特許第6042002号(P6042002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6042002
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20161206BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20161206BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01L21/30 502D
   B29C33/38
   B29C59/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-12844(P2016-12844)
(22)【出願日】2016年1月26日
【審査請求日】2016年3月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000202350
【氏名又は名称】綜研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 幸大
(72)【発明者】
【氏名】坂田 郁美
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−005972(JP,A)
【文献】 特開2015−037152(JP,A)
【文献】 特開2010−030057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/02
B29C 33/38
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性層と、その上側に設けられた樹脂層を有する構造体であって、
前記樹脂層は、前記弾性層の反対側の面に微細パターンを備え、
前記微細パターンは、高さが異なる複数の領域を備え、
前記微細パターンは、複数の凸部及び複数の凹部を含み、
前記微細パターンの前記高さが異なる複数の領域は、高段部及び前記高段部より高さの低い低段部を含み、
前記高段部の前記複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、前記低段部の前記複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離が、500μm以下であり、
以下の(1)又は(2)の構成を備える;
(1)前記弾性層のヤング率が1GPa以下である
(2)前記弾性層のヤング率が前記弾性層を支持する基材のヤング率よりも小さい
構造体。
【請求項2】
前記弾性層のヤング率に対する前記基材のヤング率の比の値が10以上である、
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記樹脂層は、前記微細パターンが設けられている領域での最薄部の厚さが、100nm以下である、
請求項1又は請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記樹脂層の厚さに対する前記弾性層の厚さの比の値が10以上である、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
前記弾性層は、一様な厚さを有する、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント技術に用いる構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント技術とは、微細パターンを有するモールドを、透明基材上の液状樹脂等の樹脂層へ押し付け、これによりモールドのパターンを樹脂層に転写して微細構造体を得る微細加工技術である。微細パターンとしては、10nmレベルのナノスケールのものから、100μm程度のものまで存在する。得られた微細構造体は、半導体材料、光学材料、記憶メディア、マイクロマシン、バイオ、環境等、様々な分野で用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モールドを被加工物へ押し付けることによって、パターンの転写を行うナノインプリント装置において、前記モールドの押し付け方向が前記モールドのパターン形成面に対して垂直方向を維持するように制御する制御手段を有することを特徴とするナノインプリント装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−101201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、微細構造体に形成される微細パターンには、高さが異なる領域が複数存在することがある。例えば、本願出願人の先の出願である特願2014−152190には、遮光パターンを有する透明基材上に第1光硬化性樹脂組成物を塗布して得られる第1被転写樹脂層に対して第1モールドの第1パターンを押し付けた状態で第1モールドを通じて第1被転写樹脂層に活性エネルギー線を照射することによって第1パターンが転写された第1硬化樹脂層を形成し、第1硬化樹脂層上に第2光硬化性樹脂組成物を塗布して得られる第2被転写樹脂層に対して第2モールドの第2パターンを押し付けた状態で前記遮光パターンをマスクとして用いて第2被転写樹脂層に活性エネルギー線を照射して第2被転写樹脂層の一部の領域を硬化させることによって、低段部と高段部とを含む段差形状を有する第2硬化樹脂層を形成する工程を備え、第1及び第2パターンの少なくとも一方が、微細形状を有する、微細構造体の製造方法が開示されている。
【0006】
