(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記微小流体流路が、微小流体流路の第一の領域においては第一の流速で、および微小流体流路の第二の領域においては第二の流速で流体が流れるように構成されている、請求項3記載のバイオ人工腎臓。
前記第一の流速が第一の領域にある細胞層に対して第一のせん断応力レベルを生じ、かつ前記第二の流速が第二の領域にある細胞層に対して第二のせん断応力レベルを生じ、かつ該第一および第二のせん断応力レベルが異なる、請求項9記載のバイオ人工腎臓。
上行脚および下行脚を含むヘンレのループを備えるバイオ人工腎臓であって、前記第一の領域が該ヘンレのループの上行脚であり、かつ前記第二の領域が該ヘンレのループの下行脚である、請求項9記載のバイオ人工腎臓。
集合管、遠位尿細管、ならびに上行脚および下行脚を含むヘンレのループを備えるバイオ人工腎臓であって、前記第一の領域がヘンレのループにあり、前記第二の領域が集合管および遠位尿細管の1つまたはそれ以上にある、請求項9記載のバイオ人工腎臓。
基板の一部分において細胞層を成長させるために、該基板の一部分に配置された細胞親和性物質を備え、該基板の一部分が流路の前記表面を形成する、請求項1記載のバイオ人工腎臓。
前記微小流体流路の第一の領域でのトポグラフィーパターンが、前記第二の微小流体流路の第二のトポグラフィーパターンとは異なる、請求項23記載のバイオ人工腎臓。
前記微小流体流路の第一の領域でのトポグラフィーパターンが、前記第二の微小流体流路の第二のトポグラフィーパターンとは異なるピッチまたは形状を含む、請求項28記載のバイオ人工腎臓。
前記微小流体流路および前記第二の微小流体流路に流体を流すための第一の流体源をさらに備え、該流体が該微小流体流路における細胞層に対して第一のせん断応力を誘発し、かつ該第二の微小流体流路における細胞層に対して第二のせん断応力を誘発する、請求項23記載のバイオ人工腎臓。
前記腎細胞が、近位尿細管細胞、腎近位尿細管上皮細胞、マディン-ダービーイヌ腎細胞、初代髄質内集合管細胞、初代近位尿細管細胞、胚幹細胞、成体幹細胞、誘導多能性幹細胞、および内皮細胞からなる群より選択される1つ以上の種類の細胞を含む、請求項1記載のバイオ人工腎臓。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
本発明の総合的な理解を提供するために、生体模倣環境において細胞を培養するための装置および方法を含む特定の例示の態様を以下に説明する。ただし、当業者には、本明細書に記載するシステムおよび方法が、対処する用途に対して適切であれば適合および改変され得ること、ならびに本明細書に記載のシステムおよび方法が、その他の適切な用途に採用され得ること、そしてそのようなその他の追加および改変はそれらの範囲から逸脱しないことが理解されよう。
【0019】
生体模倣流動装置は、流体入口および流体出口を有する流路を含む。ネフロン等の器官構造を再現する流路を作り出すために、器官の細胞の培養物を流路の少なくとも1つの側面で成長させる。体内において、細胞外マトリックス(ECM)は、ネフロンの細胞を構造的にサポートし、ネフロンを埋める細胞が特定の配列で互いと配向し合うようにする。生体模倣流路において、細胞を成長させる表面のためにトポグラフィーを適正に選択することで、ECMによって作製されるであろう配向および/または配列を細胞が有するようにする。トポグラフィーを有する生体模倣流路は、腎臓構造だけではなく、膀胱、消化器系、心臓、静脈、動脈、毛細血管、リンパ系の部分または流体の流れを受けるその他の任意の構造も再現するために使用することができる。
【0020】
腎細胞に対する例示の表面トポグラフィーの影響を
図1に示す。
図1Aおよび1Bは、腎細胞培養物の2つの図を示す。
図1Cおよび1Dは、腎細胞培養物を撮った2枚の写真を示す。
図1Aは、典型的な培養プレート、皿またはフラスコ等の平面104上で成長させた腎細胞102の培養物の図である。従来、腎細胞は流体が静的な状態において培養され、せん断応力またはトポグラフィーを受けることはない。腎細胞が流体の流れおよびせん断応力を受ける場合でも、細胞が配向することはなく、細胞の形態が影響を受けることはない。
図1Aに示すように、典型的な培養腎細胞102は、特徴的な形状または配向を持たず、ランダムに配向されているように見える。さらに、細胞102は、上部構造を形成せず、典型的に互いと結合しない。
図1Cは、平面104上で成長させた腎細胞の培養物の写真である。
図1Cは、細胞102がどのように特徴的な形状を欠き、ランダムに配向するかを例示している。
【0021】
図1Bは、例示のトポグラフィーパターンを有する表面154上で成長させた腎細胞152の培養物の図である。表面は、細胞152よりも細い溝156および隆起部158を有する。細胞152はそれぞれ、いくつかの溝156および隆起部158にまたがる。この溝および隆起部のパターンは、細胞外マトリックス(ECM)と同様に、腎細胞152を伸ばし、隆起部に平行に配列させ、細胞間結合を後押しし、表面154への細胞152の付着の増大を促進する。左側に示すスケールは、腎臓の一部の上皮細胞のおおよその寸法を示す;しかし、腎細胞の実際の大きさは、ネフロン全体にわたって広く変化する。細胞152の形態も例示的である;一部の種類の腎細胞は、特に円柱細胞は、より長方形に近い。
図1Bにおいて、溝156および隆起部158は、おおよそ同じ幅であるが、必ずしもそうである必要はない。細胞152のような約10mmの細長い幅を有する腎細胞については、溝156および隆起部158の幅は約5mm以下であって、細長い細胞が2つ以上の隆起部に接触するようにする。
図1Bにおいて、溝156および隆起部158の幅は約800 nmである。溝156および隆起部158はこれよりも細くてもよいが、約20 nmよりも細い場合、このテクスチャーの腎細胞に対する影響は限定されるであろう。ただし、トポグラフィーパターンのサイズ決定は、細胞の大きさに依る。さらに、特定の用途のためには、細胞幅に対してより幅広い溝を有して、細胞が溝の中にあることが望ましい。このような態様においては、隆起部は溝よりも細くてもよい。別の態様において、隆起部は溝よりも幅広くてもよい。
【0022】
細胞の方向性および形状を制御することに加えて、溝および隆起部は腎細胞152を互いと結合させて、テクスチャーの無いまたは「ブランク」基板上で同じ時間の間成長させた細胞と比べてより規定されかつ発達した結合部を形成させることもする。インビボで観察される密着した細胞結合部は、ネフロンが適正に血液を濾過し、水分を再吸収するために必要である。密着結合部によって、液体および溶解溶質を含む流体が細胞と細胞との間を通るのを防ぎ、そのためネフロンの壁から出る流体が上皮細胞を通らなければならず、これにより、どの流体および/または溶質が通れるかを制御できる。これらの細胞結合部は、インビトロ環境においても形成され、溝156および隆起部158等の表面トポグラフィーがコンフルエント細胞を配向することで、それらの膜もこの流体不浸透性バリアを形成できる。流路は、表面154に対して任意の方向に配置されて、流体が細胞152の上を任意の方向に流れるようにすることができる。
図6に示す態様においては、流体は、溝156および隆起部158に対して平行または垂直のいずれかに流される。
【0023】
図1Dは、本発明の可能性のある態様のうちの1つの結果を例示する写真である。
図1Dは、トポロジカルなテクスチャー154を有する基板上で成長させた腎細胞培養物を示す。
図1Bに図示するように、細胞152はより配向し密着結合して成長するように思われた。
【0024】
図2Aは、生体模倣環境において細胞を培養するためのデバイス200の例示の態様を示す分解立体模型図である。
図2Bは、組み立てられたデバイスを示す。デバイス200は、基板202と、3つの流路212を有するフローセル204とを含む。基板202の上面は、
図1Bのパターンのような、
図2には図示していないトポグラフィーパターンを有する。流路212の壁も同様にまたは代替的に、
図1Bのパターンのようなトポグラフィーを有していてもよい。基板202の表面処理された側の上に細胞層があり、細胞はフローセル202中の流路212の下の基板の領域に限定されることが好ましい。基板202は、ポリスチレンもしくはポリイミド等の熱可塑性プラスチック、ポリカプロラクトン(PCL)等の生分解性ポリエステル、またはセバシン酸ポリグリセロール(PGS)等の軟質エラストマーから作られてもよい。あるいは、基板202は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、または、例えば、酸化炭素もしくは酸化亜鉛から形成されるナノチューブもしくはナノワイヤーから作られてもよい。基板202は、その上にマイクロメートル規模のトポグラフィーが形成でき、その上で細胞が成長することができるあらゆる材料から作られ得る。トポグラフィーパターンの例を
図7A〜7Dおよび
図8A〜8Fに示し、基板202を化学的にパターニングする方法は
図4に関連して説明する。細胞層の成長方法は、
図5に関連して説明する。
【0025】
フローセル204は、フローセル204に下から切り込まれた3つの流路212を有する。一部の態様において、フローセルは、PDMS等の半透明な材料から作られる。あるいは、フローセルは、上記一覧した可能な基板材料のうちのいずれかのようなその他の材料から作られてもよい。3Dソリッドオブジェクトプリンタまたはフォトリソグラフィーを使用して、フローセル204中に流路212を作ってもよい。
