特許第6042595号(P6042595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042595一酸化炭素を酸化処理できるフィルムおよびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042595
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】一酸化炭素を酸化処理できるフィルムおよびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20161206BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20161206BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20161206BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20161206BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20161206BHJP
   H01G 11/00 20130101ALI20161206BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20161206BHJP
【FI】
   C08L23/04
   C08J5/18CES
   C08K3/22
   C08K3/34
   C08L23/26
   H01G11/00
   H01M10/052
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-549479(P2010-549479)
(86)(22)【出願日】2010年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2010051452
(87)【国際公開番号】WO2010090193
(87)【国際公開日】20100812
【審査請求日】2013年1月30日
【審判番号】不服2015-4411(P2015-4411/J1)
【審判請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2009-23790(P2009-23790)
(32)【優先日】2009年2月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】瀬田 寧
【合議体】
【審判長】 小野寺 務
【審判官】 加藤 友也
【審判官】 守安 智
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/066372(WO,A2)
【文献】 特表2009−518845(JP,A)
【文献】 特開平11−124446(JP,A)
【文献】 特開昭61−21160(JP,A)
【文献】 特開昭60−72977(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/120686(WO,A1)
【文献】 松浦一雄,三上尚孝,ポリエチレン技術読本,株式会社工業調査会,2001年7月1日,第163頁−第168頁
【文献】 曽我和雄,新世代ポリマーの創製とメタロセン触媒,株式会社シーエムシー,1993年8月20日,第25頁−第28頁,第33頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L23/00-23/26
C08J5/18
C08K3/22
C08K3/34
H01G11/00
H01M10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン系樹脂組成物 100質量部、
(B)一酸化炭素酸化触媒 1〜150質量部、および
(C)二酸化炭素吸着剤 1〜200質量部
を含む樹脂組成物からなるフィルムにおいて、成分(A)が
(A−1)下記(i)〜(iv)の特性を有するエチレン系重合体 99〜60質量%、
(i)DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点(Tm)が110℃以上である、
(ii)DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が90〜180J/gである、
(iii)110℃における結晶化分率(Xc110)が10〜60%である、および
(iv)MFR(190℃、21.18N)が0.1〜10g/10分である、
および
(A−2)酸変性エチレン系樹脂 1〜40質量%