かかる技術では、微細パターンに高さが異なる領域が複数存在するが、高さの差を小さくすることが望まれる場合がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、微細パターンを有する構造体であって、微細パターンにおける高さが異なる領域の高さの差が小さい構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、弾性層と、その上側に設けられた樹脂層を有する構造体であって、前記樹脂層は、前記弾性層の反対側の面に微細パターンを備え、前記微細パターンは、高さが異なる複数の領域を備え、以下の(1)又は(2)の構成を備える;(1)前記弾性層のヤング率が1GPa以下である(2)前記弾性層のヤング率が前記弾性層を支持する基材のヤング率よりも小さい構造体が提供される。
【0009】
本発明のポイントは、高さが異なる複数の領域を備える微細パターンを有する面とは反対側に弾性層を備える点である。かかる弾性層は、(1)弾性層のヤング率が1GPa以下である、又は(2)弾性層のヤング率が弾性層を支持する基材のヤング率よりも小さい、という特性を有する。このような構造体はナノインプリント法におけるモールドとして好適に利用することができ、構造体(モールド)を被転写層に押圧することで被転写層に微細パターンを形成し、モールドによる押圧により弾性層が変形することで、微細パターンにおける高さが異なる領域の高さの差を小さくすることができる。
【0010】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は、互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記弾性層のヤング率に対する前記基材のヤング率の比の値が10以上である。
好ましくは、前記微細パターンは、複数の凸部及び複数の凹部を含み、前記微細パターンの前記高さが異なる複数の領域は、高段部及び前記高段部より高さの低い低段部を含み、前記高段部の前記複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、前記低段部の前記複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離が、500μm以下である。
好ましくは、前記樹脂層は、前記微細パターンが設けられている領域での最薄部の厚さが、100nm以下である。
好ましくは、前記樹脂層の厚さに対する前記弾性層の厚さの比の値が10以上である。
好ましくは、前記弾性層は、一様な厚さを有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は本発明の一実施形態に係る構造体2を表す模式図であり、(b)は(a)における領域Xの部分拡大図である。
図2】本発明の一実施形態に係る構造体2を製造する際に用いる複合モールド1と、被転写層21、弾性層22及び基材23を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る構造体2の製造方法について説明する図であり、(a)は複合モールド1の押圧前、(b)は被転写層21の硬化、(c)は複合モールド1の離間について示す図である。なお、説明の都合上、複合モールド1に含まれる高段部11h及び低段部11lと、被転写層21及び弾性層22の高さ方向の縮尺を変更している。また、基材23は図示を省略している。
図4図3(c)の拡大図であり、構造体2に含まれる高段部21hの高さと低段部21lの高さの差が小さくなるメカニズムを説明する図である。
図5】本発明の一実施形態に係る構造体2を用いて他の構造体3を製造する様子を表す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る構造体3の製造方法について説明する図であり、(a)は構造体2の押圧前、(b)は被転写層31の硬化、(c)は構造体2の離間について示す図である。なお、説明の都合上、構造体2に含まれる高段部21h及び低段部21lと、被転写層31及び基材33の高さ方向の縮尺を変更している。また、基材23は図示を省略している。
図7】本発明のその他の実施形態を示す図であり、(a)は基材23を省略して構造体2を製造する例を、(b)は被転写層21と弾性層22の間に中間層25を設けた例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。
【0013】
1.構造体2
以下、図1を用いて本発明の実施形態に係る構造体2について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0014】
<構造体2>
図1(a)は本発明の一実施形態に係る構造体2を表す模式図であり、図1(b)は図1(a)における領域Xの部分拡大図である。構造体2は、基材23と、弾性層22と、樹脂層24と、を有する。樹脂層24は、弾性層22の反対側の面に微細パターン26を備える。微細パターン26は、例えば樹脂組成物により構成される樹脂層である。
【0015】
<樹脂層24及び微細パターン26>
微細パターン26は、例えば透明樹脂層であり、その厚さd1(微細パターン26を有する面24bと高段部21hの凸部の上面までの距離であり、樹脂層24の厚さでもある)は、1nm〜1mmが好ましい。より好ましくは、5nm〜200nmである。さらに好ましくは、10nm〜100nmである。このような厚さとすれば、インプリント加工が行い易い。
【0016】
