(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。また、図面における種々部材の寸法比は、本発明の特徴を理解に資することを優先しているため、実際の寸法比とは異なる場合がある。
【0026】
本発明は、タッチパネルや電磁波シールド材等の用途に限らずCuNO系黒化層を有する電気装置に適用し得るが、ここでは、静電容量式タッチセンサを例にしながら本発明を説明する。
【0027】
図1は、本発明の電気装置の一例である静電容量式タッチセンサ100の平面図である。
図1に示すように、本実施形態にかかる静電容量式タッチセンサ100は、例えばポリカーボネートからなる樹脂シート111と、樹脂シート111の表面に形成され、縦方向のキー入力を検出するための導電部112と、樹脂シート111の裏面に形成され、横方向のキー入力を検出するための導電部113と、コネクタ部115と、各導電部112,113とコネクタ部115とを接続するリード電極114とを主として備えている。コネクタ部115は制御部116に接続されており、静電容量式タッチセンサ100の動作は制御部116により制御されている。各導電部112,113は、光の透過を可能とするため、
図1における一部拡大図に示すように、メッシュパターンで形成されている。メッシュパターンの他にも、ストライプパターン、ストライプが波状となっているウェーブパターン、その他、複数の孔を有するパンチングパターンとすることもできる。
【0028】
樹脂シート111の表裏に形成される各導電部112,113はCu層により形成されているが、Cu層による光の反射を抑えるため、各導電部112,113には、CuNO系黒化層と、誘電体層が形成される。樹脂シート111の表裏に各導電部112,113が形成されている態様は、あくまでも本発明を適用し得る静電容量式タッチセンサの一例であり、以下、樹脂シート111(基材)の少なくとも一方の主面上にCu層とCuNO系黒化層と誘電体層との積層膜を形成する工程を含む本発明について説明する。
【0029】
本発明の実施の形態に係る電気装置の製造方法は、(1)基材の少なくとも一方の主面上に、Cu層とCuNO系黒化層とを順次積層した積層膜を形成する工程と、(2)CuNO系黒化層上の所定領域にレジスト層を形成する工程と、(3)Cu層およびCuNO系黒化層の積層膜をエッチング液に接触させることにより積層膜の前記レジスト層で覆われていない領域を除去する工程と、(4)基材およびパターニングされた積層膜上に誘電体層を形成する工程と、を有し、CuNO系黒化層の波長400nm〜700nmにおける消衰係数が1.0以上1.8以下である。
【0030】
また、本発明の実施の形態に係る電気装置は、基材と、該基材の少なくとも一方の主面上にCu層とCuNO系黒化層とが順次積層され、かつパターニングされた積層膜と、基材およびパターニングされた積層膜上に形成されている誘電体層と、を有し、CuNO系黒化層の波長400nm〜700nmにおける消衰係数が1.0以上1.8以下である。
【0031】
本発明の電気装置の製造方法、および電気装置は、黒化層としてCu層とエッチングスピードが近いCuNO系黒化層を用いているため、Cu層とCuNO系黒化層の一部領域をエッチング除去しても、残存するCu層とCuNO系黒化層の各幅を近いものとすることができる。また、可視光線の波長域である400nm〜700nmで消衰係数が1.0以上1.8以下のCuNO系黒化層を用いているため、当該波長域全体での反射率を抑えることができる。さらに、可視光線の反射防止のために基材およびCuNO系黒化層上に誘電体層が積層されているため、反射率を5%以下にすることが可能となる。
【0032】
本発明におけるCuNO系黒化層は、Cuと、N(窒素)および/またはO(酸素)と、残部の不可避不純物とを含有する化合物であり、典型的には、CuNO、Cu
3N、CuO、Cu
2Oの各組成物である。黒化層は、内部を伝搬する光の強度を減衰させる作用もあるが、主として、反射可視光の干渉の作用により反射光を抑えている要素がある。
【0033】
誘電体層は、可視光線の透過率を増加させて、反射率を低下させるものである。誘電体層の最小の反射波長は、誘電体層の材料の屈折率と膜厚によって決まる。本発明では、CuNO系黒化層と、この黒化層と屈折率が異なる誘電体層とを組み合わせているため、可視光線の波長400nm〜700nmにおいて反射率を低く抑えている。
