(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対のビード部間でトロイダル状に跨る、ラジアル配列コードのプライからなるカーカスのタイヤ径方向外側に1層以上のベルト層からなるベルト、トレッドを順に備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
前記タイヤの断面幅Wと外径Lとの比W/Lが0.22以上0.25以下であり、
前記ベルトとトレッドとの間に、ベルト補強層を有し、
前記ベルト補強層は、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなり、前記コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、前記ベルト補強層をm層として、
X=Y×n×m
と定義するとき、
X≧750
であることを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
前記タイヤのタイヤサイズは、155/55R21、165/55R21、155/55R19、155/70R17、165/55R20、165/65R19、165/70R18、175/55R21、165/55R19、165/70R17、175/55R20、175/65R19、175/80R18、185/55R21、155/50R21、145/50R19、145/55R19、145/60R18のいずれかである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の乗用車用空気入りラジアルタイヤを導くに至った過程について説明する。
まず、発明者は、
図1に示すように、ラジアルタイヤの断面幅Wに着目し、この断面幅Wを従前に比し狭くすることによって、
図2に示すように、車両スペースの確保が可能であること、特にタイヤの車両装着内側近傍に駆動部品の設置スペースが確保されることを知見した。
さらに、タイヤ断面幅Wを狭くすると、タイヤを前方から見た面積(以下、前方投影面積と称する)が減少するため、車両の空気抵抗値が低減されるという効果がある。
しかしながら、接地部分の変形が大きくなるため、同じ空気圧の場合、タイヤの転がり抵抗値が大きくなるという問題がある。
【0016】
一方で、発明者は、ラジアルタイヤ特有の性質により、上記の問題点を解決しうることを見出した。すなわち、ラジアルタイヤはバイアスタイヤに比し、トレッドの変形が小さいため、
図1に示す、ラジアルタイヤの外径Lに着目し、この外径Lを従前に比し大きくすることによって、路面の粗さの影響を受けにくくし、同じ空気圧の場合に、転がり抵抗値を低減させることができることを見出した。また、大径化することで、タイヤの負荷能力を向上させることもでき、さらに、
図2に示すように、ラジアルタイヤの大径化によって車輪軸が高くなり、床下のスペースが拡大されるため、車両のトランク等のスペースや、駆動部品の設置スペースが確保できることができることも知見した。
【0017】
ここで、上記のように、タイヤの狭幅化と大径化は、共に車両スペース確保の効果があるものの、転がり抵抗値に関しては、トレードオフの関係にある。また、タイヤの狭幅化によって車両の空気抵抗値の低減を図ることができる。
【0018】
そこで、発明者は、空気抵抗値と転がり抵抗値について、タイヤ断面幅とタイヤ外径とのバランスの適切化を図ることによって、これらの特性を従来のラジアルタイヤより向上させるべく鋭意検討した。
【0019】
発明者は、タイヤ断面幅Wと、タイヤの外径Lとの比W/Lに着目し、規格外のものを含む様々なタイヤサイズのタイヤを車両に装着させて、空気抵抗値と転がり抵抗値を計測する試験を行い、これらの特性が共に従来のラジアルタイヤより上回る、比W/Lの条件を導出した。
以下、比W/Lの好適範囲を導出するに至った試験結果について、詳しく説明する。
【0020】
ここで、
図3は、上記試験に用いたラジアルタイヤのタイヤ幅方向の概略断面図である。なお、
図3は、タイヤ赤道CLを境界とした半部のみを示している。
供試タイヤとして、慣例に従い、
図3に示すような、一対(
図3では片側のみ)のビードコア1間をトロイダル状に跨り、ラジアルに配列した、カーカス2を備えた乗用車用空気入りラジアルタイヤを、タイヤサイズを変えて複数試作した。
