特許第6042225号(P6042225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042225セグメントコイル、セグメントコイルの製造方法及びステータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042225
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】セグメントコイル、セグメントコイルの製造方法及びステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20161206BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H02K3/34 D
   H02K15/04 E
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-29177(P2013-29177)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-158398(P2014-158398A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 慎一
(72)【発明者】
【氏名】藤川 裕之
【審査官】 安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−064989(JP,A)
【文献】 特開2009−232607(JP,A)
【文献】 特開2011−142747(JP,A)
【文献】 特開2009−254996(JP,A)
【文献】 特開2011−259566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/30−3/52
H02K 15/00−15/02
H02K 15/04−15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータのコアに設けられたスロットに収容される直線部と、一対の斜辺部を含む山形形状を有し上記スロットから延出して上記直線部を接続するコイルエンド部とを備えるセグメントコイルであって、
上記セグメントコイルの全周に設けられる基礎絶縁被覆層と、
上記コイルエンド部の表面の一部に設けられるとともに、隣接して配置されるセグメントコイルとの間に隙間を形成する付加絶縁被覆層とを備え
上記付加絶縁被覆層は、上記一対の斜辺部のうち一方のみの表面の一部に設けられている、セグメントコイル。
【請求項2】
上記隙間が、冷媒流路を構成している、請求項1に記載のセグメントコイル。
【請求項3】
上記付加絶縁被覆層は、セグメントコイル表面の所定部位に線状又は点状に形成されている、請求項1又は請求項2に記載のセグメントコイル。
【請求項4】
上記セグメントコイルは、矩形断面を備えるとともに、
上記矩形断面の少なくとも角部に上記付加絶縁被覆層が形成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のセグメントコイル。
【請求項5】
上記付加絶縁被覆層は、上記角部に連続的に形成されている、請求項4に記載のセグメントコイル。
【請求項6】
上記付加絶縁被覆層は、上記角部に断続的に形成されている、請求項4に記載のセグメントコイル。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載されたセグメントコイルの製造方法であって、
コイル形成用線材の全周に基礎絶縁被覆層を形成する基礎絶縁被覆層形成工程と、
コイルエンド部の表面の一部に付加絶縁被覆層を形成する付加絶縁被覆層形成工程とを含み、
上記付加絶縁被覆層形成工程は、
ディスペンサの吐出口から液状の付加絶縁被覆材料を吐出させて、上記コイル形成用線材の表面の所定部位に線状又は点状に塗着する塗着工程と、
塗着された上記付加絶縁被覆材料を硬化させる塗膜硬化工程とを含む、セグメントコイルの製造方法。
【請求項8】
上記コイル形成用線材は矩形断面を備えるとともに、
上記塗着工程において、上記線材の少なくとも角部に塗膜を形成する、請求項7に記載のセグメントコイルの製造方法。
【請求項9】
上記塗着工程において、上記吐出口を、上記線材の表面から所定距離離間させて上記付加絶縁被覆材料を吐出させる、請求項7又は請求項8に記載のセグメントコイルの製造方法。
【請求項10】
上記塗着工程において所定間隔で付加絶縁被覆材料を塗着するとともに、
