【文献】
S.MINE, et al,PLOS one,2008年,Vol.3, Issue 12, e4066,p.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の実施形態によれば、工程bは工程aの前後に行われる。この場合、工程aの前に線維芽細胞(乳頭状または網状)で測定されるPDPN、MGP、CCRL1、PPP1R14A、NTN1およびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が対照値(すなわち、未処理の線維芽細胞)に対応する。一方で、このように、PDPN、CCRL1および/またはNTN1マーカーの場合、工程cは、aで処理した乳頭状線維芽細胞において、工程aの前の同じ乳頭状線維芽細胞と比較して、PDPN、CCRL1およびNTN1から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の少なくとも1.5倍の活性化が測定される化合物を選択することを含む。他方では、MGP、PPP1R14Aおよび/またはTGM2マーカーの場合、工程cは、aで処理した網状線維芽細胞において、工程aの前の同じ網状線維芽細胞と比較して、MGP、PPP1R14AおよびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の多くとも1.0倍の活性化が測定される化合物を選択することを含む。
【0019】
別の実施形態によれば、上記方法は、乳頭状線維芽細胞または網状線維芽細胞の試料を調製する第1の工程a’を含む。このように、好ましくは、本発明は、皮膚の老化を予防および/もしくは軽減させ、かつ/または皮膚に潤いを与えるための候補化合物をスクリーニングするインビトロ法であって、
a’乳頭状線維芽細胞の少なくとも2つの試料を調製する工程;
a.上記試料の1つを少なくとも1つの試験化合物と接触させる工程;その後
b.上記試料中の、PDPN、CCRL1およびNTN1から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する工程;ならびに
c.未処理の乳頭状線維芽細胞と比較して、aで処理した乳頭状線維芽細胞中で、上記遺伝子の少なくとも1つの発現の少なくとも1.5倍の活性化が測定される化合物を選別する工程を含む、方法に関する。
【0020】
本発明はまた、皮膚の老化を予防および/もしくは軽減させ、かつ/または皮膚に潤いを与えるための候補化合物をスクリーニングするインビトロ法であって、
a’網状線維芽細胞の少なくとも2つの試料を調製する工程;
a.上記試料の1つを少なくとも1つの試験化合物と接触させる工程;その後
b.上記試料中の、MGP、PPP1R14AおよびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する工程;ならびに
c.未処理の網状線維芽細胞と比較して、aで処理した網状線維芽細胞中で、上記遺伝子の少なくとも1つの発現の多くとも1.0倍の活性化が測定される化合物を選別する工程を含む、方法に関する。
【0021】
この第2の実施形態では、工程aに供していない線維芽細胞(乳頭状または網状)の試料で測定される、PDPN、MGP、CCRL1、PPP1R14A、NTN1およびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が対照値(すなわち、未処理の線維芽細胞)に対応する。
【0022】
表現「皮膚の老化」とは、例えば、しわおよび小じわ、しわだらけの皮膚、たるんだ皮膚、薄くなった皮膚、ならびに弾力および/または張りのない皮膚など、老化による、好ましくは光誘導性老化または光老化による皮膚の外見のあらゆる変化、ならびに、例えば、紫外線に曝露した後に生じる、皮膚、特にコラーゲンのあらゆる内部破壊など、外見の変化によって組織的に反映されない皮膚のあらゆる内部変化をも意味する。
【0023】
「皮膚に潤いを与える」は、顕著に、障壁機能向上などの皮膚細胞間情報伝達および機能を向上させることによって、皮膚が本来持つ水分を保持しその乾燥を防ぐことを意味する。
【0024】
試験化合物はいずれのタイプでもよい。試験化合物は、天然由来でも、化学合成によって製造されたものでもよい。これは、構造的に定義された化合物、特徴づけられていない化合物もしくは物質、または化合物の混合物のライブラリーを含むことができる。
【0025】
天然化合物は、動物性由来の化合物、または草木などの植物由来の化合物を含む。好ましくは、試験化合物は、植物性であり、好ましくは植物抽出物から選択される。
【0026】
本発明は、生物学的試料において乳頭状線維芽細胞および網状線維芽細胞の存在を検出するインビトロ法であって、上記線維芽細胞における、PDPN、MGP、CCRL1、PPP1R14A、NTN1およびTGM2からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する工程を含む、方法に関する。PDPN、CCRL1および/またはNTN1遺伝子が著しく発現される場合には、乳頭状線維芽細胞が検出される。MGP、PPP1R14Aおよび/またはTGM2遺伝子が著しく発現される場合には、網状線維芽細胞が検出される。
【0027】
本発明は、生物学的試料において乳頭状線維芽細胞の網状線維芽細胞への分化をモニターするインビトロ法であって、上記線維芽細胞における、PDPN、MGP、CCRL1、PPP1R14A、NTN1およびTGM2からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する工程を含む、方法に関する。PDPN、CCRL1および/またはNTN1遺伝子が著しく発現される場合には、乳頭状線維芽細胞が主要な集団であり、分化はほとんどまたは全く生じていない。MGP、PPP1R14Aおよび/またはTGM2遺伝子が著しく発現される場合には、網状線維芽細胞が主要な集団であり、分化が生じている。
