特許第6042279号(P6042279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042279基板成膜処理用マスクホルダに使用される係止部材、及び基板成膜処理用マスクホルダ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042279
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】基板成膜処理用マスクホルダに使用される係止部材、及び基板成膜処理用マスクホルダ
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/50 20060101AFI20161206BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20161206BHJP
   H01L 21/673 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C23C14/50 F
   C23C14/04 A
   H01L21/68 U
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-147753(P2013-147753)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-21142(P2015-21142A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】302056815
【氏名又は名称】株式会社システム技研
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 弥生
(72)【発明者】
【氏名】大坂 卓也
(72)【発明者】
【氏名】長峯 清隆
(72)【発明者】
【氏名】吉原 大祐
(72)【発明者】
【氏名】今井 敦志
(72)【発明者】
【氏名】野原 二郎
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−040683(JP,A)
【文献】 特開2009−235500(JP,A)
【文献】 特開2003−073803(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0025237(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
H01L 21/203、21/205、21/673
H01L 51/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に磁力により吸引されるマスクを配置した基板の他面を一面で支持する第1プレートと、前記第1プレートの他面側に配置され、柱体状磁石を夫々収容する複数の穴部を備えた第2プレートと、を備えた基板成膜処理用マスクホルダにおいて使用され、前記磁石の外面に取り付けられる係止部材であって、
前記係止部材は、板材の周方向両端縁間を離間させることにより、前記磁石の外周面の少なくとも一部に弾性的に係合する筒状の周側部と、該周側部から内径側に張り出し、前記磁石の一端面に接触する爪部と、前記周側部に形成され、外径側に向けて弾性的に突出する複数の突出爪と、を備え
前記基板成膜処理用マスクホルダを構成する前記穴部の内周面には、該穴部内に前記磁石の一端面とは反対側の端面から該磁石及び前記係止部材を差し込んだ時に、前記突出爪が拡開して係止される固定溝部と、該固定溝部の周方向端部に連続形成された取外し部が設けられ、
前記固定溝部内に係止された前記突出爪は、前記係止部材及び前記磁石を所定角度回転させて前記取外し部に達することにより内径側に押圧されて前記固定溝部から離脱するように構成されていることを特徴とする基板成膜処理用マスクホルダに使用されることを特徴とする基板成膜処理用マスクホルダに使用される係止部材。
【請求項2】
一面に磁力により吸引されるマスクを配置した基板の他面を一面で支持する第1プレートと、
前記第1プレートの他面側に配置され、外面に請求項1に記載の基板成膜処理用マスクホルダに使用される係止部材を取り付けた柱体状磁石を夫々収容する複数の穴部を備えた第2プレートと、
を備え、
前記穴部の内周面には、該穴部内に前記磁石の一端面とは反対側の端面から該磁石及び前記係止部材を差し込んだ時に、前記突出爪が拡開して係止される固定溝部と、該固定溝部の周方向端部に連続形成された取外し部が設けられ、
前記固定溝部内に係止された前記突出爪は、前記係止部材及び前記磁石を所定角度回転させて前記取外し部に達することにより内径側に押圧されて前記固定溝部から離脱するように構成されていることを特徴とする基板成膜処理用マスクホルダ。
