(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Mnと、Znと、Oと、元素X(ただし、XはWおよびMoからなる群より選択される1種単独または2種の元素である)と、を成分組成に含むMn−Zn−O系スパッタリングターゲットであって、
相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が1×10−3Ω・cm以下であり、
Mnと、Znと、前記元素Xとの合計100原子%に対してMn:4〜40原子%、Zn:15〜60原子%、前記元素X:5〜40原子%であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
前記混合粉末は、Cu、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、Tbからなる群より選択される1種単独又は2種以上の元素の単体又は化合物からなる粉末を更に含む、請求項5に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、前述の材料からなるMn−Zn−Ma−O系記録層のように、複数種の元素を含有する層をスパッタリング法で形成する方法の一つとして、特許文献1に開示されているように、それぞれの元素からなる複数のターゲットをスパッタする多元スパッタ法が挙げられる。他の方法として、複数の元素を含有する1枚の複合ターゲットを単一ターゲットとしてスパッタリングする方法が挙げられる。ここで、多元スパッタ法は、装置が大型化してコストアップ要因になる上、組成ずれが生じやすいという欠点があるため、量産化の観点では1枚の複合ターゲットを用いて、DC(直流)スパッタリング法を用いる方が好ましい。
【0008】
前掲の特許文献1は、情報記録媒体作製用のスパッタリングターゲットとして、Mnの酸化物を含み、上記Mnの酸化物の一部または全部は、Mnの価数が+4未満の酸化物状態で存在するターゲットを提案し、このターゲットにおいて、上記酸化物状態で存在するMnの酸化物は、熱分解しないMn
3O
4であることが好ましいことが提案されている。さらに、このターゲットは、Mn以外の金属または該金属の酸化物をさらに含んでもよく、上記金属は、Sn、Zn、Bi、Ge、Co、W、CuおよびAlからなる群より選ばれる1種以上であることが提案されている。さらに、Zr、Al、Ta、Mo、Si、Mg、Hf、V、Ti、Sb及びTeのうち、任意の金属元素が添加されてもよいことが提案されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1は、具体的なMn−Zn−O系の複合スパッタリングターゲットについては言及していない。Mnと、Znと、元素X(ただし、XはWまたはMoである)と、Oとを成分組成に含むMn−Zn−O系の複合スパッタリングターゲットは、これまでのところ確立されていないのである。
【0010】
そこで、本発明は、元素X(ただし、XはWまたはMoである)を含むMn−Zn−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記諸目的を達成すべく鋭意検討を行い、酸化マンガン粉末、酸化亜鉛粉末、酸化タングステン粉末を原料として、Mn−Zn−W−O系スパッタリングターゲットの作製を試みた。また、上記Mn−Zn−W−O系スパッタリングターゲットにおいて、酸化タングステン粉末に替えて、酸化モリブデン粉末を原料として、Mn−Zn−Mo−O系スパッタリングターゲットの作製も試みた。これらスパッタリングターゲットのいずれも、高抵抗となって十分な導電性が得られないためDCスパッタリングに供すると異常放電(「アーキング」とも呼ばれる。)が発生してしまう。代わりに、原料を全て上記元素の金属粉末として、Mn−Zn−W−O系スパッタリングターゲットおよびMn−Zn−Mo−O系スパッタリングターゲットのそれぞれの作製を試みた。しかしながら、金属亜鉛の融点は酸化亜鉛に比べて低いため、スパッタリングターゲットの作製が困難である。
【0012】
そこで本発明者は、スパッタリングターゲットの高密度化と、低抵抗化とを両立するために、原料粉末として酸化物粉末および金属粉末を組み合わせて作製することを着想した。元素X(ただし、XはWまたはMoである)を含むMn−Zn−O系スパッタリングターゲットが、密度及び抵抗に関する所定の条件を両立している場合には、DCスパッタリングに供しても異常放電が発生しないことを本発明者らは知見し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記諸課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> Mnと、Znと、Oと、元素X(ただし、XはWおよびMoからなる群より選択される1種単独または2種の元素である)と、を成分組成に含むMn−Zn−O系スパッタリングターゲットであって、
