(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外側開口(332、333、334、335)を形成する縁部は、前記逃げ角が所定の角度以上となるよう凹部(362、363、364、365、372、373、374、375)を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
前記凹部は、前記外側開口および前記凹部を前記仮想直線に直交する直交仮想平面上(F3)に投影したとき前記直交仮想平面上に投影された前記外側開口の開口端上の点(E332)から前記直交仮想平面上に投影された前記凹部の底面の外周端上の点のうち少なくとも1点(E382)までの距離(D1)が0.2mmより小さいとき、前記凹部を前記仮想直線に平行な平行仮想平面(F4)上に投影したとき前記平行仮想平面上に投影された前記底面の外周端上の点(F382)から前記平行仮想平面上に投影された前記凹部の開口端上の点(G382)までの距離(D2)が0.1mm以下となるよう形成されることを特徴とする請求項9に記載の燃料噴射弁。
前記凹部は、前記外側開口および前記凹部を前記仮想直線に直交する直交仮想平面(F3)上に投影したとき前記直交仮想平面上に投影された前記外側開口の開口端上の点(E332)から前記直交仮想平面上に投影された前記凹部の底面の外周端上の点のうち少なくとも1点(E382)までの距離(D1)が0.2mm以上であるとき、前記凹部を前記仮想直線に平行な平行仮想平面(F4)上に投影したとき前記平行仮想平面上に投影された前記底面の外周端上の点(F382)から前記平行仮想平面上に投影された前記凹部の開口端上の点(G382)までの距離(D2)が0.2mm以下となるよう形成されることを特徴とする請求項9に記載の燃料噴射弁。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の複数の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による燃料噴射弁1を
図1、2に示す。なお、
図1には、ニードル40が弁座34から離間する方向である開弁方向、およびニードル40が弁座34に当接する方向である閉弁方向を図示する。
【0011】
燃料噴射弁1は、例えば図示しない直噴式ガソリンエンジンの燃料噴射装置に用いられ、燃料としてのガソリンをエンジンに噴射供給する。燃料噴射弁1は、ハウジング20、ニードル40、可動コア47、固定コア35、コイル38、スプリング24、26等を備える。
【0012】
ハウジング20は、
図1に示すように、第1筒部材21、第2筒部材22、第3筒部材23および噴射ノズル30から構成されている。第1筒部材21、第2筒部材22および第3筒部材23は、いずれも略円筒状に形成され、第1筒部材21、第2筒部材22、第3筒部材23の順に同軸となるよう配置され、互いに接続している。
【0013】
第1筒部材21および第3筒部材23は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により形成され、磁気安定化処理が施されている。第1筒部材21および第3筒部材23は、硬度が比較的低い。一方、第2筒部材22は、例えばオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料により形成されている。第2筒部材22の硬度は、第1筒部材21および第3筒部材23の硬度よりも高い。
【0014】
噴射ノズル30は、第1筒部材21の第2筒部材22とは反対側の端部に設けられている。噴射ノズル30は、例えばマルテンサイト系ステンレス等の金属により有底筒状に形成されており、第1筒部材21に溶接されている。噴射ノズル30は、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。噴射ノズル30には、噴射部301及び筒部302が設けられている。
【0015】
噴射部301は、燃料噴射弁1の中心軸と同軸のハウジング20のφ0を対称軸として線対称に形成されている。燃料噴射弁1では、噴射部301の外壁303は中心軸φ0上の点を中心とする球面形状をなし、中心軸φ0の方向に突出するよう形成されている。噴射部301には、ハウジング20の内部と外部とを連通する噴孔31が複数形成されている。第1実施形態による噴射ノズル30には、6個の噴孔31が形成されている。また、噴孔31のハウジング20の内部側の開口である内側開口32の縁には環状の弁座34が形成されている。噴孔31のハウジング20の外部側の開口である外側開口33は、噴射部301の外壁303に形成されている。噴射ノズル30の詳細な構造は後述する。
【0016】
筒部302は、噴射部301の径方向外側を囲み、噴射部301の外壁303が突出する方向とは反対側に延びるように設けられている。筒部302は、一方の端部が噴射部301に接続し、他方の端部が第1筒部材21に接続している。
【0017】
ニードル40は、例えばマルテンサイト系ステンレス等の金属により形成されている。ニードル40は、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。ニードル40の硬度は、噴射ノズル30の硬度とほぼ同等に設定されている。
【0018】
ニードル40は、ハウジング20内に収容されている。ニードル40は、軸部41、シール部42、および大径部43等から構成されている。軸部41、シール部42、および大径部43は一体に形成される。
【0019】
軸部41は、円筒棒状に形成されている。軸部41のシール部42近傍には、摺接部45が形成されている。摺接部45は、略円筒状に形成され、外壁451の一部が面取りされている。摺接部45は、外壁451の面取りされていない部分が噴射ノズル30の内壁と摺接可能である。これにより、ニードル40は、弁座34側の先端部での往復移動が案内される。軸部41には、軸部41の内壁と外壁とを接続する孔46が形成されている。
【0020】
シール部42は、軸部41の弁座34側の端部に設けられ、弁座34に当接可能である。ニードル40は、シール部42が弁座34から離間または弁座34に当接することにより噴孔31の内側開口32を開閉し、ハウジング20の内部と外部とを連通または遮断する。
【0021】
大径部43は、軸部41のシール部42とは反対側に設けられている。大径部43は、その外径が軸部41の外径より大きくなるよう形成されている。大径部43の弁座34側の端面は、可動コア47に当接している。
【0022】
ニードル40は、摺接部45が噴射ノズル30の内壁により支持され、軸部41が可動コア47を介して第2筒部材22の内壁により支持されつつ、ハウジング20の内部を往復移動する。
【0023】
