特許第6042613号(P6042613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コルサム テクノロジーズ エルエルシーの特許一覧

<>
  • 特許6042613-中間的な熱膨張係数を有するガラス 図000010
  • 特許6042613-中間的な熱膨張係数を有するガラス 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042613
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】中間的な熱膨張係数を有するガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20161206BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20161206BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C03C3/091
   H05B33/02
   H05B33/14 A
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-531105(P2011-531105)
(86)(22)【出願日】2009年10月6日
(65)【公表番号】特表2012-504548(P2012-504548A)
(43)【公表日】2012年2月23日
(86)【国際出願番号】US2009059607
(87)【国際公開番号】WO2010042460
(87)【国際公開日】20100415
【審査請求日】2012年10月9日
【審判番号】不服2015-3360(P2015-3360/J1)
【審判請求日】2015年2月23日
(31)【優先権主張番号】61/103,126
(32)【優先日】2008年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/177,827
(32)【優先日】2009年5月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/573,213
(32)【優先日】2009年10月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513193912
【氏名又は名称】コルサム テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CORSAM TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】エイトキン,ブルース ジー
(72)【発明者】
【氏名】エリソン,アダム ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】キクツェンスキー,ティモシー ジェイ
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 新居田 知生
【審判官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/020825(WO,A1)
【文献】 特開2007−284307(JP,A)
【文献】 特表2003−525830(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルパーセントで表して、
62から65%のSiO
10から12%までのAl
7から11%までのB
3から4.58%までのMgO、
3から5.48%のCaO、
3から3.74%のSrO、および
1から8%のMO、
を含み、Mが、K,Na,およびそれらの組合せから選ばれるアルカリ金属であり、200ポアズ(20パスカル秒)の粘度となる温度が1486.11〜1555.78℃であり、熱膨張係数が41.6〜59.6(×10−7/℃)であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
スロット・ドロー、またはフュージョン・ドローがなされたガラスであることを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項3】
シート形状であることを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項4】
請求項3記載のガラスを備えてなる有機発光ダイオード・デバイス。
【請求項5】
請求項3記載のガラスを備えてなる光起電性デバイス。
【請求項6】
