(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いる酸化物は、少なくとも鉄又はマンガンを含み、かつ下記式(A)、(B)又は(C):
LiFe
aMn
bM
cPO
4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b及びcは、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、及び2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たし、かつa+b≠0を満たす数を示す。)
Li
2Fe
dMn
eN
fSiO
4・・・(B)
(式(B)中、NはNi、Co、Al、Zn、V又はZrを示す。d、e及びfは、0≦d≦1、0≦e≦1、0≦f<1、及び2d+2e+(Nの価数)×f=2を満たし、かつd+e≠0を満たす数を示す。)
NaFe
gMn
hQ
iPO
4・・・(C)
(式(C)中、QはMg、Ca、Co、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。g、h及びiは、0≦g≦1、0≦h≦1、0≦i<1、及び2g+2h+(Qの価数)×i=2を満たし、かつg+h≠0を満たす数を示す。)
のいずれかの式で表される。
これらの酸化物は、いずれもオリビン型構造を有しており、少なくとも鉄又はマンガンを含む。上記式(A)又は式(B)で表される酸化物を用いた場合には、リチウムイオン電池用正極活物質が得られ、上記式(C)で表される酸化物を用いた場合には、ナトリウムイオン電池用正極活物質が得られる。
【0014】
上記式(A)で表される酸化物は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物である。式(A)中、Mは、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、好ましくはMg、Zr、Mo又はCoである。aは、0≦a≦1であって、好ましくは0.01≦a≦0.99であり、より好ましくは0.1≦a≦0.9である。bは、0≦b≦1であって、好ましくは0.01≦b≦0.99であり、より好ましくは0.1≦b≦0.9である。cは、0≦c≦0.2をであって、好ましくは0≦c≦0.1である。そして、これらa、b及びcは、2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たし、かつa+b≠0を満たす数である。上記式(A)で表されるオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物としては、具体的には、例えばLiFe
0.2Mn
0.8PO
4、LiFe
0.9Mn
0.1PO
4、LiFe
0.15Mn
0.75Mg
0.1PO
4、LiFe
0.19Mn
0.75Zr
0.03PO
4等が挙げられ、なかでもLiFe
0.2Mn
0.8PO
4が好ましい。
【0015】
上記式(B)で表される酸化物は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物である。式(B)中、Nは、Ni、Co、Al、Zn、V又はZrを示し、好ましくはCo、Al、Zn、V又はZrである。dは、0≦d≦1であって、好ましくは0≦d<1であり、より好ましくは0.1≦d≦0.6である。eは、0≦d≦1であって、好ましくは0≦e<1であり、より好ましくは0.1≦e≦0.6である。fは、0≦f<1であって、好ましくは0<f<1であり、より好ましくは0.05≦f≦0.4である。そして、これらd、e及びfは、2d+2e+(Nの価数)×f=2を満たし、かつd+e≠0を満たす数である。上記式(B)で表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物としては、具体的には、例えばLi
2Fe
0.45Mn
0.45Co
0.1SiO
4、Li
2Fe
0.36Mn
0.54Al
0.066SiO
4、Li
2Fe
0.45Mn
0.45Zn
0.1SiO
4、Li
2Fe
0.36Mn
0.54V
0.066SiO
4、Li
2Fe
0.282Mn
0.658Zr
0.02SiO
4等が挙げられ、なかでもLi
2Fe
0.282Mn
0.658Zr
0.02SiO
4が好ましい。
【0016】
上記式(C)で表される酸化物は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型リン酸遷移金属ナトリウム化合物である。式(C)中、QはMg、Ca、Co、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、好ましくはMg、Zr、Mo又はCoである。gは、0≦g≦1であって、好ましくは0<g≦1である。hは、0≦h≦1であって、好ましくは0.5≦h<1である。iは、0≦i<1であって、好ましくは0≦i≦0.5であり、より好ましくは0≦i≦0.3である。そして、これらg、h及びiは、0≦g≦1、0≦h≦1、及び0≦i<1、2g+2h+(Qの価数)×i=2を満たし、かつg+h≠0を満たす数である。上記式(C)で表されるオリビン型リン酸遷移金属ナトリウム化合物としては、具体的には、例えばNaFe
0.2Mn
0.8PO
4、NaFe
0.9Mn
0.1PO
4、NaFe
0.15Mn
0.7Mg
0.15PO
4、NaFe
0.19Mn
0.75Zr
0.03PO
4、NaFe
0.19Mn
0.75Mo
0.03PO
4、NaFe
0.15Mn
0.7Co
0.15PO
4等が挙げられ、なかでもNaFe
0.2Mn
0.8PO
4が好ましい。
【0017】
本発明の二次電池用正極活物質は、上記式(A)、(B)又は(C)で表される酸化物に、水不溶性導電性炭素材料と、水溶性炭素材料由来の炭素とが担持してなるものである。すなわち、炭素源として水不溶性導電性炭素材料と水溶性炭素材料が共存してなり、酸化物表面を一方の炭素源由来の炭素が被覆しつつも、かかる炭素が存在することなく酸化物表面が露出した部位に、他方の炭素源由来の炭素が有効に担持してなる。したがって、これら水不溶性導電性炭素材料と、水溶性炭素材料由来の炭素とが相まって上記酸化物表面の露出を効果的に抑制しながら、酸化物の全表面にわたり堅固に担持されてなるため、本発明の二次電池用正極活物質における水分吸着を有効に防止することができる。
【0018】
