特許第6042560号(P6042560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042560
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】炭素体及び強磁性炭素体
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/08 20060101AFI20161206BHJP
   C01B 31/04 20060101ALI20161206BHJP
   B01J 23/74 20060101ALI20161206BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20161206BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20161206BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20161206BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C01B31/08 Z
   C01B31/04 101B
   B01J23/74 M
   B01J37/02 101E
   B01J37/16
   B01J37/08
   B01J35/10 301G
【請求項の数】22
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-547247(P2015-547247)
(86)(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公表番号】特表2015-536901(P2015-536901A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】IB2013060863
(87)【国際公開番号】WO2014091447
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2015年7月1日
(31)【優先権主張番号】12197061.0
(32)【優先日】2012年12月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコブス・フークストラ
(72)【発明者】
【氏名】ジム・アロイシウス・マリア・ブラントス
(72)【発明者】
【氏名】ロリアネ・ワーゲマケル
(72)【発明者】
【氏名】ジョーン・ウィルヘルム・ゲウス
(72)【発明者】
【氏名】レオナルドゥス・ウィーナント・ジェネスケンス
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−297912(JP,A)
【文献】 特開2010−100516(JP,A)
【文献】 特表2012−519233(JP,A)
【文献】 特表2008−527119(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136654(WO,A1)
【文献】 特開2011−045874(JP,A)
【文献】 特開平05−139712(JP,A)
【文献】 特開2000−107598(JP,A)
【文献】 特開2007−284337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
B01J 21/00−37/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的に黒鉛化した活性炭及び少なくとも一つの強磁性金属の金属粒子を含む強磁性炭素体であって、100nmから20mmの大きさ、200から1000m/gの間のBET表面積、0.1から1ml/gの間の孔の全体積、及び2から10nmの間の平均孔直径を有している、強磁性炭素体。
【請求項2】
前記強磁性金属は、鉄、ニッケル、及びコバルトの金属及び/または合金、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記強磁性炭素体は、10から90重量%の黒鉛状炭素を含む、請求項1に記載の強磁性炭素。
【請求項3】
前記強磁性体は、20から80重量%の黒鉛状炭素を含む請求項2記載の強磁性炭素。
【請求項4】
前記強磁性体は、25から70重量%の黒鉛状炭素を含む請求項3記載の強磁性炭素。
【請求項5】
前記強磁性体は、30から60重量%の黒鉛状炭素を含む請求項4記載の強磁性炭素
【請求項6】
前記金属粒子は、黒鉛状炭素によって完全にカプセル化されている、請求項1またはに記載の強磁性炭素体。
【請求項7】
前記強磁性炭素体は、金属及び/または金属酸化物の追加の粒子をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の強磁性炭素体。
【請求項8】
前記強磁性炭素体は、ポリマーをさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の強磁性炭素体。
【請求項9】
前記強磁性炭素体は、カーボンナノチューブ及び/またはカーボンナノファイバを備えている、請求項1からのいずれか一項に記載の強磁性炭素体。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の強磁性炭素体の製造方法であって、活性炭を不揮発性の金属化合物の水溶液に含浸させる段階、含浸された活性炭を乾燥させる段階、及び乾燥され含浸された活性炭を不活性雰囲気の下で熱分解し、それによって前記金属化合物を対応する金属に還元させる段階、を含む強磁性炭素体の製造方法。
【請求項11】
100nmから20mmの大きさを有している強磁性炭素体の製造方法であって、活性炭粉末を不揮発性の金属化合物粉末と混合する段階、結果としての混合粉末を本体に成形する段階、及び成形された本体を不活性雰囲気の下で熱分解し、それによって前記金属化合物を対応する金属に還元させる段階、を含む強磁性炭素体の製造方法。
【請求項12】
前記金属化合物は、強磁性金属及び/または合金の前駆体である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属化合物は、硝酸鉄(III)またはクエン酸鉄(III)アンモニウムである、請求項12記載の方法
【請求項14】
前記強磁性炭素体は、800℃より上の温度で、水素及び炭素含有化合物を含むガス流に接触される、請求項10から13のいずれか一項に記載の工程。
【請求項15】
ポリマーが、前記強磁性炭素体の前記黒鉛表面上へ吸着される、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記強磁性炭素体は、金属及び/または金属酸化物が担持されている、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記強磁性炭素体は、黒鉛状炭素層によって完全にカプセル化された強磁性金属粒子を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
請求項10から1のいずれか一項に記載の方法によって得ることのできる、部分的に黒鉛化された活性炭及び少なくとも一つの強磁性金属の金属粒子を含む、強磁性炭素体。
【請求項19】
部分的に黒鉛化された活性炭を含む炭素体の製造方法であって、請求項1から及び1のいずれか一項に記載の強磁性炭素体を酸に接触させ、それによって前記金属粒子を溶解させる段階、及びそれから酸処理された強磁性炭素体を液体ですすぎ、それによって前記溶解した金属粒子を除去する段階、を含む方法。
【請求項20】
請求項1の方法により得ることのできる部分的に黒鉛化された活性炭を含む炭素体。
【請求項21】
浄水または電気化学的応用における、吸着剤として、触媒担体として、触媒としての、請求項1からのいずれか一項に記載の強磁性炭素体または請求項20に記載の炭素体の使用。
【請求項22】
