特許第6042197号(P6042197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042197
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】肺障害治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20161206BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20161206BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   A61K33/00
   A61K33/06
   A61P11/00
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-270146(P2012-270146)
(22)【出願日】2012年12月11日
(65)【公開番号】特開2014-114248(P2014-114248A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤森 順也
(72)【発明者】
【氏名】長尾 弘典
(72)【発明者】
【氏名】高橋 晶子
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−521468(JP,A)
【文献】 特表2010−519336(JP,A)
【文献】 特表2007−509893(JP,A)
【文献】 特開2011−037830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61P 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸塩を有効成分として含有する肺障害治療剤であって、
前記硝酸塩が、硝酸イオンをアニオンとし、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムをカチオンとするものであり、
前記肺障害が新生児慢性肺疾患である、肺障害治療剤
【請求項2】
体重1kgあたり15〜2000μmolの範囲で投与される、請求項1に記載の肺障害治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸塩を有効成分として含有する肺障害治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
新生児慢性肺疾患(Chronic Lung Disease:CLD)は、1996年の厚生省心身障害研究班により、「先天性奇形を除く肺の異常により酸素投与を必要とするような呼吸窮迫症状が新生児に始まり日齢28を超えて続くもの」と定義されている、重篤な肺障害として知られている。CLDは、肺の未熟性や、酸素の毒性、人工換気、感染、動脈管開存症などがリスクファクターとして知られ、肺胞や血管系の発達が抑制された状態と考えられている(たとえば、Christian P. Speer., 「Inflammation and bronchopulmonary dysplasia」, Seminars in Neonatology (2003) 8, 29-38(非特許文献1)を参照)。
【0003】
この疾患の治療法は、対症療法として投与酸素濃度の制限や、水分の制限、利尿薬による肺循環への水分負荷軽減、気管支拡張剤や呼吸刺激剤の投与、抗炎症作用や抗浮腫作用を期待してのステロイド投与などが行なわれている。たとえば特開2007−262064号公報(特許文献1)では、呼吸窮迫症候群患者が新生児慢性肺疾患に陥るリスクを低減させるために、ステロイド剤および肺表面活性剤を組み合わせた、気管内投与に適用される医薬組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、ステロイドについては、成長期の中枢神経系への副作用が危惧され、Canadian Paediatric Societyは、American Academy of Pediatricsと連名で、早産児のCLDに対する予防・治療目的のルーチン的なステロイド投与は勧められず、重症例に対してのみレスキュー的な短期少量投与を行うことを勧告している(たとえば、「Postnatal corticosteroids to treat or prevent chronic lung disease in preterm infants」, Paediatr Child Health, 2002 Jan ;7(1):20-28(非特許文献2)を参照)。また、CLDの治療に用いられる気管支拡張剤であるテオフィリンには、悪心、吐き気、頭痛、痙攣、意識障害、黄紋筋融解症など多くの副作用がある。
【0005】
また、CLD以外の重篤な肺障害として、閉塞性慢性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)も知られている。COPDは、煙草などの外的因子である有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応と、年齢や免疫因子など生体の内的な因子が複合的に関与し合い発症する進行性の気流制限を呈する、閉塞性呼吸器疾患である。COPDでは、終末細気管支より末梢の気腔がそれを構成する壁の破壊を伴いながら、非可逆的に拡大していく。
【0006】