可動コア47は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により略円筒状に形成され、表面には例えばクロムめっきが施されている。可動コア47は、磁気安定化処理が施されている。可動コア47の硬度は比較的低く、ハウジング20の第1筒部材21および第3筒部材23の硬度と概ね同等である。可動コア47の略中央には貫通孔49が形成されている。貫通孔49には、ニードル40の軸部41が挿通されている。
【0024】
固定コア35は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により略円筒状に形成されている。固定コア35は、磁気安定化処理が施されている。固定コア35の硬度は比較的低く、可動コア47の硬度と概ね同等であるが、可動コア47のストッパとしての機能を確保するために表面に例えばクロムめっきを施し、必要な硬度を確保している。固定コア35は、ハウジング20の第3筒部材23と溶接され、ハウジング20の内側に固定されるよう設けられている。
【0025】
コイル38は、略円筒状に形成され、ハウジング20の特に第2筒部材22および第3筒部材23の径方向外側を囲むよう設けられている。コイル38は、電力が供給されると磁力を生じる。コイル38に磁力が生じるとき、固定コア35、可動コア47、第1筒部材21および第3筒部材23に磁気回路が形成される。これにより、固定コア35と可動コア47との間に磁気吸引力が発生し、可動コア47は、固定コア35に吸引される。このとき、可動コア47の弁座34側とは反対側の面に当接しているニードル40は、可動コア47とともに固定コア35側、すなわち開弁方向へ移動する。
【0026】
スプリング24は、一端が大径部43のスプリング当接面431に当接するよう設けられている。スプリング24の他端は、固定コア35の内側に圧入固定されたアジャスティングパイプ11の一端に当接している。スプリング24は、軸方向に伸びる力を有している。これにより、スプリング24は、ニードル40を可動コア47とともに弁座34の方向、すなわち閉弁方向に付勢している。
【0027】
スプリング26は、一端が可動コア47の段差面48に当接するよう設けられている。スプリング26の他端は、ハウジング20の第1筒部材21の内側に形成された環状の段差面211に当接している。スプリング26は、軸方向に伸びる力を有している。これにより、スプリング26は可動コア47をニードル40とともに弁座34とは反対の方向、すなわち開弁方向に付勢している。
本実施形態では、スプリング24の付勢力は、スプリング26の付勢力よりも大きく設定されている。これにより、コイル38に電力が供給されていない状態では、ニードル40のシール部42は、弁座34に着座した状態、すなわち閉弁状態となる。
【0028】
第3筒部材23の第2筒部材22とは反対側の端部には、略円筒状の燃料導入パイプ12が圧入および溶接されている。燃料導入パイプ12の内側には、フィルタ13が設けられている。フィルタ13は、燃料導入パイプ12の導入口14から流入した燃料の中の異物を捕集する。
【0029】
燃料導入パイプ12および第3筒部材23の径方向外側は、樹脂によりモールドされている。当該モールド部分にコネクタ15が形成されている。コネクタ15には、コイル38へ電力を供給するための端子16がインサート成形されている。また、コイル38の径方向外側には、コイル38を覆うよう筒状のホルダ17が設けられている。
【0030】
燃料導入パイプ12の導入口14から流入する燃料は、固定コア35の径内方向、アジャスティングパイプ11の内部、ニードル40の大径部43および軸部41の内側、孔46、第1筒部材21とニードル40の軸部41との間の隙間を流通し、噴射ノズル30の内部に導かれる。すなわち、燃料導入パイプ12の導入口14から第1筒部材21とニードル40の軸部41との間の隙間までが、噴射ノズル30の内部に燃料を導入する燃料通路18となる。なお、燃料噴射弁1の作動時、可動コア47の周囲は燃料で満たされた状態となる。
【0031】
第1実施形態による燃料噴射弁1は、噴射ノズル30に形成される噴孔31の形状に特徴がある。ここでは、
図2に基づいて噴射ノズル30の形状を説明する。
【0032】
図2(a)には、噴射ノズル30を
燃料噴射弁1の外部から燃料噴射弁1の軸方向に沿ってみた模式図を示す。また、
図2(b)には、
図2(a)のb−b線断面図を示す。
【0033】
燃料噴射弁1は、噴射ノズル30に形成される6個の噴孔31から噴射される燃料の噴射方向がハウジング20の中心軸φ0に対して一方の方向に偏る「サイド噴射」となっている(
図4(a)参照)。このため、
図2(a)に示すように、噴孔311、312、313、314、315、316の内側開口321、322、323、324、325、326は、中心軸φ0上の点を中心とする仮想円C1の円周上であり、かつ、中心軸φ0上の点に対して同じ角度間隔ごと、燃料噴射弁1では60°間隔ごとに形成される。一方、噴孔311、312、313、314、315、316の外側開口331、332、333、334、335、336は、「サイド噴射」における燃料の噴射方向に応じて形成されている。
【0034】
ここで、燃料噴射弁1の噴射ノズル30の特性を表す「逃げ角」について、
図2(b)に基づいて説明する。
図2(b)には、噴孔311、312、313、314、315、316のうち噴孔311の断面図を示す。ここで、噴孔311の内側開口321の中心C321と外側開口331の中心C331とを結ぶ直線を仮想直線L1とする。また、外側開口331の開口端330上の点を接点とする平面のうち仮想直線L1となす角度が最小となる平面を仮想平面F1とすると、仮想直線L1と仮想平面F1とがなす角度を逃げ角θ1とする。なお、仮想直線L1の方向は、噴孔311から噴射される燃料の噴射方向に等しくなる。
図2(b)では、噴孔311について説明しているが、他の噴孔312、313、314、315、316についても同様の定義で逃げ角が決定される。第1実施形態による
燃料噴射弁1では、噴孔311、312、313、314、315、316それぞれの逃げ角θが最大となるように、内側開口321、322、323、324、325、326及び外側開口331、332、333、334、335、336が形成されている。
【0035】
また、噴孔311、312、313、314、315、316それぞれの燃料の噴射方向となる仮想直線A1、A2、A3、A4、A5、A6を中心軸φ0に垂直な仮想平面上に投影したとき、自分自身の外側開口以外の外側開口上を通らないように内側開口31及び外側開口32は形成されている。具体的には、噴孔311の仮想直線A1を当該仮想平面上に投影したとき、
図2(a)に示すように、仮想直線