を含み、ここで、成分(A−1)と成分(A−2)の量の合計が100質量%であり、成分(B)および(C)が各々、30μm以下の粒子径(D99)および20μm以下の粒子径(D50)を有する、ここで、D99およびD50はそれぞれ、粒子径分布において粒子径の小さい方から累積して99質量%および50質量%になる点における粒子径を言う、ところのフィルム。
【請求項2】
一酸化炭素酸化触媒(B)が、ホプカライトおよび担持貴金属触媒から成る群から選択される1以上である、請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
二酸化炭素吸着剤(C)が、二酸化炭素の吸着に水を必要としないものである、請求項1または2記載のフィルム。
【請求項4】
二酸化炭素吸着剤(C)が、0.4nm以上の細孔径を有するゼオライトおよび酸化ストロンチウムから成る群から選択される1以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルムを蓄電要素が封入された容器の中に含む非水電解質二次電池。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルムを蓄電要素が封入された容器の中に含む電気二重層キャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、平成21年2月4日に出願された特願2009−23790号の優先権の利益を主張しており、この出願の内容は、引用することにより本明細書に取り込まれる。
本発明は、気体酸素が実質的に存在しなくても一酸化炭素を二酸化炭素に酸化して吸着する機能を有する、耐熱性に優れたフィルムに関し、特に、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタにおいて有用なフィルムに関する。
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電力装置として、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスが使用されている。非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタは、水分が存在すると性能が著しく低下し、したがって寿命の低下を招くため、それらの発電要素は、金属缶、アルミラミネートフィルムなどの容器内に封入されている。
【0003】
また、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電力装置は、近年、その小型軽量化大容量化が図られている。したがって、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタにおける発電要素を封入する容器として、従来の金属缶に替えてアルミラミネートフィルムにしようとする検討が盛んに行われている。また、体積のより小さい容器内により多くの発電要素を封入することが望まれている。
【0004】
本出願人は、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタの内部に配置することにより、これらの性能を劣化させる水分を除去することの出来る、吸水性に優れかつ耐熱性に優れたフィルムに関する出願を先に行った(特願2007−196438)。このフィルムは、特定のポリエチレン系樹脂組成物および吸水性フィラーを含む組成物から成る。しかし、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタは、電解液としてカーボネート系の有機溶剤が使用される故に、あるいは電極としてカーボンが使用される故に、蓄電要素が封入された容器内で一酸化炭素ガスが発生しやすいという性質を有し、その結果、容器の変形・破裂による寿命の低下を招くという別の大きな問題が存在している。上記出願におけるフィルムは、このような変形・破壊の抑制には不十分である。
【0005】
一酸化炭素ガスの発生による寿命の低下を防ぐために、金属缶にガス放出弁を設けることが広く行われているが、ガスの放出は外気からの水分の浸入を招き、寿命の低下は避けられない。また、ラミネートフィルム外装のタイプでは、ガス放出弁を設けることは困難である。
【0006】
一酸化炭素ガスを直接吸収・吸着する物質がいくつか知られているが、それらは、単位量当たり極少量の一酸化炭素しか吸収できなかったりして、一酸化炭素を充分な量で吸収・吸着させるという目的には不向きである。
【0007】
