(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対象物を吸引するための吸引経路となる管状通路を内部に備えるシリンジ部と、前記管状通路を画定する内周壁と当接しつつ前記管状通路内を進退移動するプランジャと、を備え、
前記シリンジ部は、前記管状通路の終端に形成された開口部であって前記対象物を吸引するための吸引口を有し、
前記プランジャは、前記対象物の吸引前および前記対象物の吐出時に前記吸引口から突出され、前記対象物の吸引時に前記シリンジ部内に没入されるプランジャ先端部を有する吸引チップにおいて、
前記シリンジ部は、前記吸引口が形成される先端部であるシリンジ先端部と、該シリンジ先端部に連設されるシリンジ本体部とを備え、
前記シリンジ先端部は、第1縮径部と、該第1縮径部に連接される第2縮径部とを含み、
前記第1縮径部は、前記シリンジ本体部に接続される一端と、該一端の反対側の他端とを有し、該一端側から該他端側にかけて第1の縮径率で縮径されており、
前記第2縮径部は、前記第1縮径部の前記他端に接続される一端と、前記吸引口が形成された他端とを有し、該一端側から該他端側にかけて前記第1の縮径率よりも大きな第2の縮径率で縮径されている、吸引チップ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
<吸引チップ>
以下に、本発明の第1の実施形態の吸引チップについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の吸引チップ100の構成を説明するための断面図である。
図2は、本実施形態の吸引チップ100を装着した吸引ピペット200の概略図である。本実施形態の吸引チップ100は、細胞凝集塊(スフェロイド spheroid、対象物)を吸引する際に使用される冶具であり、吸引ピペット200のノズル部210に装着して使用される。吸引ピペット200は、吸引力を発生することのできる管状部材であり、吸引チップ100の管状通路内に吸引力を発生させることにより、吸引チップ100の管状通路の終端(第2縮径部117の他端117t、
図4参照)に形成された開口部である吸引口150から細胞凝集塊を吸引することができる。吸引チップ100は、細胞凝集塊を吸引するための吸引経路となる管状通路を内部に備えるシリンジ部110と、管状通路を画定する内周壁と当接しつつ管状通路内を進退移動するプランジャ160とを備える。
【0012】
(シリンジ部)
図3は、本実施形態のシリンジ部110の構成を説明する概略図であり、
図3(a)はシリンジ部110の側面図であり、
図3(b)はシリンジ部110の断面図である。シリンジ部110は、シリンジ基端部111と、シリンジ本体部112と、シリンジ先端部113とを含む。
【0013】
シリンジ基端部111は、吸引ピペット200のノズル部210と装着するために形成された部位であり、シリンジ大径部114とシリンジ接続部115と、膨出部140(受け部)とを含む。
【0014】
シリンジ大径部114は、略円筒状であり、ノズル部210の先端が挿入される接続口120が形成された一端114sと、シリンジ接続部115の一端115sと接続される他端114tとを有する。シリンジ大径部114の内周壁には、周状の谷部130が2箇所形成されている。これらの谷部130には、ノズル部210の外周壁に周状に形成された2箇所の山部211がそれぞれ嵌め合わされる。これにより、ノズル部210の先端にシリンジ部110が装着される。なお、谷部130の個数は特に限定されず、1箇所以上であればよい。また、谷部130の形状は特に限定されず、周状以外に螺旋状であってもよい。さらに、谷部130の深さとしては特に限定されず、ノズル部210に形成された山部211が適度に強固に装着され、吸引ピペット200に装着された吸引チップ100が容易に着脱されないような深さであればよい。このような深さとしては、たとえば0.1〜0.5mm程度に設定される。本実施形態の谷部130の深さは、約0.2mmである。なお、谷部130は省略されてもよい。
【0015】
シリンジ大径部114の長さとしては特に限定されず、装着されるノズル部210の長さ等に基づいて適宜設定される。シリンジ大径部114の長さは、たとえば4〜16mm程度に設定される。本実施形態のシリンジ大径部114の長さは、約8mmである。
【0016】
シリンジ大径部114における管状通路114pの径(シリンジ大径部114の内径)としては特に限定されず、接続口120に挿入されるノズル部210の外径等に基づいて適宜設定される。管状通路114pの径としては、たとえば1.8〜10mm程度に設定される。本実施形態の管状通路114pの径は、約3.6mmである。
【0017】
シリンジ大径部114の外径としては特に限定されず、内径と同様に、装着されるノズル部210の外径等に基づいて適宜設定される。シリンジ大径部114の外径は、たとえば2〜12mm程度に設定される。本実施形態のシリンジ大径部114の外径は、約4.2mmである。
【0018】
シリンジ接続部115は、シリンジ大径部114とシリンジ本体部112とを接続する部位であり、シリンジ大径部114の他端114tと接続される一端115sと、シリンジ本体部112の一端112sと接続される他端115tとを有する。シリンジ接続部115は、シリンジ大径部114と、該シリンジ大径部114よりも外径が小さいシリンジ本体部112とが接続されるよう、シリンジ本体部112側からシリンジ大径部114側へ外径が拡径された略円錐台の形状を備えている。
【0019】
シリンジ接続部115の長さとしては特に限定されない。シリンジ接続部115の長さは、たとえば0.9〜5mm程度に設定される。本実施形態のシリンジ接続部115の長さは、約1.8mmである。
【0020】
シリンジ接続部115の拡径の程度としては特に限定されないが、たとえば、シリンジ接続部115の長さが1.8mmの場合において、他端115tにおけるシリンジ接続部115の外径が0.7〜3mmであり、一端115sにおけるシリンジ接続部115の外径が2〜12mmとなる程度に拡径される形状を採用することができる。本実施形態では、他端115tにおけるシリンジ接続部115の外径が1.4mmであり、一端115sにおけるシリンジ接続部115の外径が4.2mmとなるよう拡径された形状が例示されている。
【0021】
また、後述するシリンジ本体部112における管状通路112pの径(シリンジ本体部112の内径)は、シリンジ大径部114における管状通路114pの径(シリンジ大径部114の内径)よりも小さい。そのため、シリンジ接続部115の管状通路115pの径は、このような径の異なる管状通路112pと管状通路114pとが連通されるよう、他端115t側から一端115s側へ拡径されている。拡径の程度としては特に限定されないが、たとえば、シリンジ接続部115の長さが1.8mmの場合において、他端115tにおける管状通路115pの径が0.2〜1.2mmであり、一端115sにおける管状通路115pの径が0.9〜11mmとなる程度に拡径される形状を採用することができる。本実施形態では、他端115tにおける管状通路115pの径が0.4mmであり、一端115sにおける管状通路115pの径が1.8mmとなるよう拡径された形状が例示されている。
【0022】
また、本実施形態の管状通路115pの形状は特に限定されない。本実施形態の管状通路115pの内周壁の周面は、細胞凝集塊の吸引前および細胞凝集塊の吐出時において後述するプランジャ160(
図1、
図6(a)参照)が最も吐出方向へ移動した際に、管状通路115pの内周壁の周面115p1と相互に接触する凸の湾曲状に形成された外周面165p1(周面が凸の湾曲状に形成された当接部)を受け入れる凹の湾曲状に形成されている(周面が当接部の周面を受け入れる凹の湾曲状に形成された受け部)。これにより、プランジャ160は、細胞凝集塊の吸引前および細胞凝集塊の吐出時に、プランジャ160が最も吐出方向へ移動した際に、管状通路115pの周面115p1とプランジャ接続部165の外周面165p1とが当接し、吐出方向へ移動するプランジャ160が当止される。その結果、後述するプランジャ先端部163は、シリンジ部110内の空気や対象物を吐出するために必要な所定の長さ分だけが吸引口150から突出され、過度に吸引口150から突出されることがない。したがって、作業効率が向上するとともに、突出したプランジャ先端部163が損傷しにくい。
【0023】
膨出部140は、シリンジ接続部115の軸方向の中心に向けて膨出するよう形成されている(シリンジ接続部の内周壁において、シリンジ接続部の軸方向の中心に向けて膨出した膨出部)。膨出部140は、細胞凝集塊の吸引前および細胞凝集塊の吐出時に、後述するプランジャ160が最も吐出方向へ移動した際に、該プランジャ160のプランジャ段差部166(
図6(b)参照)と当接する。そのため、プランジャ160は、細胞凝集塊の吸引前および細胞凝集塊の吐出時に、プランジャ160が最も吐出方向へ移動した際に、プランジャ段差部166と膨出部140とが当接し、吐出方向への移動が当止される。その結果、後述するプランジャ先端部163は、シリンジ部110内の空気や対象物を吐出するために必要な所定の長さ分だけが吸引口150から突出され、過度に吸引口150から突出されることがない。したがって、作業効率が向上するとともに、突出したプランジャ先端部163が損傷しにくい。
【0024】
膨出部140の径状および数としては特に限定されず、シリンジ接続部115の内周壁に周状に1個の膨出部140が形成されてもよく、シリンジ接続部115の内周壁において等間隔に設けられた複数の突起として当接部が形成されてもよい。本実施形態では、シリンジ接続部115の内周壁において周状に設けられた1個の膨出部140が例示されている。
【0025】
シリンジ本体部112は、シリンジ接続部115の他端115tに接続される一端112sと、第1縮径部116の一端116sに接続される他端112tとを有する。シリンジ本体部112は、直線状の部位であって、シリンジ接続部115よりも外径が小さく、一端112s側から他端112t側にかけて緩やかに縮径されている。
【0026】
シリンジ本体部112の長さ(管状通路112pの長さ)としては特に限定されず、吸引すべき容量等に基づいて適宜設定される。シリンジ本体部112の長さは、たとえば3〜130mm程度に設定される。本実施形態のシリンジ本体部112の長さは、約17mmである。
【0027】
シリンジ本体部112の縮径の程度としては特に限定されないが、たとえば、シリンジ本体部112の長さが17mmの場合において、一端112sにおける外径が0.7〜3mmであり、他端112tにおける外径が0.3〜3mmとなる程度に縮径された形状を採用することができる。本実施形態では、一端112sにおける外径が1.4mmであり、他端112tにおける外径が0.6mmとなるよう縮径された形状が例示されている。なお、シリンジ本体部112は、必ずしも縮径されている必要はなく、直線状であってもよい。
【0028】
管状通路112pは、内径が一定の円筒状管路(シリンジ本体部の内部において内径が一定の円筒状管路)である。そのため、後述するプランジャ160(
