特許第6042902号(P6042902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042902カルシウムヒドロキシアパタイト系カルシウムスルホネートグリース組成物及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042902
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】カルシウムヒドロキシアパタイト系カルシウムスルホネートグリース組成物及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 123/06 20060101AFI20161206BHJP
   C10M 177/00 20060101ALI20161206BHJP
   C10M 121/04 20060101ALN20161206BHJP
   C10M 113/08 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   C10M123/06
   C10M177/00
   !C10M121/04
   !C10M113/08
   C10N10:04
   C10N20:00 A
   C10N20:00 Z
   C10N30:08
   C10N50:10
   C10N70:00
【請求項の数】37
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-539154(P2014-539154)
(86)(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公表番号】特表2014-532786(P2014-532786A)
(43)【公表日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】US2012062707
(87)【国際公開番号】WO2013066955
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2015年8月5日
(31)【優先権主張番号】61/553,674
(32)【優先日】2011年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506041682
【氏名又は名称】エヌシーエイチ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】NCH CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェイニック,ジェイ.アンドリュー
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−286950(JP,A)
【文献】 特開2009−298890(JP,A)
【文献】 特開2007−084620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過塩基性油溶性カルシウムスルホネート、カルシウムヒドロキシアパタイトを成分として含んでおり、カルシウムヒドロキシアパタイトは、式Ca(POOH又はこれと等価な式を有しており、結晶性リン酸トリカルシウムと結晶性水酸化カルシウムの混合物ではない、カルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項2】
10%〜36%の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを含む、請求項1に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項3】
265〜295の60往復混和稠度及び301℃(575°F)以上の滴点を有する、請求項2に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項4】
コンプレックスグリースであり、25%〜32%の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを含む、請求項1に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの変換剤及び少なくとも1つのコンプレックス化酸を、成分としてさらに含む、請求項1に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項6】
カルシウムヒドロキシアパタイトの量は、全てのコンプレックス化酸を中和するには化学量論的に不十分である、請求項5に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項7】
カルシウムヒドロキシアパタイトによって中和されないコンプレックス化酸の少なくとも幾らかを中和するのに十分な合計量で、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに含まれたものではない炭酸カルシウム、又は、それらの任意の組合せで構成される群から選択される1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物をさらに含む、請求項6に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項8】
過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、微細に分散した炭酸カルシウムを含み、炭酸カルシウムの5%〜30%は、カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物によって中和されないほぼ全てのコンプレックス化酸を中和するのに使用される、請求項7に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項9】
カルシウムヒドロキシアパタイトの量は、全てのコンプレックス化酸を中和するのに化学量論的に十分である、請求項5に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項10】
水酸化カルシウム、酸化カルシウム、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに含まれたものではない炭酸カルシウム、又は、それらの任意の組合せで構成される群から選択される1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物をさらに含む、請求項9に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項11】
促進酸をさらに含む、請求項5に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項12】
酸化カルシウム又は水酸化カルシウムが加えられていない、請求項9に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項13】
1又は複数の変換剤は、アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル、カルボン酸、無機酸、有機硝酸塩、活性水素を含有する化合物、又は、互変異性水素を含有する化合物で構成される群から選択され、
1又は複数のコンプレックス化酸は、長鎖カルボン酸、短鎖カルボン酸、ホウ酸、及びリン酸で構成される群から選択される、請求項5に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項14】
促進酸はドデシルベンゼンスルホン酸である、請求項11に記載のカルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物。
【請求項15】
265〜295の60往復混和稠度及び301℃(575°F)以上の滴点を有する、請求項7に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項16】
酸化カルシウム、水酸化カルシウム、又はそれらの組合せで構成される群から選択される1又は複数の塩基性カルシウム化合物をさらに含み、1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物は、カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の塩基性カルシウム化合物の合計によってもたらされる水酸化物等価塩基性の75%以下の等価塩基性を含む、請求項6に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項17】
酸化カルシウム、水酸化カルシウム、又はそれらの組合せで構成される群から選択される1又は複数の塩基性カルシウム化合物をさらに含み、カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の塩基性カルシウム化合物は、全てのコンプレックス化酸を中和するには化学量論的に不十分である、請求項5に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項18】
過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、微細に分散した炭酸カルシウムを含み、炭酸カルシウムの5%〜30%は、カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の塩基性カルシウム化合物によって中和されないほぼ全てのコンプレックス化酸を中和するのに使用される、請求項17に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項19】
10%〜36%の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと、
2%〜20%のカルシウムヒドロキシアパタイトと、
2%〜10%の水と、
0.1%〜5%の合計量の1又は複数の他の変換剤と、
2.8%〜11%の合計量の1又は複数のコンプレックス化酸と、
を成分として含むことを特徴とするカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項20】
301℃(575°F)以上の滴点を有する、請求項19に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項21】
1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物をさらに含み、カルシウムヒドロキシアパタイトの量は、全てのコンプレックス化酸を中和するには化学量論的に不十分である、請求項19に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項22】
1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物は、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに含まれたものではない炭酸カルシウム、又はそれらの任意の組合せで構成される群から選択され、1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物の合計量は、少なくとも、カルシウムヒドロキシアパタイトによって中和されない全てのコンプレックス化酸を中和するのに化学量論的に十分である、請求項21に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項23】
酸化カルシウム、水酸化カルシウム、又はそれらの組合せで構成される群から選択される1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物をさらに含み、1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物は、カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の塩基性カルシウム化合物の合計によってもたらされる水酸化物等価塩基性の75%以下の等価塩基性を含む、請求項19に記載のカルシウムスルホネートグリース組成物。
【請求項24】
非晶性炭酸カルシウムが分散した過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、基油及び1又は複数の変換剤と混合して変換前混合物を形成する工程と、
非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウムへの変換が生じるまで加熱することによって、変換前混合物を変換後混合物に変換する工程と、
カルシウムヒドロキシアパタイトを、変換前混合物若しくは変換後混合物、又は両者と混合する工程と、
1又は複数のコンプレックス化酸を、変換前混合物若しくは変換後混合物、又は両者と混合する工程と、
を含むことを特徴とする過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスグリースの製造方法。
【請求項25】
1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物を、変換前混合物若しくは変換後混合物、又は両者と混合する工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物は、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに含まれたものではない炭酸カルシウム、又はそれらの任意の組合せで構成される群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
混合するカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、全ての前記コンプレックス化酸を中和するには化学量論的に不十分であり、混合する1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物の合計量は、カルシウムヒドロキシアパタイトによって中和されないコンプレックス化酸の少なくとも幾らかを中和するのに化学量論的に十分である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
過塩基性カルシウムスルホネートに由来する、分散した炭酸カルシウムの5〜30%は、カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物によって中和されないほぼ全てのコンプレックス化酸を中和するのに使用される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
リースは少なくとも301℃(575°F)の滴点を有することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項30】
変換前混合物と混合する1又は複数のコンプレックス化酸は、変換後混合物と混合する1又は複数のコンプレックス化酸とは異なる、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
カルシウムヒドロキシアパタイトは、全てのコンプレックス化酸を中和するのに化学量論的に十分な量で変換後混合物とのみ混合される、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
1又は複数のコンプレックス化酸の少なくとも一部が、変換後混合物と混合される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
カルシウムスルホネートグリースは少なくとも301℃(575°F)の滴点を有し、10%〜36%の過塩基性カルシウムスルホネートを使用する、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに含まれたものではない炭酸カルシウム及び1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物を、変換前混合物若しくは変換後混合物又は両者と混合する工程をさらに含み、
カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物は、全てのコンプレックス化酸を中和するには化学量論的に不十分であり、
過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに含まれたものではない炭酸カルシウムは、カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物によって中和されないほぼ全ての前記コンプレックス化酸を中和するのに化学量論的に十分であり、
1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物は、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、又はそれらの組合せで構成される群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項35】
1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物は、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、又はそれらの組合せで構成される群から選択され、
