特許第6042287号(P6042287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042287基地局装置並びにその制御方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042287
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】基地局装置並びにその制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 56/00 20090101AFI20161206BHJP
   H04L 7/00 20060101ALI20161206BHJP
   H04W 16/32 20090101ALI20161206BHJP
【FI】
   H04W56/00 110
   H04L7/00 930
   H04L7/00 990
   H04W16/32
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-161319(P2013-161319)
(22)【出願日】2013年8月2日
(65)【公開番号】特開2015-32997(P2015-32997A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年1月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)平成25年度、総務省、「戦略的国際連携型研究開発推進事業」のうち「ミリ波を活用するヘテロジニアスセルラネットワークの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】秋元 陽介
(72)【発明者】
【氏名】小西 聡
【審査官】 田畑 利幸
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0111070(US,A1)
【文献】 特開2011−109165(JP,A)
【文献】 特開2001−308837(JP,A)
【文献】 特開2007−259294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
H04L 7/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置であって、
他の基地局装置から送信された第1の無線信号を受信する受信手段と、
前記第1の無線信号を受信してから第1の所定時間が経過した後に、第2の無線信号を送信する送信手段と、
前記他の基地局装置において前記第1の無線信号を送信したタイミングと前記第2の無線信号を受信したタイミングと前記第1の所定時間とに基づいて算出された前記基地局装置と前記他の基地局装置との間の無線区間の伝搬遅延の情報を、当該他の基地局装置から取得する取得手段と、
前記伝搬遅延の情報に基づいて、前記他の基地局装置と時間同期するように前記基地局装置を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
前記取得手段は、前記第1の無線信号の受信の前に、前記他の基地局装置から、前記第1の無線信号に関する情報を取得し、
前記送信手段は、前記他の基地局装置から通知された情報に基づいて当該第1の無線信号を前記受信手段が受信してから前記第1の所定時間が経過した後に、前記第2の無線信号を送信する、
ことを特徴とする請求項1に記載の基地局装置。
【請求項3】
前記取得手段は、前記第1の無線信号の受信の前に、前記他の基地局装置から、前記第1の無線信号が送信されるタイミングに関する情報を取得し、
前記送信手段は、通知されたタイミングから第2の所定時間が経過しないうちに、前記他の基地局装置から前記第1の無線信号を前記受信手段が受信した場合、当該第1の無線信号を受信してから前記第1の所定時間が経過した後に、前記第2の無線信号を送信する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記取得手段は、前記送信手段が送信すべき前記第2の無線信号に関する情報を、前記他の基地局装置から取得し、
