【実施例】
【0048】
実施例1
EB3の枯渇が、ストアからのCa2+放出を阻害する
【0049】
前の研究は、ERストアからのCa
2+のIP3ゲート化放出を制御することにおけるMT細胞骨格の役割を示唆した。PAR−1シグナル伝達の下流のIP3感受性ストアからのCa
2+の放出を制御するEB3の能力を試験した。PAR−1活性化に応答した、EB1に対するshRNAを発現するHMEC、EB3に対するshRNAを発現するHMEC、およびルシフェラーゼに対するshRNAを発現するHMECにおける細胞内Ca
2+濃度の変化を決定した(
図1)。本発明者らのベクターに基づいたsiRNA構築物をGFP−C1ベクターにクローニングしたため、本発明者らは、同じカバーガラスから非トランスフェクション細胞とトランスフェクション細胞における変化を比較することができた。EB1の枯渇は、対照の非トランスフェクション細胞またはルシフェラーゼに対するshRNAを発現する細胞と比較して、ストアからのCa
2+の放出に少しの影響も有さなかった。対照的に、EB3の枯渇は、Ca
2+放出の著しい阻害をもたらし、したがって、Ca
2+流入の減少を生じた。EB1およびEB3の同時枯渇の影響は、EB3単独の枯渇に匹敵した(
図1B)。これらのデータは、EB3がER Ca
2+枯渇に必要とされることを示唆している。
【0050】
実施例2
Ca2+のIP3ゲート化放出の機構におけるEB3とIP3Rとの相互作用の役割
【0051】
活性が、ECにおけるCa
2+のトロンビン誘導性放出にとって重要な意味をもつIP
3R 3型と、EB3は相互作用するかどうかを決定した。マウスを致死量未満の用量のLPSでチャレンジし、EB3とIP
3R
3およびTRPC1(SOC)チャネルとの関連を決定した。
図2に示されているように、EB3は、休止内皮微小血管系においてIP
3R
3と相互作用し、この相互作用のレベルは、LPS誘導性肺炎症中、増加する。興味深いことに、TRPC1もまた、炎症を起こしている(3時間のLPSチャレンジ)肺に沈殿するEB3内に見出された。これらの変化は、TLR4(LPS受容体)KOマウスにおいて観察されなかった。このことは、これらの相互作用と炎症との因果関係を示している。
【0052】
興味深いことに、IP
3R
3は、EB結合コンセンサスモチーフであるSer/Thr−x−Ile−Pro(SxIP)を含有する。IP
3R
3配列(KFARLWTEIPTAIT − 配列番号1)(
図3)に基づいた短いペプチドは、−68.882kcal/molの自由エネルギー結合を有する、EB3に対する高い結合活性を示す(
図4)。細胞浸透性アンテナペディアペプチド(AP)のC末端に付着したIP
3R
3配列(10nM)での細胞の前処理は、トロンビンに応答したストアからのCa2+の放出を著しく減少させた(
図5A)。このことは、IP
3R
3とEB3との間の相互作用が、IP
3R活性化の機構において重要な意味をもつことを示唆している。IP
3Rペプチドおよびタキソールの影響を、Ca
2+放出の制御において比較した。トロンビン刺激前の20分間の5μg/mlのタキソールでの細胞の前処理は、IP
3R
3ペプチドと同じ程度で、ERからのCa
2+の放出を阻害することが見出された(
図5B)。
【0053】
実施例3
IP
3R
3ペプチドは、敗血症における炎症誘導性肺血管漏出および死亡を防止する
【0054】
血管内皮透過性を制御することにおけるEB3/IP3R相互作用の役割に取り組むために、本発明者らは、エクスビボ肺調製物を用いた。ペプチドを、PAR−1アゴニストペプチドの注入前の30分間、肺へ注入し、EB3とIP
3R
3との間の相互作用を、IPアッセイによって決定した(
図6)。PAR−1の受容体の活性化は、基礎レベルと比較してEB3/IP
3R
3相互作用を有意に増加させ、一方、多量(profusion)のIP
3R
3ペプチドは、活性化された肺微小血管系におけるこの相互作用を阻害した。結果的に、IP
3R
3ペプチドは、微小血管濾過係数Kf,cの変化によって測定したところ、肺血管透過性の増加を緩和した。
