(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
炭素イオン等の粒子線ビームを患者の患部(がん)に照射して治療を行う粒子線治療が広く実施されている。
この粒子線治療では、大型回転機構(以下、回転ガントリと称す)の内部に形成される治療室内にて、治療用ベッド上に横たわっている患者に対してイオンビームを照射し治療するものである。
【0003】
この回転ガントリは一般に大型構造物であり、建屋床面に対して水平な回転軸を中心として低速(一分間に一回転程度)で回転するものである。
この回転ガントリには、粒子線ビーム照射を実行するための電磁石や電装機器等といった外部から電力や制御信号の供給を必要とする機器が、多数設けられている。
これら機器に接続される電源線や制御線は多数にわたり、超電導電磁石を用いた装置の場合、約400本の配線や配管が必要となる。
【0004】
これらの配線や配管は、種類や用途等に応じてグループされて所定の本数毎に束ねられたケーブルを形成する。
このケーブルは、回転ガントリ上の各機器に一端が接続されて、スプールに巻回された状態を経て、建屋側に設けられたターミナルブロックに他端が接続されている。
そして、このケーブルは、巻き取り、繰り出しを行う回転時の重量バランスを考慮して、スプールに巻回されている(例えば、特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように実施形態に係る粒子線治療装置10は、粒子線ビーム11を照射する照射ノズル12とこの照射ノズル12に粒子線ビーム11を導くビーム輸送系13とが設けられた回転ガントリ14と、この回転ガントリ14に設けられた複数の機器の各々に一端が接続するケーブル21(
図3)と、回転ガントリ14に同軸に設けられるとともにケーブル21の束を巻回させるスプール20と、回転ガントリ14を収容する建屋15側に設けられるとともにケーブル21の束の他端が接続するターミナルブロック23(
図3)と、このターミナルブロック23からスプール20に巻回されるまでにおけるケーブル21の束を個別に仕切るセパレータ30と、を備えている。
【0012】
粒子線ビーム11は、図示略のイオン源で発生したイオン(重粒子あるいは陽子イオン)を直線加速器で加速し、さらに円形加速器に入射して設定エネルギーまでに高めることにより生成される。
ビーム輸送系13は、回転ガントリ14と一体回転するように設けられ、粒子線ビーム11の軌道を90°曲げて、照射ノズル12から患者16に照射するものである。
【0013】
回転ガントリ14は、内側に治療スペースが形成される円筒形状を有している。
この回転ガントリ14は、その両縁端27a,27bに外接する複数のロータ28(28a,28b)に重量が支えられ、これらロータ28の回転駆動により回転軸(Z軸)周りに回転する。
患者16に対して周方向の任意の位置から粒子線ビーム11を照射させるために、回転ガントリ14の実際の回転範囲は、±185°程度である。
【0014】
移動制御部17は、例えば多関節ロボット等で構成され、その先端部分には、患者16を横臥させるベッド18が設けられている。
これにより、ベッド18は、所望する位置及び方向に設定されるように治療スペースの内部を移動する。
なお、これらロータ28及び移動制御部17は、建屋15側に設置された架台19に固定されている。
【0015】
この粒子線治療装置10は、回転ガントリ14の内側の治療スペースの所定の位置及び方向に、患者16を横臥させたベッド18を設定し、粒子線ビーム11を照射する。
粒子線ビーム11は、患者16の体内を通過する際に運動エネルギーを失って速度を低下させるとともに、速度の二乗にほぼ反比例する抵抗を受けてある一定の速度まで低下すると急激に停止する。
【0016】
そして、粒子線ビーム11の停止点近傍では、ブラッグピークと呼ばれる高エネルギーが放出される。
粒子線治療により、このブラッグピークを患者16の患部に合わせることにより、正常な組織の障害を少なくしつつ治療を行うことができる。
【0017】
このように、回転ガントリ14の内側及び外側には、電力を消費したり電子信号により制御されたりする複数の機器が設けられている。
これら複数の機器の各々には、図示を省略しているが、ケーブル21の一端が接続されている。
そして、これらケーブル21の束は、回転ガントリ14に同軸に設けられたスプール20に巻回したのちに、重力方向に垂れ下がって弛みを維持した状態で、ターミナルブロック23(