相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が1×10
-3Ω・cm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
該<1>に記載のMn−Zn−O系スパッタリングターゲットは、混合相にX元素からなる粒子が分散しているので、DCスパッタリングに供することが可能なMn−Zn−O系スパッタリングターゲットを提供することができる。
【0014】
<2> 前記元素XはWであり、
前記スパッタリングターゲットのX線回折スペクトルにおいて、Wに起因するピークの最大ピーク強度P
wに対するMn及びOのみから構成されるマンガン酸化物に起因するピークの最大ピーク強度P
MnOの比P
MnO/P
wが、0.027以下であり、
前記最大ピーク強度P
wに対するWMnO
4結晶相に起因するピークの最大ピーク強度P
WMnOの比P
WMnO/P
wが0.024以上である、前記<1>に記載のスパッタリングターゲットである。
【0015】
<3> 前記元素XはMoであり、
前記スパッタリングターゲットのX線回折スペクトルにおいて、Moに起因するピークの最大ピーク強度P
Moに対するMn及びOのみから構成されるマンガン酸化物に起因するピークの最大ピーク強度P
MnOの比P
MnO/P
Moが、0.027以下であり、
前記最大ピーク強度P
Moに対するZn
2Mo
3O
8結晶相に起因するピークの最大ピーク強度P
ZnMoOの比P
ZnMoO/P
Moが0.015以上である、前記<1>に記載のスパッタリングターゲットである。
【0016】
<4> Mnと、Znと、前記元素Xとの合計100原子%に対してMn:4〜40原子%、Zn:15〜60原子%、前記元素X:5〜40原子%である、前記<1>〜<3>のいずれかに記載のスパッタリングターゲットである。
【0017】
<5> Cu、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、Tbからなる群より選択される1種単独又は2種以上の元素を前記成分組成に更に含む、前記<1>〜<4>のいずれかに記載のスパッタリングターゲットである。
【0018】
<6> 前記Cu、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、Tbからなる群より選択される1種単独又は2種以上の元素の含有率は、前記スパッタリングターゲットの構成元素のうち、Oを除いた合計100原子%に対して8〜70原子%である、前記<5>に記載のスパッタリングターゲットである。
【0019】
<7> 前記<1>に記載のMn−Zn−O系スパッタリングターゲットを製造する方法であって、
マンガン酸化物粉末と、亜鉛酸化物粉末と、前記元素Xを成分含有する金属粉末とを、12時間以上湿式混合する混合工程と、
該混合工程の後、前記混合粉末を700℃以上の温度で焼結する焼結工程と、を含むことを特徴とする製造方法である。
該<7>に記載の製造方法によれば、DCスパッタリングに供することが可能なMn−Zn−O系スパッタリングターゲットの製造方法を提供することができる。
【0020】
<8> 前記混合粉末は、Cu、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、Tbからなる群より選択される1種単独又は2種以上の元素の単体又は化合物からなる粉末を更に含む、前記<7>に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、DCスパッタリングに供することが可能なMn−Zn−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(Mn−Zn−O系スパッタリングターゲット)
本発明のMn−Zn−O系スパッタリングターゲットは、Mnと、Znと、元素Xと、Oとを成分組成に含むMn−Zn−O系スパッタリングターゲットである。以下、本発明のMn−Zn−O系スパッタリングターゲットを単に「ターゲット」と称し、本発明に従うターゲットを詳細に説明する。なお、元素XはWおよびMoからなる群より選択される1種単独または2種の元素であり、以下、単に「(元素)XはWまたはMoである」と記載する。
【0024】
<ターゲット>
本発明の一実施形態に従うターゲットは、Mnと、Znと、元素Xと、Oとを成分組成に含み、さらに、必要に応じて、その他の成分組成を含む。
