(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィルムと、該フィルムの外周部に設けられた枠部材と、該枠部材の枠内の前記フィルム上に設けられた圧電素子と、該圧電素子を覆うように前記枠部材の枠内に設けられた樹脂層と、ケースと、を有しており、音を発する表面およびその反対側の裏面を有する音響発生器であって、
該音響発生器の前記裏面は前記ケースで覆われており、
該ケースは、外周部が前記枠部材および前記樹脂層に接合されているとともに、前記外周部の内側の前記圧電素子を覆う部分が外側に膨らんでいることを特徴とする音響発生器。
前記枠部材は第1の枠部材と第2の枠部材とを有し、前記フィルムの外周部が前記第1の枠部材と第2の枠部材とに挟持されていることを特徴とする請求項1乃至8に記載の音響発生器。
一方の前記圧電素子が配置されている部位における前記フィルム、前記一方の圧電素子、前記樹脂層の全体厚みと、他方の前記圧電素子が配置されている部位における前記フィルム、前記他方の圧電素子、前記樹脂層の全体厚みとが異なっていることを特徴とする請求項8または11に記載の音響発生器。
高音用圧電スピーカおよび低音用圧電スピーカと、前記高音用圧電スピーカおよび前記低音用圧電スピーカを固定する支持板とを具備してなり、前記高音用圧電スピーカが請求項1乃至13のいずれかに記載の音響発生器からなることを特徴とするスピーカ装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、音響発生器の第1形態を
図1、2に基づいて説明する。
図1、2の音響発生器は、一対の枠状の枠部材5により挟持された、支持板となるフィルム3の上面および下面に、それぞれ2個の圧電素子としての積層型圧電素子1を具備して構成されている。
【0015】
すなわち、第1形態の音響発生器は、フィルム3に張力をかけた状態で第1および第2の枠部材5a、5bで挟持し、フィルム3を第1および第2の枠部材5a、5bに固定しており、このフィルム3の上下面にそれぞれ2個の積層型圧電素子1が配置されている。
【0016】
フィルム3の上面および下面に配置された2個の積層型圧電素子1は、フィルム3を挟持するように対向配置されており、一方の積層型圧電素子1が縮むと対向する他方の積層型圧電素子1は伸びるように構成されている。
【0017】
なお、音響発生器の断面図(
図2、
図3、
図4、
図5)では、理解を容易にするため、積層型圧電素子1の厚み方向yを拡大して示した。
【0018】
積層型圧電素子1は、4層のセラミックスからなる圧電体層7と3層の内部電極層9とを交互に積層してなる積層体13と、この積層体13の上下面に形成された表面電極層1
5a、15bと、積層体13の長手方向xの両端部にそれぞれ設けられた一対の外部電極17、19とを具備して構成されている。
【0019】
外部電極層17は、表面電極層15a、15bと、1層の内部電極層9とに接続され、外部電極層19は、2層の内部電極層9に接続されている。圧電体層7は、
図2に矢印で示すように、圧電体層7の厚み方向に交互に分極されており、フィルム3上面の積層型圧電素子1の圧電体層7が縮む場合には、フィルム3下面の積層型圧電素子1の圧電体層7が延びるように、外部電極層17、19に電圧が印加されるように構成されている。
【0020】
外部電極層19の上下端部は、積層体13の上下面まで延設されてそれぞれ折返外部電極19aが形成されており、これらの折返外部電極19aは、積層体13の表面に形成された表面電極層15a、15bに接触しないように、表面電極層15a、15bと所定間隔をおいて延設されている。
【0021】
積層体13のフィルム3と反対側の面の折返外部電極19aには、リード端子22aが掛け渡され、さらにリード端子22aが接続された一方の折返外部電極19aには、リード端子22bの一端部が接続され、他端部が外部に延設されている。また、外部電極17に接続する表面電極15bにも、リード端子22aが掛け渡され、さらにリード端子22aが接続された一方の表面電極15bには、リード端子22bの一端部が接続され、他端部が外部に延設されている。
【0022】