【請求項3】
前記固定溝部、及び前記取外し部は、前記周側部上に90度の周方向間隔を隔てて複数個配置されていることを特徴とする請求項2に記載の基板成膜処理用マスクホルダ。
【請求項4】
前記第2プレートに複数形成された前記穴部は、隣接する4つの穴部の中心が正方形をなすよう規則的に配置され、
前記固定溝部は、前記正方形の対角線方向に配置され、
前記取外し部は、前記穴部の内周面の一部を構成していることを特徴とする請求項2又は3に記載の基板成膜処理用マスクホルダ。
【請求項5】
前記第1プレートは、前記磁石及び前記係止部材が配置された領域以外の領域に、前記第2プレートと接触する接触部を備えることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の基板成膜処理用マスクホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜処理を受ける対象物としての基板上にマスクを磁力で保持する基板成膜処理用マスクホルダ、及び係止部材に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイスをはじめとする半導体素子、水晶振動子等のデバイスの製造工程には薄膜による電極形成プロセスがあり、この電極形成プロセスとしては、フォトリソグラフィ法と、マスク成膜法とがある。フォトリソグラフィ法は、蒸着やスバッタ等により半導体基板等の基板の全面に薄膜を成膜し、その後フォトレジストにより所望のパターン開口を形成し、不要部分をエッチング処理で除去するものである。またマスク成膜法は、多数の磁石を具備した基板成膜処理用マスクホルダ上に、基板と磁性材料に所定の開口が形成されたマスクとを順次重ねて配置し、マスクを基板の表面に磁力で吸着つつ、この状態で成膜処理を行い、成膜が終了した後、マスクを離脱することでパターンを形成するものである。
マスク成膜法は簡便でありプロセスコストが安いという特徴があるが、マスクの浮き等で形成されたパターンに欠陥が発生するという問題があり、微細なパターン形成には適さないという問題を抱えている。このため、微細なパターンを形成するため、マスクが基板から浮かないよう、マスクを基板成膜処理用マスクホルダに強力な磁力で吸着する必要がある。
【0003】
図8は従来の基板成膜処理用マスクホルダを示す分解斜視図、図9は同基板成膜処理用マスクホルダにおける磁石の取り付け状態を示す断面図である。尚、図8(a)は基板成膜処理用マスクホルダを上側から見た図、(b)は同基板成膜処理用マスクホルダを下方から見た図、(c)は磁石の取り付け構造の分解斜視図である。この基板成膜処理用マスクホルダ200は、半導体基板である基板(図示していない)を支持する上層プレート210と、この上層プレート210の下側に配置される下層プレート220とを備え、下層プレート220の上面(上層プレート210側の面)に多数(例えば52個)の磁石230を保持している。
【0004】
磁石230は、図8(c)及び図9に示すように、円板状の下層プレート220に所定パターンで開設された多数の取付穴に、磁石固定スタッド241、スペーサー242、固定ねじ243を用いて取り付けられている。磁石230は、磁石固定スタッド241を挿入するための穴部231が開設されて環状に形成されている。磁石固定スタッド241は、薄厚に形成された磁石固定用の鍔部244と、雌ねじ部が形成された挿入部245とを備えて構成される。スペーサー242は、下層プレート220上に配置され、磁石230を下層プレート220上で支持する。スペーサー242には、固定ねじ243が挿入されるねじ挿通穴246が開設されている。このため、磁石230は、固定ねじ243により着脱自在に下層プレート220に取り付けられており交換できる。
上層プレート210の上面には、図8(a)に示すように、基板吸着ポート211、基板吸着溝、基板リフトアップ用の溝部213が形成されている。また、上層プレート210の下面には、図8(b)に示すように、位置決め穴214、上層プレート210との連結用磁石215が周方向に所定のピッチで配置されている。
【0005】
また、下層プレート220の上面には、図8(a)に示すように、上層プレート210の連結用磁石215と吸着する連結用磁石221、下層プレート220の位置決め穴214に挿入される位置決めピン222が形成されている。また、下層プレート220の下面には、図8(b)に示すように、下層プレート220を下部に配置された装置基部に着脱自在に取り付けるための着脱スタッド225が配置されている。