図6(a)参照)が、管状通路112p内を進退移動する際に、プランジャ本体部162の外周壁は、シリンジ本体部112の内周壁と密に当接しやすい。その結果、吸引時や吐出時に空気がより介在しにくい。したがって、吸引チップ100(
図1参照)は、効率よく正確に細胞凝集塊を吸引、吐出することができる。管状通路112pの径としては特に限定されず、吸引すべき細胞凝集塊の大きさや、吸引すべき容量、後述するプランジャ本体部162の外径等に基づいて適宜設定される。管状通路112pの径は、たとえば0.2mm〜1.2mm程度に設定される。本実施形態の管状通路112pの径は、0.4mmである。
【0029】
図4は、シリンジ先端部113の拡大された断面図である。シリンジ先端部113は、第1縮径部116と、第1縮径部116に連接される第2縮径部117とを含む。
【0030】
第1縮径部116は、シリンジ本体部112接続される一端116s(
図3(b)参照)と、該一端116sの反対側の他端116tとを有する。該他端116tには、第2縮径部117の一端117sが接続されている。第1縮径部116は、一端116s側から他端116t側にかけて第1の縮径率で縮径された略円錐台状である。
【0031】
第1縮径部116の長さとしては特に限定されず、たとえば1〜10mmに設定される。本実施形態において、第1縮径部116の長さは、約3mmである。
【0032】
第1の縮径率としては特に限定されず、たとえば、第1縮径部116の長さが3mmの場合において、一端116s側における第1縮径部116の外径が0.3〜3mmであり、他端116t側の第1縮径部116の外径が0.1〜2.8mmとなる程度に縮径される形状を採用することができる。また、第1の縮径率は、上記したシリンジ本体部112の縮径率と同じであってもよい。この場合、シリンジ本体部112と第1縮径部116とは連続的に形成される。本実施形態では、一端116s側における第1縮径部116の外径が0.6mmであり、他端116t側における第1縮径部116の外径が0.3mmとなるよう設定されている。
【0033】
第1縮径部116における管状通路116pの径としては特に限定されず、吸引すべき細胞凝集塊の大きさ等に基づいて適宜設定される。管状通路116pの径は、たとえば0.04〜1.2mm程度に設定される。本実施形態の管状通路116pの径は、一端116s側において0.4mmであり、他端116t側において0.18mmとなるよう設定されている。
【0034】
第2縮径部117は、第1縮径部116の他端116tに接続される一端117sと、吸引口150が形成される先端面151を有する他端117tとを有する。第2縮径部は、一端117s側から他端117t側にかけて第2の縮径率で縮径されている。
【0035】
第2縮径部117の長さとしては特に限定されず、たとえば0.03〜1mmに設定される。本実施形態において、第2縮径部117の長さは、約0.14mmである。
【0036】
第2の縮径率は、上記した第1の縮径率よりも大きい。このような第2の縮径率としては特に限定されず、たとえば、第2縮径部117の長さが0.14mmの場合において、一端117s側における第2縮径部117の外径が0.1〜2.8mmであり、他端117t側における第2縮径部117の外径が0.05〜2.5mmとなる程度に縮径される形状を採用することができる。本実施形態では、一端117s側における第2縮径部117の外径が0.3mmであり、他端117t側における第2縮径部117の外径が0.22mmとなるよう設定されている。
【0037】
図5は、培養ウェル(culture well)Wの保持孔H内にシリンジ先端部113が挿入された状態の模式図であり、
図5(a)は第2縮径部117が形成されたシリンジ先端部113が挿入された状態を示しており、
図5(b)は第2縮径部117が形成されていないシリンジ先端部113x(本実施形態の別例)が挿入された状態を示している。なお、
図5(a)および
図5(b)では、説明の明瞭化のため、プランジャ160(
図1参照)は省略されている。培養ウェルWは、扁平な略直方体状の容器であり、上面から下面にかけて窪んだ凹状の保持孔Hを有する。保持孔Hは、細胞凝集塊Cを含む細胞培養液Lmが貯留される。細胞凝集塊Cは、保持孔Hの底部に保持される。一般に、保持孔Hに保持された細胞凝集塊Cは、上方より挿入された吸引チップ100によって吸引される。第2縮径部117が形成されたシリンジ先端部113(
図5(a)参照)は、第2縮径部117が形成されていないシリンジ先端部113x(
図5(b)参照)と比較して、保持孔Hのより深い位置にまで吸引口150を到達させることができ、細胞凝集塊Cに吸引口150を接近させやすい。なお、
図5(b)に示されるような第2縮径部117の形成されていないシリンジ先端部113であっても、たとえば保持孔の開口の大きさを大きくしたり、保持孔の底部の形状を扁平にする等により、保持孔の深い位置にまで吸引口を接近させることができる。しかしながら、このような大きな開口が形成された保持孔は、複数の保持孔が配置された培養ウェルを作製した場合に、培養ウェルが大きくなり過ぎて、作業効率を低下させたり、省スペース化が図れない場合がある。また、保持孔の底部を扁平な形状にする場合、細胞凝集塊が所定の位置に安定に保持されにくく、吸引しにくくなる場合がある。しかしながら、本実施形態のシリンジ先端部113は、第2縮径部117が形成されており、保持孔Hの深い位置にまで吸引口150を到達させることができるため、保持孔Hの開口を大きくしたり、保持孔Hの底部を扁平な形状に変更する必要がない。その結果、細胞凝集塊Cは、吸引動作中も安定に保持されやすく、吸引されやすい。また、このような培養ウェルWは、複数の保持孔Hを形成する場合において、保持孔Hを密に配置しやすい。そのため、複数の細胞凝集塊Cを吸引する場合であっても作業効率が優れ、省スペース化を図ることができる。なお、第2縮径部117の外周面の形状は、テーパ面に限定されず、たとえば、培養ウェルWの形状に併せた湾曲面であってもよい。
【0038】
図3および
図4に戻り、第2縮径部117の形状は、上記した第2の縮径率に基づいて規定する以外に、吸引口150が形成された先端面151に対して形成されたテーパ面171の角度θによって規定することもできる。すなわち、第2縮径部117は、たとえば先端面151に対して30〜80°をなすテーパ面171が形成された部位として規定することができる。本実施形態では、第2縮径部117は、先端面に対して60°をなすテーパ面171が形成された部位として例示されている。
【0039】
第2縮径部117における管状通路117pの径としては特に限定されず、吸引すべき細胞凝集塊の大きさ等に基づいて適宜設定される。管状通路117pの径は、たとえば0.04〜1.2mm程度に設定される。本実施形態の管状通路117pの径は、0.18mmとなるよう設定されている。
【0040】
吸引口150の直径としては特に限定されず、吸引すべき細胞凝集塊の大きさに基づいて適宜設定される。たとえば細胞凝集塊の大きさが40〜200μmである場合には、吸引口150の直径は、0.04〜1.2mm程度とすることができる。本実施形態の吸引口150の直径は、0.18mm程度に設定されている。なお、後述するように細胞凝集塊が比較的柔軟な性状である場合には、細胞凝集塊の大きさよりも吸引口150の直径が小さくても、吸引時に細胞凝集塊が適宜変形されて吸引されることがある。そのため、吸引口150の直径は、必ずしも細胞凝集塊の大きさより大きく形成される必要はない。
【0041】
シリンジ部110全体の説明に戻り、シリンジ部110を構成する材料としては特に限定されず、従来の吸引チップに使用される材料(樹脂材料や金属材料)を採用することができる。たとえば、材料として、ポリプロピレンまたはポリスチレン等の樹脂やガラス等を採用することができる。これらの材料の中でも、シリンジ部110の材料として樹脂を採用することにより、シリンジ部110は、吸引ピペット200と接続する際に接続口120が適度に拡径され、吸引ピペット200のノズル部210と強固に密着されつつ接続される。また、これらの材料の中でも、後述するプランジャ160(
図6(a)参照)を構成する材料よりも剛性の高い材料を採用することが好ましい。この場合、シリンジ部110は、プランジャ160の外周壁がシリンジ部110の内周壁と当接しながら進退移動する際に、プランジャ160から加えられる応力によって揺動しにくい。具体的には、シリンジ部110は、プランジャ160の外周壁がシリンジ部110の内周壁と当接しながら進退移動する際に、先端面151の径方向における揺動が10μm以下に抑えられる。その結果、たとえば細胞凝集塊のような微小な対象物を吸引する場合であっても、細胞凝集塊と吸引口150との位置関係が保たれたまま、吸引動作が実行される。したがって、吸引チップ100は、吸引精度が向上する。本実施形態では、ポリプロピレン製のシリンジ部110が例示されている。
【0042】
また、本実施形態のシリンジ部110は、上記径および長さの管状通路が形成されているため、たとえば最大で5μL程度の細胞培養液(細胞凝集塊を含む)を吸引することができる。また、シリンジ部110の管状通路には、後述するプランジャ160が当接しながら進退移動することにより、0.01μL程度の極微量の細胞培養液を吸引することもできる。
【0043】
シリンジ部110の管壁の厚みとしては特に限定されない。本実施形態のシリンジ部の管壁の厚みは、強度や、シリンジ部内を進退移動するプランジャ160の寸法等に基づいて、たとえば50〜600μm程度に設定される。
【0044】
(プランジャ)
図6は、本実施形態のプランジャ160の構成を説明する概略図であり、
図6(a)はプランジャ160の側面図であり、
図6(b)はプランジャ160の断面図である。プランジャ160は、プランジャ基端部161と、プランジャ本体部162と、プランジャ先端部163と、プランジャ段差部166(当接部)とを含む。プランジャ本体部162は、略円筒状の第1本体部167と、該第1本体部167に連接された第2本体部168とを含む。
【0045】
プランジャ基端部161は、吸引ピペット200(
図1参照)の移動部材300と装着するために形成された部位であり、シリンジ基端部111に収容される。プランジャ基端部161は、プランジャ大径部164と、プランジャ接続部165とを含む。プランジャ160は、シリンジ部110(
図3参照)の内周壁と当接しつつ進退移動する。具体的には、プランジャ160は、第1本体部167の外周壁をシリンジ本体部112の内周壁と当接させつつ進退移動する。
【0046】
プランジャ大径部164は、シリンジ大径部114に収容される略円筒状の部材であり、吸引ピペット200のノズル部210の先端において進退移動する移動部材300の先端が挿入される接続口170が形成された一端164sと、プランジャ接続部165の一端165sに接続される他端164tとを有する。プランジャ大径部164の内周壁には、周状に谷部180が2箇所形成されている。これらの谷部180には、移動部材300の外周壁に周状に形成された2箇所の山部301がそれぞれ嵌め合わされる。これにより、移動部材300の先端にプランジャ160が装着される。なお、谷部180の個数は特に限定されず、1箇所以上であればよい。また、谷部180の形状は特に限定されず、周状以外に螺旋状であってもよい。さらに、谷部180の深さとしては特に限定されず、移動部材300に形成された山部301が適度に強固に装着され、プランジャ160が容易に着脱されないような深さであればよい。このような深さとしては、たとえば0.08〜0.5mm程度に設定される。本実施形態の谷部180の深さは、約0.15mmである。なお、谷部180は省略されてもよい。
