特許第6041957号(P6041957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • 6041957-超音波診断装置 図000005
  • 6041957-超音波診断装置 図000006
  • 6041957-超音波診断装置 図000007
  • 6041957-超音波診断装置 図000008
  • 6041957-超音波診断装置 図000009
  • 6041957-超音波診断装置 図000010
  • 6041957-超音波診断装置 図000011
  • 6041957-超音波診断装置 図000012
  • 6041957-超音波診断装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6041957
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   A61B8/14
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-195824(P2015-195824)
(22)【出願日】2015年10月1日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隈▲崎▼ 健二
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−217583(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/053345(WO,A1)
【文献】 特開2005−323894(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/065547(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの送信ビームごとにビーム走査方向に並んだ複数の受信ビームを形成するパラレル受信方式に従って、1つの送信ビーム当たり複数の受信ビームデータによって構成される受信データブロックを生成するブロック生成部と、
前記ブロック生成部によって生成された複数の受信データブロックを処理する処理部であって、隣接する2つの受信データブロック間での輝度変化を示す輝度変化評価値と、前記隣接する2つの受信データブロックにおける輝度のばらつきを示すばらつき評価値と、に基づいて、前記隣接する2つの受信データブロック間での輝度差を解消又は緩和するフィルタ処理を実行するフィルタ処理部と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記フィルタ処理部は、前記隣接する2つの受信データブロックの内の第1の受信データブロックに含まれる第1の受信データ列と、前記隣接する2つの受信データブロックの内の第2の受信データブロックに含まれる第2の受信データ列と、に基づいて前記輝度変化評価値を演算するブロック間演算器を含む、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記フィルタ処理部は、更に、
前記第1の受信データ列における輝度のばらつきを第1のばらつき評価値として演算し、前記第2の受信データ列における輝度のばらつきを第2のばらつき評価値として演算するブロック内演算器と、
前記輝度変化評価値、前記第1のばらつき評価値、及び、前記第2のばらつき評価値に基づいて、前記第1の受信データ列と前記第2の受信データ列との間における輝度差を解消又は緩和するフィルタと、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項2記載の装置において、
前記第1の受信データ列及び前記第2の受信データ列は、それぞれ、同じ深度でビーム走査方向に並ぶ複数の受信データにより構成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記輝度変化評価値は、前記第1の受信データ列についての輝度の平均値と前記第2の受信データ列についての輝度の平均値との差である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項3記載の装置において、
前記第1のばらつき評価値は前記第1の受信データ列についての標準偏差であり、
前記第2のばらつき評価値は前記第2の受信データ列についての標準偏差である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項2記載の装置において、
