(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
最初に、本願において開示される各実施例の概要について説明する。
【0020】
第1の実施例は、双方向性フローティング型イミタンス変換回路1を構成するイミタンス変換生成回路5として、
図2に示すインピーダンス変換生成回路5aを用いる例を説明する。この場合、
図1に示す双方向性フローティング型イミタンス変換回路1は、仮想短絡(virtual short)を提供するインピーダンス変換回路としても機能する。実施例の説明にあたり、特に記さない限り、変換対象回路9は
図3に示す回路を使用して説明する。
【0021】
第2の実施例及び第3の実施例では、第1の実施例の性能を改善した例を説明する。
【0022】
第4の実施例では、双方向性フローティング型イミタンス変換回路1を構成するイミタンス変換生成回路5として、
図11に示すアドミタンス変換生成回路5bを用いる例を説明する。この場合、
図1に示す双方向性フローティング型イミタンス変換回路1は、仮想開放(virtual open)を提供するアドミタンス変換回路としても機能する。
【0023】
第5の実施例では、第1の実施例及び第4の実施例を用いる可変フィルタ回路について説明する。
【0025】
第1の実施例では、双方向性フローティング型イミタンス変換回路1を構成するイミタンス変換生成回路5として、
図2に示すインピーダンス変換生成回路5aを用いる例を、
図1を用いて詳細に説明する。第1の実施例において、
図3に示す回路を、変換対象回路9として使用する。
【0026】
双方向性フローティング型イミタンス変換回路1は、基準端子2と、第1端子3と、第2端子4と、符号切換制御入力端子50と、イミタンスレベル制御入力端子60と、イミタンス変換生成回路5と、差信号検出回路6と、信号符号切換回路7と、変換対象回路(基因回路)9と、イミタンス変換駆動回路10とを有する。
【0027】
イミタンス変換生成回路5は、第1端子3から端子T10を介して端子T5−11に入力された信号e10を分配し、分配された信号e11を端子T5−12から端子T11に出力する。また、イミタンス変換生成回路5は、第2端子4から端子T20を介して端子T5−21に入力された信号e20を分配し、分配された信号e21を端子T5−22から端子T21に出力する。
【0028】
端子T19からイミタンス変換生成回路5に供給された信号e19は、端子T5−13に入力され、端子T29からイミタンス変換生成回路5に供給された信号e29は、端子T5−23に入力される。なお、イミタンス変換生成回路5は、
図2、
図11等に示すように、左右対称に構成されているので、端子T5−13と端子T5−23とが逆に接続されてもよい。
【0029】
端子T5−14と、端子T5−24とは、何れの端子にも接続しない。
【0030】
ここで、
図2を用いて、インピーダンス変換生成回路5aを説明する。
【0031】
インピーダンス変換生成回路5aは、端子T5−11と、端子T5−12と、端子T5−13(第1帰還信号入力端子)と、端子T5−14と、端子T5−15とを有する。また、インピーダンス変換生成回路5aは、端子T5−21と、端子T5−22と、端子T5−23(第2帰還信号入力端子)と、端子T5−24と、端子T5−25とを有する。
【0032】
端子T5−11に供給された信号は、接続点T101を介して、端子T5−12と、端子T5−13と、端子T5−14とに分配出力される。なお、接続点T101と端子T5−13との間には、第1イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1が挿入されている。
【0033】
端子T5−21に供給された信号は、接続点T102を介して、端子T5−22と、端子T5−23と、端子T5−24とに分配出力される。なお、接続点T102と端子T5−22との間には、第2イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL2が挿入されている。
【0034】
後述するように、このイミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1及びRIL2によって、イミタンス変換回路1が発現するイミタンス(インピーダンス)が設定される(式(6)(9)(10)参照)。
【0035】
イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1及びRIL2は、端子T5−15及びT5−25のそれぞれに外部から入力される制御信号によって、その値を変化してもよい。この際、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1及びRIL2が同じ値となるように制御しても、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1及びRIL2の値が所定の関係となるように制御してもよい。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1及びRIL2は、本発明のようなフローティング型イミタンス変換回路で構成するとよい。
【0036】
図1に示す差信号検出回路6は、端子T11から正極入力端子T6−ipに供給された信号e11から、端子T21から負極入力端子T6−inに供給された信号e21を減算した差信号(e11−e21)に対応する信号e22=μ6・(e11−e21)を、正極出力端子T6−opから端子T22に出力する。また、差信号検出回路6は、端子T11から正極入力端子T6−ipに供給された信号e11から、端子T21から負極入力端子T6−inに供給された信号e21を減算した差信号(e11−e21)の符号を反転した信号e21−e11に対応する信号e12=μ6・(e21−e11)を、負極出力端子T6−onから端子T12に出力する。ここで、μ6は、差信号検出回路6の利得であり、発明の本質を損なわないので、正極側と負極側とで同じ利得として説明する。
【0037】
なお、差信号検出回路6に出力回路を組み込んで、差信号を所定の利得で増幅又は減衰した信号や、差信号に所定の直流電圧を加えた信号を、差信号に対応する信号として、差信号検出回路6から出力してもよい。また、差信号検出回路6と、次段の信号符号切換回路7との間にバッファ増幅器を設け、差信号を所定の利得で増幅又は減衰した信号や、差信号に所定の直流電圧を加えた信号を信号符号切換回路7に入力してもよい。
【0038】
信号符号切換回路7は、符号切換制御端子50から端子T13を介して符号切換制御入力端子T7−4に供給された符号切換制御信号SCNTRに従って、端子T22から入力端子T7−1に入力された信号e22と、端子T12から入力端子T7−2に入力された信号e12との一方の信号(例えば、信号e22)を選択し、選択された信号e23を出力端子T7−3から端子T23に出力する。
【0039】
信号符号切換回路7の入力端子T7−1に入力された信号e22と、出力端子T7−3から端子T24に出力される信号e23との大きさの比(すなわち、信号符号切換回路7の利得)をμ7とする。
【0040】
信号符号切換回路7が、差信号検出回路6からの出力信号の符号を切り替えることによって、差信号検出回路6から変換対象回路9までを含む帰還が、正帰還か負帰還かを選択することもできる。すなわち、正帰還であれば、イミタンス変換生成回路5は、帰還信号と第1端子3に入力される信号との電流(又は電圧)の和に対応しての信号を第1端子3に発現し、帰還信号と第2端子4に入力される信号との電流(又は電圧)の和に対応しての信号を第2端子4に発現する。一方、負帰還であれば、イミタンス変換生成回路5は、帰還信号と第1端子3に入力される信号との電流(又は電圧)の差に対応しての信号を第1端子3に発現し、帰還信号と第2端子4に入力される信号との電流(又は電圧)の差に対応しての信号を第2端子に発現する。
【0041】
イミタンスレベル可変回路8は、イミタンスレベル制御入力端子60から端子T14を介して制御信号入力端子T8−3に供給されたイミタンスレベル制御信号ICNTR(利得制御信号ICNTRとも称する)に従って、端子T23から入力端子T8−1に入力された信号e23を所定の利得(μc)で増幅・減衰し、増幅・減衰した信号e4を出力端子T8−2から端子T4に出力する。この回路は、必要に応じて、減衰量を可変するための制御端子を有する減衰器でもよいし、増幅率を可変するための制御端子を有する可変増幅回路でもよい。又、可変減衰器及び可変増幅器の組合せでもよい。
【0042】
イミタンスレベル可変回路8の入力端子T8−1に入力された信号e23と、出力端子T8−2から端子T4に出力される信号e4との大きさの比(すなわち、イミタンスレベル可変回路8の利得)をμ8とする。
【0043】
変換対象回路(基因回路)9は、端子T4から入力端子T9−1に入力された信号e4を所望の利得(μr)で増幅・減衰し、増幅・減衰をした信号e15を出力端子T9−2から端子T15に出力する。
【0044】
すなわち、変換対象回路9は、所望の伝達特性(利得)を発現する回路である。所望の伝達特性(利得)を発現する変換対象回路は、入力端子と出力端子とからなる2端子回路、又は、入力端子と出力端子と基準端子とからなる3端子回路の二つの場合がある。
図3に示す変換対象回路は、直列枝路に2端子インピーダンスを配置する3端子回路形式である。
【0045】
変換対象回路9は、所望の2端子イミタンスを得るために、抵抗、コイル、コンデンサのような受動部品の組合せ、又は、等価回路が受動部品の組合せで近似的に表現できる受動部品及び能動部品等を組み合わせた回路であって、入力端子T9−1と出力端子T9−2との間に所望の利得μrを発現する回路である。所望の利得μrの絶対値は1より小さくてもよい。
【0046】
すなわち、変換対象回路(基因回路)9は、端子T4から入力端子T9−1に入力された信号e4を所望の利得(μr)で増幅・減衰し、増幅・減衰をした信号e15を出力端子T9−2から端子T15に出力する。
【0047】
なお、イミタンスレベル可変回路8や変換対象回路9に出力回路を組み込んで、所定の利得で増幅又は減衰した信号や、所定の直流電圧を加えた信号を、出力される信号に対応する信号として出力してもよい。また、イミタンスレベル可変回路8や変換対象回路9と、次段回路との間にバッファ増幅器を設け、所定の利得で増幅又は減衰した信号や、所定の直流電圧を加えた信号を次段の回路に入力してもよい。また、差信号検出回路6とイミタンス変換駆動回路10との間に配置される信号符号切換回路7と、イミタンスレベル可変回路8と、変換対象回路9との配置順番は任意である。但し、必要なら、信号符号切換回路7は位相反転回路に置き換えればよい。
【0048】
イミタンス変換駆動回路10は、端子T15から端子T10−11に供給された信号e15と、端子T25から端子T10−21に供給された信号e25と、にイミタンス変換駆動作用を施し、イミタンス変換駆動作用を施した信号e19と信号e29とを生成する。そして、イミタンス変換駆動回路10は、信号e19を端子T10−12から端子T19に出力し、信号e29を端子T10−22から端子T29に出力する。
【0049】