一方、気体中の一酸化炭素を除去するための触媒として、一酸化炭素酸化触媒としての金ナノ粒子触媒と二酸化炭素除去剤としてのアルカリ性多孔質体とを含有する触媒(例えば、特許文献1)および一酸化炭素酸化触媒としての金ナノ粒子触媒と二酸化炭素及び水の除去剤としてのゼオライトとを含有する触媒(例えば、特許文献2)が知られている。これらの方法は、一酸化炭素ガスを二酸化炭素ガスに酸化させ、その結果生じた二酸化炭素ガスを二酸化炭素吸着剤によって除去するものであり、一酸化炭素ガスを直接除去するよりも安価であるが、一酸化炭素ガスの酸化には気体酸素の存在を必要とする。また、上記触媒を樹脂とコンパウンド化することやフィルム状にすることの示唆はない。
【0008】
非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタは、その蓄電要素が封入された容器の内部への気体酸素の供給源を有しない。これは、容器内により多くの蓄電要素を封入する目的から、製造された段階ではその内部に気体空気が占めるような空間は存在していないし、また、上記容器は密封されているので外界からの気体酸素供給も実質的に有り得ないからである。
【0009】
そのような気体酸素の不存在下でも一酸化炭素を二酸化炭素に酸化することができると共に酸化によって生じた二酸化炭素を吸着することができる部材があるならば、上記容器内で発生する一酸化炭素ガスによる容器の変形・破壊を防ぐことができ、したがって蓄電デバイスの寿命の長期化に有利である。また、上記部材がフィルム状であるならば、それを、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタの発電要素が封入された容器内の狭い空隙に配置することができ、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタの小型化大容量化の点で有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−188243号公報
【特許文献2】国際公開第2005/120686号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、気体状酸素の不存在下でも一酸化炭素を二酸化炭素に酸化して吸着することができると共に耐熱性に優れたフィルムを提供することを目的とする。
【0012】
本発明者は、特定のエチレン系樹脂組成物および特定の粒径の一酸化炭素酸化触媒および二酸化炭素吸着剤を含む樹脂組成物は製膜性に優れ、上記目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、
(A)エチレン系樹脂組成物 100質量部、
(B)一酸化炭素酸化触媒 1〜150質量部、および
(C)二酸化炭素吸着剤 1〜200質量部
を含む樹脂組成物からなるフィルムにおいて、成分(A)が
(A−1)下記(i)〜(iv)の特性を有するエチレン系重合体 99〜60質量%、
(i)DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点(Tm)が110℃以上である、
(ii)DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が90〜180J/gである、
(iii)110℃における結晶化分率(Xc110)が10〜60%である、および
(iv)MFR(190℃、21.18N)が0.1〜10g/10分である、
および
(A−2)酸変性エチレン系樹脂 1〜40質量%
を含み、ここで、成分(A−1)と成分(A−2)の量の合計が100質量%であり、成分(B)および(C)が各々、30μm以下の粒子径(D99)および20μm以下の粒子径(D50)を有する、ここで、D99およびD50はそれぞれ、粒子径分布において粒子径の小さい方から累積して99質量%および50質量%になる点における粒子径を言う、ところのフィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフィルムは、気体状酸素の不存在下で一酸化炭素を二酸化炭素に酸化して吸着することができると共に耐熱性に優れ、特に、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタでの使用において有利である。
【0015】
本発明のフィルムが、気体状酸素の不存在下での一酸化炭素の二酸化炭素への酸化を可能にすることの原理は良く分からないが、成分(B)から酸素原子が供給されたことによる、あるいは、樹脂組成物またはそれらから成るフィルムを、気体酸素が存在するところの、通常の環境下で製造する間に酸素原子が供給されたことによる、などが考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のフィルムは、以下に述べる成分(A)〜(C)を含む樹脂組成物からなる。