1又は複数の他の塩基性カルシウム化合物は、カルシウムヒドロキシアパタイト及び1又は複数の塩基性カルシウム化合物の合計によってもたらされる水酸化物等価塩基性の75%以下の等価塩基性を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
カルシウムヒドロキシアパタイトは、1又は複数のコンプレックス化酸の全てを中和するのに化学量論的に十分な量で変換前混合物とのみ混合される、請求項24に記載の方法。
【請求項37】
カルシウムヒドロキシアパタイトは、1又は複数のコンプレックス化酸の全てを中和するのに化学量論的に不十分な量で変換前混合物とのみ混合される、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照:
本出願は、2011年10月31日出願の米国特許仮出願第61/553,674号の利益を主張する。
【0002】
1.技術分野:
本発明は、カルシウムヒドロキシアパタイトを塩基源として添加して製造される過塩基性カルシウムスルホネートグリースと、そのようなグリースの製造方法であって、グリースの製造に使用される油溶性過塩基性カルシウムスルホネートが、低品質と考えられる場合でも、増稠剤収率及び滴点によって表される期待高温実用性の双方において改善をもたらす製造方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明:
過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、長年にわたって確立されているグリースのカテゴリである。そのようなグリースを製造する1つの公知の方法は、「促進(promotion)」及び「変換(conversion)」の工程を含む二工程処理である。一般に、第1の工程(「促進」)は、塩基源としての酸化カルシウム(CaO)又は水酸化カルシウム(Ca(OH))の化学量論過剰量を、アルキルベンゼンスルホン酸、二酸化炭素(CO)、及び他の成分と反応させて、非晶性炭酸カルシウムが分散した油溶性過塩基性カルシウムスルホネートを生成するものである。これらの過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、一般に、澄明で輝いており、ニュートンレオロジーを有している。それらは、僅かに濁っている場合もあるが、そのようなばらつきは、過塩基性カルシウムスルホネートグリースの調製における使用を妨げるものではない。本開示の目的に関して、「過塩基性油溶性カルシウムスルホネート」及び「油溶性過塩基性カルシウムスルホネート」並びに「過塩基性カルシウムスルホネート」の用語は、カルシウムスルホネートグリースを製造するのに好適な任意の過塩基性カルシウムスルホネートを指す。一般に、第2の工程(「変換」)は、促進工程での産物に、プロピレングリコール、イソプロピルアルコール、蟻酸又は酢酸などの変換剤を、適切な基油(鉱油など)と共に加えて、非常に微細に分割された結晶性炭酸カルシウムの分散物に非晶性炭酸カルシウムを変換するものである。過塩基性とするために、過剰の水酸化カルシウム又は酸化カルシウムが使用されるので、残存ずる少量の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムも、存在しているかも知れず、それらは分散するであろう。炭酸カルシウムの結晶形態は、好ましくは、カルサイトである。この極めて微細に分割された炭酸カルシウムは、コロイド分散としても知られ、カルシウムスルホネートと相互作用してグリース様稠度(grease-like consistency)を生じる。二工程処理を通じて生成されるそのような過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、「単純カルシウムスルホネートグリース(simple calcium sulfonate greases)」として知られており、例えば、米国特許第3,242,079号、米国特許第3,372,115号、米国特許第3,376,222号、米国特許第3,377,283号及び米国特許第3,492,231号に開示されている。
【0004】
反応を注意深く制御することにより、これら2つの工程を組み合わせて単一の工程とすることも、従来技術において知られている。この一工程処理において、単純カルシウムスルホネートグリースは、二酸化炭素、並びに、促進剤(二酸化炭素と過剰量の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムとの反応によって非晶性炭酸カルシウム過塩基化剤を生成する)、及び、変換剤(非晶性炭酸カルシウムを非常に微細に分割された結晶性炭酸カルシウムへと変換する)の双方として同時に作用する試薬システムの存在下で、適当なスルホン酸と水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの何れかと反応することによって調製される。従って、グリース様稠度は、過塩基性油溶性カルシウムスルホネート(二工程処理における第1の工程の産物)が、実際に形成されて別産物として分離することのないような単一の工程で生じる。この一工程処理は、例えば、米国特許第3,661,622号、米国特許第3,671,012号、米国特許第3,746,643号及び米国特許第3,816,310号に開示されている。
【0005】
単純カルシウムスルホネートグリースの他に、カルシウムスルホネートコンプレックスグリース化合物も、従来技術において知られている。一般に、これらのコンプレックスグリースは、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムなどのカルシウム含有強塩基を、二工程処理又は一工程処理の何れかで製造される単純カルシウムスルホネートグリースに加えて、化学量論等量の、12−ヒドロキシステアリン酸、ホウ酸、酢酸又はリン酸などのコンプレックス化酸と反応させることによって製造される。単純グリースに対して主張されているカルシウムスルホネートコンプレックスグリースの利点には、粘着性が低下すること、ポンパビリティー(pumpability)が改善されること、及び高温実用性が改善されることが含まれる。カルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、米国特許第4,560,489号、米国特許第5,126,062号、米国特許第5,308,514号及び米国特許第5,338,467号に開示されている。
【0006】
公知の従来技術は全て、カルシウムスルホネートグリースを生産するための塩基性カルシウム源として、又は、コンプレックス化酸(complexing acids)と反応させてカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを形成するのに必要な成分として、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを使用することを教示している。公知の従来技術は、総じて、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムを、(過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに存在している量の水酸化カルシウム又は酸化カルシウムに追加する場合に)コンプレックス化酸と完全に反応するに足る水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの総レベルを提供するために十分な量で、加えることが必要である、と教示している。リン酸トリカルシウムを潤滑グリースにおける添加剤として使用する従来技術文献もある。例えば、米国特許第4,787,992号、米国特許第4,830,767号、米国特許第4,902,435号、米国特許第4,904,399号、米国特許第4,929,371号は、全て、潤滑グリースのための添加剤としてリン酸トリカルシウムを使用することを教示している。しかしながら、カルシウムヒドロキシアパタイトCa(POOHを、酸との反応のためのカルシウム含有塩基として使用して、カルシウムスルホネート系グリースを含む潤滑グリースを製造することを教示する先行技術文献はないと思われる。公知の従来技術は、総じて、カルシウムスルホネートグリースの製造における炭酸カルシウムの(別個の成分としての、又は、炭酸化後のカルシウムスルホネートに分散する非晶性炭酸カルシウムの存在以外の、水酸化カルシウム若しくは酸化カルシウム中の「不純物」としての)使用に、少なくとも2つの理由で、反対であることを教示している。第1の理由は、炭酸カルシウムは、一般に、弱塩基であり、コンプレックス化酸との反応に適しないと考えられていることである。第2の理由は、未反応の固形カルシウム化合物(炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム又はカルシウムヒドロキシアパタイトを含む)は、変換に先だって、又は変換の完了前に未反応の固形物を除去しない場合、変換処理に干渉して、劣ったグリース化合物をもたらすということである。
【0007】
しかも、従来技術は、増稠剤収率及び滴点の双方が改善されたカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを提供するものではない。公知の従来技術は、少なくとも575°Fの滴点を有しており、NLGI第2カテゴリに適するグリースのために、(最終グリース産物の重量で)最低でも36%という量の過塩基性カルシウムスルホネートを必要とする。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、カルシウムスルホネートグリースの製造において最も高価な成分であり、従って、最終のグリースにおけて所望のレベルの硬度をなお維持しながら、この成分の量を低減する(それによって、増稠剤収率を高める)ことが望ましい。具体的には、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合が36%未満で、稠度がNLGI第2等級中にある(又は、グリースの60往復混和稠度が265〜295である)場合に、滴点が常に575°F以上である過塩基性カルシウムスルホネートグリースを得ることが望ましい。滴点は、潤滑グリースの高温実用限界についての、最初にかつ最も容易に定められる指針なので、より高い滴点が望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、カルシウムヒドロキシアパタイトを添加して製造される過塩基性カルシウムスルホネートグリースと、そのようなグリースの製造方法であって、増稠剤収率(許容可能な稠度測定値を維持しながら、使用する必要のある過塩基性油溶性カルシウムスルホネートがより少ない)及び滴点によって表される期待高温実用性の向上を提供する製造方法とに関する。これらの利点は、低品質の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートであると考えられるものを使用する場合でも、本発明によれば達成される。
【0009】
公知の従来技術は一貫して且つ一様に、コンプレックス化酸と完全に反応する塩基成分としての水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの使用が必要であると教示しているが、本発明に従って、カルシウムヒドロキシアパタイトを、後に加えるコンプレックス化酸の少なくとも一部と反応して中和するに足る量で加えることによって、好適なカルシウムスルホネートコンプレックスグリースが製造され得ることが判明した。公知の従来技術は、潤滑グリースの添加剤としてリン酸トリカルシウムを使用することを開示しているが、酸との反応のためのカルシウム含有塩基としてカルシウムヒドロキシアパタイトを使用して、カルシウムスルホネート系グリースを製造することを開示していない。
【0010】
カルシウムヒドロキシアパタイトは、Ca(POOHという化学式を有し、その結晶構造に存在する水酸化物イオンに起因して、塩基強度が水酸化カルシウムCa(OH)に匹敵する強塩基である。カルシウムヒドロキシアパタイトの化学式は、代数的に等価な実験式3Ca(PO・Ca(OH)と表記されることもある。しかしながら、この実験式は、カルシウムヒドロキシアパタイトが、単にリン酸トリカルシウムCa(POと水酸化カルシウムCa(OH)との混合物であると、誤って示唆するので、非常に誤解を招き易い。実際には、カルシウムヒドロキシアパタイトは、純粋な水酸化カルシウムCa(OH)の結晶構造とも、純粋なリン酸トリカルシウムCa(POの結晶構造と期待されるものとも、明らかに異なる独自の結晶構造を有する。また、以下の実施例に示すように、本発明に従ってカルシウムスルホネート系グリースの製造に使用する場合、水酸化物等量のカルシウムヒドロキシアパタイトの機能的反応性は、対応する水酸化物等量の水酸化カルシウムとは明らかに異なり、それよりも優れている。
【0011】
本発明に従ってカルシウムスルホネートグリース組成物においてカルシウムヒドロキシアパタイトを使用することは、様々な質の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと良く合っている。カルシウムスルホネート系グリースの製造のために市販されている過塩基性油溶性カルシウムスルホネートには、許容できない低滴点の産物をもたらすものもある。本明細書の全体を通じて、このような過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、「低品質」過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと呼ぶ。良品質及び低品質の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの比較化学分析がなされているが、この低滴点の問題について厳密な理由は不明であると思われる。この問題は、上述の二工程処理及び一工程処理などの、単純カルシウムスルホネートグリース及びカルシウムスルホネートコンプレックスグリースの両方の製造に、従来技術の手法を使用するときに生じる。この問題は、また、同じく米国特許仮出願第61/553,674号に基づく優先権を主張する本発明者の同時係属中の米国特許出願に開示されている炭酸カルシウム系グリース手法を使用する場合にも生じることが、認められている。同時係属中の出願の発明によると、向上した増稠剤収率及び575°F超の滴点稠度を有するカルシウムスルホネートグリースは、大半の市販の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用して提供されるが、炭酸カルシウム系グリース手法で許容可能な滴点が得られない過塩基性油溶性カルシウムスルホネートが、ごくわずか存在する。従来技術の手法も悪影響を受けることから、この問題は、低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネート成分の何らかの化学的欠点にもっぱら起因することが、分かっている。ほとんどの市販過塩基性カルシウムスルホネートが良品質であると考えられるものの、良品質カルシウムスルホネート又は低品質カルシウムスルホネートのどちらを使うかに拘わらず、向上した増稠剤収率、及び、より高い滴点の双方を達成することが望ましい。本発明によれば、良品質カルシウムスルホネート又は低品質カルシウムスルホネートのどちらででも、向上した増稠剤収率、及び、より高い滴点の双方が達成され得ることが判明した。
【0012】
さらに、公知の従来技術は、一般に、575°F以上の滴点も有しながら十分に硬いグリースを実現するためには、(最終グリース製品の重量で)36%以上の量の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを必要とする。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、カルシウムスルホネートグリースの製造において最も高価な成分の1つであり、従って、この成分の量を低減することが望ましい。そのような低減は、結果として、グリースが、軟らか過ぎたり、劣った滴点を有したりすることなく、本発明に基づいたグリースで達成されている。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によると、(水などの幾つかの成分は、最終グリース製品に存在しないかも知れず、加えると示した濃度では存在しないかも知れないが)最終グリース製品の重量百分率で、36%未満の過塩基性カルシウムスルホネート、2〜20%のカルシウムヒドロキシアパタイト;随意的な量の0.07%〜0.74%の水酸化カルシウム又は酸化カルシウム;随意的な2%〜20%の添加炭酸カルシウム;1.5%〜10%の水;アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテルやカルボン酸などの、0.1%〜5%の1又は複数の変換剤;随意的な0.5%〜5%の促進酸;並びに、ホウ酸、酢酸、12−ヒドロキシステアリン酸、又はリン酸などの、2.8%〜11%(合計)の1又は複数のコンプレックス化酸(コンプレックスグリースが望まれる場合)を成分として有する、高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートグリース組成物が提供される。この好ましい実施形態によるカルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、575°F以上の滴点を有するNLGI第2等級グリースである。
【0014】
