特許第6042876号(P6042876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042876
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】コーティング組成物および医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/00 20060101AFI20161206BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   A61L29/00 W
   A61L31/00 B
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-507711(P2014-507711)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2013057495
(87)【国際公開番号】WO2013146377
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年2月1日
(31)【優先権主張番号】61/721725
(32)【優先日】2012年11月2日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2012-71668(P2012-71668)
(32)【優先日】2012年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-12180(P2013-12180)
(32)【優先日】2013年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山下 恵子
(72)【発明者】
【氏名】野沢 滋典
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−540159(JP,A)
【文献】 特表2010−509991(JP,A)
【文献】 特表2008−502376(JP,A)
【文献】 特表2008−509722(JP,A)
【文献】 特表2010−516307(JP,A)
【文献】 European Journal of Pharmacology,1990年,Vol.178,No.2,p251−254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/00−29/18
A61L 31/00−31/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性薬剤としてのパクリタキセルと、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つとを含有する、薬剤溶出性のバルーンのためのコーティング組成物;
ここで前記エステル化合物が、グリシン、セリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、トレオニン、ヒスチジン、リシン、チロシン、トリプトファンおよびこれらのアミノ酸のα位のアミノ基の水素原子の少なくとも1つが炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸、ならびにプロリンおよびプロリンのイミノ基の水素原子が炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸と、炭素数5以下の一価アルコールとのエステル化合物である。
【請求項2】
前記アミノ酸が、グリシン、アルギニン、アスパラギン酸、セリンおよびこれらのアミノ酸のα位のアミノ基の水素原子の少なくとも1つが炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸である請求項1に記載の、薬剤溶出性のバルーンのためのコーティング組成物。
【請求項3】
前記エステル化合物がベンジルグリシンエチルエステル、ベンジルグリシンメチルエステル、アルギニンエチルエステル、アルギニンメチルエステル、ベンゾイルアルギニンエチルエステル、ベンゾイルアルギニンメチルエステル、アスパラギン酸ジエチルエステル、アスパラギン酸メチルエステル、アスパラギン酸ジメチルエステル、グリシンエチルエステル、グリシンメチルエステル、セリンエチルエステルおよびセリンメチルエステルからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の薬剤溶出性のバルーンのためのコーティング組成物。
【請求項4】
前記エステル化合物および/またはその塩を、前記水不溶性薬剤100質量部に対して、5〜200質量部有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
さらに低級アルコールを含有する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薬剤溶出性のバルーンのためのコーティング組成物。
【請求項6】
前記低級アルコールがグリセリンである、請求項5に記載の薬剤溶出性のバルーンのためのコーティング組成物。
【請求項7】
前記水不溶性薬剤がさらに、パクリタキセル誘導体、ラパマイシン、ドセタキセルおよびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のコーティング組成物によりバルーンの表面の少なくとも一部に形成される薬剤コート層。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のコーティング組成物で外面がコートされた薬剤溶出性のバルーン。
【請求項10】
前記バルーンが、その表面の少なくとも一部が、ポリアミド類である請求項1ないし9のいずれか1項に記載の組成物、薬剤コート層またはバルーン。
【請求項11】
前記ポリアミド類が、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p−フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミド、および、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーからなる群から選択される少なくとも一つである請求項9または10に記載のバルーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤溶出性の医療機器のためのコーティング組成物、薬剤溶出性の医療機器の薬剤コート層および/またはそのコーティング組成物でコートされた薬剤溶出性の医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
局所薬剤デリバリー治療の一例として、薬剤溶出ステント(DES)がある。DESは、局所で薬剤を長期にわたって持続的に放出することによって、血管の再狭窄を防止するように設計されている。DESの薬剤徐放は、ポリ乳酸(PLA)等のポリマーコンジュゲートにより達成されているが、該ポリマーが長期的に生体内に残存するため、病変患部での慢性炎症や遅発性血栓など、重篤な合併症が課題とされている。
【0003】
従来、再狭窄を抑制するためには、長期の薬剤徐放が必要であると報告されてきた。ところが、近年では、薬剤を標的組織に急速に移行させ、短期の薬剤持続効果でも再狭窄を防止することができることが明らかになりつつある。急速に薬剤を送達する技術は、徐放のためのPLA(ポリ乳酸)やPLGA(ポリ乳酸−グリコール酸共重合体)等のポリマーマトリクスを必要とせず、合併症を回避するために有利である。
【0004】
また、近年では、バルーンカテーテルに薬剤をコートした薬剤溶出バルーン(DEB:Drug Eluting Balloon)の開発も積極的に行われており、再狭窄の治療および予防に効果的であると報告されている。バルーンは、薬剤および添加剤を含むコーティングによってコートされており、血管を拡張した際にバルーンを血管壁に押付け、薬剤を標的組織に送達させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、バルーンが標的組織に送達されるまでの過程で、薬剤が容易にバルーンから剥がれると、病変患部に送達されたときには既に、治療効果に十分な薬剤がバルーンに残存しない状態になり、期待される治療効果が望めない。また、送達過程で容易に剥がれてしまった薬剤は、不必要に血中に暴露することになるため、安全性の面でも好ましくない。従って、薬剤でコートしたバルーンカテーテルを、病変患部に薬剤が剥がれることなく送達させ、拡張と同時にバルーンを血管壁に押し付け、薬剤を迅速に放出させることを可能にする薬剤コート層が望まれる。
【0006】