端子T25は、基準端子2に接続する。端子T10−02は何れにも接続しない。基準端子2には、基準電位(例えば、0ボルト)が印加される。なお、この基準電圧は、任意の直流電圧でも、任意の交流信号で変調されている電圧でもよい。
【0050】
図3を用いて、変換対象回路9の回路例を具体的に説明する。
図2に示すイミタンス変換生成回路5aを用い、更に、
図3に示す変換対象回路9を用いると、2端子イミタンスとして、
図1の回路全体の総合利得μtaの周波数特性のピークに対応して、2端子インピーダンスが最小値を呈する。言い換えると、コイルとコンデンサとからなる直列共振回路が呈するインピーダンスと等価な周波数特性を有するインピーダンスを発現する回路を実現する。
【0051】
図3に示す変換対象回路9は、低出力インピーダンス増幅回路9Aと、共振回路9Bと、低入力インピーダンス増幅回路9Cとを有する。なお、変換対象回路(基因回路)9は、基準端子2を有さなくてもよい。
【0052】
低出力インピーダンス増幅回路9Aは、入力端子T9−1から端子T1を介して、入力端子T9A−1に入力される信号を、出力端子T9A−2に出力する。低出力インピーダンス増幅回路9Aは、入力側の外部回路のインピーダンスによる共振回路9Bの特性(例えば、Q)への影響を排除するために設けられる。
【0053】
共振回路9Bは、出力端子T9A−2から端子T2を介して入力端子T9B−1に入力された信号に共振応答処理を施した信号を出力端子T9B−2に出力する。
【0054】
すなわち、共振回路9Bは、入力端子T9B−1と出力端子T9B−2との間に、抵抗Rと、コイルLと、コンデンサCとが直列に接続されている。コイルL及びコンデンサCの損失成分は、等価的に抵抗Rに含める。コンデンサCは、リアクタンス制御入力端子T9−3端子に入力されたリアクタンス制御信号FCNTRに応じて、容量値Cを可変できる。リアクタンス制御信号FCNTRに応じて容量値Cを可変すると、共振回路9Bの共振周波数が変わるので、リアクタンス制御信号FCNTRは、周波数制御信号と等価である。
【0055】
入力端子T9−1に供給される信号e4と、出力端子T9−2から出力する信号e15との比を、利得μr(μ9と称する場合もある)とする。μrは周波数依存性を有する。
【0056】
低入力インピーダンス増幅回路9Cは、出力端子T9B−2から端子T3を介して入力端子T9C−1に入力された信号を増幅し、出力端子T9C−2から端子T4を介して出力端子T9C−2に出力する。低入力インピーダンス増幅回路9Cは、出力側の外部回路のインピーダンスによる共振回路9Bの特性(例えば、Q)への影響を排除するために設けられる。
【0057】
図1に示すイミタンス変換駆動回路10の端子T10−11に入力された信号は、端子T16を介して、トランジスタQ1のベースに供給され、端子T10−21に供給された信号は、端子T26を介して、トランジスタQ2のベースに供給される。
【0058】
トランジスタQ1のエミッタと、トランジスタQ2のエミッタとは、接続点TEにおいて互いに接続されている。接続点TEは、定電流源icを介して、直流電源VEEに接続されており、さらに、接続点TEは、端子T0Sを介して、端子T10−02に接続する。また、点TEは、作動増幅回路の電流源が接続され、トランジスタQ1、Q2を接続し、二つのトランジスタの中間点となる。
【0059】
トランジスタQ1のコレクタは、接続点T17を介して、定電流源i1の一方の端子に接続され、定電流源i1の他方の端子は、直流電源Vcc1に接続する。さらに、接続点T17は、端子T18を介して、端子T10−12に接続する。
【0060】
トランジスタQ2のコレクタは、接続点T27を介して、定電流源i2の一方の端子に接続され、定電流源i2の他方の端子は、直流電源Vcc2に接続する。さらに、接続点T27は、端子T28を介して、端子T10−22に接続する。
【0061】
なお、トランジスタQ1のエミッタとTE点との間、及びトランジスタQ2のエミッタとTE点との間のそれぞれに、抵抗を配置してもよい。この抵抗の抵抗値は、比較的小さな値であるとよい。
【0062】
また、TE点と直流電源電位VEEとの間の定電流源は、抵抗に置き換えてもよい。この抵抗の抵抗値は、比較的大きな値であるとよい。
【0063】
また、二つのトランジスタのコレクタは、カーレントミラー回路で駆動されていてもよい。
【0064】
また、イミタンス変換駆動回路10は、差動入力・差動出力回路を構成している。
【0065】
端子T10−12は、端子T19を介して、イミタンス変換生成回路5の端子T5−13に接続し、端子T10−22は、端子T29を介して、イミタンス変換生成回路5の端子T5−23に接続する。
【0066】
端子T10−12に発現する信号を端子T10−11に入力される信号で除した商を利得μ5と定義する。なお、端子T10−22に発現する信号を端子T10−21に印加される信号で除した商も実質的に利得μ5に等しくなる。
【0067】
次に、数値シミュレーションの結果に基づいて、第1の実施例のイミタンス変換回路1の動作を説明する。数値シミュレーションは、イミタンス変換生成回路5として、
図2に示すインピーダンス変換生成回路5aを用いる双方向性フローティング型イミタンス変換回路について説明する。変換対象回路9は任意に選択可能であるが、ここでは利得周波数特性に共振ピーク現象の現れる場合の例である
図3に示す変換対象回路9を用いる。数値シミュレーションに用いる回路定数は、表1(
図17)に示す値を用いた。変換対象回路9の直列抵抗Rは、増幅回路9aの出力インピーダンスと増幅回路9cの入力インピーダンスに含めた。
【0068】
また、発現した2端子インピーダンスz
0の特性確認用の試験回路(周辺回路)として、
図4に示す試験回路を用いた。この試験回路において、イミタンス変換回路1の、第1端子3と基準端子2との間に、端子T1'を介して、出力インピーダンスZ
Sの標準信号発振器SGを接続し、さらに、第2端子4と基準端子2との間に、端子T2'を介して、負荷抵抗Z
Lを接続した。出力インピーダンスZ
Sの値と負荷インピーダンスZ
Lの値とは50Ωを基準とし、変化するパラメータでもよい。
【0069】
数値シミュレーション結果は以下の通りである。
【0070】
第1に、
図4の試験回路において、第1端子3と第2端子4とを入れ替えた場合に、2端子インピーダンスz
0の値は変化せず、双方向性が満たされていることが確認できた。
【0071】
第2に、試験回路の負荷インピーダンスZ
Lの値を、200Ω、50Ω、0Ω(短絡)と変化させても、2端子インピーダンスz
0の値は変化しなかった。このことは、
図2に示す第1イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1から、
図1に示すトランジスタQ1を介して接続点TEの方向に流れる電流i10dと、第2イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL2から
図1に示すトランジスタQ2を介して接続点TEの方向に流れる電流i20dとは、符号が反対で、その絶対値が等しい(すなわち、同じ向きに同じ大きさの電流が流れる)ことを意味する。従って、負荷インピーダンスが変化しても、接続点TEには定電流源icから電流が流れ込まず、かつ、定電流源icへ電流が流れ出ないので、接続点TEの電位は常に(e10+e20)×0.5となる。よって、フローティング性が満たされていることが確認できた。
【0072】
第3に、2端子インピーダンスが、第1イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1、第2イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL2及び総合利得μtaに依存する、すなわち変換対象回路9と同じ周波数特性が得られること、について
図5を用いて説明する。なお、第1イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1と第2イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL2とは、等しくRILに設定している。
【0073】
図5(a)の横軸は、
図4に示す第1端子3に入力される信号の周波数であり、9,900,000Hzから10,100,000Hzまで掃引した。入力電圧は1Vに設定した。
【0074】
図5(a)の縦軸は、
図4に示す第1端子3の電圧e10と第2端子4の電圧e20との差電圧(e10−e20)を、第1端子3から第2端子4の方向に流れる電流で除して求めた2端子インピーダンスz
0の絶対値である。イミタンスレベル設定インピーダンスRILをパラメータとして、200Ω、100Ω、50Ωの3値に変化させた。
【0075】
図5(a)に示す3つの曲線より、2端子インピーダンスz
0の値が、3通りのイミタンスレベル設定インピーダンスRILに比例して増加することが確認できた。また、
図3に示す変換対象回路9の出力電圧最大に対応する利得最大の周波数である10MHzにおいて、2端子インピーダンスz
0の値が最小値を呈することから、2端子インピーダンスz0の値が総合利得μtaに反比例することが確認できた。
【0076】
次に、
図5(b)を用いて、信号符号切換回路7に印加される符号切換制御信号SCNTRに従って、2端子インピーダンスz
0の位相特性を正と負とに反転できることを説明する。
【0077】
図5(b)の縦軸は、
図4の試験回路の端子T2'における電流の位相であり、その単位は「度」であり、横軸は、
図5(a)と同じである。イミタンスレベル設定インピーダンスRILは100Ωとした。符号切換制御信号SCNTRに応じて、電流の位相は実線Aと、破線Bとを呈する。具体的には、実線Aは、周波数が増加するに従って位相が減少する特性を呈するが、その逆に、破線Bは、周波数が増加するに従って位相が増加する特性を呈する。
【0078】
破線Bの特性は、通常の受動部品の組合せでは実現できない特性である。この特性は、
図1において、受動部品であるコイルとコンデンサとに加えて、能動部品であるトランジスタを組み合わせたことにより実現できた特性である。
【0080】
図2に示すインピーダンス変換生成回路5aの、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1、RIL2の一方には、第1端子3に印加される電圧e10と、イミタンス変換駆動回路10のトランジスタQ1のコレクタから出力される電圧(第1帰還電圧)e19の差の電圧が印加される。また、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1、RIL2の他方には、第2端子4に印加される電圧e20と、イミタンス変換駆動回路10のトランジスタQ2のコレクタから出力される電圧(第2帰還電圧)e29の差の電圧が印加される。このことは、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1に対する第1帰還信号(電圧)と、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL2に対する第2帰還信号(電圧)と、は、電流として加算又は減算されることを意味する。
【0081】
この回路形式は、片端を基準端子に接続する帰還回路における入力側(電流)並列帰還回路形式に対応する。