本発明の一実施形態によると、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、主たる過塩基化物質として非晶性炭酸カルシウムを含む高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、適当な初期量の、鉱油などの適する基油と組み合わせ、次いで、これを、唯一のカルシウム含有添加塩基としての微細に分割されたカルシウムヒドロキシアパタイト及び変換剤と混合し、その後、必要に応じて、先に加えたカルシウムヒドロキシアパタイト塩基の存在下で、極めて微細に分割された結晶性炭酸カルシウムの分散に非晶性炭酸カルシウムを有効に変換するのに必要な時間にわたって、約190°F〜200°Fの温度範囲に加熱することによって、製造する。変換が完了した後、1又は複数のコンプレックス化酸を加える。1又は複数のこれらのコンプレックス化酸の一部を、単純カルシウムスルホネートグリースの変換に先だって加え、1又は複数のコンプレックス化酸の残りを、変換後に加えてよい。380°F〜400°Fに混合物を速やかに加熱して、水及び揮発性反応副産物を除去し、次いで、必要に応じて追加の基油を加えて冷却する。最終のコンプレックスグリース産物は、その後、当技術分野における公知の方法で適当に挽いて、滑らかで均質な高品質カルシウムスルホネートコンプレックスグリースとする。
【0015】
本発明の他の実施形態では、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、変換前に加えるカルシウム含有塩基カルシウムヒドロキシアパタイトの量が、後に加えるコンプレックス化酸の全てと反応して中和するのに十分な量よりも少ないことを除いて、上述の工程に従って製造される。この実施形態において、それらの反応を完結するために、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、若しくは炭酸カルシウム、又は、これらの組み合わせを、使用してよい。好ましくは、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムは、カルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムの合計によってもたらされる水酸化物等価塩基性の75%以下を構成する。炭酸カルシウムを使用する場合、それは、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに由来してもよいし、或いは、コンプレックス化酸を加える前に、別個の成分として加えてもよい。従来技術は総じて、良好なグリース特性をもたらす態様で強いコンプレックス化酸と反応するには弱すぎる塩基であるとして、炭酸カルシウムを加えることに反対であることを教示しているが、本発明によってうまくいくことが判明している。
【0016】
本発明のさらに他の実施形態によると、カルシウムヒドロキシアパタイトは、コンプレックス化酸の全て又は一部も変換後に加える場合には、変換後に加えられてよい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態によると、過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、(a)主たる過塩基化成分として非晶性炭酸カルシウムを含む高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネート;(b)許容可能な最終の製品稠度を与えるために適当な量の適切な基油;(c)1又は複数のコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分な量で、変換前及び/又は変換後に加えられ、微細に分割された、カルシウム含有油不溶性固形塩基としてのカルシウムヒドロキシアパタイト;(d)いくらか又は全てが、製造中の揮発して最終完成製品には存在しないかも知れない変換剤;及び、(e)変換前若しくは変換後の何れかに加えられる、又は、一部が変換前に加えられ、他の一部が変換後に加えられる、1又は複数のコンプレックス化酸(コンプレックスグリースが望まれる場合)、を含む幾つかの化合物を反応させ混合することによって製造される。随意選択的に、他の実施形態に従って、変換前に促進酸を加えてもよい。そのような促進酸は、グリース構造の形成を援助する。
【0018】
本発明の他の実施形態によれば、カルシウムヒドロキシアパタイトは、コンプレックス化酸と完全に反応するには不十分な量で、上記の成分に加えられてもよい。この実施形態では、カルシウム含有油不溶性固形塩基として、微細に分割された炭酸カルシウムを、後に加える任意のコンプレックス化酸におけるカルシウムヒドロキシアパタイトによっては中和されない部分と、完全に反応して中和するのに十分な量で、好ましくは変換前に加えてもよい。
【0019】
他の実施形態によると、カルシウムヒドロキシアパタイトは、コンプレックス化酸と完全に反応するには不十分な量で、上記の成分に加えられてもよい。この実施形態では、カルシウム含有油不溶性固形塩基として、微細に分割された水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムを、同時に加えるカルシウムヒドロキシアパタイトでは中和されない、後に加える任意のコンプレックス化酸の部分と、完全に反応して中和するのに十分な量で、好ましくは変換前に加えてもよい。この実施形態では、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムは、好ましくは、加えるカルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムの合計によってもたらされる水酸化物等価塩基性の75%以下を占める。他の実施形態において、炭酸カルシウムも、カルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと共に加えてよい。その場合、炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸との反応の前又は後に加える。カルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムの量が、加えるコンプレックス化酸を中和するのに十分でない場合、炭酸カルシウムを、残りの任意のコンプレックス化酸を中和するのに十分な量を超える量で加えるのが好ましい。
【0020】
本発明のこの実施形態において使用する高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、米国特許第4,560,489号、米国特許第5,126,062号、米国特許第5,308,514号及び米国特許第5,338,467号などの従来技術に示されているような、一般的な任意のものであり得る。高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、そのような公知の方法に従って現場で製造されてよく、又は、市販の製品として購入されてもよい。このような高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、200以上、好ましくは300以上、最も好ましくは約400の全塩基価(TBN)値を有するであろう。この種の市販の過塩基性カルシウムスルホネートには、以下のものに限られないが、Chemtura USA Corporationによって供給されるHybase C401;Kimes Technologies International Corporationによって供給されるSyncal OB 400及びSyncal OB405−WO;Lubrizol Corporationによって供給されるLubrizol 75GR,Lubrizol 75NS,Lubrizol 75P,及びLubrizol 75WOが含まれる。本発明のこの実施形態に基づいた最終のグリースにおける高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの量は、変動し得るが、通常、10〜45%であろう。好ましくは、本発明のこの実施形態に従う高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの量は、グリースの総重量に基づいて、20〜36%であり、最も好ましくは25〜32%である。
【0021】
変換前又は変換後に加えるカルシウムヒドロキシアパタイトは、微細に分割されており、20ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満、最も好ましくは5ミクロン以下、の平均粒子サイズを有するものとされる。さらに、カルシウムヒドロキシアパタイトは、シリカ及びアルミナなどの研磨性汚染物が、得られるグリースの耐水特性に大きな影響を与えないほど低レベルである程度に、十分に純粋であるのが好ましいであろう。理想的には、最良の結果のために、カルシウムヒドロキシアパタイトは、食品等級又は米国薬局方等級の何れかであるべきである。加えるカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、グリースの総重量に基づき、2.0%〜20%、好ましくは4%〜15%、最も好ましくは5%〜10%であるが、望ましい場合は、変換及びコンプレックス化酸との全ての反応が完了した後に、より多くを加えてもよい。
【0022】
グリース製造において一般に使用され広く知られている、石油系の任意のナフテン鉱油又はパラフィン鉱油を、本発明における基油として使用してよい。合成基油も、また、本発明のグリースに使用してよい。そのような合成基油には、ポリアルファオレフィン(PAO)、ジエステル、ポリオールエステル、ポリエーテル、アルキル化ベンゼン、アルキル化ナフタレン、及びシリコーン油が含まれる。当業者には理解できるように、合成基油は、変換処理の間に存在すると、悪影響を及ぼすことがある。そのような場合、それらの合成基油を、最初は加えず、変換後などの、悪影響が排除され又は最小化される工程にてグリース製造処理に加える。ナフテン鉱基油又はパラフィン鉱基油が、その低コスト及び入手容易性の点から好ましい。加える基油(最初に加えるものと、所望の稠度を達成するためにグリース処理で後に加えるものとを含む)の合計量は、グリースの最終重量に基づいて、一般に30%〜60%、好ましくは35%〜55%、最も好ましくは40%〜50%である。
【0023】
本発明の一実施形態において使用する炭酸カルシウムは、微細に分割されており、20ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満、最も好ましくは5ミクロン以下、の平均粒子サイズを有するものとされる。さらに、炭酸カルシウムは、シリカ及びアルミナなどの研磨性汚染物が、得られるグリースの耐水特性に大きな影響を与えないほど低レベルである程度に、十分に純粋であるのが好ましい。理想的には、最良の結果のために、炭酸カルシウムは、食品等級又は米国薬局方等級の何れかであるべきである。加える炭酸カルシウムの量は、グリースの最終重量に基づいて、2.0%〜20%、好ましくは4%〜15%、最も好ましくは6%〜10%である。
【0024】
他の実施形態において変換前に加える水酸化カルシウム及び酸化カルシウムは、微細に分割されており、20ミクロン未満、好ましくは20ミクロン未満、最も好ましくは5ミクロン以下の平均粒子径を有するものとされる。さらに、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムは、シリカ及びアルミナなどの研磨性汚染物が、得られるグリースの耐水特性に大きな影響を与えないほど低レベルである程度に、十分に純粋であるのが好ましい。理想的には、最良の結果のために、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムは、食品等級又は米国薬局方等級の何れかであるべきである。水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムの合計量は、グリースの総重量に基づいて、0.07%〜0.74%、好ましくは0.15%〜0.63%、最も好ましくは0.18%〜0.37%である。
【0025】
アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル、カルボン酸、無機酸、有機硝酸塩、及び、活性水素又は互変異性水素の何れかを含有する他の任意の化合物などの1又は複数の変換剤が、本実施形態において使用される。このような変換剤の添加量は、グリースの最終重量に基づいて、0.1%〜5%、好ましくは1.0%〜4%、最も好ましくは1.5%〜3.0%であろう。使用する変換剤に応じて、変換剤は製造処理の間に揮発により除去してよい。特に好ましいのは、ヘキシレングリコール及びプロピレングリコールなどの、低分子量グリコールである。通常、最終グリースの重量に基づいて、1.5%〜10%、好ましくは2.0%〜5.0%、最も好ましくは2.2%〜4.5%の量で、水も加えられる。幾つかの変換剤は、コンプレックス化酸としても作用して、以下に記載する本発明の他の実施形態に基づいたカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造してもよいことに留意すべきである。このような成分は、変換及びコンプレックス化の双方の機能を、同時に提供する。
【0026】
必須ではないが、本発明の他の実施形態において、変換に先だって、促進酸(facilitating acid)を混合物に加えてもよい。炭素8〜16個のアルキル鎖長を有する、アルキルベンゼンスルホン酸などの好適な促進酸が、通常、効率のよいグリース構造形成を促進するのに役立つかも知れない。最も好ましくは、このアルキルベンゼンスルホン酸は、ほとんどが炭素約12個の長さである混合のアルキル鎖長を含む。このようなベンゼンスルホン酸は、一般に、ドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)と呼ばれている。この種の市販のベンゼンスルホン酸には、JemPak GK Inc.によって供給されるJemPak 1298 Sulfonic Acid、Pilot Chemical Companyによって供給されるCalsoft LAS−99、及び、Stepan Chemical Companyによって供給されるBiosoft S−101が含まれる。本発明においてアルキルベンゼンスルホン酸を使用する場合、ベンゼンスルホン酸は、グリースの最終重量に基づいて、0.50%〜5.0%、好ましくは1.0%〜4.0%、最も好ましくは2.0%〜3.6%の量で、変換前に加えられる。アルキルベンゼンスルホン酸を用いてカルシウムスルホネートを現場で製造する場合、本実施形態において加えられる促進酸が、カルシウムスルホネートの製造に必要な酸に追加される。
【0027】
コンプレックスグリースが望まれている場合、この実施形態では、1又は複数のコンプレックス化酸も使用される。これら1又は複数のコンプレックス化酸の一部は、随意選択的に、変換の前に加えられ、残りは、変換の後に加えられてよい。本実施形態で使用するコンプレックス化酸は、長鎖カルボン酸、短鎖カルボン酸、ホウ酸、及びリン酸の少なくとも1つ、好ましくは2つ以上を含むであろう。本発明での使用に適する長鎖カルボン酸は、少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。好ましくは、長鎖カルボン酸は、少なくとも16個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。最も好ましくは、長鎖カルボン酸は、12−ヒドロキシステアリン酸である。長鎖カルボン酸は、グリースの最終重量に基づき、0.5%〜5.0%、好ましくは1.0%〜4.0%、最も好ましくは2.0%〜3.0%、存在するであろう。
【0028】
本発明での使用に適する短鎖カルボン酸は、8個以下、好ましくは4個以下の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。最も好ましくは、短鎖カルボン酸は酢酸である。短鎖カルボン酸は、グリースの最終重量に基づき、0.05%〜2.0%、好ましくは0.1%〜1.0%、最も好ましくは0.2%〜0.5%、存在するであろう。本発明に基づくグリースの製造に使用する水又は他の成分と反応して、長鎖カルボン酸又は短鎖カルボン酸を生成すると期待することができる任意の化合物も、使用に適している。例えば、無水酢酸を使用すると、混合物に存在する水との反応で、コンプレックス化酸として使用される酢酸を生成するであろう。同様に、12−ヒドロキシステアリン酸メチルを使用すること、混合物に存在する水との反応で、コンプレックス化酸として使用する12−ヒドロキシステアリン酸を生成するであろう。これに代えて、混合物に十分な水が存在しない場合には、追加の水を混合物に加えて、それら成分と反応させて必要なコンプレックス化酸を形成してよい。
【0029】