前記ガラスに近接した能動的光起電性媒体をさらに備えてなる請求項5記載の光起電性デバイス。
【請求項7】
前記能動的光起電性媒体が、テルル化カドミウム、二セレン化銅インジウム・ガリウム、非晶質シリコン、結晶シリコン、微結晶シリコン、またはそれらの組合せを含むことを特徴とする請求項6記載の光起電性デバイス。
【請求項8】
50,000ポアズ(5,000パスカル秒)以上の液相線粘度を有することを特徴とする請求項1記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本願は、2008年10月6日付けで提出された米国仮特許出願第61/103126号および2009年5月13日付けで提出された米国仮特許出願第61/177827号に優先権を主張する2009年10月5日付けで提出された米国特許出願第12/573213号に優先権を主張する出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明の実施の形態は、一般的にアルミノ硼珪酸ガラスに関し、特に、光起電、フォトクロミック、エレクトロクロミック、または有機発光ダイオード(OLED)照明の用途に有用な低アルカリ・アルミノ硼珪酸ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0003】
フュージョン成形法(fusion forming process)は一般に、例えば液晶テレビのための受像面ガラス等の電子的用途に用いられる基板等の多くの電子的用途に有用な理想的な表面特性および幾何学的特性を備えた平らなガラスを生産する。
【0004】
最近の10年間に亘るコーニング社のフュージョンガラス製品は、1737E(商標),1737G(商標),Eagle2000F(商標),EagleXG(商標),Jade(商標)ならびに1317番および2317番(GoriLLa Glass(商標))を含む。効率的な溶融は、約200ポアズ(P)(20パスカル秒)の溶融粘度に対応する温度において行われると一般に思われている。これらのガラスは一般に、1600℃を超える温度において200P(20パスカル秒)となり、この高い温度は、タンクおよび電極の加速された腐食、さらに高い清澄化装置の温度による清澄化に関するより大きな難関、および/または特に清澄化装置周辺の白金製機器の寿命の短縮と言い換えることができる。多くのものが3000ポアズ(300パスカル秒)において約1300℃を超える温度を有し、これは光スターラー(optical stirrer)に対する一般的な粘度であるために、この粘度における高い温度は、撹拌機の過度の摩耗およびガラス中の白金の損傷レベルの増大と言い換えることができる。
【0005】
上述のガラスの多くは、1200℃を超える供給温度を有し、この温度は、特に大サイズのガラスのためのアイソパイプの耐熱性材料のクリープを助長する。
【0006】
これらの属性は流動を制限するように組み合わさって(遅い溶融速度のために)、設備の劣化を加速させ、製品寿命よりもずっと短い期間で再構築を余儀なくさせ、欠陥排除のために、容認できない(ヒ素)、高価な(カプセル)または非現実的な(真空清澄化)解決法を余儀なくさせ、それ故に、ガラス製造コストに対して深刻な影響を与える。
【0007】
極端な性能を要求されない或る程度厚い、比較的低コストのガラスの用途においては、これらのガラスは、過剰性能であるばかりでなく、製造に途方もなくコストがかかる。むしろ常套的な特性を備えた低コストのガラスを製造するための一つの極めて良い方法であるフロート法によって競合する材料が作製される場合には、このことが特に当てはまる。大面積の光起電性パネルおよびOLED照明等のコストに厳しい用途においては、このコスト差は、LCD形式のガラスの価格を容認できないものにする大きな点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなコストを削減するためには、最大の全体的な原因(仕上げを別として)を抑圧することが有効であり、これらの原因の多くが、溶融および成形に用いられる温度に直接関係する。したがって、上述したガラスよりも低い温度において溶融するガラスが必要である。
【0009】
さらに、低温度用途、例えば光起電用途およびOLED用途に対して有用なガラスを持つことが有効であろう。さらに、これらの用途が節約しようとしているエネルギーを過剰に消費しない程度の低温の処理温度で作製できるガラスが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一つの実施の形態は、モルパーセントで、
60から65%までのSiO
8から12%までのAl
7から15%までのB