そして、このターゲットにおいて、相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が1×10
-3Ω・cm以下であることが肝要である。
【0025】
<<元素X>>
前述のとおり、元素XはWまたはMoである。すなわち、元素XはWの1種単独からなることができ、元素XはMoの1種単独からなることができる。また、元素XはWおよびMoの2種の元素からなることもできる。ここで、元素XがWおよびMoの2種の元素からなるとは、ターゲットの成分組成にWおよびMoが共に含まれることを意味する。
【0026】
<<相対密度>>
本実施形態に従うターゲットが高密度であることを示す指標として、本明細書では相対密度を用いることとする。ターゲットの相対密度を90%以上とすることが、本発明の特徴事項の一つである。
なお、相対密度とは、ターゲットの原料粉が100%充填されたと仮定して計算した場合の仮想密度に対する、原料分を焼結した後の実測密度である。
【0027】
本実施形態に従うターゲットの相対密度は、91%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。相対密度は高いほど好ましい。
【0028】
<<比抵抗>>
一方、本実施形態に従うターゲットが低抵抗であることを示す指標として、本明細書では比抵抗を用いることとする。ターゲットの比抵抗を1×10
-3Ω・cm以下とすることが、本発明の特徴事項の一つである。なお、ターゲットの比抵抗は、9×10
-4Ω・cm以下であることが好ましく、8×10
-4Ω・cm以下であることがより好ましい。比抵抗は低ければ低いほど好ましい。
【0029】
本実施形態に従うターゲットが、前述の相対密度と、比抵抗との両方の条件を満足することで、DCスパッタリングに供した際に異常放電の発生を抑制することができるターゲットとなることが本発明者らによって確認された。さらに、いずれか一方の条件を満足するだけでは、異常放電の発生を十分に抑制することはできないことも確認された。このように、本実施形態に従い、DCスパッタリングに供することができるMn−Zn−O系スパッタリングターゲットを提供することができる。また、本実施形態に従うターゲットは、光情報記録媒体の記録層の形成に供して特に好適であるが、用途が何ら限定されるものではない。
【0030】
<Wに起因するピーク>
ここで、本実施形態に従うターゲットのX線回折スペクトルにおいて、元素XがWである場合、Wに起因するピークの最大ピーク強度P
wに対するMn及びOのみから構成されるマンガン酸化物に起因するピークの最大ピーク強度P
MnOの比P
MnO/P
wが、0.027以下であることが好ましい。さらに、この最大ピーク強度P
wに対するWMnO
4結晶相に起因するピークの最大ピーク強度P
WMnOの比P
WMnO/P
wが0.024以上であることが好ましい。これらの条件を満たす場合、ターゲットが高密度化されているためである。以下、これらのピーク強度についてより詳細に説明する。
【0031】
<<Mn及びOのみから構成されるマンガン酸化物>>
まず、Mn及びOのみから構成されるマンガン酸化物とは、Mn
3O
4(酸化マンガン(II,III))及びMn
2O
3(酸化マンガン(III))などの、酸化マンガンであり、後述のWMnO
4などの、Mn及びO以外の元素を含むマンガン複合酸化物は除外される。マンガン酸化物としては、他にMnO、MnO
2、MnO
3及びMn
2O
7なども挙げられる。以下、本明細書においては、マンガン酸化物のうち、Mn及びOのみから構成される酸化マンガンを単に「酸化マンガン」と称し、Mn及びO以外の元素を含む複合酸化物を「マンガン複合酸化物」と称し、両者を区分する。本実施形態に従うターゲットにおいて、酸化マンガンの結晶相がターゲットに実質的に存在しないことが好ましく、その実質的な存否はX線回折におけるピーク強度を用いて特定することができる。
【0032】
−ターゲットのX線回折スペクトルにおける強度−
なお、ターゲットのX線回折スペクトルの取得は、常法に従い行うことができ、例えばSmartlab;株式会社リガク製を用いて、ターゲット表面をθ−2θスキャンしてスペクトルを取得すればよい。X線回折の測定条件はターゲットに応じて適宜定まり、例えば以下の条件の範囲内から選択することができる。
X線源:Cu―Kα線
出力設定:20〜100kV、10〜100mA
測角範囲:2θ=5°〜80°
スキャン速度:1°〜4°(2θ/min)、連続スキャン
発散スリット:0.5°〜2°
散乱スリット:0.5°〜2°
受光スリット:0.1mm〜0.5mm
【0033】
