特許第6042740号(P6042740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042740
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】制御弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20161206BHJP
   F16K 11/07 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F16K31/06 305K
   F16K11/07 D
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-24063(P2013-24063)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2014-152881(P2014-152881A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】檜山 俊介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 保英
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−225429(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0309281(US,A1)
【文献】 特開平11−118062(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/155929(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06−31/11
F16K 11/00−11/24
F16K 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通路に夫々連通する複数の切換部を周囲に有し、軸方向一端に円形の開口部が設けられた円筒状のバルブボディと、
該バルブボディ内に軸方向に摺動自在に設けられ、軸方向に摺動することによって前記切換部の連通状態を切り換えるスプールと、
前記バルブボディの軸方向他端に固定され、通電することにより、アマチュアを吸引して、前記スプールを軸方向に移動させる電磁ソレノイドと、
前記アマチュアの吸引方向と逆方向に付勢力を生じさせるコイルスプリングと、
前記バルブボディの開口部に固定される前記開口部より大径の固定部材と、
を備え、
前記バルブボディにおける前記スプール摺動するスプール収容室と前記開口部は同径であり、
前記バルブボディの軸方向一端側の内周に前記開口部及び前記固定部材より大径の凹部が設けられると共に、該凹部周面には、前記固定部材の直径よりも長く内外周を貫通する貫通溝が前記スプールの摺動方向に対して交差するように設けられていることを特徴とする制御弁。
【請求項2】
複数の通路に夫々連通する複数の切換部を周囲に有し、軸方向一端に円形の開口部が設けられた円筒状のバルブボディと、
該バルブボディ内に軸方向に摺動自在に設けられ、軸方向に摺動することによって前記切換部の連通状態を切り換えるスプールと、
前記バルブボディの軸方向他端に固定され、通電することにより、アマチュアを吸引して、前記スプールを軸方向に移動させる電磁ソレノイドと、
前記アマチュアの吸引方向と逆方向に付勢力を生じさせる付勢部材と、
前記バルブボディの開口部に固定される前記開口部より外径側に大きな部分を有する固定部材と、
を備え、
前記バルブボディにおける前記スプール摺動するスプール収容室と前記開口部は同径であり、
前記バルブボディの軸方向一端側の内周に前記固定部材が載置可能な凹部が設けられると共に、前記バルブボディにおける該凹部周面には前記固定部材を内周に挿入可能な貫通孔が設けられていることを特徴とする制御弁。
【請求項3】
複数の通路に夫々連通する複数の切換部を周囲に有し、少なくとも軸方向一端に円形の開口部が設けられた円筒状のバルブボディと、
該バルブボディ内に軸方向に摺動自在に設けられ、軸方向に摺動することによって前記切換部の連通状態を切り換えるスプールと、
該スプールに付勢力を生じさせる付勢部材と、
前記バルブボディの開口部に固定される前記開口部より外径側に大きな部分を有する固定部材と、
前記スプールを前記付勢部材の付勢力に抗して移動させる制御手段と
を備え、
前記バルブボディにおける前記スプール摺動するスプール収容室と前記開口部は同径であり、
