特許第6042200号(P6042200)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042200ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042200
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   C09D11/18
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-278772(P2012-278772)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-122269(P2014-122269A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】高木 学
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−079067(JP,A)
【文献】 特開平09−302299(JP,A)
【文献】 国際公開第99/006494(WO,A1)
【文献】 特開2007−031590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、水と、ポリグリセリンイソステアリン酸エステルと、有機酸モノグリセリドを含有するボールペン用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記有機酸モノグリセリドが有機酸とモノグリセリン脂肪酸エステルとの縮合物であり、前記有機酸が、クエン酸又はジアセチル酒石酸である請求項1記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記有機酸モノグリセリドが、ポリグリセリンイソステアリン酸エステルの配合量に対して5〜40重量%の範囲で添加される請求項1又は2に記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれかに記載のボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペン用水性インキ組成物に関する。更には、潤滑性能に優れたボールペン用水性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
キサンタンガムやウェランガム等の剪断減粘性付与剤を含む水性インキ組成物は、紙面に転写された後に剪断力から解放され高粘度状態となるため、従来の低粘度水性インキ組成物の欠点である筆跡滲みが発生することがなく、しかも、インキ流量を調節する流量調節部材(櫛歯状部材等のインキ一時的保溜部材)を要しない簡易な構造の筆記具が得られるため、広く適用されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、前記剪断減粘性を有する水性インキでは、特に着色剤として顔料を用いた際に座摩耗を生じ易くなったり、経時によって顔料の凝集を生じることがあるため、種々の添加剤の配合が必要となり、配合の自由度が損なわれるものであった。
【0003】
そこで、剪断減粘性付与剤としてポリグリセリンイソステアリン酸エステルを用いることで、顔料の凝集を生じることなく、インキに優れた潤滑性能を付与できるという提案がなされている(例えば、特許文献2参照)。
前記エステルを剪断減粘性付与剤として配合した系においては、水性インキ中に汎用の潤滑剤を添加することなく、ボールペン筆記時の座摩耗を抑制し、優れた筆記感を長期的に維持できるため、着色剤として顔料を用いる際に広く適用されている。しかしながら、インキ状態で高温条件下に保管された場合には、インキ粘度が大きく変化してしまい、ボールペン形態での保管時にインキ漏れを生じたり、筆記時に筆跡カスレやボテ等を生じてしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−214782号公報
【特許文献2】WO99/06494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い潤滑性が得られるポリグリセリンイソステアリン酸エステルを剪断減粘性付与剤として用いた水性インキが高温雰囲気下に長期間保管されるような場合であっても、インキの粘度変化を生じることなく、優れた筆記性能を長期的に安定して発現できるボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のボールペン用水性インキ組成物は、顔料と、水と、ポリグリセリンイソステアリン酸エステルと、有機酸モノグリセリドを含有することを要件とする。
更に、前記有機酸モノグリセリドが有機酸とモノグリセリン脂肪酸エステルとの縮合物であり、前記有機酸が、クエン酸又はジアセチル酒石酸であること、前記有機酸モノグリセリドが、ポリグリセリンイソステアリン酸エステルの配合量に対して5〜40重量%の範囲で添加されることを要件とする。
更には、前記いずれかのボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペンを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、潤滑性に優れたポリグリセリンイソステアリン酸エステルを剪断減粘性付与剤として用いた際に、水性インキが高温雰囲気下に長期間保管されるような場合であっても、インキの粘度変化を生じることなく、初期と同等の優れた書き味と筆跡を維持することができる。そのため、優れた筆記性能を長期的に安定して発現できるボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前記顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤等を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等が用いられ、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:S.S.Blue GLL、顔料分22%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Red 146〔品名:S.S.Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業株式会社製〕、C.I.Pigment Red220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業株式会社製〕等を挙げることができる。
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。
その他、パール顔料、金色、銀色のメタリック顔料、蓄光性顔料、修正ペン等に用いられる二酸化チタン等の白色顔料、アルミニウム等の金属粉、更には熱変色性組成物、光変色性組成物、香料等を直接又はマイクロカプセル化したカプセル顔料等を例示できる。
【0009】
前記熱変色性組成物としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適であり、マイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として適用される。
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1〜7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
更に、特公平4−17154号公報、特開平7−179777号公報、特開平7−33997号公報、特開平8−39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH=8〜50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち−50〜0℃、好ましくは−40〜−5℃、より好ましくは−30〜−10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50〜95℃、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜80℃の範囲に特定し、ΔH値を40〜100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0010】
