【文献】
肥野明大(外3名),「広帯域小型H面方向性結合器の設計」,電子情報通信学会技術研究報告,2000年12月15日,Vol.100,No.528,pp.85-92,MW2000-163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0049】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る方向性結合器について、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る方向性結合器1の構成を示す斜視図である。
【0050】
図1に示すように、方向性結合器1は、第1の導波路11と第2の導波路12とを備えている。第1の導波路11の高さ及び第2の導波路12の高さは、高さHで共通である。第1の導波路11は、その幅W1が高さHよりも長い矩形導波路である。同様に、第2の導波路12は、その幅W2が高さHよりも長い矩形導波路である。第1の導波路11及び第2の導波路12の各々は、それぞれを構成する一対の狭壁のうち第1の狭壁である狭壁13を共有する。
【0051】
第1の導波路11は、狭壁13に加えて、狭壁13と対向する第2の狭壁である狭壁112、並びに、一対の広壁である広壁111a及び広壁111bによって構成された管状の導波路である。同様に、第2の導波路12は、狭壁13に加えて、狭壁13と対向する第2の狭壁である狭壁122、並びに、一対の広壁である広壁121a及び広壁121bによって構成された管状の導波路である。
【0052】
狭壁13には、開口131が形成されている。第1の導波路11の内部と第2の導波路12の内部とは、開口131を介して連通する。開口131の高さは、第1の導波路11及び第2の導波路12の高さである高さHと共通である。第1の導波路11と第2の導波路12とは、開口131を介して結合する。したがって、方向性結合器1は、H面結合を利用した方向性結合器である。
【0053】
開口131の幅Wを変化させることによって、方向性結合器1における第1の導波路11と第2の導波路12との結合度(以下、方向性結合器1の結合度)を変化させることができる。すなわち、幅Wは、方向性結合器1の結合度を制御する重要なパラメータである。
【0054】
本明細書において、例えば、結合度が3dBである方向性結合器1のことを結合度3dBの方向性結合器と呼称する。
【0055】
第1の導波路11は、開口131に対向する狭壁112に形成された突出区間11bを含んでいる。突出区間11bは、幅W1が一定である第1の区間11aと幅W1が一定である第2の区間11cとの間に形成されている。突出区間11bは、開口131に向かって突出している。突出区間11bにおいて、狭壁112が狭壁13に向かって突出する突出量Pは、突出区間11bの両端(突出区間11bと第1の区間11aとの接続位置、及び、突出区間11bと第2の区間11cとの接続位置)より突出区間11bの中央において大きい。すなわち、突出区間11bの中央における突出量Pは、突出区間11bの両端における突出量Pよりも大きく、突出区間11bの中央における幅W1は、突出区間11bの両端における幅W1よりも狭い。
【0056】
同様に、第2の導波路12は、開口131に対向する狭壁122に形成された突出区間12bを含んでいる。突出区間12bは、幅W2が一定である第1の区間12aと幅W2が一定である第2の区間12cとの間に形成されている。突出区間12bは、開口131に向かって突出している。突出区間12bにおいて、狭壁122が狭壁13に向かって突出する突出量Pは、突出区間12bの両端(突出区間12bと第1の区間12aとの接続位置、及び、突出区間12bと第2の区間12cとの接続位置)より突出区間12bの中央において大きい。すなわち、突出区間12bの中央における突出量Pは、突出区間12bの両端における突出量Pより大きく、突出区間12bの中央における幅W2は、突出区間12bの両端における幅W2より狭い。
【0057】
(方向性結合器の分類)
ここで、突出区間における突出量Pの変化の仕方に着目して、方向性結合器を分類しておく。
【0058】
本明細書において、突出区間の両端から突出区間の中央に近づくにしたがって突出量Pが大きくなるように構成された方向性結合器のことをテーパ型の方向性結合器と呼称する。このテーパ型の方向性結合器は、突出量Pの変化の仕方に応じてスロープテーパ型とステップテーパ型とに分類される。
【0059】
スロープテーパ型の方向性結合器とは、突出区間の両端から突出区間の中央に近づくにしたがって突出量Pが連続的に大きくなるように構成された突出区間を含む方向性結合器のことを指す。連続的に突出量Pの具体例としては、突出区間の両端からの距離の関数として、突出量Pが一次関数又は二次関数で表される場合が挙げられる。また、方向性結合器の広壁を上面視した場合において、突出区間における狭壁の形状が円又は楕円の円弧の一部によって構成されている方向性結合器もスロープテーパ型の方向性結合器である。
【0060】
図1に示した方向性結合器1の突出区間11b,12bにおいて、突出量Pは、突出区間11b,12bの両端からの距離の関数として一次関数で表されるように構成されている。したがって、方向性結合器1は、スロープテーパ型の方向性結合器の具体例である。
【0061】
ステップテーパ型の方向性結合器とは、突出区間の両端から突出区間の中央に近づくにしたがって突出量Pが離散的に大きくなるように構成された方向性結合器のことを指す。別の言い方をすれば、ステップテーパ型の方向性結合器は、突出区間の両端から突出区間の中央に近づくにしたがって突出量Pが階段状に複数回にわたって大きくなるように構成された方向性結合器である。
【0062】
第2の実施形態において後述する方向性結合器2(
図11参照)は、ステップテーパ型の方向性結合器の具体例である。
【0063】
また、本明細書において、突出量Pが突出区間を通じて一定であるように構成された方向性結合器の事をステップ型の方向性結合器と呼称する。参考形態において後述する方向性結合器3(
図17参照)及び非特許文献2に記載された方向性結合器8(
図32参照)は、何れもステップ型の方向性結合器の具体例である。
【0064】
(突出区間の長さLと開口の幅Wとの大小関係)
本実施形態に係る方向性結合器1の突出区間11b,12bの長さLと開口131の幅Wとの大小関係は、特に限定されるものではない。すなわち、長さLと幅Wとの大小関係は、L>W、L=W、及びL<Wの何れであってもよい。なお、
図1に示した方向性結合器1においては、長さLと幅Wとの大小関係としてL>Wを採用している。
【0065】
長さLと幅Wとの大小関係の変化が方向性結合器1の透過特性に与える影響については、
図2及び
図4〜
図9を参照して後述する。
【0066】
(方向性結合器の構成)
方向性結合器1は、第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとして、ポスト壁導波路を採用してもよいし、金属製の導波管を採用してもよい。ポスト壁導波路は、(1)誘電体基板の両面に設けられた一対の導体板と、(2)一対のポスト壁とによって四方を囲まれた導波路である。上記一対のポスト壁は、上記誘電体基板を貫通し、上記一対の導体板を導通させる。導体ポストは、誘電体基板を貫通するスルーホールの内壁に沿って形成された導体、又は、このスルーホールの内側に充填された導体からなる。第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとして、ポスト壁導波路を採用した構成については、
図27を参照しながら後述する。
【0067】
なお、第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとして金属製の導波管を採用する場合、第1の導波路11及び第2の導波路は、それらの内部の比誘電率を制御するために、それぞれの金属製の導波管の内部に所望の比誘電率を有する誘電体が充填されていてもよい。一方、第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとしてポスト壁導波路を採用する場合には、所望の比誘電率を有する誘電体基板を選択することによって、第1の導波路11の内部及び第2の導波路の媒質の比誘電率を制御することができる。
【0068】
(方向性結合器の機能)
方向性結合器1の第1のポートP1に高周波信号を入射させた場合、入射された高周波信号は、第1の導波路11の内部を伝搬して第2のポートP2から出射される。また、開口131を介して第2の導波路12と結合した高周波信号は、第2の導波路12の内部を伝搬して第3のポートP3から出射される。このように、方向性結合器1は、1つのポートに入射された高周波信号を2つのポートから出射する分波器として機能する。
【0069】
なお、第2のポートP2から出射された高周波信号は、第1のポートP1に入射された高周波信号と同位相である。それに対して、第3のポートP3から出射された高周波信号は、第1のポートP1に入射された高周波信号に対して位相が90°ずれる。すなわち、第2のポートP2から出射された高周波信号の位相と、第3のポートP3から出射された高周波信号の位相とは、90°ずれている。このことから、方向性結合器1は、90°ハイブリッドとも呼ばれる。
【0070】
第2のポートP2に第1の高周波信号を入射させ、且つ、第3のポートP3に第1の高周波信号と位相が90°異なる第2の高周波信号を入射させた場合、第1のポートP1からは、合波された第1の高周波信号及び第2の高周波信号が出射される。このように、方向性結合器1は、2つのポートに入射された高周波信号を1つのポートから出射する合波器としても機能する。
【0071】
〔第1の実施例〕
本発明の第1の実施例に係る方向性結合器について、