前記送信手段は、通知された情報に基づいて前記第2の無線信号を送信する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記伝搬遅延と、前記他の基地局装置からの送信時刻の情報が含まれる無線信号を受信した際の、前記基地局装置における受信時刻と、前記送信時刻とに基づいて、前記基地局装置の内部の時計と前記他の基地局装置の内部の時計とが一致するように、前記基地局装置の内部の時計を制御することにより、前記基地局装置を前記他の基地局装置と時間同期するように制御する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記他の基地局装置からの無線信号を受信したタイミングと前記伝搬遅延とに基づいて、信号を送信するタイミングを制御することにより、前記基地局装置を前記他の基地局装置と時間同期するように制御する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項7】
基地局装置であって、
第1の無線信号を送信する送信手段と、
他の基地局装置から、当該他の基地局装置が前記第1の無線信号を受信してから所定時間が経過した後に送信する第2の無線信号を受信する受信手段と、
前記第1の無線信号を送信したタイミングと、前記第2の無線信号を受信したタイミングと、前記所定時間と、に基づいて、前記基地局装置と前記他の基地局装置との間の無線区間の伝搬遅延を算出する算出手段と、
前記伝搬遅延の情報を前記他の基地局装置へ通知する通知手段と、
を有し、
前記他の基地局装置は、前記伝搬遅延の情報に基づいて、前記基地局装置と時間同期するように制御される、
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項8】
前記通知手段は、前記第1の無線信号の送信の前に、当該第1の無線信号に関する情報を前記他の基地局装置へ通知する、
ことを特徴とする請求項7に記載の基地局装置。
【請求項9】
前記通知手段は、前記第1の無線信号の送信の前に、当該第1の無線信号の送信タイミングに関する情報を前記他の基地局装置へ通知する、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の基地局装置。
【請求項10】
前記通知手段は、前記他の基地局装置が送信すべき前記第2の無線信号に関する情報を当該他の基地局装置へ通知する、
ことを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項11】
前記算出手段は、前記第1の無線信号を送信したタイミングをt、前記第2の無線信号を受信したタイミングをy、前記所定時間をx、前記伝搬遅延をzとした場合に、
z=(y−t−x)/2
により、伝搬遅延zを算出する、
ことを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項12】
前記算出手段は、複数回、前記伝搬遅延を算出してその平均値を算出し、
前記通知手段は、前記平均値を前記他の基地局装置へ通知する、
ことを特徴とする請求項7から11のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項13】
基地局装置の制御方法であって、
受信手段が、他の基地局装置から送信された第1の無線信号を受信する受信工程と、
送信手段が、前記第1の無線信号を受信してから第1の所定時間が経過した後に、第2の無線信号を送信する送信工程と、
取得手段が、前記他の基地局装置において前記第1の無線信号を送信したタイミングと前記第2の無線信号を受信したタイミングと前記第1の所定時間とに基づいて算出された前記基地局装置と前記他の基地局装置との間の無線区間の伝搬遅延の情報を、当該他の基地局装置から取得する取得工程と、
制御手段が、前記伝搬遅延の情報に基づいて、前記基地局装置を前記他の基地局装置と時間同期するように制御する制御工程と、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項14】
基地局装置の制御方法であって、
送信手段が、第1の無線信号を送信する送信工程と、
受信手段が、他の基地局装置から、当該他の基地局装置が前記第1の無線信号を受信してから所定時間が経過した後に送信する第2の無線信号を受信する受信工程と、
算出手段が、前記第1の無線信号を送信したタイミングと、前記第2の無線信号を受信したタイミングと、前記所定時間と、に基づいて、前記基地局装置と前記他の基地局装置との間の無線区間の伝搬遅延を算出する算出工程と、
通知手段が、前記伝搬遅延の情報を前記他の基地局装置へ通知する通知工程と、
を有し、
