特許第6042626号(P6042626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042626
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】透磁率可変素子および磁力制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/00 20060101AFI20161206BHJP
   H01F 1/40 20060101ALI20161206BHJP
   H01F 1/28 20060101ALI20161206BHJP
   H01F 3/10 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01F1/00 Z
   H01F1/00 A
   H01F1/28
   H01F3/10
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-59046(P2012-59046)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-197105(P2013-197105A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】上運天 昭司
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−228227(JP,A)
【文献】 特開2007−006465(JP,A)
【文献】 特開2002−268259(JP,A)
【文献】 特開2006−304584(JP,A)
【文献】 特開2008−306133(JP,A)
【文献】 特開2007−142157(JP,A)
【文献】 特開昭63−037810(JP,A)
【文献】 特開2013−120761(JP,A)
【文献】 特開2012−119414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00
H01F 1/28
H01F 1/40
H01F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機半導体または有機半導体からなるマトリックス中に多数の磁性ナノ粒子を分散させた磁性ナノコンポジット膜と、
この磁性ナノコンポジット膜に電界を印加する電界印加手段とからなり、
前記磁性ナノコンポジット膜に電界を印加することにより、前記磁性ナノ粒子間の相互作用を変化させて、前記磁性ナノコンポジット膜の磁気特性を変化させることを特徴とする透磁率可変素子。
【請求項2】
請求項1に記載の透磁率可変素子において、
前記電界印加手段は、
前記磁性ナノコンポジット膜の上面または下面の少なくとも一方の面に形成された絶縁膜と、
この絶縁膜を挟んで前記磁性ナノコンポジット膜と対向するように前記絶縁膜上に形成された電極膜とを備え、
前記電極膜への電圧印加により前記磁性ナノコンポジット膜へ電界を印加することを特徴とする透磁率可変素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の透磁率可変素子において、
前記磁性ナノ粒子は、単磁区であり室温付近で超常磁性を示すことを特徴とする透磁率可変素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の透磁率可変素子において、
前記磁性ナノ粒子は、Fe,Co,Niのうち少なくとも1つを含む材料からなることを特徴とする透磁率可変素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の透磁率可変素子において、
前記磁性ナノ粒子は、粒径が2〜20nmであり、磁性ナノ粒子同士の粒子表面間距離が0.5〜5nmであることを特徴とする透磁率可変素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の透磁率可変素子において、
前記磁性ナノ粒子は、その外周部に保護層が形成されていることを特徴とする透磁率可変素子。
【請求項7】
請求項に記載の透磁率可変素子において、
さらに、前記絶縁膜と接する面と反対側の磁性ナノコンポジット膜の面に形成された接地電極膜を備えることを特徴とする透磁率可変素子。
【請求項8】
請求項に記載の透磁率可変素子において、
前記磁性ナノコンポジット膜と前記絶縁膜と前記電極膜とを構成単位として、近接する2つの磁性ナノコンポジット膜が互いに向き合うようにして前記構成単位を複数積層し、前記2つの磁性ナノコンポジット膜の間に接地電極膜を設けることを特徴とする透磁率可変素子。
【請求項9】
永久磁石と、
この永久磁石と共に磁気回路を構成するヨークと、
前記磁気回路中に配置された単数または複数の、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の透磁率可変素子とを少なくとも備え、
前記透磁率可変素子は、前記磁気回路に対して並列配置、直列配置、あるいはブリッジ型配置のうち少なくとも1つの形態で配置されることを特徴とする磁力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透磁率可変素子、および透磁率可変素子を用いた磁力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に磁力の制御は、図9に示すように、軟磁性体から構成された磁気回路の一部に電磁石(コイル)を配置し、コイルに流す電流を制御することによって行われている。図9において、100はヨーク(継鉄)、101はコイル、102は磁力を印加する対象となる磁性体からなるワーク、103は磁束の流れ、104はワーク102に働く吸引力である。実際の使用では、例えば、ワーク102には図示しないバネなどが取付けられており、磁力とバネの力とのバランスでワーク102の位置が決まるようになっている。磁力制御の具体的な用途としては、ソレノイド、リレー、モータ、アクチュエータ、電磁バルブ、磁気ヘッドなどがある。コイルは安価で便利であるが、消費電力やサイズが大きく、また無駄な熱を大量に発生させるために効率が悪く、熱による周辺部品や磁力制御装置自体への影響も大きい。
【0003】
永久磁石を用いて、永久磁石と動作点(例えば、ワークの位置)との距離や磁気回路中に設けられたギャップ(空隙)の間隔を機械的に変化させることにより磁力を変化させる例もあるが、磁力に対抗する大きな力が必要である。また、軟磁性体の磁化がキュリー温度以上で消失することを利用して磁力をON/OFFさせて接点の開閉を行うサーモスタットも使用されているが、温度変化が必要であり、使用範囲も限定される。
【0004】
また、特許文献1には、永久磁石を磁力発生源とし、この永久磁石を含む磁気回路に配置した、キュリー温度の低い軟磁性体の温度を微小なヒータで加熱制御することによって透磁率を変化させる磁気ヘッドが開示されている。