本実施形態においてコンプレックス化酸としてホウ酸を使用する場合、グリースの総重量に基づいて、0.4%〜約4.0%、好ましくは0.7%〜3.0%、及び最も好ましくは1.0%〜2.5%の量を加える。ホウ酸は、まず水に溶解若しくは懸濁させて、或いは水なしで、加えられてよい。好ましくは、ホウ酸は、製造処理において水が残存している間に加えることになるであろう。これに代えて、公知の無機ホウ酸塩の何れかを、ホウ酸の代わりに使用してもよい。同様に、ホウ酸化アミン、ホウ酸化アミド、ホウ酸化エステル、ホウ酸化アルコール、ホウ酸化グリコール、ホウ酸化エーテル、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化ウレア、ホウ酸化カルボン酸、ホウ酸化スルホン酸、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化過酸化物などの、既存のホウ酸化有機化合物を、ホウ酸の代わりに使用してもよい。コンプレックス化酸としてリン酸を使用する場合、グリースの最終重量に基づいて、0.4%〜4.0%、好ましくは1.0%〜3.0%、最も好ましくは1.4%〜2.0%の量を加える。本明細書に記載されている様々なコンプレックス化酸の割合は、純粋な活性化合物に関している。これらのコンプレックス化酸の何れかが希釈された形態で入手可能な場合、それらは、それでも本発明における使用に適するかも知れない。しかしながら、そのような希釈されたコンプレックス化酸の割合は、希釈率を考慮して、実際の活性成分が指定の割合になるように、調整することが必要であろう。
【0030】
グリース製造技術において一般に認められている他の添加物も、本発明の単純グリースの実施形態又はコンプレックスグリースの実施形態の何れにおいても加えられてよい。そのような添加物は、防錆剤及び腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、抗酸化剤、極圧添加剤、耐摩耗添加剤、キレート剤、高分子、粘着剤、色素、化学マーカー、芳香付与剤、並びに、揮発性溶媒を含み得る。後者のカテゴリは、オープンギア潤滑油及び編組線潤滑油を製造する場合に、特に有用である。そのような添加物の何れかを含めることは、なお、本発明の範囲内にあると理解すべきである。
【0031】
本発明に基づいた組成物は、本明細書に記載の方法に従って製造されるのが好ましい。好ましい1つの方法は、(1)適当なグリース製造容器中で、高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと、適当な量の適切な基油とを、周囲温度〜約190°Fの温度にて混合する工程;(2)微細に分割されたカルシウムヒドロキシアパタイトを、後に加えるコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分な量で混合する工程;(3)1又は複数の変換剤を混合する工程;(4)加えられる1又は複数の適切なコンプレックス化酸の総重量に基づいて0%〜100%で、1又は複数の適切なコンプレックス化酸を混合する工程;(5)必要に応じて約190°F〜200°Fに加熱しながら混合を継続し、非常に微細に分割された結晶性炭酸カルシウムへの非晶性炭酸カルシウムの変換が完了するまで、その温度範囲に保つ工程;(6)変換前に加えなかった必要な任意のコンプレックス化酸を加える工程;(7)混合し、水及び任意の揮発性反応副産物を除去して、最終産物の品質を最適化するのに十分な温度に加熱する工程;(8)必要に応じて追加の基油を加えながら、グリースを冷却する工程;(9)当技術分野で周知である残りの所望の添加剤を加える工程;及び、所望の場合、(10)必要に応じて最終のグリースを挽いて、滑らかで均質な最終製品を得る工程、を含む。
【0032】
幾つかの他の実施形態では、工程(2)が以下の1つの工程を含むことを除いて、本発明の方法は上述のものと同じである:(a)ある実施形態に従って、後に加えるコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分な量で、微細に分割されたカルシウムヒドロキシアパタイト及び炭酸カルシウムを混合する工程;(b)本発明の他の実施形態に従って、後に加えるコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分な量で、微細に分割されたカルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び/若しくは酸化カルシウムを混合する工程。ここで、水酸化カルシウム及び/若しくは酸化カルシウムは、好ましくは、加えられる水酸化カルシウム及び/若しくは酸化カルシウム並びにカルシウムヒドロキシアパタイトの合計がもたらす水酸化物当量塩基性の75%を超える量で存在している;又は、(c)本発明の他の実施形態に従って、後に加えるコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分な量で、微細に分割されたカルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び/若しくは酸化カルシウムを混合する工程。ここで、水酸化カルシウム及び/若しくは酸化カルシウムは、好ましくは、加えられる水酸化カルシウム及び/若しくは酸化カルシウム並びにカルシウムヒドロキシアパタイトの合計がもたらす水酸化物当量塩基性の75%以下の量で存在している。
【0033】
さらに他の実施形態では、本発明に基づく組成物の製造処理は、前述の何れかの処理を含んでおり、ここで、カルシウムヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、及び/又は、1又は複数のコンプレックス化酸の一部が、変換に先立って加えられ、カルシウムヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、及び/又は、1又は複数のコンプレックス化酸の他の一部が、変換後に加えられてよい。これに代えて、炭酸カルシウムの全てが変換後に加えられてよい。変換後に加える場合、カルシウムヒドロキシアパタイトは、変換後に加える任意のコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分であるのが好ましい。
【0034】
本発明に基づく方法の何れも、開放空気中で、又は、グリース製造に一般に使用される閉止ケトルで行ってよい。変換処理は、通常の大気圧で、又は、閉止ケトル中で加圧下で実施可能である。開放ケトルでの製造が好ましく、そのようなグリース製造設備は普通に一般に利用できるからである。
【0035】
この処理の特徴には、本発明のカルシウムスルホネートグリース組成物を得るためには、重要ではないものもある。例えば、カルシウムヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウム、水、並びに他の変換剤を、変換の前に加える相対的な順序は、重要ではない。また、これらの成分を加える温度も特に重要ではなく、これらは、温度が190°F〜200°Fに達するまでに加えるのが好ましい。しかしながら、便宜上、これらの成分は、下記の実施例にて説明するように、通常、処理の開始時に加えられる。2つ以上のコンプレックス化酸を使用する場合、それらを加える順序は、変換の前又は後の何れにおいても、一般に重要でない。
【0036】
本発明に基づいたカルシウムスルホネートグリースの1つの好ましい製造方法では、変換後にグリースから水が除去される。変換が完了し、全てのコンプレックス化酸を加えた(コンプレックスグリースを製造する場合)後に、できるだけ速やかに水を除去するために、グリースを加熱するのが好ましい。これは、通常、開放条件下でバッチを加熱して混合することで可能になる。長時間にわたってグリース中に水が存在することは、増稠剤収率、滴点、又は両者の悪化を招くが、そのような悪影響は、水を速やかに除去することで避けられる。
【0037】
変換後のグリースは、変換剤として最初に加えた水のみならず、グリースの形成中に化学反応によって生じた全ての水を除去するのに足る高い温度にまで加熱されるべきである。一般に、この温度は、250°F〜300°F、好ましくは300°F〜380°F、最も好ましくは380°F〜400°Fである。グリースにポリマー添加物を加える場合、それらは、好ましくは、グリース温度が300°Fに達するまで加えられない。ポリマー添加物は、十分な濃度で加えられる場合、水の効率的な揮発を妨げ得る。従って、ポリマー添加物は、全ての水を除去した後にのみ、グリースに加えられるのが好ましい。
【0038】
前述のように、市販の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートでは、そのような過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを用いて種々の方法に従って製造したグリースの滴点に応じて、品質が変動する。より高い(575°F超)滴点を有するグリースを生じる過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、本発明の趣旨として、「良」品質カルシウムスルホネートと考えられ、より低い滴点を有するグリースを生じるものは、本発明の趣旨として、「低」品質と考えられる。グリースの滴点の差異を示すために、市販の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを用い、使用した特定の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートが唯一の変化であるようにして、幾つかのバッチのグリースを製造した。これらのバッチのグリース(以下に説明する実施例1〜9)では、唯一のカルシウム塩基源として炭酸カルシウムを使用しており、この炭酸カルシウムについての一般的な組成物及び方法は、同じく米国特許仮出願第61/553,674号の利益を主張する、本発明者の同時係属出願第13/664,574号において実施形態として開示してある。
【実施例】
【0039】
実施例1〜8で使用した全ての成分の量は、以下に示す量と同じである。後の実施例との比較のために、実施例9における量は、他の例における量の約半分とされており、以下の括弧内に示してある。カルシウムスルホネートコンプレックスグリースのこれらのバッチは全て、次の処理に従って製造した。720.0グラム(実施例9では360.0グラム)の400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加えて、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する、667.5グラム(実施例9では339.8グラム)の溶媒中性グループ1(solvent neutral group 1)パラフィン基油と、100°Cにて4cStの粘度を有する、20.0グラムのPAOとを加えた。加熱することなく、遊星混合パドル(planetary mixing paddle)を用いて混合を開始した。その後、72.00グラム(実施例9では28.4グラム)の第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、151.6グラム(実施例9では75.80グラム)の、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された炭酸カルシウムを加え、20分間混合した。次いで、36.00グラム(18.0グラム)のヘキシレングリコール、及び90.0グラム(実施例9では45.0グラム)の水を加えた。混合物を、温度が190°Fに達するまで、加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、温度を190°F〜200°Fに45分間保った。直ちに、56.80グラム(実施例9では28.40グラム)の12−ヒドロキシステアリン酸を、5.60グラム(実施例9では2.8グラム)の氷酢酸と共に加えた。その後、38.00グラム(実施例9では19.0グラム)の75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、55.60グラム(実施例9では27.80グラム)のスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、最終のグリースがNLGI第2等級稠度になるように、追加のパラフィン基油を徐々に加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、10.00グラム(実施例9では5.0グラム)のポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。試料番号で表す特定の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを用いて製造したグリースバッチは、次の表1に示す特徴を有していた。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明の趣旨として、「良」品質カルシウムスルホネートへの言及は、上述の(及び同時係属出願第13/664574号に開示の)炭酸カルシウム組成物及び方法、及び/又は、何れかの従来技術の組成物及び方法を用いて、575°F超の滴点を有するグリースをもたらすであろう任意のものを含んでいる。同様に、本発明の目的のために、「低」品質カルシウムスルホネートへの言及は、上述の(及び同時係属出願第13/664574号に開示の)炭酸カルシウム組成物及び方法、及び/又は、何れかの従来技術の組成物及び方法を用いて、575°F以下の滴点を有するグリースをもたらすであろう任意のものを含んでいる。
【0042】
実施例1〜5は全て、異なった過塩基性油溶性カルシウムスルホネート試料(つまり、異なる市販製品)を使用しており、全てが、600°F超の滴点を有するカルシウムスルホネートコンプレックスグリースをもたらした。実施例6〜9に使用した過塩基性油溶性カルシウムスルホネート試料は全て、同じ商業的供給源に由来しており、同じ市販製品であったが、これらの実施例で経験される問題が、特定のバッチの過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに孤立しないことを確実にするために、実施例8及び9で使用した試料(それぞれ6B及び6Cと表記)は、実施例6及び7で使用した試料(6Aと表記)とは異なる他の2つのバッチに由来するものとした。実施例6〜9では全て、575°F以上という所望の滴点よりも大きく低い、510°F未満の滴点という結果になった。これらの実施例のバッチのグリースの製造における唯一の変更点(実施例9における成分の低減を除く)は、使用した過塩基性油溶性カルシウムスルホネートであるので、滴点の差異は、使用した特定のカルシウムスルホネートの特異性に起因するに違いない。
【0043】
上記の実施例で使用した、良品質又は低品質である同じ過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、本発明に基づく過塩基性カルシウムスルホネートグリース組成物を製造するために使用した。本発明に基づいてそのような組成物を製造するためのこれらのグリース組成物及び方法を、以下の実施例に関連してさらに説明する。
【0044】
実施例10:カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを以下のように調製した。実施例8で使用したもの(過塩基性油溶性カルシウムスルホネート試料番号6B)と同じ720.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加えて、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する697.9グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する20.0グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、72.00グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された151.6グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、20分間混合した。この量のカルシウムヒドロキシアパタイトは、変換後に加えられるであろう12−ヒドロキシステアリン酸及び酢酸(コンプレックス化酸)と反応して中和するための水酸化物塩基性の必要量を超える量をもたらすのに十分であった。次いで、36.00グラムのヘキシレングリコール及び90.0グラムの水を、変換剤として加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに45分間温度を保った。56.80グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を、5.60グラムの氷酢酸と共に、直ちに加えた。これら2つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であり、変換前に加えたカルシウムヒドロキシアパタイトによってもたらされた水酸化物塩基性と完全に反応し、それによって中和された。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、55.60グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、174.5グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、10.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、248の未混和稠度を有していた。グリースを混合器に戻し、さらなる177.4グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースを30分間混合した。グリースを取り出して、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な質感とした。グリースは、276の混和稠度を有していた。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は33.1%であった。滴点は、643°F超であった。
