特許第6042534号(P6042534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042534
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用の駆動部材
(51)【国際特許分類】
   G04B 1/14 20060101AFI20161206BHJP
   G04B 1/12 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G04B1/14
   G04B1/12
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-517700(P2015-517700)
(86)(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公表番号】特表2015-520388(P2015-520388A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】EP2013062408
(87)【国際公開番号】WO2013189856
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2015年11月4日
(31)【優先権主張番号】883/12
(32)【優先日】2012年6月22日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】516154783
【氏名又は名称】カルティエ・インターナショナル・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】モワイス・ローマン
(72)【発明者】
【氏名】バ・ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ペルー・ドミニク
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−088339(JP,A)
【文献】 米国特許第02617248(US,A)
【文献】 スイス国特許発明第24786(CH,A)
【文献】 特表2012−510616(JP,A)
【文献】 特表2011−503595(JP,A)
【文献】 実開昭49−010573(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/12 − 18
G04B 3/06
G04B 5/24
G04B 9/02
A63H 29/02
F03G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部材が巻き上げられるときに、が、香箱真と一緒に周りに回転できるように、この香箱真に取り付けられた前記胴を有する香箱と、
前記香箱内に巻かれ、前記駆動部材が巻き上げられるときに、前記香箱真周りに巻き上げられ得る主ゼンマイと、
前記香箱真と同軸に且つこの香箱真周りに枢動するコアとから構成され、
前記主ゼンマイ外端は、前記胴に結合され、
前記主ゼンマイ内端は、前記コアに結合された、時計ムーブメント用の駆動部材において、
前記主ゼンマイが巻き戻されるときに、第1クランプが、当該第1主ゼンマイの外側の巻き部分を前記胴に対して保持するように枢動し、前記主ゼンマイが巻き上げられるときに、前記第1クランプが、前記主ゼンマイの前記外側の巻き部分に追従するために前記香箱の中心に向って枢動するように、前記主ゼンマイ前記外端が、前記胴内に枢着されている前記第1クランプを介して前記胴に結合されている当該駆動部材
【請求項2】
前記第1クランプは、部分前記胴内で枢動するくぎ部とから構成され、前記主ゼンマイ前記外端が、前記部分上に固定されている請求項1に記載の駆動部材
【請求項3】
前記くぎ部は、前記胴の肉厚内に形成された穿孔部内に枢動式に挿入されている請求項2に記載の駆動部材
【請求項4】
前記コアは、前記主ゼンマイ前記内端前記コアに固定するために構成された第2クランプを有し、
前記第2クランプは、前記コアの外周に沿って延在する刃を有し、この刃と前記主ゼンマイの前記内端を挿入するために構成された前記コアとの間にスリットを形成する請求項に記載の駆動部材
【請求項5】