上記式(A)、(B)又は(C)で表される酸化物に担持される水不溶性導電性炭素材料とは、25℃の水100gに対する溶解量が、水不溶性導電性炭素材料の炭素原子換算量で0.4g未満である水不溶性の炭素材料であって、焼成等せずともそのもの自体が導電性を有する炭素源である。かかる水不溶性導電性炭素材料としては、グラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、吸着水分量低減の観点から、グラファイトが好ましい。グラファイトとしては、人造グラファイト(鱗片状、塊状、土状、グラフェン)、天然グラファイトのいずれであってもよい。
【0019】
用い得る水不溶性導電性炭素材料のBET比表面積は、吸着水分量を効果的に低減する観点から、好ましくは1〜750m
2/gであり、より好ましくは3〜500m
2/gである。また、かかる水不溶性導電性炭素材料の平均粒子径は、同様の観点から、好ましくは0.5〜20μmであり、より好ましくは1.0〜15μmである。
【0020】
上記水不溶性導電性炭素材料とともに、式(A)、(B)又は(C)で表される酸化物に炭化された炭素として担持される水溶性炭素材料とは、25℃の水100gに、水溶性炭素材料の炭素原子換算量で0.4g以上、好ましくは1.0g以上溶解する炭素材料を意味し、上記式(A)〜(C)で表される酸化物表面を被覆する炭素源として機能する。かかる水溶性炭素材料としては、例えば、糖類、ポリオール、ポリエーテル、及び有機酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。なかでも、溶媒への溶解性及び分散性を高めて炭素材料として効果的に機能させる観点から、グルコース、フルクトース、スクロース、デキストリンが好ましく、グルコースがより好ましい。
【0021】
水不溶性導電性炭素材料及び水溶性炭素材料の炭素原子換算分は、水不溶性導電性炭素材料及び炭化された水溶性炭素材料が上記酸化物に担持された炭素として本発明の二次電池用正極活物質中に共存することとなる。かかる水不溶性導電性炭素材料及び水溶性炭素材料の炭素原子換算量は、これら水不溶性導電性炭素材料及び水溶性炭素材料由来の炭素の合計担持量に相当し、本発明の二次電池用正極活物質中に、合計で、好ましくは1.0〜20.0質量%であり、より好ましくは2.0〜17.5質量%であり、さらに好ましくは3.0〜15.0質量%である。具体的には、水不溶性導電性炭素材料及び水溶性炭素材料の炭素原子換算量は、酸化物が上記式(A)又は(C)で表される二次電池用正極活物質では、好ましくは1.0〜15.0質量%であり、より好ましくは2.0〜13.5質量%であり、さらに好ましくは3.0〜12.0質量%であり、酸化物が上記式(B)で表される二次電池用正極活物質では、好ましくは2.0〜20.0質量%であり、より好ましくは3.0〜17.5質量%であり、さらに好ましくは4.0〜15.0質量%である。
また、水溶性炭素材料の炭素原子換算量、すなわち水溶性炭素材料由来の炭素の担持量は、本発明の二次電池用正極活物質中に、好ましくは0.5〜17.0質量%であり、より好ましくは0.5〜13.5質量%であり、さらに好ましくは0.5〜10.0質量%である。具体的には、水溶性炭素材料の炭素原子換算量は、酸化物が上記式(A)又は(C)で表される二次電池用正極活物質では、好ましくは0.5〜10.0質量%であり、より好ましくは0.5〜9.0質量%であり、さらに好ましくは0.5〜8.0質量%であり、酸化物が上記式(B)で表される二次電池用正極活物質では、好ましくは0.75〜17.0質量%であり、より好ましくは0.75〜13.5質量%であり、さらに好ましくは0.75〜10.0質量%である。
なお、二次電池用正極活物質中に存在する水不溶性導電性炭素材料と水溶性炭素材料の炭素原子換算量の合計量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した全炭素量として、確認することができる。また、水溶性炭素材料の炭素原子換算量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した上記合計の炭素量から、水不溶性導電性炭素材料の添加量を差し引くことにより、確認することができる。
【0022】
本発明の二次電池用正極活物質は、水不溶性導電性炭素材料及び水溶性炭素材料を炭化されてなる炭素として互いに補い合いながら、効率的に上記(A)、(B)又は(C)で表される酸化物に担持させる観点から、かかる酸化物と水不溶性導電性炭素材料とを含む複合体に、水溶性炭素材料由来の炭素として担持してなるものであるのが好ましく、具体的には、酸化物に水不溶性導電性炭素材料が担持してなる複合体に、水溶性炭素材料由来の炭素が担持してなるものであるのが好ましい。
【0023】
上記水不溶性導電性炭素材料は、具体的には、水熱反応により得られた酸化物と乾式混合されて、酸化物に担持してなるものであるのが好ましく、酸化物と予備混合された後、圧縮力及びせん断力を付加しながら混合されて、酸化物に担持されてなるものであるのがより好ましい。すなわち、上記酸化物と水不溶性導電性炭素材料を含む複合体は、水不溶性導電性炭素材料と、水熱反応物である酸化物との乾式混合物であるのが好ましい。なお、水不溶性導電性炭素材料が焼成されることにより酸化物に担持されてなるものは、酸化物と水不溶性導電性炭素材料とを含む複合体として得られる。また、この乾式混合の際、後述する湿式混合の際に添加する水溶性炭素材料とは別に、必要に応じて補助的に水溶性炭素材料を添加してもよい。このときに得られる複合体は、酸化物と水不溶性導電性炭素材料と共に水溶性炭素材料を含むこととなる。
【0024】
上記酸化物と水不溶性導電性炭素材料とを含む複合体に、炭化された炭素として担持してなる水溶性炭素材料は、かかる複合体において、水不溶性導電性炭素材料が存在することなく酸化物表面が露出した部位に、さらに炭素を有効に担持させる観点から、上記複合体と湿式混合された後、焼成されることにより炭化されてなる炭素として酸化物に担持されてなるものであるのが好ましい。すなわち、本発明の二次電池用正極活物質は、水溶性炭素材料と、酸化物及び水不溶性導電性炭素材料を含む複合体との湿式混合物の、焼成物であるのが好ましい。この水溶性炭素材料を炭化するための焼成により、乾式混合等により低下した酸化物及び水不溶性導電性炭素材料双方の結晶性を回復させることができるため、得られる正極活物質における導電性を有効に高めることができる。なお、湿式混合される際に用いる水溶性炭素材料は、上記乾式混合の際に必要に応じて補助的に用いる水溶性炭素材料と同じ種類のものであってもよく、別の種類のものであってもよい。
【0025】
