(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041870
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】非干渉制御で電気モータ推進ユニットを制御する方法および装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/06 20160101AFI20161206BHJP
【FI】
H02P21/06
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-515251(P2014-515251)
(86)(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公表番号】特表2014-517677(P2014-517677A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】FR2012051277
(87)【国際公開番号】WO2012172237
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年5月19日
(31)【優先権主張番号】1155219
(32)【優先日】2011年6月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】マルーム, アブデルマーレク
(72)【発明者】
【氏名】ケッフィ−シェリフ, アフマド
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−327200(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01187307(EP,A2)
【文献】
特開平09−093999(JP,A)
【文献】
特開2001−169598(JP,A)
【文献】
特開2007−306756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子および固定子を具備した電気モータ、前記回転子および前記固定子に流れる電流を測定するセンサ、電流設定点を決定する手段、ならびに前記測定センサから発生する信号を処理する手段(6)を備えるシステムを制御する方法であって、
前記処理手段(6)から受信した前記信号に応じて、前記電気モータの固定子の電圧および回転子の電圧を、非干渉座標系において表現した変換によって、中間信号を決定するステップであって、パーク座標系の極軸における固定子電流をIdとし、パーク座標系の極間軸における固定子電流をIqとし、回転子電流をIfとした場合において、電流Id、Iq、Ifは、その変化が前記非干渉座標系の一軸のみの電圧に反映される、中間信号決定ステップと、
変換によって得られた前記中間信号に基づいて、前記電流設定点の条件下で、前記電気モータの前記回転子および前記固定子に流れる電流に応じて、電圧調節信号を決定するステップであって、前記電圧調整信号は前記非干渉座標系において定められる、電圧調整信号決定ステップと
を有する、制御方法。
【請求項2】
自動車両に取り付けられ、前記電気モータに接続されたバッテリに関する制約を満たすように、前記電圧調節信号を飽和させるステップを含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記飽和電圧調節信号に逆変換を適用することによって積分制限を決定するステップを含み、前記積分制限が、前記逆変換後に、新しい中間信号を決定するために適用される、請求項2に記載の制御方法。
【請求項4】
これらの制御の変動を制限することによって、前記制御の連続性を確保するステップを含む、請求項3に記載の制御方法。
【請求項5】
回転子および固定子を具備した電気モータを制御すべく、前記回転子および前記固定子に流れる電流を測定するセンサならびに電流設定点を決定する手段を備えるシステムであって、
入力が、前記測定センサおよび電流設定点を決定する前記手段に接続された、測定値および要求を処理する手段(6)と、
入力が、測定値および要求を処理する前記手段(6)に接続され、前記電気モータの固定子の電圧および回転子の電圧を非干渉座標系において表現した変換によって、中間信号を供給する変換手段(7)であって、パーク座標系の極軸における固定子電流をIdとし、パーク座標系の極間軸における固定子電流をIqとし、回転子電流をIfとした場合において、電流Id、Iq、Ifは、その変化が前記非干渉座標系の一軸のみの電圧に反映される、変換手段(7)と、
入力が、前記変換手段(7)に接続され、前記中間信号に基づいて、前記電流設定点の条件下で、前記電気モータの電圧調節信号を決定する決定手段(8)であって、前記電圧調節信号は前記非干渉座標系において定められる決定手段(8)と
を備える、システム。
【請求項6】
前記決定手段(8)から受信した前記電圧調節信号の飽和器(9)を備える、請求項5に記載の制御システム。
【請求項7】
前記飽和器(9)から受信した前記飽和電圧調節信号の逆変換手段(10)を備える、請求項6に記載の制御システム。
【請求項8】
前記飽和器(9)から受信した前記飽和電圧調節信号の出力を処理する手段(11)を備える、請求項7に記載の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、電気モータの制御であり、特に、同期式の巻線型回転子電気モータの分野である。
【背景技術】
【0002】
同期式の巻線型回転子電気モータは、固定子と呼ばれる固定部品と、回転子と呼ばれる可動部品とを備える。固定子は、120°ずつずらされた3つのコイルを備え、これらのコイルに交流が供給される。回転子は、直流が供給される1つのコイルを備える。