−Wのピーク強度−
Wの回折ピークは、40.26°±0.3°、58.27°±0.3°などの範囲で検出され、これらのうちの最大値をWに起因するピークの最大ピーク強度P
w(単位:cps、以下同じ。)とし、基準強度とすればよい。元素XがWである場合、このターゲットのX線回折スペクトルにおいて、Wに起因するピークの最大ピーク強度P
Wが、ターゲット中の各成分のピークの最大ピーク強度のうち最大強度となることが多いためである。酸化マンガンに起因するピークの最大ピーク強度P
MnOについて、例えばMn
3O
4の回折ピークは28.88°±0.3°、59.84°±0.3°などの範囲で検出され、Mn
2O
3の場合には32.98°±0.3°、55.24°±0.3°などの範囲で検出される。これらのうち、酸化マンガンの回折ピークが有意に検出される場合には、酸化マンガンに起因するピークのピーク強度の最大値を最大ピーク強度P
MnOとする。酸化マンガンの回折ピークがX線回折スペクトルのバックグラウンドに埋没している場合(例えばバックグラウンド強度の1.1倍以下)には、回折ピークが検出されないとみなしてピーク強度P
MnOを0(ゼロ)とする。
【0034】
比P
MnO/P
wが0.027以下であれば、酸化マンガンの結晶相がターゲットに実質的に存在しないとみなすことができる。酸化マンガンの結晶相がターゲットに実質的に存在しない場合には、焼結が十分に進んで相対密度が高まり、焼結密度も高いことを意味する。
【0035】
なお、比P
MnO/P
wとしては、前述の範囲内であれば特に制限されないが、0.027以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、0(すなわち、酸化マンガンの回折ピークが検出されない)であることが最も好ましい。
【0036】
<<WMnO
4結晶相>>
さらに、元素XがWである場合のターゲットの相対密度が高いことを示す指標として、WMnO
4結晶相が存在することが好ましい。焼結が十分に進むとWMnO
4の形態が存在するようになるからである。WMnO
4結晶相の存在はWMnO
4結晶相に起因するピークの存在により特定することができ、この実施形態においては、WMnO
4結晶相に起因するピークが存在することが好ましい。なお、WMnO
4結晶相に起因するピークが存在するとは、X線回折スペクトルにおけるバックグラウンドに対して有意なピークが検出されることを意味する。
【0037】
−WMnO
4結晶相に起因するピークのピーク強度P
WMnO−
WMnO
4結晶相に起因する回折ピークは、29.80°±0.3°、30.23°±0.3°などの範囲で検出され、これらのピークのうちの最大強度となるピークの強度を最大ピーク強度P
WMnOとすると、比P
WMnO/P
wが0.02以上であれば、WMnO
4結晶相が確実に存在することとなり、好ましい。さらに、比P
WMnO/P
wが0.03以上であることがより好ましく、0.04以上であることが最も好ましい。
【0038】
<Moに起因するピーク>
また、本実施形態に従うターゲットのX線回折スペクトルにおいて、元素XがMoである場合、Moに起因するピークの最大ピーク強度P
Moに対するMn及びOのみから構成されるマンガン酸化物に起因するピークの最大ピーク強度P
MnOの比P
MnO/P
Moが、0.027以下であることが好ましい。さらに、この最大ピーク強度P
Moに対するZn
2Mo
3O
8結晶相に起因するピークの最大ピーク強度P
ZnMoOの比P
ZnMoO/P
Moが0.015以上であることが好ましい。これらの条件を満たす場合、ターゲットの相対密度が確実に高くなっているためである。以下、これらのピーク強度についてより詳細に説明する。
【0039】
−Moのピーク強度−
Moの回折ピークは、40.52°±0.3°、58.61°±0.3°などの範囲で検出され、これらのうちの最大値をMoに起因するピークの最大ピーク強度P
Mo(単位:cps、以下同じ。)とし、基準強度とすればよい。元素XがMoである場合、このターゲットのX線回折スペクトルにおいて、Moに起因するピークの最大ピーク強度P
Moが、ターゲット中の各成分のピークの最大ピーク強度のうち最大強度となることが多いためである。比P
MnO/P
Moが0.027以下であれば、元素XがWである場合と同様に、酸化マンガンの結晶相がターゲットに実質的に存在しないとみなすことができる。
【0040】
なお、比P
MnO/P
Moとしては、前述の範囲内であれば特に制限されないが、0.02以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、0(すなわち、酸化マンガンの回折ピークが検出されない)であることが最も好ましい。
