特許第6042577号(P6042577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社 ナプラの特許一覧

<>
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000002
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000003
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000004
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000005
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000006
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000007
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000008
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000009
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000010
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000011
  • 特許6042577-多層プリフォームシート 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6042577
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】多層プリフォームシート
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/14 20060101AFI20161206BHJP
   B23K 35/26 20060101ALI20161206BHJP
   B23K 35/40 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   B23K35/14 D
   B23K35/14 A
   B23K35/26 310A
   !B23K35/40 340H
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-133101(P2016-133101)
(22)【出願日】2016年7月5日
【審査請求日】2016年7月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504034585
【氏名又は名称】有限会社 ナプラ
(72)【発明者】
【氏名】関根 重信
(72)【発明者】
【氏名】島谷 千礼
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−063846(JP,A)
【文献】 特開2015−174097(JP,A)
【文献】 特開2002−301588(JP,A)
【文献】 特開2014−180690(JP,A)
【文献】 特開2005−052873(JP,A)
【文献】 特開2007−152418(JP,A)
【文献】 特開2015−124434(JP,A)
【文献】 特開2012−050993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1層と第2層とを有する、多層プリフォームシートであって、
前記第1層は、Sn又はSn合金を主材とし、CuとSnとの金属間化合物を少なくとも2重量%含み、
前記第1層は、接合用途に供され、
前記第2層は、第1金属と第2金属とを含み、
前記第1金属はCu又はCu合金であり、前記第2金属はSn又はSn合金である、
多層プリフォームシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プリフォームシートに関するものである。
【0002】
先に、本明細書において使用する用語について、次の通り定義しておく。
(1)「金属」、「金属粒子」または「金属成分」というときは、金属元素単体のみならず、複数の金属元素を含む合金、又は、それらの組合せを含む。
(2)ナノとは、1μm(1000nm)以下の大きさをいう。
(3)金属マトリクスとは、金属間化合物の間隙を充填する金属又は合金のことをいう。
【背景技術】
【0003】
長時間にわたって高温動作状態が継続し、しかも、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用される機器、例えば、車載用電力制御素子(パワーデバイス)は、温度変動にかかわらず、長期にわたって高い接合強度が維持できることが要求される。しかし、従来知られた接合材は、必ずしも、上述した要求を満たし得るものではなかった。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されているSnAgCu系接合材(粉末はんだ材料)では、到底上述した要求を満たすことができない。
【0005】
接合部の耐熱性や接合強度を高める手段として、接合材に含まれる高融点金属の含有量を増やしたり、形成される金属間化合物の量を増やしたりする方法が知られている。しかし、高融点金属が多い場合、接合温度を高温にする必要があり、基板や部品などを痛める原因となる。また、形成される金属間化合物の量を増やす場合、本来は被接合部材との拡散反応に使われるべき金属が、金属間化合物形成のために使われてしまい、接合が不十分になる可能性がある。
