(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリフェニレンエーテル系樹脂又はポリカーボネート系樹脂と、難燃剤と、を含む基材樹脂を含有し、かつUL規格のUL−94垂直法(20mm垂直燃焼試験)に準拠して測定される難燃性がV−0又はV−1であり、
発泡ビーズを含有し、
発泡倍率が1.5〜20cc/gである、電池搬送トレー用発泡体。
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が40〜94質量%、前記難燃剤の含有量が5〜30質量%であり、前記基材樹脂がさらにポリスチレン系樹脂を含む、請求項1に記載の電池搬送トレー用発泡体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、以下具体的に説明する。尚、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
本実施形態の発泡体は、ポリフェニレンエーテル系樹脂又はポリカーボネート系樹脂と、難燃剤と、を含む基材樹脂を含有するものである。
【0012】
本実施形態において、ポリフェニレンエーテル系樹脂とは下記一般式(1)で表される重合体のことをいう。
【0013】
【化1】
上記一般式(1)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、又はハロゲンと一般式(1)中のベンゼン環との間に少なくとも2個の炭素原子を有するハロアルキル基若しくはハロアルコキシ基で第3α−炭素を含まないもの、を示す。また、nは重合度を表す整数である。
【0014】
ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、重量平均分子量が20,000〜60,000であるものが好ましい。
【0015】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジラウリル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−ジフェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメトキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエトキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メトキシ−6−エトキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−ステアリルオキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジベンジル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エトキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−クロロ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられるが、これに限定されるものではない。この中でも特に、R
1及びR
2が炭素数1〜4のアルキル基であり、R
3及びR
4が水素若しくは炭素数1〜4のアルキル基のものが好ましい。これらは一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、他の1種類以上の樹脂と混合が可能であり、その例として、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリアミドに代表されるエンプラ系樹脂、ポリフェニレンスルファイドに代表されるスーパーエンプラ系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加工性向上の点から、ポリスチレン系樹脂と混合することが好ましい。
【0017】
本実施形態におけるポリスチレン系樹脂とは、スチレン及びスチレン誘導体のホモポリマーに加え、スチレン及びスチレン誘導体を主成分とする共重合体のことをいう。スチレン誘導体として、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ジフェニルエチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
ホモポリマーのポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリクロロスチレン等が挙げられ、共重合体のポリスチレン系樹脂としては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体、スチレン−N−フェニルマレイミド共重合体、スチレン−N−アルキルマレイミド共重合体、スチレン−N−アルキル置換フェニルマレイミド共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メチルアクリレート共重合体、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−n−アルキルアクリレート共重合体、スチレン−n−アルキルメタクリレート共重合体、エチルビニルベンゼン−ジビニルベンゼン共重合体のほか、ABS、ブタジエン−アクリロニトリル−α−メチルベンゼン共重合体等の三元共重合体も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
また、グラフト共重合体、例えば、スチレングラフトポリエチレン、スチレングラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、(スチレン−アクリル酸)グラフトポリエチレン、スチレングラフトポリアミド等も含まれる。これらは、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ポリスチレン系樹脂としては、重量平均分子量が180,000〜500,000であるものが好ましい。なお、本明細書中において、重量平均分子量とは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定を行い、クロマトグラムのピークの分子量を、市販の標準ポリスチレンの測定から求めた検量線(標準ポリスチレンのピーク分子量を使用して作成)を使用して求めた重量平均分子量である。
【0021】
基材樹脂中のポリスチレン系樹脂の含有量は特には限定されず、他成分が所望の含有量になるように適宜調整して使用される。
【0022】
基材樹脂中には、発泡性向上の点からゴム成分が含まれているものがより好ましい。ゴム成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらは、ポリスチレン系樹脂からなる連続相中に粒子状に分散しているものが好ましい。これらゴム成分を添加する方法として、ゴム成分そのものを加えてもよく、スチレン系エラストマーやスチレン−ブタジエン共重合体等の樹脂をゴム成分供給源として用いてもよい。後者の場合、ゴム成分の比率(R)は下記数式(1)で計算できる。
【0023】
R=C×Rs/100・・・(1)
C:ゴム成分供給源中のゴム濃度(質量%)
Rs:基材樹脂中のゴム供給源含有量(質量%)
【0024】
なお、上記以外にも、他の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、顔料、染料、耐候性改良剤、帯電防止剤、耐衝撃改質剤、ガラスビーズ、無機充填材、タルク等の核剤等を、発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0025】
本実施形態の発泡体は、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、難燃剤、及びゴム成分を含む基材樹脂を含有することが最も好ましい。この場合の各成分の含有量は、ポリフェニレンエーテル系樹脂40〜94質量%、難燃剤5〜30質量%、及びゴム成分0.3〜10質量%であり、残部がポリスチレン系樹脂であることが好ましい。
【0026】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が40質量%以上であれば、耐熱性に優れ、さらに難燃性、特に燃焼時の樹脂だれ防止性能が著しく向上する。燃焼時の樹脂だれを防ぐには、(1)燃焼時間を短くし、(2)樹脂の耐熱性を上げる(軟化しにくくする)ことが重要となるが、難燃剤の添加量を増やすだけでは(2)樹脂の耐熱性には逆効果である。そのため、より薄肉のサンプルでの樹脂だれを防止するには、ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量を40質量%以上にすることが好ましい。一方、ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が94質量%以下であれば、基材樹脂の熱劣化が起こりにくくなり、発泡、成形等の加工がしやすくなる。基材樹脂中のポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、より好ましくは45〜90質量%、さらに好ましくは50〜85質量%である。
【0027】
基材樹脂中の難燃剤の含有量は5〜30質量%が好ましく、さらに好ましくは5〜25質量%である。難燃剤の含有量が5質量%以上であると、所望の難燃性が発現しやすくなる。逆に、30質量%以下だと、難燃剤による基材樹脂の可塑化効果が適度となり、耐熱性が向上する。さらに、発泡時の樹脂の伸張粘度が向上し、発泡倍率が上げられるようになり、発泡体の独立気泡率が向上し、成形体への成形加工性に優れるようになる。このように、難燃性と発泡性のバランスを調整することは特に好ましい。
【0028】