特許文献2には、永久磁石を磁力発生源とし、この永久磁石を含む磁気回路に配置した磁歪素子に応力印加素子等によって応力をかけて磁歪素子を歪ませ、磁気特性(透磁率、磁気抵抗)を変化させることにより磁束を制御する磁気ドライブ機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−37810号公報
【特許文献2】特開2006−304584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のようにコイルを用いた一般的な磁力制御装置では、消費電力やサイズが大きく、また効率が悪く、周辺機器や磁力制御装置自体への熱影響も大きいという問題点があった。また、コイルが電磁ノイズの発生源になるという問題点があった。
また、永久磁石を用いて、永久磁石と動作点(例えば、ワークの位置)との距離や磁気回路中に設けられたギャップ(空隙)の間隔を機械的に変化させることにより磁力を変化させる磁力制御装置では、磁力に対抗する大きな力が必要になるという問題点があり、軟磁性体の磁化がキュリー温度以上で消失することを利用して磁力をON/OFFさせる磁力制御装置では、使用範囲が限定されるという問題点があった。
【0007】
また、特許文献1に開示された磁気ヘッドは、キュリー温度付近以上では使用できず、加熱に電力が必要であり、形状が大きくなる場合は消費電力が大きく、応答も遅くなるという問題点があった。
また、特許文献2に開示された磁気ドライブ機構では、磁歪素子を歪ませるために大きな力が必要であり、磁歪素子を歪ませることによって得られる透磁率変化量(磁気抵抗変化量)もわずかであり、効率が悪いという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、低消費電力で発熱が少ない磁力制御装置を実現することができる透磁率可変素子、およびこの透磁率可変素子を用いた磁力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透磁率可変素子は、無機半導体または有機半導体からなるマトリックス中に多数の磁性ナノ粒子を分散させた磁性ナノコンポジット膜と、この磁性ナノコンポジット膜に電界を印加する電界印加手段とからなり、前記磁性ナノコンポジット膜に電界を印加することにより、前記磁性ナノ粒子間の相互作用を変化させて、前記磁性ナノコンポジット膜の磁気特性を変化させることを特徴とするものである。
また、本発明の透磁率可変素子の1構成例において、前記電界印加手段は、前記磁性ナノコンポジット膜の上面または下面の少なくとも一方の面に形成された絶縁膜と、この絶縁膜を挟んで前記磁性ナノコンポジット膜と対向するように前記絶縁膜上に形成された電極膜とを備え、前記電極膜への電圧印加により前記磁性ナノコンポジット膜へ電界を印加することを特徴とするものである。
また、本発明の透磁率可変素子の1構成例において、前記磁性ナノ粒子は、単磁区であり室温付近で超常磁性を示す。
また、本発明の透磁率可変素子の1構成例において、前記磁性ナノ粒子は、Fe,Co,Niのうち少なくとも1つを含む材料からなる。
また、本発明の透磁率可変素子の1構成例において、前記磁性ナノ粒子は、粒径が2〜20nmであり、磁性ナノ粒子同士の粒子表面間距離が0.5〜5nmである
また、本発明の透磁率可変素子の1構成例において、前記磁性ナノ粒子は、その外周部に保護層が形成されている。
また、本発明の透磁率可変素子の1構成例は、さらに、前記絶縁膜と接する面と反対側の磁性ナノコンポジット膜の面に形成された接地電極膜を備えることを特徴とするものである。
また、本発明の透磁率可変素子の1構成例は、前記磁性ナノコンポジット膜と前記絶縁膜と前記電極膜とを構成単位として、近接する2つの磁性ナノコンポジット膜が互いに向き合うようにして前記構成単位を複数積層し、前記2つの磁性ナノコンポジット膜の間に接地電極膜を設けることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の磁力制御装置は、永久磁石と、この永久磁石と共に磁気回路を構成するヨークと、前記磁気回路中に配置された単数または複数の透磁率可変素子とを備え、前記透磁率可変素子は、前記磁気回路に対して並列配置、直列配置、あるいはブリッジ型配置のうち少なくとも1つの形態で配置されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低消費電力で発熱が少ない透磁率可変素子を実現することができ、周辺機器への熱影響を大幅に低減することができる。本発明では、透磁率可変素子にコイルを用いないため電磁ノイズの発生がない。そのため、本発明の透磁率可変素子を利用すれば、医療分野などでも利用しやすい磁力制御装置を実現することができる。また、本発明では、外部からの電磁ノイズの影響も受け難くなる。さらに、本発明では、従来の磁力制御装置のように大きな力を必要とせず、加熱も必要としないので、磁力制御装置の使用範囲を広げることができる。
【0012】
また、本発明では、磁性ナノ粒子の外周部に保護層を形成することにより、磁性ナノ粒子の酸化防止を実現することができる。
【0013】
また、本発明では、磁性ナノコンポジット膜と絶縁膜と電極膜とを構成単位として、構成単位を複数積層することにより、磁気特性を制御する効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る透磁率可変素子の構成を示す断面図である。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る透磁率可変素子の構成を示す断面図である。
図3】本発明の第3の実施の形態に係る透磁率可変素子の構成を示す断面図である。
図4】本発明の第4の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図である。
図5】本発明の第5の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図である。
図6】本発明の第6の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図である。
図7】本発明の第7の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図である。
図8】本発明の第8の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図である。
図9】従来の磁力制御装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の原理]
