特許第6042815号(P6042815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042815生物医学的応用のためのアルギン酸塩及びヒアルロン酸を用いる抗癒着性バリア膜
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042815
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】生物医学的応用のためのアルギン酸塩及びヒアルロン酸を用いる抗癒着性バリア膜
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/00 20060101AFI20161206BHJP
   A61L 15/22 20060101ALI20161206BHJP
   A61L 15/28 20060101ALI20161206BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   A61L31/00 T
   A61L15/22 310
   A61L15/28 100
   A61L15/42 310
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-532995(P2013-532995)
(86)(22)【出願日】2011年10月7日
(65)【公表番号】特表2013-544549(P2013-544549A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】US2011055469
(87)【国際公開番号】WO2012048289
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年7月29日
(31)【優先権主張番号】13/269,344
(32)【優先日】2011年10月7日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/391,299
(32)【優先日】2010年10月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508059395
【氏名又は名称】ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】メイエス,サラ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ピーターソン,ダニエル
【審査官】 天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/108760(WO,A1)
【文献】 特表2009−529926(JP,A)
【文献】 特開2006−006448(JP,A)
【文献】 特開2010−095586(JP,A)
【文献】 特表2002−539855(JP,A)
【文献】 特開2000−271207(JP,A)
【文献】 Scott A.Zawko, et al,Acta Biomaterialia,2010年 2月16日,vol.6,p.2415-2421
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00
A61L 15/22
A61L 15/28
A61L 15/42
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向付けされたネットワーク化された多孔性抗癒着性ヒドロゲルを製造するための方法であり、前記方法は、次のステップ:
非架橋アニオン性ヒアルロン酸、非架橋アニオン性アルギニン酸および尿素を含む水溶性混合物を調製するステップ;
前記水溶性混合物をキャストしてキャスト混合物を形成するステップ;
前記キャスト混合物を乾燥してアモルファスヒドロゲル膜を形成するステップ;
前記キャスト混合物に尿素の種結晶を植えるステップ;
前記尿素を、前記非架橋ポリマー内で結晶構造に成長させ、前記結晶構造がネットワーク、分岐及び多孔性であるステップ;
塩化カルシウム溶液を添加することで前記結晶構造の周りに前記非架橋ポリマーを架橋させることにより架橋された膜を形成するステップ;
前記尿素を水で洗浄して除去して前記多孔性ヒドロゲルを形成するステップ;
前記多孔性ヒドロゲルから、加圧下で制御された乾燥により水を除去して、乾燥されたヒドロゲルを形成するステップ;及び
前記乾燥されたヒドロゲルを、水溶性カルボジイミドおよび前記非架橋ヒアルロン酸の溶液に浸漬することにより、前記乾燥されたヒドロゲルの表面を変性するステップ、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には生体高分子(バイオポリマー)の分野に、具体的には、生体適合性多糖類を含む非毒性、抗癒着性ヒドロゲルバリアに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の範囲を限定することなく、背景技術は、多孔性バイオポリマーヒドロゲル及びその製造方法に関する。国際公開第2009/108760号明細書は、ヒドロゲル及び多孔性ヒドロゲルを製造する方法を開示し、前記方法は、非架橋ポリマーと結晶化可能分子の水溶性混合物を調製し;前記混合物を容器内にキャストし;前記キャスト混合物を乾燥させてアモルファスヒドロゲル膜を形成させ;前記キャスト混合物に前記結晶化可能性分子の種結晶を植え付け;前記結晶化可能分子を前記非架橋ポリマー内で結晶構造へ成長させ;前記非架橋ポリマー内に前記結晶構造が維持される条件で前記結晶構造周りの前記ポリマーを架橋させ;及び前記架橋ポリマー内の前記結晶を溶解して前記多孔性ヒドロゲルを形成する、ことを含む。
【0003】
米国特許出願公開第20100209509号明細書にはヒドロゲルが開示され、これはポリマーマトリックスが変性されて、前記ポリマーマトリックスへ共有結合する2官能性のポリ(アルキレングリコール)分子を含む。前記ヒドロゲルは、例えばグルタルアルデヒドを用いて架橋され得る。前記ヒドロゲルはまた、光重合性アクリレートの相互貫入ネットワークにより架橋され得る。前記ヒドロゲルはまた、薬学的活性成分を前記ポリ(アルキレングリコール)分子に共有結合させるか前記ヒドロゲル内に取り込まれるように変性され得る。生体細胞はまた、前記ヒドロゲル内に取り込まれ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/108760号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第20100209509号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、非毒性、抗癒着性ヒドロゲルバリアを開示し、これは特定の多孔度を持つ特定の相互貫入された架橋ネットワークを構成することで形成された、非合成、親水性、生分解性、生体適合性多糖類である。本発明はさらに、その製造方法をも開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施態様では、多孔性抗癒着性ヒドロゲルの製造方法を提供し、前記方法は次のステップ:
(i)1以上の非架橋ポリマー及び結晶化可能性分子の水溶性混合物を調製し、
(ii)前記水溶性混合物を、容器、スライド、プレート、組織培養皿又はこれらの組み合わせ及びこれらの変形物にキャストしてキャスト混合物を形成し、
(iii)前記キャスト混合物を乾燥してアモルファスヒドロゲル膜を形成し、
(iv)前記キャスト混合物に前記結晶化可能分子の種結晶を植え、
(v)前記結晶化可能性分子を前記非架橋ポリマー内で結晶構造に成長させ、
(vi)前記キャスト混合物を紫外光に暴露し、前記暴露により前記ポリマーをゲル化又は架橋させ、
(vii)前記架橋ポリマー内で前記結晶構造が維持される条件下で1以上の架橋剤を添加することで前記結晶の周りの非架橋ポリマーを架橋させ、
(viii)前記1以上の前記結晶化可能ポリマーの結晶を水で洗浄することで除去して前記多孔性ヒドロゲルを形成し、及び
(ix)前記多孔性ヒドロゲルから、加圧下で制御された乾燥により水を除去する、ステップを含む。前記方法は、1つの側面では、場合により、前記乾燥ヒドロゲルを前記非架橋ポリマーと1以上の結合の形成を促進する試剤又は化学物質を含む水溶液に浸漬させることで表面をコーティングし、表面又はその組み合わせ物を変性するステップを含む。別の側面では、前記1以上の結合が、エステル結合、アミド結合、カルボキシレート結合、カルボニル結合、エーテル結合、イミド結合及びこれらの組み合わせ又はそれらの変性を含む。
【0007】
本発明の方法の他の側面では、前記ポリマーが、核酸、アミノ酸、糖類、脂質及びこれらの組み合わせを含み、これらはモノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー、マルチマー又はポリマー状を含むものであってよい。他の側面では、前記ポリマーは、コラーゲン、キトサン、ゼラチン、ペクチン、アルギネート、ヒアルロン酸、ヘパリン及びこれらの混合物からなる群から選択される。具体的な側面において、前記ポリマーは、生分解性、生体適合性及び親水性である非合成生体高分子を含む。他の側面では、前記ポリマーは、化学的架橋、物理的架橋又はこれらの組み合わせでゲル化され得るものであり;前記架橋はUV方法、温度方法、pH方法、イオン又はイオンラジカルに基づく方法又はこれらの組み合わせである。1つの実施態様では、前記水溶性混合物はアルギネート及びヒアルロン酸を含む。他の側面では、前記結晶可能性分子は、塩、尿素、ベータシクロデキストリン、グリシン及びグアニジンから選択される小分子を含む。具体的な側面では前記結晶可能性分子は尿素を含む。
【0008】
1つの側面では、前記架橋剤は、塩化カルシウム、p−アジドベンゾイルヒドラジド、N−5−アジド−2−ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド、ジスクシンイミジルグルタメート、ジメチルピメリミデート−(2)HCl、ジメチルスベリイミデート−2HCl、ジスクシンイミジルスベレート、ビス[スルホスクシンイミジルスベレート]、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド−HCl、イソシアネート、アルデヒド、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド及びそれらの誘導体からなる群から選択される。他の側面では、本方法は、場合により、医薬、成長因子、ホルモン、タンパク質又はこれらの組み合わせを、前記多孔性ヒドロゲルの1以上のポア又は前記マトリクス内に包埋するステップを含む。
【0009】
他の実施態様では、本発明は、方向付けされたネットワーク化された多孔性抗癒着性ヒドロゲルを開示し、これは次のステップ:
(i)1以上の非架橋ポリマーと結晶化可能性分子の水溶性混合物を調製し、
(ii)前記水溶性混合物を、容器、スライド、プレート、組織培養皿又はこれらの組み合わせ又は変性物にキャストしてキャスト混合物を形成し、
(iii)前記キャスト混合物を乾燥してアモルファスヒドロゲル膜を形成し、
(iv)前記キャスト混合物に前記結晶化可能性分子の種結晶を植え、
(v)前記結晶化可能性分子を、前記非架橋ポリマー内で結晶構造に成長させるステップを含み、前記結晶構造がネットワーク、分岐及び多孔性であり、
(vi)前記キャスト混合物を紫外光に暴露するステップを含み、前記暴露の結果前記ポリマーのゲル化又は架橋が生じ、
(vii)前記架橋されたポリマー内で前記結晶構造が維持される条件下で、1以上の架橋剤を添加することで前記結晶構造の周りに非架橋ポリマーを架橋させ、
(viii)前記結晶化可能性ポリマーの1以上の結晶を水を用いて洗浄して除去して前記多孔性ヒドロゲルを形成させ、
(ix)前記多孔性ヒドロゲルから、圧力下制御された乾燥により水を除去するステップを含む。
【0010】
前記開示された方法は場合により前記乾燥ヒドロゲルを前記非架橋ポリマーと1以上の結合の形成を促進する試剤又は化学物質を含む水溶液に浸漬させることで表面をコーティングし、表面又はその組み合わせ物を変性するステップを含む。1つの側面では、前記1以上の結合が、エステル結合、アミド結合、カルボキシレート結合、カルボニル結合、エーテル結合、イミド結合及びこれらの組み合わせ又はそれらの変性を含む。他の側面では、前記ポリマーが、核酸、アミノ酸、糖類、脂質及びこれらの組み合わせを含み、これらはモノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー、マルチマー又はポリマー状であってよい。他の側面では、前記ポリマーは、コラーゲン、キトサン、ゼラチン、ペクチン、アルギネート、ヒアルロン酸、ヘパリン及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0011】