図1(b)は、図1(a)における領域Xの部分拡大図である。本発明の一実施形態に係る微細パターン26は、一定の周期で繰り返す凹凸状の微細形状パターンである。微細パターン26は、複数の凸部及び複数の凹部で構成される。また、微細パターン26には、高段部21h及び低段部21lが含まれる。低段部21lは、高段部21hより高さの低い領域である。図1に示されるように、弾性層22から高段部21hの凸部までの距離と比べ、弾性層22から低段部21lの凸部までの距離の方が短くなっている。高段部21hを構成する複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、低段部21lを構成する複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離D1は、0.5nm〜500μmが好ましい。より好ましくは、5nm〜50μmである。さらに好ましくは、5nm〜5μmである。具体的には、5,6,7,8,9,10,15,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,35,40,41,42,43,44,45,50,60,70,80nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、複数の凸部の高さは厳密には異なるので、複数の凸部の平均的な高さを仮想線として用いることとしてもよい。ここで、微細パターン26としては、周期10nm〜2mm、転写面1.0mm〜1.0×10mmのものが好ましい。より好ましくは、周期20nm〜20μm、転写面1.0×10mm〜0.25×10mmである。ここで、高段部21hと低段部21lの深さは実質的に同じであってもよく、それぞれ異なっていても良い。凹凸の具体的な形状としては、モスアイ、線、円柱、モノリス、円錐、多角錐、マイクロレンズが挙げられる。また、微細パターン26は、ランダムに凹凸する微細形状パターンであってもよいし、複数の凹凸を有する規則的な微細形状パターンであってもよい。
【0017】
また、樹脂層24は、微細パターン26が設けられている領域での最薄部の厚さHが100nm以下あることが好ましい。
【0018】
<弾性層22>
弾性層22は、微細パターン26の載置面側に設けられた層である。弾性層22は、例えば樹脂で構成することができる。弾性層22は、(1)弾性層22のヤング率が1GPa以下である、又は、(2)弾性層22のヤング率が弾性層22を支持する基材23のヤング率よりも小さい、という特性を有する。ここで、ヤング率とは、フックの法則が成立する弾性範囲における、同軸方向のひずみと応力の比例定数である。線形弾性体では、ヤング率をE、ひずみをx、応力をFとすると、「F=Ex」が成立する。これより、ひずみの大きさが同じ場合、ヤング率が大きい物質ほどひずんだ状態からの復元力が大きくなることがわかる。弾性層22のヤング率の上限は、1GPa以下が好ましい。より好ましくは、500MPa以下である。さらに好ましくは、200MP以下である。弾性層22のヤング率の下限は、0.5MPa以上が好ましい。より好ましくは、1MPa以上である。さらに好ましくは、5MPaである。とりわけ好ましくは、10MPa以上である。弾性層22のヤング率は、例えば、15,20,25,30,35,40,45,50,55,60MPaであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0019】
また、弾性層22のヤング率に対する基材23のヤング率の比の値が、10以上が好ましい。より好ましくは、100以上である。さらに好ましくは、500以上である。弾性層22のヤング率に対する基材23のヤング率の比の値は、例えば、10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,150,200,250,300,350,400,450,500,550,600,650,700,800,900,1000,1100,1200,1300,1400,1500,2000であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0020】
弾性層22の厚さd2は、10nm〜1cmが好ましい。より好ましくは、100nm〜500μmである。さらに好ましくは、1μm〜100μmである。さらに、樹脂層24の厚さd1と、弾性層22の厚さd2の比の値が、10以上であることが好ましい。具体的には、樹脂層24の厚さd1と、弾性層22の厚さd2の比の値が、10,15,20,30,40,50,100,150,200,250,300となることが好ましい。また、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0021】
本実施形態では、図1に示されるように、弾性層22は、厚さd2が一様な厚さとしたが、これに限定されない。例えば、厚さd2が一様でなく、空間的に変位していてもよい。また、周期的又は非周期的に孔を設けてもよく、周期的又は非周期的なピラー構造としてもよい。
【0022】
<基材23>
基材23は、弾性層22を支持するものである。基材23の材質は、特に限定されず、公知の樹脂、石英、金属などを用いることができる。また、同種又は異種の基材を積層したり、基材に樹脂組成物を膜状に積層させたりしてもよい。基材23は、例えば、樹脂基材、石英基材などの透明材料で形成される。
【0023】
基材23のヤング率は、弾性層22のヤング率よりも大きい。基材23のヤング率の上限は、100GPa以下が好ましい。より好ましくは、50GPa以下である。さらに好ましくは、30GPa以下である。基材23のヤング率の下限は、1.1MPa以上が好ましい。より好ましくは、10MPa以上である。さらに好ましくは、20MPa以上である。
【0024】
基材23の厚さd3は、200nm〜20cmが好ましい。より好ましくは、2μm〜1cmである。さらに好ましくは、20μm〜2mmである。
【0025】
なお、本実施形態では、弾性層22は、基材23上に設けられる構成としたが、これに限定されず、基材23を省略することもできる。この場合、弾性層22が直接載置面に載置される。
【0026】
2.構造体2の製造方法
次に、図2図4を用いて、構造体2の製造方法について説明する。本発明に係る製造方法としては、弾性層の上側に被転写層を形成する被転写層形成工程と、微細パターンを有するモールドを前記被転写層に押し付けて、前記被転写層に前記微細パターンを転写する転写工程と、前記被転写層を硬化する硬化工程と、を備え、以下の(1)又は(2)の構成を備える;(1)弾性層のヤング率が1GPa以下である(2)弾性層のヤング率が前記弾性層を支持する基材のヤング率よりも小さい、構造体の製造方法を用いることができる。(1)は、基材23を用いずに弾性層22を載置面に直接載置した場合の条件である。(2)は、弾性層22の下側に基材23を設けた場合の条件である。ヤング率の調整方法は特に限定されないが、例えば複数の樹脂の配合比率を変更することによりヤング率を調整することができる。
