型の結晶型を含む二酸化チタンであることが確認できた。なお、X線回折測定は、管電圧40kV、管電流20mA、走査範囲2θ:10〜80°の条件で行った。また、得られた回折パターンを、二酸化チタンのJCPDSカードを用いて解析し、結晶型を含めて同定した。
【0085】
次に、得られた二酸化チタンスラリーに、1kgのメタリン酸ソーダ(太平化学産業(株)社製)を添加して、分散するまで十分に撹拌した(縮合リン酸塩)。
また、予め計量した純水2000リットルに、塩化カルシウム((株)トクヤマ社製)200gを添加して塩化カルシウム溶液(アルカリ土類金属を含む化合物)を作製した。
そして、メタリン酸ソーダを含んだ二酸化チタンスラリーと、塩化カルシウム溶液とを混合し、40℃で4時間保持した。その際の電気伝導度は10000μS/cmであった。
【0086】
次に、得られたスラリーをロータリーフィルタープレス(コトブキ技研(株)社製)で濾過洗浄し、濾過液の電気伝導度が50μS/cmになるまで十分に洗浄した。この際のスラリーのpHは8.5であった。また、スラリーの一部を採取して固形分濃度を測定したところ、10質量%であった。次に、ロータリーフィルタープレスの濾過残渣を120℃で3時間乾燥し、二次電池用負極活物質の乾燥粉を得た。そして、得られた二次電池用負極活物質の乾燥粉を、FT−IR((株)パーキンエルマー社製、FT−IR1650型)で分析を行った結果、メタリン酸の吸収が確認された。
【0087】
次に、二次電池用負極活物質の乾燥粉をマイクロウェーブ酸溶解法にて完全に溶解し、ICP(島津製作所(株)社製、ICPS−100V)で分析を行ったところ、カルシウムが0.5質量%、リンが1.2質量%存在することが確認された。この際、測定波長としては、カルシウムは393.37nm、リンは177.50nmを用いて測定した。
【0088】
さらに、この二次電池用負極活物質の乾燥粉を走査電子顕微鏡(日本電子(株)社製、JSM−7500F)で写真撮影し、300個の一次粒子の粒径を測定して個数平均した平均粒径を求めたところ、0.015μmであった。
【0089】
「二次電池用負極の作製」
次に、本実施例では、上記の二次電池用負極活物質を82質量部、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、商品名デンカブラックHS−100(登録商標))6質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン((株)クレハ化学製、商品名KFポリマー#9210(登録商標))12質量部、分散溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(工業用グレード)の各々を、適度な流動性が出るよう混合して負極用スラリー(塗工液)を作製した。
【0090】
次に、負極集電体(金属箔)として、アルカリ洗浄したA1085材からなる厚さ20μmのアルミニウム箔を用意した。そして、このアルミニウム箔の片面に、ドクターブレード法(クリアランス250μm)を用いて上記の負極用スラリーを塗布し、その後、大気中で100℃、1時間の予備乾燥を行い、次いで、120℃、1時間の真空乾燥を行うことにより、二次電池用負極を得た。得られた二次電池用負極の電極層の厚みは55μm、塗布量は4.5mg/cm、電極密度は1.3g/cmであった。
【0091】
「電池セルの作製」
次に、本実施例では、得られた二次電池用負極の電池セル評価を行うため、三極式セルを作製した。まず、上記手順で得られた二次電池用負極を直径16mm(面積2.01cm)に切り出し、作用極にセットした。また、参照極および対極には、0.4mmの厚みのリチウム金属箔(本城金属社製)をセットし、電解液にはLiPF溶液(キシダ化学(株)社製)、電解質1M−LiPF、溶媒エチレンカーボネート(EC):メチルエチルカーボネート(MEC)(2:3vol%)を用い、電極が十分浸漬するようセルに注入した。なお、作用極と対極の間には、厚み25μmのセパレータ(ポリポア(株)製、商品名セルガード♯2400(登録商標))を用いて、両極を隔てるように配置した。
以上のような手順により、実施例1の電池セルを作製した。なお、電池セルの組立は、アルゴン雰囲気のグローブボックスの中で行った。
【0092】
「電池セルの特性評価」
上記手順で得られた電池セルについて、以下のような特性評価を行った。
【0093】
(電気容量の評価)
電池セルの電気容量について、常温雰囲気で評価を行った。この際、定電流定電圧(0.15mA/cm、1.0V、12μAカット)で充電を行った後、定電流(0.15mA/cm)で3.0Vまで放電した際の放電容量を、電気容量(mAh/g(負極活物質))とした。
【0094】
(サイクル特性の評価)
