(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記化学強化ガラスは、バビネ法により求められる2つの主表面に垂直な仮想断面における応力プロファイルにおいて、引張応力分布が凸形状であり、ただし該凸形状は圧縮応力側へ凹む凹み部を含まない化学強化ガラスである請求項11に記載の磁気記録媒体用ガラス基板。
バビネ法により求められる2つの主表面に垂直な仮想断面における応力プロファイルにおいて、引張応力分布が凸形状であり、ただし該凸形状は圧縮応力側へ凹む凹み部を含まない化学強化ガラスとなるように前記化学強化を行う請求項29または30に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
前記磁気記録層はFeおよび/またはCoと、Ptとの合金を主成分とする磁性材料を含む磁気記録層であり、前記磁気記録媒体はエネルギーアシスト磁気記録用磁気記録媒体である請求項33に記載の磁気記録媒体。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[磁気記録媒体基板用ガラス]
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは、必須成分として、SiO
2、Li
2O、Na
2O、ならびに、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる一種以上のアルカリ土類金属酸化物を含み、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するCaOの含有量のモル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.20以下であり、ガラス転移温度が650℃以上である。
【0022】
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは酸化物ガラスであり、そのガラス組成は酸化物基準で表示するものとする。酸化物基準のガラス組成とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成である。上記ガラスは、結晶化のための熱処理工程が不要なこと、および加工性が優れていることから、非晶性(アモルファス)ガラスであることが好ましい。
【0023】
本発明の磁気記録媒体用ガラスは化学強化に好適である。本発明において、化学強化は低温型化学強化を意味する。
また本発明において、「主表面」とは、ガラス基板またはガラスの表面のうち、最も面積の広い面を意味する。ディスク状ガラス基板の場合、ディスクの円形状の表裏対向する一対の表面(中心穴がある場合は中心穴を除く。)が主表面に相当する。
【0024】
以下、特記しない限り、ガラス成分の含有量、合計含有量はモル%表示とし、ガラス成分の含有量比はモル比にて表示する。
【0025】
SiO
2はガラスのネットワーク形成成分であり、ガラス安定性、化学的耐久性、特に耐酸性を向上させる効果がある。ガラス基板上に磁気記録層等の膜を形成する工程や前記工程により形成した膜を熱処理するため、輻射によって基板を加熱する際、基板の熱拡散を低下させ、加熱効率を高める働きをする成分でもある。本発明の磁気記録媒体基板用ガラスにおいてSiO
2は必須成分であって、SiO
2の導入により上記効果を得る上から、SiO
2の含有量を55%とすることが好ましく、57%以上とすることがより好ましく、60%以上とすることがさらに好ましく、63%以上とすることがより一層好ましい。一方、SiO
2の含有量が過剰になるとSiO
2が完全に熔けずにガラス中に未熔解物が生じたり、清澄時のガラスの粘性が高くなりすぎて泡切れが不十分になる傾向を示すので、SiO
2の含有量は78%以下とすることが好ましく、75%以下とすることがより好ましく、73%以下とすることがさらに好ましく、69%以下とすることがより一層好ましい。
【0026】
Li
2Oは、ガラスの熔融性を改善し、ガラスの均質性を改善する効果、熱膨張係数を大きくする効果があり、化学強化を可能にする必須成分である。また、後述するように、ガラス成分としてNa
2Oと共存することにより、化学強化によって形成される応力分布を緩やかにすることができ、後述する化学強化ガラスの遅れ破壊を防止する効果もある。ただし、Li
2Oの含有量を過剰にすると、ガラス転移温度が低下したり、化学的耐久性が悪化傾向を示すため、Li
2Oの含有量は0%を超えて5%以下とすることが好ましい。Li
2Oの含有量のより好ましい上限は4%、さらに好ましい上限は3.5%、一層好ましい上限は3%である。Li
2Oの含有量の好ましい下限は0.1%、より好ましい下限は0.3%、さらに好ましい下限は0.5%である。
【0027】
Na
2Oは、ガラスの熔融性を改善し、ガラスの均質性を改善する効果、熱膨張係数を大きくする効果があり、化学強化を可能にする必須成分である。ただし、Na
2Oの含有量を過剰にすると、ガラス転移温度が低下したり、化学的耐久性が悪化傾向を示すため、Na
2Oの含有量は2〜15%とすることが好ましい。Na
2Oの含有量のより好ましい上限は14%、さらに好ましい上限は12%、一層好ましい上限は10%であり、Na
2Oの含有量のより好ましい下限は3%、さらに好ましい下限は4%、一層好ましい下限は5%である。
【0028】
Li
2OおよびNa
2Oを含むガラスをナトリウム塩とカリウム塩の混合熔融塩に浸漬して化学強化を行うと、ガラス中のLi
+イオンと熔融塩中のNa
+イオンとがイオン交換し、またガラス中のNa
+イオンと熔融塩中のK
+イオンがイオン交換して、表面近傍に圧縮応力層が、ガラス内部に引張応力層が形成される。
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは、ガラス転移温度が650℃以上と高く、優れた耐熱性を有し、高Ku磁性材料からなる磁気記録層を形成するための磁気記録媒体用基板材料として好適である。磁性材料の高温処理などにおいて、ガラス基板は高温下に晒されることになるが、上記のようにガラス転移温度が高いガラス材料を使用すれば、基板の平坦性が損なわれることがない。耐熱性の高い基板材料を提供するという観点から、本発明においてガラス転移温度の好ましい下限は655℃、より好ましい下限は660℃、さらに好ましい下限は665℃、一層好ましい下限は670℃、より一層好ましい下限は675℃である。ただし、ガラス転移温度を過剰に高めると化学強化処理温度が高くなり、化学強化時に熔融塩の熱分解が起こり、ガラスの表面を侵蝕するため、ガラス転移温度の上限を740℃とすることが好ましい。なお、ガラス転移温度は化学強化の前後でほぼ一定の値となる。
ガラス中におけるアルカリ金属イオンの拡散速度はイオン半径が小さいイオンほど大きいため、熔融塩中のNa
+イオンはガラス表面からより深層にまで達して深い圧縮応力層を形成し、熔融塩中のK
+イオンはNa
+イオンほど深層には達せず、圧縮応力層は表面から浅い部分に形成される。混合塩により化学強化されたガラスの深さ方向の応力分布は、Na
+とLi
+のイオン交換により形成される応力分布とK
+とNa
+のイオン交換により形成される応力分布を合成したものになる。そのため、深さ方向の応力分布は緩やかに変化し、
図1に模式図を示すように、バビネ法により測定される2つの主表面に垂直な仮想断面における応力プロファイルにおいて、引張応力分布が凸形状となる。この凸形状には、後述の
図2に示すような圧縮応力側へ凹む凹み部は含まれない。また、比較的深い圧縮応力層が形成される。なお
図1中、中央のL線よりも左側が圧縮応力の領域であり、右側が引張応力の領域である。
仮にガラス表面のクラックが成長して引張応力層に達しても、上記応力分布を有する化学強化ガラスでは、即、ガラスが破壊することはない。
一方、Na
2Oを含み、Li
2Oを含まないガラスを化学強化する場合は、ガラスをカリウム熔融塩に浸漬し、ガラス中のNa
+イオンと熔融塩中のKイオンとの交換により、ガラス表面近傍に圧縮応力層を形成する。K
+イオンはNa
+やLi
+と比較し拡散速度が小さいため、ガラス深層まで達せず、圧縮応力層は浅く、深さ方向の応力分布は急峻に変化し、
図2に模式図を示すように、バビネ法により測定される2つの主表面に垂直な仮想断面における応力プロファイルにおいて、主表面間の中央部からそれぞれ主表面側に寄った箇所で極大となる。つまり、引張応力が極大となる位置は2箇所になる。このような極大は、アップヒルと呼ばれる。このようなガラスでは、仮にガラス表面のクラックが成長して引張応力層に達すると、クラックの先端が引張応力の極大領域に達するので、引張応力によって破壊の進行が助長され、所謂、遅れ破壊を引き起こす。
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは、ガラス成分としてLi
2OおよびNa
2Oを含むため、Na
+、K
+の混合塩で化学強化することにより、遅れ破壊を防止することができる。遅れ破壊の発生をより一層効果的に防止する観点からは、Li
2O含有量は0.1モル%以上であることが好ましい。
【0029】
本発明の磁気記録媒体用ガラスは、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO、SrO、BaOを一種以上含む。これらのアルカリ土類金属酸化物は、ガラスの熔融性を改善する効果、熱膨張係数を大きくする効果がある。
【0030】
ところで、ガラス転移温度が650℃以上と高いガラスを化学強化する場合、強化処理温度も高温になる。ガラス転移温度が高いガラスを化学強化する場合、ガラス転移温度が比較的低い従来のガラスでは問題にならなかったイオン交換効率の低下が顕著になる。
本発明者らは、この点について検討した結果、次のような知見を得た。
アルカリ金属イオンLi
+、Na
+、K
+、アルカリ土類金属イオンMg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+のポーリングによるイオン半径は表1に示すとおりである。
【0032】
表1から明らかなように、Li
+とMg
2+、Na
+とCa
2+、K
+とSr
2+のイオン半径は近い値となっている。強化処理温度を高めていくと、ガラス中と熔融塩中のアルカリ金属イオン同士のイオン交換に加え、ガラス中のアルカリ土類金属イオンと熔融塩中のアルカリ金属イオンとのイオン交換が起こるようになる。特に、イオン半径の値が近いアルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンのイオン交換速度が増加すると考えられる。
CaOを含むガラスをナトリウム塩とカリウム塩の混合熔融塩を用いて高温で化学強化する場合、Na
+(ガラス)⇔K
+(熔融塩)の反応と並行してCa
2+(ガラス)⇔Na
+(熔融塩)が起こり、アルカリ金属イオン同士の交換が阻害されると考えられる。
ガラス中のMg
2+は、リチウム熔融塩を用いなければMg
2+(ガラス)⇔Li
