【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム次世代高性能技術の開発 極限シリコン結晶太陽電池の研究開発(次世代超薄型結晶シリコン太陽電池の低コスト・高効率化プロセス開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される太陽電池セルは、半導体基板の受光面にi型の非晶質膜と反射防止膜とからなる積層構造が形成され、受光面の反対側の表面(以下、裏面とも記す)には、i型の非晶質膜とp型の非晶質膜とn型の非晶質膜と電極層とからなる積層構造およびi型の非晶質膜とn型の非晶質膜と電極層とからなる積層構造が形成されている。すなわち、受光面と裏面とで、積層構造の構成が大幅に異なることから、半導体基板の受光面側と裏面側とで表面応力が異なり、製造プロセスにおいて半導体基板の反りなどに起因する悪影響が懸念され、太陽電池セルの薄化が困難であった。
【0007】
他方、太陽電池セルの普及にともなって、その製造コストの重要性は益々高まっており、より安価に製造できる太陽電池の開発が待ち望まれている。また、同時に変換効率のさらなる向上も求められている。
【0008】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、高い変換効率を有し、薄化が可能であるとともに、かつ安価に製造できる光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、半導体基板の受光面と裏面で積層構造を近似させるとともに、反射防止膜および電極層の導電率と透過率とを特定の関係とすることで、半導体基板の反りなどを防止するだけでなく、光電変換素子の変換効率の向上をもなし得ることを知見し、その知見に基づきさらに検討を重ねることにより本発明を完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明の光電変換素子は、第1導電型の半導体基板と、該半導体基板の一方の表面の全面に設けられた第1導電型の第1の非晶質膜と、該第1の非晶質膜上に設けられた第1の導電性酸化物層と、該半導体基板の他方の表面の一部に設けられた第1導電型の第2の非晶質膜と、該第2の非晶質膜上に設けられた第2の導電性酸化物層と、該半導体基板の他方の表面の他の一部に設けられた第2導電型の第3の非晶質膜と、該第3の非晶質膜上に設けられた第3の導電性酸化物層と、を備える光電変換素子であって、該第1の導電性酸化物層の導電率は、該第2の導電性酸化物層および該第3の導電性酸化物層の導電率よりも低く、該第1の導電性酸化物層の透過率は、該第2の導電性酸化物層および該第3の導電性酸化物層の透過率よりも高いことを特徴とする。
【0011】
ここで、上記第1の導電性酸化物層、上記第2の導電性酸化物層および上記第3の導電性酸化物層は、共通の元素から構成された酸化物であり、該第2の導電性酸化物層および該第3の導電性酸化物層の酸素含有量は、該第1の導電性酸化物層の酸素含有量より低いことが好ましい。
【0012】
なお、ここで、第1導電型とはp型またはn型であることを示し、第2導電型とは第1導電型とは異なるn型またはp型であることを示す。
【0013】
また、上記共通の元素は、インジウム、スズ、ガリウム、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることが好ましく、さらに具体的には上記酸化物は、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物およびアルミニウム亜鉛酸化物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0014】
また、上記第1の導電性酸化物層の酸素含有量は、33at%以上50at%以下であり、上記第2の導電性酸化物層および上記第3の導電性酸化物層の酸素含有量は、33at%未満であることが好ましい。なお、at%とは、atomic percentage、すなわち、原子数濃度を示す。
【0015】
また、本発明は、上記の光電変換素子の製造方法にも係わり、該製造方法は、第1導電型の半導体基板の一方の表面の全面に第1導電型の第1の非晶質膜を形成する工程と、該第1の非晶質膜上にスパッタリング法により第1の導電性酸化物層を形成する工程と、該半導体基板の他方の表面に第1導電型の第2の非晶質膜を形成する工程と、該他方の表面に第2導電型の第3の非晶質膜を、該第2の非晶質膜と離間して形成する工程と、該第2の非晶質膜と該第3の非晶質膜との間にマスク材を形成する工程と、該第2の非晶質膜上、該第3の非晶質膜上および該マスク材上に、スパッタリング法により第2の導電性酸化物層および第3の導電性酸化物層を作製するための導電性酸化物層を形成する工程と、該マスク材を除去することにより、該第2の導電性酸化物層および第3の導電性酸化物層を作製するための導電性酸化物層を第2の導電性酸化物層と第3の導電性酸化物層とに分離する工程と、を含み、該スパッタリング法により第1の導電性酸化物層を形成する工程における導入酸素流量比が、該スパッタリング法により第2の導電性酸化物層および第3の導電性酸化物層を作製するための導電性酸化物層を形成する工程における導入酸素流量比よりも高いことを特徴とする。
【0016】
なお、ここで、導入酸素流量比とは、アルゴンガスなどの不活性ガスを含めたトータルの導入ガス流量に対する導入酸素流量の比率を示す。
【0017】