【0047】
移動部材300は、吸引ピペット200のプッシュボタン220(
図2参照)と連動して吸引ピペット200のノズル部210の先端において進退移動する部材である。具体的には、プッシュボタン220がユーザにより押し下げられることにより、移動部材300は吸引ピペット200の先端より押し下げ方向(矢印A1方向)に移動する。一方、プッシュボタン220がユーザにより引き上げられることにより、移動部材300は吸引ピペット200の引き上げ方向(矢印A2方向)に移動する。これら移動部材300の進退移動と連動して、移動部材300に装着されたプランジャ160は、第1本体部167の外周壁をシリンジ本体部112の内周壁と当接させつつ進退移動する。
【0048】
プランジャ大径部164の長さとしては特に限定されず、装着される移動部材300の長さ等に基づいて適宜設定される。プランジャ大径部164の長さは、たとえば2.8〜12mm程度に設定される。本実施形態のプランジャ大径部164の長さは、約5.6mmである。
【0049】
プランジャ大径部164の内径としては特に限定されず、接続口170に挿入される移動部材300の外径等に基づいて適宜設定される。プランジャ大径部164における管状通路164pの径としては、たとえば0.7〜4.5mm程度に設定される。本実施形態の管状通路164pの径は、約1.45mmである。
【0050】
プランジャ大径部164の外径としては特に限定されず、内径と同様に、装着される移動部材300の外径等に基づいて適宜設定される。プランジャ大径部164の外径は、たとえば1〜7mm程度に設定される。本実施形態のプランジャ大径部164の外径は、約2.2mmである。
【0051】
プランジャ接続部165は、プランジャ大径部164とプランジャ本体部162とを接続する部位である。プランジャ接続部165は、プランジャ大径部164の他端164tと接続される一端165sと、第1本体部167の一端167sと接続される他端165tとを有する。プランジャ接続部165は、プランジャ大径部164と、該プランジャ大径部164よりも外径が小さいプランジャ本体部162とを接続するよう、他端165t側から一端165s側へ外径が拡径された略半球状である。
【0052】
プランジャ接続部165の長さとしては特に限定されない。プランジャ接続部165の長さは、たとえば1〜6mm程度に設定される。本実施形態のプランジャ接続部165の長さは、約2.1mmである。
【0053】
拡径の程度としては特に限定されず、たとえば、プランジャ接続部165の長さが2.1mmの場合において、他端165tにおけるプランジャ接続部165の外径が0.2〜0.8mmであり、一端165sにおけるプランジャ接続部165の外径が0.8〜6mmとなる程度に拡径された形状を採用することができる。本実施形態では、他端165tにおけるプランジャ接続部165の外径が0.39mmであり、一端165sにおけるプランジャ接続部165の外径が1.7mmとなるよう拡径された略半球状のプランジャ接続部165が例示されている。
【0054】
ここで、上記のとおり、本実施形態のシリンジ接続部115における管状通路115p(
図3(b)参照)は、このような略半球状のプランジャ接続部165の外周面165p1が当接する湾曲形状に形成されている。そのため、プランジャ160は、細胞凝集塊の吸引前および細胞凝集塊の吐出時において最も吐出方向へ移動した際に、管状通路115pの周面115p1とプランジャ接続部165の外周面165p1とが当接し、吐出方向への移動が制限される。
【0055】
また、上記のとおり、本実施形態におけるプランジャ大径部164の外径は、2.2mmであり、プランジャ接続部165の一端165sにおける外径は、1.7mmである。そのため、プランジャ接続部165とプランジャ大径部164との接続箇所には、プランジャ段差部166(プランジャ基端部の外周壁に形成された当接部)が形成される。さらに、上記のとおり、シリンジ部110におけるシリンジ接続部115の内周壁には、膨出部140が形成されている(
図3(b)参照)。そのため、プランジャ160は、細胞凝集塊の吸引前および細胞凝集塊の吐出時において最も吐出方向へ移動した際に、プランジャ段差部166と膨出部140とが当接し、吐出方向への移動が制限される。
【0056】
プランジャ本体部162は、プランジャ基端部161よりも外径が小さく、略棒状の部材である。プランジャ本体部162は、略円柱状の第1本体部167と、該第1本体部167に連接された第2本体部168とを含む。プランジャ本体部162は、シリンジ部110内において、主に第1本体部167の外周壁をシリンジ本体部112の内周壁と当接させながら進退移動する。
【0057】
第1本体部167は、プランジャ接続部165に接続される一端167sと、第2本体部168の一端168sに接続される他端167tとを有する。第1本体部167は、外径が一定の円柱状の部材である。そのため、第1本体部167は、プランジャ160が管状通路内を進退移動する際に、円柱状の外周壁を、上記したシリンジ本体部112の内周壁(管状通路112pの内周壁、
図3(b)参照)と密に当接しやすい。その結果、吸引時や吐出時に空気がより介在しにくい。したがって、吸引チップ100(
図1参照)は、効率よく正確に対象物を吸引、吐出することができる。
【0058】
第1本体部167の長さとしては特に限定されず、シリンジ本体部112の長さ等に基づいて適宜設定される。第1本体部167の長さは、たとえば3〜130mm程度に設定される。本実施形態の第1本体部167の長さは、約17mmである。
【0059】
第1本体部167の外径としては特に限定されず、シリンジ本体部112の内径等に基づいて適宜設定される。第1本体部167の外径は、たとえば0.2〜0.8mm程度に設定される。本実施形態の第1本体部167の外径は、約0.39mmである。なお、第1本体部167の外径は、厳密にシリンジ本体部112の内径と一致している必要はない。すなわち、第1本体部167の外径は、後述するように、吸引前にシリンジ部110内に存在する空気を略全量排出でき、吐出時に細胞凝集塊をシリンジ部110の内周壁に残存させること無く全量を吐出できる程度に当接する大きさであればよい。そのため、第1本体部167の外径は、シリンジ本体部112の内径よりもわずかに小さくなるよう設定されてもよい。
【0060】
第2本体部168は、第1本体部167の他端167tに接続される一端168sと、プランジャ先端部163の一端163sと接続される他端168tとを有する。後述するように、プランジャ先端部163の外径は、吸引口150の直径と略同じになるように設定される。また、本実施形態における吸引口150の直径は、上記のとおり、0.18mm程度である。そのため、第2本体部168は、このように径の異なる2つの部位(プランジャ先端部163および第1本体部167)を接続する部位として設けられている。
【0061】
第2本体部168の長さとしては特に限定されず、シリンジ先端部113の長さ等に基づいて適宜設定される。第2本体部168の長さは、たとえば1.2〜12mm程度に設定される。本実施形態の第2本体部168の長さは、約3.7mmである。
【0062】
第2本体部168の外径としては特に限定されず、シリンジ先端部113の内径や、後述するプランジャ先端部163の外径等に基づいて適宜設定される。第2本体部168の外径は、たとえば0.03〜2.1mm程度に設定される。本実施形態の第2本体部168の外径は、約0.17mm〜0.39mmである。なお、第2本体部168の外径は、一端168s側から他端168t側にかけて所定の縮径率で縮径されることにより、他端168tにおいて約0.17mmとなるよう縮径されてもよく、段階的に縮径されることにより他端168tにおいて約0.17mmとなるよう縮径されてもよい。本実施形態では、一端168sから他端168t側へ2.5mm離れた箇所までに外径が約0.17mmとなるよう縮径され、その箇所から他端168tまでは円筒状に形成された第2本体部168が例示されている。
【0063】
プランジャ先端部163は、第2本体部168の他端168tに接続される一端163sを有する略円筒状の部材である。プランジャ先端部163は、細胞凝集塊の吸引前および細胞凝集塊の吐出時に吸引口150から突出され、細胞凝集塊の吸引時にシリンジ部110内に没入される。
【0064】
プランジャ先端部163の長さとしては特に限定されず、細胞凝集塊の吸引前や吐出時において、空気や細胞凝集塊をシリンジ部110内から吐出するために充分な長さであればよい。プランジャ先端部163の長さは、たとえば0.6〜3.6mmに設定されている。プランジャ先端部163の長さをこのような範囲とすることにより、空気や細胞凝集塊をシリンジ部110内から吐出することができるとともに、プランジャ先端部163が吸引口150から突出されすぎないため損傷が防がれる。本実施形態では、吸引口150から0.6mm突出するプランジャ先端部163が例示されている。
【0065】
プランジャ先端部163の外径としては特に限定されず、吸引口150(
図3(a)および
図4参照)の直径に基づいて、吸引口150の直径と同程度となるよう適宜設定される。上記のとおり、吸引口150の直径は、0.04〜2.2mm程度とすることができ、本実施形態における吸引口150の直径は0.18mm程度に設定されている。したがって、プランジャ先端部163の外径は、たとえば0.03〜2.1mm程度に設定される。本実施形態のプランジャ先端部163の外径は、0.17mmである。このように、本実施形態のプランジャ先端部163の外径は、吸引口150の直径と同程度となるよう設定されているため、細胞凝集塊の吸引前や吐出時においてプランジャ先端部163を吸引口150から突出させた場合に、空気や細胞凝集塊は、シリンジ部110内に残存しにくく、略全量が吐出される。また、これら空気や細胞凝集塊は、吸引口150の周囲に付着しにくい。その結果、吸引チップ100(
図1参照)は、たとえば、引き続いて吸引チップ100が使用される場合であっても、連続して採取される試料間で試料汚染を起こしにくい。
【0066】
プランジャ160全体の説明に戻り、プランジャ160を構成する材料としては特に限定されず、たとえば、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリスチレン等の樹脂を採用することができる。これらの材料の中でも、シリンジ部110を構成する材料よりも剛性の低い材料を採用することが好ましい。本実施形態では、ポリアセタール製のプランジャ160が例示されている。
【0067】
(吸引および吐出動作)
次に、本実施形態の吸引チップ100を用いる場合の細胞凝集塊の吸引および吐出動作について説明する。本実施形態では、一例として、シャーレ等の上部が開口された容器C1に細胞培養液Lm1が貯留されており、細胞培養液Lm1中の細胞凝集塊Cを吸引し、その後吐出する動作について説明する。