+(熔融塩)というイオン交換は起こらず、ガラス中のSr
2+は、イオン半径が大きく拡散速度が遅いため、熔融塩中のK
+と交換しにくい。
そこで、本発明では、アルカリ金属イオン同士のイオン交換を阻害すると考えられるCaOの含有量を制限し、高耐熱性ガラスの化学強化に特有のイオン交換効率の低下によって引き起こされると考えられる機械的強度の低下を解決する。すなわち、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するCaOの含有量のモル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))を0.20以下とすることにより、上記の機械的強度の低下を解決した。イオン交換効率の維持、機械的強度の維持という観点から、モル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))の好ましい上限は0.18、より好ましい上限は0.16、さらに好ましい上限は0.15である。
【0033】
MgO、CaO、SrO、BaOは、ガラスの剛性を改善し、熱膨張係数を増加させる働きがあり、ガラスの熔融性を改善する働きもするが、過剰に導入すると化学的耐久性が低下する傾向を示す。
したがって、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量は10〜25%とすることが好ましい。MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量のより好ましい上限は24%、さらに好ましい上限は22%、一層好ましい上限は20%であり、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量のより好ましい下限は11%、さらに好ましい下限は13%、一層好ましい下限は15%である。
【0034】
MgOは、ガラスの比重を増大させずにヤング率、比弾性率を高める効果に優れた成分であり、CaOのように化学強化時にアルカリ金属イオン同士のイオン交換を阻害しない。したがって、MgOを含有するガラスが好ましい。MgOの含有量の好ましい下限は8%、より好ましい下限は12%、さらに好ましい下限は15%である。一方、MgOの含有量の好ましい上限は25%、より好ましい上限は23%、さらに好ましい上限は20%である。MgOの含有量の好ましい範囲は、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量との関係でも特定することができる。MgO、CaO、SrOおよびBaOの中でもMgOは比重増加を抑制しつつ剛性を高める働きがあり、アルカリ金属イオン同士のイオン交換を阻害することもないので、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するMgOの含有量のモル比(MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO))を0.5〜1.0の範囲にすることが好ましい。モル比(MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO))のより好ましい範囲は0.6〜1.0、さらに好ましい範囲は0.7〜1.0、一層好ましい範囲は0.8〜1.0、特に好ましい範囲は1.0である。
【0035】
CaOは、膨張係数を大きくする働きのある成分であるが、上記のようにアルカリ金属イオン同士のイオン交換を阻害する作用があると考えられるため、その含有量を0〜5%とすることが好ましく、0〜4%とすることがより好ましく、0〜3%とすることがさらに好ましい。なおCaOを含有させなくてもよい。CaOがアルカリ金属イオン同士のイオン交換を阻害して化学強化の効率を低下させるのに対し、Na
2Oは化学強化によってガラスの機械的強度を高める働きに優れているため、化学強化によって優れた機械的強度を実現する上から、Na
2Oの含有量に対するCaOの含有量のモル比(CaO/Na
2O)を0〜1.5の範囲にすることが好ましく、0〜1の範囲にすることがより好ましく、0〜0.5の範囲にすることがさらに好ましく、0にすることが一層好ましい。
【0036】
SrOは、比重を増加させる作用があり、MgO、CaOと比較し高価な成分であるので、SrOの含有量を0〜8%とすることが好ましく、0〜7%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜3%とすることが一層好ましく、0〜1%とすることがより一層好ましく、0〜0.5%とすることがさらに一層好ましい。なおSrOを含有させなくてもよい。
【0037】
BaOは、比重を増加させ、ヤング率を低下させ、化学的耐久性を低下させる作用があるため、BaOの含有量を0〜8%とすることが好ましく、0〜7%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜3%とすることが一層好ましく、0〜1%とすることがより一層好ましく、0〜0.5%とすることがさらに一層好ましい。なおBaOを含有させなくてもよい。
【0038】
前述のように、MgO、CaO、SrOおよびBaOの中でSrOは高価な成分であることから、SrOの含有量を抑えた場合、高耐熱性ガラスであって優れた化学強化の効率を供えるガラスは、モル比(CaO/(MgO+CaO+BaO))によって特定することもできる。前記の観点からモル比(CaO/(MgO+CaO+BaO))の好ましい範囲は0〜0.20、より好ましい範囲は0〜0.18、さらに好ましい範囲は0〜0.16、一層好ましい範囲は0〜0.15である。
【0039】
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは、任意成分としてK
2Oを含むことができるが、Na
2Oの含有量に対してK
2Oの含有量が多くなるとナトリウム塩とカリウム塩の混合熔融塩によるイオン交換効率が低下するため、Na
2Oの含有量に対するK
2Oの含有量のモル比(K
2O/Na
2O)を1.0以下とすることが好ましい。モル比(K
2O/Na
2O)のより好ましい範囲は0.7以下、さらに好ましい範囲は0.3以下、一層好ましい範囲は0.1以下であり、前記モル比を0にしてもよい。
【0040】
記録密度を高めるためには磁気ヘッドと磁気記録媒体表面との距離を近づけ、書き込み・読み込み分解能を挙げる必要がある。そのため近年、ヘッドの低浮上量化(磁気ヘッドと磁気記録媒体表面との間のスペーシングの低減)が進められており、これに伴い磁気記録媒体表面にはわずかな突起の存在も許容されなくなってきている。低浮上量化された記録再生システムでは、微小突起であってもヘッドと衝突しヘッド素子の損傷等の原因となるからである。一方、BaOは大気中の炭酸ガスとの反応によりガラス基板表面の付着物となるBaCO
3を生成する。加えてBaOはガラス表面の変質(ヤケと呼ばれる)の発生原因となり、基板表面に微小突起を形成するおそれのある成分でもある。したがって、BaOの含有量を上記範囲に抑えることが好ましく、BaOを含有しないガラス、すなわちBaフリーガラスであることが好ましい。Baフリー化は環境への負担を軽減する上からも好ましい。
【0041】
また、高いガラス転移温度を得るために、混合アルカリ土類効果の観点からアルカリ土類金属酸化物は、複数種添加するのではなく、アルカリ土類酸化物のうち単一成分のみを添加することが好ましく、複数種添加する場合には、最も多いアルカリ土類酸化物の割合がアルカリ土類金属酸化物全量の70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上となるように選択することができる。
【0042】
また、化学強化の効率を保ちつつ、耐熱性を改善する上から、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するLi
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量のモル比((Li
2O+Na
2O+K
2O)/(MgO+CaO+SrO+BaO))を2.0以下にすることが好ましく、1.7以下にすることがより好ましく、1.5以下にすることがさらに好ましく、1.3以下にすることが一層好ましく、1.0以下にすることがより一層好ましい。
【0043】
Al
2O
3は、剛性および耐熱性を向上させる効果とイオン交換効率を改善する効果のある任意成分である。前記効果を得る上から、Al
2O
3の含有量を1%以上とすることが好ましく、2%以上とすることがより好ましく、4%以上とすることがさらに好ましい。しかし、Al
2O
3の含有量が過剰になるとガラスの耐失透性(安定性)や熔融性が低下傾向を示すため、Al
2O
3の含有量を12%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、7%以下とすることがさらに好ましい。
【0044】
なお、ガラスの熔融性を維持し、ガラスの耐酸性を良好にする上からSiO
2の含有量に対するSiO
2の含有量のモル比(Al
2O
3/SiO
2)を0.178以下にすることが好ましく、0.175以下にすることがより好ましく、0.170以下にすることがさらに好ましい。
【0045】
K
2Oは他のLi
2O、Na
2Oと比べて破壊靭性値を低下させる作用がある。また、K
2OはNa
+(ガラス)⇔K
+(熔融塩)のイオン交換の効率を低下させる働きがあるため、K
2O含有量を7%以下にすることが好ましく、5%以下にすることがより好ましく、3%以下にすることがさらに好ましく、1%以下にすることが一層好ましく、0.5%以下にすることがより一層好ましい。さらにK
2Oを含有させなくてもよい。
【0046】
ZrO
2、TiO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5、HfO
2は、剛性および耐熱性を高める成分であるため少なくとも一種を導入することが好ましいが、過剰量の導入によりガラスの熔融性および熱膨張特性が低下する。したがって、ZrO
2、TiO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5およびHfO
2の合計含有量は0〜10%とすることが好ましい。
上記酸化物の導入効果を得る上から、ZrO
2、TiO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5およびHfO
2の合計含有量の好ましい下限は0.1%、より好ましい下限は0.3%、さらに好ましい下限は0.5%である。また熔融性、熱膨張係数を維持する観点から、ZrO
2、TiO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5およびHfO
2の合計含有量の好ましい上限は8%、より好ましい上限は6%、さらに好ましい上限は4%である。
【0047】
ZrO
