(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041893
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】酸素空孔を有するカソード物質とその生成工程
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20161206BHJP
C01B 25/45 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
H01M4/58
!C01B25/45 Z
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-547703(P2014-547703)
(86)(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公表番号】特表2015-507323(P2015-507323A)
(43)【公表日】2015年3月5日
(86)【国際出願番号】CN2012087171
(87)【国際公開番号】WO2013091573
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2014年8月21日
(31)【優先権主張番号】61/578,329
(32)【優先日】2011年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508015782
【氏名又は名称】台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】林翔斌
(72)【発明者】
【氏名】謝瀚緯
(72)【発明者】
【氏名】林元凱
(72)【発明者】
【氏名】頼明慧
【審査官】
佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第101332987(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第1797823(CN,A)
【文献】
国際公開第2010/076265(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有第一材料、金属含有第二材料、リン酸塩含有第三材料の混合物であるリチウム金属リン酸塩原料を提供する提供ステップであって、
前記第三材料は、
(i)リン酸塩源(phosphate source)としてのリン酸(phosphoric acid)と、
(ii)前記リン酸塩(phosphate)の代わりに使用する有機ホスファイト(organophosphite)を含み、
前記第三材料における0.1から5 mol%のリン酸塩は、陰イオン基PO33-によって置換されている、提供ステップと、
前記第一材料、前記第二材料及び前記第三材料を混合する混合ステップと、
前記第一材料、前記第二材料及び前記第三材料を焼成により熱処理することによって、酸素空孔を有するリチウム金属リン酸化合物が生成される熱処理ステップとを有する、
ことを特徴とする酸素空孔を有するカソード物質の生産方法。
【請求項2】
前記第一材料が水酸化リチウム又は炭酸リチウムであることを特徴とする請求項1記載の生産方法。
【請求項3】
前記第二材料が鉄粉、シュウ酸第二鉄又は塩化第一鉄であることを特徴とする請求項1記載の生産方法。
【請求項4】
前記有機ホスファイト(organophosphite)は、イソプロピル-インデン-ジフェノール-亜リン酸エステル樹脂(isopropyl-idene-diphenol- phosphite ester resin)を含むことを特徴とする請求項1記載の生産方法。
【請求項5】
前記酸素空孔を有する前記リチウム金属リン酸化合物は、一般式LiM(XO3)z(PO4)1-zを有し、前記Mは第一列遷移金属の少なくとも1つを表し、陰イオン基[XO3n-]は、PO33-を表し、0.001 ≦ z ≦ 0.05であることを特徴とする請求項1記載の生産方法。
【請求項6】
酸素空孔を有するカソード物質であって、前記カソード物質は、一般式LiM(XO3)z(PO4)1-zを有するリチウム金属リン酸化合物を含み、前記Mは第一列遷移金属の少なくとも1つを表し、陰イオン基[XO3n-]は、PO33-を表し、0.001 ≦ z ≦ 0.05であることを特徴とする、カソード物質。
【請求項7】