【0027】
さらに、構造体2を用いて他の構造体3を製造することができる。この場合、弾性層と、その上側に設けられた樹脂層を有する構造体であって、前記樹脂層は、前記弾性層の反対側の面に微細パターンを備え、前記微細パターンは、高さが異なる複数の領域を備え、以下の(1)又は(2)の構成を備える;(1)弾性層のヤング率が1GPa以下である(2)弾性層のヤング率が前記弾性層を支持する基材のヤング率よりも小さい構造体を、被転写層に押し付けて、前記被転写層に前記微細パターンを転写する転写工程と、前記被転写層を硬化する硬化工程と、を備える構造体の製造方法を利用できる。
【0028】
<事前準備>
<複合モールド1>
図2は、本発明の一実施形態に係る構造体2を製造する際に用いる複合モールド1と、被転写層21、弾性層22及び基材23を示す模式図である。複合モールド1は、基材13上に高さが異なる複数の領域が存在する微細パターンを有するモールドである。本実施形態の微細パターンは、一定の周期で繰り返す凹凸状の微細形状パターンである。微細パターンは、複数の凸部及び複数の凹部で構成される。また、微細パターンには、高段部11h及び低段部11lが含まれる。低段部11lは、高段部11hより高さの低い領域である。図2に示されるように、基材13から高段部11hの凸部までの距離と比べ、基材13から低段部11lの凸部までの距離の方が短くなっている。高段部11hを構成する複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、低段部11lを構成する複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離Dは、0.5nm〜500μmが好ましい。なお、複数の凸部の高さは厳密には異なるので、複数の凸部の平均的な高さを仮想線として用いることとしてもよい。ここで、微細パターンの周期及び転写面は、上述の微細パターン26と同様の条件とすることができる。また、高段部11hと低段部11lの深さは実質的に同じであってもよく、それぞれ異なっていても良い。このように設定すれば、後述の被転写層21に充分な微細パターンを転写することができる。凹凸の具体的な形状としては、モスアイ、線、円柱、モノリス、円錐、多角錐、マイクロレンズが挙げられる。また、微細パターンは、ランダムに凹凸する微細形状パターンであってもよいし、複数の凹凸を有する微細形状パターンであってもよい。
【0029】
複合モールド1を構成する基材13および微細パターン11h、11lの材質は、特に限定されず、公知の樹脂、石英、金属などを用いることができる。また、同種又は異種の基材を積層したり、基材に樹脂組成物を膜状に積層させたりしてもよく、微細パターン11h、11l上に離型層を積層させることが好ましい。基材の厚さは200nm〜20cmが好ましい。より好ましくは、2μm〜1cmである。さらに好ましくは、20μm〜2mmである。
【0030】
<被転写層21>
被転写層21は、複合モールド1の微細パターンが転写される層である。被転写層21は、微細パターン26を形成するものであり、例えば光硬化性樹脂組成物で構成される。被転写層21は、例えば透明樹脂層であり、その厚さd1は、1nm〜1mmが好ましい。より好ましくは、5nm〜200nmである。さらに好ましくは、10nm〜100nmである。このような厚さとすれば、インプリント加工が行い易い。本実施形態では、モノマーと、光開始剤を含有し、活性エネルギー線の照射によって硬化する性質を有する光硬化性樹脂組成物を用いる。
【0031】
モノマーとしては、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等を形成するための光重合性のモノマーが挙げられ、光重合性の(メタ)アクリル系モノマーが好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、メタクリル及び/又はアクリルを意味し、(メタ)アクリレートはメタクリレート及び/又はアクリレートを意味する。
【0032】
光開始剤は、モノマーの重合を促進するために添加される成分であり、モノマー100質量部に対して0.1質量部以上含有されることが好ましい。光開始剤の含有量の上限は、特に規定されないが、例えばモノマー100質量部に対して20質量部である。
【0033】
また、被転写層21を構成する光硬化性樹脂組成物は、上記成分を公知の方法で混合することにより製造することができる。光硬化性樹脂組成物を、スピンコート、スプレーコート、バーコート、ディップコート、ダイコート及びスリットコート等の方法で後述の弾性層22上に塗布し、後述の製造方法により微細パターン26を形成することが可能である。
<弾性層22>
【0034】
弾性層22は、例えば樹脂で構成することができる。本実施形態では、(メタ)アクリレート及びウレタン(メタ)アクリレートの混合物を用いる。(メタ)アクリレートとしては、例えば2官能以下の(メタ)アクリレート、3官能の(メタ)アクリレート、4官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0035】