【0034】
本発明に係るCuNO系黒化層の波長400nm〜700nmにおける消衰係数は1.0以上1.8以下である。CuNO系黒化層中の窒素の存在割合を0.8at%〜4at%、酸素の存在割合を4at%〜10at%とすることにより、CuNO系黒化層の消衰係数を1.0以上1.8以下とすることができる。
【0035】
以下、本実施の形態にかかる電気配線部材の製造方法の好ましい例について、図面を用いて詳細に説明する。
図2〜
図3は、本実施の形態にかかる電気配線部材の製造方法の一部を示す工程断面図である。
【0036】
(1)Cu層とCuNO系黒化層を順次積層した積層膜を形成する工程
図2に示すように、基材1の少なくとも一方の主面上に、Cu層2を形成する。次に、
図3に示すようにCu層2の上にCuNO系黒化層3を形成する。これらの工程により、基材1の少なくとも一方の主面上に、Cu層2とCuNO系黒化層3との積層膜が形成される。また、CuNO系黒化層3は、
図3に示すように1層のみでもよいし、2層含まれていてもよい。但し、基材の少なくとも一方の主面上に形成されているCuNO系黒化層の合計膜厚は、5nm〜150nmとすることが好ましい。より好ましくは、12nm〜115nmであり、更に好ましくは18nm〜80nmである。
【0037】
黒化層は、内部を伝搬する光の強度を減衰させる作用もあるが、主として、反射可視光の干渉の作用により反射光を抑えている要素がある。CuNO系黒化層と誘電体層の合計膜厚が100nmを超えると、FPC等の基材とCu層の電気的接続および機械的接着に用いるACF内の導電粒子がCuNO系黒化層と誘電体層を貫通することが困難になり、基材とCu層との電気的接続が取りにくくなるため、CuNO系黒化層3の膜厚は上記範囲とすることが好ましい。
【0038】
CuNO系黒化層がCuNO黒化層であることも好ましい。Cu層と黒化層とのエッチングスピードをより近くし得るからである。
【0039】
Cu層2の厚さは、必要な電気伝導度を確保するため、例えば20nm以上、好ましくは40nm以上、さらに好ましくは60nm以上とする。ただし、Cu層2が厚過ぎるとエッチングに時間がかかり過ぎてしまうため、例えば、2μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは400nm以下とする。
【0040】
基材1に用いる材料としては、非導電物であれば特に制限は無いが、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(PET)、脂肪族環状ポリオレフィン系樹脂(COP)、ガラス、ポリカーボネート系樹脂(PC)、アクリル系樹脂(PMMA)等を用いることができる。電気配線部材を表示装置に使用する場合には、基材1は、実質的に透明であることが望ましい。基材1の厚さには特に制限がないが、例えば15μm〜200μm、好ましくは20μm〜150μm、さらに好ましくは25μm〜125μmとする。
【0041】
Cu層2やCuNO系黒化層3を形成する方法に特に限定はないが、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等によって形成することができ、またCu層の表面を改質することによっても形成可能である。本実施の形態では、例としてスパッタリング法を用いた積層膜形成法を説明する。
【0042】
図4は、本実施の形態の電気配線部材の製造装置であるスパッタリング装置50の断面図である。スパッタリング装置50は、密閉筐体51と、密閉筐体51内に形成された基材巻き出しリール52と、基材巻き取りリール53と、密閉筐体51内に形成された隔壁54で区切られた第1区画室55、第1区画室55に隣接する第2区画室56とを有している。第1区画室55、第2区画室56にはCuターゲット材57が配置されている。また、第1区画室55には、Cuターゲット材57に衝突させるためのアルゴンガスの導入口58が形成されている。第2区画室56には、酸素ガスおよび/または窒素ガスの導入口59が形成されているが、アルゴンガスを供給することもできる。導入口59において、アルゴンガスの他にも、黒化層への窒素の取り込みを促進するために水素ガス(H
2)を導入することもできる。