従って、複数の積層型圧電素子1は並列接続されており、リード端子22a、22bを介して、同一電圧が印加されることになる。
【0023】
積層型圧電素子1は板状であり、上下の主面が長方形状とされ、積層体13の主面の長手方向xには、内部電極層9が交互に引き出された一対の側面を有している。
【0024】
4層の圧電体層7と3層の内部電極層9とは積層された状態で同時焼成されて構成されており、表面電極層15a、15bは、後述するように、積層体13を作製した後、ペーストを塗布し焼き付けて形成されている。
【0025】
積層型圧電素子1は、そのフィルム3側の主面とフィルム3とが接着剤層21で接合されている。積層型圧電素子1とフィルム3との間の接着剤層21の厚みは20μm以下とされている。特には、接着剤層21の厚みは10μm以下であることが望ましい。このように、接着剤層21の厚みが20μm以下である場合には、積層体13の振動をフィルム3に伝えやすくなる。
【0026】
接着剤層21を形成するための接着剤としては、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂等公知のものを使用することができる。接着剤に使用する樹脂の硬化方法としては、熱硬化性、光硬化性、嫌気性硬化等いずれを用いても振動体を作製することができる。
【0027】
積層型圧電素子1の圧電特性は、大きな屈曲撓み振動を誘起させ音圧を高めるために、圧電d31定数は180pm/V以上の特性を有していることが望まれる。圧電d31定数が180pm/V以上の場合は、60KHz〜130KHzにおける平均の音圧が65dB以上とできる。
【0028】
そして、第1形態の音響発生器では、積層型圧電素子1を埋設するように、枠部材5a、5bの内側に樹脂が充填されて樹脂層20が形成されている。リード端子22a、リード端子22bの一部も、樹脂層20中に埋設されている。なお、
図1、および後述する図
6、7では、理解を容易にするため、樹脂層20の記載を省略した。
【0029】
この樹脂層20は、例えばアクリル系樹脂、シリコン系樹脂、あるいはゴム等を用いることができ、ヤング率が1MPa〜1GPaの範囲にあるものが望ましく、特には、1MPa〜850MPaであるものが望ましい。また、樹脂層20の厚みは、スプリアスを抑制するという点から、積層型圧電素子1を完全に覆う状態で塗布する必要がある。さらに、支持板となるフィルム3も積層型圧電素子1と一体となり振動することから、積層型圧電素子1で覆われないフィルム3の領域も同様に樹脂層20で覆われている。
【0030】
このような音響発生器では、フィルム3と、フィルム3の上下面にそれぞれ設けられた2個の積層型圧電素子1と、これらの積層型圧電素子1を埋設するように、枠部材5の内側に形成された樹脂層20とを具備するため、積層型圧電体1は高周波音に対応した波長の屈曲撓み振動を誘起することが可能になり、100KHz以上の超高周波成分の音を再生することが可能になる。
【0031】
さらには、積層型圧電素子1の共振現象に伴うピークディップは、積層型圧電素子1を樹脂層20で埋設することで適度なダンピング効果を誘発させ、共振現象の抑制とともにピークディップを小さく抑えることができるとともに、音圧の周波数依存性を小さくすることが可能になるのである。
【0032】
また、複数の積層型圧電素子1を一枚のフィルムに形成し、同一の電圧を印加することで、それぞれの積層型圧電素子1で発生した振動の相互干渉により強い振動が抑制され、振動の分散化に伴いピークディップを小さくする効果をもたらすのである。その結果、100KHzを超える超高周波においても音圧を高くできる。
【0033】
圧電体層7としては、ジルコン酸鉛(PZ)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、Bi層状化合物、タングステンブロンズ構造化合物等の非鉛系圧電体材料等、従来より用いられている他の圧電セラミックスを用いることができる。圧電体層7の1層の厚みは、低電圧駆動という観点から、10〜100μmとされている。
【0034】
