特許第6041982号(P6041982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041982スライドファスナー用射出成形エレメント及びそれを備えたスライドファスナー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041982
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】スライドファスナー用射出成形エレメント及びそれを備えたスライドファスナー
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/00 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   A44B19/00
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-513384(P2015-513384)
(86)(22)【出願日】2013年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2013061797
(87)【国際公開番号】WO2014174577
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】水本 和也
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩昭
(72)【発明者】
【氏名】小島 昌芳
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4517277(JP,B2)
【文献】 特開2003−219903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B19/00−19/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が40〜70℃のポリアミド樹脂を含有するポリアミド樹脂組成物を材料としたスライドファスナー用の射出成形エレメントであって、当該組成物はJIS K7210(A法)に準拠して280℃、測定荷重2.16kgで測定したときのメルトフローレートが5〜40g/10分であり、ポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部中に40〜60質量部の強化繊維を含有する射出成形エレメント。
【請求項2】
炭素数が20以上40以下の脂肪酸の金属塩を含有する請求項1に記載の射出成形エレメント。
【請求項3】
脂肪酸塩がモンタン酸塩である請求項2に記載の射出成形エレメント。
【請求項4】
脂肪酸塩の含有量がポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部に対して0.1〜2.0質量部である請求項1〜3の何れか一項に記載の射出成形エレメント。
【請求項5】
JIS K7210(A法)に準拠して280℃、測定荷重2.16kgで測定したときの前記ポリアミド樹脂組成物のメルトフローレートが10〜20g/10分である請求項1〜4の何れか一項に記載の射出成形エレメント。
【請求項6】
ポリアミド樹脂がナイロン6及びナイロン6,10よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜5の何れか一項に記載の射出成形エレメント。
【請求項7】
強化繊維はガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維よりなる群から選択される1種以上である請求項1〜6の何れか一項に記載の射出成形エレメント。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の射出成形エレメントを備えたファスナーチェーン。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載の射出成形エレメントを備えたスライドファスナー。
【請求項10】
請求項9に記載のスライドファスナーを備えた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスライドファスナー用の射出成形エレメントに関する。また、本発明は当該射出成型エレメントを備えたスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナーは衣料品、鞄類、靴類及び雑貨品といった日用品はもちろんのこと、貯水タンク、漁網及び宇宙服といった産業用品においても利用されている物品の開閉具である。
【0003】
図1にはスライドファスナーの構成例が示されている。スライドファスナー10は一対の長尺テープ11、各テープの一側縁に沿って取着されるファスナーの噛合部分である多数のエレメント12、及びエレメント12を噛合及び分離することによりファスナーの開閉を制御するスライダー13の三つの部分から主に構成される。更に、スライダー13の脱落防止のために、上止め14及び開き具15を設けることができ、スライダー13の表面には引き手16を取り付けることができる。
【0004】
エレメントの材料として合成樹脂を使用する場合、ファスナーテープへのエレメントの取付けは、テープ上への連続的な射出成形によって行われることが可能である。合成樹脂としては従来、ポリオキシメチレンが使用されてきた(特許文献1及び特許文献2)が、近年では性能向上の観点から、ポリオキシメチレン以外の材料も提案されている。特許文献3においては、布地と樹脂製部品からなるスライドファスナーを同浴染色した場合に、布地とスライドファスナーを見かけが同じ色調になるように染色することを課題として、ポリエステル及びポリアミドを使用したスライドファスナー部品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−219903号公報