電池セルのサイクル試験を常温雰囲気下で行い、容量の変化を評価した。この際、各電池セルについて、充放電電流を0.15mA/cmに設定して、定電流で1.0Vまで充電した後、同じ電流密度で3.0Vまで放電し、この充放電サイクルを100回繰り返した。そして、2サイクル目と100サイクル目の放電容量の比(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を容量維持率(%)とし、サイクル特性の指標とした。
【0095】
下記表1に、本実施例における各作製条件、ならびに、合成した二次電池用負極活物質に含まれる酸化チタンの一次粒子径、二酸化チタン粒子のFT−IRによるリン酸吸収の有無等の各評価結果の一覧を示す(実施例2〜5および比較例1〜3も示す)。
また、下記表2に、本実施例において作製した電池セルの各特性の評価結果一覧を示す(実施例2〜5および比較例1〜3も示す)。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
表1に示すように、実施例1においては、FT−IR測定によって、二次電池用負極活物質にメタリン酸の吸収スペクトルが確認されるとともに、ICPによってリン元素1.2質量%およびカルシウム0.5質量%を含むことが確認された。そして、表2に示すように、実施例1の二次電池用負極活物質を用いて作製した電池セルは、電気容量が217(mAh/g(負極活物質))で大きな電気容量が確保されていることが明らかとなった。さらに、実施例1では、100サイクル後の容量維持率が85%で、優れたサイクル特性を備えることが明らかとなった。
【0099】
[実施例2]
実施例2では、上記実施例1と同様の手順で二酸化チタンを含むスラリーを作製した後、この二酸化チタンスラリーに添加するメタリン酸ソーダ(縮合リン酸塩)を3kg、塩化カルシウム(アルカリ土類金属を含む化合物)を600gに変更した点以外は、上記実施例1と同様にして、二次電池用負極活物質を生成させて二次電池用負極を作製した。そして、この二次電池用負極を用いて、実施例1と同様の手順で電池セルを作製した。
【0100】
実施例2においても、実施例1と同様の方法で、乾燥させた粉体状の二次電池用負極活物質のX線回折を行い、二酸化チタンの結晶相を解析した結果、アナターゼ型の結晶型を含む二酸化チタンであることが確認できた。
また、実施例1と同様の方法で、スラリーをロータリーフィルタープレスで濾過洗浄した後、濾過残渣を高温乾燥して得られた二次電池用負極活物質の乾燥粉をFT−IR分析した結果、メタリン酸の吸収が確認された。また、上記同様に、二次電池用負極活物質の乾燥粉を溶解して、ICPで分析を行ったところ、リンが1.7質量%、カルシウムが1.0質量%、存在することが確認された。
さらに、上記同様、この二次電池用負極活物質の乾燥粉を走査電子顕微鏡で写真撮影し、一次粒子の平均粒径を求めたところ、0.015μmであった。
【0101】
また、表2に示すように、実施例2の二次電池用負極活物質を用いて作製した電池セルは、電気容量が234(mAh/g(負極活物質))で大きな電気容量が確保されていることが明らかとなった。さらに、実施例2では、100サイクル後の容量維持率が88%であり、優れたサイクル特性を備えることが明らかとなった。
【0102】
[実施例3]
実施例3では、上記実施例1と同様の手順で二酸化チタンを含むスラリーを作製した後、この二酸化チタンスラリーに添加するメタリン酸ソーダ(縮合リン酸塩)をポリリン酸ソーダ2.3kgに変更した点以外は、上記実施例1と同様にして、二次電池用負極活物質を生成させて二次電池用負極を作製した。そして、この二次電池用負極を用いて、実施例1と同様の手順で電池セルを作製した。
【0103】
実施例3においても、実施例1と同様の方法で、乾燥させた粉体状の二次電池用負極活物質のX線回折を行い、二酸化チタンの結晶相を解析した結果、アナターゼ型の結晶型を含む二酸化チタンであることが確認できた。
また、実施例1と同様の方法で、スラリーをロータリーフィルタープレスで濾過洗浄した後、濾過残渣を高温乾燥して得られた二次電池用負極活物質の乾燥粉をFT−IR分析した結果、ポリリン酸の吸収が確認された。また、上記同様に、二次電池用負極活物質の乾燥粉を溶解して、ICPで分析を行ったところ、リンが1.5質量%、カルシウムが0.5質量%、存在することが確認された。
さらに、上記同様、この二次電池用負極活物質の乾燥粉を走査電子顕微鏡で写真撮影し、一次粒子の平均粒径を求めたところ、0.015μmであった。
【0104】
また、表2に示すように、実施例3の二次電池用負極活物質を用いて作製した電池セルは、電気容量が215(mAh/g(負極活物質))で大きな電気容量が確保されていることが明らかとなった。さらに、実施例3では、100サイクル後の容量維持率が82%であり、優れたサイクル特性を備えることが明らかとなった。