内部電極層9としては、銀とパラジウムとからなる金属成分と圧電体層7を構成する材料成分とを含有することが望ましい。内部電極層9に圧電体層7を構成するセラミック成分を含有することにより、圧電体層7と内部電極層9との熱膨張差による応力を低減することができ、積層不良のない積層型圧電素子1を得ることができる。内部電極層9は、特に、銀とパラジウムとからなる金属成分に限定されるものではなく、また、セラミック成分として、圧電体層7を構成する材料成分に限定されるものではなく、他のセラミック成分であっても良い。
【0035】
表面電極層15と外部電極17、19は、銀からなる金属成分にガラス成分を含有することが望ましい。ガラス成分を含有することにより、圧電体層7や内部電極層9と、表面電極層15または外部電極17、19との間に強固な密着力を得ることができる。
【0036】
また、積層型圧電素子1を積層方向から見たときの外形状としては、正方形や長方形等の多角形をしたものがよい。
【0037】
枠部材5は、
図1に示すように矩形状をなしており、2枚の矩形枠状の枠部材5a、5bを貼り合わせて構成されており、枠部材5a、5b間にはフィルム3の外周部が挟み込まれ、張力を印加した状態で固定されている。枠部材5a、5bは、例えば、厚み100〜1000μmのステンレス製とされている。なお、枠部材5a、5bの材質はステンレス製に限らず、樹脂層20よりも変形し難いものであればよく、例えば、硬質樹脂、プラ
スチック、エンジニアリングプラスチック、セラミックス等を用いることができ、本形態では、枠部材5a、5bの材質、厚み等は特に限定されるものではない。更に枠形状も矩形状に限定されるものではなく、円形や菱形であってもよい。
【0038】
フィルム3は、枠部材5a、5b間にフィルム3の外周部を挟み込むことにより、フィルム3が面方向に張力をかけられた状態で、枠部材5a、5bに固定され、フィルム3が振動板の役割を果たしている。フィルム3の厚みは、例えば、10〜200μmとされ、フィルム3は、例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリスチレン、テン等の樹脂、あるいはパルプや繊維等からなる紙から構成されている。これらの材料を用いることでピークディップを抑えることができる。
【0039】
本発明の音響発生器の製法について説明する。
【0040】
まず、積層型圧電素子1を準備する。積層型圧電素子1は、圧電材料の粉末にバインダー、分散剤、可塑剤、溶剤を混練し、スラリーを作製する。圧電材料としては、鉛系、非鉛系のうちいずれでも使用することができる。
【0041】
次に、得られたスラリーをシート状に成形し、グリーンシートを得ることができ、このグリーンシートに内部電極ペーストを印刷して内部電極パターンを形成し、この電極パターンが形成されたグリーンシートを3枚積層し、最上層にはグリーンシートのみ積層して、積層成形体を作製する。
【0042】
次に、この積層成形体を脱脂、焼成し、所定寸法にカットすることにより積層体13を得ることができる。積層体13は、必要に応じて外周部を加工し、積層体13の圧電体層7の積層方向の主面に表面電極層15a、15bのペーストを印刷し、引き続き、積層体13の長手方向xの両側面に外部電極17、19のペーストを印刷し、所定の温度で電極の焼付けを行うことにより、
図2に示す積層型圧電素子1を得ることができる。
【0043】
次に、積層型圧電素子1に圧電性を付与するために表面電極層15bまたは外部電極17、19を通じて直流電圧を印加して、積層型圧電素子1の圧電体層7の分極を行う。分極は、
図2に矢印で示す方向となるように、DC電圧を印加して行う。
【0044】
次に、支持体となるフィルム3を準備し、このフィルム3の外周部を枠部材5a、5b間に挟み、フィルム3に張力をかけた状態で固定する。この後、フィルム3の両面に接着剤を塗布して、そのフィルム3を挟むように両面に積層型圧電素子1を押し当て、この後、接着剤を熱や紫外線を照射することにより硬化させる。そして、樹脂を枠部材5a、5bの内側に流し込み、積層型圧電素子1を完全に埋設させ、樹脂層20を硬化させることにより、第1形態の音響発生器を得ることができる。
【0045】
以上のように構成された音響発生器は、簡単な構造でありながら小型化や薄型化が図れるとともに、超高周波まで高い音圧が維持される。また、積層型圧電素子1は、樹脂層20により埋設しているために水等の影響を受け難く、信頼性を向上させることが可能になる。
