特許第6042263号(P6042263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042263
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】エンジンの燃焼室のガスシール装置
(51)【国際特許分類】
   F02F 5/00 20060101AFI20161206BHJP
   F16J 9/14 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F02F5/00 K
   F16J9/14
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-101725(P2013-101725)
(22)【出願日】2013年5月13日
(65)【公開番号】特開2014-222039(P2014-222039A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 学
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 直也
(72)【発明者】
【氏名】小山 秀行
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 貴人
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭44−006645(JP,B1)
【文献】 特開昭62−251457(JP,A)
【文献】 実開昭63−141358(JP,U)
【文献】 実開平05−030624(JP,U)
【文献】 実開昭62−152053(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F16J 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(1)内にピストン(2)が内嵌され、ピストン(2)の圧力リング溝(3)に圧力リング(4)が内嵌された、エンジンの燃焼室のガスシール装置において、
圧力リング(4)の合口隙間(5)に臨む圧力リング端部(6)にガス案内凹部(7)が形成され、このガス案内凹部(7)は、圧力リング端部(6)のピストン上死点側に凹設され、その内底に合口隙間(5)に近づくにつれてピストン上死点側に近づくガス案内面(8)を備え、このガス案内面(8)の合口隙間(5)側のガス案内終端縁(9)に角部(10)が形成され、
ガス案内凹部(7)は、圧力リング(4)のピストン上死点側で圧力リング端部(6)にのみ形成され、ピストン径方向を圧力リング端部(6)の幅方向として、ガス案内凹部(7)と角部(10)は、圧力リング端部(6)の幅方向全域に亘って形成され、ガス案内凹部(7)の内底は、ガス案内面(8)とこのガス案内面(8)よりも合口隙間(5)から離れたガス助走面(35)とで、これらの境界(38)に向かって先窄まりするV字形に形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエンジンの燃焼室のガスシール装置において、
トップリング(11)にガス案内凹部(7)が形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたエンジンの燃焼室のガスシール装置において、
ガス案内凹部(7)が、合口隙間(5)を挟んで対向する一対の圧力リング端部(6)(6)にそれぞれ形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたエンジンの燃焼室のガスシール装置において、
合口隙間(5)がシリンダ中心軸線(12)に沿う向きに形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載されたエンジンの燃焼室のガスシール装置において、
圧力リング端部(6)のピストン上死点側面(13)とガス案内面(8)との綾線で、ガス案内終端縁(9)に角部(10)が形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載されたエンジンの燃焼室のガスシール装置において、
圧力リング(4)の合口隙間(5)に臨む圧力リング端部(6)に後退部(14)が形成され、この後退部(14)は、圧力リング端面(15)のピストン下死点側部分が合口隙間(5)から圧力リング(4)の周方向に後退した後退面(17)を備え、圧力リング端面(15)のピストン上死点側部分(18)と後退面(17)との境界に角部(19)が形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【請求項7】
請求項6に記載されたエンジンの燃焼室のガスシール装置において、
後退面(17)がピストン下死点側に近づくにつれて後退する斜面(20)で形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【請求項8】