図7は、IP
3R
3ペプチドが、PAR−1活性化に応答した微小血管透過性の増加を著しく軽減したことを示す。これらのデータは、EB3とIP3Rとの間の相互作用が、肺における炎症誘導性血管漏出および水腫の発生にとって重要である可能性があることを示唆している。
【0055】
最近の研究により、血管漏出が、敗血症における死亡に寄与する重要な因子であることが実証された。IP
3R
3ペプチドの薬理学的効果を、敗血症のLPS誘導性マウスモデルにおいて試験した。雄CD1マウスをLPS(30mg/体重kg)の腹腔内注射(i.p.)によってチャレンジし、肺炎症の尺度である、肺における好中球の浸潤を決定した。肺をPBSで灌流し、重量を計り、凍結し、活性化好中球のサインである肺ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を測定するために用いた。
図8に示されているように、LPSチャレンジの30分前のIP
3R
3ペプチドでのマウスの処置は、対照ペプチドで処理された群と比較して、LPSチャレンジ後2時間目および6時間目において肺における好中球の浸潤を有意に低下させた。この観察は、IP
3R
3ペプチドが、LPS誘導性肺炎症および傷害を軽減したことを示唆している。結果的に、LPS投与の30分前および1時間後にIP
3R
3ペプチドでの処置を受けたマウスは、LD50チャレンジおよびLD80チャレンジの両方において対照群の生存率における著しい向上を示した(
図9)。さらに、IP
3R
3ペプチドが、盲腸結紮穿孔(CLP)によって誘導される多微生物性敗血症から保護するかどうかを決定した。CLPは、急性肺傷害(ALI)を伴う致死性腹膜炎を引き起こす。それは、実験齧歯類における、よく受け入れられた(well−excepted)臨床的に関連した方法である。
図10は、IP
3R
3ペプチドが、CLP後の動物の生存を向上させたことを示している。90%の対照マウスが最初の48時間以内に死亡したが、手術前、ならびに手術後24時間目および48時間目にIP
3R
3を注射された動物は、有意により高い生存率を示した。
【0056】
これらのデータは、IP
3R
3ペプチド誘導体ペプチドが、肺透過性亢進を予防するために、ならびに炎症およびアテローム発生(artherogenesis)などの病理過程中に慢性血管漏れを軽減するために用いることができる可能性があることを示唆している。IP
3R
3ペプチドの用量応答を、敗血症のLPS誘導性マウスモデルにおいてさらに試験した。雄CD1マウスを、LD80用量でのLPSのi.p.注射によってチャレンジした。マウスは、体重の1kgあたり0.01μM、0.033μM、0.1μM、0.33μM、1.0μM、3.3μM、および10μMの用量におけるIP
3R
3ペプチドの後眼窩i.v.注射を受けた。マウスに、IP
3R
3ペプチドを、LPS投与の30分前、ならびに1時間後および24時間後の3回、注射した。各群における生存している動物のパーセントを、IP
3R
3用量の関数としてプロットした。
図11は、IP
3R
3ペプチドが対照群の生存率を向上させ、それは0.033μM/kgから始まって1μM/kgで最高効力に達したことを示している。IP
3R
3用量の増加は、さらなる向上をもたらさなかったが、重要なことには、それは動物に死もまた引き起こさなかった。これらのデータは、IP
3R
3ペプチドが、この用量範囲内では毒性が低いことを示唆している。80nM/kgとしてのED
50(有効用量、50%)を、以下の3パラメータロジスティック方程式を用いて計算した:
y=最低+(最高+最低)/1+10
LogED50−x
式中、最低および最高は、応答の最低および最高である。提示されたデータは、IP
3R
3が、高い効力および低い毒性を有する有望な薬物であることを示唆している。タキソールと対照的に、この薬物は、一般的な毒性を示すとは予想されない。
【0057】
EB3はERストアからのCa
2+の放出を正に制御し、それによって、炎症促進性刺激に応答して内皮バリア透過性を増加させる。EB3とIP