2は任意成分であるが、ガラス転移温度を高め耐熱性を改善する働きや、化学的耐久性、特に耐アルカリ性を改善する働きが大きく、また、ヤング率を高めて高剛性化する効果やイオン交換効率を改善する効果も有する。したがって、ZrO
2の含有量を0.1%以上にすることが好ましく、0.3%以上にすることがより好ましく、0.5%以上にすることがさらに好ましい。ZrO
2を過剰に導入するとガラスの熔融性が低下し、原料の溶け残りが生じ、均質なガラスの生産が困難になるおそれがあるため、ZrO
2の含有量を6%以下にすることが好ましく、4%以下にすることがより好ましく、3%以下にすることがさらに好ましい。
【0048】
また、ZrO
2の含有量の好ましい範囲を、ZrO
2、TiO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5およびHfO
2の合計含有量を用いて特定することもできる。ZrO
2は、イオン交換効率を高める効果があることから、ZrO
2、TiO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5およびHfO
2の合計含有量に対するZrO
2の含有量のモル比(ZrO
2/(ZrO
2+TiO
2+Y
2O
3+La
2O
3+Gd
2O
3+Nb
2O
5+Ta
2O
5+HfO
2))を0.3〜1.0の範囲とすることが好ましい。モル比(ZrO
2/(ZrO
2+TiO
2+Y
2O
3+La
2O
3+Gd
2O
3+Nb
2O
5+Ta
2O
5+HfO
2))のより好ましい範囲は0.5〜1.0、さらに好ましい範囲は0.7〜1.0、特に好ましくは1.0である。
【0049】
ガラスの化学的耐久性を改善する上から、SiO
2、ZrO
2、TiO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Yb
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5およびHfO
2の合計含有量を66%以上にすることが好ましく、66.5%以上にすることがより好ましく、67.0%以上にすることがさらに好ましい。なおSiO
2、ZrO
2、TiO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Yb
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5およびHfO
2の合計含有量の上限は、Al
2O
3、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、その他成分の各含有量により定まる。
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスがZrO
2を含有する場合、ガラスの化学的耐久性を改善する上から、SiO
2とZrO
2の合計含有量を66%以上にすることが好ましい。SiO
2とZrO
2の合計含有量のより好ましい下限は66.5%、さらに好ましい下限は67.0%である。なおSiO
2とZrO
2の合計含有量の上限は、Al
2O
3、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、その他成分の各含有量により定まる。
【0050】
TiO
2は、ZrO
2、Y
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Ta
2O
5、HfO
2と比較し、比重の増加を抑える働きが大きく、ヤング率、比弾性率を高める効果を有する成分である。ただし、過剰の導入によりガラスを水に浸漬したときにガラス表面に水との反応生成物が付着し、ガラス表面の平滑性を損なうおそれがあることから、TiO
2の含有量は0〜5%とすることが好ましく、0〜4%とすることがより好ましく、0〜3%とすることがさらに好ましく、TiO
2を含有しないことが特に好ましい。
【0051】
La
2O
3、Gd
2O
3、Nb
2O
5、Y
2O
3、Ta
2O
5、HfO
2は、比重を増加させる成分であるので、各成分の含有量をそれぞれ0〜7%とすることが好ましく、0〜6%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、各成分を含有させなくてもよい。
【0052】
B
2O
3は、ガラス基板の脆さを改善し、ガラスの熔融性を向上する成分であるが、過剰量の導入により耐熱性が低下するため、上記各ガラスにおいて、その導入量を0〜3モル%とすることが好ましく、0〜2モル%とすることがより好ましく、0モル%以上1モル%未満とすることがさらに好ましく、0〜0.5モル%とすることが一層好ましく、0〜0.3モル%とすることがより一層好ましく、0〜0.1モル%とすることがさらに一層好ましく、実質的に導入しなくてもよい。
【0053】
ZnOは、ガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を改善し、剛性を高め、熱膨張係数を高くする働きがあるが、過剰に導入するとガラス転移温度が大幅に低下し、耐熱性が著しく低下したり、化学的耐久性が悪化するため、ZnOの含有量を0〜10%とすることが好ましい。ZnOの含有量のより好ましい範囲は0〜7%、さらに好ましい範囲は0〜5%であり、ZnOを含有させなくてもよい。
【0054】
環境への影響に配慮する上から、Pb、As、Cd、U、Thなどを含有させないことは好ましい。
【0055】
(添加剤)
上記ガラス成分に加えて、Sn酸化物、Ce酸化物、Sb
2O
3、F、Clなどのハロゲン化物等を清澄剤として少量添加してもよい。中でも、清澄剤としては、Sn酸化物およびCe酸化物を使用することが好ましい。これは以下の理由による。
Sn酸化物は、ガラス熔融時、高温で酸素ガスを放出し、ガラス中に含まれる微小な泡を取り込んで大きな泡にすることで浮上しやすくすることにより清澄を促す働きに優れている。一方、Ce酸化物は、低温でガラス中にガスとして存在する酸素をガラス成分として取り込むことにより泡を消す働きに優れている。泡の大きさ(固化したガラス中に残留する泡(空洞)の大きさ)が0.3mm以下の範囲で、Sn酸化物は比較的大きな泡も極小の泡も除く働きが強い。Sn酸化物とともにCe酸化物を添加すると、50μm〜0.3mm程度の大きな泡の密度が数十分の一程度にまで激減する。このように、Sn酸化物とCe酸化物を共存させることにより、高温域から低温域にわたり広い温度範囲でガラスの清澄効果を高めることができるため、Sn酸化物およびCe酸化物を添加することが好ましい。
Sn酸化物およびCe酸化物の外割り添加量の合計が0.02質量%以上であれば、十分な清澄効果を期待することができる。微小かつ少量であっても未熔解物を含むガラスを用いて基板を作製すると、研磨によってガラス基板表面に未熔解物が現れると、ガラス基板表面に突起が生じたり、未熔解物が欠落した部分が窪みとなって、ガラス基板表面の平滑性が損なわれ、磁気記録媒体用の基板としては使用できなくなる。これに対しSn酸化物およびCe酸化物の外割り添加量の合計が3.5質量%以下であれば、ガラス中に十分に熔解し得るため未熔解物の混入を防ぐことができる。
また、SnやCeは結晶化ガラスを作る場合には結晶核を生成する働きをする。本発明のガラス基板は非晶質性ガラスからなるので、加熱によって結晶を析出しないことが望ましい。Sn、Ceの量が過剰になると、こうした結晶の析出がおこりやすくなる。そのため、Sn酸化物、Ce酸化物とも過剰の添加は避けるべきである。
以上の観点から、Sn酸化物およびCe酸化物の外割り添加量の合計を0.02〜3.5質量%とすることが好ましい。Sn酸化物とCe酸化物の外割り添加量の合計の好ましい範囲は0.1〜2.5質量%、より好ましい範囲は0.1〜1.5質量%、さらに好ましい範囲は0.5〜1.5質量%である。
Sn酸化物としては、SnO
2を用いることがガラス熔融中、高温で酸素ガスを効果的に放出する上から好ましい。Sn酸化物、Ce酸化物の添加量を調整することにより、Sb
2O
3を添加しなくても十分な清澄性を得ることもできる。
なお、清澄剤として硫酸塩を外割りで0〜1質量%の範囲で添加することもできるが、ガラス熔融中に熔融物が吹きこぼれるおそれがあり、ガラス中の異物が激増することから、上記吹きこぼれが懸念される場合は、硫酸塩を導入しないことが好ましい。なお、本発明の目的を損なわないものであって清澄効果が得られるものであれば、上記清澄剤以外のものを使用してもよい。ただし、前述のように環境負荷が大きいAsの添加は避けるべきである。
Sb
2O
3は清澄剤として単独で使用してもよいし、Sn酸化物またはCe酸化物と併用してもよいし、Sn酸化物およびCe酸化物と併用してもよい。
【0056】
次に、本発明にかかるガラスまたはガラス基板の諸特性について説明する。
【0057】
(熱膨張係数)
磁気記録媒体を組み込んだHDD(ハードディスクドライブ)は、中央部分をスピンドルモーターのスピンドルおよびクランプで押さえて磁気記録媒体そのものを回転させる構造となっている。そのため、磁気記録媒体基板とスピンドル部分を構成するスピンドル材料の各々の熱膨張係数に大きな差があると、使用時に周囲の温度変化に対してスピンドルの熱膨張・熱収縮と磁気記録媒体基板の熱膨張・熱収縮にずれが生じてしまい、結果として磁気記録媒体が変形してしまう現象が起きる。このような現象が生じると書き込んだ情報をヘッドが読み出せなくなってしまい、記録再生の信頼性を損なう原因となる。したがって磁気記録媒体の信頼性を高めるには、基板材料には、スピンドル材料(例えばステンレスなど)熱膨張係数にできるだけ近い熱膨張係数を有するガラスが求められる。特に、高Ku磁性材料からなる磁気記録層を有する磁気記録媒体は、記録密度が極めて高いため、磁気記録媒体の僅かな変形によっても前記トラブルが起こりやすくなる。
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスの好ましい態様では、100〜300℃の温度範囲における平均線膨張係数が50×10
-7/℃以上である。前記ガラスを用いて基板を作製することにより、HDDにおける上記信頼性を向上することができる。このように、高Ku磁性材料からなる磁気記録層を有する磁気記録媒体に好適な基板材料を提供することができる。前記平均線膨張係数のより好ましい範囲は55×10
-7/℃以上、さらに好ましい範囲は60×10
-7/℃以上である。前記平均線膨張係数の上限は、スピンドル材料の熱膨張特性を考慮すると、例えば120×10
-7/℃程度であることが好ましく、100×10
-7/℃であることがより好ましい。なお、熱膨張係数は化学強化の前後でほぼ一定の値となる。
また、500〜600℃の温度範囲における平均線膨張係数は、60×10
-7/℃以上であることが好ましく、70×10
-7/℃以上であることがより好ましい。500〜600℃の温度範囲における平均線膨張係数は、例えば100×10
-7/℃以下であることが好ましく、90×10