基材樹脂中のゴム成分の含有量は0.3〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。0.3質量%以上であると所望の難燃性が発現しやすくなる。さらに、0.5質量%以上であると樹脂の柔軟性が増し、耐磨耗性が向上しやすくなる。また伸びに優れるので、発泡時に発泡セル膜が破膜しにくくなり、発泡倍率が上がり、成形加工性や機械強度に優れる発泡体となる。難燃性を重視すると、ポリフェニレンエーテル系樹脂や難燃剤は、より多く添加する方が好ましいが、これらはどちらも添加量が増えると発泡性には悪影響を与えやすい傾向にある。そのような組成において、発泡性を付与させるのにゴム成分は好適である。これは特に、常温から徐々に温度を上げ、非溶融状態で樹脂を発泡させるビーズ発泡において重要である。一方、ゴム成分の含有量は10質量%以下であれば所望の難燃性が発現しやすくなる。さらに、8質量%以下であると、十分な耐熱性が得られる。ゴム粒子の形状は特には限定されず、ゴム成分を外殻とする粒子の内部に複数のポリスチレン系樹脂微粒子を内包した、いわゆるサラミ構造を形成していてもよく、ゴム成分を外殻とする粒子の内部に単数のスチレン系樹脂微粒子を内包した、いわゆるコアシェル構造であってもよい。ゴム成分の粒径は特には限定されないが、サラミ構造の場合は0.5〜5.0μm、コアシェル構造の場合は0.1〜1.0μmが好ましい。この範囲であると、より優れた発泡性を発揮しやすい。
【0029】
次に、本実施形態において、ポリカーボネート系樹脂は、ビスフェノール類とホスゲン(若しくはジフェニルカーボネート)とから誘導される炭酸エステル樹脂とすることが好ましく、高いガラス転移点と耐熱性とを有することが特徴である。このようなポリカーボネート系樹脂としては、例えば、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4ーヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4ーヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4ーヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、1,1−ビス(4ーヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,2−ビス(4ーヒドロキシフェニル)エタン等から誘導されたポリカーボネートが好適である。これらのポリカーボネートは、一般に140〜155℃のガラス転移点(Tg)を有する。
【0030】
ポリカーボネート系樹脂は、他の1種類以上の樹脂と混合が可能であり、その例としてポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル―スチレン共重合体(AS樹脂)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。他の樹脂と混合する場合は、難燃性の観点から、ポリカーボネート樹脂の含有量は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0031】
基材樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いた場合、基材樹脂中の難燃剤の含有量は5〜30質量%が好ましい。難燃剤の含有量が5質量%以上であると、所望の難燃性が発現しやすくなる。逆に、30質量%以下だと、難燃剤による基材樹脂の可塑化効果が適度となり、耐熱性が向上する。
【0032】
本実施形態における難燃剤とは、有機系難燃剤、無機系難燃剤があり、有機系難燃剤としては、臭素化合物に代表されるハロゲン系化合物や、リン系化合物シリコーン系化合物に代表される非ハロゲン系化合物がある。無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムに代表される金属水酸化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンに代表されるアンチモン系化合物などが挙げられる。
【0033】
上記難燃剤の中でも、環境の観点から、非ハロゲン系難燃剤が好ましく、リン系、シリコーン系の難燃剤がより好ましいが、これに限定されるものではない。
【0034】
リン系の難燃剤には、リン又はリン化合物を含むものを用いることができる。リンとしては赤リンが挙げられる。また、リン化合物として、リン酸エステルやリン原子と窒素原子の結合を主鎖に有するホスファゼン化合物群等が挙げられる。リン酸エステルとして、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート等が挙げられ、また、これらを各種置換基で変性した化合物や、各種の縮合タイプのリン酸エステル化合物も含まれる。この中でも、耐熱性、難燃性、発泡性の観点からトリフェニルホスフェートや一般式(2)で表されるリン酸エステル化合物が好ましい。
【0035】
【化2】
ここで、一般式(2)中、Q
1〜Q