【0041】
<<Zn
2Mo
3O
8結晶相>>
さらに、元素XがMoである場合のターゲットの相対密度が高いことを示す指標として、Zn
2Mo
3O
8結晶相が存在することが好ましい。焼結が十分に進むと、Zn
2Mo
3O
8の形態が存在するようになるためである。Zn
2Mo
3O
8結晶相の存在はZn
2Mo
3O
8結晶相に起因するピークの存在により特定することができ、この実施形態においては、Zn
2Mo
3O
8結晶相に起因するピークが存在することが好ましい。なお、Zn
2Mo
3O
8結晶相に起因するピークが存在するとは、X線回折スペクトルにおけるバックグラウンドに対して有意なピークが検出されることを意味する。
【0042】
−Zn
2Mo
3O
8結晶相に起因するピークのピーク強度P
ZnMoO−
Zn
2Mo
3O
8結晶相に起因する回折ピークは、17.88°±0.3°、25.27°±0.3°などの範囲で検出され、これらのピークのうちの最大強度となるピークの強度を最大ピーク強度P
ZnMoOとすると、比P
ZnMoO/P
Moが0.015以上であれば、Zn
2Mo
3O
8結晶相が確実に存在することとなり、好ましい。さらに、比P
ZnMoO/P
Moが0.02以上であることがより好ましく、0.03以上であることが最も好ましい。
【0043】
なお、元素XとしてW及びMoの両方を用いる場合、P
W及びP
Moのそれぞれを用いて、酸化マンガンの結晶相がターゲットに実質的に存在しないことと、WMnO
4結晶相およびZn
2Mo
3O
8結晶相が存在することとを確認することができる。
【0044】
<<成分比>>
ここで、本実施形態に従うターゲットの成分比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Mnと、Znと、元素Xとの合計100原子%に対してMn:4〜40原子%、Zn:15〜60原子%、元素X:5〜40原子%とすることができる。
【0045】
<<その他の成分>>
本実施形態に従うターゲットには、必要に応じて他の金属元素がさらに含まれていてもよい。これら金属元素を適宜含有させることで、本実施形態に従うターゲットを例えば情報記録媒体の記録層形成に供する場合に、記録層の透過率、反射率および記録感度を変化させて、多層構造の記録層とすることができる。この目的のために、本実施形態に従うターゲットは、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、Tbからなる群より選択される1種単独又は2種以上の元素を成分組成に更に含むことが好ましい。
【0046】
−その他の成分の成分比−
上記Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、Tbからなる群より選択される1種単独又は2種以上の元素の含有率は、スパッタリングターゲットの構成元素のうち、O(酸素)を除いた合計100原子%に対して8〜70原子%とすることができ、この範囲で用途に応じて適宜選択することができる。
【0047】
なお、本実施形態に従うターゲットの形状は何ら限定されることはなく、円盤状、円筒状、四角形板状、長方形板状、正方形板状など、任意の形状とすることができ、ターゲットの用途に応じて適宜選択することができる。また、ターゲットの幅及び奥行きの大きさ(円形の場合には直径)についても、mmオーダー〜mオーダー程度の範囲で、ターゲットの用途に応じて適宜選択することができる。例えばターゲットが円形の場合、一般的には直径50mm〜300mm程度である。厚みについても同様であるが、一般的には1mm〜20mm程度である。
【0048】
<ターゲットの製造方法>
次に、
図1を用いて、前述の本発明の一実施形態に従うターゲットの製造方法を説明する。本発明の一実施形態に従うターゲットの製造方法は、混合工程(S10)と、焼結工程(S20)と、を含み、さらに、必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0049】
<<混合工程(S10)>>
混合工程(S10)は、マンガン酸化物粉末と、亜鉛酸化物粉末と、元素Xを成分含有する金属粉末とを含む混合粉末を、12時間以上湿式混合する工程である。
湿式混合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば従来公知のボールミル装置を用いた湿式混合方法、などが挙げられる。本工程で混合する混合粉末及び混合条件を以下に説明する。
【0050】
混合粉末は、マンガン酸化物粉末と、亜鉛酸化物粉末と、元素Xを成分含有する金属粉末とを含み、必要に応じて、その他の粉末を含んでもよい。