図2〜
図3を参照して説明する。第1の実施例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1の各パラメータを以下のように定めたものである。
【0072】
幅W1及び幅W2の各々として、それぞれ、1.94mmを採用した。
【0074】
導波路11,12の内部に充填する誘電体の比誘電率として、3.823を採用した。
【0077】
突出量Pとして300μmを採用した。
【0078】
本実施例に係る方向性結合器1の設計時の動作周波数は、60GHzである。周波数が60GHzである高周波信号の波長は、自由空間中及び比誘電率が3.823である誘電対中において、それぞれ5.00mm及び2.56mmである。また、周波数が60GHzである高周波信号の管内波長は、上述のように構成された方向性結合器1において3.40mmである。
【0079】
また、本実施例に係る方向性結合器1は、結合度3dBの方向性結合器として設計されている。
【0080】
本実施例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図2に示す。
図2は、本実施例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。なお、第1の実施例に係る方向性結合器1のSパラメータS(1,1)、S(1,2)、S(1,3)、及びS(1,4)を計算するときに、第1のポートP1に高周波信号を入射するものとした。また、その高周波信号の周波数を50GHz以上70GHz以下の周波数範囲において変化させた。これらのSパラメータの周波数依存性を計算するために用いた条件は、後述する各変形例に係る方向性結合器1についても共通である。
【0081】
図2に示したSパラメータのうちS(1,1)は、第1のポートP1に高周波信号を入射させた場合において、入射させた高周波信号の電力に対する、第1のポートP1から反射された高周波信号の電力の割合を表す。同様に、S(1,2)、S(1,3)、及びS(1,4)の各々は、第1のポートP1に高周波信号を入射させた場合において、入射させた高周波信号の電力に対する、第2のポートP2、第3のポートP3、及び第4のポートP4のそれぞれから出射された高周波信号の電力の割合を表す。
【0082】
本明細書において、方向性結合器が方向性結合器として動作しているか否かの判定基準を、設計時の動作周波数において、S(1,1)及びS(1,4)の各々が−13dB未満である、と定める。また、方向性結合器が方向性結合器としてより好適に動作しているか否かの判定基準を、(1)S(1,2)とS(1,3)との差が1.0dB未満である、と定める。
【0083】
図2を参照すると、周波数が54GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第1の実施例に係る方向性結合器1は、設計時の動作周波数である60GHzを含む54GHz以上69GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が55GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、55GHz以上67GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0084】
第1の実施例に係る方向性結合器1の第1のポートP1に62GHzの周波数を入射させた場合に得られた電界強度を
図3に示す。
図3は、第1の実施例に係る方向性結合器1のH面における電界強度を示すコンター図である。
【0085】
図3を参照すると、開口131を隔てて導波路11,12の双方にまたがって分布する電界強度の姿態が乱れていないことが分かった。
【0086】
一方、上述したように、
図31の(b)に示した第1の従来例の方向性結合器7のH面における電界強度においては、開口731を隔てて導波路71,72の双方にまたがって分布する電界強度の姿態が乱れていた。
【0087】
これらの結果より、発明者らは、この電界強度の姿態が乱れている状態では、高次モードが発生している可能性が高いと推測するとともに、この高次モードの発生と反射損失が増大すること(S(1,1)及びS(1,4)の各々が増大すること)との間には、密接な関係があると推測している。したがって、発明者らは、設計時の動作周波数で方向性結合器として動作する方向性結合器1を提供するために、開口131を隔てて導波路11,12の双方にまたがって分布する電界強度の姿態を乱さないような形状の突出区間11b,12bを設計することが重要であるとの知見を得た。
【0088】
〔第1の変形例〕
本発明の第1の変形例に係る方向性結合器について、
図4を参照して説明する。第1の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における突出区間11b,12bの長さLを1.2mmに変形することによって得られる。
【0089】
第1の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図4に示す。
図4は、第1の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0090】
図4を参照すると、周波数が50GHz以上64GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第1の変形例に係る方向性結合器1は、設計時の動作周波数である60GHzを含む50GHz以上64GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が51GHz以上61GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、51GHz以上61GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0091】
〔第2の変形例〕
本発明の第2の変形例に係る方向性結合器について、
図5を参照して説明する。第2の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における突出区間11b,12bの長さLを2.4mmに変形することによって得られる。
【0092】
第2の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図5に示す。
図5は、第2の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0093】
図5を参照すると、周波数が50GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第2の変形例に係る方向性結合器1は、設計時の動作周波数である60GHzを含む50GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が51GHz以上61GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、51GHz以上61GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0094】
〔第3の変形例〕
本発明の第3の変形例に係る方向性結合器について、
図6を参照して説明する。第3の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における突出区間11b,12bの長さLを3.2mmに変形することによって得られる。
【0095】
第3の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図6に示す。
図6は、第3の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0096】
図6を参照すると、周波数が50GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第3の変形例に係る方向性結合器1は、設計時の動作周波数である60GHzを含む50GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が53GHz以上63GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、53GHz以上63GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0097】
〔第4の変形例〕
本発明の第4の変形例に係る方向性結合器について、
図7を参照して説明する。第4の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における突出区間11b,12bの長さLを4.8mmに変形することによって得られる。
【0098】
第4の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図7に示す。
図7は、第4の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0099】
図7を参照すると、周波数が50GHz以上68GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第4の変形例に係る方向性結合器1は、設計時の動作周波数である60GHzを含む50GHz以上68GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が55GHz以上65GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、55GHz以上65GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0100】