【0046】
図3は、第2形態を示すもので、音響発生器の音を発する表面に対して反対側の裏面は、積層型圧電素子1の振動によっても振動しないケース23で覆われている。このケース23は、積層型圧電素子1に位置する部分が外側に膨らんだ構造とされており、その外周部が枠部材5およびその近傍の樹脂層20に接合されている。
【0047】
フィルム3の両側に積層型圧電素子1が設けられた音響発生器では、表面から発する音
と裏面から発する音とは位相が逆であるため、音が相殺され音質や音圧を劣化させるが、この第2形態では、圧電スピーカの裏面にケース23を取り付けたため、圧電スピーカの表面から有効に音を発することができ、音質や音圧を向上できる。
【0048】
なお、
図2、3の圧電スピーカでは、積層型圧電素子1における圧電体層7の積層数を4層としたが、積層型圧電素子1における圧電体層7の積層数は特に限定されるものではなく、例えば、2層であっても良く、4層よりも多くても良いが、積層型圧電素子1の振動を大きくするという点から、20層以下であることが望ましい。
【0049】
図4は、第3形態の音響発生器を示すもので、この第3形態では、フィルム3の上面のみに積層型圧電素子1が接着剤21で接合され、この積層型圧電素子1が樹脂層20に埋設されている。
【0050】
図4の積層型圧電素子31は、バイモルフ型の積層型圧電素子31とされている。すなわち、
図2、3の積層型圧電素子1と構造は同一であるが、フィルム3側から3層目と4層目の圧電体層7の分極方向が逆となっており、フィルム3側から1〜2層目の圧電体層7が縮む場合には、フィルム3側から3〜4層目の圧電体層7は伸び、1〜2層目の圧電体層7が伸びる場合には、フィルム3側から3〜4層目の圧電体層7は縮むように変形し、積層型圧電素子31自体が屈曲撓み振動を起こし、この振動が樹脂層20の表面を振動させることになる。
【0051】
このような音響発生器でも、上記第1、第2形態と同様に、バイモルフ型の積層型圧電素子31において、高周波の音に対応した屈曲撓み振動を誘発させることができることから、フィルム3の片面側のみに積層型圧電素子31を接合するだけで、超高周波まで高い音圧を得ることができるとともに、構造を簡略化できる。
【0052】
図5は、第4形態の音響発生器を示すもので、この第4形態では、フィルム3の上面のみに積層型圧電素子41が接着剤21で接合され、この積層型圧電素子41が樹脂層20に埋設されている。
【0053】
図5の積層型圧電素子41は、ユニモルフ型の積層型圧電素子41とされている。すなわち、
図2、3の積層型圧電素子1と構造上異なる点は、積層体13の下面に表面電極層15aが形成されておらず、表面電極層15bのみ形成されている点である。
【0054】
このような積層型圧電素子41は、フィルム3側から1層目の圧電体層7は、電極で挟持されていないため伸縮せず、圧電的な不活性層7bとされている。フィルム3側から2〜4層目の圧電体層7は同時に伸縮するように構成され、不活性層であるフィルム3側から1層目の不活性層7bの存在により、積層型圧電素子41自体が振動し、この振動が樹脂層20の表面を振動させることになる。
【0055】
このような音響発生器でも、上記第1、第2形態と同様に、高周波音に対応した波長の屈曲撓み振動を得ることができ、高周波音の再生の効果を得ることができるともに、フィルム3の片面側のみに積層型圧電素子41を設けるため、構造を簡略化できる。大きな撓み振動による大きな音圧を実現するという観点からは、バイモルフ型が望ましい。
【0056】
図6は、第5形態の音響発生器を示すもので、この第5形態では、フィルム3の上面および下面に、
図2、3に示すような積層型圧電素子1がそれぞれ3個、フィルム3を挟んで対向するように設けられ、これらの積層型圧電素子1が樹脂層20に埋設されている。
【0057】
フィルム3の上面および下面のそれぞれの積層型圧電素子1は、それぞれの折返外部電