このような、基板成膜処理用マスクホルダ200によれば、上層プレート210の下部に下層プレート220を配置した状態で、上層プレートの上面に基板を配置し、更に基板上に磁性体から成るマスクを配置すると、マスクが磁石230の磁力で吸引されて基板上にマスクが密着し、基板とマスクは位置決めされた状態で固定配置される。
【0006】
基板への成膜処理が終了した後、上層プレート210を下層プレート220から取り外すと、マスクに対する磁力による吸着力がなくなり、マスクと基板を上層プレート210から取り外すことができる。
また、従来、磁石等の部材を下層プレートのような他の部材に固定するに際して、金属薄板で形成した固定金具を用い、部材を他の部材に容易に取付ける技術が提案されている。特許文献1には、部材である部品素子を筒状ケースに収納するに際して、筒状ケースの内側には段差を形成し、固定金具には前記段差に弾性力で係止する折り返し部をその両端に形成し、部品素子を筒状ケースに収納するとき、部材に固定金具をかけわたした状態で両端の折り返し部を前記段差に係合させ、部材を他の部材に固定するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4868038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら従来の基板成膜処理用マスクホルダは、磁石230を下層プレート220に固定するために、磁石230に穴部231を形成しているため、磁石230の体積が小さくなる。このため、同一径同一高さの中実の磁石を使用した場合に比べ磁力が低下するという問題がある。この欠点を補うためには、磁石の個数を増大させる必要が生じるが、下層プレートの構造の複雑化、高コスト化を招いている。
また、上層プレート210に対して磁石230を固定ねじ243で固定するため、磁石の着脱作業に手間と時間がかかり、生産性を低下させる原因となっている。
更に、上層プレート210と下層プレート220との間に磁石230及び磁石固定スタッド241が配置され、隙間が空いているため、スパッタ等による成膜時に膜面から流入する自由電子により発熱した基板からの熱を有効に逃がせないという問題がある。この熱を上層プレート210及び下層プレート220に効果的に逃がさないと基板の成膜面が高温となり、結果として膜内の残留応力が高くなるという問題を生じる。
また、特許文献1に記載のものにあっては、部材を他の部材に取付ける作業は簡単であるものの、部材を取り外すにときに固定金具の折り返し部を筒状ケースの段差からはずなければならず、部材の取りはずしに手間がかかるという問題がある。
【0009】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、中実構造の磁石を高密度に、しかも容易に取り付け取り外しできる係止部材を備えた基板成膜処理用マスクホルダを提供することを目的とする。また、本発明は、基板の熱を下層プレートに効率的に逃がすことができる基板成膜処理用マスクホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の基板成膜処理用マスクホルダに使用される係止部材は、一面に磁力により吸引されるマスクを配置した基板の他面を一面で支持する第1プレートと、前記第1プレートの他面側に配置され、柱体状磁石を夫々収容する複数の穴部を備えた第2プレートと、を備えた基板成膜処理用マスクホルダにおいて使用され、前記磁石の外面に取り付けられる係止部材であって、前記係止部材は、板材の周方向両端縁間を離間させることにより、前記磁石の外周面の少なくとも一部に弾性的に係合する筒状の周側部と、該周側部から内径側に張り出し、前記磁石の一端面に接触する爪部と、前記周側部に形成され、外径側に向けて弾性的に突出する複数の突出爪と、を備え、前記基板成膜処理用マスクホルダを構成する前記穴部の内周面には、該穴部内に前記磁石の一端面とは反対側の端面から該磁石及び前記係止部材を差し込んだ時に、前記突出爪が拡開して係止される固定溝部と、該固定溝部の周方向端部に連続形成された取外し部が設けられ、前記固定溝部内に係止された前記突出爪は、前記係止部材及び前記磁石を所定角度回転させて前記取外し部に達することにより内径側に押圧されて前記固定溝部から離脱するように構成されていることを特徴とする基板成膜処理用マスクホルダに使用されることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明に係る基板成膜処理用マスクホルダは、一面に磁力により吸引されるマスクを配置した基板の他面を一面で支持する第1プレートと、前記第1プレートの他面側に配置され、外面に請求項1に記載の基板成膜処理用マスクホルダに使用される係止部材を取り付けた柱体状磁石を夫々収容する複数の穴