〔第5の変形例〕
本発明の第5の変形例に係る方向性結合器について、
図8を参照して説明する。第5の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における突出区間11b,12bの長さLを6.4mmに変形することによって得られる。
【0101】
第5の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図8に示す。
図8は、第5の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0102】
図8を参照すると、周波数が50GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第5の変形例に係る方向性結合器1は、設計時の動作周波数である60GHzを含む50GHz以上69GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が55GHz以上66GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、55GHz以上66GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0103】
〔第6の変形例〕
本発明の第6の変形例に係る方向性結合器について、
図9を参照して説明する。第6の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における突出区間11b,12bの長さLを8.8mmに変形することによって得られる。
【0104】
第6の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図9に示す。
図9は、第6の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0105】
図9を参照すると、周波数が50GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第6の変形例に係る方向性結合器1は、設計時の動作周波数である60GHzを含む50GHz以上69GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が55GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、55GHz以上67GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0106】
〔第7の変形例〕
本発明の第7の変形例に係る方向性結合器について、
図10を参照して説明する。第7の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1に対して、突出部11b1,12b1を追加することによって得られる。したがって、ここでは、突出部11b1,12b1について説明し、第1の実施形態に係る方向性結合器1の各部材と同様の構成については、その説明を省略する。
【0107】
図10に示すように、突出部11b1,12b1は、突出区間11b,12bの中央に形成された突出部であって、第2の峡壁112,122から開口131に向かって突出している突出部である。突出部11b1,12b1は、突出区間11b,12bの一部を構成する。
【0108】
このように構成された突出区間11b,12bの突出量Pは、突出区間11b,12bの両端より突出区間11b,12bの中央において大きい。突出量Pは、(1)突出区間11b,12bのうち突出部11b1,12b1が設けられていない区間において、突出区間11b,12bの両端より突出区間11b,12bの中央に近づくにしたがって連続的に大きくなり、(2)突出区間11b,12bのうち突出部11b1,12b1が設けられている区間の両端において、離散的に大きくなる。
【0109】
突出部11b1,12b1の幅Wb1は、突出区間11b,12bの長さLより短い範囲内で、S(1,1)及びS(1,4)を抑制可能なように適宜定めることができる。また、突出部11b1,12b1の突出量PB1は、第1のポートP1及び第4のポートP4における幅W1,W2より狭い範囲内で、S(1,1)及びS(1,4)を抑制可能なように適宜定めることができる。
【0110】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る方向性結合器について、
図11を参照して説明する。
図11は、本実施形態に係る方向性結合器2の構成を示す斜視図である。
【0111】
方向性結合器2は、第1の実施形態に係る方向性結合器1が備えている突出区間11b,12bを突出区間21b,22bに置換することによって得られる。以下では、主に突出区間21b,22bの構成について説明する。
【0112】
図11に示すように、方向性結合器2は、第1の導波路21と第2の導波路22とを備えている。第1の導波路21及び第2の導波路22の各々は、それぞれ、方向性結合器1の第1の導波路11及び第2の導波路12に対応する。第1の導波路21及び第2の導波路22の各々は、それぞれを構成する一対の狭壁のうち第1の狭壁である狭壁23を共有する。狭壁23には、幅Wである開口231が形成されている。これらの構成について、方向性結合器2は、方向性結合器1と同様である。
【0113】
第1の導波路21は、幅W1が一定である第1の区間21aと幅W1が一定である第2の区間21cとの間に挿入された突出区間21bであって、開口231に対向する狭壁212が、開口231に向かって突出している突出区間21bを含む。突出区間21bにおいて、狭壁212が狭壁23に向かって突出する突出量Pは、突出区間21bの両端(突出区間21bと第1の区間21aとの接続位置、及び、突出区間21bと第2の区間21cとの接続位置)より突出区間21bの中央において大きい。より具体的には、突出区間21bの両端から突出区間21bの中央に近づくにしたがって離散的に大きくなる。言い換えれば、幅W1は、突出区間21bの両端から突出区間21bの中央に近づくにしたがって離散的に狭くなる。
【0114】
同様に、第2の導波路22は、幅W2が一定である第1の区間22aと幅W2が一定である第2の区間22cとの間に挿入された突出区間22bであって、開口231に対向する狭壁222が、開口231に向かって突出している突出区間22bを含む。突出区間22bにおいて、狭壁222が狭壁23に向かって突出する突出量Pは、突出区間22bの両端(突出区間22bと第1の区間22aとの接続位置、及び、突出区間22bと第2の区間22cとの接続位置)より突出区間21bの中央において大きい。より具体的には、突出区間22bの両端から突出区間22bの中央に近づくにしたがって離散的に大きくなる。言い換えれば、幅W2は、突出区間22bの両端から突出区間22bの中央に近づくにしたがって離散的に狭くなる。
【0115】
このように、方向性結合器2は、ステップテーパ型の方向性結合器である。
【0116】
突出区間21b,22bにおいて、狭壁212,222は、2回に渡って開口231に向かって突出する。具体的には、狭壁212,222は、(1)突出区間21b,22bの両端においてP/2突出し、(2)突出区間21b,22bの両端から突出区間21b,22bの中央にL/4近づいた位置においてP/2突出するように構成されている。
【0117】
なお、突出区間21b,22bにおいて、狭壁212,222は、2回にわたって階段状に突出するように構成されている。しかし、狭壁212,222が突出する回数は、複数回であればよく、特に限定されるものではない。
【0118】
〔第2の実施例〕
本発明の第2の実施例に係る方向性結合器について、
図12を参照して説明する。第2の実施例に係る方向性結合器2は、第2の実施形態に係る方向性結合器2の各パラメータを以下のように定めたものである。
【0119】
幅W1及び幅W2の各々として、それぞれ、1.94mmを採用した。
【0121】
導波路21,22の内部に充填する誘電体の比誘電率として、3.823を採用した。
【0124】
突出量Pとして300μmを採用した。
【0125】
本実施例に係る方向性結合器2の設計時の動作周波数は、60GHzである。周波数が60GHzである高周波信号の波長は、自由空間中及び比誘電率が3.823である誘電対中において、それぞれ5.00mm及び2.56mmである。また、周波数が60GHzである高周波信号の管内波長は、上述のように構成された方向性結合器2において3.40mmである。
【0126】
また、本実施例に係る方向性結合器2は、結合度3dBの方向性結合器として設計されている。
【0127】
本実施例に係る方向性結合器2を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図12に示す。
図12は、本実施例に係る方向性結合器2のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0128】
図12を参照すると、周波数が50GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第6の変形例に係る方向性結合器1は、設計時の動作周波数である60GHzを含む50GHz以上69GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が59GHz以上62GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、59GHz以上62GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0129】