Mは、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、チタンまたはクロム(Cr)であることを特徴とする、請求項6に記載のカソード物質。
【請求項8】
Mは、鉄(Fe)であることを特徴とする、請求項6に記載のカソード物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード物質に関するものであり、特に、酸素空孔を有するカソード物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子製品の発達と多様化に伴い、携帯型エネルギー源に対する需要が徐々に増加している。例えば、家庭用電子機器、医療機器、電動自転車、電気自動車や電動ハンドツールは、電力の供給源として、携帯型電源を使用している。これらの携帯型電源のうち、充電式電池(また、二次電池とも呼ばれるもの)は、その電気化学反応が電気的に可逆的であるので、幅広く使用されている。また、従来の二次電池のうち、リチウムイオン二次電池は、容量が大きく、公害になることも少なく、良好な充放電サイクル特性を有し、及びメモリー効果を有していない。したがって、リチウムイオン二次電池は、開発する上でより多くの可能性を秘めている。
【0003】
周知のように、二次電池の性能は多くの要因によって影響される。一般的に、正極(カソードとも呼ばれる)を生成するための材料は、二次電池の性能にとってより重要なものである。良好な電気化学特性、低環境汚染、優れたセキュリティ、豊富な原料源、高い比容量、良好なサイクル性能、良好な熱安定性と高い充電/放電効率のため、オリビン構造またはNASICON構造を有するリチウム鉄リン酸系化合物は、潜在的なリチウムイオン電池のカソード物質であると考えられる。
【0004】
しかしながら、結晶構造に問題があるために、リチウム鉄リン酸化合物(lithium iron phosphate compound)の電子伝導率は非常に低く、リチウム拡散速度は低い。これにより、リチウム鉄リン酸化合物の用途が制限される。このため、リチウム鉄リン酸化合物の電気的性能を向上させることは重要な課題である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、酸素空孔を有するカソード物質を提供する。リチウム金属リン酸化合物を生成する過程で、リン酸塩の一部分が3つ(またはそれ未満)の酸素原子を有する陰イオン基により置換されている。従って、酸素空孔を有するリチウム金属リン酸化合物が生成される。また、カソード物質の導電性能が向上し、カソード物質の電気容量が増加する。
【0006】
本発明の一態様によれば、酸素空孔を有するカソード物質が提供される。カソード物質は、一般式LiMPO
4-Z (ここで、Mは第一列遷移金属の少なくとも一つを表し、およびzは0.001 ≦ z ≦ 0.05である) であるリチウム金属リン酸化合物を含む。
【0007】
本発明の別の態様によれば、酸素空孔を有するカソード物質を生成する方法が提供される。まず、リチウム金属リン酸塩原料が提供される。リチウム金属リン酸塩原料は、リチウム含有第一材料、金属含有第二材料、及びリン酸塩含有第三材料の混合物である。ここで、第三材料中のリン酸塩0.1から5 mol%は、陰イオン基 [XO
3n-] により置換されている。次いで、第一材料、第二材料及び第三材料が乾式処理反応または湿式処理反応を施される。その後、第一材料、第二材料及び第三材料は焼成により熱処理される。この結果、酸素空孔を有するリチウム金属リン酸化合物が生成される。
【0008】
本発明の上記の内容は、以下の詳細な説明及び添付図面を検討した後に、当業者により容易に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】は、種々の亜リン酸塩置換比を有するスラリーの二次粒子径の変化を示す図である。
【0010】
【
図2】は、0.5%の亜リン酸塩置換比を有する生成物粉末のSEM写真を示す概略図である。
【0011】
【
図3】は、種々の亜リン酸塩置換比を有する幾つかの生成物粉末試料のNPDパターンを示す概略図である。
【0012】
【
図4】は、O原子によりもたらされた回折ピークパターンを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を以下の実施形態を参照してより具体的に説明する。なお、本発明の好ましい実施形態における以下の説明は、例示及び説明のみを目的として本明細書に提示されることに留意すべきである。これは、開示された正確な形態に網羅されるものでも、または限定されることを意図するものでもない。