【0082】
ここで、第1イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1及び第2イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL2の両端に発現する電圧の差の絶対値が増加する接続を「正帰還接続」と称し、減少する接続を「負帰還接続」と称する。
【0083】
図1及び
図2に示す接続形態では、第1端子3に発現した電圧は、第1イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1の両端に発現する電圧差の絶対値が増加するので、「正帰還接続」である。
【0084】
何故なら、
図2より端子T5−11と端子T5−13とに発現する電圧の位相が同相であり、かつ、
図1において、端子T5−12から端子T5−13に至る信号の位相が逆相であることが原因である。このため、
図1において、等価的な位相反転回路の段数(挿入個数)が奇数であることが必要である。同様に、端子T5−22から端子T5−23に至る信号の位相は、逆相であり、位相反転回路の段数は奇数である。
【0085】
「負帰還接続」にするためには、位相反転回路の段数を偶数にすればよい。このため、例えば、信号符号切換回路7のスイッチ選択を負帰還側に投入してもよい。
【0086】
従って、正帰還接続と負帰還接続との選択は、信号符号切換回路7のスイッチ選択及び位相反転回路の段数で決まる。ここで、位相反転回路による位相回転量がπの整数倍(零倍を含む)と異なる場合、回路内の適当な箇所に、位相シフト回路を設けて、位相回転量をπの整数倍に調整すればよい。
【0087】
次に、イミタンス変換生成回路5に
図2の構成を採用する場合を、
図6及び数式を用いて、
図1の回路の作用を説明する。
図1、
図2及び
図6の端子及び構成要素の符号は一致させてある。
【0088】
図6に示す等価回路は、基準端子2と、第1端子3と、第2端子4とを有する。二つの電圧制御電圧源VCVS1及びVCVS2の利得と、差動検出回路Aの利得との積が総合利得μtaである。
【0089】
数式解析に先立ち、総合利得μtaを定義する。総合利得μtaは、
図1に示す各要素回路の利得(μ5,μ6,μ7,μ8,μ9,μ10)を乗じた積であり、一般には複素数である。それぞれの利得は、正の利得(増幅利得)でも、負の利得(減衰利得)でもよい。
【0090】
総合利得μtaに添字(i=1、2)を付して、第1端子3側と、第2端子4側とで、μtaを区別してμtaiと表す。総合利得μtaiを用いて、第1端子3から
図2に示すインピーダンス変換生成回路5aの端子T5−11に供給された信号が、
図1のイミタンス変換駆動回路10の端子T10−12からトランジスタQ1のエミッタを介して接続点TEの方向に流れる電流i10dと、接続点TEから第2端子4の方向に流れる電流i20dと、は、式(2)で表される。
【数2】
【0091】
式(2)において、式(3)で表される、総合利得条件が満たされていれば、電流i
10dと電流i
20dとに関し、式(4)の近似式が成立する。
【数3】
【数4】
【0092】
更に、式(5)で表される「第1バランス条件」が満たされていれば、電流i
10dと電流i
20dとは一致する。
【数5】
【0093】
従って、第1端子3に発現する電圧e10と、第2端子4に発現する電圧e20とが、どのような電圧であっても、接続点TEから端子T10−02を介して基準端子2に電流は流れない。このことは、イミタンス変換回路1が「フローティング回路」であることを意味する。
【0094】
次に、二つのイミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1及びRIL2のインピーダンスが等しい場合、端子T5−11から接続点TE側を見た入力インピーダンスzin10dと、端子T5−21から接続点TE側を見た入力インピーダンスzin20dと、の値を求めると、両者が等しくなる。このことは、イミタンス変換回路1が「双方向性回路」であることを意味する。
【0095】
これらの条件下で、RIL1とRIL2とが等しい場合にRILとし、かつ、μta1とμta2とが等しい場合にμtaとすると、2端子インピーダンスz0は、式(6)で表される。
【数6】
【0096】
式(6)において、利得μtaは、周波数特性を有する成分と、周波数特性を有しない成分とに分けられ、少なくとも周波数特性を有しない成分は、大きく可変である。
【0097】
次に、双方向性フローティング型イミタンス変換回路1の効果を詳細に説明する。式(6)は、以下のことを意味する。
【0098】
接続形態(負帰還接続、正帰還接続)及び総合利得μtaの正負に応じて、2端子インピーダンスz0は、正値と負値とを取り得る。このことは、イミタンス変換回路1が負のインピーダンスを有する誘導性素子、容量性素子、抵抗素子等を実現し、受動部品だけでは実現できないインピーダンス特性が実現することを意味する。
【0099】
イミタンス変換回路1のインピーダンス値は、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RILのインピーダンス値に比例する値を呈する。このため、リアクタンス値を呈する素子をイミタンスレベル設定インピーダンス素子RILに採用すれば、イミタンス変換回路1は、そのリアクタンス値に比例する2端子インピーダンスz0を呈する。
【0100】
総合利得μtaの絶対値は、1以上(すなわち増幅回路)でも、1未満(すなわち減衰回路)でもよい。
【0101】
図3に示す変換対象回路9の利得μ9は共振ピーク現象を有する。この共振ピーク現象について、
図7を用いて詳細に説明する。
【0102】
等価回路を用いると、イミタンス変換回路1の2端子インピーダンスz
0は、
図7に示すように、抵抗素子、誘導性素子及び容量性素子の直列回路で表すことができる。この等価回路は、基準端子2と、第1端子3と、第2端子4とを有し、さらに、符号切換制御信号SCNTRを入力する符号切換制御入力端子50と、イミタンスレベル制御信号ICNTRを入力するイミタンスレベル制御入力端子60と、周波数制御信号FCNTRを入力する周波数制御入力端子T9−3とを有する。
【0103】
符号切換制御信号SCNTRは、誘導性素子と容量性素子との両方の符号を、それぞれ、正負が反転するように同時に切り替え可能である。
【0104】
イミタンスレベル制御信号ICNTRは、誘導性素子の素子値と容量性素子の素子値とを同時に可変である。その際、二つの素子値による共振周波数ωが一定に維持される。
図7に示す等価回路では、二つの独立制御量として、誘導性素子の素子値をLとし、共振周波数をωとした場合を示す。共振周波数ωは、周波数制御信号FCNTRに応じて可変である。
【0105】
更に、抵抗素子の素子値±Rの符号と絶対値とは、図示しない制御信号によって可変である。
【0106】
次に、第1の実施例の効果を、表2(
図18)を用いて更に説明する。本発明の効果は広範囲であり(例えば、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1、RIL2がキャパシタでもインダクタでもよいので)、その一部、すなわち、インピーダンスレベル設定インピーダンスの素子値RILの値を実数(抵抗値)とした例について説明する。
【0107】
表2には、第4の実施例での効果例も記載したが、後に説明する。
【0108】
表2の第1列に、
図3に示す変換対象回路9の周波数特性を支配する素子を記す。第2列に、当該素子に対応する2端子インピーダンスz0を記す。ここに、Rは周波数依存性がない。Lは周波数に比例してリアクタンス値を支配するインダクタンスである。Cは周波数に反比例してリアクタンス値を支配するキャパシタンスである。"−"(マイナス)符号の付いているもの、例えば、"−R"は負抵抗を、"−L"、"−C"、"−(直列共振インピーダンス)"等が呈するリアクタンス特性は、何れも周波数の増加に対するリアクタンス値の傾きが負である。この特性は、受動回路のみを用いては得られない特性である。
【0109】
"反濾波特性インピーダンス"は、"濾波特性"に反比例する特性を呈する値である。
【0110】
また、第1イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1と、第2イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL2との両方を、誘導性素子又は容量性素子とする場合、表2の値に、jを乗じた値が得られる。ここで、jは虚数単位であり、ωは角周波数である。また、∝は比例を意味する。
【0111】
2端子インピーダンスz0の値は、インピーダンス制御素子RILの素子値、変換対象回路の利得を含む総合利得μtaの絶対値、及び、それらの符号の少なくとも一つを、外部信号に応じて変えることによって、広範囲な総合利得の変更に対応して、複素インピーダンスの変更が可能となる。
【0112】
総合利得μtaが十分に大きく、μrに影響するような極端な周波数特性(例えば、零点やポール)を持たなければ、所望の2端子インピーダンスz0は、0(零)を呈し、イミタンス変換回路1は、所謂、疑似短絡回路を構成する。
【0113】
増幅回路をも用いた各種4端子行列で表現できる変換対象回路9の利得を含む総合利得μtaに比例または反比例する双方向性フローティング形式の2端子インピーダンス回路を実現することによって、耐雑音性に優れたバランス型回路(8端子行列で表現できる回路網)を実現するための一つの要素回路を提供するものと言える。
【0114】
変換対象回路9が呈する利得における、不要な実数成分を削減することによって、例えば、利得の虚数成分を主とする、大きな値の実効Q値を有する双方向性フローティング型直列共振回路を実現することができる。
【0115】
以上に説明したように、本発明の第1の実施例の双方向性フローティング型イミタンス変換回路は、第1端子と第2端子と基準端子とを有する3端子回路であって、第1端子と第2端子との間に、変換対象回路の利得を含む総合利得に応じた2端子イミタンス、すなわち、インピーダンスz
0を発現する。そして、イミタンス変換回路は、以下の効果を奏する。
【0116】
第1に、第1端子と第2端子とに印加又は発現する信号レベルに起因して、基準端子を含む電流回路に電流が流れない。第2に、第1端子と第2端子とに接続される周辺回路のイミタンスレベルに起因して、基準端子を含む電流回路に電流が流れない。前述した二つの効果から、イミタンス変換回路は、周辺回路からフローティングしている。
【0117】
第3に、第1端子と第2端子と入れ替えても、イミタンス変換回路のイミタンス特性は変化しない。このため、イミタンス変換回路は、双方向性を有する。
【0118】
第4に、第1端子と第2端子との間に、イミタンス変換生成回路の形式に応じて、変換対象回路の利得含む総合利得μtaに応ずる2端子イミタンス特性を発現する。すなわち、イミタンス変換回路の利得を任意に設定することができる。
【0120】
第1の実施例では、総合利得μtaの値が大きい場合に対して式(3)の条件が満たされる場合を説明した。第2の実施例では、総合利得μtaの値が広範囲に変化する場合、すなわち、総合利得μtaの値が小さな値の場合でも、2端子インピーダンスz