図2Bに示すように組み立てられると、基板202が流路の底面壁を形成し、フローセル中の流路212は上面壁および2つの側面壁を含む。本明細書において、上面壁、底面壁および側面壁はまとめて「壁」と称する。フローセル204および基板202は取り外し可能に取り付けられて、実験を実行した後に、フローセル204を取り外して、細胞層を検査できるようにしてもよい。入口214および出口216は、流路212への管を介したアクセスを可能にする。入口214は流体を流路212に導入するためのアクセスを提供し、出口216は流路212を通った流体を取り除くためのアクセスを提供する。入口214に入る管は、シリンジポンプを有するシリンジ等、流路212への注入量および速度を制御する手段に接続する。流体注入システムは、装置200が搭載される生体模倣フローシステムの一部であり得る。例示のフローシステム240のブロック図を
図2Cに示す。フローシステムは、温度制御システムおよび観測装備等のさらなる特徴を含み得る。入口ポート214を通って導入された流体の流れは、流路212の壁に沿って、そして流路の底に沿っている培養細胞の上に均一な層流の流れを作り出す。
【0026】
培養細胞にわたる層流の流れは、ネフロン内の流体の流れを模倣し、流体と培養細胞との間にせん断応力を生じる。流体の流速を調節することで、細胞に沿ったせん断応力が変化する。近位尿細管においては、細胞はおおよそ1ダイン/cm
2のせん断応力(流体せん断応力言いかえると「FSS」)を受ける;しかし、受けるせん断応力はネフロンの長さに沿って変動する。せん断応力は、0.015ダイン/cm
2の低さまで観察されており、流速を制御してせん断応力を変動可能にすることにより、単一のデバイス設計で広範な生体模倣条件を生成できる。幅wおよび高さhを有する長方形流路、ならびに粘度m、壁せん断応力tおよび流速Qを有する流体は、以下の関係式で表される。
【0027】
流速を変化させて流路のせん断応力を変動させることに加えて、単一の流路におけるせん断応力は、流路の長さに沿って流路の形状を変化させた場合に流路の長さに沿って変動し得る。例えば、流れの方向に沿った流路の第一の領域において第一の高さ、および流路の第二の領域においてより低い第二の高さを有する流路において、流路のより低い第二の領域を流れる流体は、より高い第一の領域よりも速い流速を有する。従って、第二の領域にある細胞は、第一の領域よりも高いせん断応力を受ける。流路の高さをなだらかに変動させることによって、細胞層は勾配のあるせん断応力を受ける。変動するせん断応力を使用して、ネフロンの異なる機能を有し得る異なる部分を再現できる。さらに、異なる種類および配列の細胞は、異なるレベルのせん断応力を受けるネフロンの領域に関連するため、異なる種類または配列の細胞を有する基板沿いの領域は、高さが変動する流路と一致して並び、細胞に適切なせん断応力を受けさせることができる。
【0028】
図2中の流路212は長方形の断面を有するが、流路は異なる流動力学のために非長方形断面を有し得る。例えば、流路は半円、三角または台形の断面を有し得る。せん断応力は、断面形状についてのせん断応力方程式を使用して決定され得る。流路は、その長さに沿って2つ以上の異なる断面形状を有し得る。
【0029】
組み立てられた流動装置200は、アセンブリを保持し、流路環境を制御するために、
図2Cのブロック図に示すフローシステム240に配置され得る。フローシステムは、取り付け装置242、観測装備244、流体注入システム250、および温度制御システム260を含む。
【0030】
取り付け装置242は、例えば、3Dソリッドオブジェクトプリンタを用いて作製されたプラスチックカバーおよびプラスチックベースを含む。流路装置200は、例えば、ネジまたはクランプによって互いと固定された、取り付け装置242のカバーとベースとの間に位置付けられる。従って、取り付け装置242は、装置200の基板202およびフローセル204を一緒に保持して、流体が流路212から漏れないように取り外し可能なシールを形成することが好ましい。
【0031】
観測装備244は、流路装置200が取り付け装置242に保持されたままで、実験の途中および/または後に細胞を観察するために使用される。流路の壁が透明な場合、光学顕微鏡を使用して、実験途中にサンプルを観察することができる。一部の態様において、観測装備は、流路に向けられた光源、および異常な光透過(「EOT」)信号を検出するための光学センサを流路の下に含む。そのような態様においては、フローセル204および基板202の両方が、光透過性の材料から作られるべきである。別の態様において、細胞のコンフルエンス、形状および代謝を検出するための電極が流路に配置される。一部の態様においては、画像化が、取り付け装置の外部で、場合によっては流路装置200が分解された後に行われ、フローシステム240は観測装備244を持たない。
【0032】
流体注入システム250は、シリンジ252およびシリンジポンプ254を含む。シリンジ252は、流路212に流す流体を含み、シリンジポンプ254はシリンジ252を制御して、流す流体の量、流速、および流体を流す時間の長さを制御する。流体注入システム250を使用して、緩衝流体、反応物質流体、定着液、および染料等(ただしこれらに限定されない)の2つ以上の異なる流体を注入できる。流体注入システム250はまた、流体を組み合わせる手段も含み得る;例えば、シリンジポンプ254は、反応物質を緩衝液に導入するための、または染料を緩衝液に導入するための弁を含み得る。シリンジポンプ254は、汎用プロセッサ等のプロセッサによって制御され得る。
【0033】
基板202および/またはフローセル204は、流路212内の温度安定性を維持するために絶縁材料から作ら得る。フローシステム240は、温度制御システム260またはインキュベーターを含み得る。温度制御システムは、温度センサ262、温度コントローラ264および発熱体266を含んで流路212を生体模倣温度(すなわち、98.6°F)に維持する。温度は、異なる条件(例えば、発熱または外傷)をシミュレートするために高くも低くも選択できる。温度センサ262は、システム温度を検出し、それを温度コントローラ264に送る。現在のシステム温度に基づいて、温度コントローラ264は、熱をシステムに加えるかどうかを決定する。温度コントローラ264は、コマンドをサーミスタ等の発熱体266に送り、必要に応じてシステムに熱を加える。一部の態様において、温度システムは装置200を冷却することもできる。温度コントローラまたは第二の温度コントローラは、流路212に流される流体の温度も維持する。フローシステム240も、二酸化炭素コントローラ270を含んで、流路内部の二酸化炭素レベルを調節することができる。二酸化炭素コントローラ270は、二酸化炭素センサ、プロセッサ、および必要に応じて二酸化炭素レベルを増加または減少させる手段を含むことができる。一部の態様において、二酸化炭素コントローラは、温度制御システム260に組み込まれている。
【0034】
一部の態様において、フローシステム240は、汎用プロセッサを有するコンピュータに接続されている。コンピュータは温度コントローラ264の役割を果たし、温度センサ262からの温度がコンピュータに送られてメモリに保存され得る。同様に、コンピュータは二酸化炭素コントローラの役割を果たし、二酸化炭素センサからの二酸化炭素レベルがコンピュータに送られてメモリに保存され得る。コンピュータはまた、シリンジポンプ254を制御して、流体の流れを自動化し、流体の流れについてのデータを保存できる。コンピュータはまた、観測装備を制御し、観測装備から得た画像または他のデータを保存し、データに対して分析を行うことができる。
【0035】
装置200は、3つより多いかまたは少ない流路212を含んでいてもよい。100以上の流路212を含むハイスループット装置を製造してもよい。一部の態様において、ハイスループット装置は、96の流路を含む。2つ以上の流路212の入口214は流体的に接続されて、流体が同時に、そして流路212の形状が同一である場合には同じ流速で、複数の流路212を流れることができるようにできる。フローシステム240は、自動的に複数の実験を同時に実行するか、または一つずつ実験を行うように構成され得る。装置200の1つの流路において行われる実験は、異なる流路において行われる実験と、流体、流速、流路形状および温度の少なくとも1つが異なり得る。装置200は、使い捨てでもよく、または使用後に装置の全体または一部(例えば、基板202またはフローセル204)を分解し、洗浄して再利用してもよい。
【0036】
図3は、
図1に示す生体模倣流路のうちの1つを作製および使用する方法300のフローチャートである。方法300は、表面処理した基板を得る工程(302)、基板を化学的にパターニングする工程(304)、細胞層を成長させる工程(306)、流路を組み立てる工程(308)、流体を流路に流す工程(310)、および分析のために細胞を固定する工程(312)を含む。
【0037】
第一の工程302は、
図1Bの表面152上の溝156および隆起部158のようなトポグラフィーパターンを有する表面を作製または得る工程である。表面は、例えば、ダイレクトリソグラフィー、フォトパターン可能なレジスト、射出成形、ダイレクト微細加工、深堀りRIEエッチング、熱エンボス加工、またはそれらの任意の組み合わせを使用して作製され得る。装置200において使用するために熱エンボス加工によって表面処理された基板を作製する例示の方法を