【0045】
この実施例10のグリースは、575°Fという所望の目標値よりも大きく高い滴点を有していた。実際に、この滴点は、良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用した実施例1〜5のグリースに匹敵した。本発明のこの実施形態に基づいたグリース組成物及び方法を使用すると、このグリースの滴点は、炭酸カルシウム及び実施例8のものと全く同じ過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用して製造したグリースの滴点よりも、約150°F高かった。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合が36%未満(実施例10では33.1%であり、これは実施例8の31.4%よりも僅かに高いだけである)であったので、増稠剤収率も、所望の目標値に合致していた。
【0046】
実施例11:この実施例は、カルシウムヒドロキシアパタイトが、単にリン酸トリカルシウムと水酸化カルシウムとの混合物ではないこと、及び、カルシウムヒドロキシアパタイトが、実際に、水酸化物当量の水酸化カルシウムと比べて優れたカルシウムスルホネート系グリースをもたらすことを実証するために調製された。この実施形態では、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを以下のように調製した。実施例8及び10で使用したもの(過塩基性油溶性カルシウムスルホネート試料番号6B)と同じ720.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する697.9グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油と、100°Cにて4cStの粘度を有する20.0グラムのPAOとを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、72.00グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有するように微細に分割された、食品等級純度の11.2グラムの水酸化カルシウムを加えて、20分間混合した。カルシウムヒドロキシアパタイトが単にリン酸トリカルシウムCa(POと水酸化カルシウムCa(OH)との混合物であると考えた場合、11.2グラムが、151.6グラムのカルシウムヒドロキシアパタイト(先の実施例10において変換前に使用した量のカルシウムヒドロキシアパタイト)中の水酸化カルシウムの量になるので、この量の水酸化カルシウムを使用した。次いで、36.00グラムのヘキシレングリコール及び90.0グラムの水を加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに45分間温度を保った。直ちに、100.6グラムの同じ水酸化カルシウムを加えて混合した。この追加の水酸化カルシウムは、(後に加える)対応する量のリン酸と反応して、カルシウムヒドロキシアパタイトが単にリン酸トリカルシウムと水酸化カルシウムとの混合物であると考えた場合に151.6グラムのカルシウムヒドロキシアパタイト中に存在するであろう量のリン酸トリカルシウムCa(POを生成するのに、必要であった。
【0047】
その後、56.80グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を、5.60グラムの氷酢酸と共に加えた。これら2つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、118.40グラムの75%リン酸水溶液を加えて、追加した水酸化カルシウムと反応させた。追加した水酸化カルシウムと反応して、151.6グラムのカルシウムヒドロキシアパタイト中に存在するであろう量のリン酸トリカルシウムCa(POを生成するのに、この量のリン酸が必要であった。このバッチをこのように構築することで、このバッチの最終反応後組成物と、処理のこの段階における先の実施例10とは、同一である。唯一の差異は、実施例10においては、コンプレックス化酸との反応のための水酸化物が、変換前に、カルシウムヒドロキシアパタイトによって供給されるのに対し、実施例11においては、同量の水酸化物が、変換前に、実際の水酸化カルシウムによって供給されることである。コンプレックス化酸の重量は、両バッチにおいて同じである。低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの重量は、両バッチにおいて同じである。他の全ての成分の重量も、両バッチにおいて同じである。
【0048】
その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、55.60グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、174.5グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースの温度が200°Fに下がったとき、10.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、236の未混和稠度を有していた。グリースを混合器に戻し、さらなる288.0グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。この追加の基油は、実施例10とほぼ同じ混和稠度を有する最終のグリースを得るために加えた。実施例10のグリースの滴点とこの実施例のグリースの滴点とを極めて正確に比較するためには、それらの最終稠度(60往復混和稠度)をできるだけ等しくすることが重要である。グリースを30分間混合した。グリースを取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な質感とした。グリースは、271の混和稠度を有していた。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は30.4%であった。滴点は、530°F超であった。
【0049】
実施例10及び11のグリースは、どちらも、増稠剤収率が向上しており(過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの使用が、両方とも、36%よりも大きく低い)、それらの60往復混和稠度は、ほぼ同一であった。しかしながら、実施例11のグリースの滴点は、実施例10のグリースよりも、110°F超低かった。実施例10と11との比較は、カルシウムヒドロキシアパタイトが、単なるリン酸トリカルシウムと水酸化カルシウムの混合物ではないことを実証している。さらに、両者の比較は、優れた滴点特性を有するカルシウムスルホネートコンプレックス増稠剤成分を形成する反応性に関して、カルシウムヒドロキシアパタイトは、水酸化カルシウムと等価ではなく、実際に塩基源として水酸化カルシウムよりも優れていることを証明している。最後に、実施例11の結果は、従来の方法に従って、コンプレックス化酸と反応するカルシウム含有塩基として、水酸化カルシウムを用いてカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造する場合に、低品質の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用すると、満足な滴点値は得られないことを示している。しかし、本発明の組成物及び方法の実施形態(実施例10に示す)によれば、カルシウム塩基源としてカルシウムヒドロキシアパタイトを使用することは、低品質の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用する場合に、許容可能な滴点値をもたらす。これらの結果は、公知の従来技術においては見られず、予想されてもいない。
【0050】
実施例12:実施例4の良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネート(過塩基性油溶性カルシウムスルホネート試料番号4)を使用したことを除いて、実施例10のグリースと類似した別のバッチを製造した。最終のグリースは286の混和稠度を有していた。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は28.9%であった。滴点は643°F超であった。
【0051】
実施例13:実施例3の良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用したことを除き、実施例10のグリースと類似した別のバッチを製造した。最終のグリースは265の混和稠度を有していた。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は33.1%であった。滴点は650°F超であった。この実施例及び前の実施例は、実施例10に示した本発明が、良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用した場合にも、優れた結果をもたらすことを示している。
【0052】
実施例14:同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用して、実施例10のグリースと類似の別のバッチを製造した。唯一の差異は、このバッチにおいては、カルシウムヒドロキシアパタイトを、変換後、かつ、コンプレックス化酸である12−ヒドロキシステアリン酸及び酢酸の前に、加えたことである。最終のグリースは267の混和稠度を有していた。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は33.1%であった。滴点は646°F超であった。この実施例は、低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用するとき、カルシウムヒドロキシアパタイトは、コンプレックス化酸と反応するカルシウム含有塩基として、変換の前又は後の何れにも加えることができること、並びに、優れた滴点及び増稠剤収率を有するカルシウムスルホネートコンプレックスグリースが得られることを、証明している。
【0053】
実施例15:同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用して、実施例10と類似のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースのバッチを製造した。しかしながら、このバッチにおいては、コンプレックス化酸である12−ヒドロキシステアリン酸及び酢酸の全てを、変換後ではなく変換前に加えた。このバッチは、以下のように製造した。実施例10で使用した同じ720.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する697.9グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、20.0グラムの、100°Cにて4cStの粘度を有するPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、72.00グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有するように微細に分割された151.6グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、20分間混合した。この量のカルシウムヒドロキシアパタイトは、後に加えるであろうコンプレックス化酸と反応して中和するための水酸化物塩基性の必要量を超える量をもたらすのに十分であった。その後、56.80グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。次いで、36.00グラムのヘキシレングリコールを加えた。温度が150°Fに達するまで、混合物を加熱した。その後、90.0グラムの水及び5.60グラムの氷酢酸を加えた。温度が190°Fに達するまで加熱を継続した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、55.60グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、174.5グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、10.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、220の未混和稠度を有していた。グリースを混合器に戻し、さらなる409.1グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースを40分間混合した。グリースを取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な質感とした。グリースは、273の混和稠度を有していた。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は29.9%であった。滴点は、583°Fであった。このように、このグリースは、575°Fという所望の目標値よりも高い滴点を有していた。増稠剤収率も、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合が36%未満なので、所望の目標値を満たしていた。
【0054】
実施例16:実施例4の良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用したことを除いて、実施例15のグリースと類似のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。最終のグリースは、288の60往復混和稠度を有していた。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は31.4%であった。滴点は、644°Fであった。この実施例は、実施例15に示した本発明が、良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用した場合でも、優れた結果をもたらすことを示している。
【0055】
実施例17:実施例10で使用した低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用して、別のバッチのカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。ただし、このバッチにおいては、カルシウムヒドロキシアパタイト及び炭酸カルシウムの両方を変換前に加えた。また、12−ヒドロキシステアリン酸の全量の40%及び酢酸の全てを、変換前に加えた。12−ヒドロキシステアリン酸と酢酸は、このバッチにおけるコンプレックス化酸であった。グリースは以下のように製造した。実施例10で使用した同じ720.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する585.9グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する20.0グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。その後、72.00グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された151.6グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、10分間混合した。この量のカルシウムヒドロキシアパタイトは、後に加えるであろうコンプレックス化酸と反応して中和するための水酸化物塩基性の必要量を超える量をもたらすのに十分であった。その後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された140.0グラムの炭酸カルシウムを加え、10分間混合した。次いで、22.72グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。その後、36.00グラムのヘキシレングリコールを加えた。混合物を、温度が150°Fに達するまで、加熱した。次いで、90.0グラムの水及び5.60グラムの氷酢酸を加えた。190°Fに達するまで、加熱を継続した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。グリースが非常に濃厚なので、追加で146.5グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、55.60グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、73.24グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、10.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、227の未混和稠度を有していた。グリースを混合器に戻し、さらなる380.0グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースを40分間混合した。グリースを取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な質感とした。グリースは、265の未混和稠度を有していた。その60往復混和稠度は、265〜295であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は29.4%であった。滴点は、583°Fであった。