前記バルブボディの軸方向一端側の内周に前記固定部材が載置可能な凹部が設けられると共に、前記バルブボディにおける該凹部周面には前記固定部材を内周に挿入可能な貫通孔が設けられていることを特徴とする制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制御弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の制御弁において、スプールを内部に摺動自在に収容するバルブボディの軸方向一端側には、電磁ソレノイドが固定され、他端側には、スプールやスプールを付勢するスプリングが脱落しないように抜け止め構造を設ける必要がある。
【0003】
抜け止め構造としては、バルブボディ他端に開口する油路径をスプール摺動部より小さくすることにより抜け止めの機能を持たせた構造が挙げられるが、穴径の異なる2種類の穴を加工しなければならず、その加工も煩雑となることから、バルブボディ他端に開口する油路を、スプール摺動部と同時に加工し、抜け止め部材を固定することによって、所望の抜け止め構造を構成することが考えられている。
【0004】
例えば、特許文献1は、バルブボディ他端開口部にスナップリングを固定して抜け止め構造を構成しており、特許文献2は、バルブボディ他端開口部にリング部材を圧入もしくはネジ止めして抜け止め構造を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-111542号公報
【特許文献2】米国特許公開公報US2004/0163722A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、スナップリングが所定箇所に対し確実に装着され難く、その状態で固定(中途半端に固定)された場合には、時間の経過と共にスナップリングが脱落してしまう問題があった。
【0007】
また、特許文献2のように、圧入にてリング部材を固定した場合、当該圧入によりバルブボディが変形し、スプールの摺動に影響を及ぼしてしまう問題があり、ネジ止めにてリング部材を固定する場合には、ネジの緩みが起こる虞や、雌ネジを形成するための厚みが必要となってしまう問題があった。
【0008】
本発明の目的は、バルブボディを変形させずに、当該バルブボディ内に抜け止め部材を保持し易くすることができる制御弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、好ましくは、バルブボディにおけるスプール摺動するスプール収容室と開口部は同径であり、バルブボディの軸方向一端側の内周に開口部及び固定部材より大径の凹部が設けられると共に、該凹部周面には、固定部材の直径よりも長<内外周を貫通する貫通溝がスプールの摺動方向に対して交差するように設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バルブボディを変形させずに、バルブボディ内に抜け止め部材を保持し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る電磁弁が適用される実施例のバルブタイミング制御装置の油圧供給回路図である。
図2図1に示す電磁弁の縦断面図であって、バルブタイミング制御装置を遅角制御した状態を現した図である。
図3図2に示す電磁弁のエンジンヘの組み付け状態を表した部分断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るバルブボディを示した斜視図(A)及び正面図(B)である。
図5】本発明の実施形態に係るバルブボディを示す図4の正面図の断面A―A図である。
図6】本発明の実施形態に係るバルブボディを示す図5の断面A―A図のB部拡大図である。
図7】本発明の実施形態に係るワッシャーを示した斜視図(A)及び正面図(B)である。
図8図1に示す電磁弁の縦断面図であって、バルブタイミング制御装置を中間保持制御した状態を現した図である。
図9図1に示す電磁弁の縦断面図であって、バルブタイミング制御装置を進角制御した状態を現した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る電磁弁の実施の形態を図面に基づいて詳述する。なお、本実施の形態では、この電磁弁を、従来と同様、内燃機関(エンジン)の油圧式バルブタイミング制御装置に適用したものを示している。
【0013】
[油圧式バルブタイミング制御装置説明]
まず、本発明に係る電磁弁が適用される油圧式バルブタイミング制御装置について説明すれば、このバルブタイミング制御装置1は、図1に示すように、図外のエンジンの例えば吸気側のカムシャフト2に設けられ、油圧を利用して図外のクランクシャフトに対するカムシャフト2の回転位相を連続的に変化させる位相変換機構3と、該位相変換機構3に油圧を給排する油圧給排手段4と、該油圧給排手段4の作動を制御する制御手段である電子コントロールユニット(ECU)5と、を備えている。