2官能以下の(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレート基を2個以下有する(メタ)アクリレート化合物であり、2官能(メタ)アクリレート化合物と単官能(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。2官能(メタ)アクリレート化合物としては、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,4‐ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1 ,6‐へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9‐ノナンジオールジ(メタ)アクリレ一ト、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ一ルジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ (メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。 単官能(メタ)アクリレート化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n‐プロピル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、n‐ペンチル(メタ)アクリレート、n‐ヘキシル(メタ)アクリレート、n‐オクチル(メタ)アクリレート、n‐ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートおよびステアリル(メタ)アクリレートなどの直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート;
iso-プロピル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびイソオクチル(メタ)アクリレートなどの分岐状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
イソボルニル(メタ)アクリレートおよびシクロへキシル(メタ)アクリレートなどの環状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
ベンジル(メタ)アクリレートおよびフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどの芳香環基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0036】
3官能(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレート基を3個有する(メタ)アクリレート化合物であり、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0037】
4官能以上の(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレート基を4個以上有する(メタ)アクリレート化合物であり、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートモノプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、オリゴエステルテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0038】
ウレタン(メタ)アクリレートは公知の化合物を使用できる。ウレタン(メタ)アクリレートは、分子末端イソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリレート化合物との反応物である。ポリイソシアネート化合物は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、低分子量グリコールなどのポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどの分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物とを公知の条件で反応させて得ることができる。水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、水酸基を1以上含有する(メタ)アクリレート化合物であれば限定されない。具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、本発明のウレタン(メタ)アクリレートは、日本合成化学工業社製の「紫光」シリーズやDIC株式会社製の「UNIDIC」シリーズなどの市販品を用いることができる。
【0039】
弾性層22は、被転写層21と同様の方法で基材23上に形成することができる。弾性層22のヤング率の上限は、1GPa以下が好ましい。また、弾性層22のヤング率の下限は、1MPa以上が好ましい。さらに、弾性層22のヤング率に対する基材23のヤング率の比の値が、10以上が好ましい。弾性層22の厚さd2は、10nm〜1cmが好ましい。このように、弾性層22の厚さd2及びヤング率を適切に調整することにより、後述の製造方法において、複合モールド1を被転写層21に押圧することで被転写層21に微細パターン26を形成し、複合モールド1を微細パターン26から離間するときに、複合モールド1による押圧に追従していた弾性層22が復元することで、微細パターン26における高さが異なる領域の高さの差を小さくすることができる。これについては図4を用いて後述する。
【0040】
<基材23>
基材23の材質は特に限定されないが、樹脂基材、シリコーン基材、石英基材などの透明材料で形成されることが好ましい。樹脂基材を構成する樹脂として、ポリカーボネート、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN))、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン等を利用することができる。また、樹脂基材を用いる場合には、同種又は異種の基材を積層したり、樹脂基材に樹脂組成物を膜状に積層させたりしてもよい。
<転写工程及び硬化工程>
次に、構造体2の製造方法の各工程について説明する。図3は、本実施形態に係る構造体2の製造方法について説明する図であり、(a)は複合モールド1の押圧前、(b)は被転写層21の硬化、(c)は複合モールド1の離間について示す図である。なお、説明の都合上、複合モールド1に含まれる高段部11h及び低段部11lと、被転写層21及び弾性層22の高さ方向の縮尺を変更している。また、基材23は図示を省略している。
