特許第6042273号(P6042273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042273SiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042273
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】SiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20161206BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C04B41/87 V
   C23C16/42
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-133431(P2013-133431)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-6967(P2015-6967A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2015年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】中島 祐治
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 信吾
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−254486(JP,A)
【文献】 特開平07−069760(JP,A)
【文献】 特開平08−026862(JP,A)
【文献】 特開平10−236892(JP,A)
【文献】 特開2005−281085(JP,A)
【文献】 特開2001−220124(JP,A)
【文献】 特開平08−217576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C/Cコンポジット基材の表面に、加熱下で、SiC被膜を直接形成することによって作製され、一旦室温まで冷却されることによりクラック状の隙間が生じたSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法であって、
上記SiC被膜を形成する際の加熱温度と同等又はそれ以上の温度で、前記冷却時に生じたSiC被膜のクラック状の隙間を無くして、或いは、当該隙間の幅を上記室温まで冷却された時よりも縮小させて用いることを特徴とするSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【請求項2】
ガス雰囲気下で用いる、請求項1に記載のSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【請求項3】
NHガス雰囲気下で用いる、請求項1に記載のSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【請求項4】
溶融金属Siと接触した状態で用いる、請求項1に記載のSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【請求項5】
SiOガス雰囲気下で用いる、請求項1に記載のSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【請求項6】
上記SiC被膜を形成する際の加熱温度が1100℃〜1500℃である、請求項1〜5の何れか1項に記載のSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【請求項7】
使用温度が1700℃以下である、請求項1〜6の何れか1項に記載のSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【請求項8】
使用温度が1600℃以下である、請求項7に記載のSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【請求項9】
C/Cコンポジット基材の表面に、加熱下で、SiC被膜を直接形成する方法として、CVD法を用いる、請求項1〜8の何れか1項に記載のSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にSiC被膜が形成されたC/Cコンポジットの使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素材料であるC/Cコンポジットは、3000℃以上の高温でも溶融することがなく、金属に比べて熱による変形が少ないという利点を有している。当該C/Cコンポジットには、十分な高温強度を備えるだけではなく、長時間の酸化にも耐え得る特性が要求される場合がある。これらの要求を満たすものとして、C/Cコンポジット基材の表面に直接SiC被膜が形成されたC/Cコンポジットが知られている(下記特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記提案では、C/Cコンポジット基材とSiCとの熱膨張係数差に起因して、SiC被膜形成時の千数百℃から常温まで冷却される過程で、SiC被膜に多数のクラック状の隙間が生じる。このようなクラック状の隙間の発生に起因して、従来、表面に直接SiC被膜が形成されたC/Cコンポジットは実用化されていなかった。
【0004】
尚、このようなことを考慮して、C/Cコンポジット基材とSiCとの間に、繊維強化複合材料からなる中間層を形成する提案がなされている(下記特許文献2参照)。しかしながら、このように中間層を形成するのでは、コストアップを招来するという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−252359号公報