-7/℃以下であることがより好ましい。500〜600℃の温度範囲における平均線膨張係数が上記範囲内であるガラスを用いて基板を作製することにより、高Ku磁性材料等の多層膜を成膜後、アニール処理する際に、アニール処理中や処理後に多層膜がガラス基板から剥離することや、アニール処理中に基板が保持部材から落下することを、確実に防止することができる。
【0058】
(ヤング率)
ディスク状の磁気記録媒体では、媒体を中心軸の周りに高速回転させつつ、磁気ヘッドを半径方向に移動させながら、回転方向に沿ってデータの書き込み、読み出しを行う。近年、この書き込み速度および読み出し速度を上げるため回転数は5000rpmから7200rpm、更には10000rpmと高速化する方向で進んでいるが、ディスク状の磁気記録媒体では、予め、中心軸からの距離に応じてデータを記録するポジションが割り当てられるため、ディスクが回転中に変形を起こすと磁気ヘッドの位置ズレが起こり、正確な読み取りが困難となる。したがって上記高速回転化に対応するために、ガラス基板には高速回転時に大きな変形を起こさない高い剛性(ヤング率)を有することも求められる。本発明の磁気記録媒体基板用ガラスの好ましい態様では、75GPa以上のヤング率を有するため、前記ガラスを用いて基板を作製することにより、高速回転時の基板変形を抑制し、高Ku磁性材料を備えた高記録密度化された磁気記録媒体においても、データの読み取り、書き込みを正確に行うことができる。ヤング率のより好ましい範囲は78GPa以上であり、さらに好ましくは80GPa以上、一層好ましくは82GPa以上である。ヤング率の上限は、特に限定されるものではないが、他の特性を好ましい範囲にする上から、例えば90GPaを上限の目安と考えることができる。なおヤング率も化学強化の前後でほぼ一定の値となる。
【0059】
(比弾性率・比重)
磁気記録媒体を高速回転させたときの変形(基板のたわみ)を抑制する上から、基板材料として高い比弾性率を有するガラスが好ましい。比弾性率も化学強化の前後でほぼ一定の値となるが、本発明の磁気記録媒体基板用ガラスにおける比弾性率の好ましい範囲は、25MNm/kg以上であり、27MNm/kg以上であることがより好ましく、30MNm/kg以上であることがさらに好ましい。その上限は、例えば37MNm/kg程度であるが特に限定されるものではない。比弾性率はガラスのヤング率を密度で除したものである。ここで密度とはガラスの比重に、g/cm
3という単位を付けた量と考えればよい。ガラスの低比重化によって、比弾性率を大きくすることができることに加え、基板を軽量化することができる。基板の軽量化により、磁気記録媒体の軽量化がなされ、磁気記録媒体の回転に要する電力を減少させ、HDDの消費電力を抑えることができる。本発明の磁気記録媒体基板用ガラスの比重の好ましい範囲は2.9以下、より好ましい範囲は2.8以下、さらに好ましい範囲は2.7以下である。比重も化学強化前後でほぼ一定の値となる。
【0060】
(耐酸性・耐アルカリ性)
磁気記録媒体用ガラス基板を生産する際には、ガラスをディスク形状に加工し、主表面を極めて平坦かつ平滑に加工する。そして、前記加工工程の後、通常、ガラス基板を酸洗浄して表面に付着した汚れである有機物を除去する。ここでガラス基板が耐酸性に劣るものであると、上記酸洗浄時に面荒れを起こし、平坦性、平滑性が損なわれ磁気記録媒体用ガラス基板として使用することが困難となる。特にガラス基板表面の高い平坦性、平滑性が求められる高Ku磁性材料からなる磁気記録層を有する、高記録密度化された磁気記録媒体用ガラス基板の材料には、優れた耐酸性を有するガラスが望ましい。
また、酸洗浄に続いて、アルカリ洗浄して表面に付着した研磨剤などの異物を除去して一層清浄な状態の基板を得ることができる。アルカリ洗浄時にも面荒れによる基板表面の平坦性、平滑性の低下を防ぐ上からガラス基板の材料として、耐アルカリ性に優れたガラスが好ましい。優れた耐酸性および耐アルカリ性を有し基板表面の平坦性、平滑性が高いことは、磁気ヘッドの低浮上量化の観点からも有利である。本発明では前記したガラス組成の調整、特に化学的耐久性に有利な組成調整を行うことにより、優れた耐酸性および耐アルカリ性を実現することができる。
【0061】
(液相温度)
ガラスを熔融し、得られた熔融ガラスを成形する際、成形温度が液相温度を下回るとガラスが結晶化し、均質なガラスが生産できない。そのためガラス成形温度は液相温度以上にする必要があるが、成形温度が1450℃を超えると、例えば熔融ガラスをプレス成形する際に用いるプレス成形型が高温のガラスと反応して、ダメージを受けやすくなる。熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形する場合も同様に鋳型がダメージを受けやすくなる。こうした点に配慮し、本発明のガラス基板を構成するガラスの液相温度は1450℃以下であることが好ましい。液相温度のより好ましい範囲は1430℃以下、さらに好ましい範囲は1400℃以下である。本発明では前記したガラス組成調整を行うことにより、上記好ましい範囲の液相温度を実現することができる。下限は特に限定されないが、800℃以上を目安に考えればよい。
【0062】
(分光透過率)
磁気記録媒体は、ガラス基板上に磁気記録層を含む多層膜を成膜する工程を経て生産される。現在、主流になっている枚葉式の成膜方式で基板上に多層膜を形成する際、例えばまずガラス基板を成膜装置の基板加熱領域に導入しスパッタリングリングなどによる成膜が可能な温度にまでガラス基板を加熱昇温する。ガラス基板の温度が十分昇温した後、ガラス基板を第1の成膜領域に移送し、ガラス基板上に多層膜の最下層に相当する膜を成膜する。次にガラス基板を第2の成膜領域に移送し、最下層の上に成膜を行う。このようにガラス基板を後段の成膜領域に順次移送して成膜することにより、多層膜を形成する。上記加熱と成膜は真空ポンプにより排気された低圧下で行うため、ガラス基板の加熱は非接触方式を取らざるを得ない。そのため、ガラス基板の加熱には輻射による加熱が適している。この成膜はガラス基板が成膜に好適な温度を下回らないうちに行う必要がある。各層の成膜に要する時間が長すぎると加熱したガラス基板の温度が低下し、後段の成膜領域では十分なガラス基板温度を得ることができないという問題が生じる。ガラス基板を長時間にわたって成膜可能な温度を保つためには、ガラス基板をより高温に加熱することが考えられるが、ガラス基板の加熱速度が小さいと加熱時間をより長くしなければならず、加熱領域にガラス基板が滞在する時間も長くしなければならない。そのため各成膜領域におけるガラス基板の滞在時間も長くなり、後段の成膜領域では十分なガラス基板温度を保てなくなってしまう。さらにスループットを向上することも困難となる。特に高Ku磁性材料からなる磁気記録層を備えた磁気記録媒体を生産する場合、所定時間内にガラス基板を高温に加熱するために、ガラス基板の輻射による加熱効率を一層高めるべきである。
上記ガラスには、波長2750〜3700nmを含む領域に吸収ピークが存在し得る。また、後述する赤外線吸収剤を添加するか、ガラス成分として導入することにより、さらに短波長の輻射の吸収を高めることができ、波長700nm〜3700nmの波長領域に吸収を持たせることができる。ガラス基板を輻射、すなわち、赤外線照射により効率よく加熱するには、上記波長域にスペクトルの極大が存在する赤外線を用いることが望まれる。加熱速度を上げるには、赤外線のスペクトル極大波長と基板の吸収ピーク波長をマッチさせるとともに赤外線パワーを増やすことが考えられる。赤外線源として高温状態のカーボンヒータを例にとると、赤外線のパワーを増加するにはカーボンヒータの入力を増加すればよい。しかし、カーボンヒータからの輻射を黒体輻射と考えると、入力増加によってヒータ温度が上昇するため、赤外線のスペクトルの極大波長が短波長側にシフトし、ガラスの上記吸収波長域から外れてしまう。そのため、基板の加熱速度を上げるためにはヒータの消費電力を過大にしなければならず、ヒータの寿命が短くなってしまうなどの問題が発生する。
このような点に鑑み、上記波長領域(波長700〜3700nm)におけるガラスの吸収をより大きくすることにより、赤外線のスペクトル極大波長と基板の吸収ピーク波長を近づけた状態で赤外線の照射を行い、ヒータ入力を過剰にしないことが望ましい。そこで赤外線照射過熱効率を高めるため、ガラス基板としては、700〜3700nmの波長域に、厚さ2mmに換算した分光透過率が50%以下となる領域が存在するか、または、前記波長域にわたり、厚さ2mmに換算した分光透過率が70%以下となる透過率特性を備えるものが好ましい。例えば、鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物は、赤外線吸収剤として作用し得る。また、水分または水分に含まれるOH基は、3μm帯に強い吸収を有するため、水分も赤外線吸収剤として作用し得る。ガラス組成に上記赤外線吸収剤として作用し得る成分を適量導入することにより、ガラス基板に上記好ましい吸収特性を付与することができる。上記赤外線吸収剤として作用し得る酸化物の添加量は、酸化物として質量基準で500ppm〜5%であることが好ましく、2000ppm〜5%であることがより好ましく、2000ppm〜2%であることがさらに好ましく、4000ppm〜2%の範囲がより一層好ましい。また、水分については、H
2O換算の重量基準で200ppm超含まれることが好ましく、220ppm以上含まれることがより好ましい。
なお、Yb
2O
3、Nb
2O
5をガラス成分として導入する場合や清澄剤としてCe酸化物を添加する場合は、これら成分による赤外線吸収を基板加熱効率の向上に利用することができる。
【0063】
(ガラスの製法)
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは、例えば、上記組成のガラスが得られるように酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、混合して調合原料とし、この調合原料を熔融容器に投入して1400〜1600℃の範囲で加熱、熔融し、清澄、攪拌して泡、未熔解物を含まない均質な熔融ガラスを作製し、この熔融ガラスを成形して得ることができる。熔融ガラスの成形には、プレス成形法、キャスト法、フロート法、オーバーフローダウンドロー法などを使用することができる。後述する理由により、熔融ガラスの成形には、プレス成形法を用いることが特に好ましい。
【0064】
(化学強化ガラス)
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは、化学強化用ガラスとして好適である。
前述の組成調整により良好な化学強化性能を付与されているため、化学強化処理によってガラス表面にイオン交換層を容易に形成することができ、表面の一部または全部にイオン交換層を形成可能である。イオン交換層は、高温下、基板表面にアルカリ塩を接触させ、該アルカリ塩中のアルカリ金属イオンと基板中のアルカリ金属イオンを交換させることにより形成することができる。
【0065】