【0028】
本発明の方法の工程aによれば、試験化合物を線維芽細胞の試料と接触させる。
【0029】
工程bによれば、PDPN、MGP、CCRL1、PPP1R14A、NTN1およびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が上記線維芽細胞で測定される。
【0030】
用語「PDPN、MGP、CCRL1、PPP1R14A、NTN1およびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現」は、対応遺伝子のmRNA、または対応遺伝子によってコードされるタンパク質を意味することを意図する。したがって、上記遺伝子発現は、mRNAまたはタンパク質を定量することによって測定することができる。このことは、実施例1または2において明白に示される。
【0031】
当業者は、目的の遺伝子のmRNAを定量的または半定量的に検出し、上記遺伝子発現を測定する技術に精通している。特定のヌクレオチドプローブを用いたmRNAのハイブリダイゼーションに基づく技術が最も一般的であり、ウェスタンブロット法またはノーザンブロット法、RT−PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)および定量RT−PCR(qRT−PCR)などがある。
【0032】
その後、試験化合物で処理した後のPDPN、MGP、CCRL1、PPP1R14A、NTN1およびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を、対照値、すなわち処理前の同じ線維芽細胞で得られた値、または未処理の線維芽細胞の別の試料で得られた値と比較する。
【0033】
工程cによれば、有用な化合物は、未処理の線維芽細胞(それぞれ網状または乳頭状)と比較して、aで処理した線維芽細胞(それぞれ網状または乳頭状)において、MGP、PPP1R14AまたはTGM2の少なくとも1つの遺伝子の発現の多くとも1.0倍の活性化、または、PDPN、CCRL1またはNTN1の少なくとも1つの遺伝子の発現の少なくとも1.5倍の活性化が測定される化合物である。
【0034】
本明細書で定義されるスクリーニング法によって選別された化合物は、その後、皮膚の老化および/または皮膚の潤いに対する効果について、別のインビトロおよび/またはエクスビボモデルおよび/またはインビボモデル(動物またはヒトで)で検査することができる。本発明の有用な化合物は、目的とするPDPN、CCRL1および/もしくはNTN1遺伝子の活性化剤、ならびに/またはMGP、PPP1R14Aおよび/もしくはTGM2遺伝子の阻害剤である。
【0035】
本発明の主題はまた、皮膚の老化を予防および/もしくは軽減させ、かつ/または皮膚に潤いを与えるための、上記の方法によって得ることができる、PDPN、CCRL1およびNTN1から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の活性化剤の化粧品への使用である。
【0036】
別の態様によれば、本発明の目的は、皮膚の老化を予防および/もしくは軽減させ、かつ/または皮膚に潤いを与えるための治療用組成物を作製するための、上記の方法によって得ることができる、PDPN、CCRL1およびNTN1から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の少なくとも1つの活性化剤の使用である。このように、本発明はまた、皮膚の老化を予防および/もしくは軽減させ、かつ/または皮膚に潤いを与えるための、上記の方法によって得ることができる、PDPN、CCRL1およびNTN1から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の少なくとも1つの活性化剤の使用に関する。
【0037】
活性化剤とは、PDPN、CCRL1およびNTN1から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現、すなわち対応遺伝子の少なくとも1つによってコードされる少なくとも1つのmRNAまたはタンパク質の量を実質的に増加させる化合物をいう。用語「実質的に」は、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍の増加を意味する。
【0038】
活性化剤は、組成物の0.0001〜10重量%の割合、好ましくは0.01〜5重量%の割合で使用することができる。
【0039】
本発明の主題はまた、皮膚の老化を予防および/もしくは軽減させ、かつ/または皮膚に潤いを与えるための、上記の方法によって得ることができる、MGP、PPP1R14AおよびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の阻害剤の化粧品への使用である。
【0040】
別の態様によれば、本発明の目的は、皮膚の老化を予防および/もしくは軽減させ、かつ/または皮膚に潤いを与えるための治療用組成物を作製するための、上記の方法によって得ることができる、MGP、PPP1R14AおよびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の少なくとも1つの阻害剤の使用である。このように、本発明はまた、皮膚の老化を予防および/もしくは軽減させ、かつ/または皮膚に潤いを与えるための、上記の方法によって得ることができる、MGP、PPP1R14AおよびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現の少なくとも1つの阻害剤の使用に関する。