隣接して塗着された塗膜を一体に連続させて膜厚を均一化する均一化工程を含む、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のセグメントコイルの製造方法。
【請求項11】
直径が0.5〜1.0mmの吐出口から上記付加絶縁被覆材料を吐出させて、上記塗着工程が行われる、請求項7から請求項10のいずれか1項に記載のセグメントコイルの製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のセグメントコイルを備えるステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、セグメントコイル、セグメントコイルの製造方法及びステータに関する。詳しくは、コイルエンド部において隣接して配置されるセグメントコイル間の絶縁性を高めるとともに、放熱性を高めたセグメントコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、電動機を構成するステータは、環状のコアにコイルを設けて構成される。上記環状コアには、内側に開口する複数のスロットが所定間隔で設けられており、このスロットに上記コイルが装着される。従来のコイルは、曲折可能な巻き線を、上記スロットに巻き回すことにより設けられていた。しかしながら、内側に開口する上記スロットに、上記巻き線を、傷めることなく巻き回すのは困難であり、作業性が悪いという問題があった。
【0003】
また、曲折可能な巻き線では、直径を大きく設定することができないため大電流を流すことができない。このため、電動機の出力を高めることは困難である。また、電動機の出力向上及び小型化の要請に応えるためには、コイルの占積率を高める必要があるが、上記巻き線を巻き回す構成では、占積率を向上させることも困難である。
【0004】
上記問題を解決するため、断面積の大きなコイル材料をスロットに装着できる形態にあらかじめ成形して構成される複数のセグメントコイルを上記スロットに装着し、上記スロットから延出する接続端部を溶接等することにより接続してコイルを構成する手法を採用することができる。上記セグメントコイルの断面を上記スロットの断面形態に対応させることにより断面積を大きく設定することができるため、大電流を流すことができるとともに占積率を大きく設定することが可能となり、電動機の出力を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4688003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記セグメントコイルには、隣接するセグメントコイルとの間や、コアとの間の絶縁を行うための絶縁被覆層が設けられている。上記絶縁被覆層は、上記各部材間において部分放電が生じないように構成する必要がある。上記部分放電は、電圧差が大きくなる部分において生じやすい。たとえば、3相交流電動機のステータにセグメントコイルを採用した場合、異なる相に属するセグメントコイル間における電圧差が最も大きくなる。したがって、異なる相に属するセグメントコイルが近接あるいは接触する部分、すなわち上記スロットから延出するコイルエンド部において部分放電が生じやすい。
【0007】
一方、同じ相に属するセグメントコイル間や、コアとセグメントコイルとの間の電圧差は、異なる相に属するセグメントコイル間の電圧差より小さい。
【0008】
従来のセグメントコイルにおいては、異なる相に属するセグメントコイル間の電圧差に対応できる絶縁被覆層を、セグメントコイルの全域に設けることにより、部分放電を防止するように構成されていた。
【0009】
ところが、同じ層に属するセグメントコイルが接触等する部位や、コアとセグメントコイルとが接触等する部位においては、大きな電圧差に対応できる厚みの大きな絶縁被覆層を設ける必要はない。このため、従来のセグメントコイルは、スロット内の占積率が低下するばかりでなく、絶縁被覆層を構成する絶縁被覆材料や絶縁被覆層を形成する工程が増加して製造コストが増加し、さらに、厚みの大きな絶縁被覆層によって放熱性が低下して電動機の出力や上記絶縁被覆層の性能を低下させる恐れもあった。
【0010】
占積率や放熱線を高めるため、比誘電率が低く絶縁性能が高い高価な絶縁材料を用いて、セグメントコイルの全体に、厚みの小さい絶縁被覆層を形成することも考えられるが、製造コストの増加につながることになる。
【0011】
