特許第6042680号(P6042680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042680無鉛はんだ合金、ソルダーペースト組成物及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042680
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】無鉛はんだ合金、ソルダーペースト組成物及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20161206BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20161206BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20161206BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20161206BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20161206BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20161206BHJP
   B23K 101/42 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   B23K35/26 310A
   C22C13/00
   C22C13/02
   B23K35/22 310A
   B23K1/00 330E
   H05K3/34 512C
   H05K3/34 505B
   B23K101:42
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-213192(P2012-213192)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-65065(P2014-65065A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】新井 正也
(72)【発明者】
【氏名】大年 洋司
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−193169(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/011392(WO,A1)
【文献】 特開2011−138968(JP,A)
【文献】 特開2000−173253(JP,A)
【文献】 国際公開第1997/009455(WO,A1)
【文献】 特開2013−252548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
C22C 13/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3重量%以上4重量%以下のBiと、2重量%以上2.5重量%以下のInと、0.5重量%以上0.7重量%以下のCuと、3重量%以上4重量%以下のAgとを含み、残部がSnと不可避不純物とからなることを特徴とする無鉛はんだ合金と、フラックス組成物を含むソルダーペースト組成物であって、
これを用いて形成するはんだ接合部のβ−Snからγ−SnInへの相変態温度が150℃以上であることを特徴とするソルダーペースト組成物
【請求項2】
前記無鉛はんだ合金はNi、Co、Fe、Mn、Cr及びMoのいずれか1種以上を合計で0.005重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載のソルダーペースト組成物
【請求項3】
前記無鉛はんだ合金の室温下での引張強さは70Mpa以上であり、150℃下での引張強さは20Mpa以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のソルダーペースト組成物
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のソルダーペースト組成物を用いて形成するはんだ接合部を備えることを特徴とするプリント配線板。
【請求項5】
はんだ接合部を−40℃下で30分間及び125℃下で30分間保持するサイクルを3,000回繰り返す冷熱サイクル履歴を与える前後において前記はんだ接合部に含まれるSnマトリックスにInが固溶することを特徴とする請求項に記載のプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンルーム内のように寒暖の差が激しい環境下に置かれる車載用基板にも使用可能な無鉛はんだ合金、ソルダーペースト組成物及びこれらを用いて形成するはんだ接合部を有するプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品を基板に実装する際には鉛を含むはんだを使用するのが一般的であった。しかしRoHS指令等により鉛の使用が制限されたことを受け、近年では鉛を含まない、いわゆる無鉛はんだへの使用に切り替わっている。このような無鉛はんだとしては、溶融温度が鉛はんだに近いSn−3.0Ag−0.5Cu合金が最も広く使用されている。
