特許第6042969号(P6042969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042969
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/344 20060101AFI20161206BHJP
   F04C 15/06 20060101ALI20161206BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F04C2/344 331J
   F04C2/344 331B
   F04C2/344 331D
   F04C15/06 A
   F04C15/00 E
   F04C15/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-506559(P2015-506559)
(86)(22)【出願日】2013年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2013084399
(87)【国際公開番号】WO2014147914
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-57143(P2013-57143)
(32)【優先日】2013年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 哲
(72)【発明者】
【氏名】西山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】平栗 彰子
(72)【発明者】
【氏名】弘津 新吾
【審査官】 佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−014577(JP,U)
【文献】 実開昭57−156092(JP,U)
【文献】 特開2002−130151(JP,A)
【文献】 特開2010−025121(JP,A)
【文献】 特開平11−351159(JP,A)
【文献】 特開平06−280754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
F04C 15/00
F04C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプハウジング内に、外周面に複数のスリット溝が放射状に形成されたロータと、前記各スリット溝内に出没可能に収容されたベーンと、前記ロータの外周に配置され前記各ベーンの先端が摺接するカム面を内周に備えたカムリングと、前記ロータの軸方向両端にそれぞれ装備された端部区画部材とを有し、前記ロータの前記外周面,前記カム面,隣り合う前記ベーンの壁面及び前記端部区画部材により包囲されて各ポンプ室が形成され、前記端部区画部材に、前記ポンプ室にオイルを吸入させる吸入ポートと前記ポンプ室からオイルを吐出させる吐出ポートとをそなえたベーンポンプであって、
前記各ポンプ室の内周を構成する前記スリット溝間の前記ロータの前記外周面に、前記スリット溝が形成された端部の先端を結ぶ円周よりもこの両端部間の中央部分が凹んだ凹部が形成され、
前記吸入ポートのポンプ軸心側の壁面である吸入ポート内壁面が、前記凹部の底面よりもポンプ軸心に接近した位置に設定され、
製造公差を含んだ前記凹部の底面のポンプ軸心からの距離の最小値は、製造公差を含んだ前記吸入ポート内壁面の前記ポンプ軸心からの距離の最大値よりも大きく設定されているベーンポンプ。
【請求項2】
前記凹部の底面の製造公差と前記吸入ポート内壁面の製造公差のうち、一方の製造公差が相対的に小さく設定されている請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記凹部の底面の製造公差が、前記吸入ポート内壁面の製造公差よりも小さく設定されている請求項1に記載のベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルポンプとして用いられるベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オイルポンプとして用いられるベーンポンプにおいて、ロータの外周に凹部(えぐり部)を設けることにより、ベーンのストロークを確保しながら、ポンプ室へのオイルの吸い込み面積を確保できるようにして、油吸入時の抵抗を低減し、ポンプ室内の圧力低下を抑制して、キャビテーション発生による流量低下を抑えるようにした技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、ロータの外周に凹部を設けることにより、キャビテーション発生が抑制されキャビテーション発生に起因したオイルの流量低下が抑えられても、所望のポンプ性能が得られない場合があることが判明した。