【特許文献2】特開2001−192530号公報
【特許文献3】特許第4517277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スライドファスナー用の射出成形エレメントに要求される特性としては、実用性のある高い強度を保持すること、取着後にファスナーテープが波打たないこと(意匠性)、そして、優れた成形性を有することが挙げられる。この点に関して、ポリオキシメチレンは成形性に優れているものの、高強度化が難しいという問題がある。また、テープとの密着力が弱いためにエレメント滑り性が低下するという問題もある。
【0007】
特許文献3にはポリエステルやポリアミドがエレメント材料として使用され得ることが記載されているものの、当該文献に係る発明は同色染色性の向上を主眼としており、これらの特性をすべて満足させるための具体的な手法については検討が不十分である。特に、ポリアミド樹脂をエレメントに使用した具体例はまったく開示されていない。
【0008】
そこで、本発明の課題は、上記特性のすべてを満足することのできるスライドファスナー用の射出成形エレメントを提供することを課題とする。また、本発明はそのような射出成形エレメントを備えたスライドファスナーを提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、所定のガラス転移点(Tg)をもつポリアミド樹脂及び強化繊維を配合し、そして、特定範囲のメルトフローレート(MFR)を有するポリアミド樹脂組成物とすることが有効であることを見出した。また、所定の脂肪酸塩を添加することで、強度を損なうことなく成形性を向上させることが可能であることも見出した。
【0010】
本発明は上記の知見を基礎として完成されたものであり、一側面において、ガラス転移点が40〜70℃のポリアミド樹脂を含有するポリアミド樹脂組成物を材料としたスライドファスナー用の射出成形エレメントであって、当該組成物はメルトフローレートが5〜40g/10分であり、ポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部中に40〜60質量部の強化繊維を含有する射出成形エレメントである。
【0011】
本発明に係る射出成形エレメントの一実施形態においては、炭素数が20以上40以下の脂肪酸の金属塩を含有する。
【0012】
本発明に係る射出成形エレメントの別の一実施形態においては、脂肪酸塩がモンタン酸塩である。
【0013】
本発明に係る射出成形エレメントの更に別の一実施形態においては、脂肪酸塩の含有量がポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部に対して0.1〜2.0質量部である。
【0014】
本発明に係る射出成形エレメントの更に別の一実施形態においては、メルトフローレートが10〜20g/10分である。
【0015】
本発明に係る射出成形エレメントの更に別の一実施形態においては、ポリアミド樹脂がナイロン6及びナイロン6,10よりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0016】
本発明に係る射出成形エレメントの更に別の一実施形態においては、強化繊維はガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維よりなる群から選択される1種以上である。
【0017】
本発明は別の一側面において、本発明に係る射出成形エレメントを備えたファスナーチェーンである。
【0018】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る射出成形エレメントを備えたスライドファスナーである。
【0019】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るスライドファスナーを備えた物品である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高強度でありながら、成形性に優れ、ファスナーテープの波打ちの抑制されたスライドファスナーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】スライドファスナーの一構成例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1.ポリアミド樹脂)
本発明に係るスライドファスナー用の射出成形エレメントはポリアミド樹脂組成物を材料とする。本発明において使用可能なポリアミド樹脂はガラス転移点が40〜70℃のものである。ガラス転移温度が40℃以上であることによって高強度が発現しやすく、また、ガラス転移温度が70℃以下であることによって低温での射出成形が可能となり、射出成形時にファスナーテープが熱によって収縮し、波打ちが発生するのを防止可能となる。ポリアミド樹脂のガラス転移点は好ましくは50〜60℃である。
【0023】
本発明において、ポリアミド樹脂のガラス転移点の測定方法は、JIS K7121に準拠する。
【0024】
