特許第6042282号(P6042282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042282
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】気体圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 35/00 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   F04B35/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-151543(P2013-151543)
(22)【出願日】2013年7月22日
(65)【公開番号】特開2015-21454(P2015-21454A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】石橋 泰央
(72)【発明者】
【氏名】田尻 政義
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敬太
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−269602(JP,A)
【文献】 特開2004−324543(JP,A)
【文献】 米国特許第05238094(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を含む圧縮機本体を収容するハウジングと、前記回転軸を中心とする円環状に形成された電磁コイルを有する電磁クラッチとを備え、
前記ハウジングに形成された、前記電磁コイルの一方の端面が突き当てられる座面の少なくとも一部は、前記電磁コイルの中心半径よりも半径方向の外側まで延びて形成され、
前記座面の、前記回転軸を中心とする少なくとも3つの部分が、前記電磁コイルの中心半径よりも半径方向の外側まで延びて形成されている気体圧縮機。
【請求項2】
前記少なくとも3つの部分のうち3つの部分は、前記回転軸を囲む位置に形成されている請求項1に記載の気体圧縮機。
【請求項3】
前記少なくとも3つの部分は、前記回転軸を中心として略等角度間隔の位置に形成されている請求項1に記載の気体圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体圧縮機(コンプレッサ)に関し、詳細には、回転軸に動力を伝達する電磁クラッチの設置構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和システム(以下、空調システムという。)には、冷媒ガスなどの気体を高圧の圧縮気体に圧縮する圧縮室を有する気体圧縮機が用いられている。
【0003】
この気体圧縮機のうち外部から動力を受けて動作するものは、その動力の入力の受け入れと入力の停止とを切り替えるために、電磁クラッチを備えている。
この電磁クラッチは、プーリと一体的に回転するロータと、円環状に形成された電磁コイルと、電磁コイルの通電によって発生した磁束によりロータの外面に接し、電磁コイルの通電停止によって磁束が消失することによりロータの外面から離れるアーマチュアとを備えている。
電磁コイルは、銅線が巻かれたコイル本体であるコアと、コアを収容したハウジングであるコアケースとを備えており、コアケースの一部が、気体圧縮機のハウジングのノーズの部分に形成された座面に突き当てられた状態で、リテーナによってハウジングに固定されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−106603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された気体圧縮機は、ハウジングのノーズに形成された座面が、円環状に形成された電磁コイルの中心半径(外周径(直径)と内周径(直径)との略中間の位置(電磁コイルの部分ごとの重心の位置)の直径の半分)よりも半径方向の内側にのみ形成されている。
ここで、電磁コイルは、通電によって発生した磁束によりアーマチュアを吸引するが、その反力によって、電磁コイル自体もアーマチュアの側に引かれる荷重を受ける。
一方、通電が停止すると、電磁コイル自体が受けていた荷重がなくなり、電磁コイルは座面に押し付けられた状態に戻る。
【0006】
しかし、電磁コイルの端面が突き当てられる座面が、電磁コイルの部分ごとの重心よりも内側にのみ形成されているため、電磁コイルの部分ごとの重心を座面で受けることができない。
このような状況が長期間に亘って繰り返されると、電磁コイルと座面との間に隙間が生じて、電磁コイルとハウジングとの間でガタつきが生じ、このガタつきに起因して異音が発生したり、振動が発生したりする。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、電磁コイルとハウジングとの間のガタつきの発生を防止乃至抑制することができる気体圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る気体圧縮機は、ハウジングに形成された座面の少なくとも一部を、電磁コイルの中心半径よりも半径方向の外側まで延びたものとすることで、電磁コイルとハウジングとの間のガタつきの発生を防止乃至抑制するものである。
すなわち、本発明に係る気体圧縮機は、回転軸を含む圧縮機本体を収容するハウジングと、前記回転軸を中心とする円環状に形成された電磁コイルを有する電磁クラッチとを備え、前記ハウジングに形成された、前記電磁コイルの一方の端面が突き当てられる座面の少なくとも一部は、前記電磁コイルの中心半径よりも半径方向の外側まで延びて形成され、前記座面の、前記回転軸を中心とする少なくとも3つの部分が、前記電磁コイルの中心半径よりも半径方向の外側まで延びて形成されているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る気体圧縮機によれば、電磁コイルとハウジングとの間のガタつきの発生を防止乃至抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ形式のコンプレッサを示す分解斜視図である。
図2図1に示したコンプレッサ(電磁クラッチを取り付けた状態)の縦断面図である。