請求項6に記載されたエンジンの燃焼室のガスシール装置において、
後退面(17)が凹入屈曲面(21)で形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃焼室のガスシール装置に関し、詳しくは、圧力リングの合口隙間の幅を狭めることなくガスシール性を高めることができる、エンジンの燃焼室のガスシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの燃焼室のガスシール装置として、シリンダ内にピストンが内嵌され、ピストンの圧力リング溝に圧力リングが内嵌されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種のガスシール装置によれば、燃焼室で発生した燃焼ガスが圧力リングでシールされ、燃焼室からクランク室へのブローバイガスの漏れを抑制することができる利点がある。
【0004】
しかし、この従来技術では、圧力リングの熱膨張による伸びを考慮して合口隙間が形成されているが、ガスシール性を高めるには、圧力リングの合口隙間の幅を狭めるしか手段がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−88856号公報(第1図、第2図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
《問題点》 ガスシール性の改善が限界に至っている。
ガスシール性を高めるには、圧力リングの合口隙間の幅を狭めるしか手段がなかったため、ガスシール性の改善が限界に至っている。
【0007】
本発明の発明者らは、研究の結果、圧力リングの合口隙間に臨む圧力リング端部に凹部や後退部を形成することにより、圧力リングの合口隙間の幅を狭めることなくガスシール性を高めることができることを発見し、この発明に至った。
【0008】
本発明の課題は、圧力リングの合口隙間の幅を狭めることなくガスシール性を高めることができる、エンジンの燃焼室のガスシール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明の発明特定事項は、次の通りである。
図1(A)に例示するように、シリンダ(1)内にピストン(2)が内嵌され、ピストン(2)の圧力リング溝(3)に圧力リング(4)が内嵌された、エンジンの燃焼室のガスシール装置において、
図1(C)(D)または図4(A)(B)に例示するように、圧力リング(4)の合口隙間(5)に臨む圧力リング端部(6)にガス案内凹部(7)が形成され、このガス案内凹部(7)は、圧力リング端部(6)のピストン上死点側に凹設され、その内底に合口隙間(5)に近づくにつれてピストン上死点側に近づくガス案内面(8)を備え、このガス案内面(8)の合口隙間(5)側のガス案内終端縁(9)に角部(10)が形成され、
ガス案内凹部(7)は、圧力リング(4)のピストン上死点側で圧力リング端部(6)にのみ形成され、ピストン径方向を圧力リング端部(6)の幅方向として、ガス案内凹部(7)と角部(10)は、圧力リング端部(6)の幅方向全域に亘って形成され、ガス案内凹部(7)の内底は、ガス案内面(8)とこのガス案内面(8)よりも合口隙間(5)から離れたガス助走面(35)とで、これらの境界(38)に向かって先窄まりするV字形に形成されている、ことを特徴とするエンジンの燃焼室のガスシール装置。
【0010】
【発明の効果】
【0011】
(請求項1に係る発明)
請求項1に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果》 圧力リングの合口隙間の幅を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
図1(C)(D)または図4(A)(B)に例示するように、圧力リング(4)の合口隙間(5)に臨む圧力リング端部(6)にガス案内凹部(7)が形成され、このガス案内凹部(7)は、圧力リング端部(6)のピストン上死点側に凹設され、その内底に合口隙間(5)に近づくにつれてピストン上死点側に近づくガス案内面(8)を備え、このガス案内面(8)の合口隙間(5)側のガス案内終端縁(9)に角部(10)が形成されているので、圧力リング(4)の合口隙間(5)の幅(L)を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
その理由は、次のようなものと推定される。
燃焼室(25)の燃焼ガス(26)がガス案内凹部(7)のガス案内面(8)で案内され、ガス案内終端縁(9)の角部(10)でガス案内面(8)から剥離する際、角部(10)の下流側で乱流(27)が発生し、この乱流(27)が燃焼室(25)から合口隙間(5)に流入するブローバイガス(28)の流入抵抗となり、圧力リング(4)の合口隙間(5)の幅(L)を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