0を超え8%までのMO、および
9から15%までのRO、
を含むガラスであって、Mはアルカリ金属であり、かつRはアルカリ土金属であるガラスである。
【0011】
このようなガラスは、従来のガラスの上述した諸欠点のうちの一つまたはそれ以上を解決し、かつ下記の諸効果、すなわち、ガラスに添加されたアルカリが溶融を著しく加速し、より高い引出し速度およびより低い溶融温度を許容するという効果のうちの一つまたはそれ以上を提供する。また、これらのガラスは、例えばCdTe光起電性デバイスと良くマッチできるように熱膨張係数を高めることもできる。
【0012】
さらなる特徴および効果は、下記の詳細説明に記載されており、当業者であれば、記載されている説明内容およびその請求項のみでなく添付図面に記載された本発明を実施することによって、その一部が直ちに明らかになるであろう。
【0013】
上述の概略説明および後述の詳細説明は、単に本発明の例示に留まり、請求項に記載されている本発明の性質および性格を理解するための概観または骨組みの提供を目的とするものである。
【0014】
添付図面は、本発明をさらに理解するために備えられたものであって、本明細書に組み入れられ、かつ本明細書の一部分を構成するものである。図面は、一つまたはそれ以上の実施の形態を示し、記述内容とともに、本発明の原理および動作の説明に資するものである。
【0015】
本発明は、下記の詳細説明のみからも、添付図面とともにからも、理解されることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】推定された液相線粘度のグラフである。
図2】一つの実施の形態による光起電性デバイスの特徴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここで、本発明の種々の実施の形態について説明する。全図を通じて、同一または類似の要素には、可能な限り同一の参照符号が用いられている。
【0018】
ここで用いられている「基板」という用語は、起電性セルの構成を前提とする基板または上層の説明に用いられる。例えば、起電性セルに組み立てられた場合に、基板は上層であり、起電性セルの光入射側にある。この上層は、太陽スペクトルのうちの適当な波長の透過を許容しながら、光起電性材料を衝撃および環境劣化から防護することができる。さらに、多数の起電性セルを一つの起電性モジュール内に配列することができる。
【0019】
ここで用いられている「隣接した」という用語は、近い近接と定義することができる。隣接した複数の構造は互いに物理的に接触していても接触していなくてもよい。隣接した複数の構造は、別の層および/または構造をそれら間に配置することができる。
【0020】
ここで用いられている「平らな」という用語は、地形的にほぼ平らな表面を有するものとして定義される。
【0021】
実施の形態においては典型的な数値範囲が記載されているが、これらの範囲のそれぞれは、これらの範囲の両端点のそれぞれを含む範囲内の小数点以下の桁数を含む如何なる数値をも含む。
【0022】
ここで用いられているように、典型的な組成物の多価の成分が、例えば、Fe,SnO,As,Sbのように表わされている。これらの物質は、上記の酸化物としてバッチ化されているが、混合原子価または代替原子価(alternative valences)が用いられていてもよい。
【0023】
一つの実施の形態は、モルパーセントで、
60から65%までのSiO
8から12%までのAl
7から15%までのB
0を超え8%までのMO、および
9から15%までのRO、
を含むガラスであり、ここで、Mはアルカリ金属であり、Rはアルカリ土金属である。
【0024】
別の実施の形態は、モルパーセントで、
61から64%までのSiO
8から12%までのAl
9から15%までのB
0を超え4%までのMO、および
12から15%までのRO、
を含むガラスであり、ここで、Mはアルカリ金属であり、Rはアルカリ土金属である。
【0025】
別の実施の形態は、モルパーセントで、
60から65%までのSiO
8から10%未満までのAl
11を超え15%までのB
0を超え1%未満までのMO、および
9から15%までのRO、
を含むガラスであり、ここで、Mはアルカリ金属であり、Rはアルカリ土金属である。
【0026】
別の実施の形態は、モルパーセントで、
60から65%までのSiO
10から12%までのAl
7から11%までのB
1から8%までのMO、および
9から15%までのRO、
を含むガラスであり、ここで、Mはアルカリ金属であり、Rはアルカリ土金属である。
【0027】