前記他の基地局装置は、前記伝搬遅延の情報に基づいて、前記基地局装置と時間同期するように制御される、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項15】
無線信号を受信する受信手段と無線信号を送信する送信手段とを有する基地局装置に備えられたコンピュータに、
他の基地局装置から送信された第1の無線信号を受信するように前記受信手段を制御する工程と、
前記第1の無線信号を受信してから第1の所定時間が経過した後に、第2の無線信号を送信するように前記送信手段を制御する工程と、
前記他の基地局装置において前記第1の無線信号を送信したタイミングと前記第2の無線信号を受信したタイミングと前記第1の所定時間とに基づいて算出された前記基地局装置と前記他の基地局装置との間の無線区間の伝搬遅延の情報を、当該他の基地局装置から取得する工程と、
前記伝搬遅延の情報に基づいて、前記基地局装置を前記他の基地局装置と時間同期するように制御する工程と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項16】
無線信号を受信する受信手段と無線信号を送信する送信手段とを有する基地局装置に備えられたコンピュータに、
第1の無線信号を送信するように前記送信手段を制御する工程と、
他の基地局装置から、当該他の基地局装置が前記第1の無線信号を受信してから所定時間が経過した後に送信する第2の無線信号を受信するように前記受信手段を制御する工程と、
前記第1の無線信号を送信したタイミングと、前記第2の無線信号を受信したタイミングと、前記所定時間と、に基づいて、前記基地局装置と前記他の基地局装置との間の無線区間の伝搬遅延を算出する工程と、
前記伝搬遅延の情報を前記他の基地局装置へ通知する工程と、
を実行させ、
前記他の基地局装置は、前記伝搬遅延の情報に基づいて、前記基地局装置と時間同期するように制御される、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信装置が複数の基地局装置と通信する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
第3世代パートナーシッププロジェクト(3GPP)において、大セル(マクロセル)のカバレッジ内に異なる周波数帯域(例えば、マクロセルで使用されるよりも高い周波数帯域)を使用する小セル(スモールセル)を多数設置することが議論されている。例えば、図1の例のように、2GHz帯の周波数帯域を使用するマクロセルのカバレッジエリア内に、3.5GHz帯の周波数帯域を使用するスモールセルが複数置局される。
【0003】
LTE Release 12では、このような環境において2つのタイプの基地局がMAC(媒体アクセス制御)レイヤより上位のレイヤにおいて連携するDual Connectivityという技術について議論が開始されている。ここで、2つのタイプの基地局とは、マスタeNB(例えばマクロ基地局)とスレーブeNB(例えばスモールセルの基地局)であり、マスタeNBが通信制御を主導し、スレーブeNBは、その通信制御に基づいて動作する。Dual Connectivityでは、2つのタイプの基地局間が有線又は無線のバックホール回線で接続され、例えば、端末へ送信されるトラフィックはマスタeNBを経由してスレーブeNBへ受け渡される。受け渡された信号は、その後、スレーブeNBから端末へ無線信号として送信される。また、端末からスレーブeNBへ送信された信号は、スレーブeNBからマスタeNBへ転送される。すなわち、全て又は大部分のトラフィックが、マスタeNBを一度通過することとなる。
【0004】
ここで、バックホール回線は、例えば1Gbpsなどの大容量が求められる一方で、その遅延に対する要求は、10msec以上など比較的厳しくない。したがって、図2に示すように、Dual Connectivityでは、モビリティ維持などの制御データ(C−plane)や、音声通話トラフィックなどリアルタイム性の高いデータはマスタeNBから端末へ送信される。一方で、Web閲覧などのリアルタイム性が要求されないベストエフォート型のユーザデータ(U−plane)は、スレーブeNBから端末へ送信される。