【0014】
前記位相変換機構3は、外周部に一体に形成された複数の歯部6aを有し図外のタイミングチェーンを介して前記クランクシャフトに連係されたハウジング6と、カムシャフト2の端部に一体回転可能に固定されハウジング6内において該ハウジング6と相対回動可能に収容されたベーンロータ7と、から主として構成されている。そして、ベーンロータ7の外周には、その外周面がハウジング6の内周面に摺接するように構成された例えば複数個(図1中では4つ)のベーン7bが周方向に所定間隔をもって径方向外側に突設されている一方、ハウジング6の内周には、その内周面がベーンロータ7の環状基部7aの外周面に摺接する例えば複数個(図1中では4つ)のシュー6bがベーンロータ7の相対回動範囲に相当する所定間隔をもって径方向内側に突設され、ハウジング6の内周面と各ベーン7bの間及び環状基部7aと各シュー6bの間は、それぞれ所定のシール部材(詳細説明は省略)をもって液密にシールされている。かかる構成から、ハウジング6とベーンロータ7との間には、前記各ベーン7bによって隔成される一対の作動油室である遅角室Pr及び進角室Paが構成されていて、かかる一対の両室Pr,Pa内において、一方側の室に作動油を供給すると共に他方側の室内の作動油を排出することにより、ベーンロータ7の回転位相が制御されるように構成されている。なお、前記複数のベーン7b及びこれに対応する複数のシュー6bの数は特に限定されるものではなく、内燃機関の仕様等に応じて任意に設定可能である。
【0015】
また、前記各ベーン7bの1つには、図外の付勢部材によりベーンロータ7に対して軸直角方向へ突出するように付勢されたロックピン7cが出没自在に収容されていて、ベーンロータ7が最遅角側へと移動した際に対向する図外のピン係合穴にロックピン7cが係合することで、特に機関停止時において当該最遅角状態が維持されるようになっている。これによって、機関始動時やアイドル運転時等における機関の安定化に供されている。
【0016】
前記油圧給排手段4は、オイルパン9内に貯留された作動油を圧送する油圧供給源であるポンプ8と、該ポンプ8によって圧送された作動油を電子コントロールユニット5からの制御信号に応じて遅角室Pr又は進角室Paの一方に供給すると共に他方の作動油をオイルパン9へと導く流路切替弁である電磁弁EVと、該電磁弁EV及びオイルパン9と遅角室Pr及び進角室Paとを連通する油通路Lと、から主として構成されている。そして、電磁弁EVを介して遅角室Pr又は進角室Paの作動油を給排することでベーンロータ7をハウジング6に対して正逆回転させ、これによって、クランクシャフトに対するカムシャフト2の回転位相を変更するようになっている。
【0017】
前記油通路Lは、電磁弁EVにおける後記の遅角ポートP1と遅角室Prとを連通し当該遅角室Prに対して作動油を給排する遅角通路L1と、電磁弁EVにおける後記の進角ポートP2と進角室Paとを連通し当該進角室Paに対して作動油を給排する進角通路L2と、オイルパン9とポンプ8の吸入口とを連通する吸入通路L0と、電磁弁EVにおける後記の導入ポートP3とポンプ8の吐出口とを連通し当該ポンプ8により吐出された作動油を位相変換機構3側へと導く導入通路L3と、電磁弁EVにおける後記の排出ポートP4(第1排出ポートP4a,第2排出ポートP4b)とオイルパン9とを連通し当該排出ポートP4から排出された作動油をオイルパン9へと還流するドレン通路L4と、から主として構成されている。このようにして、当該油通路Lは、2系統に分岐構成されて、これを電磁弁EVによって切り替えるようになっている。
【0018】
前記電磁弁EVは、いわゆるスライドスプール形の4ポート比例電磁式切換弁であって、例えば非通電状態を現した図2に示すように、前記電子コントロールユニット5からの制御電流に基づいて発生する電磁力をもって後記のスプール23を駆動する電磁ソレノイドを構成するソレノイド構成部11と、前記スプール23の軸方向位置に応じて後述のバルブボディ22に設けられた各ポートP1〜P4の連通状態を切り替える弁(バルブ)を構成するバルブ構成部21と、から主として構成されている。そして、かかる電磁弁EVは、図3に示すように、前記ソレノイド構成部11の外装を構成する後記のヨーク12の外周に付設されたブラケット45を介してエンジン10の側部に固定(図3中ではボルト46によって固定)されている。
【0019】
[ソレノイド構成部説明]