【0004】
本発明者は、この原因を探求した。以下、図5を参照して説明する。はじめに、ロータの外周に凹部を設けたベーンポンプについて説明する。図5に示すように、ロータ111には複数のスリット溝112が放射状に形成され、各スリット溝112内にはそれぞれベーン121が出没可能に収容されている。ロータ111は、内周にカム面132が形成されたカムリング131の内部に配置され、ロータ111から外方へ突出する各ベーン121の先端はカムリング131内周のカム面132に摺接している。
【0005】
各スリット溝112の基部には、ベーン121をカムリング131のカム面132に押し付ける付勢力を与えるための背圧孔113が形成され、各背圧孔113は環状に連通しており、図示しない油路からオイルを供給される。背圧孔113内のオイルの油圧がベーン121の基部に作用してベーン121をカムリング131のカム面132に押し付ける。
【0006】
ロータ111及びカムリング131は、図示しないポンプハウジング内に装備され、ロータ111の外周面114とカムリング131内周のカム面132との間は隣り合う各ベーン121,121の壁面によって区画されてポンプ室141が形成される。また、ポンプ室141の両端方向(ロータ111の回転軸の延在方向両側)は、ポンプハウジングのカバー部材或いはポンプハウジングに内装されるエンドプレート等の端部区画部材によってそれぞれ区画される。
【0007】
カム面132によってポンプ室141の容積が拡大する箇所には図示しない吸入ポートが設けられ、カム面132によってポンプ室141の容積が縮小する箇所には図示しない吐出ポートが設けられている。各ポンプ室141には、吸入ポートからオイルが吸入され、吐出ポートからオイルが吐出される。ロータ111の外周面114には、スリット溝112の近傍を除いて凹部115がロータ111の軸方向にわたって形成されている。
【0008】
ここで、キャビテーションの発生を抑制してポンプの吸い込み性能を向上させるには、凹部115を深くして吸い込み面積を大きくすることが有効であるが、本発明者は、ポンプの吸い込み性能が、吸入ポートと凹部との関係にも左右されることを見出した。
【0009】
つまり、吸い込み性能の向上のために、吸い込み面積を大きくしようとして、凹部の底面をポンプ軸心に近づけても(つまり、凹部を深くしても)、製造誤差によって、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面が、凹部の底面に対し、ポンプ軸心から離れた状態となったり、近づいた状態となったりすると、吸入ポート側とポンプ室側とで、オイルが流れる空間である流路に対し、凹凸状態が逆転する。このように、流路に対し、吸入ポート側とポンプ室側で凹凸状態が逆転すると、そこを流れるオイルの圧力損失が大きく変化して、吸い込み性能にも大きな影響を与えることになる。このようなメカニズムで、ポンプの吸い込み性能が大きく変化して、ポンプ毎の性能にバラツキが生じてしまうことを究明したのである。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたもので、オイルの吸い込み面積を確保して、ポンプ室内の圧力低下を抑制してキャビテーション発生による流量低下を抑えつつ、ポンプ毎の性能を安定させることができるようにした、ベーンポンプを提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭61−181888号公報
【発明の概要】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するために創案されたもので、本発明のベーンポンプは、以下の要旨構成を有している。
【0013】
(1)すなわち、本発明のベーンポンプは、ポンプハウジング内に、外周面に複数のスリット溝が放射状に形成されたロータと、前記各スリット溝内に出没可能に収容されたベーンと、前記ロータの外周に配置され前記各ベーンの先端が摺接するカム面を内周に備えたカムリングと、前記ロータの軸方向両端にそれぞれ装備された端部区画部材(例えば、ポンプカバー又はサイドプレート)とを有し、前記ロータの前記外周面,前記カム面,隣り合う前記ベーンの壁面及び前記端部区画部材により包囲されて各ポンプ室が形成され、前記端部区画部材に、前記ポンプ室にオイルを吸入させる吸入ポートと前記ポンプ室からオイルを吐出させる吐出ポートとをそなえたベーンポンプであって、前記各ポンプ室の内周を構成する前記スリット溝間の前記ロータの前記外周面に、前記スリット溝が形成された端部の先端を結ぶ円周よりもこの両端部間の中央部分が凹んだ凹部が形成され、前記吸入ポートのポンプ軸心側の壁面である吸入ポート内壁面が、前記凹部の底面よりもポンプ軸心に接近した位置に設定されている。なお、前記吸入ポート内壁面が、前記底面よりもポンプ軸心に接近した位置とは、前記吸入ポート内壁面のポンプ軸心からの距離が、前記底面のポンプ軸心からの距離よりも短く、前記吸入ポート内壁面が前記底面よりもポンプ軸心に接近していることを意味する。