〔第8の変形例〕
本発明の第8の変形例に係る方向性結合器について、
図13を参照して説明する。第8の変形例に係る方向性結合器2は、第2の実施形態に係る方向性結合器2における突出区間21b,22bの長さLを3.2mmに変形することによって得られる。
【0130】
第8の変形例に係る方向性結合器2を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図13に示す。
図13は、第8の変形例に係る方向性結合器2のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0131】
図13を参照すると、周波数が50GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第8の変形例に係る方向性結合器2は、設計時の動作周波数である60GHzを含む50GHz以上69GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が57GHz以上65GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差が1.0dB未満であった。すなわち、57GHz以上65GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0132】
〔第9の変形例〕
本発明の第9の変形例に係る方向性結合器について、
図14を参照して説明する。第9の変形例に係る方向性結合器2は、第2の実施形態に係る方向性結合器2における突出区間21b,22bの長さLを4.8mmに変形することによって得られる。
【0133】
第9の変形例に係る方向性結合器2を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図14に示す。
図14は、第9の変形例に係る方向性結合器2のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0134】
図14を参照すると、周波数が54GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第9の変形例に係る方向性結合器2は、設計時の動作周波数である60GHzを含む54GHz以上70GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が57GHz以上68GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、57GHz以上68GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0135】
〔第1の比較例〕
本発明の第1の比較例に係る方向性結合器について、
図15を参照して説明する。第1の比較例に係る方向性結合器101は、第2の実施形態に係る方向性結合器2における突出区間21b,22bの長さLを6.4mmに変形することによって得られる。
【0136】
第1の比較例に係る方向性結合器101を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図15に示す。
図15は、第1の比較例に係る方向性結合器101のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0137】
図15を参照すると、66GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第1の比較例に係る方向性結合器101は、設計時の動作周波数である60GHzにおいて、反射損失を抑制できないことが分かった。
【0138】
〔第10の変形例〕
本発明の第10の変形例に係る方向性結合器について、
図16を参照して説明する。第2の比較例に係る方向性結合器102は、第2の実施形態に係る方向性結合器2における突出区間21b,22bの長さLを8.8mmに変形することによって得られる。
【0139】
第10の変形例に係る方向性結合器102を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図16に示す。
図16は、第2の比較例に係る方向性結合器102のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0140】
図16を参照すると、周波数が60GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第10の変形例に係る方向性結合器102は、設計時の動作周波数である60GHzを含む60GHz以上70GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が59GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、59GHz以上69GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0141】
〔参考形態〕
本発明の参考形態に係る方向性結合器について、
図17を参照して説明する。
図17は、本参考形態に係る方向性結合器3の構成を示す斜視図である。
【0142】
方向性結合器3は、第1の実施形態に係る方向性結合器1が備えている突出区間11b,12bを突出区間31b,32bに置換することによって得られる。以下では、主に突出区間31b,32bの構成について説明する。
【0143】
図17に示すように、方向性結合器3は、第1の導波路31と第2の導波路32とを備えている。第1の導波路31及び第2の導波路32の各々は、それぞれ、方向性結合器1の第1の導波路11及び第2の導波路12に対応する。第1の導波路31及び第2の導波路32の各々は、それぞれを構成する一対の狭壁のうち第1の狭壁である狭壁33を共有する。狭壁33には、幅Wである開口331が形成されている。これらの構成について、方向性結合器3は、方向性結合器1と同様である。
【0144】
第1の導波路31は、幅W1が一定である第1の区間31aと幅W1が一定である第2の区間31cとの間に挿入された突出区間31bであって、開口331に対向する狭壁312が、開口331に向かって突出している突出区間31bを含む。突出区間31bにおける突出量Pは、一定である。突出区間31bの長さLは、開口331の幅Wの1.68倍以上になるように設定される。
【0145】
同様に、第2の導波路32は、幅W2が一定である第1の区間32aと幅W2が一定である第2の区間32cとの間に挿入された突出区間32bであって、開口331に対向する狭壁322が、開口331に向かって突出している突出区間32bを含む。突出区間32bにおける突出量Pは、一定である。突出区間32bの長さLは、開口331の幅Wの1.68倍以上になるように設定される。
【0146】
このように、方向性結合器3は、長さLが幅Wの1.68倍以上になるように設定されたステップ型の方向性結合器である。
【0147】
第1の導波路31の突出区間31bは、開口区間31b0、第1の非開口区間31b1、及び第2の非開口区間31b2の3区間に分割することができる(
図17参照)。開口区間31b0は、開口331の両端を始端及び終端とする区間である。第1の非開口区間31b1は、開口区間31b0の前段に配置された区間であって、突出区間31bの一方の端部を始端とし、開口331の一方の端部を終端とする区間である。第2の非開口区間31b2は、開口区間31b0の後段に配置された区間であって、開口331の他方の端部を始端とし、突出区間31bの他方の端部を終端とする区間である。突出区間31bにおいて、第1の非開口区間31b1及び第2の非開口区間31b2は、共通の長さSを有する。
【0148】
同様に、第2の導波路32の突出区間32bは、開口区間32b0、第1の非開口区間32b1、及び第2の非開口区間32b2の3区間に分割することができる(
図17参照)。開口区間32b0は、開口331の両端を始端及び終端とする区間である。第1の非開口区間32b1は、開口区間32b0の前段に配置された区間であって、突出区間32bの一方の端部を始端とし、開口331の一方の端部を終端とする区間である。第2の非開口区間32b2は、開口区間32b0の後段に配置された区間であって、開口331の他方の端部を始端とし、突出区間32bの他方の端部を終端とする区間である。突出区間32bにおいて、第1の非開口区間32b1及び第2の非開口区間32b2は、共通の長さSを有する。
【0149】
このように構成された方向性結合器3において、長さSは、設計目標とする動作周波数の高周波信号が第1の導波路31及び第2の導波路32を導波する場合の管内波長をλg、正の整数をnとして、次の式(1)を満たす、ことが好ましい。
【0150】
(λg/2)×n×0.8≦S≦(λg/2)×n×1.2 (1)
上記の構成によれば、設計時の動作周波数におけるS(1,1)及びS(1,4)の各々を更に抑制することができる。これは、式(1)又は(2)を満たす長さSを採用することによって、(1)第1の非開口区間31b1,32b1の始端において反射された高周波信号と、(2)第1の非開口区間31b1,32b1の終端において反射された高周波信号とが、互いに打ち消し合うためと推測される。そのため、長さSの好ましい範囲は、管内波長λgに応じて周期的に存在する。
【0151】
また、長さSは、次の式(2)を満たすことがより好ましい。
【0152】
(λg/2)×0.8≦S≦(λg/2)×1.2 (2)
式(2)は、式(1)においてn=1を採用することによって得られる。
図21〜
