【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による防食構造体の施工方法は、鋼もしくはコンクリートからなる構造物の表面に両面接着テープの帯を枠状に接着して接着枠を形成し、接着枠の内側に2以上の両面接着テープのブロックを分散配置して接着ブロック群を形成し、接着枠と接着ブロック群の表面に高耐食性金属板を接着して高耐食性金属板の仮固定を図る第1のステップ、接着枠および接着ブロック群の厚みによって形成される、接着枠と構造物の表面と高耐食性金属板で囲まれた空間に対し、高耐食性金属板もしくは構造物に設けられた前記空間に連通する充填孔を介して接着性の樹脂材料を充填し、樹脂材料が硬化してなる樹脂接着層によって高耐食性金属板を構造物の表面に本固定し、樹脂接着層と高耐食性金属板からなる防食構造体を構造物の表面に形成する第2のステップからなるものである。
【0012】
本発明の防食構造体の施工方法は、表面防食が必要な海洋構造物等を構成する鋼構造物やコンクリート構造物の表面に樹脂接着層と高耐食性金属板から形成される防食構造体を施工するに当たり、両面接着テープにて構造物の表面に高耐食性金属板を接着し、両面接着テープの厚みによってできた構造物表面と高耐食性金属板の間の空間に樹脂材料を充填する際のシール性と充填圧による高耐食性金属板のはらみ防止を両面接着テープによって齎すようにしたものである。
【0013】
すなわち、構造物表面に高耐食性金属板を取り付ける際にボルト等の機械接続を不要とし、構造物表面に接着した両面接着テープで高耐食性金属板を接着し、これらで画成された空間に樹脂材料を充填して樹脂接着層を形成することから、樹脂接着層を先施工し、次いで高耐食性金属板を後施工する2段階の施工方法に比して施工効率は飛躍的に向上する。
【0014】
さらに、その使用を排除するものではないが、両面接着テープを適所に配設することで、ストッパーや抑え型枠等を高耐食性金属板の外側に配設等することなく、樹脂材料を充填した際の高耐食性金属板のはらみ出しを抑制することができる。
【0015】
防食対象であるコンクリート構造物もしくは鋼構造物としては、海洋構造物である函状の荷さばき施設の下スラブや側壁スラブ(コンクリート構造物、鋼構造物のいずれもある)、このような海洋構造物を支持する鋼管杭や鋼矢板、ジャケット構造物を構成する鋼管、コンクリート製の防波堤などを一例として挙げることができる。
【0016】
また、高耐食性金属板としては、ステンレスプレートやチタンプレートを挙げることができ、耐食性の観点で言えばチタンプレートの適用が好ましい。
【0017】
また、両面接着テープとしては、JIS Z-1541の超強力両面粘着テープの適用が好ましく、両面接着テープの形態としては、その全体が粘着性のあるものの他にも、中央の板状の支持体の両サイドを粘着テープが挟んだ積層構造のものであってもよい。また、後述するスペーサを使用せずに、両面接着テープの厚みのみで樹脂材料を充填する空間を形成する場合では、後者の積層構造の両面接着テープが厚みを確保できる点で好ましい。
【0018】
これらの構造物の被防食表面としては、スラブ等の平坦な表面や鋼管等の湾曲した表面などがあり、いずれの表面形態に対しても本発明の施工方法は適用可能である。
【0019】
第1のステップでは、樹脂材料のシール性を確保する観点から、構造物表面の所定範囲において両面接着テープの帯を枠状に接着して接着枠を形成する。なお、たとえば10m×10mの平面状のスラブの防食領域がある場合に、この10m×10mの枠寸法の接着枠をスラブ表面に接着する形態や、5つの縦10m×横2mの接着枠を併設した形態などが挙げられる。
【0020】
このように、接着枠の表面に高耐食性金属板を接着し、形成された空間に樹脂材料を充填することでそのシール性が保証されるが、このことに加えて、第1のステップは、接着枠の内側に2以上の両面接着テープのブロックを分散配置して接着ブロック群を形成し、接着枠と接着ブロック群の表面に高耐食性金属板を接着して高耐食性金属板の仮固定を図るものである。