通常のイオン交換は、アルカリ硝酸塩を加熱して熔融塩とし、この熔融塩に基板を浸漬して行う。基板中のイオン半径の小さいアルカリ金属イオンに換えてイオン半径の大きいアルカリ金属イオンを導入すると、基板表面に圧縮応力層が形成される。これにより磁気記録媒体用ガラス基板の破壊靭性を向上し、その信頼性を高めることができる。
【0066】
化学強化は、必要に応じて予め加工した上記ガラスを、例えば、ナトリウム塩とカリウム塩を含む混合熔融塩に浸漬して行うことができる。ナトリウム塩として硝酸ナトリウムを、カリウム塩として硝酸カリウムをそれぞれ用いることが好ましい。本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは、前述のようにLi
2Oを必須成分として含むものであるため、イオン交換は、Liよりもイオン半径の大きなNa、Kにより行うことが好ましい。
【0067】
イオン交換により、化学強化ガラス表面からのアルカリ溶出量を低減することもできる。なお、化学強化する場合は、イオン交換を、基板を構成するガラスの歪点より高温かつガラス転移温度より低温で、アルカリ熔融塩が熱分解しない温度範囲で行うことが好ましい。基板がイオン交換層を有することは、ガラスの断面(イオン交換層を切る面)をバビネ法により観察して確認する方法、ガラス表面からアルカリ金属イオンの深さ方向の濃度分布を測定する方法等によって確認することができる。
【0068】
強化処理温度(熔融塩の温度)、強化処理時間(ガラスを熔融塩に浸漬している時間)は適宜調整可能である。例えば強化処理温度の範囲は400〜570℃を目処に調整すればよい。強化処理時間の範囲は0.5〜10時間を目処に調整すればよく、1〜6時間を目処に調整することが好ましい。
【0069】
前述のようにガラスのガラス転移温度、熱膨張係数、ヤング率、比弾性率、比重、分光透過率は化学強化の前後でほぼ一定の値を示すことから、本発明においては、化学強化前後の熱膨張係数、ヤング率、比弾性率、比重、分光透過率の各特性は同じ値として扱う。またアモルファス状態のガラスは、化学強化後もアモルファス状態を維持している。
【0070】
[磁気記録媒体用ガラス基板]
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の第一の態様(以下、ガラス基板Iという)は、上記本発明の磁気記録媒体基板用ガラスを化学強化してなるガラス基板である。
本発明の磁気記録媒体基板用ガラスは、化学強化により前述の応力プロファイルを示すことができ、これにより遅れ破壊の発生を防ぐことができる。したがってガラス基板Iは、遅れ破壊が起きず、かつ、高い耐熱性と優れた機械的強度を有することができるガラス基板であり、上記磁気記録媒体基板用ガラスを化学強化してなるガラスが有する諸々の特長を示すことができる。
【0071】
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の第二の態様(以下、ガラス基板IIという)は、ガラス転移温度が650℃以上であり、かつ、バビネ法により求められる2つの主表面に垂直な仮想断面における応力プロファイルにおいて、引張応力分布が凸形状であり、ただし該凸形状は圧縮応力側へ凹む凹み部を含まない化学強化ガラスからなるガラス基板である。当該応力プロファイルについては、先に説明した通りであり、このような応力プロファイルを示すことにより、遅れ破壊の発生を防ぐことができる。例えば、前記仮想断面において、主表面からの深さをxとしたとき、深さxにおける応力値S(x)を応力プロファイルと呼ぶことにする。応力プロファイルは、通常、2つの主表面間の中心で線対称となる。応力プロファイルを知るには、2つの主表面に対して垂直にガラス基板を破断し、破断面をバビネ法により観察すればよい。
ガラス基板IIの応力プロファイルの好ましい態様としては、両主表面近傍において圧縮応力値が極大となり、深さxが増加するにつれて圧縮応力値は減少し、圧縮応力と引張応力とが釣合う深さx
0よりもさらに深くなるにつれて圧縮応力が引張応力に転じ、引張応力値が緩やかに増加して2つの主表面間の中央部または中央部近傍で極大値を取る態様を挙げることができる。当該極大値は、
図1に示すように、深さ方向の一定領域で維持されている場合もある。このような応力プロファイルを取るガラス基板であれば、基板表面で発生したクラックの深さがx
0より深くなっても引張応力によってクラックが急激に成長して破壊に至る遅れ破壊を防止することができる。
【0072】
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の第三の態様(以下、ガラス基板IIIという)は、ガラス転移温度が650℃以上であり、かつバビネ法により求められる引張応力の平均値Tavと引張応力の最大値Tmaxとが、下記式(1):
Tav/Tmax≧0.5
を満たす化学強化ガラスからなるガラス基板である。以下、
図3および
図4に基づき式(1)について説明する。
引張応力の最大値Tmaxとは、上記引張応力値の極大値である。
図3中、引張応力と圧縮応力との中心線であるL線は、面積S
1、S
2、S
3が、S
1+S
2=S
3となるように決定される。S
2側の主表面と平行な仮想直線と、2つの主表面に垂直でTmaxを通過する仮想直線との交点からS
2側の主表面までの距離をDOLとすると、Tav=S
3/(tsub−2×DOL)として、引張応力の平均値Tavが算出される。
ガラスIIIは、Tav/Tmax≧0.5であり、Tav/Tmax≧0.7であることが好ましく、Tav/Tmax≧0.8であることがより好ましい。Tav/Tmaxの上限値については、例えば、Tav/Tmax<1.0である。
式(1)で規定するTav/Tmaxは、先に
図2を示し説明したアップヒルが存在しないことを示す指標として用いることができ、アップヒルが存在するガラス基板は、Tmaxが大きいため、Tav/Tmax<0.5となる。
これに対し、上記式(1)を満たすガラスは、アップヒルが存在しないため、遅れ破壊の発生が抑制されている。
なお
図2に示すようにアップヒルが存在するガラス基板については、
図4に示すように、L線は面積S
4、S
5、S
6、S
7、S
8が、S
4+S
5+S
6、=S
7+S
8となるように決定される。さらにTavは、Tav=(S
7+S
8−S
6)/(tsub−2×DOL)として算出される。
図2において、引張応力層はS
6によって2つの層S
7とS
8とに分かれているが、
図1に示すように引張応力層が一層からなる場合は、上記の通り、Tav=S
3/(tsub−2×DOL)によりTavを算出すればよい。
【0073】
さらに、ガラス基板II、IIIは、ガラス転移温度が650℃以上と高いので、高Ku磁性材料を基板上に形成して熱処理しても基板の平坦性が損なわれることがない。この点は、ガラス転移温度650℃以上のガラスを化学強化することによって得られたガラス基板Iも同様である。
このように、ガラス基板I、II、IIIは、高記録密度対応の磁気記録媒体用基板をはじめとする高い信頼性と優れた耐熱性を要求される用途に好適である。
【0074】
なお、本発明のガラス基板としてより好ましい態様は、ガラス基板Iであり、かつ、ガラス基板IIまたはガラスIIIであるガラス基板であり、より一層好ましい態様は、ガラス基板Iであり、かつガラス基板IIおよびガラス基板IIIでもあるガラス基板である。ガラス基板II、IIIは、化学強化ガラス基板であることが好ましい。
例えば、好ましい態様としては、
バビネ法により求められる2つの主表面に垂直な仮想断面における応力プロファイルにおいて、引張応力分布が凸形状であり、ただし該凸形状は圧縮応力側へ凹む凹み部を含まない化学強化ガラスからなるガラス基板I;
バビネ法により求められる引張応力の平均値Tavと引張応力の最大値Tmaxとが、下記式(1):
Tav/Tmax≧0.5
を満たす化学強化ガラスからなるガラス基板I;
バビネ法により求められる2つの主表面に垂直な仮想断面における応力プロファイルにおいて、引張応力分布が凸形状であり、ただし該凸形状は圧縮応力側へ凹む凹み部を含まず、かつ引張応力の平均値Tavと引張応力の最大値Tmaxとが、下記式(1):
Tav/Tmax≧0.5
を満たす化学強化ガラスからなるガラス基板I;
などを挙げることができる。
【0075】
本発明のガラス基板によれば、基板表面からのアルカリ溶出量を低減することができるため、本発明のガラス基板は磁気記録媒体用のガラス基板として好適である。
【0076】
以下、ガラス基板I、II、およびIIIの共通点について説明する。
【0077】
(破壊靱性値)
本発明のガラス基板の好ましい態様は、破壊靭性値K
1cが0.8MPa・m
1/2以上、さらに好ましくは1.0MPa・m
1/2以上、一層好ましくは1.1MPa・m
1/2以上、より一層好ましくは1.2MPa・m
1/2以上、さらに一層好ましくは1.3MPa・m
1/2以上、なお一層好ましくは1.4MPa・m
1/2以上、特に好ましくは1.5MPa・m
1/2以上、最も好ましくは1.6MPa・m
1/2以上であるガラス基板である。前述のように、磁気記録媒体の高記録密度化によって、媒体の回転速度が高速化し、磁気ヘッドと媒体との距離も益々減少傾向を辿っており、高速回転中の磁気記録媒体に磁気ヘッドが当たった衝撃基板が破損しないために、優れた耐衝撃性を有する基板が必要とされる。上記基板は破壊靱性値が大きいので、耐衝撃性に優れ、高記録密度化された磁気記録媒体用ガラス基板として好適である。
【0078】
破壊靭性値は、以下の方法で測定される。
AKASHI社製の装置MVK−Eを用い、板状に加工した試料に押し込み荷重P[N]でビッカース圧子を押し込み、試料に圧痕およびクラックを導入する。試料のヤング率をE[GPa]、圧痕対角線長さをd[m]、表面クラックの半長をa[m]とすると破壊靭性値K
1c[Pa・m
1/2]は下式で表される。
K
1c=[0.026(EP/π)
1/2(d/2)(a)
-2]/[(πa)
-1/2]
なお、特記しない限り、本発明において破壊靭性値とは、荷重Pを9.81N(1000gf)として測定される破壊靭性値を意味する。破壊靱性値の測定は、圧痕対角線長さd、表面クラックの半長aを正確に測定する上から、ガラスの平滑面、例えば研磨された面において行うことが好ましい。上記破壊靱性値は、ガラス組成によっても変化し、また化学強化条件によっても変化するため、化学強化されたガラスからなる本発明の磁気記録媒体用ガラス基板を得るためには、組成調整および化学強化処理条件によって、上記破壊靱性値を所望の範囲とすることができる。
【0079】
(表面状態)
磁気記録層が形成される主表面は、下記(1)〜(3)のいずれか1つ以上の表面性を有することが好ましい。
(1)原子間力顕微鏡を用いて1μm×1μmの範囲で512×256ピクセルの解像度で測定される表面粗さの算術平均Raが0.15nm以下;
(2)5μm×5μmの範囲で測定される表面粗さの算術平均Raが0.12nm以下;
(3)波長100μm〜950μmにおける表面うねりの算術平均Waが0.5nm以下。