部を備えた第2プレートと、を備え、前記穴部の内周面には、該穴部内に前記磁石の一端面とは反対側の端面から該磁石及び前記係止部材を差し込んだ時に、前記突出爪が拡開して係止される固定溝部と、該固定溝部の周方向端部に連続形成された取外し部が設けられ、前記固定溝部内に係止された前記突出爪は、前記係止部材及び前記磁石を所定角度回転させて前記取外し部に達することにより内径側に押圧されて前記固定溝部から離脱するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明では、前記固定溝部、及び前記取外し部は、前記周側部上に90度の周方向間隔を隔てて複数個配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、第2プレートに取り付けられた磁石の取り外しは、係止部材を穴部ないで90度回転させ、突出爪を取外し部に配置するだけで容易にできる。このとき係止部材は最大でも90度回転させるだけでよい。
請求項4の発明では、前記第2プレートに複数形成された前記穴部は、隣接する4つの穴部の中心が正方形をなすよう規則的に配置され、前記固定溝部は、前記正方形の対角線方向に配置され、前記取外し部は、前記穴部の内周面の一部を構成していることを特徴とする。
本発明によれば、固定溝部を対角線方向に配置しているので、穴部を近接して配置したとしても、固定溝部が隣り合う穴部の固定溝部と重なり合うことがないので、穴部の配置密度を高くできる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、基板成膜処理用マスクホルダにおいて、前記第1プレートは、前記磁石及び前記係止部材が配置された領域以外の領域で前記第2プレートと接触する接触部を備えることを特徴とするのである。
本発明によれば、第1プレートは接触部で第2プレートに密着するので、第1プレートに配置された基板の熱は第1プレートから第2プレートに効率よく伝達される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る基板成膜処理用マスクホルダによれば第2プレートに磁石を取付けるには、磁石に係止部材を配置して穴部に挿入するだけで係止部材の突出爪が穴部の内周面に凹設された固定溝部に嵌まり込み、磁石は第2プレートに容易に固定できる。一方第2プレートから磁石を取り外すには、係止部材を穴部で回転させて突出爪を取外し部に移動させ、突出爪を固定溝部から外すようにするだけでよい。このため、磁石として高い磁力を備える中実構造のものを第2プレートに容易に着脱できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダを示す分解斜視図である。
図2】同基板成膜処理用マスクホルダに使用する係止部材を示すものであり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
図3】同基板成膜処理用マスクホルダに使用する係止部材を示す斜視図である。
図4】同基板成膜処理用マスクホルダの下層プレートに形成した穴部を示すものであり、(a)は平面図、(b)は(a)中のB−B線に相当する断面図、(c)は(a)中のC−C線に相当する断面図である。
図5】同基板成膜処理用マスクホルダで係止部材を配置した磁石を下層プレートに配置した状態を示すものであり、(a)は固定状態を示す断面図、(b)は取り外し状態を示す断面図である。
図6】同基板成膜処理用マスクホルダに使用する下層プレートを示すものであり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は(b)中のC−C線に相当する断面図、(d)は(c)中のD部の拡大図、(e)は(a)中のB−B線に相当する断面図、(f)は(a)中のA−A線に相当する断面図である。
図7】同基板成膜処理用マスクホルダにおいて上層プレートと下層プレートとを組み合わせた状態を示す断面図である。
図8】従来の基板成膜処理用マスクホルダを示す斜視図であり、(a)は基板成膜処理用マスクホルダを上側から見た図、(b)は同基板成膜処理用マスクホルダを下方から見た図、(c)は磁石の取り付け構造の分解斜視図である。
図9】同基板成膜処理用マスクホルダにおける磁石の取り付け状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る基板成膜処理用マスクホルダについて説明する。まず基板成膜処理用マスクホルダの全体の構造について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダの構成を示す分解斜視図である。基板成膜処理用マスクホルダ100は、半導体基板、水晶基板、セラミック基板等々の成膜対象物としての基板10を配置可能な第1プレートである上層プレート110と、第2プレートである下層プレート120とを備える。下層プレート120は、基板10を配置する上層プレートの上面とは反対の下面側に配置される。基板成膜処理用マスクホルダ100は、四角形の基板10に磁力で吸着されるマスク20を配置して成膜処理を行うものである。マスク20には、基板10の成膜パターンに対応する開口21が形成されている。