図4に関連して説明する。一部の態様においては、金等の金属の薄い層をトポグラフィー表面に蒸着させて、サンプルを分析するための光学画像化を助ける。一部の態様において、金属層は、表面プラズモン共鳴(SPR)を検出するための光学センサを使用した細胞培養物の分析を可能にする。一部の態様において、金属層はまた、金属への分子の頭部基の強力な親和性を利用して基板上に特定の細胞親和性および細胞非親和性の分子を化学的にパターニングするためにも有用である。金属層は、表面のトポグラフィーが維持できるほど十分に薄いものである。金属層は、SPR検出で使用されるためのナノホールを有していてもよい。ナノホールは約100nmの幅で、例えば、フォトリソグラフィー技術、電子ビームリソグラフィー技術、集束イオンビーム(FIB)、またはその他の方法を使って金属にミル加工されてもよい。あるいは、金属層は、銀、アルミニウム、ベリリウム、レニウム、オスミウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化レニウム、酸化タングステン、銅、チタン、または画像化もしくはその他の分析に適した別の材料からなり得る。一部の態様においては、金またはその他の金属の層の前に、クロムまたは他の金属接着剤の薄い層をまず表面に蒸着する。
【0038】
次に、テクスチャー付けした表面を化学的にパターニング(工程304)して、細胞成長を流路領域に隔離するための細胞非親和性および/または細胞親和性領域を作製する。腎細胞を基板202等の表面全体にわたって成長させると、フローセル204を基板202にシーリングすることで、流路212外の領域にある細胞を押しつぶすかもしれない。これは、押しつぶされた細胞からの内容物を流路212に漏出させ、生存細胞によって受け取られる生化学的シグナルをもたらし得る。このような漏出は、実験手順に対して望ましくない影響を及ぼし得る。従って、細胞は、組み立てられたフローセルの壁(すなわち、上面、底面および/または側面)を形成する表面の領域に制限されるべきである。装置200に関しては、細胞層は、基板202がフローセル204に接触しない領域、すなわち、流路212の下の領域に制限される。これらの領域を作り出すために、細胞親和性材料を流路表面上に乗せて、流路内の領域での細胞成長を促すことができる。追加的に、または代替的に、細胞非親和性材料を、流路の壁を形成しない表面上に乗せて、流路表面以外での細胞成長を防いでもよい。トポグラフィー表面を作製し、化学的にパターニングした後は、ECMタンパク質を表面に適用し、細胞懸濁液をタンパク質層の上に乗せて、1つまたは複数の種類の細胞を含む細胞培養物を成長させる(工程306)。基板202等の表面の細胞親和性および細胞非親和性領域を作製し、該表面上で細胞を成長させる方法の一つは
図5に関連して説明する。
【0039】
細胞を成長させた(工程306)後、流路を組み立てる(工程308)。一部の態様において、フローセルは取り外し可能に組み立てられているため、観察のために少なくとも1つの壁を外すことができる。一部の態様において、フローセル204は基板200の上に置かれて、例えば、ネジまたはクランプを用いて取り付けられる。あるいは、装置200は、
図2Cに関連して説明したように取り付けアセンブリ242内で組み立てられ得る。次いで、流体を組み立てられた流路に流す(工程310)。流速は、
図2に関連して説明したように所望のせん断応力を作り出すように選択され、流速は流体注入システムによって制御される。流体は、試薬および緩衝流体を含み得る。試薬は、実施する実験に基づいて選択される;例えば、流体は、物質の効力または毒性をテストするために医薬剤または潜在的毒素を含み得る。流体は、例えば、秒、分、時間または日数の単位で、任意の継続時間の間、流路に流すことができる。流体を流す継続時間は、実施する実験の種類に依る。例えば、特定のせん断応力を受ける細胞を画像化する実験は、およそ数十秒から数分間の短い継続時間しかかからない。他方、細胞に対する潜在的毒素または潜在的治療薬の影響を決定するための実験は、数時間、または数日以上の、より長い曝露時間を必要とし得る。流速は、時間と共に変動してもよく、一部の態様においては、細胞は断続的な流体の流れを受けてもよい。
【0040】
次に、流動後分析を行う場合には、分析のために細胞を固定する(工程312)。まず、流路にリン酸緩衝食塩水(PBS)等の第二の溶液を流すことで細胞を濯ぐことができる。次に、ホルムアルデヒドまたは他のアルデヒド等の固定化剤を含む第三の溶液を流路に流して、細胞を傷つけることなく流路を分解できるようにする。溶液中の固定化剤のパーセンテージ 、および選択される固定化剤の種類は、分析方法および流路中の細胞の種類に依る。洗浄溶液および固定化剤は、流体注入システムを使用して入口214から注入される。シリンジを交換しながらシリンジポンプおよび管等の同じ注入メカニズムを使用するか、または取り付け装置は管を介して同じ入口に接続された少なくとも2つまたは3つのシリンジポンプを含み得る。また、流路を分解する前または後に染料を細胞に適用して、コントラストを強調してもよい。
【0041】
図4は、
図1の表面102等のトポグラフィーパターニングを有する表面を作製する方法を例示する一連の図である。本方法は、酸化シリコンのマスター鋳型をエッチングする工程(工程A〜E)、ネガ型ニッケル鋳型を電鋳する工程(工程F)、および熱エンボス加工を使用してニッケル鋳型からトポグラフィー表面を作製する工程(工程G〜I)を含む。フォトリソグラフィー技術を使用して酸化シリコンのマスター鋳型を作製する。工程Aは、酸化シリコンウエハ402をフォトレジスト溶液404で被覆する工程を例示する。フォトレジスト404はスピンコーティングを使用して塗布できる。スピンコーティングの後、酸化シリコンウエハ402を焼成して残留溶剤を蒸発させてもよい。次いで、フォトマスク406をフォトレジスト404の上に積層して(工程B)、レジスト404をフォトリソグラフィーによりパターニングする。
図4において、フォトマスク406は、隆起部パターンの断面を有する。トポグラフィーのパターンは、選択されるフォトマスクによって決定される。異なるフォトマスクで作られ得る代替的なトポグラフィーパターンを
図6に示す。上面を光408に曝露することで、フォトレジスト404を現像してエッチングマスク410を作製する(工程C)。
図4においては、ネガ型フォトレジスト404を使用して、フォトレジスト層404の、光408に曝露された部分が現像液に不溶性になり、曝露されなかった部分は溶性で現像時に溶解されるようにする。あるいは、ポジ型フォトレジストが使用できる。フォトレジスト404にパターンを生成してエッチングマスク410を作製した後、シリコンウエハを再度焼成し、ウエハ402を現像して、光に晒された領域からフォトレジスト410を取り除いてもよい。最後に、エッチングマスク410で保護されていないウエハの最上層を取り除く化学剤を用いて酸化シリコンウエハ402をエッチングする(工程D)。用途によっては、取り除かれる酸化シリコンの深さは、約1マイクロメートルである。
図4に示すような角型端部を有するパターンを作製するためには、異方性エッチング液を使用する;丸型のウェルが所望な場合には、等方性エッチング液が使用できる。最後に、エッチングマスク410を剥がして、マスター鋳型412を作製する(工程E)。
【0042】
その他の方法を使用して、マスター鋳型412を作製してもよい。例えば、特に所望のトポグラフィーが約数ナノメートルまたは数十ナノメートルの幅の非常に小規模な造作を含む場合には、電子ビームリソグラフィーまたはその他のナノリソグラフィー技術を使用してレジストに造作をエッチングできる。
【0043】
マスター鋳型412を作製した後、ニッケル414をシリコンウエハに電鋳する(工程F)。ニッケル源414およびマスター鋳型412を電解槽に入れる。電源416は、ニッケル源414と、酸化シリコンのマスター鋳型412との間に電圧差を作り出し、これによりニッケルがマスター鋳型412上に電気めっきされて、マスター鋳型412に対してネガ型のニッケル鋳型418が形成される。ニッケル鋳型418をマスター鋳型から離し、下向きにして、熱可塑性プラスチック420に押し付ける。熱可塑性プラスチックは、熱エンボス加工によってニッケル鋳型418の溝の中に押される(工程G)。熱および圧力の上昇により、ニッケル鋳型が熱可塑性プラスチック420で満たされる。次いで、エンボス加工された熱可塑性プラスチック422を、一定の圧力下で冷却し(工程H)、その後ニッケル鋳型418から取り外す(工程I)。このようにして、成形された熱可塑性プラスチック422におけるトポグラフィー表面が流路の壁として使用できるようになる。
【0044】
図5は、本発明の例示の態様による、表面の細胞親和性および細胞非親和性領域を作製し、該表面上で細胞を成長させる方法のフローチャートである。本方法は、流路の壁を形成する領域のために表面に疎水性領域を作製する工程(工程502および504)、残りの表面を親水性物質で満たす工程(工程506)、疎水性領域をタンパク質で被覆する工程(工程508)、およびタンパク質(すなわち、細胞親和性領域)上で細胞層を成長させる工程(工程510および512)を含む。一般的に、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質は、疎水性分子に付着する。細胞はインビボ条件と同様の条件下において成長するため、ECMタンパク質を含まない親水性領域よりもECMタンパク質を含む領域において細胞が成長する傾向がある。
【0045】
まず、疎水性溶液をPDMSスタンプに塗布し(工程502)、トポグラフィーを有する表面上にスタンプする(工程504)。スタンプに圧力をかけた後に解放して、分子の疎水性自己組織化単分子層(SAM)が表面上に残るようにする。疎水性SAMに使用される分子は、典型的に、基板に結合する頭部基、およびECMタンパク質に結合するCH