COPDの治療法は、対症療法と進行を遅らせる保存療法が主である。薬物治療としては、気管支拡張薬として抗コリン薬やβ刺激薬などの併用や、重症例に対しては増悪回数を減少させるためのステロイド吸入が行われている。また、喫煙がCOPDの主要危険因子とされていることから喫煙患者に対する禁煙指導や、酸素療法も行われる。
【0007】
しかしながら、COPDの治療に用いられる抗コリン剤には、口渇、心不全、イレウス、発疹、便秘、消化不良などの副作用が知られている。また、COPDの治療に用いられるβ刺激薬には、動悸、振戦、頭痛、嘔吐などの副作用がある。また、ステロイドの副作用としては、嗄声、咳嗽、悪心、口腔カンジダ症、咽喉頭疼痛などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−262064号公報
【特許文献2】特開2011−37830号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Christian P. Speer., 「Inflammation and bronchopulmonary dysplasia」, Seminars in Neonatology (2003) 8, 29-38
【非特許文献2】「Postnatal corticosteroids to treat or prevent chronic lung disease in preterm infants」, Paediatr Child Health, 2002 Jan ;7(1):20-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、CLD、COPDのいずれの疾患においても、積極的に疾患を治療することができずに基本的には対症療法を施すしかなく、また、使用する薬剤に副作用があるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、CLD、COPDなどの重篤な肺障害を、対症療法ではなく、肺組織を修復することで積極的に治療することができ、かつ、従来と比較して副作用が少ない肺障害治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の肺障害治療剤は、硝酸塩を有効成分として含有する。
本発明における肺障害は、新生児慢性肺疾患(CLD)または閉塞性慢性肺疾患(COPD)であることが好ましい。
【0013】
本発明の肺障害治療剤は、体重1kgあたり15〜2000μmolの範囲で投与されることが、好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来と比較して、副作用が少なく、肺組織を修復することで積極的に重篤な肺障害を治療できる肺障害治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】被験化合物1を投与した場合(実施例1)の結果を示す肺後葉の標本の写真であり、図1(a)は全体写真、図1(b)は図1(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大して示す図である。
図2】比較例1の結果を示す肺後葉の標本の写真であり、図2(a)は全体写真、図2(b)は図2(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大して示す図である。
図3】比較例2の結果を示す肺後葉の標本の写真であり、図3(a)は全体写真、図3(b)は図3(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大して示す図である。
図4】被験化合物2を投与した場合(実施例2)の結果を示す肺中葉の標本の写真であり、図4(a)は全体写真、図4(b)は図4(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大して示す図である。
図5】比較例3の結果を示す肺中葉の標本の写真であり、図5(a)は全体写真、図5(b)は図5(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大して示す図である。
図6】比較例4の結果を示す肺中葉の標本の写真であり、図6(a)は全体写真、図6(b)は図6(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、後述する実験例において実証するように、硝酸塩が、損傷した肺組織を積極的に修復する作用を示し、従来、対症療法が主であった重篤な肺障害の治療に有効であることを見出した。硝酸塩が、損傷を受けた肺組織を積極的に修復するメカニズムの詳細は不明であるが、後述する実験例2に示すように、硝酸ナトリウム投与群で肺胞壁割合が増加していることから、硝酸ナトリウムは肺胞組織の修復を促進する働きを有するものと考えられた。
【0017】
また、本発明の肺障害治療剤は、従来の肺障害治療に用いられていた薬剤とは異なり、副作用が少ないという特徴も有する。これは、硝酸ナトリウムを含む硝酸塩は、硝酸イオンとしてホウレンソウなどの野菜中にも0.2g/100g程度(ホウレンソウ生葉の場合。文部科学省作成「五訂増補日本食品標準成分表 本表:野菜類」より)含まれており、ヒトが日常的に摂取しても問題のない安全性の高い化合物であることは経験的に知られているためである。後述する実験例3では、硝酸ナトリウムは、亜硝酸ナトリウムとは異なり2000μmol/kgまで投与しても血中メトヘモグロビンの増加は見られなかった。このように、本発明の肺障害治療剤を用いた治療は、従来と比較して副作用が少なく、安全性の高いものである。