【0006】
さらに、接合部におけるカーケンダルボイドによる機械的強度の低下の問題がある。カーケンダルボイドは、金属の相互拡散の不均衡により発生した原子空孔(格子)が、消滅することなく集積したことにより発生する。例えば、SnとCuの界面の場合、Cuの拡散に対してSnの拡散が少ないため、金属間化合物とCu界面とに空孔が集積し、カーケンダルボイドを形成する。このカーケンダルボイドが、より大きな空洞又はクラックに発展し、接合部や三次元造形物の信頼性及び品質を低下させ、更には機械的強度が低下し、剥離、破断、破損等を生じてしまうこともある。
【0007】
特許文献2において、被接続部材にNi層を形成し、その上にCuSnを析出あるいは移動させてバリア層を形成し、接続界面反応による化合物層の成長及びそれに伴うボイドの形成を抑制する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、CuSnが接続界面に析出あるいは移動するには時間を要し、その間にも拡散反応は進行する。そのため、カーケンダルボイドの形成を、必ずしも抑制できるとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−268569号公報
【特許文献2】特許第5517694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、カーケンダルボイドの生じにくい高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部などを形成し得る多層プリフォームシートを提供することである。
【0011】
本発明のもう一つの課題は、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部などを形成し得る多層プリフォームシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明に係る多層プリフォームシートは、少なくとも第1層と第2層とを有する。前記第1層は、金属間化合物を含む接合材であり、前記第2層は、第1金属と第2金属とを含んでいる。前記第1金属は、融点が300℃以上の金属又は合金であって、前記第2金属は、前記第1金属と金属間化合物を形成し得る金属又は合金である。
【0013】
本発明に係る多層プリフォームシートにおいて、第1層は金属間化合物を含む接合材である。前記接合材は、その構成材料を選択することにより、基板や電子部品などを痛めない温度で、多層プリフォームシートを、被接合部材と接合させることが可能である。
【0014】
従来のはんだ材を用いて接合を行った場合、被接合部材とはんだ材とが直接に接するため、接合界面においてカーケンダルボイドが発生する。
【0015】
これに対して、前記第1層は、予め、金属間化合物を含んでいる。前記金属間化合物が、被接合部材と接合材との間に、バリア層として存在していることで、拡散反応速度が抑制される。その結果、相互拡散の不均衡や、拡散反応による化合物層の極端な成長が抑えられ、カーケンダルボイドの発生を抑えられる。
【0016】
更に、本発明に係る多層プリフォームシートは、第2層を有する。前記第2層は、融点が300℃以上の金属又は合金である第1金属と、前記第1金属と金属間化合物を形成し得る金属又は合金である第2金属とを含んでいる。
【0017】
前記第1金属と前記第2金属とが、接合時に金属間化合物を形成することで、接合強度が高くなる。また、前記第1金属は、融点が300℃以上であるから、前記金属間化合物は耐熱性を有し、形成される接合部は、耐熱性に優れている。前記第1金属の融点が300℃未満である場合、要求される耐熱性を確保できない。
【0018】
さらに、前記第1層は、接合材であり、CuとSnとの金属間化合物を、少なくとも2重量%含んでいてもよい。前記第2層は、第1金属と第2金属とを含み、前記第1金属はCuを含むことができ、前記第2金属はSnを含むことができる。この場合の作用効果については、実施例において詳しく説明する。
【0019】
本発明に係る多層プリフォームシートの金属成分は、Cu、Al、Ni、Sn、Ag、Au、Pt、Pd、Si、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、Fe、Ge、Mn、Cr、Coから選択された金属元素から構成されている。
【0020】
本発明に係る多層プリフォームシートは、前記第1層と前記第2層とを有することにより、接合時には、基板や部品などを痛めないような融点で接合させ、凝固後の再融解温度を、第2層において形成される金属間化合物の融点まで引き上げることができる。したがって、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合部、導体部を形成し得る。多層プリフォームシートのこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子(パワーデバイス)のための導電性接合材として有用である。
【0021】