前記フィルタ処理部は、前記第1の受信データ列における前記第2の受信データ列側の端に相当する第1の端データ、及び、前記第2の受信データ列における前記第1の受信データ列側の端に相当する第2の端データ、の内の少なくとも一方を補正する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記フィルタ処理部は、前記第1の端データを前記第2の端データに近付ける補正、及び、前記第2の端データを前記第1の端データに近付ける補正、を実行する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項7記載の装置において、
前記フィルタ処理部は、前記第1の受信データ列における両端データ以外の1又は複数の中間データを保存し、前記第2の受信データ列における両端データ以外の1又は複数の中間データを保持する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、パラレル受信方式の実行によって得られた受信データの処理に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する装置である。超音波診断に際しては、フレームレートの引き上げその他の目的からパラレル受信方式が採用される。パラレル受信方式は、1つの送信ビーム当たり複数の受信ビームを並列的に同時に形成する方式である。それらの受信ビームはビーム走査方向に並び、それら全体として受信ビーム列を構成する。パラレル受信方式の下では、通常、1つの走査面(二次元データ取込領域)がビーム走査方向に並ぶ複数の受信データ列によって構成される。
【0003】
超音波診断装置内の受信ビームフォーマーにおいては、複数の振動素子から出力された複数の受信信号に対する複数の整相加算処理により、受信ビーム単位で受信ビームデータが生成される。ビーム走査方向に並ぶ複数の受信ビームデータにより1つのフレームデータが構成される。パラレル受信方式の下では、上記のように、送信ビームごとに複数の受信ビームデータが同時に取得される。同時に取得される複数の受信ビームデータを受信ビームデータブロックと称することができる。
【0004】
隣接する2つの受信データブロックの間に着目した場合、そこに輝度差が生じやすい。個々の受信データブロック内においては比較的に相関性が高いが、隣接する2つの受信データブロック間においては比較的に相関性が低くなるからである。その輝度差は超音波画像上において縞模様として現れる(特許文献1)。この縞模様は超音波画像の画質を劣化させる要因となるものである。超音波画像が縞模様を呈していることをBlockyと称することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/065547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
縞模様を緩和又は解消するためにビーム走査方向に輝度を平滑化する平滑化フィルタ又は特定空間周波数成分を除去するノッチフィルタを適用することが考えられる。しかし、ビーム走査方向に一様にフィルタ処理を適用すると、超音波画像がぼけてしまい、あるいは、その画質が過度に劣化してしまう。
【0007】
上記特許文献1には、パラレル受信方式において、送信ビームに対する各受信ビームの位置に応じてフィルタ係数を最適化する技術が開示されている。これは、個々の受信データブロック内におけるフィルタ処理であり、隣接する2つの受信データブロックに跨がったフィルタ処理ではない。つまり、それは、隣接する2つの受信データブロック間での輝度関係に応じた局所的なフィルタ処理ではない。
【0008】
本発明の目的は、並列受信方式を実行する場合において、縞模様の発生を防止又は抑制することにある。あるいは、本発明の目的は、隣接する2つの受信データブロック間での実際の輝度状況に応じて、隣接する2つの受信データブロック間で生じる輝度差を解消又は緩和することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超音波診断装置は、1つの送信ビームごとにビーム走査方向に並んだ複数の受信ビームを形成するパラレル受信方式に従って、1つの送信ビーム当たり複数の受信ビームデータによって構成される受信データブロックを生成するブロック生成部と、前記ブロック生成部によって生成された複数の受信データブロックを処理する処理部であって、隣接する2つの受信データブロック間での輝度変化を示す輝度変化評価値と、前記隣接する2つの受信データブロックにおける輝度のばらつきを示すばらつき評価値と、に基づいて、前記隣接する2つの受信データブロック間での輝度差を解消又は緩和するフィルタ処理を実行するフィルタ処理部と、を含むことを特徴とするものである。