なお、タイヤサイズに関しては、JATMA(日本のタイヤ規格)、TRA(アメリカのタイヤ規格)ETRTO(欧州のタイヤ規格)等の従来の規格に捉われずに、これらの規格外のタイヤサイズも含めて、幅広く検討した。
ここで、図示例のタイヤにおいて、カーカス2は有機繊維で構成され、カーカス2のクラウン部のタイヤ径方向外側には複数の、図示例では2層のベルト層からなるベルト3、トレッド4が順に配置されている。図示例の2層のベルト層は、タイヤ赤道面CLに対して20〜40°の角度で傾斜した、傾斜ベルト層であり、層間でベルトコードが交差する配置となっている。また、ベルト層のタイヤ径方向外側には、タイヤ赤道面CLに沿って延びるコードのゴム引き層からなるベルト補強層5が配置されている。
図示例では、ベルト補強層5はナイロンからなる、ヤング率3.2GPa、繊度1400dtexのコードで構成され、打ち込み数は50(本/50mm)である。
なお、ヤング率は、タイヤ周方向に対するヤング率を意味し、JIS L1017 8.5 a) (2002)にて試験を行い、JIS L1017 8.8(2002)に準拠して求めるものである。
さらに、トレッド4には、複数の、図示例で半部に1つのタイヤ周方向に延びる主溝6が設けられている。
以上のタイヤ構造を基本として、種々の断面幅及び外径のタイヤを多数試作した。
また、試験の評価基準となる従来タイヤとして、上記の慣例に従う構造を有する、タイヤサイズ
195/65R15のタイヤを用意した。このタイヤサイズのタイヤは、最も汎用的な車両で使用され、タイヤ性能を比較するのに最も適している。
ここで、各タイヤの諸元を表1に示す。
【0022】
各試験は、以下のようにして行った。
<空気抵抗値(Cd値)>
実験室にて、上記各タイヤを排気量1500ccの車両に装着し、100km/hに相当する速度で送風したときの空気力を車輪下にある床置き天秤を用いて測定し、従来タイヤを100とする指数によって評価した。数値が小さいほど空気抵抗は小さい。
<転がり抵抗値(RR値)>
上記各タイヤをリムに組み付け、空気圧220kPa、負荷荷重3.5kN、ドラム回転速度100km/hの条件にて転がり抵抗を測定した。
評価結果は、従来タイヤを100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。
各試験結果を表2と
図4に示す。
【0024】
表2及び
図4に示す試験結果から、タイヤ断面幅Wとタイヤ外径Lとの比W/Lが0.25以下である、タイヤサイズのラジアルタイヤは、従来のタイヤであるタイヤサイズ
195/65R15のタイヤより空気抵抗値と転がり抵抗値とが共に低減されることの知見を得た。また、比W/Lが0.24以下であるタイヤサイズのラジアルタイヤは、Cd値とRR値とがさらに低減され、特に、比W/Lが0.23以下であるタイヤサイズのラジアルタイヤは、Cd値が95未満、RR値が80未満までそれぞれ低減されている。
【0025】
次に、タイヤ断面幅Wとタイヤ外径Lとの比W/Lが0.25以下とすることで、実際に車両の燃費性や居住性が向上することを確かめるため、上記の供試タイヤについて、以下の試験を行った。
【0026】
<実燃費>
JOC8モード走行による試験を行った。評価結果は、従来例タイヤの評価結果を100とした指数で表し、指数が大きい方が、燃費が良いことを表している。
<居住性>
1.7m幅車両にタイヤを装着した際のリアトランク幅を計測した。評価結果は、従来例タイヤの評価結果を100とした指数で表し、指数が大きい方が、居住性が良いことを表している。
試験結果を以下の表3に示す。
【0028】
表1、表3に示すように、比W/Lが0.28又は0.31の供試タイヤでは、それぞれ、燃費性、居住性の少なくとも一方が、従来タイヤより低下した供試タイヤがあったのに対し、比W/Lが0.25以下である供試タイヤ1〜7、23〜32は、いずれも従来タイヤより燃費性、居住性が共に優れていることがわかる。
発明者は、斯くの如くして、乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいて、比W/Lを0.25以下とすることで、車両の居住性を向上させつつ、車両の空気抵抗値及びタイヤの転がり抵抗値を共に低減して、燃費性を向上させることができることを見出したものである。