【特許文献2】特開平11−268978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主たる目的は、表面に直接SiC被膜が形成されたC/Cコンポジットの新規な使用方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、 C/Cコンポジット基材の表面に、加熱下で、SiC被膜を直接形成することによって作製され、一旦室温まで冷却されることによりクラック状の隙間が生じたSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法であって、上記SiC被膜を形成する際の加熱温度と同等又はそれ以上の温度で、前記冷却時に生じたSiC被膜のクラック状の隙間を無くして、或いは、当該隙間の幅を上記室温まで冷却された時よりも縮小させて用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の使用方法であれば、SiC被膜形成C/Cコンポジットを使用した場合であっても、C/Cコンポジット基材が劣化するのを抑制できるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のSiC被膜形成C/Cコンポジットを作製する際に用いるCVD装置の内部構造を示す斜視図である。
図2】C/CコンポジットAと金属Siとを1500℃で接触させたときの断面写真である。
図3】C/CコンポジットAと金属Siとを1600℃で接触させたときの断面写真である。
図4】C/CコンポジットZと金属Siとを1500℃で接触させたときの断面写真である。
図5】C/CコンポジットZと金属Siとを1600℃で接触させたときの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
C/Cコンポジット基材の表面に、加熱下で、SiC被膜を直接形成することによって作製され、一旦室温まで冷却されることによりクラック状の隙間が生じたSiC被膜形成C/Cコンポジットの使用方法であって、上記SiC被膜を形成する際の加熱温度と同等又はそれ以上の温度で、前記冷却時に生じたSiC被膜のクラック状の隙間を無くして、或いは、当該隙間の幅を上記室温まで冷却された時よりも縮小させて用いることを特徴とする。
【0011】
C/Cコンポジット基材とSiCとの熱膨張係数を比較した場合、C/Cコンポジット基材では、炭素繊維の繊維方向で約1×10−6/Kであるのに対して、SiCでは約4〜5×10−6/Kであり、両者の熱膨張係数は大きく異なる。このため、SiC被膜形成時の温度(1000℃以上)から常温まで冷却される過程で、上記熱膨張係数差に起因してSiC被膜に多数のクラック状の隙間が生じる。例えば、CVD法を用いて、直径100mmのC/Cコンポジット基材に、1000℃以上でSiC被膜を設けた場合、これを室温に戻すと、C/Cコンポジット基材とSiC被膜とで0.3〜0.4mmの収縮差が生じるため、SiC被膜にクラック状の隙間が発生する。このようにクラック状の隙間が発生した場合には、C/Cコンポジット基材に悪影響を及ぼすガス(例えば、酸化性ガス)の侵入経路となって、C/Cコンポジット基材の高温での耐酸化性等を著しく低減させるものと考えられていた。尚、このように考えられていたのは、C/Cコンポジット基材とSiCとは密着しているため、一度クラック状の隙間が生じると、元の状態には回復しないものと考えられていたからである。
【0012】
しかしながら、本発明者らが実験したところ、SiC被膜を形成する際の加熱温度と同等又はそれ以上の温度で用いた場合には、元の状態に回復する(クラック状の隙間が無くなる)か、或いは、元の状態に回復しないまでも、クラック状の隙間が極めて小さくなる(クラック状の隙間の幅が細くなる)可能性があるということがわかった。したがって、当該条件下で用いた場合には、酸化性ガス等の侵入経路が遮断されるため、高温化でのSiC被膜形成C/Cコンポジットの耐酸化性等を著しく向上させることができる。
【0013】
具体的には、Oガス雰囲気(空気中等、Oガス以外のガスが含まれている場合を含む)下でSiC被膜形成C/Cコンポジットを用いた場合には、C/Cコンポジット基材の酸化消耗率を低減することができる。
また、NHガス雰囲気(NHガス以外のガスが含まれている場合を含む)下でSiC被膜形成C/Cコンポジットを用いた場合には、C/Cコンポジット基材のエッチング量を低減することができる。
【0014】
更に、溶融金属Siと接触した状態でSiC被膜形成C/Cコンポジットを用いた場合には、C/Cコンポジット基材の内部へのSiの浸透を抑制することができる。
加えて、SiOガス雰囲気(SiOガス以外のガスが含まれている場合を含む)下でSiC被膜形成C/Cコンポジットを用いた場合には、C/Cコンポジット基材のケイ化率を低減することができる。
【0015】
上記SiC被膜を形成する際の加熱温度が1100℃〜1500℃であることが望ましい。
また、使用温度が1700℃以下であることが望ましく、特に1600℃以下であることが望ましい。
使用温度が高過ぎると、熱膨張により、クラック状の隙間発生部位におけるSiC端部同士が押し合って、当該部位においてSiCに圧縮応力が加わることがある。
【0016】
(その他の事項)
(1)SiC被膜の膜厚は限定するものではないが、40〜500μmであることが好ましい。
SiC被膜の膜厚が40μm未満では、C/Cコンポジット基材を均一に覆うことができない場合がある一方、SiC被膜の膜厚が500μmを超えると、使用温度が高い場合(1600〜1700℃の場合)に、クラック状の隙間発生部位においてSiCに加わる応力が大きくなる場合がある。
(2)SiC被膜の形成方法としては、下記CVD法に限定するものではなく、如何なる方法で形成しても良い。例えば、コンバージョン法、CVR法、CVI法や、ポリイミド等の樹脂と金属ケイ素粉末とを溶媒中でスラリーにしたものを塗布した後、熱処理する方法等を用いて形成しても良い。
【実施例】
【0017】
(実施例)
図1に示すCVD装置を用いて、C/Cコンポジット基材(東洋炭素製の炭素繊維複合材料[商品名:CX−7610])上にSiC被膜を形成した。上記CVD装置は、被膜の形成時に回転する円板状の回転台1を有しており、この回転台1の外周近傍には、C/Cコンポジット基材10が取り付けられた複数の被膜形成用冶具2が配置される構造となっている。
上記CVD装置の被膜形成用冶具2にC/Cコンポジット基材10が配置された状態で、下記に示す条件にてC/Cコンポジット基材の表面にSiC被膜を形成した。尚、SiC被膜の膜厚は120μmであった。
【0018】
・SiC被膜形成条件