【0010】
上記構成によれば、隣接する2つの受信データブロック(以下、それぞれを単に「ブロック」ともいう。)に基づいて、隣接する2つの受信データブロック間(以下、単に「ブロック間」又は「隣接ブロック間」ともいう。)についての輝度変化評価値(ブロック間評価値)が演算され、また、それら2つのブロックに基づいてばらつき評価値が演算される。望ましくは、輝度変化評価値は、一方のブロックの輝度レベルと他方のブロックの輝度レベルの差の大小を示す評価値である。望ましくは、ばらつき評価値は、ブロック間周囲における輝度の一様性の程度を示す評価値である。個々のブロックごとにばらつき評価値が演算されてもよい。ブロック間での輝度変化が大きい場合には、一般に、見かけ上のライン(縞模様構成要素)が生じやすいと言える。一方、ブロック間周辺の輝度の一様性が高い場合には、一般に、見かけ上のラインが生じてもそれが目立ち難いと言える。そこで、局所部分の輝度状況と背景の輝度状況とを考慮してフィルタ処理の有無又はその程度が決定される。
【0011】
望ましくは、前記フィルタ処理部は、前記隣接する2つの受信データブロックの内の第1の受信データブロックに含まれる第1の受信データ列と、前記隣接する2つの受信データブロックの内の第2の受信データブロックに含まれる第2の受信データ列と、に基づいて前記輝度変化評価値を演算するブロック間演算器を含む。この構成によれば、2つの受信データ列(受信データ列ペア)を単位として、フィルタ処理が実行される。その際、2つの受信データ列の間において上記輝度変化評価値が演算される。
【0012】
望ましくは、一方のブロックにおいて深さ方向に並ぶ複数の第1の受信データ列が定義され、他方のブロックにおいても深さ方向に並ぶ複数の第2の受信データ列が定義される。個々の受信データ列は、望ましくは、ビーム走査方向に並ぶ複数の受信データで構成される。個々の受信データ列が二次元配列された複数の受信データで構成されてもよい。受信データ列ペアは、同一の深度から取得された隣接関係にある2つの受信データ列で構成されるのが望ましい。ブロック間において個々の深度ごとに、実際の状況に応じて、フィルタ処理の有無や程度を適応的に切り替えるのが望ましい。補正が必要でないデータについては保存できるように構成するのが望ましい。
【0013】
望ましくは、前記フィルタ処理部は、更に、前記第1の受信データ列における輝度のばらつきを示す第1のばらつき評価値を演算し、前記第2の受信データ列における輝度のばらつきを示す第2のばらつき評価値を演算するブロック内演算器と、前記輝度変化評価値、前記第1のばらつき評価値、及び、前記第2のばらつき評価値に基づいて、前記第1の受信データ列と前記第2の受信データ列との間における輝度差を解消又は緩和するフィルタと、を含む。この構成によれば、各受信データ列における輝度の一様性の大小をフィルタ処理において考慮することが可能となる。なお、2つの受信データ列全体としてその一様性を示すばらつき評価値が演算されてもよい。
【0014】
望ましくは、前記第1の受信データ列及び前記第2の受信データ列は、それぞれ、同じ深度でビーム走査方向に並ぶ複数の受信データにより構成される。望ましくは、前記輝度変化評価値は、前記第1の受信データ列についての輝度の平均値と前記第2の受信データ列についての輝度の平均値との差である。
【0015】
望ましくは、前記第1のばらつき評価値は、前記第1の受信データ列についての標準偏差であり、前記第2のばらつき評価値は、前記第2の受信データ列についての標準偏差である。標準偏差の演算に際して既に計算された輝度の平均値を利用してもよい。
【0016】
望ましくは、前記フィルタ処理部は、前記第1の受信データ列における前記第2の受信データ列側の端に相当する第1の端データ、及び、前記第2の受信データ列における前記第1の受信データ列側の端に相当する第2の端データ、の内の少なくとも一方を補正する。この構成によれば、個々の受信データ列の全体を補正するのではなく、その内の端データを補正して、受信データ列の全体が不必要に変化してしまうことを防止できる。つまり、補正と保存とを両立できる。望ましくは、前記フィルタ処理部は、前記第1の端データを前記第2の端データに近付ける補正、及び、前記第2の端データを前記第1の端データに近付ける補正、を実行する。2つの端データ(の輝度値)を相互に近付ければ、受信データ列間で生じている輝度差を緩和できる。平滑化を局所的に行うことになるので縞模様を解消又は軽減しつつも画像全体として補正する部分を少なくできる。