前記ソレノイド構成部11は、磁性体により略円筒状に形成されたヨーク12と、該ヨーク12の内周側に収容配置されたコイル13と、その一端部に有する各フランジ部14b,15bを介してヨーク12の各端部に固定されると共にその他端側の各筒状部14a,15aがコイル13の内周側に収容され当該内周側にて互いに対峙するよう配置された磁性体からなる第1固定鉄心14及び第2固定鉄心15と、その第2固定鉄心15の内周側に摺動自在に収容配置された磁性体からなる可動鉄心であるアマチュア16と、前記第1固定鉄心14の内周側に収容された部材であって一端面が後記のスプール23の他端面に当接すると共に当該部材の他端面が前記アマチュア16の一端面に当接するように設けられた非磁性体からなるロッド17と、を備えている。
【0020】
前記ヨーク12は、例えば鉄等の磁性金属材料によってコイル13の外周を囲繞するように構成されていて、その一端部(図2中ではX軸正方向側の端部)が、当該一端部に設けられた爪部12aを介して、バルブボディ22の一端部に設けられた後記のフランジ部22aにカシメ固定されている一方で、その他端部が、当該他端部に設けられた爪部12bを介して第2固定鉄心15の一端部に設けられた前記フランジ部15bにカシメ固定(例えば図2に示すようにフランジ部15bの端部にカシメ固定)されている。
【0021】
前記コイル13は、樹脂材料によって略円筒状に形成されたボビン18の外周に巻回され、ヨーク12の他端部に固定された樹脂製のコネクタ19及び当該コネクタ19に接続される図外のハーネスを介して、電子コントロールユニット5に接続(電気的接続)されている。そして、この電子コントロールユニット5から通電されることで、ヨーク12、第1,第2固定鉄心14,15、アマチュア16によって磁路が形成され、これによって、第1固定鉄心14とアマチュア16との間に磁気吸引力が発生することとなる。
【0022】
ここで、前記電子コントロールユニット5は、機関の回転数を検出するクランク角センサや吸入空気量を検出するエアフローメータ等の各種センサ類からの信号に基づいて機関運転状態を検出し、当該機関運転状態に応じて電磁弁EVのコイル13に制御電流を通電し又はこれを遮断することで、後述するような油通路Lの切り替えが行われる。
【0023】
前記第1固定鉄心14は、例えば鉄等の磁性金属材料によって略円筒状に形成されてなり、軸方向に沿って延出する筒状部14aの後端部(図2中ではX軸正方向側の端部)に拡径状の前記フランジ部14bが一体に設けられている。そして、筒状部14aが第2固定鉄心15及びアマチュア16と対峙するようにしてコイル13(ボビン18)の一端側内周に同軸上に収容配置され、フランジ部14bがボビン18とバルブボディ22とにより挟持された状態で固定されると共に、ヨーク12の周壁に磁気結合されている。なお、フランジ部14bの軸方向両端面と、これに対向するボビン18及びバルブボディ22の軸方向端面と、の間には周知のOリング20が介装されることにより、それぞれ液密にシールされていて、コイル13側や外部への作動油の漏出が抑制されている。
【0024】
また、前記筒状部14aの先端部には、その中央部に、アマチュア16の一端部に対応する形状(互いに嵌合可能な形状)を有する凹部14cが穿設されている。この凹部14cは、コイル13の非通電時には、第1固定鉄心14とアマチュア16との間にいわゆるエアギャップ(メインギャップ)が形成される一方、コイル13の通電時には、当該通電により発生した磁気吸引力によって第1固定鉄心14に引きつけられたアマチュア16の一端部が嵌合状態に収容されると共に、その凹部14cの内側壁によって当該アマチュア16の移動が規制されるようになっている。さらに、この筒状部14aの先端部外周には、円錐状のテーパ部14dが設けられていて、このテーパ部14dにより、アマチュア16の移動に伴う磁気吸引力の変化が抑制され、当該磁気吸引力を一定とする特性が維持されるようになっている。
【0025】
一方、前記第2固定鉄心15においても、例えば鉄等の磁性金属材料により略円筒状に形成されてなり、軸方向へと延出する筒状部15aの後端部(図2中ではX軸負方向側の端部)に拡径状の前記フランジ部15bが一体に設けられていて、筒状部15aが第1固定鉄心14と対峙するようにコイル13(ボビン18)の他端側内周に略同軸上に収容配置され、フランジ部15bがボビン18と一緒に共締め状態に固定されると共に、ヨーク12の周壁に磁気結合されている。
【0026】