また、薬剤と一緒にコーティングされる低分子化合物について、その化合物の疎水性が強すぎると、水不溶性薬剤との疎水性相互作用が強くなり、かつ、これらの疎水性領域がバルーン表面と強い親和性をもつため、バルーンが患部(血管内表面)と接触しても薬剤がバルーンから患部へ放出(移行)しにくくなる。さらに、疎水性薬剤と一緒に混合する低分子化合物の疎水性が強いと、水不溶性薬剤同士の疎水性相互作用が強くなり、医療機器表面に凝集しやすく、均一にコートすることが難しい場合がある。また、凝集した状態で医療機器表面にコートされた薬剤は取り扱いの間に容易にバルーン表面から脱落しやすく、安全性および機能面で好ましくない。一方、低分子化合物の親水性が強すぎると、水不溶性薬剤と混合することが難しい場合があり、安定な薬剤コート層溶液を調製することが困難になる場合や、その強い親水性によって、薬剤とともに容易に血流に流される可能性も出てくる。従って、薬剤と一緒にコーティングされる低分子化合物には、水不溶性薬剤同士の疎水性相互作用を緩和し、薬剤を均一に分散させることのできる親水性領域と共に、水不溶性薬剤と親和性のある疎水性領域も共存することが望ましく、それらのバランスが重要である。
【0007】
そこで、本発明は、再狭窄などの血管患部を治療するために、標的組織に送達する過程で薬剤が容易に医療機器から剥がれることなく送達することができ、送達後、病変患部において迅速に薬剤を放出し、薬剤の標的組織への移行性を高めることを可能にする薬剤溶出性の医療機器のためのコーティング組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、水不溶性薬剤と、アミノ酸側鎖の疎水性指標(hydropathy index;HI)が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つとを含有するコーティング組成物を用いると、医療機器の表面に、再狭窄などの血管患部を治療するために、標的組織に送達する過程で薬剤が容易に医療機器から剥がれることなく送達することができる薬剤コート層を形成することができることを知得し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(13)を提供する。
(1)水不溶性薬剤としてのパクリタキセルと、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つとを含有する、薬剤溶出性のバルーンのためのコーティング組成物;
ここで前記エステル化合物が、グリシン、セリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、トレオニン、ヒスチジン、リシン、チロシン、トリプトファンおよびこれらのアミノ酸のα位のアミノ基の水素原子の少なくとも1つが炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸、ならびにプロリンおよびプロリンのイミノ基の水素原子が炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸と、炭素数5以下の一価アルコールとのエステル化合物である。
(2)前記アミノ酸がαアミノ酸である、上記(1)に記載のコーティング組成物。
(3)前記エステル化合物が、グリシン、セリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、トレオニン、ヒスチジン、リシン、チロシン、トリプトファンおよびこれらのアミノ酸のα位のアミノ基の水素原子の少なくとも1つが炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸、ならびにプロリンおよびプロリンのイミノ基の水素原子が炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸と、炭素数5以下の一価アルコールとのエステル化合物である、上記(1)または(2)に記載のコーティング組成物。
(4)前記エステル化合物が下記式
【化1】
[式中、Rは、水素原子、グアニジノプロピル基、カルバモイルメチル基、カルボキシメチル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、2−カルバモイル−エチル基、2−カルボキシエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−エトキシカルボニルエチル基、(1H−イミダゾール−4−イル)メチル基、4−アミノブチル基、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、(1H-インドール−3−イル)メチル基もしくは4−ヒドロキシベンジル基であるか、またはRとともにトリメチレン基を形成し、Rは、水素原子であるか、またはRとともにトリメチレン基を形成し、Rは、水素原子、炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基であり、Rは、炭素数5以下のアルキル基である。]で表される、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のコーティング組成物。
(5)前記エステル化合物がベンジルグリシンエチルエステル、ベンジルグリシンメチルエステル、アルギニンエチルエステル、アルギニンメチルエステル、ベンゾイルアルギニンエチルエステル、ベンゾイルアルギニンメチルエステル、アスパラギン酸ジエチルエステル、アスパラギン酸メチルエステル、アスパラギン酸ジメチルエステル、グリシンエチルエステル、グリシンメチルエステル、セリンエチルエステルおよびセリンメチルエステルからなる群から選択される少なくとも1つである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のコーティング組成物。
(6)さらに低級アルコールを含有する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のコーティング組成物。
(7)前記低級アルコールがグリセリンである、上記(6)に記載のコーティング組成物。
(8)前記水不溶性薬剤がラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセルおよびエベロリムスであるからなる群から選択される少なくとも1つであるコーティング組成物
(9)前記医療機器が管腔内で径方向に拡張可能な医療機器であるコーティング組成物
(10)前記管腔内で径方向に拡張可能な医療機器がバルーンカテーテルまたはステントである、上記(9)に記載のコーティング組成物。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のコーティング組成物により医療機器の表面の少なくとも一部に形成される薬剤コート層。
(12)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のコーティング組成物で外面がコートされた薬剤溶出性の医療機器。
(13)上記(12)に記載の医療機器を管腔内に送達するステップと、上記管腔内で上記医療機器を径方向に拡張させるステップと、上記医療機器の表面の少なくとも一部に形成された薬剤コート層から薬剤を溶出させ、上記管腔に薬剤を作用させるステップとを備える医療機器の作動方法
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、再狭窄などの血管患部を治療するために、標的組織に送達する過程で薬剤が容易に医療機器から剥がれることなく送達することができ、送達後、病変患部において迅速に薬剤を放出し、薬剤の標的組織への移行性を高めることを可能にする薬剤溶出性の医療機器のためのコーティング組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、模倣血管を用いた薬剤コート層耐性評価試験において、模倣血管内に設置したガイディングカテーテルに、バルーンカテーテルを挿入した状態の実験装置の断面模式図である。
図2図2は、模倣血管を用いた薬剤コート層耐性評価における、実施例1〜7および比較例C1〜C4の薬剤溶出バルーンのデリバリー操作後のバルーン上パクリタキセル残存率を表すグラフである。
図3図3は、ウサギ腸骨動脈における薬剤組織移行性評価における、実施例8、比較例C5およびC6の血管組織中パクリタキセル量を表すグラフである。
図4図4は、ウサギ腹大動脈における組織中薬剤滞留性評価における、実施例9および10の、血管内拡張1時間後および24時間後の血管組織中パクリタキセル量を表すグラフである。
図5図5は、ブタ冠動脈における有効性評価における、実施例9〜11および比較例C6、C7の狭窄率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.コーティング組成物
本発明のコーティング組成物は、水不溶性薬剤と、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つとを含有する、薬剤溶出性の医療機器のためのコーティング組成物である。
【0013】
本発明のコーティング組成物は、水不溶性薬剤と、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つとを含み、これらが混じりあった混合物(ブレンド)であり、非ポリマー被覆である。これらの各成分は互いに共有結合で結合していない。