【0021】
本発明の施工方法は高耐食性金属板をその外側から抑え型枠等で抑えることを必要としないことから、接着枠のみでは、樹脂材料を充填した際に仮固定された高耐食性金属板のはらみ出しを十分に抑制できない場合もあり得る。そこで、接着枠の内側に両面接着テープのブロックを分散配置し、接着枠に加えてこの複数のブロックでも高耐食性金属板の接着を図ることで両面接着テープのみで高耐食性金属板のはらみ出しを抑制することができる。
【0022】
第1のステップで接着枠と接着ブロック群の表面に高耐食性金属板を接着してその仮固定が図られたら、次に第2のステップとして、接着枠および接着ブロック群の厚みによって形成される、接着枠と構造物の表面と高耐食性金属板で囲まれた空間に接着性の樹脂材料を充填する。
【0023】
ここで、樹脂接着層を形成する接着性の樹脂材料としては、有機溶剤であるエポキシ樹脂やスチレン樹脂、酢酸ビニル、塩化ビニル、ニトリルゴムやクロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、シリコーン樹脂(変性シリコーンを含む)などを挙げることができる。
【0024】
なお、樹脂材料の充填の際に高耐食性金属板に対する充填圧を可及的に低減することで、両面接着テープに要求される接着力や接着枠の内側に配設される両面接着テープのブロックの数を低減することができる。したがって、たとえば、数mmの空間(隙間)でも抵抗なく流れる流動性を備え、可及的に粘度の低い低粘度の樹脂材料が選定されるのが望ましい。
【0025】
樹脂材料の充填は、高耐食性金属板もしくは構造物に設けられた空間に連通する充填孔を介しておこなわれる。
【0026】
空間に充填された樹脂材料が硬化して樹脂接着層が形成され、この樹脂接着層で高耐食性金属板を構造物の表面に本固定する。そして、この本固定された状態において、樹脂接着層と高耐食性金属板からなる防食構造体が構造物の表面に形成されることになる。
【0027】
このように、本発明による防食構造体の施工方法によれば、構造物の表面に両面接着テープを接着し、この両面接着テープで高耐食性金属板を仮固定し、両面接着テープからなる接着枠と接着ブロック群の厚みによって形成される、接着枠と構造物の表面と高耐食性金属板で囲まれた空間に接着性の樹脂材料を充填し、硬化させて樹脂接着層を形成し、この樹脂接着層で高耐食性金属板の本固定をおこなうことにより、ボルト等による機械接続を不要とし、高耐食性金属板の抑え型枠等を不要としながら、効率的に、樹脂接着層と高耐食性金属板からなる防食構造体を施工することができる。
【0028】
また、本発明による防食構造体の施工方法の他の実施の形態は、前記第1のステップにおいて、スペーサの帯が枠状に形成されてなるスペーサ枠の表面と裏面にそれぞれ前記両面接着テープの帯を接着して前記接着枠を形成し、2以上のブロック状のスペーサの表面と裏面にそれぞれ前記両面接着テープのブロックを接着して前記接着ブロック群を形成し、前記空間の前記厚みが、スペーサの厚みとその表裏面の2つの両面接着テープの厚みの総和となっているものである。
【0029】
本実施の形態の施工方法は、接着枠と接着ブロック群を両面接着テープのみから構成する代わりに、スペーサの表面と裏面に両面接着テープを接着して構成された接着枠と接着ブロック群を使用して防食構造体を施工する方法である。
【0030】
ここで、スペーサは、金属プレートが断面コの字型に形成されたもの、断面Iの字型に形成されたもの、断面Hの字型に形成されたものなど、多様な形状形態のものが適用できる。たとえば、断面コの字型のスペーサにおいて「表面」とはコの字の底面、「裏面」とはコの字の2つの端面を意味する。また、断面Iの字型、断面Hの字型のスペーサにおいて「表面」、「裏面」とは、2つのフランジの端面を意味する。
【0031】