【0105】
[実施例4]
実施例4では、上記実施例1と同様の手順で二酸化チタンを含むスラリーを作製した後、この二酸化チタンスラリーに添加するメタリン酸ソーダ(縮合リン酸塩)をピロリン酸ソーダ1.3kgに変更した点以外は、上記実施例1と同様にして、二次電池用負極活物質を生成させて二次電池用負極を作製した。そして、この二次電池用負極を用いて、実施例1と同様の手順で電池セルを作製した。
【0106】
実施例4においても、実施例1と同様の方法で、乾燥させた粉体状の二次電池用負極活物質のX線回折を行い、二酸化チタンの結晶相を解析した結果、アナターゼ型の結晶型を含む二酸化チタンであることが確認できた。
また、実施例1と同様の方法で、スラリーをロータリーフィルタープレスで濾過洗浄した後、濾過残渣を高温乾燥して得られた二次電池用負極活物質の乾燥粉をFT−IR分析した結果、ピロリン酸の吸収が確認された。また、上記同様に、二次電池用負極活物質の乾燥粉を溶解して、ICPで分析を行ったところ、リンが1.2質量%、カルシウムが0.5質量%、存在することが確認された。
さらに、上記同様、この二次電池用負極活物質の乾燥粉を走査電子顕微鏡で写真撮影し、一次粒子の平均粒径を求めたところ、0.015μmであった。
【0107】
また、表2に示すように、実施例4の二次電池用負極活物質を用いて作製した電池セルは、電気容量が222(mAh/g(負極活物質))で大きな電気容量が確保されていることが明らかとなった。さらに、実施例4では、100サイクル後の容量維持率が82%であり、優れたサイクル特性を備えることが明らかとなった。
【0108】
[実施例5]
実施例5では、上記実施例1と同様の手順で二酸化チタンを含むスラリーを作製した後、この二酸化チタンスラリーに添加する塩化カルシウム(アルカリ土類金属を含む化合物)を塩化マグネシウム300gに変更した点以外は、上記実施例1と同様にして、二次電池用負極活物質を生成させて二次電池用負極を作製した。そして、この二次電池用負極を用いて、実施例1と同様の手順で電池セルを作製した。
【0109】
実施例5においても、実施例1と同様の方法で、乾燥させた粉体状の二次電池用負極活物質のX線回折を行い、二酸化チタンの結晶相を解析した結果、アナターゼ型の結晶型を含む二酸化チタンであることが確認できた。
また、実施例1と同様の方法で、スラリーをロータリーフィルタープレスで濾過洗浄した後、濾過残渣を高温乾燥して得られた二次電池用負極活物質の乾燥粉をFT−IR分析した結果、メタリン酸の吸収が確認された。また、上記同様に、二次電池用負極活物質の乾燥粉を溶解して、ICPで分析を行ったところ、リンが1.2質量%、カルシウムが0.75質量%、存在することが確認された。
さらに、上記同様、この二次電池用負極活物質の乾燥粉を走査電子顕微鏡で写真撮影し、一次粒子の平均粒径を求めたところ、0.015μmであった。
【0110】
また、表2に示すように、実施例5の二次電池用負極活物質を用いて作製した電池セルは、電気容量が218(mAh/g(負極活物質))で大きな電気容量が確保されていることが明らかとなった。さらに、実施例5では、100サイクル後の容量維持率が82%であり、優れたサイクル特性を備えることが明らかとなった。
【0111】
[比較例1]
比較例1においては、最初の段階において、純水にリン酸を添加せずにチタン含有化合物を添加して加水分解を行い、酸化チタンを含むスラリーを作製した点を除き、上記実施例1と同様にして、二次電池用負極活物質を生成させて二次電池用負極を作製した。そして、この二次電池用負極を用いて、実施例1と同様の手順で電池セルを作製した。
【0112】
そして、実施例1と同様の方法で、乾燥させた粉体状の二次電池用負極活物質のX線回折を行い、二酸化チタンの結晶相を解析した結果、アナターゼ型の結晶型を含む二酸化チタンであることを確認した。
また、実施例1と同様の方法で、スラリーをロータリーフィルタープレスで濾過洗浄した後、濾過残渣を高温乾燥して得られた二次電池用負極活物質の乾燥粉をFT−IRおよびICPで分析を行ったところ、リン元素およびアルカリ土類金属(カルシウム)の何れの検出量も、実施例1と比較して大幅に低いことが確認された。具体的には、リンが0.03質量%、カルシウムが0.06質量%であった。これは、スラリー調整の際、最初にリン酸を添加しなかったため、析出した二酸化チタンが凝集して一次粒子が大きくなり、比表面積の低下に伴う表面活性度の低下が生じたことから、その後の熟成において、二酸化チタンの粒子表面における反応が起きにくくなり、アルカリ土類金属を含有する縮合リン酸塩の、二酸化チタン粒子表面への被覆効率が低下したためと考えられる。