本発明の透磁率可変素子は、半導体からなるマトリックス(母材)中に磁性ナノ粒子が分散した磁性ナノコンポジット膜に(磁性ナノコンポジット膜の上面または下面の少なくとも一方の面に絶縁膜を介して電極膜を形成し、電極膜に接続された電圧印加手段で、)与える電界を制御することにより、半導体マトリックス中を動くことができるキャリア(電子や正孔)の密度(濃度)を変化させ、磁性ナノコンポジット膜中の磁性ナノ粒子間のキャリアを介した相互作用の強さを変化させて、磁性ナノコンポジット膜の透磁率(あるいは、磁気抵抗、磁化率、磁化の強さ)等の磁気特性を変化させるものである。
【0016】
マトリックスとなる半導体としては、無機物や有機物がある。無機半導体としては、例えばアモルファスシリコンやポリシリコン、アモルファス酸化物などがある。有機半導体としては、π共役系で電界によりキャリアを注入できるものであり、高分子系や低分子系があり、例えばポリアニリン、ポリアセン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセチレン、ペンタセンなどのポリマーや、これらの誘導体、複合体などがある。
【0017】
磁性ナノ粒子は、Fe,Co,Niの単体、または、そのうちの少なくとも1つを含む材料、具体的にはFe,Co,Niのうち少なくとも1つを含む化合物(例えば、Fe34)や合金(例えば、FeCo、NiFe)などからなる。磁性ナノ粒子は、単磁区であり、室温付近で超常磁性を示す粒径1〜40nm(より好ましくは2〜20nm)程度のものである。このような磁性ナノ粒子を0.1〜10nm(より好ましくは0.5〜5nm)程度の間隔でマトリックス中にほぼ均一に分散させて配置する。
【0018】
[磁性ナノコンポジット中の磁性ナノ粒子間のキャリアを介した相互作用]
以下、磁性ナノコンポジット中の磁性ナノ粒子間のキャリアを介した相互作用について説明する。マトリックス(母材)が無機半導体の場合、磁性ナノ粒子間の相互作用は、半導体中のキャリア(電子や正孔)を介して隣接する磁性ナノ粒子間で働く間接交換相互作用(RKKY相互作用)によるものである。つまり、本発明の透磁率可変素子は、半導体からなるマトリックス中に超常磁性の特性を示す磁性ナノ粒子が分散した磁性ナノコンポジット膜の上面または下面の少なくとも一方の面に絶縁膜を介して電極膜を形成し、電極膜に接続された電圧印加手段で磁性ナノコンポジット膜に与える電界を制御することにより、マトリックス中を動くことができるキャリア(電子や正孔)の密度を変化させ、磁性ナノコンポジット膜中の磁性ナノ粒子間のキャリアを介した間接交換相互作用(RKKY相互作用)の強さを変化させて、磁性ナノコンポジット膜の透磁率等の磁気特性を変化させるというものである。キャリア密度が増えると、相互作用は強くなる。
【0019】
電極膜に正電圧を与えると、絶縁膜近傍の半導体マトリックス中には電子が蓄積され、負電圧を与えると正孔が蓄積される。間接交換相互作用(RKKY相互作用)は、一般的に伝導電子を媒介としたスピン間の相互作用であり、例えば5〜10nm程度の距離まで作用し、粒子(表面)間距離の3乗に反比例する。また、粒子(表面)間距離に対してスピンの向きを平行(強磁性的)または反平行(反強磁性的)にする作用が余弦関数的に振動し、その作用の周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる。
【0020】
よって、磁性ナノ粒子間距離の設定に応じて、キャリアの増加により超常磁性→強磁性(透磁率大)に変化させたり、超常磁性→反強磁性(透磁率小)に変化させたりすることができる。まず、磁性ナノ粒子間が近い側では強磁性になり、磁性ナノ粒子間が離れていくと反強磁性になり、さらに離れていくと強磁性になる、というように余弦関数的に振動しながら作用が減衰していくため、大きな効果を得るためには、磁性ナノ粒子同士が接触または近接して磁性ナノ粒子同士の電子軌道が重なり、直接交換相互作用が起こる距離よりは離間した上で、出来るだけ粒子表面間を例えば、0.5〜2nm程度に近接させて動作させることが好ましい。
【0021】
[磁性ナノ粒子の超常磁性]
次に、磁性ナノ粒子の超常磁性について説明する。通常のバルクの強磁性体は静磁エネルギーを下げるため磁壁を作り磁区と呼ばれる多数の領域に分かれている多磁区構造となっているが、磁性体のサイズが数10〜数100nm程度以下になると、磁壁を作るエネルギーの方が大きくなるため磁区に分かれず単磁区構造をとるようになる。単磁区構造では、保磁力の最大値が現れる。
【0022】
超常磁性とは、さらに強磁性体粒子の径を数10nm程度以下にすると、各粒子の磁化方向を一定方向にして磁化の回転の障壁となる磁気異方性エネルギー(KuV)が熱振動エネルギー(KBT)より小さくなる(KuV<KBT)ため、粒子内では磁化方向は揃っているが粒子間では磁化方向がばらばらになっている性質のことを言う。ここで、Kuは結晶磁気異方性定数、Vは体積、KBはボルツマン定数、Tは温度である。超常磁性では、基本的に保磁力や磁化曲線のヒステリシスが無くなり、磁化の大きさは常磁性体よりも4〜5桁も大きく、飽和に要する磁界が小さい。超常磁性状態の磁性ナノ粒子を使用することによって、磁性ナノコンポジット膜の透磁率等の磁気特性を変化させやすくなり、磁気特性の変化の範囲も大きくなる。
【0023】
[磁性ナノ粒子間に働く相互作用全体]
ここで、磁性ナノ粒子間に働く相互作用の種類について詳細に説明しておく。まず、磁性ナノ粒子間に働く相互作用は大きく2つに分けられる。その1つは、ナノ構造に限らず磁気モーメントを持つすべての磁性体間で長距離にわたり作用する静磁気学的な「双極子間相互作用」である。マトリックスが非磁性・絶縁体の場合は、「双極子間相互作用」の影響が大きくなる。もう1つは、ナノ構造特有の量子力学的な相互作用である「直接交換相互作用」、「超交換相互作用」、「間接交換相互作用(RKKY相互作用)」、「2重交換相互作用」などである。
【0024】
「直接交換相互作用」は、隣接原子間の電子の重なりにより原子間のスピンの向きをそろえ強磁性や反強磁性を生み出す作用であり、その強さは「双極子間相互作用」よりも3桁程度大きいことが知られている。「直接交換相互作用」は、磁性ナノ粒子同士が接触、または磁性ナノ粒子表面間の距離が原子間距離の数倍程以下(例えば1nm程度以下)であり、磁性ナノ粒子間が磁性かつ導電性のマトリックス材料で分離されているようなときに作用する。
【0025】
「超交換相互作用」は、酸化物磁性体などにおける、酸素やハロゲンなどの陰イオンを媒介としたスピン相互作用であり、主として反強磁性的に働く。「超交換相互作用」によると、イオン間の角度が180度のときは反強磁性、90度のときは強磁性になることが報告されている。「間接交換相互作用(RKKY相互作用)」は、上述したとおりであり、磁性ナノ粒子間が非磁性・導電性のマトリックス材料で分離されているときに作用する。「2重交換相互作用」は、電子の移動と磁性が強く結びついて作用する。
【0026】