また、上記スパッタリング法により第1の導電性酸化物層を形成する工程における導入酸素流量比は5%以上50%以下であり、上記スパッタリング法により第2の導電性酸化物層および第3の導電性酸化物層を作製するための導電性酸化物層を形成する工程における導入酸素流量比は5%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光電変換素子は、高い変換効率を有し、薄化が可能であるとともに、かつ安価に製造できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態の光電変換素子の模式的な断面図である。
【
図2】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図3】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図4】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図5】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図6】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図7】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図8】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図9】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図10】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図11】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図12】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【
図13】実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例の工程の一部について図解する模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0021】
<光電変換素子>
(全体構成)
図1は、実施の形態の光電変換素子の模式的な断面図である。本発明の実施の形態である光電変換素子は、半導体基板1の受光面に、i型のアモルファスシリコンからなる第1のノンドープ膜2と、n型のアモルファスシリコンからなる第1の非晶質膜3と、第1の導電性酸化物層4と、が積層されており、半導体基板1の裏面には、i型のアモルファスシリコンからなる第2のノンドープ膜5と、n型のアモルファスシリコンからなる第2の非晶質膜6と、第2の導電性酸化物層7と、が積層されており、さらに、半導体基板1の他の裏面には、i型のアモルファスシリコンからなる第3のノンドープ膜8と、p型のアモルファスシリコンからなる第3の非晶質膜9と、第3の導電性酸化物層10と、が積層されている。ここで、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の裏面には、さらにアルミニウムや銀などからなる金属電極層が形成されていても良い。
【0022】
そして、第1の導電性酸化物層4の導電率は、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の導電率よりも低く、かつ第1の導電性酸化物層4の透過率は、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の透過率よりも高いことを特徴とする。
【0023】
以上の構成を有する本発明の光電変換素子は、受光面に形成された第1の導電性酸化物層4の透過率が高いことにより短絡電流が増加するとともに、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の導電率が高いことより短絡電流がさらに増加する。その結果、光電変換時の電流電圧特性における曲線因子(FF:フィルファクタ)が向上する。したがって、高い変換効率を有する光電変換素子を提供することができる。
【0024】
以下、実施の形態の光電変換素子を構成する各部について説明する。
(導電性酸化物層)
本発明の光電変換素子は、上記のように、第1の導電性酸化物層4、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10を備える。本発明の光電変換素子において、第1の導電性酸化物層4は、反射防止膜としての機能を有し、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10は電極層としての機能を有する。すなわち、各層を構成する導電性酸化物は、光を透過し、反射を防止するとともに、電気伝導性を兼備する酸化物である。このような酸化物としては、典型的には、ITO(Indium Tin Oxide:インジウムスズ酸化物)などの透明導電膜として利用し得る酸化物を挙げることができる。
【0025】
第1の導電性酸化物層4の導電率は、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の導電率よりも低いことを要する。ここで、本明細書において、各導電性酸化物層の導電率はJIS K 7194に準じた方法により測定された値を採用する。たとえば、テスタやデジタルマルチメータなどを用いて測定することができる。