前記第2クランプは、前記コアの外周に沿って延在する刃を有し、この刃と前記主ゼンマイの前記内端を挿入するために構成された前記コアとの間にスリットを形成し、前記刃は、アルキメデスの螺旋の開始半径にほぼ等しい半径を有する請求項4に記載の駆動部材。
【請求項6】
前記香箱は、第1香箱とこの第1香箱上に重ね合わされた第2香箱とから構成され、
前記第1香箱は、第1胴を有し、前記第2香箱は、第2胴を有し、
前記主ゼンマイは、第1主ゼンマイとこの第1主ゼンマイ上に重ね合わされ且つこの第1主ゼンマイと同軸の第2主ゼンマイとから構成され、
前記第1主ゼンマイの前記外端は、前記第1胴に固定されていて、前記第2主ゼンマイの前記外端は、前記第2胴に固定されている請求項1に記載の駆動部材。
【請求項7】
前記コアは、第1コアとこの第1コアと一体にされた第2コアとから構成され、
前記駆動部材が巻き上げられるときに、前記2つの主ゼンマイが、前記香箱真周りに同時に巻き上げられるように、前記第1主ゼンマイの内端が前記第1コアに、前記第2主ゼンマイの内端が前記第2コアに固定されている請求項6に記載の駆動部材。
【請求項8】
前記第1コアは、筒カナを有し、前記第2コアが、この筒カナ上で駆動され得る請求項6に記載の駆動部材。
【請求項9】
前記第1主ゼンマイが、前記第1コアと前記第2コアとを介して前記第2主ゼンマイにつながっているように、この第1主ゼンマイは、この第2主ゼンマイに対して逆方向に巻かれている請求項6に記載の駆動部材。
【請求項10】
前記胴の外周に沿って形成された環状要素が、前記第1クランプの軸方向の変位を制限するためにさらに設けられている請求項6に記載の駆動部材。
【請求項11】
駆動部材が巻き上げられるときに、胴が、香箱真と一緒に軸周りに回転できるように、この香箱真に取り付けられた前記胴を有する香箱と、前記香箱内に巻かれ、前記駆動部材が巻き上げられるときに、前記香箱真周りに巻き上げられ得る主ゼンマイと、前記香箱真と同軸に且つこの香箱真周りに枢動するコアと、第1クランプにより前記胴に結合された前記主ゼンマイの外端と、前記コアに結合された前記主ゼンマイの内端とから構成され、
前記コアが、前記主ゼンマイの前記内端を前記コアに固定するために構成された第2クランプを有する駆動部材を組み立てるための方法において、
当該方法は、前記主ゼンマイの前記外端を前記第1クランプ内に固定し、この主ゼンマイの前記内端を前記第2クランプ内に固定するステップと、外付けの主ゼンマイ巻き上げ機内で前記主ゼンマイを巻き上げ、当該巻き上げられた主ゼンマイを前記胴内に挿入するステップと、前記第1クランプを前記胴内に設置し、前記第2クランプを前記香箱真上に設置するステップとから成る当該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計又は1つ若しくは複数のゼンマイを有する時計ムーブメント用の駆動部材に関する。さらに、本発明は、ゼンマイ中の曲げ応力が低減される駆動部材に関する。この場合、当該駆動部材は、従来の駆動要素に比べてより小さい容積を有する一方で、等量の機械エネルギーを蓄積することができる。
【背景技術】
【0002】
香箱のゼンマイは、腕時計を動作させるために必要な機械エネルギーが蓄積されることを可能にする部材である。当該ゼンマイの幾何学的寸法と、当該ゼンマイを構成する材料の機械特性とが、位置エネルギーを決定する。当該ゼンマイが、この位置エネルギーを蓄積することができ、当該ゼンマイが、最大トルクを伝達する。腕時計の計時性能と歯車機構の性能とに悪影響を及ぼすことなしに、十分に大きい位置エネルギーを蓄積して、一般的である約40時間より長い出力余裕を確保するため、ただ1つのゼンマイ用香箱を有する通常の駆動部材を、直列に結合された一群の2つの香箱に置換することが公知である。
【0003】
このような駆動部材の機能性能の詳細な説明は、特許文献1:スイス国特許第610465号明細書において見出され得る。当該駆動部材は、複数の例として、複数の香箱の、重ね合わされた配置と並置された配置とを提供する。この特許明細書では、選択される配置は、重ね合わされた配置である。何故なら、トルクが、共通の1つの香箱真を介して一方の香箱から他方の香箱へ直接に伝達されるからである。この香箱真は、当該並置された配置で要求される小鉄車に起因するスペースの無駄と出力損失とを回避する。しかしながら、このような駆動部材は、当該複数の香箱の重ね合わされた配置に起因した著しく高い寸法が欠点である。