【0041】
阻害剤とは、MGP、PPP1R14AおよびTGM2から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現、すなわち対応遺伝子の少なくとも1つによってコードされる少なくとも1つのmRNAまたはタンパク質の量を実質的に低下させるか、変化させない化合物をいう。
【0042】
阻害剤は、組成物の0.0001〜10重量%の割合、好ましくは0.01〜5重量%の割合で使用することができる。
【0043】
活性化剤または阻害剤は、有機分子から選択してもよいが、植物抽出物であってもよい。
【0044】
上記のスクリーニング法によって同定された活性化剤および阻害剤は、生理学的に許容される担体、好ましくは化粧品として許容される媒体、すなわち、毒性、不相容性、不安定性またはアレルギー反応のリスクのない、ヒト皮膚と接触して使用するのに適した媒体、特に使用者に許容されない不快感(発赤、つっぱり感、刺激など)を引き起こすことのない媒体と組み合わせて組成物中に配合することができる。これらの組成物は、例えば経口的にまたは局所的に投与してもよい。好ましくは、組成物は局所的に適用する。経口投与の場合、組成物は、錠剤、ゲルカプセル剤、糖衣錠、シロップ剤、懸濁剤、液剤、粉末剤、粒剤、エマルション、放出を制御した、ミクロスフェアもしくはナノスフェアまたは脂質ベシクルもしくは高分子ベシクルの懸濁剤の形態であってもよい。局所的投与の場合、組成物は、より詳細には皮膚の治療に使用されるものであり、軟膏(salve)、クリーム、乳液、軟膏剤(ointment)、パウダー、含浸パッド(impregnated pad)、液剤、ゲル剤、スプレー剤、ローション剤または懸濁剤の形態であってもよい。また、それは、放出を制御した、ミクロスフェアもしくはナノスフェアまたは脂質ベシクルもしくは高分子ベシクルの懸濁剤、またはポリマー貼付剤(polymeric patch)もしくは高分子ヒドロゲルの形態であってもよい。局所適用のこの組成物は、無水の形態、水溶液の形態、またはエマルションの形態であってもよい。局所適用の組成物は、必要に応じてマイクロエマルションでもナノエマルションでもよい、水中油型エマルション、油中水型エマルションもしくは多重エマルション(W/O/WまたはO/W/O)の形態、または水分散液、液剤、水性ゲルもしくはパウダーの形態でもよい。好ましい変形例では、組成物は、ゲル剤、クリームまたはローション剤の形態である。
【0045】
組成物の生理学的に許容される担体は、通常、水、および必要に応じてエタノールなどの他の溶媒を含む。
【0046】
この組成物は、好ましくは、顔および/または身体の皮膚用のケア製品および/またはクレンジング製品として使用され、その組成物は、特に、例えばポンプ式ディスペンサーボトル、エアロゾルもしくはチューブに調整された、液体、ゲルもしくはムースの形態、または、例えば容器に調整されたクリームの形態であってもよい。変形例として、組成物は、メイクアップ製品の形態、特にファンデーション、すなわちルースパウダー(loose powder)またはコンパクトパウダー(compact powder)の形態であってよい。
【0047】
組成物は、
−特に、ポリジメチルシロキサン(ジメチコン)、ポリアルキルシクロシロキサン(シクロメチコン)およびポリアルキルフェニルシロキサン(フェニルジメチコン)などの直鎖状または環状の、揮発性または非揮発性シリコーン油;フッ素油、アルキル安息香酸およびポリイソブチレンなどの分岐炭化水素などの合成油;植物油、特にダイズ油またはホホバ油;ならびに液体ワセリンなどの鉱物油;から選択することができる油;
−オゾケライト、ポリエチレンワックス、蜜蝋またはカルナウバ蝋などのワックス;
−特に、触媒の存在下で、末端および/または側部に、少なくとも1つの反応基(特に水素またはビニル)を含有し、少なくとも1つのアルキル基(特にメチル)またはフェニルを有するポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンなどのオルガノシリコーンとの反応によって得られるシリコーンエラストマー;
−界面活性剤、好ましくは、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性である乳化界面活性剤、特に、グリセロールの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステルおよびスクロースの脂肪酸エステルなどのポリオールの脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールの脂肪アルキルエーテル;アルキルポリグリコシド;ポリシロキサン変性ポリエーテル;ベタインおよびその誘導体;ポリクオタニウム;エトキシ化脂肪アルキル硫酸塩;スルホサクシネート;サルコシネート;リン酸アルキルおよびリン酸ジアルキルならびにそれらの塩;ならびに脂肪酸セッケン;
−直鎖脂肪アルコール、特にセチルアルコールおよびステアリルアルコールなどの共活性剤;
−増粘剤および/またはゲル化剤、特に、アクリロイルメチルプロパンスルホン酸(AMPS)および/またはアクリルアミドおよび/またはアクリル酸および/またはアクリル酸塩またはアクリル酸エステルの、架橋性または非架橋性の、親水性または両親媒性のホモポリマーおよびコポリマー;キサンタンガムまたはグアーガム;セルロース誘導体;ならびにシリコーンゴム(ジメチコノール);
−ジベンゾイルメタン誘導体(ブチルメトキシジベンゾイルメタンを含む)、ケイ皮酸誘導体(メトキシケイ皮酸エチルヘキシルを含む)、サリチレート、パラアミノ安息香酸、β,β’−ジフェニルアクリレート、ベンゾフェノン、ベンジリデンカンファー誘導体、フェニルベンズイミダゾール、トリアジン、フェニルベンゾトリアゾールおよびアントラニル誘導体などの有機スクリーニング剤;