【0017】
望ましくは、前記フィルタ処理部は、前記第1の受信データ列における両端データ以外の1又は複数の中間データを保存し、前記第2の受信データ列における両端データ以外の1又は複数の中間データを保持する。この構成によれば、受信データ列中の両端以外が保存されることになるので、補正に伴う画質低下、特にエッジのぼけ、を少なくできる利点が得られる。上記で説明したフィルタ処理に加えて他のフィルタ処理を組み合わせてもよい。例えばそのようなフィルタとしてノッチフィルタがある。それは特定周波数成分を抑圧する作用を発揮するフィルタである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、並列受信方式を実行する場合において、縞模様の発生を防止又は抑制できる。あるいは、本発明によれば、隣接する2つの受信データブロック間での実際の輝度状況に応じて、隣接する2つの受信データブロック間で生じる輝度差を解消又は緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
図2】ブロック間処理部の作用(そこで実行されるアルゴリズム)を説明するための概念図である。
図3】フィルタ処理を実行するか否かの判定条件を説明するための図である。
図4】フィルタ処理の第1例を説明する流れ図である。
図5】フィルタ処理の第2例を説明する流れ図である。
図6】フィルタ処理の第3例を説明する流れ図である。
図7】フィルタ処理の第4例を説明する流れ図である。
図8】フィルタ処理の第5例を説明する流れ図である。
図9】変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は、医療の分野において、生体に対する超音波の送受波により得られた受信情報に基づいて超音波画像を形成する装置である。
【0022】
プローブ10は、超音波の送受波を行うアレイ振動子を備えている。アレイ振動子は例えば直線状に配列された複数の振動素子からなる。アレイ振動子によって超音波ビームが形成され、それが電子的に走査される。電子走査方式として電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式、等の各種の方式が知られている。1Dアレイ振動子に代えて2Dアレイ振動子を設けることも可能である。上記の超音波ビームは、送信ビーム及び受信ビームを含む概念である。
【0023】
本実施形態の超音波診断装置では、パラレル受信方式に従って、1つの送信ビーム当たり複数の受信ビームが並列的に且つ同時に形成される。受信ビームの同時形成数は、例えば4であるが、その数字は一例に過ぎない。図1においては、送信ビーム14の両側に形成された2つの受信ビーム16,18だけが模式的に示されている。図1においては、送信ビーム14と受信ビーム16,18を表現上区別するために、2つの受信ビーム16,18が上を向いた2つの矢印で表現されている。実際には、受信ダイナミックフォーカス法に従って、受信焦点は浅い方から深い方へ動的に運動する。
【0024】
送信ビームフォーマー20は、送信時に、送信ビームを形成するための電子回路である。送信ビームフォーマーによって一定の遅延関係を有する複数の送信信号が並列的に生成され、それらが複数の振動素子へ供給される。これにより送信ビーム14が形成される。
【0025】
受信ビームフォーマー22は、受信時に、複数の振動素子から出力された複数の受信信号に対して整相加算処理を適用して受信ビームに相当するビームデータを生成する電子回路である。本実施形態においては、パラレル受信方式に従って、一回の送信後に複数の受信信号に基づく複数の整相加算処理が実行され、これによりビーム走査方向に並んだ複数の受信ビームに対応する複数の受信ビームデータが生成される。それは上記の受信データブロックを構成するものである。1回の送受信を単位として1つの受信データブロックが得られる。受信ビームフォーマーは、その機能から見て、ブロック生成部又はブロック生成手段として理解される。受信ビームフォーマーは、FPGA、ASICなどの回路によって構成され得る。
【0026】
