【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記セグメントコイルには、隣接するセグメントコイルとの間や、コアとの間の絶縁を行うための絶縁被覆層が設けられている。上記絶縁被覆層は、上記各部材間において部分放電が生じないように構成する必要がある。上記部分放電は、電圧差が大きくなる部分において生じやすい。たとえば、3相交流電動機のステータにセグメントコイルを採用した場合、異なる相に属するセグメントコイル間における電圧差が最も大きくなる。したがって、異なる相に属するセグメントコイルが近接あるいは接触する部分、すなわち上記スロットから延出するコイルエンド部において部分放電が生じやすい。
【0007】
一方、同じ相に属するセグメントコイル間や、コアとセグメントコイルとの間の電圧差は、異なる相に属するセグメントコイル間の電圧差より小さい。
【0008】
従来のセグメントコイルにおいては、異なる相に属するセグメントコイル間の電圧差に対応できる絶縁被覆層を、セグメントコイルの全域に設けることにより、部分放電を防止するように構成されていた。
【0009】
ところが、同じ層に属するセグメントコイルが接触等する部位や、コアとセグメントコイルとが接触等する部位においては、大きな電圧差に対応できる厚みの大きな絶縁被覆層を設ける必要はない。このため、従来のセグメントコイルは、スロット内の占積率が低下するばかりでなく、絶縁被覆層を構成する絶縁被覆材料や絶縁被覆層を形成する工程が増加して製造コストが増加し、さらに、厚みの大きな絶縁被覆層によって放熱性が低下して電動機の出力や上記絶縁被覆層の性能を低下させる恐れもあった。
【0010】
占積率や放熱線を高めるため、比誘電率が低く絶縁性能が高い高価な絶縁材料を用いて、セグメントコイルの全体に、厚みの小さい絶縁被覆層を形成することも考えられるが、製造コストの増加につながることになる。
【0011】
本願発明は、上記従来の問題を解決し、コイルエンド部において隣接するセグメントコイルとの間に、塗膜によって隙間を形成し、放熱性を高めたセグメントコイルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に記載した発明は、ステータのコアに設けられたスロットに収容される直線部と
、一対の斜辺部を含む山形形状を有し上記スロットから延出して上記直線部を接続するコイルエンド部とを備えるセグメントコイルであって、セグメントコイルの全周に設けられる基礎絶縁被覆層と、上記コイルエンド部の表面の一部に設けられるとともに、隣接して配置されるセグメントコイルとの間に隙間を形成する付加絶縁被覆層とを備え
、上記付加絶縁被覆層は、上記一対の斜辺部のうち一方のみの表面の一部に設けられている。
【0013】
上記基礎絶縁被覆層は、同相のコイル間や、コイルとコアとの間に部分放電が生じないように厚み等が設定される。このため、厚みの小さい絶縁被覆層を形成すれば足りる。上記基礎絶縁被覆層は、従来の既知の種々の手法によって形成することができる。
【0014】
たとえば、セグメントコイルを形成するコイル形成用線材を、基礎絶縁被覆材料を収容した槽内に通し、上記コイル形成用線材の表面に基礎絶縁被覆材料を付着させた後、加熱装置によって上記基礎絶縁被覆層を硬化させるように構成することができる。上記基礎絶縁被覆材料は特に限定されることはなく、従来の絶縁被覆層を形成できる樹脂材料を採用できる。たとえば、ポリイミドやポリアミドイミド等を含んだワニスや、アルミナやシリカ等の無機フィラーを樹脂に含んだワニスを採用できる。
【0015】
本願発明では、付加絶縁被覆層を形成するため、従来の絶縁被覆層に比べて基礎絶縁被覆層の厚みを小さく設定することができるばかりでなく、基礎絶縁被覆層の厚みに多少のばらつきがあっても、付加絶縁被覆層によって補完し、所要の絶縁性を確保することができる。
【0016】
上記基礎絶縁被覆層の厚みも特に限定されることはなく、たとえば、厚みが5μm〜50μmの上記基礎絶縁被覆を形成できる。
【0017】
一方、上記付加絶縁被覆層は、上記コイルエンド部の表面の一部に、隣接して配置されるセグメントコイルとの間に隙間を形成できように構成される。たとえば、30〜150μmの厚みの付加絶縁被覆層を形成するのが好ましい。