A1は噴孔311以外の噴孔312、313、314、315、316の外側開口332、333、334、335、336上以外の場所を通るように内側開口321及び外側開口331は形成されている。
【0036】
燃料噴射弁1では、上述した所望の「サイド噴射」における噴射ノズル30の外壁303への燃料の付着量を低減するため、噴孔311、312、313、314、315、316それぞれの内側開口321、322、323、324、325、326及び外側開口31、332、333、334、335、336を形成する位置を
図3に示すフローに従って決定する。
【0037】
最初のステップ(以下、「ステップ」を省略し、単に記号Sで示す)101において、噴射ノズルから噴射される燃料の噴射方向を極座標表示で表す。
燃料噴射弁1は、
図4(a)に示すように、6個の噴孔31からそれぞれ異なる方向IJ1、IJ2、IJ3、IJ4、IJ5、IJ6に燃料を噴射する。そこで、燃料の噴射方向を燃料噴射弁1から所定の距離にあり、かつ、ハウジング20の中心軸φ0に直交する投影仮想平面F2上に表す。具体的には、燃料噴射弁1が燃料を噴射する方向を示した模式図である
図4に示すように、投影仮想平面F2と燃料噴射弁1の燃料の噴射方向との交点を投影仮想平面F2上にプロットする。投影仮想平面F2上にプロットされた6個の点J1、J2、J3、J4、J5、J6の位置をハウジング20の中心軸φ0と投影仮想平面F2との交点P1を原点とする極座標表示で表す。
図4(b)では、投影仮想平面F2上において、交点P1から
図4(b)の紙面の上方に延びる直線を基準軸Xとし、当該基準軸から反時計回りの角度である偏角α及び交点P1からの距離である動径Rにより6個の点J1、J2、J3、J4、J5、J6の極座標を決定する。例えば、点J1の極座標は、(R1、α1)となる。同様に、点J2、J3、J4、J5、J6の極座標は、それぞれ(R2、α2)、(R3、α3)、(R4、α4)、(R5、α5)、(R6、α6)となる。なお、
図4(b)には、投影仮想平面F2上の方向を理解しやすいように、投影仮想平面F2上における基準軸Xに対して垂直に交わる第2の基準軸Yを記してある。
【0038】
次に、S102において、6つの噴孔31のうち一の噴孔の内側開口を任意の位置に配置するとともに、投影仮想平面F2上に投影し一の噴孔の内側開口の極座標表示における偏角βを決定する。ここでは、例えば、噴孔311の内側開口321を便宜的に基準軸上に投影する。したがって、この場合、噴孔311の内側開口321の偏角β11は、0°となる。
【0039】
次に、1回目のS103において、一の噴孔の内側開口の位置にあわせて他の噴孔の内側開口を投影仮想平面F2上に投影し極座標表示における偏角βを決定する。燃料噴射弁1では、内側開口321、322、323、324、325、326は、中心軸φ0上の点を中心とする仮想円C1の円周上であり、かつ、中心軸φ0上の点に対して同じ角度間隔ごと、燃料噴射弁1では60°間隔ごとに形成される。このため、内側開口321、322、323、324、325、326を投影仮想平面F2上に投影すると、
図5に示すように、内側開口321、322、323、324、325、326の投影仮想平面F2上の投影像P321、P322、P323、P324、P325、P326は、交点P1を中心とする仮想円C2の円周上であり、交点P1に対して60°間隔ごとに位置する。このとき、内側開口321の基準軸Xに対する偏角β11を用いると、噴孔312の内側開口322の基準軸Xに対する偏角β21は偏角(β11+60°)、噴孔313の内側開口323の基準軸Xに対する偏角β31は偏角(β11+120°)、噴孔314の内側開口324の基準軸Xに対する偏角β41は偏角(β11+180°)、噴孔315の内側開口325の基準軸Xに対する偏角β51は偏角(β11+240°)、噴孔316の内側開口326の基準軸Xに対する偏角β61は偏角(β11+300°)と表すことができる。
【0040】
次に、1回目のS104において、燃料の噴射方向の偏角αと内側開口の偏角βとの差の絶対値である角度差γを算出する。具体的には、燃料噴射弁1では、6個の噴孔31のいずれもが6つの噴射方向のいずれかを噴射することを考慮する。そこで、例えば、S101において変換した燃料の噴射方向を表す極座標表示における偏角α1、α2、α3、α4、α5、α6と一の噴孔311の内側開口321の偏角β11との差を算出する。
図5に示すように、基準軸Xに対する内側開口321の偏角β11と、基準軸Xに平行でありかつ投影像P321の中心を通る基準軸X1に対する燃料の噴射方向α1との関係から角度差γ11は求められる。すなわち、燃料の噴射方向の偏角αと内側開口の偏角βとの差の絶対値である角度差γは、1つの噴孔に対して燃料の噴射方向の数だけ算出される。
【0041】
具体的には、一の噴孔311が有する角度差γは、式(1)のように6個の計算式から表される。
γ11=|α1−β11|、γ21=|α2−β11|、γ31=|α3−β11|、γ41=|α4−β11|、γ51=|α5−β11|、γ61=|α6−β11|
・・・(1)
なお、角度差γ11は、一の噴孔311が燃料の6つの噴射方向のうちの1つの噴射方向を表す偏角α1に燃料を噴射した場合、燃料の噴射方向の偏角と内側開口の偏角との差の絶対値である。また、角度差γ21は、一の噴孔311が燃料の6つの噴射方向のうち1つの噴射方向を表す偏角α2に燃料を噴射した場合、燃料の噴射方向の偏角と内側開口の偏角との差の絶対値である。他の角度差γ31、γ41、γ51、γ61についても同様である。
【0042】
他の噴孔312、313、314、315、316についても、同様に式(2)〜(6)に示すようにそれぞれ6個の角度差γが算出される。
γ12=|α1−β21|、γ22=|α2−β21|、γ32=|α3−β21|、γ42=|α4−β21|、γ52=|α5−β21|、γ62=|α6−β21|
・・・(2)
γ13=|α1−β31|、γ23=|α2−β31|、γ33=|α3−β31|、γ43=|α4−β3|、γ53=|α5−β31|、γ63=|α6−β31|
・・・(3)
γ14=|α1−β41|、γ24=|α2−β41|、γ34=|α3−β41|、γ44=|α4−β41|、γ54=|α5−β41|、γ64=|α6−β41|
・・・(4)
γ15=|α1−β51|、γ25=|α2−β51|、γ35=|α3−β51|、γ45=|α4−β51|、γ55=|α5−β51|、γ65=|α6−β51|
・・・(5)
γ16=|α1−β61|、γ26=|α2−β61|、γ36=|α3−β61|、γ46=|α4−β61|、γ56=|α5−β61|、γ61=|α6−β61|
・・・(6)
【0043】
次に、1回目のS105において、角度差γの余弦値cosγを算出する。ここでは、S104において算出された複数の角度差γの余弦値cosγをそれぞれ算出する。すなわち、