本発明のコーティング組成物は、均一にコーティングされ、患部に送達するまでの脱落を抑え、かつ患部で薬剤を効率良く放出することが望まれるため、水不溶性薬剤と混合される低分子化合物は、水および水混和性有機溶剤と混和することができ、かつ疎水性の水不溶性薬剤とも親和性を有するものが好ましく、この点から、疎水性指標が0以下の側鎖を有するアミノ酸のエステル化合物および/またはその塩が好ましい。
一方、例えば、クエン酸エステルなどは、カルボキシル基を1分子中に3個有するが、その部分がエステル化されることにより極性が大きく低下すると推測される。その結果、水不溶性薬剤との親和性は向上するが、極性が下がり水不溶性薬剤との疎水性相互作用が強くなるため、薬剤同士が凝集しやすくなり、また患部で薬剤がバルーン表面から放出しにくくなり、好ましいコーティング組成物は得られないと推測される。
【0014】
(1)水不溶性薬剤
水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5〜8で5mg/mL未満である。その溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
【0015】
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
【0016】
水不溶性薬剤としては、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセルおよびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスは、それぞれ、同様の薬効を有する限り、それらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルとは類似体の関係にあり、ラパマイシンとエベロリムスとは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
【0017】
本発明のコーティング組成物は、上記水不溶性薬剤を、好ましくは5〜60mg/mLの濃度で、より好ましくは20〜50mg/mLの濃度で、さらに好ましくは30〜40mg/mLの濃度で、含有する。
【0018】
(2)アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩
2−1)アミノ酸側鎖の疎水性指標
アミノ酸側鎖の疎水性指標(hydropathy index)とは、アミノ酸の側鎖の疎水性、親水性を表し、数字が大きいほど、アミノ酸の疎水性が大きい。以下、単に「疎水性指標」という場合がある。
本発明において、疎水性指標は、“Kyte and Doolittle, J. Mol. Biol., 157, 105−132(1982)”による疎水性指標をいう。
疎水性指標は0以下であれば特に限定されない。
表1に、代表的なアミノ酸の疎水性指標を示す。表1中、“Amino acid”はアミノ酸を、“CAS no.”はCAS登録番号を、“H.I.”は疎水性指標を、それぞれ意味する。
【0019】
【表1】
【0020】
2−2)アミノ酸のエステル化合物およびその塩
上記アミノ酸は、側鎖の疎水性指標が0以下であれば特に限定されるものではないが、αアミノ酸が好ましい。
また、上記エステル化合物は、疎水性指標が0以下である側鎖を有するアミノ酸のエステル化合物であれば特に限定されないが、αアミノ酸のエステル化合物が好ましく、グリシン、セリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、トレオニン、ヒスチジン、リシン、チロシン、トリプトファンおよびこれらのアミノ酸のα位のアミノ基の水素原子の少なくとも1つが炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸、ならびにプロリンおよびプロリンのイミノ基の水素原子が炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基で置換されたアミノ酸からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸と、炭素数5以下の一価アルコールとのエステル化合物がより好ましく、下記式
【化2】
[式中、Rは、水素原子、グアニジノプロピル基、カルバモイルメチル基、カルボキシメチル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、2−カルバモイル−エチル基、2−カルボキシエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−エトキシカルボニルエチル基、(1H−イミダゾール−4−イル)メチル基、4−アミノブチル基、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、(1H-インドール−3−イル)メチル基もしくは4−ヒドロキシベンジル基であるか、またはRとともにトリメチレン基を形成し、Rは、水素原子であるか、またはRとともにトリメチレン基を形成し、Rは、水素原子、炭素数5以下のアルキル基、ベンジル基またはベンゾイル基であり、Rは、炭素数5以下のアルキル基である。]で表されるエステル化合物がさらに好ましく、ベンジルグリシンエチルエステル、ベンジルグリシンメチルエステル、アルギニンエチルエステル、アルギニンメチルエステル、ベンゾイルアルギニンエチルエステル、ベンゾイルアルギニンメチルエステル、アスパラギン酸ジエチルエステル、アスパラギン酸メチルエステル、アスパラギン酸ジメチルエステル、グリシンエチルエステル、グリシンメチルエステル、セリンエチルエステルおよびセリンメチルエステルからなる群から選択される少なくとも1つがいっそう好ましい。
【0021】
上記エステル化合物の塩は、特に限定されないが、塩酸塩または酢酸塩が好ましく、塩酸塩がより好ましい。また、エステル結合の一部となっていない遊離のカルボキシ基が存在する場合には、アルカリ金属塩であってもよく、アルカリ金属としては、ナトリウムが好ましい。
【0022】
アミノ酸のエステル化合物の塩は、アミノ基の塩、例えば塩酸塩により極性(水溶性)が向上する。また、アミノ酸の側鎖の特性によって、親水性/疎水性、塩基性/酸性などの異なる性質を示すことができる。本発明において、アミノ酸のエステル化合物およびその塩は、疎水性指標が0以下の側鎖であれば特に限定されないが、極性であることが好ましく、それら自身および/または共存する水不溶性薬剤の加水分解などの分解を抑制する点から、極性でかつ中性であることがさらに好ましい。このように、本発明において、アミノ酸のエステル化合物およびその塩は、側鎖の特性およびアミノ基の極性によって、極性を有することができ、また、それらはアミノ酸の側鎖の種類によって、異なる極性を有し、良好なコーティング組成物を与えることができる。
【0023】
本発明のコーティング組成物は、上記エステル化合物および/またはその塩を、合計で、上記水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは5〜200質量部、より好ましくは8〜150質量部、さらに好ましくは12〜120質量部含有する。
【0024】
(3)その他の好ましい含有成分
本発明のコーティング組成物は、さらに低級アルコールを含有することが好ましい。低級アルコールを含有すると、水不溶性薬剤の血管浸透性を増強することができ、また、薬剤コート層の均一性を高めることができる。低級アルコールは、炭素数5以下のアルコールであれば特に限定されないが、炭素数5以下のトリオールまたはテトラオールが好ましく、グリセリン(「グリセロール」または「プロパン−1,2,3−トリオール」ともいう。)、1,2,4−ブタントリール(「ブタン−1,2,4−トリオール」ともいう。)またはエリトリトール(「(2R,3S)−ブタン−1,2,3,4−テトラオール」ともいう。)がより好ましく、グリセリンがさらに好ましい。
【0025】
本発明のコーティング組成物が上記低級アルコールを含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、上記水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは10〜500質量部、より好ましくは30〜300質量部、さらに好ましくは50〜200質量部である。
【0026】
(4)その他の含有してもよい成分
本発明のコーティング組成物は、上記成分の他に、水、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン等の、上記成分の溶媒を含んでもよく、さらに、本発明の効果を妨げないことを条件に、その他の添加剤を含有してもよい。
【0027】
2.薬剤コート層
本発明の薬剤コート層は、本発明のコーティング組成物により医療機器の表面の少なくとも一部に形成された層であり、水不溶性薬剤と、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つとを含有する、層である。
【0028】
上記薬剤コート層は、本発明のコーティング組成物を、医療機器の表面にコートし、乾燥させることによって形成することができるが、この方法に限定されるものではない。
【0029】
上記薬剤コート層には薬剤量を、特に限定されないが、0.1μg/mm〜10μg/mm、好ましくは0.5μg/mm〜5μg/mmの密度で、より好ましくは0.5μg/mm〜3.5μg/mm、さらに好ましくは1.0μg/mm〜3.0μg/mmの密度で含有する。