【0003】
しかし、車載用電子機器のように寒暖の差が非常に激しい使用環境下に置かれる車載用基板の場合、Sn−3.0Ag−0.5Cu合金を使用して形成したはんだ接合部は、繰り返される冷熱サイクルによって熱膨張及び収縮を起こし、金属疲労によるクラックを発生させる。特に近年では車載用電子機器が車室内からエンジンルーム内に搭載されることが増えており、エンジンルーム内のような過酷な冷熱サイクル環境下(例えば−40℃から125℃)での長時間の使用に耐え、長期の信頼性を保持できるはんだ合金が求められている。
【0004】
ここで、Sn−Ag−Cu系合金は溶融温度が比較的高い。そこで溶融温度を下げる目的でこれにBiを添加することがある。しかし、はんだ合金に占めるBiの含有量が多いと、はんだ合金の延伸性、強度、耐熱衝撃性(長期の冷熱サイクル下での耐クラック性)は低下してしまう。そのため、はんだ合金の延伸性や強度等を低下させることなく、その溶融温度を低下させる目的で、はんだ合金にInを添加することがある(特許文献1乃至特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−28413号公報
【特許文献2】国際公開2009/011341号
【特許文献3】特許第4962570号公報
【特許文献4】特開2004−188453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
はんだ合金にInを添加すれば、その機械的特性は向上する。しかし、Inは他の合金組成に比べてコストが高いため、その含有量の増加に伴いはんだ合金のコストも増加する。
またInを含むはんだ合金をソルダーペースト組成物に用いる場合、リフロー時のソルダーボールの発生やはんだ未融解が起こり易くなり、電子部品と基板の接合不良といったオープン不良やショートを引き起こす虞がある。特に近年では車載用基板においても実装部品の小型化、高密度化が進んでおり、これに伴いソルダーペースト組成物による印刷パターンも微細化している。しかし、印刷パターンが微細化すればソルダーペーストの未融解率は高くなる。
このように、特に高信頼性が要求される車載用基板においては、ソルダーボールの発生やはんだの未融解は回避すべき問題の1つとなっている。
更には、Inを多く含有するはんだ合金を用いて形成するはんだ接合部は、低温下でも相変態及び体積変化が起こり易くなる。そのため、このようなはんだ接合部は変形し易くなり、長時間の使用により強度及び耐熱衝撃性が低下する虞がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであり、ソルダーペースト組成物に用いた場合であってもリフロー時のソルダーボール及びはんだ未融解の発生を抑制しつつ、優れた延伸性、引張強さ及び耐熱衝撃性を有する無鉛はんだ合金、ソルダーペースト組成物、及びこれらを用いて形成するはんだ接合部を有するプリント配線板を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無鉛はんだ合金、ソルダーペースト組成物及びプリント配線板は、以下の構成であることをその特徴とする。
【0009】
(1)本発明の無鉛はんだ合金は、3重量%以上5重量%以下のBiと、1重量%以上3重量%以下のInと、0.3重量%以上1重量%以下のCuと、2.5重量%以上4.5重量%以下のAgとを含み、残部がSnと不可避不純物とからなることをその特徴とする。
【0010】
(2)また本発明の無鉛はんだ合金は、3重量%以上4重量%以下のBiと、2重量%以上2.5重量%以下のInと、0.5重量%以上0.7重量%以下のCuと、3重量%以上4重量%以下のAgとを含み、残部がSnと不可避不純物とからなることをその特徴とする。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)の構成にあって、本発明の無鉛はんだ合金は、Snに代えてNi、Co、Fe、Mn、Cr及びMoのいずれか1種以上を合計で0.005重量%以上0.05重量%以下含むことをその特徴とする。
【0012】
(4)上記(1)、(2)又は(3)の構成にあって、本発明の無鉛はんだ合金は、Snに代えてP、Ga、Ge及びSbのいずれか1種以上を合計で3重量%以下含むことをその特徴とする。
【0013】
(5)上記(1)、(2)、(3)又は(4)の構成にあって、本発明の無鉛はんだ合金は、室温下での引張強さが70Mpaであり、150℃下での引張強さが20Mpa以上であることをその特徴とする。
【0014】