更に、必要に応じて、水性媒体に溶解可能な染料を併用することもできる。
前記染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができ、酸性染料としては、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6B(C.I.42640)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)、アシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
塩基性染料としては、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
直接染料としては、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
【0011】
前記顔料を含む着色剤は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成中1乃至30重量%、好ましくは2乃至25重量%の範囲で用いられる。
【0012】
前記ポリグリセリンイソステアリン酸エステルは剪断減粘性付与剤として水性インキ中に添加されるものであり、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化1】
(式中、nは1〜8の整数であり、R〜Rはそれぞれ独立して、Rは同一又は異なってもよく、イソステアロイル基または水素原子を示し、イソステアロイル基の数は1〜4である。)
【0013】
前記ポリグリセリンイソステアリン酸エステルは、潤滑効果が高く、剪断減粘性を付与させ、蒸発抑制効果があるため、従来のインキ材料の中で、極性溶剤、潤滑剤、粘度調整剤のそれぞれの代替材料として使用することができる。特に、粘度調整剤の代替として使用した場合は、ウェランガムのように材料ロットによって剪断減粘性付与力にバラツキを生じさせることが原因で筆記性に影響を及ぼすこともなく、また、顔料を用いた場合であっても、筆記性能を低下させることもない。添加量としては、インキ全量に対して、1〜30重量%、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%の範囲で用いられる。
【0014】
更に、必要に応じて、汎用の剪断減粘性付与剤を併用することができ、例えば、キサンタンガム、ウェランガム、ゼータシーガム、ダイユータンガム、マクロホモプシスガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ポリN−ビニル−カルボン酸アミド架橋物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、アルカリ増粘型アクリル増粘剤、無機質微粒子、HLB値が8〜12のノニオン系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩やアミン塩等が例示できる。
【0015】
本発明では、前記ポリグリセリンイソステアリン酸エステルを用いた水性インキが、高温雰囲気下に長期間保管された際に生じる、インキの粘度変化(物性変化)を抑制する目的で、有機酸モノグリセリドが配合される。そのため、ボールペン形態においては、初期と同等の優れた筆記性能が長期的に安定して発現できるものとなる。
前記有機酸モノグリセリドは、有機酸基を備えるグリセリン脂肪酸エステルであれば汎用の構造の化合物が適用でき、具体的には、クエン酸モノステアリン酸グリセリン、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノステアリン酸グリセリン、ステアリン酸モノグリセリド(一部をアセチル化されたものも含む)、乳酸モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。
【0016】
特に、前記有機酸モノグリセリドとしては、有機酸とモノグリセリン脂肪酸エステルとの縮合物が化合物の生産性及び性能の安定性が高い点から好適である。
また、前記有機酸として、クエン酸とジアセチル酒石酸を用いた化合物は、前記ポリグリセリンイソステアリン酸エステルに対する保護効果が高く、少量の添加により非常に高いインキ物性安定効果を発現するため特に有用である。
【0017】
前記有機酸モノグリセリドは、ポリグリセリンイソステアリン酸エステルの配合量に対して5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%の範囲で添加されることが好ましい。前記範囲内で配合することで、顔料の凝集を生じることなく、インキ物性の安定状態をより効果的に持続でき、優れた筆記性能を長期的に発現できるものとなる。
尚、前記有機酸モノグリセリドの添加量としては、インキ組成中0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%添加することが好ましい。
【0018】
更に必要に応じて、水に相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用して用いることができ、2〜60重量%、好ましくは5〜35重量%の範囲で用いられる。
【0019】
また、紙面への固着性や粘性を付与するために水溶性樹脂を添加することもできる。前記水溶性樹脂としては、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等が挙げられる。前記水溶性樹脂は一種又は二種以上を併用することができ、インキ組成中1乃至30重量%の範囲で用いられる。
【0020】
その他、必要に応じて、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2−ベンズチアゾリン3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、消泡剤、インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系界面活性剤を使用してもよい。また、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、尿素、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤を用いることもできる。
更に、汎用の潤滑剤を併用して添加することもできる。潤滑剤としては、例えば、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系活性剤、ジカルボン酸型界面活性剤、β−アラニン型界面活性剤、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールやその塩やオリゴマー、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、N−アシル−L−グルタミン酸とL−リジンとの縮合物やその塩等が用いられる。
また、アスコルビン酸類、エリソルビン酸類、α−トコフェロール、カテキン類、合成ポリフェノール、コウジ酸、アルキルヒドロキシルアミン、オキシム誘導体、α−グルコシルルチン、α−リポ酸、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素等を添加して化学的に気泡を除去することもできる。
更に、N−ビニル−2−ピロリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピペリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、N−ビニル−ε−カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