これにより、スレーブeNBへの接続に伴うハンドオーバを行うことなく、スレーブeNBへのデータオフローディングを行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NTT DOCOMO、R1−132679、“Views on radio−IF based synchronization mechanisms”、3GPP TSG RAN WG1#73、2013年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マスタeNBとスレーブeNBとが高度な連携を行う場合、高精度な時間同期が求められることがある。ここで、高精度な時間同期の実現のためには、GPSを用いた時間同期が広く利用されている。しかしながら、スモールセルの基地局の設置場所は屋外に限らないため、GPSを常に利用することができるわけではない。これに対して、3GPPでは無線インタフェースを利用した時間同期の手法が議論されている。例えば、非特許文献1は、マクロ基地局から送信される下り信号をスモールセルの基地局が受信することにより、時間同期を実現する方法を提案している。しかしながら、この方法では、伝搬遅延を含めた高精度な時間同期が容易ではないという課題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、マスタeNBとスレーブeNBとの間で高精度な時間同期を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による基地局装置は、他の基地局装置から送信された第1の無線信号を受信する受信手段と、前記第1の無線信号を受信してから第1の所定時間が経過した後に、第2の無線信号を送信する送信手段と、前記他の基地局装置において前記第1の無線信号を送信したタイミングと前記第2の無線信号を受信したタイミングと前記第1の所定時間とに基づいて算出された前記基地局装置と前記他の基地局装置との間の無線区間の伝搬遅延の情報を、当該他の基地局装置から取得する取得手段と、前記伝搬遅延の情報に基づいて、前記他の基地局装置と時間同期するように前記基地局装置を制御する制御手段と、を有する。
【0009】
また、上記目的を達成するため、本発明による別の基地局装置は、第1の無線信号を送信する送信手段と、前記他の基地局装置から、当該他の基地局装置が前記第1の無線信号を受信してから所定時間が経過した後に送信する第2の無線信号を受信する受信手段と、前記第1の無線信号を送信したタイミングと、前記第2の無線信号を受信したタイミングと、前記所定時間と、に基づいて、前記基地局装置と前記他の基地局装置との間の無線区間の伝搬遅延を算出する算出手段と、前記伝搬遅延の情報を前記他の基地局装置へ通知する通知手段と、を有し、前記他の基地局装置は、前記伝搬遅延の情報に基づいて、前記基地局装置と時間同期するように制御される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マスタeNBとスレーブeNBとの間で高精度な時間同期を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】それぞれ異なる周波数帯域を使用するマクロセルとスモールセルとの配置例を示す概念図。
図2】Dual Connectivityによる端末と複数のeNBとの間の通信の例を示す概念図。
図3】マスタeNB、スレーブeNB及び端末のハードウェア構成例を示す図。
図4】マスタeNBの機能構成例を示すブロック図。
図5】スレーブeNBの機能構成例を示すブロック図。
図6】マスタeNB及びスレーブeNBの動作例を示すシーケンスチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
(システム構成)
本実施形態に係る無線通信システムは、例えば、図2に示すように、マスタeNB、スレーブeNB及び端末を含む。なお、ここでは、eNBは基地局装置であるが、対応する無線通信システムは、LTE以外のものであってもよい。また、端末は、移動体又は固定された無線通信装置であり、LTE以外の無線通信システムに対応してもよい。なお、本実施形態の無線通信システムでは、マスタeNBは第1の周波数帯域(例えば2GHz)を用いて通信を行い、スレーブeNBは第2の周波数帯域(3.5GHz)を用いて通信を行う。ただし、マスタeNBとスレーブeNBとが同一の周波数帯域を使用する場合であっても、以下の議論は成立する。
【0014】