図3図2における矢視Aによる側面図(電磁クラッチを取り外した状態)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の気体圧縮機に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
(構成)
本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ形式のコンプレッサ100(以下、単にコンプレッサ100という。)は、図1に示すように、供給された冷媒ガスG(気体)を高圧に圧縮する圧縮機本体60をハウジング10の内部に収容し、ハウジング10には、電磁クラッチ90が取り付けられている。
このコンプレッサ100は、冷却媒体の気化熱を利用して冷却を行う空気調和システム(以下、単に空調システムという。)の一部として構成され、この空調システムの他の構成要素である凝縮器、膨張弁、蒸発器等とともに、冷却媒体の循環経路上に設けられている。
【0013】
コンプレッサ100は、空調システムの蒸発器から取り入れた気体状の冷却媒体としての冷媒ガスGを圧縮し、この圧縮された冷媒ガスGを空調システムの凝縮器に供給する。
凝縮器は、圧縮された冷媒ガスGを周囲の空気等との間で熱交換することにより冷媒ガスGから放熱させて液化させ、高圧で液状の冷媒として膨張弁に送出する。
高圧で液状の冷媒は、膨張弁で低圧化され、蒸発器に送出される。低圧の液状冷媒は、蒸発器において周囲の空気から吸熱して気化し、この冷媒の気化に伴う熱交換により蒸発器周囲の空気を冷却する。
気化した低圧の冷媒ガスGは、コンプレッサ100に戻って圧縮され、以下、上記工程を繰り返す。
【0014】
ハウジング10は、一端が閉じられ他端が開放されたケース11と、このケース11の開放された他端を覆うフロントヘッド12とからなり、ボルト等の締結部材によって、フロントヘッド12がケース11に組み付けられている。
フロントヘッド12がケース11に組み付けられた状態で、ハウジング10の内部に空間が形成され、その空間に圧縮機本体60および油分離器70が収容されている。
【0015】
圧縮機本体60は、いわゆるベーンロータリ形式の圧縮機であり、回転軸51の回転に伴って容積が変化する圧縮室内の冷媒ガスGを圧縮する。
回転軸51は、図2に示すように、軸心C回りに回転可能に支持されており、フロントヘッド12のノーズ部14に支持された電磁クラッチ90に連結されている。
【0016】
電磁クラッチ90は、プーリ91とロータ92と電磁コイル93とアーマチュア94とを備えた構成である。
プーリ91は、ベルトが巻き掛けられてエンジン等の動力源から動力の入力を受ける。
ロータ92は、プーリ91と一体的に形成されており、ラジアルベアリングを介してフロントヘッド12のノーズ部14に固定されていて、回転軸51の軸心C回りに回転可能となっている。
したがって、プーリ91に動力の入力を受けると、プーリ91とロータ92とは一体的に、軸心C回りに回転する。
【0017】
電磁コイル93は、銅線が巻かれたコイル本体であるコア93aと、コア93aを収容したハウジングであるコアケース93bと、コアケース93bの端面に接合された環状板93cとを備えている。
コア93aはコアケース93bに収容されたままの状態で、プーリ91とロータ92とによって仕切られた環状の空間内に、プーリ91およびロータ92に接触しない状態で収容されている。
【0018】
環状板93cは、その中心孔93dにフロントヘッド12のノーズ部14が通されて、リテーナ95により、ノーズ部14に固定されている。
環状板93cの外径(軸心Cからの半径)S1は、軸心Cから二点鎖線で示したコア93aの中心93gまでの距離である中心半径S2よりも長く形成されている。
環状板93cがノーズ部14に固定されている状態で、環状板93cの一方の端面93e(電磁コイルの一方の端面)は、フロントヘッド12に形成された平面の座面13(図3のハッチングで示した部分)に突き当てられて接している。
【0019】
この座面13は、図3に示すように、そのうち少なくとも一部が、電磁コイル93の、二点鎖線で示したコア93aの中心93gよりも軸心Cからの半径方向の外側まで延びて形成されている。
具体的には、図3において、座面13の5つの部分13a,13b,13c,13d,13eが、コア93aの中心93gよりも軸心Cからの半径方向の外側まで延びて形成されている。
【0020】
アーマチュア94は、内リング94aと外リング94bと板バネ94cとを備えている。
内リング94aは、フロントヘッド12から突出した回転軸51の端部に締結されている。
外リング94bは、内リング94aよりも半径方向の外側に張り出して形成されており摩擦係数の高い材料で形成されている。
外リング94bは、ロータ92の、軸心Cに直交する側壁面とわずかな隙間を介して配置されているが、板バネ94cの弾性変形によってロータ92の側壁面に接触する。
板バネ94cは、内リング94aと外リング94bとを連結していて、板バネ94cの、軸心Cの延びた方向に沿っての弾性変形の範囲内で、内リング94aに対して外リング94bが変位するのを許容している。
以上の構成により、アーマチュア94は全体として、回転軸51と一体的に軸心C回りに回転可能となっている。
【0021】
電磁コイル93に通電されると、発生した磁束により、外リング94bがロータ92の側に吸引されてロータ92の側壁面に接し、外リング94bとロータ92の側壁面との接触による摩擦力により、ロータ92の回転がアーマチュア94に伝達され、回転軸51を回転させる。
一方、電磁コイル93への通電が停止されると、アーマチュア94を吸引していた磁束が消失し、外リング94bが板バネ94cの弾性復元力によりロータ92の側壁面から離れ、ロータ92の回転がアーマチュア94に伝達されず、回転軸51は回転しない。
【0022】
(作用)
以上のように構成された本実施形態のコンプレッサ100によると、動力源から入力されている動力によってプーリ91およびロータ92は常時回転している。
ここで、電磁クラッチ90の電磁コイル93に通電されていないときは、アーマチュア94はロータ92に接しないため回転せず、したがって、コンプレッサ100は冷媒ガスGを圧縮する動作を行わない。