関連する側面では、前記ポリマーは、生分解性、生体適合性及び親水性である非合成生体高分子を含む。前記記載の方法において、前記ポリマーは、化学的架橋、物理的架橋又はこれらの組み合わせでゲル化され得るものであり;前記架橋はUV方法、温度方法、pH方法、イオン又はイオンラジカルに基づく方法又はこれらの組み合わせである。1つの側面では、前記水溶性混合物はアルギネート及びヒアルロン酸を含む。他の側面では、前記結晶可能性分子は、塩、尿素、ベータシクロデキストリン、グリシン及びグアニジンから選択される小分子を含む。具体的な側面では前記結晶可能性分子は尿素を含む。1つの具体的な側面では、前記架橋剤は、塩化カルシウム、p−アジドベンゾイルヒドラジド、N−5−アジド−2−ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド、ジスクシンイミジルグルタメート、ジメチルピメリミデート−(2)HCl、ジメチルスベリイミデート−2HCl、ジスクシンイミジルスベレート、ビス[スルホスクシンイミジルスベレート]、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド−HCl、イソシアネート、アルデヒド、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド及びそれらの誘導体からなる群から選択される。他の側面では、本方法は、場合により、医薬、成長因子、ホルモン、タンパク質又はこれらの組み合わせを、前記多孔性ヒドロゲルの1以上のポア又は前記マトリクス内に包埋するステップを含む。他の側面では、前記ヒドロゲルは、外科手術に続く組織癒着を防止し、傷の治癒を促進し、治癒を補助するために薬物又は成長因子を輸送し、血液、血液タンパク質、線維芽細胞の浸潤を防止し及び前記外科手術位置からの炎症応答を阻害又は予防し、かつ非毒性である。
【0012】
他の実施態様で、本発明は、患者の外科手術の間又はその後組織が癒着することを防止するための方法に関し、次のステップ:外科手術の間又はその後組織が癒着することを防止する必要がある前記患者を特定し、及び抗癒着性組成物の注入可能な溶液を前記手術の先立ち、その間又はその後に、投与するステップを含み、前記組成物が、非毒性、非免疫原性多孔性ヒドロゲル、膜、バリア又はこれらの組み合わせ又は変性物を含み、前記組成物の製造が次のステップ:
(a)1以上の非架橋ポリマーと結晶化可能分子の水溶性混合物を調製するステップ、
(b)前記水溶性混合物を、容器、スライド、プレート、組織培養皿又はそれらの組み合わせ又はそれらの変性物上にキャストしてキャスト混合物を形成するステップ、
(c)前記キャスト混合物を乾燥してアモルファスヒドロゲル膜を形成するステップ、
(d)前記結晶化可能分子の種結晶を前記キャスト混合物に植えるステップ、
(e)前記結晶化可能分子を前記非架橋ポリマー内で結晶構造に成長させるステップ、
(f)前記キャスト混合物をUV光に暴露させるステップを含み、前記暴露の結果前記ポリマーをゲル化又は架橋させ、
(g)前記架橋されたポリマー内の前記結晶構造が維持される条件下で1以上の架橋剤を添加することで前記結晶構造周りの前記非架橋ポリマーを架橋させるステップ、
(h)前記結晶化可能ポリマーの1以上の結晶を水で洗浄して除去して前記多孔性ヒドロゲルを形成するステップ、及び
(i)前記多孔性ヒドロゲルから、圧力下制御された乾燥により水を除去するステップ、を含む。
【0013】
1つの側面で、前記多孔性ヒドロゲルの製造方法は、場合により次のステップ、前記乾燥ヒドロゲルを、前記非架橋ポリマー及び1以上の結合を形成することを促進するための1以上の試剤又は化学物質を含む水溶液中に浸漬することにより、表面コーティングするステップ、及び表面変性ステップ又はこれらの組み合わせるステップ、及び薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質又はこれらの組み合わせから選択される1以上の試剤を、前記多孔性ヒドロゲルの前記1以上のポア又はマトリクス内に包埋するステップを含み、そこで前記ヒドロゲルは前記1以上の試剤の調節可能な又は制御された徐放性を提供する。本発明の具体的な側面では、前記1以上の試剤はイブプロフェン又はトラネキサム酸を含む。1つの側面では、前記組成物は、傷の治癒を促進し、治癒を補助するために薬物又は成長因子を輸送し、血液、血液タンパク質、線維芽細胞の浸潤及び前記外科手術位置からの炎症応答を阻害又は予防する。他の側面では前記ポリマーは、非合成生分解性、生体適合性及び親水性である。具体的な側面では、前記水溶性混合物はアルギネート及びヒアルロン酸を含む。他の側面では、前記結晶可能性分子は、塩、尿素、ベータシクロデキストリン、グリシン及びグアニジンから選択される小分子を含む。他の側面では前記結晶可能性分子は尿素を含む。
【0014】
本発明はさらに、患者の外科手術の間又はその後組織が癒着することを防止するための組成物を開示し、抗癒着性組成物の注入可能な溶液を含み、前記組成物は、非毒性、非免疫原性多孔性ヒドロゲル、膜、バリア又はこれらの組み合わせ又は変性物を含む。本発明の前記組成物は以下のステップを含む方法により製造され、前記方法は:
(i)1以上の非架橋ポリマーと結晶化可能分子の水溶性混合物を調製するステップ、
(ii)前記水溶性混合物を、容器、スライド、プレート、組織培養皿又はそれらの組み合わせ又はそれらの変性物上にキャストしてキャスト混合物を形成するステップ、
(iii)前記キャスト混合物を乾燥してアモルファスヒドロゲル膜を形成するステップ、
(iv)前記結晶化可能分子の種結晶を前記キャスト混合物に植えるステップ、
(v)前記結晶化可能分子を前記非架橋ポリマー内で結晶構造に成長させるステップ、
(vi)前記キャスト混合物をUV光に暴露させるステップを含み、前記暴露の結果前記ポリマーをゲル化又は架橋させ、
(vii)前記架橋されたポリマー内の前記結晶構造が維持される条件下で1以上の架橋剤を添加することで前記結晶構造周りの前記非架橋ポリマーを架橋させるステップ、
(viii)前記結晶化可能ポリマーの1以上の結晶を水で洗浄して除去して前記多孔性ヒドロゲルを形成するステップ、及び
(ix)前記多孔性ヒドロゲルから、圧力下制御された乾燥により水を除去するステップ、を含む。1つの側面で前記組成物は、前記外科手術に先立ち、その間又はその後に投与される。
【0015】
1つの実施態様で本発明は、方向付けされたネットワーク化された抗癒着性ヒドロゲルの製造方法を開示し、前記方法は次のステップ:
(i)ヒアルロン酸、アルギニン酸及び尿素を含む水溶液を調製し、
(ii)前記水溶性混合物を、容器、スライド、プレート、組織培養皿又はこれらの組み合わせ又は変性物にキャストしてキャスト混合物を形成し、