なお、基板の形状は、四角形に限らないが、本例では四角形の基板を一例として説明する。
【0017】
本発明の基板成膜処理用マスクホルダ100の特徴的な構成は以下の通りである。
即ち、基板成膜処理用マスクホルダ100は、一面に磁力により吸引されるマスク20を配置した基板10の他面を一面で支持する上層プレート(第1プレート)110と、第1プレートの他面側に配置され、外面に係止部材150を取り付けた筒状の磁石140を夫々収容する複数の穴部130を備えた下層プレート(第2プレート)120と、を備え、穴部の内周面には、該穴部内に磁石の一端面とは反対側の端面から該磁石及び係止部材を差し込んだ時に、突出爪153が拡開して係止される固定溝部134と、該固定溝部の周方向端部に連続形成された取外し部135が設けられ、固定溝部内に係止された突出爪は、係止部材及び磁石を所定角度回転させて取外し部に達することにより内径側に押圧されて固定溝部から離脱するように構成されている。
【0018】
本実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダ100において、上層プレート110及び下層プレート120は、基板10より大きな四角形状をなしている。下層プレート120の上面には、多数の円柱状の磁石140を収容、配置するための円筒状の穴部130が規則的に開設されている。実施形態1に係る基板成膜処理用マスクホルダ100では、磁石140に係止部材150を取り付けて穴部130内に挿着する。
下層プレート120の穴部130内に磁石140を取り付けた状態で、上層プレート110上に基板10とマスク20を配置して、磁石140の磁力で基板10上にマスク20を密着させる。磁石140は、例えば、ネオジウムやサマリウムコバルト等の焼結マグネットであり、柱体状である円柱として構成されている。
尚、成膜処理がなされる基板がシリコンウエハー等の円板状の基板である場合は、上層プレート110及び下層プレート120もそれぞれ円板状とし、その直径を基板の外径より大きくする。
【0019】
次に磁石140を支持する係止部材150について説明する。図2は本発明の実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダに使用する係止部材を示すものであり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図、図3は係止部材を示す斜視図である。係止部材150は、ステンレス鋼(SUS304)等の弾力性を備えた金属薄板をプレス加工して形成される。係止部材150は、磁石140の外周を覆う円筒状の周側部151を備える。また係止部材150は、周側部151の一端側である上端部から内側に張り出して磁石140の第1プレート側の端面(上面)に接触する3つの爪部152と、周側部151に配置されて外径方向に向けて弾性的に突出する板バネ状の2つの突出爪153とを備える。
【0020】
係止部材150は、略長方形状の1枚の板材を円筒状に加工して形成されており、円筒状加工された後の周側部151には上下に貫通するスリット154が形成されている。周側部151は、スリット154を設けたことによって内外径方向へ弾性変形が可能であり、磁石140の周面に弾性的に圧接して、係止部材150を磁石140に保持する。
爪部152は、周側部151の上端縁に所定のピッチ、本例では120度の周方向ピッチで等間隔に配置されている。爪部152は磁石140が周側部151の上部開口から抜け出ないように磁石140の上面を係止する。磁石140は、周側部151でその周囲が保持されると共に、爪部152でその端面が位置決めされ、係止部材150に確実に保持される。
【0021】
各突出爪153は、周側部151の一部を切り起こして外径方向へ突出形成されている。各突出爪153は、係止部材150の上端縁から所定寸法だけ下方へ離間した位置に形成される。本例では、2つの突出爪153は周側部151の外周において180度を隔てて2箇所に形成される。突出爪153は、外力が加わらない時には図示のようにその先端部を周側部151の外周面よりも外径方向へ突出させているが、内径方向への力を受けると弾性変形して周側部151に形成された切欠き部151a内に入り込む。