0と、変換対象回路の総合利得μtaとの対応関係が、常に式(2)の右辺の係数行列の全ての要素に同じ定数項要素を含む双方向性フローティング型イミタンス変換回路1について説明する。
【0121】
この効果を得るために、
図8に示す信号補正回路(イミタンス変換制御回路とも称する)11からの所定の補正信号を、
図1に示す双方向性フローティング型イミタンス変換回路1の端子T10−21に供給する。この結果として、μtaの値にかかわらず、
図1に示すイミタンス変換回路1のフローティング効果が実現される。
【0122】
まず、両回路の接続について説明する。信号補正回路11は、入力端子T11−11と、入力端子T11−21と、出力端子T11−3と、検出信号入力端子T11−4とを有する。これら四つの端子は、以下の二つのステップによって、
図1に示すイミタンス変換回路1へ接続される。
【0123】
第1のステップでは、
図1に示す端子T25(基準電位)と端子T10−21との接続を切り離す。
【0124】
次に、第2ステップでは、
図8に示す信号補正回路11を双方向性フローティング型イミタンス変換回路1に、以下の手順で接続する。
【0125】
まず、
図8に示す入力端子T11−11と
図1に示す端子T5−14とを接続し、
図8に示す入力端子T11−21と
図1に示す端子T5−24とを接続し、
図8に示す出力端子T11−3と
図1に示す端子T10−21とを接続し、
図8に示す検出信号入力端子T11−4を、
図1に示す端子T05を介して、端子T10−02と接続する。
【0126】
次に、
図8を用いて、信号補正回路11を説明する。
【0127】
信号補正回路11は、差信号生成回路12と、和信号生成回路13と、可変減衰回路14と、可変減衰回路15と、差信号生成回路16と、制御信号生成回路17とを有する。
【0128】
差信号生成回路12は、入力端子T11−11から接続点T811を介して入力端子T12−1に供給された信号e10と、入力端子T11−21から接続点T821を介して入力端子T12−2に供給された信号e20との差信号e12=e10−e20を出力端子T12−3から端子T812に出力する。入力端子T12−1と、入力端子T12−2との両端子の入力インピーダンスが高く設定されている程、本発明のフローティング性が高くなる。
【0129】
和信号生成回路13は、入力端子T11−11から接続点T811を介して入力端子T13−1に供給された信号e10と、入力端子T11−21から接続点T821を介して入力端子T13−2に供給された信号e20との和信号e22=e10+e20を出力端子T13−3から端子T22に出力する。入力端子T13−1と、入力端子T13−2との両端子の入力インピーダンスが高く設定されている程、本発明のフローティング性が高くなる。
【0130】
可変減衰回路14は、減衰量制御入力端子T14−3からの信号に応じて、端子T812から入力端子T14−1に入力された信号e12を減衰した信号e14を出力端子T14−2から端子T814を介して、出力端子T11−3に出力する。可変減衰回路14の減衰量は、点TEの電圧が、第1端子3に発現する電圧e10と、第2端子4に発現する電圧e20との和の2分の1(0.5×(e10+e20))になるように、調整された値でもよい。図示はしていないが、可変減衰回路14は、可変増幅回路でもよい。
【0131】
可変減衰回路14の所定の減衰量調整の目標値の一例は、イミタンス変換生成回路5の端子T5−13及び端子T5−23に入力される信号の値を、入力端子T14−1での差信号(e10−e20)のμta倍の値、すなわち、それぞれμta倍×(e10−e20)及び−μta×(e10−e20)となるような補正信号e14を、出力端子T14−2から出力することである。
【0132】
可変減衰回路15は、半固定の所定の減衰量(例えば、2分の1)だけ、端子T822から入力端子T15−1に入力された信号e22を減衰した信号e24を出力端子T15−2から端子T824に出力する。
【0133】
可変減衰回路15の所定の減衰量調整の目標値の一例は、差信号生成回路16の入力端子T16−2に入力される信号の値を、入力端子T15−1での和信号(e10+e20)の2分の1の値、すなわち、差信号生成回路16の入力端子T16−2に入力される信号の値を、0.5×(e10+e20)となるような出力信号e24を、出力端子T15−2から出力する。減衰量0.5を管理するために、可変減衰回路15の減衰量の調整が必要な場合もある。
【0134】
差信号生成回路16は、検出信号入力端子T11−4から端子T825を介して入力端子T16−1に供給された信号e05と、端子T824から入力端子T16−2に入力された和信号を減衰した信号(例えば、和信号の半分の値の信号)e24との差である誤差信号er26を出力端子T16−3から端子T826に出力する。
【0135】
制御信号生成回路17は、端子T826から入力端子T17−1に入力された誤差信号er26の絶対値を最小にするように、減衰量制御信号ea23を生成し、出力端子T17−2から出力され、端子T823に出力する。減衰量制御信号ea23は、端子T823から端子T813を介して、可変減衰回路14の減衰量制御入力端子T14−3に入力される。
【0136】
第2の実施例では、信号補正回路(イミタンス変換制御回路とも称する)11の出力端子T11−3からの所定の補正信号が、
図1に示す双方向性フローティング型イミタンス変換回路1の端子T10−21に入力される例を示すが、出力端子T11−3端子はT10−21と、端子T10−11との何れに接続されてもよい。但し、その際は、変換対象回路9の出力端子からの出力信号e15は、端子T10−11、端子T10−21のうち、信号補正回路11の出力端子T11−3端子が接続されない方の端子に接続する。
【0137】
次に、所定の補正信号e14を生成する自動制御系の動作を説明する。自動制御系の目的は、イミタンス変換駆動回路10の点TEから基準端子2に流れ出る電流を最小にするために、イミタンス変換駆動回路10の端子T10−21に、差信号(e10−e20)に応じた量の信号を供給し、イミタンス変換生成回路5の端子T5−13にμta×(e10−e20)の信号を供給し、端子T5−23に−μta×(e10−e20)の信号を供給する。この係数は、常にμtaとなるような管理が必要な値である。
【0138】
係数がμtaに管理された結果、イミタンス変換駆動回路10の点TEの信号レベルと、第1端子3及び第2端子4に印加される信号の平均値0.5×(e10+e20)との差の絶対値を最小にする(なお、零が理想値である)。
【0139】
自動制御系の減衰量制御信号ea23は、零クロス型の自動制御信号ではなく、2次縮退型制御信号でもよい。
【0140】
次に、
図8に示す信号補正回路11の可変減衰回路14の減衰量調整は動的に調整しなくてもよいことを説明する。
【0141】
信号補正回路11は、一点鎖線により分離できる二つの回路、すなわち、信号補正信号発現回路11A(一点鎖線の左側の部分)と、自動補正補助回路11B(一点鎖線の右側の部分)とに分けることができる。信号補正信号発現回路11Aは、入力端子T11−11と、入力端子T11−21と、出力端子T11−3と、差信号生成回路12と、可変減衰回路14と、端子T813とを有する。自動補正補助回路11Bは、分離端子T821と、分離端子T811と、端子T813と、検出信号入力端子T11−4と、を有する。
【0142】
信号補正信号発現回路11Aは、第1可変減衰回路14の減衰量を調整した信号を出力端子T11−3から出力することによって、イミタンス変換生成回路5の端子T5−13と端子T5−23とのそれぞれに、±μta×(e10−e20)に比例する信号と、±μta×(e20−e10)/2と)に比例する信号とを発現させる。このことによって、
図1の回路は、信号が小さい場合でも、左右鏡面対称の動作をし、双方向性フローティング性を実現することができる。
【0143】
その際、可変減衰回路14の減衰量は、以下のように調整すればよい。
【0144】
まず、自動補正補助回路11Bは、イミタンス変換生成回路5の端子T5−14に発現する電圧e10と端子T5−24に発現する電圧e20との和の半分の電圧0.5×(e10+e20)と、イミタンス変換駆動回路10の点TEに発現する電圧との差の絶対値を最小(理想的には零)にする。この状態で、
図1に示す回路では、点TEに発現する電圧は、第1端子3に発現する電圧と第2端子4に発現する電圧との和の1/2になるので、イミタンス変換駆動回路10の点TEから基準端子2に電流が流れない。従って、イミタンス変換回路1が、フローティング特性を有することになる。
【0145】
次に、第2の実施例の作用の数式を用いて説明する。
【0146】
式(3)に示した条件が満たさない場合、すなわち、総合利得μtaの絶対値が小さい場合、式(2)に右辺に加えるべき補正項αは、式(7)で表される。
【数7】
【0147】
式(7)は、電圧の次元を有する補正項である。その補正電圧は、第1端子3の電圧e10と第2端子4の電圧e20との差の2分の1の符号を反転した値である。
【0148】
式(2)に式(7)の補正項を加えると、式(8)を得る。
【数8】
【0149】
式(8)は、電圧e10と電圧e20とを入れ替えても、すなわち、
図1及び
図2によって構成される回路の特性が、第1端子3と第2端子4とを入れ替えても同じであるという、所謂「双方向性」があることを意味する。
【0150】
式(8)を用い、RIL1とRIL2とが等しい場合にRILとし、かつ、μta1とμta2とが等しい場合にμtaとすると、2端子インピーダンスz0は式(9)で表される。
【数9】
【0151】
ここに、分母の利得μtaの符号が正である場合は、負帰還動作をし、符号が負である場合は、正帰還動作をする。式(9)の右辺の分母の定数項1/2は、一般の帰還増幅回路において、(1)式に示すように定数項が1であることと異なる特徴を有する。
【0152】
第2の実施例の信号補正回路11は、変換対象回路9の利得μ9が大きく変化する(例えば、共振ピークに応じて、1より小さな値から大きな値まで変化する)場合、フローティング性を向上させる効果を奏する。
【0153】
次に、信号補正回路11の付加による効果を、数値シミュレーション結果に基づいて説明する。数値シミュレーション時の回路構成は、双方向性フローティング型イミタンス変換回路(
図1)を構成するイミタンス変換生成回路5として、インピーダンス変換生成回路5a(
図2)を用い、さらに、基因回路9が、
図3に示すコイルLとコンデンサCとが直列に接続された直列共振回路である場合について説明する。この場合、双方向性フローティング型イミタンス変換回路(
図1)は、LC直列共振のインピーダンス変換回路として忠実に機能する。
【0154】
数値シミュレーションにあたっての、各種定数設定値は、表1(
図17)の値を用いた。但し、μtaは、表1と異なり、100に設定した。μtaを小さな値に設定した目的は、信号補正回路11の効果を際立たせるためである。また、RIL=50Ωの場合のみを例示するが、RILが他の値でも回路の定性的特性は変わらないことから、効果を説明する上での一般性を損なわない。
【0155】
本発明の効果の一つである「フローティング性」は、第1端子3と第2端子4との間に発現する2端子イミタンスに対して、第1端子3と第2端子4との間に不要因子が「並列」に発現し、この不要因子が所望(正しい)の2端子イミタンスに悪影響を及ぼすことによって、損なわれる。