【0029】
発明者は、上記の比W/Lを0.25以下としたタイヤについて、タイヤの他の諸性能を評価する試験を行った。
試験項目は、
図3に示す構造を有する上記供試タイヤ1及び7と従来タイヤに対し、耐偏磨耗性及びコーナリングパワー、最大コーナリングフォースを評価した。各試験の評価方法は、以下の通りである。
<耐偏磨耗性>
上記各タイヤの内圧を220kPaとした。それからタイヤに荷重3.5kNをかけ、80km/hの速度で30000km走行させるドラム試験を行った。
耐偏磨耗性の評価は、上記ドラム走行後のトレッド中央部とトレッド端部との磨耗量の差を求めることにより行い、従来タイヤにおける耐偏磨耗性を100とした指数で表す。当該指数は小さいほど耐偏磨耗性に優れている。
<コーナリングパワー>
フラットベルト式コーナリング試験機において、内圧220kPa、荷重3.5kN、速度100km/hで測定を行った。
コーナリングパワーは、従来タイヤにおけるコーナリングパワーを100として指数で評価した。当該指数が大きいほどコーナリングパワーが大きく好ましい。
<最大コーナリングフォース>
フラットベルト式コーナリング試験機において、内圧220kPa、荷重3.5kN、速度100km/hで、スリップ角を1°として測定を行った。
最大コーナリングフォースは、従来タイヤにおける最大コーナリングフォースを100として指数で評価した。当該指数が大きいほど最大コーナリングフォースが大きく好ましい。
以下の表4に評価結果を示す。
【0031】
表4に示す評価結果から、比W/Lが0.25以下である、供試タイヤ1及び7は、耐偏磨耗性、コーナリングパワー、最大コーナリングフォースが、比W/Lが0.28である従来タイヤより低下することが新たに判明した。特に、最大コーナリングフォースについては従来例より著しく低下することの知見が得られた。
【0032】
発明者は、上記のタイヤ性能の低下の原因について鋭意究明した。その結果、比W/Lが0.25以下のラジアルタイヤでは、路面からの入力(圧力)が大きくなり、
図5(a)に模式的に示すように、タイヤ踏面付近が局所的に変形し、接地形状が大きく変化してしまうことを知見し、この接地形状変化を抑制することにより、上記課題を解決し得ることの新規知見を得た。
以下、供試タイヤ1及び7と従来例タイヤの接地形状の変化を評価する試験について述べる。
【0033】
まず、接地形状の変化は、
図6に示すように、スリップ角が4°のときの接地面Sの幅方向中央部Oの接地長をt、接地幅をwとしたとき、接地面の幅方向中央部Oからタイヤ幅方向両側にw×0.4離れた箇所の接地長をt1、t2(t1≦t2)とするとき、接地形状変化指数Iを
I=t1/t2×100
として定義する。指数は小さいほど接地形状の変化が大きいことを示す。
供試タイヤ1及び7と従来例タイヤについて、上記の接地形状変化指数を求める試験を行った。評価は、スリップ角を4°として、規定リムにリム組みし、規定内圧とした各タイヤに荷重350kgを負荷し、時速3km/hで走行させた際の接地形状を計測して、上記t1、t2を求めることによって行った。
以下の表5に評価結果を示す。
【0035】
表5に示すように、比W/Lが0.25以下のラジアルタイヤでは、接地形状変化指数Iが小さくなっていることがわかる。
そこで、次に、比W/Lが0.25以下のラジアルタイヤにおいて、接地形状変化を抑制することによって、耐偏磨耗性、コーナリングパワー、最大コーナリングフォースを向上させるためのタイヤ構造について説明する。
【0036】
発明者は、上記タイヤの諸性能を向上させることができるタイヤ構造について、鋭意検討を重ねたところ、タイヤのベルトとトレッドとの間に、タイヤのリング剛性を高めることを所期して、高剛性のベルト補強層を配置することにより、接地面の局所的な変形を抑制し、接地形状の変化を抑制することができることを見出した。
以下、図面を参照して、耐偏磨耗性、コーナリングパワー、最大コーナリングフォースの向上を実現するための具体的なタイヤ構造について詳細に説明する。
【0037】
図7(a)(b)は、本発明の一実施形態のラジアルタイヤのタイヤ幅方向の概略断面図である。なお、
図7(a)(b)は、タイヤ赤道CLを境界とした半部のみを示している。
図7(a)に示すタイヤの
図3のタイヤとの違いは、ベルト補強層7が、高剛性の層となっている点である。また、