3Rとの間の相互作用は、Ca
2+のIP3ゲート化放出の機構において重要である。IP
3R
3ペプチドは、肺における炎症媒介性血管漏出および水腫の発生を予防し、敗血症の2つの異なるモデルにおいてマウスの生存を著しく向上させる。
【0058】
実施例4
内皮透過性増加および肺水腫形成の機構におけるCa2+シグナル伝達のEB3制御の役割の決定
【0059】
本発明者らは、MT末端におけるEB3とERとの動力学的相互作用が、Ca
2+波の伝播、および炎症促進性メディエーターに応答した内皮バリア透過性の増加に必要とされることを仮定する。
【0060】
仮説:ERからのCa
2+のIP3ゲート化放出のEB3制御が、内皮透過性におけるMT依存性増加に必要とされる。本発明者らは、伸長中のMT末端におけるEB3の蓄積が、EB3とIP3Rとの一過性相互作用を促進し、(
図21におけるモデルによって仮定されているように)ストアからのCa
2+の放出を正に制御し、したがって、SOC依存性Ca
2+移入、Ca
2+依存性PKCαアイソフォームの活性化、p120−カテニンのPKCα媒介性リン酸化、およびVE−カドヘリンの内部移行を生じるという考えに取り組む。
【0061】
実施例5
持続性MT伸長およびIP3R活性化を制御することにおけるEB3の役割
【0062】
MT不安定化剤およびMT安定化剤は、IP3誘導性Ca2+放出を阻害する(11〜13)。本発明者らの予備的データは、内皮細胞におけるEB3の枯渇もまた、ストアからのCa2+のPAR−1媒介性放出を阻害するが、内皮細胞におけるEB1の枯渇はストアからのCa2+のPAR−1媒介性放出を阻害しないことを実証している。本発明者らは、EB3が、ERからのIP3誘導性Ca2+放出を、MT動態の制御を通して間接的に制御するかどうかを決定する。本発明者らは、本発明者らによって示されているように(20)、人工的EB3二量体を発現することによるEB3枯渇細胞におけるMT持続性伸長の回復がまた、ERからのCa2+のPAR−1媒介性放出を回復することができるかどうかを決定する。人工的二量体EB3−NL−LZは、既知のEBパートナーへの結合に関与するいずれのドメインも完全に欠いているため、EB3とIP3Rとの間の相互作用がIP3Rの活性化にとって重要な意味をもつならば、IP3誘導性Ca2+放出を回復させることは予想されない。したがって、本発明者らが人工的EB3二量体を発現する細胞においてIP3R活性の回復を観察するならば、本発明者らは、EB3が、ERからのアゴニスト誘導性Ca2+放出を、MT動態を介して間接的に制御すると結論づけるであろう。この実験は、HMLVECにおけるFura2−AMの340/380レシオメトリック画像化によって評価されているように、ERからのCa2+のトロンビン媒介性放出および細胞外Ca2+の流入を扱う。本発明者らの仮説の妥当性に基づいて、本発明者らは、EB3−NL−LZの発現が、ERからのCa2+のアゴニスト誘導性放出を回復しないであろうと予測する。
【0063】
実施例6
IP3Rの細胞内分布におけるEB3のIP3Rとの相互作用の役割
【0064】
本発明者らのデータを前提として、本発明者らは、EB3とIP3R 3型との相互作用が、受容体活性化の機構において重要である可能性があると提案した。IP3Rは、Ser/Thr−x−Ile−Pro(SxIP)コンセンサスモチーフを含有し(
図17)、そのモチーフは、EB相互作用パートナーの特異的サインである。このモチーフの近くのSerまたはThrのリン酸化は、EB1のその既知のパートナーに対する親和性を著しく減少させる。本発明者らは、AP配列と融合した短いIP3R配列ペプチド(798〜811;KFARLWTEIPTAIT(配列番号1))がIP3RとEB3との間の相互作用を破壊するかどうか、およびそれが、Ca2+のトロンビン誘導性IP3ゲート化放出を阻害するかどうかを決定する。そのペプチドが細胞においてリン酸化され得る可能性がいくらかあるため、本発明者らは、Aviタグ付きIP3Rペプチドを発現し、そのリン酸化をオートラジオグラフィによって決定する。