一つの実施の形態において、Mは、Li,Na,K,Rb,Csおよび一つのこれらの組合せから選ばれたアルカリ金属である。いくつかの実施の形態において、Mは、Li,K,Csおよびこれらの組合せから選ばれる。
【0028】
一つの実施の形態において、RはMg,Ca,Sr,Baおよびこれらの組合せから選ばれる。いくつかの実施の形態において、RはMg,Ca,Srおよびこれらの組合せから選ばれる。
【0029】
別の実施の形態によれば、ガラスはBaOを実質的に含んでいない。例えば、BaOの含有量は0.05モル%以内、例えばゼロモル%である。
【0030】
いくつかの実施の形態において、ガラスはSb、Asまたはこれらの組合せを実質的に含んでおらず、例えば、ガラスは0.05モル%以内のSbまたはAsまたはこれらの組合せを含む。例えばガラスは、ゼロモル%のSbまたはAsまたはこれらの組合せを含むことができる。
【0031】
いくつかの実施の形態において、ガラスは60から65モル%までのSiOを含む。いくつかの実施の形態において、ガラスは61から64モル%までのSiOを含む。いくつかの実施の形態において、ガラスは62から64モル%までのSiOを含む。
【0032】
別の実施の形態において、ガラスは0.01から0.4モル%までのSnOを含む。
【0033】
一つの実施の形態によるガラスは、モル%で、
62から65%までのSiO
10から12%までのAl
7から11%までのB
3から8%までのMgO、
3から10%までのCaO、
3から8%までのSrO、および
1から8%までのMO、
を含み、ここでMは、K,Naおよびこれらの組合せから選ばれたアルカリ金属であり、その場合、CaO/(CaO+SrO)が0.4から1までである。
【0034】
一つの実施の形態において、ガラスは圧延可能である。一つの実施の形態において、ガラスはダウン・ドロー可能である。ガラスは例えばスロット・ドローまたはフュージョン・ドローが可能である。別の実施の形態によれば、ガラスはフロート法で形成可能である。
【0035】
ガラスは、2モル%以内のTiO,MnO,ZnO,Nb,MoO,Ta,WO,ZrO,Y,La,HfO,CdO,SnO2,Fe,CeO,As,Sb,Cl,Br,Pまたはこれらの組合せを含むことができる。
【0036】
上述のように、いくつかの実施の形態によるガラスは、7から15モル%までの、例えば7から11モル%までのBを含む。Bは、溶融温度を下げるために、液相線温度を下げるために、液相線粘度を高めるために、そしてBを含まないガラスに比較して機械的耐久性を改善するためにガラスに添加される。
【0037】
また、上述のように、いくつかの実施の形態によるガラスは、Rがアルカリ土金属である場合に、9から15モル%までのROを含む。このガラスは、例えば1から8モル%のMgOを含むことができる。MgOは、溶融温度を下げ、かつ歪点を高めるために添加されることができる。MgOは不都合にも、他のアルカリ土金属酸化物(例えばCaO,StO,BaO)に比較してCTEを低下させる欠点があり得るので、CTEを所望の範囲内に保つために別の調整が行なわれる。適当な調整の例は、CaOを犠牲にしてSrOを増やし、アルカリ酸化物濃度を増大させ、かつより小さいアルカリ酸化物(例えばNaO)の全体または一部を、より大きいアルカリ酸化物(例えばKO)に置換することを含む。
【0038】
いくつかの実施の形態において、これらのガラスは1〜9モル%のCaOを含む。アルカリ酸化物またはSrOに比較して、CaOはより高い歪点、より低い密度およびより低い溶融温度に寄与する。CaO、特に灰長石(CaAlSi)は、或る種の可能性のある失透相の主要な成分であり、この相は、類似のナトリウム相である曹長石(NaAlSi)とともに完全な固溶体を有する。高いNaおよびCaの含有量は、それだけ見ると液相線温度を容認できないほど高める原因となり得る。しかしながら、極めて安価な材料である石灰石を含むCaOに関する化学原料は、高容量低コストが要因である範囲内で、他のアルカリ土類酸化物に比較してCaO含有量を妥当に達成可能な程高くすることが一般に有用である。
【0039】
いくつかの実施の形態において、これらのガラスは、0から5モル%までのSrOを含むことができる。いくつかの実施の形態において、勿論他のバッチ材料中に汚染物質として存在することが可能であるが、これらのガラスは故意でなくバッチ化されたSrOを含む。SrOは、より高い熱膨張係数の原因となり、SrOとCaOの相対比率を操作して、液相線温度を、したがって液相線粘度を改善することができる。歪み点の改善に関しては、SrOはCaOまたはMgOのように効果的ではなく、かつこれらの何れかをSrOと置換すると、溶融温度を高める傾向がある。
【0040】