【0014】
本発明は、カソード物質を提供する。まず、有機高分子キレート剤が提供される。有機高分子キレート剤のキレート端部は、陰イオン基 [XO
3n-] を有している(ここでX=P, S, N, そして1 ≦n ≦ 3である)。分散工程を行い、[XO
3n-]/PO
43-のモル比を調整することにより、酸素空孔を有するリチウム金属リン酸化合物が生成される。リチウム鉄リン酸化合物は、一般式LiMPO
4-Zを有する。
【0015】
具体的には、陰イオン基 [XO
3n-] は、3つの酸素原子のみを有している。リチウム金属リン酸化合物の合成工程において、4つの酸素原子を有するリン酸塩の一部が、陰イオン基 [XO
3n-] により置換される。その結果、生成されたリチウム金属リン酸化合物は、酸素空孔を有している。この種のリチウム金属リン酸化合物は酸素空孔を有しているので、単位格子の空間構造が変化する。この状況で、リチウム拡散速度は増加し、カソード物質の導電性能が向上し、カソード物質の電気容量が増加する。
【0016】
本発明は、酸素空孔を有するカソード物質を生成する方法が提供される。まず、リチウム金属リン酸塩原料が提供される。リチウム金属リン酸塩原料は、リチウム含有第一材料、金属含有第二材料、及びリン酸塩含有第三材料の混合物である。第三材料中のリン酸塩0.1から5 mol%は、陰イオン基 [XO
3n-] により置換されている。第一材料、第二材料及び第三材料が乾式処理反応または湿式処理反応を施された後、混合物は焼成により熱処理される。この結果、酸素空孔を有するリチウム金属リン酸化合物が生成される。リチウム金属リン酸化合物は、一般式LiMPO
4-Zを有する。一般式において、Mは、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、チタンまたはクロム(Cr)、から選択される第一列遷移金属のうち少なくとも一つを表す。ここで、0.001 ≦z ≦ 0.05, X=P, S, N, そして1 ≦ n ≦ 3である。例えば、陰イオン基 [XO
3n-] は、
PO33-、SO
32- 又は NO
3-を表す。
【0017】
一実施形態においては、第一材料は水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを含むが、それに限定されるものではない。第二材料は鉄粉、シュウ酸第二鉄または塩化第一鉄を含むが、それに限定されるものではない。さらに、第三材料は、リン酸塩源(例えばリン酸)と有機リン化合物であって上記リン酸塩の代わりに使用するもの(例えば、亜リン酸エステル(phosphite ester)又は有機ホスファイト(organophosphite))を含む。有機リン化合物の例は、イソプロピル-インデン-ジフェノール-亜リン酸エステル樹脂(isopropyl-idene-diphenol- phosphite ester resin)を含むが、それに限定されるものではない。
【0018】
あるいは、別の実施形態では、第三材料は、リン酸塩源(例えばリン酸)と有機次亜リン酸塩化合物(hydrophosphite organic compound)であって上記リン酸塩の代わりに使用するもの(例えば、tert-ブチルグリシネート次亜リン酸塩(tert-butyl glycinate hydrophosphite)、ジステアリル次亜リン酸塩(distearyl hydophosiphite)またはジエチル次亜リン酸塩(diethyl hydrophosphite)を含む。
【0019】
任意に、カソード物質の生成工程において、金属酸化物などの第四の材料を原料に添加してもよい。例えば、金属酸化物は、MgO、TiO
2又はV
2O
5を含むが、それらに限定されるものではない。
【0020】
酸素空孔を有するカソード物質の生成工程及び有効性は、以下の実施例を示して説明する。
【0021】
実施例1:
鉄粉(2740g)がリン酸溶液(5734g, 85%から85.5%, 分子量: 97.97)に添加され、そして混合物の反応を24時間行った。反応終了後、有機リン化合物、イソプロピル-インデン-ジフェノール-亜リン酸エステル樹脂(isopropyl-idene-diphenol-phosphite ester resin) (600g, 分子量: 2400)が反応生成物に添加された。また、フルクトース(625g)および五酸化バナジウムV
2O