また密閉筐体51には、低真空吸引口65と高真空吸引口66が設けられている。低真空吸引口65は、例えば油回転真空ポンプ(図示せず)に接続されており、密閉筐体51内をある程度の真空度まで素早く減圧することができる。高真空吸引口66は、例えばターボ分子ポンプ(図示せず)に接続されており、密閉筐体51内をスパッタリング可能な程度の高真空度まで減圧することができる。
【0043】
基材巻き出しリール52には、上述した基材1がロール状に保持されている。基材1は、基材巻き出しリール52から出発して、ピンチロール60、内ドラム61、ピンチロール62を経由して、最終的には基材巻き取りリール53に巻き取られる。
【0044】
第1区画室55〜第2区画室56に配置されているCuターゲット材57は、所定の電位を加えるために導線63によりコントローラ64に接続されている。スパッタリング方法としては、直流電圧を2つの電極の間にかけるDCスパッタ、高周波をかけるRFスパッタ、その他、マグネトロンスパッタ、イオンビームスパッタを用いることもできる。
【0045】
基材巻き出しリール52から巻き出され、第1区画室55内に進入する基材1は、Cuターゲット材57のスパッタリングによりCu層が成膜される(
図2)。第1区画室55には、不活性ガスであるアルゴンガスの導入口58しか形成されていないため、Cu層2には、基本的には酸素および/または窒素は取り込まれない(不可避的に混入するものを除く)。
【0046】
次に、基材1が第2区画室56に進入すると、Cuターゲット材57のスパッタリングによりCuの層が成膜されていく。この際、第2区画室56には、導入口59から酸素ガスおよび/または窒素ガスの供給を受けているため、Cu層2上に成膜されるのは、酸素(O)および/または窒素(N)原子を取り込んだCu層であるCuNO系黒化層3である(
図3)。すなわち、CuNO系黒化層を形成する工程は、少なくとも窒素ガスおよび酸素ガスが存在する雰囲気中でCuをスパッタリングすることにより行われることが好ましい。窒素ガス/酸素ガスの存在割合は、例えば、21%/9%、15%/12%とすることができる。
【0047】
同様の手順で、基材1の裏面側にもCu層2とCuNO系黒化層3を形成することができる。例えば、上述の
図3の工程まで終了して基材巻き取りリール53に巻き取られた基材ロールを、基材1の裏面側がCuターゲット材57側に向くように基材巻き出しリール52にセットする。基材巻き出しリール52から基材1を引き出し、ピンチロール61、内ドラム62、ピンチロール63を経由して、最後に基材巻き取りリール53にセットする。この状態でスパッタリング装置50を運転することにより、
図5に示すように、基材1の裏面側にもCu層2とCuNO系黒化層3を形成することができる。
【0048】
一つの製造装置の有効活用の観点からは、上記のように基材ロールを基材巻き取りリール53から基材巻き出しリール52に付け替える方法も好ましく実施し得るが、電気配線部材の製造速度を速める観点からは、同一の密閉筐体51内に、基材1の裏面側にも成膜できる区画室(例えば、第2区画室に続く、第3区画室〜第4区画室(図示せず))を設けることや、スパッタリング装置50とは別に基材1の裏面側にも成膜できる他のスパッタリング装置(図示せず)を設けることもできる。
【0049】
上記説明において、第2区画室56には、酸素ガスおよび/または窒素ガスの導入口59を設けることとしたのは、
図3に示すCu層2/CuNO系黒化層3の順に積層させるためである。
【0050】
(2)CuNO系黒化層上の所定領域にレジスト層を形成する工程
図6〜9は、本実施の形態にかかる電気装置の製造方法の一部を示す工程断面図である。まず、
図6に示すようにCuNO系黒化層上の所定領域にレジスト層10を一様に形成する。レジスト層10に用いられる材料にも特に制限はなく、半固体状(ペースト状)のものや固体状(フィルム状)のものを用いることができる。
【0051】
次に、リソグラフィ法等を用いて、
図7に示すようにレジスト層10をパターニングする。レジスト層を部分的に除去する工程は、典型的には、レジスト層の一部に光を照射し、光が照射された部分を現像液により除去すること(ポジ型フォトレジスト)、或いは、光が照射されていない部分を現像液により除去すること(ネガ型フォトレジスト)により実現するものである。
【0052】
(3)Cu層およびCuNO系黒化層の一部領域を除去する工程