基板上に成膜する磁気記録層のグレインサイズは、例えば垂直記録方式では、10nm未満となっている。高記録密度化のため、ビットサイズが微細化されても、基板表面の表面粗さが大きいと、磁気特性の向上は見込めない。これに対し上記(1)、(2)の2種の表面粗さの算術平均Raが上記範囲の基板であれば、高記録密度化のためにビットサイズが微細化されても磁気特性の改善が可能である。また、上記(3)の表面うねりの算術平均Waを上記範囲にすることにより、HDDにおける磁気ヘッドの浮上安定性を向上させることができる。
したがって、本発明の磁気記録媒体用ガラス基板は、(1)〜(3)のいずれかを満たすことが好ましく、(1)および(2)を満たすことがより好ましく、(1)〜(3)のすべてを満たすことがさらに好ましい。
【0080】
(板厚)
ノートパソコン用のHDDには外径2.5インチサイズの磁気記録媒体が通常用いられ、それに使用されるガラス基板の板厚は0.635mmであったが、比弾性率を変えずとも基板の剛性を高め、耐衝撃性をさらに改善するため、板厚を厚くすることが好ましい。したがって、本発明の磁気記録媒体用ガラス基板においては、板厚を0.5mm以上にすることが好ましく、基板の剛性を一層高める上から、例えば0.7mm以上の板厚とすることがより好ましく、0.8mm以上の板厚とすることがさらに好ましい。
【0081】
前述のように本発明の磁気記録媒体用ガラス基板は、高耐熱性と高破壊靱性を備えることができるので、高い信頼性が求められる回転数が5000rpm以上、好ましくは7200rpm以上、より好ましくは10000rpm以上の磁気記録装置に用いられる磁気記録媒体用のガラス基板や、DFH(Dynamic Flying Height)ヘッドを搭載した磁気記録装置に用いられる磁気記録媒体用のガラス基板に好適である。
さらに、高低熱性、高信頼性によって、エネルギーアシスト磁気記録用磁気記録媒体用のガラス基板に好適である。
また、上記(1)〜(3)の表面性を兼ね備えた基板を実現する上で、ガラスの耐酸性、耐アルカリ性を高めることは有効である。
【0082】
[磁気記録媒体用ガラス基板ブランク]
次に磁気記録媒体用ガラス基板ブランクについて説明する。
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板ブランクは、必須成分として、SiO
2、Li
2O、Na
2O、ならびに、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる一種以上のアルカリ土類金属酸化物を含み、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するCaOの含有量のモル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.20以下であり、ガラス転移温度が650℃以上である。
ここで磁気記録媒体用ガラス基板ブランク(以下、基板ブランクという)とは、加工して磁気記録媒体用ガラス基板に仕上げる前の基板用ガラス母材を意味する。基板ブランクを構成するガラスの組成、特性、ならびに組成および特性の好ましい範囲については、先に説明したとおりである。
本発明の基板ブランクは磁気記録媒体用ガラス基板がディスク形状をしていることから、ディスク形状であることが好ましい。
【0083】
基板ブランクは、上記ガラスが得られるように、ガラス原料を調合し、熔融して熔融ガラスとし、作製した熔融ガラスをプレス成形法、ダウンドロー法またはフロート法のいずれかの方法により板状に成形し、得られた板状のガラスを必要に応じて加工することで作製することができる。
プレス成形法では、流出する熔融ガラスを切断し、所要の熔融ガラス塊を得て、これをプレス成形型でプレス成形して薄肉円盤状の基板ブランクを作製する。
即ち、本発明は、必須成分として、SiO
2、Li
2O、Na
2O、ならびに、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる一種以上のアルカリ土類金属酸化物を含み、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するCaOの含有量のモル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.20以下であり、ガラス転移温度が650℃以上であるガラスが得られるようにガラス原料を調合すること、調合したガラス原料を熔融して熔融ガラスを得ること、および、得られた熔融ガラスをプレス成形してガラスからなる基板ブランクを作製すること、を含む磁気記録媒体用ガラス基板ブランクの製造方法に関する。
【0084】
プレス成形法では、熔融ガラスをプレスしてディスク形状に成形することができ、磁気記録媒体基板用のブランクを成形する方法として好適である。
プレス成形法の中でも、基板ブランク1個分に相当する熔融ガラスを落下させ、空中にある熔融ガラスをプレス成形する方法が好ましい。前記方法では、一対のプレス成形型で空中の熔融ガラスを挟んでプレスするので、各プレス成形型と接する面からガラスを均等に冷却することができ、平坦性のよい基板ブランクを製造することができる。
【0085】
ダウンドロー法では、樋状の成形体を用いて熔融ガラスを導き、成形体の両側へと熔融ガラスをオーバーフローさせ、成形体の下方で成形体に沿って流下する2つの熔融ガラス流を合流させてから、下方に引っ張ってシート状に成形する。この方法はフュージョン法とも呼ばれ、成形体表面に接触したガラスの面を互いに張り合わせことにより、接触痕のないシートガラスを得ることができる。その後、得られたシート材から薄肉円盤状の基板ブランクがくり抜かれる。
【0086】
フロート法では、溶融錫などを蓄えたフロートバス上に熔融ガラスを流し出し、引っ張りながらシート状ガラスに成形する。その後、得られたシート材から薄肉円盤状の基板ブランクがくり抜かれる。
【0087】
フロート法、ダウンドロー法などのように熔融ガラスに張力を加えてシート状に成形する方法では、熔融ガラスを比較的低い温度で保持し、ガラスの粘度を高めた状態で張力を発生させるため、使用するガラスが十分な耐失透性を有するものに限定される。耐失透性とガラス転移温度とはトレードオフの関係があるため、フロート法、ダウンドロー法などの方法は、高耐熱性ガラスの成形法としては適していいない。一方、プレス成形法は、高温状態のガラスをプレスして急冷することができるので、耐失透性がそれほど優れていない高耐熱性ガラスでも高い生産性のもとに基板ブランクを生産することができる。
【0088】
[磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法]
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法の第一の態様は、上記本発明の基板ブランクを加工することを含む方法である。
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法の第二の態様は、上記本発明の基板ブランクの製造方法により基板ブランクを作製すること、および前記基板ブランクを加工することを含む方法である。
いずれの態様においても、ナトリウム塩およびカリウム塩を含む熔融塩にガラスを浸漬して化学強化する工程を備えることが好ましい。
上記ガラスを用いて基板ブランクが作られているので、ガラス基板の2つの主表面に垂直な仮想断面における引張応力が、前記2つの主表面間の中央部で極大になるように化学強化が行われる。
そのため、優れた耐熱性を備えるとともに、遅れ破壊が発生しにくいガラス基板を製造することができる。Li
2Oを0.1モル%以上含むガラスを、前記熔融塩に浸漬して化学強化することが、遅れ破壊が発生しにくいガラス基板を得るうえで好ましい。
【0089】
なお、ディスク形状のガラス基板を製造する場合は、プレス成形法で作製したディスク状の基板ブランク、あるいはダウンドロー法またはフロート法のいずれかの方法により作製したシート状ガラスからくり抜いたディスク状の基板ブランクを用い、基板ブランクに中心孔を設けたり、内外周加工、両主表面にラッピング、ポリッシングを施す。次いで、酸洗浄およびアルカリ洗浄を含む洗浄工程を経てディスク状のガラス基板を得ることができる。
【0090】
本発明のガラス基板は、前述の組成調整により良好な化学強化性能を付与されているため、化学強化処理によって表面にイオン交換層を容易に形成することができるものである。
磁気記録媒体用ガラス基板の製造工程では、化学強化工程後に化学強化の効果が維持される範囲で、更に研磨工程を行ってもよい。
【0091】
[磁気記録媒体]
次に磁気記録媒体について説明する。
本発明の磁気記録媒体は、上記本発明の磁気記録媒体用ガラス基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体である。
前記磁気記録媒体は、例えば、ガラス基板の主表面上に、該主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成を有する、ディスク状磁気記録媒体(磁気ディスク、ハードディスクなどと呼ばれる)であることができる。
例えばガラス基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、ガラス基板主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばCrRuを用いることができる。上記成膜後、例えばCVD法によりC2H4を用いて保護層を成膜し、同一チャンバ内で、表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(ポリフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
また、下地層と磁性層との間には、軟磁性層、シード層、中間層などを、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法などの公知の成膜方法を用いて形成してもよい。
上記各層の詳細については、例えば特開2009−110626号公報段落[0027]〜[0032]を参照できる。また、ガラス基板と軟磁性層との間には、熱伝導性の高い材料からなるヒートシンク層を形成することもできるが、その詳細は後述する。
【0092】
先に説明したように、磁気記録媒体のより一層の高密度記録化のためには、高Ku磁性材料から磁気記録層を形成することが好ましい。この点から前記磁気記録層はFeおよび/またはCoと、Ptとの合金を主成分とする磁性材料を含む磁気記録層であることが好ましく、磁気記録媒体はエネルギーアシスト磁気記録用磁気記録媒体であることが好ましい。
【0093】
Feおよび/またはCoと、Ptとの合金を主成分とする磁性材料としては、Fe−Pt系磁性材料、Co−Pt系磁性材料、またはFe−Co−Pt系磁性材料を挙げることができる。なおここで「系」とは、含有することを意味する。即ち、本発明の磁気記録媒体は、磁気記録層としてFeおよびPt、CoおよびPt、またはFe、CoおよびPtを含む磁気記録層を有することが好ましい。