(6)本発明のソルダーペースト組成物は、上記(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の無鉛はんだ合金と、フラックス組成物とを含むことをその特徴とする。
【0015】
(7)本発明のプリント配線板は、上記(6)に記載のソルダーペースト組成物を用いて形成するはんだ接合部を備えることをその特徴とする。
【0016】
(8)上記(7)の構成にあって、前記はんだ接合部は、冷熱サイクル履歴を与える前後において該はんだ接合部に含まれるSnマトリックスにInが固溶することをその特徴とする。尚、本明細書において「冷熱サイクル履歴」とは、はんだ接合部を−40℃下で30分間及び125℃下で30分間保持するサイクルを3,000回繰り返すことを言う。
【0017】
(8)本発明のソルダーペースト組成物は、上記(6)の構成にあって、これを用いて形成するはんだ接合部の変態点が150℃以上であることをその特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の無鉛はんだ合金は、3重量%以上5重量%以下のBiと、1重量%以上3重量%以下のInと、0.3重量%以上1重量%以下のCuと、2.5重量%以上4.5重量%以下のAgとを含み、残部がSnと不可避不純物とからなることにより、その延伸性、引張強さ及び耐熱衝撃性といった機械的特性を向上することができる。
特に、本発明の無鉛はんだ合金は、150℃といった高熱下における引張強さに優れている。そのため、−40℃から125℃の冷熱サイクル下で発生する熱膨張及び収縮といった熱応力にも耐えることができる、優れた熱衝撃性を有するはんだ接合部を提供することができる。
【0019】
本発明の無鉛はんだ合金は上記組成からなることにより、Inの含有量を抑えつつ、その機械的特性を向上させることができる。これにより無鉛はんだ合金のコストを抑えることができ、更にはこのような無鉛はんだ合金をソルダーペースト組成物に用いる場合、リフロー時のソルダーボールやはんだ未融解の発生を抑えることができる。そのため、本発明の無鉛はんだ合金を用いるソルダーペースト組成物は、オープン不良やショートの発生を防ぐことができ、微小なチップを搭載したり、微細なパターンを印刷形成するような実装密度の高い車載用基板にもより好適に用いることができる。
【0020】
また本発明の無鉛はんだ合金は、3重量%以上4重量%以下のBiと、2重量%以上2.5重量%以下のInと、0.5重量%以上0.7重量%以下のCuと、3重量%以上4重量%以下のAgとを含み、残部がSnと不可避不純物からなることにより、その機械的特性、特に室温下での引張強さ及び耐熱衝撃性の向上とソルダーペースト組成物に用いる場合のリフロー時のソルダーボールの発生抑制効果を高めることができる。
更に本発明の無鉛はんだ合金は上記組成からなることにより、これを用いて形成するはんだ接合部の高温環境下でのγ−SnInへの変態量を少なくし、はんだ接合部の自己変形をより抑制することができる。
【0021】
本発明の無鉛はんだ合金は、室温下での引張強さが70Mpa以上であり、150℃下での引張強さが20Mpa以上であり、従来のSn−3.0Ag−0.5Cu合金に比べて高い強度を有している。そのため、本発明の無鉛はんだ合金は塑性変形が起きにくく、力を加えた場合に生じる歪みを小さくすることができる。これにより、−40℃から125℃の冷熱サイクル下で発生する熱応力にも耐えることができる、優れた熱衝撃性を有するはんだ接合部を提供できる。尚、Sn−3.0Ag−0.5Cu合金の引張強さは、室温下で33Mpa、150℃下で15Mpaである。
【0022】
このように、本発明の無鉛はんだ合金は延伸性、引張強さ、耐熱衝撃性といった優れた機械的特性を有する。これにより、本発明の無鉛はんだ合金を用いて形成するはんだ接合部は、−40℃から125℃の冷熱サイクル下に長時間曝された場合であっても優れた耐熱衝撃性を保ち、車載用基板として長期に渡って使用した場合であってもクラックの発生を抑制することができる。
【0023】
またこのような無鉛はんだ合金を用いる本発明のソルダーペースト組成物は、上記特性を保ちつつ、リフロー時のソルダーボール、はんだ未融解の発生を防ぐことができる。更には、このような無鉛はんだ合金及びソルダーペースト組成物を用いて形成するはんだ接合部を備える本発明のプリント配線板は、特に車載用基板に好適に用いることができる。
【0024】
更には、本発明のソルダーペースト組成物は、これを用いて形成するはんだ接合部の変態点を150℃以上とすることにより、−40℃から125℃の冷熱サイクル下であっても相変態が起こり難く、その体積変化を抑制することができる。これによりはんだ接合部の変形や強度の低下を抑制し、長期の過酷な冷熱サイクルに曝された場合であっても優れた耐熱衝撃性を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の無鉛はんだ合金、ソルダーペースト組成物及びプリント配線板の一実施形態を以下に詳述する。