3等の疎水性尾部基を有する。一部の態様においては、SAMのためにヘキサデカンチオールを使用する。SAMに使用できるその他の分子としては、アルキルチオール、官能化チオール、ジチオール、およびシランが挙げられる。
【0046】
PDMSスタンプの塗装された表面は流路のスタンプされる面の大きさであり得るか、または塗装された表面は細胞で満たされる流路の領域のみを覆い得る。例えば、流体入口および出口近くの流路端部付近において細胞成長が望ましくない場合、流路の中央部分のみを覆う長方形スタンプが使用される。複数のフローセルを有する装置の場合、単一のPDMSスタンプが、複数の流路の壁にスタンプするためのパターンを有し得る。
【0047】
残りの表面は、ポリエチレングリコール(PEG)等の親水性溶液に浸して(back-flooded)、流路の壁にならない表面部分上での細胞成長を妨げるSAMを形成する(工程506)。
図1に示すように、これにより所望の領域外で細胞が成長しないようにして、装置が組み立てられる際に押しつぶされる細胞からの漏出、および押しつぶされた細胞と流路内の細胞との良くない交流(negative communication)等の望ましくない端部の影響を防ぐことができる。
【0048】
2種のSAMを有するトポグラフィー表面を、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質で被覆する(工程508)。タンパク質は疎水性SAMに付着するが、親水性SAMはタンパク質吸着を抑制する。これによりタンパク質が親水性領域に集中し、装置が組み立てられる際に流路の壁を形成する。一部の態様においては、流路の異なる領域において、または同じ表面上に壁が形成された異なる流路上で、異なる種類の細胞を成長させてもよい。細胞型を表面の特定の領域に隔離するために、表面を異なるタンパク質および/またはSAM分子で処理して、特定の領域において特定の細胞型の成長を促してもよい。その他の方法を使用して、細胞親和性領域を作製してもよい。例えば、サーモポリマー基板を酸素プラズマで処理して細胞親和性を高めることができ、処理されていない領域は、どこも細胞非親和性となる。
【0049】
その後、処理された表面をペトリ皿に入れて細胞を成長させる(工程510)。ペトリ皿は細胞懸濁液で満たされ、一部の態様においては5%CO
2および37℃に設定したインキュベーターに入れられる(工程512)。細胞は、タンパク質で被覆された細胞親和性領域のみに付着する。細胞は高い密集度まで培養されて、組み立ての際には、流路の壁が細胞の層で覆われるようにする。一般的にインビトロ腎臓モデルのために成長させる細胞としては、HK-2系統由来細胞等のヒト近位尿細管細胞;近位尿細管上皮細胞(RPTEC);マディン-ダービーイヌ腎(MDCK)細胞;および一般的にマウスまたはラットから回収される、初代髄質内集合管(IMCD)細胞または初代近位尿細管細胞が挙げられる。様々な態様では、幹細胞由来型細胞、腎臓前駆細胞、または腎組織から収穫した細胞を成長させる。追加的にまたは代替的に、一部の態様において、本発明の技術において使用される細胞は、幹細胞(例えば、胚性幹細胞、成体幹細胞、誘導多能性幹細胞)および/または内皮細胞を含む。ヒト、他の哺乳生物、またはその他の生物に由来する細胞を成長させることができる。
【0050】
細胞が成長した後、細胞を成長させた培地を除去した(工程514)。典型的に、培地は細胞層の外にある領域から除去される。従って、いくらかの水分は細胞層を有する領域内に残るが、残りの基板は乾燥している。次いで、微小流路がトポグラフィー表面上で組み立てられる(工程516)。微小流路がトポグラフィー表面上にできたら、微小流路を細胞成長培地で満たすことができる。
【0051】
図6Aは、流路の方向に平行な隆起部および溝を有する例示の態様の生体模倣流路の断面の斜視図を示す。隆起部および溝は原寸に比例していない可能性がある。
図1に関連して説明したように、隆起部および溝の幅は、20nm〜5マイクロメートルの範囲にあり得る。例えば、隆起部および/または溝の幅は、互いと無関係に、20〜40nm、30〜50nm、50〜100nm、100〜200nm、200〜400nm、400〜600nm、600〜800nm、800nm〜1マイクロメートルであり得る。さらなる例として、隆起部および/または溝の幅は、互いと無関係に、1〜2マイクロメートル、2〜3マイクロメートル、3〜4マイクロメートルまたは4〜5マイクロメートルであり得る。流路の高さは、100〜200マイクロメートルの範囲にあり得る。より高いかまたは低い高さが使用できるが、流路が100マイクロメートルの高さよりも相当低い場合には、流路を流れる流体が層流の状態にない可能性がある。
図6Aに示す態様において、細胞層は流路の底面層602の上で成長し、隆起部および溝は、細胞を、流路を通る流れの方向に平行に配向させる。
【0052】
図6Bに示す態様においては、底面および上面の両方がテクスチャー付けされ、細胞が両方の上で培養され、これによりインビボでのネフロンまたは他の器官がより望ましく再現され得る。
図6A中の底面層602、
図6B中の上面層および底面層である612および616、ならびに
図6D中の層632、636および640は、
図2の基板202のようなトポグラフィー基板であり得る。一部の態様において、
図6B中の層616は少なくとも2つの貫通穴を有して、流体を、一方の穴を通って流路に入り、他方の穴を通って除去されるように流すことができる。
図6Bにおいて、細長い穴が貫通して形成されている中間層614は、上面層および底面層616および612の間に挟まれている。上面層616と底面層612との間に配置された際には、細長い穴の側面壁は流路の側面壁を形成する。
【0053】
図6Cは、流路の方向に垂直な隆起部および溝を有する別の例示の態様の生体模倣流路の断面の斜視図を示す。隆起部および溝は原寸に比例していない可能性がある。
図6Cのトポグラフィーおよび流路の寸法的範囲は、
図6Aに関連して記載した範囲と同じである。細胞層は、この流路の底面層622の上で成長し、隆起部および溝は、細胞を、流路を通る流れの方向に垂直に配向させる。流路の上面および/または側面もテクスチャー付けされてその上で細胞を成長させてもよい(図示せず)。
【0054】
図6Cの右側面に見えるように、下部層622の上面全体が隆起部および溝でテクスチャー付けされている。流路の側面はシーリングされていない可能性があるため、流路を流れる流体が溝によってできた穴628を通って流路の側面から滲出する可能性がある。そのため、一部の態様においては、トポグラフィー表面は、流路の壁を形成する表面部分の上にのみ作製され;残りの表面は滑らかなままである。これは、流路の壁となる領域以外の基板の表面を完全に覆うフォトマスクを使用することによって達成できる。流路が組み立てられた際、フローセルまたは側面壁と結合した滑らかな表面は、流路の長さに沿ってその側面とシーリングされ、流体が隆起部および溝の外に横から伝わることを防ぐ。
【0055】
図6Dは、別の例示の態様の生体模倣流路の斜視図を例示する。この態様においては、底面、上面および両側面の壁がテクスチャー付けされ、細胞がそれぞれにおいて培養されるため、インビボでのネフロンまたは他の器官をより望ましく再現し得る。この例示の態様においては、テクスチャーは、流路の方向に平行な隆起部および溝から構成される。一部の態様においては、
図6D中の層632は、少なくとも2つの貫通穴を有するため、流体は一方の穴を通って流路に入り、他方の穴を通って除去されるように流れることができる。壁636が上面層632と底面層640との間に挟まれた際に、細長い穴が形成される。この細長い穴の側面壁が流路の側面壁を形成する。
【0056】
図7は、隆起部および/または溝の幅が変動するトポグラフィーパターンのいくつかの態様を示す。
図7Aは、トポグラフィーパターンに勾配のある基板の斜視図である。隆起部および溝の幅は、表面の左から右に向かって狭くなる。流路は基板の上で組み立てられて、流体が溝に対して平行または垂直のいずれかに流れるようにしてよい。一部の態様においては、隆起部の幅は一定のままで溝の幅が変化する;別の態様においては、溝の幅は一定のままで隆起部の幅が変動する。トポグラフィーに変動のある表面は、異なる幅の隆起部および/または溝が特定の種類の細胞に及ぼす影響を検査する実験において使用できる。さらに、インビボにおいて構造領域にわたって細胞造作が変動する器官構造のために、
図7Aに示すような滑らかに変動する表面トポグラフィーを使用して、そのような造作を模倣する流路を作製することができる。
【0057】
図7B、7Cおよび7Dは、流路に沿ってトポグラフィーパターンに変動を有する流路表面の上面図である。流路は原寸に比例していない可能性がある。流路の流れの方向は、
図7Dの右側にある矢印によって示されるように図面の下に向かっている。他の態様においては、流体は反対方向に流され得る。
図7Bは、溝幅が異なる2つの区別される領域702および704を有する表面の上面図である。上部領域702は溝幅がより狭く、溝および隆起部がほぼ同じ幅を有する。下部領域704は上部領域702よりも著しく幅広い溝を有する。下部領域704にある溝は、隆起部よりも幅が広い。2つの区別されるトポグラフィー領域を有する流路は、2つの区別される細胞型または細胞配列を有するインビボ構造を模倣するために使用できる。例えば、尿細管はその長さに沿って変化する細胞型を有するが、流路のトポグラフィーを変動させることで尿細管の基底膜における変動をインビトロでシミュレートすることができる。