【0026】
ここで、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の導電率は、1000S/cm以上であることが好ましい。さらに、第2の導電性酸化物層7の導電率と第3の導電性酸化物層10の導電率は実質的に同一であることが好適である。
【0027】
また、第1の導電性酸化物層4の透過率は、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の透過率よりも高いことを要する。ここで、各導電性酸化物層の透過率は、たとえば、分光透過率測定器などを用いて測定することができる。
【0028】
ここで、第1の導電性酸化物層4の透過率は、90%以上であることが好ましい。さらに、第2の導電性酸化物層7の透過率と第3の導電性酸化物層10の透過率は、実質的に同一であることが好適である。
【0029】
本発明の光電変換素子において、第1の導電性酸化物層4、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10は、いずれも共通の元素から構成された酸化物であることが好ましい。ここで、共通の元素から構成された酸化物であるとは、構成元素種が共通していることを示し、各導電性酸化物層において、化合物中の各元素の組成比は異なっていても良い。このように、各導電性酸化物層を、共通の元素から構成された酸化物とすることで、原料の共通化が可能であり、安価に製造できる光電変換素子を実現可能である。
【0030】
上記共通の元素は、インジウム(In)、スズ(Sn)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)およびアルミニウム(Al)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることが好ましく、これらの元素を共通して含む導電性酸化物としては、好ましくは、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)およびこれらの併用などを挙げることができる。また、上記の化合物に対し、他の元素が微量にドープされたものであっても良い。さらに、各導電性酸化物層は、単一の組成からなる単層の化合物層であっても良く、複数の組成の化合物層が積層されていても良い。すなわち、本発明の導電性酸化物層は、インジウムスズ酸化物、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物およびアルミニウム亜鉛酸化物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0031】
本発明の光電変換素子において、各導電性酸化物層は、上記のように共通の元素から構成された酸化物であるため、各導電性酸化物層の導電率および透過率は、導電性酸化物層の酸素含有量により調整することができる。すなわち、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の酸素含有量を、第1の導電性酸化物層4の酸素含有量よりも低く調整することにより、第1の導電性酸化物層4の導電率が、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の導電率よりも低く、かつ第1の導電性酸化物層4の透過率が、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の透過率よりも高い関係とすることができる。
【0032】
具体的態様としては、たとえば、第1の導電性酸化物層4、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10は、いずれもITOにより構成されており、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10を構成するITOの酸素含有量が、第1の導電性酸化物層4を構成するITOの酸素含有量よりも低い態様などを挙げることができる。
【0033】
ここで、第1の導電性酸化物層4の酸素含有量は、33at%以上50at%以下であり、かつ第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の酸素含有量は、33at%未満であることが好ましい。また、第2の導電性酸化物層7の酸素含有量と第3の導電性酸化物層10の酸素含有量とは、実質的に同一であることが好ましい。各層の酸素含有量は、たとえばSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:2次イオン質量分析法)によって測定することができる。
【0034】
各導電性酸化物層の厚さは、たとえば100nm程度とすることができ、第2の導電性酸化物層7の厚さと第3の導電性酸化物層10の厚さとは、実質的に同一であることが好適である。
【0035】
第1の導電性酸化物層4は、上記のように反射防止膜としての機能を有する。したがって、第1の導電性酸化物層4の厚さは、100nm程度であることが好ましく、屈折率は1.5以上3.5以下であることが好ましい。
【0036】
(半導体基板)