【0018】
本発明の肺障害治療剤の治療対象となる「肺障害」としては、たとえば、新生児慢性肺疾患(CLD)、閉塞性慢性肺疾患(COPD)などを挙げることができる。
【0019】
本発明における硝酸塩は、無機アニオン(硝酸イオン:NO)とカチオンから形成される医薬的に許容される塩であればよく、たとえば、カチオンとしてアルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは有機塩基を用いることができる。たとえば、アルカリ金属として、ナトリウム、カリウムが好ましく、アルカリ土類金属として、カルシウム、マグネシウムが好ましく、有機塩基として、アルギニン、リジンが好ましい。
【0020】
本発明の肺障害治療剤は、硝酸塩が水に溶け易く、消化管からの吸収性が良好なことから、非経口、経口を問わず多様な投与形態を使用することができる。非経口の投与経路としては、たとえば静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、肺内、鼻腔内、外用局所を含む多様な経路によって投与することができ、剤型としては注射剤、吸入剤などが挙げられる。一方、経口投与剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、内用液剤などが挙げられるが、これらの製剤を胃崩壊剤、腸溶剤に調製することにより、消化管の所望する部位で硝酸塩を放出させることができる。これらの製剤は、汎用されている製剤技術を用いて、配合変化に注意し、医薬的に許容される医薬品添加物を使用して製剤化することができる。
【0021】
本発明の肺障害治療剤の投与量は、年齢、体重、疾患の進行度、投与形態または投与経路によって異なるが、上記薬理作用が発揮でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されないが、体重1kgあたり15〜2000μmol(μmol/kg)の範囲で投与されることが好ましく、また、1日1回程度の単回投与が望ましい。
【0022】
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
<実験例1>
実験例1では、75%の酸素を曝露させ作製した肺障害モデルマウスに、硝酸ナトリウム(被験化合物1)または生理食塩水(比較例1)を投与し、肺における障害の程度を標本の画像解析により評価した。
【0024】
(被験化合物注射液の調製)
被験化合物1として硝酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試験特級)を注射用生理食塩水(大塚製薬株式会社製)に溶解し、5μL/g(マウス体重あたり)の注射量で投与量が100μmol/kg(マウス体重あたり)となるよう、20mmol/Lの被験化合物注射液を調製した。
【0025】
(実験方法)
実験動物はC57BL/6Jマウス(日本エルエスシー株式会社より提供)を使用した。新生仔マウスを生後1日目から12日目まで親マウスと共に酸素制御装置(Biospherix. Ltd製、型番PRO−OX 110)によって高酸素(75±1% O)状態に制御されたケージ内で飼育した。生後12日目以降は大気圧条件下(21% O)に戻し、生後17日目まで飼育し、その6日間に1日1回、被験化合物100μmol/kg(マウス体重あたり)を頚部皮下注射した(被験化合物1:実施例1)。
【0026】
また、比較例1として、被験化合物の代わりに注射用生理食塩水を5μL/g(マウス体重あたり)頚部皮下注射した。
【0027】
比較例2として、出生直後から生後17日目まで大気圧条件下(21% O)で飼育したマウスを作製した。
【0028】
生後17日目の注射終了後にマウスを安楽死させ、肺を摘出し、4% パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液中で48時間固定してから各肺葉に切り分けた。なお、用いたパラホルムアルデヒドリン酸緩衝液は、リン酸水素二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試験特級)0.1mol/L、リン酸二水素ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試験特級)0.1mol/Lからなるリン酸緩衝液によって、パラホルムアルデヒド(和光純薬工業株式会社製)を溶解したものである。肺葉をエタノール水溶液で脱水し、パラフィン包埋後、肺葉を厚さ4μmの切片とし、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE染色)して標本を作製した。
【0029】
(評価法)
作製した標本を倒立顕微鏡(オリンパス株式会社製、型番IX71)下、顕微鏡用デジタルカメラ(オリンパス株式会社製、型番DP71)で撮影した。撮影画像を画像ソフト(アドビシステムズ株式会社製、商品名Photoshop CS4 extended)を用いて解析した。
【0030】