【0058】
図7Cの溝も流路の端部に向かって幅が広くなる;しかし、隆起部は扇状に広がるため溝はなだらかに広くなって、区別される領域ではなく、流路に沿って狭い溝から広い溝への滑らかな推移を作り出す。このようなタイプの側面を1つ以上有する流路は、構造にわたって細胞型または細胞配列の勾配を有するインビボ構造を模倣するのに使用できる。このタイプのトポグラフィーを有する流路は、異なる隆起部および/または溝の幅が特定の種類の細胞に及ぼす影響を検査する実験においても使用できる。
【0059】
図7Dは、互いと異なる2つの一定のトポグラフィーの領域712および716、ならびにこの2つの一定のトポグラフィーの領域の間の推移領域714を有する非長方形流路の上面図である。流路712の始まりは狭い幅および狭い溝を有し、流路716の終わりはより幅広く、より幅広い溝を有する。領域712、714および716は全て同じ数の隆起部を有する。
図7Dの表面上の流路が一定の高さを有する場合、第一の領域712で受けるせん断応力は、最後の領域716におけるせん断応力よりも高い。なぜなら、最後の領域716においてよりも第一の領域712において流路幅はより小さく、流速はより速いからである。あるいは、この効果は、流路の高さを変動させることでも達成できる。推移領域714は、形状が変化する際に層流の流れを維持するのを助ける。
図3、4および5に示す製造方法を使用して、
図7に示す任意のトポグラフィーおよび形状を有する流路デバイスを作製することができる。
【0060】
表面トポグラフィーは、
図6および7に示す直角隆起部および溝以外のパターンを有することができる。いくつかの可能性のあるトポグラフィー表面を、異なるトポグラフィーパターンを有する3つの基板の斜視図である
図8A〜8Cに示す。
図8Aは、狭い溝によって分離された三角の隆起部を示す。端部は、
図8Aに示すものよりも丸くてもよい。
図8Bは、円柱のランダムなアレイを示す。
図8Cは、柱の線状のアレイを示す。
図8Dは、逆さ円錐のくぼみの線状のアレイを示す。
図8Eは、円錐柱の線状のアレイを示す。
図8Fは、逆さ半球のくぼみの線状のアレイを示す。くぼみおよび柱として幅広く分類され得る任意のテクスチャーがランダムまたは線状のアレイに配置され得る。さらに、
図8は、くぼみおよび柱の全ての可能な設計を網羅することを意図しておらず、可能な設計の例示を提示している。くぼみおよび柱の群としては、柱、くぼみ、半球、輪郭線を付けた(filleted)くぼみ、および面取りした柱も挙げられるがこれらに限定されない。異なる種類の細胞は異なるインビボ環境を有し、生体模倣的なきっかけに対して異なった反応をし得るため、選択されるトポグラフィーは、培養する細胞の種類に依る。隆起部および溝が腎細胞を配向させるような生体模倣的なきっかけを提供することを示してきたが、細胞外マトリックスは身体の異なる部分において異なるため、異なる器官または腎臓の別の部分における細胞は、
図8に示す種類のトポグラフィーまたは別の種類のトポグラフィー上で成長させた場合にそれらのインビボでの特徴をより望ましく模倣する可能性がある。
図4に関連して説明した方法と同様の方法を使用して、
図8A〜8Fに示す基板を形成することができる。特に三角の溝、または角型でも丸型でもない端部を持つ溝を有するその他のパターンを作製するためにその他の技術を使用してもよい。
図7に関連して説明したように、造作の大きさおよび/または分離は、区別される領域において、または勾配にわたって、表面に沿って変動し得る。さらに、単一の流路が、柱の領域ならびに隆起部および溝の領域、または隆起部および溝が散在した柱等の複数の種類のトポグラフィーを有していてもよい。
【0061】
図9Aおよび9Bは、生体模倣流路の2つの使用例を示す。
図9Aは、
図2の装置200等の生体模倣流路を潜在的毒素の細胞毒性を検査するのに使用するための方法900のフローチャートである。この方法は、ハイスループット薬物スクリーニングにおいて有用である;研究者らは、化合物の医薬的開発にそれ以上投資する前に、細胞毒性化合物をスクリーニングすることができる。毒性検査については、ある種類の細胞に対して潜在的に毒性な材料を特定の濃度で溶液に添加し、
図3の工程310に関連して説明した方法に従って、その種類の細胞の培養物を含む流路に流す(工程902)。一部の態様において、特に潜在的毒素を製造するのが困難な場合、または獲得するのが困難な場合、注入システムは、緩衝流体が流路内で層流の流れを確立した後に潜在的毒素を放出する注入弁を含む。注入弁を使用することによって、実験で消費される潜在的毒素の量が最小限になる。観測装備が流路を対象としている場合には、潜在的毒素を流路に流している間にサンプルが分析され得る。
【0062】
潜在的に毒性な溶液を流路に流した後、
図3の工程312に関連して説明した方法に従って細胞を濯ぎかつ固定して(工程904)、実験結果を観察のために保存する。次いで、流路を分解する前または後に染料または蛍光タグを細胞に適用して、画像化のためのコントラストを強調する(工程906)。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色、銀染色、または免疫蛍光染色等、細胞型および観測装備に適した任意の染色方法が使用できる。一部の態様においては、染料は、トリパンブルーまたはヨウ化プロピジウム等、健康な細胞の細胞膜を通過できない生体染色色素である。生体染色色素は、潜在的毒素と共に流路に導入される。化合物が毒性である場合には、細胞膜を破壊し、染料は膜を通過して細胞を染色し得る。
【0063】
流体が流路を流れ、細胞が調製された後に、細胞を分析して潜在的毒素の毒性を決定する。様々な態様において、毒性は、透過性アッセイ、細胞活性アッセイ、代謝活性アッセイ、または生死アッセイを使用して決定される。物質が毒性である場合には、細胞を壊死させているか、細胞が成長および分裂するのを停止させているか、またはアポトーシスを生じさせているかもしれない。壊死した細胞はすぐに膨張し、膜の完全性を欠き、代謝を停止し、内容物を放出する。上記したように、生体染色色素を使用することでそのような影響を示すことができる。生体染色色素染色および/または細胞死のその他の影響は、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡、またはデジタルホログラフィー顕微鏡を用いて見ることができる。実験の途中または後の細胞の生存能力を決定するためにその他の技術も使用できる。CASY計数器またはCoulter計数器等の細胞計数器は、生存細胞の数を数えることができる。細胞の下にある表面が金電極を含む場合には、電気的細胞-基質インピーダンス感知法(ELECTRIC CELL-SUBSTRATE IMPEDENCE SENSING)(ECIS)に基づくアプローチを、細胞のコンフルエンス、形状および代謝のセンサとして使用できる。
【0064】
図9Bは、潜在的な治療薬の効力を検査するために
図2の流路212等の生体模倣流路を使用する方法950のフローチャートである。方法950をハイスループットスクリーニングに使用して、潜在的な医薬化合物が治療効果を有するかを決定できる。効力を検査するために、流路に入っているある種類の細胞に対して潜在的に有益な化合物を特定の濃度で溶液に添加し、
図3の工程310に関連して説明した方法に従って流路に流す(工程952)。一部の態様においては、特に化合物を製造することが困難であるか、または獲得することが困難である場合に、注入システムは、緩衝流体が流路内で層流の流れを確立した後に化合物を放出する注入弁を含み得る。観測装備が流路を対象としている場合には、化合物を流路に流している間にサンプルが分析され得る。
【0065】
溶液を流路に流した後、
図3の工程312に関連して説明した方法に従って細胞を濯ぎかつ固定して(工程904)、実験結果を観察のために保存する。一部の態様において、流路を分解する前または後に染料または蛍光タグを細胞に適用して、画像化のためのコントラストを強調することができる(工程906)。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色または銀染色等、細胞型および観測装備に適した任意の染色方法が使用できる。
【0066】
細胞を調製した後は、それらを分析して、あるとすれば化合物が細胞にどのような影響を及ぼすのかを決定する。特定のタンパク質または核酸に結合する試薬を細胞層に適用して、分析の間にタンパク質または核酸の存在を決定してもよい。潜在的な治療化合物の物理的影響は、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡またはデジタルホログラフィー顕微鏡を使用して見ることができる。目的の特徴は、細胞の種類、および研究している医薬の所望の効果に依る。分析方法は、研究が目的とする細胞特徴が何であるかによって選択されるべきである。
【0067】
本明細書において本発明の好適な態様を示し、説明してきたが、当業者にはこのような態様が例示としてのみ提供されていることが明らかであろう。ここにきて、本発明から逸脱することなく、多数の変更、変化、および代用が当業者には思いつくであろう。本明細書に記載の本発明の態様に対して様々な代替物を採用して、本発明が実施できることが理解されよう。以下の特許請求の範囲によって本発明の範囲が定義され、これらの特許請求の範囲内にある方法および構造、ならびにそれらの等価物が網羅されることが意図される。
【0068】