−被覆顔料もしくは非被覆顔料またはナノ顔料の形態の鉱物酸化物ベース、特に二酸化チタンまたは酸化亜鉛ベースの無機スクリーニング剤;
−染料;
−保存剤;
−EDTA塩などの金属イオン封鎖剤;
−香料;
−ならびにそれらの混合物、
から選択される少なくとも1つの化合物などの種々のアジュバントを含んでもよいが、このリストに限定されるものではない。
【0048】
かかるアジュバントの例は、特に、CTFA辞典(International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook、The Cosmetic, Toiletry and Fragrance Association出版、第11版、2006)に記述されており、この辞典には、スキンケア産業において一般的に使用されている化粧用および医薬用成分の幅広い種類が非限定的に記載されているが、これらの成分は本発明の組成物中で追加成分として使用するのに適している。
【0049】
組成物はまた、フィラー、顔料、真珠層、張り付与剤(tensioning agent)および艶消しポリマー(matting polymer)、ならびにそれらの混合物などの光学的効果を有する少なくとも1つの化合物を含有することができる。
【0050】
用語「フィラー」は、組成物のボディ、または剛性および/もしくは柔軟性、適用直後のマット効果および均一性を付与するのに適した、無色または白色の、鉱物または合成の、層状または非層状の粒子を意味すると理解されるべきである。フィラーとして、特に、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、ナイロン(登録商標)粉末、例えばナイロン−12(Atochem社により販売されているOrgasol(登録商標)、ポリエチレン粉末、ポリウレタン粉末、ポリスチレン粉末、ポリエステル粉末、加工していてもよいデンプン、株式会社東芝によりTospearl(登録商標)の名称で販売されているようなシリコーン樹脂マイクロビーズ、ヒドロキシアパタイトおよび中空シリカミクロスフェア(Maprecos社製のSilica Beads(登録商標)を挙げることができる。
【0051】
用語「顔料」は、媒体に不溶性である、白色または有色の、鉱物または有機の粒子であり、組成物を着色および/または不透明にすることを意図している粒子を意味すると理解されるべきである。顔料は、標準サイズであってもナノメートルサイズであってもよい。鉱物顔料の中でも、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび二酸化セリウム、ならびに酸化亜鉛、酸化鉄および酸化クロムを挙げることができる。
【0052】
用語「真珠層」は、光を反射する虹色の粒子を意味すると理解されるべきである。想定され得る真珠層の中でも、天然真珠母、酸化チタンで、酸化鉄で、天然顔料でまたはオキシ塩化ビスマスでコーティングされたマイカ、および有色のチタンマイカからなるものを挙げることができる。
【0053】
これらのフィラーおよび/または顔料および/または真珠層の水相中の質量濃度は、通常、組成物の総重量に対して0.1%〜20%重量、好ましくは0.2%〜7%重量である。
【0054】
用語「張り付与剤」は、皮膚に張りを与え、この張り効果によって、皮膚を滑らかにし、皮膚のしわおよび小じわを減らすか、または直ぐに除去するのに適した化合物を意味すると理解されるべきである。張り付与剤として、天然由来のポリマーを挙げることができる。用語「天然由来のポリマー」は、植物由来のポリマー、外皮由来のポリマー、卵タンパク質および天然由来のラテックスを意味する。これらのポリマーは、好ましくは親水性である。植物由来のポリマーとして、特に、タンパク質およびタンパク質加水分解物、より詳細には、穀物、マメ科植物および油料植物の抽出物、例えばトウモロコシ、ライムギ、コムギ、ソバ、ゴマ、スペルトコムギ、エンドウ、インゲン、レンズマメ、ダイズ、ルピナスの抽出物を挙げることができる。合成ポリマーは、通常、ラテックスまたは擬ラテックスの形態であり、重縮合物型であっても、フリーラジカル重合によって得られたものでもよい。特に、ポリエステル/ポリウレタン分散体およびポリエーテル/ポリウレタン分散体から構成されているものを挙げることができる。好ましくは、張り付与剤は、PVP/ジメチコニルアクリレートと親水性ポリウレタンの共重合体(Hydromer社製のAquamere S−2001(登録商標))である。
【0055】
用語「艶消しポリマー」とは、本明細書では、溶液中の、分散体中の、または粒子の形態のあらゆるポリマーを意味し、皮膚のテカリを低減し、肌色を均一にする。例えば、シリコーンエラストマー;樹脂粒子;およびそれらの混合物を挙げることができる。シリコーンエラストマーの例として、信越化学工業株式会社によりKSG(登録商標)の名称で販売されている製品、Dow Corning社によりTrefil(登録商標)、BY29(登録商標)もしくはEPSX(登録商標)の名称で販売されている製品、またはGrant Industries社によりGransil(登録商標)の名称で販売されている製品を挙げることができる。
【0056】