本実施形態では、マスタeNBとスレーブeNBとは、互いに有線又は無線の通信回線(バックホール回線)によって接続される。そして、マスタeNB及びスレーブeNBは、例えば協調して、同じタイミングで下りリンクの信号を端末に向けて送信する。このとき、マスタeNBとスレーブeNBとの間では、高精度な時間同期が要求される場合がある。高精度な時間同期を確保しておくことにより、例えば、マスタeNBとスレーブeNBとからの信号が、それぞれガードインターバル(GI)を超えない範囲で遅延波を含んで到来することとなる。このため、1回のFFT処理により、マスタeNBとスレーブeNBとからの送信データを同時に抽出することが可能となる。
【0015】
本実施形態では、このような高精度な時間同期を確保するために、スレーブeNBは、マスタeNBからの第1の無線信号を受信する。ここで、この第1の無線信号は、スレーブeNBに宛てられたものでなくてもよく、スレーブeNBは、端末に宛てて送信された無線信号を傍受するのであってもよい。そして、スレーブeNBは、その第1の無線信号を受信してから所定時間が経過した後に、第2の無線信号をマスタeNBへと送信する。マスタeNBは、第2の無線信号を受信すると、第1の無線信号を送信したタイミングと第2の無線信号を受信したタイミングと、上述の所定時間とに基づいて、マスタeNBとスレーブeNBとの間の無線区間の伝搬遅延を算出する。その後、マスタeNBは、スレーブeNBへ、例えばX2インタフェースを用いて、その伝搬遅延を通知する。
【0016】
その後、スレーブeNBは、通知された伝搬遅延を用いて、マスタeNBとの時間同期制御を実行する。具体的には、スレーブeNBは、例えば、送信時刻を含むマスタeNBからの無線信号を受信し、そのスレーブeNBにおける受信時刻から伝搬遅延を減算した結果の時刻と、無線信号に含まれていた送信時刻とが一致するように、内部の時計を制御する。又は、スレーブeNBは、マスタeNBからの無線信号の受信タイミングから伝搬遅延を減算したタイミングに応じて信号を送信するタイミングを制御する。すなわち、スレーブeNBは、マスタeNBにおける無線信号の送信タイミングを、その無線信号の受信タイミングから伝搬遅延を減算することによって取得し、その送信タイミングに合わせて無線信号を送信することにより、マスタeNBとの時間同期をとる。なお、この処理は、複数回、繰り返して実行されてもよい。
【0017】
このように、本実施形態では、マスタeNBとスレーブeNBとの間の伝搬遅延を算出して、その結果に応じて、スレーブeNBがマスタeNBとの時間同期を確保する。これによれば、スレーブeNBが、マスタeNBが実際に信号を送信するタイミングに基づいて時間同期をとることが可能となるため、マスタeNBとスレーブeNBとの間の高精度な時間同期を確保することが可能となる。
【0018】
以下、マスタeNB及びスレーブeNBの構成及び動作について、詳細に説明する。
【0019】
(基地局及び端末のハードウェア構成)
図3は、マスタeNB及びスレーブeNBのハードウェア構成例を示す図である。マスタeNB及びスレーブeNBは、一例において、図3に示すような、同様のハードウェア構成を有し、例えば、CPU301、ROM302、RAM303、外部記憶装置304、及び通信装置305を有する。マスタeNB及びスレーブeNBでは、例えばROM302、RAM303及び外部記憶装置304のいずれかに記録された、以下に示すマスタeNB及びスレーブeNBの各機能を実現するプログラムがCPU301により実行される。そして、マスタeNB及びスレーブeNBは、通信装置305を用いて、マスタeNB若しくはスレーブeNBと端末との間の通信、又はマスタeNBとスレーブeNBとの間のeNB間通信を行う。なお、図3では、マスタeNB及びスレーブeNBは、1つの通信装置305を有するとしているが、例えば、eNB間の通信用の通信装置及び端末との間の通信装置を有してもよい。
【0020】
なお、マスタeNB及びスレーブeNBは、以下に説明する各機能を実行する専用のハードウェアを備えてもよいし、一部をハードウェアで実行し、プログラムを動作させるコンピュータでその他の部分を実行してもよい。また、以下の全機能をコンピュータとプログラムにより実行させてもよい。
【0021】
(マスタeNBの機能構成)
図4は、マスタeNBの機能構成例を示すブロック図である。マスタeNBは、例えば、無線通信部401、有線通信部402、及び伝搬遅延算出部403を有する。
【0022】