また、前記第2層において、第1金属と第2金属との含有比率、又は、接合温度や時間を調整することで、形成される金属間化合物の間隙を、金属マトリクスで充填することができる。前記金属マトリクスは、前記金属間化合物に比べて靭性が高い。したがって、本発明に係る多層プリフォームシートを用いて形成される接合部は、金属間化合物による耐熱性と、金属マトリクスによる柔軟性とを兼ね備えることが可能である。このため、長時間にわたって高温動作状態が継続した場合でも、また、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用された場合でも、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械的強度が維持されることになる。
【0022】
さらに、前記第2層は、金属間化合物を含むこともできる。接合前から金属間化合物を含むことで、接合時の加熱による第2層内での、第1金属と第2金属との拡散反応速度を抑え、カーケンダルボイドの発生を抑えることが可能である。
【0023】
上述したように、本発明に係る多層プリフォームシートは、様々な組成や構造、作用効果を持つプリフォームシートを、少なくとも2層以上積層した構造である。このような構造をとることにより、接合時の基板や部品の損傷、接合材不足による接合不良などといった問題を解決することができる。例えば、第1層は被接合部材との接合に寄与するプリフォームシート、第2層は接合部の強度に寄与するプリフォームシート、第3層は放熱に寄与するプリフォームシート、などというように、それぞれ特化した作用効果を付与することができる。その結果、多層プリフォームシート全体としての機能を向上させることが可能である。
【0024】
また、接合材としての有効性を述べてきたが、これに限らず、電気配線や積層基板の電極などにも適した材料となり得る。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように、本発明によれば、カーケンダルボイドの生じにくい高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部などを形成し得る多層プリフォームシートを提供することができる。
【0026】
また、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部などを形成し得る多層プリフォームシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る多層プリフォームシートの一例を示す図である。
図2】本発明に係る多層プリフォームシートの接合時の状態の一例を示す図である。
図3】本発明に係る多層プリフォームシートから形成された接合部の一例を示す図である。
図4】本発明に係る多層プリフォームシートの、実施形態の一例を示す図である。
図5図3のA部のSEM像を示す図である。
図6図5のSEM像を拡大して示す図である。
図7図3の主にB部のSEM像を示す図である。
図8】本発明に係る多層プリフォームシートから形成された接合部のシェア強度を示す図である。
図9】本発明に係る多層プリフォームシートの別の例を示す図である。
図10】圧延法を用いたプリフォームシートの製造方法を示す図である。
図11】圧延法を用いた多層プリフォームシートの製造方法を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1を参照して説明する。多層プリフォームシート1は、少なくとも第1層11と第2層12とを有している。第1層11は、金属間化合物を含む接合材である。前記金属間化合物は、第1層11中に、2重量%から50重量%の範囲で含まれていることがより好ましいが、これに限定されるものではない。前記接合材は、基板や部品などに損傷を与えない温度で溶融し、被接合部材と拡散接合する金属又は合金を主材としている。
【0029】
第2層12は、第1金属と第2金属とを含んでる。前記第1金属は、融点が300℃以上である金属又は合金であり、その他に金属間化合物を含んでいてもよい。前記第2金属は、前記第1金属と金属間化合物を形成し得る金属又は合金であり、その他に金属間化合物を含んでいてもよい。第1金属と第2金属との重量の合計を100重量%としたとき、前記第1金属は、1重量%から80重量%の範囲で含まれていることがより好ましいが、これに限定されるものではない。
【0030】
第1層11は、基板100に形成された被接合部材101と拡散接合される。(図2参照)
【0031】
図3を参照すると、多層プリフォームシート1は、例えば、対向配置された基板100、500に形成された被接合部材101、501を接合する。接合部300は、多層プリフォームシート1を用いることによって得られる。基板100、500は、例えば、パワーデバイスなどの電子・電気機器を構成する基板であり、被接合部材101、501は、電極、バンプ、端子またはリード導体などとして、基板100、500に設けられている。パワーデバイスなどの電子・電気機器では、被接合部材101、501は、一般にはCuまたはその合金として構成されるが、これに限定されるものではない。また、基板100、500に相当する部分が、金属/合金体で構成されたものを排除するものではない。
【0032】
図4を参照して説明する。第1層11は金属間化合物を含む接合材であり、具体的にはSn又はSnの合金を主材としている。前記金属間化合物は、SnとCuとから成るCuSn(主としてCuSn)であり、およそ20重量%含まれている。第2層12は、第1金属と第2金属とを含んでおり、前記第1金属はCu又はCuの合金であり、前記第2金属はSn又はSnの合金である。第2層12におけるCu含有量はおよそ40重量%である。第3層13は、第1層11と全く同じ構造・構成で、金属間化合物を含む接合材であり、被接合部材と拡散接合される。
【0033】