一部の態様では、腎臓またはネフロン機能を模倣することにより臓器機能を再現または実質的に再現するためのバイオ人工デバイス、例えば、2005年9月28日に出願され、2010年9月7日に発行された「Systems, Methods, and Devices Relating to a Cellularized Nephron Unit」という名称の米国特許第7,790,028号に記載のデバイス等に、1つ以上のトポグラフィー表面が形成される。ヘンレのループ、遠位尿細管、集合管、および関連する血管を含む人工腎臓の任意の特徴は、腎臓のインビボ条件をより望ましく再現するために、上述した1つまたは複数のトポグラフィー表面を含み得る。例えば、血流層および/または濾液層の表面に、トポグラフィーが形成され得る。透水性細胞、塩ポンピング細胞(salt pumping cell)、または他の種類の細胞を含む細胞層を、トポグラフィー表面、またはトポグラフィー表面の一部分上で成長させてもよい。特に、各流路用のトポグラフィーは、その上で成長させられる細胞が、腎臓の所望の部分の形態および表現型を呈するように選択される。従って、一態様において、塩ポンピング細胞が播種される流路の部分は、第一のナノトポグラフィーを有するように形成され、透水性細胞が播種される流路の部分は、異なるナノトポグラフィーが形成される。本明細書または米国特許第7,790,028号に記載の製造技術、または製造技術の組合せのいずれもが、そのようなバイオ人工デバイスを作製するために使用可能である。
【0069】
例示のバイオ人工装置
限定しない例として、ヘンレのループ、遠位尿細管および集合管を含む統合バイオ人工ネフロンの例示の態様を提供する。例示のデバイス(およびその構成要素)は、腎細胞成長用のトポグラフィー表面と、流体せん断応力(FSS)に晒されて、インビボで見られる細胞成長パターンおよび機能をより忠実に模倣する腎細胞成長パターンおよび細胞機能を刺激する細胞成長領域とを含む。本明細書においてバイオ人工ヘンレのループの様々な態様を記載するが、ヘンレのループにおいて細胞をパターニングするのに使用されるトポグラフィー成長表面およびFSSの特徴は、バイオ人工遠位尿細管および集合管を含む(ただし、これらに限定されない)バイオ人工腎臓の他の構造にも適用できることが理解されよう。さらに、以下の考察では、隆起部および溝を記載するが、本明細書に開示するあらゆる表面トポグラフィーが、バイオ人工腎臓の1つ以上の領域に含まれて、インビボ系の細胞成長をより忠実に模倣した細胞成長を生じさせうる。限定しない例示のトポグラフィー、またはトポグラフィー改変として、トポグラフィー造作のピッチを変更すること、流体の流れに対するトポグラフィー造作の方向を変更すること(例えば、流体の流れの方向に対して平行、または流体の流れの方向に対して垂直)、くぼみおよび柱の群から作られた任意の1つ以上のトポグラフィーを含むことが挙げられる。さらに、遷移表面が、異なるトポグラフィー領域の間に含まれて、1つの細胞配列、挙動および/または形態から別のものに段階的にまたは徐々に変化することを可能にしてもよい。
【0070】
当技術分野において公知であるように、腎臓の異なる領域は異なるせん断応力を受ける。流速および直径の両方がせん断応力に影響を及ぼし、それらの両方が、腎臓、ネフロン、または尿細管の所与の領域に沿って変化し得る。理論に囚われることは望まないが、一般的に、流体は尿細管に沿った組織に再吸収されるため、流速(体積流量)は「上流」においてより高いと考えられている。従って、最高速度から最低速度までのネフロンの流速は以下の順序になると思われる:近位尿細管、次にヘンレのループの下行脚、次にヘンレのループの上行脚、次に遠位尿細管、その後集合管の開始部。せん断は、高度から低度まで流速と同じ傾向に従うと思われる;しかしながら、所与の領域の直径が変化するにつれて、流動とせん断との相関が厳密でなくなる可能性がある。流動およびせん断を評価する上で考慮しなければならない別の要因としては、直径の変化に加えて、より大きな管に流れ込む、より小さな支流の影響がある。例えば、「下流」では、集合管は直径を増すが、流速は高くなる。これは、より小さな支流が下流のより大きな管に流れ込むからである。
【0071】
従って、バイオ人工腎臓は、任意の所与の領域における細胞が、特定のFSSもしくは一連のFSS、またはFSSのサイクル(概して「FSSプロファイル」)を受けるよう晒されるように構成され得る。つまり、バイオ人工腎臓の第一の領域における細胞が第一のFSSプロファイルに晒され、バイオ人工腎臓の他の領域における細胞が異なるFSSプロファイルに晒され得る。例えば、一部の態様では、1つ以上のFSSプロファイルにおけるFSSレベルは、約0.02〜1.0ダイン/cm
2の範囲にわたる。一部の態様では、1つ以上のFSSプロファイルにおいて、約0.1ダイン/cm
2以下のFSSレベルが採用される。さらに別の態様においては、1つ以上のFSSプロファイルにおいて、約0.01、0.02、0.05、0.07、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、または最大約10.0ダイン/cm
2のFSSレベルが使用される。一部の態様では、1つ以上のFSSプロファイルにおいて、10.0ダイン/cm
2以上のFSSレベルが使用される。一部の態様では、細胞成長の間にFSSプロファイルにおけるFSS速度を変化/変動させて、所望の細胞配向、細胞パターニングおよび/または他の所望の細胞特徴(例えば、密着結合タンパク質、細胞外マトリクスタンパク質、所望の細胞機能等の発現の変化)を実現する。
【0072】
A. 統合デバイス
腎臓において、血液はまず糸球体を介して濾過され、その濾液が糸球体から流れ出て、近位尿細管に、次にヘンレのループに、次に遠位尿細管および集合管に流れる。一つの実施例によれば、本発明の生体模倣装置を使用して、ヘンレのループ、遠位尿細管、および集合管を置き換えて、糸球体および近位尿細管の機能を提供する。
図10は、この実施例による例示の統合デバイスの模式図を示す。図示するように、
図10のデバイス100は、それぞれの生物学的対応部分に置き換わるように全てが相互接続された、ヘンレのループの機能を模倣するバイオ人工ループ10、遠位尿細管20、および集合管30を含む。これらの構造にはそれぞれ、トポグラフィー特徴が設けられて、その中で細胞成長を特異的に模倣できる。さらに、異なる構造(例えば、ヘンレのループ、遠位尿細管、および集合管)は、構造中の細胞が流体せん断応力に晒されて、それにより構造内で細胞がさらに位置的かつ機能的に模倣されるように、設計され得る。
【0073】
図示するように、デバイス100は、血流層200および濾液層300、ならびに該2つの層200および300の間に配置された膜を含む。血流層200は、図示するように、ループ10の血流層210、集合管30の血流層230、および遠位尿細管20の血流層220を含む;血流層200の3つの構成要素である血流層210、220および230は実質的に一面の上に横たわっている。代替的な態様では、構成要素である血液層210、220および230は、実質的に三次元のネットワークを形成するか、または2つ以上の面の上に横たわっている。血流層200は微小流路をさらに含むか、またはその中に微小流路が形成されており、これにより血液入口110からデバイス100への血流、および血液出口120を介したデバイスの外への血流を可能にする。
【0074】
図示するように、デバイス100は、同じく3つの構成要素、すなわちループ10の濾液層310、集合管30の濾液層330、および遠位尿細管20の濾液層320を含む濾液層300を含む。同様に、これら構成要素である濾液層は同じ面または複数の面の上に横たわり得る。同様に、これら構成要素である濾液層は、実質的に三次元ネットワークを形成し得る。濾液層300は、微小流路をさらに含むか、またはその中に微小流路が形成されており、これにより濾液入口130からデバイス100へ濾液が流れること、および濾液出口140を介してデバイスの外へ濾液が流れることを可能にする。
【0075】
三次元微小流体ネットワークが関与する特定の態様において、垂直連結部または垂直孔部を採用して、ネットワーク中の異なる層を互いと流体連絡させる。「垂直連結部」または「垂直孔部」は、概して、1つの層にある一方の微小流路を、同じ層または第二の層にある少なくとも他方の微小流路と垂直に接続する部分的なまたは完全なスルーホールを指す。垂直連結部は、それらが接続する層または微小流路に対してほぼ実質的に直角を成す。中空繊維をデバイスおよびシステムに組み込むことでそのような垂直孔部が形成できる。
【0076】
図示するように、デバイス100は膜も含む。膜は、3つの構成要素、すなわちループ10の膜410、遠位尿細管20の膜420、および集合管30の膜430を含む。この、構成要素である膜410、420および430はそれぞれ、それら各々の、構成要素である血流層と構成要素である濾液層との間に配置される。図示するように、構成要素である膜410、420および430は互いと分離されている。代替的な態様において、構成要素である膜410、420および430は、一つの膜の一部であり得る。
【0077】
図示するように、膜およびその構成要素は、血流層200に晒される上面、および濾液層300に晒される底面を有する。
【0078】