さらに、上記同様、この二次電池用負極活物質の乾燥粉を走査電子顕微鏡で写真撮影し、一次粒子の平均粒径を求めたところ、0.120μmであった。
【0113】
また、表2に示すように、比較例1の二次電池用負極活物質を用いて電池セルを作製したところ、二次電池用負極活物質における、アルカリ土類金属を含有する縮合リン酸塩の二酸化チタン粒子表面への被覆効率が非常に低いことから、電気容量が181(mAh/g(負極活物質))となり、本発明の実施例1〜5に較べて電気容量が小さいものとなった。また、比較例1では、100サイクル後の容量維持率が63%であり、本発明の実施例1〜5に較べてサイクル特性に劣ることが明らかとなった。
【0114】
[比較例2]
比較例2においては、表面に被覆物質がない市販の二酸化チタン粉末(昭和電工(株)社製、商品名:F−4)を二次電池用負極活物質に用いた点を除き、実施例1と同様の手順および条件で、この二次電池用負極活物質を用いて二次電池用負極を作製し、この二次電池用負極を用いて、同様の手順で電池セルを作製した。
【0115】
そして、実施例1と同様の方法で、乾燥させた粉体状の二次電池用負極活物質のX線回折を行い、二酸化チタンの結晶相を解析した結果、アナターゼ型の結晶型を含む二酸化チタンであることを確認した。
また、実施例1と同様の方法で、スラリーをロータリーフィルタープレスで濾過洗浄した後、濾過残渣を高温乾燥して得られた二次電池用負極活物質の乾燥粉をFT−IR分析したところ、縮合リン酸の吸収スペクトルは見られなかった。また、上記同様に、二次電池用負極活物質の乾燥粉を溶解して、ICPで分析を行ったところ、リン元素およびアルカリ土類金属のいずれも検出されなかった。
さらに、上記同様、この二次電池用負極活物質の乾燥粉を走査電子顕微鏡で写真撮影し、一次粒子の平均粒径を求めたところ、0.031μmであった。
【0116】
また、表2に示すように、比較例2の二次電池用負極活物質を用いて作製した電池セルは、電気容量が198(mAh/g(負極活物質))であり、本発明の実施例1〜5に較べて電気容量が小さいものとなった。また、比較例2では、100サイクル後の容量維持率が30%であり、本発明の実施例1〜5に較べて著しくサイクル特性に劣ることが明らかとなった。
【0117】
[比較例3]
比較例3においては、表面にシランカップリング剤を用いて表面処理した、SiO換算で5質量%の被覆物質がある市販の二酸化チタン粉末(昭和電工(株)社製、F−4S05)を二次電池用負極活物質に用いた点を除き、実施例1と同様の手順および条件で、この二次電池用負極活物質を用いて二次電池用負極を作製し、この二次電池用負極を用いて、同様の手順で電池セルを作製した。
【0118】
そして、実施例1と同様の方法で、乾燥させた粉体状の二次電池用負極活物質のX線回折を行い、二酸化チタンの結晶相を解析した結果、アナターゼ型の結晶型を含む二酸化チタンであることを確認した。
また、実施例1と同様の方法で、スラリーをロータリーフィルタープレスで濾過洗浄した後、濾過残渣を高温乾燥して得られた二次電池用負極活物質の乾燥粉をFT−IR分析したところ、縮合リン酸の吸収スペクトルは見られなかった。また、上記同様に、二次電池用負極活物質の乾燥粉を溶解して、ICPで分析を行ったところ、リン元素およびアルカリ土類金属のいずれも検出されなかった。
さらに、上記同様、この二次電池用負極活物質の乾燥粉を走査電子顕微鏡で写真撮影し、一次粒子の平均粒径を求めたところ、0.032μmであった。
【0119】
また、表2に示すように、比較例3の二次電池用負極活物質を用いて作製した電池セルは、電極剥離が生じたため、電気容量および容量維持率を測定することができなかった。これは、比較例3で用いた二次電池用負極活物質が、表面にシランカップリング剤による被覆物質がある二酸化チタン粉末からなるものなので、金属箔との密着性が低く、電極剥離が生じたものと考えられる。
【0120】
以上説明したような実施例の結果より、本発明で規定する条件で、二酸化チタンの表面にアルカリ土類金属を含む縮合リン酸塩を被覆した二次電池用負極活物質を製造することで、それを用いて作製した二次電池用負極、ならびにそれを用いた二次電池が、電気容量が大きく、サイクル特性に優れていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の二次電池用負極活物質の製造方法によれば、大きな電気容量と、優れたサイクル特性を備える二次電池用負極活物質を製造することが可能となる。よって、本発明は、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0122】
1…二次電池用負極、
11…金属箔、
12…二次電池用負極活物質、
2…正極、
21…集電体、
22…正極活物質、
3…セパレータ、
4A、4B…外装材、
A…二次電池
図1