一酸化炭素を水素化することによりオレフィンを製造するのに適した触媒であって、請求項1または2に記載の強磁性炭素体を含む、触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾炭素製品の分野にある。より具体的に、本発明は部分的に黒鉛化された活性炭素体の分野にある。
【0002】
本発明は、炭素体及び強磁性炭素体、活性炭からのこれらの炭素体の製造、並びに例えば水処置及び電気化学的応用における炭素体及び強磁性炭素体の応用、に向けられている。
【背景技術】
【0003】
活性炭は一般的に、場及び産業工程における液体流または気体流から望ましくない化合物及びイオン種を取り除くために吸着剤として使用される。そのような使用は、流出油除去、地下水処置、飲料水浄化、空気浄化、及びドライクリーニングやガソリン分注操作などの多くの工程からの揮発性有機化合物の除去を含む。
【0004】
活性炭はまた、欧州における表面供給飲料水及び汚染地下水の処理のための好ましい手段である。活性炭は、例えば、味覚及び香気形成合成物、農薬、色、トリハロメタン、藻類毒素、及び塩素化炭化水素を取り除くことによって、飲料水の品質を改善するのに用いられてきている。
【0005】
フミン酸及びフルボ酸は、飲料水の不快な味覚及び色の原因であると知られている有機化合物である。フミン酸及びフルボ酸は、自然且つ農業材料の分解生成物であり、pH≧1のいかなるpHで水に溶解できる。フミン酸及びフルボ酸は、活性炭を使用して飲料水から除去され得る。現在の工程による不利益は、活性炭が急速に飽和することである。これは特に、フミン酸分子が通常、未修飾活性炭の狭い孔の特徴に対して非常に大きいからである。
【0006】
ヒ素汚染は、人間の飲料水のための地下水供給における重大な懸念事項である。米国環境保護庁(U.S.EPA)は、ヒ素は人間の健康に対して有毒であり、発がん性物質として分類した。
【0007】
非特許文献1(Halem et al. (Drinking Water Engineering and Science 2(2009)29−34)))は、世界保健機構が、500μg/Lより高い濃度の地下水中のヒ素への長期の暴露が、大人10人に対して1人の死を引き起こすと見積もったことを報告している。他の調査では、地下水/飲料水中のヒ素に関する問題が世界中でより多くの国、例えば米国や中国で起こっていることを示している。欧州では、ヒ素問題の焦点が、地下水中で高いヒ素レベルを有する国、例えばセルビア、ハンガリー、及びイタリアに現在限定されていることを述べている。大部分の他の欧州諸国では、自然に生じるヒ素濃度が、欧州の飲料水水質基準である10μg/Lより低いと報告されている。
【0008】
ヒ素は容易に水に溶解せず、それ故、供給水において発見された場合、それは採掘作業または冶金作業から、または、ヒ素を含む材料が産業毒として使用される農業地域からの流出液体から通常来ている。さらに、ヒ素及びリン酸塩は、化学的に互いに容易に置換される。無機形態では、ヒ素は従来の水処理工程によって除去または減少することができる。活性炭は、飲料水からヒ素を除去する既知の手段の一つである。しかしながら、活性炭を通しての濾過は、飲料水中のヒ素の量を40から70%だけ減らすことを報告している。
【0009】
活性炭は、吸着及び触媒還元の二つの主要な機構で、飲料水から汚染物質を除去している。
【0010】
活性炭は、急速重力ろ過器、固定床、スラリー、フィルタ、及び可動式及び固定式の圧力定格吸着体(pressure rated adsorbers)において一般的に使用されている。活性炭は、粉末、粒子、顆粒、及び球、押出成形物、またはタブレットなどの成形体で使用することができる。
【0011】
活性炭の固有の吸着特性は魅力的であるが、特に高容量の活性炭はより高い濃度で存在する汚染物質から水流を浄化するためにしばしば使用されない。その理由は、活性炭が急速に飽和するからであり、これは使用寿命を減少させる。従って、飲料水は、相対的に非常に低い流量で水流を浄化することを可能にするような、非常に大きな断面表面積の砂または酸化鉄の薄い固定床でしばしば浄化される。それ故、浄水で使用するために、活性炭の特性を改善する必要がある。
【0012】
貴金属は炭素の燃焼によって容易に再生利用することができ、且つ酸性及びアルカリ性の液体で安定であることから、活性炭は貴金属触媒に対する好ましい担体でもある。活性炭の欠点は、酸化の傾向である。更なる欠点は、活性炭担体が摩損しやすいことである。摩損は一般的に、貴金属の損失と反応生成物の汚染を導く。反応生成物による貴金属の損失は、通常、貴金属の高値の点から許容することができない。従って、より安定した炭素触媒担体、例えば黒鉛状炭素を含む担体は、非常に魅力的である。従って、黒鉛状炭素への活性炭の部分的な転換は非常に魅力的である。
【0013】
活性炭は同様に、電気化学的応用、例えば電池に対して流動床電極及び他のセル構成要素、における使用に対して多くの望ましい特性を有している。
【0014】
特許文献1(米国特許第4,236,991号明細書)及び特許文献2(米国特許第4,176,038号明細書)は、金属イオンから水流を浄化するために、電気化学反応における流動床電極の使用を報告している。しかしながら、これらのシステムの不利益は、電気分解セルのデッドセクションにおける流動床の変性を防ぐことが難しいことであった。さらに、どちらの文献も、活性炭が流動床電極で使用され得ることを述べていない。
【0015】
非特許文献2(Racyte et al. (Carbon 49(2011)5321−5328))による最近の出版物では、活性炭が水の殺菌のために流動床電極で使用された。このシステムでは、顆粒状の活性炭粒子が懸濁され、交流の無線周波数の電場が懸濁床にわたって印加される。このシステムの不利益は、粒状の活性炭粒子が沈殿することを防ぐために撹拌子による機械的撹拌が必要であることである。したがって、沈殿しない活性炭は、流動床電極で使用されるとき、非常に魅力的である。
【0016】
活性炭は一般的に、堅果の殻、泥炭または木のような炭素質の原料から作られ、ほとんど基本的にアモルファス炭素からなる(例えば、99重量%より上)。BET法によって測定及び計算された活性炭の表面積は非常に高い。1グラムあたり1000mを超えるBET表面積値が、活性炭に対して報告されている。しかしながら、そのような広大な表面積のかなりの欠点は、狭い孔を通ってのみ接近可能であることである。ガス流で狭い孔を通る輸送は、まだ十分に急速であり得るのに対して、狭い孔における液体の輸送の速度は低く、その理由は、液体の拡散係数が気相の拡散係数より約10倍小さいからである。活性炭の多孔構造を通る液体の遅い輸送は、多くの応用において考慮すべき問題である。より大きな分子、すなわち、フミン酸の分子は、大きすぎて狭い孔に入ることができず、活性炭本体の外表面上に吸着することができず、孔の遮断、及び後続するより小さな分子の吸着能力の損失を導く。
【0017】
輸送の速度、特に液体の輸送の速度に対して最も重要なことは、使用される活性炭の本体の大きさにより決定される孔の長さである。より小さく製造された炭素体は一般的に、より短い孔を提供する。固定床において、吸着剤として使用される活性炭の本体は小さすぎるべきではなく、何故ならこれが床にわたって非常に高い圧力低下をもたらすからである。固定床で使用される活性炭の本体に対する最小の大きさは一般的に、約2から10mmである。しかしながら、スラリーで使用される活性炭の本体の大きさの制限は、さらにより小さく、一般的に約10μmであり得る。この制限は、濾過または遠心分離のどちらかによって、活性炭を分離する要求によって決定される。
【0018】
孔の長さが孔の直径よりも輸送の速度により強く影響を及ぼすという事実にもかかわらず、より大きい直径を有する孔の使用は、輸送の速度を相当に上げることができる。しかしながら、活性炭の孔の平均直径は、通常非常に小さい。
【0019】
吸着剤として、または、触媒担体として使用されるとき、活性炭体は、前述のように、摩耗に耐えるのに十分な機械的強度をしばしば有していない。さらに、作られたばかりの活性炭は、疎水性でもあり、親油性でもある。しかしながら、活性炭の表面は、大気への露出で酸化し、親水性になる。それ故、安定した疎水性の特性を有する炭素を提供する必要がある。
