(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム又はアルミニウム合金へのメッキ方法であって、脱脂等の予備処理を行い、硫酸、芳香族スルホン酸、硫酸アルミニウム及び/又は硫酸銅を添加した水溶液である電解液で、陰極と陽極が周期的に反転し陰極時間が長い電流反転により酸電解を行い、メッキを行った後、熱処理を行う様にしたことを特徴とする表面処理方法。
【背景技術】
【0002】
従来、1000番〜7000番台で展伸材と称されたり、鋳物材のADC、ACと称される各種のアルミニウム、アルミニウム合金(鋳物用アルミニウム合金、ダイカスト用アルミニウム合金)(以下、アルミニウムと称する)上へのメッキ方法として、他の金属の場合と同様なメッキ方法では密着性のある析出物は得られず、その理由中、主要なものは大気中でアルミニウムの素地表面に自然酸化膜が生成し易いからであり、この困難を克服するために前処理法として亜鉛置換法と陽極酸化法がある。
【0003】
先ず、下地金属を付着させる亜鉛置換法においては、亜鉛の置換を均一にするためには先ず素地を清浄にし、表面を活性化して亜鉛が析出し易い状態にすることが大切であり、腐食作用の弱い液を使用して浸漬脱脂し、次に生成している素地表面の自然酸化膜の除去と、亜鉛層の析出を妨害する様な微少成分を除去し、次に亜鉛置換液(アルカリ溶液)中で30〜60秒間浸漬し、この操作で表面の酸化膜が除去されると同時に薄い密着性の亜鉛層を被覆し、かかる亜鉛皮膜を次工程のメッキの足がかりと成す。
【0004】
又、脱脂等の前処理における他の方法としては亜鉛の二重置換法があり、最初の亜鉛層を硝酸に浸漬して除去し再び亜鉛を被覆する方法であり、最初の置換によって自然酸化膜は除去され、亜鉛層を硝酸によって除けば素地の表面は第2次亜鉛層を生成させるのに適した状態になり、第2次亜鉛層は上記と同様なメッキの足がかりとなり、この様な亜鉛置換法は高温、高湿度の中で長時間置くとアルミニウム素材のピンホールの中の残留液が亜鉛層を破壊して膨れが発生して密着性が完璧でなく、又置換液が高価であり、且つ電気メッキ及び無電解メッキした時にメッキ液の寿命が短くなる欠点を有していた。
【0005】
又、一般的にアルミニウム上に自然に形成される酸化膜はメッキの密着性を阻害するが、ある種の陽極酸化膜はメッキ下地として最適であり、かかる酸化膜は素地に対して充分に喰い込んでいる上に多孔性に富んでいて適当な足がかりと成るが、この様な陽極酸化法では電気メッキしか出来ない欠点があり、又品物をプラス極とするためにアルミニウムが溶解し、溶存アルミニウム、銅、シリコン等の不純物が増加すると液抵抗が大きくなって悪化し、電解液の更新が頻繁に必要となり、特に不純物が多いアルミニウム合金では顕著であり、且つ電解電圧を上昇させねばならない欠点を有し、又陽極酸化膜の多孔質のポアを大きく均一に形成することが実用上困難なため実際にはライン例が少ない。
【0006】
尚、上述した亜鉛置換法、二重亜鉛置換法においても、不純物の多いアルミニウムに対しては陽極酸化法と同様の電解液の更新が頻繁に必要となる欠点も併せて存在していた。
【0007】