ポリアミド樹脂は、ジアミンとジカルボン酸の共重縮合、ω−アミノ酸の重縮合及びラクタム類の開環重合などによって得られる。ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルプロパンジアミン、3−メチルプロパンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカンジアミン及びドデカンジアミンなどの直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン及びパラフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン、イソホロンジアミン、2−アミノメチルピペリジン、4−アミノメチルピペリジン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシレンメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシレンメタン、1,3−ジ(4−ピペリジル)−プロパン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、N−アミノプロピルピペラジン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシレンプロパン、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4−ビス(アミノプロピル)ピペラジンなどの脂環族ジアミンが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ウンデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、及び5−ナトリウムスルホイソフタル酸及び1,5−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルヘキサヒドロフタル酸、4−メチルヘキサヒドロフタル酸などの非芳香族環式基を有するジカルボン酸が挙げられる。ω−アミノ酸としては、例えば、6−アミノヘキサン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、4−ピペリジンカルボン酸、3−ピペリジンカルボン酸、及び2−ピペリジンカルボン酸などが挙げられる。ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ウンデカンラクタム及びラウリルラクタムなどが挙げられる。
【0025】
ポリアミドの特に好適な具体例として、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、及びポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)が挙げられる。
これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
更に、ポリアミドの繰返単位の任意の組合せで得られる共重合体も用いることができる。
【0026】
(2.強化繊維)
ポリアミド樹脂組成物中に強化繊維を含有させることで、射出成形エレメントの強度を強化することができる。ポリアミドはシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤又はアルミネート系カップリング剤などで表面処理することにより、ポリエステルに比べて強化繊維へ親和性向上が見込めるため、強化繊維を多量に添加しても強度を損なうこと無く高剛性化することが可能である。具体的には、ポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部中、強化繊維の濃度を40質量部以上とすることが可能であり、更には50質量部以上とすることも可能である。但し、強化繊維の濃度が高すぎると成形性が悪化し、強度も低下することから、ポリアミド樹脂組成物中の強化繊維の濃度は70質量部以下とするのが好ましく、65質量部以下とするのがより好ましい。
【0027】
本発明に使用する強化繊維としては、限定的ではないが、例えば、炭素繊維、アラミド繊維等の有機繊維のほか、ガラス繊維、針状ワラストナイト、ウィスカー(例:チタン酸カルシウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー)等の無機繊維を用いることができる。一定以上の流動性を保持しつつ、強度を向上させることができる点で、ガラス繊維、アラミド繊維及び炭素繊維から選択される何れか一種以上を用いることが好ましく、ガラス繊維がより好ましい。これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0028】
樹脂にコンパウンドする前の平均繊維径としては3〜20μm程度が好ましく、5〜12μm程度がより好ましい。樹脂にコンパウンドする前の平均繊維長としては1mm〜10mm程度が好ましく、3mm〜6mm程度がより好ましい。ここで、繊維径は、強化繊維の断面積を求め、その断面積を真円として計算したときの直径を指す。また、樹脂にコンパウンドする前のアスペクト比=平均繊維径:平均繊維長は1:50〜3:10000が好ましく、1:300〜1:1200がより好ましい。樹脂にコンパウンドして成型した後には、強化繊維の平均繊維長は1/10〜1/20になるのが一般的であり、例えば0.1〜1mmであり、典型的には0.1〜0.5mmである。
【0029】
ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂と強化繊維の合計含有量は典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上である。
【0030】
(3.メルトフローレート)