【0020】
特許文献3(国際公開第2011−136654号)は、磁気共鳴映像法(MRI)などの臨床応用での使用に適している黒鉛炭素と強磁性金属または合金を含むナノ粒子を開示している。しかしながら、孔の全体積もこれらのナノ粒子のBET表面積もどちらも開示されていない。
【0021】
特許文献4(国際公開第2007−131795号)は、微結晶セルロースからアモルファス炭素体の生成を開示している。しかしながら、微結晶セルロースの原重量のわずか約20%が熱処置の後で残るとはいえ、微結晶セルロースは相対的に高価である。さらに、他のセルロース材料の成形及び含浸は難しく、多数の他の成分の混合を必要とし、これはしばしば、酸またはアルカリの環境で溶けやすく、このように炭素体の安定性を制限している。それ故、そのような多孔質炭素体の製造は魅力的でない。
【0022】
特許文献5(国際公開第2010−098668号)は、炭素が黒鉛状炭素としてほとんど完全に存在する金属−炭素体の製造を開示している。
【0023】
特許文献6(米国特許出願公開第2010−291167号明細書)は、植物由来材料から多孔質炭素材料複合体を調製する方法を開示している。さらに、特許文献6は、植物由来材料を塩化鉄の水溶液に含浸させ、その後、750℃の温度で加熱することを開示している。塩化鉄が加熱段階の間に揮発するので、鉄内容物の分布は制御されず、鉄内容物は含浸された材料を通して分散している。
【0024】
非特許文献3(Journal of Magnetism and Magnetic Materials 322(2010)1300−1303)は、活性炭をエタノール中の硝酸鉄水溶液に含浸させ、乾燥及びそれから900℃の温度で加熱することにより鉄/炭素複合体を調製することを開示している。
【0025】
非特許文献4(Faraday Discussions 151(2011)47−58)は、黒鉛状炭素を硝酸ニッケルの水溶液に含浸させ、含浸された炭素を乾燥し、450℃の温度で焼成することにより製造された炭素担持ニッケルのナノ粒子を開示している。
【0026】
非特許文献5(Journal of Alloys and Compounds 509(2011)585−589)は、無機/有機複合型キセロゲルを形成するように、フルフリルアルコール、金属硝酸塩、及びオルトケイ酸テトラエチルの共ゲル化によるFeCo/炭素ナノ複合体の製造を開示している。この文献は、形成されたキセロゲルが900℃で炭化され、それからNaOHでエッチングされることをさらに開示している。
【0027】
非特許文献6(Langmuir 20(2004)3388−3397)は、多孔質炭素及び金属種からなる材料を製造するために、800℃の温度で鉄、コバルト、及びニッケルを含むポリ(スチレンスルホン酸−co−マレイン酸)塩を熱分解することを開示している。さらに、この文献は、ボール紙状構造を有して製造された材料のSEMイメージを示している。
【0028】
非特許文献7(Journal of Materials Science 42(2007)3692−3694)は、in situで鉄ナノ粒子のテンプレートを用いたカーボンナノファイバの合成であって、ペンタカルボニル鉄とエタノールの化学蒸気分解と酸によるテンプレートの除去による炭素の形成を開示している。
【0029】
しかしながら、黒鉛状炭素への活性炭の転換を制御することにより、黒鉛状炭素の割合と位置が決定されることは、非常に魅力的である。これは、黒鉛状炭素が疎水性であり、疎水性のままであるからである。したがって、疎水性及び親水性表面の割合を制御することは、関心のある特性を有する活性炭本体を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】米国特許第4,236,991号明細書
【特許文献2】米国特許第4,176,038号明細書
【特許文献3】国際公開第2011−136654号
【特許文献4】国際公開第2007−131795号
【特許文献5】国際公開第2010−098668号
【特許文献6】米国特許出願公開第2010−291167号明細書
【特許文献7】米国特許第3,259,589号明細書
【特許文献8】米国特許第3,388,077号明細書
【特許文献9】米国特許第4,783,434号明細書
【特許文献10】国際公開第2010−098669号
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】Halem et al. (Drinking Water Engineering and Science 2(2009)29−34))
【非特許文献2】Racyte et al. (Carbon 49(2011)5321−5328)
【非特許文献3】Journal of Magnetism and Magnetic Materials 322(2010)1300−1303
【非特許文献4】Faraday Discussions 151(2011)47−58
【非特許文献5】Journal of Alloys and Compounds 509(2011)585−589
【非特許文献6】Langmuir 20(2004)3388−3397
【非特許文献7】Journal of Materials Science 42(2007)3692−3694
【非特許文献8】Zhuang et al. (Applied Catalysis A: General 301(2006)138−142)
【非特許文献9】Van den Berg (“Zirconia−supported iron−based Fischer−Tropsch catalysts”,PhD Thesis (2001) Utrecht University, The Netherlands)
【非特許文献10】N.V.Y.Scarlett, I.C.Madsen, Powder Diffraction 21(2006)278−284
【非特許文献11】Zhang et al. (J.Phys.Chem.C 111(2007)6939−6946)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
従って、黒鉛状炭素の量及び位置を制御することのできる、改善された特性を有する部分的に黒鉛化された活性炭本体を提供することが本発明の目的である。
【0033】
驚くべきことに、不安定な金属カーバイドを形成することができ、且つ不活性雰囲気の下で含浸した活性炭を高い温度で熱分解することのできる金属の一つ以上の化合物で、活性炭を含浸することは、金属化合物の還元及び活性炭の黒鉛状炭素への局所的な再結晶を導くことが見出された。そのような不安定な金属カーバイドを一般的に形成することができる金属は、鉄、ニッケル、及びコバルトなどのような強磁性金属を含む。活性炭の再結晶はまた、BET表面積の低下と平均孔直径の相当な増加を導く。
【0034】
加えて、活性炭に積まれる金属化合物の量、及び熱分解のために使用される温度により、活性炭の黒鉛状炭素への転換を制御することが可能であることが見出された。活性炭体内部に形成される黒鉛状炭素の位置は、含浸工程を制御すること、すなわち金属が配置される位置によって制御されることができ、これは活性炭本体の含浸工程により影響され得ることも見出された。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明はその結果、部分的に黒鉛化された活性炭及び少なくとも1つの強磁性金属の金属粒子を含む強磁性炭素体に向けられており、本体は、200から1000m/gのBET表面積、0.1から1ml/gの孔の全体積、及び2から10nmの平均孔直径を有している。
【0036】
驚くべきことに、本発明による強磁性炭素体は、改善された孔径の分布を有していることが見出された。強磁性炭素体の改善された多孔質構造は、その内部表面への輸送が修飾されていない活性炭よりもずっと速く進行することを可能にしている。これは、汚染物質の吸着容量及び除去の速度の相当な増加を有利的に提供している。
【0037】