ビームデータ処理回路24は、受信ビームフォーマー22から出力されたビームデータを処理する回路である。それは、検波回路、対数変換回路、等により構成される。
【0027】
ブロック間フィルタ処理部26は、隣接する2つのブロック間に対して、そこに生じる輝度差を解消又は軽減するフィルタ処理を適用する電子回路である。その際においては、後に詳述するように、個々の深さごとに受信データ列ペアが特定され、それらの間における輝度差が解消又は緩和されるように、受信データ列ペア中の特定の複数の輝度値が補正される。そのようなフィルタ処理は、受信データ列ペアを構成する2つの受信データ間での輝度変化を示す輝度変化評価値、及び、それら2つの受信データ列における輝度の一様性又はばらつきを示すばらつき評価値、に基づいて適応的かつ局所的に実行される。輝度変化評価値は、受信データ列ペア(受信データ列間)ごとに演算され、それは、具体的には、隣接する2つの受信データについて得られた2つの平均値の差として演算される。輝度変化評価値はブロック間評価値として観念され得る。ばらつき評価値は、実際には、受信データ列ごとに演算される。但し、2つの受信データ全体として1つのばらつき評価値が演算されてもよい。受信データ列単位で演算されるばらつき評価値は、注目部位の背景又は近傍における輝度の一様性(又はばらつき)の大小を指標するブロック内評価値として観念される。
【0028】
以上のように、複数の評価値に基づいて、ブロック間の輝度差を解消する輝度補正を行うか否かが判断され、あるいは、そのような輝度補正の度合いが判断される。ブロック間フィルタ処理部26は、FPGA、ASICなどの回路によって構成され得る。メインCPUによってその機能が実現されてもよい。図1に示す構成では、スキャンコンバート前の個々のビームデータが処理対象となっている。
【0029】
ノッチフィルタ28は、例えば、受信フレームに対して、ビーム走査方向に対して特定周波数成分を抑圧するフィルタ処理を実行する電子回路である。このノッチフィルタ28も縞模様を軽減する作用をもっている。本実施形態では、ノッチフィルタ28の前段において、上記のブロック間フィルタ処理部26において、前処理としてのブロック間輝度差の抑制が行われており、その上で、ノッチフィルタ処理が実行されている。ノッチフィルタ28の後段にブロック間フィルタ処理部26を設けることも可能である。但し、本実施形態によれば、前段において適応的にブロック間フィルタ処理を適用して大きな輝度差を局所的に抑圧した上で、軽いノッチフィルタ処理を縞模様部分に局所的に適用することができる。よって、本実施形態によれば、状況にもよるが、一般に、画質をほとんど劣化させることなく、縞模様のほぼ全部を除去することが可能である。なお、ノッチフィルタを設けるのは必須ではなく、ブロック間フィルタ処理部26だけで縞模様の全体を抑圧してもよい。
【0030】
DSC(デジタルスキャンコンバータ)30は、受信フレームを表示フレームに変換する電子回路である。それは座標変換機能、画素補間機能、フレームレート変換機能等の各種の機能を備えている。電子セクタ走査方式が実行される場合、DSC30において極座標から直交座標への変換(同時に補間処理)が実行されるので、DSC30の前にブロック間フィルタ処理部26を設けるのが望ましい。DSC30により、超音波画像が形成されることになる。表示処理部32は画像合成機能等を有し、それに接続された表示器34の画面上には超音波画像が表示される。超音波画像は例えば二次元断層画像である。もちろん、他の画像が表示されてもよい。制御部36は、CPU及びプログラムによって構成される。制御部36は、図1に示されている各構成の動作を制御している。
【0031】
図2を用いて図1に示したブロック間フィルタ処理部26での処理について説明する。図2において、上段には、受信フレームの一部が模式的に描かれている。受信フレームはビーム走査方向(y方向)に並ぶ複数のブロックにより構成される。それには第1ブロック38及び第2ブロック40が含まれる。個々のブロック38,40は、図示の例において、ビーム走査方向に並ぶ4つのビームデータ42からなる。すなわち、この例ではパラレル受信数は4である。個々のビームデータ42は深さ方向(x方向)に並ぶ複数の受信データ(エコーデータ)42aからなる。各受信データ42aはそれぞれ輝度値(エコー値)を有している。
【0032】