本発明で使用される組成物はまた、上記の活性化剤または阻害剤以外の活性剤、特に、以下のもの:成長因子の産生を刺激する薬剤;抗糖化剤または脱糖化剤(deglycating agent);コラーゲン合成を増加させる薬剤、またはコラーゲン分解を予防する薬剤(抗コラゲナーゼ剤、特にマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤);エラスチン合成を増加させる薬剤、またはエラスチン分解を予防する薬剤(抗エラスターゼ剤);インテグリン合成を刺激する薬剤、またはテンシンなどの接着斑の構成成分の合成を刺激する薬剤;グリコサミノグリカンもしくはプロテオグリカンの合成を増加させる薬剤、またはそれらの分解を予防する薬剤(抗プロテオグリカナーゼ剤);線維芽細胞増殖を増加させる薬剤;脱色素剤または抗色素剤;抗酸化剤またはフリーラジカル捕捉剤または汚染防止剤;およびそれらの混合物、から選択される少なくとも1種の活性剤をも含んでもよいが、このリストに限定されない。
【0057】
このような薬剤の例として、特に、植物の抽出物、特にヤハズツノマタ(Chondrus crispus)の抽出物、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)の抽出物、エンドウマメ(Pisum sativum)の抽出物(Proteasyl(登録商標)TP LS)、ツボクサ(Centella asiatica)の抽出物、イカダモ(Scenedesmus)の抽出物、ワサビノキ(Moringa pterygosperma)の抽出物、マンサクの抽出物、ヨーロッパグリ(Castanea sativa)の抽出物、ローゼル(Hibiscus sabdriffa)の抽出物、チューベローザ(Polianthes tuberosa)の抽出物、アルガンツリー(Argania spinosa)の抽出物、アロエベラ(Aloe vera)の抽出物、スイセン(Narcissus tarzetta)の抽出物、またはカンゾウの抽出物;ダイダイ(Citrus aurantium)の精油(ネロリ);グリコール酸、乳酸およびクエン酸などのα−ヒドロキシ酸ならびにそれらのエステル;サリチル酸などのβ−ヒドロキシ酸およびそれらの誘導体;植物タンパク質加水分解物(特にダイズまたはヘーゼルナッツの加水分解物);アシル化オリゴペプチド(特に、Maxilip(登録商標)、Matrixyl(登録商標)3000、Biopeptide(登録商標)CLまたはBiopeptide(登録商標)ELの商標名でSederma社より販売);酵母抽出物、特に出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の抽出物;藻抽出物、特にコンブの抽出物;ビタミンおよびその誘導体、例えばレチニルパルミテート、アスコルビン酸、アスコルビルグルコシド、マグネシウムアスコルビルホスフェートまたはナトリウムアスコルビルホスフェート、アスコルビルパルミテート、アスコルビルテトライソパルミテート、アスコルビルソルベート、トコフェロール、トコフェリルアセテートおよびトコフェリルソルベート;アルブチン;コウジ酸;エラグ酸;ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0058】
変形例として、またはさらに、本発明で使用される組成物は、特に商標名Proteasyl TP LS(登録商標)でLaboratoires Serobiologiques/Cognis France社から販売されているエンドウマメ(Pisum sativum)の種の抽出物などの、少なくとも1種のエラスターゼ阻害剤(抗エラスターゼ)を含有してもよい。
【0059】
組成物はまた、湿潤剤、安定化剤、水分調節剤、pH調節剤、浸透圧調整剤、もしくはUV−AおよびUV−B防止剤などの不活性添加剤、またはこれらの添加剤の組み合わせを含有してもよい。
【0060】
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0061】
実施例1
乳頭状および網状の線維芽細胞での種々の発現パターン
材料および方法
単離および細胞培養
39歳から49歳までの5名の白人女性ドナーから線維芽細胞を単離した。すべてのドナーから網状線維芽細胞および乳頭状線維芽細胞の双方を単離し、その後、すべての分析をペアワイズ方式で行った。単離は、文献(12、13)に記載のように行った。すなわち、形成手術(乳房縮小または腹部補正)から得られた皮膚を十分洗浄し、2つの異なる深さで採皮(dermatomize)した。まず、表皮および真皮乳頭層を含む300μmの皮膚片を採取した。真皮網状層については、700μmの皮膚を採皮し、上層部分を廃棄した。残りの真皮(深層)は、線維芽細胞の単離に使用した。線維芽細胞は、37℃で2時間、コラゲナーゼ(Invitrogen社、ブレダ、オランダ)/ディスパーゼ(Roche Diagnostics社、アルメレ、オランダ)(3:1)で処理することにより単離した。細胞は、その後70μmセルストレーナでろ過し、5%ウシ胎児血清(FCS、HyClone/Greiner社、ニュルティンゲン、ドイツ)および1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Invitrogen社)を含むDMEM培地(Invitrogen社)で培養した。細胞は、37℃、5%CO
2下で維持した。実験で使用した線維芽細胞は、6〜4回継代したものであった。成長曲線実験については、5000個の線維芽細胞を6ウェルプレートに播種した。3、6、7および10日後、Burker血球計算盤を用いて細胞を数えた。
【0062】
RNA、タンパク質の単離
RNAおよびタンパク質はそれぞれ、取扱説明書に従い、RNEasyキット(Qiagen社)および哺乳動物タンパク質抽出試薬(Mammalian Protein Extraction Reagent)(M−PER、Thermo Scientific社)を用いて、単層線維芽細胞培養物から単離した。以下の実験はすべて、1回の単離からのRNAおよびタンパク質を用いて行った。
【0063】
マイクロアレイ