【0056】
実施例18:実施例4の良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用したことを除き、実施例17のグリースと類似のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。最終のグリースは、296の60往復混和稠度を有していた。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、30.1%であった。滴点は、645°Fであった。
【0057】
カルシウム含有塩基としてカルシウムヒドロキシアパタイトを使用した先の実施例においては、カルシウムヒドロキシアパタイトによってもたらされた水酸化物塩基性は、全てのコンプレックス化酸と反応して中和するのに十分であった。カルシウムヒドロキシアパタイト及び炭酸カルシウムの双方を加えた実施例17においても、カルシウムヒドロキシアパタイトの量は、全てのコンプレックス化酸と反応して中和するのに十分であった。以下の実施例は、カルシウムヒドロキシアパタイトによって中和されなかったコンプレックス化酸を中和するのに十分な量で、炭酸カルシウムが存在することを条件に、カルシウムヒドロキシアパタイトが、全てのコンプレックス化酸を中和するには不十分な量で、どのように使用されるかを示すために、提供される。
【0058】
実施例19:実施例9の低品質過塩基性カルシウムスルホネートを使用し、カルシウムヒドロキシアパタイト及び炭酸カルシウムを変換前に加えて、本発明の実施形態に基づいてカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは次のように製造した。360.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する272.6グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する10.0グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。5分間混合した後、84.00グラムの、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有するカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、30分間混合した。その後、28.40グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された75.80グラムの炭酸カルシウムを加え、5分間混合した。その後、18.00グラムのヘキシレングリコール及び45.0グラムの水を加えた。混合物を、温度が190°Fに達するまで、加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。直ちに、2.80グラムの氷酢酸を加え、次いで、28.40グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。その後、19.00グラムの75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達したとき、27.80グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、68.16グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、5.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、233の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる180.0グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、30分間グリースに混入させた。最終のグリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通した。グリースの60往復混和稠度は、279であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は30.5%であった。滴点は、588°Fであった。
【0059】
この実施例における幾つかの特徴に注意すべきである。第1に、カルシウムヒドロキシアパタイトを、C12スルホン酸の前に加えた。カルシウムヒドロキシアパタイトを加えた先の全ての実施例においては、C12スルホン酸をカルシウムヒドロキシアパタイトの前に加えた。このバッチの結果は、これら2つの成分を加える順序が、本発明の成功にとって特に重要ではないことを示している。後述の実施例も、同様に、このことを示すであろう。第2に、このバッチで加えたカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに存在する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと合わせて、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約64%と反応して中和するのに十分であるにすぎない。しかしながら、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。この実施例の試験結果を先の実施例9(カルシウムヒドロキシアパタイトを使用しなかったことを除き、同じ成分及び同じ方法を使用した)と比較すると、両グリースにて同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用したにも拘わらず、本発明のこの実施形態は、滴点の改善をもたらすことが明らかである。
【0060】
実施例20:実施例9及び19の同じ低品質過塩基性カルシウムスルホネートを使用し、カルシウムヒドロキシアパタイト及び炭酸カルシウムを変換前に加えて、本発明の他の実施形態に従うカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。また、12−ヒドロキシステアリン酸及び酢酸の総量の40%を、変換前に加えた。このグリースは次のように製造した。360.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する272.6グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する10.00グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。5分間混合した後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する84.00グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、30分間混合した。その後、28.40グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、1.12グラムの氷酢酸及び11.36グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。その後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する75.80グラムの微細に分割された炭酸カルシウムを加え、5分間混合した。その後、18.00グラムのヘキシレングリコール及び45.0グラムの水を加えた。混合物を、温度が190°Fに達するまで、加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。直ちに、1.68グラムの氷酢酸を加え、次いで、17.04グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。その後、19.00グラムの75%リン酸水溶液を加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、27.80グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが250°Fまで冷えると、68.16グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、5.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。グリースが非常に濃厚に見えたので、追加の102.2グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、30分間混合した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、235の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる211.1グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、40分間グリースに混入させた。最終のグリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通した。グリースの60往復混和稠度は、298であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は27.4%であった。滴点は、605°Fであった。
【0061】
実施例20のグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は620kgであった。このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに存在する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと合わせて、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約64%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。しかしながら、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。
【0062】
実施例21:同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用して、本発明の実施形態に従う他のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは、炭酸カルシウムの50%を変換前に加えたことを除いて、先の実施例20のグリースと同じであった。残りの50%の炭酸カルシウムは、グリースを約390°F超に加熱し、その後300°F未満に冷却した後に加えた。このグリースの製造の他の特徴は、実施例20と同じであった。グリースの60往復混和稠度は283であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は25.7%であった。滴点は579°Fであった。このグリースは、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は620kgであった。このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに存在する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと合わせて、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約64%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。しかしながら、変換前の最初に加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。
【0063】
実施例22:低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明の実施形態に従う他のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは、変換後にコンプレックス化酸としてホウ酸を加えたことを除いて、実施例21のグリースと同様に製造した。このグリースは次のように製造した。360.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する264.6グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する10.00グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。5分間混合した後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する84.00グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、30分間混合した。その後、28.40グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、1.12グラムの氷酢酸及び11.36グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。その後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された37.90グラムの炭酸カルシウムを加え、5分間混合した。その後、18.00グラムのヘキシレングリコール及び45.0グラムの水を加えた。混合物を、温度が190°Fに達するまで、加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。グリースが非常に濃厚に見えたので、82.52グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。直ちに、1.68グラムの氷酢酸を加え、次いで、17.04グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。この時点で、10.00グラムの結晶性ホウ酸末を約15ミリリッターの水に分散させて、グリースに加えた。グリースが非常に濃厚に見えたので、追加の68.84グラムの同じパラフィン基油を加えた。その後、19.00グラムの75%リン酸水溶液を加えた。これら4つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、27.80グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが300°F未満に冷えたとき、さらなる37.9グラムの炭酸カルシウムを加えた。グリースが250°Fまで冷えたとき、142.8グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、5.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、255の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる120.4グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、40分間グリースに混入させた。最終のグリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通した。グリースの60往復混和稠度は、285であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は26.7%であった。滴点は、618°Fであった。このグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は800kgであった。このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに存在する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと合わせて、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約50%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。しかしながら、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。
【0064】