(A)エチレン系樹脂組成物
成分(A)はエチレン系重合体(A−1)および酸変性エチレン系樹脂(A−2)を含む。エチレン系重合体はフィラー受容性に優れているため、これを主要な樹脂成分とすることにより、フィラーとしての一酸化炭素酸化触媒(B)と二酸化炭素吸着剤(C)とを多量に充填しても、良好な製膜性が得られる。
【0017】
(A−1)エチレン系重合体
本発明におけるエチレン系重合体は、十分な耐熱性を有すると共に、十分なフィラー受容性を有して良好な製膜性を付与すべく、下記(i)〜(iv)を満たすことが必要である。
(i)DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点(Tm)が110℃以上である、
(ii)DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が90〜180J/gである、
(iii)110℃における結晶化分率(Xc110)が10〜60%である、および
(iv)MFR(190℃、21.18N)が0.1〜10g/10分である。
【0018】
上記ピークトップ融点(Tm)が110℃より低いと、耐熱性、耐溶剤性が不充分になり易い。上記ピークトップ融点(Tm)は、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上である。上記ピークトップ融点(Tm)の上限は特に制限されないが、エチレン系重合体であることから、実際的に約135℃である。
【0019】
また、上記融解熱量(ΔH)が180J/gを超えるとフィラー受容性が不十分であり製膜性に劣ることがある。90J/g未満では、耐熱性および耐溶剤性が不充分になり易い。リチウム二次電池や電気二重層キャパシタは、高い環境温度下に曝される場合があり、また、発電要素において電解質として使用される有機溶剤は強い浸透性や溶解力を有するものが多い。したがって、得られる樹脂組成物は、耐熱性および耐溶剤性を有すると有利である。上記融解熱量(ΔH)は、好ましくは100〜170J/gである。
【0020】
また、上記結晶化度(Xc110)が60%を超えるとフィラー受容性が不足し、製膜性に劣る場合がある。10%未満では、耐熱性および耐溶剤性が不充分になる場合がある。上記結晶化度(Xc110)は、好ましくは15〜45%である。なお、110℃における結晶化度とは、DSC融解曲線における融解熱量ΔH全体に対する110℃以上での融解熱量の割合を意味する。
【0021】
また、上記MFRが10g/10分以上では、ポリエチレン系樹脂組成物(A)とフィラーとしての一酸化炭素酸化触媒(B)および二酸化炭素吸着剤(C)との溶融混練性(フィラー分散性)が不充分になったり、フィルム製膜時の引落性が低下したりする場合がある。0.1g/10分未満では、フィルムの肉厚調整が困難になる場合がある。上記MFRは、好ましくは0.2〜7g/10分、より好ましくは0.5〜5g/10分である。
【0022】
なお、本明細書において、DSC融解曲線は、特に断らない限り、TA Instruments(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社)のDSC Q1000型を使用し、試料を190℃で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で190℃まで加熱するという温度プログラムでDSC測定を行って得られる曲線である。
【0023】
本発明におけるエチレン系重合体は、上記(i)〜(iv)の要件を満たすものであれば特に制限されない。例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンとα−オレフィン(例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等)とのコポリマーが挙げられる。酢酸ビニル、メチルアクリレート、エチルアクリレートなどをコモノマーとするエチレンコポリマーは、コモノマーによる結晶性低下が大きいため、上記(i)〜(iv)の要件を満たすことが難しい。
【0024】
エチレン系重合体は、1種を単独で、または2種以上を任意に配合した混合物として使用することが出来る。混合物として使用する場合には、混合物全体が上記要件(i)〜(iv)を満たすようにすればよい。
【0025】
エチレン系重合体(A−1)として使用され得る具体例として、日本ポリエチレン(株)からKF271およびUF240の商品名で市販されている直鎖状低密度ポリエチレン、プライムポリマー(株)からSP2040およびSP2520の商品名で市販されている直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。