【0004】
主ゼンマイの製作のためにガラス繊維又はその他の繊維を有する強化重合体のような複合材料を使用することは、従来の金属のゼンマイに比べて疲労破断しにくいために、より長い寿命を有するゼンマイを得ることを可能にする。このような複合材料を使用すると、これらの複合材料を従来から使用された鋼と違わせる特殊性を考慮したゼンマイの寸法を要求することができる。例えば、約半分だけ低い耐力のために、一方向のガラス繊維を有する強化重合体は、鋼の弾性率に比べて約4倍低い弾性率を有する。当該ゼンマイの寸法決めでは、複合材料のアプリケーションモードも考慮する必要がある。鋼の積層化技術が、1ミリメートルの10分の1より薄い刃の厚さを可能にするものの、複合材料の場合では、このような寸法は、目的の機械特性を伴って達成することは困難である。当該ゼンマイの一定の容積と高さとの場合で、且つ、蓄積されるエネルギーが等量である場合には、当該刃の厚さが大きいほど、伝達される最大トルクが増大する。さらに、複合材料から成るゼンマイが、金属のゼンマイの曲げ応力より低い曲げ応力を呈し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】スイス国特許第610465号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの課題は、公知の駆動要素の制約をもたない時計ムーブメント用の駆動部材を提供することにある。
【0007】
本発明のもう1つの課題は、請求項1の上位概念による駆動部材を提供することにある。この場合、ゼンマイ中の曲げ応力が低減される。そしてこの場合、当該駆動部材が、従来の駆動要素に比べて低減された容積を有し得る一方で、等量の機械エネルギーを蓄積することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、これらの課題は、特に:
駆動部材が巻き上げられるときに、胴が、香箱真と一緒に軸周りに回転できるように、この香箱真に取り付けられたこの胴を有する香箱と、
前記香箱内に巻かれ、前記駆動部材が巻き上げられるときに、前記香箱真周りに巻き上げられ得る主ゼンマイと、
前記香箱真と同軸に且つこの香箱真周りに枢動するコアとから構成され、
前記主ゼンマイの外端は、前記胴に結合され、
前記主ゼンマイの内端は、前記コアに結合された、時計ムーブメント用の駆動部材において、
前記主ゼンマイが巻き戻されるときに、第1クランプが、当該第1主ゼンマイの外側の巻き部分を前記胴に対して保持するように枢動し、前記主ゼンマイが巻き上げられるときに、前記第1クランプが、前記主ゼンマイの前記外側の巻き部分に追従するために前記香箱の中心に向って枢動するように、前記主ゼンマイの前記外端が、前記胴内に枢着されている前記第1クランプを介して前記胴に結合されていることによって解決される。
【0009】
1つの実施の形態では、前記コアが、前記主ゼンマイの前記内端をこのコアに固定するために構成された第2クランプを有し得る。
【0010】
別の実施の形態では、前記第2クランプが、前記コアと一体に形成され得る。
【0011】
さらに別の実施の形態では、前記主ゼンマイが、複合材料から製作され得る。
【0012】
さらに別の実施の形態では、前記駆動部材が、前記2つの主ゼンマイ間に取り付けられ且つこれらの主ゼンマイと同軸のプレートをさらに有し得る。このプレートは、前記香箱真と回転するように一体に取り付けられている。
【0013】
さらに、本発明は、主ゼンマイの外端を第1クランプ内に固定し、この主ゼンマイの内端を第2クランプ内に固定するステップと、
外付けの主ゼンマイ巻き上げ機内で前記主ゼンマイを巻き上げ、当該巻き上げられた主ゼンマイを胴内に挿入するステップと、
前記第1クランプを前記胴内に設置し、前記第2クランプを香箱真上に設置するステップとから成る駆動要素を組み立てるための方法に関する。
【0014】
本発明の実施の形態の例を添付図面によって示された記載において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図11つの実施の形態による、香箱と第1主ゼンマイと第2主ゼンマイとを有する駆動部材の透視図である。
図21つの実施の形態による、香箱と第1主ゼンマイと第2主ゼンマイとを有する駆動部材の側面図である。