そこで、本願出願人は、上記欠点を解消すべく、電解液の更新頻度を極端に低下させ補充管理だけ行えば良く、又無電解メッキを可能と成したり、不純物の多いアルミニウムに対してもメッキ出来る様にし、且つ安価、奇麗にアルミニウム上へ直接メッキする様にしたアルミニウムとアルミニウム合金へのメッキ方法を開発した(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特許文献1に記載の発明を改良したもので、メッキ処理後に熱処理を行うことによって、アルミニウム素地とメッキ層の密着性を更に向上させ、且つアルミニウム素地の硬度、強度をも向上させる様にした表面処理方法及び該表面処理方法に使用する電解液を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記従来技術に基づく、アルミニウム上へのメッキに際して亜鉛置換法では密着性が完璧でなくメッキ液に悪影響を及ぼす課題、又陽極酸化法では素地が溶解して電解液の更新が必要となったり、製造ラインでの実用化例が少ない課題に鑑み、芳香族スルホン酸を添加した特殊な電解液で、陰極時間が長い電流を通電して酸電解する事により水素還元活性化を行って、芳香族スルホン酸で素地表面を均一に活性化すると共に、素地表面に形成されるイオウ化合物の保護膜を薄く均一に形成することによって、メッキ液中で瞬間的に一呼吸でかかる保護膜を除去すると共に、活性化された素地表面にメッキを析出する様にし、又溶存アルミニウムになる硫酸アルミニウム或いは硫酸銅の追添加により密着性を向上する様にし、更にメッキ処理後に熱処理を行うことによって、素地から析出した含有物質とメッキ層の構成分子とのイオン結合により、密着性を更に向上させる様にして、上記課題を解決せんとしたものである。
【発明の効果】
【0011】
要するに本発明は、脱脂等の予備処理を行い、硫酸を10〜35%wt/lを添加した水溶液から成る低温度の電解液で、陰極時間が長い電流により酸電解を行って、その後メッキを行うことにより、陰極時に素地の水素還元活性化を行うと共に、保護膜の付着形成を行い、又陽極時に素地のソフトエッチングを行い、同時に素地に大きな凹凸が存在した場合に極間距離が短い凸部の電解を行ったり、特定個所に凸部状又は異常厚さの保護膜が形成された時には、電解研摩作用に類似すると共に、付着除去量でかかる特定個所の保護膜を優先的に除去して均一な保護膜を形成し、メッキの密着性を向上することが出来、又イオウ化合物はメッキ液中で一呼吸で除去され、且つイオウ化合物は酸性であるためにメッキ液に悪影響を与えず、従来必要であった亜鉛置換皮膜、陽極酸化皮膜等の中間膜層を必要としない。
【0012】
又、基本的に硫酸を電解液とした場合に比して、硫酸を10〜35%wt/lと、芳香族スルホン酸を0.1〜40%wt/lを添加した水溶液の電解液で、陰極時間が長い電流により酸電解を行って、その後メッキを行う様にしたので、芳香族スルホン酸の添加剤の作用で均一電解を行うことが出来、又素地が陰極時に還元されて活性化すると共に、素材表面にイオウ化合物の保護膜形成を行うことが出来、従来必要であった亜鉛置換皮膜、陽極酸化皮膜等の中間膜層を必要とせず、電気メッキ又は無電解メッキによりアルミニウム上へ直接メッキが可能となり、工程の簡略化、コストダウンが出来、又水素還元活性化によりメッキの密着性、メッキ後の光沢を優良にすることが出来、又電解中に品物がマイナス極であるために素地の溶解が発生しないために電解液を清浄に維持して電解液の更新頻度を極端に低下させ補充管理だけにしたり、アルミニウムに不純物が多く入っていても電解液の更新頻度を低下させることが出来、又予備処理及びメッキ処理は既設のラインを応用することが出来る。
【0013】
又、電解液に硫酸アルミニウム0.1〜10g/lを添加したので、芳香族スルホン酸と同様に均一電解により、適度な保護膜形成を行ってメッキの密着性を向上することが出来、又同様な作用効果を有する芳香族スルホン酸と硫酸アルミニウムの両添加剤の関係において、両者は有機物と無機物等の性状が全く相違し、夫々の物質には溶解限度、最適添加量等の種々な要因があり、一方だけでは良好なメッキを得ることが出来なくても、両物質は夫々の作用を単独、別個で行って常時安定的な均一電解作用を行って、両物質の併用により所望の作用を達成することが出来る。
