特許第6042666号(P6042666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042666ろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042666
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 37/02 20060101AFI20161206BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B01D37/02 A
   B01D21/30 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-195127(P2012-195127)
(22)【出願日】2012年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-50773(P2014-50773A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】野網 都夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 太秀
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−126721(JP,A)
【文献】 特開平04−011905(JP,A)
【文献】 特開2004−195304(JP,A)
【文献】 特開平03−134706(JP,A)
【文献】 特開2001−079310(JP,A)
【文献】 特開2012−213759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 36/00−37/08
B01D 21/30
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューラルネットワークを利用して複数の注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過した際のろ過水の水質を予測する処理水水質予測ステップと、
前記処理水水質予測ステップにおいて予測されたろ過水の水質を用いて、前記複数の注入率条件について、評価関数=a×ろ過補助剤注入率+b1(濁度目標値−濁度予測値)+b2(微粒子数予測値)+b3(損失水頭上昇速度予測値)、かつ、a+b1+b2+b3=1を満たす式で、評価関数の値を算出する評価関数算出ステップと、
前記評価関数算出ステップにおいて算出された評価関数の値に基づいて、評価関数の値が最も小さい値となった時のろ過助剤の注入率をろ過助剤の最適な注入率条件決定する注入率決定ステップと、
前記注入率決定ステップにおいて決定された注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過するろ過ステップと、
を含むことを特徴とするろ過助剤注入制御方法。
【請求項2】
ニューラルネットワークを利用して複数の注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過した際のろ過水の水質を予測する処理水水質予測手段と、
前記処理水水質予測手段によって予測されたろ過水の水質を用いて、前記複数の注入率条件について、評価関数=a×ろ過補助剤注入率+b1(濁度目標値−濁度予測値)+b2(微粒子数予測値)+b3(損失水頭上昇速度予測値)かつa+b1+b2+b3=1を満たす式で評価関数の値を算出する評価関数算出手段と、
前記評価関数算出手段によって算出された評価関数の値に基づいて、評価関数の値が最も小さい値となった時のろ過助剤の注入率をろ過助剤の最適な注入率条件決定する注入率決定手段と、
前記注入率決定手段によって決定された注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過するろ過手段と、
を備えることを特徴とするろ過助剤注入制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過池に流入する処理水へのろ過助剤の注入率を制御するろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、急速ろ過方式が採用されている浄水場は、原水に凝集剤を注入して急速撹拌する薬品混和池と、薬品混和池において生成された凝集体(マイクロフロック)を成長させるフロック形成池と、フロック形成池において成長したフロックを沈殿除去する沈殿池と、沈殿池において沈殿しきらなかった粒子やフロックを除去するろ過池と、を備えている。
【0003】
急速ろ過方式による浄水処理の重要なポイントは、原水の水質に応じて凝集剤注入率を適正な値に制御し、沈降性のよいフロックを形成することである。不適切な凝集剤注入率で浄水処理を行った場合、沈殿池からのフロックのキャリーオーバや凝集不良によって、ろ過池の損失水頭の上昇、逆洗頻度の増加、及びろ過池からの微細粒子の流出等の問題が発生する。しかしながら、適正な凝集剤注入率は、原水濁度、pH、及び水温等の要因によって変化し、河川表流水毎に異なるので、原水濁度のみに基づいて適正な凝集剤注入率を一義的に決定することはできない。このため、急速ろ過方式を採用している浄水場では、ジャーテストや各種水質をパラメータとした注入率式、フロック粒径制御等の方法によって、凝集状況の判定や適正な凝集剤注入率の決定又は制御を行っている。
【0004】
一方、1996年に水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針が厚生省(現・厚生労働省)から通知され、ろ過池出口の濁度を0.1度以下に維持するように制定され、浄水場にとって重要な課題となった。ところが、高濁度、高色度、藻類が多い等、原水水質や凝集条件が不適切な状態にある場合、ろ過池出口の濁度が0.1度以上になることがある。また、逆洗処理直後にろ過池出口の濁度が上昇し、0.1度以上になることもある。このような背景から、ろ過処理プロセスの前に処理水にろ過助剤を注入する方法が提案されている。具体的には、特許文献1には、沈殿処理水の濁度や水温及び凝集剤の効果に基づいてろ過処理プロセスの前に処理水に注入するろ過助剤の注入率を決定する技術が開示されている。また、特許文献2には、ろ過水の濁度や沈殿処理水濁度及びろ過水濁度の変化率からろ過処理プロセスの前に処理水に注入するろ過助剤の注入率を決定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−11905号公報