【0026】
(A−2)酸変性エチレン系樹脂
酸変性エチレン系樹脂は、疎水性であるエチレン系重合体(A−1)と親水性である、フィラーとしての一酸化炭素酸化触媒(B)および二酸化炭素吸着剤(C)との混和性を改良して上記フィラーの分散を促進し、製膜したときにフィルムにブツなどの欠点が発生しないようにするための成分である。
【0027】
本発明で使用される酸変性エチレン系樹脂は、不飽和カルボン酸またはその誘導体がグラフト重合および/または共重合したエチレン系樹脂である。不飽和カルボン酸の例としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が挙げられ、その誘導体の例としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸等のエステルおよび無水物が挙げられる。上記エチレン系樹脂としては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル(VA)共重合体、エチレン−エチルアクリレート(EA)共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体などが挙げられる。
【0028】
酸変性エチレン系樹脂は、好ましくは0.1〜10g/10分のMFR(190℃、21.18N)を有する。さらに好ましくは、0.2〜7g/10分、最も好ましくは0.5〜5g/10分である。MFRが上記上限より高いと、フィルム製膜時の引落性が低下する場合がある。MFRが上記下限より低いと、フィルムの肉厚調整が困難になる場合がある。
【0029】
酸変性エチレン系樹脂の具体例としては、三井化学(株)製のアドマー(商品名)、日本ポリオレフィン(株)製のアドテックス(商品名)、クロンプトン社製のポリボンド(商品名)および住友化学(株)製のボンドファースト(商品名)が挙げられる。
【0030】
酸変性エチレン系樹脂は、単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
ポリエチレン系樹脂組成物(A)は、エチレン系重合体(A−1)99〜60質量%および酸変性エチレン系樹脂(A−2)1〜40質量%を含む(ここで、成分(A−1)と成分(A−2)の量の合計は100質量%である)。より好ましくは、エチレン系重合体(A−1)97〜70質量%および酸変性エチレン系樹脂(A−2)3〜30質量%であり、更に好ましくは、エチレン系重合体(A−1)95〜80質量%および酸変性エチレン系樹脂(A−2)5〜20質量%である。酸変性エチレン系樹脂(A−2)が少ない(すなわち、エチレン系重合体(A−1)が多い)と、フィラーの分散が不充分になり、製膜の際に目脂が多く発生したり、得られるフィルムにブツなどの欠点が発生し易くなったりする。一方、酸変性エチレン系樹脂(A−2)が多い(すなわち、エチレン系重合体(A−1)が少ない)と、酸変性エチレン系樹脂とフィラーとの相互作用が非常に強くなり、コンパウンド製造時の混練負荷や製膜時の押出負荷が高くなる場合がある。また、得られるフィルムの引張伸びが低下する場合がある。
【0032】
(B)一酸化炭素酸化触媒
一酸化炭素酸化触媒として、ホプカライト(銅−マンガン系複合酸化物)などの複合金属酸化物触媒および担持貴金属触媒が知られており、本発明では、下記に述べる特定の粒子径分布を有するならば、これらのいずれも成分(B)として使用できる。上記担持貴金属触媒は、アルミナ担持パラジウムなどの金属酸化物担持貴金属触媒(貴金属を金属酸化物表面に担持した触媒)、パラジウム−酸化セリウムなどの貴金属−易還元性酸化物触媒、酸化チタン担持プラチナなどの貴金属担持光触媒、カーボンブラック担持塩化パラジウム-塩化銅などの担持Wacker型触媒および金ナノ粒子触媒(金ナノ粒子を金属酸化物表面に担持した触媒)を包含する。高濃度の一酸化炭素による被毒/失活の起き難いものであればより好ましい。本発明における樹脂組成物では、ホプカライトなどの複合金属酸化物およびアルミナ担持パラジウムなどの金属酸化物担持貴金属触媒が好ましく使用される。一酸化炭素酸化触媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用され得る。なお、ホプカライトと同じ組成であっても、複合酸化物の形ではなく、酸化銅(II)と酸化マンガン(IV)とを単に混合した混和物の形のものは、一酸化炭素酸化触媒としての機能が不十分である。
【0033】