【0041】
まず、図3(a)に示されるように、複合モールド1を被転写層21上に位置させる。そして、複合モールド1の高段部11h及び低段部11lが被転写層21に押し付けられるまで複合モールド1を降下させる。
【0042】
図3(b)に示されるように、複合モールド1の高段部11h及び低段部11lが被転写層21に押し付けられると、複合モールド1に加えられる圧力により、弾性層22が変形する。ここで、複合モールド1は、重さ1kg〜20kgのゴムローラーによりラミネートされる。ゴムローラーの重さは、好ましくは2kg〜15kgである。図3(b)に示されるように、被転写層21に加えられる圧力は、高段部11hと低段部11lの高さに差(D)があるので、被転写層21における高段部11hが押し付けられる部分の方が、低段部11lが押し付けられる部分よりも大きな圧力が加わる。これにより、弾性層22において、被転写層21における高段部11hが押し付けられる部分に対応する部分の方が、被転写層21における低段部11lが押し付けられる部分に対応する部分よりも大きく変形する。なお、厳密には被転写層21における低段部11lが押し付けられる部分に対応する部分も変形しているが、被転写層21における高段部11hが押し付けられる部分に対応する部分の変形量と比べて無視できるほど小さい。このため、図3中では、弾性層22において、被転写層21における低段部11lが押し付けられる部分に対応する部分の変形を省略した。
【0043】
そして、複合モールド1を通じて被転写層21に活性エネルギー線5を照射する。活性エネルギー線5は、被転写層21が十分に硬化する程度の積算光量で照射すればよい。積算光量は、例えば100〜10000mJ/cmである。活性エネルギー線5の照射によって、被転写層21が硬化されて硬化樹脂となり、図3(c)に示すように、複合モールド1の微細パターンが反転されたパターンである微細パターン26(硬化樹脂で形成される樹脂層)が樹脂層24に形成される。
【0044】
3.構造体2の微細パターン26における高さが異なる領域の高さの差が小さくなるメカニズム
図4は、図3(c)の拡大図であり、構造体2に含まれる高段部21hの高さと低段部21lの高さの差が小さくなるメカニズムを説明する図である。下方の矢印の下側の破線で示される位置が弾性層22の復元前の位置であり、下方の矢印の上側の点線で示される位置が弾性層22の復元後の位置である。また、上方の矢印の下側の破線で示される位置が弾性層22の復元前における低段部21lの凸部先端の位置であり、上方の矢印の上側の点線で示される位置が弾性層22の復元後における低段部21lの凸部先端の位置である。そして、弾性層22が矢印の分だけ復元することにともない、弾性層22に支持される微細パターン26の低段部21lも矢印の分だけ上昇する。これにより、低段部21lの凸部の上面を結ぶ仮想線と、高段部21hの凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離は、弾性層22の復元前のDから弾性層22の復元後にD1へと変化する。ここで、弾性層22の復元前において、低段部21lの凸部の上面を結ぶ仮想線と、高段部21hの凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離は、硬化前の被転写層21に転写された複合モールド1の微細パターンにおける高段部11hを構成する複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、低段部11lを構成する複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離Dと等しいとした。実際には、構造体2における距離Dと複合モールド1における距離Dが等しくならない場合もあるが、説明の都合上、これらの距離が等しいとして近似した。なお、複数の凸部の高さは厳密には異なるので、複数の凸部の平均的な高さを仮想線として用いることとしてもよい。
【0045】
また、樹脂層24は、微細パターン26が設けられている領域での最薄部の厚さHが100nm以下であることが好ましい。これは、厚さHが大きすぎると、弾性層22が復元するときに抵抗力が大きくなり、弾性層22が適切に復元できなくなるためである。
【0046】
さらに、樹脂層24の厚さd1と、弾性層22の厚さd2の比の値が、10以上であることが好ましい。これは、弾性層22が十分に復元するために、樹脂層の厚さd1と比べて弾性層22の厚さd2が十分に大きいことが好ましいためである。
【0047】
かかる製造方法により構造体2を製造する際には、弾性層22に求められる特性として、以下のものが挙げられる。
(1)基材23との密着性(基材23を用いない場合は無関係)
基材23と弾性層22が剥離しない程度の密着性が必要である。このために、例えば、プライマー処理や易接着処理により、弾性層22を所望の特性へと調整することが考えられる。
(2)被転写層21に対する耐性及び密着性
弾性層22から被転写層21が剥離しない程度の密着性が必要である。また、被転写層21が液体のUV硬化樹脂の場合には、被転写層21に対して弾性層22がある閾値以上膨張及び溶解しないことが必要である。
(3)適度な弾性
後述の実施例より、弾性層22のヤング率が小さくなるにつれて、構造体2の微細パターン26の高さの差D1が小さくなっていることがわかる。しかし、弾性層22のヤング率が小さすぎると、弾性層の復元力が低くなりすぎて構造体2の微細パターン26の高さの差D1が小さくなりにくくなる。
【0048】
4.構造体2を用いて他の構造体3を製造する方法