図26を参照して後述するように、n=1を満足する長さSを採用することによって、n=2,3を満足する長さSを採用する場合と比較して、反射損失を−13dB以下に抑制することができる周波数帯域の下限値を低周波側へ拡大することができる。
【0153】
〔参考例〕
本発明の参考例に係る方向性結合器3について、
図17を参照して説明する。本参考例に係る方向性結合器3は、参考形態に係る方向性結合器3の各パラメータを以下のように定めたものである。
【0154】
幅W1及び幅W2の各々として、それぞれ、1.94mmを採用した。
【0156】
導波路31,32の内部に充填する誘電体の比誘電率として、3.823を採用した。
【0158】
長さLとして4.8mmを採用した。すなわち、長さLは、幅Wの1.68倍である。また、長さSは、0.975mmであり、0.287λgに相当する。
【0159】
突出量Pとして300μmを採用した。
【0160】
本参考例に係る方向性結合器3の設計時の動作周波数は、60GHzである。周波数が60GHzである高周波信号の波長は、自由空間中及び比誘電率が3.823である誘電対中において、それぞれ5.00mm及び2.56mmである。また、周波数が60GHzである高周波信号の管内波長λgは、上述のように構成された方向性結合器3において3.40mmである。
【0161】
また、本参考例に係る方向性結合器3は、結合度3dBの方向性結合器として設計されている。
【0162】
本参考例に係る方向性結合器3を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図18に示す。
図18は、本参考例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0163】
図18を参照すると、周波数が59GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、本参考例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む59GHz以上70GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が55GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、59GHz以上69GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0164】
〔第11の変形例〕
本発明の第11の変形例に係る方向性結合器について、
図19を参照して説明する。第11の変形例に係る方向性結合器3は、参考例に係る方向性結合器3における突出区間31b,32bの長さLを6.4mmに変形することによって得られる。すなわち、本変形例において、長さLは、幅Wの2.25倍である。また、長さSは、1.775mmであり、0.522λgに相当する。
【0165】
第11の変形例に係る方向性結合器3を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図19に示す。
図19は、第11の変形例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0166】
図19を参照すると、周波数が55GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第11の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む55GHz以上70GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が52GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、55GHz以上69GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0167】
〔第12の変形例〕
本発明の第12の変形例に係る方向性結合器について、
図20を参照して説明する。第12の変形例に係る方向性結合器3は、参考例に係る方向性結合器3における突出区間31b,32bの長さLを8.8mmに変形することによって得られる。すなわち、本変形例において、長さLは、幅Wの3.09倍である。また、長さSは、2.975mmであり、0.875λgに相当する。
【0168】
第12の変形例に係る方向性結合器3を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図20に示す。
図20は、第12の変形例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0169】
図20を参照すると、周波数が60GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第12の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む60GHz以上70GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が57GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、60GHz以上69GHz以下の周波数領域において、結合度3dB方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0170】
〔第13の変形例〕
本発明の第13の変形例に係る方向性結合について、
図21を参照して説明する。第13の変形例に係る方向性結合器3は、参考例に係る方向性結合器3における突出区間31b,32bの長さLを6.0mmに変形することによって得られる。すなわち、本変形例においては、長さLは、2.11倍である。また、長さSは、1.575mmであり、0.463λgに相当する。
【0171】
第13の変形例に係る方向性結合器3を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図21に示す。
図21は、
図13の変形例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0172】
図21を参照すると、周波数が55GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第13の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む55GHz以上70GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が53GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、55GHz以上69GHz以下の周波数領域において、結合度3dB方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0173】
〔第14の変形例〕
本発明の第14の変形例に係る方向性結合について、
図22を参照して説明する。第14の変形例に係る方向性結合器3は、参考例に係る方向性結合器3における突出区間31b,32bの長さLを9.4mmに変形することによって得られる。すなわち、本変形例においては、長さLは、3.30倍である。また、長さSは、3.275mmであり、0.963λgに相当する。
【0174】
第14の変形例に係る方向性結合器3を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図22に示す。
図22は、
図14の変形例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0175】
図22を参照すると、周波数が58GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第14変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む58GHz以上70GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が56GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、58GHz以上69GHz以下の周波数領域において、結合度3dB方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0176】
〔第15の変形例〕
本発明の第15の変形例に係る方向性結合について、
図23を参照して説明する。第15の変形例に係る方向性結合器3は、参考例に係る方向性結合器3における突出区間31b,32bの長さLを13mmに変形することによって得られる。すなわち、本変形例においては、長さLは、4.56倍である。また、長さSは、5.075mmであり、1.49λgに相当する。
【0177】
第15の変形例に係る方向性結合器3を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図23に示す。
図23は、
図15の変形例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0178】
図23を参照すると、周波数が60GHz以上70GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第15の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む60GHz以上70GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が57GHz以上69GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、60GHz以上69GHz以下の周波数領域において、結合度3dB方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0179】