本発明においては、使用するポリアミド樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)を制御する。MFRはポリアミドの分子量や強化繊維の含有量などに影響を受けて変化する。MFRが過度に低くなると流れ性の悪化によりスライダーなどのスライドファスナー用成形部品を射出成形する際の充填率が悪くなり、歩留まり低下や成形サイクルの長期化などの問題が生じる。一方、MFRが過剰に高くなると、強度が低下するのみならず、分子量分布の広がりにより流れムラが発生して外観不良となったり、ポリマー成分由来の吸水率の影響により夏場環境の寸法安定性が悪くなったりするなどの問題が発生する。好ましいMFRは5〜40g/10分であり、より好ましいMFRは8〜30g/10分であり、更により好ましいMFRは10〜20g/10分である。本発明においては、MFRはJIS K7210(A法)に準拠して280℃、測定荷重2.16kgで測定する。MFRがこの範囲にある樹脂組成物を用いることにより、成形性及び品質安定性に優れたスライドファスナー用成形部品を高い生産効率で製造することが可能である。上述した強化繊維の含有量からみて、当該範囲のMFRを得るためには本発明において使用するポリアミドの分子量を比較的高く設定することが必要となる。
【0031】
(4.脂肪酸塩)
本発明において使用するポリアミド樹脂は、本発明で規定するMFRを得るために分子量を高くすることが必要であるため、ポリアミド樹脂単独では高粘度で低流動性となる傾向にある。高粘度で低流動性という特性は成形性の悪化につながる。そのため、成形性を向上させるために流動性向上を目的としたワックスを添加することが考えられるが、ワックスを添加すると強度低下が生じる他、テープへの密着性を悪化させるという問題も生じることが分かった。そこで、本発明者は強度を低下させることなく成形性を向上させるための添加剤について検討したところ、炭素数が20以上40以下の脂肪酸の金属塩を添加した場合には、強度を損なうことなく成形性を向上可能であることが分かった。そして、脂肪酸金属塩の中でもモンタン酸金属塩が好ましいことが分かった。モンタン酸金属塩の具体例としては、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸リチウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウムが挙げられる。
【0032】
脂肪酸塩の含有量は好ましくはポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部に対して0.1〜2.0質量部である。0.1質量部以上とすることによって、成形性向上効果が有意に発揮できると共に、2.0質量部以下とすることによって経年劣化によるブリードアウト、黄変よる色調変化を抑制することができる。脂肪酸塩の含有量はより好ましくはポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部に対して0.3〜1.0質量部である。
【0033】
その他、ポリアミド樹脂組成物中には耐熱安定剤、耐候剤、耐加水分解剤、酸化防止剤、その他の顔料など常用の添加剤を例えばポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部に対して合計で10.0質量部以下、典型的には5.0質量部以下、より典型的には2.0質量部以下となるように添加してもよい。その他の顔料を添加する場合、上述した所定のモース硬度及び屈折率をもつ顔料が顔料全体の90質量%以上、好ましくは95質量%、更により好ましくは100質量%を占めるようにすることが望ましい。
【0034】
(5.スライドファスナー)
本発明に係るポリアミド樹脂組成物を用いてスライドファスナー用のエレメントを射出成形により製造することが可能である。一般には、エレメントはファスナーテープ上に連続的に射出成形され、ファスナーテープの側縁にエレメントが取着されたファスナーストリンガーが製造される。
【0035】
本発明に係る樹脂組成物を用いてエレメントをテープ上に射出成形してファスナーチェーンを製造する方法の一例について説明する。まず、樹脂組成物の成分であるポリアミド、強化繊維、脂肪酸等を成分の偏りがないように十分に混練する。混練は単軸押出機、2軸押出機、及びニーダー等を使用することができる。混練後の樹脂組成物を、所定の形状を有する金型を利用してテープ上に射出成形すると、ファスナーチェーンが得られる。テープ上へのエレメント列の連続的な射出成形によってファスナーチェーンを製造する技術自体については周知であり特に説明を要しないが、例えば、特開平2−36376号公報、特開昭59−91906号公報、特開昭59−101334号公報などに記載されている。テープの材料としては特に制限はなく、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエーテル、アクリル及びポリビニルなどの化学繊維、綿及び麻などのセルロース系天然繊維、羊毛及び絹などのたんぱく質系天然繊維、レーヨン及びキュプラなどの再生セルロース系半合成化学繊維などが使用可能であるが、強度、耐熱性、染色性、コストなどの理由により、ポリエステル繊維を織成又は編成してなるものが好ましい。射出成形の条件については特に制限はないが、劣化せずに高い生産性を確保できる観点から、シリンダ温度はポリアミドの融点よりも10〜60℃高い温度、例示的にはポリアミド6の場合235〜285℃、ポリアミド610の場合235〜285℃、ポリアミド66の場合275〜325℃の範囲で設定することが好ましく、また、金型温度はポリアミドのガラス転移点よりも10℃以上高い温度であり、かつ、テープが焼けない温度の範囲とする。例示的にはポリアミド6の場合60〜100℃、ポリアミド610の場合70〜100℃、ポリアミド66の場合80〜100℃の範囲で設定することが好ましい。