いくつかの実施の形態において、このガラスは、下記の式のうちの一つまたはそれ以上を満足する。すなわち、
1.0≦(MO+RO)/Al≦2、かつ
0.4≦CaO/(CaO+SrO)≦1
上記比(MO+RO)/Alは、1.0よりも大きい方が、最初の溶融工程においてガラスから気泡を除去する助けとなる。これは、Alの安定化には含まれないアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物が、一般には市販の珪砂であるシリカ源を分解するのに有効であるために生じる。気泡の核生成および成長のための場所となるかも知れない表面領域がそれ故に早期に融解して除去され、比較的気泡の無いガラスが得られる。
【0041】
上記比CaO/(CaO+SrO)は、液相線温度(したがって液相線粘度)と溶融温度との間の良好なバランスを得るために、0.4と1.0との間に効果的に保たれる。例えば、低いアルカリ濃度および高いSrO濃度を有する組成物は、比較的高い溶融温度を有し、もしSrO濃度が高過ぎる場合には、より多いアルカリ酸化物およびより低いSrO濃度を有するガラスに比較して液相線温度が高められる。しかしながら、他の全ての濃度が固定されている場合には、0.4と1との間の比CaO/(CaO+SrO)において液相線温度における極小値が得られることが多い。
【0042】
また、上述のように、いくつかの実施の形態によるガラスは、ゼロを超え8モル%までのMO、例えば0.05から8モル%までのMO、0.1から8モル%までのMO、0.5から8モル%までのMO、1から8モル%までのMOを含み、ここでMは一つまたはそれ以上のアルカリ陽イオンLi,Na,K,RbおよびCsである。いくつかの実施の形態において、問題のアルカリは、Li,KおよびCsまたはこれらの組合せが望ましい。アルカリ陽イオンはCTEを急角度で高めるが、歪み点も低下させ、添加量に応じて溶融温度を高める。CTEに対して最も効果のないアルカリ酸化物はLiOであり、最も効果のあるアルカリ酸化物はCsOである。上述のように、ナトリウムは、本発明のガラスの可能性のある失透相の一つに関与し、かつこの影響を弱めるために他の成分の調整、例えば比CaO/(CaO+SrO)が用いられるが、この傾向はナトリウムを他のアルカリに置換しても、あるいはナトリウム単独の代わりに他のアルカリとの混合物を用いても効果的である。もし高容量低コストが重要であれば、アルカリ酸化物をNaOおよびKOまたはそれらの組合せに限定することが同様に可能であることが望ましい。
【0043】
いくつかの実施の形態によるガラスは、多くの他の成分をさらに含有することができる。例えばこれらのガラスは、SnO,Fe,MnO,CeO,As,Sb,Cl,Brまたはこれらの組合せを含むことができる。これらの材料は、清澄化剤(例えば、ガラスの製造に用いられる溶融バッチ材料からのガス状含有物の除去を容易にするために)として、および/またはその他の目的で添加されることができる。いくつかの実施の形態において、これらのガラスは、SnO(例えば酸化物を基準とするモル%で計算した場合に0.02〜0.3のSnO等)およびFe(例えば酸化物を基準とするモル%で計算した場合に、0.005から0.08までのFe、0.01から0.08までのFe等)を含む。実例として、いくつかの実施の形態において、これらのガラスはSnOおよびFeを含み、その場合に酸化物を基準とするモル%で、
0.02≦SnO≦0.3、かつ
0.005≦Fe≦0.08。
【0044】
いくつかの実施の形態において、これらのガラスは0.05モル%未満のSb,Asまたはこれらの組合せを含む。いくつかの実施の形態において、これらのガラスは、SnO,Fe,CeO,Cl,Brまたはこれらの組合せを含み、かつ0.05%未満(例えば0.04%未満、0.03%未満、0.02%未満、0.01%未満等)のモル%のSb,Asまたはこれらの組合せを含む。いくつかの実施の形態において、これらのガラスは、SnOおよびFeを含み、かつ0.05モル%未満(例えば0.04モル%未満、0.03モル%未満、0.02モル%未満、0.01モル%未満等)のSb,Asまたはこれらの組合せを含む。いくつかの実施の形態において、これらのガラスは、SnOおよびFeを含み、その場合に、酸化物を基準としたモル%で、
0.02≦SnO≦0.3、かつ
0.005≦Fe≦0.08
を含み、かつ0.05モル%未満のSb,Asまたはこれらの組合せを含む。
【0045】