炭素による金属前駆体の還元に由来する金属粒子、特に鉄の粒子は一般的に、黒鉛炭素によってカプセル化されていないか、部分的にカプセル化されているだけであることも驚くべきことである。金属粒子の表面のその部分は、炭素の再結晶の後でもむき出しのままであり、これは金属粒子のほとんど(例えば、90重量%より上)が、酸、例えば、塩酸、硝酸または硫酸との処置によって結果として生じた炭素体から除去され得るという事実から明らかである。
【0038】
活性炭の開始材料を通して含浸された金属化合物の分散は制御されることが望ましい。
【0039】
非特許文献8(Zhuang et al. (Applied Catalysis A: General 301(2006)138−142))は、はっきりとした境界を有する卵殻、卵白、及び卵黄の種類の担持金属触媒を調製する方法を開示している。Zhuangらの技術において、触媒担体の中心における孔体積が、疎水性有機溶剤で満たされるので、含浸溶液または浸出溶液が触媒担体の中心部に入るのを防ぐ。また、Zhuangらはまた、触媒担体における有機溶剤の量は、蒸発によって制御され得ることを開示している。さらに、Zhuangらは、これは、含浸溶液が触媒担体の中心部に入ることを妨げることによる卵殻型触媒、浸出溶液が還元された触媒担体の中心部に入ることを妨げることによる卵黄型触媒、または、浸出溶液が還元された卵殻型触媒の中心部に入ることを妨げることによる卵白型触媒をもたらす。
【0040】
特許文献7(米国特許第3,259,589号明細書)は、無機酸化物の担体を触媒活性金属成分及び有機酸に含浸させ、含浸した担体を乾燥し、及びそれから水素の存在下で加熱して金属成分を還元することによる触媒の調整方法を開示している。特許文献7はまた、この方法は、担体の含浸の間に有機酸を使用しないことにより修正されてもよく、これは、表面上またはその近くに実際上全ての触媒活性金属成分を有する(すなわち卵殻型触媒)触媒粒子をもたらす。さらに、特許文献7は、過剰な量の有機酸の使用は、実質的に全ての金属成分が触媒粒子の中心に押し込まれること(すなわち卵黄型触媒)を開示している。この方法の別の変種において、特許文献7は、粒子内部に1つの層として完全に組み込まれた金属成分を有する触媒粒子が、担体の重量に基づき0.1から1.5重量%の量にある、カルボキシル基に隣接した水酸基を有する有機酸を使用することにより製造され得ることを開示している。特許文献7で開示された方法の他の変種は、アンモニアまたは他のアルカリ性作用(alkalinous−acting)の材料の存在下で、担体の重量に基づき0.1から1.5重量%の量の有機酸を用いることで、担体を通して均一に分布した金属成分を有することで調整され得ることを開示している。
【0041】
特許文献8(米国特許第3,388,077号明細書)は、アルカリ土類金属成分が同様に、担体に含浸されることを除いて、特許文献7と類似の触媒を調製する方法を開示している。
【0042】
非特許文献9(Van den Berg (“Zirconia−supported iron−based Fischer−Tropsch catalysts”,PhD Thesis (2001) Utrecht University, The Netherlands))は、インシピエントウェットネス含浸(incipient wetness impregnation)を使用して、高度に分散した酸化ジルコニウム担持鉄ベースの触媒を製造する方法を開示している。この方法において、焼成温度は、触媒内部での触媒活性材料の分散に影響することが見出された。
【0043】
特許文献9(米国特許第4,783,434号明細書)は、担体本体の内部表面及び外部表面にわたって触媒活性要素の均一な分布を提供する工程を開示している。この工程において、担体本体は、触媒活性要素の複合溶液で含浸され、その溶液の粘度は、加熱、及び/または溶媒の蒸発、及びその後の溶媒の蒸発及び加熱による複合体の分解において減少しない。特許文献9は、この工程の主な利点は、触媒内の狭い孔の存在を導く活性要素の小さな粒子の凝集の形成なく、大きな特定の面積を有する活性要素に対して、幅の広い孔を有する担体本体に適用でき、及びそれ故、十分に到達可能な表面を可能にしていることであることを開示している。
【0044】
材料中の金属化合物粒子の分布は、電子顕微鏡法(例えばTEMとSEM)によって評価することができる。
【0045】
一般的に、本発明による強磁性炭素体は、非特許文献10(N.V.Y.Scarlett, I.C.Madsen, Powder Diffraction 21(2006)278−284)によって説明されるような、PONKCS(「Partial or no known crystal structures」)法と組み合わせたX線回折(XRD)により好ましくは決定された、約10から90重量%の黒鉛状炭素、好ましくは20から80重量%の黒鉛状炭素、より好ましくは25から70重量%の黒鉛状炭素、さらにより好ましくは30から60重量%の黒鉛状炭素を含む。強磁性炭素体のBET表面積は、一般的に200から1000m/g、好ましくは250から950m/g、及びより好ましくは300から900m/gである。ここで用いられるBET表面積は、Micromeritics社のASAP2420において、180℃で試料を脱気した後で、窒素断面積を16.2Åと仮定して、77K及び約0.3のP/Poで吸着される窒素の量を決定することにより測定されることのできる値である。
【0046】
好ましくは、強磁性炭素体の孔の全体積は、0.15から0.8ml/gの間であり、より好ましくは0.2から0.6ml/gの間である。ここで用いられる孔の全体積は、Micromeritics社のASAP2420を用いて、約1のP/Poで吸着される液体窒素の体積を決定することにより測定される値である。
【0047】
本発明の強磁性炭素体の平均の孔直径は、好ましくは3から9nmの間であり、より好ましくは4から8nmの間である。ここで用いられる平均の孔直径は、孔が円筒形であると仮定して、全体の孔体積をBET表面積で割ることにより決定される値である。BJH法は、孔充填のケルビンモデルを用いる、実験的等温処理から孔径の分布を計算するために用いられ得る。微小孔の存在は、t−プロット分析から立証された。
【0048】
驚くべきことに、本発明の強磁性炭素体は、活性炭開始材料よりも実質的に低い微小孔体積を示している。これは、再結晶化工程の間に、微小孔を犠牲にしてメソ孔が導入されるからである。この長所は、本体の多孔質構造を通る液体の輸送の改善された速度を導くことである。IUPAC 1994によって分類される、微小孔とメソ孔は、それぞれ2nm未満の孔直径及び2から50nmの孔直径を有している。
【0049】
できるだけ高い側面破砕強さ(SCS)を有する本体を有することが望ましい。SCSは、球、押出成形物、またはタブレットなどのような規則形状またはほぼ規則形状を有する本体に対して決定され得る。本発明の本体のSCSは、Chatillon DFE 力ゲージを用いて測定された。しかしながら、いかなる適切な力ゲージが、SCSを測定するのに用いられてもよい。本体が熱分解温度で保たれる期間は、SCSに影響を与え得ることが見出された。
【0050】
本発明の強磁性炭素体は、粉末、粒子、顆粒、及び球、押出成形物またはタブレットなどの成形体であり得る。
【0051】
一般的に、強磁性炭素体の強磁性金属は、鉄、ニッケル、及びコバルトの金属及び/または合金、並びにそれらの組合せからなる群から選択され得る。好ましくは、強磁性金属は、鉄または鉄の合金である。
【0052】
加えて、本発明の強磁性炭素体の金属粒子は、黒鉛状炭素層によって完全に(例えば、金属粒子の99重量%より上)カプセル化され得る。これは、高い温度で水素及び炭素含有分子の流れにおいて、強磁性炭素体を処理することにより達成され得る。
【0053】
黒鉛層内の金属粒子、特に鉄粒子の完全なカプセル化の利点は、いろいろな液体で使用されるとき、金属粒子の酸化及び溶解が防がれることである。完全なカプセル化はまた、濾過または遠心分離によって取り除くことが非常に難しい、細かく分離した水和鉄(III)種の形成を防ぐ。
【0054】