【0012】
《効果》 ブローバイガスの発生量を減少させることができる。
図1(C)(D)または図4(A)(B)に例示するように、ガスシール性を高めることができるため、ブローバイガス(28)の発生量を減少させることができる。
このため、ブローバイガス(28)によるエンジンオイルの劣化が抑制され、オイル交換のインターバルが長くなる、ブローバイガス(28)に起因する錆の発生が抑制される、寒冷時のブローバイガス通路の凍結が抑制される等の具体的な効果が得られる。
【0013】
《効果》 合口隙間の寸法管理を厳格にする必要がない。
図1(C)(D)または図4(A)(B)に例示するように、合口隙間(5)の幅(L)を狭める必要がないため、合口隙間(5)の寸法管理を厳格にする必要がない。
【0014】
《効果》 ガス案内凹部の形成で圧力リングの製造が繁雑になるおそれはない。
図1(C)(D)または図4(A)(B)に例示するように、ガス案内凹部(7)は、圧力リング端部(6)のピストン上死点側に凹設されているものであるため、プレス加工等により簡単に形成することができ、ガス案内凹部(7)の形成で圧力リング(4)の製造が繁雑になるおそれはない。
【0015】
(請求項2に係る発明)
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 ガスシール性を高める機能が高い。
図1(C)(D)または図4(A)(B)に例示するように、トップリング(11)にガス案内凹部(7)が形成されているので、ガスシール性を高める機能が高い。
その理由は、次のようなものと推定される。
トップリング(11)のガス案内凹部(7)ではガス案内面(8)で案内される燃焼ガス(26)の流速が速く、角部(10)の下流側で強い乱流(27)が発生し、この強い乱流(27)が燃焼室(25)から合口隙間(5)に流入するブローバイガス(28)の強い流入抵抗となるため、ガスシール性を高める機能が高い。
【0016】
(請求項3に係る発明)
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 ガスシール性を高める機能が高い。
図1(C)(D)または図4(A)(B)に例示するように、ガス案内凹部(7)が、合口隙間(5)を挟んで対向する一対の圧力リング端部(6)(6)にそれぞれ形成されているので、ガスシール性を高める機能が高い。
その理由は、次のようなものと推定される。
燃焼室(25)から合口隙間(5)に流入するブローバイガス(28)の両脇で乱流(27)が発生し、この乱流(27)でブローバイガス(28)が両脇から挟み込まれ、この乱流(27)が燃焼室(25)から合口隙間(5)に流入するブローバイガス(28)の強い流入抵抗となるため、ガスシール性を高める機能が高い。
【0017】
(請求項4に係る発明)
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 圧力リングの製造が容易になる。
図1(C)または図4(A)(B)に例示するように、合口隙間(5)がシリンダ中心軸線(12)に沿う向きに形成されているので、合口隙間(5)の寸法管理が容易で、圧力リング(4)の製造が容易になる。
【0018】
(請求項5に係る発明)
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 角部の形成で圧力リングの製造が煩雑になるおそれはない。
図1(C)(D)または図4(A)(B)に例示するように、圧力リング端部(6)のピストン上死点側面(13)とガス案内面(8)との綾線で、ガス案内終端縁(9)に角部(10)が形成されているので、プレス加工等により圧力リング端部(6)のピストン上死点側にガス案内凹部(7)を形成するだけで、自然に角部(10)が形成され、角部(10)の形成で圧力リング(4)の製造が煩雑になるおそれはない。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
(請求項6に係る発明)
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれかの発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 圧力リングの合口隙間の幅を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
図4(A)(B)に例示するように、圧力リング(4)の合口隙間(5)に臨む圧力リング端部(6)に後退部(14)が形成され、この後退部(14)は、圧力リング端面(15)のピストン下死点側部分が合口隙間(5)から圧力リング(4)の周方向に後退した後退面(17)を備え、圧力リング端面(15)のピストン上死点側部分(18)と後退面(17)との境界に角部(19)が形成されているので、圧力リング(4)の合口隙間(5)の幅(L)を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