(iii)前記キャスト混合物を乾燥してアモルファスヒドロゲル膜を形成し、
(iv)前記キャスト混合物に以上の尿素結晶を植え、
(v)前記尿素を前記非架橋アルギネート内で結晶構造に成長させ、
(vi)前記キャスト混合物を紫外光に暴露するステップを含み、前記暴露の結果前記アルギネートのゲル化又は架橋が生じ、
(vii)前記1以上の尿素結晶を水を用いて洗浄して除去して前記多孔性ヒドロゲルを形成させ、
(viii)前記多孔性ヒドロゲルから、圧力下制御された乾燥により水を除去するステップを含む。
【0016】
前記方法は場合により次のステップ:前記ヒドロゲルを、前記乾燥ヒドロゲルを、EDC/NHSの存在下でヒアルロン酸の水溶液に浸漬して表面変性するステップ及び前記尿素結晶構造の周りの非架橋アルギネートを、前記架橋されたアルギネート内の前記尿素結晶構造が維持される条件下で塩化カルシウムを添加することで、架橋させるステップを含む。1つの側面で、前記方法は場合により、医薬、成長因子、ホルモン、タンパク質又はこれらの組み合わせから選択される1以上の試剤を、前記ヒドロゲルの1以上のポア又はマトリクス内に包埋するステップを含む。他の側面では、前記ヒドロゲルは、外科手術に続いて組織癒着を防止し、治癒を促進し、治癒を補助するために医薬又は成長因子を輸送し、血液、血液タンパク質、線維芽細胞の浸潤を防止し、及び前記外科手術の炎症応答を防止する。
【0017】
本発明の他の側面は、生体機能化HA−系二重層膜の製造の方法に関し、前記方法は:第1の層及び第2の層を準備するステップを含み、前記第1の層及び前記第2の層が、次のステップ:
(i)ヒアルロン酸、アルギニン酸及び尿素を含む水溶性混合物を調製するステップ、
(ii)前記水溶性混合物を、容器、スライド、プレート、組織培養皿又はこれらの組み合わせ、又はこれらの変性物上にキャストしてキャスト混合物を形成するステップ、
(iii)前記キャスト混合物を乾燥させてアモルファスヒドロゲル膜を形成するステップ、
(iv)前記キャスト混合物に1以上の尿素結晶を植えるステップ、
(v)前記尿素を前記非架橋アルギネート内で結晶構造に成長させるステップ、
(vi)前記キャスト混合物をUV光に暴露するステップを含み、前記暴露の結果前記アルギネートをゲル化又は架橋させ、
(vii)前記1以上の尿素結晶を水で洗浄することで除去して前記多孔性ヒドロゲルを形成するステップ、及び
(viii)前記多孔性ヒドロゲルから圧力下で制御された乾燥により水を除去し、かつ前記第1の層と前記第2の層を融合させて、前記二重生体機能化HAー系膜を形成するステップを含む方法で製造される。1つの側面では、前記第1の層は、方向づけられたネットワーク化された多孔性抗癒着性ヒドロゲルである。他の側面では、前記第2の層は、方向づけられたネットワーク化された多孔性抗癒着性ヒドロゲルであり、前記第2の層細胞癒着又は細胞浸潤を促進する。他の側面では、前記方法は場合により、前記第2の層上に共有結合で固定化された、ペプチド、タンパク質、成長ホルモン又は成長因子を含む。他の側面では、前記ペプチドは、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(GD)ペプチドである。他の側面では、前記二重生体機能化HA−系膜は、ナーブラップ、硬膜交換、皮膚移植として使用され、骨折包帯中で骨の成長、慢性創傷の治癒を促進し、及び心臓や肺組織にパッチされて組織修復を促進させる。
【0018】
他の実施態様では、本発明は、ナーブラップ、硬膜交換、皮膚移植として使用され、骨折包帯中で骨の成長、慢性創傷の治癒を促進し、及び心臓や肺組織にパッチされて組織修復を促進させるための組成物又はその組み合わせが開示され、前記組成は、二重生体機能化HA−系膜を含み、前記膜は以下のステップを含む方法:第1の層及び第2の層を準備するステップを含み、前記第1の層及び前記第2の層が、次のステップ:ヒアルロン酸、アルギニン酸及び尿素を含む水溶性混合物を調製するステップ、前記水溶性混合物を、容器、スライド、プレート、組織培養皿又はこれらの組み合わせ、又はこれらの変性物上にキャストしてキャスト混合物を形成するステップ、前記キャスト混合物を乾燥させてアモルファスヒドロゲル膜を形成するステップ、前記キャスト混合物に1以上の尿素結晶を植えるステップ、前記尿素を前記非架橋アルギネート内で結晶構造に成長させるステップ、前記キャスト混合物をUV光に暴露するステップを含み、前記暴露の結果前記アルギネートをゲル化又は架橋させ、前記1以上の尿素結晶を水で洗浄することで除去して前記多孔性ヒドロゲルを形成するステップ、及び前記多孔性ヒドロゲルから圧力下で制御された乾燥により水を除去し、かつ前記第1の層と前記第2の層を融合させて、前記二重生体機能化HAー系膜を形成するステップを含む方法で製造される。1つの側面で、前記組成物は、外科手術手順に先立ち、その間又その後に注入、挿入又配置されることで投与されるか、又は影響を受ける領域に直接適用される。
【0019】
本発明の前記構成及び利点をより完全に理解するために、以下詳細な説明が添付の図面と共に参照される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の結晶テンプレート化バイオポリマーヒドロゲルの製造方法を模式的に示す。
図2図2Aから2Dはテンプレート化アルギネート膜の表面変性を示す。図2Aは、FITC/ニュートラバジン(Neutravadin)でラベル化された表面に架橋された蛍光ビオチン化HAを示す。架橋されていない場合には、ビオチン化HAは洗浄除去される(4x)。図2B図2Aについてのガラススライドである。図2Cは、ポアで満たされている前記表面変性膜の断面表面のSEMを示し、スケールバーは2μmを示す。図2Dは、テンプレート化膜で、表面変性されてない断面表面のSEMであり、ポアで満たされてないことを示し、スケールバーは1μmを示す。
図3図3Aはから3Cは、尿素結晶化パターンでパターン化されたアルギネート/HA膜を示し:図3Aは、引っ張った場合を示し、図3Bはしわや絞りをした場合、及び図3Cでは、破れもなく元の形状に戻り完全性を維持していることを示す。
図4図4A及び4Bは、ASTMD638引張試験を示し:図4Aは尿素パターン化アルギネート/HA膜を、及び図4Bはパターン化されていないアルギネート/HA膜を示す。
図5図5A及び5Bは、尿素テンプレート化膜の例を示し:図5Aは4%尿素で直線パターン化された縦横5インチ膜を示し、図5Bは6%尿素で放射状パターン化された縦横3インチ膜を示す。
図6図6は、尿素結晶濃度を増加させる場合の、アルギネート膜のASTMD638引張試験を示す。