【0156】
以下に、
図9を用いて、信号補正回路11を有する場合と、有さない場合とを比較して、その効果の違いを詳しく説明する。
【0157】
図9は、スミスチャートであり、その軸目盛は反射係数Γの目盛となっており、横軸は、実数軸(−1〜+1)、縦軸は虚数軸(−j〜+j)であり、原点Oを中心にする半径1の円(単位円)が純イミタンスに対応する。
【0158】
図9には、円状のイミタンスの軌跡の曲線Aと、同じく円状のイミタンスの軌跡の曲線Bとを記した。
【0159】
曲線Aは、信号補正回路11から出力される補正信号e25を、イミタンス変換駆動回路10の端子T10−21に供給する場合のシミュレーション結果である。
【0160】
曲線Aを図示するに当たっては、スミスチャートの特性インピーダンス(基準インピーダンス)Znとして、曲線Aがその共振周波数において、原点Oを通過するようなzn値により正規化してある。従って、曲線Aは常に原点Oを通過する。
【0161】
数値シミュレーションの結果、2端子インピーダンスの軌跡は、動作周波数(
図4に示す周辺回路の信号esの周波数)ωをパラメータとした軌跡は真円状を呈し、動作周波数が±∞の場合には、その円は点Cにおいて単位円に内接する結果が得られた。
【0162】
一方、曲線Bは、信号補正回路11を有さない場合、信号補正回路11からの補正信号e25の値が零の場合、すなわち、イミタンス変換駆動回路10の端子T10−21を基準端子2に接続する場合の数値シミュレーションの結果である。
【0163】
曲線Aと同様に、曲線Bの軌跡は円状を呈しているものの、以下の2点で、2端子インピーダンスの値が変換対象回路9の特性を忠実に発現していない。
【0164】
第1に、曲線Bが虚軸に接していない。即ち、周波数が共振周波数から大きく離れる場合、2端子インピーダンスの値が、純虚数値(リアクタンス値)とは異なるものとなる。
【0165】
第2に、曲線Bが原点Oを通過せず、横軸との交点は、等価インピーダンスの小さい値の方にずれている。
【0166】
前述した2点は、第1端子3と第2端子4との間に並列に、基準端子2を介する不要因子が発現するためである。このシミュレーション結果は、不要因子が損失成分(実数成分)であることを示している。
【0167】
本実施例の回路は、変換対象回路9と位相シフト回路(補償回路)26以外の回路には、意図するリアクタンスを呈する素子又は回路を有さない。
【0168】
本実施例の回路を実際に実現する場合、変換対象回路9及び位相シフト回路26以外にも、意図しないリアクタンス成分(浮遊容量や残留インダクタンス)が発現する。これらの意図しないリアクタンス成分は、損失補償回路20を構成する位相シフト回路(補償回路)26により補償することができる。
【0169】
次に、第4の実施例において、後で説明する変換回路としてアドミタンス変換生成回路5bを用いる場合も、信号補正回路11からの補正信号を供給する場合の2端子アドミタンスの軌跡は、円状(正規アドミタンス円)を呈する。一方、補正信号を供給しない場合はフローティング性が損なわれるため、多くの場合、この軌跡の曲線は正規アドミタンス円の内側に発現する。この場合の動作及び作用の詳細な説明は、前述したインピーダンス変換の場合と同様であるので、省略する。
【0170】
以上、変換対象回路9として、
図3に示すR、L、Cを含む共振回路を用いる場合を例にして、μtaが極めて広範囲に変化する場合においても、実際のコイル及びコンデンサを含む共振回路と同じ2端子イミタンスを呈するイミタンス変換回路1が実現できることを説明した。
【0171】
これにより、変換対象回路9を構成する回路の一部を表2(
図18)に例示したが、例示した回路以外の全ての場面においても、忠実なイミタンス変換を実現できる。
【0172】
以上に説明した機能及び効果を利用面から説明すると以下のようになる。すなわち、補償なしの場合、第1端子3と第2端子4とに発現する2端子インピーダンスの値が、変換対象回路9の特性に不要な因子を含んでしまう。すなわち、変換動作を忠実に実現しない。このことは、例えば、フィルタへの利用時には、挿入損失や保証減衰量等の値が、変換対象回路9と異なるという欠点を生じることになる。
【0174】
第3の実施例では、双方向性フローティング型イミタンス変換回路1における、意図しない抵抗成分(損失)を削減する手段について説明する。
【0175】
例えば、総合利得μtaとして、高い共振尖鋭度(高Q値)を目指す場合、意図しない損失を削減する必要がある。また、例えば、第1イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1と第2イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL2とにリアクタンス値を設定する場合、意図しない損失を削減して、純リアクタンス値を実現する必要がある。
【0176】
この場合、式(9)の右辺分母の定数項1/2をも含めて変化させる。このために、損失制御回路21を、
図1に示す回路に付加すればよい。
【0177】
損失制御回路21を付加する方法を、
図10に示す損失補償回路20を用いて説明する。損失補償回路20は、端子T20−11と、端子T20−21と、端子T20−12と、端子T20−22と、端子T20−3と、端子T20−4と、端子T20−5と、端子T20−6と、を有する。これら8個の端子は、以下の三つのステップによって、
図1に示すイミタンス変換回路1へ接続される。
【0178】
第1ステップでは、
図1に示す端子T12及び端子T22において、差信号検出回路6と信号符号切換回路7とを切り離し、更に、端子T15において、変換対象回路9とイミタンス変換駆動回路10とを切り離す。信号符号切換回路7と、イミタンスレベル可変回路8と、変換対象回路9との接続は維持しておく。
【0179】
次に、第2ステップでは、
図1に示す差信号検出回路6の正極出力端子T6−opを
図10に示す損失補償回路20の端子T20−21に接続し、
図1に示す差信号検出回路6の負極出力端子T6−onを
図10に示す損失補償回路20の端子T20−11に接続し、
図10に示す損失補償回路20の端子T20−6を
図1に示すイミタンス変換駆動回路10の端子T10−11に接続する。
【0180】
さらに、第3ステップでは、切り離された状態の信号符号切換回路7とイミタンスレベル可変回路8と変換対象回路9とを、損失補償回路20に接続する。すなわち、信号符号切換回路7の入力端子T7−1を
図10に示す損失補償回路20の端子T20−12に接続し、信号符号切換回路7の入力端子T7−2を
図10に示す損失補償回路20の端子T20−22に接続し、変換対象回路9の出力端子T9−2を
図10に示す損失補償回路20の端子T20−5に接続する。
【0181】
次に、
図10を用いて、損失補償回路20について説明する。
【0182】
損失補償回路20は、信号分配回路22と、信号分配回路23と、符号切換回路24と、可変増幅減衰回路25と、位相シフト回路26と、信号加算回路27とを有する。
【0183】
信号分配回路22は、端子T20−21から入力端子T22−1に入力された信号を分配し、出力端子T22−2から端子T924を介して端子T20−22に出力し、出力端子T22−3から端子T925に出力する。
【0184】
信号分配回路23は、端子T20−11から入力端子T23−1に入力された信号を分配し、出力端子T23−2から端子T914を介して端子T20−12に出力し、出力端子T23−3から端子T915に出力する。
【0185】
符号切換回路24は、端子20−3から端子T21−3を介して切換制御入力端子T24−4に入力された切換制御信号LSCNTRに応じて、端子T915から端子T21−11を介して入力端子T24−1に入力された信号と、端子T925から端子T21−21を介して入力端子T24−2に入力された信号との一方の信号を選択して、出力端子T24−3から端子T907に出力する。
【0186】
なお、符号切替回路24及び信号符号切換回路7を連動して切り替えることによって、信号加算回路27から出力される信号を、変換対象回路9を経由する信号と損失制御回路21を経由する信号との和の信号や、差の信号に切り替えることができる。すなわち、変換対象回路9を経由する信号と損失制御回路21を経由する信号とが同相になるように符号切替回路24及び信号符号切換回路7を切り替えれば、信号加算回路27からは和の信号が出力される。一方、変換対象回路9を経由する信号と損失制御回路21を経由する信号とが反転し逆相になるように符号切替回路24及び信号符号切換回路7を切り替えれば、信号加算回路27からは差の信号が出力される。
【0187】
可変増幅減衰回路25は、端子T20−4から端子T21−4を介して信号レベル制御入力端子T25−3に入力された信号レベル制御信号LCNTRに応じて、端子T907から入力端子T25−1に入力された信号を増幅または減衰し、出力端子T25−2から端子T908に出力する。
【0188】
位相シフト回路26は、端子T908から入力端子T26−1に入力された信号の位相をシフトした信号を出力端子T26−2から端子T91に出力する。また、位相シフト回路26は、損失補償回路20を経由する信号により、変換対象回路9を経由する信号の損失を補償する機能も有する。
【0189】
信号加算回路27は、端子T91から、端子T21−5、端子T93を介して入力端子T27−1に入力された信号と、端子T20−5から端子T92を介して入力端子T27−2に入力された信号とを加算した和信号を、出力端子T27−3から端子T94を介して端子T20−6に出力する。
【0190】
次に、損失補償回路20の効果について説明する。損失補償回路20の中の損失制御回路21の部分は、
図1に示す第1端子3の信号と第2端子4の信号との差に対応する信号を位相シフト回路26によって位相をシフトさせて、イミタンス変換駆動回路10の端子T10−11又は端子T10−21に出力する。このため、イミタンス変換回路1の実数成分(損失成分)を削減又は増加することができる。また必要であれば、例えば浮遊容量等の虚数成分も削減又は増加することができる。
【0191】
以上に説明したように、本発明の第3の実施例によると、アドミタンスの次元で特性を減算または加算することができる。特に、減算する場合には、μrの余分な特性を補償することができる。よって、特性が良好な(例えば、Qが高い)回路を提供することができる。例えば、共振素子の並列容量を減らして、発振回路の可変範囲を大きくすることができる。
【0193】
第4の実施例では、
図1に示す双方向性フローティング型イミタンス変換回路1を構成するイミタンス変換生成回路5として、アドミタンス変換生成回路5bを用いる場合を説明する。
【0194】
アドミタンス変換生成回路5bを用いたイミタンス変換回路1は、発現する2端子イミタンスの関係が、既に説明したイミタンス変換生成回路5としてインピーダンス変換生成回路5aを用いる場合と比較し、2種類のイミタンス変換生成回路5のそれぞれが呈する2端子イミタンスの定性的関係が、逆数の関係にある特徴を有する。
【0195】
従って、
図1に示すイミタンス変換生成回路5として、
図11に示すアドミタンス変換生成回路5bを用いると、