図31つの実施の形態による、第1クランプと第2クランプを構成するコアとを示す香箱を上から見た図である。
図41つの実施の形態による第1クランプを示す。
図51つの実施の形態による、第2クランプをそれぞれ有する第1コアと第2コアとから構成されるコアを示す。
図61つの実施の形態による第1コアを示す。
図7別の実施の形態によるコアを示す。
図81つの実施の形態による駆動部材の展開図(分解図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1つの実施の形態による駆動部材1が、図1に透視図で示されていて、図2に側面図で示されている。この駆動部材1は、共通の香箱真3の軸4の周りに互いに独立して回転させるためにこの香箱真3上に取り付けられた第1香箱2と第2香箱2′とを有する。この第1香箱2が、外歯部5と底部7とを有し得る第1外胴6を備える。第1コア17が、香箱真3と同軸に且つこの香箱真3周りに枢動する。この第1香箱2は、渦巻き状に巻かれた第1主ゼンマイ8をさらに有する(この第1主ゼンマイ8のうちの一巻き部分だけが、図2に示されている)。この第1主ゼンマイ8の外端9が、第1胴6に結合されていて、この第1主ゼンマイ8の内端10が、第1コア17に固定されている。第2香箱2′の構造が、第1香箱2の構造と同様に、第2外胴6′と、底部27と、香箱真3と同軸に且つこの香箱真3周りに枢動する第2コア17′とを有する。この第2香箱2′は、第1主ゼンマイ8に対して逆方向に巻かれた第2主ゼンマイ11を有する(この第2主ゼンマイ11のうちの巻き部分だけも、図2に示されている)。この第2主ゼンマイ11の外端13が、第2胴6′に結合されていて、この第2主ゼンマイ11の内端12が、第2コア17′に固定されている。当該2つの主ゼンマイ8,11は、同じ寸法及び特性を有する。第1コア17が、第2コア17′と一体化されている。したがって、第1主ゼンマイ8が、第1コア17と第2コア17′とを介して第2主ゼンマイ11に接続している。このような構造では、第1コア17及び第2コア17′が、当該2つの主ゼンマイ8,11間の運動力学的な結合部材として作用することによって、これらの主ゼンマイ8,11が、同じ方向に働く。
【0017】
第1板14が、2つの主ゼンマイ8,11及び香箱真3と同軸に第1主ゼンマイ8と第2主ゼンマイ11との間に設置されている。これらの図1及び2の例では、この第1板14は、胴6及び6′の外径とほぼ同じ外径を有するディスクの形を成す。この第1板14は、胴6,6′のうちの1つの胴及び香箱真3と一体化されている。その結果、香箱2,2′のうちの1つの香箱が、この第1板14と一緒に回転する。この第1板14は、PTFEのような低い摩擦係数を有する塑性材料から製作され得るものの、場合によっては減摩コーティングされている金属から製作されてもよい。図示されていない1つの実施の形態では、駆動部材1が、第1板14と同軸にもう1つの板を有してもよい。このような構造では、それぞれの板が、胴6,6′のうちの1つの胴と一体化され得る。それぞれの胴6,6′が、これらの板のうちの1つの板と一緒に回転する。
【0018】
図3は、第1主ゼンマイ8の外端9を第1胴6に固定するように構成された第1クランプ18を示す、1つの実施の形態による香箱2を上から見た図である。同様に、第2主ゼンマイ11の外端13も、この実施の形態における当該第1クランプ18によって第2胴6′に固定されている。図4は、この第1クランプ18を単独で示す。この第1クランプ18は、舌部180とくぎ部181とから構成される。外端9,13が、この舌部180上に固定される。このくぎ部181は、胴6,6′の肉厚部分内に形成された穿孔部20内に枢動式に挿入されているように構成されている。当該胴6,6′が、ハウジング21を有してもよい。主ゼンマイ8,11が、巻き戻されて当該胴6,6′の内径に沿って巻き付けられるときに、第1クランプ18のうちの少なくとも一部が、このハウジング21内に衝止される。当該主ゼンマイ8,11が巻き戻されたときに、このハウジング21内のこの第1クランプ18の位置が、外側の巻き部分(外端9,13側の巻き部分)を香箱2の胴6,6′に対して保持することを可能にする。当該位置は、主ゼンマイ8,11のより良好な同心性を保証する一方で、当該主ゼンマイ8,11の巻き部分の起こり得る偏心を阻止する。主ゼンマイ8が完全に巻き上げられるときに、当該第1クランプ18が、香箱2の中心に向って枢動し、当該主ゼンマイ8,11の巻き部分と連動させる結果、曲げ応力を引き起こさない。したがって、当該主ゼンマイ8,11が、劣化の危険なしに最後まで巻き上げられ得る。