図7図7は、HA濃度を増加させる場合の、アルギネート膜のASTMD638引張試験を示す。
図8図8A及び8Bは、37℃で実施された湿潤サンプル分解試験の結果を示すプロットであり:図8AはPBS中、又は図8Bはヒアーゼ(hyase)50IU/mL中での結果を示す。
図9図9Aから9Eは、人線維芽細胞(P=3)の:図9AはPLL膜上、図9Bはアルギネート膜上、図9Cはアルギネート/変性HA膜上、又は図9DはHA表面が変性されたアルギネート/変性HA膜上での培養結果を示し、図9Eは、図9Aから9Dで記載された異なる基材上への癒着%をプロットした結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の種々の実施態様の製造及び使用が以下詳細に説明されるが、理解されるべきことは、本発明は、広い範囲の具体的な内容で実施され得る多くの発明概念を提供するものである、ということである。ここで議論される具体的実施態様は、本発明の製造及び使用を説明するためだけのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0022】
本発明の理解を容易にするために、以下いくつかの用語が定義される。ここで定義される用語は本発明の関連する当業者により通常理解される意味を持つ。「ひとつの」、「前記」などの用語は、単数の物のみを意味するものではなく、具体的な例が説明のために使用され得る一般的なクラスを意味する。ここで前記用語は、本発明の具体的な実施態様を説明するために使用されるが、これらの使用は特許請求の範囲に記載されるもの以外は本発明を制限するものではない。
【0023】
本発明は、非毒性、抗癒着性ヒドロゲルバリアであり、特に非合成、親水性、生分解性、生体適合性多糖類からなるバリアであり、これは特定の多孔性を持つ特定の相互貫入架橋化ネットワークを構成することで形成されるものである。ここで記載されるヒドロゲルバリアは、膜、バルクスポンジ又は不織布タイプの抗癒着性システムの問題を解消するものであり、これらは組織や器官への癒着性、物理的強度、インビボ再配置柔軟性、取り扱いの容易性(即ち、曲げ、折りたたみ、切断、巻き取り、操作など)及び好適な劣化(分解)タイミングなどが含まれる。
【0024】
本発明のバリアの高度に親水性、非合成性質は、選択的に、線維芽細胞の外科的ミクロ環境への浸潤を防止し、かつ前記バリアのその局所的抗癒着性のために創傷治癒を妨害することがない。本発明のバリアは、折りたたまれたり巻き取られても引き裂かれず、破損されず又は自ら接着せず、かつ種々の操作にそれを使用する外科手術道具を用いる場合に容易に取り扱える。
【0025】
本発明の独自の構成は:(i)前記バリアは、制御可能な機械的丈夫さと分解性のための調節可能なバイオポリマーからなり、(ii)バリアは非合成成分を用いて望ましくない癒着性を低減し、及び(iii)バリアは、独自の制御可能な階層的多孔性を持ち、ここに種々の材料で充填され得るものであり、これはまた小分子(薬物、成長因子)が負荷され得るものであり、これによりさらに望ましくない応答を防止して健康な創傷治癒を促進する。いかなる他の技術もこれら構成を組み合わせるものではない。
【0026】
ここで記載されるバリアにより提供される特有の利点は、(i)取り扱い性の改善、例えば前記バリアは容易に折りたたみ、切断、縫合、生物学的に関連する条件での扱いなどの改善、(ii)治癒期間を通じて所望の領域での維持性、(iii)インビボでの再配置の柔軟性及び(iv)材料、小分子又は成長因子の調節可能な放出プロフィルを示す、ことである。
【0027】
文献記載の方法はいずれのここで示される方法とは異なる。現在の抗癒着性技術は以下説明される。米国特許第6、599、526号明細書には、手術中に癒着を防止するためのコラーゲン材料及び非生体細胞成分を含む抗癒着性パッチが記載されている。米国特許第6、566、345号明細書には、液体、ゲル又はフォーム形状の抗癒着性組成物であって、カルボキシル含有多糖類、ポリエーテル、ポリ酸、ポリアルキレンオキシドなどの多糖類及び合成ポリマーの高分子間複合体を開示している。韓国特許出願公開第2003−0055102号明細書には、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びジェランゴムを含む炎症及び創傷治癒のための抗癒着性バリアが開示されている。しかし前記ゲル、液体、フォームなどの形の抗癒着性バリアが正確に前記創傷位置に固定されず、これらは重力で下に動き、従って創傷治療及び癒着性低減には効果が小さい。
【0028】
欧州特許第092、733号明細書は、膜、ゲル、繊維、不織布、スポンジなどの形状の抗癒着性バリアであって、カルボキシメチルセルロース(CMC)とポリエチレンオキシド(PEO)との架橋から製造されるものが開示される。しかし、カルボキシメチルセルロースは生体起源材料に比べて生体適合性が劣る。ポリエチレンオキシドやその他の合成ポリマーは生体適合性ではなく、代謝され得る低分子量を持つ材料のみが使用され得る。しかし、低分子量材料は迅速に吸収され、抗癒着性効果は十分に維持されえない。
【0029】
米国特許第6、133、325号明細書は、膜タイプの抗癒着性組成物であって、多糖類とポリエーテルとの高分子間複合体から製造されるものを開示する。韓国特許出願公開第2002−0027747号明細書は、p−ジオキサノンとLラクチドとのブロックコポリマーとポリエチレングリコール(PEG)との交互共重合から得られる水溶性ポリマーゲルが、抗癒着性バリア、医薬キャリア、組織癒着剤、歯槽膜として使用され得るものを開示する。しかし、このゲルタイプの抗癒着性バリアはまた、常に動いている腹部内部の器官や組織などの創傷位置へ正確に固定することが難しい。米国特許第 6、630、167号明細書は、架橋されたヒアルロン酸から製造される抗癒着性バリアを開示する。ヒアルロン酸は、動物及び人の組織で見られる多糖類であり、非常に生体適合性がある。しかし、未変性形ではヒアルロン酸は迅速に分解されその半減期は1から3日程度である。具体的なクレームによりこの方法は、10から80重量%の架橋剤の使用であって、現在の技術で使用される1%よりは非常に多い。架橋剤は高濃度では毒性であり、大量の架橋剤を除去することが難しい。
【0030】
米国特許第6、693、089号明細書は、アルギネート溶液を用いる癒着性低減方法を開示し、韓国特許出願公開第2002−0032351号明細書は、半IPM(半相互貫入ネットワーク)タイプの抗癒着性バリアを開示し、これは水溶性アルギン酸及びCMCを用いるものであり、アルギネートは選択的にカルシウムイオンと結合されている。しかし、これらの特許は、カルシウムでイオン的に架橋されたアルギネートを含み、迅速に分解されると、大量のカルシウムイオン周りに組織に放出し、さらに損傷組織を凝集させる。また非生体材料を使用するという問題もある。