本発明の構成では「間接交換相互作用(RKKY相互作用)」の影響が主体的に働き磁気特性を変化させるが、「双極子間相互作用」の影響も含まれ、製造方法によっては磁性ナノ粒子同士の接触により「直接交換相互作用」の影響もわずかに含まれるかもしれない。磁気特性を変化させる効果の大きさは、「直接交換相互作用」の効果>「間接交換相互作用(RKKY相互作用)」の効果>>「双極子間相互作用」の効果、という大小関係になる。一方、効果が働く粒子間距離は、「直接交換相互作用」が働く距離<「間接交換相互作用(RKKY相互作用)」が働く距離<<「双極子間相互作用」が働く距離、という大小関係になる。
【0027】
よって、磁性ナノ粒子間距離の設定を適切に行うことにより、「直接交換相互作用」の発生を避け、「間接交換相互作用(RKKY相互作用)」が効果的に働くようにする。なお、長距離で作用する「双極子間相互作用」の場合は磁性ナノ粒子の中心間距離が対象になり、短距離で作用する「直接交換相互作用」、「間接交換相互作用(RKKY相互作用)」の場合は磁性ナノ粒子の表面間距離が対象になる。
【0028】
マトリックスが有機半導体の場合も基本的には上記の無機半導体の場合と同様に、電極膜に接続された電圧印加手段で磁性ナノコンポジット膜に与える電界を制御することにより、半導体マトリックス中を動くことができるキャリア(電子や正孔)の密度を変化させ、磁性ナノコンポジット膜中の磁性ナノ粒子間のキャリアを介した相互作用の強さを変化させて、磁性ナノコンポジット膜の透磁率等の磁気特性を変化させる。
【0029】
π共役系有機半導体には、多数のベンゼン環からなるアセン系の結晶性低分子化合物や、π結合と呼ばれる2重結合が交互に結合したπ共役系が1次元につながった高分子があり、いずれもπ電子と呼ばれる活性の高い電子を含んでおり、電界印加、化学処理、光照射などの方法によりドーピングができる。ただし、1次元鎖を持つ導電性高分子は、一般に電子系と格子系との相互作用が強く、シリコンなどの3次元の結晶とは異なり、単純に電子や正孔とはならず、広範な格子歪を伴ったソリトンやポーラロン状態が現れる(ポリアセチレンなどの縮退系ではソリトン、その他ほとんどの導電性高分子が該当する非縮退系ではポーラロン)。
【0030】
電気伝導の経路としては、分子鎖内、分子鎖間(ホッピング伝導)、フィブリルまたは粒子間(ホッピング伝導)の3種類がある。分子鎖内ではこのソリトンやポーラロンが電気伝導のキャリアとなる。ポーラロンは、+1/2または−1/2のスピンと+または−の電荷を持ち、ドーピング濃度が多くなると、スピンを持たないバイポーラロンになる場合とスピンを持つポーラロンペアになる場合とがある。バイポーラロンになるかポーラロンペアになるかは、電子相関も含めた安定性から決まる。本発明において、磁性ナノ粒子間の相関作用を起こしてスピンを平行に近づけて強磁性的な性質(または反平行に近づけて反強磁性的な性質)を誘起するためには、キャリアがスピンを持っていることが必要である。しかし、ポーラロンがバイポーラロンになり、磁性ナノ粒子間の相関作用が弱くなる効果を利用して磁気特性を変化させることも可能である。
【0031】
なお、磁性ナノコンポジット膜の代わりに、半導体に磁性を担う磁性元素(遷移元素、希土類元素等)を添加し、磁性元素で半導体の構成元素の一部を置換した半導体((希薄)磁性半導体)を使用することも考えられるが、透磁率などの磁気的特性が低く、ほとんどが低温でしか動作しないものであるため好ましくない。また、半導体からなるマトリックスのキャリア密度を電界により変化させる方法は、一般的なTFT(Thin Film Transister)においてキャリア密度を変化させる方法とほぼ同様であるが、TFTには磁性ナノ粒子は含まれていない。
【0032】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る透磁率可変素子の構成を示す断面図である。
本実施の形態の透磁率可変素子5は、基板1と、基板1上に形成されたマトリックス中に多数の磁性ナノ粒子が分散して配置された磁性ナノコンポジット膜2と、磁性ナノコンポジット膜2上に形成された絶縁膜3と、絶縁膜3上に形成された電極膜4とから構成される。
【0033】
基本的に図1における水平方向または垂直方向が磁束の流れる方向となるが、他の方向でもかまわない。以下、例えば、透磁率可変素子5の電極膜形成面(図1の上面)と垂直な端面のうち、磁束が流れ込む端面(N極側の端面)を入力端、磁束が流れ出る端面(S極側の端面)を出力端と呼ぶことにする。図1の透磁率可変素子5の例えば左側端面が入力端となり、例えば右側端面が出力端となる。
【0034】
基板1は、半導体、またはセラミックス、ガラス、樹脂などの絶縁体からなる。本実施の形態では、基板1として半導体を用いている。
磁性ナノコンポジット膜2のマトリックスとなる半導体としては、上記のとおり無機物や有機物がある。
【0035】
絶縁膜3は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、アルミナ、高分子樹脂などからなる。絶縁膜3は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、エアロゾルデポジッション、塗布法などの方法で作製することができる。
電極膜4は、アルミニウム、金、タンタル、モリブデン、又はこれらの金属を含む合金、導電性高分子などからなる。電極膜4は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマCVD、塗布法などの方法で作製することができる。
【0036】
図示しない電圧印加手段によって電極膜4に電圧を印加すると、磁性ナノコンポジット膜2のマトリックス中を動くことができるキャリア(電子や正孔)の密度が変化するので、磁性ナノコンポジット膜2中の磁性ナノ粒子間のキャリアを介した相互作用の強さを変化させることができ、磁性ナノコンポジット膜2の透磁率(あるいは、磁気抵抗、磁化率、磁化の強さ)等の磁気特性を制御することができる。このとき、磁性ナノコンポジット膜2は、グランド等の安定した一定電位に接続されているのが好ましい。本実施の形態では、半導体からなる基板1を接地することにより、磁性ナノコンポジット膜2を基板1を介してグランド電位に接続している。
【0037】
次に、磁性ナノコンポジット膜2の製造方法について説明する。最初に、磁性ナノコンポジット膜2のマトリックスとして無機半導体マトリックスを使用する場合について説明する。無機半導体マトリックスとしては、TFTや太陽電池などで使用されている材質と同様なアモルファスシリコンやポリシリコン、あるいはアモルファス酸化物などが使用できる。TFTや太陽電池などでは、これらの無機半導体はプラズマCVDなどで製作されるが、無機半導体マトリックス中に磁性ナノ粒子を分散させて磁性ナノコンポジット膜2を形成するためには以下のような製造方法を用いる。
【0038】