極19a同士を連結するようにリード端子22aが掛け渡され、さらにリード端子22aが接続された一つの折返外部電極19aには、リード端子22bの一端部が接続され、他端部が外部に延設されている。また、外部電極17に接続する表面電極15bにも、リード端子22aが掛け渡され、さらにリード端子22aが接続された一方の表面電極15bには、リード端子22bの一端部が接続され、他端部が外部に延設されている。
【0058】
このような音響発生器でも、上記第1、第2形態と同様に、高周波音に対応した波長の屈曲撓み振動を得ることができ、且つ積層型圧電素子1間の相互干渉の影響を受けることから、ピークディップを誘発する振動を抑制するとともに、この第5形態では、積層型圧電素子1の個数が多いため、より高い音圧を得ることができる。
【0059】
なお、
図6の第5形態でも、
図4のバイモルフ型の積層型圧電素子、
図5のユニモルフ型の積層型圧電素子を用いることができる。
【0060】
図7は、第6形態の音響発生器を示すもので、この第6形態では、フィルム3の上面および下面に、
図2、3に示すような積層型圧電素子1がそれぞれ4個、フィルム3を挟んで対向するように設けられ、これらの積層型圧電素子1が樹脂層20に埋設されている。フィルム3の上面および下面に、それぞれ積層型圧電素子1が2行2列に配列した状態で設けられ、この状態で樹脂層20に埋設されている。
【0061】
フィルム3の上面および下面のそれぞれの積層型圧電素子1は、それぞれの折返外部電極19a同士を連結するようにリード端子22aが掛け渡され、さらにリード端子22aが接続された一つの折返外部電極19aには、リード端子22bの一端部が接続され、他端部が外部に延設されている。また、外部電極17に接続する表面電極15bにも、リード端子22aが掛け渡され、さらにリード端子22aが接続された一方の表面電極15bには、リード端子22bの一端部が接続され、他端部が外部に延設されている。
【0062】
このような音響発生器でも、上記第1、第2形態と同様に、高周波音に対応した波長の屈曲撓み振動を得ることができ、且つ積層圧電素子1間の相互干渉の影響を受けることから、ピークディップを誘発する振動を抑制するとともに、この第6形態では、積層型圧電素子1の個数が多いため、より高い音圧を得ることができる。また、フィルム3の上面および下面に、それぞれ積層型圧電素子1を2行2列に配列した点も、ピークディップを誘発する振動を抑制できる要因であると考えている。
【0063】
なお、
図7の第6形態でも、
図4のバイモルフ型の積層型圧電素子、
図5のユニモルフ型の積層型圧電素子を用いることができる。また、
図7の第6形態では積層型圧電素子1の個数は合計8個用いたが、8個よりも多くても良いことは勿論である。
【0064】
図8は、第7形態の音響発生器を示すもので、この第7形態は、樹脂層20の厚みを異ならせた以外は
図1と同様の構成を有するものである。樹脂層20の厚みは、
図8(b)に示すように、圧電体層7の積層方向における(以下、「積層型圧電素子1の厚み方向yにおける」ということがある)一方の積層型圧電素子1が位置する音響発生器の全体厚みt1が、圧電体層7の積層方向における他方の積層型圧電素子1が位置する音響発生器の全体厚みt2と異なっている。言い換えると、フィルム3の同一表面に並設された2つの積層型圧電素子1の表面の樹脂層20の厚みが異なっている。さらに言い換えると、
図8(b)の右端の樹脂層20の上下面は、枠部材5a、5bの上下面とほぼ同じ高さに位置し、左端の樹脂層20の上下面は、枠部材5a、5bの上下面よりも低い高さで位置しており、樹脂層20の上下面が、フィルム3に対して傾斜している。
【0065】
一方の積層型圧電素子1が位置する全体厚みt1と、他方の積層型圧電素子1が位置す
る全体厚みt2との間に、厚み差(t2−t1>0)があれば良いが、厚み差(t2−t1)は30μm以上であることが望ましい。一方、樹脂層20の上下面における振動の伝達性(音波の広がり)の観点から、厚み差(t2−t1)は500μm以下であることが望ましい。
【0066】
言い換えると、一方の積層型圧電素子1が位置する全体厚みt1と、他方の積層型圧電素子1が位置する全体厚みt2との差(t2−t1)は、枠部材5の内側における音響発生器の最大厚みに対して5%以上あることが望ましく、音の広がりの観点から40%以下であることが望ましい。
