【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度〜23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構最先端研究開発支援プログラム(低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Takeru BESSHO et al.,Highly Efficient Mesoscopic Dye-Sensitized Solar Cells Based on Donor-Acceptor-Substituted Porphyrins,Angewandte Chemie International Edition,Wiley ,2010年,Vol.49,pp.6646-6649
【文献】
Hsueh-Pei LU et al.,Control of Dye Aggregation and Electron Injection for Highly Efficienct Porphyrin Sensitizers Adsorbed on Semiconductor Films with Varying Ratios Coadsorbate,J.Phys.Chem. C,American Chemical Society,2009年,Vol.113,pp.20990-20997
【文献】
Cheng-Wei LEE et al.,Novel Zinc Porphyrin Sensitizers for Dye-Sensitized Solar Cells: Synthesis and Spectral, Electrochemical, and Photovolatic Properties,Chem.Eur.J.,Wiley,2009年,Vol.15,pp.1403-1412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の色素増感型太陽電池モジュールの一実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、色素増感型太陽電池モジュール10の構成の概略の一例を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る色素増感型太陽電池モジュール10は、透明導電性基板14上に複数の色素増感型太陽電池40(以下セルとも称する)が順次配列した構成となっている。これらのセルは直列に接続されている。この色素増感型太陽電池モジュール10では、各セルの間を埋めるように、シール材32が形成されており、透明導電性基板14とは反対側のシール材32の面に平板状の保護部材34が形成されている。本実施形態に係る色素増感型太陽電池40は、光が透過する透明基板11の表面に透明導電膜12が形成されている透明導電性基板14と、透明導電膜12に形成され色素を含む多孔質半導体層24と、多孔質半導体層24に対して電解質層26を介して設けられた対極30と、を備えている。光電極20は、透明導電性基板14と、透明基板11の受光面13の反対側の面に分離形成された透明導電膜12に配設され受光に伴い電子を放出する多孔質半導体層24とを備えている。この色素増感型太陽電池40は、多孔質体に電解液を含んで形成された電解質層26を備えており、イオン性液体等の電解液を介して発電可能な構成となっている。
【0012】
本発明の色素増感型太陽電池40は、色素を含む多孔質半導体層24を透明導電性基板14上に備えた光電極20と、光電極20に向かい合うように配置された対極30と、光電極20と対極30との間に介在する電解液を含む電解質層26と、を備え、色素は、ポルフィリン構造を有しており、電解液は、グアニジン化合物を含むものである。
【0013】
透明導電性基板14は、透明基板11と透明導電膜12とにより構成され、光透過性及び導電性を有するものである。具体的には、フッ素ドープSnO
2コートガラス、ITOコートガラス、ZnO:Alコートガラス、アンチモンドープ酸化スズ(SnO
2−Sb)コートガラス等が挙げられる。また、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープした透明電極、メッシュ状、ストライプ状など光が透過できる構造にした金属電極をガラス基板等の基板上に設けたものも使用できる。この透明導電性基板14の透明導電膜12側の両端には、集電電極16,17が設けられており、この集電電極16,17を介して色素増感型太陽電池40で発電した電力を利用することができる。
【0014】