【0051】
−マンガン酸化物粉末−
マンガン酸化物粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、Mn
3O
4(酸化マンガン(II,III))及びMn
2O
3(酸化マンガン(III))の他、MnO、MnO
2、MnO
3及びMn
2O
7などMn
3O
4、Mn
2O
3、などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、Mn
3O
4粉末がより好ましい。焼結温度と融点の関係のためである。
なお、マンガン酸化物粉末の平均粒径としては、目的に応じて適宜選択することができる。Mn
3O
4粉末の平均粒径としては、市販の3μm〜7μm程度とすることができる。
【0052】
−亜鉛酸化物粉末−
亜鉛酸化物粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化亜鉛(ZnO)粉末、過酸化亜鉛(ZnO
2)粉末、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ZnO粉末がより好ましい。焼結温度と融点の関係のためである。
なお、亜鉛酸化物粉末の平均粒径としては、目的に応じて適宜選択することができる。また、ZnO粉末の平均粒径としては、市販の1μm〜3μm程度とすることができる。
【0053】
−元素Xを成分含有する金属粉末−
元素Xを成分含有する金属粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Wの単体からなる金属タングステン粉末、Moの単体からなる金属モリブデン粉末、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。XがWおよびMoである場合には、金属タングステン粉末及び金属モリブデン粉末を共に用いる。
なお、元素Xを成分含有する金属粉末の平均粒径としては、目的に応じて適宜選択することができる。金属タングステン粉末の平均粒径としては、市販の2μm〜5μm程度とすることができる。また、金属モリブデン粉末の平均粒径としては、市販の1μm〜5μm程度とすることができる。
【0054】
−その他の粉末−
その他の粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Cu、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、In、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、Tbからなる群より選択される1種単独又は2種以上の元素の単体又は化合物からなる粉末、などが挙げられる。ここで、製造するターゲットの所望の目的に応じて、かかる粉末を混合粉末に含ませてもよい。
【0055】
−混合時間−
ここで、混合粉末を12時間以上湿式混合することが本実施形態において肝要である。混合時間を12時間以上とすることにより、十分に混合粉末を混合することができるので、焼結中の酸化マンガンの固相反応を促進して、焼結後の酸化マンガン結晶相の残留を抑制することができる。また、上記範囲の中でも、混合時間を16時間以上とすることが好ましく、20時間以上とすることがより好ましく、24時間以上とすることが最も好ましい。24時間混合すると、混合の効果が飽和するものの、24時間以上混合しても構わず、上限を意図するものではないが、工業的な生産性を考慮し、上限を168時間と設定することができる。
【0056】
<<焼結工程(S20)>>
焼結工程(S20)は、混合工程(S10)の後に行う工程であって、混合粉末を700℃以上の温度で焼結する焼結工程である。
【0057】
−焼結−
焼結法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不活性ガス雰囲気中でのホットプレス、熱間等方圧加圧法(HIP法;Hot Isostatic Pressing)、などが挙げられる。
【0058】
ここで、混合粉末を700℃以上の温度で焼結することが、本実施形態において肝要である。焼結温度を700℃以上とすることにより、焼結後の酸化マンガン結晶相の残留を抑制することができる。
【0059】
なお、焼結時間は特に限定されず、適宜選択することが可能であり、一般的に行われる1時間〜6時間程度の焼結時間とすればよい。
【0060】
以上の工程を経て相対密度が90%以上、かつ、比抵抗が1×10
-3Ω・cm以下のMn−Zn−O系スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0061】
