特許第6042922号(P6042922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042922炭素多孔体、その製法及びアンモニア吸着材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042922
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】炭素多孔体、その製法及びアンモニア吸着材
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20161206BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20161206BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20161206BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20161206BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20161206BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20161206BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20161206BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20161206BHJP
   H01M 4/96 20060101ALN20161206BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20161206BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20161206BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   B01J20/20 B
   B01J20/28 Z
   B01J20/30
   H01M8/16
   H01G11/24
   H01G11/42
   H01G11/86
   !H01M4/96 M
   !H01M4/88 C
   !H01M8/10
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-43718(P2015-43718)
(22)【出願日】2015年3月5日
(65)【公開番号】特開2016-160170(P2016-160170A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2016年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】久米 哲也
(72)【発明者】
【氏名】東恩納 靖之
(72)【発明者】
【氏名】望月 雄二
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−078110(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/154290(WO,A1)
【文献】 特開2007−070756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00 − 31/36
B01J 20/20
B01J 20/28
B01J 20/30
H01G 11/24
H01G 11/42
H01G 11/86
H01M 8/16
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度77Kで測定した窒素吸着等温線のαSプロット解析から算出したミクロ細孔容量が、0.1cm3/g以下であり、前記窒素吸着等温線における窒素相対圧力P/P0が0.97のときの窒素吸着量から前記ミクロ細孔容量を差し引いて算出したメソ細孔容量よりも小さく、前記窒素吸着等温線において、窒素相対圧力P/P0が0.5のときの窒素吸着量が500cm3(STP)/g以下の範囲にあり且つ窒素相対圧力P/P0が0.85のときの窒素吸着量が600cm3(STP)/g以上1100cm3(STP)/g以下の範囲にある、炭素多孔体。
【請求項2】
窒素相対圧力P/P0が0.85のときの窒素吸着量から窒素相対圧力P/P0が0.5のときの窒素吸着量を差し引いた値が200cm3(STP)/g以上である、請求項1に記載の炭素多孔体。
【請求項3】
温度77Kでの窒素吸着等温線において、窒素相対圧力P/P0が0.99のときの窒素吸着量が1500cm3(STP)/g以上の範囲にある、請求項1又は2に記載の炭素多孔体。
【請求項4】
窒素吸着により求めたBET比表面積が700m2/g以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素多孔体。
【請求項5】