8は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基を示す。一般式(2)におけるQ
1〜Q
4で好ましいのは水素又はメチル基である。一般式(2)におけるQ
5、Q
6で好ましいのは水素であり、Q
7、Q
8で好ましいのはメチル基である。一般式(2)におけるmは1以上の整数である。該リン酸エステル化合物はm量体の混合物であっても構わない。一般式(2)におけるn1〜n4は、それぞれ独立に1〜5の整数であり、n5及びn6は、それぞれ独立に1〜4の整数である。
【0036】
また、シリコーン系難燃剤には、(モノ又はポリ)オルガノシロキサン類を用いることができる。(モノ又はポリ)オルガノシロキサン類としては、例えば、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン等のモノオルガノシロキサン類、及びこれらを重合して得られるポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、これらの共重合体などのオルガノポリシロキサン類などが挙げられる。オルガノポリシロキサンの場合、主鎖や分岐した側鎖の結合基は、水素又はアルキル基、フェニル基であり、好ましくはフェニル基、メチル基、エチル基、及びプロピル基であるが、これに限定されない。末端結合基は、水酸基、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、いずれも使用される。シリコーン類の形状にも特に制限はなく、オイル状、ガム状、ワニス状、粉体状、ペレット状などの任意のものが利用可能である。
【0037】
また、従来より知られた各種難燃剤及び難燃助剤、例えば、環状窒素化合物、その具体例としてはメラミン、アンメリド、アンメリン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、メラミンシアヌレート、メラム、メレム、メトン、メロン等のトリアジン骨格を有する化合物及びそれらの硫酸塩、結晶水を含有する水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、ホウ酸亜鉛化合物、スズ酸亜鉛化合物等も用いてもよい。また1種だけでなく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
【0038】
基材樹脂の形状は特に限定されないが、例としてビーズ状、ペレット状、球体、不定型の粉砕品等が挙げられる。
【0039】
本実施形態の発泡体は、UL規格のUL−94垂直法(20mm垂直燃焼試験)に準拠して測定される難燃性が、V−1又はV−0である必要があり、好ましくはV−0である。これは、電池の中でも、リチウムイオン電池等の二次電池に使用されている電解液は引火性であり、熱により反応が暴走した際や、充放電工程等で容器から漏れた際に発火する危険があるからである。発泡体の難燃性がV−0又はV−1であると、自己消火性があり、その燃焼時間も短く、さらには燃焼時の熱で樹脂が垂れて広がる事がないので、延焼が抑えられ、安全性が向上する。
【0040】
本実施形態の発泡体の発泡倍率は特には限定されないが、1.5〜20cc/gが好ましく、2〜18cc/gがより好ましい。この範囲であると、軽量化のメリットを活かしつつ、優れた難燃性を維持しやすくなる傾向にある。さらに好ましくは3〜16cc/gである。3cc/g以上になると、軽量化の効果が大きくなり、また、搬送時の衝撃を吸収する緩衝効果が出やすくなる。一方、16cc/g以下になると剛性や耐磨耗性に優れる。搬送トレーは通常繰り返し何度も使用されるので耐久性、特に耐磨耗性は重要な項目である。また、長期クリープ性や電解液耐性もより発揮しやすい。
【0041】
本実施形態の発泡体の荷重たわみ温度(HDT)は特に限定されないが、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。荷重たわみ温度が60℃以上であると、高温条件下での剛性が向上し、より温度や荷重の負荷がより大きい条件でも、撓む事なく搬送できるようになる。
【0042】
本実施形態の発泡体の100℃での加熱寸法変化率は特に限定されないが、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。100℃での加熱寸法変化率が10%以下であると、耐熱性に優れるため、高温の環境下で使用可能であり、さらには夏場の高温環境下で長期間保存しておくことも可能である。
【0043】