本発明の二次電池用正極活物質は、より具体的には、リチウム化合物又はナトリウム化合物、リン酸化合物又はケイ酸化合物、並びに少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水を水熱反応に付して酸化物Xを得る工程(I)、
得られた酸化物Xに水不溶性導電性炭素材料を添加して乾式混合して複合体Yを得る工程(II)、並びに
得られた複合体Yに水溶性炭素材料を添加して湿式混合し、焼成する工程(III)を備える製造方法により得られるものであるのが好ましい。
【0026】
工程(I)は、リチウム化合物又はナトリウム化合物、リン酸化合物又はケイ酸化合物、並びに少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水を水熱反応に付して酸化物Xを得る工程である。
用い得るリチウム化合物又はナトリウム化合物としては、水酸化物(例えばLiOH・H
2O、NaOH)、炭酸化物、硫酸化物、酢酸化物が挙げられる。なかでも、水酸化物が好ましい。
スラリー水におけるリチウム化合物又はケイ酸化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5〜50質量部であり、より好ましくは7〜45質量部である。より具体的には、工程(I)においてリン酸化合物を用いた場合、スラリー水におけるリチウム化合物又はナトリウム化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5〜50質量部であり、より好ましくは10〜45質量部である。また、ケイ酸化合物を用いた場合、スラリー水におけるケイ酸化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5〜40質量部であり、より好ましくは7〜35質量部である。
【0027】
工程(I)は、スラリー水に含有される各成分の分散性を高めつつ、得られる正極活物質の粒子を微細化し、電池物性の向上を図る観点から、リチウム化合物又はナトリウム化合物を含む混合物A
1に、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して混合物A
2を得る工程(Ia)、並びに得られた混合物A
2に、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を添加し、混合して得られるスラリー水Xを水熱反応に付して酸化物Xを得る工程(Ib)を備えるのが好ましい。
【0028】
工程(I)又は(Ia)において、混合物A
1にリン酸化合物又はケイ酸化合物を混合する前に、予め混合物A
1を撹拌しておくのが好ましい。かかる混合物A
1の撹拌時間は、好ましくは1〜15分であり、より好ましくは3〜10分である。また、混合物A
1の温度は、好ましくは20〜90℃であり、より好ましくは20〜70℃である。
【0029】
工程(I)又は(Ia)で用いるリン酸化合物としては、オルトリン酸(H
3PO
4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、70〜90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。かかる工程(I)又は(Ia)では、混合物A
1にリン酸を混合するにあたり、混合物A
1を撹拌しながらリン酸を滴下するのが好ましい。混合物A
1にリン酸を滴下して少量ずつ加えることで、混合物A
1中において良好に反応が進行して、上記(A)〜(C)で表される酸化物Xの前駆体がスラリー中で均一に分散しつつ生成され、かかる酸化物の前駆体が不要に凝集するのをも効果的に抑制することができる。
【0030】
リン酸の上記混合物A
1への滴下速度は、好ましくは15〜50mL/分であり、より好ましくは20〜45mL/分であり、さらに好ましくは28〜40mL/分である。また、リン酸を滴下しながらの混合物A
1の撹拌時間は、好ましくは0.5〜24時間であり、より好ましくは3〜12時間である。さらに、リン酸を滴下しながらの混合物A
1の撹拌速度は、好ましくは200〜700rpmであり、より好ましくは250〜600rpmであり、さらに好ましくは300〜500rpmである。
なお、混合物A
1を撹拌する際、さらに混合物A
1の沸点温度以下に冷却するのが好ましい。具体的には、80℃以下に冷却するのが好ましく、20〜60℃に冷却するのがより好ましい。
【0031】
工程(I)又は(Ia)で用いるケイ酸化合物としては、反応性のあるシリカ化合物であれば特に限定されず、非晶質シリカ、Na
4SiO
4(例えばNa
4SiO
4・H
2O)等が挙げられる。
【0032】
リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物A
2は、リン酸又はケイ酸1モルに対し、リチウム又はナトリウムを2.0〜4.0モル含有するのが好ましく、2.0〜3.1モル含有するのがより好ましく、このような量となるよう、上記リチウム化合物又はナトリウム化合物と、リン酸化合物又はケイ酸化合物を用いればよい。より具体的には、工程(I)においてリン酸化合物を用いた場合、リン酸化合物を混合した後の混合物A
2は、リン酸1モルに対し、リチウム又はナトリウムを2.7〜3.3モル含有するのが好ましく、2.8〜3.1モル含有するのがより好ましく、工程(I)においてケイ酸化合物を用いた場合、ケイ酸化合物を混合した後の混合物A
2は、ケイ酸1モルに対し、リチウムを2.0〜4.0モル含有するのが好ましく、2.0〜3.0含有するのがより好ましい。
【0033】
リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物A
2に対して窒素をパージすることにより、かかる混合物A
2中での反応を完了させて、上記(A)〜(C)で表される酸化物の前駆体を混合物A
2中に生成させる。窒素がパージされると、混合物A
2中の溶存酸素濃度が低減された状態で反応を進行させることができ、また得られる酸化物の前駆体を含有する混合物中の溶存酸素濃度も効果的に低減されるため、次の工程で添加する鉄化合物やマンガン化合物等の酸化を抑制することができる。かかる混合物A
2中において、上記(A)〜(C)で表される酸化物の前駆体は、微細な分散粒子として存在する。かかる酸化物の前駆体は、例えば上記式(A)で表される酸化物の場合、リン酸三リチウム(Li
3PO
4)として得られる。
【0034】
窒素をパージする際における圧力は、好ましくは0.1〜0.2MPaであり、より好ましくは0.1〜0.15MPaである。また、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物A