本発明による強磁性炭素体はさらに、好ましくは前記炭素体の表面上に存在する、ポリマーを含み得る。使用され得る適切なポリマーは、例えば、ホモポリマー、並びにブロック共重合体、ランダム共重合体、及びグラフト共重合体などの共重合体を含む。そのようなポリマーの長所は、それらが水溶液において解離する化学基で官能化され得ることであり、水溶液中の懸濁強磁性炭素体を安定させる。ポリマーはまた、汚染物質、または荷電及び非荷電種、親水性/疎水性化合物、薬剤、及び代謝産物などの関心のある化合物の的を絞った除去のために使用され得る。
【0055】
本発明の強磁性炭素体はまた、好ましくは本体の(内部)表面上で、金属及び/または金属酸化物の追加の粒子を含み得る。より好ましくは、前記強磁性炭素体が、黒鉛炭素層により完全にカプセル化された強磁性金属粒子を含む。一般的に、追加の粒子の金属及び/または金属酸化物は、鉄、ニッケル、コバルト、触媒活性金属及び/または酸化物、及びそれらの組合せを含み得る。適切な触媒活性金属は、亜鉛、銅、マンガン、モリブデン、バナジウム、タングステン、及び貴金属を含み得る。そのような強磁性炭素体は、例えば、吸着剤または不均一触媒として適切に使用され得る。
【0056】
本発明の強磁性炭素体は、加えて、カーボンナノチューブ及び/またはカーボンナノファイバを備え得る。そのような強磁性炭素体は、輸送が十分に高いレベルで選択性を維持することが重要である、液相反応における触媒担体として、適切に使用され得る。
【0057】
カーボンナノファイバ及び/またはカーボンナノチューブの緻密層を有する強磁性炭素体はまた、優れた電気的接触を提供し、それ故、電気化学的応用において使用するのに非常に適切である。好ましくは、そのような強磁性炭素体は、磁気的に安定な流動床電極において使用される。
【0058】
本発明の強磁性炭素体は、目的とする応用に応じて、一般的に約100nmから20mmの大きさの範囲を有している。スラリーでの応用において、強磁性炭素体の一般的な大きさは、0.5μmと150μmの間であり、固定床での応用において、1と10mmの間である。フミン酸及びフルボ酸の除去に対して、1μm未満の大きさを有する強磁性炭素体を使用することが好ましい。
【0059】
本発明の追加の実施形態は、一酸化炭素を水素化することによってオレフィンを製造するのに適した触媒としての強磁性炭素本体の使用に向けられる。好ましくは、本体の強磁性金属は鉄または鉄の合金である。より好ましくは、本体の金属粒子は、黒鉛状炭素にカプセル化されないか、または部分的にだけカプセル化される。一般的に、本体は1から5mmの間の大きさを有しており、固定床における使用に対して適切にさせる。
【0060】
本発明の更なる目的は、本発明の強磁性炭素体の調整のための工程を提供することである。
【0061】
それ故、本発明はまた、強磁性炭素体の製造のための方法に向けられており、前記工程は、活性炭を金属化合物の水溶液に含浸させる段階と、含浸された活性炭を乾燥させる段階と、不活性雰囲気の下で乾燥させた含浸活性炭を熱分解する段階と、それによって金属化合物を対応する金属に還元する段階と、を含む。
【0062】
活性炭は、インシピエントウェットネス含浸を利用して、1回以上金属化合物の水溶液に含浸してもよく、使用される前記水溶液の体積は、活性炭の孔の体積と等しいかそれより低い。あるいは、活性炭は、不揮発性金属化合物の均一な分布のために必要とされるものより少ない期間で、活性炭の前記溶液への含浸により、金属化合物の水溶液に含浸され得る。この期間は、含浸溶液の粘度、炭素体の温度及び種類のような要因に依存している。この期間は、分単位のオーダーであり得、一般的に60分以下、好ましくは30分以下、より好ましくは10分以下である。
【0063】
使用される熱分解温度は、望ましいSCSまたは望ましい孔構造に依存して、広い範囲内で選択される。より高い温度では、より多くの活性炭が、黒鉛状炭素に再結晶することができる。乾燥させた含浸活性炭を熱分解するために、本発明の工程で使用される温度は、一般的に700℃より上であり、好ましくは、800℃より上である。
【0064】
含浸された金属化合物における金属、特に鉄化合物における鉄は、700℃より上の温度で炭素によって金属に還元され得る。低い温度では、鉄化合物の還元は、磁鉄鉱、Feのみまで進行する。理論により限定されるものではないが、活性炭内のアモルファス炭素の再結晶は、還元された金属、特に金属鉄が、アモルファス炭素から炭素を取り上げることができ、且つ不安定な金属炭化物を形成するように反応することができるという事実に起因していると考えられる。その後、金属炭化物からの炭素は、黒鉛状炭素として分離される。黒鉛状炭素への活性炭の再結晶は、BET表面積の低下、並びに平均孔直径及び孔の全体積の増加をもたらす。
【0065】
本発明の工程における開始材料として使用される活性炭は、粉末、粒子、顆粒、及び球、押出成形物、またはタブレットなどの成形体の形であり得る。
【0066】
更なる実施形態において、本発明は、強磁性炭素体の製造のための工程に向けられており、その工程は、活性炭の粉末を金属化合物の粉末と混合する段階と、得られた混合粉末を本体に成形する段階と、成形された本体を不活性雰囲気の下で熱分解する段階と、それにより、金属化合物を対応する金属に還元する段階と、を含む。
【0067】
この工程の長所は、活性炭の黒鉛状炭素への低い転換を可能にしていることである。これは、活性炭の粉末内に金属化合物の粉末を分散させるための混合の制限に起因すると考えられる。
【0068】
一般的に、本発明の上述した工程における成形された本体を熱分解するのに用いられる温度はまた、700℃より上であるか、好ましくは、800℃より上である。
【0069】
混合粉末は一般的に、押し出し、タブレット成形、または粒状化などの当技術分野において周知の方法を用いて成形される。
【0070】
本発明の工程における開始材料として使用される活性炭は、ほぼ基本的にアモルファス炭素から成る(例えば、99重量%より上)、堅果の殻、泥炭または木などのような炭素質の原材料から、従来の手段によって製造され得る。
【0071】
本発明の工程において適切に使用され得る金属化合物は、強磁性金属及び/または合金の前駆体である不揮発性金属化合物である。ここで定義されるように、不揮発性金属化合物は、本発明の工程において活性炭上へ含浸されるとき、熱分解工程の段階の間に揮発しない金属化合物である。好ましくは、金属化合物は、鉄、ニッケル、及びコバルト化合物、並びにその組合せからなる群から選択され得る。より好ましくは、使用される金属化合物は、鉄化合物である。さらにより好ましくは、金属化合物は、鉄(III)硝酸塩またはクエン酸鉄(III)アンモニウムである。
【0072】
驚くべきことに、本発明の工程において不揮発性金属化合物の使用は、活性炭を通して金属化合物の制御された分布により、活性炭の黒鉛状炭素への転換の制御を可能にすることが見出された。理論により限定されるものではないが、これは、そのような金属化合物が、熱分解の段階の間に、活性炭を通して再分散せず、その代わりに、それらが活性炭内に含浸する位置に留まっているからであると考えられる。
【0073】
本発明の強磁性炭素体は、黒鉛状炭素によりカプセル化されていないか、または部分的にのみカプセル化された金属粒子を一般的に含むので、これらの粒子の露出する金属表面は、大気への露出により酸化することができる。酸化を望まないときは、本体の強磁性金属粒子は、高い温度で水素及び炭素含有分子の流れにおける処理により黒鉛状炭素層へのカプセル化により保護され得る。使用することのできる適切な炭素含有分子は、ベンゼン、トルエン、CO、低級アルカン、アルケン、アルコール類、アルキン類、及びそれらの組合せを含む。一般的に使用される温度は800℃より上である。そのような処理は一般的に、金属粒子の完全なカプセル化をもたらす(例えば、99重量%より上)。強磁性炭素体は不均一な磁場によって急速に分離され得るので、スラリー内のそのような本体の分離は、すぐに達成され得る。
【0074】
本発明の強磁性炭素体は、本体の黒鉛表面上にポリマーを吸着させることにより、さらに修飾され得る。本体の黒鉛状炭素の表面は、本体上へのポリマーの吸着を可能にする魅力的な特性を示している。
【0075】