【0014】
(2)製造公差を含んだ前記凹部の底面のポンプ軸心からの距離の最大値と、製造公差を含んだ前記吸入ポート内壁面の前記ポンプ軸心からの距離の最大値とが、等しく設定されていることが好ましい。
【0015】
(3)また、前記凹部の底面の製造公差と前記吸入ポート内壁面の製造公差のうち、一方の製造公差が相対的に小さく設定されていることが好ましい。この場合、前記凹部の底面の製造公差が、前記吸入ポート内壁面の製造公差よりも小さく設定されていることが好ましい。
【0016】
(4)あるいは、製造公差を含んだ前記凹部の底面のポンプ軸心からの距離の最小値は、製造公差を含んだ前記吸入ポート内壁面の前記ポンプ軸心からの距離の最大値よりも大きく設定されていることも好ましい。
【0017】
(5)前記ロータは焼結により形成され、前記端部区画部材は砂型鋳造により形成されていることが好ましい。
【0018】
(1)本発明のベーンポンプによれば、各ポンプ室の内周を構成するスリット溝間のロータの外周面に、スリット溝が形成された端部の先端を結ぶ円周よりもこの両端部間の中央部分が凹んだ凹部が形成され、さらに、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面である吸入ポート内壁面が、凹部の底面よりもポンプ軸心に接近した位置に設定されているので、ポンプ毎の性能のバラツキを抑制することができる。
【0019】
ポンプの性能を左右するオイルの吸い込み性能については、ロータ側の形状だけでなく、吸入ポート側の形状も大きな影響を与えることが判明した。本願発明では、この点に着目して、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面を、凹部の底面よりもポンプ軸心に近づけている。この吸入ポートの壁面の位置設定により、製造誤差があって、その誤差分、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面が、ポンプ軸心から離れても、又、凹部の底面がポンプ軸心側に近づいても、凹部の底面に対し、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面が、オイルが通流する流路側に突出するのを抑制して、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面と凹部の底面の凹凸の関係が、ポンプ毎に異なることを抑制する。
【0020】
このため、予め凹部の底面が、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面より流路側へ突出した状態を設計に織り込めば、所望のオイルの吸い込み性を有するポンプを得ることができ、ポンプ毎の性能のバラツキを抑えることができる。
【0021】
(2)また、製造公差を含んだ凹部の底面のポンプ軸心からの距離の最大値と、製造公差を含んだ吸入ポート内壁面のポンプ軸心からの距離の最大値とが等しく設定されると、各距離が最大値となって吸い込み面積としては最小となる一番厳しい状態でも、吸入ポート内壁面が凹部の底面よりも突出することがないので、オイルが流れる流路に段差が生じることによる損出をなくして吸い込み性の低下を抑制することができる。
【0022】
(3)また、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面と、凹部の底面との凹凸の関係がポンプ毎に入れ替わるのを抑制するために、製造誤差である製造公差そのものを小さくする場合、一方の製造公差のみを相対的に小さくすることで、部品製造コストの増大を抑制することができる。この場合、製造公差を小さくするのは、ロータ側である凹部の底面が好適である。
【0023】
ベーンポンプの場合、ポンプ室内の圧力低下を抑制してキャビテーション発生による流量低下を抑えることが必要であり、この流量低下の抑制には、オイルの吸い込み面積を確保することが有効である。スリット溝が形成された端部の先端を結ぶ円周よりもこの両端部間の中央部分が凹んだ凹部を形成すると、オイルの吸い込み面積を確保することができる。特に、オイルの吸い込み面積を確保するうえでは、凹部の底面をポンプ軸心に近づけるほど効果的である。一方、ポンプ室に凹部を形成すると、吐出口付近におけるポンプ室の容積をゼロにすることが不可能になり、吐出工程後もポンプ室内にオイルが残留することになるため凹部にはオイルが残る。オイルには、エアが含まれるが、ロータによって回転するオイルは、遠心力によりエアを多く含む部分とそうでない部分とに分離され、エアを多く含むオイルは、回転中心に近い凹部に残ってしまう。この結果、凹部に溜まったオイルに含まれるエアが吸入側で膨張して析出するため、吸入されるオイルの量が低下しオイルの吐出量の低下を招く。特に、凹部が深くなり溜まるオイル量が多くなると、それに応じてエアも増え、吐出流量脈動、吐出圧脈動を引き起こし、オイルポンプ内の流量制御弁の動作不良や、オイルポンプのノイズを引き起こす。