2の温度は、好ましくは20〜80℃であり、より好ましくは20〜60℃である。例えば上記式(A)で表される酸化物の場合、反応時間は、好ましくは5〜60分であり、より好ましくは15〜45分である。
また、窒素をパージする際、反応を良好に進行させる観点から、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物A
2を撹拌するのが好ましい。このときの撹拌速度は、好ましくは200〜700rpmであり、より好ましくは250〜600rpmである。
【0035】
また、より効果的に酸化物の前駆体の分散粒子表面における酸化を抑制し、分散粒子の微細化を図る観点から、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物A
2中における溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とするのが好ましく、0.2mg/L以下とするのがより好ましい。
【0036】
工程(I)又は(Ib)では、次いで得られた酸化物の前駆体と、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水を水熱反応に付して、酸化物Xを得る。得られた酸化物の前駆体を混合物のまま用い、これに少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を添加して、スラリー水Xとするのが好ましい。これにより、工程を簡略化させつつ、上記(A)〜(C)で表される酸化物を得ることができるとともに、極めて微細な粒子とすることが可能となり、非常に有用な二次電池用正極活物質を得ることができる。
【0037】
用い得る鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸鉄が好ましい。
【0038】
用い得るマンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸マンガンが好ましい。
【0039】
金属塩として、鉄化合物とマンガン化合物の双方を用いる場合、これら鉄化合物及びマンガン化合物の使用モル比(鉄化合物:マンガン化合物)は、好ましくは99:1〜1:99であり、より好ましくは90:10〜10:90である。また、これら鉄化合物及びマンガン化合物の合計添加量は、スラリー水X中に含有されるLi
3PO
41モルに対し、好ましくは0.99〜1.01モルであり、より好ましくは0.995〜1.005モルである。
【0040】
さらに、必要に応じて、金属塩として、鉄化合物及びマンガン化合物以外の金属(M、N又はQ)塩を用いてもよい。金属(M、N又はQ)塩におけるM、N及びQは、上記式(A)〜(C)中のM、N及びQと同義であり、かかる金属塩として、硫酸塩、ハロゲン化合物、有機酸塩、及びこれらの水和物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。なかでも、電池物性を高める観点から、硫酸塩を用いるのがより好ましい。
これら金属(M、N又はQ)塩を用いる場合、鉄化合物、マンガン化合物、及び金属(M、N又はQ)塩の合計添加量は、上記工程(I)において得られた混合物中のリン酸又はケイ酸1モルに対し、好ましくは0.99〜1.01モルであり、より好ましくは0.995〜1.005モルである。
【0041】
水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、用いる金属塩の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、スラリー水X中に含有されるリン酸又はケイ酸イオン1モルに対し、好ましくは10〜50モルであり、より好ましくは12.5〜45モルである。より具体的には、スラリー水X中に含有されるイオンがリン酸イオンの場合、水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、好ましくは10〜30モルであり、より好ましくは12.5〜25モルである。また、スラリー水X中に含有されるイオンがケイ酸イオンの場合、水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、好ましくは10〜50モルであり、より好ましくは12.5〜45モルである。
【0042】
工程(I)又は(Ib)において、鉄化合物、マンガン化合物及び金属(M、N又はQ)塩の添加順序は特に制限されない。また、これらの金属塩を添加するとともに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na
2S
2O
4)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、過剰に添加されることで、上記式(A)〜(C)で表される酸化物の生成が抑制されるのを防止する観点から、鉄化合物、マンガン化合物及び必要に応じて用いる金属(M、N又はQ)塩の合計1モルに対し、好ましくは0.01〜1モルであり、より好ましくは0.03〜0.5モルである。
【0043】
鉄化合物、マンガン化合物及び必要に応じて用いる金属(M、N又はQ)塩や酸化防止剤を添加することにより得られるスラリー水X中における酸化物の前駆体の含有量は、好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは15〜45質量%であり、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0044】
工程(I)又は(Ib)における水熱反応は、100℃以上であればよく、130〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3〜0.9MPaであるのが好ましく、140〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.1〜48時間が好ましく、さらに0.2〜24時間が好ましい。
得られた酸化物Xは、上記式(A)〜(C)で表される酸化物であり、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することによりこれを単離できる。なお、乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられる。
【0045】
得られる酸化物XのBET比表面積は、共存してなる炭素を効率よく担持して吸着水分量を効果的に低減する観点から、好ましくは5〜40m
2/gであり、より好ましくは5〜20m
2/gである。酸化物XのBET比表面積が5m