例えば、ポリシランをベースとした液体シリコン(シリコンインク)を基板1に塗布・焼成することによりアモルファスシリコンを作る製造方法を利用して、コロイドを用いた自己組織化法などでマトリックス中に磁性ナノ粒子を均一に分散配置した磁性ナノコンポジット膜2を作製することができる。液体シリコンにボロンやリン等のドーパントを含有させることも可能である。また、ポリシランをベースとした液体シリコン(シリコンインク)に、表面に粒子間の凝集を防ぐための分散剤や界面活性剤などを付加して分散処埋を施した磁性ナノ粒子を分散させた上で、液体シリコンを基板1に塗布・焼成することにより、アモルファスシリコン中に磁性ナノ粒子を均一に分散配置した磁性ナノコンポジット膜2を作製することができる。
【0039】
同様に、シリコン粒子含有のインクをインクジェット方式で基板1に塗布して紫外線レーザーを当てて固めることにより、アモルファスシリコンを製造する方法(例えば特表2010−514585号公報参照)も利用することもできる。このシリコン粒子含有のインクに、表面に粒子間の凝集を防ぐための分散剤や界面活性剤などを付加して分散処埋を施した磁性ナノ粒子を分散させた上で、インクをインクジェット方式で基板1に塗布して紫外線レーザーを当てて固めることにより、アモルファスシリコン中に磁性ナノ粒子を均一に分散配置した磁性ナノコンポジット膜2を作製することができる。
【0040】
磁性ナノ粒子は、Fe,Co,Niおよびそれらを含む化合物のいずれかであり、単磁区で、室温付近で超常磁性を示す粒径1〜40nm(より好ましくは2〜20nm)程度のものであり、マトリックス中に0.1〜10nm(より好ましくは0.5〜5nm)程度の間隔でほぼ均一に分散して配置される。なお、粒径2nm以下では常磁性体になってしまうことが多く、一方、粒径を大きくしていくと磁化は強くなるが、粒径20nm以上だと室温では超常磁性にならないことが多く、また、粒子表面間距離を小さくするためにはマトリックス中の粒子濃度(体積濃度、質量濃度)をかなり高くする必要があるため粒子表面間を数nm程度の距離に設定することが困難になる。
【0041】
また、ガスフロースパッタ法を使ったクラスター堆積装置を用いても磁性ナノコンポジット膜2を作製可能である。具体的には、ガスフロースパッタ源を2機備えた装置により、磁性ナノ粒子からなるクラスターを、例えばシリコンなどの異なる物質(マトリックス)中に埋め込みながら堆積することにより、磁性ナノコンポジット膜2を作製することができる。
【0042】
ガスフロースパッタ法は、パイプ型や対向平板型のターゲット電極の中で放電させ、その中で生成したターゲット原子をアルゴンガスにより基板上へ移送・堆積させるスパッタ法の一種である。ガスフロースパッタ法では、チャンバー内の圧力を100Pa程度に設定できるため、CVD的なソフトなプロセスが実現でき、基板や膜へのダメージが少なく高品質な膜が得られ、また、反応ガスを供給することにより高速な反応スパッタも行えるという特長がある。さらに、類似のプラズマ・ガス凝縮クラスター堆積装置を利用しても、同様に磁性ナノコンポジット膜2を作製することができる。
【0043】
次に、磁性ナノコンポジット膜2のマトリックスとして有機半導体マトリックスを使用する場合の磁性ナノコンポジット膜2の製造方法について説明する。ペンタセン等の結晶性低分子化合物は、汎用溶媒に対し極めて溶解性が低く、溶解できても溶液からの半導体析出を制御することが難しく、印刷適応性が低いため、薄膜化する際には主に真空蒸着工程などが用いられる。しかし、文献「Hiromi Minemawari,Toshikazu Yamada,Hiroyuki Matsui,Jun'ya Tsutsumi,Simon Haas,Ryosuke Chiba,Reiji Kumai and Tatsuo Hasegawa,“Inkjet printing of single-crystal films”,Nature,Vol.475,p.364-367,21 July 2011」に記載されているダブルショットインクジェット印刷法を応用して、コロイドを用いた自己組織化法などでマトリックス中に磁性ナノ粒子を均一に分散配置した磁性ナノコンポジット膜2を作製することができる。
【0044】
ダブルショットインクジェット印刷法は、分子レベルの平坦性を持つ半導体単結晶薄膜が製作できる方法であり、有機半導体を溶解させたインクと有機半導体の結晶化を促すインクの2種類のインクによるミクロ液滴を基板1上に交互に印刷するというものである。例えば、優れた可溶性を持つ有機半導体C8−BTBT(ジオクチルベンゾチエノベンゾチオフェン)と磁性ナノ粒子を含む半導体マトリックス・磁性ナノ粒子インクと結晶化インクの2種類のインクを用い、2基のインクジェットヘッドから基板1上に塗布する。まず、1基目のインクジェットヘッドから結晶化インクを基板1上に塗布し、続いて2基目のヘッドから半導体マトリックス・磁性ナノ粒子インクを結晶化インク上に重ねて塗布して基板1上にミクロな混合液滴を形成すると、半導体結晶が成長して磁性ナノコンポジット膜2が形成できる。
【0045】
なお、上述の半導体マトリックス・磁性ナノ粒子インク(コロイド溶液)は、使用する有機半導体を溶解または膨潤することができる溶媒に磁性ナノ粒子が分散した磁性ナノ粒子分散液に、有機半導体を入れて、磁性ナノ粒子分散液と有機半導体とを混合、攪拌、脱泡することにより、作製すればよい。また、磁性ナノ粒子分散液を使用せずに、溶媒に溶解または膨潤した有機半導体中に、表面に粒子間の凝集を防ぐための分散剤や界面活性剤などを付加して分散処理を施した磁性ナノ粒子を入れて、種々のミキサーやスクリュー、混練機などで直接混練・脱泡することにより、半導体マトリックス・磁性ナノ粒子インクを作製してもよい。また、磁性ナノ粒子を結晶化インクの方に混合したり、磁性ナノ粒子が分散したインクを3基目のヘッドから別に塗布したりしてもよい。
【0046】
一方、高分子は溶媒に可溶なものが多くなってきたため、塗布法、印刷法を用いてほぼ常温常圧でマトリックスを製造することができ、コロイドを用いた自己組織化法などでマトリックス中に磁性ナノ粒子を均一に分散配置した磁性ナノコンポジット膜2を作製することができる。例えば、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンなどの有機溶媒などに溶解または膨潤した導電性高分子中に磁性ナノ粒子が分散したコロイド溶液を製作し、スピンコートやインクジェット等の周知の塗布、印刷、乾燥技術で基板1上に形成すればよい。
【0047】
導電性高分子中に磁性ナノ粒子が分散したコロイド溶液は、導電性高分子を溶解または膨潤することができる溶媒に磁性ナノ粒子が分散した磁性ナノ粒子分散液に、導電性高分子を入れて、磁性ナノ粒子分散液と導電性高分子とを混合、攪拌、脱泡することにより、作製すればよい。また、磁性ナノ粒子分散液を使用せずに、溶媒に溶解または膨潤した導電性高分子中に、表面に粒子間の凝集を防ぐための分散剤や界面活性剤などを付加して分散処理を施した磁性ナノ粒子を入れて、種々のミキサーやスクリュー、混練機などで直接混練・脱泡することにより、導電性高分子中に磁性ナノ粒子が分散したコロイド溶液を作製してもよい。
【0048】