【0067】
全体厚みt1、t2は、積層型圧電素子1の上下面の中央部に位置する、フィルム3、2層の接着剤層21、2個の積層型圧電素子1、2層の樹脂層20の合計厚みである。
【0068】
全体厚みt1、t2に厚み差(t2−t1>0)をつけるには、2つの積層型圧電素子1の上下面の樹脂層20の厚みを異ならせても良く、また、例えば、接着剤層21の厚みを異ならせたり、積層型圧電素子1の厚みを異ならせたりしても良い。
【0069】
図9は、第8形態の音響発生器を示すもので、この第8形態も樹脂層20の厚みを異ならせる以外は
図1と同様の構成をしたものである。すなわち、積層型圧電素子1の厚み方向yにおける一方の積層型圧電素子1が位置する音響発生器の全体厚みt1が、積層型圧電素子1の厚み方向yにおける他方の積層型圧電素子1が位置する音響発生器の全体厚みt2と異なるもので、この第8形態では、一方の積層型圧電素子1が位置する音響発生器の全体厚みt1が、一方の積層型圧電素子1の上下面全体にわたってほぼ均一な厚みt1とされ、他方の積層型圧電素子1が位置する音響発生器の全体厚みt2が、他方の積層型圧電素子1の上下面全体にわたってほぼ均一な厚みt2とされ、厚みt1が厚みt2よりも薄くなっている。一方と他方の積層型圧電素子1が位置する音響発生器の全体厚みt1、t2は、その境界部分では傾斜が設けられ段差とならないように形成されている。
【0070】
このような音響発生器は、例えば、枠部材5内に全体厚みが厚みt1となるように樹脂を充填し、均一な厚みで固化させた後、他方の積層型圧電素子1に位置する全体厚みが厚みt2となるように、他方の積層型圧電素子1に位置する部分にさらに樹脂を塗布し、固化させることにより、作製することができる。
【0071】
図8、9に示す音響発生器は、フィルム3の上面の2つの積層型圧電素子1を埋設した樹脂層20、およびフィルム3の下面の2つの積層型圧電素子1を埋設した樹脂層20が一体となって振動する。そして、一方の積層型圧電素子1が位置する全体厚みt1を、他方の積層型圧電素子1が位置する全体厚みt2と異ならせることにより、複数の積層型圧電素子1の振動が樹脂層20の上下面に伝達されても、一方の積層型圧電素子1による共振周波数と他方の積層型圧電素子1による共振周波数とがずれ、複数の積層型圧電素子1による共振を抑制することができ、音響発生器におけるピークディップの発生を低減できる。
【0072】
なお、先に説明した第2形態乃至第6形態においても一方の積層型圧電素子1が位置する全体厚みt1を、他方の積層型圧電素子1が位置する全体厚みt2と異ならせることにより、複数の積層型圧電素子1による共振をさらに抑制することができ、音響発生器におけるピークディップの発生を低減できる。
【0073】
さらに、本形態の音響発生器は、低音用圧電スピーカと組み合わせて、スピーカ装置として用いることができる。第9形態としてのスピーカ装置は、
図10に示すように、例えば、金属板からなる支持板Zに形成された高音用圧電スピーカSP1、低音用圧電スピー
カSP2を収容するそれぞれの開口部に、高音用圧電スピーカSP1および低音用圧電スピーカSP2を固定して構成することができ、高音用圧電スピーカSP1として第1形態乃至第8形態の音響発生器を用いたものである。
【0074】
高音用圧電スピーカSP1は、主に20KHz以上の周波数を再生するものであり、低音用圧電スピーカSP2は、主に20KHz以下の周波数を再生するものである。
【0075】
低音用圧電スピーカSP2は、低い周波数を再生しやすくする観点から、例えば矩形状や楕円形状の場合では最長辺を長くする点で高音用圧電スピーカSP1と異なるだけで、実質的に高音用圧電スピーカSP1と同様の構成を有したものを用いることができる。
【0076】
このようなスピーカ装置では、高音用圧電スピーカSP1として用いる第1形態乃至第8形態の音響発生器によって100KHz以上の超高周波成分の音を再生することが可能になり、このような超高周波成分の音を再生したとしても音圧を高く維持でき、これにより、低音から高音まで、例えば、約500Hz〜100KHz以上の超高周波まで、高い音圧を維持できるとともに、大きなピークディップの発生を抑制することができる。