本願発明は、上記従来の問題を解決し、コイルエンド部において隣接するセグメントコイルとの間に、塗膜によって隙間を形成し、放熱性を高めたセグメントコイルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に記載した発明は、ステータのコアに設けられたスロットに収容される直線部と、一対の斜辺部を含む山形形状を有し上記スロットから延出して上記直線部を接続するコイルエンド部とを備えるセグメントコイルであって、セグメントコイルの全周に設けられる基礎絶縁被覆層と、上記コイルエンド部の表面の一部に設けられるとともに、隣接して配置されるセグメントコイルとの間に隙間を形成する付加絶縁被覆層とを備え、上記付加絶縁被覆層は、上記一対の斜辺部のうち一方のみの表面の一部に設けられている。
【0013】
上記基礎絶縁被覆層は、同相のコイル間や、コイルとコアとの間に部分放電が生じないように厚み等が設定される。このため、厚みの小さい絶縁被覆層を形成すれば足りる。上記基礎絶縁被覆層は、従来の既知の種々の手法によって形成することができる。
【0014】
たとえば、セグメントコイルを形成するコイル形成用線材を、基礎絶縁被覆材料を収容した槽内に通し、上記コイル形成用線材の表面に基礎絶縁被覆材料を付着させた後、加熱装置によって上記基礎絶縁被覆層を硬化させるように構成することができる。上記基礎絶縁被覆材料は特に限定されることはなく、従来の絶縁被覆層を形成できる樹脂材料を採用できる。たとえば、ポリイミドやポリアミドイミド等を含んだワニスや、アルミナやシリカ等の無機フィラーを樹脂に含んだワニスを採用できる。
【0015】
本願発明では、付加絶縁被覆層を形成するため、従来の絶縁被覆層に比べて基礎絶縁被覆層の厚みを小さく設定することができるばかりでなく、基礎絶縁被覆層の厚みに多少のばらつきがあっても、付加絶縁被覆層によって補完し、所要の絶縁性を確保することができる。
【0016】
上記基礎絶縁被覆層の厚みも特に限定されることはなく、たとえば、厚みが5μm〜50μmの上記基礎絶縁被覆を形成できる。
【0017】
一方、上記付加絶縁被覆層は、上記コイルエンド部の表面の一部に、隣接して配置されるセグメントコイルとの間に隙間を形成できように構成される。たとえば、30〜150μmの厚みの付加絶縁被覆層を形成するのが好ましい。
【0018】
上記付加絶縁被覆層の形成部位あるいは塗着パターンは特に限定されることはなく、セグメントコイルのコイル表面の所定部位に線状又は点状に形成することができる。付加絶縁被覆層を線状又点状に形成することにより、複数の付加絶縁被覆層が離間して設けられる。このため、コイル表面に形成された付加絶縁被覆層の間に隙間が形成される。また、隣接するセグメントコイルに対しても、上記隙間が確保される。このため、上記隙間を介して放熱が促進される。さらに、上記隙間にモータを冷却する冷媒を流動させることにより、放熱をさらに促進することができる。上記冷媒は特に限定されることはなく、空気や液状の冷媒を採用できる。
【0019】
対象となるコイル形成用線材の種類や形態は特に限定されることはない。たとえば、矩形断面を有する平角線に本願発明を適用できる。特に、平角線を採用してセグメントコイルを形成する場合、平角線の角部が隣接するセグメントコイルと近接あるいは接触させられることが多い。このため、平角線の少なくとも角部に付加絶縁被覆層を形成するのが好ましい。また、平角線の角部に付加絶縁被覆層を形成することにより、隣接するセグメントコイルがどのように配列されても、上記隙間を確保することができる。さらに、セグメントコイルの周囲に螺旋状に付加絶縁被覆を形成することもできる。
【0020】
また、コイルエンド部において、異なる層に属するセグメントコイルが近接あるいは接触する部分に、選択的に付加絶縁被覆層を設けることもできる。これにより、部分放電が生じやすい部分に所要の隙間を確保できる。このため、占積率を低下させることなく、部分放電を効果的に防止できるセグメントコイルを形成することが可能となる。また、隣接するセグメントコイル間に隙間が形成されるため、コイルの放熱を促進することができる。さらに、付加絶縁被覆層を形成するための材料も少なくなるため、製造コストを低減させることもできる。
【0021】
上記付加絶縁被覆層は、軸方向に連続的に設けることもできるし断続的に設けることもできる。上記付加絶縁被覆層は、隣接するセグメントコイルが近接あるいは接触する部分に設ければ足りる。このため、付加絶縁被覆層を断続的に形成して、上記隙間が形成される領域を増加させるのが好ましい。一方、上記付加絶縁被覆層によって、隣接するセグメントコイル間の隙間が確保されるため、隣接するセグメントコイル間の絶縁性が確保される。なお、隣接するセグメントコイル間において所要の隙間が形成できれば、付加絶縁被覆層同士を接触させるように構成することもできるし、付加絶縁被覆層と基礎絶縁被覆層とを接触あるいは近接させるように構成することもできる。