図3)に、他端が接続される。
【0018】
これらケーブル21は、電力供給ライン、信号ライン、冷媒供給ラインといった複数の電線及び配管がグループ化して構成されている。
また、重力方向に垂れ下がって形成されるケーブル21の弛みは、その曲率半径が許容値よりも小さくならないように、ターミナルブロック23の配置等といった設計上の配慮がなされている。
【0019】
スプール20は、回転ガントリ14の縁端27bに、回転軸Zと同軸に設けられており、その中心をビーム輸送系13が貫通している。
図2に示すように、スプール20の外周面には、ケーブル21の太さに対応した幅の保持溝22が設けられている。この保持溝22には、複数(図面では二本)のケーブル21が積層した状態で巻回されている。
【0020】
このように複数のケーブル21を積層させてスプール20に巻回することにより、このスプール20の回転軸Z方向の長さを小さく設定することができる。
そして、ケーブル21の束は、スプール20の下方に形成されるケーブルピット29において、自重により垂直方向に垂れ下がり、途中でU字状に反転し、その他端がターミナルブロック23に接続する。
【0021】
セパレータ30は、第1実施形態において、ケーブルピット29の内側に設けられている。
そして、このセパレータ30は、ターミナルブロック23からスプール20に巻回されるまでにおけるケーブル21の束を個別に仕切っている。
なお図示において、セパレータ30は、並列に配置された平板を例示しているが、複数の棒材を組み合わせて構成することもできる。
これにより、ケーブル21の上下動に伴って発生する水平方向の揺れを抑制することができる。
【0022】
このセパレータ30が無い場合は、この水平方向の揺れによって、互いに積層されるケーブル21が相互に干渉し、乱巻が発生し、スプール20の保持溝22に適切に格納されず、回転ガントリ14の円滑な回転が阻害されるおそれがある。
また、設置当初、ケーブル21の乱巻を防止するために、注意深く癖を取った後にケーブル21をスプール20に組み付けたとしても、ケーブル21が本来持っている撚りが要因となり、回転駆動に伴って乱巻が誘発される可能性もある。
このような、回転ガントリ14の回転に伴い巻き取り又は繰り出されるケーブル21の特性により誘発されるトラブルは、セパレータ30が搭載されることにより解消される。
【0023】
(第2実施形態)
図4を参照して第2実施形態に係る粒子線治療装置を説明する。
第2実施形態に係る粒子線治療装置のスプール20には、巻回方向が互いに逆方向である第1ケーブル21aの束と第2ケーブル21bの束とが巻回し、第1ケーブル21aの他端は第1ターミナルブロック23aに接続し、第2ケーブル21bの他端は第2ターミナルブロック23bに接続している。
なお、
図4において
図3と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0024】
このように構成されることにより、回転ガントリ14が一方向に回転すると、第1ケーブル21aの束及び第2ケーブル21bの束のうちいずれか一方が巻き取られて上昇して他方が繰り出されて下降する。
そして、回転ガントリ14が反対方向に回転すると、この一方が繰り出されて下降して他方が巻き取られて上昇する。
【0025】
これにより、ケーブル21の重量を利用して、小さなトルクで回転ガントリ14を回転駆動させることができる。
また、小さなブレーキ制動力により、回転ガントリ14の回転を停止状態にすることができる。
【0026】
図4(B)は、スプール20の外周面をZ軸方向に二つの領域に分けて、それぞれの領域に第1ケーブル21aの束及び第2ケーブル21bの束を巻回させた例を示している。
図示を省略するが、スプール20に対し、第1ケーブル21a及び第2ケーブル21bを、交互に巻回させる場合もある。
【0027】
(第3実施形態)
図5を参照して第3実施形態に係る粒子線治療装置を説明する。
第3実施形態に係る粒子線治療装置のセパレータ30は、互いに積層したケーブル21(
図2参照)を分岐する分岐部材31を有している。
分岐部材31は、例えば、自在に回転するようセパレータ30に固定されるローラにより構成することができる。
【0028】
ここで、
図5(A)は、第1実施形態(
図3)から第3実施形態を実現した場合を示し、
図5(B)は、第2実施形態(