透明基板11としては、例えば、透明ガラス、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などが挙げられ、このうち、透明ガラスが好ましい。この透明基板11は、透明なガラス基板、ガラス基板表面を適当に荒らすなどして光の反射を防止したもの、すりガラス状の半透明のガラス基板など光を透過するものなどとしてもよい。透明導電膜12は、例えば、透明基板11上に酸化スズを付着させることにより形成することができる。特に、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)等の金属酸化物を用いれば、好適な透明導電膜12を形成することができる。透明導電膜12は、所定の間隔に溝18が形成されており、この溝18の幅に相当する間隔を隔てて複数の透明導電膜12の領域が分離形成されている。
【0015】
多孔質半導体層24は、光増感剤である色素と、色素を含む多孔質のn型半導体層とにより形成されている。n型半導体としては、金属酸化物半導体や金属硫化物半導体などが適しており、例えば、酸化チタン(TiO
2)、酸化スズ(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)、硫化亜鉛(ZnS)のうち少なくとも1以上であることが好ましく、このうち多孔質の酸化チタンがより好ましい。これらの半導体材料を微結晶又は多結晶状態にして薄膜化することにより、良好な多孔質のn型半導体層を形成することができる。特に、多孔質の酸化チタン層は、光電極20が有するn型半導体層として好適である。また、酸化チタンとしては、伝導帯の下端のエネルギー準位がより高く、開放端電圧がより高いことから、ルチル型TiO
2よりもアナターゼ型TiO
2が好ましい。
【0016】
色素は、ポルフィリン構造を有している化合物である。この色素は、基本式(1)で表されるものとしてもよい。但し、式(1)において、Aはアンカー基であり、R
1及びR
2は、同じであっても異なっていてもよい置換基であり、Dは、電子供与性官能基であり、Mは、金属イオンである。アンカー基は、例えば、n型半導体に結合する官能基であり、例えば、末端にカルボキシル基を有するものなどが挙げられる。置換基R
1及びR
2は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基などが挙げられる。このアルキル基やアリール基は、更に置換基を有していてもよく、N,O,Sを含んでいてもよい。例えば、置換基R
1及びR
2は、式(2)や式(3)で表される官能基であるものとしてもよい。電子供与性官能基Dは、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルキル基などが挙げられる。金属イオンとしては、例えば、Mgイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン及びZnイオンなどが挙げられ、このうちZnイオンが好ましい。また、このうち、色素は、基本式(4)で表されるものとすることが好ましい。但し、式(4)において、特性基R
3及びR
4は、同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数6〜16のアリール基のうち1以上を含む官能基であるものとしてもよい。このアルキル基やアリール基は、更に置換基を有していてもよく、N,O,Sを含んでいてもよい。特性基R
3及びR
4は、例えば、次式(5)、(6)に示す官能基であるものとしてもよい。この色素は、多孔質のn型半導体の表面に吸着させるものとしてもよい。この吸着は、化学吸着や物理吸着等によって行うことができる。具体的には、多孔質のn型半導体層を透明導電性基板14上に形成したのち、このn型半導体層へ有機色素を含む溶液を滴下して乾燥する方法や、n型半導体層を形成させた透明導電性基板14を有機色素を含む溶液に浸漬させたのち乾燥する方法などにより作製することができる。
【0021】
電解質層26は、対極30と光電極20との間の電子の受け渡しを媒介する層であり、例えば、液状またはゲル状の電解質を含むものとしてもよい。この電解質層26は、例えば、多孔質体に電解液を含む層とすることが好ましい。この多孔質体は、電解液を保持可能であり、電子伝導性を有さない多孔体であれば特に限定されず、例えば、多孔質体として、ルチル型の酸化チタン粒子により形成した多孔体を使用してもよい。この多孔質体は、セパレータの機能を有している。多孔質体は、多孔質半導体層24の裏面25を覆う部分と、多孔質半導体層24のうち裏面25に隣接する側面に密着する顎状の縁部分とを有している。この鍔状の縁部分は、透明基板11に直接、接触している。透明導電性基板14と電解質層26の多孔質体との接続部において、透明導電膜12の一部は、例えばレーザスクライブ等の技術により完全に削りとられ、透明基板11の表面が露出される深さの溝18が形成されている。そして、この溝18に電解質層26の多孔質体の鍔状に形成された縁部分が挿入されている。
【0022】
電解質層26に含まれる電解液には、グアニジン化合物を含んでいる。グアニジン化合物としては、例えば、次式(7)〜(9)に示す、グアニジンチオシアネートや、グアジノベンズイミダゾール、グアジニンアセチックアシッドなどが挙げられ、このうち、グアニジンチオシアネートが好ましい。ポルフィリン構造を有する色素を用いた色素増感型太陽電池に、グアニジン化合物を添加した電解液を用いると、初期の光電変換効率を高めるほか、形状因子を良好に維持し、耐久性をより高めることができる。電解液中のグアニジン化合物の濃度は0.001mol/L以上1.0mol/L以下の範囲であることが好ましい。