実施例23:同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明の実施形態に従う別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは、ホウ酸の量を増したことを除いて、実施例22のグリースと同様に製造した。また、ホウ酸を増したことに応じて、変換前に加える炭酸カルシウムの量も増した。このグリースは次のように製造した。360.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する237.9グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する10.00グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。5分間混合した後、84.00グラムの、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有するカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、30分間混合した。その後、28.40グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、1.12グラムの氷酢酸及び11.36グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。その後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された57.3グラムの炭酸カルシウムを加え、5分間混合した。その後、18.00グラムのヘキシレングリコール及び45.0グラムの水を加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。グリースが非常に濃厚に見えたので、59.48グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。直ちに、1.68グラムの氷酢酸を加え、次いで、17.04グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。この時点で、24.00グラムの結晶性ホウ酸末を約20ミリリッターの水に分散させて、グリースに加えた。グリースが非常に濃厚に見えたので、追加の128.8グラムの同じパラフィン基油を加えた。その後、19.00グラムの75%リン酸水溶液を加えた。これら4つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、27.80グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが300°F未満に冷えると、さらなる37.9グラムの炭酸カルシウムを加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、5.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、245の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる161.2グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、40分間グリースに混入させた。最終のグリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通した。グリースの60往復混和稠度は、275であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は27.9%であった。滴点は、607°Fであった。
【0065】
実施例23のグリースは、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は800kgであった。このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに由来する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと合わせて、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約39%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。しかしながら、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。
【0066】
実施例24:同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明の実施形態に従う別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは、カルシウムヒドロキシアパタイトの半分を水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換えたという変更を除いて、実施例22のグリースと類似していた。このグリースは次のように製造した。360.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する295.76グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する10.00グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。5分間混合した後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する42.00グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトを加えた。続いて、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する3.10グラムの食品等級純度の水酸化カルシウムを加えた。30分間混合した後、28.40グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、1.12グラムの氷酢酸及び11.36グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。その後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された37.90グラムの炭酸カルシウムを加え、5分間混合した。その後、18.00グラムのヘキシレングリコール及び45.0グラムの水を加えた。混合物を、温度が190°Fに達するまで、加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、温度を190°F〜200°Fに45分間保った。グリースが非常に濃厚に見えたので、73.94グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。直ちに、1.68グラムの氷酢酸を加え、次いで、17.04グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。この時点で、10.00グラムの結晶性ホウ酸末を約15ミリリッターの水に分散させて、グリースに加えた。その後、19.00グラムの75%リン酸水溶液を加えた。これら4つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。グリースが非常に濃厚に見えたので、追加の110.9グラムの同じパラフィン基油を加えた。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達したとき、27.80グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが300°F未満に冷えたとき、さらなる37.9グラムの炭酸カルシウムを加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、5.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、235の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる212.7グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、30分間グリースに混入させた。最終のグリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通した。グリースの60往復混和稠度は、291であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は27.2%であった。滴点は、603°Fであった。
【0067】
このグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は800kgであった。このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイト及び水酸化カルシウムの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに由来する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと合わせて、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約50%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。しかしながら、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。
【0068】
このバッチと実施例22及び実施例11のグリースとを比較すると、変換前にカルシウムヒドロキシアパタイトを加えることの有利な効果は、カルシウムヒドロキシアパタイトの半分を水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換えた場合にも現れることが、明白である(実施例22と実施例24を比較されたい)。しかしながら、全てのカルシウムヒドロキシアパタイトを水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換えると、はるかに低い滴点が得られる(実施例11)。換言すると、低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用してカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造する場合にて、加える唯一の水酸化物源としてカルシウムヒドロキシアパタイトを使用することによって生じる滴点における利点の向上は、カルシウムヒドロキシアパタイトの半分までを水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換える場合は、保たれる。しかし、全てのカルシウムヒドロキシアパタイトを水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換える場合は、滴点向上は失われる。この結果は、公知の従来技術からは予想できない。
【0069】
実施例24A:同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明に従う他のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは、カルシウムヒドロキシアパタイトの75%を水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換えたことが大きく異なるだけで、先の実施例22のグリースと同様に製造した。
【0070】
このグリースは次のように製造した。360.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する311.28グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する10.00グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。5分間混合した後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する21.00グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトを加えた。次いで、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する4.70グラムの食品等級純度の水酸化カルシウムを加えた。30分間混合した後、28.40グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、1.12グラムの氷酢酸及び11.36グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。その後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された37.90グラムの炭酸カルシウムを加え、5分間混合した。その後、18.00グラムのヘキシレングリコール及び45.0グラムの水を加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。グリースが非常に濃厚に見えたので、77.82グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。直ちに、1.68グラムの氷酢酸を加え、次いで、17.04グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。この時点で、10.00グラムの結晶性ホウ酸末を約50ミリリッターの熱水に分散させて、グリースに加えた。その後、19.00グラムの75%リン酸水溶液を加えた。これら4つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。グリースが非常に濃厚に見えたので、追加の116.73グラムの同じパラフィン基油を加えた。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、27.80グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが300°F未満に冷えると、さらなる37.9グラムの炭酸カルシウムを加えた。グリースの温度が200°Fに下がったとき、5.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、253の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる75.04グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、30分間グリースに混入させた。最終のグリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通した。グリースの60往復混和稠度は、275であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は30.2%であった。滴点は、650°F超であった。このグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は620kgであった。このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイト及び水酸化カルシウムの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに由来する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと合わせて、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約50%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。しかしながら、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。
【0071】
このバッチと先の実施例11,実施例22及び実施例24とを比較すると、変換前にカルシウムヒドロキシアパタイトを加えることの有利な効果は、カルシウムヒドロキシアパタイトの半分を水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換えた場合(実施例22と実施例24を比較されたい)のみならず、カルシウムヒドロキシアパタイトの75%を水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換えた場合にも現れることが、明白である(実施例24と実施例24Aを比較されたい)。
【0072】
実施例25:同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明の実施形態に基づいて別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは、グリースを390°Fに加熱して300°F未満に冷却した後に、全ての炭酸カルシウムを加えたことを除いて、実施例24の先のグリースと全く同様に製造した。先の実施例24のグリースとは異なり、変換前に炭酸カルシウムは加えなかった。最終のグリースは、281の60往復混和稠度を有していた。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は27.0%であった。滴点は、623°Fであった。このグリースは、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は800kgであった。
【0073】