2/g未満であると、二次電池用正極活物質の一次粒子が大きくなりすぎ、電池特性が低下してしまうおそれがある。また、BET比表面積が40m
2/gを超えると、二次電池用正極活物質の吸着水分量が増大して電池特性に影響を与えるおそれがある。
【0046】
工程(II)は、工程(I)で得られた酸化物Xに水不溶性導電性炭素材料を添加した後、乾式混合して複合体Yを得る工程である。水不溶性導電性炭素材料に加え、さらに補助的に水溶性炭素材料を添加してもよく、この場合、これらの添加順序は特に制限されない。水不溶性導電性炭素材料の添加量は、例えば酸化物X100質量部に対し、好ましくは0.5〜24.2質量部であり、より好ましくは1.5〜20.5質量部であり、さらに好ましくは2.6〜17.0質量部である。具体的には、水不溶性導電性炭素材料の添加量は、酸化物が上記式(A)又は(C)で表される二次電池用正極活物質では、好ましくは0.5〜17.0質量部であり、より好ましくは1.5〜14.9質量部であり、さらに好ましくは2.6〜13.0質量部であり、酸化物が上記式(B)で表される二次電池用正極活物質では、好ましくは1.3〜23.8質量部であり、より好ましくは2.3〜20.1質量部であり、さらに好ましくは3.4〜16.6質量部である。
また、かかる工程(II)において、水不溶性導電性炭素材料と水溶性炭素材料を併用する場合、水不溶性導電性炭素材料の添加量と水溶性炭素材料の添加量の炭素原子換算量との質量比(水不溶性導電性炭素材料:水溶性炭素材料)は、好ましくは100:2〜3:100であり、より好ましくは100:10〜10:100である。
【0047】
工程(II)における乾式混合としては、通常のボールミルによる混合であるのが好ましく、自公転可能な遊星ボールミルによる混合がより好ましい。さらに、上記式(A)〜(C)で表される酸化物表面上で水不溶性導電性炭素材料、及び必要に応じて併用する水溶性炭素材料を緻密かつ均一に分散させ、炭化されてなる炭素として有効に担持させる観点から、圧縮力及びせん断力を付加しながら複合体Yを混合して複合体Y’とするのがさらに好ましい。圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理は、インペラを備える密閉容器で行うのが好ましい。かかるインペラの周速度は、得られる正極活物質のタップ密度を高め、またBET比表面積を減じて吸着水分量を有効に低減する観点から、好ましくは25〜40m/sであり、より好ましくは27〜40m/sである。また、混合時間は、好ましくは5〜90分であり、より好ましくは10〜80分である。
なお、インペラの周速度とは、回転式攪拌翼(インペラ)の最外端部の速度を意味し、下記式(1)により表すことができ、また圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理を行う時間は、インペラの周速度が遅いほど長くなるように、インペラの周速度によっても変動し得る。
インペラの周速度(m/s)=
インペラの半径(m)×2×π×回転数(rpm)÷60・・・(1)
【0048】
工程(II)において、上記圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理を行う際の処理時間及び/又はインペラの周速度は、容器に投入する複合体Yの量に応じて適宜調整する必要がある。そして、容器を稼動させることにより、インペラと容器内壁との間でこれら混合物に圧縮力及びせん断力が付加されつつ、これを混合する処理を行うことが可能となり、上記式(A)〜(C)で表される酸化物表面上で水不溶性導電性炭素材料、及び必要に応じて補助的に併用する水溶性炭素材料を緻密かつ均一に分散させ、後述するように、さらに工程(III)において添加される水溶性炭素材料とも相まって吸着水分量を有効に低減できる二次電池用正極活物質を得ることができる。
例えば、上記混合する処理を、周速度25〜40m/sで回転するインペラを備える密閉容器内で6〜90分間行う場合、容器に投入する複合体Yの量は、有効容器(インペラを備える密閉容器のうち、複合体Yを収容可能な部位に相当する容器)1cm
3当たり、好ましくは0.1〜0.7gであり、より好ましくは0.15〜0.4gである。
【0049】
このような圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理を容易に行うことができる密閉容器を備える装置としては、高速せん断ミル、ブレード型混練機等が挙げられ、具体的には、例えば、微粒子複合化装置 ノビルタ(ホソカワミクロン社製)を好適に用いることができる。
上記混合の処理条件としては、処理温度が、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜50℃である。処理雰囲気としては、特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下、又は還元ガス雰囲気下が好ましい。
【0050】
工程(III)では、工程(I)で得られたに水溶性炭素材料を添加して湿式混合し、焼成する工程である。これにより、上記(A)〜(C)で表される酸化物Xの表面が露出するのを有効に抑制しつつ、かかる酸化物Xに水不溶性導電性炭素材料と、水溶性炭素材料由来の炭素とを、共に堅固に担持させることができる。
【0051】
工程(III)における水溶性炭素材料の添加量は、水不溶性導電性炭素材料が存在しない酸化物Xの表面に水溶性炭素材料由来の炭素を有効に担持させ、且つ、充分な充放電容量を保持する観点から、複合体Y(又は上記工程(II)において、さらに上記圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理を行った場合は複合体Y’、以下同様)100質量部に対し、好ましくは1.0〜55.0質量部であり、より好ましくは1.0〜40.0質量部であり、さらに好ましくは1.0〜30.0質量部である。
【0052】
工程(III)では、さらに水溶性炭素材料由来の炭素を酸化物表面に良好に担持させる観点から、水溶性炭素材料とともに、水を添加するのが好ましい。水の添加量は、複合体Y(又は複合体Y’)100質量部に対し、好ましくは30〜300質量部であり、より好ましくは50〜250質量部であり、さらに好ましくは75〜200質量部である。この水により、工程(II)において補助的に水溶性炭素材料を添加した場合、複合体Y(又は複合体Y’)に担持されてなる補助的に添加した水溶性炭素材料を溶解させ、工程(III)で添加した水溶性炭素材料と同じ作用を発揮させることができる。
【0053】