図7は、本実施形態の吸引チップ100を用いて細胞凝集塊Cを吸引および吐出する際の動作を説明する模式図であり、
図7(a)は吸引前のプランジャ先端部163がシリンジ部110内に没入された状態を示しており、
図7(b)は吸引前にプランジャ先端部163が吸引口150から突出された状態を示しており、
図7(c)は吸引口150が細胞凝集塊Cに接近された状態を示しており、
図7(d)は細胞凝集塊C(細胞凝集塊Ca)が吸引されている状態を示しており、
図7(e)は細胞凝集塊C(細胞凝集塊Cb)が吐出されている状態を示している。
【0068】
吸引前の吸引チップ100は、プランジャ先端部163がシリンジ部110内に没入された状態か(
図7(a)参照)、プランジャ先端部163が吸引口150から突出された状態である(
図7(b)参照)。本実施形態の吸引チップ100は、
図7(a)に示されるようにプランジャ先端部163がシリンジ部110内に没入されている場合には、まず、プランジャ160を吐出方向(矢印A3方向)へ移動させ、プランジャ先端部163を吸引口150から突出させて
図7(b)の状態に変位させる。これにより、シリンジ本体部112の内部空間に存在していた空気が排出される。なお、
図7(a)の状態から
図7(b)の状態への変位は、空気中で行われることが好ましいが、吸引口150を細胞培養液Lm1に浸漬した状態で行われてもよい。
【0069】
次いで、
図7(c)に示されるように、吸引口150が細胞凝集塊Cへ接近される。この場合、細胞培養液Lm1中に細胞凝集塊C以外の夾雑物が含まれる場合には、吸引口150をなるべく細胞凝集塊Cに接近させることが好ましい。この際、吸引口150が細胞凝集塊Cに、より接近されるように、プランジャ先端部163を吸引方向(矢印A4方向、
図7(d)参照)へいくらか移動させてもよい。
【0070】
その後、
図7(d)に示されるように、吸引口150を細胞培養液Lm1に浸漬した状態でプランジャ160を吸引方向(矢印A4方向)へ移動させ、シリンジ本体部112内に吸引力を発生させて細胞凝集塊を管状通路112p内に吸引する。細胞凝集塊Caは、管状通路112pに吸引された細胞凝集塊を示している。この際、吸引口150は細胞培養液Lm1に浸漬されているため、シリンジ本体部112内に空気が流入することがない。また、吸引時に空気が介在しないため、プランジャ160が吸引方向へ移動することによりシリンジ本体部112内に形成される領域Arは、細胞凝集塊Caや細胞培養液Lm1によって満たされる。そのため、たとえば従来のような吸引時に空気が介在する場合と比較して、空気の膨張に伴う吸引の遅延(吸引時のレスポンスの低下)が起こらず、細胞凝集塊は、効率よく正確な量が吸引される。
【0071】
最後に、
図7(e)に示されるように、プランジャ160を吐出方向(矢印A3方向)へ移動させ、プランジャ先端部163を吸引口150から突出させて、シリンジ本体部112内に保持されていた細胞凝集塊を、別途準備された細胞保持液Lm2が貯留された容器C2に吐出する。細胞凝集塊Cbは、吐出された細胞凝集塊を示している。この際、プランジャ本体部162の外周壁はシリンジ本体部112の内周壁と当接しながら移動するため、シリンジ本体部112内に保持されていた細胞凝集塊や、該細胞凝集塊と同時に吸い上げられてシリンジ本体部112内に保持されていた細胞培養液がシリンジ本体部112内に残存することなく吐出される。また、吸引時と同様に、吐出時に空気が介在しないため、プランジャ160が吐出方向へ移動することによりシリンジ本体部112内に保持されていた細胞凝集塊や細胞培養液は、プランジャ先端部163に押し出されるように吐出される。そのため、たとえば従来のような吐出時に空気が介在する場合と比較して、空気の圧縮に伴う吐出の遅延(吐出時のレスポンスの低下)が起こらず、細胞凝集塊は、効率よく正確な量が吐出される。
【0072】
このように、本実施形態の吸引チップ100を使用して細胞凝集塊を吸引および吐出する場合には、空気が介在しないため、吸引速度や吐出速度の低下が起こりにくく、作業効率がよい。また、吸引時、吐出時ともに空気が介在せず、吸引される対象物の量は、プランジャ160が没入されることにより形成されるシリンジ部110の領域の容積と一致する。そして、この領域に吸引された細胞凝集塊は、全量が吐出される。そのため、本実施形態の吸引チップ100によれば、正確な量が吸引、吐出されやすい。さらに、吐出時には、プランジャ本体部162はシリンジ本体部112の内周壁と当接しつつ移動し、プランジャ先端部163を吸引口150から突出させる。そのため、細胞凝集塊や該細胞凝集塊と同時に吸引された細胞培養液が内周壁や吸引口150の周囲に付着して残ることがなく、全量が吐出されやすい。また、全量が吐出されるため、引き続いて吸引チップ100が使用される場合であっても、連続して採取される試料間で試料汚染を起こしにくい。さらに、たとえば吸引チップ100内に対象物を保持したまま、顕微鏡等の観察手段で細胞凝集塊を観察する場合には、管状通路内に空気が存在しないため、観察精度が向上する。
【0073】
(第2の実施形態)
<吸引チップ>
以下に、本発明の第2の実施形態の吸引チップ100aについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図8は、本実施形態の吸引チップ100aの構成を説明する概略図である。本実施形態の吸引チップ100aは、細胞凝集塊を吸引するための吸引経路となる管状通路を内部に備えるシリンジ部110aと、シリンジ部110aの内周壁と当接しつつ進退移動するプランジャ160aと、シリンジ部110aの管状通路と連通する内部通路410を備え、シリンジ部110aに装着されるホルダ部400と、プランジャ160aに装着され、ホルダ部400内を進退移動するピストン部材500とを備えることを特徴とする。また、本実施形態の吸引チップ100aは、使用状態において、シリンジ部110aが略鉛直方向に配置され、後述するホルダ後端部440が側方へ延び出す横姿勢に配置される。
【0074】
(シリンジ部)
図9は、本実施形態のシリンジ部110aの構成を説明する概略図であり、
図9(a)はシリンジ部110aの側面図であり、
図9(b)はシリンジ部110aの断面図である。シリンジ部110aは、シリンジ基端部111aと、シリンジ本体部112と、シリンジ先端部113とを含む。シリンジ基端部111aは、シリンジ大径部114aとシリンジ接続部115aとを含む。本実施形態のシリンジ部110aは、吸引口150が形成された終端(第2縮径部117の他端117t参照、
図4参照)の反対側に他端(後述するシリンジ基端部111aの一端111as参照)を有し、該他端にホルダ部400が装着されるよう構成されている以外は、第1の実施形態において上記したシリンジ部110と同様の構成を備える。そのため、第1の実施形態のシリンジ部110と重複する構成には同一の参照符号を付し、説明を適宜省略する。
【0075】
シリンジ基端部111aは、後述するホルダ先端部430に挿入される一端111asを有し、略円筒状のシリンジ大径部114aと、シリンジ接続部115とを含む。
【0076】
シリンジ大径部114aの外周壁には、周状の谷部130aが2箇所形成されている。これらの谷部130aには、ホルダ先端部430の内周壁に周状に形成された2箇所の山部431がそれぞれ嵌め合わされる。これにより、ホルダ部400にシリンジ部110aが装着される。なお、谷部130aの個数や形状、寸法は、いずれも第1の実施形態において上記したシリンジ大径部114に形成された谷部130と同様であるため説明は省略する。
【0077】
また、シリンジ部110aにおけるその他の構成は、第1の実施形態において上記したシリンジ部110と同様の構成であるため説明を省略する。
【0078】
(プランジャ)
図10は、本実施形態のプランジャ160aの構成を説明する概略図であり、
図10(a)はプランジャ160aの側面図であり、
図10(b)はプランジャ160aの断面図である。プランジャ160aは、プランジャ基端部161aと、プランジャ本体部162と、プランジャ先端部163とを含む。プランジャ基端部161aは、プランジャ大径部164aとプランジャ接続部165とを含む。本実施形態のプランジャ160aは、プランジャ先端部163とは反対側に他端(後述するプランジャ基端部の一端161as参照)を有し、該他端に後述する第1ピストン片510が装着されるよう構成されている以外は、第1の実施形態において上記したプランジャ160と同様の構成を備える。そのため、第1の実施形態のプランジャ160と重複する構成には同一の参照符号を付し、説明を適宜省略する。
【0079】
プランジャ基端部161aは、後述する第1ピストン片510の先端が挿入される接続口170aが形成された一端161asを有する。プランジャ基端部161aは、略円筒状のプランジャ大径部164aと、プランジャ接続部165とを含む。
【0080】
プランジャ大径部164aの内周壁には、周状の谷部180aが2箇所形成されている。これらの谷部180aには、第1ピストン片510の外周壁に周状に形成された2箇所の山部511がそれぞれ嵌め合わされる。これにより、ピストン部材500にプランジャ160aが装着される。なお、谷部180aの個数や形状、寸法は、いずれも第1の実施形態において上記したプランジャ大径部164に形成された谷部180と同様であるため説明は省略する。
【0081】
また、プランジャ160aにおけるその他の構成は、第1の実施形態において上記したプランジャ160と同様の構成であるため説明を省略する。
【0082】
(ホルダ部)
図8に戻り、ホルダ部400は、シリンジ部110aに装着される部材であり、シリンジ部110aの管状通路と連通する内部通路410を備える。また、ホルダ部400は、略L字状の屈曲部420と、屈曲部420よりも先端側であって先端がシリンジ部110aの上記他端(シリンジ基端部111aの一端111as)に装着されるホルダ先端部430と、屈曲部420よりも後端側であって使用状態において側方へ延び出す横姿勢に配置されるホルダ後端部440とを備える。内部通路410には、ホルダ部400内を進退移動するピストン部材500が配置される。
【0083】
屈曲部420は、ホルダ先端部430の一端430sと接続される一端420sと、ホルダ後端部440の一端440sと接続される他端420tとを有する略L字状の管路であり、その内部通路には後述する接続部材530が配置される。また、屈曲部420は、ホルダ先端部430が略鉛直状に配置される場合に、ホルダ後端部440が側方へ延びる横姿勢に配置されるよう、ホルダ先端部430に対するホルダ後端部440の形成方向を決定する。
【0084】
屈曲部420において屈曲されたホルダ先端部430とホルダ後端部440とのなす角度θ1として特に限定されず、たとえば90°以上180°未満であればよい。本実施形態では、θ1が90°の場合が例示されている。
【0085】
ホルダ先端部430は、略円筒状であり、シリンジ部110aと同様に、使用状態において略鉛直方向に配置される。ホルダ先端部430は、屈曲部420と接続される一端430sと、シリンジ大径部114aが挿入される接続口432が形成された他端430tとを有する。この接続口432からは、後述する第1ピストン片510が出没する。ホルダ先端部430の内周壁には、上記したシリンジ大径部114aの外周壁に形成された2箇所の周状の谷部130aに嵌め合わされる山部431(