本実施形態の発泡体に残存する脂肪族炭化水素系ガスの残留濃度は、1000体積ppm以下が好ましい。なお、本明細書において、脂肪族炭化水素系ガスの残留濃度とは、発泡体中に含まれる脂肪族炭化水素系ガスの体積を発泡体の体積で除して求めた値(体積ppm)であり、1体積ppm(以下、単に「ppm」ともいう。)は0.0001体積%に相当する。脂肪族炭化水素系ガスとしては、プロパン、n−ブタン、i―ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタン等が挙げられる。脂肪族炭化水素系ガスの残留濃度が1000ppm以下であると、燃焼時に種火が長時間くすぶったり(グローイングという)しにくくなる。UL−94等の燃焼試験においては、燃焼時間に加えグローイング時間が規定されており、上記残存ガス量が少ないと、燃焼試験、特にV−0という規格をクリアしやすくなる。また、脂肪族炭化水素系ガスが発泡体中に残存していると、経時でガスが徐々に抜ける事により寸法変化が起こるが、残留濃度が1000ppm以下であれば、こういった寸法変化が起こりにくくなる効果もある。これは、長期間使用される搬送トレーには重要な要素である。発泡体に残存する脂肪族炭化水素系ガスの残留濃度を1000ppm以下とするには、例えば、発泡剤として無機ガスを用いることや、発泡ビーズを高温(例えば、40℃〜80℃の間で任意に設定することができる)条件下に長時間置き残存するガスを放出させる「熟成工程」を経ることにより行うことができる。
【0044】
次に、本実施形態の発泡体の製造方法について説明する。
【0045】
本実施形態の発泡体の発泡方法は特には限定されないが、例として押出発泡法、ビーズ発泡法、射出発泡法等が挙げられる。この中でもビーズ発泡が好ましい。押出発泡の場合、発泡体は板状であり、これを加工するには所望の形状に切断する抜き工程や、切り取ったパーツを貼り合わせる熱貼り工程が必要になるが、ビーズ発泡の場合、所望の形状の型を作製し、そこに発泡ビーズを充填させて成形するので、より微細な形状や複雑な形状に成形しやすいからである。例えば、1つの発泡成形体の中にリブやフック形状を複雑に組み合わせる事ができる。射出発泡法でも複雑形状の加工は可能だが、ビーズ発泡の方が発泡倍率を調整しやすく好ましい。さらに、押出発泡や射出発泡は樹脂を溶融状態にして発泡、成形するのに対し、ビーズ発泡の場合、常温にてビーズを充填し成形するので、成形品中の残留ひずみが小さく、経時での変形、反りが起こりにくい利点もある。このように、発泡ビーズを含有する発泡体は好ましい形態である。
【0046】
発泡剤は特には限定されず、一般的に用いられているガスを使用することができる。その例として、空気、炭酸ガス(例えば二酸化炭素)、窒素ガス、酸素ガス、アンモニアガス、水素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の無機ガス、トリクロロフルオロメタン(R11)、ジクロロジフルオロメタン(R12)、クロロジフルオロメタン(R22)、テトラクロロジフルオロエタン(R112)ジクロロフルオロエタン(R141b)クロロジフルオロエタン(R142b)、ジフルオロエタン(R152a)、HFC−245fa、HFC−236ea、HFC−245ca、HFC−225ca等のフルオロカーボンや、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタン等の飽和炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルn―ブチルケトン、メチルi−ブチルケトン、メチルn−アミルケトン、メチルn−ヘキシルケトン、エチルn−プロピルケトン、エチルn−ブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステル等のカルボン酸エステル類、塩化メチル、塩化エチル等の塩素化炭化水素類等が挙げられる。難燃性の観点から、発泡剤は可燃性や支燃性がないことが好ましく、ガスの安全性の観点から無機ガスがより好ましい。また、無機ガスは炭化水素等の有機ガスに比べ樹脂に溶けにくく、発泡工程や成形工程の後、樹脂からガスが抜けやすいので、成形品の経時での寸法安定性がより優れる利点もある。さらに、残存ガスによる樹脂の可塑化も起こりにくく、熟成等の工程を経ずに、より早い段階から優れた耐熱性を発現しやすいメリットもある。無機ガスの中でも、樹脂への溶解性、取り扱いの容易さの観点から、炭酸ガスが好ましい。
【0047】
発泡体を目的の形状に加工する方法は特には限定されないが、例として発泡ビーズや溶融樹脂を金型に充填し成形する方法や、鋸刃や型ぬき刃等の刃物により切断する方法や、ミルにより切削する方法が挙げられる。また、複数の発泡体を熱や接着剤により接着させる事も可能である。
【0048】
本実施形態の発泡体は、単独で電池搬送トレーとして使用してもよいし、金属や未発泡樹脂等と組み合わせてもよい。その際、各々成形加工した物を接着してもよいし、一体成形を行ってもよい。
【0049】
図1〜3は、本実施形態の発泡体を用いた電池搬送トレーの一例を示す斜視図又は側面図である。
図1及び2に示すように、電池搬送トレー1は底面部と2つの側面部を有するU字型の成形体であり、底面部の上面に電池を載せることによって、電池を収容し搬送することができる。なお、
図1及び