第11〜第15の変形例のうち、第11の変形例及び第13の変形例の長さSは、n=1である場合の式(1)、すなわち式(2)を満足し、第12の変形例及び第14の変形例の長さSは、n=2である場合の式(1)を満足し、第15の変形例の長さSは、n=3である場合の式(1)を満足する。以下において、第11の変形例及び第13の変形例のことを、n=1を満足する変形例群と称し、第12の変形例及び第14の変形例のことを、n=2を満足する変形例群と称し、第15の変形例のことを、n=3を満足する変形例と称する。
【0180】
図19〜
図23の各々を比較すると、反射損失を−13dB以下に抑制することができる周波数帯域の下限値は、n=1を満足する変形例群において最も低く(54.5GHz及び55.5GHz)、n=2を満足する変形例群において高周波側にシフト(58GHz及び59.3GHz)し、n=3を満足する変形例において更に高周波側にシフト(59.5GHz)する。以上のことから、n=1を満足する長さSを採用することによって、n=2,3を満足する長さSを採用する場合と比較して、反射損失を−13dB以下に抑制することができる周波数帯域の下限値を低周波側へ拡大することができる。
【0181】
〔第16〜第18の変形例〕
本発明の第16〜第18の変形例に係る方向性結合器について、
図24を参照して説明する。第16の変形例に係る方向性結合器3は、参考例に係る方向性結合器3における突出量Pを200μmに変形するとともに、突出区間31b,32bの長さLを6.0mmに変形することによって得られる。また、第17の変形例及び第18の変形例の各々に係る方向性結合器3は、それぞれ、第16の変形例に係る方向性結合器3における長さLを6.4mm及び5.6mmに変形することによって得られる。すなわち、第16〜第18の変形例の各々においては、長さLは、それぞれ2.11倍,2.25倍,1.96倍である。第16の変形例において、長さSは、1.575mmであり、0.463λgに相当する。第17の変形例において、長さSは、1.775mmであり、0.522λgに相当する。第18の変形例において、長さSは、1.375mmであり、0.404λgに相当する。
【0182】
第16〜第18の変形例に係る方向性結合器3の各々を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図24に示す。
図24は、第16〜第18の変形例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。なお、第17〜第18の変形例に係る方向性結合器3については、S(1,1)のみを図示している。
【0183】
図24を参照すると、第16の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が53GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第16の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む53GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が50GHz以上65GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、53GHz以上65GHz以下の周波数領域において、結合度3dB方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0184】
また、第17の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が52GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第17の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む52GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0185】
また、第18の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が54GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第17の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む54GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0186】
〔第19〜第21の変形例〕
本発明の第19〜第21の変形例に係る方向性結合器について、
図25を参照して説明する。第19の変形例に係る方向性結合器3は、第16の変形例に係る方向性結合器3における突出区間31b,32bの長さLを9.4mmに変形することによって得られる。また、第20の変形例及び第21の変形例の各々に係る方向性結合器3は、それぞれ、第16の変形例に係る方向性結合器3における長さLを9.8mm及び9.0mmに変形することによって得られる。すなわち、第19〜第21の変形例の各々においては、長さLは、それぞれ3.30倍,3.44倍,3.16倍である。第19の変形例において、長さSは、3.275mmであり、0.963λgに相当する。第20の変形例において、長さSは、3.475mmであり、1.02λgに相当する。第21の変形例において、長さSは、3.075mmであり、0.904λgに相当する。
【0187】
第19〜第21の変形例に係る方向性結合器3の各々を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図25に示す。
図25は、第19〜第21の変形例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。なお、第20〜第21の変形例に係る方向性結合器3については、S(1,1)のみを図示している。
【0188】
図25を参照すると、第19の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が56GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第19の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む56GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が53GHz以上65GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、56GHz以上65GHz以下の周波数領域において、結合度3dB方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0189】
また、第20の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が55GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第20の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む55GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0190】
また、第21の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が56GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第17の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む56GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0191】
〔第22〜第24の変形例〕
本発明の第22〜第24の変形例に係る方向性結合器について、
図26を参照して説明する。第22の変形例に係る方向性結合器3は、第16の変形例に係る方向性結合器3における突出区間31b,32bの長さLを13.0mmに変形することによって得られる。また、第23の変形例及び第24の変形例の各々に係る方向性結合器3は、それぞれ、第16の変形例に係る方向性結合器3における長さLを13.4mm及び12.6mmに変形することによって得られる。すなわち、第22〜第24の変形例の各々においては、長さLは、それぞれ4.56倍,4.70倍,4.42倍である。第22の変形例において、長さSは、5.075mmであり、1.49λgに相当する。第23の変形例において、長さSは、5.275mmであり、1.55λgに相当する。第24の変形例において、長さSは、4.875mmであり、1.43λgに相当する。
【0192】
第22〜第24の変形例に係る方向性結合器3の各々を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図26に示す。
図26は、第22〜第24の変形例に係る方向性結合器3のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。なお、第23〜第24の変形例に係る方向性結合器3については、S(1,1)のみを図示している。
【0193】