本発明者らが、ペプチドがリン酸化を受けることを見出したならば、本発明者らは、全ての他の研究についてもより強力であるように、最初のThrがAlaで置換されたリン酸化欠損ペプチド(リン酸化欠損ペプチド;KFARLWAEIPTAIT(配列番号2))を用いるだろう。そのペプチドのEB3への結合は、免疫共沈降およびプルダウンアッセイによって細胞において、およびインビトロで確認されるであろう。本発明者らは、このペプチドを用いて、細胞におけるEB3とIP3Rとの間の相互作用を破壊する。IP3Rペプチドが、トロンビンに応答したストアからのCa2+の放出を阻害するだろうということが、本発明者らの予想である。
【0065】
本発明者らは、EB3枯渇、またはブロッキングペプチドでのEB3とIP3Rとの間の相互作用の阻害が、IP3Rの細胞内分布を変化させるかどうかを調べる。IP3R 2型および3型は、主に、肺内皮微小血管系において発現している。IP3R 3型のカベオラへの動員が、ストアからのアゴニスト誘導性Ca2+放出に必要とされる。IP3の固有のIP3R 3型親和性が相対的に低いことを考慮すれば、IP3発生の部位に近接したその受容体の局在化は、Ca2+のIP3ゲート化放出にとって重要な意味をもつ可能性がある。したがって、本発明者らは、EB3が、IP3R3/TRPC1/TRPC4複合体の形成を通してER膜のカベオラへのテザリングを制御するかどうかを試験する。本発明者らは、トロンビン刺激の時間経過において、免疫蛍光染色により、および生細胞画像化により、IP3R3受容体の細胞内分布を決定する。EB3がIP3R3のカベオラへのテザリングによってCa2+のIP3ゲート化放出を制御することを本発明者らが見出すならば、本発明者らは、EB3が、IP3R3とTRPC1/TRPC4との間の相互作用を促進するかどうかを決定するだろう。
【0066】
実施例7
アゴニスト誘導性IP3Rリン酸化の機構におけるEB3の役割
【0067】
IP3Rは、CaMキナーゼII(CaMKII)に対する16個の可能性のある部位を含有し(26〜28)、CaMKII媒介性リン酸化は、IP3に対する受容体感受性を増加させる。予測されるCaMKIIリン酸化部位である、Thr804(
図17)は、651〜1130の領域内に位置し、IP3結合とチャネル開口との間の機能的共役にとって重要な意味をもつ。したがって、Thr804のリン酸化は、IP3誘導性チャネル開口の機構において重要である可能性がある。EB3はCaMに結合し、CaMKIIの空間的かつ時間的活性化およびその受容体のリン酸化を指示する可能性がある。この考えに取り組むために、本発明者らは、EB3の枯渇、または特定のペプチドでのEB3とIP3Rとの間の相互作用の破壊が、IP3Rリン酸化を阻害するかどうかを決定する。IP3Rリン酸化のレベルを、オートラジオグラフィーによって評価する。本発明者らは、EB3枯渇およびIP3Rペプチドの両方が、IP3Rリン酸化のレベルを低下させるだろうと予想する。リン酸化の部位を、ホスホプロテオーム分析によって決定する。内因性IP3Rを、コンカナバリン(conconavalin)Aビーズを用いて、トロンビン処理の前および後にHLMVECから精製する。CaMKII部位の特異性を、CaMKII阻害剤有りで得られるリン酸化のプロファイルと、CaMKII阻害剤なしで得られるリン酸化のプロファイルとの比較によって決定する。本発明者らは、CaMKII部位を変異させ、IP3R3の細胞内分布における、およびCa2+のIP3ゲート化放出の機構におけるそれらの意義を決定する。
【0068】
別の一連の実験は、IP3RのCaMKII依存性リン酸化が、原形質膜におけるTRPC1/4へのその受容体の結合に共役しているかどうかを決定する。リン酸化は、伸長中のMT先端からIP3Rを放出し、TRPC1/4へのその結合を誘導する可能性がある。CaMKIIとIP3R3の共局在は、腸管の腸細胞、膵臓の腺房細胞、および表層粘液細胞の頂端領域に観察される。したがって、内皮細胞の管腔表面におけるCaMKIIとIP3R3の共分布が生じる可能性がある。本発明者らは、まず、休止HLMVECおよびトロンビン刺激HLMVECにおけるIP3R3とCaMKIIとの共局在を確認する。本発明者らはまた、FRET分析により受容体とキナーゼとの間の相互作用を決定する。CaMKIIの活性を、FRETに基づいたバイオセンサーであるCamui33(Yasunori Hayashi、Japanから入手した)を用いて評価する。CaMKIIの空間的活性化におけるEB3の役割を、同じアプローチを用いて決定する。