図1に示す双方向性フローティング型イミタンス変換回路1は、双方向性フローティング型アドミタンス変換回路1として動作する。
【0196】
以下の説明において、
図1に示すイミタンス変換生成回路5の端子の符号と、
図11に示すアドミタンス変換生成回路5bの端子の符号とは一致させた。
【0197】
アドミタンス変換生成回路5bは、端子T5−11と、端子T5−12と、端子T5−13(第1帰還信号入力端子とも称する)と、端子T5−14と、端子T5−21と、端子T5−22と、端子T5−23(第2帰還信号入力端子とも称する)と、端子T5−24とを有する。
【0198】
アドミタンス変換生成回路5bにおいて、端子T5−11は、接続点T110、端子T111を介して、トランジスタQ11のベースに接続される。トランジスタQ11のコレクタは、接続点T112を介して、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL11の一方の端子と接続され、さらに、端子T113を介して端子T5−12端子に接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL11の他方の端子は、直流電位V11に接続される。
【0199】
端子T5−13は、端子T115を介してトランジスタQ12のベースに接続され、トランジスタQ12のコレクタは、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL12の一方の端子に接続される。トランジスタQ11のエミッタと、トランジスタQ12のエミッタと、共通インピーダンスRE(共通抵抗REとも称する)の一方の端子とは接続点T116にて互いに接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL12の他方の端子は、直流電位V12に接続される。
【0200】
端子T5−21は、接続点T120、端子T121を介して、トランジスタQ13のベースに接続される。トランジスタQ13のコレクタは、接続点T122を介して、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL21の一方の端子と接続され、さらに、端子T123を介して端子T5−22と接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL21の他方の端子は、直流電位V21に接続される。
【0201】
端子T5−23は、端子T125を介してトランジスタQ14のベースに接続され、トランジスタQ14のコレクタは、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL22の一方の端子に接続される。トランジスタQ13のエミッタと、トランジスタQ14のエミッタと、共通インピーダンスREの他方の端子とは接続点T126にて互いに接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL22の他方の端子は、直流電位V22に接続される。
【0202】
端子T5−14は接続点T110に接続される。端子T5−24は接続点T120に接続される。
【0203】
次に、
図11に示すアドミタンス変換生成回路5bを例にして、この回路の動作を「フローティング性」の観点から説明する。説明の便宜上、
図11の回路構成及び回路定数の設定は、同図の上下・左右に対して鏡面対称であるとする。このようにしても、本発明の一般性は失われない。但し、左右のトランジスタについては、直流的には左右に相補的鏡面対称であるが、交流信号的には左右鏡面対称と扱ってよい。また、端子T5−11には信号e10が入力され、端子T5−21には信号e20が入力される。
【0204】
ここで、端子T5−13に入力される信号e19が信号e20と等しく、かつ、端子T5−23に入力される信号e29が信号e10と等しい場合、端子T5−11に入力される信号と端子T5−13に入力される信号との同相信号成分e1113cと端子T5−21に入力される信号と端子T5−23に入力される信号との同相信号成分e2123cとが同電位となるため、端子T116と端子T126の間の共通抵抗REの仮想的な中間点の電位と一致し、共通抵抗REに電流は流れない。また、端子T5−11と端子T13にそれぞれ入力された信号の差動信号成分e1113d(=(e10−e20)×0.5)による電流は、端子T116、トランジスタQ11、イミタンスレベル設定インピーダンスRIL11、直流電源V11、直流電源V12、イミタンスレベル設定インピーダンスRIL12、トランジスタQ12から端子T116に至る電流通路を流れる。すなわち、共通抵抗REはもとより、直流電源V11及び直流電源V12を介して、何れの部分へも電流は流れない。トランジスタQ13とトランジスタQ14とを含む電流通路についても同様なので説明を省略する。
【0205】
端子T5−11に入力される信号と端子T5−21に入力される信号との同相信号成分e1121cと、端子T5−13に入力される信号と端子T5−23に入力される信号との同相信号成分e1323cと、を一致させる条件設定((e10+e20)×0.5=(e19+e29)×0.5)が同相信号バランス条件である。この条件は、第2の実施例に例示した信号補正回路11によって実現可能である。
【0206】
次に、前述した同相信号バランス条件を満たした状態で、端子T5−13入力される信号の大きさと端子T5−23に入力される信号の大きさとが任意の値である場合について説明する。
【0207】
トランジスタQ11のベースに入力される信号e10とトランジスタQ12のベースに入力される信号e19との同相信号成分e1019c(=(e10+e19)×0.5)は、共通抵抗REの仮想中間点の電位((e10+e20)×0.5))とは一致しない。従って、共通抵抗REに同相信号成分e1019cが原因で電流i1019cが流れる。
【0208】
トランジスタQ13のベースに入力される信号e20とトランジスタQ14のベースに入力される信号e29との同相信号成分e2029c(=(e20+e29)×0.5)は、共通抵抗REの仮想中間点の電位((e10+e20)×0.5))とは一致しない。従って、共通抵抗REに同相信号成分e2029cが原因で電流i2029cが流れる。
【0209】
端子T5−11に入力される信号e10と、端子T5−21に入力される信号e20と、端子T5−13に入力される信号e19と、端子T5−23に入力される信号e29とが、同相信号バランス条件及び差動信号バランス条件を満たすならば、二つの電流のi1019c及びi2029cの大きさは一致する。ここで、同相信号バランス条件は、(e10+e20)×0.5=(e19+e29)×0.5である。また、差動バランス条件は、共通抵抗REの両端に、絶対値|e10−e20|に比例し、符号が反対の信号を供給することである。すなわち、差動信号バランス条件を満たす信号を端子T5−13と端子T5−23とに入力すれば、二つの電流i1019c及びi2029cは一致する。
【0210】
なお、共通抵抗REから、トランジスタQ11及びQ12を介して、直流電源V11及びV12に流れた交流電流の全ては、直流電源V21及びV22に流れ、トランジスタQ13及びQ14を経由し、端子T126を介して、共通抵抗REに至る。すなわち、直流電源V11、V12、V21、V22が交流的に基準端子2(例えば、グランド)に接続されていても、基準端子2に電流は流れない。従って、フローティング性が満たされる。
【0211】
これら、同相信号バランス条件と、差動信号バランス条件と、を同時に満たす信号を、端子T5−13と端子T5−23とに供給する回路が、イミタンス変換駆動回路10であり、
図1または
図8に示すTE点の電位を、(e10+e20)×0.5に管理する。
【0212】
端子T5−11から入力される差動信号はトランジスタQ11、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL11を通って、直流電源V11に流れる。一方、端子T5−13から入力される差動信号はトランジスタQ12、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL12を通って、直流電源V11に流れる。また、トランジスタQ11のエミッタとトランジスタQ12のエミッタとは接続されている。このため、トランジスタQ11の特性とトランジスタQ12の特性とが同じであれば、トランジスタQ11のベース・コレクタ間を流れる電流と、トランジスタQ12のベース・コレクタ間を流れる電流とは、互いに符号が反対で、その絶対値が等しくなる。
【0213】
同様に、トランジスタQ13の特性とトランジスタQ14の特性とが同じであれば、トランジスタQ13のベース・コレクタ間を流れる電流と、トランジスタQ14のベース・コレクタ間を流れる電流とは、互いに符号が反対で、その絶対値が等しくなる。
【0214】
左側のトランジスタQ11、Q12と、右側のトランジスタQ13、Q14とはそれぞれ同じ動きをする。このため、アドミタンス変換生成回路5bにおいて、定常時には、共通インピーダンスREには同相成分による電流が流れる。
【0215】
次に、第4の実施例の効果について説明する。
図3に示す変換対象回路9の等価回路が直列回路に対応する場合、第4の実施例で2端子イミタンス(並列共振回路)が実現できる。
【0216】
表2(
図18)の第4の実施例の項に、2端子インピーダンスz0を実現するための例を記載した。
【0217】
次に、
図11を用いて第4の実施例の動作を説明する。
図1に示すイミタンス変換生成回路5としてのアドミタンス変換生成回路5bは、イミタンス変換回路1全体として、直列加算型帰還回路の一部を構成している。すなわち、
図11において、共通インピーダンスREの左側の接続点T116には、端子T5−11に入力された信号と、端子T5−13とに入力された信号とが電圧として加算又は減算されるように、アドミタンス変換生成回路5bが動作する。同様に、共通インピーダンスREの右側の接続点T126には、端子T5−21に印加された信号と、端子T5−23とに入力された信号とが電圧として加算又は減算されるように、アドミタンス変換生成回路5bが動作する。このことは、例えば、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL11とイミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL12とに流れる電流は、端子5−11と端子T5−13とに入力される電圧の差又は和に比例することと等価である。
【0218】
従って、第4の実施例において、端子T5−11に入力された信号(e10)と、端子T5−13とに入力された信号(e19)とが電圧として加算又は減算され、端子T5−21に印加された信号(e20)と、端子T5−23とに入力された信号(e29)とが電圧として加算又は減算されることから、イミタンス変換生成回路5はアドミタンス変換生成回路として動作する。このことは、第1の実施例における
図2に示したインピーダンス変換生成回路5aにおいて、例えば、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL1流れる電流は、端子5−11と端子T5−13とに入力される電流が、直接入力される。すなわち、電流として加算又は減算されるように動作することとは、本質的に異なる。