このように、係止部材150は、板材の周方向両端縁間を離間させることにより、磁石140の外周面の少なくとも一部に弾性的に係合する筒状の周側部151と、周側部から内径側に張り出し、磁石の一端面に接触する爪部152と、周側部を構成する板材を切り起こして形成され、外径側に向けて弾性的に突出する複数の突出爪153と、を備えている。
爪部152は、側周部の軸方向一端縁以外の部位から突出してしてもよい。また、磁石が円柱状以外の柱体状、例えば多角柱状である場合には、側周部もそれに応じた多角柱状としてもよい。
また、爪部が存在しなくても、側周部による挟圧保持力のみで磁石を保持できる場合には爪部は不要である。
【0022】
次に下層プレート120に形成した穴部130について説明する。図4は本発明の実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダの下層プレートに貫通形成した穴部を示すものであり、(a)は平面図、(b)は(a)中のB−B線に相当する断面図、(c)は(a)中のC−C線に相当する断面図である。また、図5は係止部材を配置した磁石を下層プレートの穴部内に配置した状態を示すものであり、(a)は固定状態を示す断面図、(b)は取り外状態を示す断面図である。
下層プレート120の穴部130は、下層プレート120の上面側から、大径の第1穴部131、小径の第2穴部132が連通するように開設された段付き穴である。第1穴部131は、係止部材150を取り付けた磁石140が嵌まり込む直径を備える。また、第2穴部132は第1穴部131より小径に形成され、磁石140及び係止部材150を取り外すとき、磁石140を押し出す棒状部材を差し込むため使用される。穴部130内に係止部材150を取り付けた磁石140を嵌め込むと、図5(a)に示すように、磁石140の底面は、第1穴部131の底面に保持される。この状態で、磁石140は、上端面が下層プレート120から露出する状態に配置される。
【0023】
係止部材150を取り付けた磁石140を収容した穴部130の内周面には、第1穴部131の上端から所定の距離下方位置に、各突出爪153が位置する内周領域が想定でき、この領域を突出爪配置領域133とする。
本実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダ100では、この各突出爪配置領域133に、固定溝部134と、取外し部135とを連続形成する。固定溝部134は、穴部130の本来の円筒状内周面から外径に向けて例えばスロットカッターで凹設されて形成される。固定溝部134は、平面視では、穴部の円形の内周面よりも曲率半径の大きい曲面(円弧面)として形成される。係止部材150が取り付けられた磁石140が穴部内に収容されたとき、係止部材150の突出爪153が固定溝部134内に弾性的に嵌まり込み、係止部材150の軸方向への位置ずれを規制する。
なお、本例では、固定溝部の周方向両端部に取外し部135を配置したが、固定溝部の周方向一端部のみに取外し部を設けても良い。
【0024】
また、取外し部135は、突出爪153が固定溝部134に嵌まり込んだ状態にある時に、係止部材150を穴部の内周面に沿って何れかの方向へ回転させたとき、突出爪153が弾性的に内側に押し込まれつつ固定溝部134から周方向へ抜け出し、係止部材150を穴部130から軸方向へ取り外し可能な状態とする。この取外し部135は、突出爪配置領域133において、固定溝部134が形成されていない内周面と連続する面である。即ち、取外し部135は、内周面の一部位を構成している。
固定溝部134の軸方向上方には、内周面の一部が存在する(突出している)ため、係止部材を穴部内に差し込む過程で当該内周面により押圧されることにより、突出爪は一旦内径側に変形し、固定溝部に入り込んだときに開放されて外径側に拡開し、固定溝部と内周面との境界の壁部と係止状態となる。なお、突出爪が取外し部135の軸方向位置にある状態で係止部材及び磁石が穴部内に差し込まれる場合には、突出爪は取外し部に達した時点では内側に圧縮変形しているが、所定角度回転させることにより固定溝部内に入り込むことにより、係止された状態となる。
固定溝部134と、取外し部135とは、突出爪配置領域133内に180度の周方向間隔で2箇所形成される。固定溝部134と、取外し部135とは90度間隔で交互に配置される。
【0025】
次に下層プレート120への磁石140の取り付け、取り外しについて説明する。下層プレート120の穴部130内に磁石140を取り付けるには、まず、磁石140の外面に係止部材150を取り付ける。爪部152を内側に折り曲げた状態にある係止部材150の下部開口から磁石を差込み(圧入し)、周側部151で磁石140の外周面を弾性的に保持した状態とし、3つの爪部152により磁石140の一端面を係止する。このとき、係止部材150の突出爪153は、周側部151から弾性的に外側に向け飛び出した状態である。