加えて、本発明の強磁性炭素体は、本体に金属及び/または金属酸化物を積載させることにより修飾され得る。好ましくは、修飾される強磁性炭素体は、黒鉛状炭素層によって完全にカプセル化された強磁性金属粒子を含む。使用され得るそのような積載方法は、金属化合物の水溶液への強磁性炭素体の含浸と、後続の本体の表面上への金属化合物の加熱または堆積を含む。使用され得る金属化合物は、鉄、ニッケル、及びコバルトの化合物、触媒活性金属の化合物、及びその組合せを含む。
【0076】
強磁性炭素体の表面への含浸を制限することを望む場合、特許文献9(米国特許第4,783,434号明細書)で開示されているような、溶媒の揮発に基づき粘性を増大させるように、追加の化合物が水溶液に加えられ得る。使用され得るそのような追加の化合物の例は、ヒドロキシエチルセルロース(ethylhydroxycellulose)である。含浸した強磁性炭素体はそれから、一般的に乾燥され、及び熱的に加熱される。この方法の利点は、本体の表面上に金属及び/または金属酸化物の粒子をもたらすことである。
【0077】
さらに、本発明の強磁性炭素体は、参照によってここに組み込まれる特許文献10(国際公開第2010/098669号)で開示されたような工程に従い、カーボンナノチューブ及び/またはカーボンナノファイバを備え得る。
【0078】
前述のように、活性炭に存在するアモルファス炭素は、炭化物形成金属との相互作用からもたらされる黒鉛状炭素より、酸化しやすい。本発明の別の態様は、わずかなアモルファス炭素を黒鉛状炭素に転換することにより、活性炭本体の多孔性を増大させ、残りのアモルファス炭素を二酸化炭素と一酸化炭素に選択的に酸化することに向けられる。酸化は、制御された方法でそれを酸素に接触させることにより実行されてもよく、例えば、これは高度に希釈された酸素雰囲気(例えば、不活性雰囲気(例えば、アルゴン、窒素)において0.1vol.%未満の酸素)の下で炭素体を加熱することにより、または、強磁性炭素体を一つ以上の酸、例えば、高い温度で液相の硫酸及び硝酸の混合物に接触させることにより、実行され得る。
【0079】
強磁性炭素体が望まれないとき、むき出しの強磁性金属粒子は、本体を酸に接触させ、それからすすぐことによって除去され得る。金属粒子を溶解するのに使用され得る適当な酸は、硝酸、塩酸、硫酸、及びそれらの組合せを含む。液体、好ましくは水ですすいだ後、溶解された金属粒子はこのようにして除去され、基本的に純粋な(例えば、99重量%より上)炭素体が残る。
【0080】
それ故、本発明の更なる目的は、部分的に黒鉛化された活性炭を含む炭素体の製造に向けられており、その工程は、本発明の強磁性炭素体を酸に接触させ、それにより、金属粒子を溶解させる段階と、酸処理された強磁性炭素体を液体ですすぎ、それにより、溶解した金属粒子を除去する段階と、を含む。
【0081】
一般的に、強磁性炭素体に存在する金属粒子の90重量%より上、好ましくは95重量%より上、さらにより好ましくは98重量%より上は、この酸処理工程により除去され得る。
【0082】
本発明の更なる目的は、本発明の強磁性炭素体を酸に接触させ、それにより、金属粒子を溶解する段階と、酸処理された強磁性炭素体を液体ですすぎ、それにより、溶解した金属粒子を除去する段階と、により得ることのできる、部分的に黒鉛化された活性炭を含む炭素体に向けられる。
【0083】
大部分の金属粒子が、酸処理によって結果として生じる炭素体から除去されることができる(例えば、90重量%より上)ことが見出された。一般的に、本発明の炭素体は、炭素体の重量に基づく金属として計算された、1重量%未満の金属粒子を含む。
【0084】
酸処理が製造された炭素体の黒鉛状炭素内容物に影響を及ぼさないことをも見出された。加えて、本発明の炭素体の孔構造が、原材料、すなわち本発明の強磁性炭素体と同等であることが見出された。
【0085】
好ましくはPONKCS法と組み合わせてXRDを使用して決定されるように、本発明の強磁性炭素体のような、本発明の炭素体は、好ましくは約10から90重量%の黒鉛状炭素、好ましくは20から80重量%の黒鉛状炭素、より好ましくは25から70重量%の黒鉛状炭素、さらにより好ましくは30から60重量%の黒鉛状炭素、を含む。
【0086】
本発明の炭素体の孔の全体積はまた、一般的に0.1ml/gより大きく、好ましくは0.15ml/gより大きく、及びより好ましくは0.2ml/gより大きい。
【0087】
本発明の炭素体の平均孔直径は、一般的に2から10nmの間であり、好ましくは3nmより大きく、より好ましくは4nmより大きい。
【0088】
更なる実施形態において、本発明の炭素体と強磁性炭素体が、吸着剤として、または、触媒担体として使用され得る。加えて、本発明の本体が、水流の処理において、または、電気化学的応用において、有利的に使用され得る。
【0089】
そのような本体の(内部の)表面積が、液体の大部分から良好に到達可能であるという事実に起因して、本発明の炭素体と強磁性炭素体が、水流から、金属イオン、リン酸塩、及び有機化合物などの汚染物質の除去のために有利的に使用され得る。残りの活性炭の表面が、大気への露出の後でカルボン酸基を含み、それ故に、黒鉛状炭素の表面より反応性となるので、本発明による黒鉛状炭素体は、正に帯電した汚染種または有価種を結びつけるのに有利的に使用され得る。黒鉛状炭素へと転換される活性炭の割合が本発明により制御されることができるので、最適条件は、到達可能性と吸着剤の容量との間で達成され得る。
【0090】
金属鉄及び酸化鉄の両者は、溶液から金属イオンの回収において特定の可能性を有していることが立証された。金属鉄はより多くの銅、銀、金などのような貴金属と反応することができ、この反応においてより多くの貴金属が鉄上に堆積され、鉄は溶解する。Zhangらは、水溶液からの金属カチオンの除去において、ゼロ価鉄ナノ粒子(nZVI)と呼ばれる、担持されていない還元鉄ナノ粒子の応用を開示している(非特許文献11(Zhang et al. (J.Phys.Chem.C 111(2007)6939−6946)))。nZVIが水溶液中に導入される場合、速い腐食が起こり、液体が非常に酸性でない限り、多孔質酸化物/水酸化物のシェルを有する還元された鉄のコアからなるコアシェル構造が作られる。明らかに、酸化物/水酸化物シェルは、溶解したカチオンを反応させることにより、容易に浸透されることができる。
【0091】
酸化物/水酸化物層の厚さは、酸素との反応(不動態化)を制限することによって制御されることができる。不動態化の工程は、例えば、少量の酸素(例えば、0.5vol.%)を含む不活性ガス流への露出、または二酸化炭素を含むガス流への露出を含むことができる。若干の一酸化二窒素(NO)を含むガス流への露出も開示されている。不動態化された鉄を有する炭素体は続いて、浄化される水に導入される。より面倒ではあるが、より魅力的でもある手順は、製造後の炭素体を不活性ガス中に保ち、その後本体を水の中に導入し、できる限り大気への露出を避ける。
【0092】
酸化鉄はまた、水の浄化に対して、高度に好ましい特性を示すことは周知である。本発明の2つの実施形態は、炭素体に存在する金属鉄粒子の使用に関係している。第1は、金属鉄粒子の(制御された)酸化の後での使用を含む。第2の手順で、金属鉄粒子は黒鉛層にカプセル化され、別々に微細に分離された酸化鉄は、担持触媒の製造の当技術分野に周知の手順の1つにより、強磁性炭素体の表面上に堆積される。最後の実施形態は、飽和の後で、酸化鉄が酸に溶解されることができ、新しい酸化鉄はこのようにして再生された強磁性炭素体上に堆積されることができるという利点を有している。
【0093】
その上、強磁性炭素体における鉄粒子の反応度は、より多くの不活性元素、好ましくは銅の水溶液の追加によって、上げることができる。銅は鉄表面上に金属銅として堆積し、鉄表面上により多くの他の貴金属種の堆積を促進することができる。
【0094】