遺伝子発現解析は、ServiceXS(Leiden社、オランダ)によって行った。プラットフォームはIllumina社のHumanHT−12 Expression BeadChipであった。データはIllumina社のBeadstudioソフトウェアで生成し、R(2.10.0)で分析した。分析については、データをインポートし、lumiパッケージ(ロバストスプラインノーマリゼーション(Robust Spline Normalization))(16)で正規化し、その後limmaパッケージで発現解析を行った(17)。すべてのアレイで発現を示さなかったプローブ(検出P値>0.05)は解析に含めなかった。多重検定補正については、FDR法を使用した(18)。
【0064】
経路解析
経路解析およびGOタームエンリッチメント解析(GO term enrichment analysis)はDAVIDツールを用いて行った(19)。網状線維芽細胞で上方制御された遺伝子を有するもの(調整済みp値<0.1、LogFC>0.7)と、乳頭状線維芽細胞で上方制御された遺伝子を有するもの(調整済みp値<0.1、LogFC<−0.7)の2つのリストをアップロードした。双方のリストには約80個の遺伝子があった。
【0065】
qPCR
cDNAは、取扱説明書に従い、iScript cDNA合成キット(BioRad社、ヴィーネンダール、オランダ)を用いて、1μgのRNAから生成した。PCR反応は、SYBR Green法(BioRad社)に基づき、2倍濃度のSybr Green Mastermix、1ngのcDNA鋳型ならびに500nMの順方向プライマーおよび逆方向プライマーを含んでいた。PCRはMylQシステム(BioRad社)で実施した。PCRサイクルは、95℃で3.5分維持してポリメラーゼを活性化し、95℃で20秒と60℃で40秒を35サイクル行い、その後溶解曲線を作成した。プライマーは、正常線維芽細胞のcDNAの希釈系列で先にチェックした。参照遺伝子はGeNorm法で分析した(20)。発現解析は、BioRadソフトウェア(iQ5)で行い、GeNorm解析で最も安定して発現される参照遺伝子を用いたΔΔCt法に基づいた。
【0066】
プライマーを表1に列記する。
【0067】
【表1】
【0068】
ウェスタンブロット
7μgの各タンパク質試料をローディングバッファー(Loading Buffer)に添加し、5分間90℃に加熱し、10%SDS−PAGEゲルにロードした。電気泳動後、タンパク質がPVDF膜にブロットされた(Thermo Scientific社、エッテン・ルール、オランダ)。ブロッキングは、5%Protifar Plus(Nutricia社、オランダ)のPBS−T(0.1%Tween)溶液で行った。一次抗体は、4℃で一晩インキュベートした(表2に列記)。その後、膜は、安定化HRP結合抗マウスまたは抗ラビット(Thermo Scientific社/Pierce、希釈率1:1500)のいずれかの適当な二次抗体とともに培養した。バンドの検出のため、Supersignal West Femto ECLシステム(Thermo Scientific社/Pierce)を膜に適用した。バンドはG−box技術およびソフトウェアを用いて可視化した。
【0069】
【表2】
【0070】
IHC
単層細胞培養におけるIHCについては、線維芽細胞は、ほぼコンフルエントになるまでスライドガラスで増殖させ、PBSで洗浄し、4%ホルムアルデヒドで固定した。一次抗体を表2に示す。染色は、蛍光染料(Cy3)を備えた二次抗体によって可視化した。DAPIは対比染色として使用した。
【0071】
免疫組織化学的解析は、パラフィンに包埋されたインビボ皮膚切片で行った。厚さ5μmの薄片にカットし、脱パラフィンし、再水和し、PBSで洗浄した。加熱によるPH6での抗原賦活化を行い、その後、内因性ペルオキシダーゼのブロック、およびPBS/1%BSA/2%正常ヒト血清を使用したブロック工程を行った。一次抗体は、4℃で一晩インキュベートした。染色は、取扱説明書に従いBrightVision+poly−HRP(Immunlogic社、ダイフェン、オランダ)およびクロモゲンとしてDABを使用して可視化した。逆染色はヘマトキシリンを用いて行った。
【0072】
結果
乳頭状および網状の線維芽細胞の特徴的な形態学
培養された網状および乳頭状の線維芽細胞は、文献(例えば(1、12))に記載のような形態学的特性を示した。乳頭状線維芽細胞は紡錘状の形態を示し、網状線維芽細胞は、筋線維芽細胞マーカーα平滑筋アクチン(α−SMA)の発現が増加するにつれ、より平らになる外観を特徴とする。さらに、乳頭状線維芽細胞の方が早く増殖した(データは示さず)。
【0073】
網状および乳頭状の線維芽細胞において発現量の異なる遺伝子
遺伝子発現解析により、網状および乳頭状の線維芽細胞において発現量の異なる116個のプローブが明らかとなった(調整済みp値<0.05)(データは示さず)。
【0074】
網状線維芽細胞では、平滑筋収縮経路に属する遺伝子が特に過剰発現し、網状の集団はより多くのα−SMA陽性線維芽細胞を含んでいることを確認した。我々のデータのGOターム解析により、網状線維芽細胞が細胞骨格形成、細胞運動および神経発達に関与する遺伝子を主に含むことが示された。
【0075】
乳頭状線維芽細胞は、補体活性化経路に属する遺伝子の発現レベルが高く、免疫反応システムへの関与が示された。これは、GOタームの研究により確認され、免疫反応、宿主防御および補体活性化を高めることが分かった。
【0076】
SND1、TBPおよびEI24の3種の参照遺伝子を、GeNorm解析を用いるqPCR実験に選択した。遺伝子発現データから16個の著しく異なる遺伝子を選択し、qPCRにより検証した。これらのうち13個の遺伝子は、qPCR解析でも著しく異なっていた(データは示さず)。
【0077】