この状態の磁石140を係止部材の爪部152側を上として穴部130に差し込む。スリット154の存在により内外径方向へ変形可能な周側部151は、第1穴部131の内周面に押されて内径側に圧縮される。この差し込み過程では、突出爪153も第1穴部131の内壁により押圧されて内径側へ弾性変形する。そして、係止部材150を取り付けた磁石140が突出爪配置領域133の底部に接触する位置まで差し込まれると、突出爪153は、突出爪配置領域133内に配置される。また、磁石の底面は、第1の穴部の底面に着座している。
【0026】
突出爪153が固定溝部134と対応するように、突出爪の周方向位置を合わせながら係止部材及び磁石を穴部内に差し込むと、突出爪153が突出爪配置領域に達したときに、突出爪は固定溝部134内に突出して係止された状態となる。即ち、図5(a)に示すように突出爪153が固定溝部134内に嵌まり込んで係止部材150が穴部内で軸方向移動できないように固定されるため、リテーナが保持した磁石140は穴部に固定される。突出爪153が固定溝部134と対応しない状態で、係止部材及び磁石が穴部内に差し込まれたときには、突出爪が突出爪配置領域133に達した時点で、係止部材を回転させることで、突出爪153を固定溝部134に嵌め込むことができる。このとき磁石140の回転角度は90度以内でよいため、組み付け作業性を高めることができる。
【0027】
また、下層プレート120の穴部130に磁石140が配置された状態から、磁石140を取り外すには、係止部材150が取り付けられた磁石140をつまんで回転し、突出爪153を突出爪配置領域133の取外し部135まで移動させる。すると、突出爪153は、弾性的に内側に押し込まれ、周側部151に形成された切欠き部151a内に入り込む。この状態で係止部材及び磁石は、図5(b)に示すように、穴部内から容易に引き抜くことができる。このとき磁石140の回転角度は90度となる。
【0028】
次に、下層プレート120と上層プレート110とは分離可能である。そして、上層プレート110上に配置した基板10と、基板10に被せて配置したマスク20の位置合わせを行うとき、マスク20が基板10に接触した状態で動かすと基板10の表面、及び形成済みのパターンを痛めることがある。このため、マスク20と基板10とは、微小な間隔、例えば50〜200ミクロンの間隙をあけて位置合わせを行う。このとき、下層プレート120に配置した磁石140の磁力がマスク20に作用しないよう上層プレート110と下層プレート120との間には十分な距離をあけておく。
基板10とマスク20との位置合わせが完了し、基板の表面にマスクを接触させた状態で下層プレート120を上層プレート110に接近配置して所定の位置関係で接触させる。通常この作業は図示外のアライメント装置で行う。
【0029】
次に、基板成膜処理用マスクホルダ100において、上層プレート110からの熱を下層プレート120に効率よく伝導させる構造について説明する。
次に磁石140が配置される下層プレート120の穴部130の配置について詳細に説明する。図6は本発明の実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダに使用する下層プレートを示すものである。ここで、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は(b)中のC−C線に相当する断面図、(d)は(c)中のD部の拡大図、(e)は(a)中のB−B線に相当する断面図、(f)は(a)中のA−A線に相当する断面図である。
【0030】
基板成膜処理用マスクホルダ100では、図6(a)に示すように、下層プレート120に開設する穴部130を複数個配置している。穴部は、隣接する4つの穴部の中心が一辺の寸法がdの正方形をなすよう格子状に規則的に配置している。各穴部130を近づけると、磁石140を密集して配置することができるが、あまり寸法dを小さくすると、各穴部130に形成される固定溝部134同士が干渉し合う虞がある。
実施形態1に係る基板成膜処理用マスクホルダ100では、下層プレート120の穴部130に形成される固定溝部134を、4つの穴部130の中心がなす正方形の対角線方向(図6(a)、(d)中矢印E)に配置するようにしている。このため、穴部130の中心間の寸法dを小さくしても、固定溝部134が隣り合って配置される穴部130の固定溝部134が重なることなくなる。よって、穴部130の間隔寸法を可及的に小さくすることができ、磁石140の吸引力を大きくできる。
【0031】