図8に示すように、レジスト層10に覆われず露出しているCu層2およびCuNO系黒化層3をエッチング液に接触させることにより、Cu層2の一部およびCuNO系黒化層3の一部領域を除去することができる。用いるエッチング液は、Cu層とCuNO系黒化層の双方をエッチングできる限り特段の制限はないが、エッチングコントロール性をある程度維持するには、エッチング速度をコントロールすることが必要であり、そのためには、温度、濃度、pH等を調整することが望ましい。Cu層2およびCuNO系黒化層3の一部領域を除去した後は、洗浄液を用いて残ったレジスト層10を除去する。
【0053】
Cu層2とCuNO系黒化層3の一部領域を除去する工程において、Cu層2とCuNO系黒化層3は、メッシュパターン、ストライプパターン、ストライプが波状となっているウェーブパターン、その他、複数の孔を有するパンチングパターンで形成されることも好ましい。これにより、電気装置の光透過率を上げることができる。
【0054】
(4)基材およびパターニングされた積層膜上に誘電体層を形成する工程
図9に示すように、露出している基材1およびパターニングされた積層膜上に誘電体層4を形成する。すなわち、電気装置において、基材に対向する側からCu層2、CuNO系黒化層3、誘電体層4の順に積層されている。Cu層2による光の反射を抑えるためにCuNO系黒化層3がCu層2の上に積層される。また、反射防止に有効な誘電体層4が基材1およびパターニングされた積層膜の上にさらに積層されることで、Cu層2、CuNO系黒化層3及び誘電体層4全体としての反射率を低下させることができる。
【0055】
誘電体層4の材料は特に制限されず、例えば、SiO、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3、Ta
2O
5、Nb
2O
5、ZrO
2、HfO
2、La
2O
3、Cr
2O
3、CeO
2、Y
2O
3、ZnO、ITO等の酸化物や、CaF
2、MgF
2等のフッ化物、Si
3N
4等の窒化物を用いることができる。中でも誘電体層4がSiO
2層であることが好ましい。SiO
2は製造が容易であり、構造も安定しているため取り扱いやすいからである。
【0056】
誘電体層4の膜厚は、10nm〜200nmとすることが好ましい。より好ましくは、18nm〜100nmであり、更に好ましくは36nm〜70nmである。CuNO系黒化層3と誘電体層4の合計膜厚が100nm以下であることも好ましい。CuNO系黒化層3と誘電体層4の合計膜厚が100nmを超えるとCuNO系黒化層3と誘電体層4との圧着が困難になり、Cu層2と導通が取りにくくなるためである。
【0057】
基材1およびパターニングされた積層膜上に誘電体層4を形成する方法は、基材1上にCu層2やCuNO系黒化層3を形成する方法と同様に、スパッタリング法、蒸着法、CVD法等によって形成することができる。例えば、真空状態のスパッタリング装置の区画室内で、酸素ガスを導入しつつSiターゲット材をスパッタリングすれば、基材1およびCuNO系黒化層3上に誘電体層4としてのSiO
2層を形成することができる。
【0058】
図9に示した電気装置とは別の態様の電気装置について、
図10〜
図13を参照しながら説明する。なお
図10〜
図13の説明において、上記の説明と重複する部分は説明を省略する。
図10〜
図13は、本発明の実施の形態にかかる電気装置の断面図を表す。
【0059】
図10に示す電気装置は、基材1の一方の主面上にCu層2aとCuNO系黒化層3aが順次積層されて、当該積層膜がパターニングされ、基材1およびパターニングされた積層膜上に誘電体層4aが形成されている。また、基材1の他方の主面上にはCu層2bとCuNO系黒化層3bが順次積層されて、当該積層膜がパターニングされ、基材1およびパターニングされた積層膜上に誘電体層4bが形成されている。なお、CuNO系黒化層3a、3bの波長400nm〜700nmにおける消衰係数は、それぞれ1.0以上1.8以下である。
図10に示す電気装置は、基材1の一方の主面上に形成されているCu層2a上にCuNO系黒化層3a、誘電体層4aが積層されているため、
図10の誘電体層4a側から可視光線を入射したときの反射率を5%以下にすることができる。また、基材1の他方の主面上に形成されているCu層2b上にもCuNO系黒化層3b、誘電体層4bが積層されているため、