いくつかの実施の形態によるこれらのガラス(例えば上述のガラスの何れか)は、例えば、これらのガラスが清澄化剤としてClおよび/またはBrを含む場合のように、F,ClまたはBrを含むことができる。例えばガラスはモル%で計算した場合に、F+Cl+Br≦0.4となるように、すなわちF+Cl+Br≦0.3、F+Cl+Br≦0.2、F+Cl+Br≦0.1、0.001≦F+Cl+Br≦0.4および/または0.005≦F+Cl+Br≦0.4となるように、フッ素、塩素および/または臭素を含むことができる。実例として、いくつかの実施の形態において、このガラスは、酸化物を基準とするモル%で計算した場合に、0.02≦SnO≦0.3、0.005≦Fe≦0.08、およびF+Cl+Br≦0.4となるように、SnOおよびFeを含み、かつ随意的にフッ素、塩素および/または臭素を含み、いくつかの実施の形態において、このガラスは、酸化物を基準としてモル%で計算した場合に、0.02≦SnO≦0.3、0.005≦Fe≦0.08,およびF+Cl+Br≦0.4となるように、かつこのガラスが、0.05モル%未満の(例えば、0.04モル%未満、0.03モル%未満、0.02モル%未満、0.01モル%未満)のSbおよびAsまたはそれらの組合せを含むように、SnOおよびFeを含み、かつ随意的にSb、As、フッ素、塩素および/または臭素を含む。
【0046】
いくつかの実施の形態によるガラスはBaOを含む。いくつかの実施の形態において、これらのガラスは0.1モル%未満のBaOを含む。
【0047】
いくつかの実施の形態によるガラスは、商品として調製されたガラス中に一般的に見られるように、複数の汚染物質をさらに含んでいる可能性がある。これに加えて、またはこれの代わりに、他のガラスの成分との調整が必要ではあるが多くの他の酸化物(例えば、TiO,MnO,ZnO,Nb,MoO,Ta,WO,ZrO,Y,La,P等)を、それらの溶融および成形特性と妥協することなしに添加することが可能である。本発明のいくつかの実施の形態によれるガラスがそのような他の酸化物を含む場合に、そのような他の酸化物は、その使用量のために組成が上述の範囲外にならない限り、より多い量を使用して差し支えないが、このような他の酸化物のそれぞれは、一般に2モル%を超えない量で存在し、かつそれらの全体の合計濃度は一般に5モル%以下である。いくつかの実施の形態によるガラスは、バッチ材料と関連した、および/またはガラスの生産に用いられる溶融、清澄化および/または成形機器によってガラス中に導入される数々の汚染物質(例えばZrO)を含んでいる可能性がある。
【0048】
いくつかの実施の形態によるガラスはダウン・ドローが可能である、すなわち、ガラス製造分野における当業者に知られているフュージョン・ドロー法(fusion draw process)およびスロット・ドロー法(slot draw method)等の、しかしながらこれらに限定されないダウン・ドロー法を用いてシートに成形されることが可能である。このようなダウン・ドロー法は、板ガラス、例えばディスプレー用ガラス、またはイオン交換用ガラスの大量生産に用いられる。
【0049】
上記フュージョン・ドロー法は、溶融ガラス原材料を収容するためのチャネル(流路溝)を有するアイソパイプを用いる。上記チャネルは、このチャネルの全長に沿って頂面が開口している堰をチャネルの両側壁に備えている。このチャネルが溶融ガラスで満たされると、溶融ガラスは両堰を溢れ出る。溶融ガラスは重力によってアイソパイプの両外側表面を流れ降る。これらの外側表面は、下方へかつ内方へ延在するので、アイソパイプの下部エッジにおいて交わっている。二条のガラス流はこの下部エッジにおいて交わりかつ融合して流動する一条のガラスシートを形成する。このフュージョン・ドロー法は、二条のガラスフィルムがチャネルを流れ越えて一体に融合するので、完成したガラスシートの表面が装置の何れの部分にも接触することがないという利点を提供する。したがって、表面特性がそのような接触によって悪影響を受けることはない。
【0050】
上記スロット・ドロー法は上記フュージョン・ドロー法と明白に異なっている。ここでは、溶融原料ガラスは導管に供給される。この導管の底は開口スロットを備えており、このスロットは、スロットの全長に亘って延びるノズルを備えた一辺の寸法が他の辺の寸法よりも長い。溶融状態のガラスは、上記スロット/ノズルを流れ抜け、そこを通過する一条の連続的なシートとしてアニール領域内へ引き出される。このスロット・ドロー法は、フュージョン・ダウン・ドロー法のように二条のシートが融合されるのではなく、一条のシートのみがスロットを通って引き出されるので、フュージョン・ドロー法と比較して、より薄いシートを提供する。
【0051】