装置内の圧力: 0.0133〜101.3kPa
炉内の温度:1150℃
導入ガス:CHSiCl(メチルトリクロロシラン)ガスと、キャリアガスとしての水素ガス
このようにして作製したC/Cコンポジットを、以下、C/CコンポジットAと称する。
【0019】
(比較例)
C/Cコンポジット基材上にSiC被膜を形成しなかったこと以外は、上記実施例と同様にしてC/Cコンポジットを作製した。
このようにして作製したC/Cコンポジットを、以下、C/CコンポジットZと称する。
【0020】
(実験1)
上記C/CコンポジットA、Zを、高温のNHガス雰囲気下で晒したときのエッチング特性(単位面積単位時間当たりの重量減少量、以下単に、重量減少量と称する)を調べたので、その結果を表1に示す。尚、実験条件は以下に示す通りである。また、重量減少量は、下記(1)式によって算出した。
【0021】
・実験条件
圧力:2.7KPa
NHガス流量:0.5l/min
ガス(キャリアガス)流量:2.0l/min
処理時間:5時間
温度:1100℃、1400℃、及び1600℃
【0022】
重量減少量=(試験前のC/Cコンポジット重量−試験後のC/Cコンポジット重量)/(C/Cコンポジットの表面積×時間)・・・(1)
【0023】
【表1】
【0024】
表1から明らかなように、SiC被膜の形成温度未満の場合(1100℃で晒した場合)には、C/CコンポジットA、Z共に重量減少量は0.1μg/cm・h未満であって差異はなかった。これに対して、SiC被膜の形成温度以上の場合(1400℃、1600℃で晒した場合)には、C/CコンポジットZでは重量減少量が0.2μg/cm・h、0.5μg/cm・hであるのに対して、C/CコンポジットAでは重量減少量が0.1μg/cm・h未満であることが認められた。したがって、SiC被膜の形成温度以上の場合には、SiC被膜を形成することによるエッチング抑制効果が十分に発揮されていることがわかる。
また、以上のことから、約1400℃以上でNHガスによるエッチングが始まり、約1600℃でエッチング量が多くなるものと考えられる。
【0025】
(実験2)
上記C/CコンポジットA、Zを、高温の空気中で3時間晒したときの酸化消耗率[下記(2)式に示す]を調べたので、その結果を表2に示す。尚、実験条件は以下に示す通りである。
【0026】
・実験条件
圧力:101.3kPa
空気流量:4.0l/min
処理時間:3時間
温度:800℃、及び1200℃
【0027】
酸化消耗率=[(試験前のC/Cコンポジット重量−試験後のC/Cコンポジット重量)/試験前のC/Cコンポジット重量]×100・・・(2)
【0028】
【表2】
【0029】
表2から明らかなように、SiC被膜の形成温度未満の場合(800℃で晒した場合)には、C/CコンポジットZの酸化消耗率は36.5重量%であるのに対して、C/CコンポジットAの酸化消耗率は8.0重量%である。したがって、C/CコンポジットAはC/CコンポジットZに比べて、酸化消耗率が低下するものの、飛躍的には低下しないことがわかる。一方、SiC被膜の形成温度以上の場合(1200℃で晒した場合)には、C/CコンポジットZの酸化消耗率は86.4重量%であるのに対して、C/CコンポジットAの酸化消耗率は0.71重量%である。したがって、C/CコンポジットAはC/CコンポジットZに比べて、酸化消耗率が飛躍的に低下することがわかる。
【0030】
(実験3)
上記C/CコンポジットA、Zを、高温のSiOガス雰囲気下で5時間晒したときのケイ化率を調べたので、その結果を表3に示す。尚、実験条件は以下に示す通りである。また、ケイ化率は、式(3)のようにして算出した。
【0031】
ケイ化率=〔(W−W)/([44/28]W−W)〕×100・・・(3)
= 基材時(SiO暴露前)質量(g)
= SiO暴露後質量(g)
尚、(3)式における44はSiOのモル量であり、28はSiのモル量である。
【0032】
・実験条件
圧力:13.0kPa
SiOガス流量:1.0l/min
処理時間:5時間
温度:1800℃
【0033】
【表3】
【0034】
表3から明らかなように、C/CコンポジットZにおける基材のケイ化率は70%であるのに対して、C/CコンポジットAにおける基材のケイ化率は1.0%未満である。したがって、C/CコンポジットAはC/CコンポジットZに比べて、ケイ化率が飛躍的に低下することがわかる。
【0035】
(実験4)
上記C/CコンポジットA、Zを、上面に金属Siを載置して、金属Siが溶融した状態で且つ真空下で5時間接触させたときの基材内部へのSiの浸透の有無を調べたので、その結果を表4に示す。尚、実験条件は以下に示す通りである。
【0036】
また、基材内部へのSiの浸透の有無は、溶融Siが載置されていた部分の、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察によって調べた。図2はC/CコンポジットAと金属Siとを1500℃で接触させたときの断面写真、図3はC/CコンポジットAと金属Siとを1600℃で接触させたときの断面写真、図4はC/CコンポジットZと金属Siとを1500℃で接触させたときの断面写真、図5はC/CコンポジットZと金属Siとを1600℃で接触させたときの断面写真である。
【0037】
・実験条件
圧力:1.3Pa
処理時間:5時間
温度:1500℃、及び1600℃
【0038】
【表4】
【0039】
表4及び図4図5から明らかなように、C/CコンポジットZでは、何れの温度でも基材内部にSiが浸透していた。尚、図4及び図5において、白い部分が浸透した金属Siである。これに対して、表4及び図2図3から明らかなように、C/CコンポジットAでは、何れの温度でも基材内部にSiが浸透していなかった。尚、図2及び図3において、白い部分が金属Si、灰色の部分(中間色の部分)がSiC被覆層、黒い部分がC/C基材である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ヒーター、ボルト、ナット、断熱材カバー、炉内冶具、宇宙航空用部材等に用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1:回転台
2:被膜形成用冶具
10:C/Cコンポジット基材
図1
図2
図3
図4
図5