図26を参照すると、第22の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が57GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第22の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む57GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。また、周波数が50GHz以上65GHz以下の周波数領域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、57GHz以上65GHz以下の周波数領域において、結合度3dB方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0194】
また、第23の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が56GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第23の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む56GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0195】
また、第24の変形例に係る方向性結合器3は、周波数が57GHz以上67GHz以下の周波数領域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第24の変形例に係る方向性結合器3は、設計時の動作周波数である60GHzを含む57GHz以上67GHz以下の周波数領域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0196】
参考例に係る方向性結合器3(
図18参照)及び第11〜第15の変形例に係る方向性結合器3(
図19〜
図23参照)の各々の反射損失を参照すると、反射損失が−13dB未満となる周波数領域の下限値は、長さL=6.4mmの場合(
図19参照)に最も小さくなることが分かった。換言すれば、長さL=6.4mmの場合に、設計時の動作周波数である60GHzを含む帯域の帯域幅が最も広くなることが分かった。また、長さLが6.4mm以上13mm以下の範囲内においては、長さLが長くなるほど設計時の動作周波数である60GHzを含む帯域の帯域幅が狭くなることが分かった。
【0197】
第11の変形例〜第15の変形例のうち、第11の変形例及び第13の変形例の長さSは、n=1である場合の式(1)、すなわち式(2)を満足し、第12の変形例及び第14の変形例の長さSは、n=2である場合の式(1)を満足し、第15の変形例の長さSは、n=3である場合の式(1)を満足する。以下において、第11の変形例及び第13の変形例のことを、n=1を満足する変形例群と称し、第12の変形例及び第14の変形例のことを、n=2を満足する変形例群と称し、第15の変形例のことを、n=3を満足する変形例と称する。
【0198】
図19〜
図23の各々を比較すると、反射損失を−13dB以下に抑制することができる周波数帯域の下限値は、n=1を満足する変形例群において最も低く(54.5GHz及び55.5GHz)、n=2を満足する変形例群において高周波側にシフト(58GHz及び59.3GHz)し、n=3を満足する変形例において更に高周波側にシフト(59.5GHz)する。以上のことから、n=1を満足する長さSを採用することによって、n=2,3を満足する長さSを採用する場合と比較して、反射損失を−13dB以下に抑制することができる周波数帯域の下限値を低周波側へ拡大することができる。
【0199】
第16〜第24の変形例のうち、第16〜第18の変形例の長さSは、n=1である場合の式(1)、すなわち式(2)を満足し、第19〜第21の変形例の長さSは、n=2である場合の式(1)を満足し、第22〜第24の変形例の長さSは、n=3である場合の式(1)を満足する。以下において、第16〜第18の変形例のことを、n=1を満足する変形例群と称し、第19〜第21の変形例のことを、n=2を満足する変形例群と称し、第22〜第24の変形例のことを、n=3を満足する変形例群と称する。
【0200】
図24〜
図26の各々を比較すると、反射損失を−13dB以下に抑制することができる周波数帯域の下限値は、n=1を満足する変形例群において最も低く(51,7GHz、52.5GHz、53.7GHz)、n=2を満足する変形例群において高周波側にシフト(55.1GHz、55.6GHz、56.3GHz)し、n=3を満足する変形例群において更に高周波側にシフト(56.2GHz、56.6GHz、57.2GHz)する。以上のことから、n=1を満足する長さSを採用することによって、n=2,3を満足する長さSを採用する場合と比較して、反射損失を−13dB以下に抑制することができる周波数帯域の下限値を低周波側へ拡大することができる。
【0201】
また、突出量Pが300μmである第11〜第15の変形例と、突出量Pが200μmである第16〜第24の変形例とを比較した結果によれば、突出量Pを大きくすることによって、反射損失を−13dB以下に抑制することができる周波数帯域を高周波側へシフトさせることができる。あるいは、突出量Pを小さくすることによって、上記周波数帯域を低周波側へシフトさせることができる。
【0202】
このように、方向性結合器3においては、突出量Pを変化させることにより、上記周波数帯域を制御することができる。換言すれば、突出量Pを変化させることによって、方向性結合器の他のパラメータを変更することなく、反射損失がよく抑制された周波数帯域を容易に制御ことができる。なお、突出量Pは、管内波長λgの13.5%以下であることが好ましい。
【0203】
〔構成例〕
第1の実施形態に係る方向性結合器1の構成例について、
図27を参照して説明する。
図27は、本構成例に係る方向性結合器1の構成を示す上面図である。
【0204】
本構成例に係る方向性結合器1が備えている第1の導波路11及び第2の導波路12の各々は、何れもポスト壁導波路技術を用いて作製されている。
【0205】
具体的には、第1の導波路11は、誘電体基板10と、誘電体基板10の両面に設けられた一対の導体板(
図27に不図示)と、誘電体基板10を貫通する導体ポスト112iを壁状に配置したポスト壁と、導体ポスト13iを壁状に配置したポスト壁とによって構成されている。本構成例において、導体ポスト13iは、一対の導体ポストからなる。
【0206】
方向性結合器1を上面視した場合に、導体ポスト112iの各々は、それらの中心を結んだ線が、
図1に示した狭壁112の形状と一致するように配置されており、導体ポスト13iの各々は、それらの中心を結んだ線が、
図1に示した狭壁13の形状と一致するように配置されている。
【0207】
したがって、誘電体基板10の両面に設けられた一対の導体板の各々は、それぞれ、広壁111a及び広壁111bとして機能する。導体ポスト13iを壁状に配置したポスト壁は、第1の狭壁である狭壁13として機能する。導体ポスト112iを壁状に配置したポスト壁は、第2の狭壁である狭壁112として機能する。
【0208】
第2の導波路12は、誘電体基板10と、誘電体基板10の両面に設けられた一対の導体板(
図27に不図示)と、誘電体基板10を貫通する導体ポスト122iを壁状に配置したポスト壁と、導体ポスト13iを壁状に配置したポスト壁とによって構成されている。第2の導波路12は、第1の導波路11と同様に構成されている。
【0209】
すなわち、誘電体基板10の両面に設けられた一対の導体板の各々は、それぞれ、広壁121a及び広壁121bとして機能する。導体ポスト13iを壁状に配置したポスト壁は、第1の狭壁である狭壁13として機能する。すなわち、第1の導波路11と第2の導波路12とは、狭壁13を共有している。導体ポスト122iを壁状に配置したポスト壁は、第2の狭壁である狭壁122として機能する。
【0210】
なお、本構成例において、導体ポスト112i,122iの直径及び導体ポスト13iの直径は、何れも100μmである。また、互いに隣接する導体ポスト112iと導体ポスト112i+1との間隔、互いに隣接する導体ポスト122iと導体ポスト122i+1との間隔、及び、互いに隣接する導体ポスト13iと導体ポスト13i+1との間隔は、何れも200μmである。しかし、これらの直径及びこれらの間隔は、何れも、本構成例に限定されるものではなく、設計時の動作周波数に応じて適宜定めることができる。
【0211】
本構成例によれば、ポスト壁導波路技術を用いて方向性結合器1を作成することができる。したがって、方向性結合器1を、ポスト壁導波路技術を用いて作成された他の導波路やバンドパスフィルタなどと共に1枚の誘電体基板に集積化することができる。
【0212】
また、方向性結合器1は、共有する狭壁13に形成された開口131を介して第1の導波路11と第2の導波路12とが結合するH面結合型の方向性結合器である。H面結合型の方向性結合器1は、ポスト壁導波路技術を利用して作製する方向性結合器として好適である。なぜなら、1枚の誘電体基板10を利用して方向性結合器1を作製できるからである。
【0213】
なお、本構成例においては、ポスト壁導波路技術を第1の実施形態に係る方向性結合器1に適用する場合について説明した。しかし、方向性結合器1に限らず第1の実施形態に係る方向性結合器2及び参考形態に係る方向性結合器3の何れにもポスト壁導波路技術を適用することができる。
【0214】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係るダイプレクサについて、
図28を参照して説明する。