【特許文献2】特開2004−195304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のろ過助剤注入処理では、ろ過助剤の注入率を処理水の濁度に応じて比例制御しているために、濁度に表れない水質の変化に対応できず、ろ過水の水質を目標値に制御できないことがある。また、ろ過助剤の注入率は水質の目標値に対し余裕を持たせた値に設定されるために、必要量より多くのろ過助剤が注入されてしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ろ過水の水質を目標値に制御しつつろ過助剤注入処理に要するコストを削減可能なろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るろ過助剤注入制御方法は、ニューラルネットワークを利用して複数の注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過した際のろ過水の水質を予測する処理水水質予測ステップと、前記処理水水質予測ステップにおいて予測されたろ過水の水質を用いて、前記複数の注入率条件について、ろ過助剤注入処理のコストとろ過水の水質の目標値に対する予測値の乖離度とをパラメータとして少なくとも含む評価関数の値を算出する評価関数算出ステップと、前記評価関数算出ステップにおいて算出された評価関数の値に基づいて、ろ過助剤の最適な注入率条件を決定する注入率決定ステップと、前記注入率決定ステップにおいて決定された注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過するろ過ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るろ過助剤注入制御方法は、上記発明において、前記評価関数は、ろ過水中の微粒子数の予測値とろ過池の損失水頭上昇速度の予測値とをパラメータとして含むことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るろ過助剤注入制御装置は、ニューラルネットワークを利用して複数の注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過した際のろ過水の水質を予測する処理水水質予測手段と、前記処理水水質予測手段によって予測されたろ過水の水質を用いて、前記複数の注入率条件について、ろ過助剤注入処理のコストとろ過水の水質の目標値に対する予測値の乖離度とをパラメータとして少なくとも含む評価関数の値を算出する評価関数算出手段と、前記評価関数算出手段によって算出された評価関数の値に基づいて、ろ過助剤の最適な注入率条件を決定する注入率決定手段と、前記注入率決定手段によって決定された注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過するろ過手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置によれば、ろ過水の水質を目標値に制御しつつろ過助剤注入に要するコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態であるろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置が適用される浄水処理システムの構成を示す模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態であるろ過助剤注入制御処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施形態であるニューラルネットワークの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態であるろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置について説明する。
【0014】
〔浄水処理システムの構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態であるろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置が適用される浄水処理システムの構成について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態であるろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置が適用される浄水処理システムの構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の一実施形態であるろ過助剤注入制御方法及びろ過助剤注入制御装置が適用される浄水処理システム1は、河川等から原水を取水して貯留する着水井10と、着水井10から取水された原水に凝集剤を注入して急速撹拌する薬品混和池20と、貯留槽30a〜30cのそれぞれに設けられたフロキュレータ31a〜31cを利用して原水を緩速攪拌することにより薬品混和池20において生成された凝集体を成長させるフロック形成池30と、フロック形成池30において成長したフロックを沈殿除去する沈殿池40と、沈殿池40において沈殿しきらなかった粒子やフロックを除去するろ過池50と、を備えている。
【0016】