図1は、被験化合物1を投与した場合(実施例1)の結果を示す肺後葉の標本の写真であり、図1(a)は全体写真(40倍)、図1(b)は図1(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大(全体写真を2.5倍に拡大)して示す図である。図2は、比較例1の結果を示す肺後葉の標本の写真であり、図2(a)は全体写真(40倍)、図2(b)は図2(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大(全体写真を2.5倍に拡大)して示す図である。また図3は、比較例2の結果を示す肺後葉の標本の写真であり、図3(a)は全体写真(40倍)、図3(b)は図3(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大(全体写真を2.5倍に拡大)して示す図である。正常な状態である比較例2の標本(図3)と比較して、肺胞がつぶれた箇所(たとえば図2(b)を参照)を障害部位とした。実施例1および比較例1の肺中葉(図示せず)、肺後葉の撮影画像から肺胞総面積および障害部位の面積を算出し、さらに次式(1)によって障害部位割合を算出した。
【0031】
障害部位割合(%)=障害部位の面積÷肺胞総面積×100…式(1)
(結果)
正常な結果である比較例2(図3)と比べ、肺障害モデルマウスである比較例1(図2)および実施例1(図1)で肺胞が正常に形成されていない障害部位が出現したが、実施例1ではその程度が軽度であった。
【0032】
画像解析結果を表1に示す。表1中、数値は、障害部位の割合(%(平均))を示している。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から、実施例1は、比較例1と比較して障害部位割合が低く、酸素曝露による障害の治癒が促進されていたことが分かる。
【0035】
<実験例2>
実験例2では、従来治療法である吸入ステロイド剤ブデソニドとの比較において、硝酸ナトリウムの投与により肺胞組織の修復が促進される効果について、検討を行なった。
【0036】
(被験化合物注射液の調製)
被験化合物2として硝酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を注射用生理食塩水(大塚製薬株式会社製)に溶解し、5μL/g(マウス体重あたり)の注射量で投与量が30μmol/kg(マウス体重あたり)となるよう、6mmol/L濃度の被験化合物注射液を調製した。
【0037】
(比較薬物の調製)
比較薬物として、ブデソニド(和光純薬工業株式会社製)を精製水(吉田製薬株式会社製)に溶解し、コンプレッサー式ネブライザー(パリ・ジャパン株式会社製、商品名パリボーイモバイルS)で霧状にした。マウスの呼吸量を9mL/minと想定し、投与量がブデソニドとして5ng/g(マウス体重あたり)となるまでマウス口元に持続的に噴霧し吸入投与した。
【0038】
(実験方法)
実験動物はC57BL/6Jマウス(日本エルエスシー株式会社より提供)を使用した。新生仔マウスを生後1日目から7日目まで親マウスと共に酸素制御装置(Biospherix. Ltd製、型番PRO−OX 110)によって高酸素(75±1% O)状態に制御されたケージ内で飼育した。生後7日目以降は大気圧条件下(21% O)に戻し生後17日目まで飼育し、その10日間に1日1回、被験化合物30μmol/kg(マウス体重あたり)を頚部皮下注射した(被験化合物2:実施例2)。
【0039】
また、比較例3として、被験化合物2の代わりに比較薬物(ブデソニド)を吸入投与した。
【0040】
また、比較例4として、被験化合物2の代わりに注射用生理食塩水を5μL/g(マウス体重あたり)頚部皮下注射した。
【0041】
生後17日目の投与終了後にマウスを安楽死させ、肺を摘出し、4% パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液中で48時間固定してから各肺葉に切り分けた。なお、用いたパラホルムアルデヒドリン酸緩衝液は、リン酸水素二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試験特級)0.1mol/L、リン酸二水素ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試験特級)0.1mol/Lからなるリン酸緩衝液によって、パラホルムアルデヒド(和光純薬工業株式会社製)を溶解したものである。肺葉をエタノール水溶液で脱水、パラフィン包埋後、肺葉を厚さ4μmの切片とし、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE染色)して標本を作製した。
【0042】
(評価法)
作製した標本を倒立顕微鏡(オリンパス株式会社製、型番IX71)、顕微鏡用デジタルカメラ(オリンパス株式会社製、型番DP71)で撮影した。撮影画像を画像ソフト(アドビシステムズ株式会社製、商品名Photoshop CS4 extended)を用いて解析した。
【0043】
標本切片全体の面積から気管、血管および障害部位の面積を除いて肺胞の面積とし、そのうち、肺胞壁が占める面積の割合(肺胞壁割合)を下記式(2)によって算出した。
【0044】
肺胞壁割合(%)=肺胞壁面積÷(肺標本全体面積−(気管部位面積+血管部位面積+障害部位面積))×100…式(2)
この肺胞壁割合が高いほど、肺胞壁が密に形成され肺組織が修復されていることを表わす。標本は肺中葉を用いた。試験は3回以上繰り返し実施した。
【0045】
(結果)