タンパク質レベルについてのマーカーの検証
qPCRによって確認された遺伝子のうち、6個の遺伝子をタンパク質レベルでのさらなる検証に選択した。これらの遺伝子は、CCRL1(C−Cケモカイン受容体型11)、MGP(マトリックスGlaタンパク質)、NTN1(ネトリン−1)、PDPN(ポドプラニン)、TGM2(トランスグルタミナーゼ2)およびPPP1R14A(ヒトプロテインフォスファターゼ1、調節(阻害剤)サブユニット14A)であった(
図1を参照)。選択は、高LogFCおよび細胞表面での発現(細胞内で発現されるTGM2を除く)に基づいた。これらのうちの2個の遺伝子(TGM2およびPDPN)は、アレイ実験で使用したものと同じドナーの細胞溶解物でのウェスタンブロットによって検証可能であった(データは示さず)。ターゲットの1つであるCCRL1は、ウェスタンブロット実験から、タンパク質レベルで差はなかった。
【0078】
TGM2およびPDPNは網状および乳頭状の線維芽細胞の単層培養において染色した。PDPNは、乳頭状線維芽細胞で強い染色を示し、網状線維芽細胞では弱い染色を示し、TGM2は、すべてではないが大部分の網状線維芽細胞で発現され、乳頭状線維芽細胞で時々しか発現されなかった(
図1)。
【0079】
免疫組織化学解析は、女性ドナーのインビボパラフィン切片で行った。我々の遺伝子発現データから予想されるように、MGPは真皮網状層(マトリックス)においてより豊富であった(データは示さず)。様々な年齢のドナーは、MGP陰性バンドの解析により、年齢とともに真皮乳頭層の縮小を示した。ネトリン−1およびPDPNは真皮乳頭層で非常に高レベルに発現されたが、すべての乳頭状線維芽細胞が陽性とは限らず、いくつかの網状線維芽細胞が陽染色を示した(データは示さず)。CCRL1は線維芽細胞では発現されない。TGM2の発現は、散発的にしか確認されず、異なるドナー間で大きく変化した。
【0080】
したがって、その結果、少なくともPDPNおよびNTN−1が乳頭状マーカーであり、少なくともMGPおよびPPP1R14Aが網状マーカーであると言うことができる。
【0081】
実施例2
乳頭状線維芽細胞は、老化するにつれ網状線維芽細胞に分化する。
(本質的に)老化した皮膚の最も顕著な特徴は小稜/真皮乳頭の消失である。この小稜の消失により、真皮乳頭層の一部もまた消失する。皮膚の老化に伴い、乳頭状の表現型から主に網状の表現型まで(相対的な)シフトが生じるという仮説があった。この仮説は、Mineら(Mine S、Fortunel NO, Pageon H, Asselineau D. Aging alters functionally human dermal papillary fibroblasts but not reticular fibroblasts: a new view of skin morphogenesis and aging. PLoS ONE 2008; 3: e4066.)によってすでに提案されたものであった。乳頭状から網状までの線維芽細胞の分化により、皮膚の老化に伴うこのシフトを説明できる可能性があった。したがって、乳頭状線維芽細胞が長期のインビトロ培養の後にマーカーの発現を変化させるかどうかを調べた。
【0082】
方法
乳頭状線維芽細胞を、数週間から数か月間培養し続けた(コンフルエンスに達すると二次培養した)。低継代の乳頭状線維芽細胞、高継代(長期培養)の乳頭状線維芽細胞および低継代の網状線維芽細胞の3種の集団における網状および乳頭状マーカーの発現を比較した。マーカーは、単層でのqPCRおよび免疫組織化学によって測定した。
【0083】
線維芽細胞由来マトリックス(FDM)ヒト皮膚等価物(HSE)を生成した。このタイプのHSEでは、線維芽細胞をウェルに播種し、2〜3週間刺激して細胞間マトリックスを製造した。この細胞間マトリックスは、その後、ケラチノサイトを播種し、全層皮膚等価物(full-thickness skin equivalent)を生成するために使用する。これらの皮膚等価物はヘマトキシリン・エオジン(HE)染色および免疫組織化学によって解析した。
【0084】
結果
qPCR解析により、低継代の乳頭状線維芽細胞と比較して、高継代の乳頭状線維芽細胞は、乳頭状マーカーの発現が減少し、網状マーカーの発現が増加したことが明らかとなった。このことは、乳頭状線維芽細胞が長期培養の後に網状線維芽細胞に分化することを示している。実際、乳頭状マーカーPDPNは、低継代の乳頭状線維芽細胞に存在するが、乳頭状線維芽細胞の長期培養(高継代)後、網状線維芽細胞には存在しない。網状マーカーTGM2および筋線維芽細胞マーカーa−SMA(α平滑筋アクチン)は、低継代の乳頭状線維芽細胞には存在しないか、または非常に低レベルで発現され、高継代の乳頭状および網状の線維芽細胞では増加する。
【0085】
このように、低継代の乳頭状対照と比較した場合、長期培養後、乳頭状線維芽細胞は、乳頭状のマーカーの発現を失い、網状のマーカーの発現を獲得する(データは示さず)。
【0086】
乳頭状線維芽細胞で生成されたHSE(HSE−PF)では、網状線維芽細胞で生成されたHSE(HSE−RF)より、緩い細胞間マトリックスが形成され、(分化および増殖の点で)表皮増殖を十分支持すると考えられる。長期培養の後、HSE−PFは、低継代HSE−PFよりもむしろHSE−RFのような挙動をとる。
【0087】
実際、高継代HSE−PFは、低継代HSE−PFによりもHSE−RFに似た形態を有する。低継代HSE−PFは緩いマトリックスを生成し、高ケラチノサイト濃度および滑らかに見える表皮を有する。他方では、高継代HSE−PFおよび低継代HSE−RFは、緻密なマトリックス、低ケラチノサイト濃度およびざらざらした表皮を有する。
【0088】
実施例3
TGF−βは、乳頭状線維芽細胞の網状線維芽細胞への分化を誘導する。