<<その他の工程>>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、混合粉末の成形工程、などが挙げられる。
【0062】
−成形工程−
なお、上記混合粉末の成形工程は、本発明において必須ではなく、ターゲットの形状を成形するために行われることがある。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0064】
<実験例1>
以下のとおり、元素XとしてWを用い、本発明に従うターゲットとして実施例1−1を作製し、対照用のターゲットとして比較例1−1〜1−3を作製し、異常放電の有無を評価した。
(実施例1−1)
原料粉末として、以下の粉末を用意した。
純度:99.9%以上、平均粒径:5μm、Mn
3O
4粉末
純度:99.9%以上、平均粒径:1.4μm、ZnO粉末
純度:99.9%以上、平均粒径:2μm、W粉末
各金属元素の割合を、Mn:Zn:W=20:50:30(原子%)となるように、上記Mn
3O
4粉末、ZnO粉末及びW粉末を秤量した。秤量した各原料粉末と、各原料粉末の合計重量の3倍のジルコニアボール(直径5mm)と、アルコールとをポリ容器に入れ、ボールミル装置にて、湿式混合を24時間行った。混合粉末を乾燥後、目開き500μmのふるいにかけた。次いで、焼結温度:900℃、焼結時間:2時間、圧力:200kgf/cm
2、不活性ガス雰囲気中でホットプレスを行った。最後に、無酸素銅製のバッキングプレートにInはんだでボンディングを行って、実施例1−1に係るターゲットを作製した。
【0065】
(実施例1−2)
実施例1−1において、焼結温度を900℃とする代わりに、焼結温度を860℃とし、混合時間を24時間とする代わりに、混合時間を12時間とした以外は、実施例1−1と同様に実施例1−2に係るターゲットを作製した。
【0066】
(比較例1−1)
実施例1−1において、混合時間を24時間とする代わりに、混合時間を2時間とした以外は、実施例1−1と同様に比較例1−1に係るターゲットを作製した。
【0067】
(比較例1−2)
実施例1−1において、焼結温度を900℃とする代わりに、焼結温度を700℃とした以外は、実施例1−1と同様に比較例1−2に係るターゲットを作製した。
【0068】
(比較例1−3)
比較例1−1において、焼結温度を900℃とする代わりに、焼結温度を700℃とした以外は、比較例1−1と同様に比較例1−3に係るターゲットを作製した。
【0069】
(比較例1−4)
比較例1−1において、焼結温度を900℃とする代わりに、焼結温度を820℃とし、混合時間を24時間とする代わりに、混合時間を4時間とした以外は、実施例1−1と同様に比較例1−4に係るターゲットを作製した。
【0070】
<評価>
以上の実施例1−1〜1−2及び比較例1−1〜1−4で作製したターゲットについて、(A)相対密度測定、(B)比抵抗測定及び(C)異常放電の発生有無の評価、(D)X線回折による成分評価を行った。各評価は、次のように行った。
【0071】
(A)相対密度測定
実施例1−1〜1−2、比較例1−1〜1−4のそれぞれの相対密度を計算するため、ターゲットの寸法測定を行い、次いで重量測定をして各ターゲットの密度を算出した。次いで、下記式を用いて相対密度を計算した。
相対密度=[焼結体の実測密度]/[原料粉が100%充填されたとして計算した仮想密度]
結果を表1に示す。
【0072】
(B)比抵抗測定
実施例1−1〜1−2、比較例1−1〜1−4のそれぞれの比抵抗を、抵抗率計、MCP-T610、株式会社三菱化学アナリテックより測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(C)異常放電の発生有無の評価
実施例1−1〜1−2及び比較例1−1〜1−4に係るターゲットをスパッタリング装置に取り付け、それぞれDCスパッタリングを行った。すなわち、スパッタリング装置内を1×10
-4Pa以下まで真空排気し、ArガスとO
2ガスを導入し、装置内圧力を0.3Paとした。酸素の分圧([O
2]/[Ar+O
2])は、70%とした。DC電源にて電力5W/cm
2を印加して、30分間スパッタリングを行い、アーキングカウンターによりスパッタリング中の異常放電の回数を計測した。なお、放電直後の異常放電は除外した。結果を表1に示す。
【0074】
(D)成分評価
相対密度が90%を超える実施例1−1及び比較例1−1に係るターゲットについて、X線回折法により、ターゲット中の成分評価を行った。X線回折にあたっては、SmartLab;株式会社リガク製を用いて、θ−2θスキャンし、X線回折スペクトルを得た。実施例1−1に係るターゲットのX線回折スペクトルを代表例として