一酸化炭素酸化触媒(B)は、その粒子径分布が特定のもの、すなわち30μm以下の粒子径(D99)および20μm以下の粒子径(D50)を有するものであれば、成分(A)との混和性を良好にすることができ、したがって、良好に製膜することができる。ここで、D99およびD50はそれぞれ、粒子径分布において粒子径の小さい方から累積して99質量%および50質量%になる点における粒子径を言う。D99は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。また、D50は、好ましくは0.01〜15μm、より好ましくは0.1〜10μmである。上記範囲から外れるような粗い粒子は、フィルムの欠点や異物になる場合がある。また、粒子が細かすぎると、凝集してフィルムの欠点や異物になったり、凝集しなかった場合には多量の空気を抱き込んでコンパウンド製造時の溶融混練作業性を悪くしたりする場合がある。
【0034】
粒子径分布の制御は、大きな粒子を生成した後、それを粉砕、分球する方法、及び最初から細かい粒子を生成しそして分球する方法がある。粒子径分布を上記範囲内に制御できるならばどちらの方法でも良く、特に限定はされないが、押出負荷および製膜性の観点から、細かい粒子を最初から生成する方法がより好ましい。
【0035】
成分(B)の配合量は、成分(A)100質量部に対して1〜150質量部、好ましくは3〜120質量部、より好ましくは5〜100質量部である。上記下限よりも少ないと、一酸化炭素を酸化する機能が不満足なものになり、上記上限を超えると、コンパウンド製造時の溶融混練およびフィルム化が困難になる場合がある。
【0036】
(C)二酸化炭素吸着剤
本発明における二酸化炭素吸着剤(C)は、成分(B)に関して述べたものと同じ粒子径分布を有するものであれば、いずれも使用できる。例えば、細孔径が0.4nm以上であるゼオライト(例えば、モレキュラーシーブ4Aおよびモレキュラーシーブ5A)および酸化ストロンチウムなどのアルカリ土類金属酸化物が挙げられる。
【0037】
なお、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスでは、水の存在により上記蓄電デバイスの性能劣化を生じ、寿命の低下を招く。したがって、成分(C)は、二酸化炭素の吸着に水を実質的に必要としない(絶対湿度約1mg/Lより多くの水を必要としない)ものが好ましい。例えば酸化マグネシウムは、二酸化炭素の吸着機構において水を必要とする。
【0038】
二酸化炭素吸着剤(C)の配合量は、成分(A)100質量部に対して1〜200質量部、好ましくは5〜150質量部、より好ましくは10〜120質量部である。上記下限未満であると、二酸化炭素を吸着する機能が不満足なものになり、上記上限を超えると、コンパウンド製造時の溶融混練およびフィルム化が困難になる場合がある。
【0039】
本発明における樹脂組成物はさらにスリップ剤を含むことが好ましい。これにより、コンパウンド製造時の溶融混練作業性を向上させ、また、製膜性をより良好にすることができる。スリップ剤としては、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、シリコンガム、シリコンオイルなどが挙げられる。スリップ剤の好ましい添加量は、成分(A)100質量部に対して0.1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0040】
また、本発明における樹脂組成物は、必要に応じてリン系、フェノール系、硫黄系などの酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの耐候剤、銅害防止剤、芳香族リン酸金属塩系、ゲルオール系などの造核剤、グリセリン脂肪酸モノエステルなどの帯電防止剤、着色剤、芳香剤、抗菌剤、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、タルク、金属水和物などのフィラー、グリセリン脂肪酸エステル系、パラフィンオイル、フタル酸系、エステル系などの可塑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0041】
本発明における樹脂組成物は、上記成分(A−1)、(A−2)、(B)および(C)ならびに所望により任意の添加剤を溶融混練することにより得ることができる。溶融混練は、二軸押出機、バンバリーミキサーなどの慣用の装置を使用して行うことができる。混練温度は、製膜時の吸湿発泡トラブルを回避するため、フィルム製膜温度よりも高くすることが好ましい。得られた組成物は、造粒機によってペレット化した後、Tダイ等を使用する通常の製膜に付することができるが、その場合には、ペレット化を、ホットカット法などの水を介在させない方法で行うことが好ましい。また真空ベントを設けたり、ギヤポンプ等を介したりしても良い。更に、ペレット化することなく、直接製膜に付する方法、例えば、溶融混練して得られた組成物をそのままギヤポンプ等を介してTダイに送って製膜する方法を使用することもできる。