【0219】
次に、
図12を用いて、シミュレーション結果を説明する。シミュレーションの条件は、四つのトランジスタの電流増幅率を99とし、共通インピーダンスREを8kΩとした。その他のパラメータは表1の通りである。
【0220】
図12の横軸と縦軸は、
図5(a)と同じである。
図12より、第1端子3と第2端子4との間に発現するインピーダンスは、四つのトランジスタのそれぞれのコレクタと直流電源との間に接続される抵抗RIL11〜RIL22の抵抗値に比例し、変換対象回路の利得を含む総合利得に比例することが分かる。
【0221】
抵抗RIL11〜RIL22は、外部から入力される制御信号によって、その値を変化してもよい。この際、抵抗RIL11〜RIL22が同じ値となるように制御しても、抵抗RIL11〜RIL22の値が所定の関係となるように制御してもよい。
【0222】
次に、アドミタンス変換生成回路5bを用いた場合の双方向性フローティング型イミタンス変換回路1の動作を、数式を用いて説明する。
【0223】
双方向性フローティング型イミタンス変換回路1の第1端子3と第2端子4との間の2端子インピーダンスz0は、式(10)で表すことができる。
【数10】
【0224】
式(10)において、
図11に示すRIL11、RIL12、RIL21、RIL22は、四つのトランジスタQ11、Q12、Q13、Q14のそれぞれのコレクタ端子と直流電源との間に配置される抵抗であり、それらの抵抗値は全て等しくRILとした。
【0225】
βは四つのトランジスタQ11、Q12、Q13、Q14の電流増幅率であり、これらも等しい値にした。
【0226】
一般に、式(10)が成立するためには、以下の式(11)及び式(12)が成立していればよい。
【数11】
【数12】
【0227】
μtaは、端子T5−12から端子T5−13に至る総合利得、及び、端子T5−22から端子T5−23に至る総合利得であり、両者は等しく設定した。また、μtaの値は、一般的に複素量である。また、μtaの符号(正負)は、負帰還動作か正帰還動作かに対応して変わる。
【0228】
次に、
図11に示すアドミタンス変換生成回路5bを用いた場合の正帰還接続と負帰還接続について説明する。
【0229】
このため、例えば、端子T5−11と端子T5−13との間の位相関係が、正帰還接続であるか又は負帰還接続であるかを決定する。
【0230】
第4の実施例は、第1の実施例に対して、定性的に逆数の関係にある回路を提供できる効果がある。すなわち、式(6)及び式(10)に示すように、複素成分(μta)が逆数の関係になることから、
図5(a)に示す周波数特性と、
図12に示す周波数特性とが逆になる。
【0231】
次に、本発明のイミタンス変換駆動回路10と、アドミタンス変換生成回路5bと、においては、増幅作用は必須ではない場合(すなわち、|μta|<1)の回路の例を説明する。イミタンス変換駆動回路10とアドミタンス変換生成回路5bとを構成する複数のトランジスタの、ベース(ゲート)、エミッタ(ソース)、コレクタ(ドレーン)と周辺部分との接続は、第1端子3側と、第2端子4側とが鏡面対称に接続されれば、ベース(ゲート)、エミッタ(ソース)、コレクタ(ドレーン)は任意に選択できる。
【0232】
次に、
図13を用いて、アドミタンス変換生成回路5bとして、耐電流性を増強する回路形式について説明する。この変形例のアドミタンス変換生成回路5bは、端子T5−11、端子T5−13、端子T5−21、端子T5−23に各トランジスタのベース(ゲート)を接続しない回路形式である。
【0233】
図13に示すアドミタンス変換生成回路5bにおいて、端子T5−11は、接続点T110、端子T111を介して、トランジスタQ11のエミッタに接続される。トランジスタQ11のベースは、接続点T112を介して、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL11の一方の端子と接続され、さらに、端子T113を介して端子T5−12端子に接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL11の他方の端子は、直流電位V11に接続される。
【0234】
端子T5−13は、端子T115を介してトランジスタQ12のエミッタに接続され、トランジスタQ12のベースは、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL12の一方の端子に接続される。トランジスタQ11のコレクタと、トランジスタQ12のコレクタと、共通インピーダンスREの一方の端子とは接続点T116にて互いに接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL12の他方の端子は、直流電位V12に接続される。
【0235】
端子T5−21は、接続点T120、端子T121を介して、トランジスタQ13のエミッタに接続される。トランジスタQ13のベースは、接続点T122を介して、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL21の一方の端子と接続され、さらに、端子T123を介して端子T5−22と接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL21の他方の端子は、直流電位V21に接続される。
【0236】
端子T5−23は、端子T125を介してトランジスタQ14のエミッタに接続され、トランジスタQ14のベースは、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL22の一方の端子に接続される。トランジスタQ13のコレクタと、トランジスタQ14のコレクタと、共通インピーダンスREの他方の端子とは接続点T126にて互いに接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL22の他方の端子は、直流電位V22に接続される。
【0237】
端子T5−14は接続点T110に接続される。端子T5−24は接続点T120に接続される。
【0238】
図13に示す変形例の動作・作用は、
図11に示すアドミタンス変換生成回路5bの動作・作用と同様なのでその説明を省略する。
【0239】
次に、
図14を用いて、アドミタンス変換生成回路5bの第2の変形例を説明する。
【0240】
図14に示すアドミタンス変換生成回路5bにおいて、端子T5−11は、接続点T110、端子T111を介して、トランジスタQ11のコレクタに接続される。トランジスタQ11のエミッタは、接続点T112を介して、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL11の一方の端子と接続され、さらに、端子T113を介して端子T5−12端子に接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL11の他方の端子は、直流電位V11に接続される。
【0241】
端子T5−13は、端子T115を介してトランジスタQ12のコレクタに接続され、トランジスタQ12のエミッタは、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL12の一方の端子に接続される。トランジスタQ11のベースと、トランジスタQ12のベースと、共通インピーダンスREの一方の端子とは接続点T116にて互いに接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL12の他方の端子は、直流電位V12に接続される。
【0242】
端子T5−21は、接続点T120、端子T121を介して、トランジスタQ13のコレクタに接続される。トランジスタQ13のエミッタは、接続点T122を介して、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL21の一方の端子と接続され、さらに、端子T123を介して端子T5−22と接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL21の他方の端子は、直流電位V21に接続される。
【0243】
端子T5−23は、端子T125を介してトランジスタQ14のコレクタタに接続され、トランジスタQ14のエミッタは、イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL22の一方の端子に接続される。トランジスタQ13のベースと、トランジスタQ14のベースと、共通インピーダンスREの他方の端子とは接続点T126にて互いに接続される。イミタンスレベル設定インピーダンス素子RIL22の他方の端子は、直流電位V22に接続される。
【0244】
端子T5−14は接続点T110に接続される。端子T5−24は接続点T120に接続される。
【0245】
図14に示す変形例の動作・作用は
図11に示したアドミタンス変換生成回路5bの動作・作用と同様なのでその説明を省略する。
【0246】
図13および
図14の実施例において、例えば、端子T5−11からトランジスタQ11に流れる電流と、トランジスタQ12に流れる電流とは、各トランジスタのベース端子を介さないことから十分な電流を流す余裕を有する。すなわち、
図13および
図14に示すアドミタンス変換生成回路5bでは、電圧増幅率は小さいが、大きな電流を扱うことができる。
【0247】
以上の説明では、
図11を用いてベース入力・エミッタ共通形式の場合について説明し、
図13を用いてエミッタ入力・コレクタ共通形式式の場合について説明し、
図14を用いてコレクタ入力・ベース共通形式の場合について説明したが、前述した三つの例以外に、トランジスタにFETを用いてもよい。すなわち、エミッタ接地に代えてソース端子を接地し、ベース接地に代えてゲート端子を接地し、コレクタ接地に代えてドレーン端子を接地してもよい。
【0248】
なお、
図11、
図13及び
図14に示すアドミタンス変換生成回路5bにおいて、その動作のために、従来技術と同様な、直流バイアス回路等を追加する必要がある。さらに、
図11、
図13及び
図14に示すように、バイポーラトランジスタの場合に、Q11及びQ13に相補型(コンプリメンタリ)トランジスタを採用し、Q12及びQ14に相補型(コンプリメンタリ)トランジスタを採用することは従来技術と同様である。
【0249】
次に、双方向性フローティング型イミタンス変換回路1のその他の変形例について説明する。
【0250】
本明細書では、「フローティング性」を、所謂「フローティング性」に加えて、性能発現端子と性能制御端子との間の「分離性」を含めた概念で用いている。この分離性は、例えば、
図1のトランジスタQ1、Q2のベース、コレクタ間のアイソレーションに依存する。このアイソレーションを拡大するために、トランジスタをカスコード接続してもよい。また、ベース・エミッタ間のアイソレーションを拡大するために、ダーリントン接続してもよい。
【0251】
変換対象回路9は、一方向性3端子回路、双方向性3端子回路、2端子回路、等如何なる回路でもよい。また、増幅効果を有さなくてもよい。
【0252】