【0030】
3.薬剤溶出性の医療機器
本発明の薬剤溶出性の医療機器は、その表面上に直接、または有機溶剤、プライマー照射、UV照射等の前処理を介して上記薬剤コート層を有する。医療機器としては、血管等の管腔内で径方向(周方向)に拡張可能な医療機器が好ましく、バルーンカテーテルまたはステントがより好ましい。
【0031】
本発明の薬剤溶出性の医療機器の表面の少なくとも一部には、水不溶性薬剤と、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも1つとを含有する、薬剤コート層が形成されている。この薬剤コート層は、医療機器の表面との親和性が高く、当該医療機器の送達過程において剥離または脱落しにくく、さらに、病変患部組織との親和性も高いため、標的組織においては迅速に薬剤を溶出することが期待される。バルーンカテーテルの場合、拡張部(バルーン)の外表面の少なくとも一部に薬剤コート層が形成される。またステントの場合、拡張部の外表面の少なくとも一部に薬剤コート層が形成される。
【0032】
医療機器の拡張部の材質は、ある程度の柔軟性と血管や組織等に到達した時拡張されてその表面に有する薬剤コート層から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、薬剤コート層が設けられる拡張部の表面は樹脂で構成されている。拡張部の表面を構成する樹脂としては、特に限定されないが、好適にはポリアミド類が挙げられる。すなわち、薬剤をコートする医療機器の拡張部の表面の少なくとも一部がポリアミド類である。ポリアミド類としては、アミド結合を有する重合体であれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p−フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミドなどが挙げられる。さらに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルなどをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーも、本発明に係る医療機器の基材として用いることができる。上記ポリアミド類は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
また、医療機器の拡張部の他の部分には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0034】
4.薬剤溶出性の医療機器を用いる治療方法
本発明の薬剤溶出性の医療機器を用いる治療方法は、当該医療機器の表面の少なくとも一部に形成された薬剤コート層から薬剤を溶出するステップを備える。より詳細には、本発明の薬剤溶出性の医療機器を用いる治療方法は、当該医療機器を管腔内に送達するステップと、前記管腔内で前記医療機器を径方向に拡張させるステップと、前記医療機器の表面の少なくとも一部に形成された薬剤コート層から薬剤を溶出させ、前記管腔に薬剤を作用させるステップとを備えることが好ましい。
上記本発明の薬剤溶出性の医療機器を管腔内に送達するステップは、従来公知のバルーンやステントと同様に行うことができる。例えば、本発明の薬剤溶出性のバルーンまたはステントを冠動脈の狭窄部に送達する場合には、患者の手首または太股の動脈から筒状になっているガイディングカテーテルを心臓冠動脈の入口部まで挿入し、ガイディングカテーテルの中にガイドワイヤーを挿入し、バルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿って挿入することで、バルーンまたはステントを狭窄部に送達することができる。
本発明の薬剤溶出性の医療機器を管腔内で径方向に拡張させるステップは、従来公知のバルーンやステントと同様に行うことができる。
本発明の薬剤溶出性の医療機器の表面の少なくとも一部に形成された薬剤コート層から薬剤を溶出させ、前記管腔に薬剤を作用させるステップは、管腔内で拡張させた医療機器を、薬剤溶出バルーンを拡張したまま数十秒間〜数分間保持したり、薬剤溶出ステントを留置したりすることによって行うことができる。これにより、管腔が拡張され、薬剤コート層の薬剤が管腔組織に作用する。
本発明の薬剤溶出性の医療機器を用いる治療方法は、例えば、血管狭窄症の治療に適用することができ、薬剤としてパクリタキセル等の抗がん剤や免疫抑制剤など細胞増殖を抑える薬剤を利用することで、再狭窄を防止することができる。
【0035】
本発明のコーティング組成物が含有するアミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸のエステル化合物およびその塩は、血栓形成の誘導を起こさないなど生体適合性が高く、すみやかに生分解されるため、安全性の面でも好ましい薬剤溶出性の医療機器を提供することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[薬剤溶出バルーンの作製または市販のバルーンの準備]
〈アミノ酸エステル溶液の調製例〉
(30mg/mL アルギニンエチルエステル溶液)
L−アルギニンエチルエステル二塩酸塩(CAS No.36589−29−4)(60mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、30mg/mL L−アルギニンエチルエステル溶液を調製した。
【0038】
(30mg/mL Nα−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル溶液)
Nα−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル塩酸塩(CAS No.2645−08−1)(60mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、30mg/mL Nα−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル溶液を調製した。
【0039】
(30mg/mL L−アスパラギン酸ジメチルエステル溶液)
L−アスパラギン酸ジメチルエステル塩酸塩(CAS No.32213−95−9)(60mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、30mg/mL L−アスパラギン酸ジメチルエステル溶液を調製した。
【0040】
(50mg/mL L−アスパラギン酸ジメチルエステル溶液)
L−アスパラギン酸ジメチルエステル塩酸塩(50mg)を量りとり、無水エタノール(0.5mL)およびRO水(0.5mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、50mg/mL L−アスパラギン酸ジメチルエステル溶液を調製した。
【0041】
(30mg/mL L−セリンエチルエステル溶液)
L−セリンエチルエステル塩酸塩(CAS No.26348−61−8)(60mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、30mg/mL L−セリンエチルエステル溶液を調製した。
【0042】
(70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液1)
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液を調製した。
【0043】
(70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液2)
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)を量りとり、RO水(1.5mL)および無水エタノール(0.5mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液を調製した。
【0044】
(70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液3)
L−セリンエチルエステル塩酸塩(140mg)を量りとり、RO水(2mL)に加えて溶解し、70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液を調製した。
【0045】
(30mg/mL グリシンエチルエステル溶液)
グリシンエチルエステル塩酸塩(CAS No.623−33−6)(60mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、30mg/mL グリシンエチルエステル溶液を調製した。
【0046】
(40mg/mL N−ベンジルグリシンエチルエステル溶液)
N−ベンジルグリシンエチルエステル塩酸塩(CAS No.6344−42−9)(80mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、40mg/mL N−ベンジルグリシンエチルエステル溶液を調製した。
【0047】
