(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042976
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/32 20060101AFI20161206BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20161206BHJP
H02K 1/27 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
H02K1/32 Z
H02K1/22 A
H02K1/27 501K
H02K1/27 501M
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-513386(P2015-513386)
(86)(22)【出願日】2013年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2013061799
(87)【国際公開番号】WO2014174579
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年4月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】横田 博久
(72)【発明者】
【氏名】笹井 拓真
(72)【発明者】
【氏名】枦山 盛幸
(72)【発明者】
【氏名】茅野 慎介
【審査官】
安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−184957(JP,A)
【文献】
特開2007−159196(JP,A)
【文献】
特開2011−223864(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0096578(US,A1)
【文献】
特開2010−183800(JP,A)
【文献】
特開2005−192365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/32
H02K 1/22
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の固定子と、この固定子の内側に回転自在に設けられた回転子と、を備え、
この回転子は、周方向に沿って複数形成され冷媒が通る冷却穴を有する回転子鉄心と、この回転子鉄心の外周部に間隔を空けて配置された複数個の永久磁石と、を含む回転電機であって、
前記回転子鉄心には、各前記冷却穴の中心から径方向に延びた線を対称軸として両側に前記永久磁石を収納する磁石収納穴が、径外側方向に向かって閉じる方向に延びたV字状であって前記回転子鉄心の外径側の隣接した前記永久磁石間が第1のブリッジ部を介して離間するように形成され、
前記冷却穴は、隣接した前記永久磁石の内側の側面の延長線同士の交点を中心として、この交点と前記永久磁石の前記側面の中間点との距離を半径とした円弧の領域の外側に形成されており、
前記磁石収納穴と前記冷却穴との間の最短距離は、前記第1のブリッジ部の隣接した前記永久磁石間の最短距離よりも大きく、また前記冷却穴の径方向の幅は、前記回転子鉄心の内径側の隣接した前記磁石収納穴間の第2のブリッジ部での前記永久磁石間の最短距離よりも大きく、
前記磁石収納穴は、両側に前記永久磁石の漏洩磁束を防止するための第1の空洞部及び第2の空洞部がそれぞれ形成されている回転電機。
【請求項2】
前記回転子鉄心は、外周面のうち、前記ブリッジ部と対向した部位に凹部が形成されている請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記冷却穴は、周方向の両側に外側に拡がる曲面を有している請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記冷却穴は、周方向に延びた長穴である請求項3に記載の回転電機。
【請求項5】
前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部の少なくとも一方は、外側に拡がる曲面を有しており、この曲面は、中間部の曲率半径よりも両側の曲率半径が小さい請求項1〜4の何れか1項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転子鉄心に永久磁石が埋め込まれた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石の目ざましい研究開発により、高磁気エネルギー積の永久磁石が開発され、電動機の小型・高出力化が進められている。
特に、ハイブリッド自動車向けのような車両用を用途とする電動機では、限られた空間の中で高トルク、高出力化を要求されており、これを達成するためには永久磁石量を増やして高速化する必要がある。
【0003】
この場合、高遠心力化に伴う回転子鉄心強度、損失密度増加に伴う冷却が大きな問題となる。
更に、高速化に伴って永久磁石表面に発生する渦電流が増大、発熱することにより、熱減磁(不可逆減磁)を生じ、電動機の効率等の性能を著しく低下させるため、深刻な問題となっている。