5(1重量%未満)が添加され、混合物は粉砕され、分散された(粉砕速度:550 rpmから650 rpm、ジルコニアボール:0.5mmから1.0mm)。次いで、リチウム源(例えば、LiOH をLi/P モル比: 0.990から1.005)が添加され、水溶液(25%から45%固形分)が形成された。次いで、水溶液は、噴霧乾燥(熱風温度:200から220℃、出口温度:85から95℃)され、粉状混合物が形成された。窒素やアルゴンガス等の保護雰囲気下、粉末状の混合物を焼成(650℃未満、るつぼ容量:60%から80%)した。焼成工程が完了した後、生成物粉末が得られた。
【0022】
リン酸塩を置換する亜リン酸塩の割合は、1mol%から5mol%の範囲である。リン酸塩含有量は約49.75モルであったので、亜リン酸塩含有量が約0.25モルとなった。すなわち、0.5%のリン酸塩が亜リン酸塩によって置換された。生成物粉末は、一般式LiMPO
4-Zを有するリチウム鉄リン酸化合物である。ここで、zは置換率(0.005)である。酸素数は3.995である(つまり、4×(1-0.005) + 3×0.005 = 4 - 0.005 = 3.995)。換言すれば、リチウム鉄リン酸化合物の化学式はLiFePO
3.995である。
【0023】
実施例2から実施例6:
リン酸および有機リン化合物の量を除き、実施例2から実施例6の生成工程は、実施例1の生成工程と実質的に同一である。つまり、種々の亜リン酸塩置換比を有するさまざまな生成物を生成した。実施例2から実施例6において、亜リン酸塩置換比は、それぞれ0.1%、0.3%、0.75%、2%及び5%である。
【0024】
実施例7:
有機リン化合物が有機次亜リン酸塩化合物に置換されたこと以外、実施例7の生成工程は、実施例1の生成工程と実質的に同一である。例えば、有機次亜リン酸塩化合物は、tert-ブチルグリシネート次亜リン酸塩、ジステアリル次亜リン酸塩、またはジエチル次亜リン酸塩を含むが、それに限定されるものではない。
【0025】
実施例8:
実施例1の湿式法に対して、本実施形態では、酸素空孔を有するリチウム鉄リン酸化合物を生成するために乾式法を用いた。モル比が0.995から1.005:0.985から0.995:1である炭酸リチウム、シュウ酸第二鉄及びリン酸水素アンモニウムの固体混合物が生成された。次いで、この混合物を温度325℃±25℃で焼成した。焼成工程は、脱水作用および炭酸除去作用を有している。焼成工程が完了した後、有機リン化合物(例えば、亜リン酸エステル又は有機ホスファイト)を前駆体に添加した。リン酸塩を置換するための亜リン酸塩の割合は、1から5mol%の間の範囲である。次いで、少量の有機溶液が添加され、固形分80%超のスラリーが生成された。窒素やアルゴンガス等の保護雰囲気下で、粉末状の混合物が焼成された(700℃未満)。焼成工程が完了した後、生成物粉末が得られた。
【0026】
実施例9:
次の表1は、種々の亜リン酸塩置換比におけるスラリーの二次粒子径の変化を示している。 D
50とD
70の値から、リン酸塩を置換する亜リン酸塩を有するスラリーは、亜リン酸塩置換なしのスラリーよりもはるかに小さい二次粒子径(μm)であることがわかる。この結果は、有機リン化合物の添加が、粉砕効率を向上させるのに有効であることを示している。したがって、粒子分散効果が強化され、焼成工程での凝集が低減され、生成物粉末の粒径が小さくなる。
【表1】
【0027】
表1に記載されている粒子径に関するデータは、
図1のようにプロットできる。この正の線形関係によると、有機リン化合物の添加は、粉砕効率を高めることに有効である。
【0028】
スラリーの粒子径は効果的に小さくなっているが、リチウム源(例えば、LiOH)を添加すると、反応速度が増し、結果として、スラリーは突然粘着質になる。この欠点を解決するために、以下の対策を講じてもよい:(A)研磨速度を抑え、単位時間当たりの研削効率を低下させる。(B)LiOHを添加する間、pH範囲を適切に制御する。(C)LiOHを添加する間、温度を効果的に制御する。(D)LiOHの添加前に、白色スラリーの粒径を適切に保ち、作用範囲を限定する。
【0029】
実施例10:
次の表2は、0.5%亜リン酸塩置換比を有するスラリーの二次粒子径の変化を示している。表2において、S0は、亜リン酸塩置換のない生成物粉末を表し、S1およびS2は、0.5%の亜リン酸塩置換比を有する2つの生成物粉末試料を表す。D
50とD
95の値から、亜リン酸塩置換を有する生成物粉末は、亜リン酸塩置換のない生成物粉末よりもはるかに小さい二次粒子径(μm)である。
【表2】
【0030】
S2の生成物粉末のSEM写真を