さらに、特開2005−139438号公報に開示されている技術のように高分子に金属イオンをドープし、過熱還元処埋により粒子化する方法も利用することができる。
なお、磁性ナノ粒子が金属の場合は非常に酸化しやすいため、磁性金属ナノ粒子が出来るだけ大気や水分に触れないようにする必要があり、製作は基本的に酸化防止のため窒素またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気のチャンバーやグローブボックス内で行うことが好ましい。
【0049】
それぞれの粒子表面間の概略距離は、以下の要領で設定することができる。平均粒子表面間距離hsuspは、幾何学的に考えると粒子径dpと粒子濃度F(体積濃度,vol.%)の関数で与えられ、粒子の中心の位置が六方最密充填の位置に配置したとした式や、ウッドコック(Woodcock)が文献「L.V. Woodcock,Proceeding of a workshop held at Zentrum fur interdisziplinare Forschung University Bielefield,Nov.11-13,1985 Edited by Th. Dorfmuller and G.Williams」で提案した式(1)が知られている。
【0050】
【数1】
【0051】
よって、このような式を使用して粒子径dpと粒子濃度Fの調整により、概略の平均粒子表面間距離hsuspを設定することが出来る。例えば、粒子濃度が4.5vol.%のとき、粒径3,5,10nmの粒子における平均粒子表面間距離はそれぞれ約2.4,3.9,7.8nmになる。
【0052】
次に、磁性ナノ粒子について補足説明する。磁性ナノ粒子としては、バルク状態で軟磁性の特性を示すものの方が好ましいが、バルク状態で硬磁性の特性を示すものでも上述のように粒子サイズが小さくなると超常磁性の特性を示すようになるのでかまわない。軟磁性とは、磁化曲線においてヒステリシスが小さく、つまり保磁力が小さく、かつ透磁率や飽和磁化が大きい性質であり、簡単に言うと磁化し易く消磁し易い性質であり、磁気回路やトランスのコアなどに使用される。軟磁性材料は、結晶磁気異方性や磁歪が小さい。一方、硬磁性とは、ヒステリシスが大さく、つまり保磁力が大きく(結晶磁気異方性が大)、エネルギー(BH)積が大きい性質のことであり、永久磁石に使用される。
【0053】
なお、磁性ナノ粒子の粒子径は出来るだけ均一でばらつきが小さい方が磁気特性的には好ましいが、透磁率を大きくすることを優先する場合は大小の粒径を混合することも考えられる。大きい粒子は磁化が大きく、大きい粒子間の隙間を小さい粒子が埋めて磁束の漏れや反磁界を小さく出来るため、透磁率可変素子の透磁率を高く出来る。また、大きい粒子も小さい粒子の超常磁性に引きずられて超常磁性になりやすくなる。
【0054】
なお、基本的に磁性ナノ粒子の磁化率は体積に比例(半径の3乗に比例)するが、ナノ粒子では体積に比べて表面積が非常に大きくなるため、ナノ粒子特有の表面効果の影響が強くなり、例えば、磁性ナノ粒子表面ではスピンの乱れ(スピンキャンティング)があるため磁化の強さは弱くなる。よって、あまり粒径が小さくなりすぎると磁気特性は悪くなるため、適度な粒径サイズ(例えば、5〜10nm程度)がある。
【0055】
また、金属ナノ粒子は酸化しやすく、表面付近の酸化された部分(FeO,CoO,NiOなど)は反強磁性になることが多いため磁化の強さはさらに弱くなる。ナノ粒子では、体積に占める表面の割合が非常に大きいため,表面酸化による性能の低下は顕著に現れる。また、内部(コア)と表面(シェル)の間で磁気的な相互作用も生じて特性に影響を及ぼす。例えば、強磁性体のコアと反強磁性体のシェルの間に発生する交換異方性による一方向異方性などが知られており、コアの強磁性体の磁化の回転がシェルの反強磁性体によって制約を受ける。さらに、部分的には許容できる場合もあるが、粒子表面が酸化されると磁性ナノ粒子が絶縁されてしまい本発明の作用が低下してしまうため、磁性ナノ粒子の酸化は極力防ぐ必要がある。
【0056】
よって、キャリアを介した磁性ナノ粒子間の相互作用を阻害しない範囲において、磁性ナノ粒子の外周部に酸化防止のための薄い保護層が形成されていることが好ましい。本実施の形態に必要な導電性を持つ保護層の材質としては、炭素(C)や耐食性が高い白金などの貴金属などがあり、アーク放電法、プラズマ蒸発法、液相合成法、固相還元法などで製作することができる。なお、Fe,Co,Niなどの合金や化合物(例えば、FePt)を形成することにより、粒子自体の耐酸化性、耐食性、耐久性を高めることも可能である。
【0057】
磁性ナノ粒子の製法としては、従来の粉体で使われている粉砕法ではなく、原子・分子レベルから粒子を作り上げていく合成法が使用され、その中でも蒸発凝縮法や気相反応法などの気相法と、化学沈殿法や溶媒蒸発法などの液相法が主に用いられている。化学沈殿法には、コロイド法、均一沈殿法、アルコキシド法、水熱合成法、マイクロエマルション法などがある。磁性ナノ粒子としては、球状や棒状、紐状など様々な形状の粒子が使用できる。
【0058】
磁性ナノ粒子分散液は、上記の方法で製作した磁性ナノ粒子の表面に粒子間の凝集を防ぐための分散剤や界面活性剤を付加したものを溶媒に分散させて製作される。特に、活性液面連続真空蒸着法で作られた磁性金属ナノ粒子分散液は、非常に良い分散性能を示すので好ましい。
絶縁膜3と電極膜4の材料および製造方法は、上記のとおりである。
【0059】
本実施の形態では、低消費電力で発熱が少ない小型の透磁率可変素子を実現することができ、周辺機器への熱影響を大幅に低減することができる。本実施の形態では、コイルを用いないため電磁ノイズの発生がない。そのため、本実施の形態の透磁率可変素子を利用すれば、医療分野などでも利用しやすい磁力制御装置を実現することができる。また、本実施の形態では、外部からの電磁ノイズの影響も受け難くなる。また、本実施の形態では、従来の磁力制御装置のように大きな力を必要とせず、加熱も必要としないので、磁力制御装置の使用範囲を広げることができる。
【0060】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図2は本発明の第2の実施の形態に係る透磁率可変素子の構成を示す断面図である。
本実施の形態の透磁率可変素子5aは、基板10と、基板10上に形成された絶縁膜11と、絶縁膜11上に形成された電極膜12と、電極膜12上に形成された磁性ナノコンポジット膜13と、磁性ナノコンポジット膜13上に形成された絶縁膜14と、絶縁膜14上に形成された電極膜15とから構成される。
【0061】
本実施の形態の透磁率可変素子5aは、第1の実施の形態において基板と磁性ナノコンポジット膜との間に、絶縁膜と電極膜を挿入した構成に相当する。第1の実施の形態で説明したとおり、基本的に図2における水平方向または垂直方向が磁束の流れる方向となるが、他の方向でもかまわない。磁束の流れる方向を水平方向とすると、透磁率可変素子5aの例えば左側端面が入力端となり、例えば右側端面が出力端となる。
