【実施例1】
【0011】
本発明の第1実施例の流体圧縮機であるスクロール圧縮機について
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は実施例1のスクロール圧縮機1の縦断面図であり、
図2は
図1の主軸受部の拡大図である。スクロール圧縮機1は、冷媒の圧縮を行う圧縮機構部2と、圧縮機構部2を駆動する駆動部3と、駆動部3と圧縮機構部2との双方と連結するクランク軸12と、が密閉容器30内に収納されて構成されている。
【0012】
圧縮機構部2は、固定スクロール5と旋回スクロール6とフレーム9を基本要素として構成されている。フレーム9は密閉容器30に固定され、転がり軸受16を支持している。また、フレーム9は転がり軸受16を軸受支持部18と共に覆っている。軸受支持部18と転がり軸受16の間にはスラスト軸受17が配設されており、転がり軸受16を押さえるようにフレーム9に着脱可能に取り付けられている。固定スクロール5は、固定側ラップ5cと固定側板部5bと吐出口5aと背圧生成手段36を基本構成部分として構成され、フレーム9にボルトにより固定されている。固定側ラップ5cは固定側板部5bの一方の側(
図1では下側)に垂直に立設されている。旋回スクロール6は、旋回側ラップ6aと旋回側板部6bと旋回スクロール軸受部6cとを基本構成として構成されている。旋回側ラップ6aは、旋回側板部6bの一方の側(
図1では上側)に垂直に立設されている。旋回スクロール軸受部6cは、旋回側板部6bの他方の側(旋回側ラップ6aの反対側)に垂直に突出して形成されている。旋回スクロール6は、鋳鉄やアルミニウムなどを材料とする鋳物から各構成部分を加工することにより形成されている。
【0013】
固定スクロール5と旋回スクロール6を噛み合わせることにより構成される圧縮室103は、旋回スクロール6が旋回運動することで、その容積が減少して圧縮動作が行われる。この圧縮動作では、旋回スクロール6の旋回運動に伴って、作動流体が吸入パイプ7から吸入されて吸入口39を経由して圧縮室103へ吸い込まれる。吸い込まれた作動流体は圧縮室103での圧縮行程を経て固定スクロール5の吐出口5aから吐出圧力容器101へ吐出される。この吐出された作動流体は吐出パイプ31を経由して密閉容器30から外部へ吐出される。これによって、密閉容器30内の空間は吐出圧力に保たれる。圧縮機構部2で圧縮する作動流体としては、地球環境に優しいR410AやR32などの高圧冷媒が用いられている。
【0014】
旋回スクロール6を旋回駆動する駆動部3は、密閉容器30に固定される固定子22と固定子22の内周側に配置されて回転する回転子21とからなる電動機4を備えて構成される。また、オルダム継手10は旋回スクロール6の自転防止機構の主要部品、転がり軸受25はクランク軸12の下部の副軸部12cを回転自在に支持する副軸受である。旋回スクロール軸受部6cにはすべり軸受11が設けられており、このすべり軸受11によりクランク軸12の上部のクランクピン12aが回転自在に支持される。
【0015】
クランク軸12は、主軸部12bとクランクピン12aと副軸部12cとを一体に備えて構成されている。クランク軸12はクランクピン12aの下部にクランクピン12aよりも外周側に広がるようにより大きな径φDtを有するツバ部12dが形成される。ツバ部12dと転がり軸受16の内輪16aとの間には、ツバ部12dよりもさらに大きな径φDsを有するスラストストッパ41が取付けられ、転がり軸受16の内輪16aを軸方向に位置決めしている。ここで、スラストストッパ41はクランク軸12のツバ部12dと同一部材で一体で構成してもよく、これにより部品点数を低減することが可能となる。
【0016】
主軸部12bと副軸部12cとは、同一の軸心上に形成され、主軸部分を構成している。さらに、クランク軸12の下端部には、給油ポンプ28が装着されている。主軸受の転がり軸受16、副軸受の転がり軸受25はクランク軸12の主軸部12bおよび副軸部12cをそれぞれ回転自在に支持する。旋回スクロール軸受部6cは、その内径にすべり軸受11が圧入され、クランク軸12のクランクピン12aを回転軸方向であるスラスト方向に移動可能に、かつ、回転自在に支持するように旋回スクロール6の背面側に設けられている。
【0017】