その理由は、次のようなものと推定される。
ブローバイガス(28)が圧力リング端面(15)のピストン上死点側部分(18)で案内され、角部(19)でピストン上死点側部分(18)から剥離する際、角部(19)の下流側で乱流(27)が発生し、この乱流(27)が合口隙間(5)からクランク室に流出しようとするブローバイガス(28)の流出抵抗となるため、圧力リング(4)の合口隙間(5)の幅(L)を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
【0029】
《効果》 後退部の形成で圧力リングの製造が繁雑になるおそれはない。
図4(A)(B)に例示するように、後退部(14)が圧力リング端部(6)のピストン下死点側部分を後退させたものであるため、プレス加工等により簡単に形成することができ、後退部(14)の形成で圧力リング(4)の製造が繁雑になるおそれはない。
(請求項7に係る発明)
請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 後退面の形成で圧力リングの製造が煩雑になるおそれはない。
図4(A)に例示するように、後退面(17)がピストン下死点側に近づくにつれて後退する斜面(20)で形成されているので、プレス加工等により簡単に形成することができ、後退面(17)の形成で圧力リング(4)の製造が煩雑になるおそれはない。
(請求項8に係る発明)
請求項8に係る発明は、請求項6に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 後退面の形成で圧力リングの製造が煩雑になるおそれはない。
図4(B)に例示するように、後退面(17)がピストン下死点側に近づくにつれて後退する凹入屈曲面(21)で形成されているので、プレス加工等により簡単に形成することができ、後退面(17)の形成で圧力リング(4)の製造が煩雑になるおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンの燃焼室のガスシール装置を説明する図で、図1(A)はピストンとその周辺部分の模式図、図1(B)は図1(A)のB−B線断面図、図1(C)は図1(A)のC矢視部分の拡大図、図1(D)は図1(C)のD−D線断面図である。
図2】本発明の第1参考形態に係るエンジンの燃焼室のガスシール装置を説明する図で、図2(A)は図1(C)相当図、図2(B)は図2(A)のB−B線断面図である。
図3】本発明の第2参考形態に係るエンジンの燃焼室のガスシール装置を説明する図で、図3(A)は図1(C)相当図、図3(B)は図3(A)のB−B線断面図である。
図4図4(A)は本発明の第2実施形態に係るエンジンの燃焼室のガスシール装置の図1(C)相当図、図4(B)は本発明の第3実施形態に係るエンジンの燃焼室のガスシール装置の図1(C)相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1図4は本発明の第1〜第3実施形態及び第1〜第2参考形態に係るエンジンの燃焼室のガスシール装置を説明する図であり、各実施形態と各参考形態では、立形ディーゼルエンジンの燃焼室のガスシール装置について説明する。
【0032】
図1に示す第1実施形態の構成は、次の通りである。
図1(A)に示すように、シリンダ(1)内にピストン(2)が内嵌され、ピストン(2)の圧力リング溝(3)に圧力リング(4)が内嵌されている。
シリンダ(1)の上部にはシリンダヘッド(37)が組み付けられ、シリンダ(1)内にシリンダヘッド(37)とピストン(2)に挟まれた燃焼室(25)が形成されている。燃焼室(25)には燃料インジェクタ(38)と吸気バルブ(39)と排気バルブ(40)とが臨んでいる。
ピストン(2)には、コンロッド(30)を介してクランク軸(31)が連動連結されている。
ピストン(2)には2本の圧力リング溝(3)(3)と一本のオイルリング溝(32)とが設けられている。
圧力リング(4)はトップリング(11)とセカンドリング(33)とで構成されている。トップリング(11)は最も上死点側の圧力リング溝(3)に内嵌され、セカンドリング(33)はその下方の圧力リング溝(3)に内嵌されている。オイルリング溝(32)にはオイルリング(34)が内嵌されている。
【0033】
図1(C)(D)に示すように、圧力リング(4)の合口隙間(5)に臨む圧力リング端部(6)にガス案内凹部(7)が形成され、このガス案内凹部(7)は、圧力リング端部(6)のピストン上死点側に凹設され、その内底に合口隙間(5)に近づくにつれてピストン上死点側に近づくガス案内面(8)を備え、このガス案内面(8)の合口隙間(5)側のガス案内終端縁(9)に角部(10)が形成されている。