TGF−β1は、線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を誘導することができる。筋線維芽細胞は、次には、大きな細胞体および高い収縮性など、網状線維芽細胞といくつかの特徴を共有している。筋線維芽細胞マーカーaSMA(α平滑筋アクチン)は、すべての筋線維芽細胞によって発現されるが、網状線維芽細胞ではごく一部しか発現されない(1〜5%)。a−SMAは乳頭状線維芽細胞にはほとんど存在しない。
【0089】
方法
乳頭状線維芽細胞の単層培養物は、2日間または4日間、2ng/mLまたは10ng/mLのTGF−β1で処理した。その後、網状および乳頭状マーカーの発現を、qPCRおよび培養物のIHC染色によって測定した。
【0090】
結果
qPCRでの測定によると、乳頭状線維芽細胞にTGF−β1を添加すると、単層細胞培養において網状線維芽細胞への分化を引き起こした。乳頭状マーカーの発現は減少し、網状マーカーの発現が増加した(データは示さず)。この結果をIHC染色によって検証し、乳頭状マーカーPDPNの消失および網状マーカーTGM2の獲得を再度確認した。形態変化(細胞サイズの増加)に見られるように、TGF−β1はまた筋線維芽細胞分化を(いくらか)誘導し、a−SMA発現を増加させた。しかし、「網状マーカー陽性」細胞(TGM2の場合)の増加が、a−SMA陽性細胞の増加より高かった。
【0091】
実施例4
乳頭状線維芽細胞は表皮の寿命を延ばす。
方法
表皮幹細胞の2つの機能的特徴である粘着および寿命をこれらの実験で使用した。ケラチノサイト幹細胞は迅速に粘着する能力を有すると考えられている。したがって、ケラチノサイトのみが非常に短期間(1分から10分の範囲)で付着することができる実験を行った。これによって、潜在的な幹細胞の集団が濃縮される。その後、これらの集団は乳頭状および網状の線維芽細胞によって順化された培地で培養した。
【0092】
別の実験では、乳頭状および網状の線維芽細胞によって分泌される要素の表皮幹細胞性について検討した。したがって、表皮等価物を生成し、網状および乳頭状の線維芽細胞の順化培地で2週間培養した。最終実験では、FDM HSEを、乳頭状および網状の線維芽細胞(HSE−PFおよびHSE−RF)を用いて生成した。今回、2つの態様を別々に行った。まず、ケラチノサイトをリングに播種した。その後、播種したケラチノサイトのみが中央に付着し、残りの培養時間で(線維芽細胞由来)マトリックス全体に移動する(はずである)。次に、HSEを通常より長く培養した。FDM等価物は、通常、空気暴露後14〜17日間培養するが、今回、空気暴露の3、7または10週間後に回収した。
【0093】
結果
HSEは乳頭状または網状の線維芽細胞を用いて生成した。ケラチノサイトをリングに播種し、付着させ、その後リングを除去し、マトリックスへのケラチノサイトの移動を可能にした。HSEを回収する前に撮影し、ケラチノサイトが覆った面積を測定し、マトリックスの全面積に対するパーセンテージとして算出した。ケラチノサイトは、網状マトリックス上よりも乳頭状マトリックス上の方が広い領域に移動した。
【0094】
10週間後、HSE−RFでは生存表皮(viable epidermis)がほとんど残っておらず、HSE−PFには生存細胞が何層かまだ存在していた。HSE−RFでは、増殖する基底ケラチノサイトの数はHSE−PFと比較して少ない。10週間後、HSE−RFでのケラチノサイト増殖は著しく減少したが、HSE−PFでは、(3週目および7週目と比較すると、同様に減少するが)まだ十分な増殖ケラチノサイトが存在した。
【0095】
順化培地実験の結果として、網状または乳頭状の線維芽細胞の順化培地は、ケラチノサイト、迅速に付着するケラチノサイト、または表皮等価物の増殖に影響を与えなかったと要約することができる。
【0096】
このことは、線維芽細胞によって分泌された要素がケラチノサイトの増殖にほとんど影響がないことを示している。
【0097】
長寿命FDMの結果により、表皮に対する網状または乳頭状の線維芽細胞の影響に大きな差異があることが分かった。まず、ケラチノサイトの移動は網状等価物上で減少する。次に、HSE−PFでは、ケラチノサイトは、HSE−RF中よりも長く増殖能を維持することができる。10週間空気暴露培養した後、HSE−PFには約3〜4層の生存(表皮)細胞層が含まれていたが、HSE−RFには約1〜2層の生存細胞層が含まれていた。
【0098】
実施例5
乳頭状および網状の線維芽細胞に対する化合物の活性による化合物スクリーニング
材料および方法
細胞培養
上記(実施例1)のように、線維芽細胞を単離および培養した。
【0099】
化合物のスクリーニング
12000個の網状または乳頭状の線維芽細胞を12ウェル培養プレート(Costar社)に播種した。表面積の90%が覆われるまで線維芽細胞を5日間培養した。化合物を2つの異なる濃度(低濃度/高濃度)で24時間適用した。写真は適用の前後で撮影した。形態の差は認められなかった(データは示さず)。実施例1に記載のように、RNAを単離した。
【0100】
qPCR解析
qPCR解析は、実施例1に従い、3種の乳頭状マーカー(CCRL1、NTN1およびPDPN)および3種の網状マーカー(MGP、PPP1R14AおよびTGM2)を使用して行った。その発現を2つの参照遺伝子(SNDlおよびEI24)を使用して正規化した。ベルバスコシドの効果は、遺伝子の発現と賦形剤で処理した線維芽細胞の発現を比較することにより判定した。
【0101】
qPCR解析の結果
1種の化合物(ベルバスコシド、試験濃度:高濃度=0.01%v/v、低濃度=0.0001%v/v)は、網状サインを乳頭状のサインに変えることができた。スクリーニングの結果を
図2に示す。
【0102】
(参考文献)
【表3】