【0019】
1つの実施の形態では、環状要素25(図8参照)が、第1胴6及び/又は第2胴6′の外周に沿って形成されている。この環状要素25は、第1クランプ18の軸方向の変位を制限する機能を有する。
【0020】
当該第1クランプ18は、主ゼンマイの外端を固定するために従来の駆動部材で一般に使用された摺動クランプの役割を果たさない。巻き上げが、その最大値に達したときに、当該摺動クランプは、この主ゼンマイを香箱の胴内で或る角度で摺動させることを可能にする。この欠点に対応するため、駆動部材1は、主ゼンマイ8,11を過度な応力から防ぐ(図示されなかった)遮断可能なクラウンを有し得る。腕時計が、手動で巻き上げられるときに、当該遮断可能なクラウンは、ユーザによって伝達されたトルクを制限することを可能にする。例えば、(図示されなかった)1つの実施の形態では、当該遮断可能なクラウンは、戻しばねによって保持された2つの歯車から構成されるクリックを通じてトルクを伝達することを可能にする。当該伝達されるべきトルクが、この戻しばねの力より大きいときに、このクリックが開き、当該トルクは、もはや伝達されない。
【0021】
図5は、1つの実施の形態による、香箱3の香箱真上に取り付けられた第1コア17と第2コア17′とを示す。当該それぞれのコア17及びコア17′は、第1主ゼンマイ8の内端10及び第2主ゼンマイ11の内端12をそれぞれこの第1コア17及びこの第2コア17′上に固定するように構成された第2クランプ19を有する。図5の例では、当該第2クランプ19は、コア17,17′の外周に沿って延在する刃の形を成し、アルキメデスの螺旋の開始半径にほぼ等しい半径を有する。(図示されなかった)第1主ゼンマイ8及び第2主ゼンマイ11の内端10が、第2クランプ19とコア17,17′との間に形成されたスリット22内に挿入される。好適な方法では、第2クランプ19が、例えばコア17,17′上へのオーバーモールドによって当該コアと一体に形成される。したがって、この第2クランプ19は、制御された直径上の主ゼンマイ8,11の内側の巻き部分と連動する。この配置は、香箱2が巻き上げられるときに、主ゼンマイ8,11が牽引する方向に作用し、接線方向に働く作用を補償することを可能にする。内端10,12を第2クランプ19上に固定することと同様に、外端9,13を第1クランプ18上に固定することは、接着若しくははんだ付けによって、フック若しくはダブテールのような機械式の締結装置によって、又はその他の適切な任意の取付手段によって実施され得る。
【0022】
図6は、1つの実施の形態による、筒カナ23を有する第2コア17′を示す。第1コア17が、この筒カナ23上で駆動され得る。図6に示された例では、第2コア17′が、第1コア17と回転方向に一体化されることを可能にするため、この筒カナ23が、溝削り部24を有する。第1コア17及び第2コア17′を2つの部品で製造することの利点は、駆動部材1の組み立てを簡略化することである。
【0023】
1つの実施の形態では、駆動部材1を組み立てるための方法が:
主ゼンマイ8,11の外端9,13を第1クランプ18内に固定し、この主ゼンマイ8,11の内端10,12を第2クランプ19内に固定するステップと、
(図示されなかった)外付けの主ゼンマイ巻き上げ機内で当該主ゼンマイ8,11を巻き上げるステップと、
当該第1クランプ18を胴6,6′内に設置し、当該第2クランプ19,19′を香箱真3上に設置することによって、当該第1クランプ18及び当該第2クランプ19上に固定された当該巻き上げられた主ゼンマイ8,11を香箱2,2′内に挿入するステップとから成る。
【0024】