前記アマチュア16は、例えば鉄等の磁性金属材料によって第2固定鉄心15の内径より僅かに小さい外径を有する略円筒状に形成されてなり、第2固定鉄心15の筒状部15aの内周に略同軸上に配置されることで、当該第2固定鉄心15との間に微小の径方向隙間であるエアギャップ(サイドギャップ)が形成されるようになっている。また、かかるアマチュア16の内周部には、所定の内径に設定されたいわゆる呼吸孔16aが当該アマチュア16の軸線方向に沿って貫通形成されており、この呼吸孔16aによって、メインギャップに充満した作動油を第2固定鉄心15側(図2中ではX軸負方向側)へと逃がす(移動させる)ことで、当該作動油中におけるアマチュア16の軸方向移動が確保されている。このような構成により、アマチュア16は、第2固定鉄心15の内周側において、その周壁にガイドされるようにして当該第2固定鉄心15に対し相対移動可能となっており、コイル13の通電時には第1固定鉄心14に形成される磁束により当該第1固定鉄心14側へ吸引されることで、その一端(図2中ではX軸正方向端)が凹部14cの内側面に当接するまでの範囲内で軸方向移動するようになっている。
【0027】
前記ロッド17は、例えばステンレスやアルミニウム等の非磁性材料によりアマチュア16側へと開口する有底円筒状に形成されたものであって、第1固定鉄心14の内周側に相対移動可能に収容配置されると共に後記のリターンスプリング26の付勢力に基づくスプール23側からの押圧力によってアマチュア16側(図2中ではX軸負方向側)へと常時付勢されることで、その両端がアマチュア16及びスプール23の各対向端面に常時当接し、これにより、アマチュア16及びスプール23と一体となって移動するようになっている。
【0028】
また、このロッド17の外周には、径方向内側へと窪む軸方向溝17aが当該ロッド17の周方向に沿って略等間隔に設けられていて、これら各軸方向溝17aをもって、第1固定鉄心14の内周面との間に、作動油が通流する油通路が構成されるようになっている。そして、前記各軸方向溝17aにおける図2のX軸負方向側の端部には、ロッド17の内外周を連通する連通孔17bが、それぞれ径方向に沿って貫通形成されていて、後記のスプール23の連通孔23eから前記各軸方向溝17aへと流入した作動油を、当該各連通孔17bを介してロッド17の内周側へと逃がし(移動させ)、さらに当該ロッド17の内周部を通じアマチュア16の呼吸孔16aへ逃がすことで、当該作動油中におけるロッド17の軸方向移動が確保されている。さらに、前記ロッド17における図2のX軸負方向側の端部には拡径状のフランジ部17cが設けられていて、このフランジ部17cが、当該ロッド17の進出移動(図2中ではX軸正方向側への移動)時の最大移動量を規制するストッパとして機能すると共に、当該フランジ部17cによりアマチュア16の呼吸孔16aの一端開口縁を囲繞することによって当該呼吸孔16aとロッド17の内周部との接続性の向上が図られている。
【0029】
なお、前述のようにスプール23を移動させる構成においては、図2等に示すソレノイド構成部11等を備えた構成に限定されるものではなく、適宜設計変更が可能であり、スプール23に付勢される付勢部材(例えば後記のリターンスプリング26)の付勢力に抗して、当該スプール23をバルブボディ22内で移動させることが可能な制御手段であれば良い。
【0030】
[バルブ構成部説明]
前記バルブ構成部21は、その略全体が図外のシリンダヘッドに嵌挿され、前記各通路L1〜L4に接続される後記の各ポートP1〜P4を有するバルブボディ22と、そのバルブボディ22内に摺動自在に収容配置され当該バルブボディ22内の軸方向位置によって前記各ポートP1〜P4の連通状態を切り替えるスプール23と、を備えている。
【0031】
前記バルブボディ22は、例えばアルミニウム等の非磁性金属材料によって略円筒状に形成されていて、その一端部(図2中ではX軸負方向側の端部)に拡径形成されたフランジ部22aを介し、ヨーク12の爪部12aによって第1固定鉄心14のフランジ部14bと共にボビン18の一端部(図2中ではX軸正方向側の端部)に共締め固定されている。そして、このバルブボディ22の内周側には、スプール23を摺動自在に収容するスプール収容室24が軸線方向に沿って設けられていて、その周壁には、遅角通路L1と接続する遅角ポートP1、進角通路L2と接続する進角ポートP2、及び導入通路L3と接続する導入ポートP3が、それぞれ周方向に沿って一定の軸方向幅をもって貫通形成されている。なお、図2において、遅角ポートP1、進角ポートP2及び導入ポートP3は、それぞれ周方向において略等間隔に3つずつ設けられている。
【0032】