図10の誘電体層4b側から可視光線を入射しても、反射率を5%以下にすることが可能となる。すなわち、
図10に示すように電気装置を構成することによって、可視光線を入射したときの反射率を電気装置の両面で5%以下にすることができる。
【0060】
図11に示す電気装置は、
図9に示した電気装置の基材1とCu層2との間に、誘電体層5とCuNO系黒化層3bとがさらに積層されている例である。この電気装置は、基材1の一方の主面上に、誘電体層5とCuNO系黒化層3bとCu層2とCuNO系黒化層3aとが順次積層され、誘電体層5と、パターニングされたCuNO系黒化層3bとCu層2とCuNO系黒化層3aの積層膜上には誘電体層4が形成されている。このように、
図11に示す電気装置は、Cu層2の上側にCuNO系黒化層3aと誘電体層4が積層されているため、基材1の一方の主面側(
図11の誘電体層4側)から可視光線を入射したときの反射率を低くすることができる。また、電気装置はCu層2の下側にもCuNO系黒化層3bと誘電体層5が積層されているため、基材1の他方の主面側(
図11の基材1側)から可視光線を入射しても反射率を低くすることができる。このように電気装置を構成する場合、誘電体層4の材料は、特に制限されないが、基材1の一方の主面側から可視光線を入射したときの反射率を5%以下にするためには低い屈折率を有するSiO
2、Al
2O
3を用いることが好ましい。これに対して、誘電体層5の材料は、基材1の他方の主面側から可視光線を入射したときの反射率を低くするために、高い屈折率を有するTiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、ZrO
2、HfO
2、La
2O
3、Cr
2O
3、CeO
2、Y
2O
3、ZnO、ITO、SiO、Si
3N
4等を用いることができるが、基材1の他方の主面側から可視光線を入射したときの反射率を5%以下にするためには、中でもより高い屈折率を有する材料、例えば、TiO
2を用いることが好ましい。
【0061】
図12に示す電気装置は、
図9に示した電気装置の基材1の他方の主面上に誘電体層5とCuNO系黒化層3bとCu層2bが順次積層され、CuNO系黒化層3bとCu層2bがパターニングされている例である。
図12に示す電気装置は、
図9に示す電気装置と同様に、基材1の一方の主面上のCu層2aの上側にCuNO系黒化層3aと誘電体層4が形成されているため、基材1の一方の主面側(
図12の誘電体層4側)から可視光線を入射したときのCu層2aの上側面における反射率を低くすることができる。また、この電気装置は、基材1の他方の主面上に誘電体層5とCuNO系黒化層3bが形成されているため、基材1の一方の主面側(
図12の誘電体層4側)から可視光線を入射したときのCu層2bの上側面における反射率も低くすることができる。このような電気装置は基材の両方の主面上にCu層を配置し、かつ基材1の一方の主面側から可視光線を入射したときのCu層の反射率を低くしたい場合に適している。なお、誘電体層4の材料は、
図11に示す電気装置の誘電体層4と同様に特に制限されないが、低い屈折率を有するSiO
2、Al
2O
3を用いることが好ましい。これに対して、誘電体層5の材料は、
図11に示す電気装置の誘電体層5と同様に、高い屈折率を有するTiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、ZrO
2、HfO
2、La
2O
3、Cr
2O
3、CeO
2、Y
2O
3、ZnO、ITO、SiO、Si
3N
4等を用いることができるが、中でもより高い屈折率を有する材料、例えば、TiO
2を用いることが好ましい。
【0062】
図13に示す電気装置は、
図11に示した電気装置の基材1の一方の主面上に形成した構成を、基材1の他方の主面上にも同様に構成した例である。
図13に示す電気装置は、基材1の一方の主面上に、誘電体層5aとCuNO系黒化層3bとCu層2aとCuNO系黒化層3aとが順次積層され、誘電体層5aと、パターニングされたCuNO系黒化層3bとCu層2aとCuNO系黒化層3aの積層膜上には誘電体層4aが形成されている。また、基材1の他方の主面上には、誘電体層5bとCuNO系黒化層3cとCu層2bとCuNO系黒化層3dとが順次積層され、誘電体層5bと、パターニングされたCuNO系黒化層3cとCu層2bとCuNO系黒化層3dの積層膜上には誘電体層4bが形成されている。このため、基材1の一方の主面側(