特定の態様において、膜およびその構成要素は半透過性である。膜の孔径は、細胞は通過できない(すなわち、動物細胞にとって低透過性である)一方で、低分子量の栄養素および流体は通過できる(すなわち、栄養素にとって高透過性である)ように、細胞の直径よりも小さいことが好ましい。細胞の大きさは変動するが、一般的に、マイクロメートルの範囲内にある。特定の態様において、膜は血液適合性材料から作製される。平均膜孔径は、細胞が確実に効果的にスクリーニングされるようにサブマイクロメートル規模であることが好ましい。半透過性膜は、多様な異なる種類および形態の膜を含み、これらは以下のように分類できる:すなわち(1)典型的にイオンエッチングによって作られる、高密ポリマーマトリックスにおける円筒型スルーホールからなるトラックエッチングされた膜;または(2)高分子繊維の様々な沈着技術によって作製される線維膜。これらの膜ははっきりとした細孔トポロジーは無いが、製造方法は線維膜が特定の分画分子量を有するほど十分に精緻化された。流体の動きを一次元に限定することから、トラックエッチングされたタイプの膜が好ましい。流体の動きは垂直方向であることが好ましい。線維膜は、横方向および縦方向の両方への流体の動きを可能にする。
【0079】
当技術分野で公知なもの、および米国特許第6,942,879号;同第6,455,311号、および米国特許出願公報第20060136182号、同第20050238687号、同第20050202557号、同第20030003575号および同第20020182241号等の引用する米国特許および特許出願、ならびにその他の参考文献に記載されるようなものを含む任意の適切なアプローチを採用して、適切な多孔質膜を得てもよい。
【0080】
B. トポグラフィー表面およびFSS領域を含むバイオ人工ヘンレのループは、腎細胞成長パターンを刺激して、インビボ系をより忠実に模倣する
1. 全体構造
ヘンレのループの本質的な機能は、尿素、塩、およびその他の溶質の濃度を高くすることである。本発明の例示の態様によるヘンレのループの機能を模倣するバイオ人工ループを
図11に示す。
図11に図示する例示のバイオ人工ヘンレのループ(
図10にも組み立てられたデバイスの一部として図示する)は、対応する濾液層310に形成された下行脚18および上行脚20を有する実質的にU字型の微小流路を含んで、濾液入口130から出口132を通る濾液の流れを担持する。さらに、バイオ人工ループ10は、同様に、対応する血流層210に形成された下行脚12および上行脚14を含むバイオ人工血管を含んで、血液入口110から出口112を通る血液の流れを担持する。脚12および14の間の実質的な部分に配置された多孔質媒体16は、血流層の2つの脚12および14の間での拡散を可能にする。2つの脚12および14の間の連絡は、血流層210の対向流系に寄与して、
図12に示すように血流層210の微小流路の先端28において高濃度血液を作り出す。
【0081】
例示の態様では、
図13に示すように、単一のバイオ人工血管が、ループ膜410を介して、実質的にU字型の尿細管に繋がれて、バイオ人工ヘンレのループ10を作る。
【0082】
図11および13に示すように、例示の態様によれば、このバイオ人工ヘンレのループ10は、透水性かつタンパク質透過性(多孔質)の膜410によって分離される2つの微細加工層210および310に形成される。
図12に示すように、一方の層(濾液層310)において糸球体濾液が循環し、他方の層(血流層210)において血液が循環する。
【0083】
バイオ人工ループ10、特に、濾液層310における実質的にU字型の微小流路は、
図14に示すように複数の腎臓上皮細胞をさらに含んでいてもよい。下行脚18は、概ね水を通すがその他のものはほとんど通さない細胞22を含むか、または満たされていてもよい。上行脚20は、尿細管または微小流路からNaClをポンプ作用により排出するが概ね水は通さない細胞24で満たされている。これらはそれぞれ、水寛容性または透水性、および塩ポンピング細胞とも概して称される。1つの特徴によれば、微小流路の透過性を適切に有する壁を有することにより、上昇尿細管から塩をポンプ排出し、流れを循環させる作用から、対向流増幅系が作られる。このようなアレンジメントにおいて、U字型の先端26における溶質の濃度は、入口130および出口132における濃度よりもはるかに高くなる。特定の態様では、実質的にU字型の微小流路は異なる深さまたは直径を有し、微小流路は実質的に円筒型の形状を有する。例えば、上行脚20は下行脚18よりも厚みがあってもよい。一つの例示の態様では、上行脚20は実質的に円筒型の形状および約60マイクロメートルの直径を有し、下行脚18は実質的に円筒型の形状および約12マイクロメートルの直径を有する。
【0084】
生物学的または自然のヘンレのループにおける塩ポンピング細胞は、典型的に、腎近位尿細管においてみとめられるものよりも弱いと考えられている。一つのアプローチによれば、腎近位尿細管細胞の従来許容されてきた速度の10〜90%でNaClをポンピングする細胞が、バイオ人工ループ10の上行脚20に含まれるように選択される。従って、それらはNa
+を1.6x10
-6mmol/s/cm
2以上の速度でポンピングする。
【0085】
2. 上行脚および下行脚内におけるトポグラフィー表面およびFSS
従って、一つの例示の態様によれば、本発明の人工ヘンレのループ構造は、腎細胞を成長させるためのトポグラフィー表面を1つ以上含む上行脚および下行脚を有する微小流路を含む。限定しない一例においては、表面は隆起部/溝トポグラフィーを含む。特定の態様では、隆起部および溝は約0.75μmの幅および0.75μmの深さを、約1.5μmピッチで有する。当業者であれば、本明細書に記載した代替的な表面トポグラフィーを一方または両方の脚において構成することで、改変されたまたは代替的な細胞パターニングが得られることを理解するであろう。
【0086】
一部の態様では、トポグラフィー細胞成長表面は、例えばヘキサデカンチオール分子を含む疎水性自己組織化単分子層(SAM)に吸着されたコラーゲンIV等の細胞外マトリクスタンパク質で被覆される。次に、腎細胞(例えば、HK-2細胞)が成長表面に播種され、一部の態様では、細胞が0.01〜10.0ダイン/cm
2のFSSに供される。細胞は、成長中に、コンフルエンスの後に、または成長中および細胞コンフルエンス時の両方においてFSSに晒され得る。追加的に、または代替的に、FSSは細胞に継続的または周期的にかけられ得る。一部の態様では、0.02〜1.0ダイン/cm
2のFSSを採用する。さらに別の態様では、約0.01、0.02、0.05、0.07、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、または10.0ダイン/cm
2のFSSを使用する。一部の態様では、FSS速度は、細胞成長中に変更/変動されて所望の細胞配向、細胞パターニング、および/またはその他の所望の細胞特性(例えば、密着結合タンパク質、細胞外マトリクスタンパク質、所望の細胞機能等の発現の変化)を得る。当技術分野で公知である通り、ネフロンの異なる領域(例えば、ヘンレのループ、集合管、および遠位尿細管の異なる領域)は異なるせん断応力を受ける。従って、バイオ人工腎臓は、任意の所与の領域における細胞が、特定のFSSもしくは一連のFSS、またはFSSサイクルを受けるよう晒されるように構成することができる。
【0087】
実施例1に示すように、そのような条件下(すなわち、トポグラフィー基板上、およびFSS下)での腎細胞成長は、ブランクな表面処理していない表面上でFSSが無い状態で成長した細胞と比べて、0.02ダイン/cm
2から1.0ダイン/cm
2までのせん断応力のときに、向上した配列、付着性質および/または密着結合性質を有する細胞を生じる。本発明技術の方法によって成長した細胞は、インビボ環境において見とめられるものをより忠実に模倣し、「標準的」(例えば、平坦または表面処理されていない表面上で、FSS無し)条件下で成長した細胞と比べて、人工ネフロン等のバイオ人工デバイス、またはその一部分において使用するのに優れている。
【0088】
従って、上記例示したバイオ人工ヘンレのループにおいて、上行脚は、約1.6x10
-mmol/s/cm
2にてNa
+を積極的に輸送し、その他の輸送をブロックする細胞で満たされ、下行脚は、水の輸送を可能にし、その他の種(濾液中のタンパク質および他の分子を含む)の全てではなくてもほとんどをブロック、または実質的にブロックする細胞で満たされる。細胞はトポグラフィー表面上で成長し、FSSに晒されるため、細胞パターニング、付着、および/または密着結合特性が、細胞レベルにおいてバイオ人工デバイスの全体構造に影響を及ぼすだけではなく(例えば、実施例1を参照)、デバイスの機能にも影響を及ぼすと予測される。細胞は、他の細胞への接近およびFSSへの曝露により、インビボの対応部分により類似して機能するように促される。このようにして、細胞機能はインビボ細胞機能をより忠実に模倣する。
【0089】
上記したように、遠位尿細管および集合管において類似したトポグラフィー特徴が設計でき、これらの構造における腎細胞は、同様に、FSSに晒されて所望のパターニングを刺激することができる。
【実施例】
【0090】
以下の実施例は、本発明技術の多様な態様をより詳しく説明するために提供される。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものであると一切解釈されるものではない。
【0091】
実施例1 - 流体せん断応力はトポグラフィーパターンに対する細胞の配向を増強する
A.生体模倣流動装置
隆起部/溝の造作を包含する本発明技術の生体模倣流動装置を構築した。流動装置の構造は
図15A〜Dに示す。流動装置は、流体のせん断応力(FSS)を制御する流路のアレイおよび制御された表面特性を有する細胞基板を含む。分解(