このような磁気記録層を得るには、ガラス基板の主表面に、Feおよび/またはCoと、Ptとの合金を主成分とする磁性材料を成膜した後、アニール処理を行う。ここで、上記磁性材料の成膜温度は通常500℃超の高温である。更にこれら磁性材料は、成膜後に結晶配向性を揃えるため、上記アニール処理は成膜温度を超える温度で行われる。
したがって、Fe−Pt系磁性材料、Co−Pt系磁性材料、またはFe−Co−Pt系磁性材料を用いて磁気記録層を形成する際には基板が上記高温に晒されることとなる。ここで基板を構成するガラスが耐熱性に乏しいものであると、高温下で変形し平坦性が損なわれる。これに対し本発明の磁気記録媒体に含まれる基板は、優れた耐熱性(ガラス転移温度として650℃以上)を示すものであるため、Fe−Pt系磁性材料、Co−Pt系磁性材料、またはFe−Co−Pt系磁性材料を用いて磁気記録層を形成した後も、高い平坦性を維持することができる。
上記磁気記録層は、例えば、Ar雰囲気中、Fe−Pt系磁性材料、Co−Pt系磁性材料、またはFe−Co−Pt系磁性材料をDCマグネトロンスパッタリング法にて成膜し、次いで加熱炉内でより高温での熱処理を施すことにより形成することができる。
【0094】
ところで、Ku(結晶磁気異方性エネルギー定数)は保磁力Hcに比例する。保磁力Hcとは、磁化の反転する磁界の強さを表す。先に説明したように、高Ku磁性材料は熱揺らぎに対して耐性を有するため、磁性粒子を微粒子化しても熱揺らぎによる磁化領域の劣化が起こりにくく高密度記録化に好適な材料として知られている。しかし上記の通りKuとHcは比例関係にあるため、Kuを高めるほどHcも高まり、即ち磁気ヘッドによる磁化の反転が起こりにくくなり情報の書き込みが困難となる。そこで、記録ヘッドによる情報の書き込み時にヘッドからデータ書き込み領域に瞬間的にエネルギーを加え、保磁力を低下させることで高Ku磁性材料の磁化反転をアシストする記録方式が近年注目を集めている。このような記録方式は、エネルギーアシスト記録方式と呼ばれ、中でもレーザー光の照射により磁化反転をアシストする記録方式は熱アシスト記録方式、マイクロ波によりアシストする記録方式はマイクロ波アシスト記録方式と呼ばれる。前述のように、本発明によれば高Ku磁性材料による磁気記録層の形成が可能となるため、高Ku磁性材料とエネルギーアシスト記録の組み合わせにより、例えば面記録密度が1テラバイト/inch
2を超える高密度記録を実現することができる。即ち、本発明の磁気記録媒体は、エネルギーアシスト記録方式に使用されることが好ましい。なお、熱アシスト記録方式については、例えばIEEE TRANSACTIONSON MAGNETICS, VOL. 44, No. 1, JANUARY 2008 119に、マイクロ波アシスト記録方式については、例えばIEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 44, No. 1, JANUARY 2008 125に、それぞれ詳細に記載されており、本発明においてもこれら文献記載の方法により、エネルギーアシスト記録を行うことができる。
【0095】
上記磁気記録媒体用ガラス基板、磁気記録媒体(例えば磁気ディスク)とも、その寸法に特に制限はないが、例えば、高記録密度化が可能であるため媒体および基板を小型化することも可能である。例えば、公称直径2.5インチは勿論、更に小径(例えば1インチ、1.8インチ)、または3インチ、3.5インチ等の寸法のものとすることができる。
【0096】
[磁気記録装置]
次に磁気記録装置について説明する。
本発明の磁気記録装置は、少なくとも磁気記録媒体の主表面を加熱するための熱源と、記録素子部と、再生素子部とを有する熱アシスト磁気記録ヘッド、および、上記本発明の磁気記録媒体を有するエネルギーアシスト磁気記録方式の磁気記録装置である。
本発明によれば、上記本発明の磁気記録媒体を搭載していることで、高記録密度かつ高い信頼性を有する磁気記録装置を提供することができる。
また、上記磁気記録装置は、破壊靱性の高い基板を備えるため、回転数が5000rpm以上、好ましくは7200rpm以上、より好ましくは10000rpm以上の高速回転においても十分な信頼性を有する。
さらに、上記磁気記録装置はDFH(Dynamic Flying Height)ヘッドを搭載したものであることが、高記録密度化の観点から好ましい。
上記磁気記録装置として、デスクトップパソコン、サーバ用コンピュータ、ノート型パソコン、モバイル型パソコンなどの各種コンピュータの内部記憶装置(固定ディスクなど)、画像および/または音声を記録再生する携帯記録再生装置の内部記憶装置、車載オーディオの記録再生装置を例示することができる。
【実施例】
【0097】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0098】
(1)熔融ガラスの作製
表2〜4に示す各組成のガラスが得られるように酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、混合して調合原料とした。この原料を熔融容器に投入して1500〜1600℃の範囲で3〜6時間、加熱、熔融し、清澄、攪拌して泡、未熔解物を含まない均質な熔融ガラスを作製し、成形して8種のガラスを得た。得られたガラスNo.1〜No.16の中には泡や未熔解物、結晶の析出、熔融容器を構成する耐火物の混入物は認められなかった。
【0099】
(2)基板ブランクの作製
次に、下記方法AまたはBにより、円盤状の基板ブランクを作製した。
(方法A)
清澄、均質化した上記熔融ガラスをパイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、直径66mm、厚さ2mmの薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールし、基板ブランクを得た。なお、上記成形では複数の下型を用いて流出する熔融ガラスを次々に円盤形状の基板ブランクに成形した。
(方法B)
清澄、均質化した上記熔融ガラスを円筒状の貫通孔が設けられた耐熱性鋳型の貫通孔に上部から連続的に鋳込み、円柱状に成形して貫通孔の下側から取り出した。取り出したガラスをアニールした後、マルチワイヤーソーを用いて円柱軸に垂直な方向に一定間隔でガラスをスライス加工し、円盤状の基板ブランクを作製した。
なお、本実施例では上記方法A、Bを採用したが、円盤状の基板ブランクの製造方法としては、下記方法C、Dも好適である。
(方法C)
上記熔融ガラスをフロートバス上に流し出し、シート状のガラスに成形(フロート法による成形)し、次いでアニールした後にシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
(方法D)
上記熔融ガラスをオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)によりシート状のガラスに成形、アニールし、次いでシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
【0100】
(3)ガラス基板の作製
上記各方法で得られた基板ブランクの中心に貫通孔をあけて、外周、内周の研削加工を行い、円盤の主表面をラッピング、ポリッシング(鏡面研磨加工)して直径65mm、厚さ0.8mmの磁気ディスク用ガラス基板に仕上げた。得られたガラス基板は、1.7質量%の珪弗酸(H
2SiF)水溶液、次いで、1質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで純水ですすいだ後に乾燥させた。表2に示す10種のガラスから作製した基板の表面を拡大観察したところ、表面荒れなどは認められず、平滑な表面であった。
次に上記ディスク状のガラス基板を硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合熔融塩に浸漬し、イオン交換(化学強化)によって表面にイオン交換層を有するガラス基板を得た。化学強化条件を表2〜4に示す。このようにイオン交換処理(化学強化処理)を施すことは、ガラス基板の耐衝撃性を高めるために有効である。イオン交換処理を施した複数枚のガラス基板から、サンプリングしたガラス基板の断面(イオン交換層を切る面)をバビネ法により観察し、イオン交換層が形成されていることを確認した。
イオン交換層はガラス基板表面の全域に形成してもよいし、外周面のみに形成してもよいし、外周面と内周面のみに形成してもよい。
また、イオン交換処理後、イオン交換層を残すように鏡面研磨処理を行ってもよい。破壊靭性値K
1cを大きく低下させないためにはイオン交換層を十分残すことが好ましい。この点から、鏡面研磨処理による取代は、5μm以下とすることがより好ましい。
【0101】
(4)磁気ディスクの作製
以下の方法により、上記ガラス基板の主表面上に、付着層、下地層、磁性層、保護層、潤滑層をこの順に形成し、磁気ディスクを得た。
まず、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にて、Ar雰囲気中で、付着層、下地層および磁性層を順次成膜した。
このとき、付着層は、厚さ20nmのアモルファスCrTi層となるように、CrTiターゲットを用いて成膜した。続いて枚葉・静止対向型成膜装置を用いて、Ar雰囲気中で、DCマグネトロンスパッタリング法にて下地層としてCrRuからなる10nm厚の層を形成した。また、磁性層は、厚さ10nmのFePtまたはCoPt層となるように、FePtまたはCoPtターゲットを用いて成膜温度400℃にて成膜した。
磁性層までの成膜を終えた磁気ディスクを成膜装置から加熱炉内に移し、650〜700℃の温度範囲において条件を適宜選択してアニールした。
続いて、エチレンを材料ガスとしたCVD法により水素化カーボンからなる保護層を3nm形成した。この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)を用いてなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmであった。
以上の製造工程により、磁気ディスクを得た。
【0102】
1.ガラスの評価
(1)ガラス転移温度Tg、熱膨張係数
化学強化処理を施す前の試料のガラス転移温度Tg、ならびに100〜300℃および500〜600℃における平均線膨張係数αを、リガク社製の熱機械分析装置(Thermo plus TMA8310)を用いて測定した。なお上記特性は、いずれも化学強化処理前後において殆んど変化しないことから、化学強化処理後のガラス基板も、上記測定によって得られたガラス転移温度Tg、ならびに100〜300℃および500〜600℃における平均線膨張係数αを有するものとみなす。
(2)ヤング率
化学強化処理を施す前の試料のヤング率を超音波法にて測定した。なおヤング率は、化学強化処理前後において殆んど変化しないことから、化学強化処理後のガラス基板も、上記測定によって得られたヤング率を有するものとみなす。
(3)比重