窒素吸着により求めたBET比表面積が1200m2/g以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素多孔体。
【請求項6】
ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を、炭化水素ガスを吸着するトラップ材の存在下、不活性雰囲気中550〜700℃で加熱して炭素とアルカリ土類金属炭酸塩との複合体を形成し、前記炭酸塩を溶解可能な洗浄液で前記複合体を洗浄して前記炭酸塩を除去して炭素多孔体を得る、
炭素多孔体の製法。
【請求項7】
前記トラップ材は、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、珪藻土からなる群より選ばれる1以上である、請求項6に記載の炭素多孔体の製法。
【請求項8】
前記トラップ材は、前記ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩と混合された状態、及び、フィルター状に形成され前記ベンゼンジカルボン酸の上部に配設された状態、の少なくとも一方で存在する、請求項6又は7に記載の炭素多孔体の製法。
【請求項9】
前記ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩は、ベンゼンジカルボン酸とアルカリ土類金属とのモル比が1.5:1〜1:1.5の範囲にある、
請求項6〜8のいずれか1項に記載の炭素多孔体の製法。
【請求項10】
前記ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩は、テレフタル酸のカルシウム塩である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の炭素多孔体の製法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素多孔体からなるアンモニア吸着材。
【請求項12】
アンモニア圧力が390kPaのときのアンモニア吸着量からアンモニア圧力が300kPaのときのアンモニア吸着量を差し引いた値が0.40g/g以上である、
請求項11に記載のアンモニア吸着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素多孔体、その製法及びアンモニア吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭素多孔体は、種々の技術分野で利用されている。具体的には、炭素多孔体は、電気化学キャパシタの電極材料として利用されたり、固体高分子型燃料電池の電極触媒担体として利用されたり、バイオ燃料電池の酵素電極を担持する材料として利用されたり、キャニスタの吸着材として利用されたり、燃料精製設備の吸着材として利用されたりしている。
【0003】
電気化学キャパシタは、電極(正極及び負極)の界面において、電極と電解液中のイオンとの間で電子の授受を伴わない非ファラデー反応、あるいは電子の授受を伴うファラデー反応に起因して発現する容量を利用したキャパシタである。固体高分子型燃料電池は、イオン伝導性を有する固体高分子膜を電解質として用いる燃料電池であり、負極、正極及び固体高分子膜を備えている。固体高分子型燃料電池では、負極側で触媒を利用して水素やメタノールなどの燃料を分解してプロトンと電子を発生させ、そのうちプロトンは固体高分子膜を、電子は外部回路を解してそれぞれ正極側に移動し、正極ではプロトンと電子を用いた酸素の還元反応を触媒を利用して進行させて水を生成する。この一連の反応により、固体高分子型燃料電池から電気エネルギーを取り出すことができる。バイオ燃料電池は、通常の燃料電池と同様、負極、正極、電解質及びセパレータを備えており、負極及び正極に酵素を利用するものである。バイオ燃料電池では、負極側で酵素により糖を分解してプロトンと電子を発生させ、そのうちプロトンは電解質を、電子は外部回路を介してそれぞれ正極側に移動し、正極ではプロトンと電子を用いた酸素の還元反応を酵素により進行させて水を生成する。この一連の反応により、バイオ燃料電池から電気エネルギーを取り出すことができる。キャニスタは、炭素多孔体が詰められた缶状の容器であり、自動車に搭載される。キャニスタは、自動車のエンジン停止中は燃料タンクで発生したガソリン蒸気を配管を通じて受け入れて吸着する一方、エンジン作動中は新鮮な空気が通されることにより吸着したガソリン蒸気を放出してエンジンの燃焼室へ供給する。燃料精製設備は、燃料に含まれる不純物を炭素多孔体に吸着させて燃料を精製する。
【0004】
これまでに、炭素多孔体として、炭素骨格の一部が窒素原子で置換されたものが知られている(特許文献1)。この炭素多孔体は、平均細孔径が2nm以下のミクロ細孔構造を有している。一方、セルサイズが約0.1μmの低密度の炭素発泡体も知られている(特許文献2)。この炭素発泡体は、レゾルシノールとホルムアルデヒドとの重縮合によって得られるポリマークラスタを共有結合的に架橋してゲルを合成し、そのゲルを超臨界条件で処理してエアロゲルとし、そのエアロゲルを炭素化することによって合成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−051828号公報