【0018】
上記付加絶縁被覆層の形成部位あるいは塗着パターンは特に限定されることはなく、セグメントコイルのコイル表面の所定部位に線状又は点状に形成することができる。付加絶縁被覆層を線状又点状に形成することにより、複数の付加絶縁被覆層が離間して設けられる。このため、コイル表面に形成された付加絶縁被覆層の間に隙間が形成される。また、隣接するセグメントコイルに対しても、上記隙間が確保される。このため、上記隙間を介して放熱が促進される。さらに、上記隙間にモータを冷却する冷媒を流動させることにより、放熱をさらに促進することができる。上記冷媒は特に限定されることはなく、空気や液状の冷媒を採用できる。
【0019】
対象となるコイル形成用線材の種類や形態は特に限定されることはない。たとえば、矩形断面を有する平角線に本願発明を適用できる。特に、平角線を採用してセグメントコイルを形成する場合、平角線の角部が隣接するセグメントコイルと近接あるいは接触させられることが多い。このため、平角線の少なくとも角部に付加絶縁被覆層を形成するのが好ましい。また、平角線の角部に付加絶縁被覆層を形成することにより、隣接するセグメントコイルがどのように配列されても、上記隙間を確保することができる。さらに、セグメントコイルの周囲に螺旋状に付加絶縁被覆を形成することもできる。
【0020】
また、コイルエンド部において、異なる層に属するセグメントコイルが近接あるいは接触する部分に、選択的に付加絶縁被覆層を設けることもできる。これにより、部分放電が生じやすい部分に所要の隙間を確保できる。このため、占積率を低下させることなく、部分放電を効果的に防止できるセグメントコイルを形成することが可能となる。また、隣接するセグメントコイル間に隙間が形成されるため、コイルの放熱を促進することができる。さらに、付加絶縁被覆層を形成するための材料も少なくなるため、製造コストを低減させることもできる。
【0021】
上記付加絶縁被覆層は、軸方向に連続的に設けることもできるし断続的に設けることもできる。上記付加絶縁被覆層は、隣接するセグメントコイルが近接あるいは接触する部分に設ければ足りる。このため、付加絶縁被覆層を断続的に形成して、上記隙間が形成される領域を増加させるのが好ましい。一方、上記付加絶縁被覆層によって、隣接するセグメントコイル間の隙間が確保されるため、隣接するセグメントコイル間の絶縁性が確保される。なお、隣接するセグメントコイル間において所要の隙間が形成できれば、付加絶縁被覆層同士を接触させるように構成することもできるし、付加絶縁被覆層と基礎絶縁被覆層とを接触あるいは近接させるように構成することもできる。
【0022】
上記付加絶縁被覆層を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、ディスペンサの吐出口から粘度の高い液状の付加絶縁被覆材料を吐出させて、コイル形成用線材の表面の所定部位に線状又は点状に塗着し、その後、塗着された上記付加絶縁被覆材料を硬化させることにより厚みの大きな付加絶縁被覆層を形成することができる。
【0023】
ディスペンサの吐出口から付加絶縁被覆材料を吐出させることにより所要の部位に所要の厚みの絶縁被覆層を形成することができる。また、付加絶縁被覆材料の塗着率を高めることができるため、付加絶縁被覆材料の無駄がなくなり、製造コストを低減させることができる。さらに、吐出される上記付加絶縁被覆材料の粘度や吐出量等を調節することにより、コイル形成用線材の表面に精度高く、線状又は点状の塗膜を形成することができる。
【0024】
上記塗膜硬化工程を行う手法も特に限定されることはない。ヒータ等の加熱手段によって塗膜硬化工程を行うことができる。加熱手段を採用する場合、温風や輻射熱を利用することができる。また、電子線や紫外線を利用したものを採用することもできる。上記加熱手段は、ディスペンサから付加絶縁被覆材料が吐出された直後に作用するように構成することもできるし、所定の時間が経過した後に作用するように構成することもできる。
【0025】