【0003】
固定子の相電流は、回転子および固定子の抵抗およびインダクタンス、ならびに回転子と固定子との間の相互インダクタンスに依存する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、同期式の巻線型回転子電気モータの電流調節の質を向上させることにあり、こうした電流調節は、従来技術によるレギュレータによって達成することができるものである。
【0005】
一実装形態によれば、回転子および固定子を具備した電気モータ、回転子および固定子に流れる電流を測定するセンサ、電流設定点を決定する手段、ならびに測定センサから発生する信号を処理する手段を備えるシステムを制御する方法において、
処理手段から受信した信号に応じて、電気モータの固定子の電圧
と回転子の電圧
とが、
干渉しない(decoupled
:以下、「分離された」ということがある)
非干渉座標系において表されることになる変換によって、中間信号を決定するステップと、
変換によって得られた中間信号に応じ、電気モータの回転子および固定子に流れる、電流設定点を満たした電流
(すなわち、電流設定点の条件下で電気モータの回転子および固定子に流れる電流)に応じて、電圧を調節する信号を決定するステップと
を含むことを特徴とする方法が規定される。電流設定点は、トルク設定点を表す。
【0006】
この制御方法の利点は、回転子電流の変動と、固定子電流の変動との間が完全に分離され、その結果、車輪トルク設定点の追跡を向上させることが可能となる点である。
【0007】
この分離は、パーク座標系において作用する、従来技術による結合補償装置において実施される分離よりも遙かに複雑でない。
【0008】
この制御方法は、自動車両に取り付けられ、電気モータに接続されたバッテリに関する制約を満たすように、電圧調節信号を飽和させるステップを含むことができる。
【0009】
この制御方法は、前記飽和電圧調節信号に逆変換を適用することによって積分制限を決定するステップを含むことができ、この積分制限は、前記逆変換後に、新しい中間信号を決定するために適用される。
【0010】
この制御方法は、アクチュエータに実際に伝達される制御の変動を制限することによって、制御の連続性を確保するステップを含むことができる。
【0011】
別の実装形態によれば、回転子および固定子を具備した電気モータを制御するシステムであって、回転子および固定子に流れる電流を測定するセンサ、ならびに電流設定点を決定する手段を備えるシステムにおいて、
入力で、測定センサおよび電流設定点を決定する手段に接続された、測定値および要求を処理する手段と、
入力で、測定値および要求を処理する手段に接続され、電気モータの固定子の電圧および回転子の電圧が、分離された座標系で表されることになる変換後に、中間信号を供給する変換手段と、
入力で、変換手段に接続され、電流設定点を満たした電気モータの電圧調節信号を発することが可能である決定手段と
を備えることを特徴とするシステムが規定される。
【0012】
この制御システムは、決定手段から受信した電圧調節信号の飽和器を備えることができる。
【0013】
この制御システムは、飽和器から受信した飽和電圧調節信号の逆変換手段を備えることができる。
【0014】
この制御システムは、飽和器から受信した飽和電圧調節信号の出力を処理する手段を備えることができる。
【0015】
添付の図面を参照しながら非限定的な単なる例によって示す以下の説明を読めば、他の目的、特徴、および利点が明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】電気モータ推進ユニットを制御する方法を示す図である。
【
図2】電気モータ推進ユニットを制御する装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
巻線型回転子同期モータの電流調節では、固定子の正弦波電流をモータの回転と同期させるため、また、回転子と固定子との間に動的結合(dynamic coupling)が生じるため、困難が伴う。
【0018】
したがって、固定子の相電圧を制御することを可能とするインバータ、および回転子の電圧を制御するチョッパが使用される。
【0019】
一定の信号を調節することが可能となるように、正弦波の設定点を使用するのではなく、パーク変換が使用される。パーク座標系における固定子調節信号は、V
d、V
qと示される。回転子調節信号は、V
fと示される。
【0020】
既知の様式で、以下の等式
(I)から(III)が得られる。
【数1】
【0021】
式(I)および(III)では、以下のことが明白に示されている。
− V
dは電流I
dの変動、電流i
fの変動(動的結合)、ならびに電流i
dおよびI
qに依存する。
− V
fは電流I
dの変動、電流i
fの変動(動的結合)、および電流i
fに依存する。
【0022】
V
dおよびV
fが、こうした電流の変動に依存すること(動的結合)は、制御の観点から不利であり、その理由は、V
dまたはV
fの変動によって、電流I
dおよび電流I
fに変動が生じることになり、したがってそれらの電流の制御が結合されることになるからである。
【0023】
電流I
dの変動と電流I
fの変動との間のこうした動的結合を回避するために、固定子の電圧と、回転子の電圧とが、分離された座標系で表されるように、変数の変更が実施され、すなわち電流I
iの変動が依存するのは、単一の電圧
【数2】
のみに対してであり、iはd、q、またはfに等しい添え字であり、jはx、yまたはzに等しい添え字である。
【0024】
変数のこうした変更、すなわち
【数3】
とした後、制御すべきシステムは、以下の式によって表すことができる。
【数4】
(式1)
【0025】
ここで、
【数5】
は、分離された座標系におけるd軸の新しい固定子電圧である。