(40mg/mL L−アラニンエチルエステル溶液)
L−アラニンエチルエステル塩酸塩(CAS No.1115−59−9)(80mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、40mg/mL L−アラニンエチルエステル溶液を調製した。
【0048】
(30mg/mL L−バリンメチルエステル溶液)
L−バリンメチルエステル塩酸塩(CAS No.6306−52−1)(54mg)を量りとり、無水エタノール(1.5mL)およびRO水(0.3mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、30mg/mL L−バリンメチルエステル溶液を調製した。
【0049】
(50mg/mL L−バリンメチルエステル溶液)
L−バリンメチルエステル塩酸塩(CAS No.6306−52−1)(90mg)を量りとり、無水エタノール(1.5mL)およびRO水(0.3mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、50mg/mL L−バリンメチルエステル溶液を調製した。
【0050】
〈アミノ酸溶液の調製例〉
(40mg/mL L−アルギニン溶液)
L−アルギニン塩酸塩(CAS No.1119−34−2)(80mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびRO水(1mL)からなるエタノール/水混合液に加えて溶解し、40mg/mL L−アルギニン溶液を調製した。
【0051】
(70mg/mL L−セリン溶液)
L−セリン(CAS No.56−45−1)(70mg)を量りとり、RO水(1mL)に加えて溶解し、70mg/mL L−セリン溶液を調製した。
【0052】
〈パクリタキセル溶液の調製例〉
(20mg/mL パクリタキセル溶液)
パクリタキセル(CAS No.33069−62−4)(40mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびアセトン(1mL)からなるエタノール/アセトン混合液に加えて溶解し、20mg/mL パクリタキセル溶液を調製した。
【0053】
(40mg/mL パクリタキセル溶液1)
パクリタキセル(CAS No.33069−62−4)(80mg)を量りとり、無水エタノール(1mL)およびアセトン(1mL)からなるエタノール/アセトン混合液に加えて溶解し、40mg/mL パクリタキセル溶液1を調製した。
【0054】
(40mg/mL パクリタキセル溶液2)
パクリタキセル(160mg)を量りとり、テトラヒドロフラン(CAS No.109−99−9)(4mL)に加えて溶解し、40mg/mL パクリタキセル溶液2を調製した。
【0055】
(56mg/mL パクリタキセル溶液1)
パクリタキセル(336mg)を量りとり、テトラヒドロフラン(6mL)に加えて溶解し、56mg/mL パクリタキセル溶液1を調製した。
【0056】
(56mg/mL パクリタキセル溶液2)
パクリタキセル(224mg)を量りとり、テトラヒドロフラン(2.66mL)および無水エタノール(1.34mL)からなるTHF/エタノール混合液に加えて溶解し、56mg/mL パクリタキセル溶液2を調製した。
【0057】
(56mg/mL パクリタキセル溶液3)
パクリタキセル(336mg)を量りとり、テトラヒドロフラン(4mL)および無水エタノール(2mL)からなるTHF/エタノール混合液に加えて溶解し、56mg/mL パクリタキセル溶液3を調製した。
【0058】
(56mg/mL パクリタキセル溶液4)
パクリタキセル(224mg)を量りとり、テトラヒドロフラン(2mL)および無水エタノール(2mL)からなるTHF/エタノール混合液に加えて溶解し、56mg/mL パクリタキセル溶液4を調製した。
【0059】
(56mg/mL パクリタキセル溶液5)
パクリタキセル(448mg)を量りとり、無水エタノール(4mL)およびアセトン(4mL)からなるエタノール/アセトン混合液に加えて溶解し、56mg/mL パクリタキセル溶液5を調製した。
【0060】
〈グリセリン溶液の調製例〉
(50% グリセリン溶液1)
グリセリン(CAS No.56−81−5)(100μL)と、無水エタノール(100μL)とを混合し、50% グリセリン溶液1を調製した。
【0061】
(50% グリセリン溶液2)
グリセリン(500μL)と、無水エタノール(500μL)とを混合し、50% グリセリン溶液2を調製した。
【0062】
〈実施例1〉
(1)コーティング溶液1の調製
40mg/mL N−ベンジルグリシンエチルエステル溶液(25μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(150μL)と、無水エタノール(25μL)とを混合し、コーティング溶液1を調製した。コーティング溶液1中のパクリタキセルに対するベンジルグリシンエチルエステルの質量比(BnGly−OEt/PTX)は0.50であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、バルーン(拡張部)の素材はナイロンエラストマー)を準備した。パクリタキセル量が約2μg/mmとなるように、コーティング溶液1を拡張したバルーンにピペットでコートし、バルーンを乾燥させ、薬剤溶出バルーンを作製した。
【0063】
〈実施例2〉
(1)コーティング溶液2の調製
30mg/mL L−アルギニンエチルエステル溶液(50μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(60μL)とを混合し、コーティング溶液2を調製した。コーティング溶液2中のパクリタキセルに対するL−アルギニンエチルエステルの質量比(Arg−OEt/PTX)は0.63であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液2を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0064】
〈実施例3〉
(1)コーティング溶液3の調製
30mg/mL Nα−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル溶液(50μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(50μL)とを混合し、コーティング溶液3を調製した。コーティング溶液3中のパクリタキセルに対するNα−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステルの質量比(BzArg−OEt/PTX)は0.75であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液3を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0065】
〈実施例4〉
(1)コーティング溶液4の調製
30mg/mL L−アスパラギン酸ジメチルエステル溶液(50μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(75μL)とを混合し、コーティング溶液4を調製した。コーティング溶液4中のパクリタキセルに対するL−アスパラギン酸ジメチルエステルの質量比(Asp−DiOMe/PTX)は0.63であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液4を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0066】
〈実施例5〉
(1)コーティング溶液5の調製
30mg/mL グリシンエチルエステル溶液(50μL)と、40mg/mLパクリタキセル溶液1(110μL)とを混合し、コーティング溶液5を調製した。コーティング溶液5中のパクリタキセルに対するグリシンエチルエステルの質量比(Gly−OEt/PTX)は0.63であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液5を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0067】
〈実施例6〉
(1)コーティング溶液6の調製
30mg/mL L−セリンエチルエステル溶液(50μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(90μL)とを混合し、コーティング溶液6を調製した。コーティング溶液6中のパクリタキセルに対するL−セリンエチルエステルの質量比(Ser−OEt/PTX)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液6を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0068】
〈実施例7〉
(1)コーティング溶液7の調製