上記ディスペンサとして種々の方式のものを採用することができる。ディスペンサは、液体定量吐出装置と呼ばれるものであり、種々の手法を用いて所要の液体を吐出できるように構成される。たとえば、エアパルス等によって液体材料を押し出すシリンダ方式、モータ駆動で液体を押し出す容量計量方式、チューブをしごいてチューブ内の液体を吐出させるチュービング方式、液体を空気圧等によって飛ばす非接触方式等を採用したものを採用することができる。
【0026】
液状の付加絶縁被覆材料を線状又は点状に吐出できるものであれば、吐出口の形態も特に限定されることはない。たとえば、種々の形式のノズルやニードル形態の吐出口を備えて構成されたものを採用することができる。
【0027】
上記吐出口の口径も特に限定されることはない。たとえば、直径が0.5〜1.0mmの上記吐出口から上記付加絶縁被覆材料を吐出させて、上記塗着工程を行うことができる。また、吐出される塗膜の厚みも特に限定されることはなく、30〜150μmの厚みの付加絶縁被覆層を形成できる。これにより、隣接するコイル間に上記付加絶縁被覆層の厚みに対応した隙間を形成することができる。
【0028】
本願発明では、上記ディスペンサから付加絶縁被覆材料を線材の表面に線状又は点状に塗着する。上記線状又は点状に塗着された付加絶縁被覆材料を、吐出した形態のまま硬化させることができる。複数のディスペンサから付加絶縁被覆材料を吐出する場合、各ディスペンサから吐出された各塗膜が離間した状態で硬化させることができる。たとえば、上記ディスペンサの吐出口近傍を赤外線で照射しながら塗着工程を行うことにより、厚みの大きな付加絶縁被覆層を形成できる。
【0029】
一方、線材の外周面の所定領域に一定の面積を有する均一な厚みの塗膜が要求される場合もある。このような場合、所定間隔で付加絶縁被覆材料を塗着するとともに、隣接して塗着された塗膜を一体に連続させて膜厚を均一化する均一化工程を含むように構成することができる。
【0030】
線状又は点状の塗膜を近接させて形成するとともに、隣接する塗膜を側方に流動させて一体化させることができる。また、上記塗膜の粘度や塗膜硬化工程における加熱温度や時間等を調節することにより、一体化させられた塗膜の厚みを均一化することができる。また、線材の一部のある程度広い領域に、厚みが大きくかつ均一な絶縁被覆層を形成することも可能となる。
【0031】
上記均一化工程は、種々の手法を用いて行うことができる。たとえば、付加絶縁被覆材料としてワニス等の熱硬化性樹脂を採用した場合、加熱すると一旦軟化した後に硬化させられる。このため、上記軟化する際に上記均一化工程が行われるように構成することができる。また、線材に振動等を与えて均一化を促進することもできる。
【0032】
また、本願発明に付加絶縁被覆層は、曲げ加工を行う前のコイル形成用線材に対して形成することもできるし、曲げ加工したコイル形成用線材に対して形成することもできる。
【0033】
上記塗着工程において、上記ディスペンサの吐出口を、上記線材の表面から離間させて上記付加絶縁被覆材料を吐出させるように構成するのが好ましい。これにより、線材のよじれ等による凹凸や曲がりが存在しても、均一な付加絶縁被覆層を形成することができる。たとえば、吐出口を、線材表面から0.1〜5.0mm離間させて塗着工程を行うのが好ましい。
【0034】
上記付加絶縁被覆材料も特に限定されることはなく、たとえば、絶縁電線の絶縁被覆層を形成する絶縁性樹脂を溶剤に溶解してなる10P以上の高粘度の樹脂ワニスを採用することができる。これにより、厚みの大きな付加絶縁被覆層を形成することができる。
【0035】
なお、上記ワニスに対して上記均一化工程を行う場合、その粘度が25℃における粘度の0.1〜0.7倍となる温度に5秒以上、10分以下加熱するのが好ましい。
【0036】
本願発明に係るセグメントコイルの製造装置は、付加絶縁被覆材料を上記線材表面の所定部位に線状又は点状に塗着するディスペンサと、上記線材表面に塗着された塗膜を硬化させる硬化装置とを備えて構成できる。
【0037】
また、本願発明に係るセグメントコイルの製造装置を、線材の表面の全体に基礎絶縁被覆層を形成する基礎絶縁被覆層形成装置と、上記基礎絶縁被覆層の表面の所定部位に上記塗膜を形成する付加絶縁被覆層形成装置とを連続して設けることにより構成することもできる。
【0038】
矩形断面を備える線材を採用する場合、上記ディスペンサは、少なくとも上記線材の角部表面に付加絶縁被覆材料を塗着するように構成することができる。