図5及び図6は、多層プリフォームシート1と被接合部材との、接合界面近傍の構造の一例を示すSEM像である。図5は、図3のA部のSEM像であり、図6は、図5を拡大した図である。被接合部101、501はCu又はCu合金層である。接合部300は、図4で示した多層プリフォームシートを用いることによって得られる。接合に要する時間や温度は、基板や部品などを損傷させない温度の範囲内で、多層プリフォームシートや被接合部材の構造・構成によって、適宜設定される。本実施形態においては、段階的に温度を上げていき、280℃で1〜20分保持した。
【0034】
接合部300は、被接合部材101、501の表面に、層301、層302、及び層303が、この順序で積層された構造を持つ。層301に含まれる金属間化合物は、CuSnが主であり、層302に含まれる金属間化合物は、CuSnが主である。
【0035】
図5を見ると、金属間化合物層の極端な成長が抑えられ、ボイドの少ない接合部が形成されていることがわかる。これは、第1層11のSn又はSn合金を主材とした接合材と、Cuを主材とした被接合部材101、501との間に、第1層11に含まれる金属間化合物CuSnがバリア層として存在しており、拡散速度が抑制されたためである。その結果、Cuの拡散に対してSnの拡散が少ない、という相互拡散の不均衡が解消され、カーケンダルボイドの発生が抑制される。したがって、機械的強度が高く、剥離、破断、破損等を生じにくい高信頼性及び高品質の接合部を形成することが可能になる。
【0036】
図10に示す製造方法(後述)で、第1層11のプリフォームシートを製造する場合、用いる金属粉末4のすべてが、金属間化合物を有した金属粒子であるとき、さらに好ましい結果が得られる。この場合、バリア層となる金属間化合物は、偏ることなく第1層11中に分散されており、バリア層と被接合部材101、501とが確実に、直に接する構造となる。そのため、拡散速度を抑制する効果が高まる。
【0037】
また、層301及び層302に含まれる金属間化合物は帯状構造をとることもできる。図6を参照すると、層301及び層302に含まれる金属間化合物は帯状構造をとり、間隔をおいて並ぶ縞状組織、もしくはラメラ組織を形成している。
【0038】
仮に、カーケンダルボイドが発生したとしても、金属間化合物の帯状構造に当たった地点でカーケンダルボイドの成長が止まる。また、前記帯状構造は、間隔がナノサイズであるため、カーケンダルボイドの成長は狭い範囲に抑えられ、クラックなどの重篤な欠陥に発展することはない。そのため、機械的強度が大で、剥離、破断または破損等を生じにくい高信頼性及び高品質の接合部を形成することが可能になる。
【0039】
さらに、層301及び層302は、金属マトリクスを含むことができる。本実施形態における金属マトリクスとは、具体的には、Sn、Sn合金などが混在した合金である。この金属マトリクスは、金属間化合物に比べて靭性が高い。したがって、層301及び層302は、金属間化合物による耐熱性及び強度と、金属マトリクスによる柔軟性とを兼ね備えることが可能である。このため、長時間にわたって高温動作状態が継続した場合でも、また、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用された場合でも、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械的強度が維持されることになる。
【0040】
多層プリフォームシート1は、さらに、第2層12を有する。第2層12は、第1金属と第2金属とを含んでおり、前記第1金属はCu又はCuの合金であり、前記第2金属は、Sn又はSnの合金である。。第2層12は、接合時に金属間化合物CuSn(典型的にはCuSnとCuSn)を形成する。CuSnの融点が約676℃、CuSnの融点が約435℃であるから、接合によって溶融し、凝固した後の再溶融温度を引き上げることができる。
【0041】
また、第1金属と第2金属との含有比率、又は、接合温度や時間を調整することで、形成される金属間化合物の間隙を、金属マトリクスで充填することができる。本実施形態における金属マトリクスとは、具体的には、Sn、Sn合金などが混在した合金である。前記金属マトリクスは、前記金属間化合物に比べて靭性が高い。したがって、金属間化合物による耐熱性及び強度と、金属マトリクスによる柔軟性とを兼ね備えることが可能である。このため、長時間にわたって高温動作状態が継続した場合でも、また、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用された場合でも、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械的強度が維持されることになる。
【0042】
第2層12は、予め、金属間化合物を含むこともできる。接合時の加熱によって、第2層12において、第1金属と第2金属との拡散反応が起こる。そのため、このような金属間化合物を含まない場合、拡散反応によって、カーケンダルボイドが生じる恐れがある。これに対して、第2層12に、接合前から、予め、金属間化合物を含むことにより、拡散反応速度が抑制され、カーケンダルボイドの発生を抑える効果がみられる。
【0043】
さらに、前記第2金属を、予め金属粒子に金属間化合物を形成・分散させた合金とすることで、より高温耐熱性及び接合強度の高い接合部を形成することもできる。前記第2金属は、特許第4401281号に開示された技術を応用して製造することができる。特許第4401281号には、粒状化室に室温の雰囲気ガスを供給し、皿形ディスクの回転速度は毎分30,000回転以上が望ましい、との記載がある。本発明では、この技術をさらに詳しく検証した。供給する雰囲気ガスは室温だが、実際には、粒状化室内温度は80℃近くまで上昇してしまう。そこで、粒状化室内温度を40℃以下に保ったところ、急冷効果が増し、形成される金属間化合物の構造に変化が見られた。また、皿状ディスクの回転速度によって、金属間化合物の分散状態に差が生じることがわかった。皿形ディスクの回転速度を、毎分約100,000回転という高速回転にすることで、急冷により形成された金属間化合物が表層に集積し、外殻のような構造をもった金属粒子が製造されることが確認された。