【実施例1】
【0077】
Zrの一部をSbで置換したチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を含有する圧電粉末と、バインダーと、分散剤と、可塑剤と、溶剤とをボールミル混合により24時間混練してスラリーを作製した。得られたスラリーを用いてドクターブレード法によりグリーンシートを作製した。このグリーンシートに電極材料としてAgおよびPdを含有する電極ペーストをスクリーン印刷法により所定形状に塗布し、該電極ペーストが塗布されたグリーンシートを3層積層し、最上層には電極ペーストが塗布されていないグリーンシートを1層重ね合わせて加圧し、積層成形体を作製した。そして、この積層成形体を500℃、1時間、大気中で脱脂し、その後、1100℃、3時間、大気中で焼成し、積層体を得た。
【0078】
次に、得られた積層体の長手方向xの両端面部をダイシング加工によりカットし、内部電極層の先端を積層体の側面に露出させ、積層体の両側主面に表面電極層を形成すべく、電極材料としてAgとガラスを含有する電極ペーストを、圧電体の主面の片側にスクリーン印刷法により塗布し、その後、長手方向xの両側面に、外部電極材料としてAgとガラスを含有する電極ペーストをディップ法により塗布し、700℃、10分、大気中で焼き付け、
図2に示すような積層型圧電素子を作製した。作製された積層体の主面の寸法は幅5mm、長さ15mmであり、積層体の厚みは100μmであった。
【0079】
次に、積層型圧電素子の外部電極を通して内部電極層間および内部電極層と表面電極間に100V、2分間電圧を印加し分極を行い、ユニモルフ型の積層型圧電素子を得た。
【0080】
次に、厚み25μmのポリイミド樹脂からなるフィルムを準備し、このフィルムを枠部材に張力を与えた状態で固定し、固定されたフィルムの両主面にアクリル樹脂からなる接着剤を塗布し、接着剤を塗布したフィルムの部分に、フィルムを挟むように両側から積層型圧電素子を押し付け、120℃、1時間、空気中で接着剤を硬化させ、厚さ5μmの接着剤層を形成した。枠部材内のフィルムの寸法は、縦28mm、横21mmであり、2個の積層型圧電素子間の間隔を2mmとし、積層型圧電素子と枠部材との間隔が同一となるように、積層型圧電素子をフィルムに接合した。この後、2個の積層型圧電素子にリード端子を接合し、一対のリード端子を外部に引き出した。
【0081】
そして、枠部材の内側に、固化後のヤング率が17MPaのアクリル系樹脂を流しこみ、枠部材の高さと同一となるようにアクリル系樹脂を充填し、積層型圧電素子および外部に引き出すリード端子以外のリード端子を埋設し、固化させ、
図2に示すような音響発生
器を作製した。
【0082】
作製した音響発生器の音圧周波数特性について、JEITA(電子情報技術産業協会規格)EIJA RC−8124Aに準じて評価した。評価は、音響発生器の積層型圧電素子のリード端子に、1W(抵抗8Ω)の正弦波信号を入力し、音響発生器の基準軸上1mの点にマイクを設置して音圧を評価した。
図11に測定結果を示す。
【0083】
図11から、
図2の第1形態の音響発生器では、20〜150KHzまでは約78dBの高い音圧とピークディップの小さい特性が得られていることが判る。特に、60〜130KHzは約80dB以上の高い音圧が得られ、大きなピークディップも発生せず、ほぼ平坦な音圧特性が得られていることが判る。また、10〜200KHzの広い範囲で60dB以上の高い音圧が得られていることがわかる。
【0084】
なお、実施例1では圧電素子として、ユニモルフ型の積層型圧電素子を用いた例を示したが、バイモルフ型の積層型圧電素子を用いた場合でも同様の傾向が見られた。
【実施例2】
【0085】
ユニモルフ型の積層型圧電素子を用い、実施例1と同様にして、
図7に示すような、フィルムの両側にそれぞれ4個の積層型圧電素子を有する音響発生器を作製し、音圧周波数特性を求めた。結果を
図12に示す。
【0086】
図12から、20〜150KHzまでは約78dBの高い音圧とピークディップの小さい音圧が得られ、実施例1よりもさらに幅広い超高周波帯域においてピークディップを小さくできることがわかる。