図28の(a)及び(b)は、本実施形態に係るダイプレクサ5の構成を示すブロック図である。
【0215】
図28の(a)に示すように、ダイプレクサ5は、2つの第1の実施形態に係る方向性結合器1と、第1のフィルタ51と、第2のフィルタ52とを備えている。
【0216】
本実施形態では、2つの方向性結合器1の各々を、方向性結合器1a(第1の方向性結合器)及び方向性結合器1b(第2の方向性結合器)と表記することによって区別する。また、方向性結合器1aの4つのポートの各々を第1のポートP1a〜第4のポートP4aと表記し、方向性結合器1bの4つのポートの各々を第1のポートP1b〜第4のポートP4bと表記することによって区別する。
【0217】
また、本実施形態では、第1のフィルタ51及び第2のフィルタ52の各々としてバンドパスフィルタ(BPF)を採用している。以下では、第1のフィルタ51のことをBPF51と表記し、第2のフィルタ52のことをBPF52と表記する。BPF51,52は、所定の周波数帯域の高周波信号のみを透過させ、それ以外の周波数帯域の高周波信号を反射する。
【0218】
BPF51は、方向性結合器1aの第2のポートP2aと方向性結合器1bの第1のポートP1bとを接続する。また、BPF52は、方向性結合器1aの第3のポートP3aと方向性結合器1bの第4のポートP4bとを接続する。
【0219】
BPF51,52は、アンテナ63が受信した高周波信号を透過させ、且つ、送信回路61が送信する高周波信号を反射するように構成されている。
【0220】
このように構成されたダイプレクサ5が実現する機能について、次に説明する。
図28の(a)に示すように、方向性結合器1aの第1のポートP1aにアンテナ63を接続し、方向性結合器1aの第4のポートP4aに送信回路61(Tx)を接続し、方向性結合器1bの第2のポートP2bを終端抵抗64を介して接地し、方向性結合器1bの第3のポートP3bに受信回路62(Rx)を接続する。
【0221】
アンテナ63が接続された第1のポートP1aから受信回路62が接続された第3のポートP3bまでの経路は、2つある。第1の経路は、第1のポートP1aから第2のポートP2a、BPF51及び第1のポートP1bを経由して第3のポートP3bに至る経路である。第2の経路は、第1のポートP1aから第3のポートP3a、BPF52及び第4のポートP4bを経由して第3のポートP3bに至る経路である。
【0222】
上記のように構成されたダイプレクサ5によれば、アンテナ63が受信し第1のポートP1aに入射された高周波信号は、受信回路62に到達することができる。
【0223】
同様に、送信回路61が接続された第4のポートP4aからアンテナ63が接続された第1のポートP1aまでの経路も、2つある。第1の経路は、第3のポートP3aとBPF52との界面で反射された後に、第1のポートP1aに至る経路であり、第2の経路は、第2のポートP2aとBPF51との界面で反射された後に、第1のポートP1aに至る経路である。
【0224】
上記のように構成されたダイプレクサ5によれば、送信回路61から第4のポートP4aに入射された高周波信号は、アンテナ63に到達することができる。
【0225】
以上のように、ダイプレクサ5は、(1)アンテナ63が接続された第1のポートP1aから入射された高周波信号を受信回路62が接続された第3のポートP3bから出射させ、(2)送信回路61が接続された第4のポートP4aから入射された高周波信号をアンテナ63が接続された第1のポートP1aから出射させることができる。
【0226】
なお、ダイプレクサ5は、構成例に上述したようにポスト壁導波路技術を適用して作製されていることが好ましい。ポスト壁導波路技術を用いて作製することにより、方向性結合器1a、方向性結合器1b、BPF51、及びBPF52の各々を同一の誘電体基板に集積することができる。したがって、ダイプレクサ5の製造コストを抑制することができ、且つ、集積化を図ることができる。
【0227】
なお、本実施形態において、ダイプレクサ5は、第1の方向性結合器及び第2の方向性結合器の各々として第1の実施形態に係る方向性結合器1を備えているものとして説明した。しかし、ダイプレクサ5の第1の方向性結合器及び第2の方向性結合器の各々として、第2の実施形態に係る方向性結合器2を採用してもよいし、参考形態に係る方向性結合器3を採用してもよい。
【0228】
また、ダイプレクサ5は、
図28の(b)に示すように、方向性結合器1aの第4のポートP4aに受信回路62を接続し、方向性結合器1bの第3のポートP3bに送信回路61を接続する構成を採用してもよい。この場合、BPF51,52は、アンテナ63が受信した高周波信号を反射させ、且つ、送信回路61が送信する高周波信号を透過するように構成されていればよい。
図28の(b)に示すダイプレクサ5は、
図28の(a)に示すダイプレクサ5と同様の機能を有する。
【0229】
〔付記事項〕
本発明の参考形態に係る方向性結合器は、以下のように表現することもできる。
【0230】
本発明の参考形態に係る方向性結合器の第1の態様は、開口が形成された第1の狭壁を共有する第1の矩形導波路と第2の矩形導波路とを備えた方向性結合器であって、上記第1の矩形導波路及び上記第2の矩形導波路の各々は、第2の狭壁が上記第1の狭壁に向かって突出している突出区間であって、上記開口の少なくとも一部を含む突出区間を有し、上記突出区間の長さは、導波方向に沿って測った上記開口の幅の1.68倍以上である、事を特徴とする。
【0231】
上記のように構成された方向性結合器の第1の矩形導波路の一方の端部に、設計時の動作周波数である高周波信号を入射させた場合、設計時の動作周波数におけるS(1,1)及びS(1,4)の各々は、何れも十分に小さくなる。すなわち、この方向性結合器は、設計時の動作周波数において反射損失を抑制することができる。
【0232】
本発明の参考形態に係る方向性結合器の第2の態様は、上記第1の態様において、上記突出区間において、上記第2の狭壁が上記第1の狭壁に向かって突出している突出量は、上記突出区間の全区間に亘って一定である、構成を採用してもよい。
【0233】
上記の構成によれば、ステップ型の方向性結合器を用いて、設計時の動作周波数における反射損失を抑制することができる。
【0234】
本発明の参考形態に係る方向性結合器の第3の態様は、上記第2の態様において、
上記突出区間を、(1)上記開口の両端を始端及び終端とする開口区間、(2)上記開口区間の前段に配置された第1の非開口区間であって、上記突出区間の一方の端部を始端とし、上記開口の一方の端部を終端とする第1の非開口区間、(3)上記開口区間の後段に配置された第2の非開口区間であって、上記開口の他方の端部を始端とし、上記突出区間の他方の端部を終端とする第2の非開口区間、の3区間に分割した場合に、
上記第1の非開口区間及び上記第2の非開口区間の各々の長さSは、設計目標とする動作周波数の高周波信号が上記第1の矩形導波路及び上記第2の矩形導波路を導波する場合の管内波長をλg、正の整数をnとして、次の式(1)を満たす、ことが好ましい。
【0235】
(λg/2)×n×0.8≦S≦(λg/2)×n×1.2 (1)
上記の構成によれば、設計時の動作周波数におけるS(1,1)及びS(1,4)の各々を更に抑制することができる。
【0236】
本発明の参考形態に係る方向性結合器の第4の態様は、上記第3の態様の何れか1態様において、上記突出量は、上記管内波長λgの13.5%以下である、ことが好ましい。
【0237】
上記の構成によれば、設計時の動作周波数におけるS(1,1)及びS(1,4)の各々を確実に抑制することができる。
【0238】
また、上記の範囲内において突出量を変化させることにより、設計時の動作周波数を含む、S(1,1)及びS(1,4)がよく抑制された周波数帯域を制御することができる。換言すれば、突出量を変化させることによって、方向性結合器の他のパラメータを変更することなく、S(1,1)及びS(1,4)がよく抑制された周波数帯域を容易に制御することができる。
【0239】
本発明の参考形態に係る方向性結合器の第5の態様は、上記第1〜第4の態様の何れか1態様において、上記第1の矩形導波路の広壁及び上記第2の矩形導波路の広壁は、それぞれ、誘電体基板の両面に設けられた一対の導体板からなり、上記第1の矩形導波路の狭壁及び上記第2の矩形導波路の狭壁は、それぞれ、上記誘電体基板を貫通する導体ポストからなる、事が好ましい。
【0240】
このように構成された方向性結合器は、ポスト壁導波路技術を用いることによって製造することができる。したがって、金属製の導波管を用いて方向性結合器を作製する場合よりも製造が容易になる。その結果として、方向性結合器の製造コストを抑制することができる。
【0241】
本発明の参考形態に係るダイプレクサは、上記第1〜第5の態様の何れか一態様に記載の方向性結合器を第1の方向性結合器及び第2の方向性結合器として備えたダイプレクサであって、上記第1の方向性結合器の第1の矩形導波路及び上記第2の方向性結合器の第1の矩形導波路の間に挿入された第1のフィルタと、上記第1の方向性結合器の第2の矩形導波路及び上記第2の方向性結合器の第2の矩形導波路の間に挿入された第2のフィルタと、を更に備えている、ことが好ましい。
【0242】
上記の構成によれば、本発明の各態様に係る方向性結合器と同様の効果を奏する。
【0243】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【解決手段】方向性結合器(1)の矩形導波路(11,12)の各々は、第2の狭壁(112,122)が第1の狭壁(13)に向かって突出している突出区間であって、開口(131)の少なくとも一部を含む突出区間(11b,12b)を有し、突出量(P)は、突出区間(11b,12b)の両端より中央において大きい。