ガス案内凹部(7)の内底は、ガス案内面(8)と、このガス案内面(8)よりも合口隙間(5)から離れたガス助走面(35)とで、V字形に形成され、ガス助走面(35)はガス案内面(8)に近づくにつれてピストン下死点側に近づくように傾斜され、ガス助走面(35)の助走終端縁とガス案内面(8)のガス案内始端縁との境界(36)がガス案内凹部(7)の内底の谷底となっている。燃焼室(25)内の燃焼ガス(26)はガス助走面(35)に沿って助走した後、ガス案内面(8)で角部(10)に案内される。
詳しくは、図1(C)(D)に示すように、ガス案内凹部(7)は、圧力リング(4)のピストン上死点側で圧力リング端部(6)にのみ形成され、ピストン径方向を圧力リング端部(6)の幅方向として、ガス案内凹部(7)と角部(10)は、圧力リング端部(6)の幅方向全域に亘って形成され、ガス案内凹部(7)の内底は、ガス案内面(8)とこのガス案内面(8)よりも合口隙間(5)から離れたガス助走面(35)とで、これらの境界(38)に向かって先窄まりするV字形に形成されている。
【0034】
図1(A)に示すように、トップリング(11)にガス案内凹部(7)が形成されている。
図1(C)(D)に示すように、ガス案内凹部(7)が、合口隙間(5)を挟んで対向する一対の圧力リング端部(6)(6)にそれぞれ形成されている。
図1(C)に示すように、合口隙間(5)がシリンダ中心軸線(12)に沿う向きに形成されている。
図1(C)(D)に示すように、圧力リング端部(6)のピストン上死点側面(13)とガス案内面(8)との綾線で、ガス案内終端縁(9)に角部(10)が形成されている。
ガス案内凹部(7)は、トップリング(11)だけでなく、セカンドリング(33)やオイルリング(34)に形成してもよい。
【0035】
次に、図2(A)(B)に示す第1参考形態について説明する。
第1参考形態は、第1実施形態のピストン上死点のガス案内凹部(7)に代えて、ピストン下死点側の後退部(14)を用いている。
図2(A)(B)に示すように、圧力リング(4)の合口隙間(5)に臨む圧力リング端部(6)に後退部(14)が形成され、この後退部(14)は、圧力リング端面(15)のピストン下死点側部分が合口隙間(5)から圧力リング(4)の周方向に後退した後退面(17)を備え、圧力リング端面(15)のピストン上死点側部分(18)と後退面(17)との境界に角部(19)が形成されている。
【0036】
図2(A)(B)に示すように、トップリング(11)に後退部(14)が形成されている。
図2(A)(B)に示すように、後退部(14)が、合口隙間(5)を挟んで対向する一対の圧力リング端部(6)(6)にそれぞれ形成されている。
図2(A)に示すように、合口隙間(5)がシリンダ中心軸線(12)に沿う向きに形成されている。
図2(A)(B)に示すように、後退面(17)がピストン下死点側に近づくにつれて後退する斜面(20)で形成されている。
後退部(14)は、トップリング(11)だけでなく、セカンドリング(33)やオイルリング(34)に形成してもよい。
他の構成は、第1実施形態と同じであり、図2(A)(B)中、第1実施形態と同一の要素には図1(C)(D)と同一の符号を付しておく。
【0037】
次に、図3(A)(B)に示す第2参考形態について説明する。
第2参考形態は、第1参考形態の後退面(17)を、斜面(20)に代えて、屈曲面(21)で形成したものである。
他の構成は、第1参考形態と同じであり、図3(A)(B)中、第1参考形態と同一の要素には図2(A)(B)と同一の符号を付しておく。
【0038】
第2実施形態と第3実施形態は、第1実施形態に第1参考形態または第2参考形態の後退部(14)を追加したものである。
図4(A)に示す第2実施形態は、第1実施形態に第1参考形態の斜面(20)を追加したものであり、図4(B)に示す第3実施形態は、第1実施形態に第2参考形態の凹入屈曲面(21)を追加したものである。
後退部(14)は、トップリング(11)だけでなく、セカンドリング(33)やオイルリング(34)に形成してもよい。
他の構成は、第1実施形態、第1参考形態、第2参考形態と同一であり、図4(A)(B)中、第1実施形態、第1参考形態、第2参考形態と同一の要素には、図1(C)(D)、図2(A)(B)、図3(A)(B)と同一の符号を付しておく。
【0039】
(第1,第2参考形態の発明に共通の機能)
《機能》 圧力リングの合口隙間の幅を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
図2(A)(B)または図3(A)(B)に示すように、圧力リング(4)の合口隙間(5)に臨む圧力リング端部(6)に後退部(14)が形成され、この後退部(14)は、圧力リング端面(15)のピストン下死点側部分が合口隙間(5)から圧力リング(4)の周方向に後退した後退面(17)を備え、圧力リング端面(15)のピストン上死点側部分(18)と後退面(17)との境界に角部(19)が形成されているので、圧力リング(4)の合口隙間(5)の幅(L)を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