【特許文献2】米国特許第4873218号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これまで、メソ細孔構造でありながら窒素相対圧力の比較的大きな領域において窒素相対圧力差に対する窒素吸着量差が大きい炭素多孔体は知られておらず、当然、こうした炭素多孔体を容易に製造する方法も知られていなかった。このような炭素多孔体は、特定ガスの脱着材への利用のほか、電気化学キャパシタの電極材料やバイオ燃料電池の酵素電極を担持する材料、キャニスタの吸着材、燃料精製設備の吸着材などへの利用が期待される。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、メソ細孔構造でありながら窒素相対圧力の比較的大きな領域において窒素相対圧力差に対する窒素吸着量差が大きい炭素多孔体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、テレフタル酸のカルシウム塩を不活性雰囲気中550〜700℃で加熱して炭素と炭酸カルシウムとの複合体を形成し、酸性水溶液でその複合体を洗浄して炭酸カルシウムを除去して得られた炭素多孔体が優れた特性を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の炭素多孔体は、温度77Kで測定した窒素吸着等温線のαSプロット解析から算出したミクロ細孔容量が、0.1cm3/g以下であり、前記窒素吸着等温線における窒素相対圧力P/P0が0.97のときの窒素吸着量から前記ミクロ細孔容量を差し引いて算出したメソ細孔容量よりも小さく、前記窒素吸着等温線において、窒素相対圧力P/P0が0.5のときの窒素吸着量が500cm3(STP)/g以下の範囲にあり且つ窒素相対圧力P/P0が0.85のときの窒素吸着量が600cm3(STP)/g以上1100cm3(STP)/g以下の範囲にあるものである。
【0010】
また、本発明の炭素多孔体の製法は、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を、炭化水素ガスを吸着するトラップ材の存在下、不活性雰囲気中550〜700℃で加熱して炭素とアルカリ土類金属炭酸塩との複合体を形成し、前記炭酸塩を溶解可能な洗浄液で前記複合体を洗浄して前記炭酸塩を除去して炭素多孔体を得るものである。
【0011】
更に、本発明のアンモニア吸着材は、上述した本発明の炭素多孔体を利用したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素多孔体によれば、特定のガスに対してガス圧力を所定範囲で変化させたときのガスの吸脱着量を大きくすることができる。また、本発明の炭素多孔体の製法によれば、こうした炭素多孔体を簡単に得ることができる。更に、本発明のアンモニア吸着材によれば、アンモニアガスに対してガス圧力を所定範囲で変化させたときのアンモニアガス吸脱着量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】吸着等温線のIUPAC分類のIV型のグラフ。
図2】実験例1〜3の窒素吸着等温線のグラフ。
図3】実験例1,3のアンモニア吸着等温線のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の炭素多孔体は、温度77Kで測定した窒素吸着等温線のαSプロット解析から算出したミクロ細孔容量が、0.1cm3/g以下であり、前記窒素吸着等温線における窒素相対圧力P/P0が0.97のときの窒素吸着量から前記ミクロ細孔容量を差し引いて算出したメソ細孔容量よりも小さく、前記窒素吸着等温線において、窒素相対圧力P/P0が0.5のときの窒素吸着量(A1)が500cm3(STP)/g以下の範囲にあり且つ窒素相対圧力P/P0が0.85のときの窒素吸着量(A2)が600cm3(STP)/g以上1100cm3(STP)/g以下の範囲にあるものである。ここで、メソ細孔とは直径が2nmより大きく50nm以下の細孔を示し、ミクロ細孔とは直径が2nm以下の細孔を示すものとする。窒素吸着量A1は、例えば、100cm3(STP)/g以上としてもよく、278cm3(STP)/g以上としてもよいし、421cm3(STP)/g以上としてもよい。この窒素吸着量A1は、421cm3(STP)/g以下としてもよいし、278cm3(STP)/g以上としてもよい。また、窒素吸着量A2は、例えば、628cm3(STP)/g以上としてもよいし、650cm3(STP)/g以上としてもよいし、1016cm3(STP)/g以上としてもよい。この窒素吸着量A2は、1016cm3(STP)/g以下としてもよいし、628cm3(STP)/g以下としてもよい。
【0015】
この炭素多孔体は、ミクロ細孔容量が0.1cm3/g以下であることが好ましく、0.01cm3/g以下であることがより好ましい。また、温度77Kでの窒素吸着等温線がIUPAC分類のIV型に属することが好ましい。こうしたものでは、窒素吸着等温線のIUPAC分類の型がメソ細孔を持つことを示すIV型(図1参照)であり、直径2nm以下の細孔容量が0.1cm3/g以下と小さいことから、ほぼメソ細孔から構成されているといえる。