【0024】
このように、ロータの凹部は、深過ぎても浅過ぎても吸い込み性の悪化を招くため、ロータ側の製造公差は小さくして、吸い込み性の悪化を抑制する。一方、端部区画部材はロータほどには加工精度が要求されないため、製造公差は大きくする。すなわち、ロータに加工される凹部の底面の製造公差は、端部区画部材に設けられた吸入ポート内壁面の製造公差よりも小さく設定される。これにより、製造コストの増加を抑えながら、凹部に残留するオイル内のエアによる吐出流量脈動、吐出圧脈動の発生を抑制することができ、ベーンポンプの性能を向上させることができる。
【0025】
(4)また、製造公差を含んだ凹部の底面のポンプ軸心からの距離の最小値は、製造公差を含んだ吸入ポート内壁面のポンプ軸心からの距離の最大値よりも大きく設定されると、凹部によって決定される吸い込み面積に対し、吸入ポート内壁面が凹部の底面よりも突出することがないので、吸入ポート側とポンプ室側の凹凸状態の逆転の影響を排除することができ、ベーンポンプに求められる性能をポンプ毎に確保し易くなる。
【0026】
(5)さらに、ロータを焼結により、端部区画部材を砂型鋳造により形成すれば、ロータの製造公差を小さくすることができ、端部区画部材の製造公差は大きくなるが製造コストの増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの構造を示す縦断面図であり、図2のA−A矢視断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの構造を示す要部横断面図である。
図3】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの構造を説明する図であり、(a)はそのロータの斜視図、(b)はそのロータ半部の横断面図である。
図4】本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの凹部の底面と吸入ポート内壁面とのポンプ軸心基準の位置関係を、凹部底面の形成されるロータ及び吸入ポート内壁面の形成される端部区画部材の各製造公差とに関連して示す図である。
図5】本発明の課題を説明するベーンポンプの要部横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面により本発明の実施の形態について説明する。図1図4は本発明の一実施形態にかかるベーンポンプの構造を示す。なお、このベーンポンプはオイルポンプとして用いられるものである。
【0029】
〔ベーンポンプの構造〕
まず、本実施形態にかかるベーンポンプの構造を説明する。このベーンポンプは、図1図2に示すように、ポンプハウジング2内に、ロータ11及びカムリング31が装備される。ロータ11は、ポンプハウジング2内の中心部に配備された回転軸1に一体回転するように結合されている。回転軸1は、図示しないエンジン(内燃機関)やモータ(電動機)に直接又は間接的に接続されて回転駆動される。
【0030】
このロータ11には複数のスリット溝12が、図2に示すように横断面視で放射状に形成されており、各スリット溝12内にはそれぞれベーン21が出没可能に収容されている。カムリング31は、このロータ11の外周に配置され、カムリング31の内周には、回転軸1の軸心(回転中心、ポンプ軸心)1cに対して距離が変化する曲面により構成されたカム面32が形成されている。各ベーン21の先端はこのカムリング31内周のカム面32に摺接している。なお、本実施形態では、カム面32は回転中心に最接近する箇所と回転中心から最離隔する箇所とが、180度位相を変えて全周の2箇所にそれぞれ設けられている。
【0031】
また、本実施形態では、各スリット溝12の基端(回転軸1の軸心1c側端部)に背圧孔13が形成され、各背圧孔13は連通路13Aによって連通接続されている。後述の吐出ポート43から吐出されるオイル(作動油)の一部が、連通路13Aを通じて各背圧孔13に供給され、この背圧孔13に供給されるオイルの圧力(背圧)によって各スリット溝12内のベーン21が外方のカム面32に向けて付勢されて、各ベーン21の先端がこの付勢力によってカム面32に摺接している。
【0032】