加えて、本発明の強磁性炭素体は、特に、水流から金属カチオンを除去するための流動床電極で使用され得る。適当な磁場により、強磁性炭素体は外部磁場の力線に沿って整列することができ、このようにして電極構造における導電性粒子の閉じ込めに関する問題を避けている。その結果、金属カチオンは水流から除去されることができる。本発明の好ましい実施形態において、鉄粒子は黒鉛層内にカプセル化され、その後微細に分離した銅または貴金属粒子は、固体触媒の製造の当技術分野において周知の手順により、強磁性炭素体上に堆積される。その結果、低い過電圧で金属カチオンが水流から除去されることができる。本発明の範囲を制限するものではないが、銅または貴金属粒子は、還元金属イオンが堆積することのできる、核形成部位を提供することができると考えられている。堆積の後で、強磁性炭素体は、本体が酸に接触することによって再生されてもよく、このようにして、堆積した金属を除去し、新しい銅または貴金属粒子が再生された強磁性炭素体上に堆積されることができる。
【0095】
磁気的に安定した流動床電極は、例えば、強磁性炭素体により吸着される、フミン酸及びフルボ酸などのような大きな有機化合物を酸化させ、本体を再生するように使用され得る。好ましくは、電気化学的応用で使用される強磁性炭素体は、カーボンナノファイバ及び/またはカーボンナノチューブを備えている。
【0096】
本発明による強磁性炭素体はまた、逆流法(reverse flow technique)でも使用され得る。一般的に、強磁性炭素体のスラリーは、浄化される液体流に加えられる。強磁性炭素体はそれから、液体流における制御された滞留時間の後で、不均一磁場により捕獲され得る。十分な強磁性体が磁場により収集されたとき、磁場は電源が切られ、液体流は反転される。もう一つの不均一磁場は、液体流における異なる位置で、使用済みの強磁性炭素体を捕獲する。
【0097】
炭素体及び強磁性炭素体はまた、触媒担体または触媒として使用され得る。金属鉄を含む担持触媒の製造は難しい。親水性担体で、金属鉄への還元が熱力学的に実行可能であるレベルまで水蒸気圧を減少させることはほとんど不可能である。それにもかかわらず、例えば、一酸化炭素流−水素流からのオレフィンの製造、または、アンモニアの合成に対して、担持された金属鉄触媒を製造することは非常に重要である。本発明の特別な実施形態によると、金属鉄粒子を含む強磁性炭素体はそれ故、担持金属鉄触媒として採用される。還元性ガス流における比較的低い温度での熱の前処理は、金属鉄を製造するのに十分である。アモルファス炭素および黒鉛状炭素の両者の表面は、約300℃より上の温度での熱処置において疎水性である。
【0098】
特に強磁性炭素体の磁気分離は、液相反応において採用される懸濁触媒で、非常に魅力的である。分離は例えば、触媒の大気への露出なしで実行され得る。磁石上に強磁性炭素体担体を集めることによって、一定量の水素が消費された後で、水素化処理を止めることも可能である。触媒反応を中断する能力は、相当に高い選択性を導くことができる。
【0099】
本発明は、発明の範囲を制限することを目的としていない、いくつかの実施例に基づいていま説明される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】実施例1のt−プロット測定を示している。
図2】実施例1及び実施例1aのXRDスペクトルを示す。
図3】実施例2のt−プロット測定を示している。
図4】実施例2のXRDスペクトルを示している。
図5】実施例2aのt−プロットを示している。
図6】実施例1、2、及び2aのXRDスペクトルを示している。
図7】実施例3のt−プロット測定を示している。
図8】実施例3のXRDスペクトルを示している。
図9】実施例1から3のXRDスペクトルを示している。
図10】実施例4のt−プロット測定を示している。
図11】実施例4のXRDスペクトルを示している。
図12】実施例4aのt−プロットを示している。
図13】実施例1、4、及び4aのXRDスペクトルを示している。
図14】製造された強磁性炭素体の断面の後方散乱画像を示している。
図15図14で示された矢印に沿ったエネルギー分散型X線(EDX)元素分析を示している。
図16】製造された強磁性炭素体の断面の後方散乱画像を示している。
図17図16で示された矢印に沿ったEDX元素分析を示している。
【発明を実施するための形態】
【0101】
[実施例]
実施例1(比較):未処理の活性炭押出成形物
未処理の活性炭押出成形物(JECカーボン 1.8mm SHIRASAGI C2x8/12 ヤシ殻系ペレット活性炭)の微小孔構造、及び黒鉛の存在が、N吸着測定及びXRDでそれぞれ測定された。
【0102】
実施例の組織特性を決定するために、Micromeritics社のASAP 2420の装置を用いる−196℃での窒素の物理的吸着が使用された。それぞれ、BET表面積及び孔の径分布は、BET法及びBJH法によりそれぞれ測定された。微小孔の存在は、t−プロット分析から決定された。測定に先立ち、すべての試料は、180℃で10μHg未満の圧力まで真空化で脱気された。
【0103】
粉末X線回折(XRD)パターンはBruker D8 ADVANCE(Detector:SOL’X、アノード:銅、波長:1.542Å、Primary Soller slit:4°、Secundary Soller slit:4°、Detector slit:0.2mm、Spinner:15RPM、Divergence slit:variable V20、Antiscatter slit:variable V20、Start:10°2theta、Stop:100°2theta、Stepsize:0.05°2tehta、Time/step:8sec、Sample preparation:Front loading)で得られた。
【0104】
実施例1における元素鉄の量は、誘導結合プラズマ(Thermo Electron IRIS intrepid ICP with RF Generator, Fe measured at 239.562nm and 240.488nm)で測定された。
【0105】
実施例1a:加熱処理された活性炭押出成形物
活性炭押出成形物(JECカーボン 1.8mm SHIRASAGI C2x8/12 ヤシ殻系ペレット活性炭)が窒素雰囲気下で、1時間800℃で加熱処理された。分析内容は、実施例1と同じものであり、下記表1で見ることができる
【0106】
表1は、実施例1及び実施例1aの、重量%の単位で鉄の量、m/gの単位でBET表面積(BET SA)、ml/gの単位で孔の全体積(Total PV)、Åの単位で平均孔直径(APD)、及びNの単位でSCSを示している。SCSは、Chatillon DFE 力ゲージにおいて、4.5から5.5mmの間にある選択された長さで、20から25の押出成形物で測定された。この計量器は、固定比率及び制御されたパンチを有して、固定比率のパンチ及び空気のパンチ(a fixed and a pneumatic punch)(最大距離0.9mm)の間で、押出成形品を押し砕く。
【0107】
【表1】
【0108】
図1は、実施例1のt−プロット測定を示している。線形プロットのy切片は、実施例1に存在する微小孔の量を示している。より低いy切片は一般的に、より低い量の微小孔が試料に存在することを示している。t−プロット測定が、実施例1aにも行われ(図示せず)、図1で示される実施例1のt−プロットに非常に同等であることがわかった。
【0109】
図2は、実施例1(黒い線)と実施例1a(灰色の線)のXRDスペクトルを示す。黒鉛状炭素の量は、2−theta scaleが26のピークで示されている。実施例1(図2の黒い線)及び実施例1a(灰色の線)で示される広域の反射は、アモルファス炭素に対して示している。これは、金属化合物がない場合のこれらの温度での活性炭本体の熱分解が、黒鉛形成を導かないことを示している。
【0110】
実施例2:硝酸鉄(III)九水和物/800℃/3時間
本発明による強磁性炭素体は、250mLのフラスコに40gの活性炭押出成形物(JECカーボン 1.8mm SHIRASAGI C2x8/12 ヤシ殻系ペレット活性炭)を置くこと、及び真空下(40 mbar)で少なくとも30分回転させることにより調製された。58重量%の硝酸鉄(III)九水和物の水溶液37mLが、真空下で炭素押出成形物上にスプレーされた。押出成形物は真空下40℃で一晩乾燥された。真空を解放して、35gの鉄が含浸された炭素押出成形物が固定床上に置かれ、400ml/分の窒素流の下、5℃/分の速度で800℃まで加熱される。3時間の等温処理の後、材料は室温まで冷やされ、調製された試料を安定化するために空気がゆっくりと加えられた。収量は、22gの黒い炭素押出成形物であった。微小孔構造及び黒鉛の存在はそれぞれ、N吸着測定及びXRDで測定された。