【0016】
また、本発明の炭素多孔体は、窒素吸着等温線において窒素相対圧力P/P0が0.85のときの窒素吸着量から窒素相対圧力P/P0が0.5のときの窒素吸着量を差し引いた値(窒素吸着量差(ΔA))が100cm3(STP)/g以上になることから、窒素相対圧力の比較的大きな領域において窒素相対圧力の変化量に対する窒素吸着量の変化量が大きい。そのため、特定のガスに対してガス圧力を所定範囲で変化させたときのガスの吸脱着量を大きくすることができる。窒素吸着量差ΔAは、200cm3(STP)/g以上であることが好ましく、300cm3(STP)/g以上であることがより好ましく、500cm3(STP)/g以上であることがさらに好ましい。窒素吸着量差ΔAは、例えば、350cm3(STP)/g以上としてもよく、595cm3(STP)/g以上としてもよい。この窒素吸着量差ΔAの上限は特に限定されないが、1000cm3(STP)/g以下としてもよく、595cm3(STP)/g以下としてもよいし、350cm3(STP)/g以下としてもよい。
【0017】
本発明の炭素多孔体は、温度77Kでの窒素吸着等温線において、窒素相対圧力P/P0が0.99のときの窒素吸着量(A3)が1500cm3(STP)/g以上の範囲にあることが好ましい。こうしたものでは、窒素吸着等温線において窒素相対圧力P/P0が0.99のときの窒素吸着量から窒素相対圧力P/P0が0.5のときの窒素吸着量を差し引いた値が1000cm3(STP)/g以上になることから、窒素相対圧力の比較的大きな領域において窒素相対圧力の変化量に対する窒素吸着量の変化量が大きい。そのため、特定のガスに対してガス圧力を所定範囲で変化させたときのガスの吸脱着量を大きくすることができる。窒素吸着量A3は、1517cm3(STP)/g以上としてもよいし、1948cm3(STP)/g以上としてもよい。窒素吸着量A3の上限は特に限定されないが、例えば、2000cm3(STP)/g以下としてもよいし、1948cm3(STP)/g以下としてもよいし、1517cm3(STP)/g以下としてもよい。
【0018】
本発明の炭素多孔体は、例えば、BET比表面積が700m2/g以上であるものとしてもよく、BET比表面積が800m2/g以上であるものとしてもよい。また、本発明の炭素多孔体は、例えば、BET比表面積が1200m2/g以下であるものとしてもよい。比表面積の大きさが、各種機能特性の向上に相関があるためである。
【0019】
本発明の炭素多孔体は、例えば、電気化学キャパシタの電極材料として、特に適している。こうした電気化学キャパシタでは、比較的大きなメソ細孔を有する電極材料を用いることで、電気二重層を形成する正又は負イオンの移動がより円滑に行われるためである。
【0020】
本発明の炭素多孔体の製法は、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を、炭化水素ガスを吸着するトラップ材の存在下、不活性雰囲気中550〜700℃で加熱して炭素とアルカリ土類金属炭酸塩との複合体を形成し、前記炭酸塩を溶解可能な洗浄液で前記複合体を洗浄して前記炭酸塩を除去することにより炭素多孔体を得るものである。この製法は、上述した本発明の炭素多孔体を得るのに好適である。
【0021】
トラップ材は、炭化水素ガスを吸着(吸着除去)するものであればよく、例えば、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、珪藻土からなる群より選ばれる1以上であるものとしてもよい。このうち、活性炭が好ましい。トラップ材は、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩と混合された状態で存在させてもよいし、フィルター状に形成し、ベンゼンジカルボン酸の上部に配設された状態で存在させてもよいし、この両方としてもよい。また、それ以外の状態で存在させてもよい。フィルター状に形成したトラップ材としては、例えば、トラップ材そのものをハニカム形状に成型したものや、セラミックや金属製のハニカム担体やメッシュ材にトラップ材をコーティングしたもの、複数枚の金属メッシュ材の間にトラップ材を挟んで固定したもの、などを用いることができる。ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を加熱する際にトラップ材を共存させることで、比較的容易に、加熱時に発生する炭化水素ガスの濃度を本発明の炭素多孔体を得るのに好適な範囲とすることができる。トラップ材の量は、特に限定されないが、例えば、ベンゼンジカルボン酸に対して100質量%以上1000質量%以下の範囲内とすることが好ましく、200質量%以上300質量%以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0022】