燃料噴射弁1では、36個の余弦値cosγが算出される。
【0044】
S105において算出される角度差γの余弦値cosγと逃げ角θとの間には所定の相関関係がある。
図6に燃料噴射弁1における角度差γの余弦値cosγと逃げ角θとの関係を示す。
図6の実線FL1に示すように、余弦値cosγが大きくなると逃げ角θも大きくなる。また、S101において求められた燃料の噴射方向の動径Ri(iはいずれも1〜6の整数)の大きさにより、角度差γの余弦値cosγと逃げ角θとの大小関係は変化する。具体的には、動径Riが大きくなると、角度差γの余弦値cosγと逃げ角θとの大小関係は比較的小さくなり、実線FL1より小さい点線DL1のようになる。また、動径Riが小さくなると、角度差γの余弦値cosγと逃げ角θとの大小関係は比較的大きくなり、実線FL1より大きい点線DL2のようになる。
【0045】
次に、1回目のS106において、噴孔31の余弦値cosγの総和Σcosγが最大となる角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6](s、t、u、v、w、xは、1〜6の整数のいずれかであってそれぞれ異なる整数)を求める。ここで、角度差γの組み合わせにおける条件について説明する。
S104において算出される噴孔311、312、313、314、315、316の角度差γ(式(1)〜(6))は、それぞれの噴孔311、312、313、314、315、316において1つの噴孔が6つの噴射方向全てに燃料を噴射する場合を想定し算出された角度差γである。したがって、6つの噴孔31の余弦値cosγの総和Σcosγが最大となる角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]を考える場合、例えば、偏角α1の噴射方向に燃料を噴射する噴孔として一の噴孔311が選択される場合、他の噴孔312、313、314、315、316は偏角α1の噴射方向に燃料を噴射する噴孔として選択されることはない。すなわち、2つの噴孔から6つの噴射方向の1つの噴射方向に燃料を噴射することはない。
【0046】
したがって、余弦値cosγの大きさにのみに着目した場合、例えば、余弦値cosγ11と余弦値cosγ12とを含む角度差γの組み合わせが最も大きくなるが、この組み合わせでは噴孔311と噴孔312とがいずれも噴射方向α1に燃料を噴射することとなり、この組み合わせでは
図4に示すような所望の噴射方向に燃料を噴射することはできない。したがって、噴孔311の余弦値cosγとして余弦値cosγ11を選択すると、他の噴孔312、313、314、315、316は、偏角α1の噴射方向以外の他の偏角α2、α3、α4、α5、α6の噴射方向の中から余弦値cosγが大きくなる組み合わせを選択する。
S106では、このようにして、1つの燃料の噴射方向に対して1つの噴孔が当てはまるよう6つの噴孔31の余弦値cosγの総和Σcosγが最大となる組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]を求める。ここで、余弦値cosγの総和Σcosγの最大値を最大値maxΣcosγと表す。
【0047】
次に、1回目のS107において、1回目のS106で求めた余弦値cosγの総和Σcosγが最大となる角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]が1つに決まるか否かを判定する。1回目のS106において、余弦値cosγの総和Σcosγの大きさを比較した結果、総和Σcosγが最大となる角度差γの組み合わせが2つ以上存在することも考えられる。したがって、1回目のS107において、角度差γの組み合わせが1回目のS106において1つに決まっているか否かを判定する。角度差γの組み合わせが1つに決まっている場合、S109に進む。1回目のS106で求めた角度差γの組み合わせが2つ以上である場合、S108に進む。
1回目のS108において、1回目のS106で求められた角度差γの組み合わせのうち、S101において求められた燃料の噴射方向の動径R1、R2、R3、R4、R5、R6と噴孔311、312、313、314、315、316それぞれの余弦値cosγとの積Ricosγij(i、jはいずれも1〜6の整数)の総和ΣRcosγが最大となる角度差γの組み合わせを選択する。1回目のS108で1つの角度差γの組み合わせを選択した後、S109に進む。
【0048】
次に、1回目のS109において、角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]の余弦値cosγの総和Σcosγの最大値maxΣcosγが比較値M以上か否かを判定する。本処理を開始するとき、比較値Mは0に設定されている。そこで、1回目のS109において、最大値maxΣcosγが0以上か否かを判定する。最大値maxΣcosγが0以上である場合、S110に進む。1回目のS110において、比較値Mを1回目のS106または1回目のS108において求められた角度差γの組み合わせにおける余弦値cosγの総和Σcosγの最大値maxΣcosγの値に更新し、S111に進む。また、最大値maxΣcosγが0より小さい場合、比較値Mを更新することなく、S111に進む。
【0049】
次に、1回目のS111において、S103からS110までの工程を「所定の回数」繰り返したか否かを判定する。第1実施形態の
燃料噴射弁1では、S102において、複数の噴孔のうち一の噴孔311を、例えば、基準軸上に配置しており、一の噴孔311が基準軸以外の位置に形成されることにより比較値Mが大きくなる場合が考えられる。そこで、1回目のS111における「所定の回数」として、1周360°を噴射ノズル31に形成されている噴孔31の数、すなわち、第1実施形態では360を6で割って得られる60を算出し、S103からS110までの工程を60回繰り返したか否かを判定する。1回目のS111においてはS103からS110までの工程を「所定の回数」繰り返していないため、S112に進む。
1回目のS112において、1回目のS103において仮に配置された一の噴孔の内側開口の偏角に所定の角度を加える。第1実施形態では、「所定の値」を1°に設定し、噴孔311の内側開口321の偏角β11に1°を加えた値(β11+1)を新たな偏角β12とする。具体的には、S102において偏角β11は0°としているため、1回目のS112では、新たな偏角β12として1°が算出される。1回目のS112において、新たな偏角を偏角β12とすると、2回目のS103に戻る。その後、2回目のS103からS107またはS108まで前述した処理に沿って進む。
【0050】