【0026】
本発明の無鉛はんだ合金は、Agを2.5重量%以上4.5重量%以下含有する。Agの含有量が2.5重量%よりも少ないとその引張強さ及び耐熱衝撃性が低下するので好ましくない。またAgの含有量が4.5重量%よりも多いと無鉛はんだ合金の延伸性を阻害するので好ましくない。
更に、無鉛はんだ合金のAgの含有量を3重量%以上4重量%以下とした場合、その延伸性を更に向上することができる。
【0027】
本発明の無鉛はんだ合金は、Cuを0.3重量%以上1重量%以下含有する。Cuの含有量が0.3重量%よりも少ないと無鉛はんだ合金の延伸性が阻害され、また引張強さ及び耐熱衝撃性も低下するので好ましくない。またCuの含有量が1重量%よりも多いと無鉛はんだ合金の延伸性が阻害されるので好ましくない。
更に、無鉛はんだ合金のCuの含有量を0.5重量%以上0.7重量%以下とした場合、その耐熱衝撃性を更に向上することができる。
【0028】
本発明の無鉛はんだ合金は、Biを3重量%以上5重量%以下含有する。Biの含有量が3重量%よりも少ないと無鉛はんだ合金の機械的特性が低下するので好ましくない。またBiの含有量が5重量%よりも多いと無鉛はんだ合金の延伸性が阻害され、また耐熱衝撃性が低下するので好ましくない。
更に、無鉛はんだ合金のBiの含有量を3重量%以上4重量%以下とした場合、その延伸性と耐熱衝撃性を更に向上することができる。
【0029】
本発明の無鉛はんだ合金は、Inを1重量%以上3重量%以下含有する。これにより無鉛はんだ合金の溶融温度を低下させると共に、機械的特性及び耐熱衝撃性の向上効果を奏する。Inの含有量が1重量%よりも少ないと無鉛はんだ合金の耐熱衝撃性が阻害されるので好ましくない。またInの含有量が3重量%よりも多いとソルダーペースト組成物に使用した場合のソルダーボールの発生率が高くなり、また引張強さが低下するので好ましくない。
更に、無鉛はんだ合金のInの含有量を2重量%以上2.5重量%以下とした場合、ソルダーボールの発生率を抑制すると共に、その機械的特性を更に向上することができる。
【0030】
本発明の無鉛はんだ合金には、その機械的特性及び耐熱衝撃性を更に向上する目的で、Ni、Co、Fe、Mn、Cr及びMoのいずれか1種以上をSnに代えて含有させることができる。これらの含有量は合計で0.005重量%以上0.05重量%以下であることが好ましい。この含有量が0.05重量%よりも多いと無鉛はんだ合金の溶融温度が上昇し、ソルダーペースト組成物にした場合に一般的なリフロー温度でのリフローが難しくなるため好ましくない。
【0031】
本発明の無鉛はんだ合金には、その酸化を防止する目的で、P、Ga、Ge及びSbのいずれか1種以上をSnに代えて含有させることができる。これらの含有量は合計で3重量%以下であることが好ましい。この含有量が3重量%よりも多いと無鉛はんだ合金の溶融温度が上昇し、ソルダーペースト組成物にした場合に一般的なリフロー温度でのリフローが難しくなるため好ましくない。
【0032】
本発明の無鉛はんだ合金は、室温下での引張強さが70Mpa以上であり、150℃下での引張強さが20Mpa以上であることが好ましい。このような引張強さを有するはんだ合金は塑性変形が起きにくく、力を加えた場合に生じる歪みを小さくすることができる。そのため−40℃から125℃の冷熱サイクル下で発生する熱応力に十分耐えることができ、優れた耐熱衝撃性を有するはんだ接合部を提供することができる。尚、この引張強さの測定は、JIS規格Z2241に定める条件に準じて測定する。また室温下での引張強さの「室温」とは、JIS規格Z2241に定める温度を指す。
【0033】
本発明の無鉛はんだ合金は、その溶融温度範囲が190℃(固相線温度)〜220℃(液相線温度)であることが好ましい。無鉛はんだ合金の液相線温度が高すぎると、これを用いたソルダーペースト組成物をリフローする際の温度を高くせざるを得ず、この熱により実装に用いる電子部品や基板が損傷する虞がある。また無鉛はんだ合金の固相線温度が低すぎると、これを用いて形成したはんだ接合部は高温下で脆くなり易くなるため、−40℃〜125℃の冷熱サイクル下に長時間曝された場合にはその強度が低下し、クラックが発生し易くなる虞がある。また上記溶融温度範囲が例えば10℃以内と狭い場合、これを用いたソルダーペースト組成物をリフローする際にチップ立ちが発生し易くなる傾向にある。尚、上記溶融温度範囲はJIS規格Z3198−1に定める条件に準じて測定する。
【0034】
本発明のソルダーペースト組成物は、例えば上記無鉛はんだ合金と、フラックス組成物とを混練しペースト状にすることにより作製される。
【0035】
このようなフラックス組成物としては、ロジン系樹脂、アクリル系樹脂といった樹脂成分と、有機酸、アミン類又はこれらのハロゲン化物といった活性剤と、溶剤とを含むものが一般的に用いられる。またこれらに酸化防止剤、チキソ剤を添加したフラックス組成物も好ましく用いられる。