30mg/mL L−アルギニンエチルエステル溶液(160μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(200μL)と、50%グリセリン溶液1(20μL)とを混合し、コーティング溶液7を調製した。コーティング溶液7中のパクリタキセルに対するL−アルギニンエチルエステルの質量比(Arg−OEt/PTX)は0.60であった。
コーティング溶液7は、L−アルギニンエチルエステル(Arg−OEt、アミノ酸側鎖の疎水性指標=−4.5)およびパクリタキセル(PTX)に加えて、さらにグリセリンを含有するコーティング溶液である。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液7を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0069】
〈実施例8〉
(1)コーティング溶液8の調製
50mg/mL L−アスパラギン酸ジメチルエステル溶液(90μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液2(240μL)とを混合し、コーティング溶液8を調製した。コーティング溶液8中のパクリタキセルに対するL−アスパラギン酸ジメチルエステルの質量比(Asp−DiOMe/PTX)は0.47であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液8を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0070】
〈実施例9〉
(1)コーティング溶液9の調製
70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液1(80μL)と、56mg/mL パクリタキセル溶液1(240μL)と、50% グリセリン溶液2(16μL)とを混合し、コーティング溶液9を調製した。コーティング溶液9中のパクリタキセルに対するL−セリンエチルエステルの質量比(Ser−OEt/PTX)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液9を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0071】
〈実施例10〉
(1)コーティング溶液10の調製
70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液1(80μL)と、56mg/mL パクリタキセル溶液1(240μL)とを混合し、コーティング溶液10を調製した。コーティング溶液10中のパクリタキセルに対するL−セリンエチルエステルの質量比(Ser−OEt/PTX)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液10を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0072】
〈実施例11〉
(1)コーティング溶液11の調製
70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液1(800μL)と、56mg/mL パクリタキセル溶液2(2400μL)とを混合し、コーティング溶液11を調製した。コーティング溶液11中のパクリタキセルに対するL−セリンエチルエステルの質量比(Ser−OEt/PT)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液11を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0073】
〈実施例12〉
(1)コーティング溶液12の調製
70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液1(600μL)と、56mg/mL パクリタキセル溶液5(1800μL)とを混合し、コーティング溶液12を調製した。コーティング溶液12中のパクリタキセルに対するL−セリンエチルエステルの質量比(Ser−OEt/PTX)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液12を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0074】
〈実施例13〉
(1)コーティング溶液13の調製
70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液1(600μL)と、56mg/mL パクリタキセル溶液3(1800μL)とを混合し、コーティング溶液13を調製した。コーティング溶液13中のパクリタキセルに対するL−セリンエチルエステルの質量比(Ser−OEt/PTX)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液13を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0075】
〈実施例14〉
(1)コーティング溶液14の調製
70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液2(500μL)と、56mg/mL パクリタキセル溶液4(1500μL)とを混合し、コーティング溶液14を調製した。コーティング溶液14中のパクリタキセルに対するL−セリンエチルエステルの質量比(Ser−OEt/PTX)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液14を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0076】
〈実施例15〉
(1)コーティング溶液15の調製
70mg/mL L−セリンエチルエステル溶液3(500μL)と、56mg/mL パクリタキセル溶液4(1500μL)とを混合し、コーティング溶液15を調製した。コーティング溶液15中のパクリタキセルに対するL−セリンエチルエステルの質量比(Ser−OEt/PTX)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにコーティング溶液15を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0077】
〈比較例C1〉
(1)パクリタキセル溶液16の調製
40mg/mL L−アラニンエチルエステル溶液(60μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(50μL)とを混合し、パクリタキセル溶液16を調製した。パクリタキセル溶液16中のパクリタキセルに対するL−アラニンエチルエステルの質量比(Ala−OEt/PTX)は1.20であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにパクリタキセル溶液16を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0078】
〈比較例C2〉
(1)パクリタキセル溶液17の調製
30mg/mL L−バリンメチルエステル溶液(70μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(50μL)とを混合し、パクリタキセル溶液17を調製した。パクリタキセル溶液17中のパクリタキセルに対するL−バリンメチルエステルの質量比(Val−OME/PTX)は1.05であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにパクリタキセル溶液17を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0079】
〈比較例C3〉
(1)パクリタキセル溶液18の調製
40mg/mL アルギニン溶液(60μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液1(50μL)とを混合し、パクリタキセル溶液18を調製した。パクリタキセル溶液18中のパクリタキセルに対するL−アルギニンの質量比(Arg/PTX)は1.05であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにパクリタキセル溶液18を用いた点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0080】
〈比較例C4〉
(1)パクリタキセル溶液19の調製
20mg/mL パクリタキセル溶液をパクリタキセル溶液19とした。パクリタキセル溶液19は、アミノ酸エステルまたはアミノ酸を含有しない、パクリタキセル(PTX)溶液である。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液1の代わりにパクリタキセル溶液19を用いた点およびパクリタキセル量が約3μg/mmとなるようにコートした点を除き、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0081】
〈比較例C5〉
(1)パクリタキセル溶液20の調製