第1ブロック38及び第2ブロック40においては、それぞれ、個々の深さごとに、受信データ列が存在している。換言すれば、個々のブロック38,40は、深さ方向に並ぶ複数の受信データ列からなる。各受信データ列はビーム走査方向に並ぶ4つの受信データからなる。図2においては、特に、第1ブロック38に属する第1受信データ列46及び第2ブロック40に属する第2受信データ列48が示されている。それらは受信データ列ペアを構成する。第1受信データ列46は、ビーム走査方向に並んだ4つの受信データa,b,c,dからなり、第2受信データ列は、ビーム走査方向に並んだ4つの受信データe,f,g,hからなる。第1受信データ列46において、受信データa,dがそれぞれ端データであり、受信データb,cがそれぞれ中間データである。第2受信データ列48において、受信データe,hがそれぞれ端データであり、受信データf,gがそれぞれ中間データである。第1受信データ列46及び第2受信データ列48からなる受信データ列ペアにおいては、第1受信データ列46の内で最も第2受信データ列48に近い端データが受信データdであり、第2受信データ列48の内で最も第1受信データ列46に近い端データが受信データeである。本実施形態では、以下に詳述するように、個々の端データについてだけ輝度値が補正されており、個々の中間データについては輝度値が保存されている。符号44は輝度の段差が生じ得るブロック間を示している。そのような輝度の段差を解消又は緩和するために、個々の受信データ列ペアごとに、隣接関係にある2つの端データd,eの輝度値が必要に応じて補正される。すなわち、受信データ列ペアごとに、それを構成する2つの受信データ列間における輝度差が緩和されている。なお、図2には、第1ブロック38と第2ブロック40の間での処理が説明されているが、各ブロック間に対して同様のフィルタ処理が適用される。
【0033】
図2の下段には、ブロック間フィルタ処理部26が有する複数の機能(あるいは、そこで実行されるアルゴリズム)が複数のブロックにより表現されている。ブロック50として示されているように、第1受信データ列46を構成する4つの受信データa,b,c,dが有する4つの輝度値に基づいて、それらの平均値が第1平均値として演算される。同様に、ブロック52として示されているように、第2受信データ列48を構成する4つの受信データe,f,g,hが有する4つの輝度値に基づいて、それらの平均値が第2平均値として演算される。ブロック54として示されているように、第1平均値と第2平均値の差が平均値差として演算される。平均値差は本実施形態では絶対値であるが、それが符号を有していてもよい。平均値差は、隣接する2つの受信データ列46,48間における輝度変化の大小を指標するブロック間評価値である。
【0034】
一方、ブロック56として示されているように、第1受信データ列46を構成する4つの受信データa,b,c,dが有する4つの輝度値に基づいて、それらについての標準偏差が第1標準偏差として演算される。同様に、ブロック58として示されているように、第2受信データ列48を構成する4つの受信データe,f,g,hが有する4つの輝度値に基づいて、それらについての標準偏差が第2標準偏差として演算される。第1標準偏差及び第2標準偏差は、それぞれ、輝度値のばらつき度合いを示すものであり、ブロック内評価値と言い得る。2つの受信データ列全体から1つの標準偏差が演算されてもよい。いずれにしても、処理対象となる部位を中心とする輝度分布がどのような状況にあるのかが評価される。
【0035】
隣接する2つの受信データ列46,48間での平均値差が大きい場合、補正の必要性が高くなる。一方、それらの受信データ列46,48について求められる標準偏差が大きい場合、補正の必要性が低くなる。そこで、本実施形態では、平均値差(ブロック間評価値)と2つの標準偏差(2つのブロック内評価値)がフィルタ処理に際して総合的に考慮される。
【0036】
ブロック60とブロック62とがフィルタ又はフィルタ要部に相当する。ブロック60に示されるように、判定においては、上記のような複数の評価値に基づいて、2つの端データd,eを補正するか否かが決定されている。その場合、個々の端データについて個別的に補正するか否かが判定されてもよい。また、補正の有無ではなく、補正の程度(混合率kの大小)が判定されてもよい。本実施形態では、ブロック60で示されている判定において、補正実行が判定された場合、ブロック62で示すように、2つの端データd,eがともに補正される。具体的には、端データdが示す輝度値が、端データeが示す輝度値に近付けられ、端データeが示す輝度値が、端データdが示す輝度値に近付けられている。実際には、2つの輝度値が一定の係数をもって混合され、混合後の輝度値がそれぞれの端データに与えられている。このような補正を各深度に対して適応的に実行することにより、ブロック間に生じる輝度差を解消又は緩和することが可能である。個々のブロックは、電子回路として構成され、あるいは、ソフトウエア機能として構成される。第1標準偏差の演算では既に計算された第1平均値を利用してもよく、同様に、第2標準偏差の演算では既に計算された第2平均値を利用してもよい。