【0004】
そこで、従来の電動機は、V字形状に対向した一対の永久磁石間に、回転子鉄心に外周側に向かって凸となる断面形状を有する冷却穴を形成し、この冷却穴に冷媒を通過させることで回転子を冷却して、温度上昇による効率の低下を防いでいる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4660406号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記電動機は、上記冷却穴を形成することで、回転子鉄心の強度を確保しつつ、温度上昇を抑制しているものの、冷却穴は、永久磁石により生じる回転子鉄心の磁路に形成されているので、この冷却穴による磁気抵抗で生じる温度上昇を抑えることができず、電動機の効率が低下してしまうという問題点があった。
【0007】
この発明は、かかる問題点を解決することを課題とするものであって、冷却穴に起因した磁気抵抗による発熱を抑制し、効率が向上した回転電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る回転電機は、環状の固定子と、この固定子の内側に回転自在に設けられた回転子と、を備え、この回転子は、周方向に沿って複数形成され冷媒が通る冷却穴を有する回転子鉄心と、この回転子鉄心の外周部に間隔を空けて配置された複数個の永久磁石と、を含む回転電機であって、前記回転子鉄心には、各前記冷却穴の中心から径方向に延びた線を対称軸として両側に前記永久磁石を収納する磁石収納穴が、径外側方向に向かって閉じる方向に延びたV字状であって前記回転子鉄心の外径側の隣接した前記永久磁石間が第1のブリッジ部を介して離間するように形成され、前記冷却穴は、隣接した前記永久磁石の内側の側面の延長線同士の交点を中心として、この交点と前記永久磁石の前記側面の中間点との距離を半径とした円弧の領域の外側に形成されており、前記磁石収納穴と前記冷却穴との間の最短距離は、前記第1のブリッジ部の隣接した前記永久磁石間の最短距離よりも大きく、また前記冷却穴の径方向の幅は、前記回転子鉄心の内径側の隣接した前記磁石収納穴間の第2のブリッジ部での前記永久磁石間の最短距離よりも大き
く、前記磁石収納穴は、両側に前記永久磁石の漏洩磁束を防止するための第1の空洞部及び第2の空洞部がそれぞれ形成されている。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る回転電機によれば、冷却穴は、隣接した永久磁石の内側の側面の延長線同士の交点を中心として、この交点と永久磁石の側面の中間点との距離を半径とした円弧の領域の外側に形成されているので、冷却穴に起因した磁気抵抗による発熱は抑制され、効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の実施の形態1の電動機を示す正断面図である。
【
図4】この発明の実施の形態2の電動機を示す要部正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の各実施の形態の電動機について図に基づいて説明するが、各図において同一または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1の電動機を示す正断面図である。
この回転電機である電動機は、環状の固定子1と、この固定子1の中心軸線上に回転自在に設けられた回転子2と、を備えている。
固定子1は、環状の電磁鋼板を複数枚積層して形成され、周方向に沿って等間隔でスロットを画成したティース4を有する固定子鉄心3と、各ティース4に導線が集中巻きして形成された電機子巻線5と、を備えている。
【0013】
回転子2は、シャフト20と、このシャフト20に固定され、周方向に沿って等分間隔で形成され冷媒が通る冷却穴7を有する回転子鉄心6と、この回転子鉄心6の外周部に等分間隔で配置された永久磁石8と、を備えている。
【0014】
図2は
図1の回転子鉄心6を示す要部拡大図である。
この回転子鉄心6は、各冷却穴7の中心から径方向に延びた線を対称軸として両側には永久磁石8を収納したトラック状の磁石収納穴11がそれぞれ形成されている。これら一対の磁石収納穴11は、径外側方向に向かって閉じるV字状になるように形成されている。外径側の隣接した磁石収納穴11間には、第1のブリッジ部9が形成されている。
【0015】
冷却穴7は、隣接した永久磁石8の内側側面の延長線同士の交点Aを中心として、交点Aと永久磁石8の中間点Bとの距離を半径Rとした円弧の領域の外側に形成されている。
また、磁石収納穴11と、一対の磁石収納穴11で挟まれた冷却穴7との最短距離Cは、第1のブリッジ部9での隣接した永久磁石8間の最短距離Dよりも大きい。
また、冷却穴7の径方向の幅Eは、内径側の隣接した磁石収納穴11間の第2のブリッジ部12での永久磁石8間の最短距離Fよりも大きい。
また、回転子鉄心6の外周面には、第1のブリッジ部9と対向して凹部10が形成されている。
【0016】
冷却穴7は、小判状であって周方向の両側に外側に拡がる曲面を有した長穴である。
