【実施例1】
【0025】
図4は実施例1の弾性表面波フィルタ100を示す図である。
図4は素子基板1の主面の逆の面からの透視図である。素子基板1となる圧電基板は、例えば、36°YカットX伝搬のタンタル酸リチウム単結晶、42°YカットX伝搬のタンタル酸リチウム単結晶等、電気機械結合が大きく、周波数温度係数が小さい部材を好適に用いることができるが、これらに限らず、所望の特性を得られる素子基板であればよい。また、圧電基板の厚さは、例えば、0.1mm〜0.5mmとすることができる。素子基板1の主面上に、入力用パッドT1と出力用パッドT2が形成され、入力用パッドT1と出力用パッドT2の間にIDTで構成された弾性表面波共振器である直列共振器S1〜S4が形成されている。直列共振器S1とS2の間に接続され、IDTで構成された弾性表面波共振器である並列共振器P1が形成され、直列共振器S3とS4の間に接続され、IDTで構成
された弾性表面波共振器である並列共振器P2が形成されている。直列共振器S1〜S4と並列共振器P1〜2により、ラダー型フィルタが構成されている。各IDTは、信号の損失を防ぐために反射器に挟まれた構成となっている。並列共振器P1とP2は接地用パッドT3に接続されている。また、ダミーパッドT5はダミーのパッドである。また、素子基板1の主面上に、直列共振器S1〜S4と並列共振器P1〜2、入力用パッドT1、出力用パッドT2、接地用パッドT3、T4、及びダミーパッドT5を、囲うようにシールリングSRが形成されている。シールリングSRの幅d1は例えば10μm、高さは20μmとすることができる。シールリングSRは接地用パッドT4に接続されていて、共振器及び他の共振器と接続されたパッドとは接続されていない。これは、寄生容量成分C1、C2をインダクタンスの付与により調整する前に、素子基板の主面上でシールリングSRをグランドの基準電位と共通化しないようにするためである。
【0026】
上述のように、シールリングSRは入力用パッドT1及び出力用パッドT2の近くに配置されているために、入力用パッドT1と出力用パッドT2の間に容量結合が生じている。シールリングSRと入力用パッドT1との距離d2とシールリングSRと出力用パッドT2との距離d3は、例えばそれぞれ10μmとすることができる。シールリングSRに対抗する入力用パッドT1の幅w1,出力用パッドT2の幅w2は、例えばそれぞれ50μm、膜厚はそれぞれ1μmとすることができる。このとき、d2に生じた寄生容量成分C1は0.097968pF(ピコファラッド)であり、d3に生じた寄生容量成分C2は0.097837pFであった。そして、入出力の結合容量成分は0.001242pFであった。入出力パッドT1、T2間の容量結合は、このように微量な結合成分であっても、高周波になるに従い周波数特性に影響を与える。
【0027】
天板9は支持柱8に支えられている。支持柱8は、素子基板1上に7個形成され、接続配線5上に、一点鎖線で囲うことにより示した領域に形成された絶縁膜IFを介して、1個形成されている。
図4では天板9が形成される領域を符号9で示す破線で囲うことにより示した。支持柱8と天板9は、例えば、銅などの金属により形成されている。
【0028】
図5は、弾性表面波フィルタ100を収容するウエハレベルパッケージ(WLP)を示す図である。WLPとは、弾性表面波デバイスの個片化前におけるウエハの段階で、弾性波共振器上の空隙AGが確保されるように封止がなされ、その後個片化されたパッケージである。封止がなされてから個片化するため、封止部は素子基板1の側面(切断面)と同一平面を形成する。さらに、後述の説明で明らかになるが、素子基板1と対抗する面である封止部上には、WLPの外部との接続部であるバンプが複数形成される。
【0029】
図6は弾性波デバイスを構成するWLPの実装面を示す図である。
図4に示したパッドT1〜T5が
図6にT1s〜T5sで示したパッドにそれぞれバンプを介して接続される。
図6のT1sは弾性波デバイスの入力側の回路(図示せず)へ接続されるパットである。
図6のT2sは弾性波デバイスの出力側の回路(図示せず)へ接続されるパットである。
図6のT3sはインダクタL1sを介してグランドGNDに接続される。
図6のT4sはインダクタL2sを介してグランドGNDに接続される。インダクタL2sにより、シールリングSRがインダクタを介してグランドGNDに接地される。
【0030】
インダクタL1s、L2sは、図示したように、曲がり角を有するように配線を引き回したり、U字形状や、ミアンダ形状を有するように配線を引き回して、インダクタンス成分を得るものでもよい。