図9(a)参照)が形成されている。
【0086】
ホルダ先端部430の外径としては特に限定されず、シリンジ大径部114aの外径に併せて適宜設定される。ホルダ先端部430の外径としては、たとえば3.1〜18mm程度である。本実施形態のホルダ先端部430の外径は、6.3mmである。
【0087】
ホルダ先端部430の内径としては特に限定されず、後述する第1ピストン片510の外径等に基づいて適宜設定される。ホルダ先端部430の内径は、たとえば2.1〜12.1mm程度に設定される。本実施形態では、ホルダ先端部430の内径は、4.3mmである。
【0088】
ホルダ先端部430の長さとしては特に限定されず、ホルダ先端部430の内部通路410aに後述する第1ピストン片510の少なくとも一部が収まる程度の長さであればよい。ホルダ先端部430の長さとしては、たとえば3〜12mm程度である。本実施形態のホルダ先端部430は、6mmである。
【0089】
ホルダ後端部440は、略円筒状であり、使用状態において側方へ延び出す横姿勢に配置される。ホルダ後端部440は、屈曲部420の他端420tと接続される一端440sと、ノズル部210aに挿入される他端440tとを有する。ホルダ後端部440の他端440t近傍の外周壁には、周状に形成された谷部(図示せず)が2箇所形成されている。これらの谷部には、ノズル部210aの内周壁に周状に形成された2箇所の山部がそれぞれ嵌め合わされる。これにより、ノズル部210aの先端にホルダ部400が装着される。
【0090】
ホルダ後端部440の外径としては特に限定されない。ホルダ後端部440の外径としては、たとえば3.1〜18mm程度である。本実施形態のホルダ後端部440の外径は、6.3mmである。
【0091】
ホルダ後端部440の内径としては特に限定されず、後述する第2ピストン片520の外径等に基づいて適宜設定される。ホルダ後端部440の内径は、たとえば2.1〜12.1mm程度とすることができる。本実施形態では、ホルダ後端部440の内径は、4.3mmである。
【0092】
ホルダ後端部440の長さとしては特に限定されず、ホルダ後端部440の内部通路410bに後述する第2ピストン片520の少なくとも一部が収まる程度の長さであればよい。ホルダ後端部440の長さとしては、たとえば15〜90mm程度である。本実施形態のホルダ後端部440は、30mmである。
【0093】
ホルダ部400全体の説明に戻り、ホルダ部400を構成する材料としては特に限定されず、たとえば、ポリプロピレンまたはポリスチレン等の樹脂や金属やガラス等を採用することができる。これらの材料の中でも、後述するピストン部材500を構成する材料よりも剛性の高い材料を採用することが好ましい。本実施形態のホルダ部400は、ステンレス製である。
【0094】
ホルダ部400の管壁の厚みとしては特に限定されない。本実施形態のホルダ部400の管壁の厚みは、強度や、ホルダ部400内を進退移動するピストン部材500の寸法等に基づいて、たとえば50〜1000μm程度に設定される。
【0095】
(ピストン部材)
ピストン部材500は、プランジャ大径部164aの接続口170aに挿入されることによりプランジャ160aに装着される部材であり、ホルダ部400内を進退移動する。より具体的には、ピストン部材500は、ホルダ先端部430の内部通路410aに配置される第1ピストン片510と、ホルダ後端部440の内部通路410bに配置される第2ピストン片520と、第1ピストン片510および第2ピストン片520とを接続する接続部材530とを含む。
【0096】
第1ピストン片510は、略円柱状であり、接続部材530に接続される一端510sと、プランジャ大径部164aの接続口170aに挿入される他端510tとを有する。第1ピストン片510は、内部通路410a内を進退移動する。これにより、第1ピストン片510が挿入されたプランジャ160aがシリンジ部110a内を進退移動する。
【0097】
第1ピストン片510の外径としては特に限定されず、ホルダ先端部430の内径よりも小さければよい。第1ピストン片510の外径としては、たとえば0.65〜4.45mm程度である。本実施形態の第1ピストン片510の外径は、1.4mmである。
【0098】
第1ピストン片510の長さとしては特に限定されず、第1ピストン片510が接続されたプランジャ160aが、細胞凝集塊を吸引および吐出するために充分な距離を進退移動できるよう、ホルダ先端部430の長さよりも短ければよい。第1ピストン片510の長さとしては、2.5〜10mm程度である。本実施形態の第1ピストン片510の長さは、5mmである。
【0099】
第1ピストン片510を構成する材料としては特に限定されず、たとえば、ポリプロピレンまたはポリスチレン等の樹脂やガラス、金属等を採用することができる。これらの材料の中でも、樹脂を採用することにより、第1ピストン片510は、プランジャ大径部164aと接続される際に適度に変形され、プランジャ160aと強固に密着されつつ接続される。
【0100】
第2ピストン片520は、略円柱状であり、接続部材530に接続される一端520sと、吸引ピペット200aの移動部材300aに接続される他端520tとを有する。具体的には、第2ピストン片520の他端520t近傍の外周壁には2箇所の山部(図示せず)が周状に形成されており、移動部材300aの先端に形成された凹部(図示せず)の内周壁には2箇所の谷部が形成されている。第2ピストン片520は、山部が移動部材300aの谷部に嵌め合わされることにより移動部材300aと接続される。移動部材300aは、吸引ピペット200aのプッシュボタン(図示せず)と連動してノズル部210aの先端において進退移動する。移動部材300aの進退移動と連動して、第2ピストン片520は、ホルダ後端部440の内部通路410b内を進退移動する。第2ピストン片520は、後述する接続部材530により第1ピストン片510と接続されており、上記のとおり第1ピストン片510はプランジャ160aと接続されている。その結果、移動部材300aの進退移動に伴って、プランジャ160aは、シリンジ部110a内を進退移動する。なお、移動部材300aの進退移動は、ユーザが操作してもよく、外部に設けたアクチュエータ(図示せず)により制御されてもよい。
【0101】
第2ピストン片520の外径としては特に限定されず、ホルダ後端部440の内径よりも小さければよい。第2ピストン片520の外径としては、たとえば2.5〜10mm程度である。本実施形態の第2ピストン片520の外径は、5mmである。
【0102】
第2ピストン片520の長さとしては特に限定されず、第2ピストン片520が接続部材530を介して接続された第1ピストン片510、および第1ピストン片510が接続されたプランジャ160aが、細胞凝集塊を吸引および吐出するために充分な距離を進退移動できるよう、ホルダ後端部440の長さよりも短ければよい。第2ピストン片520の長さとしては、14〜78mm程度である。本実施形態の第2ピストン片520の長さは、28mmである。
【0103】
第2ピストン片520を構成する材料としては特に限定されず、たとえば、ポリプロピレンまたはポリスチレン等の樹脂やガラス、金属等を採用することができる。これらの材料の中でも、樹脂を採用することにより、第2ピストン片520は、移動部材300aと接続される際に適度に変形され、移動部材300aと強固に密着されつつ接続される。
【0104】
接続部材530は、剛性の高いワイヤー状の部材であり、第1ピストン片510と接続される一端530sと、第2ピストン片520と接続される他端530tとを有する。接続部材530により接続された第1ピストン片510と第2ピストン片520とは、互いの離間距離が維持される。すなわち、接続部材530は、第2ピストン片520の進退移動を、第1ピストン片510の進退移動に変換する機能を有する。具体的には、吸引ピペット200aの移動部材300aが進退移動することにより第2ピストン片520がホルダ後端部440の内部通路410b内を進退移動する場合、接続部材530により第2ピストン片520と接続された第1ピストン片510は、第2ピストン片520の進退移動と連動して、ホルダ先端部430の内部通路410a内を同距離だけ進退移動する。その結果、第1ピストン片510が接続されたプランジャ160aも同距離だけシリンジ部110a内を進退移動する。これにより、第1の実施形態において上記したと同様に、ノズル部210aにおける移動部材300aの進退移動は、プランジャ160aに伝えられる。
【0105】
接続部材530を構成する材料としては特に限定されず、第2ピストン片520の進退移動を第1ピストン片510に正確に伝達することのできる程度の剛性を備える材料であればよい。このような材料としては、たとえば、鉄線、ピアノ線、スプリング線、ステンレス線、樹脂線が挙げられる。本実施形態の接続部材530は、ピアノ線からなる。また、接続部材530は、ワイヤー状以外に、バネ状に形成されていてもよい。
【0106】
接続部材530の外径(太さ)としては特に限定されず、第2ピストン片520の進退移動を第1ピストン片510に正確に伝達することのできる程度の剛性を発揮できる太さであればよい。このような太さとしては、材料にもよるが、たとえば、0.2〜3mmである。本実施形態の接続部材530の太さは、0.5mmである。
【0107】
以上、本実施形態の吸引チップ100aは、シリンジ部110aとプランジャ160aとを、これらホルダ部400とピストン部材500とを介して、吸引ピペット200aに接続することができる。その結果、吸引チップ100aを汎用の吸引ピペットに直接接続する場合と比べて、装置レイアウト等の自由度が増す。また、本実施形態の吸引チップ100aは、使用状態においてシリンジ部110aが鉛直方向に配置され、かつ、ホルダ後端部440が側方へ延び出す横姿勢に配置される。このような場合であっても、本実施形態の吸引チップ100aは、吸引ピペット200aの移動部材300aの進退移動をプランジャ160aに伝えることができる。そのため、このような吸引ピペット200aは、たとえば吸引装置のその他の構成部品の配置について自由度を拡げ、ユーザがより操作しやすい装置設計を行うことができる。以下、本実施形態の吸引チップ100aを応用した吸引装置の一例について説明する。
【0108】
<吸引装置>
図11は、吸引チップ100bを用いた吸引装置600の構成を説明する模式図である。吸引装置600は、吸引される細胞凝集塊を保持する保持孔611を備える培養ウェル610が載置されるステージ620と、ステージ620に載置される培養ウェル610から上方に離間して配置され、保持孔611に保持される細胞凝集塊に対して上方より照射光を照射するコンデンサ630(照射手段)と、ステージ620に載置される培養ウェル610の下方に配置され、保持孔611に保持される細胞凝集塊を下方より観察する撮像装置640(観察手段)と、保持孔611に保持される細胞凝集塊を吸引するための吸引チップ100bと、吸引のための吸引力を発生させる吸引ピペット200bと、吸引ピペット200bを上下に移動させる移動装置650(駆動手段)とを備える。なお、コンデンサ630および撮像装置640は、それぞれ倒立位相差顕微鏡の照明系および撮像系を構成する装置である。また、吸引チップ100bは、屈曲部420aにおいて、ホルダ先端部430aとホルダ後端部440aとのなす角度は110°に設定されている以外は、第2の実施形態において上記した吸引チップ100a(