また、ロータ11の軸の延在方向一端(図1中、下端)は、ポンプハウジング2の一端の内部に介装されるサンドプレート(端部区画部材)2Aによって、ロータ11の軸方向他端(図1中、上端)は、ポンプハウジング2の他端の開口部に結合されるポンプカバー(端部区画部材)2Bによって、それぞれ吸入ポート42及び吐出ポート43を除いて閉塞されている。
【0033】
これにより、ロータ11の外周面14,カムリング31のカム面32,隣り合うベーン21の壁面,及びエンドプレート2A,ロータ端部閉塞部分2Bにより包囲、区画されてポンプ室41が形成される。そして、このポンプ室41にオイルを吸入させる吸入ポート42とポンプ室41からオイルを吐出させる吐出ポート43とが設けられている。吸入ポート42及び吐出ポート43は、カム面32の形状に対応させて180度位相を変えて全周の2箇所にそれぞれ設けられている。
【0034】
吸入ポート42は、カム面32の形状によってロータ11の回転に伴ってポンプ室41の容積が拡大する箇所に設けられ、吐出ポート43は、カム面32の形状によってロータ11の回転に伴ってポンプ室41の容積が縮小する箇所に設けられている。本実施形態では、吸入ポート42はロータ11の軸の延在方向両端(図1中、上下端)にそれぞれ設けられ、吐出ポート43はロータ11の軸の延在方向一端(図1中、下端)に設けられている。なお、図2中には、吸入ポート42及び吐出ポート43の配置箇所を二点鎖線で模式的に示すもので、ポート形状を厳密に特定するものではない。
【0035】
両端の吸入ポート42はそれぞれ連通路42bを通じて連通しており、ロータ11の回転によって、吸入ポート42には吸入流路44,44a,44bを通じて図示しないタンク等からオイルが導入され、吐出ポート43からはオイルが吐出され、一方の吐出ポート43から吐出されたオイルは吐出流路45aを通じて他方の吐出ポート43と合流して、他方の吐出ポート43から吐出流路45bを通じて図示しないオイル被供給部に供給される。
【0036】
本実施形態では、ポンプ室41の内周面を形成するロータ11の外周面14に、特徴的な構造が設けられている。つまり、図3に示すように、ロータ11の外周面14には、スリット溝12の両縁に沿って外方(周外方向)に隆起した隆起縁部16が延設され、各ポンプ室41に臨む2つの隆起縁部16,16の相互間には、これら2つの隆起縁部16,16よりも窪んだ凹部15が形成されている。
【0037】
この凹部15を形成することによって、ロータ11の外径やカムリング31の内径やスリット溝12の径方向深さを変更しないで、吸入ポート42におけるオイルの吸い込み面積を増大して、ベーン21の移動ストロークを確保しながら、高速運転時のオイルの吸い込み性を向上することができる。これにより、オイル吸い込み時のキャビテーションの発生を抑制でき、ポンプの回転音や吐出脈動を小さくすることができる。
【0038】
また、図1に示すように、吸入ポート42のポンプ軸心1c側の壁面である吸入ポート内壁面42aが、凹部15の底面15aよりもポンプ軸心1cに接近した位置に設定されている。換言すれば、吸入ポート内壁面42aのポンプ軸心1cからの距離(以下、吸入ポート内壁面距離ともいう)r2を、凹部15の底面15aのポンプ軸心1cからの距離(以下、凹部底面距離ともいう)r1未満に設定している。ただし、この設定は、製造公差を考慮しない各距離の中央値(基準値)の設定である。
【0039】
ここで、製造公差を考慮して説明する。凹部15が形成されるロータ11の製造公差±t1(ただし、t1>0)を、吸入ポート42が形成される端部区画部材(サンドプレート2Aやポンプカバー2B)の製造公差±t2(ただし、t2>0)よりも小さく設定し、製造公差±t1を含んだ凹部15の底面15aのポンプ軸心1cからの距離(以下、凹部底面距離ともいう)の最大値r1MAXと、製造公差±t2を含んだ吸入ポート内壁面42aのポンプ軸心1cからの距離(以下、吸入ポート内壁面距離ともいう)の最大値r2MAXとを、等しく設定している。なお、以下の製造公差t1,t2の表記は、製造公差±t1,±t2をその大きさ(絶対値)に着目して示すものである。
【0040】
つまり、凹部底面距離の中央値(基準値)をr1とし、吸入ポート内壁面距離の中央値(基準値)をr2とすると、製造公差±t1を含んだ凹部底面距離の最大値r1MAX(=r1+t1)と、製造公差±t2を含んだ吸入ポート内壁面距離の最大値r2MAX(=r2+t2)とは、次式(1),(1´)の関係となる。また、凹部15が形成されるロータ11の製造公差t1と、吸入ポート42が形成される端部区画部材2A,2Bの製造公差t2とは、次式(2)の関係となる。
【0041】
したがって、凹部底面距離の中央値r1と、吸入ポート内壁面距離の中央値r2とは、次式(3)の関係となる。
1MAX=r2MAX ・・・(1)
∴r1+t1=r2+t2 ・・・(1´)
1<t2 ・・・(2)
1>r2 ・・・(3)
【0042】