図1に示す浄水処理システム1は、制御系として、水温計101と、pH計102と、濁度計103,104と、損失水頭計105と、制御装置106と、ろ過助剤注入装置107と、を備えている。水温計101は、着水井10内の原水の水温を測定し、測定値を制御装置106に出力するものである。pH計102は、薬品混和池20に貯留されている原水のpHを検出し、検出されたpH値を制御装置106に出力するものである。濁度計103は、沈殿池40から排出された沈殿処理水の濁度を検出し、検出された濁度値を制御装置106に出力するものである。濁度計104は、ろ過池50から排出されたろ過水の濁度及びろ過水中に含まれる微粒子数を検出し、検出された濁度値及び微粒子数を制御装置106に出力するものである。損失水頭計105は、ろ過池50の損失水頭を算出し、算出された損失水頭を制御装置106に出力するものである。制御装置106は、マイクロコンピュータ等の情報処理装置によって構成され、後述するろ過助剤注入制御処理を実行することによって、沈殿処理水へのろ過助剤の注入率を制御する。ろ過助剤注入装置107は、制御装置106からの制御信号に従って沈殿処理水にろ過助剤を注入する。
【0017】
このような構成を有する浄水処理システム1では、制御装置104が、以下に示すろ過助剤注入制御処理を実行することによって、ろ過水の水質を目標値に制御しつつろ過助剤の注入処理に要するコストを削減する。以下、図2に示すフローチャートを参照して、ろ過助剤注入制御処理を実行する際の制御装置106の動作について説明する。
【0018】
〔ろ過助剤注入制御処理〕
図2は、本発明の一実施形態であるろ過助剤注入制御処理の流れを示すフローチャートである。図2に示すフローチャートは、浄水処理システム1の稼働が開始したタイミングで開始となり、ろ過助剤注入制御処理はステップS1の処理に進む。ろ過助剤注入制御処理は所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0019】
ステップS1の処理では、制御装置106が、ろ過水の濁度を予測するための入力データを取得する。具体的には、制御装置106は、図3に示すニューラルネットワークの入力データを取得する。図3に示すニューラルネットワークは、4個のニューロンX〜Xを有する入力層、4個のニューロンY〜Yを有する中間層、及び3個のニューロンZ〜Zを有する出力層からなる階層構造になっており、ニューラルネットワークの学習アルゴリズムとして誤差逆伝搬法を採用している。本実施形態では、(1)濁度計103によって測定された沈殿処理水の濁度、(2)水温計101によって測定された原水の水温、(3)損失水頭計105によって計測されたろ過池50の損失水頭、及び(4)ろ過助剤の注入率を入力データとして用いた。また、出力データは、ろ過水の濁度、ろ過水内の微粒子数、及びろ過池50の損失水頭の上昇速度とした。但し、入力データは上記の入力データに限定されることはなく、例えば主成分分析を行うことによってろ過水の濁度と関係性がある項目を入力データとして適宜選択することが望ましい。これにより、ステップS1の処理は完了し、ろ過助剤注入制御処理はステップS3の処理に進む。
【0020】
ステップS2の処理では、制御装置106が、ステップS1の処理によって取得した入力データを図3に示すニューラルネットワークに入力することによって、入力した注入率でろ過助剤を注入した場合のろ過水の濁度、ろ過水内の微粒子数、及びろ過池50の損失水頭の上昇速度を予測する。これにより、ステップS2の処理は完了し、ろ過助剤注入制御処理はステップS3の処理に進む。
【0021】
ステップS3の処理では、制御装置106が、ステップS2の処理において入力したろ過助剤の注入率及びステップS2の処理によって予測されたろ過水の濁度(濁度予測値)、ろ過水内の微粒子数(微粒子数予測値)、及びろ過池50の損失水頭の上昇速度(損失水頭上昇速度予測値)を以下に示す数式(1)に代入することによって、評価関数Fの値を算出する。数式(1)中、係数a,b1,b2,b3はa+b1+b2+b3=1を満たす値である。係数aの値を係数b1〜b3の和より大きくすることによってコスト削減を重視した制御が可能となり、係数aの値を係数b1〜b3の和より小さくすることによってろ過水の水質及び浄水処理システムの安定性を重視した制御が可能となる。また、係数b1の値は、濁度予測値が濁度目標値以下である場合は0、濁度予測値が濁度目標値以下である場合には正の所定値(ペナルティ値)を示す。これにより、ステップS3の処理は完了し、ろ過助剤注入制御処理はステップS4の処理に進む。
【0022】
【数1】
【0023】
ステップS4の処理では、制御装置106が、ろ過助剤の注入率を変更しながらステップS2及びステップS3の処理を繰り返し実行する。そして、制御装置106は、各処理において算出された評価関数Fの値に基づいて最適なろ過助剤の注入率を決定する。本実施形態では、制御装置106は、評価関数Fの値が最小になった時のろ過助剤の注入率を最適なろ過助剤注入率として決定する。これにより、ステップS4の処理は完了し、ろ過助剤注入制御処理はステップS5の処理に進む。
【0024】
ステップS5の処理では、制御装置106が、ステップS4の処理によって決定した注入率でろ過助剤を注入するようにろ過助剤注入装置107の動作を制御する。これにより、ステップS5の処理は完了し、一連のろ過助剤注入制御処理は終了する。
【0025】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態であるろ過助剤注入制御処理では、制御装置106が、ニューラルネットワークを利用して複数の注入率条件で沈殿処理水にろ過助剤を注入して沈殿処理水をろ過した際のろ過水の濁度を予測し、予測されたろ過水の濁度を用いて、複数の注入率条件について、ろ過助剤注入処理のコストとろ過水の濁度の目標値に対する予測値の乖離度とをパラメータとして含む評価関数の値を算出し、算出された評価関数の値に基づいて、ろ過助剤の最適な注入率条件を決定し、決定された注入率条件でろ過池に流入する処理水にろ過助剤を注入して処理水をろ過するので、ろ過水の濁度を目標値に制御しつつろ過助剤注入処理に要するコストを削減できる。
【0026】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1 浄水処理システム
10 着水井
20 薬品混和池
30 フロック形成池
30a,30b,30c 貯留槽
31a,31b,31c フロキュレータ
40 沈殿池
50 ろ過池
101 水温計
102 pH計
103,104 濁度計
105 損失水頭計
106 制御装置
107 ろ過助剤注入装置
図1
図2
図3