一方、電磁クラッチ90の電磁コイル93に通電されているときは、電磁コイル93の発生する磁束によって、アーマチュア94の外リング94bが電磁コイル93に吸引されてロータ92の側壁面に接し、外リング94bとロータ92の側壁面との間に生じる摩擦力によって、アーマチュア94の外リング94bが回転する。
すると、板バネ94cを介して外リング94bに連結されている内リング94aも、外リング94bおよび板バネ94cと一体的に回転し、内リング94aに連結された回転軸51が回転し、コンプレッサ100は冷媒ガスGを圧縮する動作を行う。
【0023】
ここで、電磁コイル93の全体の重心は軸心Cであるが、周方向に沿った微小な部分の単位での重心は、コア93aの中心93gとなる。
このため、コア93aの部分ごとの重心である中心93gが、座面13に接していない状態であると、座面13が重心を支持していないため、その部分を安定して支持することができないおそれがあり、電磁コイル93の全体としてガタつきなどが生じるおそれがある。
【0024】
しかし、本実施形態のコンプレッサ100は、座面13の一部である5つの部分13a,13b,13c,13d,13eが、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている。
これら5つの部分13a,13b,13c,13d,13eは、コア93aの部分ごとの重心である中心93gを支持することができ、電磁コイル93とハウジング10との間のガタつきの発生を防止乃至抑制することができる。
【0025】
また、本実施形態のコンプレッサ100は、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分が5つあるため、これらの5つの部分13a,13b,13c,13d,13eのうち少なくとも3つの部分によって、電磁コイル93の端面である環状板93cの端面93eを支持する1つの平面(座面13)を規定することができる。
【0026】
なお、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分が電磁コイル93の端面である環状板93cの端面93eを支持する1つの平面を規定するためには、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されているそれらの部分の数は少なくとも3つでよい。
したがって、本実施形態のコンプレッサ100は、座面13の、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分が5つであるが、本発明に係る気体圧縮機は、座面13の、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分が少なくとも3つあればよい。
ただし、そのような座面13の部分のそれぞれがある程度の広さを有する場合は、そのような座面13の部分は3つ存在しなくても1つの平面を規定することができるため、座面13の、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分は2つであってもよいし、1つであってもよい。
【0027】
また、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている5つの部分13a,13b,13c,13d,13eのうち3つの部分(例えば、部分13a,13c,13e)は、回転軸51の軸心Cを囲む位置に形成されている。
軸心Cは、電磁コイル93の全体の重心であるため、軸心Cを囲む3つの部分13a,13c,13eは電磁コイル93の全体の重心を囲む部分となる。
したがって、これら3つの部分13a,13c,13eは、電磁コイル93を、軸心Cに直交する面(座面13)に対して傾かせることなく、支持することができる。
【0028】
なお、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている5つの部分13a,13b,13c,13d,13eのうち少なくとも3つの部分は、回転軸51の軸心Cの回りに等角度間隔の位置に形成されていることが好ましい。
このように、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分が等角度間隔で配置されていることにより、電磁コイル93の全体をバランスよく支持することができる。
【0029】
また、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている3つ以上の部分の全ての部分(例えば、5つの部分13a,13b,13c,13d,13eの全て)は等角度間隔で配置されていてもよいし、3つ以上の部分のうち3つ以上の一部の部分(例えば、5つの部分13a,13b,13c,13d,13eのうちのいずれか3つの部分またはいずれか4つの部分)が等角度間隔で配置されていてもよい。
【0030】
上述した実施形態のコンプレッサ100は、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分が、軸心C回りに互いに離れた5つの部分13a,13b,13c,13d,13eとして形成されているが、本発明に係る気体圧縮機は、この形態に限定されるものではない。
すなわち、本発明に係る気体圧縮機は、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分が、軸心C回りの全周に亘って繋がっていてもよい。
このように、座面13のうち、コア93aの中心93gよりも半径方向の外側まで延びて形成されている部分が、軸心C回りの全周に亘って繋がっているものは、上述した実施形態と同様に、電磁コイル93とハウジング10との間のガタつきの発生を防止乃至抑制することができるとともに、電磁コイル93の全体を最もバランスよく支持することができる。
【0031】
本発明に係る気体圧縮機は、上述した実施形態であるベーンロータリ形式のコンプレッサに限定されるものではなく、斜板形式やスクロール形式等のコンプレッサであってもよく、その形式に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
10 ハウジング
13 座面
13a,13b,13c,13d,13e 部分
51 回転軸
90 電磁クラッチ
93 電磁コイル
93a コア
93b コアケース
93c 環状板
93e 端面
93g 中心
94 アーマチュア
100 コンプレッサ(気体圧縮機)
C 軸心
図1
図2
図3