【0022】
上記付加絶縁被覆層を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、ディスペンサの吐出口から粘度の高い液状の付加絶縁被覆材料を吐出させて、コイル形成用線材の表面の所定部位に線状又は点状に塗着し、その後、塗着された上記付加絶縁被覆材料を硬化させることにより厚みの大きな付加絶縁被覆層を形成することができる。
【0023】
ディスペンサの吐出口から付加絶縁被覆材料を吐出させることにより所要の部位に所要の厚みの絶縁被覆層を形成することができる。また、付加絶縁被覆材料の塗着率を高めることができるため、付加絶縁被覆材料の無駄がなくなり、製造コストを低減させることができる。さらに、吐出される上記付加絶縁被覆材料の粘度や吐出量等を調節することにより、コイル形成用線材の表面に精度高く、線状又は点状の塗膜を形成することができる。
【0024】
上記塗膜硬化工程を行う手法も特に限定されることはない。ヒータ等の加熱手段によって塗膜硬化工程を行うことができる。加熱手段を採用する場合、温風や輻射熱を利用することができる。また、電子線や紫外線を利用したものを採用することもできる。上記加熱手段は、ディスペンサから付加絶縁被覆材料が吐出された直後に作用するように構成することもできるし、所定の時間が経過した後に作用するように構成することもできる。
【0025】
上記ディスペンサとして種々の方式のものを採用することができる。ディスペンサは、液体定量吐出装置と呼ばれるものであり、種々の手法を用いて所要の液体を吐出できるように構成される。たとえば、エアパルス等によって液体材料を押し出すシリンダ方式、モータ駆動で液体を押し出す容量計量方式、チューブをしごいてチューブ内の液体を吐出させるチュービング方式、液体を空気圧等によって飛ばす非接触方式等を採用したものを採用することができる。
【0026】
液状の付加絶縁被覆材料を線状又は点状に吐出できるものであれば、吐出口の形態も特に限定されることはない。たとえば、種々の形式のノズルやニードル形態の吐出口を備えて構成されたものを採用することができる。
【0027】
上記吐出口の口径も特に限定されることはない。たとえば、直径が0.5〜1.0mmの上記吐出口から上記付加絶縁被覆材料を吐出させて、上記塗着工程を行うことができる。また、吐出される塗膜の厚みも特に限定されることはなく、30〜150μmの厚みの付加絶縁被覆層を形成できる。これにより、隣接するコイル間に上記付加絶縁被覆層の厚みに対応した隙間を形成することができる。
【0028】
本願発明では、上記ディスペンサから付加絶縁被覆材料を線材の表面に線状又は点状に塗着する。上記線状又は点状に塗着された付加絶縁被覆材料を、吐出した形態のまま硬化させることができる。複数のディスペンサから付加絶縁被覆材料を吐出する場合、各ディスペンサから吐出された各塗膜が離間した状態で硬化させることができる。たとえば、上記ディスペンサの吐出口近傍を赤外線で照射しながら塗着工程を行うことにより、厚みの大きな付加絶縁被覆層を形成できる。
【0029】
一方、線材の外周面の所定領域に一定の面積を有する均一な厚みの塗膜が要求される場合もある。このような場合、所定間隔で付加絶縁被覆材料を塗着するとともに、隣接して塗着された塗膜を一体に連続させて膜厚を均一化する均一化工程を含むように構成することができる。
【0030】
線状又は点状の塗膜を近接させて形成するとともに、隣接する塗膜を側方に流動させて一体化させることができる。また、上記塗膜の粘度や塗膜硬化工程における加熱温度や時間等を調節することにより、一体化させられた塗膜の厚みを均一化することができる。また、線材の一部のある程度広い領域に、厚みが大きくかつ均一な絶縁被覆層を形成することも可能となる。
【0031】
上記均一化工程は、種々の手法を用いて行うことができる。たとえば、付加絶縁被覆材料としてワニス等の熱硬化性樹脂を採用した場合、加熱すると一旦軟化した後に硬化させられる。このため、上記軟化する際に上記均一化工程が行われるように構成することができる。また、線材に振動等を与えて均一化を促進することもできる。
【0032】
また、本願発明に付加絶縁被覆層は、曲げ加工を行う前のコイル形成用線材に対して形成することもできるし、曲げ加工したコイル形成用線材に対して形成することもできる。
【0033】