【0031】
酢酸セルロースをシロキサンで処理する技術も刊行されている。しかし、セルロースはpHに敏感であり、処理することが難しい。また、セルロースは天然ポリマーであり、セルロースは人の体の構成成分ではなく、異物反応を起こす可能性がある。さらに、それらの構造を例えば酸化による構造変化作用があり、身体内で加水分解され得る。
【0032】
現在市販されている抗癒着性バリアは、膜、スポンジ、布、ゲル、溶液などの形状である。一般的に、膜やスポンジ形状は、溶液やゲルタイプに比較して特定の位置に容易に固定することができる。Johnson&JohnsonからのINTE CEED(TM)は、最初に市販された抗癒着性バリアである。ORCから製造される布タイプの製品であり、非常に不規則な器官や組織にしっかりと接着する。しかし既に記載したように、ORCは非生体材料であり、低い生体適合性を持つ。また、非常に大きいポアサイズのために、細胞又はタンパク質が容易に前記バリアに浸透し、抗癒着性バリアが取り扱い中に外部力で変形され易い。Seprafilmは、Genzyme Biosurgeryによる、HAから製造される膜形状の抗癒着性バリアである。
Seprafilmは、水に接触するとロール状になる傾向があり、乾燥Seprafilmは脆い。従って、濡れた手は避けるべきであり、手術場所の湿度を最小としなければならず、これは非常に難しい。
【0033】
MacroPore Biosurgery Inc.からのHYD OSORB SHIELD(R)は、特定の脊椎への応用で使用され、又はMast Biosurgery、米国からのSURGI−WRAP(TM)は開腹手術の後に使用され、透明膜タイプの抗癒着性バリアであり、ポリ(L−ラクチド−共重合−D、L−ラクチド)(PLA、70:30)の生分解性ポリマーから製造される。少なくとも4週間の長い生分解期間及び優れた機会強度を持ち、取り扱い容易な製品として知られている。PLA又はポリ(グリコール酸)(PGA)から製造される膜は、一方側に容易に巻き込まれ得るが、器官や組織の3次元的で、非常に規則な表面へは十分な接着性を示さない。また、これらの材料は疎水性であり、水分を十分に吸収せず、従って、器官や組織の湿潤な表面には十分な接着性を示さない。また、身体内で加水分解されると、これらの材料は酸性分解物を放出し、これはさらに炎症や癒着を起こすこととなる。Integra LifeSciencesからのDURAGEN(R)及びDURAGEN PLUS(R)は、スポンジタイプの抗癒着性バリアであり、動物由来のコラーゲンから製造され、外科手術及び神経手術のために開発された。コラーゲンスポンジは水分を吸着することから、これは器官表面へ容易に接着する。しかし、これらのバリアは比較的物理的強度は小さく、というのは過度の水分吸収により取り扱うには重すぎる傾向を持つ。
【0034】
一般的に、抗癒着性バリアは次の要求を満たす必要がある:
(i)細胞や血液の浸潤や付着はポアサイズの正確な制御により、又は血液や細胞への非癒着性材料を使用することで防止されるべきであること、
(ii)抗癒着性バリアは、特定の期間望ましい位置に配置させることができること、
(iii)異物反応は癒着の原因となる炎症を低減させるために最小限とするべきであること、
(iv)生分解性期間は制御され、前記バリア容量が必要な期間維持され得るべきこと、
(v)抗癒着性バリアは柔軟であり、優れた機械強度を持ち、これには引張強度及び湿潤強度を含み、手術の際に取り扱いが容易である、かつ
(vi)必要な期間に変形がないこと、というのは創傷は正確に被覆されるべきであるからである。
【0035】
手術後の癒着は、離れているべき組織を繋ぐ。癒着は障害性自己自然免疫応答から生じる。手術癒着は、癒着防止の技術が充分でないことから回復期間を長引かせる。手術後の癒着は、80%の慢性の痛みを伴い、動き、器官不全さらには死亡の原因でさえなり得る。これに伴う医療費用は年間34.5億ドルを超える。癒着を防止する現在の方法は、よりよい手術実施(例えば、無粉末手袋、腹腔鏡手術、及び乾燥軽減など)、生体適合性バリア装置(例えば、ポリマー溶液、インシチュ架橋可能ヒドロゲル、形成済み膜など)、医薬治療剤、例えばステロイド抗炎症剤(デキサメタゾン;プロゲステロン;ヒドロコルチゾン;プレドニソン)、非ステロイド抗炎症剤(イブプロフェン;フルルビプロフェン;インドメタシン;トルメチン;ニメスリド)、炎症性サイトカイン阻害剤(形質転換成長因子(TG)−b1への抗体)、抗ヒスタミン(ジフェニルヒドラミン;プロメタジン)、遊離ラジカル捕捉剤(メラトニン;ビタミンE;スーパーオキシドディスミュターゼ)、抗凝集剤(ヘパリン)、タンパク質分解剤(組織タイププラスミノーゲン活性因子;ストレプトキナーゼ;ウロキナーゼ;ペプシン;トリプシン;ニューロキニン1レセプター拮抗剤)及び抗増殖剤(ミトマイシン)などの薬剤の使用を含む。
【0036】
市販されている最も効果的な抗癒着性バリアの効果は、わずか50%の癒着形成低減効果である。多くの製品は、顕著な取扱い容易性と低製造コストから、合成材料に基づくものである。しかし、これらの合成材料は、血液や血液タンパク質の存在で効果が劣る。本発明はここで、前記の問題点に対応して、手術での取扱いのための丈夫な機械的強度を維持しつつ、望ましくない炎症応答の浸潤を防止する効果的な方法を提供する。本発明は天然材料で構成されることから、さらに凝集のリスクも低減され、一方で血液及び血液タンパク質は癒着しない。天然材料から製造される市販されているバリアはまた、あまりに迅速に生分解され癒着形成させてしまう。本発明の技術は、調節可能な分解速度を持ち、バリアが治癒器官維持されることとなる。
【0037】
現在市販されている最も効果の高い製品は、取り扱いの性質は十分ではない。これらは乾燥状態では脆く、湿潤状態では適用されない。OR環境で、適切な解決は、湿潤状態で機械的完全性を維持することができ得るものである。本発明は、湿潤状態でインビボでの再配置性及び縫合可能性を含む優れた取り扱い性を提供する。
【0038】