工程(III)における湿式混合手段としては、特に制限されず、常法により行うことができる。複合体Y(又は複合体Y’)に水溶性炭素材料を添加した後、混合する際の温度は、好ましくは5〜80℃であり、より好ましくは7〜70℃である。得られる混合物は、焼成するまでの間に乾燥するのが好ましい。乾燥手段としては、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
【0054】
工程(III)において、上記湿式混合に得られた混合物を焼成する。焼成は、還元雰囲気又は不活性雰囲気中で行うのが好ましい。焼成温度は、水不溶性導電性炭素材料の結晶性を高めて導電性を向上させる観点、及び水溶性炭素材料をより有効に炭化させる観点から、好ましくは500〜800℃であり、より好ましくは600〜770℃であり、さらに好ましくは650〜750℃である。また、焼成時間は、好ましくは10分〜3時間、より好ましくは30分〜1.5時間とするのがよい。
【0055】
本発明の二次電池用正極活物質は、上記水不溶性導電性炭素材料と、水溶性炭素材料由来の炭素とが、共に上記酸化物に担持されて相乗的に作用し、二次電池用正極活物質における吸着水分量を有効に低減することができる。具体的には、本発明の二次電池用正極活物質の吸着水分量は、酸化物が上記式(A)又は(C)で表される二次電池用正極活物質では、二次電池用正極活物質中に、好ましくは850ppm以下であり、より好ましくは700ppm以下であり、酸化物が上記式(B)で表される二次電池用正極活物質では、好ましくは2900ppm以下であり、より好ましくは2500ppm以下である。なお、かかる吸着水分量は、温度20℃及び相対湿度50%にて平衡に達するまで水分を吸着させ、温度150℃まで昇温して20分間保持した後、さらに温度250℃まで昇温して20分間保持したときの、150℃から昇温を再開するときを始点、及び250℃での恒温状態を終えたときを終点とする、始点から終点までの間に揮発した水分量として測定される値であって、二次電池用正極活物質の吸着水分量と、上記始点から終点までの間に揮発した水分量とが、同量であるとみなし、かかる揮発する水分量の測定値を二次電池用正極活物質の吸着水分量とするものである。
このように、本発明の二次電池用正極活物質は、水分を吸着しにくいため、製造環境として強い乾燥条件を必要とすることなく吸着水分量を有効に低減することができ、得られるリチウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池の双方において、様々な使用環境下でも優れた電池特性を安定して発現することが可能となる。
なお、温度20℃及び相対湿度50%にて平衡に達するまで水分を吸着させ、温度150℃まで昇温して20分間保持した後、さらに温度250℃まで昇温して20分間保持したときの、150℃から昇温を再開するときを始点、及び250℃での恒温状態を終えたときを終点とする、始点から終点までの間に揮発した水分量は、例えばカールフィッシャー水分計を用いて測定することができる。
【0056】
また、本発明の二次電池用正極活物質のタップ密度は、吸着水分量を効果的に低減する観点から、好ましくは0.5〜1.6g/cm
3であり、より好ましくは0.8〜1.6g/cm
3である。
【0057】
さらに、本発明の二次電池用正極活物質のBET比表面積は、吸着水分量を効果的に低減する観点から、好ましくは5〜21m
2/gであり、より好ましくは7〜20m
2/gである。
【0058】
本発明の二次電池用正極活物質を含む二次電池用正極を適用できる二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0059】
ここで、負極については、リチウムイオン又はナトリウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、ナトリウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムイオン又はナトリウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
【0060】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0061】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、リチウムイオン二次電池の場合、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO
3CF
3、LiC(SO
3CF
3)
2、LiN(SO
3CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2及びLiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。また、ナトリウムイオン二次電池の場合、NaPF
6、NaBF
4、NaClO
4及びNaAsF
6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、NaSO
3CF
3、NaC(SO
3CF
3)
2及びNaN(SO
3CF
3)
2、NaN(SO
2C
2F
5)
2及びNaN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0062】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1−1]
LiOH・H
2O 4.9kg、及び水 11.7kgを混合してスラリー水を得た。次いで、得られたスラリー水を25℃の温度に保持しながら速度400rpmにて30分間撹拌しつつ、70%のリン酸水溶液 5.09kgを35mL/minで滴下して、混合物A
1を得た。かかる混合スラリー液のpHは10.0であり、水酸化リチウム1モルに対し、0.33モルのリン酸を含有していた。
【0065】
次に、得られた混合物A
1に対し、速度400rpmで30分間撹拌しながら窒素をパージして、混合物A
1での反応を完了させた(溶存酸素濃度0.5mg/L)。続いて、混合物A
121.7kgに対し、FeSO
4・7H
2O 1.63kg、MnSO
4・H
2O 5.60 kgを添加し、さらにNa
2SO
3 0.0468kgを添加して速度400rpmにて撹拌・混合して混合物A
2を得た。このとき、添加したFeSO
4・7H
2OとMnSO
4・H
2Oのモル比(FeSO
4・7H
2O:MnSO
4・H
2O)は、20:80であった。
次いで、混合物A