本発明の炭素多孔体の製法において、ベンゼンジカルボン酸としては、例えば、フタル酸(ベンゼン−1,2−ジカルボン酸)、イソフタル酸(ベンゼン−1,3−ジカルボン酸)、テレフタル酸(ベンゼン−1,4−ジカルボン酸)などが挙げられるが、このうちテレフタル酸が好ましい。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられるが、このうちカルシウムが好ましい。ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩は、市販品を購入してもよいし、ベンゼンジカルボン酸とアルカリ土類金属の水酸化物とを水中で混合することにより合成してもよい。その場合、ベンゼンジカルボン酸とアルカリ土類金属の水酸化物とのモル比は、中和反応式に基づく化学量論量だけ用いてもよいし、一方が他方に対して過剰になるように用いてもよい。例えば、モル比は、1.5:1〜1:1.5の範囲に設定すればよい。ベンゼンジカルボン酸とアルカリ土類金属の水酸化物とを水中で混合する際には、50〜100℃に加熱してもよい。
【0023】
本発明の炭素多孔体の製法において、不活性雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などが挙げられる。また、加熱温度は、550〜700℃に設定するのが好ましい。550℃未満では、77Kでの窒素吸着等温線の窒素相対圧力P/P0が0.85のときの窒素吸着量が十分大きくならないため好ましくない。700℃を超えると、炭素多孔体が得られないため好ましくない。加熱後に得られる炭素とアルカリ土類金属炭酸塩との複合体は、層状炭化物の層間にアルカリ土類金属炭酸塩が入り込んだ構造をとっていると推察される。加熱温度での保持時間は、例えば50時間以下としてもよい。このうち、0.5〜20時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。0.5時間以上では、炭素とアルカリ土類金属炭酸塩との複合体の形成が十分に行われる。20時間以下では、BET比表面積の比較的大きな炭素多孔体が得られる。
【0024】
本発明の炭素多孔体の製法において、アルカリ土類金属炭酸塩を溶解可能な洗浄液としては、例えば、アルカリ土類金属炭酸塩が炭酸カルシウムの場合には水や酸性水溶液を用いることが好ましい。酸性水溶液としては、例えば、塩酸、硝酸及び酢酸などの水溶液が挙げられる。こうした洗浄を行うことにより、複合体中のアルカリ土類金属炭酸塩が存在していた箇所は空洞になると推察される。
【0025】
本発明のアンモニア吸着材は、上述した炭素多孔体からなるものである。このアンモニア吸着材は、アンモニア圧力が390kPaのときのアンモニア吸着量からアンモニア圧力が300kPaのときのアンモニア吸着量を差し引いた値が0.40g/g以上であることが好ましい。こうすれば、アンモニア圧力を調節することにより、多量のアンモニアを吸着させたりそれを放出させたりすることができるからである。本発明のアンモニア吸着材は、例えば、アンモニアを作動媒体とする蓄熱デバイスの、アンモニア吸着タンク用のアンモニア吸着材として、特に適している。こうした蓄熱デバイスでは、特に一定の圧力域でアンモニアと反応する蓄熱材を用いるため、蓄熱材の反応に好適な圧力域でアンモニアをなるべく多量に出し入れ可能であることが要求されるためである。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0027】
例えば、本発明の炭素多孔体は、本発明の炭素多孔体の製造方法で製造したものに限定されない。例えば、本発明の炭素多孔体は、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を不活性雰囲気中550〜700℃で加熱して炭素とアルカリ土類金属炭酸塩との複合体を形成し、前記炭酸塩を溶解可能な洗浄液で前記複合体を洗浄して前記炭酸塩を除去することにより得られたものとしてもよい。すなわち、トラップ材の非存在下で得られたものとしてもよい。
【実施例】
【0028】
以下には、本発明の炭素多孔体を具体的に製造した例を実施例として説明する。なお、実験例1,2が本発明の実施例に相当し、実験例3が比較例に相当する。
【0029】
[実験例1]
(テレフタル酸のカルシウム塩の合成)
テレフタル酸(1mol)と水酸化カルシウム(1mol)とを水2L中に加え、80℃の水浴で4時間加熱した。生成したテレフタル酸のカルシウム塩の結晶を濾過して分取し、室温で風乾した。
【0030】
(テレフタル酸のカルシウム塩の炭素化)
テレフタル酸のカルシウム塩(20g)を電気管状炉内に配置し、その上にトラップ材として粒状活性炭(株式会社キャタラー製、GA−5、20g)を重ねて配置し、その管状炉内を不活性ガス(流速0.1L/分)でフロー置換した。不活性ガスとしては窒素ガスを用いたが、アルゴンガスを用いてもよい。ガスフローを維持したまま、管状炉温度を設定温度まで1時間かけて昇温した。ここでは、設定温度を550℃にした。昇温完了後、ガスフローを維持したまま、その設定温度で2時間保持し、その後室温まで冷却した。これにより、管状炉内には、炭素と炭酸カルシウムとの複合体が生成した。
【0031】
(複合体の酸処理)