なお、図4は、凹部底面距離の中央値r1と、吸入ポート内壁面距離の中央値r2と、ロータ11の製造公差±t1と、端部区画部材2A,2Bの製造公差±t2と、凹部底面距離の最大値r1MAXと、吸入ポート内壁面距離の最大値r2MAXと、の関係を示す。図4においては、各製造公差±t1,±t2の大きさ及び各中央値r1,r2の差の大きさを、把握の便宜上から極端に大きく誇張して示している。
【0043】
また、凹部15が形成されるロータ11は焼結(金属粉末焼結)により形成され、吸入ポート42が形成される端部区画部材であるサンドプレート2Aやポンプカバー2Bは砂型鋳造により形成されている。このように、ロータ11と端部区画部材2A,2Bとで異なる加工法を用いているのは、コストと製品の性能とを両立させるためである。
【0044】
つまり、金型を用いて金属粉末を成型して焼結する金属粉末焼結と、砂型鋳造とを比較すると、金属粉末焼結の方が金型を用いるため砂型鋳造よりも加工精度が高いが、加工コストもかかる。単に、加工精度だけを重視すれば、ロータ11だけでなくサンドプレート2Aやポンプカバー2Bにも金属粉末焼結を用いればよいが、それではコスト増を招く。そこで、加工精度が要求されるロータ11を焼結により加工し、比較的加工精度が要求されないサンドプレート2Aやポンプカバー2Bを砂型鋳造により加工している。
【0045】
これは、ロータ11の場合、その外周面14や両端面17a,17bに加工精度が要求されるだけでなく、多数のスリット溝12など各部においても加工精度が要求されるので、加工コストがかかっても焼結による加工が適している。これに対して、サンドプレート2Aやポンプカバー2Bはロータ11と摺接する面やポンプハウジング2と接合する面など要部のみ加工精度が要求されるので、要部だけを仕上げ加工すればよく、砂型鋳造により低コストで加工できる。
【0046】
上記の、凹部15が形成されるロータ11の製造公差±t1と、吸入ポート42が形成されるサンドプレート2Aやポンプカバー2Bの製造公差±t2との関係も、このように、焼結は加工精度が高いが、砂型鋳造はこれに比べて加工精度が低いという特性に対応したものになっている。
【0047】
〔ベーンポンプによる作用及び効果〕
本発明の一実施形態にかかるベーンポンプは、上述のように構成されているので、以下のような作用及び効果を得ることができる。つまり、本ベーンポンプによれば、ロータ11の回転によりポンプ室41が吸入ポート42と連通すると、吸入ポート42からポンプ室41内にオイルが吸入され、その後ポンプ室41が吐出ポート43と連通すると、ポンプ室41内のオイルが吐出ポート43から吐出される。
【0048】
ポンプ室41の内周面を形成するロータ11の外周面14には、スリット溝12の両縁に沿って外方に隆起した隆起縁部16が延設され、各隆起縁部16の相互間に凹部15が形成されているので、スリット溝12の深さが確保され、ベーン11の出没移動のストロークの確保及びスリット溝12周りの強度及び剛性の確保をでき、さらに、凹部15の形成によりオイルの吸い込み面積を十分に確保することができることから、ポンプの高速運転時のオイル吸い込み時に生じ易いキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0049】
ただし、凹部15の底面のポンプ軸心1cからの距離と吸入ポート内壁面42aのポンプ軸心1cからの距離との実際の大小関係が、ポンプ毎に異なると、オイルの流路に対する凹凸関係が吸入ポート側とポンプ室41側とで異なることになるため、ポンプ毎の性能のバラツキが大きくなる虞がある。そこで、本ベーンポンプでは、吸入ポート42のポンプ軸心側の壁面42aを凹部15の底面15aよりもポンプ軸心1cに近づける構成とした。このように、吸入ポート内壁面42aが、凹部15の底面15aよりもポンプ軸心1cに接近した位置に設定すると、製造誤差を含んだとしても、吸入ポート内壁面42aが凹部15の底面15aより突出するのを抑制して、凹部15の底面15aのポンプ軸心1cからの距離と吸入ポート内壁面42aのポンプ軸心1cからの距離との実際の大小関係が、ポンプ毎に異なることを抑制することができる。
【0050】
本実施形態では、製造公差±t1を含んだ凹部15の底面15aのポンプ軸心1cからの距離(凹部底面距離)の最大値r1MAXと、製造公差±t2を含んだ吸入ポート内壁面42aのポンプ軸心1cからの距離(吸入ポート内壁面距離)の最大値r2MAXとを、等しく設定している。
【0051】
これにより、特に、各距離が最大値となって吸い込み面積としては最小となる一番厳しい状態でも、吸入ポート内壁面42aが凹部15の底面15aよりも突出することがないので、吸い込み性に対して、吸入ポート42側の悪影響(すなわち、吸入ポート側の流路面積とポンプ室の吸い込み面積とが異なることによる生じるオイル通流時の損失)を排除することができ、ベーンポンプに求められる性能を確保することができる。