2を蒸気加熱式オートクレーブ内に設置した合成容器に投入した。投入後、隔膜分離装置により水(溶存酸素濃度0.5mg/L未満)を加熱して得た飽和蒸気を用いて、170℃で1時間攪拌しながら加熱した。オートクレーブ内の圧力は、0.8MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで水により洗浄した。洗浄した結晶を60℃、1Torrの条件で真空乾燥し、酸化物X
1(粉末、式(A)で表される化学組成:LiFe
0.2Mn
0.8PO
4)を得た。
【0066】
得られた酸化物X
1100gを分取し、これにグラファイト4g(高純度黒鉛粉末、日本黒鉛工業(株)製、BET比表面積5m
2/g、平均粒子径6.1μm、活物質中における炭素原子換算量で3.8質量%に相当)をボールミルにより乾式で混合した。得られた複合体Y
1に対し、ノビルタ(ホソカワミクロン社製、NOB130)を用いて40m/s(6000rpm)で5分間、混合処理を行って複合体Y
1’(粉末)を得た。
【0067】
得られた複合体Y
1’を10g分取し、これにグルコース 0.25g(活物質中における炭素原子換算量で1.0質量%に相当)及び水 10mLを添加し、混合して80℃で12時間乾燥を行い、還元雰囲気下で700℃で11時間焼成して、酸化物X
1にグラファイトとグルコース由来の炭素とが担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素の量=4.8質量%)を得た。
【0068】
[実施例1−2]
複合体Y
1’に添加するグルコースを0.5g(活物質中における炭素原子換算量で2.0質量%に相当)とした以外、実施例1−1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素の量=5.8質量%)を得た。
【0069】
[実施例1−3]
複合体Y
1’に添加するグルコースを0.75g(活物質中における炭素原子換算量で2.9質量%に相当)とした以外、実施例1−1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素の量=6.7質量%)を得た。
【0070】
[実施例1−4]
複合体Y
1’に添加するグルコースを1.25g(活物質中における炭素原子換算量で4.8質量%に相当)とした以外、実施例1−1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素の量=8.6質量%)を得た。
【0071】
[実施例1−5]
FeSO
4・7H
2Oを7.34kg、MnSO
4・H
2Oを0.7kgとした以外、実施例1−1と同様の方法で、酸化物X
2(粉末、式(A)で表される化学組成:LiFe
0.9Mn
0.1PO
4)を得た後にグラファイトを4g(活物質中における炭素原子換算量で3.8質量%に相当)を混合して複合体Y
2及び複合体Y
2’を得て、次いでグルコースを0.25g(活物質中における炭素原子換算量で1.0質量%に相当)添加して、グラファイトとグルコース由来の炭素とが担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質(LiFe
0.9Mn
0.1PO
4、炭素の量=4.8質量%)を得た。
【0072】
[比較例1−1]
複合体Y
2’にグルコースを添加しなかった以外、実施例1−5と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質(LiFe
0.9Mn
0.1PO
4、炭素の量=3.8質量%)を得た。
【0073】
[実施例2−1]
LiOH・H
2O 0.428kg、Na
4SiO
4・nH
2O 1.40kgに超純水3.75Lを混合してスラリー水を得た。このスラリー水に、FeSO
4・7H
2O 0.39kg、MnSO
4・5H
2O 0.79kg、及びZr(SO
4)
2・4H
2O 0.053kgを添加し、混合した。次いで、得られた混合液をオートクレーブに投入し、150℃で12時間水熱反応を行った。オートクレーブの圧力は0.4MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を−50℃で12時間凍結乾燥して酸化物X
3(粉末、式(B)で表される化学組成:Li
2Fe
0.28Mn
0.66Zr
0.03SiO
4)を得た。
【0074】
得られた酸化物X
3213.9gを分取し、グラファイト16.1g(活物質中における炭素原子換算量で7.0質量%に相当)と共にボールミルにより乾式で混合した。得られた複合体Y
3に対し、ノビルタ(ホソカワミクロン社製、NOB130)を用いて40m/s(6000rpm)で5分間、混合処理を行って複合体Y
3’(粉末)を得た。得られた複合体Y
3’を5g分取し、これにグルコース 0.125g(活物質中における炭素原子換算量で1.0質量%に相当)及び水 10mLを添加し、混合して80℃で12時間乾燥を行い、還元雰囲気下で650℃で1時間焼成して、酸化物X
3にグラファイトとグルコース由来の炭素とが担持してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質(Li
2Fe
0.28Mn
0.66Zr
0.03SiO
4、炭素の量=8.0質量%)を得た。
【0075】
[実施例2−2]
複合体Y
3’に添加するグルコースを0.25g(活物質中における炭素原子換算量で2.0質量%に相当)とした以外、実施例2−1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質(Li
2Fe
0.28Mn
0.66Zr
0.03SiO
4、炭素の量=9.0質量%)を得た。
【0076】
[実施例2−3]
複合体Y
3’に添加するグルコースを0.375g(活物質中における炭素原子換算量で2.9質量%に相当)とした以外、実施例2−1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質(Li
2Fe
0.28Mn
0.66Zr
0.03SiO
4、炭素の量=9.9質量%)質を得た。
【0077】
[実施例2−4]
複合体Y
3’に添加するグルコースを0.875g(活物質中における炭素原子換算量で6.8質量%に相当)とした以外、実施例2−1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質(Li
2Fe
0.28Mn
0.66Zr
0.03SiO
4、炭素の量=13.8質量%)を得た。
【0078】
[比較例2−1]
複合体Y
3’にグルコースを添加しなかった以外、実施例2−1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質(Li