図2における電池搬送トレー1の寸法は、後述する実施例で用いたU字型成形体の寸法を参考に記載したものであり、電池搬送トレー1の寸法は当該数値に限定されるものではない。また、電池搬送トレー1はU字型の成形体に限定されるものではなく、底面部と4つの側面部を有し上面部が開口している成形体でもよく、さらに上面部に蓋部を有する箱状の成形体でもよい。また、電池収納部にリブを立てたり、板を挿入するなど、電池搬送トレー内に電池のサイズに合わせた仕切りが設けられていてもよい。さらに、
図3に示すように、電池搬送トレー1は電池2を収容したまま複数段積み重ねてもよく、例えば2段重ね電池搬送トレー10としてもよい。
【実施例】
【0050】
次に、実施例及び比較例により本発明を説明する。なお、本発明はこれらに限られるものではない。まず、実施例および比較例で用いた評価方法について、以下に説明する。
(1)発泡倍率・密度
100mm角、厚み3mmのサンプルの重量W(g)を測定し、サンプル体積を重量で除した値(V/W)を発泡倍率とし、その逆数(W/V)を密度とした。
【0051】
(2)安全性(難燃性)
米国UL規格のUL−94垂直法(20mm垂直燃焼試験)に準拠した試験を行い、難燃性の評価を行った。具体的には、長さ125mm、幅13mm、厚さ3mmの試験片を5本用いて判定した。試験片をクランプに垂直に取付け、20mm炎による10秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動によりV−0、V−1、V−2、不適合の判定を行った。下記に該当しないものは不適合とした。
V−0:1回目、2回目ともに有炎燃焼持続時間は10秒以内、更に2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼時間の合計が30秒以内、更に5本の試験片の有炎燃焼時間の合計が50秒以内、固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない、燃焼落下物による綿着火なし。
V−1:1回目、2回目ともに有炎燃焼持続時間は30秒以内、更に2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼時間の合計が60秒以内、更に5本の試験片の有炎燃焼時間の合計が250秒以内、固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない、燃焼落下物による綿着火なし。
V−2:1回目、2回目ともに有炎燃焼持続時間は30秒以内、更に2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼時間の合計が60秒以内、更に5本の試験片の有炎燃焼時間の合計が250秒以内、固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない、燃焼落下物による綿着火有り。
【0052】
(3)耐磨耗性
100mm角の試験片を用い、東洋精機製作所社製の磨耗試験機(製品名:ロータリーアブレージョンテスタ)にて1kgの荷重条件下、磨耗輪(CS−17)にて1000回転させた前後の重量変化を測定した。
◎:40mg未満
○:40〜50mg
×:50mg以上
【0053】
(4)高温剛性
幅90mm、奥行き120mm、高さ105mm、厚み5mmのU字型成形体(試験体)に(
図1、
図2参照)、幅20mm、奥行き120mm、高さ90mm、重さ0.1kgのリチウムイオン電池を4個載せた物を2段積みにし(
図3参照)、80℃で5時間径過後の上段成形品底面の撓み量を測定した。
◎:3mm未満
○:3〜5mm
×:5mm以上
【0054】
(5)長期寸法安定性
幅90mm、奥行き120mm、高さ105mm、厚み5mmのU字型成形体(試験体、
図1、
図2参照)を成形直後に採寸し、23℃、湿度50%で10000時間径過させた後に寸法を再度測定し、その変化率及び底面やリブの反りの有無を評価した。
◎:反りは0.5mm未満で、かつ寸法変化率も0.1%未満
○:反りは0.5mm未満で、かつ寸法変化率は0.1〜0.3%
×:0.5mm以上の反りあり、もしくは寸法変化率が0.3%以上
【0055】
[実施例1]
ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としてS201A(旭化成ケミカルズ(株)製)を50質量%、非ハロゲン系難燃剤としてビスフェノールA−ビス(ジフェニルホスフェート)(BBP)を15質量%、ゴム成分が0.6質量%となるようにゴム濃度が6質量%の耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)10質量%と汎用ポリスチレン樹脂(PS)としてGP685(PSジャパン(株)製)25質量%を加え、押出機にて加熱溶融混練の後に押出し、基材樹脂ペレットを作製した。特開平4−372630号公報の実施例1に記載の方法に準じ、基材樹脂ペレットを耐圧容器に収容し、容器内の気体を乾燥空気で置換した後、発泡剤として二酸化炭素(気体)を注入し、圧力3.2MPa、温度11℃の条件下で3時間かけて基材樹脂ペレットに対して二酸化炭素を7重量%含浸させ、基材樹脂ペレットを発泡炉内で攪拌羽を77rpmにて回転させながら加圧水蒸気により発泡させた。この発泡ビーズを0.5MPaまで1時間かけて昇圧し、その後0.5MPaで8時間保持し、加圧処理を施した。これを、水蒸気孔を有する型内成形金型内に充填し、加圧水蒸気で加熱して発泡ビーズ相互を膨張・融着させた後、冷却し、成形金型より取り出した。この発泡体の難燃性はV―0であった。これを用い、電池搬送トレーとしての性能評価を実施した所、耐磨耗性、高温剛性、長期寸法安定性に優れる結果となった(表1)。