図3で示した高周波の帯域においては、分布定数回路素子として、インダクタンス成分を形成することができるからである。また、ディスクリート部品(集中定数回路素子)としてのインダクタチップを用いて形成してもよい。また、インダクタンス成分は、WLPの実装面に限らず、素子基板上やWLPの封止部上、或いは、実装する基板が積層基板である場合にはその内層に形成されてもよい。但し、素子基板の誘電率が高い場合には、容量性が大きくなるために、所望のインダクタンスを得にくくなる場合があるため、素子基板以外にインダクタンス成分となる配線を引き回すことが望ましい。
【0031】
グランドGNDは、
図6に示されるように、他のパターンに比べ相当に広い面積を有する。これは、弾性表面波フィルタ100が携帯電話等のマザーボードに実装されマザーボードのグランドと接続された際、安定的にグランド電位を弾性表面波フィルタ100に供給するためである。本発明でいうグランドとは、マザーボードのグランドではなく、そこに接続され得るものであって、弾性波デバイスにグランド電位を供給し得る金属パターンを指す。
【0032】
WLPの実装面は、弾性波デバイスの表面に形成されてもよく、例えば、
図7に示すように、積層されたプリント配線基板300,310,320の内部に形成されていてもよい。
図7に示すように、下層の配線基板300の一部領域に、例えば
図6に示した配線パターン200を形成し、その上に実施例1のWLPを実装する。WLPに対応する位置に穴が形成された中間層を構成するプリント配線基板310を積層する。樹脂等の絶縁体を流入させ、封止部4を形成する。上層を構成するプリント配線基板320を積層する。プリント配線基板は、予め、ビア7、接続配線5、外部接続端子201などにより電気回路の構成要素となるように構成されている。
【0033】
以上によれば、WLPが内部に形成された積層されたプリント配線基板300,310,320を用いた弾性波デバイス500を形成することができる。積層されたプリント配線基板300,310,320を用いた弾性波デバイス500は、例えば、集積回路、キャパシタ、インダクタなどの様々な電子部品が集積されて構成されたモジュールである。このように、弾性波デバイスは、弾性波を利用したデバイスであれば何でもよく、例えば、デュプレクサ、トリプレクサ、クワドロプレクサなどの分波器やこれらを含むモジュールから、弾性波フィルタを利用した携帯電話などの移動通信機器を含む。
【0034】
次に、実施例1の弾性波デバイスを構成するWLPの構成について詳細に説明する。
図5(a)は、
図4のA−A断面図であり、素子基板1上に形成されたシールリングSRと、素子基板1上に形成された支持柱8と、素子基板1上に形成された接続配線5と、接続配線5上に形成された絶縁膜IFと、絶縁膜IF上に形成された支持柱8と、支持柱8に支持された天板9と、封止部4と、の位置関係を示している。シールリングSRは並列共振器P1、支持柱8、及び天板9を囲うように形成されている。また、シールリングSRの高さは天板9の高さと同等にすることができる。後述するように、WLPは、天板9と、一定以上の粘度を有する絶縁性部材からなる封止部4により、弾性波共振器の領域上に空隙AGが確保されて、封止されている。
【0035】
図5(b)は、
図4のB−B断面図であり、素子基板1上に形成されたシールリングSRと、素子基板1上に形成された支持柱8と、支持柱8に支持された天板9と、接地用パッドT3と、接地用パッドT3状に形成された引出電極2と、天板9に導通するバンプ3と、封止部4と、の位置関係を示している。バンプ3は、WLPを外部と接続するための接続部となり、例えば金や半田などで形成される。
図5(b)からわかるように、金属で形成された天板9及び支持柱8は、接地用パッドT3と同電位になっている。支持柱8は、天板9を物理的に支持できる範囲内であれば自由にその配置を設計することができるが、グランド電位とした支持柱8を、アイソレーションを高めたい共振器の間に配置することにより、共振器間のアイソレーションを向上させることができる。なお、図示はしないが、天板9を樹脂等の絶縁物により形成する場合には、天板9を通じて導通することができないので、入力用パッドT1又は出力用パッドT2のように、接地用パッドT3も天板9が形成される領域の外側に形成することが望ましい。
【0036】
図5(c)は、
図4のC−C断面図であり、出力用パッドT2及び接地端子T5上に形成された引出電極2と、引出電極2上に形成されたバンプ3と、素子基板1とバンプ3のみが外部に露出するように封止する封止部4と、を示す図である。各パッドT1〜T5は、引出電極2及びバンプ3を介してWLPの外部と電気的に接続される。
【0037】