複合体を管状炉から取り出し、水500mLに分散させた。分散液に2mol/Lの塩酸を液のpHが4以下になるまで添加し、撹拌した。そうしたところ、炭酸カルシウムの分解により発泡が見られた。分散液をろ過後、乾燥し、粒状活性炭をふるい分け除去して実験例1の炭素多孔体を得た(収量約4g)。
【0032】
[実験例2]
テレフタル酸カルシウム塩の炭素化に際し、トラップ材の重量を5gに変更した以外は、実験例1と同様にして、実験例2の炭素多孔体を得た(収量約5g)。
【0033】
[実験例3]
実験例3の炭素多孔体として、市販の活性炭である商品名メソコール(株式会社キャタラー製)を用意した。
【0034】
[特性値測定]
実験例1〜3の各炭素多孔体について、液体窒素温度(77K)における窒素吸着測定から表1に示す特性値を求めた。図2は、実験例1〜3の77Kでの窒素吸着等温線である。表1中、BET比表面積は、BET解析から算出した。窒素吸着等温線は、カンタクローム社製Autosorb−1を用いて測定を行い、吸着量の解析を行った。また、αsプロット解析において、プロット外挿直線の切片の値により、ミクロ細孔容量(cm3(STP)/g)を求めた。ミクロ細孔容量(cm3/g)は、標準ガス体積(cm3(STP)/g)を77Kの液体窒素密度(0.808g/cm3)を用いて変換した。窒素吸着等温線における窒素相対圧力P/P0が0.97のときの窒素吸着量からミクロ細孔容量を差し引いた値を、メソ細孔容量として算出した。窒素相対圧力P/P0が0.50及び0.85のときの窒素吸着量A1,A2の値を窒素吸着等温線のグラフから読み取り、両者の差を窒素吸着量差△A(=A2−A1)とした。また、窒素相対圧力P/P0が0.99のときの窒素吸着量A3の値を窒素吸着等温線のグラフから読み取った。なお、αSプロット解析では、比較用の標準等温線として、“Characterization of porous carbons with high resolution alpha(s)-analysis and low temperature magnetic susceptibility”Kaneko, K; Ishii, C; Kanoh, H; Hanazawa, Y; Setoyama, N; Suzuki, T ADVANCES IN COLLOID AND INTERFACE SCIENCE vol.76, p295-320(1998)に記載された標準等温線を用いた。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、実験例1,2の炭素多孔体は、BET比表面積が700m2/g以上と大きく、ミクロ細孔の細孔容量が0.01cm3/g以下と小さかった。また、図2に示す実験例1,2の炭素多孔体の窒素吸着等温線は、IUPAC分類のIV型(メソ細孔を持つことを示す型、図1参照)に属するものであった。こうしたことから、実験例1,2の炭素多孔体は、ほぼメソ細孔から構成されているといえる。
【0037】
また、実験例1,2の炭素多孔体は、窒素吸着等温線において窒素相対圧力P/P0が0.85のときの窒素吸着量A2が600cm3(STP)/g以上1100cm3(STP)/g以下の範囲にあり、窒素相対圧力P/P0が0.5のときの窒素吸着量A1が500cm3(STP)/g以下の範囲にあり、窒素吸着量差△Aの値が100cm3(STP)/g以上であった。このことから、実験例1,2の炭素多孔体は、窒素相対圧力の比較的大きな領域において窒素相対圧力の変化量に対する窒素吸着量の変化量が大きいといえる。そのため、実験例1,2の炭素多孔体は、特定のガス(例えば窒素など)に対してガス圧力を所定範囲で変化させたときのガスの吸脱着量を大きくすることができる。
【0038】
これに対して、実験例3の炭素多孔体は、窒素吸着量差△A2が66cm3(STP)/gと小さかった。このため、実験例3は、特定ガスに対してガス圧力を所定範囲で変化させたとしても、ガスの吸脱着量を実験例1,2のように大きくすることができない。
【0039】
ここで、各炭素多孔体につき、特定ガスとしてアンモニアを用いて、273Kにおける吸着測定を行った。飽和蒸気圧は430kPaであった。アンモニア圧力が390kPaのときのアンモニア吸着量B2からアンモニア圧力が300kPaのときのアンモニア吸着量B1を差し引いたアンモニア吸着量差△Bを求め、その値を表1に示した。図3は、実験例1,3のアンモニア吸着等温線である。
【0040】
表1に示すように、アンモニア圧力が300−390kPaの範囲において、実験例1では0.78g/g、実験例2では0.46g/g以上という大きなアンモニア吸着量差△Bが得られたが、実験例3では0.06g/g以下という小さな値しか得られなかった。このことから、実験例1,2の炭素多孔体を用いた場合、アンモニア圧力を調節することにより、多量のアンモニアを吸着させたりそれを放出させたりすることが可能なことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の炭素多孔体は、例えば、窒素やアンモニアの吸着材として利用可能なほか、電気化学キャパシタの電極材料、固体高分子型燃料電池の電極触媒担体、バイオ燃料電池の酵素電極を担持する材料、キャニスタの吸着材、燃料精製設備の吸着材などに利用可能である。
図1
図2
図3