【実施例】
【0017】
(実施例)
図1に示すCVD装置を用いて、C/Cコンポジット基材(東洋炭素製の炭素繊維複合材料[商品名:CX−7610])上にSiC被膜を形成した。上記CVD装置は、被膜の形成時に回転する円板状の回転台1を有しており、この回転台1の外周近傍には、C/Cコンポジット基材10が取り付けられた複数の被膜形成用冶具2が配置される構造となっている。
上記CVD装置の被膜形成用冶具2にC/Cコンポジット基材10が配置された状態で、下記に示す条件にてC/Cコンポジット基材の表面にSiC被膜を形成した。尚、SiC被膜の膜厚は120μmであった。
【0018】
・SiC被膜形成条件
装置内の圧力: 0.0133〜101.3kPa
炉内の温度:1150℃
導入ガス:CH
3SiCl
3(メチルトリクロロシラン)ガスと、キャリアガスとしての水素ガス
このようにして作製したC/Cコンポジットを、以下、C/CコンポジットAと称する。
【0019】
(比較例)
C/Cコンポジット基材上にSiC被膜を形成しなかったこと以外は、上記実施例と同様にしてC/Cコンポジットを作製した。
このようにして作製したC/Cコンポジットを、以下、C/CコンポジットZと称する。
【0020】
(実験1)
上記C/CコンポジットA、Zを、高温のNH
3ガス雰囲気下で晒したときのエッチング特性(単位面積単位時間当たりの重量減少量、以下単に、重量減少量と称する)を調べたので、その結果を表1に示す。尚、実験条件は以下に示す通りである。また、重量減少量は、下記(1)式によって算出した。
【0021】
・実験条件
圧力:2.7KPa
NH
3ガス流量:0.5l/min
H
2ガス(キャリアガス)流量:2.0l/min
処理時間:5時間
温度:1100℃、1400℃、及び1600℃
【0022】
重量減少量=(試験前のC/Cコンポジット重量−試験後のC/Cコンポジット重量)/(C/Cコンポジットの表面積×時間)・・・(1)
【0023】
【表1】
【0024】
表1から明らかなように、SiC被膜の形成温度未満の場合(1100℃で晒した場合)には、C/CコンポジットA、Z共に重量減少量は0.1μg/cm
2・h未満であって差異はなかった。これに対して、SiC被膜の形成温度以上の場合(1400℃、1600℃で晒した場合)には、C/CコンポジットZでは重量減少量が0.2μg/cm
2・h、0.5μg/cm
2・hであるのに対して、C/CコンポジットAでは重量減少量が0.1μg/cm
2・h未満であることが認められた。したがって、SiC被膜の形成温度以上の場合には、SiC被膜を形成することによるエッチング抑制効果が十分に発揮されていることがわかる。
また、以上のことから、約1400℃以上でNH
3ガスによるエッチングが始まり、約1600℃でエッチング量が多くなるものと考えられる。
【0025】
(実験2)
上記C/CコンポジットA、Zを、高温の空気中で3時間晒したときの酸化消耗率[下記(2)式に示す]を調べたので、その結果を表2に示す。尚、実験条件は以下に示す通りである。
【0026】
・実験条件
圧力:101.3kPa
空気流量:4.0l/min
処理時間:3時間
温度:800℃、及び1200℃
【0027】
酸化消耗率=[(試験前のC/Cコンポジット重量−試験後のC/Cコンポジット重量)/試験前のC/Cコンポジット重量]×100・・・(2)
【0028】
【表2】
【0029】
表2から明らかなように、SiC被膜の形成温度未満の場合(800℃で晒した場合)には、C/CコンポジットZの酸化消耗率は36.5重量%であるのに対して、C/CコンポジットAの酸化消耗率は8.0重量%である。したがって、C/CコンポジットAはC/CコンポジットZに比べて、酸化消耗率が低下するものの、飛躍的には低下しないことがわかる。一方、SiC被膜の形成温度以上の場合(1200℃で晒した場合)には、C/CコンポジットZの酸化消耗率は86.4重量%であるのに対して、C/CコンポジットAの酸化消耗率は0.71重量%である。したがって、C/CコンポジットAはC/CコンポジットZに比べて、酸化消耗率が飛躍的に低下することがわかる。
【0030】
(実験3)
上記C/CコンポジットA、Zを、高温のSiOガス雰囲気下で5時間晒したときのケイ化率を調べたので、その結果を表3に示す。尚、実験条件は以下に示す通りである。また、ケイ化率は、式(3)のようにして算出した。
【0031】
ケイ化率=〔(W
2−W
1)/([44/28]W
2−W
1)〕×100・・・(3)
W
1= 基材時(SiO暴露前)質量(g)
W
2= SiO暴露後質量(g)
尚、(3)式における44はSiOのモル量であり、28はSiのモル量である。
【0032】
・実験条件
圧力:13.0kPa
SiOガス流量:1.0l/min
処理時間:5時間
温度:1800℃
【0033】
【表3】
【0034】
表3から明らかなように、C/CコンポジットZにおける基材のケイ化率は70%であるのに対して、C/CコンポジットAにおける基材のケイ化率は1.0%未満である。したがって、C/CコンポジットAはC/CコンポジットZに比べて、ケイ化率が飛躍的に低下することがわかる。
【0035】
(実験4)
上記C/CコンポジットA、Zを、上面に金属Siを載置して、金属Siが溶融した状態で且つ真空下で5時間接触させたときの基材内部へのSiの浸透の有無を調べたので、その結果を表4に示す。尚、実験条件は以下に示す通りである。
【0036】
また、基材内部へのSiの浸透の有無は、溶融Siが載置されていた部分の、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察によって調べた。
図2はC/CコンポジットAと金属Siとを1500℃で接触させたときの断面写真、
図3はC/CコンポジットAと金属Siとを1600℃で接触させたときの断面写真、
図4はC/CコンポジットZと金属Siとを1500℃で接触させたときの断面写真、
図5はC/CコンポジットZと金属Siとを1600℃で接触させたときの断面写真である。
【0037】
・実験条件
圧力:1.3Pa
処理時間:5時間
温度:1500℃、及び1600℃
【0038】
【表4】
【0039】
表4及び
図4、
図5から明らかなように、C/CコンポジットZでは、何れの温度でも基材内部にSiが浸透していた。尚、
図4及び
図5において、白い部分が浸透した金属Siである。これに対して、表4及び
図2、
図3から明らかなように、C/CコンポジットAでは、何れの温度でも基材内部にSiが浸透していなかった。尚、
図2及び
図3において、白い部分が金属Si、灰色の部分(中間色の部分)がSiC被覆層、黒い部分がC/C基材である。