無線通信部401は、無線信号を送出し、他の無線通信装置から送出された無線信号を受信する機能部である。本実施形態においては、無線通信部401は、例えば、端末及びスレーブeNBが受信する第1の無線信号(例えば同期信号など)を送信し、スレーブeNBが送信する第2の無線信号(例えばマスタeNBが指定した系列を用いたPRACH)を受信する。そして、無線通信部401は、例えば、第1の無線信号を送信したタイミングと、第2の無線信号を受信したタイミングとを、伝搬遅延算出部403に通知する。なお、伝搬遅延算出部403は、第1の無線信号を送信したタイミングと、第2の無線信号を受信したタイミングとを無線通信部401を監視して取得してもよい。
【0023】
有線通信部402は、例えばX2インタフェースを介して、他の基地局装置と有線通信を行う機能部である。本実施形態においては、有線通信部402は、スレーブeNBとの間の有線通信を行い、例えば、第2の無線信号の送信に使用すべき系列を指定する情報を送信する。この場合、無線通信部401は、指定した系列を用いた無線信号が受信された場合に、その無線信号が第2の無線信号であると判定し、この無線信号を受信したタイミングを伝搬遅延算出部403に通知する。一方、指定した系列を用いていない無線信号は第2の無線信号ではないため、無線通信部401は、無線信号を受信しても、その無線信号を無視することができる。なお、第2の無線信号はあらかじめ定められた信号であってもよく、その場合は、有線通信部402は、スレーブeNBに対して第2の無線信号に関する情報を通知しなくてもよい。
【0024】
また、有線通信部402は、第1の無線信号の送信前に、第1の無線信号がどのような信号であるか(例えば、同期信号であること)をスレーブeNBへ通知してもよい。さらに、有線通信部402は、第1の無線信号の送信前に、第1の無線信号が送信されるタイミングに関する情報を、スレーブeNBへ通知してもよい。
【0025】
伝搬遅延算出部403は、第1の無線信号の送信タイミングと、第2の無線信号の受信タイミングと、スレーブeNBが第1の無線信号を受信後、第2の無線信号を送信するまでの所定時間とに基づいて、スレーブeNBまでの無線区間の伝搬遅延を算出する。具体的には、伝搬遅延算出部403は、第1の無線信号の送信タイミングをt、第2の無線信号の受信タイミングをy、所定時間をxとすると、伝搬遅延zを、z=(y−t−x)/2によって算出する。
【0026】
(スレーブeNBの機能構成)
図5は、スレーブeNBの機能構成例を示すブロック図である。スレーブeNBは、例えば、無線通信部501、有線通信部502、及び時間同期制御部503を有する。
【0027】
無線通信部501は、無線信号を送出し、他の無線通信装置から送出された無線信号を受信する機能部である。本実施形態においては、無線通信部501は、マスタeNBの下りリンクの信号を受信する能力と、マスタeNBが受信できる上りリンクの信号を送信する能力とを有する。
【0028】
無線通信部501は、例えば、マスタeNBが送信する第1の無線信号(例えば同期信号、共通参照信号など)を受信し、マスタeNBが受信する第2の無線信号(例えばマスタeNBが指定した系列を用いたPRACH)を送信する。そして、無線通信部501は、例えば、送信時刻の情報を含む無線信号をマスタeNBから受信して、その送信時刻の情報とその無線信号の受信時刻の情報とを時間同期制御部503へ通知する。また、無線通信部501は、マスタeNBからの無線信号の受信タイミングの情報を時間同期制御部503へ通知してもよい。
【0029】
有線通信部502は、例えばX2インタフェースを介して、他の基地局装置と有線通信を行う機能部である。本実施形態においては、有線通信部502は、マスタeNBとの間の有線通信を行い、例えば、マスタeNBとスレーブeNBとの間の無線区間の伝搬遅延に関する情報を取得する。伝搬遅延の情報は、時間同期制御部503へ通知される。
【0030】
また、有線通信部502は、第2の無線信号の送信に使用すべき系列を指定する情報を取得してもよい。この場合、無線通信部501は、送信に使用すべき系列の情報が取得されている場合は、その系列を用いて第2の無線信号を生成して、マスタeNBへ向けて送信する。なお、第2の無線信号は、予め定められた信号であってもよく、この場合は、有線通信部502は、このような系列の情報を取得しないでもよい。
【0031】
また、有線通信部502は、第1の無線信号がマスタeNBから送信される前に、第1の無線信号がどのような信号であるか(例えば、同期信号又は共通参照信号であること)の情報をマスタeNBから取得してもよい。この場合、無線通信部501は、取得した情報によって指定される無線信号を受信してから、所定時間が経過した後に、第2の無線信号をマスタeNBへと送信する。すなわち、この第1の無線信号の情報の通知によって、スレーブeNBは、時間同期制御のトリガとなる無線信号がどのような信号であるかを知ることができる。また、スレーブeNBは、通知された情報と異なる無線信号を受信した場合に、この信号が時間同期制御とは無関係であることを知ることができる。