ダウン・ドロー法と相性を良くするために、ここで説明されているアルミノ硼珪酸塩ガラスは高い液相線粘度を有する。一つの実施の形態において、このガラスは50,000ポアズ(5,000パスカル秒)以上の、例えば150,000ポアズ(15,000パスカル秒)以上の、例えば500,000ポアズ(50,000パスカル秒)以上の液相線粘度を有する。ガラスの液相線粘度は、液相線温度と軟化点との間の差と密接な相関関係がある。この相関関係は、図1における線10によって示されている。ダウン・ドロー法に関しては、ガラスが約230℃未満の、好ましくは200℃未満の液相線温度−軟化点温度を有することが好ましい。
【0052】
したがって、一つの実施の形態において、上記ガラスは600℃以上の、例えば620℃以上の歪み点を有する。いくつかの実施の形態において、ガラスは38×10−7以上の、例えば40×10−7以上の、例えば45×10−7以上の熱膨張係数を有する。
【0053】
一つの実施の形態によるガラスは620℃以上の歪み点および/または45×10−7以上の熱膨張係数を有することができる。
【0054】
一つの実施の形態によれば、上記ガラスが一種類以上のアルカリイオンの塩を含む塩浴中でイオン交換される。このガラスはイオン交換されてその機械的特性を変えることができる。例えば、リチウムまたはナトリウム等の、より小さいアルカリイオンは、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウム等の一種類以上の、より大きいアルカリイオンを含む溶融塩中でイオン交換されることが可能である。もし歪み点よりも十分低い温度において十分長い時間の間に行なわれると、より大きいアルカリが塩浴からガラスの表面内へ移動し、かつより小さいアルカリがガラスの内部から塩浴中へ移動するという拡散分布を形成する。サンプルが取り出されると、その表面は圧縮力を受け、破壊に対して高められた強靭性を生成させる。このような強靭性は、光起電性格子が霰に曝される等の悪環境条件にガラスが曝された場合に望ましい。すでにガラス内にある、より大きいアルカリは、塩浴中において、より小さいアルカリと交換されたものである。もしこれが歪み点に近い温度において実施された場合には、そして、もしガラスが取り出されかつその表面が急速に高温に加熱され、かつ急速に冷却されると、ガラスの表面は焼き戻しによって導入された高い圧縮応力を示すであろう。これもまた悪環境条件に対する防御手段を提供する。銅、銀、タリウム等を含む何れの1価の陽イオンも、既にガラス中あるアルカリと交換が可能であり、かつこれらは、発光に対する色彩の導入、または光トラップのために高められた屈折率を有する層の導入等の最終用途に対する潜在的な価値を有する属性をも導入するものであることが当業者には明らかであろう。
【0055】
別の実施の形態によれば、ガラスは、フロート形成ガラスの分野で知られているようにフロート形成されることができる。
【0056】
一つの実施の形態において、ガラスはシートの形態で形成される。シートの形態のガラスは焼き戻しされることができる。
【0057】
一つの実施の形態において、有機発光ダイオード・デバイスはシートの形態のガラスを備えている。
【0058】
一つの実施の形態において、光起電性デバイスはシートの形態のガラスを備えている。この光起電性デバイスは、例えば基板として、および/または上層板として、1枚以上のガラスシートを備えることができる。一つの実施の形態において、ガラスシートは実質的に平らである。一つの実施の形態によれば、ガラスシートは透明である。
【0059】
いくつかの実施の形態において、ガラスシートは4.0mm以下の、例えば3.5mm以下の、例えば3.2mm以下の、例えば3.0mm以下の、例えば2.5mm以下の、例えば2.0mm以下の、例えば1.9mm以下の、例えば1.8mm以下の、例えば1.5mm以下の、例えば1.1mm以下の、例えば0.5mmから2.0mmまでの、例えば0.5mmから1.1mmまでの、例えば0.7mmから1.1mmまでの厚さを有する。これらは典型的な厚さであるが、ガラスは0.1mmから4.0mmまでの、そして4.0mmを含む範囲内の、小数点以下の桁を含む如何なる数値の厚さをも有することができる。
【0060】
別の実施の形態において、上記光起電性デバイスは、1枚のガラスシートと、このガラスシートに近接した能動的光起電性媒体とを備える。
【0061】
この能動的光起電性媒体は、例えば非晶質シリコン層および微結晶シリコン層からなる多重層を備えることができる。
【0062】
一つの実施の形態に置いて、上記能動的光起電性媒体は、テルル化カドミウム、二セレン化銅インジウム・ガリウム、非晶質シリコン、結晶シリコン、微結晶シリコン、またはそれらの組合せを含む。
【0063】