また、バルブボディ22の図2のX軸正方向先端部と当該先端部の手前とには、排出通路L4と接続する排出ポートP4がそれぞれ貫通形成されている。この排出ポートP4のうち、前記のX軸正方向先端部に位置する第1排出ポートP4aは、例えば軸線方向に沿って貫通形成され、スプール収容室24と同径の貫通孔とし、当該先端部の手前に位置する第2排出ポートP4bにおいては、例えば周方向に沿って一定の軸方向幅を持って貫通形成され、後記の固定部材をスプール収容室24内に収容可能な形状(例えばスプール24摺動方向に対して交差する方向の開口長さが後記の固定部材の直径よりも長い形状)の貫通孔とする。このように、第1,第2排出ポートP4a,P4bは、後記の固定部材の形状等に応じて適宜設計して形成すれば良い。例えば、第2排出ポートP4bにおいて、スプール24摺動方向に対し直交する方向に貫通して形成された場合には、当該第2排出ポートP4bの軸方向幅の低減に供され、第2排出ポートP4bを複数個形成(例えば一対の第2排出ポートP4bを互いに対向するように形成)した場合には、当該第2排出ポートP4bでの油排出が促進されることになる。
【0033】
さらに、バルブボディ22の先端部手前には、固定部材(例えば後記のリターンスプリング26の第1係止部25aとなるワッシャー25)を挿入(載置)可能な挿入溝22bが形成されている。この挿入溝22bは、バルブボディ22の先端部側の開口部(図5ではX軸正方向側の第1排出ポートP4a)より大径の固定部材(例えば開口部より外径側に大きな部分を有する固定部材)が挿入(図5では第2排出ポートP4bを介して挿入されて設置)されるものであり、例えば後記のワッシャー25を固定部材として挿入する場合には、図4図6に示すように、バルブボディ22の先端部側の第1排出ポートP4a及びスプール収容室24の径や固定部材の径よりも拡径(例えば僅かに拡径)した形状となる。このように、挿入溝22bは、第1排出ポートP4a及びスプール収容室24や固定部材の形状等に応じて適宜設計して形成すれば良い。
【0034】
固定部材となるワッシャー25は、例えば図7のように扁平な円環形状の板状部材であり、一方の面が後記リターンスプリング26の第1係止部25aとなると共に、当該円環の内径穴25bが図2のX軸正方向への油排出を促進させている。
【0035】
前記スプール収容室24は、スプール23の後記の各ランド部31,32の外径よりも僅かに大きい内径に設定されることで、当該各ランド部31,32の外周面と摺接するように構成されている。
【0036】
このようなスプール収容室24内で軸方向に対して摺接自在に設けられるスプール23は、当該スプール23に付勢力を生じさせる付勢部材により、前記アマチュア16の吸引方向の逆方向に付勢される。この付勢部材においては、例えばスプール23を図2のX軸負方向側へ常時付勢するコイルスプリングであるリターンスプリング26を適用することができ、図2ではスプール23の先端部(図2中ではX軸正方向側端部)に収容配置されている。このリターンスプリング26は、前記ワッシャー25の一端の第1スプリング係止部25aに着座する一方、その他端がスプール23に設けられた第2スプリング係止部23aに着座するように、ワッシャー25とスプール23との間に設置されている。
【0037】
前記遅角ポートP1は、バルブボディ22の一端側においてスプール収容室24内を臨むように設けられ、スプール23の後記の第1ランド部31により開閉可能に構成されている。一方、前記進角ポートP2は、バルブボディ22の他端側においてスプール収容室24内を臨むように設けられ、スプール23の後記の第2ランド部32により開閉可能に構成されている。また、前記導入ポートP3は、遅角ポートP1と進角ポートP2との間であってスプール23の前記各ランド部31,32のいずれにも閉塞されない軸方向位置において、スプール収容室24内における後記の第1,第2ランド部31,32間に画成される導入室27を臨むように設けられている。そして、前記各ポートP1〜P3には、特に図3に示すように、それぞれメッシュ状のフィルタF1〜F3が設けられていて、当該各ポートP1〜P3を通過する作動油に含まれる異物の除去に供されている。
【0038】
一方、前記スプール23には、その移動範囲において導入ポートP3に常時対向する位置に段差縮径状に形成されバルブボディ22の内径に比べて若干小さい所定の外径に設定された第1小径部30と、その第1小径部30の軸方向両側に遅角ポートP1及び進角ポートP2と対向するように設けられバルブボディ22の内径と略同一の外径に設定された一対の第1ランド部31及び第2ランド部32と、第1小径部30に対し各ランド部31及び32を挟んだ両側に当該第1小径部30と略同一の外径に設定された第2小径部33と、が成形されている。
【0039】