図13の誘電体層4a側)から可視光線を入射したときに、Cu層2aの上側面とCu層2bの上側面における反射率を低くすることができる。また、基材1の他方の主面側(
図13の誘電体層4b側)から可視光線を入射しても、Cu層2aの下側面とCu層2bの下側面における反射率を低くすることができる。このような電気装置は基材の両方の主面上にCu層を配置し、かつ基材の両方の主面側から可視光線を入射したときの反射率を低くしたい場合に適している。なお、誘電体層4a、4bの材料は、
図11に示す電気装置の誘電体層4と同様に特に制限されないが、低い屈折率を有するSiO
2、Al
2O
3を用いることが好ましい。これに対して、誘電体層5の材料は、
図11に示す電気装置の誘電体層5と同様に、高い屈折率を有するTiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、ZrO
2、HfO
2、La
2O
3、Cr
2O
3、CeO
2、Y
2O
3、ZnO、ITO、SiO、Si
3N
4等を用いることができるが、中でもより高い屈折率を有する材料、例えば、TiO
2を用いることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0064】
[試験方法]
基材と積層膜を有する各種電気装置(試料)を作製し、(A)波長400nm〜700nmにおける消衰係数、(B)波長400nm〜700nmにおける反射率、(C)黒化層とCu層とのエッチングコントロール性を確認する試験を行った。
【0065】
[試料作製]
厚さ50μm、広さ20mm×70mmのPET基材上に厚さ100nmのCu層をスパッタリングにより形成した後、黒化層(CuNO黒化層、CuO黒化層、CuN黒化層またはNiCu黒化層)を積層する。次に、室温の液体エッチャントを入れたビーカーに、試料を漬け込み、スパッタリングにより形成した黒化層をエッチングする。エッチングされたCu層および黒化層の上に、誘電体層(SiO
2層、またはSiO
2層及びTiO
2層)を形成した。なお、試料によっては、黒化層および/または誘電体層の積層を行なわなかった。試料としては、試料1:SiO
2/CuNO/Cu、試料2:CuNO/Cu、試料3:SiO
2/CuO/Cu、試料4:Cu、試料5:CuO/Cu、試料6:CuN/Cu、試料7:SiO
2/TiO
2/Cu、試料8:SiO
2/TiO
2/SiO
2/TiO
2/SiO
2/TiO
2/SiO
2/TiO
2/Cu
、試料9:NiCu/Cuの9種類を用いた。なお、黒化層の形成時のスパッタリング条件は次の通りである。
投入電力:9kW(9.4W/cm
2)
【0066】
(A)消衰係数測定試験
表1中、「消衰係数」は、黒化層の波長400nm〜700nmにおける消衰係数であるが、詳細には次のように特定した。消衰係数は、CuNO系黒化層の断面を観察することによって得られる膜厚d(nm)と、分光測定によって得られる片面反射率R
0(%)、透過率T(%)から求める。消衰係数の算出は、以下に示す(A−1)〜(A−4)の手順で行う。本試験では、消衰係数kが波長400nm〜700nmにおいて1.0以上であるか確認した。
【0067】
(A−1)測定用試料の作製
膜厚が200μmのポリオレフィンコポリマーフィルム基材上に、厚さ40nm〜100nmのCuNO系黒化層を成膜したものを消衰係数kの測定用試料(以下、単に「試料」と記載することもある)とする。
【0068】
(A−2)CuNO系黒化層の膜厚の測定
集束イオンビーム加工観察装置(品番:FB2200;日立ハイテクノロジー社製)および超分解能電界放出形走査電子顕微鏡(品番:SU8010;日立ハイテクノロジー社製)を用いてCuNO系黒化層の断面観察を行うことにより、CuNO系黒化層の膜厚dを求める。
【0069】
(A−3)試料の片面反射率および透過率の測定
分光光度計(品番:U−4100;日立ハイテクノロジー社製)を用いて、波長400nm〜700nmにおける試料の片面反射率R
0(%)と透過率T(%)を測定する。
図14および
図15は、本発明に係る試料の片面反射率R
0と透過率Tの測定方法を示す概念図である。