図7(b)に示すタイヤは、高剛性のベルト補強層7が複数層、図示例で2層の構造である。
【0038】
図5(a)に示すように、剛性の小さいベルト補強層を有する構造では、路面からの入力に対し、タイヤ周方向において局所的な変形を起こし、接地面は略三角形状、すなわち、タイヤ幅方向の位置によって周方向の接地長が大きく変化する形状となる。
これに対し、高剛性のベルト補強層を有する本発明のタイヤによれば、タイヤのリング剛性が向上して、タイヤ周方向の変形が抑制されることとなるため、ゴムの非圧縮性により、タイヤ幅方向の変形も抑制される。
従って、路面からのタイヤ幅方向の入力に対して、
図5(b)に示すように、接地面が周方向の広域にわたって変形することになるため、接地面は略台形状、すなわち、タイヤ幅方向の位置による周方向の接地長の変化が小さい形状となる。
よって、本発明によって、路面からのタイヤ幅方向の入力に対する接地形状の変化が小さいタイヤを実現できる。
ここで、「ベルト補強層が高剛性」とは、ベルト補強層に用いるコードの上述の評価方法に基づくヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、ベルト補強層をm層として、X=Y×n×m
と定義するとき、このパラメータXが従前の比W/Lが0.25より大きいタイヤにおいて一般的に用いられるコードのヤング率、打ち込み数及びベルト補強層の層数から計算されるパラメータX対比で高いことを意味する。
また、「リング剛性が向上する」とは、当該高剛性のベルト補強層を有することにより、タイヤ周方向の剛性が大きくなることをいう。
なお、従前の比W/Lが0.25より大きいタイヤのベルト補強層において一般的に用いられるコードのヤング率、打ち込み数、及びベルト補強層の層数から定義されるパラメータXの範囲は150〜300程度である。
また、コードをタイヤ周方向に螺旋巻回した場合の打ち込み数とは、タイヤ幅方向断面図でみたときの打ち込み数をいう。
【0039】
ここで、「ベルト補強層が高剛性」とは、さらに具体的には、上記の評価方法及び定義に基づくパラメータXが750以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。
なぜなら、750未満だと、タイヤのリング剛性を向上させる効果が十分に得られないからであり、一方1000以上とすることで、踏面からの入力がタイヤ反直下まで伝播し、環状のベルトが全体的に変形するようになることで、踏面近傍の局所変形を最小化できるからである。
また、上記のパラメータXは1500以下であることが好ましい。
なぜなら、パラメータXが1500より大きいと、タイヤ周方向の剛性が高くなりすぎて、後述するコーナリングフォース低下の問題を生じるからである。
【0040】
なお、パラメータXを上記の範囲とするためには、ベルト補強層に用いるコードのヤング率15GPa〜30GPa、打ち込み数を40〜60(本/50mm)、ベルト補強層の層数を1層又は2層とすることが好ましい。
また、コードは、繊度1500〜1800dtexのケブラーなどの有機繊維等を用いることが好ましい。
【0041】
図7 (a)に示す構造を有するタイヤを複数試作し、タイヤの諸性能を評価する試験を行った。各タイヤの諸元を表6に示し、評価結果を表7に示す。
なお、表6において、ベルト補強層に用いるコードはタイヤ周方向に螺旋巻回され、打ち込み数は、50(本/50mm)である。
【0044】
表7から、
図7(a)に示す、パラメータXが750以上の高剛性の補強層を有するタイヤは、接地形状の変化が小さく、耐偏磨耗性に優れることがわかった。
また、表7から、パラメータXが1000以上の場合に、特に耐偏磨耗性に優れることがわかる。
【0045】
ところが、表7に示すように、接地形状の変化が比W/Lが0.25より大きいタイヤと比較して低減したにもかかわらず、コーナリングパワー及び最大コーナリングフォースに関しては、性能が若干低下しており、改善の余地があることが新たに判明した。
発明者は、接地形状の変化について、さらに鋭意究明を重ねたところ、後述の通り、
図7(a)(b)に示す構造を有するタイヤは、直進転動時の接地面の幅方向中央部の接地長tcが小さくなっていることを見出し、このことにより、接地長の二乗にほぼ比例するコーナリングフォースが小さくなり、コーナリングパワーも低下していることを知見した。