基板10は、半導体、またはセラミックス、ガラス、樹脂などの絶縁体からなる。本実施の形態では、基板10として半導体を用いている。絶縁体からなる基板10を用いる場合には、絶縁膜11は不要である。
【0062】
絶縁膜11,14は、絶縁膜3と同様の材料および製造方法によって作製することができる。電極膜12,15は、電極膜4と同様の材料および製造方法によって作製することができる。磁性ナノコンポジット膜13は、磁性ナノコンポジット膜2と同様の材料および製造方法によって作製することができる。
【0063】
本実施の形態では、下部の電極膜12を接地電極として接地して、図示しない電圧印加手段によって上部の電極膜15に電圧を印加すればよい。透磁率可変素子5aの動作は第1の実施の形態と同様なので、説明は省略する。
こうして、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図3は本発明の第3の実施の形態に係る透磁率可変素子の構成を示す断面図である。
本実施の形態の透磁率可変素子5bは、基板20と、基板20上に形成された絶縁膜21と、絶縁膜21上に形成された電極膜22と、電極膜22上に形成された絶縁膜23と、絶縁膜23上に形成された磁性ナノコンポジット膜24と、磁性ナノコンポジット膜24上に形成された電極膜25と、電極膜25上に形成された磁性ナノコンポジット膜26と、磁性ナノコンポジット膜26上に形成された絶縁膜27と、絶縁膜27上に形成された電極膜28とから構成される。
【0065】
第1の実施の形態で説明したとおり、基本的に図3における水平方向または垂直方向が磁束の流れる方向となるが、他の方向でもかまわない。磁束の流れる方向を水平方向とすると、透磁率可変素子5bの例えば左側端面が入力端となり、例えば右側端面が出力端となる。
【0066】
基板20は、半導体、またはセラミックス、ガラス、樹脂などの絶縁体からなる。本実施の形態では、基板20として半導体を用いている。絶縁体からなる基板20を用いる場合には、絶縁膜21は不要である。
絶縁膜21,23,27は、絶縁膜3と同様の材料および製造方法によって作製することができる。電極膜22,25,28は、電極膜4と同様の材料および製造方法によって作製することができる。磁性ナノコンポジット膜24,26は、磁性ナノコンポジット膜2と同様の材料および製造方法によって作製することができる。
【0067】
本実施の形態では、電極膜25を接地電極として接地して、図示しない電圧印加手段によって電極膜22,28に電圧を印加すればよい。電極膜22,28には同一の電圧を印加すればよい。図示しない電圧印加手段によって電極膜22,28に電圧を印加すると、磁性ナノコンポジット膜24,26のマトリックス中を動くことができるキャリア(電子や正孔)の密度が変化するので、磁性ナノコンポジット膜24,26中の磁性ナノ粒子間のキャリアを介した相互作用の強さを変化させることができ、磁性ナノコンポジット膜24,26の透磁率(あるいは、磁気抵抗、磁化率、磁化の強さ)等の磁気特性を制御することができる。
【0068】
磁性ナノコンポジット膜中でキャリアが集中して磁性ナノ粒子間の相互作用が強く働く領域は、電極膜近傍の薄い層のみである。このため、本実施の形態のように透磁率可変素子を積層すると、磁気特性を制御する効果を高めることができる。
なお、本実施の形態では、磁性ナノコンポジット膜を2層としているが、3層以上積層してもよい。この場合には、磁性ナノコンポジット膜と絶縁膜と電極膜とを構成単位として、近接する2つの磁性ナノコンポジット膜が互いに向き合うようにして構成単位を複数積層し、2つの磁性ナノコンポジット膜の間に接地電極膜を設けるようにすればよい。
【0069】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図4は本発明の第4の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図である。磁力制御装置は、永久磁石(硬磁性体)30と、パーマロイや電磁鋼板などの軟磁性体からなるヨーク(継鉄)31−1,31−2,31−5と、透磁率可変素子5とから構成される。図4において、32はヨーク31−1と31−2間に設けられた空気ギャップ、33は磁性体からなるワーク、34は磁束の流れ、35はワーク33に働く吸引力である。また図4における「N」は永久磁石30のN極を示し、「S」はS極を示す。本実施の形態は、永久磁石30とヨーク31−1,31−2,31−5とからなる磁気回路に対して、透磁率可変素子5を直列に配置したものである。
【0070】
なお、ヨーク31−5は、透磁率可変素子5の透磁率が低くなった場合に磁束を流すバイパスの役割を果たす。ヨーク31−5は必須の構成ではないが、ヨーク31−5がない場合、磁束の空中への漏れが大きくなる。
また、空気ギャップ32が大きいと磁力が激減するので、実際の空気ギャップ32は出来るだけ小さい方がよい。
【0071】
ヨーク31−1と透磁率可変素子5とは、比較的柔軟性が高く応力を吸収できる接着剤、例えばエポキシ系の接着剤などで接合する。磁気特性的には出来るだけ透磁率可変素子5とヨーク31−1との間隔が開かないように接合することが好ましい。なお、透磁率可変素子5に電圧を印加するため、透磁率可変素子5とヨーク31−1との間を電気的に絶縁する必要がある。
【0072】
図示しない電圧印加手段によって電極膜4と基板1との間に電圧Vを印加すると、上記のとおり透磁率可変素子5の磁性ナノコンポジット膜2のマトリックス中を動くことができるキャリア(電子や正孔)の密度が変化するので、磁性ナノコンポジット膜2中の磁性ナノ粒子間のキャリアを介した相互作用の強さを変化させることができ、透磁率(あるいは、磁気抵抗、磁化率、磁化の強さ)等の磁気特性を制御することができる。このとき、印加電圧の変動周波数が低く定常に近い状態においては透磁率可変素子5に流れる電流はほぼ0である。
【0073】
本実施の形態では、低消費電力で発熱が少ない磁力制御装置を実現することができ、周辺機器への熱影響を大幅に低減することができる。本実施の形態では、コイルを用いないため電磁ノイズの発生がなく、医療分野などでも利用しやすい磁力制御装置を実現することができる。また、本実施の形態では、外部からの電磁ノイズの影響も受け難くなる。また、本実施の形態では、従来の磁力制御装置のように大きな力を必要とせず、加熱も必要としないので、磁力制御装置の使用範囲を広げることができる。
【0074】
なお、図4の例では、透磁率可変素子5の膜厚方向(図1上下方向)と磁束の流れ34の方向とが直交するように透磁率可変素子5を配置しているが、透磁率可変素子5の膜厚方向と磁束の流れ34の方向とが平行になるように透磁率可変素子5を配置してもよい。