オルダム継手10は、旋回スクロール6の旋回側板部6bの背面側に配設されている。オルダム継手10に形成した直交する2組のキー部分の1組がフレーム9に構成したオルダム継手10の受け部であるキー溝を滑動し、残りの1組が旋回側ラップ6aの背面側に構成したキー溝を滑動する。これによって、旋回スクロール6は旋回側ラップ6aの立設する方向である軸線方向に垂直な面内を固定スクロール5に対して自転せずに旋回運動する。
【0018】
圧縮機構部2は、電動機4に連結したクランク軸12の回転によりクランクピン12aが偏心回転すると、旋回スクロール6がオルダム継手10の自転防止機構により固定スクロール5に対し自転せずに旋回運動を行う。これにより、冷媒ガスが吸入パイプ7、吸入口39を介して固定側ラップ5cおよび旋回側ラップ6aで形成される圧縮室103に吸入する。旋回スクロール6の旋回運動により、圧縮室103では中央部に移動するに従い容積が減少することで冷媒ガスを圧縮し、圧縮ガスを吐出口5aより吐出圧力空間101に吐出する。吐出圧力空間101に吐出されたガスは、圧縮機構部2および電動機4の周囲を循環したのち吐出パイプ31から圧縮機外へ放出される。
【0019】
なお、固定スクロール5には、背圧生成手段36が設けられており、背圧室102の圧力を吸入圧力と吐出圧力の中間の圧力(中間圧力)に保っている。旋回スクロール6の背面側に構成される背圧室102は、旋回スクロール6とフレーム9と固定スクロール5とで囲まれて形成される空間であり、シール材13が内周側の吐出圧力と外周側の中間圧力を仕切っている。
【0020】
転がり軸受16は電動機4の上側に配置され、副軸受部104の主要部を構成する転がり軸受25は電動機4の下側に配置されている。転がり軸受16、転がり軸受25は、電動機4の両側で主軸部分を支持している。本実施例では、電動機4の両側で主軸部分を転がり軸受16、転がり軸受25により支持しているので、転がり軸受16の動力損失を抑制しつつ、クランク軸12の主軸部分が傾くことを防止することができる。
【0021】
給油ポンプ28は、クランク軸12の下端に設けられた容積形ポンプであり、油溜り37に貯留された潤滑用の油を強制的に給油穴40の内部を通して上部に供給する。これにより転がり軸受25、旋回スクロール軸受部6cを経由して転がり軸受16に潤滑油が供給されることで潤滑が行われる。なお、給油穴40に供給された油は、旋回スクロール6と固定スクロール5との摺動部にも供給される。給油穴40は、クランク軸12の軸心に対して同心に縦に貫通するように設けられている。給油穴40には、転がり軸受25に給油するための横給油穴42が設けられており、それぞれの軸受に適正な量の油が給油されるようになっている。
【0022】
転がり軸受16は内輪16aとこれの外側に配置される外輪16bと、その間に配置される複数の転がり体とにより構成される。ここで
図2においてスラストストッパ41がない場合を考えると、転がり軸受16を組み立てる際には内輪16aがクランク軸12に対して
図2における下側から挿入されてツバ部12dにより位置決めされる。そして内輪16aがクランク軸12に圧入されて固定されるものである。組み立てた後には
図2に示すような向きとなるため、転がり軸受16の内輪16aの上面はクランク軸12のツバ部12dからの上下方向の荷重がかかることになる。よって、この場合にはツバ部12dの内径φDtが内輪16aの内径φDbより大きくないと、上記したクランク軸12の荷重を支持することができない。
【0023】
ここで、ツバ部12dの内径φDtを小さくすることにより、クランク軸12の内径を小さくするとともに、旋回スクロール6を小さくすることができるため、スクロール圧縮機1の小形化を図ることが可能となる。しかし、スラストストッパ41がない場合には、内輪16aの上面とツバ部12dとが接触する面積が小さくなるため、内輪16aの上面によりクランク軸12の荷重を支持することができず、スクロール圧縮機1の信頼性低下を招く虞がある。なお、本実施例では主軸受に転がり軸受16を用いているが、主軸受に滑り軸受を採用した場合においても同様の問題が発生する。
【0024】