【0052】
また、凹部15の底面15aをポンプ軸心1cに近づけて吸い込み面積を増大させると、キャビテェーションの発生を抑制する効果は得られるが、吸い込み面積を大きくするために、凹部5の底面15aをポンプ軸心1cに近づければ近づけるほど、凹部15が深くなり、ポンプ室41からオイルを吐出した後に凹部15に残るオイル量が増える。これにより、凹部15に残るエアの量も増えて、逆に、吸い込み性が悪化する。つまり、凹部15は、深過ぎても浅過ぎても吸い込み性の悪化を招くため、ベーンポンプのトータル性能を向上させることが難しい。
【0053】
そこで、本実施形態では、凹部15を有するロータ11の製造公差t1を、端部区画部材2A,2Bの製造公差t2よりも小さく設定している。このように、ロータの凹部は、製造公差t1を小さくすることにより、凹部15の深さが製品毎に深過ぎたり浅過ぎたりしないようにして吸い込み性を確保する。一方、端部区画部材2A,2Bの製造公差t2は、ロータ11ほどには加工精度が要求されないため、この製造公差t2は大きくして、製造コストの増加を抑えている。
【0054】
また、本実施形態では、深過ぎても浅過ぎても吸い込み性の悪化を招く凹部15を有する外周面14や両端面17a,17bに加工精度が要求されるだけでなく、多数のスリット溝12など各部においても加工精度が要求されるロータ11には、比較的加工コストがかかるが加工精度が高い金属粉末焼結により加工し、要部だけを部分的に仕上げ加工すればよい端部区画部材(サンドプレート2Aやポンプカバー2B)には、比較的加工コストの低い砂型鋳造により加工している。このため、ベーンポンプの必要な精度を確保して性能向上を図りながらコスト増を抑えることができる。
【0055】
本実施形態では、製造管理上重要な製造公差を考慮して、吸入ポート42の内壁面42aと凹部15の底面15aとの位置関係を設定している。つまり、凹部15を有するロータ11の製造公差t1を、端部区画部材2A,2Bの製造公差t2よりも小さく設定して、製造公差±t1を含んだ凹部15の底面15aのポンプ軸心1cからの距離(凹部底面距離)の最大値r1MAXと、製造公差±t2を含んだ吸入ポート内壁面42aのポンプ軸心1cからの距離(吸入ポート内壁面距離)の最大値r2MAXとを、等しく設定している。
【0056】
また、金属粉末焼結を用いて加工するロータ11は製造公差t1を小さくすることができるのに対して、砂型鋳造を用いて加工する端部区画部材(サンドプレート2Aやポンプカバー2B)は製造公差t2を小さくすることが困難である。ロータ11の製造公差t1を端部区画部材2A,2Bの製造公差t2よりも小さく設定する本実施形態にかかる構成は、この特性に利用していることにもなる。
【0057】
このように、本ベーンポンプによれば、製造コストの増加を抑えながら、凹部15に残留するオイル内のエアによる吐出流量脈動、吐出圧脈動の発生を抑制すると共に、製造公差の小さい凹部の底面位置に略応じた分だけのポンプ室へのオイルの吸い込み面積を確保してキャビテーション発生を抑制することができ、ベーンポンプのトータル性能を向上させることができる。
【0058】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態を適宜変更して実施することができる。例えば、凹部の底面の製造公差と、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面である吸入ポート内壁面の製造公差とを同レベルとした場合には、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面である吸入ポート内壁面を、凹部の底面よりも一定以上ポンプ軸心に接近した位置に設定することが好ましい。
【0059】
あるいは、凹部の底面の製造公差と、吸入ポートのポンプ軸心側の壁面である吸入ポート内壁面の製造公差との大小にかかわらず、製造公差を含んだ凹部15の底面15aのポンプ軸心1cからの距離の最小値を、製造公差を含んだ吸入ポート内壁面42aのポンプ軸心1cからの距離の最大値よりも大きく設定することも有効である。この場合、吸入ポート内壁面42aを、確実に凹部の底面15aよりもポンプ軸心1cに接近した位置に設定することができ、一層確実にベーンポンプ毎の性能のバラツキを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
オイルポンプとして広く適用することができ、特に、ポンプの小型化や高速化を促進する上で、極めて有効である。
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図3
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図5