50mg/mL L−バリンメチルエステル溶液(80μL)と、40mg/mL パクリタキセル溶液2(240μL)とを混合し、パクリタキセル溶液20を調製した。パクリタキセル溶液20中のパクリタキセルに対するL−バリンメチルエステルの質量比(Val−OMe/PTX)は0.42であった。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
調製したパクリタキセル溶液20を用いて、実施例1と同様にして薬剤溶出バルーンを作製した。
【0082】
〈比較例C6〉
市販品のバルーンカテーテルであるIN.PACT(Invatec社)を準備した。比較例C6のバルーンは、パクリタキセルが表面にコートされた薬剤溶出バルーンである。
【0083】
〈比較例C7〉
拡張時サイズが直径3.0×長さ20mm(拡張部)のバルーンカテーテル(テルモ社製、ナイロンエラストマー素材)を準備した。比較例C7のバルーンは、薬剤がコートされていない薬剤無塗布バルーンである。
【0084】
〈比較例C8〉
(1)コーティング溶液21の調製
70mg/mL L−セリン溶液(300μL)と、56mg/mL パクリタキセル溶液3(900μL)とを混合し、コーティング溶液20を調製した。コーティング溶液は白濁していた。
(2)バルーンへの薬剤コーティング
コーティング溶液21は白濁していたため、バルーンにコートすることができなかった。従って、L−セリン溶液では、薬剤コーティング溶液を調製できないことが明らかとなった。
【0085】
実施例1〜15、比較例C1〜C5およびC8について、調製したコーティング溶液と、そのコーティング溶液に含まれる薬剤、アミノ酸エステル塩酸塩/アミノ酸、そのアミノ酸エステル塩酸塩またはアミノ酸の疎水性指標、低級アルコール(使用した場合に限る)および溶媒とを、表2に記載する。表2中、実施例/比較例の列の1〜15は実施例であり、C1〜C5およびC8は比較例である。また、薬剤の列の“PTX”はパクリタキセルを意味し、アミノ酸エステル/アミノ酸の列の“Bn−Gly−Et”はN−ベンジルグリシンエチルエステルを、“L−Arg−Et”はL−アルギニンエチルエステルを、“Bnz−Arg−Et”はNα−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステルを、“L−Asp−2Me”はL−アスパラギン酸ジメチルエステルを、“Gly−Et”はグリシンエチルエステルを、“L−Ser−Et”はL−セリンエチルエステルを、“L−Ala−Et”はL−アラニンエチルエステルを、“L−Val−Me”はL−バリンメチルエステルを、“L−Arg”はL−アルギニンを、“L−Ser”はL−セリンを、それぞれ意味する。また、低級アルコールの列の“Glycerine”はグリセリンを意味する。また、溶媒の列の“EtOH”はエタノールを、“RO−W”はRO水を、“THF”はテトラヒドロフランを、“AC”はアセトンを、それぞれ意味する。
【0086】
【表2】
【0087】
[バルーンにコートされたパクリタキセル量の測定]
実施例1〜15および比較例C1〜C5の薬剤溶出バルーンについて、バルーンにコートされたパクリタキセル量を、以下の手順により測定した。
【0088】
1.方法
調製した薬剤溶出バルーンをメタノール溶液に浸して、その後、10分間、振とう機を用いて振とうし、バルーンにコートされたパクリタキセルを抽出した。パクリタキセルを抽出したメタノール溶液の227nmでの吸光度を、紫外可視吸光光度計を用いて高速液体クロマトグラフィーにて測定し、バルーンあたりのパクリタキセル量([μg/balloon])を求めた。さらに、求めたパクリタキセル量と、バルーン表面積とから、バルーンの単位面積あたりのパクリタキセル量([μg/mm])を算出した。
【0089】
2.結果
表3に示す結果を得た。表3中、実施例/比較例の列の1〜15は実施例であり、C1〜C5は比較例である。また、表3中、「バルーン表面積」はバルーンの拡張時表面積(単位:mm)を、「バルーン上のPTX量」の「バルーンあたり」はバルーン1個あたりのパクリタキセル量(単位:μg/バルーン)を、「バルーン上のPTX量」の「単位面積あたり」はバルーンの表面積1mmあたりのパクリタキセル量(単位:μg/mm)を、それぞれ表す。
【0090】
【表3】
【0091】
表3に示すとおり、実施例1〜15および比較例C1〜C5のいずれも、バルーンにコートされたパクリタキセル量は、約2μg/mm(実施例1〜7、比較例C1〜C3)または約3μg/mm(実施例8〜15、比較例C4およびC5)であり、目標とするパクリタキセル量をバルーン表面にコートすることができた。
【0092】
[模倣血管を用いた薬剤コート層耐性評価]
実施例1〜7および比較例C1〜C4の薬剤溶出バルーンについて、病変患部に送達する過程でどれだけ薬剤コート層が脱落するかを評価するために、模倣血管を用いてデリバリー操作を行い、デリバリー後のバルーン上に残存するパクリタキセルを定量することで薬剤コート層耐性試験を行った。
【0093】
1.方法
(1)90度の角度がついている中空の模倣血管1を準備し、その中にガイディングカテーテル2(外径:5Fr.)を通した(図1を参照)。
(2)ガイディングカテーテル2の内部を37℃で加温したPBSで満たした。
(3)作製した薬剤溶出バルーン(拡張時サイズ 直径3.0×長さ20mm)を、ラッピング機で折りたたんだ。
(4)ラッピング後のバルーンカテーテル3を、PBSで満たしたガイディングカテーテル内に挿入し、ガイディングカテーテルの出口に向かって1分間にわたりバルーン4のデリバリー操作を行った。
(5)ガイディングカテーテル内をデリバリー後のバルーンを回収し、液体クロマトグラフによってバルーン上に残存したパクリタキセル量(残存PTX量)を定量した。さらに、薬剤溶出バルーンにコートされたパクリタキセル量(搭載PTX量)と残存PTX量とから、バルーン上のパクリタキセルの残存率(PTX残存率)を算出した。
【0094】
2.結果
表4に示す結果を得た。表4中、実施例/比較例の列の1〜7は実施例であり、C1〜C4は比較例である。また、表4中、「搭載PTX量」は薬剤溶出バルーン1個当たりにコートされたパクリタキセル量(単位:μg/バルーン)を、「バルーン上残存PTX量」はデリバリー操作後のバルーン1個あたりに残存したパクリタキセル量(単位:μg/バルーン)を、「バルーン上PTX残存率」はデリバリー操作後にバルーン上に残存していたパクリタキセルの割合(単位:質量%)を、それぞれ表す。
【0095】
また、図2に、模倣血管を用いた薬剤コート層耐性評価における、実施例1〜7および比較例C1〜C4の薬剤溶出バルーンのデリバリー操作後のバルーン上パクリタキセル残存率を表すグラフを示す。図2において、横軸は実施例または比較例を表し、数字1〜7は、それぞれ、実施例1〜7を意味し、アルファベット付き数字C1〜C4は、それぞれ、比較例C1〜C4を意味する。また、縦軸はデリバリー操作後のバルーン上パクリタキセル残存率(単位:質量%)を表す。“mass %”は「質量%」の意味である。
【0096】
【表4】
【0097】
本評価系において、デリバリー操作後のバルーン残存薬剤量が60質量%以上である場合、デリバリー操作における薬剤保持能が良好であり、多くの薬剤を病変患部に送達することができる。一方、60質量%を下回ると、デリバリー操作で剥がれる薬剤量が多いため、安全面でも好ましくなく、また病変患部へ送達できる薬剤量が少ないので組織移行性も期待できない。したがって、本評価系では、デリバリー操作後にバルーンに残存するパクリタキセル量が60質量%以上であると送達過程において良好な薬剤保持能があると判断できる。
【0098】
表4に示すとおり、実施例1〜7で作製した薬剤溶出バルーンのデリバリー操作後のバルーンに残存したパクリタキセル量は、塗布量に対して60質量%以上であった。一方、比較例C1〜C4の薬剤溶出バルーンについては、バルーンに残存したパクリタキセル量は50質量%以下であった。以上の結果から、実施例1〜7で使用した、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸エステル塩酸塩化合物は、パクリタキセルを均一にコートし、バルーン対するパクリタキセルの付着力を向上させ、デリバリー操作における薬剤保持能を高めることが明らかとなった。一方、アミノ酸側鎖の疎水性指標が1よりも大きく、比較的疎水性の高いアミノ酸のエステル塩酸塩化合物は、デリバリー操作での薬剤保持能を高めることは困難であった。また、比較例C3に示すように、側鎖の疎水性指標が0以下であってもエステル化していないアミノ酸の場合は、好ましい薬剤耐性能は得られなかった。
【0099】
[ウサギ腸骨動脈における薬剤組織移行性評価]
実施例8、比較例C5およびC6の薬剤溶出バルーンについて、以下の手順により、ウサギ腸骨動脈におけるバルーン拡張1時間後の血管へのパクリタキセル組織移行性を評価した。
【0100】
1.方法
(1)ウサギにガイドワイヤーをX線透視下で右腸骨動脈または左腸骨動脈まで挿入した。次いで、薬剤溶出バルーン(拡張時サイズ直径3.0×長さ20mm(拡張部))を、ガイドワイヤーに沿わせて、該腸骨動脈まで移行させた。
(2)7atmで1分間バルーンを拡張させた。その後、直ちに、バルーンを抜去した。
(3)バルーン拡張60分後に、血管(分枝より約3.5cmの範囲)を採取した。