図8参照)と同様の構成である。そのため、重複する構成については同一の参照符号を付し、説明を適宜省略する。
【0109】
培養ウェル610は、上面と下面とを有する扁平な略直方体の形状を有し、上面から下面に向けて窪んだ凹状の保持孔611が、縦8個×横6個のマトリクス状に配列されている。
【0110】
培養ウェル610の形状は特に限定されない。培養ウェル610は、後述するステージ620に載置しやすく、かつ、保持孔611に保持された細胞凝集塊を観察する際に撮像装置640が備える光学レンズ系の焦点を合わせ易い点から、扁平な形状であることが好ましい。
【0111】
培養ウェル610の幅は特に限定されず、ステージ620に載置できる幅であればよい。本実施形態では、縦15cm×横36cmの水平な略矩形状の上面を有するステージ620に、下面の寸法が縦8.6cm×横12.8cmの略直方体形状の培養ウェル610が載置されている。
【0112】
培養ウェル610の材質としては特に限定されないが、細胞凝集塊の形状を容易に確認することが可能である点から、透光性材料を採用することが好ましい。透光性材料としては特に限定されないが、たとえば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を採用することが好ましい。より具体的には、透光性材料として、ポリエチレン樹脂;ポリエチレンナフタレート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;シクロオレフィンコポリマー;含ノルボルネン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリエチレンナフタレート樹脂;セロファン;芳香族ポリアミド樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂;ポリ乳酸等が挙げられる。また、無機系材料、たとえば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー、金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合してなる溶液またはこれらの組み合わせを固化した無機系材料、たとえばシロキサン結合を有する無機系材料(ポリジメチルシロキサンなど)やガラスを用いることが好ましい。ガラスとしては、ソーダガラス、石英、ホウケイ酸ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、低融点ガラス、感光性ガラス、その他種々の屈折率およびアッベ数を有する光学ガラスを広く用いることができる。
【0113】
保持孔611の個数としては特に限定されず、1個が培養ウェル610に形成されていてもよく、複数の保持孔611が配列されていてもよい。複数の保持孔611が配列される場合には、マトリクス状に配列されることが好ましい。このように複数の保持孔611を配列することにより、複数の細胞凝集塊が同時にそれぞれの保持孔611に保持されるため、作業効率が向上する。
【0114】
保持孔611の大きさ(開口部の径)としては特に限定されず、回収対象とする細胞凝集塊の少なくとも一部を保持できる大きさであればよい。保持孔611の深さとしては特に限定されず、細胞凝集塊を保持し得る深さであればよい。本実施形態では、開口部の直径が9mm、深さが11mmの保持孔611が例示されている。
【0115】
ステージ620は、培養ウェル610を保持する矩形状ホルダ(図示せず)を備える水平な扁平な板状の架台である。ステージ620には、手動または自動により培養ウェル610を前後、左右へ移動するための位置調整機構(図示せず)が備えられている。当該位置調整機構により、ステージ620に載置された培養ウェル610は、吸引対象となる細胞凝集塊が保持された保持孔611の上方に後述するコンデンサ630が配置され、下方に後述する撮像装置640が配置されるよう位置が調整される。これにより、コンデンサ630の光源からの照射光は、吸引対象となる細胞凝集塊を保持する保持孔611の上方より照射され、下方の撮像装置640に入射する。
【0116】
コンデンサ630(照射手段)は、ステージ620に載置される培養ウェル610の上方に、培養ウェル610と離間して配置され、保持孔611に保持される細胞凝集塊に対して上方より照射光を照射するために設けられている。コンデンサ630は、略円筒状の筐体を備え、該筐体内に図示しない光源(ハロゲンランプ(6V30W))、コレクターレンズ、リングスリット、開口絞りおよびコンデンサレンズを含む。光源としては特に限定されず、ハロゲンランプ以外にも、たとえば、タングステンランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、発光ダイオード(LED)等を使用することが可能である。リングスリットは、円環状の孔の開いた遮光板であり、コンデンサ630の開口絞りの位置に組み込まれている。コンデンサ630内の光源より照射された照射光は、コレクターレンズ、リングスリットの孔、開口絞り、コンデンサレンズを通過し、保持孔611に保持された細胞凝集塊に照射され、その後、撮像装置640に入射する。
【0117】
撮像装置640(観察手段)は、ステージ620に載置される培養ウェル610の下方に配置され、保持孔611に保持された細胞凝集塊を下方より観察するために設けられている。撮像装置640は、図示しない位相差用対物レンズ、対物レンズの射出絞り(レンズ光学系)、位相板、接眼レンズの視野絞り、接眼レンズ、撮像素子であるCCD(電荷結合素子 Charge Coupled Device)イメージセンサ、画像処理部および表示装置641を備える。位相板は、リング状の半透明の板状体であり、通過する光の強度を減弱させ、位相を1/4だけ遅らせる。CCDイメージセンサは、受光面に形成された光像を電気的な画像データ信号に変換する。画像処理部は、必要に応じて画像データにガンマ補正やシェーディング補正などの画像処理を施す。表示装置641は、画像処理後の画像データを表示する。ユーザは、表示装置641に表示された画像を観察する。細胞凝集塊によって回折された照射光は、位相差用対物レンズに入射され、結像される。このとき、大部分の照射光は位相板以外を通るため、その位相は1/4波長遅れたままとなる。直接光と回折光とが同じ位相になり、干渉により強め合う結果、細胞凝集塊が明るく観察される。
【0118】
本実施形態において、コンデンサ630および撮像装置640の各構成部品の配置は、ケーラー照明系となるよう調整される。すなわち、照射光に関して、光源、開口絞り、対物レンズの射出絞りが共役点に配置されており、標本の像に関して、視野絞り、細胞凝集塊(試料)、接眼レンズの視野絞り、CCDイメージセンサの受光面が共役点になるよう配置される。ケーラー照明系では、光源の像を開口絞り位置につくり、視野絞りの像を標本面につくることにより、標本である細胞凝集塊をムラなく明るく照明する。また、視野絞りと開口絞りを独立して機能させることができるため、標本面の光の量や範囲を調整できる。
【0119】
吸引ピペット200bは、吸引力を発生できる管状部材であり、保持孔611に保持された細胞凝集塊を吸引するための吸引チップ100bが接続される。吸引ピペット200bが吸引力を発生すると、吸引チップ100bの管状通路に吸引力が発生され、吸引口150から細胞凝集塊が吸引されて回収される。吸引ピペット200bは、後述する移動装置650に接続して使用され、移動装置650により駆動が制御され、上下移動される。
【0120】
吸引チップ100bは、上記のとおり、使用状態において、シリンジ部110aおよびホルダ先端部430aが略鉛直方向に配置され、ホルダ後端部440aが側方へ延び出す横姿勢に配置される。そのため、上記したコンデンサ630および撮像装置640の各構成部品の配置が、ケーラー照明系となるよう調整される場合において、これらの配置を維持しつつ、コンデンサ630と培養ウェル610との間に吸引チップ100bのシリンジ部110aとホルダ先端部430aとを配置することができる。その結果、移動装置650をコンデンサ630からの照射光を遮る位置に配置することなく、培養ウェル610の斜め上方に配置することができるとともに、コンデンサ630と培養ウェル610との間の間隙に吸引チップ100bのシリンジ部110aとホルダ先端部430aとを配置させることができる。なお、コンデンサ630と培養ウェル610との間の間隙に吸引チップ100bを進入させる方法としては特に限定されず、たとえばステージ620を前後、左右方向に移動させる方法を採用することができる。
【0121】
移動装置650は、吸引ピペット200bを横姿勢で接続でき、接続した吸引ピペット200bを横姿勢を維持した状態で上下移動させるための装置であり、ステージ620の斜め上方に配置される。移動装置650は、吸引ピペット200bが接続された本体部651と、本体部651が走行するガイド部652とを備える。本体部651は、略直方体形状の筐体内に、本体部651を上下方向に移動させることにより吸引ピペット200bを上下移動させるモータ(図示せず)と、該モータを制御するコントローラ(図示せず)と、吸引ピペット200bの移動部材(図示せず)を進退移動させるシリンジポンプ(図示せず)を備える。本体部651の筐体の外側には、シリンジポンプにより吸引力が発生される吸引口であって吸引ピペット200bと接続される接続口(図示せず)が形成されている。ガイド部652には直線歯車(ラック)が設けられており、本体部651には、円形歯車(ピニオン)が設けられている。コントローラにより制御されたモータが駆動することにより、本体部651はガイド部652を走行する。なお、モータは、本体部651を上下移動させる以外に、たとえば撮像装置640の対物レンズの被写界深度内に吸引チップ100bの吸引口150が捉えられるよう本体部651を前後、左右方向にも移動させて、吸引装置600の較正(キャリブレーション)を行うことができる。較正は、吸引チップ100bの交換時や、装置立ち上げ時等に適宜行われる。
【0122】
本体部651の下方向への移動により、細胞凝集塊が保持された保持孔611に、吸引チップのシリンジ部110aが下方向へ挿入されて、吸引口150が細胞凝集塊に近づけられる。細胞凝集塊の位置と吸引口150の位置とは撮像装置640の表示装置641に表示されるため、吸引口150は、位置が確認されながら正確に細胞凝集塊に近づけられる。コンデンサ630からの照射光は、シリンジ部110aとホルダ先端部430a以外に遮られることがないため、細胞凝集塊は充分な照射光の下で観察される。その後、吸引ピペット200bにより吸引チップ100bの管状通路内に吸引力が発生されると、細胞凝集塊は管状通路内に吸引され回収される。この際、表示装置641には、保持孔611の状況(細胞凝集塊の有無)が表示されるため、回収の成否が容易に判別できる。表示装置641により保持孔611に細胞凝集塊が存在しないことが確認された後、本体部651の上方向への移動により、シリンジ部110aの先端が上方向に移動され、保持孔611から吸引口150を含むシリンジ先端部113が引き上げられる。管状通路内に回収された細胞凝集塊は、培養ウェル610と同じステージ620上に隣接された回収用プレート(図示せず)に吐出される。また、回収用プレートに吐出された細胞凝集塊を観察するために、撮像装置640は、適宜前後、左右方向に移動される。さらに、撮像装置640の対物レンズは、回収用プレートに吐出された細胞凝集塊を被写界深度内に捉えるために、適宜上下方向に移動され、焦点が合わされる。