【0036】
左右一対のファスナーストリンガーを噛合させることでファスナーチェーンとすることができ、更にスライダー等の部品を組み合わせてスライドファスナーとすることもできる。このようにして製造されたスライドファスナーは各種物品の開閉部に取り付けることができる。
【0037】
本発明に係る射出成型エレメントの表面は光沢感を高める上で、十点平均粗さが表面の十点平均粗さが6μm以下であることが好ましく、例えば0.1〜6μmとすることができる。十点平均粗さはレーザー顕微鏡を用いた非接触式の表面粗さ測定機を用いて測定する。
【0038】
射出成型エレメントに対して染色を施すことが可能である。染色方法に特に制限はないが、浸染及び捺染が代表的である。染料としては、限定的ではないが、含金染料、酸性染料、スレン染料及び分散染料が好適であり、中でも染着性及び堅牢性が良いことから、酸性染料が特に好適に使用できる。染色はスライドファスナーの他の構成部品と同時に実施することもでき、別々に実施することもできる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図しない。
【0040】
ポリアミド樹脂としては以下を用意した。
・ナイロン6(東レ製の商品名「アミランCM1007」、ガラス転移点=50℃)
・ナイロン610(EVONIK社製の商品名「VESTAMID Terra HS16」、ガラス転移点=60℃)
・ナイロン66(AKChem社製の商品名「レオナ1300S」、ガラス転移点80℃)
・ナイロン6(ユニチカ社製の商品名「A1012」、ガラス転移点50℃)
各ポリアミド樹脂のガラス転移点の測定方法はJIS K7121に準拠し、DSC(示差走査熱量計)としてExtar6000(セイコーインスツルメンツ製)を用い、10℃/分の昇温条件で測定した。
【0041】
強化繊維としては以下を用意した。
・耐熱ガラス繊維(日東紡績社製の商品名「CS3J−459」、繊維断面形状φ11μm(真円形状)、成形前平均繊維長3.0mm、成形後平均繊維長0.1mm)
・扁平ガラス繊維(日東紡績社製の商品名「CSG3PL−810S」、繊維断面形状14×7μm(楕円形状)、成形前平均繊維長3.0mm、成形後平均繊維長0.15mm)
【0042】
添加剤としては以下を用意した。
・フェノール系酸化防止剤(ADEKA社製の商品名「アデカスタブAO−80」)
・リン系酸化防止剤(ADEKA社製の商品名「アデカスタブPEP36」)
・ステアリン酸亜鉛(日東化成工業社製の商品名「Zn−St」、炭素数:18)
・ポリエチレンワックス(クラリアントジャパン社製の商品名「リコワックス PE520」、分子量:約2000)
・モンタン酸カルシウム(日東化成工業社製の商品名「CS−8」、炭素数:28)
・モンタン酸ナトリウム(日東化成工業社製の商品名「NS−8」、炭素数:28)
【0043】
上記ポリアミド樹脂、ガラス繊維及び添加剤を表1及び表2に記載の各配合割合(質量基準)となるように、二軸押出機(東芝機械製、TEM−18SS)を用いて混練し、その後、溶融樹脂をストランド状に押出し、冷却水槽にて固化させた後、ストランドをペレタイザーでカットすることで、実施例及び比較例のポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。これをそれぞれ、固定金型と可動金型による多数のエレメント型が配列されており、エレメントをテープ上に連続的に射出成形可能なファスナーチェーン製造装置を用いて、シリンダ温度をポリアミドの融点+20℃として、金型温度をポリアミドのガラス転移点+20℃として、ファスナーチェーンを製造した。
【0044】
得られたファスナーチェーンに対して、チェーン横引強度(JIS S3015:2007)、エレメント滑り(ASTM−D−2061)、エレメント引抜き(ASTM−D−2061)、摺動抵抗(JIS S3015:2007)、成形性を評価した。成形性に関しては、チェーンフィード性を評価した。チェーンフィード性は、ファスナーチェーン製造装置から製品を引取るときのローラにかかるサーボモータトルクにより判別され、チェーン引取り時の最大荷重が10kg未満の場合○、チェーン引取り時の最大荷重が10kg以上20kg未満の場合△、チェーン引取り時の最大荷重が20kg以上の場合×とした。結果を表1及び表2に示す。
【0045】
また、発明例及び比較例に係るポリアミド樹脂組成物の280℃におけるメルトフローレート(MFR)をJIS K7210(A法)に準拠して測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
(考察)
実施例1〜7については、強度、テープ波打ち、及び成形性といった項目で何れも優れた特性を有していた。特に、モンタン酸塩を添加した実施例4及び5については、成形性の向上に加えて強度も上昇した。一方、比較例1についてはガラスファイバーの含有量が高すぎ、MFRが低すぎたために成形性が悪化し、ファスナーチェーンを製造できなかった。比較例2については逆にガラスファイバーの含有量が低すぎたことにより十分な強度を得ることができなかった。比較例3についてはガラス転移点が高いポリアミドを使用したために、成形温度が高くなり、テープ波打ちが発生した。比較例4についてはMFRが高すぎて十分な強度が得られなかった。比較例5については、使用したポリアミド自体のMFRが高かった(換言すれば分子量が低かった)ために、全体としてもMFRが高くなり、十分な強度が得られなかった。
【符号の説明】
【0049】
10 スライドファスナー
11 長尺テープ
12 エレメント
13 スライダー
14 上止め
15 開き具
16 引き手
図1