【0111】
実施例2の分析内容は、実施例1のものと同じであり、その結果が下記の表2で見ることができる。
【0112】
【表2】
【0113】
図3は、実施例2のt−プロット測定を示しており、図4は、XRDスペクトルを示している。
【0114】
実施例2a:実施例2の押出成形物の酸処理
実施例2の5.0gの試料が、4MのHCl 15mLで処理され、2時間撹拌され、濾過され、再び4MのHCl 10mLで処理された。それから、濾過され、水で洗浄され、110℃で一晩乾燥された。収量は、4.2gの黒い押出成形物であった。分析内容は、実施例1のものと同じであり、下記の表2aで見ることができる。
【0115】
【表3】
【0116】
実施例2aのt−プロットが、図5で見ることができる。
【0117】
図6は、実施例1、2、及び2a(図6においてそれぞれ、黒い太線、黒い細線、灰色のクロスを参照)のXRDスペクトルを示している。
【0118】
実施例2及び2aのXRDスペクトルは、黒鉛含有量に影響を及ぼすことなく、鉄が酸処理により鉄含有押出成形物(実施例2)から除去され得ることを示している(図6において、2−theta scaleが26でのピークを参照)。元素分析は、酸処理が95重量%を超える鉄を除去したことを確認した(表2及び2aを参照)。さらに、酸処理された押出成形物(実施例2a)の孔構造は、図3及び5、並びに表2及び2aで示されるように、Fe含有押出成形物(実施例2)の孔構造に相当している。
【0119】
実施例3:硝酸鉄(III)九水和物/1000℃/3時間
実施例2で述べたものと類似の工程が実施例3に対して実施されたが、実施例3は、150gの活性炭押出成形物及び58重量%の硝酸鉄(III)九水和物溶液140mLを用いている。加熱処理は、800℃の代わりに1000℃で実行された。微小孔構造及び黒鉛の存在はそれぞれ、N吸着測定及びXRDで測定された。
【0120】
前の実施例と同じ分析が実施例3に対してもなされ、その結果は下記の表3で見ることができる。
【0121】
【表4】
【0122】
実施例3のt−プロット測定及びXRDスペクトルが、図7図8でそれぞれ示されている。加えて、実施例3の黒鉛の量は、PONKCS(Bruker AXS,Karlsruhe,DEから入手可能であり、非特許文献10(N.V.Y.Scarlett,I.C.Madsen,Powder Difraction 21(2006)278−284)で開示された方法に従う「Partial or no known crystal structure」)という名のソフトウェアプログラムと組み合わせて、XRDを使用して決定された。実施例3の黒鉛状炭素の量は、37重量%であると決定された。
【0123】
図9は、実施例1から3(図9において、それぞれ、黒い太線、黒い細線、及び灰色の線を参照)のXRDスペクトルを示している。
【0124】
実施例2及び3のXRDスペクトルは、熱分解温度を増大させることがより高い黒鉛状炭素の量を製造したことを示している(図9において、2−theta scaleが26でのピークを参照)。
【0125】
実施例4:Fe炭素粒子/800℃/3時間
実施例2で述べたものと類似の工程が実施されたが、実施例4は代わりに、押出成形物の代わりに50gの炭素顆粒及び58重量%の硝酸鉄(III)九水和物溶液47mLを用いている。加熱処理は、800℃の代わりに1000℃で実行された。収量は、21gの黒い炭素顆粒であった。微小孔構造及び黒鉛の存在はそれぞれ、N吸着測定及びXRDで決定された。
【0126】
表4は、SCS測定がなされなかったことを除いて実施例1と類似の、実施例4の分析の結果を示している。
【0127】
【表5】
【0128】
実施例4のt−プロット測定及びXRDスペクトルがそれぞれ、図10及び11に示されている。
【0129】
実施例4a:実施例4の顆粒の酸処理
実施例4の試料5.0gが、4MのHCl 15mLで処理され、2時間撹拌され、濾過され、再び4MのHCl 10mLで処理された。それから、濾過され、水で洗浄され、110℃で一晩乾燥された。収量は、3.9gの黒い顆粒であった。分析は、実施例1に対して述べられたものと同じであり、その結果は下記の表4aで見ることができる。
【0130】
【表6】
【0131】
実施例4aのt−プロットは、図12で見ることができる。
【0132】
図13は、実施例1、4、及び4aのXRDスペクトル(図12において、それぞれ、黒い太線、灰色の線、及び黒い細線を参照)を示している。
【0133】
実施例4及び4aのXRDスペクトルは、黒鉛含有量に変化をもたらすことなく、鉄が酸処理によりFe含有顆粒(実施例4)から除去され得ることを示している(図13において、2−theta scaleが26でのピークを参照)。元素分析はまた、90重量%を超える鉄が酸処理によって除去されたことを確認した(表4及び4aを参照)。実施例2aと同様に、酸性処理された顆粒(実施例4a)の孔構造は、Fe含有顆粒(実施例4)の孔構造から、大きく変化しなかった。酸性処理された顆粒(実施例4a)のBET表面積は、Fe含有顆粒(実施例4)と比べると、相当に増加することが見出された。
【0134】
実施例5:クエン酸鉄(III)アンモニウム/含浸/800℃/3時間
25gの活性炭押出成形物(JECカーボン 1.8mm SHIRASAGI C2x8/12 ヤシ殻系ペレット活性炭)にわたって、(250gの脱塩水に300.3gのクエン酸鉄アンモニウムが溶解された)5.1mlのクエン酸鉄(III)アンモニウム溶液をスプレーボトルでスプレーすることにより、本発明による強磁性炭素体が調製された。試料は、大気条件(約760mmHgの圧力)の下、110℃のストーブ内で、45分の間乾燥された。その後、5.5mlのクエン酸鉄(III)アンモニウム溶液が、炭素押出成形物にわたってスプレーされた。試料は、大気条件の下、110℃のストーブ内で一晩乾燥された。疎な粒子は、ふるいによってその後除去された。その後、含浸された球は、石英管炉(Thermolyne 21100 furnace)内で、滞留窒素ガス雰囲気で、熱処置することにより熱分解された。加熱速度は5℃/分であり、球は800℃で3時間保たれた。
【0135】
図14は、20kVの電子ビームを用いて、Philips XL30 SFEG走査型電子顕微鏡(SEM)で撮られた、製造された強磁性炭素体の断面の後方散乱画像を示している。図15は、図14で示された矢印に沿ったエネルギー分散型X線(EDX)元素分析を示しており、鉄粒子が強磁性炭素体の外部端だけに存在することを確認している。
【0136】
実施例6:クエン酸鉄(III)アンモニウム/浸漬/800℃/3時間
25gの活性炭押出成形物(JECカーボン 1.8mm SHIRASAGI C2x8/12 ヤシ殻系ペレット活性炭)が、(250gの脱塩水に300.3gのクエン酸鉄アンモニウムが溶解された)200mLのクエン酸鉄(III)アンモニウム溶液内に1分間浸漬された。試料は排水され(drained)、パッドドライされた(padded dry)。試料は、大気条件(約760mmHgの圧力)の下、110℃のストーブ内で一晩乾燥された。疎な粒子は、ふるいによってその後除去された。その後、浸漬された球は、石英管炉(Thermolyne 21100 furnace)内で、滞留窒素ガス雰囲気で、熱処理することにより熱分解された。加熱速度は5℃/分であり、球は800℃で3時間保たれた。
【0137】
図16は、20kVの電子ビームを用いて、Philips XL30 SFEG走査型電子顕微鏡(SEM)で撮られた、製造された強磁性炭素体の断面の後方散乱画像を示している。図17は、図16で示された矢印に沿ったEDX元素分析を示しており、鉄粒子が強磁性炭素体の外部端だけに存在していることを確認している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17