図4は、被験化合物2を投与した場合(実施例2)の結果を示す肺中葉の標本の写真であり、図4(a)は全体写真(40倍)、図4(b)は図4(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大(全体写真を2.5倍に拡大)して示す図である。図5は、比較例3の結果を示す肺中葉の標本の写真であり、図5(a)は全体写真(40倍)、図5(b)は図5(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大(全体写真を2.5倍に拡大)して示す図である。また図6は、比較例4の結果を示す肺中葉の標本の写真であり、図6(a)は全体写真(40倍)、図6(b)は図6(a)中、矢印で示す丸く囲った部分を拡大(全体写真を2.5倍に拡大)して示す図である。実施例2(図4)では、比較例3(図5)および比較例4(図6)と比較して、肺胞壁がより形成されていたことが分かる。
【0046】
画像解析結果を表2に示す。表2中、数値は、肺胞壁の割合(%(平均))を示している。
【0047】
【表2】
【0048】
表2から、実施例2では、比較例3、4と比較して肺胞壁割合が高く、肺組織の修復がより促されていることが示された。
【0049】
<実験例3>
実験例3では、幾つかの濃度で硝酸ナトリウムを投与したときの血中メトヘモグロビン濃度を測定し、硝酸ナトリウムの投与可能濃度上限について検討を行なった。
【0050】
(被験化合物注射液の調製)
被験化合物として硝酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を注射用生理食塩水(大塚製薬株式会社製)に溶解し、5μL/g(マウス体重あたり)の注射量で、投与量が500μmol/kg(マウス体重あたり)(被験化合物3)、1000μmol/kg(マウス体重あたり)(被験化合物4)および2000μmol/kg(マウス体重あたり)(被験化合物5)となる濃度の各被験化合物注射液を調製した。
【0051】
(比較薬物の調製)
比較薬物として、亜硝酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を注射用生理食塩水(大塚製薬株式会社製)に溶解し、5μL/g(マウス体重あたり)の注射量で、投与量が500μmol/kg(マウス体重あたり)となるよう、100mmol/L濃度の比較薬物注射液を調製した。
【0052】
(実験方法)
実験動物はC57BL/6Jマウス(日本エルエスシー株式会社より提供)を使用した。3週齢のマウスに硝酸ナトリウム500μmol/kg(マウス体重あたり)(被験化合物3:実施例3)、1000μmol/kg(マウス体重あたり)(被験化合物4:実施例4)あるいは2000μmol/kg(マウス体重あたり)(被験化合物5:実施例5)で頚部皮下注射した。
【0053】
また、比較薬物として調製した亜硝酸ナトリウム500μmol/kg(マウス体重あたり)を頚部皮下注射した(比較例5)。
【0054】
また、比較例6として、被験化合物の代わりに注射用生理食塩水を5μL/g(マウス体重あたり)頚部皮下注射した。
【0055】
それぞれ注射1時間後に採血し、以下の方法によりメトヘモグロビン濃度(%)を算出した。試験は3回繰り返し実施した。
【0056】
(メトヘモグロビン濃度測定法)
採血した全血200μLに対し蒸留水を16mL加えて希釈し、M/10 リン酸緩衝液((A)KHPO(和光純薬工業株式会社製)水溶液13.62g/Lと(B)NaHPO(和光純薬工業株式会社製)を(A):(B)=62.5:37.5で混合し、(A)の溶液あるいは(B)の溶液を用いてpH6.6に調整)4mLを加え、転倒混和した。遠心分離機(エッペンドルフ株式会社製、型番5430−R)で3000rpm、10分間遠心分離し、上清を5mLずつ4つに分けた(上清(a)、上清(b)、上清(c)、上清(d)とした)。
【0057】
上清(a)について、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、型番V−670)で630nmおよび680nmの吸光度を測定し、630nmの吸光度から680nmの吸光度を引いた値を算出し、L(a)とした。
【0058】
上清(b)について、5% シアン化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)水溶液を50μL加え、630nmおよび680nmの吸光度を同様に測定し、630nmの吸光度から680nmの吸光度を引いた値を算出し、L(b)とした。
【0059】
上清(c)について、20%フェリシアン化カリウム(和光純薬工業株式会社製)水溶液を50μL加え、30分間静置した。630nmおよび680nmの吸光度を同様に測定し、630nmの吸光度から680nmの吸光度を引いた値を算出し、L(c)とした。
【0060】
上清(d)について、20%フェリシアン化カリウム水溶液を50μL加え、30分間静置した後、5%シアン化ナトリウム水溶液を50μL加えた。630nmおよび680nmの吸光度を同様に測定し、630nmの吸光度から680nmの吸光度を引いた値を算出し、L(d)とした。
【0061】
L(a)、L(b)、L(c)、L(d)と次式とを用いて、メトヘモグロビン濃度を算出した。
【0062】
メトヘモグロビン濃度(%)=(L(a)−L(b))/(L(c)−L(d))×100 …式(3)
(結果)
結果を表3に示す。表3中、数値は、血中メトヘモグロビン濃度(%(平均))を示している。
【0063】
【表3】
【0064】
表3から分かるように、比較例6と比べ、比較例5ではメトヘモグロビン濃度の上昇がみられたが、被験化合物3、4、5(実施例3、4、5)では比較例6と同等であった(表3)。このことから、被験化合物は体重1kgあたり2000μmolまでメトヘモグロビン濃度の上昇を起こさず、安全に投与可能であることが示された。
【0065】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6