【0014】
又、電解液に硫酸銅0.01〜1g/lを添加したので、アルミニウムにおいて銅成分を未含有又は低量含有の時に、メッキエ程の予備処理中における露出した素地表面に対して適量の銅を析出させることが出来、即ちメッキ析出が良好な銅含有のアルミニウム合金は予備処理中に素地表面に銅成分を露出させており、各種アルミニウムの素地表面も銅含有のアルミニウム合金と同様な銅成分を露出、析出状態とすることが出来る。
【0015】
そして、素地表面の微少凹部に密着した銅成分は元来、析出が非常に良好な成分であるために、酸電解後のメッキ時に銅成分を足がかりとすることが出来て、メッキ成分と銅成分が密着してメッキ成分を素地表面に強固に析出、メッキすることが出来る。
【0016】
更に、メッキ処理後に熱処理を行う様にしたので、素地から析出した含有物質とメッキ層の構成分子とのイオン結合により硬質なイオン結晶となるため、メッキ層と素地との密着性を更に向上させることが可能で、而も素地自体の硬度、強度も向上させることが可能な、新たなアルミニウム素材を提供することが出来る。
【0017】
又、陰極と陽極が周期的に反転し陰極時間が長い電流反転により酸電解を行う様にしたので、陰極と陽極の反転比率が設定されれば、全体の酸電解時間を管理する1個のトータルタイマーを操作するだけであるために、3個のタイマー操作を必要として機能上のコントロールが複雑な交直切換電源に比して、簡単なワンコントロールで行うことが出来る。
【0018】
又、直流と交流を併用するか、直流と交流を切換えて陰極時間が長い電流により酸電解を行う様にしたので、材質によっては、多量のソフトエッチングを必要とすることに対して、付着分の除去、減少を同時に発生する陽極時間に対して、付着作用させる陰極時間を別個に設定出来て、特殊な材質に対して、通電調整を容易と成したり、全体の酸電解時間を短縮することが出来る等その実用的効果甚だ大である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
下記の様にアルミニウムに対して脱脂、エッチング、スマット除去等の予備処理を行い、後述する特殊な電解液(硫酸にサーファX−B剤と称する物質を添加したもの)で後述する酸電解(前処理)、即ち品物(アルミニウム又はアルミニウム合金)がマイナス極となる陰極電解、且つ短時間プラス極となる陽極電解の状態で、酸電解を行ってサーファX−B剤の作用により、アルミニウム素材を活性化すると共にイオウ化合物の保護膜で被覆し、その後メッキ(通常の電気メッキ又は無電解メッキ)を行う。
【0021】
上記した脱脂等の予備処理、酸電解処理(前処理)の具体的工程及び処理条件、目的等を説明すると、1)浸漬脱脂、2)エッチング、3)スマット除去、4)酸電解を行った後、通常のメッキ処理を行い、最後に熱処理を行う。
【0022】
1) 浸漬脱脂
(条件) 10〜20%v/l、サーファX−A剤、温度20〜50℃、時間5分以下。
サーファX−A剤とは汎用水性エマルジヨン型脱脂洗浄剤である。
(目的) 素地表面の油脂分を除去する。
【0023】
2) エッチング
(条件) カセイソーダ(水酸化ナトリウム)10〜200g/l、温度30〜60℃、浸漬時間5分以下。
(目的) 品物表面の自然酸化膜及び加工変質層の除去。
【0024】
3) スマット除去
3)−1
図4乃至
図6の材質種類
(条件) 10〜50%硝酸、温度30℃以下、浸漬時間5〜120秒、例えば50%硝酸とは62%硝酸4に対して水1の割合の浴を言う。
3)−2
図7乃至