この実施例は、カルシウムヒドロキシアパタイトの半分を水酸化物当量の炭酸カルシウムで置き換えることの有利な効果が、加える炭酸カルシウムの存在に依存しないことを示している。C12スルホン酸、C12−ヒドロキシステアリン酸、酢酸及びホウ酸は、全て、カルシウムヒドロキシアパタイト、加える水酸化カルシウム、並びに、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに存在する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムによってもたらされる水酸化物塩基性で中和された。しかし、この塩基性の量は、リン酸と反応して中和するには不十分であった。リン酸を加えた場合のこの実施例における他の唯一の中和源は、このグリースを製造するために使用した過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに元々存在した分散炭酸カルシウムであった。この非常に微細に分散した炭酸カルシウムの約18.4%が、リン酸の中和において消費された。カルシウムスルホネート由来の炭酸カルシウムの非常に微細な分散の超高表面積が、全ての単純カルシウムスルホネートグリース及びカルシウムスルホネートコンプレックスグリースの、主要な増稠源である。従って、この非常に微細に分散した炭酸カルシウムのほとんど20%の消費が、増稠剤収率に負の影響を及ぼすであろうと予想されよう。しかし、(使用した過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの30%未満に基づいた)この実施形態における増稠剤収率は優れていた。この実施例は、本発明のこの実施形態に基づいた組成物及び方法の予期せぬ利点を示している。
【0074】
実施例26:同じ低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明の実施形態に従う別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは、12−ヒドロキシステアリン酸の40%だけではなく、12−ヒドロキシステアリン酸の全てを、変換前に加えたことを除いて、先の実施例25のグリースと全く同様に製造した。最終のグリースは、283の60往復混和稠度を有していた。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は28.1%であった。滴点は、643°Fであった。このグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は800kgであった。この実施例は、低品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを利用するカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造する場合に、カルシウム含有塩基としての、カルシウムヒドロキシアパタイトの半分を水酸化物当量の水酸化カルシウムで置き換えることの不変の利点を、依然として示している。先の実施例25のグリースと同様に、C12スルホン酸、C12−ヒドロキシステアリン酸、酢酸及びホウ酸は、全て、カルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム、並びに、過塩基性油溶性カルシウムスルホネート由来の少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムによってもたらされる水酸化物塩基性で中和されたが、この塩基性は、リン酸と反応して中和するには不十分であった。リン酸は、カルシウムスルホネートに存在する分散炭酸カルシウムによって中和された。この非常に微細に分散した炭酸カルシウムの約18.4%が、リン酸の中和において消費された。それにも拘わらず、最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの低い割合によって示されるように、優れた増稠剤収率が再び得られた。
【0075】
実施例25及び実施例26も、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに由来して存在するかも知れない少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウム、並びに、加えるカルシウムヒドロキシアパタイト及び加える任意の水酸化カルシウムの合計によってもたらされる全塩基性が、加える酸と反応して中和するには不十分であるときでさえ、本発明のこれらの実施形態に基づいて、塩基源としてカルシウムヒドロキシアパタイトを使用することによって、増稠剤収率及び滴点の改善が達成され得ることを示している。そのような場合、加えた酸の未反応の部分は、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに由来する非常に微細に分散した炭酸カルシウムの一部分によって中和されて、得られるグリースの質に悪影響を及ぼさないであろう。
【0076】
本発明に従う実施形態のさらなる実施例を、「良」品質の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを用いて、調製した。
【0077】
実施例27:実施例4の良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明の実施形態に基づく他のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。実施例22のグリースと同様に、コンプレックス化酸としてホウ酸を加えた。また、12−ヒドロキシステアリン酸の40%を変換の前に加え、炭酸カルシウムの50%を変換の前に加えた。このグリースは次のように製造した。360.0グラムの良品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する263.3グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する10.00グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。5分間混合した後、84.00グラムの、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有するカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、30分間混合した。その後、36.00グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、11.36グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。その後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された47.60グラムの炭酸カルシウムを加え、5分間混合した。その後、18.00グラムのヘキシレングリコール及び45.0グラムの水を加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、190°F〜200°Fに温度を45分間保った。グリースが非常に濃厚に見えたので、29.26グラムの同じパラフィン基油を徐々に加えた。直ちに、17.04グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。この時点で、24.00グラムの結晶性ホウ酸末を約50ミリリッターの熱水に分散させて、グリースに加えた。その後、19.00グラムの75%リン酸水溶液を加えた。グリースが粘稠になったので、追加の88.03グラムの同じパラフィン基油を加えた。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、27.80グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが300°F未満に冷えると、さらなる47.6グラムの炭酸カルシウムを加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、5.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、239の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる141.1グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、40分間グリースに混入させた。最終のグリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通した。グリースの60往復混和稠度は、299であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は29.3%であった。滴点は、650°F超であった。このグリースについて、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は800kgであった。このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約48%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。ただし、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。
【0078】
実施例28:実施例4の良品質過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明の実施形態に基づく別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。このグリースは、12−ヒドロキシステアリン酸の全てを変換前に加えたことを除いて、実施例27のグリースと全く同様に製造した。最終のグリースは、285の60往復混和稠度を有していた。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は33.3%であった。滴点は、650°F超であった。このグリースは、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は800kgであった。このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約48%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。ただし、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。
【0079】
実施例29:実施例5の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用し、本発明の実施形態に基づいた別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。この過塩基性カルシウムスルホネートは、滴点に関しては良好な品質を有していたが、その増稠剤収率は、実施例5で使用した39.3%のカルシウムスルホネートで示されたほど良くはなかった。この実施例に従うグリースは次のように製造した。360.0グラムの低品質400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを、開放混合容器に加え、次いで、100°Fにて約600SUSの粘度を有する250.4グラムの溶媒中性グループ1パラフィン基油、及び、100°Cにて4cStの粘度を有する10.00グラムのPAOを加えた。加熱することなく、遊星混合パドルを用いて混合を開始した。5分間混合した後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する84.00グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、30分間混合した。その後、36.00グラムの第一級C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分後、1.12グラムの氷酢酸及び11.36グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加え、10分間混合した。その後、5ミクロン未満の平均粒子サイズを有する微細に分割された47.6グラムの炭酸カルシウムを加え、5分間混合した。その後、18.00グラムのヘキシレングリコール及び45.0グラムの水を加えた。温度が190°Fに達するまで、混合物を加熱した。非晶性炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が生じたことが、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析で示されるまで、温度を190°F〜200°Fに45分間保った。直ちに、1.68グラムの氷酢酸を加え、次いで、17.04グラムの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。この時点で、24.00グラムの結晶性ホウ酸末を約50ミリリッターの熱水に分散させて、グリースに加えた。これら3つの酸は、このバッチのコンプレックス化酸であった。グリースが濃厚に見えたので、さらなる31.0グラムの同じパラフィン基油を加えた。その後、攪拌を継続しながら、混合物を電気マントルヒーターで加熱した。グリースが300°Fに達すると、27.80グラムのスチレン−イソプレン共重合体を、粒状固形物として加えた。グリースを約390°Fまでさらに加熱し、このとき、全ての高分子が融解してグリース混合物に完全に溶解した。マントルヒーターを取り除き、開放空気中で攪拌を継続することによって、グリースを冷却した。グリースが300°F未満に冷えると、さらなる47.6グラムの炭酸カルシウムを加えた。グリースが濃厚に見えたので、さらなる51.2グラムの同じパラフィン基油を加えた。グリースの温度が200°Fに下がると、5.00グラムのポリイソブチレン高分子を加えた。グリースが170°Fの温度になるまで、混合を継続した。その後、グリースの一部を混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通して、滑らかで均質な最終の質感とした。グリースは、243の未混和稠度を有していた。挽いたグリースを混合器に戻し、さらなる67.7グラムの同じパラフィン基油を徐々に加え、40分間グリースに混入させた。最終のグリースを混合器から取り出し、3本ロールミルに3回通した。グリースの60往復混和稠度は、281であった。最終のグリースにおける過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は33.0%であった。滴点は、650°F超であった。このグリースは、四球極圧試験ASTM D2596に従う評価も行った。溶着荷重は800kgであった。
【0080】
このバッチに加えたカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに存在する少量の水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと合わせて、C12スルホン酸を含む加えた全ての酸の約79%と反応して中和するのに十分であるにすぎなかった。しかしながら、加えた炭酸カルシウムは、残りの酸と反応して中和するために必要なものよりも、はるかに多かった。カルシウムヒドロキシアパタイトを加えなかった実施例5のグリースと、実施例29のグリースを比較すると、本発明のこの実施形態は、優れた滴点を維持しながら、増稠剤収率をかなり改善している。従って、本発明は、低い滴点の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用する場合に、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースの滴点及び増稠剤収率を一貫して改善するだけでなく、滴点が良好でありながら劣った増稠剤収率特性を有する過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを使用する場合に、増稠剤収率も向上させた。
【0081】
本明細書で提供した実施例は、主としてNLGI第2等級又は第3等級に入り、第2等級が最も好ましいが、本発明の範囲には、第2等級よりも硬い又は軟らかい全てのNLGI稠度等級が含まれることを、さらに理解すべきである。しかしながら、当業者には理解されるように、NLGI第2等級ではない、本発明に基づいたそのようなグリースについて、それらの特性は、第2等級製品を提供するためにより多くの又はより少ない基油を使用した場合に得られるであろうものと合致すべきである。
【0082】
本明細書で使用し、本発明に適用する「増稠剤収率」の用語は、通常の意味であり、つまり、潤滑グリース製造において一般に使用されている標準的な稠度試験ASTM D217又はD1403により測定されるような、特定の所望の稠度を有するグリースを提供するために必要とされる高度過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度を意味するものとする。同様に、本明細書で使用するグリースの「滴点」は、潤滑グリース製造において一般に使用されている、標準的な滴点試験ASTM D2265を用いて得られる値を指すものとする。本明細書で使用する、百分率又は部で指定される成分の量は、特定の成分(水など)が、最終グリースに存在しなくても、又は、成分として加える指定の量で最終グリースに存在しなくても、最終グリース製品の重量に基づく。当業者は、本明細書及び含まれる実施例を読めば、組成物及び組成物製造の手法の修正や変更を本発明の範囲内で行ってよいこと、並びに、本明細書に開示した発明の範囲は、発明者が法的に権利を有する添付の特許請求の範囲の最も広い解釈によってのみ制限されることが意図されていることを、理解するであろう。