化学強化処理を施す前の試料の比重をアルキメデス法にて測定した。なお比重は、化学強化処理前後において殆んど変化しないことから、化学強化処理後のガラス基板も、上記測定によって得られた比重を有するものとみなす。
(4)比弾性率
上記(2)で得られたヤング率および(3)で得られた比重から、比弾性率を算出した。
(5)破壊靭性値
AKASHI社製の装置MVK−Eを用い、板状に加工し表2〜4に記載の条件で化学強化処理を施した試料に押し込み荷重9.81Nでビッカース圧子を押し込み、試料に圧痕およびクラックを導入した。
試料のヤング率をE[GPa]、圧痕対角線長さ、表面クラックの半長を測定し、荷重、試料のヤング率から破壊靭性値K
1cを算出した。
(6)Tav/Tmax
板状に加工し表2〜4に記載の条件で化学強化処理を施した試料について、板厚方向の断面をバビネ法で観察し、前述の方法でTmaxとTavを算出し、算出した値からTav/Tmaxを求めた。
【0103】
2.基板の評価(表面粗さ、表面うねり)
化学強化処理前後の各基板の主表面(磁気記録層等を積層する面)の5μm×5μmの矩形領域を512×256ピクセルの解像度で原子間力顕微鏡(AFM)により観察し、1μm×1μmの範囲で512×256ピクセルの解像度で測定される表面粗さの算術平均Ra、5μm×5μmの範囲で512×256ピクセルの解像度で測定される表面粗さの算術平均Raを測定した。さらに、各基板の主表面を光学式表面形状測定装置により観察し、波長100μm〜950μmにおける表面うねりの算術平均Waを測定した。
測定の結果、1μm×1μmの範囲で測定される表面粗さの算術平均Raが0.05〜0.15nmの範囲、5μm×5μmの範囲で測定される表面粗さの算術平均Raが0.03〜0.12nmの範囲、波長100μm〜950μmにおける表面うねりの算術平均Waが0.2〜0.5nmであり、高記録密度の磁気記録媒体に用いられる基板として問題のない範囲であった。
【0104】
表2〜4に示すように、No.1〜No.16の化学強化ガラスからなる基板は、高い耐熱性(高いガラス転移温度)、高剛性(高いヤング率)、高熱膨張係数、高破壊靭性という、磁気記録媒体基板に求められる4つの特性を兼ね備えたものであった。更に表2〜4に示す結果から、No.1〜No.16のガラスからなる基板は、高速回転に耐え得る高い比弾性率を有し、かつ低比重であり基板の軽量化も可能であることも確認できる。加えてガラス基板作製のために実施例で使用したガラスが、化学強化処理によりイオン交換層を容易に形成できるものであり、その結果、高い破壊靭性を示すことも確認された。
図5は、表2、表4に示すNo.1〜No.7、No.11、No.12のガラスについて、化学強化処理後の破壊靭性値を、モル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))に対してプロットしたグラフである。このグラフから、モル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))を下げるほど、破壊靭性値、即ち機械的強度が向上することが確認できる。
一方、モル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が約0.29と大きい表5に示すガラス(No.17)を用いて熔融塩の温度500℃で化学強化を行ったところ、破壊靭性値は0.74MPa・m
1/2であった。さらに、複数枚のガラスを同時に500℃の熔融塩に浸漬し、化学強化したところ、急激に熔融塩が劣化し、強化後の破壊靭性値は0.74MPa・m
1/2に達しなかった。同様に複数枚のガラスを順次、500℃の熔融塩に浸漬し、化学強化しても、2回目以降に化学強化したガラスの破壊靭性値は急激に低下した。これは、前述のとおり、ガラス組成中に含まれるCa
2+イオンが熔融塩中に溶け出し、アルカリ金属イオン同士のイオン効果を阻害したためと推察される。なお、同様の結果が、モル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.2より大きい場合にも見られた。
これに対し、表2〜4に示すNo.1〜16の各ガラスでは、同時に複数枚のガラスを熔融塩に浸漬して化学強化しても、0.80MPa・m
1/2に以上の破壊靭性値を維持することができた。また、No.1〜16の各ガラスでは、複数枚のガラスを順次、熔融塩に浸漬して化学強化しても、0.80MPa・m
1/2以上の破壊靭性値を維持することができた。
このように、モル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.20以下のガラスでは、化学強化による熔融塩の劣化が生じにくく、高い破壊靭性値を有する化学強化ガラスを安定して生産することができる。これに対し、モル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.20を超えると、化学強化によって熔融塩が劣化し、高い破壊靭性値を維持することが困難になる。
なお化学強化後のNo.1〜No.7のガラスには、表面に深さ30〜120μmの圧縮応力層が形成されており、圧縮応力の大きさは2.0kgf/mm
2以上の値(19.6MPa以上の値)となっている。またNo.8〜No.16のガラスには、表面に深さ20〜120μmの圧縮応力層が形成されており、圧縮応力の大きさは2.0kgf/mm
2以上の値(19.6MPa以上の値)となっている。
以上の結果から、本発明によれば、磁気記録媒体基板に求められる特性を兼ね備えたガラスが得られることが確認された。
また、イオン交換処理後に0.5〜5μmの範囲内の取代で鏡面研磨を実施したこと以外は上記と同様にしてガラス基板を作製した。得られた複数枚のガラス基板の断面をバビネ法により観察したところ、イオン交換層が形成されており、機械的強度の劣化は見られなかった。その他特性については上記と同様であった。
【0105】
各実施例(化学強化後のNo.1〜16の各ガラス)について、前記したバビネ法により観察により得られた断面写真では、2つの主表面に垂直な仮想断面における応力プロファイルにおいて、引張応力分布が凸形状であり、アップヒルは見られなかった。これら応力プロファイルから、
図3に基づき説明した前記方法でTav/Tmaxを求めたところ、No.1 〜13のガラスの化学強化後のTav/Tmaxの値は0.8以上であった。また、No.14〜16のガラスの化学強化後のTav/Tmaxの値は0.5以上であった。
上記の応力プロファイルを示す化学強化ガラス基板が遅れ破壊を示さないことを実証するため、以下の試験を行った。
実施例において破壊靭性値を測定した化学強化処理後の試料には、押し込み荷重9.81Nでビッカース圧子を押し込んでできた圧痕が存在する。この圧痕のある試料を環境試験機に入れて温度80℃、相対湿度80%の環境下に7日間放置した後、取り出し、圧痕を観察した。試料は、各実施例ともに100枚ずつ用意し、上記試験を行った結果、いずれの試料においても圧痕からのクラックの伸長は認められなかった。
これに対し、Na
2O、K
2Oを含みLi
2Oを含まないガラス、例えば、No.1のガラス組成において、Li
2Oの全量をNa
2Oに置換した組成を有するガラス、を硝酸カリウムの熔融塩に浸漬して化学強化した試料は、バビネ法による応力プロファイルにおいて、
図2に示すようにアップヒルが観察され、Tav/Tmax<0.5であった。当該試料について、上記試験を行ったところ、100枚のうち8枚について、圧痕からのクラックの伸長が認められ、3枚についてはクラックの伸長が著しく、破損していた。
以上の遅れ破壊の加速試験の結果から、実施例の化学強化ガラス基板において遅れ破壊防止効果が得られていることを確認した。
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
3.磁気ディスクの評価
(1)平坦性
一般に、平坦度が5μm以下であれば信頼性の高い記録再生を行うことができる。上記方法で実施例のガラス基板を用いて形成した各磁気ディスク表面の平坦度(ディスク表面の最も高い部分と、最も低い部分との上下方向(表面に垂直な方向)の距離(高低差))を、平坦度測定装置で測定したところ、いずれの磁気ディスクも平坦度は5μm以下であった。この結果から、実施例のガラス基板は、FePt層またはCoPt層形成時の高温処理においても大きな変形を起こさなかったことが確認できる。
(2)ロードアンロード試験
上記方法で実施例のガラス基板を用いて形成した各磁気ディスクを、回転数10000rpmの高速で回転する2.5インチ型ハードディスクドライブに搭載し、ロードアンロード(Load Unload、以下、LUL)試験を行った。上記ハードディスクドライブにおいて、スピンドルモーターのスピンドルはステンレス製であった。いずれの磁気ディスクもLULの耐久回数は60万回を超えた。また、LUL試験中にスピンドル材料との熱膨張係数の違いによる変形や高速回転によるたわみが生じると試験中にクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害が生じるが、いずれの磁気ディスクも試験中にこれら障害は発生しなかった。
(3)耐衝撃性試験
磁気ディスク用ガラス基板(2.5インチサイズ、板厚0.8mm)を作製し、ランスモント社製MODEL−15Dを用いて衝撃試験を行った。この衝撃試験は、磁気ディスク用ガラス基板を、HDDのスピンドルおよびクランプ部に似せて作製された専用の衝撃試験用治具に組み付け、1msecで1500Gの正弦半波パルスの衝撃を主表面に対する垂直方向に与え、この磁気ディスク用ガラス基板の破損状況を見ることによって行った。その結果、実施例のガラス基板においては破損が観察されなかった。
【0111】
以上の結果から、本発明によれば、耐衝撃性に優れ、信頼性の高い記録再生が可能である磁気記録媒体用ガラス基板が得られることが確認できる。
【0112】
上記方法で実施例のガラス基板を用いて作製した磁気ディスクをレーザー光の照射により磁化反転をアシストする記録方式(熱アシスト記録方式)のハードディスクドライブに搭載し、熱アシスト記録方式の磁気記録装置を作製した。前記磁気記録装置は、磁気記録媒体(磁気ディスク)の主表面を加熱するための熱源(レーザー光源)と、記録素子部と、再生素子部とを有する熱アシスト磁気記録ヘッド、および磁気ディスクを有する。なお、上記磁気記録装置の磁気ヘッドはDFH(Dynamic Flying Height)ヘッドであり、磁気ディスクの回転数は10000rpmである。これとは別に、作製した磁気ディスクをマイクロ波によりアシストする記録方式(マイクロ波アシスト記録方式)のハードディスクドライブに搭載し、マイクロ波アシスト記録方式の情報記録装置を作製した。これら作製したHDD(ハードディスクドライブ)はいずれも良好に動作した。このように高Ku磁性材料とエネルギーアシスト記録の組み合わせた情報記録装置によれば、先に説明したように高密度記録を実現することができる。
【0113】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。