図14に示すように、基材1とCuNO系黒化層2から構成される試料のCuNO系黒化層2側から入射光20(可視光線)を入射した場合、CuNO系黒化層2表面での反射光21と、基材1およびCuNO系黒化層2の界面での反射光22と、基材裏面での反射光23が発生する。出射光24は、入射光がCuNO系黒化層2を透過した後の出射光であり、出射光25は、入射光20がCuNO系黒化層2および基材1を透過した後の出射光である。
【0070】
試料の片面反射率R
0は、反射光21の反射率と反射光22の反射率の和である。
図15に示すように、片面反射率R
0の測定においては、基材1の裏面にマット処理および墨塗りを行い、反射防止層26を形成することで基材裏面での反射光23を除去することができる。試料の透過率Tは、入射光20の強度に対する出射光25の強度の割合である。
【0071】
(A−4)消衰係数の算出
消衰係数kは、以下の数式1および2から求められる。T
iは、CuNO系黒化層2の内部透過率であり、以下の数式2で表される。R
0fはCuNO系黒化層2の片面反射率(%)であり、R
0f=R
0/2で表される。
図14に示すように、CuNO系黒化層2の片面反射率R
0fは、CuNO系黒化層2表面での反射光21の反射率である。T
fはCuNO系黒化層2の透過率(%)であり、T
f=Tで表される。
図15に示すように、CuNO系黒化層2の透過率T
fは、入射光20の強度に対する出射光24の強度の割合である。
【0072】
【数1】
【0073】
【数2】
【0074】
なお、基材上に電極や保護層が形成されている場合や、黒化層の組成が未知である場合には、上記(A−1)の「測定用試料の作製方法」において、黒化層の厚さと組成を以下の(A−5)の方法によって得られた厚さと組成比が同じ条件となるように作製する。この場合、手順(A−2)を省略する。
【0075】
(A−5)未知試料の黒化層の膜厚測定とXPS分析
未知試料の断面観察を行うことにより、未知試料の黒化層の膜厚d
uを測定する。未知試料の膜厚d
uの測定には、集束イオンビーム加工観察装置(品番:FB2200;日立ハイテクノロジー社製)および超分解能電界放出形走査電子顕微鏡(品番:SU8010;日立ハイテクノロジー社製)を用いる。
【0076】
未知試料の黒化層をX線光電子分光分析器(XPS)により成分分析することにより、未知試料の黒化層の組成比を求める。未知試料の黒化層の組成比は、任意の5点における組成比の平均値とする。XPS分析器の仕様は以下の通りである。
【0077】
[装置仕様]
製品名:アルバック・ファイ社製Quantum2000
X線源:mono−AlKa(hv:1486.6ev)
検出深さ:数〜数十nm
取込確度:約45°
分析領域:約200μmφスポット
【0078】
[分析スパッタ条件]
イオン種:Ar+
加速電圧:1kV
走査範囲:2×2mm
スパッタ速度:1.5nm/min(SiO
2換算値)
【0079】
(B)反射率測定試験
表1中、「反射率」は、各試料に黒化層側から垂直に可視光線を照射し、この可視光線の波長を400nm〜700nmまで走査したときに得られる反射率である。反射率の測定に用いた機器は、分光測色計(品番:CM−3500d;KONICA MINOLTA社製)である。本試験では、反射率が波長400nm〜700nmにおいて5%以下であるか確認した。
【0080】
(C)エッチングコントロール性測定試験
表1中、「エッチングコントロール性」は、各試料を黒化層側から光学顕微鏡またはSEMを用いて、CuNO系黒化層とCu層(或いはCu層のみ)のエッチング形状を観察することにより行った。本試験では、黒化層とCu層(或いはCu層のみ)の端部のエッチング形状が直線的であればエッチングコントロール性が良好であり、蛇行形状であればエッチングコントロールが困難と判定する。
【0081】
表1に、本試験の試験条件と結果として、試料番号;誘電体層、黒化層、Cu層の各材料;誘電帯層、黒化層、Cu層の膜厚(nm);黒化層形成時のN
2ガス、O
2ガスの導入量(%);消衰係数;反射率(%);エッチング形状を示した。
図16〜
図18は、実施例1〜比較例2の波長400nm〜700nmにおける消衰係数を示すグラフである。
図19〜
図27は、実施例1〜比較例8の波長400nm〜700nmにおける反射率を示すグラフである。
【0082】
【表1】
【0083】