図10の材質種類
(条件) フッ酸、硝酸の混合浴、温度30℃以下、浸漬時間5〜120秒、例えばフッ酸4:硝酸2:水4の割合の浴。
(目的) 自然酸化膜及び加工変質層をエッチングにより除去するため発生するスマット(アルミニウム以外の不純物でスス状の微小成分)を除去。
【0025】
上記した脱脂等の予備処理の具体的工程及び処理条件である1)浸漬脱脂、2)エッチング、3)スマット除去は上記のものに限らず、即ち上記予備処理工程を浸漬法と称することに対して、下記条件で電解して1)浸漬脱脂及び2)エッチングを1工程で行う電解法でも良い。
【0026】
1)、2) 脱脂及び電解研摩
(条件) 炭酸ナトリウム又はリン酸三ナトリウム50〜100g/l、水酸化ナトリウム5〜10g/l、品物がプラス極となる直流又は反転電源により、電流密度3〜6A/cm2、温度35〜70℃、時間3〜6分。
(目的) 素地表面の油脂分を除去すると共に、電解研摩である表面付着した不純物を除去する。
尚、品物がマイナス極の時には、電解研摩は行われず脱脂だけを行う。
3) スマット除去
上記3)−1の条件で行う。
【0027】
4) 酸電解
(条件) 硫酸10〜35%wt/l、後述するサーファX−B剤を添加した水溶液を圧縮空気にて撹拌、電解温度20℃以下に冷却、電流密度1〜10A/cm2電解時間1/10分。高速反転電源の反転比率(Duty比)15:2、材質によりDuty比は異なる。
(目的) 活性化及びその保持(素地の水素還元活性化及び薄い均一なイオウ化合物の保護膜形成)。
尚、硫酸は工業用硫酸と精製硫酸に区分されるが、どちらの硫酸でも良い。
【0028】
上記のサーファX−B剤における主要成分は、硫酸10〜35%wt/lに対して、芳香族スルホン酸を0.1〜40%wt/lを添加するものであり、上記比率で硫酸にサーファX−B剤の主要成分を添加した水溶液を電解液の源液と成し、芳香族スルホン酸の添加剤の作用は、電解液の電流分布を均一にして均一電解を行うと共に、イオウ化合物の析出(保護膜形成)スピードの抑制を行う。
【0029】
次に、サーファX−B剤における微少成分は、上記水溶液全量に対して、アルミニウムの種類に応じて変化する溶存アルミニウムの溶解量に対応すべく、硫酸アルミニウム0.1〜10g/lを添加したり、アルミニウムの種類に応じて硫酸銅0.01〜1g/lを追添加するものである。
【0030】
添加された硫酸アルミニウムは水溶液中で溶解して溶存アルミニウムと成り、添加物自体としては硫酸アルミニウム粉末、アルミニウムを硫酸に溶解した硫酸アルミニウム溶液等の形態があり、水溶液中の溶存アルミニウムは硫酸アルミニウムの形態で溶解し、反転電解のプラス極の時、水酸化アルミニウムとなって均一電解作用で密着力を向上させる。
【0031】
そして、硫酸における下限の10%wt/lについて、10%未満の場合には電解液の液抵抗が高くなって電解効果が低くなり、上限の35%wt/lは硫酸の液抵抗が最小となる限界値であり、且つ35%超過の時には両性金属のアルミニウムは元来硫酸に浴しているだけで溶解するために、素地の溶解現象が発生してイオウ化合物の皮膜生成スピードと素地の溶解スピードの関係で皮膜形成出来ず、活性化されたアルミニウム素地表面に保護膜形成が出来ない。
【0032】
又、芳香族スルホン酸(サーファX−B剤の主要成分)における0.1〜40%wt/lについては、サーファX−B剤が40%wt/lの高濃度の時には素地に対する保護膜であるイオウ化合物の析出が無くなり、水洗時に自然酸化膜が形成されてメッキの密着力が悪化し、又0.2%wt/lの低濃度にすると単位時間当りのイオウ化合物の析出は薄くなって電解時間が必要となり、かかるマイナス電解時間により還元活性化を充分に行って密着力の向上を図ることが出来る。