【0075】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。図5は本発明の第5の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図であり、図4と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、永久磁石30とヨーク31−1,31−2とからなる磁気回路に対して、透磁率可変素子5を並列に配置したものである。すなわち、永久磁石30のN極に接続されているヨーク31−1に対して透磁率可変素子5の入力端を接続し、永久磁石30のS極に接続されているヨーク31−2に対して透磁率可変素子5の出力端を接続している。その他の構成は第4の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。本実施の形態によれば、第4の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
なお、図5の例では、透磁率可変素子5の膜厚方向(図1上下方向)と透磁率可変素子5に流れ込む磁束の流れ34の方向とが直交するように透磁率可変素子5を配置しているが、第4の実施の形態で説明したとおり透磁率可変素子5の膜厚方向と透磁率可変素子5に流れ込む磁束の流れ34の方向とが平行になるように透磁率可変素子5を配置してもよい。
【0077】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。図6は本発明の第6の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図であり、図4と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、第4の実施の形態と同様に透磁率可変素子5−1を磁気回路に対して直列に配置すると共に、第5の実施の形態と同様に透磁率可変素子5−2を磁気回路に対して並列に配置したものである。その他の構成は第4、第5の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。本実施の形態によれば、第4の実施の形態と同様の効果に加えて、磁気回路に直列および並列にほぼ同じ特性を持つ透磁率可変素子5−1,5−2を配置することにより、温度特性などの誤差要因の補正が可能になり、また、制御範囲をより大きくできるという効果も得ることができる。
【0078】
[第7の実施の形態]
次に、本発明の第7の実施の形態について説明する。図7は本発明の第7の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図であり、図4と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態では、4個の透磁率可変素子5−1,5−2,5−3,5−4をブリッジ型に配置している。すなわち、透磁率可変素子5−1の入力端と透磁率可変素子5−2の入力端とをヨーク31−1に接続すると共に、透磁率可変素子5−3の出力端と透磁率可変素子5−4の出力端とをヨーク31−2に接続し、透磁率可変素子5−1の出力端と透磁率可変素子5−3の入力端の間のヨーク31−3と、透磁率可変素子5−2の出力端と透磁率可変素子5−4の入力端の間のヨーク31−4との間に空気ギャップ32を形成している。
【0079】
本実施の形態では、透磁率可変素子5−1〜5−4に印加する電圧を調整して、透磁率可変素子5−1,5−4の透磁率を透磁率可変素子5−2,5−3の透磁率よりも大きくすると、磁束はヨーク31−3からヨーク31−4の方向に流れる。一方、透磁率可変素子5−2,5−3の透磁率を透磁率可変素子5−1,5−4の透磁率よりも大きくすると、磁束はヨーク31−4からヨーク31−3の方向に流れる。
こうして、本実施の形態では、空気ギャップ32(動作点)における磁束の方向を自由に反転させることができる。
【0080】
[第8の実施の形態]
次に、本発明の第8の実施の形態について説明する。図8は本発明の第8の実施の形態に係る磁力制御装置の構成を示す図であり、図4と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、第5の実施の形態で説明した図5の磁力制御装置の構成を2組使用し、それぞれの永久磁石30の極性を逆向きにして、空気ギャップ32(動作点)が共通になるように2組の磁力制御装置を組み合わせたものである。すなわち、永久磁石30−1のN極と永久磁石30−2のS極とに接続されているヨーク31−1に対して透磁率可変素子5−1の入力端と透磁率可変素子5−2の出力端を接続すると共に、永久磁石30−1のS極と永久磁石30−2のN極とに接続されているヨーク31−2に対して透磁率可変素子5−1の出力端と透磁率可変素子5−2の入力端を接続し、透磁率可変素子5−1の入力端と透磁率可変素子5−2の出力端の間のヨーク31−1と、透磁率可変素子5−1の出力端と透磁率可変素子5−2の入力端の間のヨーク31−2との間に空気ギャップ32を形成している。
【0081】
本実施の形態では、透磁率可変素子5−1,5−2に印加する電圧を調整して、透磁率可変素子5−1の透磁率を透磁率可変素子5−2の透磁率よりも大きくすると、空気ギャップ32(動作点)における磁束はヨーク31−2からヨーク31−1の方向に流れる。一方、透磁率可変素子5−2の透磁率を透磁率可変素子5−1の透磁率よりも大きくすると、空気ギャップ32(動作点)における磁束はヨーク31−1からヨーク31−2の方向に流れる。
こうして、本実施の形態では、空気ギャップ32(動作点)における磁束の方向を自由に反転させることができる。
【0082】
第4〜第8の実施の形態では、第1の実施の形態で説明した透磁率可変素子5を用いたが、透磁率可変素子5の代わりに、第2、第3の実施の形態で説明した透磁率可変素子5a,5bを用いてもよいことは言うまでもない。この場合、透磁率可変素子5a,5bの膜厚方向(図2図3上下方向)と透磁率可変素子5a,5bに流れ込む磁束の流れ方向とが直交するように透磁率可変素子5a,5bを配置してもよいし、透磁率可変素子5a,5bの膜厚方向と透磁率可変素子5a,5bに流れ込む磁束の流れ方向とが平行になるように透磁率可変素子5a,5bを配置してもよい。透磁率可変素子5a,5bに電圧を印加するため、透磁率可変素子5a,5bとヨークとの間を電気的に絶縁することが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、透磁率を制御する技術、および磁力を制御する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1,10,20…基板、2,13,24,26…磁性ナノコンポジット膜、3,11,14,21,23,27…絶縁膜、4,12,15,22,25,28…電極膜、5,5−1〜5−4,5a,5b…透磁率可変素子、30,30−1,30−2…永久磁石、31−1〜31−5…ヨーク、32…空気ギャップ、33…ワーク、34…磁束の流れ、35…吸引力。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9