次に、実施例1の弾性波デバイスを構成するWLPの製造方法について説明する。ウエハ状の圧電基板上に、蒸着法やスパッタリング法などにより、アルミニウム、銅等の金属からなる金属層を設ける。次に、フォトリソグラフィー法等により金属層上に形成したレジストをパターニングする。そして、エッチング法やリフトオフ法等により、金属層パターンを形成し、IDT,反射電極、信号配線、接地端子を形成する。これにより、入力用パッド、出力用パッド、直列共振器、並列共振器、接地用パッドが形成される。
【0038】
図8は、上記のウエハ上でのプロセス後の、WLPの製造方法を説明するための図であり、
図4のB−B断面図に対応して、一単位あたりのWLPの製造途中の段階を示すものである。実際には複数の単位WLPがウエハ状に二次元に連接している。上記の金属層パターンを形成した工程の後、
図8に示すように、シールリングSRと、パッドT1〜T5上に形成される引出電極2と、支持柱8とを形成する領域以外の領域に、第一のフォトレジストaを設ける。第一のフォトレジストaは、支持柱8の高さと同等の高さになるように形成される。次に、スパッタリング法等により、シードメタルbを形成する。次に、シールリングSRと、端子T1〜T5上に形成される引出電極2と、支持柱8と、天板9とを形成する領域以外の領域のシードメタルb上に、第二のフォトレジストcを設ける。そして、電解メッキ法等により、シードメタルb上に、例えば、銅を析出させる。これにより、
図5(b)に示したシールリングSRと、引出電極2と、支持柱8と、天板9とが形成される。
【0039】
その後、レジスト剥離液に浸漬させ、超音波洗浄等により、第一及び第二のフォトレジストを除去する。
【0040】
ここで、支持柱8は、天板9を支えるために形成される。天板9は、封止部4を形成する際に封止材が共振器に接触することを防ぐために形成される。共振器は物理的に振動するため、封止材が接触しないように共振器の周囲に空隙を形成しなければ、共振特性が劣化するためである。支持柱8は、共振器および端子が形成された領域以外の領域に形成される。接続配線上に形成する場合は、絶縁膜IFを介して形成する。
【0041】
次に、液晶ポリマー(LCP)などの樹脂シートを、天板9の形成プロセス後のウエハに熱圧着し、封止部4を形成する。封止する部材は樹脂に特に限定されないが、天板及び支持柱の内側への流入が回避され、空隙が確保できるよう、粘性の高い部材が望ましい。また、高い耐湿性を有する液晶ポリマーを用いることが好ましい。液晶ポリマーシートとして、例えば、クラレ株式会社の製品「ベクスター」等を使用することができる。ここで、LCPと圧電基板の密着性は高くないが、シールリングSRがあることにより、LCPが剥がれ難くなるという点において、実施例1のWLPは有効である。
【0042】
次に、引出電極2を露出させるために、レーザーを用いて封止部4に開口部を形成し、その開口部にバンプ3を形成する。接地用パッドT3は天板9と導通しているため、天板9の任意の位置を露出させて、バンプ3を形成する。その後、ダイシング処理をして個片化し、個々のWLPを得る。
【0043】
次に、実施例1の変形例について説明する。
図9は実施例1の変形例を示す図である。本変形例及び以下の実施例では、
図4に示した支持柱8と天板9は形成されない。セラミックなどの絶縁性基板の単層または積層基板からなるパッケージ基板600の実装面601に、
図4に示し
た弾性表面波フィルタ100がフリップチップボンディングされている。パッケージ基板600上にはシールリングSRに対応する位置にフレームFが形成されている。フレームFは、例えば樹脂や金属により形成され、シールリングSRと接着されている。フレームFは、封止性を向上するために、内側の領域を完全に囲うように形成されていることが望ましい。なお、シールリングSRの部材とパッケージ基板の部材の密着性が良い場合やハーメチックに封止する必要がない場合などには、フレームFは特に無くてもよい。
【0044】
図10は実施例1の変形例のパッケージ基板600の実装面601を示す図である。
図10に示すT11s〜T15sに、素子基板1上に形成されたパッドT1〜5がそれぞれ対応して、バンプ3を介してフリップチップ実装される。パッドT1〜T5はそれぞれ
図9に示すビア7及び内層パターン602を介して外部接続端子603に接続されている。T14sはL12sを介してグランドGNDに接続されている。T13sはL11sを介してグランドGNDに接続されている。ここで、L11s、L12s、及び/又はグランドGNDは、内層に形成されていてもよい。また、L11sが接続されるグランドGNDと、L12sが接続されるグランドGNDは、電気的に接続されないで、すなわち、共通の電位にならないまま外部接続端子に接続されていてもよい。多重モード型SAWフィルタやラティス型フィルタの設計手法などを用いて、平衡入力型又は平衡出力型のフィルタを構成する場合には、バランス特性が良くなる場合があるからである。なお、内層にバランを構成してもよい。