【0123】
以上、本実施形態の吸引装置600によれば、吸引チップ100bのホルダ部400は略L字状の屈曲部420aを備えるため、シリンジ部110aを移動装置650により保持孔611へ略鉛直方向から挿入されるよう保持孔611の略真上に配置することができる。そのため、移動装置650は、鉛直方向にシリンジ部110aを移動させることにより、鉛直方向から細胞凝集塊に吸引口150を近づけることができる。この際、吸引チップ100bのホルダ後端部440aは、コンデンサ630と培養ウェル610との間の間隙から側方に延び出して横姿勢となるよう配置される。そのため、吸引チップ100bを、同じく横姿勢となるよう配置された吸引ピペット200bと接続し、該吸引ピペット200bを移動装置650と接続することにより、移動装置650を、コンデンサ630からの照射光を遮る位置ではなく、コンデンサ630から照射される照射光を遮らない位置(たとえばステージ620の斜め上方)に配置することができる。その結果、細胞凝集塊は、充分な照射光の下で撮像装置640により観察される。したがって、本実施形態の吸引チップ100bを用いた吸引装置600によれば、充分な照射光の下で撮像装置640により細胞凝集塊を観察しながら、コンデンサ630から照射される照射光を遮らない位置に配置された移動装置650によりシリンジ部110aを下方向に移動させ、吸引口150を正確に細胞凝集塊に接近させて回収することができる。
【0124】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば次のような変形実施形態を採用することができる。
【0125】
(1)上記実施形態では、吸引チップにより吸引される対象物として細胞凝集塊を例示した。本発明は、これに代えて液体や液体中に保持される物体を対象物としてもよい。液体としては特に限定されず、たとえばマトリゲル(BD社製)、セルマトリックス(新田ゼラチン(株)製)、コラーゲンのような粘性の高い液体であってもよい。また、液体中に保持される物体としては、細胞凝集塊以外にも、たとえばiPS細胞やES細胞のコロニー、スフェロイド、オルガノイド、単一の細胞であってもよい。これらいずれを対象物とする場合であっても、上記のとおり、本発明の吸引チップによれば、吸引または吐出時における空気の影響を排除することができるため、吸引速度や吐出速度の低下が起こりにくく、作業効率がよい。また、吸引時、吐出時ともに空気が介在せず、吸引される対象物の量は、プランジャが没入されることにより形成されるシリンジ部の内部領域の容積と一致する。そして、この内部領域に吸引された対象物は、全量が吐出される。そのため、本発明の吸引チップによれば、正確な量が吸引、吐出されやすい。さらに、吐出時には、プランジャの外周壁はシリンジ部の内周壁と当接しつつ移動し、プランジャ先端部を吸引口から突出させる。そのため、対象物が内周壁や吸引口の周囲に付着して残ることがなく、全量が吐出されやすい。
【0126】
なお、本発明では、生体由来の細胞を対象物とすることが好ましく、生体由来の細胞凝集塊を対象物とすることがより好ましい。すなわち、従来の吸引チップを使用する場合、細胞を吸引または吐出する際に空気が介在するため、管状通路の内周壁や吸引口の周囲等に細胞が付着して残りやすい。しかしながら、本発明の吸引チップでは、吸引前に、プランジャにより、シリンジ部の管状通路から空気が排出される。また、吸引時にプランジャ先端部がシリンジ部内に没入されるとともに、空気の排出された管状通路内に細胞が吸引されるため、吸引時、吐出時ともに空気が介在しない。そのため、吸引時には細胞が内周壁や吸引口の周囲に付着して残ることがなく、全量が吐出されやすい。その結果、細胞が正確に計量され、各種実験等において信頼性の高い結果が得られる。
【0127】
また、生体由来の細胞凝集塊は、1個の細胞を用いて得た試験結果よりも、細胞凝集塊の内部に各細胞間の相互作用を考慮した生体類似環境が再構築されており、個々の細胞の機能を考慮した結果が得られ、かつ、実験条件を、より生体内における環境に即した条件に揃えることができるため、再生医療分野や抗がん剤等の医薬品の開発分野において重要とされている。細胞凝集塊の具体例としては、たとえば、BxPC−3(ヒト膵臓腺癌細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等が挙げられる。一般にこのような細胞凝集塊は、個々の細胞が数個〜数十万個凝集して形成されている。本発明の吸引チップでは、吸引前に、プランジャにより、シリンジ部の管状通路から空気が排出される。また、吸引時にプランジャ先端部がシリンジ部内に没入されるとともに、空気の排出された管状通路内に細胞凝集塊が吸引されるため、吸引時、吐出時ともに空気が介在しない。そのため、吸引時には細胞凝集塊が内周壁や吸引口の周囲に付着して残ることがなく、全量が吐出されやすい。その結果、細胞凝集塊が正確に計量されるため、バイオ関連技術や医薬の分野(再生医療分野や抗がん剤等の医薬品の開発分野を含む)において信頼性の高い結果が得られる。
【0128】
(2)上記実施形態では、細胞凝集塊が細胞培養液に保持される場合を例示した。これに代えて、本発明の吸引チップを用いた吸引装置は、細胞凝集塊を保持する液体として、細胞凝集塊の性状を劣化させないものを適宜使用することができる。代表的な液体としては、たとえば基本培地、合成培地、イーグル培地、RPMI培地、フィッシャー培地、ハム培地、MCDB培地、血清などの培地のほか、冷凍保存前に添加するグリセロール、セルバンカー(十慈フィールド(株)製)等の細胞凍結液、ホルマリン、蛍光染色のための試薬、抗体、精製水、生理食塩水などを挙げることができる。また、細胞凝集塊に合わせた培養保存液を用いることができる。たとえば、細胞凝集塊がBxPC−3(ヒト膵臓腺癌細胞)である場合には、RPMI−1640培地に牛胎児血清FBS(Fetal Bovine Serum)を10%混ぜたものに、必要に応じて抗生物質、ピルビン酸ナトリウムなどのサプリメントを添加したものを用いることができる。
【0129】
(3)上記実施形態では、シリンジ大径部とシリンジ本体部がシリンジ接続部により接続され、プランジャ大径部とプランジャ接続部とがプランジャ接続部により接続される場合を例示した。これに代えて、本発明の吸引チップは、シリンジ接続部およびプランジャ接続部をそれぞれ省略してもよい。シリンジ接続部が省略される場合、シリンジ大径部とシリンジ本体部とが直接接続される。この際、管状通路は、シリンジ大径部内において拡径され、適宜当接部が形成されればよい。また、プランジャ接続部が省略される場合、プランジャ大径部とプランジャ本体部とが直接接続される。この際、プランジャ本体部とプランジャ大径部との接続箇所が、プランジャ段差部として機能する。プランジャ段差部は、対象物の吸引前や吐出時にプランジャが最も吐出方向に移動した際に、シリンジ大径部内に形成された当接部と当接するよう構成してもよい。
【0130】
(4)上記実施形態では、対象物の吸引前や吐出時にプランジャが最も吐出方向へ移動した際に、2つの当接機構を採用してプランジャの移動を制限する場合を例示した。具体的には、上記実施形態では、プランジャ接続部の外周面とシリンジ接続部の管状通路の内周面が当接する当接機構と、プランジャ段差部とシリンジ接続部の内周壁に形成された膨出部とが当接する当接機構とにより、プランジャの移動が制限される場合を例示した。本発明は、これに代えて、いずれか一方の当接機構を採用してもよく、両方の当接機構が省略されてもよい。
【0131】
(5)上記した実施形態では、部材間を嵌め合わせるために一方の部材(たとえばシリンジ大径部の内周壁)に谷部を形成し、他方の部材(たとえは吸引ピペットのノズル部の外周壁)に山部を形成する場合を例示した。本発明は、これに代えて、谷部および山部を設ける部材をそれぞれ逆にしてもよく、谷部および山部を省略してもよい。また、本発明は、山部や谷部を設ける代わりに、汎用の吸引チップを吸引ピペットに嵌め合う場合のように一方の部材の周面にテーパ加工を施し、他の部材を嵌め合せて接続してもよい。
【0132】
上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0133】
本発明の一局面による吸引チップは、対象物を吸引するための吸引経路となる管状通路を内部に備えるシリンジ部と、前記管状通路を画定する内周壁と当接しつつ前記管状通路内を進退移動するプランジャと、を備え、前記シリンジ部は、前記管状通路の終端に形成された開口部であって前記対象物を吸引するための吸引口を有し、前記プランジャは、前記対象物の吸引前および前記対象物の吐出時に前記吸引口から突出され、前記対象物の吸引時に前記シリンジ部内に没入されるプランジャ先端部を有することを特徴とする。
【0134】
このように、本発明の吸引チップは、対象物を吸引するための吸引経路となる管状通路を内部に備えるシリンジ部と、管状通路を画定する内周壁と当接しつつ管状通路内を進退移動するプランジャと、を備える。また、プランジャは、対象物の吸引前または対象物の吐出時に吸引口から突出され、対象物の吸引時にシリンジ部内に没入されるプランジャ先端部を有する。そのため、吸引前に、プランジャにより、シリンジ部の管状通路から空気が排出される。また、吸引時にプランジャ先端部がシリンジ部内に没入されるとともに、空気の排出された管状通路内に対象物が吸引されるため、吸引時、吐出時ともに空気が介在しない。そのため、吸引速度や吐出速度の低下が起こりにくく、作業効率がよい。また、吸引時、吐出時ともに空気が介在せず、吸引される対象物の量は、プランジャが没入されることにより形成されるシリンジ部内の受入領域の容積と一致する。そして、この受入領域に吸引された対象物は、全量が吐出される。そのため、本発明の吸引チップによれば、正確な量が吸引、吐出されやすい。さらに、吐出時には、プランジャはシリンジ部の内周壁と当接しつつ移動し、プランジャ先端部を吸引口から突出させる。そのため、対象物が内周壁や吸引口の周囲に付着して残ることがなく、全量が吐出されやすい。また、全量が吐出されるため、引き続いて吸引チップが使用される場合であっても、連続して採取される試料間で試料汚染を起こしにくい。さらに、たとえば吸引チップ内に対象物を保持したまま、顕微鏡等の観察手段で対象物を観察する場合には、管状通路内には空気が存在しないため、観察精度が向上する。
【0135】
上記構成において、前記シリンジ部は、前記プランジャよりも剛性の高い材料からなることが好ましい。
【0136】