本発明は、治癒組織と周りに組織の間の境界に配置される複合体である、二重機能材料を記載する。本発明は抗癒着性生体材料バリアを改善し、創傷治癒を促進し、炎症応答を緩和するものである。本発明者は、抗癒着性HA系材料を開発し特徴付けた(生体適合性、非免疫原性、非細胞癒着性であり、タンパク質吸収を防止し、機械的に安定であり、費用効果が高く、臨床サイズであり、かつ適切な生分解速度を持つ)。加えて、本発明者は、二重層二重機能性HA−系膜を開発し、この膜は生体適合性、生体吸収性、非免疫原性、二重機能性、再生可能、抗癒着性、機械的安定、高い費用効果及び臨床サイズである。最後に本発明者は、抗癒着性膜の注入可能な溶液を開発し、これは、生体適合性、癒着を効果的に低減させ、イブプロフェン又はトラネキサム酸を包埋し、かつその放出速度を調節可能である。
【0039】
ヒドロゲルは一般には、水に不溶性であるが水吸収性であるポリマー鎖ネットワークである。しばしば「超吸収」として説明されるヒドロゲルは99%まで水を保持し、天然又は合成ポリマーから製造され得る。しばしば、ヒドロゲルはその高い水含有量のため、高い柔軟性をもち得る。ヒドロゲルの共通の使用には:維持医薬放出、バイオセンサー及び電極での足場(例えば組織工学での)、増粘剤として、組織移植応用のための生体適合性ポリマーとしての使用が含まれる。天然ヒドロゲルは、アガロース、メチルセルロース、ヒアルロン酸(HA)及びその他の天然由来ポリマーから製造され得る。
【0040】
HAは、D−グルクロン酸ナトリウム及びN−アセチル−D−グルコサミンからなる二糖類の繰り返しを持つ直鎖多糖類である。この天然由来グリコースアミノグリカンは、皮膚、滑液及び皮下及び間質組織の成分である。HAは代謝系により身体から除去され、細胞を保護及び潤滑し、組織に構造的完全性を維持する役割を演じる。アニオン性カルボン酸基は水分子を固定化して、HAに粘弾性及び抗癒着性を付与する。HAは、手術後癒着を防止するために設計される種々の材料で使用されてきた。HAは希釈溶液、架橋ヒドロゲル又はCMCとの組み合わせでシートとして使用されてきた。HAは生体適合性、生体吸収性/非免疫原性(非−動物)、高い細胞非癒着性、ポリアニオン性、親水性、抗繊維化(1%HMV HA)、血管新生促進性であり、動物及び人での癒着形成を低減することが示されている。HAは臨床的に癒着を低減するために使用され:市場で抗癒着性バリアとして最も効果的で広く使用されている製品はSEPRAFILM(R)である。
【0041】
アルギニン酸は生体適合性、生分解性/非免疫原性(非動物)(Skjak−Braek、1992)、高い細胞非癒着性、ポリアニオン性、親水性、高い費用効果、豊富な資源(ワカメ)、イオン的に架橋された形で取り扱い/縫合のための機械的安定性を示し、動物モデルでは癒着防止に非常に効果的であることが示されている。機械的性質を統計的に変化させるアルギネートの寄与は:(i)等級(グレード、純度)、(ii)グツクロネートとマンヌロネートとの比率(高いM比率は、池培養、主に葉、高G比率は深海採取、主に軸)及び(iii)分子量/粘度である。しかし高純度アルギネートは非常に高価(約100ドル/g)であり、低級(安価)アルギネートは、分子量又はG:M比率についても試験されてなく、かつ精製工程が標準化されたものではない。
【0042】
アルギネート及びHAの結晶テンプレート化ヒドロゲルは、HAの光架橋化可能誘導体、アルギネートの光架橋化可能誘導体の光開始剤(PI)と尿素とを含む溶液の液滴をキャストすることで形成された(図1)。溶媒を蒸発させ、尿素種結晶を前記液滴に接触させて尿素結晶化の核化をさせる。結晶化の後、アルギネートとHAをUV暴露により光架橋させる。アルギネートはさらに、イオン的に架橋させることができ、水で洗浄して尿素を除去して、前記尿素結晶のパターンでテンプレート化されたアルギネート/HAヒドロゲル残る。ヒドロゲルはその後さらに脱水されて、架橋剤(エタノール/脱イオン水混合物中の水溶性カルボジイミドなど)により表面変性される。
【0043】
本発明において記載されるアルギネート/HA膜の製造方法は、5ステップを含み:膜キャスト、溶媒揮発、結晶成長、架橋及び洗浄である。第1のステップでは、シリンジフィルタがアルギネート/GMHA/尿素を含む溶液をプレート上に導入する。前記溶液を次に、25℃、相対湿度79%で膜としてキャストされる。溶媒蒸発は、結晶化のための過飽和を達成させるために必要である。蒸発はまた、前記バイオポリマーの濃度及び粘性を大きく増加させる。高粘度と水素結合の組み合わせは、自発的な尿素結晶化を防止し、過飽和を容易にする。尿素種結晶は、微小ピンセットの先端で摘みとって添加し、その後UVA(500mW/cm)に暴露する。結晶成長は直ぐに始まり、長い樹状分岐状結晶を与え、これは膜の中心から端部へ広がっていく。数秒後、ヒドロゲルの全容積が尿素結晶で満たされる。これらの結晶が尿素結晶テンプレートを含む。前記膜は場合により、さらに1以上の架橋剤(例えばCaClなどのイオン性架橋溶液を前記膜に添加してアルギネートを架橋させる)で架橋させ得る。前記尿素結晶は次に二回蒸留水で洗浄されて除去される。得られた膜は、制御された条件で乾燥され、相対湿度50%で水が除去される。前記脱水膜はさらに、種々の技術により1以上のエステル結合又は加水分解されにくい結合を形成するように表面変性の処理がなされる(例えば、エステル結合のための水溶性カルボジイミドを用いてHA溶液中に浸漬させる)
アルギネート膜のみではキレート環境下であまりに迅速に分解される。複数の塩でキレートされたカルシウムイオンは数時間で分解され得る。GMHAを添加することは分解を減少させるが、アルギネートによる機械強度を犠牲にすることはない。アルギネート膜のみでは脆く、僅かな操作で破壊される。尿素を添加することでミクロンサイズのポアを導入することで、柔軟性が与えられることとなる、というのは前記空間が最初に力を受け止めるからである。
【0044】
図2Aから2Dは、テンプレート化されたアルギネート膜の表面変性を示す。図2AはFITC/ニュートラアバジンでラベル化された表面に架橋された蛍光ビオチン化HAを示す。架橋されていない場合、ビオチン化HAは洗浄除去される(4x)。図2B図2Aのガラススライドである。図2Cは、前記表面変性膜の断面のSEMであり、テンプレート化膜のポアで満たされていることを示し、スケールバーは2μmであり、図2Dは、表面変性されていない膜の断面のSEMであり多孔性で満たされていないことを示し、スケールバーは1μmである。図3Aから3Cは、尿素結晶化パターンでパターン化したアルギネート/HA膜の完全性を示す画像であり、引張力(図3A)、揉み及び絞り(時3B)及び破れもなく膜の完全性を損なうこともなく元の形状に戻る(図3C)。
【0045】