【0056】
[実施例2]
発泡倍率を表1に示したとおり変更した以外は実施例1と同様にして評価を行った。実施例2の発泡体は、実施例1と同様に優れた性能を示した(表1)。
【0057】
[実施例3、4]
各成分の組成、又は発泡倍率を表1に示したとおり変更した以外は実施例1と同様に評価を行った。ポリフェニレンエーテル系樹脂の比率を45質量%にした場合、高温剛性がやや低下する傾向にあるが、実使用には問題のないレベルであった(実施例3)。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂の比率を60質量%に上げても、実施例1同様、優れた性能を示した(実施例4)。
【0058】
[実施例5]
HIPSをゴム濃度が15質量%のものに変更し、各成分の組成、又は発泡倍率を表1に示したとおり変更した以外は実施例1と同様に評価を行った。ゴム成分の組成を3質量%まで高くした場合も優れた性能を示した(表1)。
【0059】
[実施例6〜14]
難燃剤をトリフェニルホスフェート(TPP)に、及びHIPSをゴム濃度が19質量%のものに変更し、各成分の組成、又は発泡倍率を表1及び表2に示したとおり変更した以外は実施例1と同様に評価を行った。種々の難燃剤添加量(実施例6、7、8)、発泡倍率(実施例9)、ゴム成分量(実施例10)、ポリフェニレンエーテル系樹脂比率(実施例11、12)において、難燃剤量が多いもの(実施例8)では高温剛性が、また、発泡倍率を高くしたもの(実施例11)では、高温剛性の他、耐磨耗性がやや低下する傾向にあるが、実施用には問題のないレベルであった。一方、ポリフェニレンエーテル系樹脂の比率を低くした場合(実施例13)、難燃性や高温剛性がやや低下する傾向にあるが、実使用には問題のないレベルであった。また、BBPとTPPと併用しても、各種性能に問題はなかった(実施例14)。
【0060】
[実施例15]
ポリカーボネート系樹脂(PC)としてFPR3000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を85質量%、非ハロゲン系難燃剤としてビスフェノールA−ビス(ジフェニルホスフェート)(BBP)を15質量%に変更し、PS、HIPS、ゴム成分は添加せず、実施例1と同様に評価を行った。基材樹脂にポリカーボネート系樹脂を使用した場合も、ポリフェニレンエーテル系樹脂を用いた場合と同様の性能を有する発泡体が得られた(表2)。
【0061】
[実施例16]
ポリカーボネート系樹脂(PC/ABS)としてMB3800(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)に変更した以外は実施例15と同様に評価を行った所、実施例15同様、ポリフェニレンエーテル系樹脂を用いた場合と同等の性能であった(表2)。
【0062】
[比較例1〜6]
表3に示す各成分の組成、又は発泡倍率で実施例1と同様に評価を行った。なお、HIPSはゴム濃度19重量%のものを用いた。ポリフェニレン系樹脂組成物の比率が低い場合、いずれの性能も満足できるものではなかった(比較例1)。ポリフェニレン系樹脂の比率を上げると、いずれの性能も改善が見られるが、安全性、高温剛性は、実使用に耐えるレベルまで改善する事はできなかった(比較例2)。逆に、ポリフェニレンエーテル系樹脂比率が高すぎると、基材樹脂ペレット作成時の押出において熱劣化による異物が多発し、評価・測定を行うに値する発泡体が得られなかった(比較例3)。また、難燃剤の量が少なすぎると難燃性が殆ど発現せず(比較例4)、多すぎると、発泡ビーズの独立気泡率が大幅に低下し、成形品が得られなかった(比較例5)。ゴム成分を全く用いなかった場合、樹脂の柔軟性、伸び不足によるセル膜の破膜が発生し、成形加工性が低下してしまい、良好な成形品が得られなかった(比較例6)。
【0063】
[比較例7〜8]
表3に示す各成分の組成において未発泡の樹脂を加熱プレスで成形した以外は実施例1と同様に評価を行った。未発泡樹脂としてポリフェニレンエーテル系樹脂S201A(旭化成ケミカルズ(株)製)を使用した場合は、安全性や耐磨耗性、高温剛性は良好なものの、長期寸法安定性評価においては、反りが発生した(比較例7)。ポリカーボネート系樹脂MB3800(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を使用した場合も同様の結果となった(比較例8)。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】