【0069】
実施例8
SOC誘起性Ca2+移入の機構におけるEB3とIP3Rとの相互作用の役割
【0070】
ERストアの枯渇は、SOC活性化およびCa2+移入の重要な機構である(34〜36)。一貫して、本発明者らは、EB3の枯渇はCa2+流入を低下させるが、EB1の枯渇はCa2+流入を低下させないことを見出した。本発明者らの予備的データを前提として、本発明者らは、EB3枯渇が、内皮細胞における主要なSOCチャネルである、TRPC1およびTRPC4のトロンビン誘導性活性化を阻害すると仮定した。この可能性に直接取り組むために、EB3 siRNAまたはIP3R3ペプチドで処理されたHLMVECを、ホールセルパッチクランプアッセイにおいて用いて、−50mVにおけるトロンビン誘導性内向き電流およびLa3+感受性内向き電流を測定する。本発明者らはまた、活性化チャネルの逆転電位を示すために電流−電圧(I−V)関係(−100〜+100mV)を評価する。この結果を、IP3R3がsiRNAで枯渇されるか、またはIP3Rアンタゴニストである2−アミノエトキシジフェニルボレート(2−APB)で阻害されるHLMVECにおいて得られるデータと比較する。補完的な実験は、特異的抗体またはsiRNAによる、TRPC1およびTRPC4の別々のまたは同時の不活性化が、EB3の枯渇と比較して、ホールセルコンダクタンスへ類似した効果を生じるかどうかに取り組む。本発明者らの仮説の妥当性において、本発明者らは、EB3枯渇がCa2+移入をTRPC1/4チャネルを通して阻害するだろうと予測する。これらの実験は、Fura2−AMレシオメトリック画像化による細胞内Ca2+濃度の変化の測定を伴う。
【0071】
別のセットの実験は、EB3の枯渇が、SOCおよびCa2+移入のタプシガルギン(TG)誘導性またはIP3誘導性(マイクロインジェクションによる細胞内送達)活性化を阻害することができるかどうかを決定する。TGは、筋/小胞体Ca2+ ATPアーゼを阻害し、結果として、IP3R活性化とは無関係に、ERからのCa2+の枯渇を生じる。両方のアプローチは、対照siRNA処理細胞においてSOC誘起性Ca2+移入の活性化を誘導することが予想されるが、EB3の枯渇は、IP3RのIP3誘導性活性化の場合のみCa2+移入を阻害する可能性がある。この実験は、SOC誘起性Ca2+移入を、IP3Rの活性化を通して間接的に制御することと、もしEB3(またはMT動態変化)がSOCチャネルそれ自体の活性化にいくらかの影響を及ぼすならば、直接的に制御することにおけるEB3の関与を区別するであろう。本発明者らは、これらの実験においてTRPC1/4チャネルの活性を示すために、ホールセルコンダクタンスおよび電流−電圧(I−V)関係を評価する。
【0072】
実施例9
内皮透過性増加および水腫形成の機構におけるEB3とIP3Rとの相互作用の役割
【0073】
本発明者らは、Ca2+シグナル伝達の伝播を生じるEB3とIP3Rとの間の相互作用が、PAR−1活性化に対する透過性応答の増加を増強するかどうかを決定する。この関連において、本発明者らは、IP3Rブロッキングペプチドで処理された細胞および肺において透過性バリアの増加に取り組む。本発明者らは、内皮バリアの変化の機能性尺度としてTERおよび経内皮アルブミン流束における変化を測定することによって内皮透過性増加を評価する。AJの完全性および細胞内ギャップの形成を、免疫染色により、(ビオチン化アッセイを用いる)VE−カドヘリン内部移行の定量的分析により、VE−カドヘリンとp120−カテニンとの間の相互作用により、決定する。