上記塗着工程において、上記ディスペンサの吐出口を、上記線材の表面から離間させて上記付加絶縁被覆材料を吐出させるように構成するのが好ましい。これにより、線材のよじれ等による凹凸や曲がりが存在しても、均一な付加絶縁被覆層を形成することができる。たとえば、吐出口を、線材表面から0.1〜5.0mm離間させて塗着工程を行うのが好ましい。
【0034】
上記付加絶縁被覆材料も特に限定されることはなく、たとえば、絶縁電線の絶縁被覆層を形成する絶縁性樹脂を溶剤に溶解してなる10P以上の高粘度の樹脂ワニスを採用することができる。これにより、厚みの大きな付加絶縁被覆層を形成することができる。
【0035】
なお、上記ワニスに対して上記均一化工程を行う場合、その粘度が25℃における粘度の0.1〜0.7倍となる温度に5秒以上、10分以下加熱するのが好ましい。
【0036】
本願発明に係るセグメントコイルの製造装置は、付加絶縁被覆材料を上記線材表面の所定部位に線状又は点状に塗着するディスペンサと、上記線材表面に塗着された塗膜を硬化させる硬化装置とを備えて構成できる。
【0037】
また、本願発明に係るセグメントコイルの製造装置を、線材の表面の全体に基礎絶縁被覆層を形成する基礎絶縁被覆層形成装置と、上記基礎絶縁被覆層の表面の所定部位に上記塗膜を形成する付加絶縁被覆層形成装置とを連続して設けることにより構成することもできる。
【0038】
矩形断面を備える線材を採用する場合、上記ディスペンサは、少なくとも上記線材の角部表面に付加絶縁被覆材料を塗着するように構成することができる。
【発明の効果】
【0039】
コイルエンド部において、隣接するセグメント間の絶縁性を確保できるともに、近接あるいは接触させられるセグメントコイル間に隙間を形成して、放熱性を高めたセグメントコイルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本願発明に係るセグメントコイルの製造装置の概要図である。
図2】付加絶縁被覆層形成工程の一例を示す概略図である。
図3図2に示す製造装置によって製造されたセグメントコイルの付加絶縁被覆層形成部位の断面図である。
図4】付加絶縁被覆層の実施形態を示す図であり、図4(a)は、付加絶縁被覆層を所定長さ連続的に形成したものである。図4(b)は、付加絶縁被覆層を所定間隔で断続的に形成したものである。
図5】本願発明に係るセグメントコイルの一例を示す正面図である。
図6】複数のセグメントコイルを組み付けた形態を模式的に示す正面図である。
図7図6において隣接して配置される2つのコイルの接触部位を模式的に表した断面図である。
図8】付加絶縁被覆層の他の実施形態を示す正面図である。
図9図8に示す付加絶縁被覆層を備えるセグメントコイル組み付けた形態を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本願発明の実施形態を図に基づいて具体的に説明する。なお、本実施形態は、本願発明を、矩形状の断面を有するセグメントコイルに適用したものである。
【0042】
図1は、本願発明に係るセグメントコイル10の製造工程を行う製造措置の一例を示す図である。
【0043】
本実施形態に係るセグメントコイル10は、基礎絶縁被覆層形成装置51と、付加絶縁被覆層形成装置52とを備えて構成される製造装置100を用いて製造される。
【0044】
上記基礎絶縁被覆層形成装置51と、付加絶縁被覆層形成装置52とは、連続して設けられており、これら装置によって基礎絶縁被覆層形成工程と、付加絶縁被覆層形成工程とを連続して行い、基礎絶縁被覆層4と付加絶縁被覆層7とが形成できるように構成されている。
【0045】
上記基礎絶縁被覆層形成装置51は、矩形断面を有するコイル形成用線材1を、基礎絶縁被覆材料3を収容した槽内2に通し、コイル形成用線材1の表面の全域に基礎絶縁被覆材料3を付着させた後、第1の加熱装置18によって上記基礎絶縁被覆層4を硬化させるように構成されている。上記基礎絶縁被覆層形成装置51は、既知の縁被覆層形成装置を利用して構成することができる。また、上記基礎絶縁被覆材料3も特に限定されることはなく、従来の絶縁被覆層を形成できる樹脂材料を採用できる。たとえば、ポリイミドやポリアミドイミド等を含んだワニスや、アルミナやシリカ等の無機フィラーを樹脂に含んだワニスを採用できる。
【0046】