【0024】
電解質層26に含まれる電解液には、酸化還元対を含むものとしてもよい。この酸化還元対によって、光電極20と、対極30との間の電子の受け渡しが媒介される。なお、この電解液の一部は、通常、多孔質体である光電極20に含浸している。酸化還元対としては、I
3-/I
-、Br
3-/Br
-、ハイドロキノン/キノン、コバルトイオン、鉄イオン等が挙げられ、これらの中でも、特にI
3-/I
-を好適に用いることができる。電解質中には、光電極20から電解質中の酸化体への電子の移動を抑制するための添加剤として、例えば、4−tert−ブチルピリジン等をさらに加えてもよい。この場合、電解液中の酸化還元対の濃度は、特に限定されないが0.01mol/L以上5mol/L以下であることが好ましい。
【0025】
電解質層26に含まれる電解液は、酸化還元対としてヨウ素やヨウ素を含むイオン性液体(ヨウ素系イオン性液体)を含むことが好ましい。このヨウ素系イオン性液体としては、例えば、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(以下、PMIIと略記する)や、1,2ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド(DMPII)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムヨージド、1,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド、1,2ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージドなどが挙げられる。また、電解液は、ヨウ素系イオン性液体以外のイオン性液体を含むものとしてもよい。このイオン性液体としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(AMII−TFSI)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(EMI−TCB)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMI−BF4)などのイミダゾリウム塩が挙げられる。このイオン性液体を含むものとすれば、粘度をより好適な範囲とし、色素増感型太陽電池40において、光電流や光電変換効率を更に向上させることができる。このイオン性液体の割合は、ヨウ素系イオン性液体と、このイオン性液体との総和を100質量%とした場合に、20〜60質量%であることが好ましい
。
【0026】
電解液は、ベンゾイミダゾール環と、これに直接結合した、置換基を有していてもよい飽和炭化水素基と、を有するベンゾイミダゾール誘導体を更に含有することも好ましい。このようなベンゾイミダゾール誘導体を添加することにより、色素増感型太陽電池の耐久性がより一層向上する。飽和炭化水素基の炭素数は1〜11であることがより好ましく、3〜11であることが更に好ましい。飽和炭化水素基は直鎖状であってもよいし、分岐していてもよいが、直鎖状であることがより好ましい。また、飽和炭化水素基はヒドロキシル基やアルデヒド基を有していてもよいが、ヒドロキシル基やアルデヒド基を有しないものであることがより好ましい。ヒドロキシル基やアルデヒド基があると電解液中の水分と反応しやすく耐久性向上の効果が小さくなる場合がある。このベンゾイミダゾール誘導体としては、N−メチル−ベンゾイミダゾールなどが挙げられる。電解液中のベンゾイミダゾール誘導体の濃度は0.2〜0.8mol/Lであることが好ましい。
【0027】
この電解液は、非イオン性の有機化合物を更に含んでいてもよい。有機化合物としては、2官能ニトリル化合物、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル及びフタル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1以上が挙げられる。2官能ニトリル化合物としては、ジメチルマロノニトリルやアジポニトリルが挙げられる。また、ポリエチレングリコールジアルキルエーテルとしては、テトラエチレングリコールジメチルエーテルやトリエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。フタル酸エステルとしては、フタル酸アルキルエステルであることがより好ましく、フタル酸ジメチルやフタル酸ジエチルが挙げられる。
【0028】