本発明者らの仮説が妥当なものとして、本発明者らは、細胞内Ca2+濃度の増加の阻害が、結果として、より少ない細胞内ギャップ形成およびより安定したVE−カドヘリン接着によって反映される透過性応答の低下を生じるであろうことを予想する。細胞内Ca2+の増加は、p120−カテニンをリン酸化することによってAJの解体を媒介するPKCαを活性化するので、本発明者らは、PKCα活性化のレベル、およびPKCα特異的部位であるSer879におけるp120−カテニンリン酸化のレベルを決定する。PAR−1媒介性細胞収縮性もまた、EB3枯渇細胞において、またはIP3R3ペプチドで前処理された細胞において阻害されるかどうかを決定するために、本発明者らは、RhoAおよびMLCK−L活性化のレベルを分析する。IP3R3枯渇細胞またはIP3R3−/−マウス(37)から単離された肺微小血管内皮細胞を比較のために用いる。
【0074】
EB3とIP3Rとの間の相互作用が、微小血管透過性および肺水腫におけるアゴニスト誘導性増加を増強するかどうかを決定するために、本発明者らは、肺エクスビボモデルを用いる。マウスの灌流された肺調製物を用いて、細胞浸透性IP3Rペプチドが、肺血管透過性のPAR−1媒介性増加を阻害するかどうかを決定する。内皮微小血管透過性を、PAR1アゴニストペプチドの注入後、毛細血管濾過係数(Kf,c)および肺経血管125I−アルブミン流束を測定することによって評価する。本発明者らはまた、(Katsuhiko Mikoshiba、Japanから入手した)IP3R3−/−マウス、またはIP3R3がsiRNAによって枯渇しているだろうマウスを用いて、ペプチドで得られた結果を検証する。もし、IP3RとEB3との間の相互作用が肺微小血管透過性のアゴニスト誘導性増加を制御するのに必須であるという本発明者らの仮説が妥当であるならば、本発明者らは、IP3RペプチドおよびIP3R3−/−の両方が、PAR−1活性化に応答した微小血管透過性の増加の部分的阻害を明らかにする、匹敵する結果を生じるだろうと予想する。
【0075】
これらの研究の目標は、ERストアからのCa2+のIP3ゲート化放出を制御することにおけるEB3の役割を決定することである。本発明者らは、IP3Rリン酸化およびERの頂端部原形質膜への転位置の機構におけるEB3とIP3Rとの間の相互作用の意義を決定する。本発明者らは、本発明者らの仮説に基づいて、EB3とIP3Rとの間の相互作用がIP3R活性化のコントロールポイントを提供すると予測する。本発明者らの仮説が妥当であるならば、本発明者らは、細胞培養および肺において、EB3とIP3Rとの相互作用の破壊が、ERストアからのCa2+の放出を阻害し、透過性応答の増加を抑止するだろうと予想する。本発明者らは、EB3/IP3R相互作用が、1)IP3R3の、IP3生成に近接したカベオラへのテザリングにより、および2)CaMKIIによるIP3R3リン酸化を促進することにより、Ca2+のIP3ゲート化放出を制御するという以下の機構モデルを調べる。このように、肺微小血管研究と共に細胞培養実験は、EB3がIP3R3活性を制御する機構を同定するだろう。本発明者らは、その仮説の検証に基づいてこれらの研究からの新規な結論を引き出すことが可能であることに関して、問題を予見していない。全ての提案された技術は、本発明者らの研究室または共同研究者の研究室において確立され、それゆえに、実現可能である。
【0076】
MT細胞骨格は、休止細胞において内皮バリアの維持に重要な役割を果たし、炎症促進性刺激によって媒介されるような内皮透過性の増加を増強するための機構を提供する。持続性MT伸長を促進し、したがってEB3の抗崩壊活性によりMT動態を制御するMT末端結合タンパク質である、EB3は、急性肺傷害(ALI)および成人呼吸窮迫症候群(ARDS)などの炎症性疾患中のMT細胞骨格の再組織化および内皮バリア機能の損失をコントロールする主要な機構であり得る。提案された研究は、内皮血管透過性の増加および水腫形成の機構におけるPAR−1活性化に応答したERストアからのCa2+のIP3ゲート化放出を制御することにおけるEB3の役割に取り組む。本発明者らは、PKCα媒介性AJ解体およびRhoA/MLCK−L作動性アクトミオシン収縮性を通して内皮透過性の増加を媒介するCa2+波の組織化および伝播の機構におけるEB3とIP3R3との間の重要な可能性がある相互作用を定義する。