半導体基板1としては、n型単結晶シリコンからなる基板に限定されず、従来公知の半導体基板を用いることができる。また、半導体基板1としては、たとえば予め半導体基板1の受光面にテクスチャ構造(図示せず)が形成された半導体基板などを用いても良い半導体基板1の厚さは、特に限定されないが、たとえば100μm以上300μm以下とすることができ、好ましくは100μm以上200μm以下とすることができる。また、半導体基板1の比抵抗も特に限定されないが、たとえば0.1Ω・cm以上1Ω・cm以下とすることができる。
【0037】
(ノンドープ膜)
第1のノンドープ膜2、第2のノンドープ膜5および第3のノンドープ膜8としては、i型のアモルファスシリコンからなる膜に限定されず、たとえば従来から公知のi型のアモルファス半導体膜などを用いてもよい。各ノンドープ膜の厚さは、特に限定されないが、たとえば5nm以上10nm以下とすることができる。
【0038】
ここで、i型とは、n型またはp型の不純物を意図的にドーピングしていないことを意味しており、たとえば光電変換素子の作製後にn型またはp型の不純物が不可避的に拡散することなどによってn型またはp型の導電型を示すこともあり得る。
【0039】
また、「アモルファスシリコン」には、水素化アモルファスシリコンなどのシリコン原子の未結合手(ダングリングボンド)が水素で終端されたものも含まれる。
【0040】
(非晶質膜)
第1の非晶質膜3および第2の非晶質膜6としてはn型のアモルファスシリコンからなる膜に限定されず、たとえば従来から公知のn型のアモルファス半導体膜などを用いてもよい。第1の非晶質膜3および第2の非晶質膜6の厚さは、特に限定されないが、たとえば5nm以上10nm以下とすることができる。ここで、第1の非晶質膜3および第2の非晶質膜6に含まれるn型不純物としては、たとえばリンを用いることができ、第1の非晶質膜3および第2の非晶質膜6のn型不純物濃度は、たとえば5×10
19個/cm
3程度とすることができる。
【0041】
第3の非晶質膜9としてはp型のアモルファスシリコンからなる膜に限定されず、たとえば従来から公知のp型のアモルファス半導体膜などを用いても良い。第3の非晶質膜9の厚さは、特に限定されないが、たとえば5nm以上10nm以下とすることができる。ここで、第3の非晶質膜9に含まれるp型不純物としては、たとえばボロンを用いることができ、第3の非晶質膜9のp型不純物濃度は、たとえば5×10
19個/cm
3程度とすることができる。
【0042】
ここで、光電変換素子の反りを抑制する観点から、半導体基板1の受光面側に積層された第1のノンドープ膜2、第1の非晶質膜3および第1の導電性酸化物層4の合計厚さと、半導体基板1の裏面側に積層された第2のノンドープ膜5、第2の非晶質膜6および第2の導電性酸化物層7の合計厚さと、第3のノンドープ膜8、第3の非晶質膜9および第3の導電性酸化物層10の合計厚さとは、それぞれ実質的に等しい厚さであることが好ましい。該構成より、光電変換素子の製造過程において、半導体基板1の反りが抑制されるため、従来よりも薄い光電変換素子を実現することができる。
【0043】
このような本発明の光電変換素子は、以下のような製造方法によって製造される。換言すれば、以下のような製造方法によって製造される光電変換素子は、上記のような特性を示す。したがって、本発明の光電変換素子は、高い変換効率を有し、薄化が可能であるとともに、かつ安価に製造できるという優れた効果を有する。
【0044】
<光電変換素子の製造方法>
以下、
図2〜
図13の模式的断面図を参照して、実施の形態の光電変換素子の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0045】
まず、
図2に示すように、n型の半導体基板1の受光面の全面上に、i型のアモルファスシリコンからなる第1のノンドープ膜2とn型のアモルファスシリコンからなる第1の非晶質膜3とを、この順序で、たとえばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により積層する。
【0046】
次に、
図3に示すように、第1の非晶質膜3の全面上に、インジウム(In)、スズ(Sn)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)およびアルミニウム(Al)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素と酸素とからなる第1の導電性酸化物層4をスパッタリング法により形成する。
【0047】
ここで、スパッタリング法としては、従来公知の方法を採用することができ、たとえば、直流グロー放電スパッタリング法、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、バランストマグネトロンスパッタリング法、アンバランストマグネトロンスパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、イオンビーム式スパッタリング法、アーク式イオンプレーティング法、等を挙げることができる。
【0048】
また、スパッタリング法により、第1の導電性酸化物層を形成する際の導入酸素流量比は、5%以上であることが好ましい。
【0049】
次に、
図4に示すように、半導体基板1の裏面の全面上に、i型のアモルファスシリコンからなる第2のノンドープ膜5とn型のアモルファスシリコンからなる第2の非晶質膜6を、この順序で、たとえばプラズマCVD法により積層する。
【0050】
次に、