【0033】
そして、0.1%未満の時にはサーファX−B剤の必要成分が希少となりイオウ化合物の析出が膨大となりメッキの析出反応が遅く、密着が悪く、中間の例えば15%wt/lの時には若干早く析出する傾向があって短時間処理が可能であるがメッキの密着性は低下し、又上限の40%wt/lは飽和量であって40%超過は硫酸水溶液に溶解しない。
【0034】
尚、サーファX−B剤を未添加の時には、上述の様に、イオウ化合物の析出が膨大で、後工程のメッキ液中で保護膜の除去が一呼吸で行われず、メッキの析出性は悪化するとしても所期の目的は達成出来る。
【0035】
上記電解液における溶存アルミニウム自体の作用は芳香族スルホン酸と同様で、その添加量は多種類のアルミニウムに応じて変化させ、電解液内には種々の金属が溶解していることも関係して、下限の0.1g/lは純アルミニウムに対する添加量であり、0.1g/l未満の場合には芳香族スルホン酸と同様に溶存アルミニウムが希少となりイオウ化合物の析出が膨大でメッキの析出反応が遅く、密着が悪く、又不純物含有量が多量の時に溶存アルミニウムとなる硫酸アルミニウムの添加量を増加し、上限の10g/lは液抵抗が上昇して電解電圧が高騰する。
【0036】
又、上記電解液における硫酸銅の添加の有無及び添加量は、メッキされるアルミニウムの成分中に銅を含有しない時又は低量含有の時に添加し、硫酸銅の添加下限の0.01g/lについて、0.01g/l未満の場合には銅成分が希少となり、エッチング又はソフトエッチングされ微少凹凸が露出形成された素地に対し、微少凹部に銅イオンを充分に付着させることが出来ない。
【0037】
又、上限の1g/lは素地に対する銅成分の付着が微少凹部に止まらず素地全面に対して析出し、即ち素地に対する不要な銅メッキ状態となり、その後の本来のメッキ操作時に銅メッキが取れず、銅メッキ素地に対し所望のメッキを行うこととなり、その結果、素地から銅メッキが剥離し易く素地に対して直接メッキすることが出来ず密着性が阻害される。
【0038】
又、両性金属のアルミニウムは硫酸浴で表面発熱して溶解する場合があることは上述したが、溶解作用は常温時及び高温時に発生し易く、20℃以下の冷却温度とすれば、アルミニウムの硫酸浴の状態において低温度の時には溶解スピードが低下し、保護膜形成が良好となる20℃以下は実用的な温度限界である。
【0039】
上記の酸電解は高速反転電源又は交直切換電源の様な陰極時間が長い電源を使用して行い、高速反転電源による
図2に示した反転電流波形の場合には、マイナス極15に対してプラス極2の反転比率(Duty比)である。
【0040】
尚、この反転比率はマイナス極の時間が長く種々に変更可能であり、例えばマイナス極が13〜23、プラス極が1〜11に夫々変更出来、一例として反転比率15:2の場合を詳細に説明する。
【0041】
理論計算式T=1/F=1000/(60×6)≒3、1山約3msecで、例えば60HZ地区では周波数が計算式にて15.7HZになる。
図2に示す参考波形の反転比率(Duty比)15:2とは、1サイクルにおいて上記時間のマイナスとプラスが1秒間に15.7回繰り返し出力される特殊波形であり、この様な高速反転電源による特殊波形にて電解する事を高速電流反転電解と称する。
【0042】
次に交直切換電源においては、
図3(a)、(b)に示す様な直流と交流を切換える交直切換電源、或いは
図3(c)に示す様な直流に交流を併用する交直併用又は交流併用電源を使用し、これらを陰極時間が長い交直切換電源と称し、又陰極時間が長い電源としては、上述の高速反転電源又は交直切換電源以外の電源、例えば単相不完全整流波電源等の使用も可能であり、又交流は単相でなく三相のものでも良い。