【0077】
実施例10
IP
3R
3ペプチドの切り詰めの、EB3に対する結合への影響
【0078】
計算的なインシリコのモデリングを用いて、KFARLWTEIPTAITペプチド(配列番号1)における各残基により提供される結合自由エネルギーへのエネルギー的寄与を推定した。アミノ酸配列:KFARLWTEIPTAIT(配列番号1)の切り詰め型バリアントをEB3界面へドッキングさせ、相互作用の自由エネルギーを計算した(表1)。データは、Thr−x−Ile−Proが最低の結合エネルギーを有し、隣接のアミノ酸が、EB3とペプチドとの間の相互作用を安定化することにおいて重要な役割を果たすことを示している。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例11
末端結合阻害ペプチド(EBIN)の構造に基づいた設計
【0081】
末端結合阻害ペプチド、すなわち、EBINを、計算的インシリコのアラニンスキャニングおよびIPRペプチドのEB結合ポケットへの完全に柔軟なドッキングに基づいて設計した(表2および3)。結合自由エネルギー(ΔG)を用いて、このペプチドとEBタンパク質との相互作用の安定化における各残基の寄与を決定した。
以下の基準を用いた:
ΔG値≧1=安定化残基
ΔG値≧−1=不安定化残基
ΔG値<−1〜0〜<1=中立残基
アラニンスキャニングは、安定化残基(0.50Kj/モル以上の正の結合エネルギーを有する;黒色で示されている)および不安定化残基(−1の負の結合エネルギーを有する;青色で示されている)を明らかにする。
【表2】
【表3】
【0082】
結果として、14個のアミノ酸IPRペプチドは、7個のアミノ酸の末端結合阻害ペプチド(EBIN;FTEIPTI(配列番号3))に減少した。
図12は、EB3とEBINとの間の相互作用を示す。IP
3R
3(
図12において黄色の棒で示されている)と同様に、EBINは、EB酸性テイルとコイルドコイルドメイン(coil−coiled domain)との間の疎水性グルーブ(hydrophobic grove)に結合する。EBINのEB3への計算されたエネルギー結合は−60.251kcal/molであり、それは、IPRとEB3との間のエネルギー結合と類似している。EBINの2位におけるトレオニンは、EB3界面への結合において重要な役割を果たしている。なぜなら、この残基のアラニンへの変異がその結合を完全に消失させるからである。したがって、単一のアミノ酸変異T→Aペプチド、FAEIPTI(配列番号4)を、結合性喪失の対照として用いた。
【0083】
実施例12
EBINは、EB3/IP
3R
3相互作用を阻害し、炎症促進性メディエーターに応答した細胞内カルシウム流束を軽減する
【0084】
細胞におけるEBINの阻害性質を決定するために、1μMの濃度のEBINまたは対照ペプチドで前処理された、ヒト肺大動脈内皮細胞(HPAEC)単層をトロンビンでチャレンジした。EB3とIP
3R
3受容体との間の相互作用を、ウェスタンブロット分析を用いて分析した。
図13に示されているように、EBIN処理は、EB3とIP
3R
3との間の基礎相互作用およびトロンビン誘導性相互作用を軽減した。IP
3R
3のIP3に対する応答性を調節することにおけるEB3の役割という考えと一致して、EBINは、トロンビンおよびヒスタミンに応答した細胞内カルシウム流束を有意に阻害した。
図14は、1μM Myr−EBINまたは対照ペプチド(FAEIPTI)(配列番号4)で前処理され、かつ50nMトロンビンまたは90μMヒスタミンでチャレンジされたHPAECにおける340/380(結合型/遊離Fura−2M)比における変化を示す。EBINは、炎症促進性サイトカインでのHPAEC単層の刺激後の細胞内カルシウムにおけるアゴニスト誘導性増加([Ca2+]iトランジェント)を緩和したが、対照ペプチドは緩和しなかった。