【0042】
本発明のフィルムは肉厚が1〜1000μmであるのが好ましい。より好ましくは10〜500μmであり、さらに好ましくは20〜200μmである。薄過ぎるフィルムでは、腰/剛性が不十分となり、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタにおける蓄電要素が封入された容器内への組込み作業に手間がかかる。厚過ぎるフィルムでは、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタにおける上記容器内の僅かな空隙に配置することが出来なくなる。
【0043】
本発明のフィルムは、気体酸素の不存在下で一酸化炭素を二酸化炭素に酸化して吸着することができるとともに耐熱性に優れ、非水電解質二次電池や電気二重層キャパシタにおける蓄電要素が封入された容器中での使用において特に有用である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1〜4および比較例1〜13
表1に示す配合量(質量部)の成分をドライブレンドし、これを、(株)日本製鋼所の二軸押出機TEX28により溶融混練した後、そのままギヤポンプを介して、東芝機械株式会社製の単層Tダイへと送って製膜し、膜厚50μmのフィルムを得た。二軸押出機出口樹脂温度は220℃であり(真空ベント使用)、ギヤポンプ出口樹脂温度は220℃であった。また、製膜は、Tダイ出口樹脂温度220℃、チルロール温度40℃、引取速度10m/分の条件で真空ベントを使用して行った。得られたフィルムは、露点温度−50℃以下にしたガス置換型グローブボックス(アズワン株式会社のSG−1000)の中に保管した。得られたフィルムについて、以下の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
(1)フィルム外観
A4サイズに裁断したフィルム5枚を目視で観察し、以下の基準で判定した
○:発泡および穴開きがなく、直径0.1mm以上のブツもない
△:発泡および穴開きがなく、直径0.5mm以上のブツもないが、直径0.1mm〜0.5mm未満のブツが1〜10個ある
×:発泡または穴開きがあり、直径0.5mm以上のブツもある
【0047】
(2)膜厚安定性
フィルム幅の中心付近についてマシン方向に2cm毎に20個所の膜厚を測定し、その標準偏差が1.5μm以下を「○」、1.5μmを超えて3.0μm以下を「△」、3.0μmを超えるものを「×」とした。
【0048】
(3)窒素/一酸化炭素混合気体中での一酸化炭素および二酸化炭素の濃度変化
テトラバックに1000cmのフィルムを入れ、255mLの窒素を充填した。ここに45mLの一酸化炭素を注入した(一酸化炭素の計算濃度:15vol%)。これを24時間、常温、常圧で放置した後、一酸化炭素濃度および二酸化炭素濃度をガスクロマトグラフにより測定した。測定値を表1に示す。
なお、テトラバックからはガスが少しずつ透過して抜けるため、同時にブランク(上記フィルムを使用しない場合)の測定も行ったところ、24時間後の一酸化炭素濃度は14.1vol%であり、二酸化炭素は検出されなかった。
【0049】
(4)空気/一酸化炭素混合気体中での一酸化炭素および二酸化炭素の濃度変化
上記(3)の試験おいて、255mLの窒素の代わりに255mLの空気(窒素/酸素=80/20(体積比))を用いた以外は試験(3)と同様に測定を行った。ブランクでの一酸化炭素濃度は14.2vol%であり、二酸化炭素は検出されなかった。
【0050】
(5)窒素/二酸化炭素混合気体中での二酸化炭素の濃度変化
二酸化炭素は透過性が高いため、フィルムによる二酸化炭素の吸着能の測定を行った。上記(3)の試験おいて、45mLの一酸化炭素を注入する代わりに、45mLの二酸化炭素を注入した以外は試験(3)と同様にして、二酸化炭素濃度の測定を行った。ブランクでの二酸化炭素濃度は12.3vol%であった。
【0051】
(6)耐熱性
株式会社東洋精機製作所のHG−100型ヒートシール試験機を用い、80〜130℃の所定のシール温度でフィルムをそのマシン方向がT字剥離試験の引張方向になるように融着した(4秒間、圧力0.2MPa)。次いで、T字剥離試験を、株式会社東洋精機製作所のAE−CT型引張試験機を使用し、引剥幅25mm、引剥速度100mm/分、引剥角度180°で行った。より高いシール温度まで○判定になるものが耐熱性の良いフィルムである。
○:全くあるいは殆ど融着していない(引剥強度<0.1N/25mm)
△:僅かに融着している(引剥強度0.1〜2.0N/25mm)
×:融着している(引剥強度>2.0N/25mm)
【0052】
使用した材料は以下の通りである。
成分(A−1)