図15B)および組み立てられた(
図15C)装置は、微細成形された流路、ならびに細胞付着および機能のきっかけとなるECMタンパク質で処理されたトポグラフィーパターニングされた基板の、2つの層を含む。装置の断面は、微小流路内にありかつトポグラフィー基板に付着した尿細管細胞のコンフルエント層を例示している(
図15D)。流路内にありかつECM被覆領域に付着した細胞の位相差画像(
図15E)。
【0092】
トポグラフィーの造作を、ニッケル合金鋳型からポリスチレン基板に熱エンボス加工した(それぞれ
図16AおよびB)。ポリスチレン基板の端部側面は、規定された隆起部/溝の造作を示している(
図16C). 隆起部および溝は、幅0.75μm、深さ0.75μm、およびピッチ1.5μmである(尺度、1μm)。
【0093】
B.流れにより誘発されるせん断応力の特徴決定
流動装置の特徴決定により、流路の設計によって細胞付着領域に公知かつ均一なFSSを付与し得ることが示された。COMSOL Multiphysicsソフトウェアを使用したコンピュータによるモデルシミュレーションは、細胞付着領域および基板表面領域のほとんどにわたって均一なせん断応力を予測した(データは示さず)。COMSOLシミュレーションは、細胞付着領域および細胞基板のほとんどにわたって均一なせん断応力を予測した。せん断応力分布は、流路の入口および出口においてより高いせん断応力を示し、これは丸形の細胞付着領域を含むほとんどの流路においてすぐに均一なせん断応力に進展した(データは示さず)。入口から12.5mmのところのチャンバの床面にわたってせん断応力のプロファイルをプロットしたところ、プロットはせん断応力が流路の幅の5%未満で変動することを示す(データは示さず)。
【0094】
C.細胞付着領域
細胞付着領域は、ヘキサデカンチオール分子の自己組織化単分子層(SAM)に吸着したコラーゲンIVタンパク質を含む。簡単に言うと、直径2.5 mmの丸形ポリジメチルシロキサン(PDMS)スタンプの表面を、ヘキサデカンチオールの1mM溶液(HDT含有200標準エタノール)で塗装した。溶液を、トポグラフィー表面(基板)にスタンプし、30秒間しっかりと保持した。30秒後、スタンプを放した。次いで、表面を2mM PEG(含有200標準エタノール)に2時間浸した。吸引することでPEG溶液を除去し、表面をエタノールで徹底的に濯いだ。次に、基板を、コラーゲンIV(含有PBS)の30μg/ml溶液中で室温にて3時間インキュベートした。コラーゲン溶液を吸引により除去し、基板をPBSで徹底的に濯いだ。
【0095】
SAMは、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の一貫した特徴的な吸着を提供する1つの例示のモデル化学的構造を提供し、付着した細胞に対し、繰り返し可能な、ECMに基づくきっかけをもたらす。SAMは、マイクロコンタクト印刷(μCP)による表面の化学的なパターニングも可能にし、これにより複数の表現型の同時培養および細胞形態影響等の用途において細胞を選択的に配置することが可能になる。SEMで検査したように、コラーゲンIV被覆は、隆起部の上面および溝内の表面の両方を覆う(データは示さず)。トポグラフィーパターニングおよびμCPを組み合わせることにより、ユーザ指定の設定に従って細胞にきっかけを与えるために物理的および化学的パターンの両方を区別して制御することが可能になる。
【0096】
以下のように、ヒト近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞;ATCC CRL-2190)を装置の官能化隆起部/溝表面に播種し、コンフルエントな状態まで成長させた。細胞懸濁液(培地およびHK-2を含有)を、初期播種密度が300細胞/mm
2となるように、トポグラフィー的および化学的にパターニングされた基板を含むペトリ皿に入れた。培地は、0.5%FBS、10ng/mL hEGF、5μg/mLインスリン、0.5μg/mLヒドロコルチゾン、0.5μg/mLエピネフリン、6.5ng/mLトリヨードチロニン、10μg/mLトランスフェリン、100U/mlペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補充されたDMEM/F12ベースであった。細胞を37℃および5%C0
2に設定したインキュベーターに入れた。培地を一日おきに新しいものと取り替えた。細胞は3〜4日以内にコンフルエントな状態に到達した。次に細胞を、上記したように同じ条件下で0、0.02または1.0ダイン/cm
2 FSSのいずれかに2時間晒した。
【0097】
D.結果
結果を
図17に示す。テクスチャー付けされた基板の上の細胞は溝に合わせた配向を示したのに対して、ブランク基板上の細胞はそのような配向を示さなかった(
図17A;矢印は、トポグラフィー基板上での溝の方向を示す)。溝に対して10°以内で配向した核のパーセンテージは、溝およびFSSの存在によって有意に上昇した(
図17B)。
図12Bに関して:最初の三本の棒はブランク(テクスチャー無し)基板上で成長し0、0.02または1.0ダイン/cm
2 FSSに晒された細胞を表す。最後の三本の棒は、テクスチャー付けされた基板上で成長し、0、0.02または1.0ダイン/cm
2 FSSに晒された細胞を表す。1ダイン/cm
2 FSSの存在により、トポグラフィー基板に付着する細胞について核の配向が有意に上昇した。0.02ダイン/cm
2 FSSにおいても実質的な改善が見られた。データは平均±標準偏差として表す。
*、P<0.001、対ブランク、τ=0サンプル、†、P<0.005、対トポグラフィー、τ=0基板。(尺度、30μm)。
【0098】
せん断応力およびトポグラフィーの両方が、HK-2細胞における密着結合部(「TJ」)の形成に影響を与える。FSS条件下でのブランク基板およびトポグラフィー基板上の細胞の外周に沿ったZO-1強度を数値化することによって、TJ形成の強度を測定した。ZO-1を以下のように可視化した。0.5%Triton X-100含有PBSで細胞を透過性にした後、1%BSAで室温にて30分間ブロックした。細胞を一次抗体(ZO-1 594、Invitrogen)と室温にて1時間インキュベートした。PBS中で細胞を3回洗浄し、二次抗体(ヤギ抗マウスIgG、Alexa Fluor488、Invitrogen)と室温にて1時間インキュベートした。PBS中で細胞を3回洗浄し、ProLong Gold plus DAPI(Invitrogen)と共にスライドにカバースリップを載せ、顕微鏡分析の前に一晩硬化させた。画像分析は、従来のコンピュータ画像化プログラムを用いてZO-1標識の強度を測定して、ZO-1の蛍光強度を決定することを含んでいた。細胞の全ての境界線における強度を数値化し、結合部の連続性も数値化した。
【0099】
結果を
図18および19に示す。
図18Aおよび13Bは、ブランクおよびトポグラフィー基板上で培養され、0、0.02または1.0ダイン/cm
2 FSSのいずれかに曝された細胞についてのZO-1発現の代表的な画像を示す。トポグラフィーおよびFSS刺激因子を添加することで、ZO-1境界線の形態が中断的なものから連続的なものに推移する。矢印は、隆起部/溝のトポグラフィーの方向を示す。
図19Aは、細胞の外周に沿って積分され、細胞の外周によって正規化されたZO-1の強度、密着結合部の数値化した発現および分布を示す。ZO-1強度は、ブランク表面上のものと比べてトポグラフィー基板上で培養した細胞において有意に上昇した。トポグラフィー基板上において全レベルのFSSに晒された細胞は、τ=0条件に晒されたトポグラフィー基板上の細胞と比べてZO-1強度の有意な上昇を示した。
図19Cは、細胞の外周に沿って測定したZO-1強度の標準偏差を示し、密着結合部の連続性を数値化している。ZO-1強度の標準偏差は、ブランク表面上の細胞と比べて全てのトポグラフィーサンプルにおいて低下しており、トポグラフィー基板およびFSSの両方に晒された細胞集団について最も低かった。ブランク表面上の細胞集合は、2時間のFSSの後のZO-1強度に違いを示さなかった。データは平均±標準偏差として表す。
*、P<0.05、対ブランク、τ=0サンプル;
**、P<0.001、対ブランク、τ=0サンプル;†、P<0.001、対トポグラフィー τ=0サンプル。(尺度、15μm)。
【0100】
ZO-1 TJによって規定された細胞の外周は、トポグラフィーおよびFSSを適用した場合に、より強い蛍光シグナルを有するより高い強度に推移する。全体的な蛍光シグナルおよび蛍光シグナルの位置は、ZO-1発現の上昇、および細胞の外周への転移を示す。細胞の外周に沿ったZO-1強度の標準偏差は、TJ連続性の数値化可能な測定基準の役割を果たす。より低い標準偏差は、より連続性のあるZO-1外周に変換される。トポグラフィーおよびFSSを適用することにより、ZO-1強度標準偏差によって測定された際の細胞の外周が、より中断的な形態から連続的な形態へ推移する。まとめると、TJ強度および連続性の上昇は、トポグラフィー基板およびFSS曝露を伴って成長した細胞について、良質なバリア機能への進展、および尿細管に特異的な機能への移行を示す。トポグラフィー基板上でのFSSに対する細胞応答の増強は、これらの2つの物理的刺激因子の相乗的な影響を示す。ZO-1標識されたTJが高くかつ連続的な強度を示す、生体模倣流動装置によってきっかけを与えられた細胞は、十分に発達した、近位尿細管の自然な濾過挙動を有する高度に機能する上皮層を形成する態勢にあることが期待できる。