図5に示すように、第2の非晶質膜6上の一部に、レジスト膜11を形成する。ここで、レジスト膜11は、特に限定されないが、たとえば、レジストインクをインクジェット法により印刷し、それを乾燥させることにより形成したものなどを用いることができる。
【0051】
次に、
図6に示すように、レジスト膜11によって被覆されていない第2のノンドープ膜5および第2の非晶質膜6の一部を除去し、半導体基板1を露出させる。ここで、第2のノンドープ膜5および第2の非晶質膜6を除去する方法は特に限定されないが、ドライエッチングを用いることが好ましい。
【0052】
次に、レジスト膜11を除去して洗浄した後、
図7に示すように、半導体基板1の露出面上および第2の非晶質膜6上に、金属膜12をたとえばスパッタリング法により形成する。ここで、金属膜12は特に限定されず、たとえばアルミニウムなどを用いることができる。
【0053】
次に、
図8に示すように、金属膜12上の一部に、耐酸性のレジスト膜13を形成する。ここで、耐酸性のレジスト膜13は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
【0054】
次に、
図9に示すように、レジスト膜13から露出した金属膜12の一部を除去することにより、半導体基板1を露出させる。ここで、金属膜12を除去する方法は、酸性溶液を用いたウエットエッチングを用いることが好ましい。ここで、酸性溶液としては、たとえば、塩酸、硝酸、フッ酸またはこれらの併用などを用いることができる。
【0055】
次に、レジスト膜13を除去して洗浄した後、
図10に示すように、半導体基板1の露出面上および第2の非晶質膜6上に、i型のアモルファスシリコンからなる第3のノンドープ膜8およびp型のアモルファスシリコンからなる第3の非晶質膜9を、この順序で、たとえばプラズマCVD法により積層する。
【0056】
次に、
図11に示すように、金属膜12の残部を、酸性溶液を用いたウエットエッチングにより除去し、リフトオフ法により、金属膜12の残部上に形成されていた、第3のノンドープ膜8と第3の非晶質膜9を除去する。
【0057】
次に、
図12に示すように、第2の非晶質膜6と第3の非晶質膜9との間に生じた開口部14付近に、マスク材15となるレジスト膜を形成する。
【0058】
ここで、マスク材15は、特に限定されないが、フォトレジストを用いることが好ましい。
【0059】
次に、
図13に示すように、第2の非晶質膜6上と、第3の非晶質膜9上とマスク材15上に、第1の導電性酸化物層4と共通の元素と酸素とからなる導電性酸化物層16をスパッタリング法により形成する。
【0060】
ここで、スパッタリング法により導電性酸化物層16を形成する際の導入酸素流量比(アルゴンガスなどの不活性ガスを含めたトータルの導入ガス流量に対する導入酸素流量の比率)は、第1の導電性酸化物層を形成した際の導入酸素流量比よりも低いことが好ましく、より好ましくは5%未満である。導入酸素流量比が5%以上であると、チャンバー内の酸素ラジカルによって、マスク材15がダメージを受けやすくなり、マスク材15の形状が変化する不都合が生じる。マスク材15の形状が変化した場合、後述するリフトオフ法によりマスク材15および導電性酸化物層16の一部を除去する際に、第2の導電性酸化物層7と第3の導電性酸化物層10の分離が不十分となり、短絡する可能性がある。導入酸素流量比が、5%未満であれば、実質的に無視することができる程度にプラズマダメージを抑制することができ、短絡を防止することができる。
【0061】
次に、
図1に示すように、マスク材15およびマスク材15上に形成された導電性酸化物層16をリフトオフ法によって除去することにより、導電性酸化物層16を第2の導電性酸化物層7と第3の導電性酸化物層10とに分離する。これにより、n型電極(第2の導電性酸化物層7)とp型電極(第3の導電性酸化物層10)とを、簡便に、かつ確実に分離することができる。
【0062】
以上の工程を含む、本発明の光電変換素子の製造方法は、第1の導電性酸化物層4、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10をスパッタリング法により形成する各工程において、ターゲット材を共通化することができるため、本発明の光電変換素子を安価に製造することができる。また、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10をスパッタリング法により形成する工程において、導入酸素流量比を低く制限したことにより、マスク材15へのプラズマダメージが軽減される。これにより、マスク材15のリフトオフする際に、電極同士が短絡する不都合がない。
【0063】
また、同時に、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10を形成する際の導入酸素流量比を、第1の導電性酸化物層4を形成する際の導入酸素流量比よりも低く制限したことにより、第1の導電性酸化物層4の導電率を、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の導電率よりも低く、かつ第1の導電性酸化物層4の透過率は、第2の導電性酸化物層7および第3の導電性酸化物層10の透過率よりも高い、構成を得ることができる。上述のとおり、本発明の光電変換素子は、該構成により、短絡電流を増加させ、高い変換効率を示す。
【0064】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。