次に上層プレート110と下層プレート120との接合部について説明する。図7は基板成膜処理用マスクホルダにおいて上層プレートと下層プレートとを組み合わせた状態を示す断面図である。実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダ100では、上層プレート110の下面には、磁石140及び係止部材150が配置された領域以外の領域で下層プレート120と接触する接触部111を形成している。接触部111は、上層プレート110の下方から下層プレート120側に向けて形成されて凸となる。このため、上層プレート110からの熱が、接触部111から、直接下層プレート120に伝導するので、上層プレート110上に配置した基板10を効率よく冷却することができる。
【0032】
次に基板成膜処理用マスクホルダ100の具体例について説明する。基板成膜処理用マスクホルダ100おいて、下層プレート120は、加工性と熱伝導性を考慮し純銅材で製作することが望ましい。下層プレート120の厚さは、例えば7mmとし、穴部130は、直径4.3mmとし、直径4mmの磁石140を配置する。穴部130は、間隔dを4.6mmで、直交配列する。固定溝部134としては、下層プレート120の上側面から0.5mmの深さ位置で、1mmの深さで設ける。
磁石140は、円柱中実形状で直径4mm、高さ6mmの希土類マグネットを使用する。係止部材150は、加工性を考慮して厚さ0.1mmのSUS304硬化材をプレス成形で製作する。






【0033】
係止部材150の周側部151の内径は4mm、すなわち磁石140の外径と同一とし、突出爪153の突出量を0.3mmとする。
上層プレート110は厚さ3mmの純銅で製作し、下層プレート120の穴部130に対応する位置に直径4.4mmで深さ2.2mmに穴あけ加工する。下層プレート120に挿入した磁石140は下層プレート120の表面から2mmの高さで突出するものとし、上層プレート110の開口深さはこれを上回る。このため、下層プレート120と上層プレート110を接触させた場合、下層プレート120の下面のうち穴あけ加工されていない部分が接触部111として下層プレート120に接触し、基板からの熱を高い効率で伝導できる。
【0034】
また、上層プレート110は、3mmの厚さとすると、基板10への成膜後に上層プレート110と下層プレート120を引き離す際、磁石140がマスク20を吸引している磁力に対し機械的な強度を維持できる。これにより、上層プレート110が撓んだりして基板10に不要な変形を与えることがない。
以上のように、本実施形態に係る基板成膜処理用マスクホルダによれば、配置面積を広くとる割には磁力が弱い環状磁石ではなく、配置面積が狭いながらも磁力の強い円柱状の磁石を高密度に配置することが可能となり、単位面積当たりの磁力が強力な円柱状の磁石によりマスクと基板との密着を確実に行える。このため、マスクの浮き等による成膜パターンの欠陥を解消することができる。また係止部材を使用して磁石を配置したので、運用時に必要に応じて任意の磁石を容易に交換できる。このため、全体の運用性を高めることができる。更にスバッタ等で発生する基板への自由電子の流入による発熱を効率的に伝導し、成膜時の温度上昇を防ぐことが可能となり、成膜材料の内部応力を緩和することができる。
なお、磁石は円柱状に限らず、三角柱、四角柱、その他の多角柱、或いは異形の柱体であってもよい。従って本明細書、特許請求の範囲において柱体状とは、全ての柱体を含むものである。
【0035】
尚、本実施形態において上層プレート、下層プレートの材料は純銅に限定されるものではなく、アルミ等他の金属素材で製作することができる。また上層プレートの厚さは磁石の突出量により決定されるが、磁石の突出量を増やし上層プレートの厚さを増し、より高い強度を確保することもできる。
更に、係止部材は、実施形態ではステンレス鋼(SUS304)としたが、適度な弾力性をもつ他の材料、例えばリン青銅、チタンなどを使用できる。また係止部材としては、1枚の板材を円筒形状に丸める加工をして製作した例を示したが、プレスでの絞り成形で製作することもできるし、インジェクション成型等を使用して合成樹脂で製作することもできる。
【符号の説明】
【0036】
10…基板、20…マスク、100…基板成膜処理用マスクホルダ、110…上層プレート(第1プレート)、111…接触部、120…下層プレート(第2プレート)、130…穴部、133…突出爪配置領域、134…固定溝部、135…取外し部、140…磁石、150…係止部材、151…周側部、152…爪部、153…突出爪
図1
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