このような構成によれば、シリンジ部は、プランジャよりも剛性の高い材料からなる。そのため、シリンジ部は、プランジャがシリンジ部の内周壁と当接しながら進退移動する際に、プランジャから加えられる応力によって揺動しにくい。その結果、たとえば細胞等の微小な対象物を吸引する場合であっても、対象物と吸引口との位置関係が保たれたまま、吸引動作が実行される。したがって、吸引チップは、吸引精度が向上する。
【0137】
上記構成において、前記シリンジ部は、シリンジ基端部と、シリンジ本体部とを有し、前記シリンジ本体部は、直線状であって、前記シリンジ基端部に接続される一端と、該一端とは反対側に設けられた他端とを有し、前記一端側から前記他端側にかけて外径が縮径されており、前記プランジャは、プランジャ基端部と、プランジャ本体部とを有し、前記プランジャ基端部は、前記シリンジ基端部に収容され、前記プランジャ本体部は、前記プランジャ基端部に接続される一端と、該一端とは反対側に形成される他端とを有し、前記管状通路は、前記シリンジ本体部の内部において内径が一定の円筒状管路であり、前記プランジャ本体部は、外径が一定の円柱状であり、円柱状の周壁を前記シリンジ本体部の内周壁と当接させつつ、前記プランジャ本体部における前記管状通路内を進退移動する第1本体部を含むことが好ましい。
【0138】
このような構成によれば、シリンジ本体部は、一端側から他端側にかけて外径が縮径された直線状であるため、狭隘な場所に対象物が保持されている場合であっても、該対象物に吸引口を接近させやすい。また、管状通路は、シリンジ本体部の内部において内径が一定の円筒状管路である。さらに、プランジャ本体部は、外径が一定の円柱状であり、円柱状の周壁をシリンジ本体部の内周壁と当接させつつ、プランジャ本体部における管状通路内を進退移動する第1本体部を含む。そのため、プランジャは、管状通路内を進退移動する際に、第1本体部の円柱状の外周壁をシリンジ本体部の内周壁と密に当接させやすい。その結果、吸引時や吐出時に空気がより介在しにくい。したがって、吸引チップは、効率よく正確に対象物を吸引、吐出することができる。
【0139】
上記構成において、前記シリンジ部は、シリンジ先端部をさらに有し、前記シリンジ先端部は、第1縮径部と、該第1縮径部に連接される第2縮径部とを備え、前記第1縮径部は、前記シリンジ本体部に接続される一端と、該一端の反対側の他端とを有し、該一端側から該他端側にかけて第1の縮径率で縮径されており、前記第2縮径部は、前記第1縮径部の前記他端に接続される一端と、前記吸引口が形成された他端とを有し、該一端側から該他端側にかけて前記第1の縮径率よりも大きな第2の縮径率で縮径されていることが好ましい。
【0140】
このような構成によれば、シリンジ部は、シリンジ先端部をさらに有する。シリンジ先端部は、第1縮径部と、該第1縮径部に連接される第2縮径部とを備える。第1縮径部は、シリンジ本体部に接続される一端と、該一端の反対側の他端とを有し、該一端側から該他端側にかけて第1の縮径率で縮径されている。第2縮径部は、第1縮径部の他端に接続される一端と、吸引口が形成された他端とを有し、該一端側から該他端側にかけて第1の縮径率よりも大きな第2の縮径率で縮径されている。そのため、吸引チップは、たとえばウェル(培養ウェル culture well)の微小な保持孔等の狭隘な空間に対象物が保持されている場合であっても、保持孔に第2縮径部を深く進入させて、吸引口を対象物に接近させやすい。
【0141】
上記構成において、前記シリンジ基端部は、該シリンジ基端部の内周壁に形成された受け部を有し、前記プランジャ基端部は、該プランジャ基端部の外周壁に形成された当接部を有し、前記受け部は、前記対象物の吸引前および前記対象物の吐出時において、前記プランジャが前記管状通路内を移動して前記プランジャ先端部が前記吸引口から突出された際に、前記当接部に当止されることが好ましい。
【0142】
このような構成によれば、シリンジ基端部は、該シリンジ基端部の内周壁に形成された受け部を有し、プランジャ基端部は、該プランジャ基端部の外周壁に形成された当接部を有する。受け部は、対象物の吸引前および対象物の吐出時において、プランジャが管状通路内を移動してプランジャ先端部が吸引口から突出された際に、当接部に当止される。そのため、プランジャ先端部は、シリンジ部内の空気や対象物を吐出するために必要な所定の長さ分だけが吸引口から突出され、過度に吸引口から突出されることがない。したがって、作業効率が向上するとともに、突出したプランジャ先端部が損傷しにくい。
【0143】
上記構成において、前記シリンジ基端部は、円筒状のシリンジ大径部と、該シリンジ大径部と前記シリンジ本体部とを接続するシリンジ接続部と、前記シリンジ接続部の内周壁に形成された前記受け部とを含み、前記プランジャ基端部は、前記シリンジ大径部に収容される円筒状のプランジャ大径部と、該プランジャ大径部と前記プランジャ本体部とを接続するプランジャ接続部と、前記当接部とを含み、前記当接部は、前記プランジャ大径部と前記プランジャ接続部との接続位置に形成されたプランジャ段差部であり、前記受け部は、前記シリンジ接続部の内周壁において、該シリンジ接続部の軸方向の中心に向けて膨出した膨出部であることが好ましい。
【0144】
このような構成によれば、当接部は、プランジャ大径部とプランジャ接続部との接続位置に形成されたプランジャ段差部であり、受け部は、シリンジ接続部の内周壁において、該シリンジ接続部の軸方向の中心に向けて膨出した膨出部である。そのため、プランジャは、対象物の吸引前および対象物の吐出時に、吐出方向へ移動された際に、プランジャ段差部と膨出部とが当接することにより、吐出方向への移動が当止される。その結果、プランジャ先端部は、シリンジ部内の空気や対象物を吐出するために必要な所定の長さ分だけが吸引口から突出され、過度に吸引口から突出されることがない。したがって、作業効率が向上するとともに、突出したプランジャ先端部が損傷しにくい。
【0145】
上記構成において、前記シリンジ基端部は、円筒状のシリンジ大径部と、該シリンジ大径部と前記シリンジ本体部とを接続するシリンジ接続部と、前記シリンジ接続部の内周壁に形成された前記受け部とを含み、前記プランジャ基端部は、前記シリンジ大径部に収容される円筒状のプランジャ大径部と、該プランジャ大径部と前記プランジャ本体部とを接続するプランジャ接続部と、前記プランジャ接続部の外周壁に形成された前記当接部とを含み、前記当接部は、周面が凸の湾曲状に形成されており、前記受け部は、周面が前記当接部の周面を受け入れる凹の湾曲状に形成されていることが好ましい。
【0146】
このような構成によれば、シリンジ基端部は、シリンジ接続部の内周壁に形成された受け部を含み、プランジャ基端部は、プランジャ接続部の外周壁に形成された当接部を含む。当接部は、周面が湾曲状に形成されており、受け部は、周面が当接部の周面と相互に接触する湾曲状に形成されている。そのため、プランジャは、対象物の吸引前および対象物の吐出時に、吐出方向へ移動された際に、当接部の周面を受け部の周面に当接させることにより、吐出方向への移動が当止される。その結果、プランジャ先端部は、シリンジ部内の空気や対象物を吐出するために必要な所定の長さ分だけが吸引口から突出され、過度に吸引口から突出されることがない。したがって、作業効率が向上するとともに、突出したプランジャ先端部が損傷しにくい。
【0147】
上記構成において、前記シリンジ部は、前記吸引口が形成された前記終端の反対側に他端を有し、前記プランジャは、前記プランジャ先端部とは反対側に他端を有し、前記吸引チップは、さらに、前記シリンジ部の前記他端に装着され、前記シリンジ部の前記管状通路と連通する内部通路を備えるホルダ部と、前記プランジャの前記他端に装着され、前記ホルダ部内を進退移動するピストン部材とを備えることが好ましい。
【0148】
上記構成によれば、吸引チップは、シリンジ部の他端に装着され、シリンジ部の管状通路と連通する内部通路を備えるホルダ部と、プランジャの他端に装着され、ホルダ部内を進退移動するピストン部材とをさらに備える。そのため、吸引チップは、シリンジ部とプランジャとを、これらホルダ部とピストン部材とを介して、吸引ピペット等の吸引装置に接続することができる。その結果、吸引チップを吸引装置に直接接続する場合と比べて、装置レイアウト等の自由度が増す。
【0149】
上記構成において、前記シリンジ部は、使用状態において、略鉛直方向に配置され、前記ホルダ部は、L字状の屈曲部と、前記屈曲部よりも先端側であって前記シリンジ部の他端に装着されるホルダ先端部と、前記屈曲部よりも後端側であって側方へ延び出す横姿勢に配置されるホルダ後端部と、を備えることが好ましい。
【0150】
このような構成によれば、シリンジ部は、使用状態において、略鉛直方向に配置される。また、ホルダ部は、L字状の屈曲部と、屈曲部よりも先端側であってシリンジ部の他端に装着されるホルダ先端部と、屈曲部よりも後端側であって側方へ延び出す横姿勢に配置されるホルダ後端部と、を備える。そのため、たとえば対象物が保持された容器に対して、顕微鏡等の観察手段を下方に配置するとともに、光源を備えるコンデンサ等の照射手段を上方に配置する場合において、容器と照射手段との間の空間に、照射手段から対象物に照射される照射光を遮ることなく吸引チップを配置することができる。その結果、このような吸引チップを使用することにより、対象物の背後より照射光を照射して明るい視野の元で対象物の位置や形状等を観察しながら、吸引または吐出を行うことができる。
【0151】
上記構成において、前記対象物が、生体由来の細胞であることが好ましい。
【0152】
従来の吸引チップを使用する場合、細胞を吸引または吐出する際に空気が介在するため、管状通路の内周壁や吸引口の周囲等に細胞が付着して残りやすい。しかしながら、本発明の吸引チップでは、吸引前に、プランジャにより、シリンジ部の管状通路から空気が排出される。また、吸引時にプランジャ先端部がシリンジ部内に没入されるとともに、空気の排出された管状通路内に細胞が吸引されるため、吸引時、吐出時ともに空気が介在しない。そのため、吸引時には細胞が内周壁や吸引口の周囲に付着して残ることがなく、全量が吐出されやすい。その結果、細胞が正確に計量され、各種実験等において信頼性の高い結果が得られる。
【0153】
上記構成において、前記対象物が、生体由来の細胞凝集塊であることが好ましい。
【0154】
生体由来の細胞凝集塊は、1個の細胞を用いて得た試験結果よりも、細胞凝集塊の内部に各細胞間の相互作用を考慮した生体類似環境が再構築されており、個々の細胞の機能を考慮した結果が得られ、かつ、実験条件を、より生体内における環境に即した条件に揃えることができるため、再生医療分野や抗がん剤等の医薬品の開発分野において重要とされている。本発明の吸引チップでは、吸引前に、プランジャにより、シリンジ部の管状通路から空気が排出される。また、吸引時にプランジャ先端部がシリンジ部内に没入されるとともに、空気の排出された管状通路内に細胞凝集塊が吸引されるため、吸引時、吐出時ともに空気が介在しない。そのため、吸引時には細胞凝集塊が内周壁や吸引口の周囲に付着して残ることがなく、全量が吐出されやすい。その結果、細胞凝集塊が正確に計量されるため、バイオ関連技術や医薬の分野(再生医療分野や抗がん剤等の医薬品の開発分野を含む)において信頼性の高い結果が得られる。