(4)採取した血管にメタノールを添加し、ホモジネイトして、組織ホモジネイトとした。
(5)組織ホモジネイトを、高速液体クロマトグラフを用いて分析し、組織中パクリタキセル量(組織1gあたりのパクリタキセル量)を定量した。さらに、薬剤溶出バルーンにコートされたパクリタキセル量と、バルーン上に残存したパクリタキセル量とから、バルーン上のパクリタキセルの残存率(バルーン上PTX残存率)を算出した。
【0101】
2.結果
表5に示す結果を得た。表5中、実施例/比較例の列の8は実施例であり、C5およびC6は比較例である。また、表5中、「組織中PTX量」は血管組織1g中に含まれるパクリタキセル量(単位:μg/g組織)を、「組織へのPTX移行率」はバルーン上から血管組織中に移行したパクリタキセルの割合(単位:質量%)を、「バルーン上PTX残存率」はバルーン上に残存したパクリタキセルの割合(単位:質量%)を、それぞれ表す。
【0102】
また、図3に、ウサギ腸骨動脈における薬剤組織移行性評価における、実施例8ならびに比較例C5およびC6の血管組織中パクリタキセル量を表すグラフを示す。図3において、横軸は実施例または比較例を表し、数字8は実施例8を意味し、アルファベット付き数字C5、C6は、それぞれ、比較例C5、C6を意味する。また、縦軸は血管組織1g中に含まれるパクリタキセル量(単位:μg/g組織)を表す。“μg/g tissue”は「μg/g組織」の意味である。
【0103】
【表5】
【0104】
実施例8は、バルーンの単位面積あたりのパクリタキセル量が3.2μg/mmであり、比較例C6のIN.PACT(Invatec社製)の4.1μg/mmよりも少ない。しかし、表5および図3に示されるように、血管内拡張60分後に回収された組織中パクリタキセル量は、組織1gあたり500μgを上回り、比較例C6を超え、パクリタキセルの良好な血管組織への移行を示唆した。一方、疎水性アミノ酸エステル塩酸塩(L−バリンメチルエステル、アミノ酸側鎖の疎水性指標=4.2)を用いた比較例C5の薬剤溶出バルーンは、バルーンへの残存量が高く、パクリタキセルの血管組織への移行率は低かった。以上のことから、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸エステル塩酸塩とともにコートしたパクリタキセルは、効率よく薬剤が組織に移行し、良好な薬剤移行性を示すことが明らかとなった。
【0105】
[ウサギ腹大動脈における組織中薬剤滞留性評価]
実施例9および10の薬剤溶出バルーンについて、以下の手順により、ウサギ腹大動脈におけるバルーン拡張1時間後および24時間後の組織中パクリタキセル量を求め、薬剤滞留性を評価した。
【0106】
1.方法
(1)薬剤溶出バルーンをラッピング後、ステントをプレマウントした。ステントプレマウント後の薬剤溶出バルーンを用いた。
(2)ウサギにガイドワイヤーをX線透視下で腹大動脈まで挿入した後、ガイドワイヤーの位置を保持しながら、ガイディングカテーテルを抜去した。次いで、ステントプレマウントした薬剤溶出バルーン(拡張時サイズ直径3.0×長さ20mm(拡張部))を、ガイドワイヤーに沿わせながら、該腹大動脈まで移行させた。
(3)7atmで1分間バルーンを拡張させた。その後、直ちに、バルーンを抜去した。
(4)バルーン拡張1時間後および24時間後に、血管(分枝より約3.5cmの範囲)を採取した。
(5)採取した血管にメタノールを添加し、ホモジネイトして、組織ホモジネイトとした。
(6)組織ホモジネイトを、高速液体クロマトグラフを用いて分析し、バルーン拡張1時間後および24時間後の組織中パクリタキセル量(組織1gあたりのパクリタキセル量)を定量した。さらに、薬剤溶出バルーンにコートされたパクリタキセル量と、バルーン拡張1時間後および24時間後の組織中パクリタキセル量とから、バルーン拡張1時間後および24時間後のパクリタキセルの組織への移行率(組織へのPTX移行率)を算出し、バルーン上に残存したパクリタキセル量から残存率(バルーン上PTX残存率)を算出した。
【0107】
2.結果
表6に示す結果を得た。表6中、実施例の列の9、10は実施例である。また、表6中、「組織中PTX量」は血管組織1g中に含まれるパクリタキセル量(単位:μg/g組織)を、「組織へのPTX移行率」はバルーン上から血管組織中に移行したパクリタキセルの割合(単位:質量%)を、「バルーン上PTX残存率」はバルーン上に残存したパクリタキセルの割合(単位:質量%)を、それぞれ表す。さらに、「組織中PTX量」および「組織へのPTX移行率」の列の「1H」および「24H」は、それぞれ血管内拡張1時間後および24時間後を意味する。
【0108】
また、図4に、ウサギ腹大動脈における組織中薬剤滞留性評価における、実施例9および10の、血管内拡張1時間後および24時間後の血管組織中パクリタキセル量を表すグラフを示す。図4において、横軸は実施例を表し、数字9、10は、それぞれ、実施例9、10を意味する。また、縦軸は血管組織1g中に含まれるパクリタキセル量(単位:μg/g組織)を表す。凡例の「1H」および「24H」は、それぞれ、血管内拡張1時間後および24時間後を意味する。“μg/g tissue”は「μg/g組織」の意味である。
【0109】
【表6】
【0110】
表6に示されるように、実施例9および実施例10において、血管拡張1時間後および24時間後の血管組織中パクリタキセル量は、ほぼ同じ値を示し、時間とともに血管組織中のパクリタキセル量は大きく減衰しないことが示唆された。このことから、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸エステル塩酸塩(L−セリンエチルエステル、アミノ酸側鎖の疎水性指標=−0.8)とパクリタキセルとを含む薬剤コーティング層は、薬剤が組織に移行した後も十分な量の薬剤が長時間にわたり組織内に滞留することが明らかとなった。薬剤コーティング層にグリセリンを含んでも十分な組織中薬剤滞留性を得ることができる。
【0111】
[ブタ冠動脈における有効性評価]
実施例9〜11および比較例C6の薬剤溶出バルーンならびに比較例C7の薬剤無塗布バルーンについて、ブタ冠動脈における有効性評価を、以下の手順により行った。
【0112】
1.方法
(1)ガイドワイヤーとともにガイディングカテーテルを8Fr.シースより挿入し、エックス線透視下でブタの左および右冠動脈開口部まで誘導した。
(2)各冠動脈の造影を行い(冠動脈:左冠動脈前下行枝(LAD)、右冠動脈(RCA)、左冠動脈回旋枝(LCX))、造影で得られた冠動脈の血管経をQCAソフトにより測定した。
(3)血管径に対しステントの径が1.2倍、かつ薬剤溶出バルーンの径が1.3倍になる部位を選択し、ステント留置以降の作業を実施した。
(4)選択した冠動脈内でステント(ステント径3mm×長さ15mm) を1.2倍になるように30秒間拡張した後、ステント留置用バルーンカテーテルを抜去した。ステント留置部位にて薬剤溶出バルーン(バルーン径:3mm×長さ20mm)を血管径に対し1.3倍になるように1分間拡張させた後、カテーテルを抜去した。
(5)薬剤溶出バルーン拡張終了後、ガイディングカテーテルおよびシースを抜去し、頚動脈の中枢側を結紮した後、頚部の創口は剥離した筋肉間を手術用縫合糸で縫合し、皮膚縫合用ステープラーで皮膚を縫合した。
(6)バルーン拡張28日後に、剖検を実施した。剖検時には冠動脈造影検査を行い、ステント留置部位の開存性(狭窄率)を確認し、血管径を測定した。バルーン拡張直後の平均血管径と28日後の平均血管径より狭窄率(%)を算出した。
【0113】
2.結果
表7に示す結果を得た。表7中、実施例/比較例の列の9〜11は実施例であり、C6およびC7は比較例である。
【0114】
また、図5に、ブタ冠動脈における有効性評価における、実施例9〜11および比較例C6、C7の血管狭窄率を表すグラフを示す。図5において、横軸は実施例または比較例を表し、数字9〜11は、それぞれ、実施例9〜11を意味し、アルファベット付き数字C6、C7は、それぞれ、比較例C6、C7を意味する。また、縦軸は血管の狭窄率(単位:%)を表す。
【0115】
【表7】
【0116】
比較例C7の、薬剤無処置対照として薬剤無塗布バルーンで処置した血管の狭窄率は35.0%であった。また、比較例C6の、市販の薬剤溶出バルーン(IN.PACT)で処置した血管の狭窄率は17.1%であった。
これに対して、実施例9〜11の本発明の薬剤放出バルーンで処置した血管の狭窄率は、それぞれ、16.1%、6.5%、7.3%であった。
以上のことから、アミノ酸側鎖の疎水性指標が0以下であるアミノ酸エステル塩酸塩(およびグリセリン)とパクリタキセルとを含む薬剤コーティング層は、良好な狭窄抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0117】
本発明のコーティング組成物でコートした医療機器、例えば、バルーンカテーテルなど、を用いると、病変患部に送達する過程での薬剤コート層の脱落を抑えながら病変患部に効率よく薬剤を送達させることができ、しかも病変患部における医療機器からの迅速な薬剤放出を促し、薬剤の組織移行性を高めることができる。
【符号の説明】
【0118】
1 模倣血管
2 ガイディングカテーテル
3 バルーンカテーテル
4 バルーン
図1
図2
図3
図4
図5