更に、リターンスプリング26の一方の着座に供する第2スプリング係止部23aが、当該スプール23の先端側(図2中ではX軸正方向側)の内周側に設けられている。また、排出ポートP4へ臨むように開口形成された排出通路23bと、その排出通路23bと前記スプール23の径方向(図2中のY軸方向)に貫通形成された排出孔23c(図2中のX軸負方向側)及び23d(図2中のX軸正方向側)と、ソレノイド側先端部(図2中のX軸負方向側)の連通孔23eと、が設けられている。
【0040】
前記第1,第2ランド部31,32は、それぞれ対応する前記各ポートP1,P2の軸方向幅よりも大きい所定の軸方向幅に設定されていて、図2及び図9に示すように、前記両ポートP1,P2を同時に開口できることは勿論、図8に示すように、前記両ポートP1,P2を同時に閉塞することも可能な構成となっている。
【0041】
前記排出通路23bは、スプール23の一端から所定の軸方向位置(例えばスプール23の一端から第2小径部33と径方向にてオーバーラップするような所定の軸方向位置)まで軸線方向に沿って穿設されている一方、前記排出孔23c及び23dは、当該排出通路23bの内端部とを連通するように、スプール23の径方向に沿って貫通形成されている。かかる構成により、遅角室Prから遅角ポートP1を介し、排出された作動油を、排出孔23c及び排出通路23bを通じてバルブボディ22の一端側に設けられた排出ポートP4(第1,第2排出ポートP4a,P4b)へ導くようになっている(図9参照)。
【0042】
このように、スプール23の両端側を、排出通路23b及び排出孔23c,23dと連通孔23eを介して連通可能に構成し、排出ポートP4をバルブボディ22の他端側にのみ設ける構成とすることで、この排出ポートP4をバルブボディ22の両端側に設ける場合に比べ、当該バルブボディ22の軸方向長さを短縮することが可能となり、電磁弁EVの小型化に供されている。
【0043】
また、前記バルブボディ22の内周面には、遅角ポートP1及び進角ポートP2の軸方向両端に相当する軸方向位置に、対をなす第1環状溝41及び第2環状溝42が、それぞれ周方向に沿って連続して切欠形成されている。すなわち、当該両環状溝41,42は、軸方向において相互に隔成されるようにして設けられると共に、少なくとも前記各ポートP1,P2の内側開口端にてそれぞれの開口幅が拡大するように、前記各ポートP1,P2の軸方向両端と図2のX軸方向においてオーバーラップするように設けられていて、本実施形態では、その溝中心が前記各ポートP1,P2の軸方向両端とほぼ一致するように設けられている。
【0044】
また、上述のように両環状溝41,42が設けられることによって、当該両環状溝41,42間には、それぞれ一定の軸方向幅をもって径方向内側に突出し、スプール23の移動時に前記各ランド部31,32に摺接して当該スプール23の移動を案内するガイド部としての突起であるガイド用突起43が、周方向に沿って連続形成されている。すなわち、このガイド用突起43は、前記各ポートP1,P2の軸方向中間部にあたる軸方向位置に、当該各ポートP1,P2が形成された周方向範囲を除いた全周にバルブボディ22と一体に設けられていて、その内径は、バルブボディ22の内径と同一となっている。このような構成から、前記両ガイド用突起43は、スプール23の静止時には前記各ランド部31,32の外周面に当接することによって当該スプール23を支持し、スプール23の移動時には、前記各ランド部31,32に摺接して当該スプール23の移動を案内することで、このスプール23の円滑な移動に供されている。
【0045】
また、前記バルブボディ22の内周面には、スプール23の第1小径部30を囲繞するように、導入ポートP3の軸方向幅と略同一の溝幅に設定された第3環状溝44が、周方向に沿って連続して設けられている。これによって、導入ポートP3を介して導入室27内に導入される作動油量の増大化が図られ、この結果、より多<の作動油を前記各ポートP1,P2に供給することが可能となっている。
【0046】
[電磁弁作動説明]
以下、本実施形態に係る電磁弁EVの作用について、図2図8及び図9に基づいて説明する。
【0047】
<遅角制御>
まず、前記電磁弁EVは、例えば機関始動時ないしアイドル運転時など電子コントロールユニット5からコイル13に制御電流が通電されない状態では、スプール23にはリターンスプリング26の付勢力のみが作用するため、当該スプール23は、図2に示すように、ロッド17を介してアマチュア16を押しのけて、図2のX軸負方向側へと最大偏倚した状態、すなわち最も後退した状態となる。このような状態にあっては、前記両ポートP1,P2に対し前記両ランド部31,32が図2のX軸負方向側に偏倚した状態となり、遅角ポートP1が導入室27を介して導入ポートP3と連通する一方、進角ポートP2が排出孔23dを介して排出ポートP4と連通することとなる。これによって、位相変換機構3においては、遅角室Prに作動油が供給されると共に、進角室Paの作動油が排出されることとなり、カムシャフト2の相対回転位相が最遅角側に制御され、機関の良好な始動性や、アイドル運転時の機関の安定性及び燃費向上などに供される。