【0021】
前記水性インキ組成物は、ボールペンチップを筆記先端部に装着したボールペンに充填される。
ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来から汎用のものが適用でき、例えば、インキ組成物が低粘度である場合は軸筒前部にインキ保留部材を装着し、軸筒内に直接インキ組成物を収容する構造や、多孔質体或いは繊維加工体に前記インキ組成物を含浸させて収容する構造が例示できる。更に、軸筒内にインキ組成物を充填したインキ収容管を有し、該インキ収容管はボールを先端部に装着したチップに連通しており、更にインキの端面には逆流防止用のインキ逆流防止体が密接している構造のボールペンが例示できる。
【0022】
前記ボールペンチップについて詳しく説明すると、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。
また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等が適用でき、直径0.1mm〜2.0mmの範囲のものが好適に用いられる。
【0023】
前記水性インキ組成物を収容するインキ収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられる。また、前記インキ収容管として透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。
前記インキ収容管にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記インキ収容管とチップを連結してもよい。
尚、前記インキ収容管はレフィルの形態として、前記レフィルを軸筒内に収容するものでもよいし、先端部にチップを装着した軸筒自体をインキ収容体として、前記軸筒内に直接インキを充填してもよい。
【0024】
更に、前記インキ収容管内に充填されたインキ組成物の後端部に充填されるインキ逆流防止体としては、液状または固体のいずれを用いることもでき、前記液状のインキ逆流防止体(液栓)としては、ポリブテン、α−オレフィンコオリゴマー、シリコーン油、精製鉱油等の不揮発性媒体が挙げられ、所望により前記媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、脂肪酸アマイド等を添加することもできる。また、固体のインキ逆流防止体としては樹脂成形物が挙げられる。前記液状及び固体のインキ逆流防止体は併用することも可能である。
【0025】
前記ボールペンは、キャップ式、出没式のいずれの形態であってもよく、出没式ボールペンとしては、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒(外軸)内に収納されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
出没機構の操作方法としては、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
前記ノック式は、軸筒後端部や軸筒側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記回転式は、軸筒後部に回転部を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記出没式ボールペンは軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなる複合タイプの出没式ボールペン(レフィル交換式)であってもよい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表に実施例及び比較例のボールペン用水性インキの組成を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。また、顔料の粒子径はレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製;LA−300〕を用いて測定してその数値を基に体積基準で平均粒子径(メジアン径)を算出した値である。更に、インキ粘度の測定は、20℃でE型回転粘度計〔東機産業(株)製〕を用いて、インキ作製直後及び各経時期間後に1rpmと100rpmにて行った。
【0027】
【表1】
【0028】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)山陽色素(株)製、商品名:サンダイスーパーブラックC、顔料分30%
(2)カーボンブラック10部、N−ビニルピロリドンと1−ブテンの共重合体10部、水80部をボールミルで1時間攪拌混合した分散液
(3)山陽色素(株)製、商品名:サンダイスーパーレッドBS、顔料分32%
(4)(イ)成分として2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン4.5部、(ロ)成分として1,1−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)n−デカン4.5部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン7.5部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T:−20℃、T:−9℃、T:40℃、T:57℃、ΔH:63℃、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0、黒色から無色に色変化する)
(5)第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフAL
(6)アーチ・ケミカルズ・ジャパン社製、商品名:プロキセルXL−2
(7)ヘキサグリセリンモノイソステアリン酸エステル
(8)デカグリセリンモノイソステアリン酸エステル
(9)デカグリセリンジイソステアリン酸エステル
(10)クエン酸モノステアリン酸グリセリン
(11)ジアセチル酒石酸モノステアリン酸グリセリン
【0029】
インキの調製
水にポリグリセリンイソステアリン酸エステル以外の成分を添加し、混合攪拌した後にポリグリセリンイソステアリン酸エステルを添加して、20℃でディスパーにて6000rpmで1時間攪拌し、濾過することで各インキを調製した。
【0030】
インキ逆流防止体の調製
基油としてポリブテン98.5部中に、増粘剤として脂肪酸アマイド1.5部を添加した後、3本ロールにて混練してインキ逆流防止体を得た。
【0031】
ボールペンの作製
前記実施例及び比較例のインキ組成物を直径0.5mmの超硬合金ボールを抱持するステンレススチール製チップがポリプロピレン製パイプの一端に嵌着されたボールペンレフィルに充填し、その後端に前記インキ逆流防止体を配設した後、前記ボールペンレフィルを軸筒(キャップ式)に組み込み、試料ボールペンを作製した。
前記試料ボールペンを用いて以下の試験を行った。
【0032】
筆記試験
筆記可能であることを確認した各試料ボールペンを、横置き状態で50℃の環境下に30日間放置した後、旧JIS P3201筆記用紙Aに手書きで螺旋状の丸を連続筆記した際の筆跡の状態を目視により確認した。
【0033】
インキ粘度安定性試験
調製した各インキ5gをサンプル瓶に移し取り蓋をした後、50℃の環境下で30日間及び60日間放置した。各期間放置した際の、内部のインキの粘度を室温にて測定した。
前記試験の結果を以下の表に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
尚、試験結果の評価は以下の通りである。
筆記試験
○:滑らかに筆記でき、良好な筆跡を示した。
×:筆跡にかすれや線飛び、またはボテ等が多数見られ、良好な筆跡が得られない。
インキ粘度安定性試験
○:初期と比べ、粘度変化は見られない。
△:初期と比べて若干の粘度変化が見られた。
×:初期と比べて粘度が大きく変化している。