次に2回目のS109において、偏角β12における角度差γの組み合わせの余弦値cosγの総和Σcosγの最大値maxΣcosγが比較値M以上か否かを判定する。比較値Mは、0または1回目のS110において更新された値となっている。2回目のS109において、偏角β12における角度差γの組み合わせの余弦値cosγの総和Σcosγの最大値maxΣcosγが0または1回目のS110において更新された値以上の場合、2回目のS110に進み、比較値Mが偏角β12における最大値maxΣcosγに更新される。比較値Mを更新したのち、2回目のS111に進む。
また、偏角β12における最大値maxΣcosγが0または1回目のS110において更新された値より小さい場合、比較値Mを更新することなく、2回目のS111に進む。
【0051】
次に、2回目のS111において、S103からS110までの工程を「所定の回数」繰り返したか否かを判定する。上述したように、2回目のS111では、S103からS110までの工程を「所定の回数」である60回繰り返していないため、2回目のS112に進む。2回目のS112において、噴孔31の内側開口321の偏角β12に1を加えた値(β12+1)を新たな偏角β13とする。2回目のS112において、新たな偏角を偏角β13とすると、3回目のS103に戻る。
【0052】
このように、第1実施形態による
燃料噴射弁1における6つの噴孔31の内側開口32及び外側開口33を形成する位置を決定するフローでは、S103からS110までを「所定の回数」繰り返し、S111において、S103からS110までの工程が所定の回数繰り返されたと判定される場合、S113に進む。
最後にS113において、最大の比較値Mが求められた角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]に基づいて噴孔31の内側開口32及び外側開口33の位置が決定される。
【0053】
第1実施形態による燃料噴射弁1では、燃料の噴射方向の偏角αと内側開口の偏角βとの差の絶対値である角度差γを用いて、角度差γの余弦値cosγの総和Σcosγが最大となるよう内側開口32及び外側開口33が形成される。
図6に示すように、角度差γの余弦値cosγが大きくなるほど逃げ角θは大きくなる。これにより、噴孔から燃料が噴射されるときハウジングの外壁に付着する燃料の量を低減することができる。したがって、ハウジングの外壁に付着した燃料が燃焼することにより生成される粒子状物質の生成量を低減することができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による燃料噴射弁を
図7〜9に基づいて説明する。第2実施形態は、噴射部の形状及び噴孔を形成する位置を求める方法が第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0055】
第2実施形態による燃料噴射弁では、
図7に示すように、噴射ノズル30の噴射部301の外壁303が略テーパ状に形成されている。第2実施形態による燃料噴射弁2では、
図8に示すフローチャートに従って噴孔31の内側開口32及び外側開口33を形成する位置を決定する。
【0056】
S201からS204までは、第1実施形態による燃料噴射弁1の噴孔31の内側開口32及び外側開口33の位置を決定する方法と同じである。すなわち、S201において噴射ノズルから噴射される燃料の噴射方向を極座標表示で表す(第1実施形態のS101)。次に、S202において噴孔31のうち一の噴孔の内側開口を任意の位置に配置するとともに、投影仮想平面F2上に投影し極座標における偏角を決定する(第1実施形態のS102)。次に、1回目のS203において噴孔31のうち一の噴孔以外の他の噴孔の内側開口を投影仮想平面F2上に投影し極座標表示における偏角を決定する(第1実施形態のS103)。次に、1回目のS204において、燃料の噴射方向の偏角と内側開口の偏角との差の絶対値である角度差γを算出する(第1実施形態のS104)。
【0057】
次に、1回目のS205において、噴孔31の逃げ角θを算出する。第2実施形態による燃料噴射弁では、1回目のS201で求めた噴射方向の動径R及び1回目のS204で求めた角度差γから噴孔31それぞれの逃げ角θを算出する。
具体的には、一の噴孔311に形成される可能性がある逃げ角θは、定数A、B、Cを用いて式(1)のように6個の計算式から表される。
θ11=A×R1+B×cosγ11+C、θ21=A×R2+B×cosγ21+C、θ31=A×R3+B×cosγ31+C、θ41=A×R4+B×cosγ41+C、θ51=A×R5+B×cosγ51+C、θ61=A×R1+B×cosγ61+C・・・(7)
なお、逃げ角θ11は、一の噴孔311が燃料の6つの噴射方向のうちの1つの噴射方向を表す偏角α1に燃料を噴射した場合の噴孔311の仮想直線L1と仮想平面F1とがなす角度である。他の逃げ角θ21、θ31、θ41、θ51、θ61についても同様である。また、定数A、B、Cは、噴射部301の外壁303の形状、例えば、曲率半径や噴射部301の直径などにより決定される
【0058】
他の噴孔312、313、314、315、316についても、同様に式(8)〜(12)に示すようにそれぞれ6個の逃げ角θが算出される。
θ12=A×R1+B×cosγ12+C、θ22=A×R2+B×cosγ22+C、θ32=A×R3+B×cosγ32+C、θ42=A×R4+B×cosγ42+C、θ52=A×R5+B×cosγ52+C、θ62=A×R6+B×cosγ62+C・・・(8)
θ13=A×R1+B×cosγ13+C、θ23=A×R2+B×cosγ23+C、θ33=A×R3+B×cosγ33+C、θ43=A×R4+B×cosγ43+C、θ53=A×R5+B×cosγ53+C、θ63=A×R6+B×cosγ63+C・・・(9)
θ14=A×R1+B×cosγ14+C、θ24=A×R2+B×cosγ24+C、θ34=A×R3+B×cosγ34+C、θ44=A×R4+B×cosγ44+C、θ54=A×R5+B×cosγ54+C、θ64=A×R6+B×cosγ64+C・・・(10)
θ15=A×R1+B×cosγ15+C、θ25=A×R2+B×cosγ25+C、θ35=A×R3+B×cosγ35+C、θ45=A×R4+B×cosγ45+C、θ55=A×R5+B×cosγ55+C、θ65=A×R6+B×cosγ65+C・・・(11)
θ16=A×R1+B×cosγ16+C、θ26=A×R2+B×cosγ26+C、θ36=A×R3+B×cosγ36+C、θ46=A×R4+B×cosγ46+C、θ56=A×R5+B×cosγ56+C、θ66=A×R6+B×cosγ66+C・・・(12)
【0059】