図2に示す。SEM写真から、一次粒子径も小さくなっているとわかる。これは、酸素空孔が格子欠陥をもたらしたと考えられる。つまり、相形成の後、結晶粒の成長が阻害される。この状況で、一次粒子径が小さいほど、Cレートは良好であり、低温性能が向上する。
【0031】
実施例11:
次のように、0.5%リン酸置換比を有するいくつかの生成物粉末試料の物理的なデータを表3に示す。表3において、S3からS9は、種々の生成物粉末試料(検証のための50モル)を表す。これにより、生成物粉末試料の表面積が効果的に大きくなるということが判明した。すなわち、生成物粉末試料は、より多くの孔を有しており、一次粒子径がより小さくなっている。
【表3】
【0032】
実施例12:
以下のように、0.5%の亜リン酸塩置換比を有する一部の生成物粉末試料の電気的データを表4及び表5に示す。表3において、S2からS9は、種々の生成物粉末試料(表4の検証のため少量の2モル、及び、表5の検証のため大量の50モル)を表す。この2つの表から、放電率2Cで生成物粉末試料の電気容量値が、全て140 mAh/gより大きい又は140 mAh/gに近いことが判明した。さらに、より高い充電/放電率で生成物粉末試料S9の挙動が観察されている。放電率2Cで生成物粉末試料S9の電気容量値は、140mAh/gよりも大きくなっている。
【表4】
【表5】
【0033】
上記の実験から、酸素空孔が単位格子の空間構造変化をもたらす可能性があることがわかっている。このような状況において、リチウム拡散速度は増加し、カソード物質の導電性能が向上し、カソード物質の電気容量が増加する。
【0034】
実施例13:
種々の亜リン酸塩置換比の幾つかの生成物粉末試料の中性子粉末回折(NPD)パターンを
図3及び
図4に示す。X線は、Liを観察するのに好適ではないが、中性子はX線よりも光素子に対してより敏感であるので、中性子粉末回折パターンをLi原子の存在を観察するために使用することはできる。また、O-散乱断面積の差による回折ピークの変化を明確に観察することができる。
【0035】
図3は、種々の亜リン酸塩置換比を有する幾つかの生成物粉末試料のNPDのパターンを示す概略図である。NPDパターンから、LiFePO
4の相が測定される。PはOとのみ結合しているため、LiFePO
4の元素のいずれも置換されることはない。換言すれば、荷電平衡問題及び熱量平衡問題はもはや生じない。リン(P)、鉄(Fe)及び酸素(O)の間の結合は、リチウムイオンの自由な出入りを可能にするための複数の経路を提供する上で重要な役割を果たしている。また、規則正しい格子配置により、構造がより安定している。このため、リチウムイオンがより円滑に行き来し、(内外に)移動することができる。
【0036】
図4は、酸素(O)原子によりもたらされた回折ピークパターンを示す概略図である。亜リン酸塩置換比が0%から2%へ増加するにつれて、NPDパターンは、格子配置が良好となり、酸素空孔が増加することを示している。酸素空孔が約1.3%増加しているが、より多くのリチウムイオンが結晶構造を移動することができる。酸素空孔が、リチウムイオンの移動の主経路であるので、デッドリチウムイオン(dead lithium ion)を発生させる可能性が大幅に低減される。これは電気容量が増加する主な理由である。しかしながら、亜リン酸塩置換比が5%であった場合は、結晶格子の歪みがより深刻になる。この状況においては電気容量が損なわれる。
【0037】
以上の説明から、本発明は、酸素空孔を有するカソード物質を提供している。カソード物質は、一般式LiMPO
4-Zを有するリチウム金属リン酸化合物を含む。ここで、Mは第一列遷移金属の少なくとも一つを表し、zは0.001 ≦ z ≦ 0.05である。リチウム金属リン酸化合物を生成する過程で、リン酸塩の一部が3つ(またはそれ未満)の酸素原子を有する陰イオン基で置換されている。従って、酸素空孔を有するリチウム金属リン酸化合物が生成される。この種のリチウム金属リン酸化合物は酸素空孔を有しているので、単位格子の空間構造が変化する。この状況下で、リチウム拡散速度が増加し、カソード物質の導電性能が向上し、カソード物質の電気容量が増加する。
【0038】
本発明は、現在最も実用的で好ましい実施形態であると考えられるものに関して説明してきたが、本発明は、開示された実施形態に限定される必要はないことを理解すべきである。それどころか、様々な修正およびすべてのそのような修正および類似の構造を包含するように最も広い解釈を与えられるべきであり、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる類似の構成を包含することが意図される。