(実施例1)
誘電体層がSiO
2、黒化層がCuNO、誘電体層と黒化層の膜厚がそれぞれ66.8nm、40.1nmの試料1を作製した。
図16に示すように、波長400nm〜700nmにおいて、試料1のCuNOの消衰係数kは1.17〜1.38であった。また、
図19に示すように、波長400nm〜700nmにおける試料1の反射率は0.4%〜4.8%であった。SEM写真を観察した結果、黒化層の端部は直線的なエッチング形状であった。
【0084】
(比較例1)
誘電体層を設けずに、膜厚が40nmで、CuNOの黒化層を有する試料2を作製した。
図17に示すように、波長400nm〜700nmにおいて、試料2のCuNOの消衰係数kは1.26〜1.57であった。しかしながら、
図20に示すように、波長400nm〜700nmにおいて試料2の反射率は15.0%〜28.7%であった。SEM写真を観察した結果、黒化層の端部は直線的なエッチング形状であった。
【0085】
(比較例2)
誘電体層がSiO
2、黒化層がCuO、誘電体層と黒化層の膜厚がそれぞれ10nm、39.9nmの試料3を作製した。
図18に示すように、波長400nm〜700nmにおいて、試料3のCuOの消衰係数kは0.31〜0.81であった。また、
図21に示すように、波長400nm〜700nmにおいて試料3の反射率は8.0%〜16.1%であった。SEM写真を観察した結果、黒化層の端部に蛇行形状が見受けられた。
【0086】
(比較例3)
誘電体層と黒化層を設けない試料4を作製した。消衰係数kは黒化層に対する値であるため、計測しなかった。
図22に示すように、波長400nm〜700nmにおいて、試料4の反射率は38.1%〜87.2%であった。SEM写真を観察した結果、Cu層の端部は直線的なエッチング形状であったが、このことは基材上にCu層のみが形成されていることに起因している。
【0087】
(比較例4)
誘電体層を設けずに、膜厚が30nmで、CuOの黒化層を有する試料5を作製した。
図18に示すように、波長400nm〜700nmにおいて、試料5のCuOの消衰係数kは0.31〜0.81であった。しかしながら、
図23に示すように、波長400nm〜700nmにおいて試料2の反射率は3.3%〜17.3%であった。SEM写真を観察した結果、黒化層の端部に蛇行形状が見受けられた。
【0088】
(比較例5)
誘電体層を設けずに、膜厚が30nmで、CuNの黒化層を有する試料6を作製した。
図24に示すように、波長400nm〜700nmにおいて試料2の反射率は9.0%〜18.3%であった。SEM写真を観察した結果、黒化層の端部に蛇行形状が見受けられた。
【0089】
(比較例6)
黒化層を設けずに、170.5nmのSiO
2と、29.5nmのTiO
2の誘電体層を有する試料7を作製した。SiO
2とTiO
2の消衰係数kは0であった。
図25に示すように、波長400nm〜700nmにおいて試料7の反射率は11.5%〜89.1%であった。SEM写真を観察した結果、Cu層の端部は直線的なエッチング形状であったが、これはCuのみをエッチングした後に誘電体層を成膜したからである。
【0090】
(比較例7)
黒化層を設けずに、SiO
2とTiO
2を交互に各4層、合計8層積層した誘電体層を有する試料8を作製した。SiO
2とTiO
2の消衰係数kは0であった。
図26に示すように、波長400nm〜700nmにおいて試料8の反射率は0.6%〜96.5%であった。SEM写真を観察した結果、Cu層の端部は直線的なエッチング形状であったが、これはCuのみをエッチングした後に誘電体層を成膜したからである。
【0091】
(比較例8)
誘電体層を設けずに、膜厚35nmのNiCuの黒化層を有する試料9を作製した。
図27に示すように、波長400nm〜700nmにおいて、試料9の反射率は12.3%〜20.6%であった。SEM写真を観察した結果、黒化層の端部に蛇行形状が見受けられた。
【0092】
上記試験結果から、黒化層としてCu層とエッチングスピードが近いCuNO系黒化層を用いていれば、Cu層とCuNO系黒化層の各幅が近い直線的なエッチング形状となることがわかった。また、可視光線の波長域である400nm〜700nmで消衰係数が1.0以上のCuNO系黒化層と誘電体層の両方を積層することにより、当該波長域全体での反射率を5%以下にすることができると結論した。