以下の表8に、各供試タイヤに対し、直進転動時の接地形状の計測装置を用いて、上記接地長tcを求め、従来タイヤを100とした指数で評価した結果を示す。指数は大きい方が優れている。
【0047】
発明者は、
図7(a)(b)に示す構造を有するタイヤの接地長が小さくなるのは、高剛性の補強層及び、タイヤ周方向に低角度に傾斜したベルトコードからなるベルト層により、タイヤ周方向の剛性が高くなりすぎ、接地面となるべきタイヤゴムのタイヤ周方向への伸びが過剰に制限されてしまうことが原因であることを知見した。
【0048】
そこで、発明者は、ベルト層をなすベルトコードの傾斜角度をタイヤ周方向に対し、高角度とすることにより、タイヤ周方向の面外曲げ剛性(タイヤ幅方向を折り目とする曲げに対する剛性)を低下させて、上記の問題を解決し得ることの新規知見を得た。
すなわち、接地形状の変化を抑制するためのタイヤ周方向の剛性を専らベルト補強層に担わせることにより、接地形状の変化を抑制しつつも、直進転動時の接地長tcの減少を抑制することができ、耐偏磨耗性やコーナリングフォース、コーナリングパワーの低下を抑制することができることを導いたものである。
以下、このタイヤ構造について説明する。
【0049】
図8(a)(b)は、本発明の一実施形態のラジアルタイヤのタイヤ幅方向の概略断面図である。なお、
図8(a)(b)は、タイヤ赤道CLを境界とした半部のみを示している。
図8(a)(b)に示すタイヤの
図7(a)(b)のタイヤとの違いは、ベルト層8がタイヤ周方向に対して高角度に傾斜している点である。
これにより、上述の通り、高強度のベルト補強層により、リング剛性を高めて、接地形状の変化を抑制しつつも、ベルト層をタイヤ周方向に高角度に傾斜させることによって、タイヤ周方向の面外曲げ剛性を低下させて、踏面変形時のゴムのタイヤ周方向の伸びを増大させ、接地長の減少を抑制することができる。
ここで、「高角度」とは、具体的には、タイヤ周方向に対して50°〜70°の角度で傾斜していることをいう。50°未満だと周方向の面外曲げ剛性を低減させる効果が不十分となり、接地長が低下してしまい、一方で、70°より大きいとタイヤ幅方向のせん断剛性が低下してしまうからである。
図9(a)に示す構造を有するタイヤを複数試作し、タイヤの諸性能を評価する試験を行った。各タイヤの諸元を表9に示し、評価結果を表10に示す。
なお、表9中、「傾斜角度」とは、ベルト層のタイヤ周方向に対する傾斜角度のことである。
なお、ベルト補強層に用いたコードはタイヤ周方向に螺旋巻回され、打ち込み数は50(本/50mm)である。
【0052】
表10に示すように、ベルトの周方向角度を好適化した、供試タイヤ66〜69、71〜74、76〜79、81〜84のタイヤは、接地形状の変化と接地長の低減が共に抑制され、耐偏磨耗性、最大コーナリングフォース、コーナリングパワーが全て向上していることがわかる。
【0053】
また、
図7(a)(b)又は
図8(a)(b)において、ベルトは、ベルト面に対する面外曲げ剛性(タイヤ幅方向の面外曲げ剛性)が高い方が、接地形状の変化を抑制するために好ましい。
ここで、面外曲げ剛性は、以下のように定義する。
すなわち、
図9(a)に示すように、ベルトをタイヤ周方向に200mm、タイヤ幅方向25mmの矩形となるようにカットしたサンプルDをつくる。
次いで、
図9(b)に示すように、カットしたベルトを支持部材9で支持する。この状態で、矩形の面に垂直な方向から押板(図示せず)によりサンプルDの中央を押圧する。
このときのサンプルDにおける、支持部材9による支持点P、Q間の距離を160(mm)、押圧の力をF(N)、サンプルのたわみ量をA(mm)とする。
ここで、
図9(c)に示すように、面外曲げ剛性(N/mm)を、実験的に得られた荷重−たわみ量線図(F−A線図)で、たわみ量が5(mm)となる点における接線の傾きa(N/mm)と定義する。
このとき、上記のベルトにおいては、面外曲げ剛性は、6N/mm以上であることが好ましい。
また、ベルトに用いる部材は、タイヤの内圧や突起入力等に耐えうる強度が求められるため、JIS Z 2241(1998)で定義される引張り強さが大きい部材であることが好ましい。
具体的には、JIS Z 2241で定義される引張り強さが1255kPa以上であることが好ましい。