図8は、1つの実施の形態による駆動部材1の展開図である。この図では、主ゼンマイ8,11及びそれぞれの主ゼンマイ8,11の第1クランプ18は省略されている。しかしながら、第1胴6と第1板14と第2胴6′との組み立て中に、第2コア17′の筒カナ23上に装入されるべき第1コア17を見ることは可能である。特に、各主ゼンマイの第1クランプ18が、くぎ部181を当該胴6,6′内に設けられた穿孔部20内に挿入することによって対応する香箱2,2′内に設置される。当該主ゼンマイ8,11を第1香箱2及び第2香箱2′内に角度位置決めすることが、主ゼンマイ巻上げ機と当該胴6,6′上に形成された1つ又は複数のノッチ26とによって保証される。当該第1クランプ18が、第1板14と環状要素25と当該香箱の胴6,6′の底部27とによって所定の位置に保持され得る。駆動部材1が、第1主ゼンマイ8及び第2主ゼンマイ11を有する場合には、当該巻き上げられた主ゼンマイ8,11が、第1香箱2内と第2香箱2′内とに順次挿入され得る。例えば、第1主ゼンマイ8の第1クランプ18と第2クランプ19とがそれぞれ、第1胴6上と香箱真3上とに設置され、第2主ゼンマイ11の第1クランプ18と第2クランプ19とがそれぞれ、第2胴6′上と香箱真3上とに設置される。
【0025】
図示されなかった1つの実施の形態では、第1コア17が、第2コア17′と一体に形成される。例えば、第1コア17と第2コア17′とが、香箱真3周りに回転するただ1つの管状要素から形成されている。この場合には、2つの主ゼンマイ8,11が、第1香箱2内と第2香箱2′内とに同時に挿入される。
【0026】
本発明が、上述した実施の形態に限定されないこと、及び、様々な実施の形態と簡単な実施の形態とが、本発明の範囲から外れることなしに当業者によって想到され得ることは明らかである。
【0027】
図示されなかった1つの実施の形態では、駆動部材1が、1つの香箱と1つの主ゼンマイとだけを有する。このような構造では、主ゼンマイの外端が、第1クランプ18によって胴に結合され得、この主ゼンマイの内端が、第2クランプ19によってコアに固定され得る。図7は、駆動部材1のこの構造のための、第2クランプ19を有するコア17の一例を示す。
【0028】
第1主ゼンマイ8及び第2主ゼンマイ11が、金属又はその他の適切な材料から製作され得る。好適な方法では、当該第1主ゼンマイ8及び当該第2主ゼンマイ11は、複合材料から製作され得る。ここでは、「複合材料」は、ガラス繊維又はその他の繊維のような長繊維を有する強化重合体を意味する。当該繊維は、好ましくはポリマーマトリックス中で一方向に配向されている。当該複合材料から製作されたこのような主ゼンマイは、従来の金属の主ゼンマイに比べて疲労破断しにくいために、より長い寿命を有する。このような合成主ゼンマイは、出願中の欧州特許出願第2455820号により詳しく記載されている。
【0029】
実際には、複合材料から製作された主ゼンマイは、曲げ応力によって、より損傷しやすいものの、上記の枢動する第1クランプ18は、当該曲げ応力を最少にするように、当該主ゼンマイ8,11が香箱2,2′内に保持されることを可能にする。上記の第2クランプ19も、当該主ゼンマイ8,11に対する接線方向の力を最少にすることを可能にする。したがって、複合材料から成る主ゼンマイ8,11が、従来の駆動要素に比べてより低い劣化で保持され得る。また、本発明の駆動部材は、従来の駆動要素に比べて低減された容積を有する一方で、等量の機械エネルギーを蓄積することができる。実際には、複合材料から成る主ゼンマイ8,11の曲率半径は、金属から成る主ゼンマイの曲率半径より大きい。したがって、当該複合材料から成る主ゼンマイ8,11は、コア17,17′の周りにより密接して巻き上げられる。当該コア17,17′は、従来のコアにおける通常の直径より小さい直径を有し得る。さらに、当該駆動部材が巻き戻されているときに、第1クランプ18が、ハウジング21内に枢動されている。このハウジング21は、主ゼンマイ8,11の外側の巻き部分が胴6,6′に対して保持されることを可能にする。この胴6,6′は、香箱2,2′の容積のさらなる低減を可能にする。
【符号の説明】
【0030】
1 駆動部材
2 第1香箱
2′ 第2香箱
3 香箱真
4 香箱真の軸
5 外歯部
6 胴
7 香箱底部
8 第1主ゼンマイ
9 第1主ゼンマイの外端
10 第1主ゼンマイの内端
11 第2主ゼンマイ
12 第2主ゼンマイの内端
13 第2主ゼンマイの外端
14 第1板(プレート)
15 プレートの周囲、縁部
16 プレートの中心
17 第1コア
17′ 第2コア
18 第1クランプ
180 舌部
181 くぎ部
19 第2クランプ
20 穿孔部
21 ハウジング
22 スリット
23 筒カナ
24 溝削り部
25 環状要素
26 ノッチ
27 胴の底部
図1
図2
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