図4)から第3実施形態を実現した場合を示している。
なお、
図5において
図3と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0029】
このように構成されることにより、一つの保持溝22(
図2)に積層された複数(図面では二本)のケーブル21が、U字型に垂れ下がる姿勢が個別に設定される。
これにより、ケーブル21が繰り出されたり巻き取られたりする際に、その乱巻をより効果的に予防することができる。
【0030】
(第4実施形態)
図6を参照して第4実施形態に係る粒子線治療装置を説明する。
第4実施形態に係る粒子線治療装置のセパレータ30(30a,30b)は、スプール20の外周面に近接して設けられている。
このセパレータ30(30a,30b)には、スプール20の保持溝22(
図2)に積層したケーブル21が繰り出される際に、これらを分岐する分岐部材31が設けられている。
【0031】
ここで、
図6(A)は、第1実施形態(
図3)から第4実施形態を実現した場合を示し、
図6(B)は、第2実施形態(
図4)から第4実施形態を実現した場合を示している。
図6(B)の場合におけるセパレータ30a,30bは、二つに分離してスプール20の両側に配置されることになる。
なお、
図6において
図3と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0032】
これにより、セパレータ30を、ケーブルピット29よりも上方に設けることができるため、これまで述べてきた効果に加え、さらにケーブルピット29の深さを浅く設定することができる。
【0033】
(第5実施形態)
図7を参照して第5実施形態に係る粒子線治療装置を説明する。
第5実施形態に係る粒子線治療装置は、建屋15側から支持されるとともにスプール20から繰り出されたケーブル21(21a,21b)に外接する従動プーリ24(24a,24b)をさらに備えている。
なお、
図7において
図3と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0034】
この従動プーリ24は、スプール20の直径のみを小さくした構成を有し、同様の保持溝(
図2参照)を有している。この従動プーリ24の直径は、使用するケーブル21の直径の少なくとも10倍が望ましい。
また、
図7は、互いに逆方向に巻回される第1ケーブル21aの束と第2ケーブル21bの束とを備える場合を示しているが、いずれか一方のみを備え、従動プーリ24が片側のみ形成される場合も含まれる。
【0035】
これにより、ケーブル21は、回転軸Zから離れた場所まで中継されてから鉛直方向に繰り出される。このために、スプール20の外径を小さく設定しても、ケーブル21がロータ28に干渉することを回避することができる。
さらに、スプール20の外径を小さく設定することにより、ケーブル21の繰り出し量を低減させることができ、ケーブルピット29の深さをさらに浅く設定でき、回転ガントリ14の回転駆動トルクを小さくすることができる。
【0036】
(第6実施形態)
図8を参照して第6実施形態に係る粒子線治療装置を説明する。
第6実施形態に係る粒子線治療装置は、第1ケーブル21aに外接する第1従動プーリ24aと、第2ケーブル21bに外接する第2従動プーリ24bとを連動させるベルト26をさらに備えている。
なお、
図8において
図7と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0037】
このように構成されることにより、例えば、回転ガントリ14が時計方向へ回転して第1ケーブル21aが繰り出されると、第1従動プーリ24aで発生したトルクは、ベルト26を介して第2従動プーリ24bに伝達される。
第1ケーブル21bの巻き取りは、この第2従動プーリ24bのサポートを得ることができるために、回転ガントリ14を回転駆動させるロータ28の発生トルクを低減できる。
【0038】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の粒子線治療装置によれば、回転ガントリから建屋側に伸びるケーブルの束が、空間においてセパレータにより個別に仕切られるために、回転に伴い巻き取り又は繰り出されるケーブルにより誘発されるトラブルを未然に防止することができる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。