次に、1回目のS206において、逃げ角θが72°以上となる組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6](s、t、u、v、w、xは、1〜6の整数のいずれかであってそれぞれ異なる整数)を求め、当該組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]が1通りに決まるか否かを判定する。
図9に逃げ角θと噴射ノズルの外壁に付着する燃料の量との関係を示す。発明者らは、逃げ角θが72°以上の大きさになると、噴射ノズルの外壁に付着する燃料の量が比較的少なくなることを実験的に見いだしている。そこで、1回目のS205で算出した噴孔311、312、313、314、315、316それぞれの逃げ角θが72°以上となるように噴孔311、312、313、314、315、316の逃げ角θを組み合わせる。
【0060】
一方で、1回目のS206において、逃げ角θが72°以上となるように噴孔31と噴射方向とを組み合わせた結果、当該組み合わせが2つ以上存在することや当該組み合わせが存在しないことも考えられる。
そこで、1回目のS206では、組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]が1通りに決まるか否かを判定する。組み合わせが1通りに決まる場合、S208に進む。1回目のS206において、組み合わせが2つ以上となる場合、または、逃げ角θが72°以上となる噴孔31の組み合わせがない場合、1回目のS207に進み、6つの噴孔31の逃げ角θの総和Σθが最も大きくなる組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]を選択する。
【0061】
次に、1回目のS208において、S206またはS207で選択した組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]における逃げ角θが全て72°以上であるか否かを判定する。
逃げ角θが全て72°以上となる組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]である場合、S210に進む。S210において、しきい値Kが0であるか否かを判定する。しきい値Kは、
図8に示すフローチャートにおいて、特定のフローに進むか否かを判定するためのしきい値であって、本処理を開始するとき、しきい値Kは0に設定されている。1回目のS210の場合、S212に進み、S212において、しきい値Kを1とする。
また、逃げ角θが72°より小さい組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]である場合、S209に進む。S209において、しきい値Kが0であるか否かを判定する。前述したように、1回目のS210の場合、しきい値Kは0に設定されているため、S211に進む。1回目のS211において、6つの噴孔31の逃げ角θの総和Σθの最大値maxΣθが比較値M以上か否かを判定する。本処理を開始するとき、比較値Mは0に設定されている。1回目のS211において、最大値maxΣθが0以上である場合、S213に進む。また、最大値maxΣθが0より小さい場合、S214に進む。
【0062】
次に、1回目のS213において、比較値Mを最大値maxΣθの値に更新する。
【0063】
次に、1回目のS214において、第1実施形態のS111と同様に、S203からS213までの工程を「所定の回数」繰り返したか否かを判定する。1回目のS214においてはS103からS110までの工程を所定の回数繰り返していないため、S215に進む。
1回目のS215において、1回目のS203において仮に配置された一の噴孔の内側開口の偏角に所定の角度を加える。第2実施形態では、「所定の値」を1°に設定し、噴孔311の内側開口321の偏角β11に1°を加えた値(β11+1)を新たな偏角β12とする。その後、2回目のS203に戻る。その後、2回目のS203からS208まで前述した処理に沿って進む。
【0064】
次に2回目のS208において、2回目のS206またはS207で選択した組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]における逃げ角θが全て72°以上であるか否かを判定する。組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]における逃げ角θが72°以上となる組み合わせである場合、S210に進む。S210において、1回目のS212においてしきい値K=1とされている場合、S211に進む。また、組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]における逃げ角θが72°以上となる組み合わせでない場合、S209に進む。2回目のS209において、しきい値Kは1回目のS212においてしきい値K=1とされている場合、S211に進む。2回目のS211において、6つの噴孔31の逃げ角θの総和Σθの最大値maxΣθが比較値M以上か否かを判定する。1回目のS211において設定されている比較値Mと比較し、2回目のS206またはS207で選択した組み合わせの逃げ角θの総和Σθの最大値maxΣθが比較値M以上の場合、S213に進む。また、2回目のS206またはS207で選択した組み合わせの逃げ角θの総和Σθの最大値maxΣθが比較値Mより小さい場合、S214に進む。
2回目のS213において、比較値Mの値を2回目のS206またはS207で選択した組み合わせの逃げ角θの総和Σθの最大値maxΣθに変更する。
【0065】
次に、2回目のS214において、S203からS213までの工程を「所定の回数」繰り返したか否かを判定する。2回目のS214では、S203からS213までの工程を「所定の回数」繰り返していないため、S215に進む。2回目のS215において、噴孔31の内側開口321の偏角β12に1を加えた値(β12+1)を新たな偏角β13とする。2回目のS215において、新たな偏角を偏角β13とすると、3回目のS203に戻る。
【0066】
このように、第2実施形態による
燃料噴射弁1における噴孔31の内側開口32及び外側開口33を形成する位置を決定するフローでは、S203からS213までを「所定の回数」繰り返し、S214において、S203からS213までの工程が所定の回数繰り返されたと判定される場合、S216に進む。
最後にS216において、最大の比較値Mを算出した組み合わせ[θs1、θt2、θu3、θv4、θw5、θx6]に基づいて噴孔31の内側開口32及び外側開口33の位置が決定される。
【0067】
第2実施形態による燃料噴射弁では、逃げ角θが72°以上、または、逃げ角θの総和Σθが最大となるように噴孔が形成される。これにより、第2実施形態による燃料噴射弁は、第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0068】