図2に示されている別の実施の形態は、前述した何れかのガラス成分を含むガラスシート12およびこのガラスシートに近接した能動的光起電性媒体16を備えた光起電性デバイス200を特徴とし、上記能動的光起電性媒体はテルル化カドミウムを含む。一つの実施の形態によれば、上記ガラスシートは前述のような厚さを有する。上記光起電性デバイスは、上記ガラスシートに近接した、またはガラスシート上に配置された透明な導電性酸化物等の導電性層14をさらに備えている。
【0064】
一つの実施の形態において、電圧変色性デバイスはシート形態のガラスを備えている。この電圧変色性デバイスは、例えば電圧変色性窓であり得る。
【実施例】
【0065】
以下は、表1に示された、本発明の一つの実施の形態による典型的なガラスのサンプルを如何にして作製するかの一例である。この組成は、表7におけるNo.46の組成に対応する。
【表1】
【0066】
いくつかの実施の形態において、無視できない濃度においていくつかの混入成分が存在するので、合計は100%に達していない。
【0067】
表2に示されたバッチ材料は、秤量されかつ4リットルのプラスチック容器内に加えられた。
【表2】
【0068】
上記バッチにおいて、石灰石は、原料によっては混入成分を含み、および/または、例えばMgOおよび/またはBaO等の一種類以上の酸化物の量が変化する可能性があることを理解すべきである。珪砂は、少なくとも80質量%が例えば60メッシュを、例えば80メッシュを、例えば100メッシュを通過することが効果的である。この実施例において添加するSnOは、確実に他の成分と均質に混合されるように10重量%のレベルで珪砂と予め混合した。バッチ材料を収容した瓶をタンブラに取り付け、バッチ材料を、均質なバッチを形成しかつ軟らかい塊がバラバラに壊れるように混合した。この混合されたバッチを、1800ccの白金坩堝に移し、高温のセラミック支持体内に配置した。支持体内に容れた白金坩堝を1550℃でアイドリングしているグローバー炉内に装填した。6時間後、坩堝+支持体を取り出し、溶融ガラスを鋼板等の冷たい表面上に注いで1枚の小円盤を作製し、次いで670℃の温度に保たれているアニーラへ移した。このアニーラ内において上記ガラス小円盤を上記温度で2時間保持し、次いで1℃/分の割合で室温まで冷却した。
【0069】
表3、表4、表5、表6、表7および表8は、本発明の実施の形態による典型的なガラスを示し、上述の実施例によって作成された。いくつかのガラスに関する特性データも表3、表4、表5、表6、表7および表8に示されている。
【0070】
940℃の低い液相線温度を考えると、かつそれ故に、表8に示されたガラス49の5,000,000ポアズ(500,000パスカル秒)を超える極めて高い液相線粘度は、光起電性素子のためのガラス等の用途には効果的である。表8に示された典型的なガラスは、モル%で、
62から64%までのSiO
8から12%までのAl
9から15%までのB
0を超え4%までのMO、および
12から〜15%までのRO、
ここで、Mはアルカリ金属であり、Rはアルカリ土金属である。
【0071】
さらに、表8に示されたガラスは640℃以上のアニール点と、40〜50×10−7/℃の熱膨張係数(CTE)と、1550℃以下の温度で200ポアズ(20パスカル秒)と、500,000ポアズ(50,000パスカル秒)以上の液相線粘度を有する。液相線粘度は、KOの含有量に左右され、例えば、例示されているガラス49は、ガラス48,50および51に比較した場合に、中間的なKOの含有量に対して5,000,000ポアズ(500,000パスカル秒)を超える最高値を有する。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0072】
本発明によるガラス中のアルカリと、低い溶融温度とが組み合わさって、高温に再加熱された場合の機械的、寸法的安定性を含む他に負けない特性を確保しながら、アルカリを含まない他のガラスと比較して加速された溶融を、したがって大容積、低コスト溶融および成形を可能にする。これらのガラスは、熱的安定性、大容積および低コストが望ましい基板の条件である大容積シートガラスの用途に、特にOLED発光素子およびテルル化カドミウム(CdTe)光起電性素子の用途に適切である。
【0073】
本発明の精神または範囲から離れることなしに、本発明に対して種々の変形および変更が可能なことは、当業者には明らかであろう。したがって本発明は、添付の請求項およびそれらの均等物の範囲内で行なわれた本発明の変形および変更をカバーすることを意図するものである。
【符号の説明】
【0074】
12 ガラスシート
14 導電性層
16 光起電性媒体
200 光起電性デバイス
図1
図2