【0043】
そして、上記の交直切換電源の図示した波形の場合に、直流用と交流用の個別タイマーを各1個ずつ装備すると共に、全体的な酸電解時間用のトータルタイマーの合計3個を装備し、スイッチオンにより、先ず品物側にマイナス極の直流電流を5〜40秒通電し、次にマイナス極とプラス極が50、60HZ等で変換する交流電流を5〜20秒通電し、具体例の一例としては陰極時間を10秒間、交流時間を5秒間夫々通電する。
【0044】
次に本発明に係るアルミニウムとアルミニウム合金へのメッキ方法について説明すると、本願(アイコート法と称する)における前処理では、サーファX−B剤を添加した特殊電解液と電流反転電源等の陰極時間が長い電源を使用して酸電解を行っているが、かかる電源では高速周期的にプラス極とマイナス極が反転、繰り返したり、固定のマイナス極時間を挟んで同様に繰り返しており、長時間の品物がマイナス極の時に素地表面から水素が発生して、素地は還元されて活性化されると共に、イオウ化合物及び銅成分を付着させている。
【0045】
他方、短時間の周期的なプラス極の時に、プラス極とマイナス極の通電時間に応じて、上記付着分の所定量を除去すると共に、素地表面から酸素が発生して、素地表面はソフトエッチングされる。
【0046】
上記プラス極とマイナス極の反転によるイオウ化合物の付着、除去作用において、両極性の同一時間当りの付着量と除去量の比較は、同一物質の理論値は同一であるが、電流効率が相違する電気化学的傾向により、析出量より溶解量が多く、電流反転電源における陰陽両極1波形ずつ、又は交流電源における1サイクル波形において、マイナス極の付着量よりプラス極の除去量が多く、同一時間の電源ではイオウ化合物及び銅成分は減少する。
【0047】
そこで、品物のマイナス時間を第1回目に設定すると共に、その後は長く設定することにより、イオウ化合物の保護膜は形成、増加し、詳しくは1回目のマイナス極時に形成される保護膜の厚さをW1、1回目のプラス極又は交流時に減少した残留厚さをW2、2回目のマイナス極時に増加した合計厚さをW3、2回目のプラス極又は交流時のものをW4とすれば、1)W1>W2で0<W2と成し、2)W2<W3でW1<W3と成し、3)W3>W4でW2<W4と成し、これらの順次増減を繰り返して、保護膜の厚さWを所定厚さとなる様に、増加減少のサイクルを繰り返す。
【0048】
又、プラス極の時に付着分を除去させるが、かかる除去される付着分中、マクロ的にはイオウ化合物は表面側が除去され、又銅成分は表地表面から除去され、ミクロ的には素地表面から酸素が発生し、かかる小さな気泡により保護膜は破壊されながら厚さが減少する。
【0049】
尚、マイナス極時における保護膜のミクロ的付着作用においても、同様な作用が発生し、素地表面から発生した小さな水素気泡により保護膜は破壊されながら増加する。
【0050】
更に、プラス極時の付着分除去作用において、素地表面には酸化作用が発生して素地表面に対して軽い表面粗度化であるソフトエッチングを行い、酸素気泡と共に保護膜を破壊して外部へ放出される。
【0051】
上記した2種類の電源において、高速反転電源の反転比率は上述の如く設定変更可能で、保護膜の所望厚さWと成る様に、1個のトータルタイマーで管理可能である。
【0052】
そして、保護膜の厚さWとソフトエッチング量の設定において、保護膜の厚さWは後工程のメッキエ程に関して設定され、ソフトエッチング量は被メッキ材の材質により決定し、例えば鋳物材であるAC、ADCの表面粗度は元々粗いために絶対必要ではなく、1000番台の純アルミニウム、2000番台の銅含有のアルミニウム合金、5000番台のマグネシウム含有のアルミニウム合金等の表面は比較的円滑であるために、メッキ工程における足がかりとして必要である。