また、第2実施形態による燃料噴射弁では、噴孔31が形成される噴射部301の外壁303はテーパ状に形成されている。
図8に示したフローチャートを用いることにより噴射部の外壁が球面形状でない場合でも噴孔の逃げ角θを最大にする位置に内側開口及び外側開口を形成することができる。
【0069】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による燃料噴射弁を
図10に基づいて説明する。第3実施形態は、噴孔を形成する位置を求める方法が第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0070】
第3実施形態による燃料噴射弁では、
図10に示すフローチャートに従って噴孔31の内側開口32及び外側開口33を形成する位置を決定する。
【0071】
S301からS305までは、第1実施形態による燃料噴射弁1の噴孔31の内側開口32及び外側開口33の位置を決定する方法と同じである。すなわち、S301において噴射ノズルから噴射される燃料の噴射方向を極座標表示で表す(第1実施形態のS101)。次に、S302において噴孔31のうち一の噴孔の内側開口を任意の位置に配置するとともに、投影仮想平面F2上に投影し極座標における偏角を決定する(第1実施形態のS102)。次に、1回目のS303において噴孔31のうち一の噴孔以外の他の噴孔の内側開口を投影仮想平面F2上に投影し極座標表示における偏角を決定する(第1実施形態のS103)。次に、1回目のS304において、燃料の噴射方向の偏角と内側開口の偏角との差の絶対値である角度差γを算出する(第1実施形態のS104)。次に、1回目のS305において、角度差γの余弦値cosγを算出する(第1実施形態のS105)。
【0072】
次に、1回目のS306において、6つの噴孔31それぞれの余弦値cosγの最小値min(cosγ)が最大となる角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]を求める。第1実施形態の
図6でも示したように、角度差γの余弦値cosγは大きいほど逃げ角θは大きくなる。そこで、S306では、6つの噴孔31それぞれの余弦値cosγの最小値min(cosγ)が最大となる角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]を次のように考える。
6つの噴孔31と燃料の噴射方向との組み合わせは、720通り考えられる。これらの組み合わせのうち、ある組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]において、角度差γの余弦値cosγが最小となる角度差γが必ず存在する。この各組み合わせにおける最小の余弦値を最小余弦値min(cosγ)とすると、720通りの組み合わせそれぞれに最小余弦値min(cosγ)が存在する。そこで、S306において、720通りの最小余弦値min(cosγ)のうち最大の最小余弦値max{min(cosγ)}をもつ角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]を求める。これにより、1回目のS306において、一の噴孔311が特定の偏角を有するときの噴射ノズル30の外壁303に最も燃料が付着しにくい6つの噴孔31の配置を求めることができる。
【0073】
次に、1回目のS307において、1回目のS306で求めた最大の最小余弦値max{min(cosγ)}をもつ角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]が1通りに決まるか否かを判定する。1回目のS306において、余弦値cosγの最小値min(cosγ)の大きさを比較した結果、最大の最小余弦値max{min(cosγ)}をもつ角度差γの組み合わせが2つ以上存在することも考えられる。したがって、1回目のS307において、角度差γの組み合わせが1回目のS306において1通りに決まっているか否かを判定する。角度差γの組み合わせが1通りに決まっている場合、S309に進む。1回目のS306で求めた角度差γの組み合わせが2つ以上である場合、S308に進む。1回目のS308において、1回目のS306で求められた角度差γの組み合わせのうち、噴孔311、312、313、314、315、316それぞれの余弦値cosγの総和が最大となる角度差γの組み合わせを選択する。1回目のS308で1つの角度差γの組み合わせを選択した後、S309に進む。
【0074】
次に、1回目のS309において、1回目のS306またはS308において求められた組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]における最大の最小余弦値max{min(cosγ)}が比較値M以上であるか否かを判定する。本処理を開始するとき、比較値Mは0に設定されている。そこで、1回目のS309において、最大の最小余弦値max{min(cosγ)}が0以上か否かを判定する。最大の最小余弦値max{min(cosγ)}が0以上である場合、S310に進む。1回目のS310において、比較値MをS306またはS308において求められた組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]における最大の最小余弦値max{min(cosγ)}の値に更新し、S311に進む。また、比較値Mが最大の最小余弦値max{min(cosγ)}が0より小さい場合、比較値Mを更新することなく、S311に進む。
【0075】
次に、1回目のS311において、第1実施形態のS111と同様に、S303からS310までの工程を「所定の回数」繰り返したか否かを判定する。1回目のS311においてはS303からS310までの工程を所定の回数繰り返していないため、S312に進む。
1回目のS312において、1回目のS303において仮に配置された一の噴孔の内側開口の偏角に所定の角度を加える。第3実施形態では、「所定の値」を1°に設定し、噴孔311の内側開口321の偏角β11に1°を加えた値(β11+1)を新たな偏角β12とする。その後、2回目のS303に戻る。その後、2回目のS303からS310まで前述した処理に沿って進む。
【0076】
その後、6つの噴孔31の内側開口32及び外側開口33を形成する位置を決定するフローでは、S303からS310までを「所定の回数」繰り返し、S311において、S303からS310までの工程が所定の回数繰り返されたと判定される場合、S313に進む。
最後にS313において、最大の比較値Mが求められた角度差γの組み合わせ[γs1、γt2、γu3、γv4、γw5、γx6]に基づいて噴孔31の内側開口32及び外側開口33の位置が決定される。