KF271:日本ポリエチレン(株)製、直鎖状低密度ポリエチレン、Tm=127℃、ΔH=127J/g、Xc110=26%、Xc120=23%、MFR=2.4g/10分、密度913kg/m
【0053】
比較成分(A−1)
F−730NV:プライムポリマー(株)製、プロピレンランダムコポリマー、Tm=139℃、Xc120=66%、MFR=7g/10分
SP4530:プライムポリマー(株)製、高密度ポリエチレン、Tm=132℃、ΔH=185J/g、Xc110=80%、Xc120=72%、MFR=2.8g/10分、密度942kg/m
KS571:日本ポリエチレン(株)製、超低密度ポリエチレン、Tm=96℃、ΔH=110J/g、Xc110=0%、MFR=12.0g/10分、密度907kg/m
KF360:日本ポリエチレン(株)製、超低密度ポリエチレン、Tm=111℃、ΔH=92J/g、Xc110=5%、MFR=3.5g/10分、密度898kg/m
20200J:プライムポリマー(株)製、直鎖状低密度ポリエチレン、Tm=120℃、ΔH=137J/g、Xc110=43%、MFR=18.5g/10分、密度918kg/m
【0054】
成分(A−2)
アドマーXE070:三井化学(株)製、無水マレイン酸変性エチレン系重合体、MFR=3 g/10分
【0055】
成分(B)
ホプカライト:ジーエルサイエンス(株)製の複合金属酸化物触媒(CuMn)、乳鉢で粉砕・分級したもの、D99=12μm、D50=3μm
5%Pdアルミナ粉末:エヌ・イー・ケムキャット(株)製の金属酸化物担持貴金属触媒、粗粉を分級したもの、D99=28μm、D50=15μm
【0056】
比較成分(B)
ホプカライト/粗粉入り:ジーエルサイエンス(株)製の複合金属酸化物触媒(CuMn)、十分な粉砕を行わず粗粉を含むもの、D99=102μm、D50=56μm
【0057】
成分(C)
ゼオラムA4 LPH:東ソー(株)製、A型ゼオライト(モレキュラーシーブ4A)、D99=20μm、D50=12μm
STO:堺化学工業(株)製、酸化ストロンチウム、粗粉を分級したもの、D99=18μm、D50=5μm
【0058】
その他の成分
LBT−77:堺化学工業(株)製、ポリエチレンワックス
【0059】
なお、上記F−730NVおよびSP4530については、DSC測定を、230℃で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱するという温度プログラムを使用して行った。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から明らかなように、本発明に従う実施例1〜4のフィルムは、外観、膜厚安定性および耐熱性に優れる。また、N−CO混合気体中およびN−O−CO混合気体中での24時間後の一酸化炭素濃度は1.1vol%以下であり、二酸化炭素は検出されなかった。これは、本発明のフィルムが、酸素の不存在下でも一酸化炭素を二酸化炭素に良好に酸化して二酸化炭素として吸着できることを示す。
【0062】
一方、成分(B)を含まない比較例1および2では、N−CO混合気体中およびN−O−CO混合気体中での24時間後の一酸化炭素濃度がブランクとほぼ同じであり、これは、一酸化炭素の二酸化炭素への酸化が行われなかったことを示す。成分(C)を含まない比較例3のフィルムは、一酸化炭素を二酸化炭素へ酸化することはできたが、二酸化炭素の吸着はできなかった。
【0063】
成分(B)を多量に配合した比較例4、成分(C)を多量に配合した比較例5および成分(B)として本発明の粒子径分布を有しないものを使用した比較例6では、製膜性が悪く、フィルムを得ることができなかったので、他の試験を行わなかった。
【0064】
成分(A−1)としてプロピレン系重合体を使用した比較例7のフィルムは、フィラーとしての成分(B)および(C)の分散が不充分で細かいブツが残り、膜厚安定性も悪かった。また、成分(A−1)としてΔHおよびXc110が高過ぎるものを使用した比較例8のフィルムも、フィラーの分散が不充分で細かいブツが残り、膜厚安定性も不十分であった。成分(A−1)としてMFRが高すぎるものを使用した比較例9のフィルムは、フィラーの分散が不充分で細かいブツが残り、膜厚安定性も悪かった。成分(A−1)として、Tmおよび/またはXc110が低過ぎるものを使用した比較例10および11のフィルムは、耐熱性に劣った。
【0065】
成分(A−2)の量が多すぎる比較例12のフィルムは、製膜時の押出負荷が非常に高く、吐出量が不安定になり、膜厚安定性に劣る。成分(A−2)を使用しなかった比較例13のフィルムは、フィラーの分散が不充分で製膜時に目脂が発生し、また、フィルムには細かいブツが残った。膜厚安定性も不十分であった。