特に本発明に用いられるフラックス組成物としては、樹脂成分として無水マレイン酸骨格を構造に含む水添ロジンを含み、更に活性剤として炭素数が5〜20の有機酸と炭素数が3以下の有機酸を併用したものがより好ましく用いられる。
【0036】
また本発明のプリント配線板は、例えば銅箔による所定の配線パターンが形成された基板上に上記ソルダーペースト組成物を印刷し、この上に電子部品を実装し、その後220℃から260℃の温度でリフローを行うことにより作製される。そしてこのプリント配線板は、上記ソルダーペースト組成物により形成された、電子部品と配線パターンとを接合するはんだ接合部を備えている。
【0037】
このようなはんだ接合部は、Sn粒界における繊細なAgSnの分散強化だけでなく、Snマトリックス中の一部にInが固溶した組成を有する。それにより結晶格子に歪みが発生し、結晶中の転移の移動に必要なエネルギーを増加させることにより、はんだ接合部の強化を図ることができる。また該はんだ接合部は冷熱サイクル履歴を与える前後においてSnマトリックス中の一部にInが変わらず固溶している。そのため、該はんだ接合部は高い接合信頼性を確保することができる。
【0038】
ここで、冷熱サイクル下で起きるはんだ接合部の相変態及び体積変化は、はんだ接合部の強度の低下を招く。そのため、時間の経過と共にはんだ接合部の耐熱衝撃性は低下し、クラックが発生し易い状態となる。しかし本発明のソルダーペースト組成物は、これを用いて形成するはんだ接合部の変態点が150℃以上であることから、冷熱サイクル下でのはんだ接合部の相変態及び体積変化を抑制することができ、強度及び耐熱衝撃性の低下を防ぐことができる。尚、上記変態点の測定は、昇温速度を5℃/minとして示差走査熱量計を用いて行う。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<フラックス組成物>
以下の組成を混練し、フラックス組成物を得た。
無水マレイン酸骨格を構造に含む水添ロジン 50重量%
硬化ヒマシ油(ケイエフ・トレーディング(株))
5重量%
アジピン酸(関東電化工業(株)製) 3重量%
マロン酸(十全化学(株)製) 0.2重量%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 1重量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 40.8重量%
【0041】
尚、上記フラックス組成物に用いる無水マレイン酸骨格を構造に含む水添ロジンは、以下の手順により生成した。
【0042】
(ア)水蒸気蒸留法を用いて精製したガムロジン700gと無水マレイン酸154gとを反応容器に仕込み、これを温度220℃、反応時間4時間の反応条件にて、窒素気流下で撹拌しながら反応させた。その後、これを減圧下において未反応物を除去することにより付加反応生成物を得た。
(イ)上記アで得られた付加反応生成物500gと5%パラジウムカーボン(含水率50%)6.0gとを1リットル回転式オートクレーブに仕込んで系内の酸素を除去し、水素を用いて系内を100MPaに加圧して220℃まで昇温させた。その後、220℃の温度で水素化反応を3時間行い、無水マレイン酸骨格を構造に含む水添ロジンを得た。尚、本実施例においては、得た無水マレイン酸骨格を構造に含む水添ロジンを更に以下の条件で精製する。
(ウ)無水マレイン酸骨格を構造に含む水添ロジン400gとキシレン200gとを反応容器に仕込みこれを加熱して溶解させた。その後、溶解物からキシレン150gを留去した。次に、シクロヘキサン150gを反応容器に加え、これを室温まで冷却した後に、結晶の収量が約40gに達したところでその上澄み液を別の反応容器に移動させ、室温下で再結晶させた。その後、更にこれの上澄み液を除去し、シクロヘキサン20gで洗浄した後、このシクロヘキサンを留去した。
【0043】
実施例1、2、3、6、7、9及び参考例4、5、8、10、11、12
表1に記載の組成となるように、本発明に係る各はんだ合金を調整した。
更にこの各はんだ合金89重量%と、上記フラックス組成物11重量%とを混合し、本発明に係るソルダーペースト組成物を作製した。尚、表1に記載の数値の単位は、特に断り書きがない限り重量%である。
【0044】
比較例1〜9
表2に記載の組成となるように、比較例となる各はんだ合金を調整した。
更にこの各はんだ合金89重量%と、上記フラックス組成物11重量%とを混合し、比較例となるソルダーペースト組成物を作製した。尚、表2に記載の数値の単位は、特に断り書きがない限り重量%である。
【0045】
【表1】
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1、2、3、6、7、9及び参考例4、5、8、10、11、12、及び比較例1〜9の各はんだ合金及び各ソルダーペースト組成物について、以下通り測定及び評価を行った。その結果を表3及び表4にそれぞれ示す。
【0048】
<溶融温度範囲>