【0077】
第3実施形態による燃料噴射弁では、逃げ角θが72°以上、または、最大の最小余弦値max{min(cosγ)}が大きくなるように噴孔が形成される。これにより、第3実施形態による燃料噴射弁は、第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0078】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による燃料噴射弁を
図11に基づいて説明する。第4実施形態は、第3実施形態と異なり、噴射ノズルの噴射部の外壁に凹部が形成されている点が異なる。なお、第3実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0079】
第4実施形態による燃料噴射弁4は、6つの噴孔31のうち逃げ角θが比較的小さい噴孔312、313、314、315の外側開口332、333、334、335の縁部に凹部362、363、364、365が形成されている。凹部362、363、364、365は、
図11(a)に示すように、それぞれ外側開口332、333、334、335の縁部から噴射部301と筒部302との接続線304まで延びるように形成されている。
【0080】
図11(b)に外側開口332の縁部に形成される凹部362の断面図を示す。
図11(b)には、凹部362を形成しない場合の噴射部301の輪郭線を仮想面V1で示す。
凹部362は、仮想面V1より噴射ノズル30内部側に凹むように形成されている。凹部362を形成する内壁のうち外側開口332の開口端
上の点を接点とする仮想平面を投影仮想平面F21とし、凹部362を形成しない場合の外側開口337の開口端
上の点を接点とする仮想平面を投影仮想平面F20とする。このとき、噴孔312の内側開口322の中心C322と外側開口332の中心C332とを結ぶ直線を仮想直線L7と投影仮想平面F21とがなす逃げ角θ21は、仮想直線L7と投影仮想平面F20とがなす逃げ角θ20より大きくなる。すなわち、外側開口の縁部に凹部を形成することにより逃げ角θを大きくすることができる。これにより、第4実施形態による燃料噴射弁4は、第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0081】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態による燃料噴射弁を
図12に基づいて説明する。第5実施形態は、第4実施形態と異なり、凹部の形状が異なる。なお、第3実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0082】
第5実施形態による
燃料噴射弁5では、6つの噴孔31のうち逃げ角θが比較的小さい噴孔312、313、314、315の外側開口332、333、334、335の縁部には凹部372、373、374、375が形成されている。凹部372、373、374、375は、
図12(a)に示すように、それぞれ外側開口332、333、334、335の縁部のみに形成されている。
【0083】
図12(b)に外側開口332の縁に形成される凹部372の断面図を示す。
図12(b)には、凹部372を形成しない場合の噴射部301の輪郭線を仮想面V1で示す。
凹部372は、仮想面V1より噴射ノズル30内部側に凹むように形成されている。凹部372は、外側開口332の開口端を含む底面382と、底面382より噴孔312の内側開口322の中心C322と外側開口332の中心C332とを結ぶ直線である仮想直線L8の方向に立ち上がるよう形成される側面392と、から形成されている。
【0084】
燃料噴射弁5の凹部372は、
図12(b)に示すように、外側開口332および凹部372を仮想直線L8に直交する直交仮想平面F3上に投影したとき、直交仮想平面F3上に投影される外側開口332の開口端R332上の点E332から直交仮想平面F3上に投影される凹部372の底面382の外周端R382上の点のうち点E332に最も近い点E382までの距離D1が0.2mmより小さくなるように形成されている。このとき、凹部372を仮想直線L8に対して平行な平行仮想平面F4上に投影される凹部372の外周端R382上の点F382から平行な仮想平面F4上に投影される凹部372の開口端S382上の点G382間での距離D2は、0.1mm以下となるよう形成されている。なお、ここでは、凹部372について説明したが、他の凹部373、374、375も同様である。
【0085】
第5実施形態による燃料噴射弁5では、噴孔312、313、314、315において、噴孔312、313、314、315の外側開口332、333、334、335の縁に凹部372、373、374、375が形成されている。これにより、逃げ角θが比較的小さい噴孔31に対して逃げ角θを大きくすることができる。したがって、第5実施形態による燃料噴射弁5は、第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0086】
(他の実施形態)
(ア)上述の実施形態では、噴孔の数は6個とした。しかしながら、噴孔の数はこれに限定されない。1つ以上あればよい。
【0087】
(イ)上述の実施形態では、噴射ノズルの噴射部の外壁は中心軸の方向に突出するよう形成されるとした。しかしながら、噴射部の形状はこれに限定されない。
図13に示す燃料噴射弁6のように、噴射部301の倍壁303は、外部側から内部側に凹むように形成されていてもよい。
【0088】
(ウ)上述の実施形態では、噴孔の内側開口の大きさと外側開口の大きさとは同じであるとした。しかしながら、内側開口の大きさと外側開口の大きさの関係はこれに限定されない。
図14に示す燃料噴射弁7のように、外側開口331、332、333、334、335、336は、その大きさが内側開口321、322、323、324、325、326の大きさより大きく形成されてもよい。
【0089】
(エ)上述の実施形態では、「所定の値」を1°とした。しかしながら、「所定の値」はこれに限定されない。1°より大きくてもよいし、1°より小さくてもよい。
【0090】
(オ)上述の第2実施形態では、噴射部の外壁はテーパ状に形成されているとした。しかしながら、外壁の形状はこれに限定されない。
【0091】
(カ)上述の第4実施形態では、凹部は、距離D1が0.2mmより小さくなるように形成され、かつ、距離D2が0.1mm以下となるよう形成されるとした。しかしながら、距離D1、D2の関係はこれに限定されない。距離D1が0.2mm以上の場合、距離D2は0.2mm以下となるよう凹部は形成されてもよい。
【0092】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。