スペーサを適用して接着枠や接着ブロック群を形成することで、スペーサの厚みとその表裏面の2つの両面接着テープの厚みの総和が樹脂材料の充填される空間の厚みとなり、両面接着テープのみによる場合に比して空間の厚みを確保し易くなる。但し、樹脂材料の充填量を可及的に抑制することが材料コストの観点から望ましいことより、スペーサを適用した場合でもその厚みは10〜20mm程度の薄いものが適用されるのがよい。
【0032】
また、本発明による防食構造体の施工方法の他の実施の形態は、前記第1のステップにおいては、スペーサの帯の表面と裏面にそれぞれ前記両面接着テープの帯を接着して接着区画帯をさらに形成し、前記接着枠の内側に接着区画帯を配設して接着枠の内側を2以上の区画に区分けするものであり、前記スペーサ枠を構成するスペーサの帯が溝を有するとともに、各区画に対応した位置に各区画の空間に連通する連通孔を有しており、前記接着枠はその対角位置の一方に前記充填孔が形成され、他方に空気抜き孔が形成されており、前記第2のステップでは、充填孔から充填された樹脂材料が接着枠を構成するスペーサの帯の溝を通り、前記連通孔を介して各区画の空間に送られ、別途の前記連通孔を介し、接着枠を構成する別途のスペーサの帯の溝を押し出された空気が通り、空気抜き孔から空気が抜かれて、各区画の空間へ樹脂材料の充填がおこなわれるものである。
【0033】
接着枠の内側の寸法が比較的広い場合には、その内側を両面接着テープの帯を接着してなる2以上の接着区画帯で区分けし、それぞれの区画に順次樹脂材料を充填するとともに、それぞれの区画から空気を順次抜いていくことで、被防食範囲の全体に亘って空気溜まりのない樹脂接着層を形成することができる。
【0034】
より具体的には、スペーサ枠を構成するスペーサの帯が溝を有し、各区画に対応した位置に各区画の空間に連通する連通孔をさらに有していて、接着枠はその対角位置の一方に樹脂材料が充填される充填孔を有し、対角位置の他方に空気抜き孔を有していることで、充填孔から充填された樹脂材料は、充填孔に近い区画から順に連通孔を介して流れ込み、この樹脂材料の流れによって空間内にあった空気が押され、空気が押された方向に存在しているスペーサの連通孔からスペーサの溝に空気が押し出され、空気抜き孔に流れてここで空気抜きがおこなわれる。
【0035】
また、本発明は防食構造体にも及ぶものであり、この防食構造体は、鋼もしくはコンクリートからなる構造物の表面に両面接着テープの帯を枠状に接着してなる接着枠が接着され、2以上の両面接着テープのブロックが分散配置してなる接着ブロック群が接着枠の内側に接着され、接着枠と接着ブロック群の表面に高耐食性金属板が接着されており、接着枠および接着ブロック群の厚みによって形成される、接着枠と構造物の表面と高耐食性金属板で囲まれた空間に接着性の樹脂接着層が形成されており、接着枠と接着ブロック群と樹脂接着層によって高耐食性金属板が構造物の表面に固定され、樹脂接着層と高耐食性金属板から構成されているものである。
【0036】
本発明の防食構造体は既述する施工方法によって施工されるものであり、高耐食性金属板が薄膜であっても、ボルト等の機械接続が一切講じられていないことから、機械接続による劣化箇所等は存在せず、しかも樹脂接着層を介して構造物の表面に強固に接続された防食構造体となっている。
【0037】
なお、この防食構造体においても、スペーサの帯が枠状に形成されてなるスペーサ枠の表面と裏面にそれぞれ前記両面接着テープの帯が接着されて前記接着枠が形成され、2以上のブロック状のスペーサの表面と裏面にそれぞれ前記両面接着テープのブロックが接着されて前記接着ブロック群が形成され、前記空間の前記厚みが、スペーサの厚みとその表裏面の2つの両面接着テープの厚みの総和となっている形態がある。さらに、スペーサの帯の表面と裏面にそれぞれ前記両面接着テープの帯が接着されて接着区画帯が形成され、前記接着枠の内側に該接着区画帯が配設されて接着枠の内側が2以上の区画に区分けされ、各区画の空間内で樹脂接着層が形成されている形態もある。