次に、図5を用いて、かかる構造体2を複合モールド1として利用し、他の構造体3を製造する方法について説明する。図5における構造体2が図2における複合モールド1に対応する。なお、複合モールド1では弾性層がなかったが、構造体2には弾性層22がある点が異なる。また、図5における被転写層31及び基材33が、図2における被転写層21及び基材23に対応する。これらの機能は同様であるため、説明を省略する。このように、構造体2を被転写層31上に位置させた状態から、構造体3の製造が開始される。
【0049】
図6は、本発明の一実施形態に係る構造体3の製造方法について説明する図であり、図6(a)は構造体2の押圧前、図6(b)は被転写層31の硬化、図6(c)は構造体2の離間について示す図である。なお、説明の都合上、構造体2に含まれる高段部21h及び低段部21lと、被転写層31及び基材33の高さ方向の縮尺を変更している。また、基材23は図示を省略している。
【0050】
まず、図6(a)に示されるように、構造体2を被転写層31上に位置させる。そして、構造体2の高段部21h及び低段部21lが被転写層31に押し付けられるまで構造体2を降下させる。このとき、構造体2の高段部21hを構成する複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、低段部21lを構成する複数の凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離はD1である。
【0051】
図6(b)に示されるように、構造体2の高段部21h及び低段部21lが被転写層31に押し付けられると、構造体2に加えられる圧力により、弾性層22が変形する。弾性層22に加えられる圧力は、高段部21hと低段部21lの高さに差(D1)があるので、弾性層22における高段部21hが押し付けられる部分の方が、低段部21lが押し付けられる部分よりも大きな圧力が加わる。これにより、弾性層22における高段部21hが押し付けられる部分に対応する部分の方が、低段部21lが押し付けられる部分に対応する部分よりも大きく変形する。なお、厳密には弾性層22における低段部21lが押し付けられる部分に対応する部分も変形しているが、弾性層22における高段部21hが押し付けられる部分に対応する部分の変形量と比べて無視できるほど小さい。このため、図6中では弾性層22における低段部21lが押し付けられる部分に対応する部分の変形を省略した。
【0052】
上方の矢印の下側の破線で示される位置が弾性層22の変形前の位置であり、上方の矢印の上側の点線で示される位置が弾性層22の変形後の位置である。また、下方の矢印の下側の破線で示される位置が、弾性層22が変形しなかった場合の高段部21hの凸部先端の位置であり、下方の矢印の上側の点線で示される位置が、弾性層22が変形した場合の高段部21hの凸部先端の位置である。このように、弾性層22が矢印の分だけ変形することにともない、弾性層22に支持される微細パターン26の高段部21hも矢印の分だけ上昇する。これにより、低段部21lの凸部の上面を結ぶ仮想線と、高段部21hの凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離は、弾性層22の変形前のD1から弾性層22の変形後にD2(D2<D1)へと変化する。
【0053】
そして、構造体2を通じて被転写層31に活性エネルギー線5を照射する。活性エネルギー線5の照射によって、被転写層31が硬化されて硬化樹脂となり、図6(c)に示すように、構造体2の微細パターン26が反転されたパターンである微細パターン36(硬化樹脂で形成される樹脂層)が樹脂層34に形成される。微細パターン36は、高段部31hと低段部31lを有する。そして、低段部31lの凸部の上面を結ぶ仮想線と、高段部31hの凸部の上面を結ぶ仮想線と、の間の距離は、D2となる。実際には、構造体2における距離D2と構造体3における距離D2が等しくならない場合もあるが、説明の都合上、これらの距離が等しいとして近似した。なお、複数の凸部の高さは厳密には異なるので、複数の凸部の平均的な高さを仮想線として用いることとしてもよい。
【0054】
このように、構造体2を用いて構造体3を製造する場合、被転写層31の下側に弾性層を設けなくてもよい。これは、押し付ける側の構造体2に弾性層22が設けられているので、かかる弾性層22が図2図4における弾性層22と同様の働きをするためである。なお、かかる場合でも、被転写層31の下側に弾性層を設けてもよい。この場合、計2つの弾性層が作用するため、さらに高段部と低段部の高さの差が小さい構造体を得ることができる。また、かかる方法を繰り返すことにより、構造体の高段部と低段部の高さの差がさらに小さくなっていく。
【0055】
なお、本実施形態では、活性エネルギー線5を照射して被転写層21を硬化する方法(いわゆる「UVナノインプリント」)について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の熱可塑性樹脂を基材に塗布し、樹脂のガラス転移温度以上に昇温してモールドをプレスし、冷却後モールドと基材を引き離すことにより、モールドのパターンを樹脂に転写する方法(いわゆる「熱ナノインプリント」)にも適用することができる。この場合、弾性層22の復元により冷却後のPMMAが持ち上げられ、高さが異なる領域の高さの差が小さい微細パターンを有する構造体を得ることができる。
【0056】
5.その他の実施形態
次に、図7を用いて、その他の実施形態について説明する。図7(a)に示されるように、弾性層22の下側に基材23を設けず、弾性層22を直接載置面に載置する構成としてもよい。この場合、弾性層22が載置面に対して直立可能なように弾性層22のヤング率が調整される。ヤング率の調整方法は特に限定されないが、例えば複数の樹脂の配合比率を変更することによりヤング率を調整することができる。
【0057】
また、図7(b)に示されるように、被転写層21と弾性層22の間に中間層25を設けてもよい。この場合、中間層25を介して弾性層22の復元力が被転写層21に伝達される。弾性層22は、例えば樹脂等で形成することができる。
【0058】
6.実施例