各磁石収納穴11は、両側に永久磁石8の漏洩磁束を防止するための第1の空洞部11a及び第2の空洞部11bが形成されている。
第1の空洞部11a及び第2の空洞部11bは、外側に拡がった曲面を有している。この曲面は、中間部が曲率半径r1、両側が曲率半径r1よりも小さい曲率半径r2の値を有している。
なお、第1の空洞部11a及び第2の空洞部11bの一方のみに、曲率半径r1、曲率半径r2を有する曲面を形成してもよい。
【0017】
上記構成の電動機では、固定子1の電機子巻線5に三相交流電流を流すことで固定子1には回転磁界が生じ、この回転磁界が回転子2の磁極を引っ張ることで、回転子2は、シャフト20を中心にして回転する。
【0018】
この実施の形態の電動機によれば、回転子鉄心6には、冷却穴7から径方向に延びた線を対称軸として両側に永久磁石8を収納する磁石収納穴11が、径外側方向に向かって閉じる方向に延びてV字状に形成されている。
また、冷却穴7は、隣接した永久磁石8の内側の側面の延長線同士の交点Aを中心として、この交点Aと永久磁石8の側面の中間点Bとの距離を半径とした円弧の領域の外側に形成されている。
隣接した永久磁石8同士は、一方の永久磁石8の側面がN極であって、このN極に対向した他方の永久磁石8の側面がS極になるようにV字状に配置されており、一方の永久磁石8から他方の永久磁石8に磁路が形成される。
隣接した永久磁石8間の第1のブリッジ部9から径内側方向に進むに従って両者の周方向の距離が増大することで磁気抵抗は増大し、永久磁石8の中間点Bから径方向の内側では、磁力線は殆ど流れない。
この実施の形態では、冷却穴7は、磁力線が殆ど流れない領域に形成されているので、磁力線の抵抗となることは殆どなく、因って小型で高効率の電動機を得ることができる。
【0019】
また、回転子鉄心6は、外周面のうち、第1のブリッジ部9と対向した部位に回転子2のコギングトルクを抑制するための凹部10が形成されている。
従って、集中巻きして形成された電機子巻線5では高調波で弱め界磁での鉄損が大きくなるが、第1のブリッジ部9と対向した回転子鉄心6の外周に凹部10を形成することで、Lq(q軸インダクタンス)を小さくでき、弱め界磁の回転子2の回転数を高速にすることができる。
なお、凹部10を形成することで、第1のブリッジ部9での径方向の寸法が小さくなり、第1のブリッジ部9での応力が高くなるものの、上記冷却穴7を形成することで、この応力は緩和される。
【0020】
また、磁石収納穴11と冷却穴7との間の最短距離Cは、第1のブリッジ部9の隣接した永久磁石8,8間の最短距離Dよりも大きく、また冷却穴7の径方向の幅Eは、第2のブリッジ部12での永久磁石8,8間の最短距離Fよりも大きいので、回転子2の回転による遠心力による第1のブリッジ部9、第2のブリッジ部12への応力集中が緩和される。
この応力集中の緩和に関しては、本願発明者による強度解析により確認されている。
また、冷却穴7の幅Eの拡大により、冷却通路の断面積が増大し、冷却性能が向上するとともに、回転子2が軽量化される。
【0021】
また、冷却穴7は、周方向の両側に外側に拡がる曲面を有しているので、冷却穴7の応力集中が緩和される。
【0022】
また、冷却穴7は、磁力線が殆ど生じない領域である周方向に延びた長穴であるので、通過磁束を妨げることなく、冷却通路の断面積が増大し、冷却性能が向上するとともに、回転子2が軽量化される。
【0023】
また、磁石収納穴11は、第1の空洞部11a及び第2の空洞部11bがそれぞれ形成されているので、永久磁石8の両側から磁束が回転子鉄心6に洩れるのを防止することができる。
【0024】
また、第1の空洞部11a及び第2の空洞部11bには、外側に拡がる曲面を有しており、この曲面は、中間部の曲率半径r1よりも両側の曲率半径r2が小さいので、第1のブリッジ部9及び第2のブリッジ部12への応力集中が緩和される。
【0025】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2の電動機の回転子2を示す要部断面図である。
この実施の形態では、冷却穴7Aが円形である。
他の構成は、実施の形態1の電動機と同じである。
【0026】
この実施の形態では、実施の形態1の電動機と同様な効果を得ることができるとともに、冷却穴7Aが円形であるので、電動機の組立て時において、この冷却穴7Aを回転子2の位置決め用としても利用できる利点がある。
【0027】
なお、上記各実施の形態では回転電機として電動機について説明したが、発電機にもこの発明は適用できる。
また、冷却穴7,7Aについては、例えば
図5(a)〜(g)に示す形状の冷却穴7B,7C,7D,7E,7F,7G,7Hであってもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 固定子、2 回転子、3 固定子鉄心、4 ティース、5 電機子巻線、6 回転子鉄心、7 冷却穴、8 永久磁石、9 第1のブリッジ部、10 凹部、11 磁石収納穴、11a 第1の空洞部、11b 第2の空洞部、20 シャフト、A 交点、B 中間点、C,D,F 最短距離、E 幅、R 半径、r1,r2 曲率半径。