図4A及び4Bには、尿素パターン化アルギネート/HA膜及びパターン化されていないアルギネート/HA膜の、ASTMD638引張力試験結果を示す。前記パターン化された膜は、可塑性変形に応じて破壊される前に跳ね返る。非パターン化膜は脆い亀裂を生じて破壊される。アルギネート/HA尿素テンプレート化膜の例は図5Aと5Bに示され、図5Aでは4%の尿素で直線パターン化された、5インチx5インチ膜を示し、図5Bでは6%の尿素で放射線状パターン化された、3インチx3インチ膜を示す。図6は、尿素結晶化の濃度の増加と共に、アルギネート膜のASTMD638引張力試験結果を示す。結晶化パターンが増加すると可塑性が増加する傾向が見られる。図7は、HAの濃度の増加と共に、アルギネート膜のASTMD638引張力試験結果を示す。臨界点までHA濃度が増加すると引張力は低下する傾向が見られるが、ここではHAの濃度が架橋強度を与えることで引張力が改善される。
【0046】
合成されたアルギネート/HA膜の特徴付け:図8A及び8Bは、本発明のアルギネート/HA膜の、37℃でPBS中又はヒアーゼ50IU/mLを含むPBS中での前記湿潤サンプル分解試験の結果を示す。簡単に、前記方法は、アルギネート/HA膜の試験前重量(W)、前記膜を37℃でPBS中に、又はヒアーゼを含むPBS中に入れ、所定の時間で取り出し、重量を測定した(W)。前記手順は、重量測定ができなくなるまで、又は既定の時間が経過するところまで繰り返した。分解速度は次の式を用いて計算した。
重量損失%=100x(W−W)/W
点線は、推定された分解を表す、というのは小さい破片がこの試験期間目視可能であったからである。アルギネート膜のみは前記緩衝液中でキレート剤により分解する。
【0047】
図9は、本発明のアルギネート/HA膜の抗癒着性を評価するために関連するステップを模式的に示す。線維芽細胞培地が、その半分がTCPS皿状に維持され、他の半分が皿上に配置されたアルギネート/HA膜状に維持される。24時間の待ち時間語後、両方の皿をカルセイン/エチジウムで染色して、生細胞、死亡細胞をラベル化した。細胞癒着又は細胞非癒着は、1以上の共通に使用される細胞技術により評価される。
【0048】
細胞癒着性を評価するために、人皮膚線維芽細胞(P=3)がOLL基板上、アルギネート膜、アルギネート/変性HA膜又は本発明のHA表面変性アルギネート/HA膜を持つアルギネート/変性HA膜上に培養した(図9Aから9D)。線維芽細胞培地は半分に分けられ、2つのTCPS更に別々に設けられる。前記試験される膜/基板は前記皿の1つの上部に置かれる。6時間の待ち時間後、両方の皿は、カルセイン/エチジウムで染色されて、生細胞と死細胞をラベル化した。図9Eは、図9Aから9Dで説明される異なる基板上での細胞癒着%のプロットを示す。滲出試験は24時間で染色して、膜からの細胞毒性は示されなかった。
【0049】
ここまで開示されたバリアは既存の技術に比較して非常に有利であり:
(1)前記バリアは取り扱い生が改善され、容易に折りたためる、切断、縫合が可能であり、生体関連条件下で容易に操作できること;
(2)バリアは治癒期間の間望ましい領域に保持されること;
(3)バリアはインビボ再配置の柔軟性が改善されていること;及び
(4)材料、小分子又は成長因子のための調節可能な放出プロフィルを示す特異的な多孔性を持つ、ことである。
【0050】
ここで記載された特異的抗癒着性膜はまた、大きな創傷治療市場において画期的解決手段となるであろう。非癒着生、親水性、なお創傷吸収包帯のための基材として、本発明は、広く、火傷治療、慢性非治癒性創傷及び再生プラスチック手術で広く使用され得るものである。
【0051】
本明細書で説明された全ての実施態様は、本発明の全ての方法、キット、試薬又は組成物を用いて実施され得ること、またこの逆も含まれる。さらに、本発明の組成物は本発明の方法を達成するために使用され得る。
【0052】
理解されるべきことは、ここで記載された具体的な実施態様は例示的であり、本発明の限定するものではないということである。本発明の本質的構成は、本発明の範囲を離れることなく種々の実施態様に適用され得る。当業者は、日常の実験と、ここで記載された種々の具体的な手順と均等物を用いることで理解でき、確認することができる。かかる均等物は本発明の範囲に含まれ、特許請求の範囲に含まれると考えられる。
【0053】
特許請求の範囲及び/又は明細書で用語「含む」と共に使用される「1つの」は「1つ」を意味し、さらに「1以上」及び「1を超えて」を含む意味である。特許請求の範囲で用語「又は」の使用は、特に記載されない限り、「及び/又は」を意味し、どちらかを意味するか、又はどちらかが相互に排他的であることを意味する;但し前記開示は、どちらかのみ、及び「及び/又は」を意味する定義を支持するものである。本明細書を通じて、用語「約」は、ある値が前記装置、前記値を決定するために適用される方法の本質的な変動を含むか、又は前記試験対象内に存在する変動を含む。
【0054】
明細書及び特許請求の範囲で使用される、用語「なる」(及び「なる」を含む全ての形)、「持つ」(及び「持つ」の全ての形)、「含む」(及び「含む」を含む全ての形)は排他的でない開放用語であり、追加の、列記されていない要素や方法ステップを除外するものではない。
【0055】
用語「又はそれらの組み合わせ」とは、ここでは、前記用語で列記された事項の全ての順列及び組み合わせを意味する。例えば「A、B、C又はそれらの組み合わせ」とは、少なくともA、B、C、AB、AC、BC、又はABCの1つ、及び具体的な内容で順序が重要である場合はBA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、又はCABである。この例を続けて、1以上の事項の繰り返しの組み合わせ明示的に含まれ、例えばBB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABB、などである。当業者が理解するべきことは、通常は特に記載されない限り、全ての組み合わせの事項及び事項の数には制限はない、ということである。
【0056】
ここで開示され請求される全ての組成物及び/又は方法は、本発明の開示に照らして過度の実験を行うことなく製造し、実施することができる。本発明の組成物及び方法が好ましい実施態様に基づき説明されたが、当業者が理解するべきことは、種々の変更例・変法例がここで、記載された組成物及び/又は方法について適用され、ここで記載された方法、方法のステップ順序において、本発明の範囲から外れることなく適用され得る、ということである。全ての類似の構成及び変更例は当業者にとっては、特許請求の範囲で定められる本発明の本質及び範囲に含まれる、ことは明らかである。
図1
図2A
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E