【0037】
図3には、図2に示したブロック54及びブロック60の具体的な内容が示されている。図2に示したブロック54及びブロック60がそれぞれ図3に示すブロック54A及び60Aに対応する。ブロック54Aで示されているように、第1平均値及び第2平均値に基づいて、平均値差が計算される。この例において、それは絶対値である。ブロック60Aで示されているように、補正をするか否かの判定に際しては、平均値差、第1標準偏差及び第2標準偏差が参照される。図示の例では、第1標準偏差が平均値差のr倍よりも小さく(第1条件)、且つ、第2標準偏差が平均値差のr倍よりも小さい(第2条件)、という2つの条件が満たされた場合に、補正実行が判断される。これは、ブロック間での輝度差が、ブロック間周辺の輝度のばらつきに対して、ある程度大きい場合に、つまり、輝度差が視覚的に目立つような場合に、輝度差を改善する補正を行うための条件である。例えば、注目している端データに対して補正を行う場合、混合率kに対して例えば0.5が与えられる。その場合、隣接している2つの端データに対して、それぞれ、2つの端データが有する2つの輝度値の平均値が与えられる。ここで、kは0から1.0の間の数値として定め得る。注目している端データについて混合率0.7を与えれば、当該端データが有する輝度値をある程度保存することが可能である。諸状況に応じて混合率を可変するのが望ましい。注目している端データに対して補正を行わない場合には、kの値に例えば1.0が与えられてもよい。その場合、実質的にブレンドがなされないことになる。本実施形態では、輝度値の補正は、個々の端データに対して実行され、個々の中間データについては適用されない。
【0038】
受信データ列を構成するデータ数が多いような場合、データ列中の端部に相当する複数のデータが補正されてもよい。上記のrは補正感度係数とも考えられ、例えば、0から1.0の間の数値であってもよい。それを0とした場合、すべての場合に輝度値が保存され、それを無限大とした場合、すべての場合に輝度値が補正されることになる。係数rを深さに応じて可変してもよい。また、係数rを走査方向のアドレスに応じて可変してもよい。なお、右端ブロック中の各右端データ及び左端ブロック中の各左端データについては、それに隣接するデータが存在しないので、輝度値をそのまま維持するようにすればよい。それ以外の例外処理が必要に応じて適用されてもよい。
【0039】
以下に個々の受信データに対して適用される計算式を例示する。
【数1】
【0040】
上記の計算式中における記号の意味は以下のとおりである。
【数2】
【0041】
計算式(1)は、例えば、図2に示した第1受信データ列46中の左端データdに対して適用されるものである。計算式(2)は、例えば、図2に示した第2受信データ列48中の右端データeに対して適用されるものである。計算式(3)は、例えば、図2に示した第2受信データ列48中の中間データf,gに対して適用されるものである。受信データ列ペアを単位として上記の計算式が繰り返し適用される。
【0042】
補正の有無ではなく、補正の度合いを判定するようにしてもよい。その場合においても、複数の評価値に基づいて(特にブロック間輝度差を示す評価値とブロック間周辺の輝度のばらつきを示す評価値とに基づいて)、混合率が可変設定されるのが望ましい。
【0043】
なお、上記の平均値は以下の(4)式によって計算され得る。また、上記の標準偏差は以下の(5)式によって計算され得る。
【数3】
【0044】
次に、図4乃至図8を用いてブロック間処理部におけるフィルタ処理についての幾つかの具体例について説明する。なお、図4乃至図8において、同じような内容を有する複数のステップには同じステップ番号を付した。
【0045】