【数6】
は、分離された座標系におけるq軸の新しい固定子電圧である。
【数7】
は、分離された座標系におけるf軸の新しい回転子電圧である。
L
dは、d軸、すなわちパーク座標系の原線における等価電機子インダクタンスである。
L
qは、q軸、すなわちパーク座標系の極間軸または横軸における等価電機子インダクタンスである。
L
fは、回転子インダクタンスである。
R
sは、固定子巻線の等価抵抗である。
R
fは、回転子抵抗である。
M
fは、固定子と回転子との間の相互インダクタンスである。
I
dは、d軸、すなわちパーク座標系の原線における固定子電流である。
I
qは、q軸、すなわちパーク座標系の極間軸または横軸における固定子電流である。
I
fは、回転子電流である。
ω
rは、回転速度である。
【0026】
値L
d、L
q、L
f、R
s、R
f、およびM
fは、従来技術による測定によって既知である。
【0027】
この種のシステムが呈する主な問題点は、d軸とf軸との間の動的結合にあり、パラメータの変動が識別しにくく、最終的には供給バッテリの電圧制約が識別しにくくなる。
【0028】
電圧制約は、以下の通りである。
【数8】
(式2)
【0029】
ここで、V
batは、バッテリ電圧である。
【0030】
図1に例示した制御方法によって、車輪トルク要求を満たすように、電流I
d、I
q、およびI
fを制御することが可能となる。したがって、レギュレータが達成しなければならない(トルク設定点を表す)電流に関して、フィルタリングされ、スケーリングされた測定値、ならびに基準設定点を利用することができる。
【0031】
第1のステップ1において、分離された座標系において、レギュレータの合成が以下の形式で実行される。
【数9】
(式3)
【0032】
ここで、
【数10】
は、d軸における基準固定子電流である。
【数11】
は、q軸における基準固定子電流である。
【数12】
は、基準回転子電流である。
K
d、K
q、K
f、K
id、K
iq、K
ifは、調整パラメータである。
【0033】
したがって、レギュレータの合成は、パーク座標系ではなく、分離された座標系において実施される。
【0034】
電流
【数13】
は、処理手段6から発生する設定点電流である。等式(式1)=(式3)が成り立つことから、調整パラメータK
d、K
q、K
f、K
id、K
iq、K
ifを決定することが可能となる。
【0035】
上記から分かるように、レギュレータによって、d軸の電流(I
d)の変動のみに依存する
x軸
に沿った電圧
【数14】
を決定することが可能となる。同様に、
y軸
に沿った電圧
【数15】
および
z軸
に沿った電圧
【数16】
もそれぞれ、q軸の電流(I
q)の変動、および回転子の電流(I
f)の変動のみに依存する。したがって、レギュレータのレベルで結合が最小限に抑えられる。
【0036】
この新しいベース
【数17】
で表される電圧信号は、中間信号である。実数値へのアクセスが得られるように、逆変換が必要となる。したがって、第2のステップ2では、システムに実際に印加される電圧調節信号が、以下のように計算される。
【数18】
(式4)
【0037】
したがって、電圧調節信号V
d、V
q、V
fは、中間信号、モータの物理的なパラメータ(インダクタンス、抵抗など)の値、およびモータに流れる電流(I
d、I
q、I
f)に応じて決定される。
【0038】
第3のステップ3において、(式2を満たすことによって)バッテリに関する制約を満たすように、第2のステップにおいて計算された電圧調節信号を飽和させる。
【0039】
第4のステップ4において、第3のステップで計算された飽和調節信号を、式4の行列
の逆行列を適用することによって
逆変換することによって、積分制限を決定する。したがって、この積分制限は、分離された座標系
【数19】
の形式で表される。この積分制限は、その後、式3の第2項の積分を制限するように、ステップ1のレベルで考慮される。積分は、値
【数20】
が、ステップ4で得られた
【数21】
の飽和値を超えると停止される。
【0040】
第5のステップ5では、制御の変動を制限することによって、制御の連続性を確保する。ステップ5の後、単純な正弦波電圧U、V、Wの値が計算され(逆パーク変換)、実際のシステムに印加される電圧として働く。
【0041】
このようにして得られた制御方法は、信頼性の観点から有効であり、かつ外乱に対して堅牢である。
【0042】
図2には、センサ、例えば電流I
d、I
q、およびI
fのセンサから受信した信号をフィルタリングし、スケーリングすることが可能な、測定値および要求を処理する手段6を備える制御装置があることが分かる。
【0043】
この処理手段6は、出力が、信号
【数22】
、すなわち中間信号を決定することが可能な変換手段7に連結されている。この変換手段7は、式3および式1を適用する。
【0044】
変換手段7は、出力が、中間信号
【数23】
に応じて電圧調節信号V
d、V
q、V
fを決定することが可能な決定手段8に連結されている。この決定手段8は、式4を適用する。
【0045】
決定手段8は、出力が、式2に応じて電圧調節信号V
d、V
q、V
fを制限することが可能な飽和器9に連結されている。
【0046】
飽和器9は、出力が、
逆変換手段10、および出力処理手段11に連結されている。
【0047】
逆変換手段10は、飽和器9から受信した飽和電圧調節信号に応じて飽和中間信号を決定することが可能である。したがって、
逆変換手段10は、式4の行列の逆行列を適用する。その後、飽和中間信号は変換手段7に送信される。
【0048】
出力処理手段11は、機械的応力および動作ジョルトが制限されるように、2つの計算サイクル間で、アクチュエータに送信される飽和電圧調節信号の変動を制限することが可能である。