図2に示す。なお、強度は任意単位(a.u.)で示している。試験条件は以下のとおりである。
X線源:Cu―Kα線
出力設定:30kV、15mA
測角範囲:2θ=15°〜70°
スキャン速度:2°(2θ/min)、連続スキャン
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.3mm
実施例1−1では、ピーク強度比P
MnO/P
wは0であり、P
WMnO/P
Wは0.04であった。一方、比較例1−1では、ピーク強度比P
MnO/P
wは0.03であり、P
WMnO/P
Wは0であった。
【0075】
【表1】
【0076】
以上の結果から、元素XがWの場合、本発明の相対密度及び比抵抗の両方の条件を満足する実施例1−1、1−2に係るターゲットは、異常放電の発生が抑制されることが確認された。相対密度及び比抵抗のいずれか一方の条件を満足する比較例1−1、1−2の場合、比較例1−3に比べると異常放電の発生回数は減少されるが、DCスパッタリングに供することができる程度に抑制できたということはできない。相対密度が発明条件である90%に近く、かつ、比抵抗も発明条件の1×10
-3Ω・cmに近い比較例1−4であっても、異常放電を抑制できたと言うことはできない。
【0077】
<実験例2>
以下のとおり、元素XとしてMoを用い、本発明に従うターゲットとして実施例2−1を作製し、対照用のターゲットとして比較例2−1〜2−3を作製し、異常放電の有無を評価した。
(実施例2−1)
原料粉末として、以下の粉末を用意した。
純度:99.9%以上、平均粒径:5μm、Mn
3O
4粉末
純度:99.9%以上、平均粒径:1.4μm、ZnO粉末
純度:99.9%以上、平均粒径:2μm、Mo粉末
各金属元素の割合を、Mn:Zn:Mo=20:50:30(原子%)となるように、上記Mn
3O
4粉末、ZnO粉末及びW粉末を秤量した。秤量した各原料粉末と、各原料粉末の合計重量の3倍のジルコニアボール(直径5mm)と、アルコールとをポリ容器に入れ、ボールミル装置にて、湿式混合を24時間行った。混合粉末を乾燥後、目開き500μmのふるいにかけた。次いで、焼結温度:900℃、焼結時間:2時間、圧力:200kgf/cm
2、不活性ガス雰囲気中でホットプレスを行った。最後に、無酸素銅製のバッキングプレートにInはんだでボンディングを行って、実施例2−1に係るターゲットを作製した。
【0078】
(比較例2−1)
実施例2−1において、混合時間を24時間とする代わりに、混合時間を2時間とした以外は、実施例2−1と同様に比較例2−1に係るターゲットを作製した。
【0079】
(比較例2−2)
実施例2−1において、焼結温度を900℃とする代わりに、焼結温度を700℃とした以外は、実施例2−1と同様に比較例2−2に係るターゲットを作製した。
【0080】
(比較例2−3)
比較例2−1において、焼結温度を900℃とする代わりに、焼結温度を700℃とした以外は、比較例2−1と同様に比較例2−3に係るターゲットを作製した。
【0081】
<評価>
以上の実施例2−1及び比較例2−1〜2−3で作製したターゲットについて、(A)相対密度測定、(B)比抵抗測定及び(C)異常放電の発生有無の評価、(D)成分評価を実験例1と同様にして行った。結果を表2に示す。
なお、評価(D)において、実施例2−1では、ピーク強度比P
MnO/P
Moは0であり、P
ZnMoO/P
Moは0.03であった。一方、比較例2−1では、ピーク強度比P
MnO/P
Moは0.03であり、P
ZnMoO/P
Moは0であった。
【0082】
【表2】
【0083】
以上の結果から、元素XがMoの場合も、実験例1と同様の結果を示すことが確認された。すなわち、本発明の相対密度及び比抵抗の両方の条件を満足する実施例2−1に係るターゲットは、異常放電の発生が抑制されることが確認された。相対密度及び比抵抗のいずれか一方の条件を満足する比較例2−1、2−2の場合、両方の条件を満足しない比較例2−3に比べると異常放電の発生回数は減少されるが、DCスパッタリングに供することができる程度に抑制できたということはできない。
【課題】光情報記録媒体の記録層の形成に好適な成分組成を含む、DCスパッタリングに供することができるMn−Zn−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法の提供。
【解決手段】Mnと、Znと、Oと、元素X(ただし、XはWおよびMoから選択される1種単独または2種の元素である)と、を成分組成に含み、相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が1×10