対極30は、電解質層26の裏面27及び鍔状の縁部分とに接触するよう、鍔状の縁部分を有する断面L字状に形成されている。この対極30は、電解質層26の裏面に接続されていると共に、鍔状の縁部分が接続部21を介して隣側の透明導電膜12に接続されている。電解質層26の裏面27と接触するこの対極30の面は、光電極20に対して所定の間隔を隔てて対向している。対極30としては、導電性及び電解質層26との接合性を有するものであれば特に限定されず、例えば、Pt,Au,カーボンなどが挙げられ、このうちカーボンが好ましい。この対極30は、例えば、カーボンブラック粒子と、グラファイト粒子と、アナターゼ型の酸化チタン粒子等の導電性酸化物粒子とを構成材料として形成された多孔質の炭素電極としてもよい。なお、この対極30には、例えば、電極反応の速度をより速やかに進行させる観点から、Pt微粒子などの触媒微粒子が分散担持されていてもよい。
【0029】
シール材32は、各色素増感型太陽電池40の外周側を覆うように形成されており、電解質層26中に充填されている電解質が外部へ漏れ出すことを防止することを主な目的として設けられている。シール材32としては、例えば、絶縁性の部材であれば特に限定されずに用いることができ、ポリエチレン、アイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂フィルム、エポキシ系接着剤等を使用することができる。
【0030】
保護部材34は、色素増感型太陽電池40の保護を図る部材であり、例えば、防湿フィルムや保護ガラスなどとすることができる。
【0031】
この色素増感型太陽電池40に対して、透明基板11の受光面13側から光を照射すると、透明導電膜12の受光面15及び受光面23を介して光が多孔質半導体層24へ到達し、色素が光を吸収して電子が発生する。電子は光電極20から透明導電膜12、接続部21を経由して隣の対極30へ移動する。色素増感型太陽電池40では、この電子の移動により起電力が発生し、電池の発電作用が得られる。この色素増感型太陽電池モジュール10では、多孔質半導体層24に、ポルフィリン構造を有する色素を含むと共に、電解質層26にグアニジン化合物を含む電解液を有するため、例えば、変換効率や形状因子(F.F.)などの耐久性をより向上することができる。この理由は、電解液にグアニジン化合物を添加することにより、ポルフィリン構造を有する色素に対して相互作用し、光照射下での対極での抵抗成分、もしくはn型半導体/色素/電解液界面の抵抗成分の増加をより抑制することができるためであると推察される。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0033】
例えば上述した実施形態では、色素増感型太陽電池モジュール10としたが、特にこれに限定されず、色素増感型太陽電池40としてもよい。
図2は、色素増感型太陽電池40の構成の概略の一例を示す断面図である。
図2では、
図1で説明した構成と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
図2に示すように、色素増感型太陽電池40の単体では、電解質層26や対極30を断面をL字状ではなく、鍔状の縁部分を省略して平板状に形成するものとしてもよい。また、対極30は、例えば透明導電性基板14と同じ構成を有するものを用いるものとしてもよいし、透明導電膜12に白金を付着させたものや、白金などの金属薄膜などとしてもよい。更に、電解質層26は、多孔質体を省略し、光電極20と対極30との空間に電解液を収容したものとしてもよい。
【実施例】
【0034】
以下には、本発明の色素増感型太陽電池40を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0035】
[実施例1]
透明導電膜(TCO)付ガラス基板に、n型半導体であるチタニア(TiO
2)のナノ粒子(平均粒径20nm)を含有するチタニアペーストをスクリーン印刷法で塗工した。塗膜を150℃で乾燥し、さらに450℃で30分間の加熱により焼成して、ナノ粒子のチタニア層を形成させた。さらにその上に、n型半導体であるチタニア粒子(平均粒径400nm)から構成される多孔質半導体層(チタニア層)を同様な工法で積層して、チタニア電極を形成させた。得られたチタニア電極を、表面処理のために4塩化チタン(TiCl4)水溶液に60分間浸漬し、洗浄した後、450℃、30分間の加熱により再度焼成した。表面処理されたチタニア電極を、アセトニトリルとt−ブタノールの混合溶媒(体積比50%)に色素を溶解した溶液(濃度:0.3mM)に浸漬した。色素としては式(10)に示す電子供与性官能基を導入したポルフィリン構造を有する化合物(色素1と称する)を用いた。この色素を含む溶液に浸漬したあと、アセトニトリルで洗浄して、色素が吸着した光電極を得た。
【0036】
【化6】
【0037】