図4に示す第1例において、S10では、この例では8つのビームデータ(2つのブロック)がブロック間フィルタ処理部内のメモリ上に格納される。そのメモリ上に1フレーム分の複数のビームデータが格納されてもよい。S12では、深さごとに、隣接する2つの受信データ列(一方の受信データ列、他方の受信データ列)が特定される。S14では、深さごとに、一方の受信データ列について第1平均値及び第2標準偏差が演算され、他方の受信データ列について第2平均値及び第2標準偏差が演算される。S16では、深さごとに、隣接した2つの端データについて補正を行うか否かが判定される。補正を行う場合、S18において、隣接した2つの端データが参照され、それらの内容が補正される。補正を行わない場合、隣接した2つの端データが保存される。端データ以外の中間データは常に保存される。
【0046】
図5に示す第2例においては、S20において、深さごとに、第1平均値、第2標準偏差、第2平均値、及び、第2標準偏差に基づいて、混合率kが適応的に設定される。S18では、深さごとに、混合率kに基づいて、隣接する2つの端データが補正される。その場合、2つの端データに対して一律に混合率kが適用されてもよいし、個々の端データに対して個別的に混合率kが適用されてもよい。混合率kについては各種の定め方を採用し得る。
【0047】
図6に示す第3例においては、S22において、個々のビームデータが深さ方向に沿って平滑化される。S24では、補正有無が判定され、あるいは、混合率kが決定される。それ以外の工程は既に説明したとおりである。S18の処理において、S10に示されている平滑化前のビームデータを補正対象としてもよい。
【0048】
図7に示す第4例においては、深さ方向に並ぶ複数の混合率kが、深さ方向に沿って平滑化される。平滑化後の各混合率がS18において端データの補正で利用される。
【0049】
図8に示す第5例においては、S28において、4つのビームデータに対して深さ方向に沿った間引き処理が適用される。すなわち、データ数が削減される。S12では、間引き処理後の8つのビームデータにおいて、深さごとに受信データ列ペアが特定され、S14において複数の評価値が演算された上で、S20において深さごとに混合率kが演算される。S30では、S20で演算された複数の混合率kを深さ方向に展開する処理(例えば間引かれた深さに対して近傍の混合率をコピーする処理)が実行される。これにより個々の深さごとに混合率kが特定されることになる。S18では、深さごとに、混合率kを用いた端データの補正が実行される。図4乃至図8に示した内容はいずれも例示であり、他の処理を採用するようにしてもよい。
【0050】
上記実施形態によれば、ブロック間における輝度の段差を解消又は緩和して超音波画像上に生じ得る縞模様を解消又は抑制できる。よって、超音波画像の画質を高められる。特に、適応的かつ局所的なフィルタ処理を適用したので、超音波画像をできるだけ保存できるという利点を得られる。
【0051】
図9には超音波診断装置の変形例が示されている。図9において、図1に示した構成と同様の構成には同一符号を付しその説明を省略する。この超音波診断装置においては、例えば、電子リニア走査が適用される。ビームデータ処理回路24の後段にDSC70が設けられており、その後段にブロック間フィルタ処理部72が設けられている。すなわち、複数のビームデータからなる受信フレームデータが表示フレームデータに変換された後に、複数の受信ビームに相当する複数のラインに対して、ライン間ごとに上記のフィルタ処理が適用されている。
【符号の説明】
【0052】
26 ブロック間フィルタ処理部、38 第1ブロック、40 第2ブロック、44 ブロック間、46 第1受信データ列、48 第2受信データ列、50 第1平均値、52 第2平均値、54 平均値差、56 第1標準偏差、58 第2標準偏差、60 判定、62 補正。
【要約】
【課題】パラレル受信を行う場合に、隣接する2つの受信データブロック間で生じる輝度差を解消又は軽減する。
【解決手段】第1ブロック38内の第1受信データ列46と、第2ブロック40内の第2受信データ列48と、の間で適応的なフィルタ処理が実行される。具体的には、第1受信データ列46の第1平均値と第2受信データ列の第2平均値との差が輝度変化評価値(ブロック間評価値)として演算される。第1受信データ列46の第1標準偏差が第1のばらつき評価値(第1ブロック内評価値)として演算され、第2受信データ列の第2標準偏差が第2のばらつき評価値(第2ブロック内評価値)として演算される。それらの評価値に基づいて補正を行うか否かが判定される。補正は、端データd,e(及びa,h)に対して適用される。その場合、中間データb,c,f,gは維持される。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9