【0032】
さらに、有線通信部502は、第1の無線信号が送信される前に、第1の無線信号が送信されるタイミングに関する情報を、マスタeNBから取得してもよい。この場合、無線通信部501は、そのタイミングから上述の所定時間(第1の所定時間)とは別の第2の所定時間が経過しないうちに第1の無線信号を受信した場合に、その受信タイミングから第1の所定時間が経過した後に、第2の無線信号を送信する。なお、第1の所定時間と第2の所定時間とは同じ長さであってもよい。このように、第1の無線信号の送信タイミングが通知されることで、スレーブeNBは、その送信タイミングから第2の所定時間を経過した後に受信した信号は、時間同期制御とは無関係であることを知ることができる。例えば、周期的に送信される同期信号又は共通参照信号が第1の無線信号である場合、第2の所定時間をその周期以下の時間長とすることで、第2の所定時間内では、同期信号又は共通参照信号が1回のみ受信されることとなる。したがって、スレーブeNBは、時間同期制御のトリガとなる第1の無線信号がどの信号であるかを特定することが可能となる。
【0033】
時間同期制御部503は、マスタeNBから通知された伝搬遅延に基づいて、スレーブeNBが、マスタeNBと時間同期するように、スレーブeNBを制御する。
【0034】
例えば、時間同期制御部503は、マスタeNBからの無線信号に含まれていた送信時刻の情報と、その無線信号を受信したスレーブeNBでの受信時刻の情報とを無線通信部501から取得した場合、これらの情報と伝搬遅延に基づいて内部の時計を制御する。具体的には、マスタeNBとスレーブeNBとの時間同期が確保されている場合、スレーブeNBの時計に基づく受信時刻から伝搬遅延を減算した結果の時刻は、無線信号に含まれる送信時刻と一致するはずである。このため、時間同期制御部503は、無線信号の受信時刻から伝搬遅延を減算した結果の時刻と、無線信号に含まれる送信時刻とに基づいて、スレーブeNBの内部の時計を、マスタeNBの内部の時計と一致するように制御する。例えば、受信時刻から伝搬遅延を減算した結果の時刻が、無線信号に含まれる送信時刻よりMミリ秒早い場合、時間同期制御部503は、スレーブeNBの内部の時計をMミリ秒遅らせる。同様に、例えば、受信時刻から伝搬遅延を減算した結果の時刻が、無線信号に含まれる送信時刻よりNミリ秒遅い場合、時間同期制御部503は、スレーブeNBの内部の時計をNミリ秒遅らせる。このように、マスタeNBとスレーブeNBとの時計を一致させることにより、例えば、時刻を指定した所定の処理(例えば下りリンクの信号の送信)を、マスタeNBとスレーブeNBとの間で同期して実行することが可能となる。
【0035】
また、時間同期制御部503は、例えば、マスタeNBからの無線信号の受信タイミングの情報を無線通信部501から取得した場合、この受信タイミングから伝搬遅延を減算した結果に応じて、無線通信部501が無線信号を送信するタイミングを制御する。すなわち、時間同期制御部503は、無線通信部501が無線信号を送信するタイミングを、マスタeNBの無線通信部401が無線信号を送信するタイミングと同期するように制御する。具体的には、時間同期制御部503は、マスタeNBの送信信号のフレームの開始タイミングと、スレーブeNBの送信信号のフレームの開始タイミングとが一致するように、送信タイミングを制御する。この場合、時間同期制御部503は、スレーブeNBの内部の時計を調整することなく、マスタeNBの信号送信タイミングとスレーブeNBの信号送信タイミングとを同期させることが可能となる。
【0036】
(無線通信システムで実行される処理)
続いて、マスタeNBとスレーブeNBとの間で実行される処理について、図6を参照して説明する。なお、図6においては、マスタeNBとスレーブeNBとの間の破線の矢印によりX2インタフェースを用いたeNB間通信を示し、実線の矢印によりマスタeNBとスレーブeNBとの間での無線信号の送信及び受信を示している。
【0037】