上記第1の加熱装置18の構成も特に限定されることはなく、従来の種々の加熱装置を採用することができる。たとえば、上記基礎絶縁被覆層4に温風を送るように構成することができる。上記第1の加熱装置18は、塗着された基礎絶縁被覆層4を、300℃以上に加熱できるように構成されている。なお、本実施形態では、付加絶縁被覆層7を形成するため、基礎絶縁被覆層4の厚みを小さく設定することもできる。また、基礎絶縁被覆層4の厚みに多少のばらつきがあっても、付加絶縁被覆層7によって補完することができる。なお、ピンホールが生じるのを防止するために、基礎絶縁被覆層4を、3層以上の塗着層を設けて構成するのが好ましい。
【0047】
上記基礎絶縁被覆層4の厚みも特に限定されることはなく、たとえば、厚みが5μm〜50μmの基礎絶縁被覆4を形成できる。また、上記基礎絶縁被覆材料3の粘度も特に限定されることはなく、たとえば、30℃において、10P〜200Pのものを採用できる。
【0048】
本実施形態では、上記基礎絶縁被覆層4が形成されたコイル形成用線材1に対して付加絶縁被覆層7a〜7dを形成する付加絶縁被覆層形成工程が行われる。
【0049】
上記付加絶縁被覆層形成装置52は、液状の付加絶縁被覆材料17を、上記基礎絶縁被覆層4が形成されたコイル形成用線材1の角部に所定長さで塗着するディスペンサ5と、上記付加絶縁被覆層7a〜7dを硬化させる第2の加熱装置19とを備えて構成される。
【0050】
本実施形態に係る上記ディスペンサ5は、ニードルタイプのディスペンサが採用されており、先端に設けられた針状の吐出口6から、付加絶縁被覆材料17が上記コイル形成用線材1の表面に吐出される。本実施形態では、直径が0.5〜1.0mmの吐出口6から上記付加絶縁被覆材料17を吐出させるように構成している。
【0051】
上記ディスペンサ5の構成は特に限定されることはなく、種々の形態及び方式のディスペンサを採用できる。上記ディスペンサ5には、図示しない吐出制御装置が付属しており、所定量の付加絶縁被覆材料17を所定間隔(長さ)で吐出するように構成されている。また、上記吐出口6の先端を、上記コイル形成用線材1の表面から所定距離離間させて、付加絶縁被覆材料を吐出するように構成するのが好ましい。これにより、線材によじれや凹凸があっても、付加絶縁被覆材料17を均一に塗着させることができる。
【0052】
本実施形態に係るコイル形成用線材1は、断面矩形状を有しており、図5及び図6に示す形態のセグメントコイル10を構成するために用いられる。上記セグメントコイル10は、図示しないステータのコアに設けられたスロットに収容される直線部Aと、上記スロットから延出して所定の直線部Aを接続するコイルエンド部B,Bとを備えて構成されている。上記基礎絶縁被覆層4は、上記セグメントコイル10の全周に形成されている。一方、上記付加絶縁被覆層7a〜7dは、上記コイルエンド部B,Bの山形形状の斜辺部の所定領域に形成されている。
【0053】
上記ディスペンサ5は、上記付加絶縁被覆層7a〜7dに対応する長さ及び間隔で、矢印方向に送られるコイル形成用線材1に対して、付加絶縁被覆材料17を吐出するように制御されている。また、図2に示すように、上記ディスペンサ5a〜5dが、コイル形成材料の4つの角部に対向する4箇所の位置に設けられており、矢印方向に送られるコイル形成用線材1の4つの角部に、吐出口6a〜6dから付加絶縁被覆材料17を線状に吐出して、付加絶縁被覆層7a〜7dを一度に形成できるように構成されている。上記付加絶縁被覆層7a〜7dの軸方向長さは特に限定されることはない。図4(a)に示すようにコイルエンド部のほぼ全域に連続した付加絶縁被覆層7a〜7dを形成できる。また、図4(b)に示すように断続的に付加絶縁被覆材料を吐出させて、軸方向に断続的な付加絶縁被覆7a〜7dを形成することもできる。
【0054】
上記付加絶縁被覆層7を構成する付加絶縁被覆材料17として、上述した基礎絶縁被覆材料3より粘度が高いワニスを採用することができる。たとえば、絶縁電線の絶縁被覆層を形成する絶縁性樹脂を溶剤に溶解してなる10P以上の高粘度の樹脂ワニスを採用することができる。これにより、厚みの大きな付加絶縁被覆層7a〜7dを形成することができる。
【0055】
上記塗着工程の後に、第2の加熱装置19によって、塗膜硬化工程が行われる。上記塗膜硬化工程は、上記付加絶縁被覆材料17を構成する溶剤の沸点以下の温度から徐々に加熱して乾燥させ、最終的に300℃以上で1分以上加熱して塗膜を硬化させることにより行われる。
【0056】
本実施形態に係る付加絶縁被覆層7a〜7dには曲げ加工が施されないため、破断伸び率が小さい安価な絶縁性樹脂材料を採用することができる。たとえば、上記ポリイミド樹脂の他に、ポリエステルイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を採用することができる。