【0085】
細胞形状変化および傍細胞透過性に対するEBINの影響を決定するために、HPAEC単層の経内皮抵抗性を測定した。
図15は、EBINが、両方の炎症促進性メディエーターに応答したHPAEC単層の細胞形状変化および傍細胞透過性亢進を阻害したが、結合性喪失ペプチドに関しては阻害しなかったことを示す。これらの結果は、EBINのバリア保護効果が、内皮のカルシウムシグナル伝達および細胞形状変化の阻害に関連していることを示す。
【0086】
実施例13
EBINは、マウスにおいてNO産生およびヒスタミン誘導性血管拡張を阻害する
【0087】
NOを産生する内皮特異的酵素である一酸化窒素シンターゼ3(eNOS)の活性は、カルシウムシグナル伝達により、特にeNOSとカルモジュリンとの相互作用を通して、制御され、炎症中の内皮バリアの透過性亢進の既知の原因の1つである。EBINはカルシウムシグナル伝達を阻害するため、EBINのバリア保護効果は、部分的には、eNOSの阻害によると仮定された。したがって、NOの基礎産生およびアゴニスト誘導性産生に対するEBINの影響を測定した。FAS1フェムトスタット(femtostat)および電気化学的ソフトウェアを有するパーソナルコンピュータと連結されたポルフィリンNO電極(Gamry Instruments)を用いて、NO形成を測定した。NO濃度と比例する電極電流を、時間の関数として測定した。興味深いことに、EBINは、基礎NO産生に対する影響を示さなかった。このことは、EBINが構成的eNOS活性を阻害しないことを示唆している。しかしながら、EBINは、アゴニスト誘導性NO産生を有意に軽減した(
図16)。これらの結果と一致して、マウスにおけるAP−EBINのi.v.注射は、収縮期血圧に対する影響を示さなかったが、EBINは、ヒスタミン誘導性血管拡張を有意に阻害した(
図17)。これらのデータは、細胞培養実験において得られたデータに一致している。これらの結果は、EBINが、ヒスタミンに応答してNO生成を阻害することにより血管拡張を軽減することを示している。
【0088】
実施例14
EBINは、LPS誘導性敗血症における死亡およびアナフィラキシー後の血管漏れを防止する
【0089】
LPS誘導性敗血症による死亡率に対するEBINの影響を決定した。マウスは、LD90用量でのLPS投与の30分前および1時間後に、AP−EBINまたはAP対照ペプチドのi.v.後眼窩注射を受けた。EBINで処理されたマウスは、対照群と比較して生存率の著しい向上を示した(
図18)。さらに、EBINの後処理もまた何らかの保護効果を示すかどうかを決定した。この実験において、Myr−EBINを、LPSチャレンジから30分後および24時間後に尾静脈内に注射した。
図19に示されているように、EBINでの後処理は、対照群(結合性喪失ペプチド)と比較して生存率においてわずかな向上しかもたらさない。Ap−EBINに関する前の結果と一致して、Myr−EBINでの前処理は、生存率の有意な増加(p<0.05)を示した(
図19)。全身性炎症前のEBINの投与は、よりはるかに高い有益な結果を生じたと結論づけられる。
【0090】
血漿VEGFの上昇の結果である気道微小血管透過性亢進は、典型的喘息およびその咳型を有する患者における異常な気道機能に寄与する重要な因子の一つである。急性アレルギー性喘息応答は、主にIgE媒介性過敏性によるため、本発明者らはまた、EBINが、IgE媒介性アナフィラキシー反応後の皮下血管漏れから保護するかどうかを決定した。
図20は、EBINの静脈内注射が、耳(高い血管新生、A)および背中(低い血管新生、B)において皮下血管漏れ(エバンスブルー(Evan Blue)陽性領域のサイズおよび強度)を有意に軽減するが、対照の結合性喪失ペプチドはそれらを軽減しないことを示している。これらのデータは、EBINが、慢性型または急性型のアレルギー性喘息を有する患者の肺機能および全体的な健康を改善し、喘息性炎症性応答を抑えるために効果的に用いられ得ることを示している。