塩化白金酸のアルコール溶液をTCO膜付ガラス基板に塗布し、塗膜を400℃で焼成して、白金ナノ粒子(粒子径:数nm)から形成された透明な対向電極(対極)を作製した。得られた対極とチタニア電極を対向配置し、シール材(熱可塑性ポリオレフィン系樹脂)を介してこれらを貼り合せた。光電極と対極の間に注入孔から電解液を注入し、注入孔をシールした。電解液としては、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(PMII)と、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)と、N−メチル−ベンゾイミダゾールと、を均質に混合したものを作製し、これにグアニジンチオシアネートを添加剤として濃度0.5Mで混合したものを用いた。得られたセルを実施例1のセルとした。なお、この実施例1では、同様のセルを2つ作製し、それぞれ実施例1−1,1−2とし、実施例1と総称する。
【0038】
[比較例1]
電解液として、グアニジンチオシアネートを含まないものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られたセルを比較例1とした。この比較例1では、同様のセルを2つ作製し、それぞれ比較例1−1,1−2とし、比較例1と総称する。
【0039】
[実施例2]
色素として、式(11)の電子供与性官能基を導入したポルフィリン構造を有する化合物(色素2と称する)を用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られたセルを実施例2とした。この実施例2では、同様のセルを2つ作製し、それぞれ実施例2−1,2−2とし、実施例2と総称する。
【0040】
【化7】
【0041】
[比較例2]
電解液として、グアニジンチオシアネートを含まないものを用いた以外は実施例2と同様の工程を経て得られたセルを比較例2とした。この比較例2では、同様のセルを2つ作製し、それぞれ比較例2−1,2−2とし、比較例2と総称する。
【0042】
(光電変換効率の測定;耐久性評価試験)
500Wのキセノンランプを搭載したAM1.5Gソーラシミュレータ(WXS−85−H、ワコム電創社製)とIVテスター(IV−9701、ワコム電創社製)を使い、実施例1、2及び比較例1、2の色素増感型太陽電池の電流(I)−電圧(V)特性(IV特性)を計測し、光電変換効率を測定した。
【0043】
(交流インピーダンス測定)
周波数アナライザ(5080、NF ELECTRONIC INSTRUMENTS社製)とポテンシオスタット(HZ−3000、北斗電工製)を用いて、実施例1,2及び比較例1,2の色素増感型太陽電池の交流インピーダンス計測を実施した。上述した光電変換効率測定において、360h、936h、2376hのサンプルを用いて測定を行った。その際、キセノンランプからの白色光照射下で、開放端電圧付近でインピーダンスの10mHz〜100kHzでの周波数帯域での周波数応答を測定した。
【0044】
(測定結果と考察)
図3は、実施例1及び比較例1の変換効率及び形状因子の維持率の測定結果である。
図4は、実施例2及び比較例2の変換効率及び形状因子の維持率の測定結果である。
図5は、実施例1及び比較例1の交流インピーダンス測定結果である。
図6は、実施例2及び比較例2の交流インピーダンス測定結果である。実施例及び比較例の色素、添加剤の有無、変換効率維持率(%)、形状因子(F.F.)の維持率(%)をまとめて表1に示す。変換効率維持率は、それぞれのサンプルごとに最高値を1としたときの割合とし、表1には測定開始から2376時間後の値を示した。また、形状因子維持率は、それぞれのサンプルごとに最高値を1としたときの割合とし、表1には測定開始から2376時間後の値を示した。
図3、4及び表1に示すように、比較例1〜2では、耐久性評価試験において、時間と共に、変換効率及び形状因子が低下することがわかった。これに対して、グアニジンチオシアネートを電解液に添加した実施例のサンプルでは、いずれも、変換効率及び形状因子の低下が抑制されることがわかった。特に、グアニジンチオシアネートを電解液に添加した場合、形状因子の低下を抑制する効果が顕著であった。更に、実施例1の色素1に比して実施例2の色素2の方が、変換効率及び形状因子の低下抑制の効果が顕著であった。なお、グアニジンチオシアネートを電解液に添加すると、初期の変換効率をより高めることができることもわかった。
【0045】
【表1】
【0046】
また、交流インピーダンス測定によって、
図5に示すように、比較例1では、抵抗成分R1の抵抗の増加が認められた。これに対して、実施例1では、このような抵抗の増加が抑制されていることがわかった。また、
図6に示すように、比較例2では、抵抗成分R1,R2,R3の抵抗の増加が認められたが、実施例2では、このような抵抗の増加が抑制されていることがわかった。したがって、グアニジンチオシアネートを電解液に添加すると、少なくとも抵抗成分R1の増加を抑制することができるものと推察された。この予想される抵抗成分は、例えば、対極でのI
3-への電子移動反応や、透明導電膜での電子授受に基づくものなどが考えられた。また、グアニジンチオシアネートを添加した電解液では、抵抗成分R1の他に、抵抗成分R2の増大をより抑制する効果も確認された。この抵抗成分R2は、TiO
2/色素/電解液の界面抵抗に基づくものと考えられる。