【0053】
又、保護膜の付着とソフトエッチングは相違する極性で行うと共に、ソフトエッチング時に発生する保護膜の除去は付着より早く進行するために、陰極時間を長くすることは上述の如くであるが、ソフトエッチングを必要とする材質については、極性毎の通電時間の管理が特に必要となる。
【0054】
即ち、所定の活性化及び保護膜形成を主目的とする場合には、どちらの電源でも達成可能であるが、所定のソフトエッチングも行う時には、高速反転電源では限界がある。
【0055】
例えば、高速反転電源で行う場合には、陰陽極通電時間を同一時間とすれば保護膜付着は不可能となるので、1サイクル中のソフトエッチングを行う陽極時間は自ずと制限され、即ち、1サイクルにおけるソフトエッチング量及び保護膜の付着量は僅少とならざるを得ず、所定量を確保するためには、サイクルの回数、即ち、酸電解の全体時間を長く必要とする。
【0056】
これに対して、交直切換電源では、交直通電時に付着量は減少するとしても、ソフトエッチング量は陰陽極1:1の通電比率であるために多く、ソフトエッチング時間を短時間と成すことが出来、一方減少付着量への対応は、付着量を増加させる直流時間で対応すれば良く、その結果、交直切換電源ではトータルのソフトエッチング量と保護膜の付着量を単独で調整可能な部分が存在して、酸電解の短い全体時間で必要量の確保を行う。
【0057】
これら酸電解の結果、マイナス時(還元)、プラス時(酸化)を繰り返す事により、素材の表面は保護膜増加に応じて白色から黄色系に変化し、マイナス時間が長いため活性化をしつつ所定厚さWの保護膜を均一に生成させ、更にソフトエッチングを行い、且つ均一生成に関しては例えば凸部1点に集中形成されても電流反転による陽極時の電解作用により均一性が確保される。
【0058】
そして、通常の電気メッキ又は無電解メッキ中における酸性のメッキ液内では、素地に付着したイオウ化合物の保護膜はディッピング(浸漬)した瞬間に一呼吸で取り去られ、この様な保護膜除去状態では素地全体は活性化され、且つ銅成分を足がかりとしてメッキを析出させる。
【0059】
尚、上記の活性化(還元及び保護膜形成)において、直流電源だけでは均一な保護膜形成は不可能であり、又6/1000秒間等のプラス極においては短時間であるため素地の溶解や酸化膜は発生せず、又活性化後に水洗を行っても素地の表面に薄い保護膜が存在しているために素地の活性化状態は維持されている。
【0060】
そして、本願のメッキ方法(アイコート法)でメッキした場合、メッキした皮膜の密着性は
図4乃至
図10のいずれのアルミニウム材料においても、メッキ後400℃加熱水冷、90度折り曲げ及びテープ剥離テストの結果、全て皮膜の剥離等は生じない。
【0061】
更に、上記メッキ方法でメッキされたアルミニウムを、常圧下又は真空状態下で、素地の融点以下の温度、具体的には200℃〜550℃の温度で20〜60分加熱処理した後、冷却(急冷又は常温放置など)することで、アルミニウム中の含有物質が析出し、皮膜、即ちメッキ層を構成する分子とイオン結合して、密着性が更に向上すると共に、素地自体の強度、硬度も向上させることが可能となり、上記と同様の剥離テストの結果、全て皮膜の剥離等は生じない。
【0062】
上記加熱温度及び加熱時間は、アルミニウム、メッキ材料の種類によって適宜変更する様にしている。
例えば、アルミニウムが展伸用又は鋳物・ダイカスト用であるか、非熱処理型合金又は熱処理型合金であるか、などにより、条件設定することになる。