初期状態として、マスタeNBとスレーブeNBとは、例えば、マスタeNBによる同期信号又は共通参照信号などの無線信号を用いて(S601)、粗同期を確立しているものとする(S602)。スレーブeNBは、例えば、これらの無線信号に送信時刻が含まれている場合、その無線信号を受信した時刻が、その送信時刻であると仮定して内部の時計を調整することにより、粗同期をとることが可能となる。なお、反射や回折などにより複数の電波が到来する場合は、スレーブeNBは、それらの電波のうち、最初に到来した電波を基準として粗同期をとってもよい。スレーブeNBは、例えば、プライマリ同期信号(PSS)やセカンダリ同期信号(SSS)を利用することにより、フレーム(10ms単位)とサブフレーム(1ms単位)の受信タイミング同期をとることができる。
【0038】
その後、マスタeNB及びスレーブeNBは、時間同期の調整を開始する。まず、マスタeNBは、第1の無線信号に関する情報と第2の無線信号に関する情報との少なくともいずれかを、例えばX2インタフェースを用いてスレーブeNBへ通知する(S603)。マスタeNBは、例えば、時間同期の調整に使用する第1の無線信号が、どのような信号であるか(同期信号であるか、共通参照信号であるか、など)をスレーブeNBへ通知する。なお、第1の無線信号がどのような信号であるかをスレーブeNBが知っている場合は、この通知はなくてもよい。また、マスタeNBは、第1の無線信号の送信タイミングをスレーブeNBへ通知してもよい。なお、第1の無線信号が共通参照信号である場合は、どのサブフレームで送信される共通参照信号を第1の無線信号として用いるかの情報が、送信タイミングの情報として通知されてもよい。また、マスタeNBは、スレーブeNBが送信する第2の無線信号に関する情報(例えば用いるべき系列の情報)を、スレーブeNBに通知してもよい。なお、予め、スレーブeNBにおいて、複数の系列候補を記憶しておくことにより、マスタeNBは、そのうち1つを特定する特定情報を、用いるべき系列の情報として通知することができる。なお、例えば、第2の無線信号に用いるべき系列の情報をスレーブeNBが知っている場合は、この情報は通知されなくてもよい。
【0039】
その後、マスタeNBは第1の無線信号を送信し、スレーブeNBはこの第1の無線信号を受信する(S604)。このとき、マスタeNBは、送信時刻の情報tを記憶しておく。なお、送信される第1の無線信号は、例えば同期信号又は共通参照信号であり、この場合は、スレーブeNBに向けて送信された信号ではないが、マスタeNBは、時間同期用の無線信号を別途用意し、スレーブeNBに向けてその無線信号を送信してもよい。
【0040】
スレーブeNBは、第1の無線信号を受信してから、所定時間xだけ経過した後に、第2の無線信号をマスタeNBへ向けて送信する(S605)。なお、この所定時間xは、マスタeNBに知られているものとする。第2の無線信号は、例えば、S603で指定された系列を用いた物理ランダムアクセスチャネル(PRACH)である。また、第2の無線信号は、予め定められた、マスタeNBとスレーブeNBとに既知の系列を用いたPRACHであってもよいし、マスタeNBが第2の無線信号であることが分かる信号であれば、さらに他の信号であってもよい。
【0041】
マスタeNBは、第2の無線信号を受信すると、その受信時刻yを取得する。そして、マスタeNBは、その受信時刻yと、第1の無線信号の送信時刻xと、スレーブeNBにおいて第1の無線信号を受信した後に第2の無線信号を送信するまで待機する所定時間xとから、伝搬遅延zを算出する(S606)。具体的には、マスタeNBは、z=(y−t−x)/2を計算して、伝搬遅延zを算出する。
【0042】
その後、マスタeNBは、伝搬遅延zの情報を、X2インタフェースを用いてスレーブeNBへ通知する(S607)。そして、スレーブeNBは、通知された伝搬遅延に基づいて、内部の時計の調整、又は無線信号の送信タイミングの調整を実行する(S608)。
【0043】
このようにして、スレーブeNBは、マスタeNBからの無線信号に基づいて、マスタeNBとの間で高精度な時間同期を確保することが可能となる。なお、上述のS603〜S608の処理は、複数回繰り返されてもよい。これにより、誤った伝搬遅延が通知された場合も、リカバリすることが可能となる。また、S603〜S606の処理を複数回繰り返して、マスタeNBは、伝搬遅延zを複数回算出してその平均値を算出した後に、その平均値をスレーブeNBへと通知してもよい。これにより、一時的に伝搬環境の変化があったとしても、その影響を低減して、正確な時間同期を確立することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6