2Fe
0.28Mn
0.66Zr
0.03SiO
4、炭素の量=7.0質量%)を得た。
【0079】
[実施例3−1]
NaOH 0.60kgと水 9.0Lを混合して溶液を得た。次いで、得られた溶液を、25℃の温度に保持しながら5分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液0.577kgを35mL/分で滴下し、続いて12時間、400rpmの速度で撹拌することにより、混合物A
4を含有するスラリーを得た。かかるスラリーは、リン1モルに対し、3.00モルのナトリウムを含有していた。得られたスラリーに対し、窒素ガスをパージして溶存酸素濃度を0.5mg/Lに調整した後、FeSO
4・7H
2O 0.139kg、MnSO
4・5H
2O 0.964kg、MgSO
4・7H
2O 0.124kgを添加した。次いで、得られた混合液を窒素ガスでパージしたオートクレーブに投入し、200℃で3時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は、1.4MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を−50℃で12時間凍結乾燥して酸化物X
4(粉末、式(C)で表される化学組成:NaFe
0.1Mn
0.8Mg
0.1PO
4)を得た。
【0080】
得られた酸化物X
4153.6gを分取し、グラファイト6.4g(活物質中における炭素原子換算量で4質量%に相当)とともにボールミルにより乾式で混合した。得られた複合体Y
4に対し、ノビルタ(ホソカワミクロン社製、NOB130)を用いて40m/s(6000rpm)で5分間、混合処理を行って複合体Y
4’(粉末)を得た。得られた複合体Y
4’を5g分取し、これにグルコース 0.125g(活物質中における炭素原子換算量で1.0質量%に相当)及び水 10mLを添加し、混合して80℃で12時間乾燥を行い、還元雰囲気下で700℃で1時間焼成して、酸化物X
4にグラファイトとグルコース由来の炭素とが担持してなるナトリウムイオン二次電池用正極活物質(NaFe
0.1Mn
0.8Mg
0.1PO
4、炭素の量=5.0質量%)を得た。
【0081】
[実施例3−2]
複合体Y
4’に添加するグルコースを0.25g(活物質中における炭素原子換算量で2.0質量%に相当)とした以外、実施例3−1と同様の方法でナトリウムイオン二次電池用正極活物質(NaFe
0.1Mn
0.8Mg
0.1PO
4、炭素の量=6.0質量%)を得た。
【0082】
[実施例3−3]
複合体Y
4’に添加するグルコースを0.375g(活物質中における炭素原子換算量で2.9質量%に相当)とした以外、実施例3−1と同様の方法でナトリウムイオン二次電池用正極活物質(NaFe
0.1Mn
0.8Mg
0.1PO
4、炭素の量=6.9質量%)を得た。
【0083】
[実施例3−4]
複合体Y
4’に添加するグルコースを0.92g(活物質中における炭素原子換算量で6.8質量%に相当)とした以外、実施例3−1と同様の方法でナトリウムイオン二次電池用正極活物質(NaFe
0.1Mn
0.8Mg
0.1PO
4、炭素の量=10.8質量%)を得た。
【0084】
[比較例3−1]
複合体Y
4’にグルコースを添加しなかった以外、実施例3−1と同様の方法でナトリウムイオン二次電池用正極活物質(NaFe
0.1Mn
0.8Mg
0.1PO
4、炭素の量=4.0質量%)を得た。
【0085】
《吸着水分量の測定》
実施例1−1〜3−4及び比較例1−1〜3−1で得られた各正極活物質の吸着水分量は、下記方法にしたがって測定した。
正極活物質(複合体粒子)について、温度20℃、相対湿度50%の環境に1日間静置して平衡に達するまで水分を吸着させ、温度150℃まで昇温して20分間保持した後、さらに温度250℃まで昇温して20分間保持したときの、150℃から昇温を再開するときを始点とし、及び250℃での恒温状態を終えたときを終点とし、始点から終点までの間に揮発した水分量を、カールフィッシャー水分計(MKC−610、京都電子工業(株)製)で測定し、正極活物質における吸着水分量として求めた。
結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
《二次電池を用いた充放電特性の評価》
実施例1−1〜3−4及び比較例1−1〜3−1で得られた正極活物質を用い、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られた正極活物質、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比75:20:5の配合割合で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。
その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
次いで、上記の正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6(リチウムイオン二次電池の場合)又はNaPF
6(ナトリウムイオン二次電池の場合)を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR−2032)を製造した。
【0088】
製造した二次電池を用い、充放電試験を行った。リチウムイオン電池の場合には、充電条件を電流1CA(330mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件を1CA(330mA/g)、終止電圧1.5Vの定電流放電として、1CAにおける放電容量を求めた。ナトリウムイオン電池の場合には、充電条件を電流1CA(154mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件を1CA(154mA/g)、終止電圧2.0Vの定電流放電として、1CAにおける放電容量を求めた。さらに、同様の充放電条件において、50サイクル繰り返し試験を行い、下記式(2)により容量保持率(%)を求めた。なお、充放電試験は全て30℃で行った。
容量保持率(%)=(50サイクル後の放電容量)/(1サイクル後の放電容量) ×100 ・・・(2)
結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
上記結果より、実施例の正極活物質は、比較例の正極活物質に比して、確実に吸着水分量を低減することができるとともに、得られる電池においても優れた性能を発揮できることがわかる。