その理由は、次のようなものと推定される。
合口隙間(5)を通過するブローバイガス(28)が圧力リング端面(15)のピストン上死点側部分(18)で案内され、角部(19)でピストン上死点側部分(18)から剥離する際、角部(19)の下流側の後退部(14)で乱流(27)が発生し、この乱流(27)が合口隙間(5)からクランク室に流出するブローバイガス(28)の流出抵抗となるため、圧力リング(4)の合口隙間(5)の幅(L)を狭めることなくガスシール性を高めることができる。
【0040】
《機能》 ブローバイガスの発生量を減少させることができる。
図2(A)(B)または図3(A)(B)に示すように、ガスシール性を高めることができるため、ブローバイガス(28)の発生量を減少させることができる。
このため、ブローバイガス(28)によるエンジンオイルの劣化が抑制され、オイル交換のインターバルが長くなる、ブローバイガス(28)に起因する錆の発生が抑制される、寒冷時のブローバイガス通路の凍結が抑制される等の具体的な機能が得られる
【0041】
《機能》 合口隙間の寸法管理を厳格にする必要がない。
図2(A)(B)または図3(A)(B)に示すように、合口隙間(5)の幅(L)を狭める必要がないため、合口隙間(5)の寸法管理を厳格にする必要がない。
【0042】
《機能》 後退部の形成で圧力リングの製造が繁雑になるおそれはない。
図2(A)(B)または図3(A)(B)に示すように、後退部(14)が圧力リング端部(6)のピストン下死点側部分を後退させたものであるため、プレス加工等により簡単に形成することができ、後退部(14)の形成で圧力リング(4)の製造が繁雑になるおそれはない。
【0043】
《機能》 ガスシール性を高める機能が高い。
図2(A)(B)または図3(A)(B)に示すように、トップリング(11)に後退部(14)が形成されているので、ガスシール性を高める機能が高い。
その理由は、次のようなものと推定される。
トップリング(11)では圧力リング端面(15)のピストン上死点側部分(18)で案内されるブローバイガス(28)の流速が速く、角部(19)の下流側の後退部(14)で強い乱流(27)が発生し、この強い乱流(27)が合口隙間(5)からクランク室に流出するブローバイガス(28)の強い流出抵抗となるため、ガスシール性を高める機能が高い。
【0044】
《機能》 ガスシール性を高める機能が高い。
図2(A)(B)または図3(A)(B)に示すように、後退部(14)が、合口隙間(5)を挟んで対向する一対の圧力リング端部(6)(6)にそれぞれ形成されているので、ガスシール性を高める機能が高い。
その理由は、次のようなものと推定される。
合口隙間(5)からクランク室に流出しようとするブローバイガス(28)の両脇で乱流(27)が発生し、乱流(27)でブローバイガス(28)が両脇から挟み込まれ、この乱流(27)が合口隙間(5)からクランク室に流出するブローバイガス(28)の強い流出抵抗となるため、ガスシール性を高める機能が高い。
【0045】
《機能》 圧力リングの製造が容易になる。
図2(A)または図3(A)(B)に示すように、合口隙間(5)がシリンダ中心軸線(12)に沿う向きに形成されているので、合口隙間(5)の寸法管理が容易で、圧力リング(4)の製造が容易になる。
【0046】
(第1参考形態の発明に固有の機能)
第1,第2参考形態の発明のうち、第1参考形態の発明に固有の機能は、次の通りである。
《機能》 後退面の形成で圧力リングの製造が煩雑になるおそれはない。
図2(A)(B)に示すように、後退面(17)がピストン下死点側に近づくにつれて後退する斜面(20)で形成されているので、プレス加工等により簡単に形成することができ、後退面(17)の形成で圧力リング(4)の製造が煩雑になるおそれはない。
【0047】
(第2参考形態の発明に固有の機能)
第1,第2参考形態の発明のうち、第2参考形態の発明に固有の機能は、次の通りである。
《機能》 後退面の形成で圧力リングの製造が煩雑になるおそれはない。
図3(A)(B)に示すように、後退面(17)が凹入屈曲面(21)で形成されているので、プレス加工等により簡単に形成することができ、後退面(17)の形成で圧力リング(4)の製造が繁雑になることはない。
【符号の説明】
【0048】
(1) シリンダ
(2) ピストン
(3) 圧力リング溝
(4) 圧力リング
(5) 合口隙間
(6) 圧力リング端部
(7) ガス案内凹部
(8) ガス案内面
(9) ガス案内終端縁
(10) 角部
(11) トップリング
(12) シリンダ中心軸線
(13) ピストン上死点側面
(14) 後退部
(15) 圧力リング端面
(17) 後退面
(18) ピストン上死点側部分
(19) 角部
(20) 斜面
(21) 凹入屈曲面
図1
図2
図3
図4