第2の実施例において、フローティング性能を満たすように、
図8に示す可変減衰回路14の減衰量を調整する例を示した。しかし、本発明は、これに限定されない。すなわち、フローティング性能の拘束を取り除くことにより、さらに広範囲の2端子イミタンス様の特性、すなわち、複素平面上での振舞を、単純な円線形状からカーディオイド形状等、さらに広範囲に制御することができる。
【0254】
第1の実施例から第4の実施例において、
図3に示す変換対象回路9を用いる双方向性フローティング型イミタンス変換回路1の特性が以下であることを示した。イミタンス変換生成回路5として、
図2に示すインピーダンス変換生成回路5aを用いる場合、イミタンス変換回路1は、直列共振回路が呈するインピーダンス特性に等価である。また、
図11に示すアドミタンス変換生成回路5bを用いる場合、イミタンス変換回路1は、並列共振回路が呈するインピーダンス特性と等価である。
【0255】
さらに、これら二つの等価的な共振回路の共振周波数が周波数制御信号FCNTRによって制御可能であり、インピーダンスレベルがイミタンスレベル制御信号ICNTRによって制御可能であり、さらに、両者は独立に制御可能であることを示した。
【0256】
第5の実施例では、これらの直列共振回路と並列共振回路とを利用するフィルタについて、入力ポート及び出力ポートの片端を基準端子とする対称型有極帯域通過フィルタを例にして、中心周波数及び通過帯域幅を外部制御信号に応じて可変する手段を、
図15用いて説明する。
【0257】
図15に示す可変フィルタ61には、四つの双方向性フローティング型イミタンス変換回路70、71、72及び73のみを記す。双方向性フローティング型イミタンス変換回路70、71、72及び73は、前述した実施例の双方向性フローティング型イミタンス変換回路1を用いる。また、可変フィルタ61をイミタンス変換回路70等の端子3、4は、双方向性フローティング型イミタンス変換回路1の端子3、4に、それぞれ対応する。説明にあたり、例えば、双方向性フローティング型イミタンス変換回路70を、単に「共振回路70」と称する。他のイミタンス変換回路も同様である。
【0258】
可変フィルタ61は、対称型有極型帯域通過フィルタであるので、共振回路70及び73は直列共振回路であり、共振回路71及び72の一方は直列共振回路であり、共振回路71及び72の他方は並列共振回路である。すなわち、共振回路71及び72の一方にはインピーダンス変換生成回路5aを用い、共振回路71及び72の他方にはアドミタンス変換生成回路5bを用いる。
【0259】
図15に示す可変フィルタ61は、入力端子62と、出力端子63と、基準端子2と、中心周波数制御信号入力端子66と、帯域幅制御信号入力端子67とを有する。
【0260】
図15に示す可変フィルタ61は、共振回路70と、共振回路71と、共振回路72と、共振回路73と、帯域幅制御回路64と、中心周波数制御回路65とを有する。
【0261】
共振回路70は、入力端子62から端子T201を介して、端子3に供給された信号に共振作用を施した信号を端子4から端子T202に出力する
【0262】
共振回路71は、端子T202から接続点T203及び端子T204を介して、端子3に入力された信号に共振作用を施した信号を端子4から端子T205に出力する。
【0263】
共振回路72は、端子T205を介して、端子3に入力された信号に共振作用を施した信号を端子4から端子T206に出力する。
【0264】
共振回路73は、接続点T203から端子T207、端子Tn−1から端子3に入力された信号に共振作用を施した信号を端子4から端子Tnに出力する。
【0265】
帯域幅制御回路64は、帯域幅制御信号入力端子67から端子T213を介して入力端子T64−10に供給された信号BCNTRSを所定の変換関数によって変換した信号を、各出力端子T64−0、T64−1、T64−2、T64−nに出力する。すなわち、帯域幅制御回路64の出力信号は、出力端子T64−0から端子T214を介して共振回路70のイミタンス制御入力端子ICNTR0に入力され、出力端子T64−1から端子T215を介して共振回路71のイミタンス制御入力端子ICNTR1に入力され、出力端子T64−2から端子T216を介して共振回路72のイミタンス制御入力端子ICNTR2に入力され、出力端子T64−nから端子T217を介して共振回路73のイミタンス制御入力端子ICNTRnに入力される。
【0266】
中心周波数制御回路65は、中心周波数制御信号入力端子66から端子T208を介して入力端子T65−10に入力された信号FCNTRSを所定の変換関数によって変換をした信号を、各出力端子T65−0、T65−1、T65−2、T65−nから出力する。すなわち、中心周波数制御回路65の出力信号は、出力端子T65−0から端子T209を介して共振回路70の周波数制御入力端子FCNTR0に入力され、出力端子T65−1から端子T210を介して共振回路71の周波数制御入力端子FCNTR1に入力され、出力端子T65−2から端子T211を介して共振回路72の周波数制御入力端子FCNTR2に入力され、出力端子T65−nから端子T212を介して共振回路73の周波数制御入力端子FCNTRnに入力される。
【0267】
端子T206は基準端子2に接続し、端子Tnは出力端子63に接続する。
【0268】
可変フィルタ61の動作を説明する。
図15に示す可変フィルタ61は、与えられた入出力インピーダンスに対して、通過帯域幅及び中心周波数を、BCNTRS及びFCNTRSによって、独立に可変することができる。
【0269】
通過帯域幅は、各共振回路を構成する双方向性フローティング型イミタンス変換回路1のイミタンスレベル可変回路8のイミタンスレベル制御信号ICNTRを、相互に関係を持たせて変化させることによって、制御することができる。四つの共振回路70、71、72、73に入力されるイミタンスレベル制御信号ICNTRの相互関係は、帯域幅制御回路64内に予め保存されている変換関数によって変換された値を、帯域幅制御信号BCNTRに応じて、各イミタンスレベル制御信号ICNTR連動して制御することによって、任意に設定することができる。この制御機能は、帯域幅と周辺回路のインピーダンスが動的に変化する場合にも追従対応可能である。
【0270】
中心周波数は、中心周波数制御回路65内に予め保存されている変換関数によって変換された値を、中心周波数制御信号FCNTRSに応じて、周波数制御信号FCNTRを連動して変化させることによって、制御することができる。この制御状態は、動的整合、すなわち、帯域幅と周辺回路のインピーダンスが変化する場合にも追従可能である。第5の実施例の可変フィルタ61では、共振回路70、71、72、73の複数のICNTR信号の相互関係を適当に設定することによって、各共振回路の共振周波数は、全て同じ周波数に設定することができる。このため、各共振周波数を連動して高精度に制御することは、自動同調回路等を利用して容易に実現できる。
【0271】
次に、
図19(表3)を用いて、第5の実施例の共振回路の組み合わせによる可変フィルタ回路の構成を説明する。
【0272】
表3(
図19)には、帯域通過フィルタ(Band Pass Filter)、帯域阻止フィルタ(Band Elimination Filter)、低域通過フィルタ(Low Pass Filter)、高域通過フィルタ(High Pass Filter)の4種類のフィルタを構成するための、各共振回路70〜73の構成を示す。また、表3には、前述したフィルタの他、進相位相変換器(Advance Phase Shifter)、遅相位相変換器(Delay Phase Shifter)の2種類のフィルタを構成するための、各共振回路70、71の構成を示す。
【0273】
例えば、帯域通過フィルタを構成するために、共振回路70は、
図18(表2)の実施例1のD(直列共振回路)又は実施例4のE(直列共振回路)である。また、共振回路71は、表2の実施例4のD(並列共振回路)又は、実施例1のE(並列共振回路)である。また、共振回路72及び73は、表2の実施例1のD(直列共振回路)又は実施例4のE(直列共振回路)である。このように、共振回路70〜73を構成することによって、チェビシェフ型のバンドパスフィルタを構成することができる。
【0274】
但し、表3(
図19)に示すフィルタを構成する共振回路の信号符号切換回路7の符号切換制御信号SCNTRの符号の正負の設定は任意に選択してもよい。特に、進相位相変換器の場合や、遅相位相変換器の場合は、一つの変換器でありながら、SCNTRの符号の正負を反転することによって、進相と遅相との両位相を切換反転させる効果を有する。
【0275】
また、他の形式のフィルタも、表3に記載された符号で表2を参照することによって、各共振回路の構成を得ることができる。
【0277】
次に、
図16を用いて、第5の実施例の可変フィルタ61の減衰特性のシミュレーション結果を説明する。
【0278】
フィルタの構成は、Anatol I. Zverev著,「Handbook of FILTER SYNTHESIS」,1967年,p.202〜203に開示されている保証減衰量21dBの5次の有極型チェビシェフ函数の基準ローパスフィルタを用いて入出力インピーダンスを50Ωとしたバンドパスフィルタを、3dB/50Ωの抵抗減衰回路で2段従属接続した回路形式とした。
【0279】
図16において横軸が周波数(MHz)、縦軸が減衰量(dB)である。破線は、中心周波数が2,200MHz、帯域幅が40MHzのフィルタの特性を示す。実線は、中心周波数が2,400MHz、帯域幅が20MHzのフィルタの特性を示す。総合利得μtaを2倍にすれば、帯域幅を2倍にすることができる。中心周波数を2,300MHzにおいて、200MHz可変することは、可変比帯域幅は約10%であるので、従来技術によるコイルと可変コンデンサを組み合わせたLC−VCOによって可能な値である。
【0280】
すなわち、
図15に示す外部制御信号BCNTRS及びFCNTRSを変えることによって、可変フィルタとして機能することがわかる。
【0281】
次に、複数の変換対象回路の共振回路の共振周波数と、温度と、通過帯域幅制御信号BCNTRSとの三者間の対応関係を予め設定しておき、温度センサからの情報に基づいて、通過帯域幅制御信号BCNTRSを制御することによって、温度変動分を削減することができる。
【0282】
また、複数の変換対象回路の共振回路の共振周波数を、外部参照周波数信号(例えば、GPS信号)に基づいて、周波数制御信号との対応関係を、随時、校正することにより、高精度のフィルタを実現できる。このことは、例えば、第5の実施例に示すフィルタをIC回路内に搭載する場合、初期偏差、温度変動、経年変化等を、製造完了後に、検査、校正等が可能であることを意味する。
【0283】
以上に説明したように、本発明の第5の実施例によると、特性を制御可能なチューナブルフィルタを実現することができる。第5の実施例のチューナブルフィルタは、高次のフィルタであって、低損失かつ高いQを有するフィルタを実現することができる。
【0284】
以上、本発明を添付の図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこのような具体的構成に限定されるものではなく、添付した請求の範囲の趣旨内における様々な変更及び同等の構成を含むものである。