次に、構造体2の具体的な製造条件について説明する。かかる製造条件は適宜調整することが可能であるが、一例として、以下の製造条件で構造体2を製造した場合について説明する。特に、弾性層22のヤング率を変化させた実施例1〜実施例5について説明する。
【0059】
6−1:製造条件
<複合モールド1>
構造体2の製造条件は、以下の通りである。まず、厚さ200μm、ヤング率5GPaのPET基材上に、アクリル樹脂からなる樹脂層および離型層が積層された微細パターンが形成された複合モールド1を準備した。なお、微細パターンの高段部11hと低段部11lの高さの差(D)が100nmである。
<構造体2>
【0060】
そして、厚さ200μm、ヤング率3GPaのPET基材上に光硬化性樹脂組成物を塗布し、活性エネルギー線5を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させ、厚さ10μm、ヤング率30MPaの弾性層22を形成した。ここで、PET基材上に塗布した光硬化性樹脂組成物として、ウレタンアクリレートと2官能アクリレートを配合したものを用いた。ここで、2官能アクリレートの配合比を減らすほどヤング率が小さくなる性質を利用し、実施例1から実施例4に向けて徐々にヤング率を低下させた。それぞれの配合比は、実施例1〜実施例5の順に、3:7,4:6,5:5,6:4である。そして、硬化した弾性層22上に光硬化性樹脂組成物を塗布し、厚さ100nmの被転写層21を形成した。ここで、弾性層22上に塗布した光硬化性樹脂組成物として、2官能アクリレート100重量部および光開始剤を5質量部添加したものを用いた。
【0061】
なお、ヤング率は、PET基材又は弾性層22に引張荷重を加え、その変位を求めることにより算出した。
【0062】
その後、5kgのゴムローラーでラミネートすることにより複合モールド1を被転写層21に押圧し、積算光量500mJ/cmでUV照射を行い、複合モールド1の微細パターンが反転された被転写層21を硬化させ、構造体2を得た。
【0063】
6−2:結果
上記製造条件で、ウレタンアクリレートと2官能アクリレートの配合比率を変化させることにより弾性層22のヤング率を変化させ、構造体2における高さの差D1(図4参照)の変化を以下の表に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、弾性層22のヤング率が小さくなるほどD1が小さくなっている。そして、弾性層22のヤング率が5MPaのとき、D1の値が極小値をとっている。
【0066】
次に、弾性層22のヤング率が5MPaのときに得られた高さの差D1が30nmの構造体2を、離型剤が入った容器に1時間浸漬させ、浸漬後溶剤でリンスして、構造体2の微細パターン上に離型層を積層させた。離型層積層後の構造体パターンの高さの差D1は30nmであった。その構造体2を、厚さ200μm、ヤング率3GPaのPET基材上に形成された厚さ100nmの被転写層に押圧し、積算光量500mJ/cmでUV照射を行い、構造体2の微細パターン26が反転された被転写層を硬化させ、構造体3を得た。ここで、被転写層は、上記と同様の条件で製造した。なお、構造体2の押圧は、5kgのゴムローラーでラミネートすることにより行った。このとき、構造体3のD2(図6参照)は、10nmとなった。このように、高さの差は、「複合モールド1のD:100nm」→「構造体2のD1:30nm」→「構造体3のD2:10nm」というように、上記で説明した製造プロセスを繰り返す毎に約1/3ずつ減少している。
【0067】
6−3:比較例(弾性層22を有さない場合)
次に、弾性層22を有さない場合について説明する。
<比較例1>
上記製造条件と同じ条件で、微細パターンの高段部11hと低段部11lの高さの差(D)が100nmの複合モールド1を、厚さ200μm、ヤング率3MPaのアクリル板基材上に形成された厚さ100nmの被転写層に押圧し、積算光量500mJ/cmでUV照射を行い、複合モールド1の微細パターンが反転された被転写層を硬化させ、転写物Xを得た。ここで、被転写層は、上記と同様の条件で製造した。なお、複合モールド1の押圧は、5kgのゴムローラーでラミネートすることにより行った。このとき、転写物XのDx(構造体2のD1に相当)は、100nmであった。これは、弾性層22がないために、複合モールド1のDがほとんどそのまま被転写層21に転写されたためであると考えられる。
【0068】
<比較例2>
次に、比較例1と同じ条件で、微細パターンの高段部11hと低段部11lの高さの差(D)が30nmの複合モールド1を用い、転写物Y(微細パターンを有する構造体)を製造した。このとき、転写物YのDy(構造体2のD1に相当)は、30nmであった。これは、弾性層22がないために、複合モールド1のDがほとんどそのまま被転写層21に転写されたためであると考えられる。
【0069】
以上説明したように、本発明では、弾性層22のヤング率を適切に調整することで、微細パターンを有する構造体であって、微細パターンにおける高さが異なる領域の高さの差が小さい構造体を得ることが可能となった。
【符号の説明】
【0070】
1:複合モールド、11l、21l、31l:低段部、11h、21h、31h:高段部、13、23、33:基材、21、31:被転写層、22、32:弾性層、24、34:樹脂層、26、36:微細パターン、24b:微細パターンを有する面、25:中間層、5:活性エネルギー線
【要約】
【課題】微細パターンを有する構造体であって、微細パターンにおける高さが異なる領域の高さの差が小さい構造体を提供する。
【解決手段】本発明によれば、弾性層と、その上側に設けられた樹脂層を有する構造体であって、前記樹脂層は、前記弾性層の反対側の面に微細パターンを備え、前記微細パターンは、高さが異なる複数の領域を備え、以下の(1)又は(2)の構成を備える;(1)前記弾性層のヤング率が1GPa以下である(2)前記弾性層のヤング率が前記弾性層を支持する基材のヤング率よりも小さい構造体が提供される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7