【0048】
<中間保持>
続いて、例えば通常運転に移行して所定の運転状態で保持されることになると、スプール23を中間位置で保持するような所定の制御電流がコイル13に通電され、該コイル13の周囲に磁界が発生し、このコイル23の周囲に設けられたヨーク12及び第1,第2固定鉄心14,15に形成された磁束に基づいてアマチュア16が第1固定鉄心14側へと吸引されることとなる。すなわち、アマチュア16がロッド17を介してスプール23を押しのけるようにリターンスプリング26の付勢力に抗して図8のX軸正方向側へ進出移動することで、スプール23が図8に示すような中間位置へ進出した状態となる。かかる状態では、遅角ポートP1が第1ランド部31により閉塞されると共に、進角ポートP2が第2ランド部32により閉塞されることとなる。これによって、位相変換機構3においては、遅角室Pr及び進角室Paの両室内の油圧が保持され、例えばポンプ8等の無駄なエネルギ消費の削減に供される。
【0049】
<進角制御>
さらに、例えば高回転運転状態へと移行した場合などは、最大の制御電流がコイル13に通電され、前記吸引力が最大となることから、図9に示すように、アマチュア16、ロッド17及びスプール23がリターンスプリング26の付勢力に抗して図9のX軸正方向側へさらに進出することにより、当該X軸正方向側へと最大偏倚した、最も進出した状態となる。かかる状態では、前記両ポートP1,P2に対し前記両ランド部31、32が当該X軸正方向側へ偏倚した状態となって、遅角ポートP1が排出孔23c,排出通路23bを介し排出ポートP4と連通する一方、進角ポートP2が導入室27を介して導入ポートP3と連通することとなる。これによって、位相変換機構3においては、遅角室Prの作動油が排出されると共に、進角室Paに作動油が供給されることとなり、カムシャフト2の相対回転位相が最進角側に制御され、機関の高出力化に供される。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る電磁弁EVによれば、内径が軸方向(図2等のX軸)に一定寸法で貫通しているバルブボディ22の先端部(図2等のX軸正方向側)にリターンスプリング26を配置する構造をとる中で、リターンスプリング26の第1係止部25aに固定部材であるワッシャー25を用いた構造を特徴とする。
【0051】
この構造によれば、固定部材で従来技術である周知のスナップリング及び圧入,ネジ止めによりリング材を設置する方法と比較すると、バルブボディ22を変形させずに、確実にバルブボディ22内に抜け止め部材(ワッシャー25等の固定部材)を保持することが可能となる。
【0052】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0053】
ここで、以上示した具体例等から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に列挙する。
【0054】
<イ>請求項1に記載の制御弁において、前記貫通溝は、前記スプールの摺動方向に対して直交するように設けられていることを特徴とする制御弁。
【0055】
<ロ>請求項1に記載の制御弁において、前記固定部材は、板状部材であることを特徴とする制御弁。
【0056】
<ハ>前記の<ロ>に記載の制御弁において、前記スプール内には軸方向に貫通する軸孔が設けられると共に、前記固定部材にも前記軸孔と連通する貫通穴が設けられており、前記バルブボディの軸方向一端に通路が連通していることを特徴とする制御弁。
【0057】
<ニ>請求項1に記載の制御弁において、前記貫通溝は、前記凹部周面に対向して一対設けられていることを特徴とする制御弁。
【0058】
<ホ>請求項1に記載の制御弁において、前記コイルスプリングは、前記固定部材と前記スプールの間に設けられていることを特徴とする制御弁。
【符号の説明】
【0059】
EV…電磁弁
11…ソレノイド構成部
21…バルブ構成部
22…バルブボディ
22b…挿入溝
23…スプール
23a…第2スプリング係止部
24…スプール収容室
25…ワッシャー
25a…第1スプリング係止部
26…リターンスプリング
P1…遅角ポート
P2…進角ポート
P3…導入ポート
P4…排出ポート
P4a…第1排出ポート
P4b…第2排出ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9