各はんだ合金について、示差走査熱量測定装置(製品名:EXSTAR DSC6200、セイコーインスツル(株)製)を用いて固相線温度と液相線温度を測定した。尚、測定条件は、昇温速度を常温〜150℃までは10℃/min、150℃〜250℃までは2℃/minとし、サンプル量と10mgとした。
【0049】
<ソルダーボール試験>
各ソルダーペースト組成物について、JIS規格Z3284附属書11で定める条件に準じて各試験片を作製及びソルダーボール試験を実施し、試験後の各試験片の外観全体について以下の通り評価した。尚、作製した各試験片は180℃のホットプレートを用いて60秒間プリヒート処理した後に270℃のソルダバスにて溶融させた。
◎ 溶融したはんだが1つの大きな球となり、その周囲にはソルダーボールが発生していない。
○ 溶融したはんだが1つの大きな球となり、その周囲に発生した直径75μm以下のソルダーボールは3つ以下である。
△ 溶融したはんだが1つの大きな球となり、その周囲に発生した直径75μm以下のソルダーボールは3つ以上であるが、半連続の環状には並んでいない。
× 溶融したはんだが1つの大きな球となり、その周囲に多数の細かい球が半連続の環状に並んでいる。
【0050】
<伸び率(延伸性)>
各はんだ合金について、JIS規格Z2241で定める条件に準じて各試験片を作製及び伸び率を測定し、これについて以下の通り評価した。尚、各試験片のサイズはJIS4号とした。
○ 30%超50%以下
△ 10%超30%以下
× 10%以下
【0051】
<引張強さ>
各はんだ合金について、JIS規格Z2241で定める条件に準じて各試験片を作製及び引張強さを測定し、これについて以下の通り評価した。尚、引張強さは常温下と150℃下とそれぞれの温度条件下で測定した。
〔室温〕
◎ 70Mpa超
〇 60Mpa超70Mpa以下
△ 50Mpa超60Mpa以下
× 50Mpa以下
〔150℃〕
◎ 20Mpa超
〇 18Mpa超20Mpa以下
△ 16Mpa超18Mpa以下
× 16Mpa以下
【0052】
<耐熱衝撃性>
FR−4ガラスエポキシ基板:サイズ 100mm×80mm×1.6mm
はんだ付けパターン:面積 1.6mm×0.5mm
チップ抵抗部品: サイズ 3.2mm×1.6mm×0.6mm
上記ガラスエポキシ基板上に設けたはんだ付けパターン上に、各ソルダーペースト組成物を用いて上記チップ抵抗部品をはんだ付けすることにより、はんだ接合部を有する各プリント配線板を作製した。はんだ付けは、厚さ150μmのメタルマスクを用いてはんだ付けパターンの電極部分に各ソルダーペースト組成物を印刷し、ピーク温度を240℃に設定したリフロー炉(製品名:TNP25−538EM、タムラ製作所(株)製)にてこれを加熱することにより行った。
その後、−40℃(30分間)〜125℃(30分間)の条件に設定したヒートショック試験装置(製品名:ES−76LMS、日立アプライアンス(株)製)を用い、上記冷熱サイクルを3,000回繰り返す環境下に上記プリント配線板を曝すことで、各試験用プリント配線板を作製した。
そして各試験用プリント配線板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤及び硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol−25、丸本ストルアス(株)製)を用いて各試験用プリント配線板に実装されたチップ抵抗部品の中央断面が分かるような状態とし、そのはんだ接合部の組織内部に進行したクラックの長さを測定顕微鏡(製品名:STM6、オリンパス(株)製)を用いて測定した。
各試験用プリント配線板のクラックの長さについて、以下の通り評価した。
◎ 5mm以下
○ 5mm超6mm未満
△ 6mm以上7mm未満
× 7mm以上
【0053】
【表3】
【0054】
【表3】
【0055】
実施例に示す通り、本発明のはんだ合金は優れた伸び率及び引張強さ(常温下及び150℃下)を有していることから、−40℃から125℃の冷熱サイクル下で発生する熱膨張及び収縮といった熱応力にも耐えることのできるはんだ接合部を提供することができる。特に、このようなはんだ接合部は冷熱サイクルが3,000サイクルという過酷な環境に曝された場合であっても優れた耐熱衝撃性を発揮することが分かる。尚、その組成が3重量%以上4重量%以下のBiと、2重量%以上2.5重量%以下のInと、0.5重量%以上0.7重量%以下のCuと、3重量%以上4重量%以下のAgとを含み、残部がSnと不可避不純物とからなるはんだ合金を用いたはんだ接合部の場合、より優れた伸び率、引張強さ及び耐熱衝撃性を有する。
また本発明のはんだ合金を用いたソルダーペースト組成物は、優れた機械的強度や耐熱衝撃性を有すると共に、リフロー時のソルダーボールの発生を抑制できることが分かる。
そして、本発明のはんだ合金及びソルダーペースト組成物を用いて形成したはんだ接合部を有するプリント配線板は、過酷な環境下で長期に渡って使用される車載用基板に好適に用いることができる。