【0044】
上述した方法で製造された第2金属を用いて形成された接合部を、図7に示す。図7は、図3に示した接合部300のSEM像である。図3のB部は、図5において層303に相当する部分である。図7を見ると、単独のコロニーを形成している金属間化合物が見られるのと同時に、枝状(枝状サンゴのような形状)、もしくは樹枝状、もしくは島状に成長し、接合部全体を支持する骨格のような構造(以下、骨格構造という)を形成している金属間化合物が見られる。また、骨格構造の間隙を、金属マトリクスが埋めているのがわかる。このような骨格構造は、一般的な製造方法、例えばアトマイズ法などによって製造された合金を用いた時には観察されない。
【0045】
上述したように、単独コロニーの金属間化合物だけでなく、骨格構造をとる金属間化合物を有することにより、接合部300は、より接合強度が高くなる。また、靭性が高い金属マトリクスが、骨格構造の間隙を埋めることにより、柔軟性をも兼ね備えることができる。
【0046】
各プリフォームシートは、隣り合うプリフォームシートと、拡散接合などによって接合している。
【0047】
本発明に係る多層プリフォームシートの金属成分は、目的や用途に応じて選択される。具体的には、Cu、Al、Ni、Sn、Ag、Au、Pt、Pd、Si、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、Fe、Ge、Mn、Cr、Coから選択された金属元素から構成されている。
【0048】
本発明に係る多層プリフォームシートを用いて形成した接合部のシェア強度を図8に示す。Cuの含有量が異なる(8重量%と40重量%)2種類の多層プリフォームシートを用いて、シェア強度を測定した。比較例として、SAC305(Sn-3.0%Ag-0.5%Cu)を用いて形成した接合部のシェア強度を記載している。SAC305を用いた場合、シェア強度は、200℃においてすでに低下し、225℃においてはゼロであり、接合状態を保てない。
【0049】
一方、本発明に係る多層プリフォームシートを用いて形成した接合部のシェア強度は、200℃において十分な強度を有する。225℃になると、Cu含有量によって差はあるが、どちらもまだ強度を保っている。さらに温度を上げると、8重量%の接合部では強度が著しく低下するが、40重量%の接合部では十分な強度を保っている。つまり、使用環境に応じて、適したCu含有量を選択することで、従来の接合材では実現が難しかった、高温でも接合強度を保持した接合部を形成することが可能である。
【0050】
ちなみに、260℃の高温保持試験(HTS)では、試験開始時から約100時間までは、シェア強度が約35MPaから約40MPaまで上昇し、500時間までの時間領域では、ほぼ40MPaで安定するという試験結果が得られた。
【0051】
また、(-40〜200℃)の冷熱サイクル試験(TCT)では、約200サイクルを超えたあたりから、全サイクル(1000サイクル)に渡って、シェア強度が約35MPaで安定するという試験結果が得られた。
【0052】
図9は、本発明に係る多層プリフォームシートの別の例を示す図である。用途や目的に応じて、複数nのプリフォームシート(11、12、・・・・・1n)を積層することが可能である。
【0053】
本発明に係るプリフォームシート1aは、典型的には、金属粉末を圧延処理によってシート化する粉末圧延法によって得ることができる。粉末圧延法自体は種々知られており、本発明においては、それらの公知技術を適用することができる。図10及び図11は、適用可能な典型例を示している。図10において、対向する向きに回転R1、R2する圧延ローラー31,32の間に、金属粉末4を供給し、圧延ローラー31、32から粉体4に対して圧力を加えることで、プリフォームシート1aが得られる。図11に示したように、プリフォームシート1aを積層して、さらに圧延することで、多層プリフォームシート1が得られる。プリフォームシート各々の厚さや、多層プリフォームシート全体の厚さは、用途や目的に応じて、適宜調整される。
【0054】
以上、添付図面を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、その基本的技術思想および教示に基づき、種々の変形例を想到できることは自明である。
【符号の説明】
【0055】
1 多層プリフォームシート
1a プリフォームシート(単層)
11 第1層
12 第2層
13 第3層
1n 第n層
100,500 基板
101,501 被接合部材
300 接合部
4 金属粉末
31,32 圧延ローラー
【要約】
【課題】カーケンダルボイドが生じにくく、耐熱性に優れた、高信頼性及び高品質の電気配線、導電性接合部などを形成し得る多層プリフォームシートを提供すること
【解決手段】少なくとも第1層と第2層とを有する多層プリフォームシートであって、前記第1層は、金属間化合物を含むはんだ材であり、前記第2層は、融点が300℃以上の第1金属と、前記第1金属と金属間化合物を形成し得る第2金属とを含んでいる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11