そこで本実施例では、クランク軸12のツバ部12dと、ツバ部12dよりも下側に設けられてクランク軸12の主軸部を回転自在に支持する軸受部(転がり軸受16)と、ツバ部12dと軸受部(転がり軸受16)との間に上側でツバ部12dと接触するとともに下側で軸受部(転がり軸受16)と接触するスラストストッパ41と、を備えた。そしてスラストストッパ41の上面にはクランク軸12の荷重がかかるように構成されている。この構成により、スラストストッパ41の下面とツバ部12dの上面とが面接触することで、クランク軸12の荷重の支持を確実に行うことが可能となる。
【0025】
なお、このときのツバ部12dの外径φDtとスラストストッパ41の外径φDsとの関係は、φDt<φDsであることが必要である。また、軸受部の上面の内周側端部に対してスラストストッパ41の外周側端部の位置が外周側にあることで、軸受部の上面とスラストストッパ41の下面とが面接触することが可能となり、上記したクランク軸12の荷重の支持の信頼性を向上することができる。
【0026】
ここで
図2においては、転がり軸受の場合には内輪16aの上部においてクランク軸12と接触する側に、つまり内輪16aの内径側の上部には面取り寸法Rcの面取り部が設けられている例を示している。ここでは同じ半径のRcとなるように面取り寸法が取られた例を示しているが、これに限定されるものではない。これによりクランク軸12に内輪16aを組み立てる際に作業性を良くすることが可能となる。この場合、軸受部の内径(
図2では内輪16a内径)をφDbとすると、φDb+Rc×2<φDsであることが必要となる。
図2ではRcは面取り部の半径寸法であるが、これが円形でない場合には、Rcは軸受部(内輪16a)の平らな上面部における内周側端部から、軸受部(内輪16a)の主軸部12bに面する内周面までの最短距離となる。この関係を満たすことにより、軸受部(内輪16a)の上面とスラストストッパ41の下面とが面接触することが可能となる。
【0027】
フレーム9にシール材13を配設するための溝を備え、シール材を配設するフレームの溝のクランク軸12のツバ部12dに対向する面の内径をφDfとした場合には、φDf<φDsであることが必要となる。これによりスラストストッパ41の外径φDsがフレーム内径φDfに引っ掛かり、圧縮機を組み立てる際に上下逆とした状態でもクランク軸が落下するのを防ぐことが可能となる。
【0028】
このように、転がり軸受16の内輪16aをクランク軸12に取り付ける際に軸方向の位置決めをスラストストッパ41で行えるため、作業効率を向上することができる。また、上記したようにツバ部12dの内径を小さくした場合においてもスラストストッパ41によりクランク軸12の支持が可能となるので、スクロール圧縮機1の小形化をしつつ、信頼性向上を図ることが可能となる。また、ツバ部12dの外径φDtとスラストストッパ41の外径φDsと面取り寸法Rcとの関係をφDt≦φDb+Rc×2とすることにより、ツバ部外径を軸受内輪上端の平面部より小さくして小型化を図った場合においても、スラストストッパ41によりクランク軸12の支持が可能である。
【0029】
図3はフレーム9のシール材配設部9aを旋回スクロール6の側からみた図である。本実施例ではシール材配設部9aよりも外周側にスラストストッパ41を設けたため、本来はすべり軸受11からの潤滑油がシール材配設部9aとツバ部12dとの間の給油経路を通って転がり軸受16への供給がされにくくなっている。そこで、シール材配設部9aにシール材13配設側と転がり軸受16側を連通する給油経路9bを1個または複数個設けることで、すべり軸受11からの油を効率的に転がり軸受16へ給油することができ、転がり軸受16の冷却をより効果的に行うことが可能となる。つまり、スラストストッパ41の外周端部よりもさらに外周側に上記給油経路9をフレーム9(シール材配設部9a)に形成したものである。
【0030】
また、フレーム9とスラストストッパ41により形成される溝の軸方向の隙間105を、スラスト軸受17の厚さより小さく設定することで、圧縮機構部2を上下逆にしてもスラスト軸受17がカバー18から外れるおそれがなくなる。これによりスクロール圧縮機1を組み立てる際、フレーム9を上下逆にした状態でフレーム9に転がり軸受16やクランク軸12、カバー18等の部品を全て同一方向から(圧縮機下方側から)取り付けることが可能となり、スクロール圧縮機1の組立効率を向上させることができる。