【0057】
図6及び図7に、上記付加絶縁被覆層7a〜7dを形成したセグメントコイルを、コアに組み付けた状態を模式的に示す。これらの図に示すように、コイルエンド部B,Bにおいて、異なるスロットに装着されるセグメントコイル同士10a,10bが所定位置において近接あるいは接触させられる。
【0058】
図7は、2つのセグメントコイル10a,10bの接触部位を模式的に表した断面図である。本実施形態では、矩形断面を有するセグメントコイル10aの角部に沿って線状の付加絶縁被覆層7a〜7dが形成されている。これにより、セグメントコイルの各辺の中間部に隙間Hが形成される。この隙間Hは、隣接して配置されるコイル同士が接触した場合にも確保される。
【0059】
上記隙間Hを設けることにより、絶縁被覆層自体の厚みが減少させられて、セグメントコイル自体の放熱性が高まる。また、上記隙間Hを介して放熱を促進することができる。さらに、上記隙間Hから冷媒流路を構成し、モータを冷却する冷媒を流動させることにより、放熱をさらに促進することができる。上記冷媒は特に限定されることはなく、空気や液状の冷媒を採用できる。上記隙間Hの形態や形成部位は特に限定されることはなく、付加絶縁被覆層の形態等に応じて種々の形態や大きさの隙間Hを形成することができる。
【0060】
上記付加絶縁被覆層の形態は特に限定されることはない。図8及び図9に、上記付加絶縁被覆層の他の実施形態を示す。この実施形態では、コイルエンド部の表面に略螺旋状の連続した付加絶縁被覆層7を設けている。
【0061】
上述した形態では、矩形顔面を備えるコイル形成用線材の角部等に、線状の付加絶縁被覆層を形成したが、線材の表面にある程度の面積を有する付加絶縁被覆層を形成することが要求される場合がある。このような場合には、複数のディスペンサから付加絶縁被覆材料を近接させて吐出し、これら塗膜を横方向に広げて一体に連続させるとともに、厚みを均一化する均一化工程を含ませることもできる。上記均一化工程は、種々の手法を用いて行うことができる。たとえば、付加絶縁被覆材料としてワニス等の熱硬化性樹脂を採用した場合、加熱すると一旦軟化した後に硬化させられる。このため、上記軟化する際に上記均一化工程が行われるように構成することができる。また、線材に振動等を与えて均一化を促進することもできる。
【0062】
上記均一化工程は、上記付加絶縁被覆材料17の粘度が25℃におけるその粘度の0.1〜0.7倍となる温度(通常のワニスの場合、40〜150℃)となるように、5秒以上10分以下となるように上記線材を加熱することにより行うことができる。この条件は、上述した基礎絶縁被覆層形成工程における加熱条件、及び後に行われる塗膜硬化工程における加熱条件よりもはるかに低い温度で、かつ短時間加熱することにより行われる。
【0063】
なお、本実施形態では、直線状のコイル形成用線材1に基礎絶縁被覆層4と付加絶縁被覆層7a〜7dを備えるセグメントコイル用絶縁被覆線材9を形成した後、この絶縁被覆線材9を所定長さに折断して曲げ加工を施し、各セグメントコイル10a〜10dを形成したが、曲げ加工を施した後に、基礎絶縁被覆層4と付加絶縁被覆層7a〜7dを形成することもできる。また、基礎絶縁被覆層4を形成した後に、曲げ加工を施し、その後に付加絶縁被覆層7a〜7dを形成することもできる。
【0064】
本実施形態においては、本願発明を、矩形断面を有する線材から形成されたセグメントコイルに適用したが、線材の断面形態やコイル形態は特に限定されることはなく、たとえば、連続した円形断面を備える線材から形成されたコイルに本願発明に係る絶縁被覆層を形成することができる。また、付加絶縁被覆層の形態や部位も実施の形態に限定されることはない。
【0065】
本願発明の範囲は、上述の実施形態に限定されることはない。今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものでないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
コイルエンド部において隣接するセグメントコイルの間に、塗膜によって隙間を形成し、放熱性を高めたセグメントコイルを提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
4 基礎絶縁被覆層
10 セグメントコイル
7a 付加絶縁被覆層
7b 付加絶縁被覆層
7c 付加絶縁被覆層
7d 付加絶縁被覆層
A 直線部
B コイルエンド部
H 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9